2008年11月14日

●「大きな政府復帰か/本格的変化」(EJ第2451号)

 米国のサブプライムローン問題に端を発する今回の世界を巻き
込む金融危機に対してブッシュ大統領は次のような声明を出して
います。2008年9月19日のことです。
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 米国経済は前例のない困難に直面しており、われわれは前例の
 ない手段で対応する。 ――2008.9.20付、朝日新聞
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 ここで問題となるのは、「前例のない手段で対応する」という
表現の意味なのです。これは、今まで行ってきた経済運営の仕組
みを根本から変えるということなのでしょうか。それとも、あく
まで非常時の対応なのでしょうか。
 海外メディアによると、米国政府のこの声明は1970年以降
米国が推進してきた「小さな政府」を前提する経済システム――
経済システムを自由市場資本主義化する革命からの体制変換を意
味しているといいます。
 米国が総合金融安定化法を実行するというのは、市場経済を抑
制し、規制を強化する「大きな政府」の政策を行うことを意味し
ているので、明らかに体制変化であるといえます。
 いや、あるいは米政府はその時点では、経済システムの体制変
化ではなく、あくまで非常時の対応であると考えていたかもしれ
ません。しかし、大統領選の結果、次期大統領がオバマ上院議員
に決定したことによって、体制変化は不可避のものになったと考
えられます。まさにCHANGEです。
 まして現にオバマ氏の政策顧問を務めるロバート・ライシュ氏
は、昨日のEJで述べたように、超資本主義――民主主義が弱ま
りつつある資本主義の弊害に対して警鐘を鳴らしている人物なの
です。オバマ氏は、今までのやり方を一気に変えてこの危機を乗
り切るはずです。こういう世界経済大混乱のときに日本の麻生政
権は何をしているのでしょうか。
 1970年以降、ライシュ氏のいう超資本主義はどのように世
界に拡大していったのかについて述べます。
 1970年代末に英国ではサッチャー政権が誕生し、それに続
いて、1980年代はじめに米国ではレーガン政権が登場し、と
もに新自由主義革命――経済システムを自由市場資本主義化する
革命を米英で強力に推進したのです。
 レーガン政権発足と歩調を合わせて、日本では中曽根政権が、
日本としての確たる考えもなく、米英の自由市場資本主義の道を
歩み始めたのです。当時のレーガンと中曽根は「ロン・ヤス」関
係を演出したものの、この時点で日本は従米国家として米国の世
界戦略の中に組み込まれたといえます。
 1980年代になると自由市場資本主義は欧州に拡大したので
すが、それは1990年代の初めにソ連が崩壊すると、一段と急
ピッチで世界中に広がったのです。資本主義対共産主義の戦いで
資本主義が勝利を収めたからです。
 その結果、ソ連とかつてソ連の支配下にあった東欧諸国も米国
の自由市場資本主義を受け入れ、さらに米国主導のグローバル資
本主義に共産主義の中国も参入することになったのです。
 そして2001年に登場したブッシュ政権は、911の同時多
発テロを契機に米国民の圧倒的な支持を獲得し、世界中の政治・
経済・軍事の主導権を握ったのです。かくしてブッシュ政権は、
「テロとの戦い」を掲げてアフガニスタンとイラクで軍事行動を
起こし、その一方で経済面では自由市場資本主義のグローバル化
を推進したのです。
 ライシュ氏は米国が中心となって世界中に拡大する自由市場資
本主義のグローバル化の現象を「暴走する資本主義」と呼んだの
です。そして、サブプライムローン問題が起こり、米国経済は未
曾有の衰退局面に入りつつあります。
 こうなると、米国経済は自由主義市場経済を修正せざるを得な
いところに追い込まれたのです。減税、公的資金投入など、従来
の小さい政府の路線から大きい政府の路線への転換は誰の目にも
明らかになりつつあります。
 2008年11月11日の日本経済新聞によると、IMFのス
トロスカーン専務理事は、14日から行われる金融サミットに先
立って、各国首脳に追加景気対策を要請する異例の書簡を送った
ことを伝えています。
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 世界的に需要の急激な減少に見舞われており、追加の金融対策
 と財政政策をとるべきだ。――ストロスカーンIMF専務理事
        ――008年11月11日の日本経済新聞より
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 IMFといえば、伝統的に財政規律の厳しいところであるのに
ストロスカーン専務理事は、今回の金融危機に対しては早い段階
から「世界各国で一斉に財政出動をすべきである」と主張してい
たのです。IMFは、2009年度における日米欧の成長率は戦
後初めてそろってマイナスになるという見通しを示しており、そ
れほど危機が深刻であると訴えています。
 それなのに麻生政権は、選挙に不利になるからと依然として財
政出動をためらい、埋蔵金で対応するなどといって世界の失笑を
買っている有様です。
 フリー国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏は、最近の日本に
ついて次のように述べています。
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 米国の衰退は、軍産複合体の衰退である。今の日本は、米国内
 の一部の勢力だけに賭け、全体像が見えていない。日本は非常
 に危険な状態にある。国家や国民の姿勢としても、米国という
 強者(いじめっ子ジャイアン)の後ろについていけば安泰だと
 いう姿勢は不健全である。しかも、その強者が崩壊しかかって
 いるのに気づかずゴマすりばかりやっているとなれば、なおさ
 ら不健全で格好悪い。            ――田中宇氏
――――――――――――  ――[円高・内需拡大策/09]


≪画像および関連情報≫
 ●「小さな政府」とは何か
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  「小さな政府」とは、経済に占める政府の規模を可能な限り
  小さくしようとする思想または政策である。アダム・スミス
  以来の伝統的な自由主義に立しており、政府の市場への介入
  を最小限にし、個人の自己責任を重視する。それを徹底した
  ものを夜警国家あるいは最小国家という。基本的に、より少
  ない歳出と低い課税を志向する。主に、保守派またはリバタ
  リアンによって主張される。     ――ウィキペディア
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当時の米英日3首脳.jpg
当時の米英日3首脳
posted by 平野 浩 at 04:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする