2008年12月01日

●「金融再生プログラムの矛盾」(EJ第2461号)

 不良債権を加速処理をすると、何が起こるのでしょうか。竹中
大臣率いる金融庁は、DFC方式と減損会計による資産査定を行
い、不良債権を意図的に増加させたのです。
 不良債権が増えるということは、それだけ破綻企業が増えるこ
とを意味します。それを整理回収機構/RCCに引き取らせ、お
いしいところはバゲタカ・ファンドの外資が買い占めたのです。
 これに飽き足らず、既に述べたように、ハバード大統領経済諮
問委員会(CEA)は、日本の銀行にまで手を伸ばそうとしてい
たのです。この指令を受けた竹中大臣は、銀行の自己資本の毀損
に狙いを定めたのです。
 銀行の立場に立って考えてみましょう。厳しいというか無茶苦
茶な資産査定によって不良債権が増えると、銀行はそれに応じた
貸倒引当金を利益を取り崩して積まなければならないのです。し
かし、日本では貸倒引当金には税金がかかるのです。
 ここで「繰り延べ税金資産」というわかりにくい面倒なことを
説明する必要があります。菊池英博氏の本を参考にして、具体的
な例で説明することにします。
 A銀行がX社という企業に20億円を融資しているとします。
ところがX社は欠陥商品を出して売上げ不振に陥ります。そして
借入金20億円のうち10億円が返済できなくなります。
 しかし、X社は他の事業が好調であり、企業として十分再生可
能であると判断されたとします。この場合、銀行はX社が返済で
きなくなった10億円相当分を貸倒引当金として、利益から落と
して計上しなければならないのです。
 法人税を50%と仮定すれば、A銀行は引当金を積まないで利
益のままであった場合の10億円に相当する法人税5億円を支払
わなければならないわけです。このとき支払った税金の5億円は
「有税引当金」と呼ばれるのです。
 その後、X社の業績が回復して貸倒引当金が不要になった場合
か、X社が倒産した場合、有税引当金として支払った法人税5億
円は税務署からA銀行に還付されるのです。したがって、銀行に
とっては有税引当金はいずれ戻ってくる財産ということになるの
で、「繰り延べ税金資産」といわれるのです。そして、それは資
産の中に計上され、その資産は「税効果資本」として、資本金の
一部に組み入れられるのです。
 竹中大臣は、この「税効果資本」に目をつけたのです。これを
圧縮することによって、銀行の自己資本を毀損させようとして、
金融再生プログラムに次のように盛り込んだのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「自己資本の充実」の名の下に、資本勘定に組み込まれている
 「繰り延べ税金資産」(税効果資本)を圧縮し、アメリカ並み
 に「自己資本の10%以内か、一年分の税効果資本の増加分の
 うち、どちらか小さいほう」を計上させること。
             ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融再生プログラムには上記のように書いてありますが、その
内容は米国の税法と同じです。しかし、この「税効果資本」を圧
縮させようとしたことは、竹中平蔵氏としては大変な失敗であっ
たと思います。というのは、竹中氏は米国の税法をよく調べてい
なかったからです。これについては、2003年12月11日付
日本経済新聞で、あのリチャード・クーが指摘しているのです。
彼はどうやら、米国の場合は無税引当であることを知らなかった
ようなのです。
 ここまで検討したことによって、金融再生プログラムの2つの
骨子は、「不良債権の加速処理」と「税効果資本の圧縮」を意味
することはわかると思います。しかし、これら2つは明らかに矛
盾するのです。
 不良債権を加速処理をすると、破綻の危険のある企業が増加し
ます。そうすると銀行は貸倒引当金を多く積むことになります。
これは同時に「税効果資本の増大」を意味するのです。ところが
その税効果資本を圧縮して自己資本の毀損を狙うというのですか
ら、明らかに矛盾しています。
 当然のことながら、大手銀行の首脳は竹中大臣と対立したので
す。当時の銀行協会会長であった寺西正司氏(UFJ銀行頭取)
は次のようにいって金融庁を批判したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今までサッカーのルールでやっていたものを、急にラグビーに
 変えるといわれてもできない。       ――寺西正司氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 結局、「税効果資本の圧縮」は棚上げされることになったので
す。このように、金融庁は本来なら不良債権にならない企業まで
含めて強引に不良債権処理を行ったので、銀行は莫大な貸倒引当
金を積むことになったのです。
 しかし、もともと不良債権でない企業まで不良債権化した結果
後になって銀行には莫大な額の税金の戻りがあり、主力銀行は現
在に至るまで、莫大な利益を出しているのに、税金を支払わない
で済んでいるのです。これだけ見てもあのときの金融再生プログ
ラムがいかに問題があったかわかると思います。
 ちなみに日本の税制で問題なのは、有税引当金として支払った
税金が税務署から還付される際に現金で返済されるのではなく、
次の決算で利益が出れば、その法人税から控除されるに過ぎない
という点です。
 したがって、銀行の利益が減ったり、赤字決算をして還付の元
になる利益を計上できない場合は、支払済みの税金は一切還付さ
れない仕組みになっているのです。
 これに対して米国では、企業が赤字決算をすると、10年前ま
で遡って、支払い済みの税金が現金で還付されるのです。日本と
比べると、大きな違いです。「不良債権処理の竹中」といわれま
すが、これが真相なのです。 ――[円高・内需拡大策/19]


≪画像および関連情報≫
 ●税効果会計とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  税効果会計とは、法人税等の額を適切に期間配分することに
  より、税引前当期純利益と税金費用――法人税等に関する費
  用を合理的に対応させることを目的とする会計上の手続きで
  ある。企業会計上の損益認識時期――どの会計期間に計上さ
  れるかと税法上の損益認識(認容)時期は必ずしも一致しな
  い。この結果、企業会計上の税引前当期純利益に対して一定
  税率で課税されるはずの法人税等は必ずしも税引後当期純利
  益(最終利益)とは対応しない。   ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

菊池英博氏.jpg
菊池英博氏
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2008年12月02日

●「竹中大臣が目をつけた監査法人」(EJ第2462号)

 竹中大臣――金融担当相の行動を見て、大手銀行の首脳は強い
危機感を抱いたのです。「下手をすると国有化される」――この
ように判断した大手銀行の首脳は、自衛策を講ずる必要があると
考えて早速行動に移したのです。それというのも竹中金融担当相
は、大臣就任直後から次のようにいっていたからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ツウ・ビック・ツウ・フェイルということにはならない!
―――――――――――――――――――――――――――――
 大手銀行の首脳のやったことは、なりふり構わない増資だった
のです。とくに額の大きさで目立ったのは、みずほホールディン
グス(HD)だったのです。みずほHD社長の前田晃伸氏は、竹
中大臣と一番激しく対立した人であったからです。
 みずほHDは2003年3月期には約2兆円の赤字決算になっ
ていたのです。そこで自己資本比率9%台を維持するために、国
内最大規模の優先株による1兆円の増資に踏み切ったのです。と
てつもない規模であるので、最初は実現不能といわれたのですが
取引先3500社が積極的に増資を引き受けて1兆円の増資は達
成されたのです。他の主要銀行も同様に増資を行い、竹中改革に
対して自衛手段を講じたのです。
 竹中金融担当相は、主要行のこうした動きに対して、『エコノ
ミスト』誌に次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「金融システムの強化を目指し、昨年10月に『金融再生プロ
 グラム』を作った。そのなかに『資産査定の厳格化』『自己資
 本の充実』『コーポレートガバナンスの強化』を規定しており
 その枠組みのなかで、3月末決算に向け、目に見える形で銀行
 側がとった最初の行動が一連の資本増強策だ。それまでには考
 えられなかったことで、銀行が新たな努力を始めたという点で
 は、新しい変化として評価している。ただ、最初のアクション
 で終わるわけではなく、さらに銀行システム全体が健全な方向
 に進んで行くために、増資だけでなく、資産の厳格な査定、収
 益力のアップなどが必要になる」。
     ――『週刊エコノミスト』/2003年3月18日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 大手銀行の首脳が国有化を恐れるのは、経営者の当然持つべき
企業防衛本能からだけではなく、銀行の事実上の倒産で不正会計
が発覚したりすると、経営者は刑事訴追され、収監される可能性
があることを長銀のケースで学習していたからです。それに株主
代表訴訟のこともあったのです。
 大手銀行の首脳の猛烈な反対で事実上棚上げになった税効果資
本の圧縮について竹中金融担当相は、次なる手として監査法人に
目をつけたのです。驚くべき執念です。監査法人は銀行が破綻し
た場合に多額の国家賠償を請求される立場であり、重要な利害関
係者ということになります。
 竹中氏は、奥山章雄・日本公認会計士協会会長に対し、「繰り
延べ税金資産の査定の厳格化」を要請したのです。ちなみに奥山
章雄氏は、金融再生プログラム(竹中プラン)を作成した金融庁
の「金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム」のメンバーのひ
とりなのです。
 奥山氏は、早速竹中氏の要請に基づいて、日本公認会計士協会
として、2003年2月25日、「主要行の監査に対する監査人
の厳正な対応について」という「会長通牒」を出したのです。そ
こには、次のように書かれていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 『金融再生プログラムー主要行の不良債権問題解決を通じた経
 済再生−』(平成14年10月30日金融庁)では、繰延税金
 資産の合理性の確認のため、また、資産査定や引当・償却の正
 確性、さらに継続企業の前提に関する評価については、外部監
 査人が重大な責任をもって厳正に監査を行うことを求めており
 ます。このため、日本公認会計士協会では、金融庁からの要請
 に基づき、『主要行の監査に対する監査人の厳正な対応につい
 て』を会長通牒として取りまとめ、主要行の監査人に通知いた
 しました。                ――山口淳雄著
     『りそなの会計士はなぜ死んだのか』/毎日新聞社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この「会長通牒」が2003年3月決算以降の監査法人の判断
を事実上拘束したことになるのです。そして、ターゲットは、り
そな銀行に絞られたのです。
 小泉政権における経済運営は、次の2つの柱を軸に展開された
のです。第1の柱は「国債は30兆円以上は発行しない」という
ことばに代表される超緊縮財政政策運営であり、第2の柱は「退
出すべき企業は市場から退出させる」ということばに代表される
企業の破綻処理推進なのです。
 小泉政権のこの政策について、最初から疑問視し、警鐘を鳴ら
していたのは、あの植草一秀氏です。彼は自分のブログに次のよ
うに書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は小泉政権の発足時点から、「小泉政権の政策が実行されて
 ゆけば、日本経済が最悪の状況に向かうことは間違いない。金
 融恐慌も現実の問題になるだろう」と発言し続けた。権力迎合
 の殆どの付和雷同のエコノミストは、「改革推進で株価は上昇
 するし、経済もも明るい方向に向かう」と大合唱していた。
           ――UEKUSAレポート第10回より
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに、小泉首相が国会で所信表明演説で政策方針を発表した
2001年5月7日から、日経平均株価はどんどん下がっていき
2003年4月28日には遂に7607円になってしまっていた
のです。これは1989年12月29日の史上最高値の5分の1
にまで下がったのです。これは明らかな政策の失敗といえると思
います。          ――[円高・内需拡大策/20]


≪画像および関連情報≫
 ●監査法人とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  監査法人とは、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監
  査又は証明を組織的に行うことを目的として、公認会計士法
  34条の2の2第1項によって、公認会計士が共同して設立
  した法人をいう。また、2008年4月1日以降、一定の財
  務要件や情報公開義務等を満たしている場合に監査法人の損
  害賠償責任額をその出資の額を上限とすることが認められた
  のである。これらの法人は有限責任監査法人を名称として用
  いなければならない(34条の3)。 ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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奥山章雄氏
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2008年12月03日

●「なぜ、りそなショックというのか」(EJ第2463号)

 本日より「りそな銀行の国有化」について書いていくことにし
ます。2003年に起こった「りそな銀行国有化」については、
知らない人はいないでしょうが、その裏側に何があったのかにつ
いては、新聞や週刊誌では絶対にわからない隠された真実があり
それをできるだけていねいに書いていくつもりです。
 実は、このりそな銀行ですが、設立の経緯はきわめて複雑なの
です。しかし、りそな銀行の設立の経緯について書くことが今回
のレポートの目的ではないので、ウィキペディアの記述を以下に
ご紹介してそれに替えることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2003年3月、あさひ銀行の埼玉県内の営業拠点と資産を埼
 玉りそな銀行に会社分割し、残ったあさひ銀行は大和銀行と合
 併する形で「りそな銀行」が誕生した。りそな銀行と埼玉りそ
 な銀行は、世界的に見ても例の少ない合併分割による経営統合
 を行った。これは、主に近畿圏を営業基盤とする大和銀行に、
 規模的に2倍近いあさひ銀行が吸収されることにより、埼玉県
 内において圧倒的な規模を誇るあさひ銀行の収益基盤が縮小す
 ることによる、地域経済への影響を考慮したものであるといわ
 れる。                ――ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 「りそなショック」ということばがあります。なぜ、「ショッ
ク」と呼ばれるのかについてはそれなりの理由があるのです。上
記でわかるように、りそな銀行が誕生したのは、2003年3月
のことなのです。そのさい、1200億円の増資をしています。
増資というのは、自己資本を充実させるために行うものであり、
りそな銀行は国内行ですから、自己資本比率は4%以上あればよ
いのです。
 ところが2003年3月期の決算で、自己資本比率は2.07
%、持ち株会社のりそなHDも自己資本比率が3.78 %に低下
していたのです。なぜ、こんなことになったのでしょうか。
 ここに「監査法人」というものが登場するのです。つまり、り
そな銀行が自己資本比率4%割れを起こしたのは、監査法人の判
断によるものなのです。つまり、監査法人が銀行破綻の引き金を
引いたことになります。これがショックといわれるゆえんである
といえます。
 2003年5月17日の夕方のことです。日銀記者クラブは週
末を返上してごったがえしていたのです。勝田泰久・りそなホー
ルディングス社長をはじめとするりそな首脳陣による記者会見が
あるということで、記者が集まってきていたのです。
 記者会見における勝田社長の説明によると、りそなHDは臨時
取締役会を開き、経営危機のため、政府に公的資金の注入申請を
決定したと発表したのです。これには記者団は驚いたのです。な
ぜなら、りそな銀行はこの3月に誕生したばかりであり、それが
なぜ経営危機に陥るのか不思議に思ったのです。
 記者団は当然その理由を聞いたのです。そうすると、勝田社長
は、次のように説明したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 りそな側の説明によればこうである。3月期決算において、り
 そな側は「繰り延べ税金資産」5年分の約7000億円を主張
 したのに対して、監査を担当した新日本監査法人は3年分の約
 4300億円しか認めなかった。5年分が認められていれば、
 りそなHDの自己資本比率は6%で、4%の基準を楽々上回っ
 ていた。しかし、監査法人が3年しか認めなかったため、4%
 を下回る3.78 %となった。       ――山口淳雄著
     『りそなの会計士はなぜ死んだのか』/毎日新聞社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 そして、勝田社長は悔しさをにじませながら、次のような発言
をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ゴールデンウィーク明けの5月7日になって、新日本監査法人
 の態度が一変した。背信だ。         ――勝田社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はもうひとつ不思議なことがあるのです。それは勝田社長の
話の中には新日本監査法人の名前しか出てこないことです。当時
その記者会見の席にいた「エコノミスト」誌記者、山口淳雄氏は
勝田社長にそのことを質問したところ、勝田社長は次のように答
えているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 監査法人は3月以降は新日本監査法人だけです。――勝田社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 新生りそな銀行がスタートしたのは3月のことであり、そのと
きからは、新日本監査法人だけであるということなのでしょうが
これは少しおかしいのです。
 実は、2003年4月の段階まで、新日本監査法人とともに朝
日監査法人(現あずさ監査法人)が共同で監査業務にかかわって
いたのです。しかし、4月30日に朝日監査法人は監査辞退をし
ているのです。その直前の4月24日に同監査法人所属の会計士
がりそなの監査を苦にして自殺しているのです。
 このことは、勝田社長が知らないはずはなく、なぜそれに触れ
ないのか山口氏は不思議に思ったのです。これについては、改め
て取り上げますが、りそな銀行の監査には謎が多いのです。
 いずれにせよ、りそな銀行は自己資本比率の4%割れによって
国有化されることになったのです。なぜ、そうなったのか――こ
れには、深い闇の部分があります。それにしてもりそなHDの公
的資金申請を受けた後の処理の素早いこと――それはあらかじめ
準備していたかのようにことは進められたのです。
 このときこの処理を取り仕切ったのは、ほかならぬ竹中金融担
当相なのです。これによって、システミックリスクは表面化せず
に済んだという評価が与えられています。これにより誰がトクを
したのでしょうか。     ――[円高・内需拡大策/21]


≪画像および関連情報≫
 ●りそな国有化について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  りそな国有化は、本来預金保険法が想定していない金融機関
  側の要請によって資本注入を行ったために、従来の公的資金
  注入とは異なり、予防的公的資金注入と呼ばれる。予防的公
  的資金注入は金融機関が過小資本に陥り、経営破綻を回避す
  るために行うもので、当時の預金保険法は金融機関による申
  請や、その適用要件に関して明確な基準が存在しなかった。
  そのため、申請当時には適用に関して一部から違法性が指摘
  され、また金融機関が自主的に公的資金の注入を、予防的か
  つ自主的に申請できる必要性が認識されたために、後に預金
  保険法改正の要因となった。     ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

山口淳雄氏の本.jpg
山口淳雄氏の本


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2008年12月04日

●「りそな救済で儲けたのは誰か」(EJ第2464号)

 りそなホールディングスからの公的資金の注入申請を受けて政
府は、りそなを潰さないよう税金を投入し、「実質国有化」して
りそなを救う措置をとったのです。
 「りそな国有化」というニュースを聞いた一般国民の印象は、
「やっぱり国有化されたか」というものであったと思います。と
いうのは、竹中金融担当相が大手銀行首脳に対して、「大きくて
も国有化を辞さず」という強気の発言をしていることからして、
どこかの銀行がそのうち国有化されるに違いないと予測していた
からです。
 ところで、「銀行の国有化」というと、長銀や日債銀のケース
を考えますが、このケースは「一時国有化」というのです。実質
国有化と一時国有化――これには明確な違いがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 一時国有化 → その時点で債務超過の状態 → 経営破綻
 実質国有化 → 債務超過には陥っていない → 経営危機
―――――――――――――――――――――――――――――
 長銀や日債銀の場合は、政府は負債の総額が資産のそれを上回
る債務超過に陥ったと判断しているのに対して、りそなの場合は
自己資本比率が国内行の基準である4%は下回っているものの債
務超過ではないと判断したので、実質国有化になったのです。
 一時国有化の場合は、政府が全株式を強制取得し、一時国有化
したのです。そして長銀や日債銀の場合は、全役員は退陣し、株
式は紙くず同然となったのです。こちらは大変厳しいのです。
 しかし、実質国有化のりそなの場合は、社長は退陣させられた
ものの、それ以外の役員は全員留任し、後継社長は内部登用され
ています。国の関与は比較的緩やかであり、経営の独立性はある
程度保てるので、一時国有化の場合とは大違いです。
 2003年5月17日、午後5時30分からのりそな首脳陣の
会見のあったほぼ一時間後の午後6時30分、当時の小泉首相は
預金保険法102条に基づく金融危機対応会議を招集し、りそな
HD傘下のりそな銀行に公的資金の投入を決めたのです。その額
は2兆円。かくしてりそなは2002年10月の金融再生プログ
ラムに基づく初の「特別支援行」となったのです。
 このような公的資金の注入のやり方は「予防的公的資金注入」
というのです。当時の竹中・金融庁のとったりそなに対する措置
は、素早い処理によってシステミックリスクを防いだと、なかな
か評価が高いのです。
 しかし、これはおかしな話なのです。2003年5月の時点に
おいて、りそな銀行が危ないという情報はほとんど伝わっていな
かったのです。ただ、4月に朝日監査法人(現あずさ監査法人)
所属の公認会計士が自殺したというニュースが流れたあと、週刊
誌や夕刊紙のコラムなどに次のような記事が載ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 某大銀行は今決算で自己資本比率が4%を割りそうだが、金融
 庁がそれを阻止しようと監査法人に圧力をかけている。
                      ――山口淳雄著
     『りそなの会計士はなぜ死んだのか』/毎日新聞社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この時点でマスコミは、ここでいう某大銀行がりそなであるこ
とは掴んでいたのです。そして、りそなが国有化されると大変な
ことになる――誰もがそう思っていたのです。
 しかし、政府がりそなにとった処置は、一時国有化ではなく、
実質国有化であったのです。これはかなり大甘な処置であったと
いえます。これを受けて、低迷を続けていた株価は大幅に上昇す
ることになったのです。
 このりそな処置について、植草一秀氏は、次のように述べてい
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉政権の「大銀行破綻も辞さず」の政策方針が株価を暴落さ
 せた最大の背景である。ところが、最後の最後で小泉政権は、
 りそな銀行を「破綻処理」せずに「救済」したのである。「救
 済」の根拠法規は預金保険法102条である。この措置が人為
 的に選択されたことは間違いない。「破綻処理も辞さぬ」と言
 いながら結局は「破綻処理ではない救済」が選択されたのだ。
 この時点でりそな銀行を破綻処理していたなら、日本は間違い
 なく「金融恐慌」に突入したはずである。この懸念があったか
 らこそ、株価は暴落していたのだった。逆に、最後の最後で、
 政府が銀行破綻を回避するために「銀行救済」を選択するのな
 ら、株価は当然猛反発する。「金融恐慌のリスク」が株価を下
 落させていたわけで、その「リスクプレミアム」が消失する分
 だけ株価は上昇するはずである。政府が「銀行救済」の方針を
 貫くことがはっきりするにつれて、株価は大幅反発した。日経
 平均株価は、2003年8月18日に1万円の大台を回復した
 のである。                ――植草一秀氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 この場合、政府がまったく公正な立場に立ち、りそなが自主的
に出してきた公的年金の注入申請を受けて、実質国有化したので
あれば、それが厳しい処置であっても甘い処置であっても納得で
きます。もちろん建前上はそういうかたちになっていますが、裏
側の事情は大きく異なるようです。これについては、これから詳
しく述べていきます。
 「たとえ大銀行でも潰せないことはない」と豪語し、銀行に対
して厳しい処置をとることを印象付けながら、実際にとった処置
は大甘な処置であった場合、それが株価に影響を及ぼすことは必
至であるし、金融の専門家であれば誰でもわかることです。
 実際にこの株価暴騰で一番儲けたのは、外資系のヘッジファン
ドだったといわれます。7千円台の株価が1万円になったのです
から大儲けです。かねてから小泉政権は米系の外国資本と結んで
いるとの噂があり、植草氏は、これはインサイダー取引そのもの
であると述べているのです。 ――[円高・内需拡大策/22]


≪画像および関連情報≫
 ●預金保険法102条について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  金融危機の恐れがある場合、首相が金融危機対応会議を招集
  し、公的資金を使った三種類の特別な措置を発動できるとし
  た規定。一号措置は過小資本行への資本注入、二号措置は預
  金を全額保護し金融整理管財人を派遣した上での破たん処理
  三号措置は一時国有化で株式をゼロ円で国が強制取得する。
          http://www.houko.com/00/01/S46/034.HTM
  ―――――――――――――――――――――――――――

金融庁.jpg
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2008年12月05日

●「りそな処理をめぐる陰謀」(EJ第2465号)

 一番の疑問は、なぜりそな銀行が「特別支援行」のターゲット
にされたかです。当時りそなと同程度の財務内容の銀行はたくさ
んあったのです。別にりそなでなくても構わなかったのです。
 りそな銀行がターゲットにされた理由について、植草一秀氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 りそな銀行と同程度の財務状況の銀行は複数存在していた。り
 そながあのような対応を受けるなら同じ対応を受けるべき銀行
 はいくつも存在していた。ところが現実には、不自然にもりそ
 な銀行のみが俎上に乗せられたのである。その最大の理由は、
 りそな銀行の当時の頭取が、かなり明確に小泉政権の経済政策
 を批判していたことにあったと考えられる。りそな銀行では頭
 取が交代し、新頭取が手腕を発揮し、経営に活力が広がり始め
 ていた局面だった。決して状況は悪くなかったはずである。政
 治的にりそな銀行は狙い撃ちされたのだと私は確信している。
               ――UEKUSAレポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでお断りしておきたいことがあります。植草一秀氏という
と、例の事件の影響で何かと色眼鏡で見られがちであり、彼が主
張していることを積極的に取り上げるのはいかがなものかと考え
る人もいると思います。
 しかし、植草氏は、かねてから小泉・竹中政権の政策に異を唱
えており、とくにこの「りそな事件」は売国奴的行為であるとし
て、マスコミを通じて本気で訴えようとしたので、国策捜査にか
らめとられたといわれているのです。何しろ、例の事件の前は、
植草氏はテレビの常連エコノミストの一人であり、その影響力は
きわめて大きなものがあったからです。
 現在、ネットでは、植草一秀氏は冤罪であるとして、その擁護
の論陣が張られており、その数は続々と増えています。植草事件
の単行本も出版されているようです。
 その中のサイトの一つをご紹介するので、参考にしていただき
たいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
  http://slicer93.real-sound.net/0-ip-space-7514.html
  http://slicer93.real-sound.net/0-ip-space-7515.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 りそな銀行に焦点を絞った竹中プロジェクトチーム――金融分
野緊急対応戦略PT――このPTが何をやったのかについて述べ
て行くことにします。
 当時りそな銀行には2つの監査法人が共同監査をしていたので
す。既に述べたように、2つの監査法人とは、新日本監査法人と
朝日監査法人(当時)です。
 監査法人がりそな側に繰延税金資産の扱いで自己資本不足にな
ることを伝えたのは2003年4月に入ってからのことです。り
そなとしては今まで通り5年分認められると思っていたのです。
しかし、この段階で自己資本不足が伝えらても銀行側は対応のす
べがないのです。3月時点であれば、いろいろな対応のやり方が
あったのです。このあたりに何か意図的なものを感じます。
 竹中大臣に近い木村剛氏――上記竹中PTのメンバー――は、
5月14日付で、自分のインターネットコラムに次のタイトルの
コラムを発表しているのです。当時、木村剛氏はかなりの有名人
であり、そのサイトには多くのアクセスがあったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       破綻する監査法人はどこか!?
―――――――――――――――――――――――――――――
 タイトルだけでは意味はわかりませんが、暗にりそな銀行の監
査を担当する監査法人を指しているのです。このコラムの中で木
村氏は、銀行名こそ伏せているものの、はっきりとりそな銀行を
指していることがわかる文面で、「りそな銀行の繰延税金資産の
計上は、0年か1年しかあり得ない」と述べ、さらに、もし、監
査法人が2年以上の繰延税金資産の計上を認めるならば、その監
査法人こそ破綻させるべきであると主張しているのです。
 もし、0年か1年の繰延税金資産の計上ということになると、
りそな銀行は債務超過になってしまうのです。したがって、この
コラムを読んだ人は「りそなが危ない」と感じ、株主は株を売却
するはずです。もし、一時国有化になってしまうと、株は紙くず
になってしまうからです。長銀、日債銀と同じです。
 それに竹中大臣が大手銀行首脳にあれほど強く公的資金投入を
迫ったのですから、りそな銀行の運命は風前の灯であると誰でも
感じたはずです。
 ところがです。監査法人は3年分認めたのです。これによって
株価は激しく反発したのです。なぜでしょうか。
 もし、債務超過の場合は、預金保険法102条第3号措置が取
られ、銀行は一時国有化――破綻処理になります。長銀、日債銀
と同じです。しかし、繰延税金資産が3年分入ると、自己資本比
率は4%を割るものの、債務超過にはならず、預金保険法102
条第1号措置――植草氏は「抜け穴規定」と呼んでいる――が取
られ、公的資金を投入できるのです。これについて、植草氏は次
のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉政権は「金融危機」なる「風説」を流布し、株式を「売り
 あおり」、最終局面で預金保険法102条の「抜け穴規定」を
 活用して「銀行救済」を実行し、株価の猛烈な上昇を誘導した
 と言っても過言ではないような行動をとったと判断することが
 できる。国家ぐるみの「株価操縦」、「風説の流布」的行為の
 疑いは濃厚である。そしてこの方針を事前に入手した投資家が
 株式売買に動いたのなら、実質的な「インサイダー取引」が行
 われたことになるのだ。   ――UEKUSAレポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
              ――[円高・内需拡大策/23]


≪画像および関連情報≫
 ●銀行国有化、業界強制再編へ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  竹中平蔵経済財政・金融担当相による不良債権処理の特別チ
  ーム(金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム)の編成が
  佳境を迎えていた10月2日午後、金融庁の複数の幹部が首
  相官邸と永田町をあわただしく駆け回っていた。通信社電が
  速報で、木村剛KPMGフィナンシャル代表の特別チーム入
  りを伝えた前後のことである。
    http://www.nikkeibp.co.jp/archives/211/211337.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

木村剛氏.jpg
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2008年12月08日

●「繰延税金資産の査定をめぐるからくり」(EJ第2466号)

 竹中元金融担当相という人はなかなかしたたかな人物です。そ
の一面は、繰延税金資産が安易に自己資本にカウントされている
実態に目をつけたところに見ることができます。
 既に述べたように、繰延税金資産は、将来の収益の中からその
分、非課税の利益になるという実態のないものを自己資本にカウ
ントするものであるからです。その実態は、「見せかけの自己資
本」といっても過言ではないのです。
 それまで繰延税金資産は5年分が認められており、りそな側は
繰延税金資産5年分――約7000億円を自己資本にカウントす
る方針であり、そうすればりそなの自己資本比率は6%になる計
算だったのです。そして、それは当然監査法人も認めてくれるは
ずと思っていたのです。
 そういう見せかけの自己資本ではなく、もっと中身のある充実
した自己資本を持つべきであるという竹中氏の主張は一応正論で
あるといえます。実際に大手銀行の首脳は竹中大臣との一連のバ
トルを通じて自力で自己資本の増強を図る対応をしています。国
有化されることに危機感を感じたからです。しかし、メガバンク
以外の国内行の首脳の意識はそこまで行っていなかったのす。
 竹中氏は、監査法人は独立機関であり、政府といえども監査法
人の下した結論には逆らえないと明言していたのです。しかし、
竹中氏が監査法人に国有化の引き金を引かそうとし、巧妙に圧力
をかけていたことは間違いないようです。なぜなら、当時の公認
会計士協会の奥山章雄会長は、竹中PT――金融分野緊急対応戦
略PTのメンバーだったからです。これについて、植草一秀氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 当時の公認会計士協会会長は奥山章雄氏だが、奥山氏は竹中金
 融相の下に置かれた「金融問題タスクフォース」のメンバーも
 務めた人物で竹中氏との関係は非常に深い。公認会計士協会と
 金融庁当局が連携してりそな銀行処理が決められたと考えるの
 が妥当である。         ――UESUSAレポート
―――――――――――――――――――――――――――――
 とにかくりそな銀行実質国有化では、竹中PTのメンバーであ
る木村剛氏と奥山章雄氏が深く絡んでいることは確かです。
 まず、2003年2月25日の時点で、日本公認会計士協会は
奥山章雄会長による「会長通牒」を出しています。これは既に述
べた通りです。奥山章雄氏も竹中PTのメンバーであるので、竹
中金融担当相の要請を受けてそれが行われたものと考えるのが自
然であると思われます。それは銀行の監査に関しては厳正に対応
すべきであるという内容であったのです。
 続いて、5月14日に木村剛氏は自分のサイトにりそな銀行の
繰延税金資産は認めるべきではないし、認めても1年にすべきで
あるであると主張するコラムを書いています。
 木村氏はあくまで個人意見であり、竹中PTに関係はないとい
うでしょうが、そういう政府の公式PTのメンバーである以上、
内容が銀行の監査に関してであり、個人意見であっても、好まし
いことではないといえます。
 奥山氏にせよ、木村氏にせよ、繰延税金資産は厳しく査定すべ
きであるという意見です。しかし、新日本監査法人は3年を認め
たのです。つまり、甘く査定したのです。この監査法人の査定に
対して、奥山氏はともかくとして、木村氏は批判してしかるべき
です。なにしろ、繰延税金資産を認めないか、認めても1年であ
り、もし、それ以上多く認めた監査法人は破綻させるべきである
という主張をしていたからです。
 しかし、木村剛氏は、りそな処理が終わると、一貫してその処
理を批判していないのです。これに関して植草一秀氏は次のよう
に述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 りそな処理で見落とせないのは、木村剛氏が、5月17日のり
 そな銀行実質国有化案が提示されて以降、一度も政府決定を批
 判していないことである。私は木村氏とテレビで何度も、りそ
 な処理をめぐって論争した。私は、「自己責任原則貫徹の大原
 則」が完全に踏みにじられたことを訴え続けたが、木村氏は全
 面にわたって政府決定の擁護に回ったのである。5月14日に
 記述した内容とは正反対の主張を繰り返したのである。
               ――UEKUSAレポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は植草氏と木村剛氏のこのりそな問題でのテレビの討論を実
際に視聴したのですが、植草氏のいう通り、一貫して政府措置の
擁護に回っていたのです。
 銀行の繰延税金資産の査定は厳しく対処すると公言し、二重三
重の論陣を張っておいて、一転甘く査定して実質国有化する――
もし、これがそういうシナリオになっており、そのシナリオが外
資系ファンドに漏れていたらどうなるのでしょうか。これは完全
なインサイダー取引になる――植草氏はこう指摘するのです。
 このりそな処理によって、7000円台を低迷していた株価は
大きく反発し、10000円台を回復しています。その後は折か
らの景気回復の波によって経済は改善していったのです。これに
ついて植草氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉政権の政策評価に際してもっとも重要であるのが、りそな
 処理なのである。このりそな処理についての厳密かつ客観的評
 価なくして、小泉政権の政策評価は不可能である。2003年
 から2006年までの株価反発、経済改善をもって小泉政権の
 「改革」政策を高く評価するような軽薄な論評にはまったく存
 在価値がないことをしっかりと見抜かなければならない。その
 ような評価に共通する背景は「権力迎合」の精神構造である。
               ――UEKUSAレポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
              ――[円高・内需拡大策/24]


≪画像および関連情報≫
 ●植草氏と小泉元首相にレクチャーしている
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「直言:失われた5年 ー 小泉政権・負の総決算」によれば
  植草一秀氏は、小泉内閣発足の一年前に、小泉純一郎と中川
  秀直に対してレクチャーをしている。植草氏は財政収支改善
  を中期的に取り組む必要を説き始めたとき、小泉はその発言
  をさえぎって、「緊縮財政運営こそがすべてに優先されるべ
  き」であるという持論を得々と開陳したそうである。植草氏
  は、当時、日本経済の根っこには、巨大な不良債権問題が沈
  潜しており、これを無視して財政緊縮路線を遂行すれば、経
  済悪化、金融不安増大、財政赤字拡大等の深刻なマイナス要
  因が発生し、「魔の悪循環」のスパイラルに呑みこまれるこ
  とが目に見えていた。
    http://slicer93.real-sound.net/0-ip-space-7514.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

竹中平蔵元金融担当相.jpg
竹中平蔵元金融担当相
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2008年12月09日

●「不可解なUFJ銀行潰し」(EJ第2467号)

 今回のテーマも早いもので今回で25回目になります。このと
ころ「りそな処理問題」を取り上げていますが、12月4日に植
草一秀氏の次のサイトに紹介されてから、非常に多くの方がEJ
のブログにアクセスしてきています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「植草一秀の『知られざる真実』/マスコミの伝えない政治・
 社会・株式の真実・真相・深層を植草一秀が斬る」
 http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-8be2.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで思い出していただきたいのですが、今回のテーマは次の
通りです。再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
   日本経済は米国依存から脱却することができるか
   ― 日本は円高・内需拡大政策は成功するか −
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、日本の政治・経済の状況は、それこそ100年に一度の
危機的状況にあります。これからの日本は、いやでも円高・内需
拡大政策をとっていかなければなりませんが、そのためにはいか
に米国依存から脱却するかが大切なのです。
 その日本の米国依存の実態を知っていただく一環として、小泉
政権の数々の負の遺産のひとつとして、「りそな問題」を取り上
げてご紹介したのです。
 実はこの「りそな問題」――EJでは、会計士の死という切り
口で、その核心部分を次のように2003年に7回にわたって取
り上げているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    2003年11月05日/EJ1225号〜
    2003年11月14日/EJ1232号
―――――――――――――――――――――――――――――
 この部分の記事は、EJブログではない次の提携サイトに掲載
していますので、次のURLをクリックしてください。
―――――――――――――――――――――――――――――
  http://www.intecjapan.com/blog/2007/12/post_403.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 公的資金注入後にりそな銀行はどうなったのでしょうか。
 りそな銀行には、公的資金注入前の2003年3月末に35兆
円の預金があったのです。それが公的資金注入後の同年6月には
33兆円になっていたのです。実に2兆円も減っているのです。
 なぜ、りそな銀行に公的資金を注入したのか――表面的な理由
は「予防注入」になっています。それは風邪がひどくならないよ
うに薬を飲むのと同様の予防的な措置です。
 公的資金注入が決まったのは、2003年5月17日であり、
その額は約2兆円です。それなのに、その直後に預金残高が2兆
円も減っているのです。これは取り付け――静かなる取り付けが
発生していたことを意味しています。何のためのりそな銀行への
公的資金注入であったかきわめて不透明です。少なくとも、この
預金引き上げは、預金者、取引先、市場がこの公的資金注入を歓
迎していなかったことを示しているのです。
 もうひとつ前代未聞なことが2004年に起こっています。そ
れは金融庁による「UFJ銀行潰し」です。どうして、UFJ銀
行は潰されなければならなかったのでしょうか。
 2004年3月期の決算において、日本の4つのメガバンクの
業務純益は次のようになっています。業務純益というのは、銀行
の営業収入から経費を控除した経費のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.三井住友銀行 ・・・・・ 10000億円
   2.みずほ銀行  ・・・・・  9541億円
   3.UFJ銀行  ・・・・・  7946億円
   4.東京三菱銀行 ・・・・・  6548億円
―――――――――――――――――――――――――――――
 これで見ると、UFJ銀行は業務純益においては、東京三菱銀
行を上回っています。ところが、金融庁はUFJ銀行に対して次
の指示をしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 多額の不良債権があるから、1兆2000億円を貸倒引当金と
 して積め。       ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 その結果はどうだったのでしょうか。
 金融庁は、DCFと減損会計の手法を駆使し、資産を評価した
結果、UFJ銀行の最終利益は、マイナス4000億円になって
しまったのです。UFJ銀行は不動産関連融資が多いために狙い
撃ちされた感があります。
 なお、DCFと減損会計の手法については既に説明しています
が、説明が必要な人は次のURLをクリックしてください。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://electronic-journal.seesaa.net/article/110324780.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 理解に苦しむのは、なぜ、UFJ銀行をここまでして潰す必要
があったのかです。当時UFJ銀行は預金も減っていないし、株
式市場で同行の株が売られていたわけではないのです。まして金
融市場には金融危機などなかったのです。それなのに、突然の経
営赤字、UFJ銀行としてはどうしようもなかったと思います。
 あったのは「行政リスク」という言葉です。この言葉の意味を
既出の菊池英博教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 行政リスクとは行政府が市場や預金者から不安視されていない
 銀行を意図的に潰しにかかめることをいう。 ――菊池英博氏
―――――――――――――――――――――――――――――
              ――[円高・内需拡大策/25]


≪画像および関連情報≫
 ●4大監査法人とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  現在は以下の4つの大手監査法人を指して「4大監査法人」
  と呼ぶことが多い。なお、かつて4大監査法人の一角を占め
  ていた中央青山監査法人は、2006年に金融庁より業務停
  止処分を受けた。これを受け、一部のメンバーがあらた監査
  法人を設立し、中央青山監査法人はみすず監査法人に改称し
  た。その後、2007年2月に監査業務の継続を断念したみ
  すず監査法人は、顧客企業や会計士を他の三大法人などへ移
  管し、2007年7月31日に解散した。
   1.新日本有限責任監査法人
   2.監査法人トーマツ
   3.あずさ監査法人
   4.あらた監査法人
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

新日本有限責任監査法人のサイト.jpg
新日本有限責任監査法人のサイト
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2008年12月10日

●「寡占化の進む日本の金融システム」(EJ第2468号)

のUFJ銀行に対して、金融庁はどのように考えていたの
でしょうか。菊池英博氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 当時の金融庁は、次のようなシナリオを強行しようとしていた
 と伝えられている。すなわち、UFJ銀行を潰すために、大口
 の不動産関連融資の処理を急がせ、貸倒引当金を追加して積み
 増しさせる。そして赤字に追い込み、自己資本を毀損(減額)
 させ、自己資本比率が国際基準行として要求されている最低水
 準8%を割らせる。そこで公的資金を注入する。こうして事実
 上破綻させ、一時国有化する。その後、外資や国内銀行に譲渡
 する。つまり、政府は金融不安を起こしていない大手銀行を強
 制的に破綻させ、分割して売りさばこうとしていたのである。
             ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融庁は、UFJ銀行を検察庁に告発したのです。理由は「検
査忌避」です。UFJ銀行は金融庁の検査に当たり、不良債権に
関する資料を隠蔽し、検査を忌避したというのです。
 一般論であるが、主力銀行が貸出先の資産査定をするときは、
いくつかのケースを想定して複数の資料を作成し、貸付先の業態
を検査し、メインバンクとしての対応を決めることになっている
のです。
 UFJ銀行もそういう作業プロセスを経て資産査定をしており
採用にならなかった資料が残っていたのです。その資料の存在を
見つけたUFJ銀行内部の人間が「隠蔽資料がある」と内部告発
したのです。
 その内部告発に基づいてUFJ銀行に乗り込んだ検査官と担当
者の間でその隠蔽されているとされる資料をめぐって言い争いに
なったのです。その結果、金融庁は検査忌避と判断し、UFJ銀
行を検察庁に告発したのです。かなり乱暴な措置です。
 しかし、告発されたUFJ銀行首脳は資料の隠蔽を認め、罪を
認めたのです。裁判の長期化による信用の失墜を恐れたのです。
かくして、UFJ銀行は、2004年7月14日に東京三菱銀行
に合併を申し入れ、2005年10月に現在の三菱東京UFJフ
ィナンシャル・グループが誕生したのです。
 両行の合併は2006年1月に行われたのですが、これで日本
はメガバンク3行による世界一の寡占化の進んだ体制になったの
です。この体制がいかに問題があるかは改めて検証します。一体
金融庁は何を狙ってUFJ銀行を潰したのでしょうか。
 既に述べたように、2004年3月期においては、業務純益の
最も少なかった東京三菱銀行が、それより多い業務純益を持つU
FJ銀行を吸収合併したのです。合併後の2006年3月期の決
算によると、三菱UFJフィナンシャル・グループの税引き後利
益は、3大メガバンクの中で最高の1.1 兆円となったのです。
これは、バブル期を上回る収益といわれたものです。
 ところがです。その中身が問題なのです。その税引き後利益で
ある1兆1000億円のうち、7000億円は2年前にUFJ銀
行が金融庁命令によって、貸倒引当金として積み増しさせられた
1兆2000億円の戻りなのです。
 強制的に積み増しされた貸倒引当金の60%が2年後に戻ると
いうことは、それが不良債権から一転正常債権に復帰したことを
意味しています。普通このようなことはあり得ないことです。そ
れは、2004年3月期の検査時の金融庁の貸出金の査定がいか
に不適切であったことを示しているのです。
 もっと重要なことがあります。もし、戻り額である7000億
円の積み増しをしないで済んだと仮定すると、2004年3月期
のUFJ銀行の貸倒引当金の積み増しは5000億円ほどである
ので、経常利益が3000億円は出ていたはずなのです。UFJ
銀行は健全行だったのです。それをなぜ、潰したのでしょうか。
 菊池英博氏は、これについて「金融庁はどう責任を取るのか」
として、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 当時の金融庁担当大臣、検査責任者には重大な責任がある。検
 査の不適正ばかりではない。すでに述べたように、UFJ銀行
 を合併に追い込み、超メガバンクをつくることで、金融システ
 ムを寡占化し、硬直化し、弱体化させたのである。こうした点
 から見ても、金融庁の重大な失政であり、行政の責任は重大で
 ある。         ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在の日本には、国際基準行は次の5つありますが、メガバン
ク3行のシェアは圧倒的であり、実質的に3行体制です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.みずほフィナンシャル・グループ
     2.三井住友フィナンシャル・グループ
     3.三菱FUJフィナンシャル・グループ
     4.中央三井信託銀行
     5.住友信託銀行
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界第2の経済大国で、国際基準行が3行というのはあまりに
も少ないのです。日本の国内市場で、メガバンク3行が預金と貸
出金でどのくらいのシェアを占めているか知っておく必要があり
ます。2006年3月末のデータでいうと、奇しくもともに41
%なのです。添付ファイルの表をごらんください。
 3大メガバンク3行で預金も貸出金も4割を占有しているとい
うことは、金利、手数料といった料率を3大メガバンクが独占的
に決定できるポジションを占めているということです。
 それに預金総額でいうと、こういう独占状態は、米国では承認
されないのです。このような金融システムはきわめて不安定であ
るといえます。       ――[円高・内需拡大策/26]


≪画像および関連情報≫
 ●日本経済を破壊する巨艦メガバンク
  ―――――――――――――――――――――――――――
  たった2年前の春のことだ。バブル崩壊後の不良債権問題が
  片付いたメガバンクは、2006年3月期決算において、そ
  れぞれ約1兆2066億〜5200億円の最終利益を計上、
  大手銀行合算の最終利益は、バブル景気前を含めて過去最高
  を記録した。これを受けて大手マスコミは、「バブル崩壊後
  の痛手からメガバンクが立ち直った」と喧伝、東京・日本橋
  本石町の日銀本店内にある金融記者クラブに姿を見せた各メ
  ガバンクのトップは、「これからは攻めの経営に転じる」と
  一様に笑顔を見せた。       ――「日刊サイゾー」
  http://www.excite.co.jp/News/society/20080612/Cyzo_200806_post_624.html
 ●グラフ出典/寡占化が進む日本の金融システム
   。         ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
  ―――――――――――――――――――――――――――

寡占化が進む金融システム.jpg
寡占化が進む金融システム
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月11日

●「異常に少ない日本のメガバンク」(EJ第2469号)

 海外進出の国内大手銀行は3つではあまりにも少ない――この
ようにいった人は多くいるのです。これに対し、竹中金融担当相
(当時)は、米国、ドイツも3つであるし、英国も4つであると
答えています。次のデータをご覧ください。
―――――――――――――――――――――――――――――
     海外進出大手銀行数   銀行総数  GDP比較
  日 本       3行  1414行    100
  米 国       3行  8000行    260
  ドイツ       3行  3500行     50
  英 国       4行  1700行     40
  カナダ       6行   150行     18
                 ★2006年3月末現在
          GDPは日本を100とした数字である
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中氏という人は頭がよくて頭の回転が早い人です。それにな
かなか弁が立ちますので、一気にまくしたてられると、かなり金
融に詳しい人でもちょっと反論できないのです。しかし、いって
いることには大きな問題があるのです。
 まず、日本の3行はGDPとの比較でいうと、明らかに少な過
ぎるのです。しかし、日本の倍以上のGDPのある米国も3行で
はないかといわれると、米国の金融の事情を知らない人は何もい
えなくなってしまうと思います。
 まず、米国の場合、確かに世界各地に海外進出している国際銀
行は3行ですが、各州の大手銀行が海外取引をしているので、本
当に巨大な国際銀行は3行で十分であるといえます。
 もうひとつ、米国には銀行同士の合併に対して、預金保険機構
の2つのルールがあり、合併による大銀行は作りにくいのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.預金保険機構10%ルールによる合併制限
   2.隣接州預金保険機構30%による合併制限
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の「預金保険機構10%ルールによる合併制限」というの
はどういう制限なのでしょうか。
 これは、全国規模で営業拠点を持つひとつの銀行グループに対
する預金保護額は、預金保険機構の全保護額の10%を限度とす
るというルールです。
 日本の3大メガバンクにこれを置き換えると、各行の預金額が
国内銀行の預金総額に対してどのくらいのシェアを占めているか
を見ればよいのです。昨日のEJの添付ファイルを見ればわかり
ますが、それぞれのシェアは10%を超えているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
            国内預金総額に対するシェア
    みずほFG             12%
    三井住友FG            12%
    三菱UFJFG           17%
              ★2006年3月末現在
―――――――――――――――――――――――――――――
 したがって、米国では、東京三菱銀行とUFJ銀行の合併のよ
うなケースは認められないのです。
 続いて、第2の「隣接州預金保険機構30%による合併制限」
の説明です。
 これは、隣接する州に営業拠点を持つひとつの銀行グループに
対する預金保険機構の預金保護額は、その地域における預金保護
額全体の30%を限度とするというルールです。
 これを日本の3大メガバンクに置き換えて、各行の預金総額が
3大メガバンク全体の預金総額に対してどのくらいのシェアを占
めているかを調べてみましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
              3大銀行に占めるシェア
    みずほFG             29%
    三井住友FG            29%
    三菱UFJFG           42%
              ★2006年3月末現在
               3大銀行合計=100
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによると、みずほと三井住友は30%以下ですが、三菱東
京UFJ銀行は42%であり、これに貸出金を加えると、3行中
45%前後まで跳ね上がるのです。米国でいう30%ルールに明
らかに違反しているのです。このような無理で強引な銀行の合併
を金融庁はなぜやったのでしょうか。
 日本の銀行は総数からいっても、その経済規模に比して明らか
に少ないのです。先述しているように、米国の場合は各州の大手
銀行が海外の銀行と直接取引しており、国際銀行としての役割を
果たしているのです。
 これに対して日本の場合は、海外の銀行と取引しているのは、
たったの3行なのです。地方銀行が国際取引をするときはメガバ
ンクを通さないとできないのです。それをわざわざ健全行である
UFJ銀行を難くせをつけて潰し、3行にしてしまったのはその
ウラに米国の影が見えるのです。なぜ、日本は政府もメディアも
国民もこのことに関して無関心なのでしょうか。これらがいずれ
も小泉政権のときに進められたことに留意すべきです。
 ドイツの銀行は日本の2.4 倍の銀行を持っています。ドイツ
は名目GDPは日本の半分ですから、それに引き直すと、ドイツ
の銀行の数は実質的に日本の5倍になるのです。
 日本は、その経済規模から見て、少なくとも6行〜7行の海外
進出銀行が必要なのです。竹中金融担当相は、つねづね「日本は
オーバーバンキングである。だから、バブルが起こった」といっ
ていました。これはどういう意味でしょうか。「オーバーバンキ
ング」は銀行の数のことをいっているのではないのですが、明日
のEJで説明します。    ――[円高・内需拡大策/27]


≪画像および関連情報≫
 ●「預金保険機構」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  預金保険機構は、日本の預金保険方に基づき1971年7月
  1日、アメリカ合衆国における連邦預金保険公社――FDI
  Cをモデルに設立された認可法人。預金者等の保護と信用秩
  序の維持を主な目的とする。補償額もほぼ同様の預金者一人
  当たり1000万円――FDICは10万米ドル。 日本の
  金融機関で預金保険が使用される枠組は、資金援助方式と、
  直接預金保険機構が預金者に保険金を支払う保険金支払方式
  ――ペイオフの2つがある。     ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

三菱東京UFJ銀行本店.jpg
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2008年12月12日

●「メリットの少ないメガバンク統合」(EJ第2470号)

 「日本はオーバーバンキング――銀行過剰である」――これは
竹中元金融担当相が口ぐせのようにいっていたのです。ここでい
うオーバーバンキングというのは、銀行の数が多いということで
はなく、銀行に資金が集まり過ぎて、銀行の資金供給量が多過ぎ
る――すなわち、資金の供給量が需要よりも大きいという意味な
のです。
 しかし、この議論は少しおかしいのではないでしょうか。19
85年から1990年にかけてのバブルのときのことですが、証
券投資がさかんに行われたのです。つまり、銀行の預金が下ろさ
れて証券投資に向かったのですが、そういうときでも銀行の預金
量は増えているのです。
 これは日本人に貯蓄志向のタイプの人が多いことを示しており
オーバーバンキングはそこからきているのです。しかし、そうで
あれば、銀行の数が少ないのは問題です。なぜなら、銀行の数が
少なくなると、ますます銀行に資金が集中し、オーバーバンキン
グの状態になるからです。
 さらに、現在はペイオフが完全に実施されており、銀行の数が
減ると、預金者にとっては資金を分散させることが困難になりま
す。なぜなら、預金保護限度額は一つの銀行が単位となって設定
されているからです。ペイオフでは、銀行が大きいか小さいかは
問題ではないからです。そういうときに、健全行であったはずの
メガバンクを減らす必要がどこにあったのか、非常に疑問に感じ
るのです。
 心配なのは、これからも銀行の統合は進むと考えられます。現
在、地方銀行が大変厳しい状況ですが、もしそういう地方銀行の
いくつかが経営不振に陥ると、銀行の持ち株会社の下でそれらの
銀行が経営統合され、一年後にはひとつの銀行になるというよう
に、銀行の数はますます減って行くと考えられるからです。
 預金者の預金先が減るということは、金融システムの不安要因
につながるのです。したがって、地域銀行を育成強化する政策が
必要なのですが、小泉政権はその地方を徹底的に斬り捨てたので
す。地方銀行を育成・強化し、地方の経済発展の基盤を作る――
そのためには地方分権を一層促進する必要があるのです。このよ
うに考えると、小泉政権のいわゆる「改革」とはいったい何のた
めの改革だったのでしょうか。
 銀行の統合によって何が得られるのでしょうか。それは、次の
2つの利益が得られるとされています。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.「規模」の利益
         2.「範囲」の利益
―――――――――――――――――――――――――――――
 銀行の合併の場合、これら2つの利益により、銀行の収益が増
加し、不良債権処理が可能になって、銀行経営が安定化するとい
われます。本当でしょうか。
 規模の利益とは、合併によって業容が拡大すると、必要経費が
売り上げ増加に比して少なくてすむので、合併前よりも収益は増
加するというのです。また、範囲の利益とは、合併前にはなかっ
た新分野が拓けて、利益が増加する――こういう理屈なのです。
 しかし、実際にそうなっているのかというと、必ずしもそうで
はないのです。
 菊池英博氏は、銀行の合併がうまくいっていない事例として、
現在の三菱東京UFJ銀行のケースを取り上げて、次のように述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1996年4月に合併した東京銀行と三菱銀行、その後にグル
 ープ入りした三菱信託銀行の例を見ると、合併直前の1996
 年3月期の業務純益(銀行の広義の営業純益)では、東京銀行
 が2322億円、三菱銀行が4128億円、三菱信託銀行が2
 043億円で、合計8493億円であった。しかし、2004
 年3月期の業務純益は合計6548億円に過ぎず、8年間で約
 2000億円も減少している。
             ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、UFJ銀行が存続していれば、どうなったでしょうか。
 2004年3月末で、預金額53兆円、貸出は42兆円、預金
と貸出ともに全銀行のシェアは10%、4大メガバンクのシェア
では21%――きわめて安定しており、潰す必要などまったくな
かったのです。対米約束で、どうしてもメガバンクを一行潰した
かったのでしょう。情けない話ではあります。
 つい先日のことです。あのイラクで米軍との間で地位協定が結
ばれたのですが、イラクは米軍に相当厳しい条件を飲ませたとい
うのです。あのイラクでさえそうなのです。
 それに比べて日本はどうでしょう。50年もやっていて、米軍
に必要以上の貢献をしている日本であるのに、依然として屈辱的
な協定内容に甘んじている――政府も情けないが、国民の無関心
もひどいものだと思います。
 大手銀行首脳への揺さぶり、りそな処理、UFJ潰し――この
間に一貫してそれを指揮する最高の権限を有していたのが竹中平
蔵氏なのです。念のため、竹中氏の大臣履歴を示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪特命大臣として経済財政政策担当相≫
  2002年 9月30日〜2003年 9月22日
 ≪内閣府特命担当大臣(金融担当)を兼務≫
  2003年 9月22日〜2003年11月19日
  2003年11月19日〜2004年 9月27日
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように竹中氏は、問題の期間の最高権力者の地位にいたの
です。そして、最後の仕事は「ダイエー潰し」だったのです。
              ――[円高・内需拡大策/28]


≪画像および関連情報≫
 ●特命担当大臣とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  特命担当大臣とは、中央省庁再編に伴う内閣府設置法の施行
  により、2001年1月6日に法制化された職位であり、国
  務大臣をもって充てられる。内閣府にのみ置かれるため辞令
  (官報への掲載)での正式表記は「内閣府特命担当大臣」で
  あり、実際には「内閣府特命担当大臣(金融担当)」のよう
  に括弧付きで担当事務が付される。定数については特に定め
  られていないが、「沖縄及び北方対策担当」と「金融担当」
  は必置とされている。        ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

「UFJ消滅」.jpg
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2008年12月15日

●「ダイエーはどうして潰されたか」(EJ第2471号)

 今から考えると、何もかも最初から計画されていたのではない
かと思われるのです。金融再生プログラムには次の目標があった
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2005年3月の大手銀行の「不良債権比率4.2 %以下」
 にする。         ――金融再生プログラムの目標
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融再生プログラムの発表は2002年10月のことです。竹
中平蔵氏は、2002年9月に大臣になると、早くもこの計画を
発表し、「改革」の名の下に物凄いスピードで不良債権の処理に
乗り出したのです。
 「不良債権比率4.2 %以下」の目標は、2001年度の大手
行の不良債権比率8.4 %の半減なのです。ちなみにこの不良債
権比率8.4 %自体が意図的に作り出されたものであることにつ
いては既に述べた通りです。
 この意図的な不良債権比率のかさ上げの道具に使ったのが、D
CF方式と減損会計なのです。それから小泉政権はもう一つの仕
掛けを用意したのです。それは、2003年4月に不良債権処理
機能と企業の再生を目的とする「産業再生機構」の設立です。
 そして、2003年5月にりそな銀行を実質国有化し、同じ年
の11月には足利銀行を一時国有化しています。足利銀行の場合
は、監査法人は「税効果資本はゼロである」と通告したことが破
綻の原因です。しかし、足利銀行は破綻の6ヶ月前に自己資本は
8.5 %あったのです。しかし、監査法人が税効果資本は認めな
いという判断ひとつで破綻してしまったのです。これはまさに、
「会計恐慌」そのものです。
 そして、2004年のUFJ銀行潰しがあったのですが、いず
れも金融庁はDCF方式と減損会計という道具を使い、その不良
債権を産業債機構に肩代わりさせて、不良債権比率を下げてきた
のです。ひたすら、目標の4.2 %以下を狙ったわけです。
 2004年後半の時点で、実は目標の4.2 %以下は達成が困
難だったのです。もっと大きなところを潰す必要がある――そし
て、目をつけられたのがダイエーなのです。
 ダイエーは、新店舗展開のために大量の土地を買い、バブル後
の景気低迷と小売業の競争激化によって収益が伸び悩んでいたの
です。それに加えて有利子負債が非常に多く、経営を圧迫してい
たのです。
 しかし、2002年から2003年にかけて、ダイエーは、当
時の高木邦夫社長が指揮して、一年ちょっとで一兆円を超す有利
子負債を減らしており、経営そのものは順調に推移していたので
す。ダイエーに資金を貸し出しをしている銀行としては、そうい
うダイエーの努力を多として不良債権にしていなかったところも
あるほど経営努力は評価されていたのです。
 しかし、金融庁は血も涙もなかったのです。各行のダイエーに
対する貸出金を強制的に産業再生機構に移すよう強力に働きかけ
たのです。これをやると、ダイエーに対する不良債権となってい
る貸出金を公的資金で肩代わりすることができ、銀行の不良債権
が減るのです。
 その結果、金融再生プログラムに掲げた「不良債権比率4.2
%以下」の目標を達成することができたのです。ダイエーはその
ために潰されたといっても過言ではないのです。
 産業再生機構についてもう少し詳しく述べます。この機構は特
別法によって設立された株式会社です。民間が出資して設立され
たのですが、不良債権を買い取るための借入資金枠は10兆円で
これには政府保証がついているのです。
 不良債権を抱える銀行は金融庁の指示――形式的には銀行から
の申請――によって、不良債権の一部を債務放棄して残りを産業
再生機構に買い取ってもらうのです。同機構としては、その企業
の再生の道を模索し、企業再生の目途のついた企業は、それを健
全債権として買取希望企業に売り渡すのです。
 しかし、いったん産業再生機構に送られて再生できる企業は少
ないのです。しかし、ダイエーは、2006年9月に大手商社丸
紅がダイエーに対する貸出債権を買い取り、現在もダイエーは再
建を進めているのです。
 しかも、丸紅はダイエーが産業再生機構で処理される前から、
ダイエーと再建を協議しており、同機構に送る必要などなかった
のです。しかし、政府は自らが立てた不良債権比率削減の目標を
達成し、小泉政権の改革の成果として強調したいとの野心で、潰
す必要のないダイエーを潰したのです。
 こうした竹中・小泉政権について、既出の菊池英博氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融庁は、小泉デフレ政策であえぐ企業が必死に債務を削減し
 てきたのを無視して、官製の産業再生機構へ貸出債権を売却す
 ることを指示したのである。竹中平蔵氏は市場型行政を盛んに
 唱えながら、実際には「市場原理に反する手法」(金融庁によ
 る偽装恐慌)によってダイエーを潰した。一真性を欠く行政で
 あった。ダイエーはダイエー自身の再生方針に任せておくべき
 であった。ダイエーが金融不安を引き起こしているという状況
 はまったくなかったのだから、再生機構が介入する理由は存在
 しなかった。任せておいたほうが、はるかによい結果になった
 であろう。       ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう一連の竹中・小泉政権のやり方を見ていると、入念に
仕組まれた計画と考えられます。当局としては、UFJにしても
ダヘイエーにしても外資に買い取らせたかったのでしょうが、そ
れと察した日本企業が必死で引き取ったものと思われます。
 竹中・小泉政権の唱えた「改革」なるものとは、一体何だった
のでしょうか。       ――[円高・内需拡大策/29]


≪画像および関連情報≫
 ●産業再生機構とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  産業再生機構とは、返済が遅延して「要管理先」などに分類
  された金融機関の不良債権のうち、再建できそうな企業の債
  権を買い取りメインバンクと協力してその企業を再生させる
  ことを目的とした株式会社である。企業が複数の銀行から融
  資を受けていると、銀行間で自行の返済を優先させたい思惑
  がからんで再建計画がスムーズにまとまらない傾向があるが
  政府の主導する、多額の資金とタイムリミットを設定した組
  織なら再建しやすくなるというのが設立の狙いである。再生
  機構は7人の委員からなる再生委員会を設置し、再建可能な
  企業かどうかを判定する。
    http://www.wombat.zaq.ne.jp/matsumuro/LEC16-11.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

ダイエー.jpg

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2008年12月16日

● ● ●「郵政民営化の見直しは必要である」(EJ第2472号)

 2008年12月9日のことです。郵政民営化の推進を求める
会合が小泉元首相が出席して開かれたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉元首相らが9日、自民党の議員連盟「郵政民営化を堅持し
 推進する集い」を発足させた。麻生内閣で郵政民営化反対組が
 次々と政権中枢に入り、民営化見直しの機運が出てきたことへ
 の危機感からだ。麻生首相の出方次第では、同議連の動向が政
 局に連動する可能性もある。     ――アサヒ・コムより
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉首相が狂気のように取り組んだ郵政民営化とは何だったの
でしょうか。
 現況を確認しておくことにします。元郵政公社は日本郵政株式
会社に衣替えしています。その傘下に100%出資会社として次
の4つの会社があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.郵便事業株式会社
   2. 郵便局株式会社
   3.  郵便貯金銀行 ・・・ ゆうちょ銀行
   4.  郵便保険会社 ・・・  かんぽ生命
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに大きな問題があるのです。それは、2017年10月ま
でに「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」の株式を市場で100%
売却することになっていることです。これは当時の小泉首相の指
示で決まっているのです。
 ちなみに、「郵便事業株式会社」と「郵便局株式会社」は20
17年10月の時点でも日本郵政株式会社の子会社として存続し
政府は日本郵政株式会社の株式の3分の1強を保有し続けること
になっているのです。
 そもそも郵政民営化の目的は何なのでしょうか。
 当時小泉政権の中心幹部たちは、次のことを繰り返しいってい
たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 郵政民営化によって、公的部門に流れていたお金を民間部門に
 流せば経済は活性化する       ――郵政民営化の目的
―――――――――――――――――――――――――――――
 これがいかに現実に合っていないかは、リチャード・クー氏の
理論によって明らかでしょう。今回の金融危機の前までは民間部
門にはお金が余っており、金融機関の融資額よりも返済額の方が
大きい状態が続いていたのです。むしろ、政府部門がお金を必要
としてきているのです。
 こういうときに民間銀行と郵政公社は、預貯金の取り入れでは
競合関係にないので、相互に補完しあえるのです。このような金
融危機のときは、郵政公社が国債を引き受けてくれれば、民間銀
行は民間貸し出しを優先できるので、郵政公社を民営化する必要
など、どこにもないのです。
 それでは何のための民営化だったのかというと、それは米国か
らの強い要望だったのです。具体的には、米国政府から毎年送ら
れてくる「年次改革要望書」なるものです。
 この「年次改革要望書」は、1993年に開催された日米首脳
会談――宮澤首相・クリントン大統領――その翌年から毎年日本
に届けられることになったのです。その内容は米国では公開され
ているのですが、日本では政府もマスコミも公表しないのです。
 米国が執拗に迫ってきたのは、「簡易保険の民営化」の要求な
のです。この要求は、1995年から毎年年次改革要望書に載せ
られていたのです。要求の具体的内容は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ・簡易保険の民営化
 ・簡易保険が扱う商品を民間と同じ条件で競争させること
―――――――――――――――――――――――――――――
 驚くべきことは、2005年の「郵政公社民営化法案」の作成
に当たっては、国会審議の過程で、郵政民営化準備室が米国の生
命保険協会と実に17回にわたって協議をしているのです。一体
どこの国の法案を作っているのでしょうか。
 なお、この内容についても米国ではすべて公開されているのに
日本では非公開になっています。なぜ、隠すのでしょうか。この
状況を見ても、郵政民営化をいかに米国が望んでいたかを知るこ
とができます。米国の狙いは何なのでしょうか。
 この問題について、植草一秀氏は、「植草一秀の『知られざる
真実』」において、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 郵政民営化は、日本郵政が保有する巨大な優良資産を米国資本
 が収奪するために実行されている疑いが極めて強い。米国の金
 融資本は350兆円の郵政資金をターゲットにしているだけで
 なく、日本郵政が保有する巨大な不動産資産をも標的にしてい
 ると考えられる。麻生首相が郵政株式の売却凍結を口にした途
 端、激しい麻生首相バッシングが噴出している。テレビ朝日は
 小泉元首相、中川秀直元自民党幹事長、飯島勲元秘書、小泉チ
 ルドレンを画面に登場させ、郵政民営化見直し論議を封じ込め
 ようとしているように見える。
 http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-285e.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 郵政民営化については国民は、あの郵政選挙によって必要以上
の票を小泉政権に投じているので、民営化の進展についてやや寛
大なところがあります。
 今回の麻生首相の株式売却の凍結発言についても、改革派と称
する議員が直ちに集まって「改革後退反対」を唱える動きに賛同
する人は少なくないのです。
 しかし、それは間違っています。仮にかんぽ生命が外資に買収
されたら、どうなるのでしょうか。国民はそのことをもっと真剣
に考えるべきです。     ――[円高・内需拡大策/30]


≪画像および関連情報≫
 ●年次改革要望書とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  年次改革要望書は日本政府と米国政府が両国の経済発展のた
  めに改善が必要と考える相手国の規制や制度の問題点につい
  てまとめた文書で、毎年日米両政府間で交換される。「成長
  のための日米経済パートナーシップ」の一環としてなされる
  「日米規制改革および競争政策イニシアティブ」に基づきま
  とめられる書類であり、正式には「日米規制改革および競争
  政策イニシアティブに基づく要望書」と称する。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

小泉元首相登場!.jpg
小泉元首相登場!
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2008年12月17日

●「郵政完全民営化は日本に何をもたらすか」(EJ第2473号)

 米国は、日本の郵政民営化に対して何を期待して強い要求を出
してきたのでしょうか。
 そのひとつの答えがここにあります。添付ファイルを見てくだ
さい。これは米国の国債保有状況をあらわしたグラフです。20
06年3月末現在の数字です。
 2006年3月末の国債発行額は、8.4 兆ドル(約920兆
円)であって、このうち25%は外国人が所有しています。その
外国人所有の40%は日本が持っています。米国としては日本は
信頼できるものの、残りの60%――1.3 兆ドルが不安のもと
になっています。
 そこで、米国としては日本以外の60%を安定した投資家に所
有してもらいたいが、できれば日本の持ち分をもっと増やしても
らえれば安心である――そこで、郵政公社を民営化させ、その保
有資金の120兆円で米国の国債を買ってもらう。そうすれば、
米国の国債調達構造が安定化するという虫のいいことを考えたの
ではないかと思われるのです。
 現在、日本にとって心配なのは、日本郵政株式会社が所有して
いる国債、財投債、預託金の合計266兆円が今後どうなるかな
のです。これが日本に残るのか、海外に流出するのかによって、
日本の金融市場と金融システムへの影響は大きく変わってくるこ
とになります。
 既に述べたように、2017年までにゆうちょ銀行とかんぽ生
命の株は100%市場で売却されることになっています。そうす
れば、必然的に外資が入ってくることは防ぎようがないのです。
 もっとも良くないシナリオを考えた場合、日本は世界一の債権
国でありながら国内は資金不足になり、新規国債の発行もままな
らない事態になり兼ねないのです。国内資金が国内で投資されず
海外に流出してしまうからです。
 どうしてそのような事態が起きるのかについて、ひとつずつ考
えていきましょう。
 完全民営化のさいにかんぽ生命は、ほとんど外資に買収される
可能性が高いといえます。それでは、仮にかんぽ生命が外資に買
収されたら、いったい何が起こるのでしょうか。
 日本国債中心の運用をしているかんぽ生命の債券投資85兆円
は、金利が低いので、外資中心に投資される可能性が高くなりま
す。そうすると、国債の国内での書き換えができなくなり、国債
が消化できなくなるので、国際価格は暴落して長期金利が急騰し
ます。資金は「官から民へ」ではなく、「官から外へ」という大
変な事態になってしまうのです。
 ゆうちょ銀行でも同じことが起こります。ゆうちょ銀行の総資
産は248兆円もあり、負債である郵貯残高は200兆円です。
メガバンクの筆頭である三菱東京UFJ銀行の資金量は約100
兆円ですから、ゆうちょ銀行は2倍の資産と預貯金を持っている
ことになります。メガバンク3行全部の資金量245兆円とほぼ
同じ資金量を持つ巨大な銀行になるのです。
 このような巨大な資金量を誇るゆうちょ銀行にも外資が入って
きます。そうすると、当然保有資産は金利の高い海外の投資証券
に振り向けられ、日本国債の書き換えや新規引受けは減少するこ
とになります。そうすると、やはり国債の市場価格は下がり、長
期金利は上昇することになります。
 さらにこれほどの超メガバンクが登場すると、地域銀行が苦し
くなり、収益が減少します。それに完全民営化されると、外資も
入っていることでもあり、ゆうちょ銀行は住宅ローンや中小企業
貸し出しも積極的にやるようになるなど、資金量にものをいわせ
るダンピング的商法も行うはずです。それによって地域銀行の収
益は確実に圧迫されるのです。
 それに加えて、金融庁の過度な管理行政が行われれば、自己資
本比率規制、早期是正措置、ペイオフによってますます地域銀行
は萎縮し、姿を消していくことになると思われます。そうすると
銀行の数は少なくなり、預金はますますメガバンクへとシフトす
るのです。
 その結果、その資金の多くの部分は海外に出ていき、国内は資
金不足になってしまう恐れがあります。それに伴い、新規国債の
発行は制約され、短期金利も上昇することになります。これによ
り、世界一の債権国でありながら、国内では長期金利も短期金利
も上がり、たちの悪い不況――スタグフレーションが定着するこ
とになるのです。
 このような郵政民営化の進展が、これからの日本経済にどのよ
うな影響を与えてくるのかについて、既出の菊池英博氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2006年3月現在で「郵便貯金198兆円とその他」は、国
 債124兆円と預託金80兆円に運用されており、少なくとも
 この半分(100兆円)は外債に向かうであろう。また、「簡
 易保険」の「保険契約準備金116兆円」は、ほとんど海外に
 投資されるであろう。こうして約200兆円(郵政公社保有の
 資金合計350兆円の約60%)が国内から海外への投資に回
 されると推測されよう。現状のままで対策を講じなければ、こ
 うした現象は、今後10年間で必ず発生するであろう。もはや
 地方ばかりでなく、日本の金融市場全体に大きな激震が起こり
 金融システムが破壊されることは問違いない。金融市場には潜
 在的な不安定要素が広がり、ある時点で突発的に金融危機や金
 融恐慌に発展するであろう。この点は、今からはっきりと予言
 しておきたい。     ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、完全民営化後のゆうちょ銀行やかんぽ生命では、資本
の利益が最優先されて、日本の国益など二の次三の次にされてし
まうでしょう。このまま何の対策も講じなければ、日本の金融は
危機を迎えるでしょう。   ――[円高・内需拡大策/31]


≪画像および関連情報≫
 ●長期金利とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  長期金利とは、償還期間の長い債券や満期までの期間が長い
  金融資産や負債の金利。期間が1年未満が短期とされ、1年
  以上が長期とされることが多い。残存期間が10年に最も近
  い国債の金利が日本では代表的な長期金利である。長期金利
  は、長い償還期間という理由からいくつか特徴がある。
   1.     物価変動の予測に左右される
   2.住宅ローンなど、長期融資の金利の基準
                    ――ウィキペディア
 ●図表の出典
――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
  ―――――――――――――――――――――――――――

米国の国債保有者内訳.jpg
米国の国債保有者内訳
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2008年12月18日

●「小泉政権は何をやったのか」(EJ第2474号)

 ここで小泉・竹中政権が、いわゆる「構造改革」と称して、強
行したことは、次の4つです。これらがいかに日本を駄目にした
か、計り知れないものがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.財政面では、緊縮財政政策の実施によって、財政赤字削減
   を実現しようとしたこと
 2.金融面では、不良債権の加速処理で、「銀行等」の貸し出
   しを増やそうとしたこと
 3.国家のビジョンを明確にしないで、安易に「規制緩和」や
   「民営化」を行ったこと
 4.道路公団と郵政公社を民営化し、いかにも「改革」である
   ように宣伝していること
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレが進行しているときに緊縮財政を取る――そうすればデ
フレは一層深刻化し、財政赤字の拡大と政府債務の増加を引き起
こすことは、歴史的にも明らかなことです。
 1930年代においてフーバー米大統領は、デフレの下で緊縮
財政政策を取って大恐慌を引き起こしていますが、そのフーバー
大統領と小泉元首相は何も変わらないと思います。米国では、フ
ーバー大統領のことを「ザ・ワースト・プレジデント」と呼んで
いますが、小泉氏も後世同じように呼ばれるものと思われます。
次の歴史の名言がありまいす。
―――――――――――――――――――――――――――――
    愚者は「経験」に学び、賢者は「歴史」に学ぶ
―――――――――――――――――――――――――――――
「歴史」から学べない人――つまり、他人の経験から学べない人
は「愚者」なのです。よく歴史を引き合いに出す小泉元首相も肝
心のことはわかっていなかったということになります。
 小泉元首相は、慶応義塾大学の経済学部に学びながら、「自分
は経済のことはわからない」という人です。まさにその通り、国
の財政赤字の巨大さにのみ目を奪われ、経済の状況を考慮するこ
となく、緊縮財政政策を取ったものと思われます。おそらくこれ
は小泉氏自身の考え方であり、周りのイエスマンはそれに逆らわ
なかったものと思われます。
 このデフレ下の緊縮財政政策の強行が、金融機関の不良債権を
増加させ、「不良債権の処理」をしなければならない状況がつく
りあげられたということができます。不良債権の処理の矛盾つい
ては、既に述べた通りです。
 それから規制緩和――これは「規制を緩和すればすべて良くな
る」という考え方のもとで、小泉政権下で行われてきているよう
に思われます。「規制は悪で規制緩和は善」という考え方です。
 しかし、そもそも「規制緩和」とは何でしょうか。
 そもそもさまざまな社会活動に規制をかけるのは、平均的な事
象というかレベルからの逸脱を防ぐという点にあるのです。もし
規制をかけないと物事が乱れるというのであれば、そういう規制
は必要であり、緩和すべきではないのです。
 しかし、平均レベルよりも大きく伸びようとするときにブレー
キになるような規制は、緩和するか撤廃すべき規制ということに
なります。あること――産業や技術などを大きく伸長させるとい
う国家計画があれば、当然それに関わる規制は抜本的に緩和する
か廃止すべきです。
 規制緩和はそういう国家ビジョンというか国家計画に基づいて
政府が個別に判断して行うべきですが、小泉政権ではそういう明
確な国家ビジョンなしに、個別の考慮もなく規制緩和が行われて
いるのです。その結果が、現在の社会的風潮を生んだのです。
 小泉政権の規制緩和に象徴されるのは、ライブドア事件や村上
ファンドのような詐欺的犯罪行為です。そういうものを正当化す
る社会的風潮ができてしまったからです。
 雇用情勢の不安定化から食品偽装や振り込め詐欺まで、まさに
現在の日本はモラルが崩壊してしまっています。こういう社会的
風潮を形成した原因の一端がビジョンなき規制緩和にもあると思
うのです。
 「鳥有亭日乗」というサイトでは、「規制緩和の功罪」につい
て的確な意見が述べられています。規制には「抑圧」と「支持」
の2つの側面があるとし、規制緩和を善とするためには次のこと
が必要であるとしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 規制緩和を社会的善とするためには、成長に対して抑圧となる
 規制は撤廃し、頽落に対して支持となる規制は維持または強化
 することによって方向付けをすることが重要となる。この方向
 付けこそが将来に対する賭であり、大きな政治的選択である。
 奨励する必要がなくなることにより軽減される負担と規制緩和
 によって得られる成果の総和が、規制がなくなることにより節
 減できる費用と発生する損失の総和を上回る未来を手にするこ
 とができなければ、結果として将来は暗澹たるものになるであ
 ろう。          ――「鳥有亭日乗」のサイトより
―――――――――――――――――――――――――――――
 規制緩和を主張する人は、それによるバラ色の未来を語るが、
バラ色の未来だけでなく、それがもたらす可能性のある悪につい
ても述べる必要があるのです。それを「改革」という名の大義名
分のもとに強行し、現在の状況になっているのです。
 そして、何よりも重要なのは「郵政公社の民営化」です。小泉
元首相はすべてをかけたといってよい郵政民営化――その前途は
きわめて不透明です。昨日のEJで、このまま郵政の民営化に対
して何の手だても講じなければ、日本は世界最大の債権国である
のに、国内では長期金利も短期金利も上昇し、たちの悪い不況が
定着する――このように述べましたが、とくに長期金利が上がる
というのはとても気がかりなことです。この点についてはこの後
検討していきたいと考えています。
              ――[円高・内需拡大策/32]


≪画像および関連情報≫
 ●「規制緩和」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  規制緩和とは、経済学や公共政策などの文脈で、ある産業や
  事業に対する政府の規制を縮小することを指す。市場主導型
  の産業のあり方が望ましいと考えられる際にとられる基本的
  な政策手段のひとつで、市場競争を促進し経済活性化を果た
  すために採用されるが、導入による弊害の解決のため、セー
  フティーネットなどの構築が必要とされている。近年では単
  なる規制の撤廃・縮小だけではなく、全体的な制度改革を実
  行するとの意味合いから規制改革とも呼ばれる。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

小泉政権.jpg
小泉政権
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(1) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月19日

●「日本郵政は米国に出資せよ/竹中発言」(EJ第2475号)

 小泉・竹中政権がなぜあれほど「郵政民営化」にこだわったの
でしょうか。小泉元首相の昔からの政治目標であったとよくいわ
れていますが、本当にそうでしょうか。
 最近になって、その理由が少しずつ見えてきた感があります。
それは、2008年4月21日に、竹中平蔵氏の、あるテレビ番
組での発言がキッカケとなったのです。ただ、その番組がBS朝
日の番組だったので、一般にはあまり伝わっておらず、もっぱら
ネットの世界で話題騒然になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   − BS朝日/経済誌ダイヤモンド(電子版)−
   『民営化された日本郵政はアメリカに出資せよ』
                 ――竹中平蔵氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 単行本では、副島隆彦氏がこの発言を取り上げています。少し
長いですが、副島氏の本から引用します。竹中氏は、米国はサプ
プライム問題で今回打撃を受けたが、米国経済は長期的には強い
成長力を持っている。リセッションになるかも知れないが、あま
り心配していないといって次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は実は、日本のほうを心配しています。サブプライムの影響
 そのものは大きくない(引用者/副島氏註・どこが大きくない
 のだ)が、円高を通して輸出産業が影響を受ける。一方で改革
 が進まず内需が弱い。日本をよくすることは、サブプライムと
 は別に考えていく必要があります。そこで今回、「民営化され
 た日本郵政はアメリカに出資せよ」とぜひ申し上げたい。さき
 ほどキャピタル・クランチの話をしましたが、アメリカではこ
 こ半年くらい、俄然一つの問題が浮かび上がっているんです。
 アメリカの金融機関が資本を受け入れるときに、誰が出するか
 ということです。そこで、最近のキーワード、ソブリン・ウエ
 ルス・ファンド(SWF)があります。政府系ファンド、つま
 り、国が持っている基金です。アメリカの金融機関がSWFか
 らお金を受け入れるケースが増えていますが、一方で、他国政
 府から資金を受け入れてもよいのかという問題がある。ある国
 が政治的な意図をもってアメリカの金融機関を乗っ取ってしま
 ったら、アメリカ経済が影響を受けるのではという懸念も出て
 きています。翻って考えると、日本にはかつてとんでもなく巨
 大なSWFがありました。それが今の日本郵政なんです。資金
 量でいうと300兆円。他のSWFとは比べ物にならないほど
 のSWFがあったんです。民営化したので、今はSWFではな
 い。だからアメリカから見ると安心して受け入れられる、民間
 の資金なんです。アメリカに対しても貢献できるし、同時に日
 本郵政から見てもアメリカの金融機関に出資することで、いろ
 いろなノウハウを蓄積し、新たなビジネスへの基礎もできる。
                ――ダイヤモンドオンライン
 ――副島隆彦著『恐慌前夜/アメリカと心中する日本経済む』
                         祥伝社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中氏は、この番組でタレントの上田晋也と対談をしているの
ですが、サブプライム問題は次の3つの段階を経て、拡大をして
きているといっています。これはよく整理された説明であると思
うので、ご紹介しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.不動産市場の中の問題
    2.クレジット・クランチ――信用不安
    3.キャピタル・クランチ――資本不安
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の段階は、2007年2月頃のことで、住宅ローンが危な
いという話が出て、住宅ローンが簡単には付けられなくなったの
です。そうすると、不動産投資ができなくなる――したがって、
この段階は不動産市場の問題なのです。
 第2の段階は、2007年の夏頃のことですが、住宅ローンだ
けでなく、いろいろな金融商品に不安が広がって、金融機関が資
金不足に陥ったのです。これは「クレジット・クランチ」であっ
て、いろいろな措置が取られたのですが、十分ではなかったとい
えると思います。
 第2の段階は、現在の段階です。金融機関が不良債権を抱えて
損を出し、資本金が足りなくなります。つまり、自己資本が毀損
するわけです。これは「キャピタル・クランチ」です。現在、米
国は、キャピタル・クランチを起こさないよういろいな手を模索
しているのです。
 しかし、米国にはもはやお金がないのです。中東の産油国、中
国もお金を持っていますが、200兆円近いお金をポンと貸せる
ほど力はないのです。
 しかし、日本郵政がある――と竹中氏はいうのです。郵政公社
のときは、米国にお金は貸せませんが、民営化された日本郵政な
らば、貸すことはできるというのです。
 これに対して、副島隆彦氏は、次のように怒りを表明している
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 盗人たけだけしい、とはこのことだろう。竹中平蔵は大臣の権
 力を使って金融庁を手下に時価会計基準を振り回して日本の銀
 行や大企業(りそな、UFJ、ダイエー、ミサワホームなど)
 を叩き潰したり外資に乗っ取らせた張本人だ。(中略)竹中元
 大臣はアメリカの後ろ盾があるものだから、公職を離れたあと
 も未だにこんなにも居丈高である。郵貯・簡保の資金300兆
 円を、この期におよんでまだアメリカに貢げ、と言っている。
 盗人に追い銭を与えよというのだ。     ――副島隆彦著
                  『恐慌前夜』/祥伝社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
              ――[円高・内需拡大策/33]


≪画像および関連情報≫
 ●SWFとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ソブリン・ウエルス・ファンドは政府が出資する投資ファン
  ド、政府系ファンドともいう。石油や天然ガスによる収入、
  外貨準備高を原資とすることが多い。近年、世界的な資源価
  格急騰により資源供給国の割合が増えつつある。各国のSW
  Fは資源による収入が多く、資源を持たない国の場合は外貨
  準備や年金を運用しており、日本の場合後者にあたる。いわ
  ば元手は借金で運用に伴うリスクは国民にあるという構図が
  成り立つので、日本の財務省は基本的に反対の立場をとって
  いる。               ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

上田晋也/竹中平蔵.jpg

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2008年12月22日

●「世界はゼロ金利ラッシュである」(EJ第2476号)

 世界同時不況が一段と深刻の度を増しています。米国がゼロ金
利を即断し、量的緩和にも乗り出すことを表明しています。バー
ナンキFRB議長といえば、かつてゼロ金利をとっている日銀を
馬鹿にして、次のようにいっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ・日銀の審議員のなかで耳を傾けるのに値するのはたった一人
  だけで、他はひどいものだ。
 ・日銀はトマトケチャップでも買え!――そうすれば、景気は
  良くなる。          ――バーナンキFRB議長
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのバーナンキFRB議長がゼロ金利と量的緩和に踏み切った
のですから、米国の現況がいかに厳しいものであるかが理解でき
ると思います。バーナンキ議長は、米連邦公開市場委員会――F
OMCにおいて、「全手段を動員する」と明言したのです。
 ゼロ金利政策と量的緩和政策は、既に日本が2001年から5
年間にわたって行っているので、日本が経験を持っていますが、
その効果については賛否両論があります。
 当時の速水優日銀総裁は、1999年2月からゼロ金利政策を
行い、2000年8月に解除しています。しかし、米国のITバ
ブルが崩壊し、国内景気が悪化したことによって、2001年3
月から、世界に前例のない量的緩和政策を導入したのです。
 この当時の日銀が実施した量的緩和政策について、2008年
12月18日付の日本経済新聞は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (日銀の実施した量的緩和政策の)最大の特徴は、金融政策の
 運営目標を従来の金利から「資金量」に転換した点にある。民
 間銀行が決済のため日銀に開設している「当座預金口座」につ
 いて残高目標を設け、目標額に達するまでお金を大量供給し続
 ける。お金は、銀行がもつ国債などを日銀が買い取る形で供給
 した。量的緩和の開始時に5兆円だった残高目標は段階的に引
 き上げられ、最大35兆円となった。当座預金口座には金利が
 付かないので、銀行は利益を生まない大量の資金を手にしたこ
 とになる。――2008年12月18日付、日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀の当座預金というのは、民間金融機関が日銀内に開設して
いる預金口座のことです。この口座は、日銀と民間金融機関の取
引で使われるのです。
 もちろん日銀は無担保では民間銀行に資金を供給できないので
銀行の持つ国債などを買い取って、当座預金残高を積み上げたの
です。この資金には利息は付かないので、銀行はそのジャブジャ
ブある資金を企業に貸し出すはずという狙いがあったのです。
 しかし、企業の貸し出しは一向に増えなかったのです。なぜで
しょうか。
 それは日本がバランスシート不況に陥っていたからである――
そのため企業からの資金需要はなかったのです。このように、リ
チャード・クー氏がその原因を解明していることは既に述べた通
りですが、このリチャード・クー氏の理論を積極的に受け入れる
経済の専門家は少ないようです。
 それでは、民間銀行はどうしたのでしょうか。民間銀行はその
お金でわずかでも利息の付く国債を中心に運用したのです。もと
もと銀行の保有する国債を日銀が買い上げて、積み上げられた資
金で再び国債を買う――実に変な話です。
 バーナンキFRB議長は日本のケースもよく調べており、今回
の量的緩和政策については、銀行経由ではなく、直接市場へ資金
を供給することを表明しています。具体的には、企業が発行する
コマーシャル・ペーパー(CP)をFRBが買い切ることです。
正確にはこれを「CPの買い切り」というのですが、その意味に
ついては24日のEJで説明します。
 ところで、CPとは何でしょうか。
 CPとは、ある程度の信用力を有する大企業がオープン市場か
ら短期資金を調達するために発行する無担保の割引約束手形のこ
とです。確かにこれをやれば、資金繰り難に陥っている優良企業
には、FRBが直接資金を供給することができます。
 さらにFRBでは、CPだけでなく、FRBが市場から買い取
れる資産の対象を拡大し、量についても増やすといっているので
す。なにしろバーナンキ議長は「全手段を動員する」と明言して
いるので、やれることは何でもやると思います。
 しかし、この「CPの買い切り」について、欧州中央銀行――
ECBは、定款上問題があるとして難色を示しています。それで
は、公的資金による銀行の不良債権の買い取りはどうかというと
財布を握る各国間で調整がつかない状態です。それでは最後の手
段としての財政出動についてはドイツが反対を表明していて、何
もできない状態であるといわれています。
 それでは、その間日本は何をしていたのでしょうか。
 金融関係者がその必要性を説く「CPの買い切り」について日
銀関係者は、次のようにいっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    米欧に比べると、日本の銀行は健全である
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、信用逼迫の波は大きく日本を襲ってきたのです。そし
て、ゼロ金利や量的緩和に回帰すべきかどうか、あれこれ検討し
ているうちにスイスやFRBに先行されてしまったのです。
 12月11日にスイス国立銀行は、「世界経済は激しく悪化し
ている。スイスも来年はマイナス成長になる」として事実上のゼ
ロ金利で先陣を切っています。これに追随したのは米FRB――
16日のことです。
 そして19日、日銀は0.3 %の金利を0.1 %に下げ、CP
の買い切りについても実施すると発表しています。これは日本に
とって異例の措置といえます。しかし、米国の動きをみて追随し
たと考えざるを得ないのです。――[円高・内需拡大策/34]


≪画像および関連情報≫
 ●CPとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  コマーシャルペーパー/CPとは、企業が資金調達を行うた
  めに発行される短期の約束手形。コマーシャルペーパーは、
  「CP」という略称で呼ばれることが多い。無担保の割引方
  式(金利分を額面から割り引いて販売する形)で発行される
  短期の約束手形であり、発行体は優良企業に限られる。また
  金融機関、証券会社などが発行を引き受け、販売先は機関投
  資家に限定される。   ――オール・アバウト「マネー」
  ―――――――――――――――――――――――――――

白川日銀総裁.jpg
白川日銀総裁
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2008年12月24日

●「CP買い切りの背景を探る」(EJ第2477号)

 「CPの買い切り」について白川日銀総裁は、次のように述べ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 異例中の異例。経済、金融が厳しいがゆえの措置だ。財務の健
 全性や通貨の信認を確保するために十分配慮しなければならな
 いが、今の経済にどう貢献できるか真剣に考えた結果である。
                     ――白川日銀総裁
―――――――――――――――――――――――――――――
 今まで日銀がCPを買い入れるときは、金融機関を通じて「売
り戻し条件付き」で買い入れていたのです。しかし、このような
CPの買い入れ方式では、もし、CPを買い入れた企業が倒産し
てしまうと、金融機関は損をかぶってしまうので、CPを引き受
けなくなるのです。事実、金融危機で市場ではCPの買い手が減
り、十分発行できない状況が続いているのです。
 しかし、今回、白川日銀総裁は「日銀は売り戻し条件を付けず
に買い切る」と言明したのです。日銀が売り戻し条件を付けずに
買い切れば、金融機関は回収不能を心配せずにCPを購入でき、
企業に資金が行き渡ることが期待されるのです。そしてその分だ
け銀行は資金を中小企業向けの融資に回せる――このように日銀
は考えたものと思われます。これは結果として日銀が企業に対し
てダイレクトに資金を供給したことと同じ効果になるのです。こ
れが「CPの買い切り」です。
 CPの買い切りについては、米FRBのバーナンキ議長が先に
表明しており、何となく日銀の発表は米国の後追いのような感じ
が否めないのですが、実際はどうなのでしょうか。
 日銀の政策は、政策委員会・金融政策決定会合が担っており、
政府などの干渉を一切受けない独自のもののはずです。しかし、
今回の日銀の決定の裏側を探ってみると、そこに与謝野経済財政
担当相の影が見え隠れするのです。毎日. JPの次の記事を見て
いただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中川昭一財務・金融担当相は16日の閣議後会見で「日銀の独
 立性は承知している」としつつも「(景気悪化を)回避するの
 も日銀の重要な責務」と強調。「経済状況や流動性の問題で、
 あるべき結論を出していただけると期待している」と、日銀の
 一段の金融面での対応を促した。与謝野馨経済財政担当相も同
 日の会見で、麻生太郎首相が12日の「生活防衛のための緊急
 対策」の発表時に日銀の流動性供給策強化への期待感を示した
 ことをあげて、「政府が節度を保ちながら、中央銀行に一定の
 メッセージを送ったもの」と指摘。企業が短期の資金調達のた
 めに発行するコマーシャルペーパー(CP)を買い取る措置な
 ど日銀が一段の景気安定化策に踏み切ることに期待を示した。
              ――毎日. JP(毎日新聞)より
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府は、与謝野経財相が中心となり、CPについては、日本政
策投資銀行による買い取り策を打ち出しており、日銀に同調を促
していたのです。そのさい、FRBも同様のことをやるとの情報
が入っていると日銀に伝えているのです。
 しかし、日銀内部では、CP買い切りには企業の破綻リスクを
負うことになるので、頑強な反対意見があったようですが、百年
に一度の危機であること、それにFRBが先行したことによって
日銀は苦渋の決断をしたものと思われます。
 心配なのは、企業倒産が相次ぎ日銀が損失を被ることです。な
ぜなら、国内で唯一紙幣を印刷できる日銀の財務内容が悪くなれ
ば、紙幣の信用を損なう恐れがあるからです。
 歴史を振り返っても、主要国の中央銀行で民間企業の信用リス
クを抱え込んだのは、2003年に企業の資産担保コマーシャル
ペーパー(ABCP)などの買い切りに踏み切った日銀と、今回
の金融危機で大量の民間資産の買い取りをはじめた米FRBの2
つだけなのです。まさに、これは中央銀行の禁じ手なのです。
 12月21日の「サンデープロジェクト」に与謝野経財相が出
演して、今回の日銀の利下げと量的緩和策について面白いことを
いっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀はかつては貴公子だったけれど、これらは野武士のように
 やって行くということのあらわれである。 ――与謝野経財相
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、現在時点の主要国の「政策金利」は次のようになってい
ます。「政策金利」というのは、中央銀行がコントロールできる
唯一の金利で、市場の金利を実体経済に合った水準に誘導するた
めに決める基準金利のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     日本 ・・・・・・・    0.1 %
     米国 ・・・・・・・ 0〜0.25 %
     ユーロ圏 ・・・・・    2.5 %
     英国 ・・・・・・・    2.0 %
     スイス ・・・・・・  0〜1.0 %
     オーストラリア ・・   4.25 %
―――――――――――――――――――――――――――――
 0.1 %の政策金利では、追加利下げの余地はもうほとんどな
いのです。それにゼロ金利だけでは景気刺激効果としてはほとん
どないことを当の白川日銀総裁も認めているのです。
 そうなると、残るのは量的緩和策のみですが、それも今までや
ったようなやり方では機能しないので、今回発表しているような
リスクの多いCPの買い切りのようなことを思い切ってやる必要
が出てきているのです。
 FRBは、CPの買い切りのほか長期国債、住宅ローン債権な
どの買い切りも行い、資産取引を通じて流動性供給を行う手段が
あるとしています。日銀もFRBと同じ道を歩まざるを得ないで
しょう。          ――[円高・内需拡大策/35]


≪画像および関連情報≫
 ●「公定歩合」と「政策金利」の違い/日本銀行HPより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本銀行が金融機関に直接資金を貸し出す時の基準金利のこ
  とを「公定歩合」と言います。「公定歩合」は、規制金利時
  代には、預金金利などの各種の金利が「公定歩合」に直接的
  に連動していたため、金融政策の基本的なスタンスを示す代
  表的な政策金利でした。しかし、1994年に金利自由化が
  完了し、「公定歩合」と預金金利との直接的な連動性はなく
  なりました。現在は、こうした連動関係に代わって各種の金
  利は金融市場における裁定行動によって決まっており、「公
  定歩合」は、2001年に導入された補完貸付制度の適用金
  利として、日本銀行の金融市場調節における操作目標である
  無担保コールレート(オーバーナイト物)の上限を画する役
  割を担うようになっています。現在の日本銀行の政策金利は
  無担保コールレート(オーバーナイト物)であり、「公定歩
  合」には政策金利としての意味合いはありません。
  −――――――――――――――――――――――――――

与謝野と白川の連携.jpg
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2008年12月25日

●「投資銀行消滅が米国民にもたらすもの」(EJ第2478号)

 夕刊「フジ」に「風雲永田町」というコラムがあります。政治
評論家鈴木棟一氏の人気コラムです。2008年12月23日付
(22日の夕刊)に「ゼロ金利、日米で正反対」というテーマの
コラムが掲載されたのです。内容が今回のテーマとも関係がある
ので、ご紹介することにします。
 今回の金融危機に対応して米FRBはゼロ金利政策をはじめま
したが、日本人の多くは、むかし日本がやったことをFRBでも
やっている――そういう反応です。しかし、これは日米で事情が
ぜんぜん違うというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 クレジット・カードの機能が全く違う。10万円の服を買った
 ら、日本では翌月か翌々月に口座から自動引き落としされる。
 しかし米国では自動引き落としが圧倒的にない。預金者が銀行
 を信用しないから自動引き落としを認めない。支払いは自分で
 確認して、自らの個人小切手を送る。
    ――12月23日付「夕刊フジ」/「風雲永田町」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、こういうことです。クレジットカード会社の信用でも
のを買い、個人小切手で支払うという構図です。銀行では仕事さ
えもっていれば、クレジットカードを発行してくれるし、各種ロ
ーン――住宅ローンも含めて――も受けられるのです。
 米国では、高校生からほとんど例外なく全員が小切手帳を持っ
ているそうです。小切手で決済するのは米国における普通の決済
方法なのです。
 しかし、自動引き落としではなく、小切手で決済してもいいで
はないかと考えますが、買い物金額の全額を支払うのではなく、
ミニマムしか支払わないことが慣例化しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 10万円の買い物なら支払いは5000円ぐらいでいい。これ
 が慣例化している。米国人は常にこの種の借金がある。(一部
 略)年収の3倍は借金がある感覚だ。それが米国の消費を支え
 てきた。      ――「夕刊フジ」/「風雲永田町」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 そうであるとすると、FRBがゼロ金利政策をとったことの意
味は日米で大きく異なってきます。問題は、ゼロ金利で誰がトク
をし、誰がソンをするかです。
 米国ではクレジットカードを持っている米国民が助かる――し
たがって、これは徳政令なのです。つまり、FRBは何とかして
米国民の消費マインドを冷やさないようにして国民の負担軽減を
狙ったのです。といっても無理であると思いますが・・・。
 しかし、日本の場合はどうでしょうか。
 日本には国民の金融資産が1500兆円もある貯金国家です。
したがって、ゼロ金利政策をやられると、預金金利はゼロに近く
なり、国民は多大の損失を受けるのです。一方でトクするのは銀
行であり、それは銀行に対する徳政令となるのです。これはまさ
に暴挙そのもの――そのように鈴木棟一氏はいうのです。
 もし、日本のような状況のもとでゼロ金利政策をやったら、米
国では間違いなく暴動が起こるでしょう。しかし、日本ではそう
いうことはまず起こらない。それはコトの本質がよくわかってい
ないからです。鈴木棟一氏はコラムの最後を次の言葉で結んでい
ます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    民主国家と大企業国家の差がはっきり見える
      ――「夕刊フジ」/「風雲永田町」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、巨額の経常赤字を出しながらも、消費を落とすことなく
やってこれたのは、実は米国が投資銀行王国であったからなので
す。しかし、2008年9月の時点で事実上、米国のすべての投
資銀行(5行)が消滅してしまっています。
 そうなると、それは米国へのマネーの流入を止め、家計は逼迫
し、米国民は今までのような生活をすることは困難になる可能性
があるのです。このように主張しているのは三菱UFJ証券チー
フエコノミストの水野和夫氏です。
 2007年6月までは、米投資銀行は、外国人(出資者)から
毎月910億ドルの資金を集め、そのうち月間経費として615
億ドルを――米経常赤字額に相当――消費していたのです。この
金額は、3億人の米国人が高い生活水準を享受するために、日本
をはじめとする諸外国から、自動車や石油などの購入額――輸出
控除後のネットの輸入額――これに相当するのが経常赤字という
ことになるのです。
 米投資銀行帝国(米国)は、外国人の出資額である910億ド
ルから経費である615億ドルを差し引いた295億ドルを対外
投資し、それから莫大な配当・利息収入をあげていたのです。
 この対外投資から受け取る配当・利息から対外支払利息・配当
を差し引いたものが「投資収益収支」です。1998年以後、対
外純債務の増大テンポが加速していったにもかかわらず、投資収
益収支の黒字幅は拡大したのです。
 1973年〜1998年までの投資収益収支は、年平均219
億ドルの黒字であったものが、それ以後急増し、2008年1月
〜6月(年率換算)では1211億ドルに達していたのです。つ
まり、対外負債コストの増加を相殺して余りある、対外投資から
得られる配当・利息の増大があったのです。
 1999年以降、米国の対外純債務が対GDP比で悪化してい
くなかで、投資収益収支を黒字にさせる機能を担ったのが、5つ
の投資銀行だったのです。しかし、米国にとってこの貴重な投資
銀行がサププライムショックによって破綻してしまったのです。
 投資銀行の破綻は、必然的に米家計に過剰債務の調整を迫るこ
とになります。外国から潤沢なマネーが流入してこなければ、月
間615億ドルもの経常赤字をを出すことなど、とても不可能で
あるからです。       ――[円高・内需拡大策/36]


≪画像および関連情報≫
 ●「経常収支」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  国際,つまり国境を越える外から内への受取の流れと,内か
  ら外への支払いの流れの対照。国際収支を一定期間について
  記録したものが国際収支表である。商品とサービスの輸出入
  を経常取引といい,その経常勘定に記入する。経常収支は,
  貿易収支,貿易外収支,移動収支の3つから成る。資本の取
  引を資本取引といい,資本勘定に記録される。資本収支は短
  期資本収支と長期資本収支とに分れる。経常収支と資本収支
  の合計が総合収支で,この総合収支のギャップを均衡させる
  役割を果すものとして金融勘定がある。
 ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/「週刊エコノミスト」2008.12.2日号

米投資収益収支と対外純資産の対GD比.jpg

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2008年12月26日

●「巨額のドル買い介入の真の目的」(EJ第2479号)

 「あまりにも脆い!」――日本企業で“最強”を誇るトヨタ自
動車が戦後初の営業赤字に転落するというニュースを聞いたとき
の率直な感想です。
 「円高が1円進むとトヨタ自動車の営業利益は年350億円減
少する」とよくいわれます。トヨタ自動車の2007年3月期の
営業利益は連結ベースで次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     トヨタの営業利益/2兆2386億円
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年7月に比べると、2008年3月までには実に22
円の円高が進んでいるのです。そうすると、1円で350億円で
あるから、22円なら7700億円――2兆2386億円の営業
利益の34%減少したことになります。
 ところで、同じ時期のトヨタ自動車の株価はどうかというと、
7780円から5200円まで下落しています。その下落率33
%、奇しくも営業利益の減少と同じ率であることがわかります。
これによって、次のことがいえるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         為替レートが株価を決める
―――――――――――――――――――――――――――――
 添付ファイルは、「2006年1月=1」として、為替レート
と株価の連動を見たものですが、株価上昇は明らかに為替レート
と相関していることがわかります。
 それは、欧米諸国がこの10月初めに緊急利下げを行い、日本
との金利差が縮小、もしくは逆転したことが原因です。当面イン
フレ懸念が遠のいているので、近い将来利下げはなく、今後円安
方向に動く可能性は少ないと考えられます。
 既に述べたように、日本の金利が海外に比べて低いことが原因
となって、投機が投機を生むような円キャリー取引が流行するこ
とになったのです。それは長期にわたって日本がゼロ金利と量的
緩和を続けたことにあります。
 これについては、日本の政策当局も認めており、日本銀行は、
2008年1月に発表した「金融市場レポート――2007年後
半の動き」において、次の趣旨のことを書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本と海外の短期金利差と円レートの変化率とのあいだには、
 07年前半には正の相関があった。これは、円キャリーが円安
 の原因になっていたことを示唆する。しかし、07年後半には
 相関がマイナスに転じた。これは、巻き戻しが生じたことを示
 す。このため、円が増価する一方で、ニュージーランド・ドル
 や豪ドルが減価した。11〜12月には、円とスイスフランが
 増価する一方で、豪ドル、英ポンド、加ドルが減価した。日本
 の個人投資家による投資信託を通じる対外証券投資は続いてい
 るが、増加率は大きく低下した。FX取引も8月以降半減し、
 円高に寄与した。            ――野口悠紀雄著
 『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』/ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この原稿を書いている12月23日の円相場は、対ドル89円
83銭〜86銭になっています。これをもって私たちは、異常な
「円高」が続いていると考えますが、もともと100円〜110
円というのは「円安バブル」であり、それがサブプライムショッ
クを契機に、それまで歪んでいた為替レートが正常な水準に戻り
つつあるプロセス――円安バブルのはじまりと考えるべきである
と野口悠紀雄氏はいうのです。
 少し歴史を振り返ってみましょう。1971年のニクソンショ
ック、さらに1985年のプラザ合意――それ以降何かというと
大きく円高に振れてきており、1990年代の後半までは、日本
人の投資家は円高に過敏に反応したのです。
 しかし、2000年代に入ると、円高に対してあまり騒がなく
なります。なぜかというと、円高になると、必ずといってよいほ
ど、当局が市場に介入して円安に戻すようになったからです。と
くに、2003年〜2004年にかけては、大量のドル買い介入
を行い、強引に円安を維持したのです。
 なかでも2003年1月〜3月は、実に17営業日にわたり介
入を続け、その総額は2兆4000億円のドルを買い上げている
のです。さらに、同年4月〜6月の介入額は、再び巨額のドル買
い介入を行い、その総額は1月〜3月の倍に当たる4兆6000
億円を超えたのです。この2003年4月は、大手銀行の破綻を
示唆した竹中発言によって、日経平均株価が8000円を下回っ
たあの時期に当たるのです。ちょうどそのとき、こういう異常な
ドル買い介入が行われていたのです。
 当時米国はITバブルの崩壊と、9.11 のテロ以降、デフレ
の兆しが出ており、海外からの資本の流入が激減している苦しい
時期だったのです。ところで、当局は2003年5月8日、円相
場が1ドル120円〜115円に向かうところで大量の介入をし
ているのですが、これにはわけがあるのです。
 この5月8日は、米財務省が四半期に一度ずつ実施している米
国債の定例入札の当日だったのです。これについて、榊原英資氏
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 入札の直後からドル安が進み、債券が投げ売りされるようなこ
 とになれば、米国の長期金利は急上昇しかねない。デフレを懸
 念するFRBが短期金利を低めに誘導しても、長期金利が上昇
 したのでは逆効果である。海外からの資本流入に頼る米国のア
 キレス腱はここにあった。その矛盾を埋めたのが日本による介
 入資金だったのだ。円売り・ドル買い介入の役目は円高の防止
 にだけあるのではない。介入の結果、積み上がった日本の外貨
 準備は、米政府証券の購入に充てられていたのである。
  ――榊原英資著、『強い円は日本の国益』/東洋経済新報社
――――――――――――――――[円高・内需拡大策/37]


≪画像および関連情報≫
 ●トヨタ自動車はなぜ営業赤字に転落したか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  トヨタが初の営業赤字に転落した最大の要因は、金融危機に
  伴う世界市場の急激な冷え込みにある。欧米や日本のみなら
  ず、好調だった中国など新興国でも販売台数の伸びは減速に
  転じ「すべての国、地域で日を追って変わっていて底が見え
  ない」(渡辺社長)状態。「トヨタ・ショック」と呼ばれた
  11月6日の販売見通し下方修正から1カ月半で、昨年1年
  間の富士重工業の販売台数を上回る70万台が消えた計算に
  なる。
  http://mainichi.jp/select/biz/news/20081223ddm003020073000c.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/「為替レートと株価の連動」
  野口悠紀雄著/『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』/
  ダイヤモンド社刊
為替レートと株価の連動.jpg
為替レートと株価の連動
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2008年12月29日

●「テイラー財務次官と溝口財務官の連携」(EJ第2480号)

 2003年〜2004年にかけての日本による円高阻止のため
の大量介入――円を売ってドルを買うのですが、そうして取得し
たドルで米国債を購入するのです。当時の米国はドル安になって
いたので、米国にとっては二重のメリットがあったのです。
 この介入は、2003年5月から始まり、2004年3月17
日まで続くのです。その介入総額は実に35兆円にも達したので
す。1995年に1ドル80円を突破した円高のとき、当時の榊
原英資財務官が介入を行いましたが、1995年の一年間で6兆
円を下回る程度であることを知ると、約11ヶ月で35兆円とい
う介入額がいかに異常であったかがわかると思います。
 この異常な円高介入を行ったときの日米の財務官は、次の2人
であったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  溝口善兵衛財務官 VS ジョン・テイラー財務次官
―――――――――――――――――――――――――――――
 同じ財務官でも榊原英資氏といえば「ミスターエン」として有
名ですが、溝口善兵衛氏が「ミスタードル」といわれていること
を知る人は少ないでしょう。しかし、彼は史上例を見ないほど巨
額の円高介入をやった財務官なのです。
 溝口財務官のカウンターパートがジョン・テイラー米財務次官
です。溝口財務官とテイラー財務次官――2人の間にはいろいろ
なやりとりがあったのです。
 このテイラー財務次官――ただの官僚ではなく、「テイラー・
ルール」なる理論で知られる実務のわかる経済学者なのです。彼
は、生粋のマネタリストです。マネタリストというのは、経済活
動において貨幣の重要性を強調する経済学者のことです。
 マネタリストの集団を「マネタリズム」というのですが、マネ
タリズムは、アメリカの経済学者であるM・フリードマンを統帥
者として現在では多くの支持者を得つつあることはこれまでに述
べた通りです。
 テイラー財務次官は、日本の「失われた10年」のデフレ脱却
策に対する日銀のやり方に疑問を持っていて、いろいろなアドバ
イスをしているのです。
 この模様は、テイラー氏の回顧録に非常に詳しく書かれていま
す。この回顧録は2007年に日本版が発刊されていますので、
ご紹介しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
            ジョン・B・テイラー著/中谷和男訳
 『テロマネーを封鎖せよ/米国の国際金融戦略の内幕を描く』
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この本の原題は「グローバル金融の戦士たち」といい、本の内
容はこちらの方が合っていると思います。テイラー氏はこの本の
中で、日本のデフレ脱却策として日銀にアドバイスし、次の2つ
の政策が行われたことを明らかにしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.量的緩和政策実施
          2.大規模な為替介入
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融政策というのは、ほとんどは金利――短期金利を目標にし
て行われるのです。中央銀行が短期金利を上げたり、下げたりし
て金融政策を行うのです。したがって、この金利のことを政策金
利といっています。
 しかし、ときにはマネーサプライを目標して行われることがあ
るのです。例えば、1970年の終わりから1980年のはじめ
にかけて、FRBが行ったインフレ撲滅策がそれです。
 インフレを撲滅させるには、マネーサプライの伸びを抑制して
金利を上げるのです。そうすればインフレ率は低下します。デフ
レの場合は理論上はその逆になります。マネーサプライの伸びを
促進し、金利を下げるのです。これが量的緩和政策です。
 しかし、インフレ撲滅策としての実施例はあるのですが、デフ
レのケースはそれまで行われたことはないのです。それにインフ
レ抑制の場合と違い、金利がゼロ以下にならない制約があるため
効果発揮への期待が疑問視されていたのです。
 そういうこともあって、テイラー財務次官としては日銀にそれ
を実施させ、日本のデフレを何とか克服させたかったものと思わ
れるのです。しかし、日銀内部には量的緩和政策に反対する者も
多くいて、その実施が中途半端になってしまったのです。
 それに対して、テイラー財務次官の打ち出したもうひとつの政
策である「大規模な為替介入」については、ほぼテイラー氏の考
えた通りに実施されたのです。それは溝口財務官がテイラー次官
と綿密な打ち合わせのもとに為替の介入を行ったからです。何し
ろ、溝口財務官は、介入の規模やタイミング、出口政策にいたる
まで、テイラー次官のアドバイスを受けており、溝口財務官の方
も電子メールを使って細かな報告をテイラー次官に上げていたと
いうのです。そういう意味では、まさに主権在米経済そのもので
あったといえます。
 テイラーのアドバイスのもとに溝口財務官の行ったドル買い円
売り介入は、「非不胎化介入」といわれるものなのです。普通は
為替介入が行われて円が市場に放出されると、その都度日銀は同
額の売りオペを行って円資金を市場から吸収してしまうのです。
これを「不胎化介入」というのです。
 「非不胎化介入」の狙いは、市場に放出した金をそのままにし
ておくことによって、マネーサプライが増加し、デフレ脱却に効
果をもたらす金融政策なのです。
 しかし、このような巨大な為替介入をいつまでも続けることは
できず、2004年に入ると日米ともに出口戦略を模索しはじめ
るのです。そして、3月5日に日本は112億ドルの巨額介入を
行って以来現在まで、日本の為替介入はまったく行われていない
のです。     ―――――――[円高・内需拡大策/38]


≪画像および関連情報≫
 ●「売りオペ」と「買いオペ」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日銀が保有する公債その他の証券や手形類を一般市場で売却
  して市中の通貨の回収を図る操作。金利上昇の効果を持つ中
  央銀行が保有する公債その他証券や手形類を一般市場(市中
  銀行)で売却して通貨の回収を図る操作。金利上昇の効果を
  もつことから、金融を引き締めるときに行う。これに対して
  日銀が市中銀行から債券を買い入れて資金を放出し、金融緩
  和などの通貨調整をすることを買いオペという。
  ―――――――――――――――――――――――――――

溝口善兵衛氏.jpg
溝口善兵衛氏
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2008年12月30日

●「2007年夏まで円安であった理由」(EJ第2481号)

 テイラー対溝口の連携による巨額の為替介入――それでも日本
はデフレから脱却できていないのです。それはおそらく日銀によ
る量的緩和政策が中途半端なものに終わったことが原因ではない
かと思います。何事もそうですが、迷いながらやったことは結果
が良くないのです。
 というのは、日銀派エコノミストといわれる小宮隆太郎氏など
が、次の理由でテイラーの理論を疑問視していたからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本のデフレは構造的なものであって金融的なものではなく、
 したがって、金融政策でカタのつく代物ではない
                  ――日銀派エコノミスト
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、こういう日銀派の主張は、間違っていたのではないか
と思われます。それは、テイラーの回顧録を読めば日本の「失わ
れた10年」が金融的なものであることがわかるからです。
 かつての昭和恐慌期において、高橋是清蔵相は金本位制離脱後
に超金融緩和政策をとって、日本を長期不況から脱却させている
のです。日銀は歴史に学ばないのでしょうか。
 ここで考えてみるべきことがあります。2004年3月16日
から現在まで、日本は為替介入をやっていないのです。しかし、
それにもかかわらず、2007年夏まで円安だったのです。その
謎を解明する必要があります。
 円高になったとき、円を売ってドルを買い入れれば、円は安く
なります。しかし、一定の期間を経過すると、当然レートの反転
が起こります。溝口財務官はこの反転を恐れ、巨額の介入を行う
ことによって、日本の介入警戒感を持続させて反転を防ごうとし
たのですが、短期的にはともかく、あまり効果を上げていないの
です。しかし、米国としては助かったはずです。米国は、日本に
もっと感謝すべきです。
 ゼロ金利の継続と介入警戒感の組み合わせは、本来の目的とは
異なり、民間の外債投資に火をつけたのです。それは、数字でみ
るとはっきりしています。2004年の外債買越額高の17兆円
が、2005年には22兆円になっているからです。
 日本はゼロ金利が継続されており、日本の債権の金利は非常に
低く、日本で資金を調達し、高利の外債に投資することはきわめ
て魅力的な投資なのです。しかし、円安で資金を調達して高利の
外債で資金を運用しても、それを円に戻すときレートが反転する
と元の木阿弥になります。
 ところが、溝口財務官の巨額介入の印象は強く、日本はもし急
速な円高になると、必ず介入をして円安に誘導してくれることを
期待したからこそ、外債投資――円キャリートレードが活性化し
たといえるのです。
 しかし、2006年にゼロ金利が解除されると、さすがに生保
会社や銀行は外債の売り越しに転じたのです。ちょうどそのとき
FRBが政策金利の引き上げに向かっていたのですが、こういう
場合、為替ヘッジのコストが上昇してしまうのです。
 為替ヘッジというのは、為替の動きが本来の値段に影響を与え
ないようにする手段のことです。為替ヘッジをするには、相当の
コストがかかりますが、これをヘッジコストといいます。仮に、
ヘッジコストを5%とすると、ドル建てで商品が20%値上がり
すると、その間の為替の動きにかかわらず「20−5=15%」
の利益になる計算となります。値動きがなかった場合はヘッジコ
スト分5%がファンドの価額の値下がりになります。
 為替ヘッジがないと、いうまでもないことですが、為替変動の
影響を受けることになります。ドル建てで商品が20%値上がり
しても、その間に30%の円高になれば、円換算ではマイナスに
なってしまいます。逆に30%のドル高に動けば円換算で50%
以上のプラスになるのです。
 こういう状況を救ったのが個人投資家だったのです。毎月分配
型の投資信託が大きく伸びており、個人投資家が外債投資に傾斜
して行った様子が読み取れます。個人投資家の場合、円を外債に
転換して、ヘッジなしで外債を買うケースがほとんどなのです。
 為替ヘッジをする金融機関と個人投資家の違いについて、榊原
英資氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 銀行や生保は、外債を買う場合、外で資金を調達したり、為替
 をヘッジしたりすることが多いので、外債を大きく買い越した
 時もあまり大きな円安要因にはなりません。また、逆に売り越
 した時もレートを円高に強く振ることもないのです。しかし、
 個人投資家の場合、円を外貨に転換して、しかも、ヘッジなし
 で外債を写っケースがほとんどなので、外債買い越しは円安に
 直結します。
  ――榊原英資著、『強い円は日本の国益』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 2006年に日本全体の外債買い越し額が前年の22兆円から
7兆3000億円に急減しているにもかかわらず、為替レートが
円安に振れたのは、個人投資家のマネーの流出が加速していたか
らなのです。また、個人投資家は外債投資の主役になっただけで
はなく、外国株の取得も活発に行ったのです。個人投資家の外国
株買い越し額は、2005年に2兆1000億円、2006年は
3兆5000億円にまで拡大しています。
 この状況は、2007年の夏まで続いたのです。2007年7
月時点の円・ドルレートは「1ドル=120円」だったのです。
しかし、8月に入ると、サブプライム問題が表面化し、円・ドル
レートは円高に向かっていったのです。
 円・ドルレートが「1ドル=100円」を切る現在でも、個人
投資家の外国証券への投資意欲は高く、個人のドル買いは大量に
入っているのです。現時点で円高はどこまで進むのか予測が困難
ですが、実質実効為替レートで見ると、まだまだ円安であるので
さらに進むと考えられます。―――[円高・内需拡大策/39]


≪画像および関連情報≫
 ●「実質実効為替レート」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の主要な貿易相手国の通貨に対する円の総合的価値を示
  す指標である。為替が変動相場制に移行した後の73年3月
  を100とし、数値が大きくなれば「円高」を、数値が小さ
  くなれば、「円安」を示す。米ドルやユーロ、中国・人民元
  など主要15通貨に対する為替レートを貿易額に応じて加重
  平均し、物価上昇率も加味して算出されるため、円・ドルな
  ど単純な2国間通貨の相場よりも円の実力を正確に反映して
  いるとされる。特に日本の輸出割合が対米国で下がる一方、
  対中国などで大きく上昇した03年以降は、円の実勢価値を
  表す指標として注目されている。
     ――   毎日新聞 2008年3月5日 東京朝刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョン・テイラー回顧録.jpg
ジョン・テイラー回顧録
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2008年12月31日

●「間違ったデフレ政策による円安バブル」(EJ第2482号)

 今日は2008年の大晦日です。今まで大晦日までEJを書い
たことはありません。しかし、今年はやります。これで、EJの
お休みは土日祝日のほか正月の3日間のみとなります。新聞には
休刊日がありますが、EJには休みはないのです。
 今から考えると、間違いのすべては、2002年の秋からはじ
まっているのです。2002年の秋とは何でしょうか。繰り返し
になりますが、2002年9月から小泉政権で竹中平蔵氏が経済
財政政策担当に任命されていることです。日本はこのときから、
日本らしさというものが失われていくことになります。
 その当時日本経済はデフレの状態にあったのです。竹中経財相
はデフレ脱却のために日銀の協力を強く求めます。そして竹中経
財相を擁する小泉政権は「デフレ脱却」を目指して強引な円安誘
導政策を実施したのです。それは、日本のためではなく、米国の
要望に沿ったとしか思えないのです。そして、この政策が円安バ
ブルを生み出したのです。2002年の秋に当時の小泉首相と竹
中経財相は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 首相の小泉純一郎は2002年10月18日、臨時国会の所信
 表明演説で『デフレ克服に向け、政府・日本銀行は一体となっ
 て総合的に取り組みます』と述べた。その少し前の同年10月
 11日、経済財政諮問会議では金融・経済財政担当相をつとめ
 る竹中平蔵がこう話している。『デフレ克服に向け、政府・日
 銀は一体となって、強力かつ総合的な取り組みを実施しなけれ
 ばならない』。
  ――榊原英資著、『強い円は日本の国益』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 2002年10月というと、マクロ面ではありますが、日本経
済は景気回復の局面に入っていたのです。その証拠に2003年
の実質GDP成長率は1.4 %、2004年には2.7 %にまで
達しているのです。
 そういう戦後最長の景気が続く中で、日銀は政府の圧力に負け
て2006年までゼロ金利を続けたのですが、これは今考えると
信じ難いことであるといえます。
 榊原氏によると、この時点でのデフレは、必ずしも需要が過少
だったために起こったものではなく、供給側の要望によって起こ
されたものであり、過剰な対策は不要だというのです。
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 いいデフレ、悪いデフレという言い方は必ずしも適切ではない
 かもしれませんが、この時期のデフレはどちらかというといい
 デフレで、「デフレ脱却」「デフレ脱却」と騒ぐようなもので
 はなかったのです。ただ、このデフレに対するネガティブな認
 識は、小泉・竹中だけではなくかなり多くのエコノミストやジ
 ャーナリスト達に共通していました。(中略)しかし、21世
 紀初頭に起こったデフレは明らかに今までとは異なったもので
 した。このデフレはいわば構造的デフレとも言うべきもので、
 中国、インドあるいはベトナム等が世界経済に統合されること
 によって生産プロセスが変わり、ハイテク製品等の価格が下落
 することによって起こつたものです。
  ――榊原英資著、『強い円は日本の国益』/東洋経済新報社
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 それなら、なぜ物価は下落したのでしょうか。
 価格が下がったのは、榊原氏の指摘の通り、インドあるいはベ
トナムなどが世界経済に統合されることによって国内市場におい
て、ハイテク製品――とくにテレビや携帯電話などの価格が大幅
に下がり、これが物価下落に拍車をかけたのです。
 それからもうひとつ、この年末にきて大きな社会問題になって
いる雇用構造の変化が原因で、平均賃金が物価拡大にもかかわら
ず下落を続けたのです。雇用構造の変化とは、いうまでもないこ
とながら正規雇用の減少と非正規雇用の拡大のことです。景気拡
大でも賃金が下落したので、企業のコスト増による物価上昇圧力
がかからなかったのです。
 よく誤解されることですが、「デフレ=不況」という認識を持
つ人がいます。三菱UFJ証券・チーフエコノミストである水野
和夫氏は、「デフレ=不況」の考え方は誤りであり、デフレは好
不況に関係がないといっています。そして、榊原氏のいう「構造
デフレ」について、次のように述べています。
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 しかし、デフレと好不況は直接関係ない。市場統合によって生
 ずるデフレは『構造』であり、好不況はあくまで4年ごとに繰
 り返す『循環』である。デフレから脱却すれば景気が持続的に
 回復するとか、景気を回復させれば、デフレから脱却できると
 いった考え方は、構造と循環を混同した議論である。
  ――榊原英資著、『強い円は日本の国益』/東洋経済新報社
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 長過ぎたゼロ金利の維持が日本からの資本の流出を加速し、円
キャリートレードを生み、さらにそれに平行して数次にわたる巨
額の円高介入をやった結果、円安バブルをつくり出したのです。
 その円安バブルが今回のサブプライム問題に端を発する未曽有
の金融危機によってはじけて円高になったのです。しかし、これ
は円高というよりも、本来あるべき円の価値に戻ったというべき
です。したがって、この円高はこのまま進行すると、70円台に
なる可能性もあるといわれます。円高は日本にとって悪いことで
はありませんが、輸出立国を目指してきた日本にとっては痛手で
す。これからどうするべきでしょうか。
 円高・内需拡大策をテーマとして、40回にわたって書いてき
ました。しかし、テーマが大きいので、まだすべてを書き切れて
おりません。そこで、ここまでを前編とし、新年より後編(テー
マは変わりますが)を書いていきたいと思います。ここまでのご
愛読を感謝します。読者の皆様、良いお年をお迎えください。新
年は5日からはじめます。 ―――[円高・内需拡大策/40]


≪画像および関連情報≫
 ●構造デフレの世紀/榊原英資
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  日本は「失われた10年」と言われる難しい時期を経験して
  きた。少なくとも、結果的には財政・金融政策を全開にし、
  財政赤字はG7諸国で最も高いレベルまで累増し、金利はゼ
  ロにまで引き下げられた。しかし、相も変わらず議論はさら
  なる財政赤字の拡大、金融の追加的量的緩和をめぐって戦わ
  されるだけで、この10余年の経験、状況の変化を勘案した
  ものになっているとはとても思えないのである。「失われた
  10年」の最大の失敗はデフレが構造的であり、政策によっ
  て逆転できないという冷厳な現実を認識できなかったところ
  にあるのではないだろうか。
       http://www.utobrain.co.jp/review/2003/081801/
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榊原氏と水野氏.jpg

posted by 平野 浩 at 04:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする