て性急で激しいものであったのです。それにこの問題は前任の森
政権からの引き継ぎ事項でもあったわけです。「これはやるしか
ない。そうすれば念願の郵政民営化は実現できる」――小泉氏は
そう考えたと思うのです。
そのためには、閣内の意見をまとめる必要がある。というのは
「銀行に対する公的資金投入の是非」をめぐる小泉政権内の閣僚
たちの意見は一枚岩ではなかったからです。なかでも柳澤伯夫金
融担当大臣は旧大蔵省の出身であり、公的資金投入に絶対反対の
立場をとっていたのです。
それに小泉氏は米大統領筋から「竹中が使える」と示唆されて
いたフシがあります。この竹中平蔵という人物、小渕政権時代か
ら重用されている不思議な人物なのです。
小渕政権では、経済戦略会議の委員になり、小渕首相に対し、
「10兆円を上回る規模の追加的財政出動」を提言しています。
続く森政権ではIT戦略会議の委員になり、「イー・ジャパン構
想」についてさまざまな提言を行っている「できる学者」という
イメージの人物なのです。もちろん、テレビ東京のWBSをはじ
め、テレビでも活躍していることはいうまでもありません。
そして、小泉政権において、経済財政政策担当大臣に就任する
のです。この竹中平蔵氏について、既出の大門実紀史氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
竹中大臣については、元々アメリカの評価は高いわけですけれ
ども、この経過の中でかなり高くなってきていますね。(20
08年)10月30日、竹中大臣が(金融担当相)就任される
とすぐ、ワシントン・ポストのインタビューでハバードさんが
「彼は優秀だ。これで不良債権処理が進む。歓迎」というふう
なことを答えております。その後も、(ハバードさんは)竹中
方針支持、いくら自民党の皆さんや銀行から反発が出ても異例
の支持表明をする。「竹中案でやらないと日本は大変なことに
なる」という警告までやる。ちょっと異常なかかわり方だと思
います。 ――大門実紀史氏
―――――――――――――――――――――――――――――
このグレン・ハバードという人物は、ブッシュ政権第一期目に
おいて大統領経済諮問委員会の委員長を務めていた人物であり、
現在はコロンビア大学ビジネススクールの校長を務めています。
この大統領経済諮問委員会の委員長は、現バーナンキFRB議
長が務めていたことがあり、グリーンスパンの後任を争った人物
の一人です。いずれにしても、グレン・ハバードという人物は、
ブッシュ政権に非常に近い存在なのです。
副島隆彦氏はグレン・ハバード氏について、自著の中で次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
竹中平蔵はグレン・ハバードの手下なのである。(一部省略)
このハバードが司令官になって、「日本の不良債権の処理速度
は遅すぎる。もっと加速せよ」と露骨に日本政府に圧力を加え
て、日本の金融業界を混乱に陥れたのだ。ハバードの親分はポ
ール・ヴォルカー元FRB議長であり、その上は“世界皇帝”
デイヴィッド・ロックフェラー(90歳)である。
――副島隆彦著『重税国家/日本の奈落』 祥伝社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
こういう経緯があって、2002年9月の日米首脳会談のあと
小泉首相は帰国すると、直ちに内閣改造を行い、竹中平蔵経財相
に金融担当相を兼務させ、公的資金投入の地ならしをやったので
す。この時点において不良債権処理の問題はすべて竹中大臣に託
されたことになります。
しかし、当時は長期デフレで不況ではあったけれども、銀行の
不良債権比率は健全レベルだったのです。少なくとも公的資金を
投入するレベルではなかったということです。米国の要望に応え
るには、緊縮財政政策を行うことによって不良債権比率を上げる
必要があったのです。
デフレ下で緊縮財政政策を行うと、デフレ不況は一層深刻さを
増し、不良債権比率は上昇します。実際に不良債権比率は5%か
ら8.4 %に上昇していることは既に述べた通りです。しかし、
これが本当であるとすると、小泉政権は意図的に作り出した不良
債権を自らその加速処理を強行させることになります。マッチポ
ンプもいいところです。
竹中金融担当大臣(当時)が作成した「金融再生プログラム」
について考えてみます。このプログラムの正体は何でしょうか。
この金融再生プログラムには次の2つの骨子があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
1.資産査定の厳格化によって、不良債権を加速処理させる
2.米国並みに厳しい基準で自己資本を査定して計上させる
―――――――――――――――――――――――――――――
竹中平蔵氏は、今回の米国発の金融危機に対してテレビの番組
で次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
公的資金の投入に当たってやらなければならないことは、資産
の査定を厳格にやる必要があるのです。これは忘れてはならな
いことですよ。 ――竹中平蔵氏
―――――――――――――――――――――――――――――
ここでいう「資産査定の厳格化」とは具体的に何を指している
のでしょうか。
竹中経財相・金融担当相は、その資産査定の厳格化のために次
の2つを持ち出してくるのです。第1は「DCF方式の導入」で
あり、第2は「減損会計の導入」です。この2つの導入によって
日本の企業と銀行は大きなダメージを受け、不良債権は激増し、
公的資金導入の環境は整うことになるのです。
――[円高・内需拡大策/17]
≪画像および関連情報≫
●大統領経済諮問委員会――CEAとは何か
―――――――――――――――――――――――――――
大統領経済諮問委員会――CEAは、米国大統領に助言する
ことを目的とした経済学者の集まりである。米大統領府――
ホワイトハウスの一部門で、多くの経済政策を提示する。委
員会は委員長と2人の委員で構成される。委員長と委員は大
統領によって指名され、上院の承認によって任命される。
――ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――