2008年11月26日

●「米国が不良債権処理を迫った理由」(EJ第2458号)

 よく「日本は米国の属国である」といわれますが、本当に米国
が日本に対して「あれをやれ!これをやれ!」と命令してくると
はまさか思っていないでしょう。あくまで日本は独立国であり、
それに米国の同盟国でもあるので、米国も日本に対してそれなり
の敬意を払ってくれるはず・・・と一応考えているからです。
 しかし、実際はそんなに甘いものではなかったのです。米国と
いう国は自国の国益のためならば、どんなことでもやる国であり
とくにブッシュ政権はそれをごり押ししてきたのです。
 2002年9月の日米首脳会談では、本当に何が取り決められ
たのでしょうか。
 この会談に先立って、ブッシュ大統領から小泉首相宛ての親書
があったといわれているのです。それは、上坂都氏(ジャパンエ
コノミックパルス副社長)が、『金融ビジネス』(2003年1
月号、東洋経済新報社)に寄稿した論文の中で、「複数の日米有
力金融筋から」の情報として、プッシュ米大統領の小泉首相宛て
の「親書」の存在があったことを示唆しているのです。
 その親書は、日米首脳会談に先立って行われたグレン・ハバー
ドCEA(大統領経済諮問委員会)委員長と竹中経財相の会談の
さい、竹中経財相に手渡されたといわれます。それは、次の書き
出しではじまる親書なのです。
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 再三再四の要請にもかかわらず、不良債権処理を怠り、またし
 ても9月危機を招いてしまっている。
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 これには少し説明が必要です。それは、2001年3月19日
に行われた森・ブッシュ会談に遡るのです。このとき当時の森首
相は、ブッシュ大統領に対し、「不良債権処理を急ぐ」と約束し
ているのです。それは具体的には「不良債権のオフバランス化」
――直接償却の要請に応えるというものです。
 しかし、小泉政権になってから、不良債権処理問題は目立った
動きを見せなかったのです。その米国の苛立ちをぶつけてきたの
が、ブッシュ大統領の親書だったのです。2002年9月の日米
首脳会談について、上坂都氏は次のように書いています。
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 『日米首脳会談では二つの重要な議題が議論された。一つは不
 良債権処理の出口論、もう一つは日本の金融機関が保有する米
 国債の売却自粛であった』。ある有力政界筋は9月3日の日米
 首脳会談の舞台裏をこう語る。不良債権の出口論とは、銀行か
 ら不良債権を切り離し、市場に売却せよということ。それは問
 題企業を破綻に追い込み、それを米国資本の金融ビジネスに結
 び付けよう、というものだ。もう一つの国債売却自粛は、銀行
 不安が顕在化すると外債売却リスクが高まり、病み上がりの米
 国経済を長期金利上昇が襲う。経営危機に陥る前に国有化、も
 しくは公的資金注入によってこうした事態を回避してほしいと
 の要請である。     ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうして米国はこれほど執拗に日本に不良債権処理の加速を求
めてきたのでしょうか。
 それは米国金融資本――その中核は投資銀行、証券会社、投資
ファンド/今回のサブプライム問題でこれが壊滅的打撃を受けて
いる――による日本の「不良債権ビジネス」への欲求であり、期
待であり、それがブッシュ政権の背中を押しているのです。
 もともと米国は、1500兆円に及ぶ日本の個人金融資産の取
り込みを図って、1996年の「金融ビックバン」以来、日本に
揺さぶりをかけてきたのですが、それまで効果を上げてこなかっ
たのです。
 金融ビッバンでは、投資信託や生命保険の銀行窓販、銀行と証
券の相互参入などの規制緩和に関しては進展があったものの、不
況の長期化に伴って株式市場への国民の不信などにより、個人金
融資産の証券市場への流入や年金などの機関投資家の運用の変化
についてはほとんど進展がなかったのです。
 それは、メルリリンチ証券が山一証券から引き継いだ28店舗
中20店舗を閉鎖して撤退を余儀なくされたことを見ても明らか
なことです。
 そこで、米国としてはブッシュ政権になると、対日政策を「不
良債権ビジネス」に切り替えて、再度要請を強めてきたのです。
それが2002年9月の日米首脳会談を契機に大きく進展をはじ
めたのです。
 日本共産党参議院議員の大門実紀史氏は、これに関して自身の
ウェブサイトで次のように書いています。
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 (2002年9月の)会談を境にして、今までの不満を一気に
 爆発させるかのように、ハバード大統領経済諮問委員会(CE
 A)委員長をはじめ米国政府高官が、あからさまに不良債権処
 理「加速」に口を出してくる。この際に米国が求めてきたのは
 今までのように大銀行の存続を前提に不良債権をオフバランス
 化するというものではない。銀行そのものの「追い込み策」で
 ある。従来より格段に厳しい検査と自己資本の査定で銀行を追
 い込み、存続可能な銀行と破たんさせる銀行を選別する。存続
 が可能なら公的資金を投入し「国有化」する。同時に不良債権
 (破たん企業、担保の不動産など)の市場(外資)への早期売
 却である。               ――大門実紀史氏
   http://www.daimon-mikishi.jp/ronbun/data/0302760.htm
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 柳澤氏にかわって金融担当大臣に就任した竹中平蔵氏は、20
02年10月に「金融再生プログラム」を発表するのです。しか
し、このプログラムは上記の米国の要求そのものをプログラム化
したものとしか思えないほどそっくりなのです。彼らは、日本を
売ったのです。       ――[円高・内需拡大策/16]


≪画像および関連情報≫
 ●オフバランスとは何か
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  貸借対照表――バランスシートに計上されない企業の資産・
  負債。例えば、銀行が貸し倒れに備えて引当金を積む不良債
  権処理の方法があるが、これでは貸し出し債権が帳簿上に残
  り、担保価値が下がると、追加の引き当てが要る。この場合
  銀行は貸出金の債権売却や償却をして帳簿から除外(オフバ
  ランス化)、総資産利益率などの財務指標を改善させる。
 ●直接償却と間接償却/不良債権のオフバランス
  http://electronic-journal.seesaa.net/article/13476968.html
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グレン・ハバード氏.jpg
グレン・ハバード氏
posted by 平野 浩 at 04:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする