2008年11月20日

●「ピノチェト政権下の経済はどうなったか」(EJ第2455号)

 ナオミ・クラインのミルトン・フリードマン論を読むと、フリ
ードマンの考え方の負の側面を鋭く衝いているような印象を受け
ます。しかし、一方において、熱烈なるフリードマン支持者もい
るのです。それは、2006年にフリードマンが亡くなると、彼
の負の側面は隠され、絶賛論者が多くなったような気がします。
 フリードマンといえば、反ケインジアンの宋主として、フリー
ドマン反革を実行した優れた経済学者であり、彼が推進する新自
由主義革命は、米国のレーガノミックス――レーガン政権や英国
のサッチャー政権の理論的支柱となり、それはクリントン政権や
現ブッシュ政権にも受け継がれて、世界の経済学の主流となって
いるのです。
 その結果、世界中に亜流政権ができて、新自由主義革命が行わ
れたのです。日本における小泉・竹中政権――聖域なき構造改革
はそれに当たり、日本社会を破壊し、混乱に陥れているのです。
 したがって、ついこの間まではケインジアンとはいわないもの
の、財政政策を重視する経済学者やエコノミストや経済評論家は
ボロクソにいわれ、マスコミから遠ざけられるなどの迫害を受け
てきたのです。しかし、ここにきて少し情勢が変わってきている
と思うのです。そういう意味でナオミ・クラインの主張は興味深
いものがあります。
 昨日のEJでフリードマンとピノチェト政権の関わりについて
ナオミ・クラインの主張をお伝えしましたが、これに似ているの
が米国のアフガニスタンとイラク侵攻です。これも911を利用
したショック・ドクトリンといえると思います。とくにイラクに
ついてはそっくりであるとナオミ・クラインは述べています。
 ところで、フリードマン主導の経済政策を押しつけられたピノ
チェト政権下のチリの経済はどうなったでしょうか。これについ
て、興味深い情報が次の本に載っています。
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    グレック・パラスト著 /貝塚泉・永峯涼訳
    『金で買えるアメリカ民主主義』/角川書店
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 チリでクーデターが起こったのは1973年のことです。ピノ
チェト将軍は、アジェンデ大統領をはじめ7000人以上を虐殺
しています。
 ジャーナリストのパラスト氏によると、フリードマンの弟子た
ち(シカゴ組)が起こした市場原理主義改革は、米国の投資家た
ちのパラダイスを生み出したものの、1973年〜1983年に
かけて、貧困層は20%から40%に増加し、失業者は4.3 %
から22%に上昇したのです。
 ピノチェト大統領はフリードマンのいわれるように、国営銀行
をはじめとして、ありとあらゆるものを民営化し、市場はハゲタ
カが乱舞するマネーゲームの楽園の様相を呈したのです。結果は
実に無残な結果に終わったわけです。
 ピノチェト大統領はこの有様を見て悟ったのです。このままで
は国が潰れる――ピノチェトは「シカゴ組」を追い出して、経済
再建に取りかかったのです。そのとき多用したのが、ケインズ政
策だったのです。まず、短期的投機資金の流入を規制する法律を
作り、ハゲタカに備えたのです。そして、アジェンデ大統領の残
した遺産を活用してチリの経済を復興させたのです。
 これについて、関良基氏のプログには次のように述べられてい
ます。詳しくはこのブログをご覧ください。
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 ピノチェトは賢明にも、アジェンデが国有化した銅山だけは国
 有のまま死守したのです。当時のチリの輸出収入の30〜70
 %は銅からもたらされていました。基幹産業である銅資源を国
 有状態に留めている国を、はたしてフリードマンの教説通りの
 「小さな政府・自由放任市場主義」の国と呼ぶことは可能でし
 ょうか?国営の銅産業の発展によって経済が回復したとして、
 その功績をフリードマンの市場原理主義に帰することが可能で
 しょうか?アジェンデが行なった農地改革の遺産もクーデター
 を経ても多くは引き継がれたそうです。アジェンデの農地改革
 の結果、活力ある自作農階級が誕生し、チリ農業はピノチェト
 時代に大いに発展したというのです。
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/8ba0508402aab786d447c2b201aad581
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 2006年のミルトン・フリードマンの死に対して、ブッシュ
大統領は、その追悼声明では、アメリカ政府の「構造改革」に対
するフリードマンの貢献として、次の3つを上げています。
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            1.学校選択制
            2.減税
            3.志願兵制度
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 この中の「学校選択制」については、あの安倍元首相が「教育
再生」の目玉政策にあげている中心政策であり、安倍元首相は、
「アメリカでは、私立学校の学費を公費で補助する政策をスクー
ル・バウチャーと呼ぶ」と自著の『美しい国へ』(文春新書)の
中で述べているのです。米国をお手本にしているのです。
 しかし、当の米国では、公教育から、体育や美術や音楽の時間
が消えつつあるのです。なぜかというと、公教育の予算不足でそ
の授業のための教師が雇えず、道具も買えないからです。これは
公教育に国が支援するのは、国による過剰なる市場への介入であ
り、やめるべきであるというフリードマンの考え方を米国政府が
支持しているからです。
 そういう米国のやり方に盲従的に真似をしようとする日本の政
治姿勢には大きな問題を感じます。このように米国の学校は私立
中心になりつつあり、親の所得の格差が教育の格差に反映され、
格差の悪循環が世代を超えて拡大・固定化していきつつある状態
になっています。      ――[円高・内需拡大策/13]


≪画像および関連情報≫
 ●グレッグ・パラストの本の紹介
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  「あの男をホワイトハウスからつまみ出せ!!」ブッシュの
  金と石油まみれの嘘を徹底糾弾!!全米・全英大ベストセラ
  ー緊急文庫化マイケル・ムーア――「アホでマヌケなアメリ
  カ白人」著者推薦!現在ホワイトハウスが最も怖れていいる
  調査報道記者、グレッグ・パラスト。フロリダ州が大統領選
  でブッシュを勝たせた汚い手口や9・11テロ以前にビンラ
  ディン家へ向けられていたFBIの捜査をブッシュが潰した
  やり等々、彼のスクープは数知れない。そのパラストが、腰
  の引けた大メディアには報道できない衝撃の真実をここに一
  挙公開。民主主義は金で買うことはできないと信じる者の必
  読書!!
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金で買えるアメリカ民主主義
金で買えるアメリカ民主主義

posted by 平野 浩 at 05:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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