2008年11月13日

●「超資本主義の行き着く先」(EJ第2450号)

 現在、われわれの国である日本は、どういうポジションに立っ
ているのでしょうか。このことを理解しないで、今後の日本の進
むべき道を明確にすることはできないと思います。
 米国ではまもなく共和党のブッシュ政権(ジョージ・W・ブッ
シュ)は終わろうとしています。ブッシュ政権の8年間において
世界の超大国米国という国はなんとなくボロボロになってしまっ
たような気がします。世界に冠たる強力な軍事力と経済力を持つ
米国――しかし、軍事力はアフガンとイラク戦争で疲弊し、経済
力――ドルの覇権も今回の金融危機で失速寸前です。
 その米国に何をいわれてもひたすらついていった日本も、ブッ
シュ政権の8年間で、最大の売りであったはずの世界第2位の経
済大国のいろいろな面に歪みがあらわれてきています。ちょっと
考えても、年金・介護・医療、そして雇用――社会生活の重要な
局面に大きな問題が露呈してきています。
 ブッシュ政権の8年間のうちの5年間――日本では小泉政権が
まるで肩を並べるように続いていたのです。残りの3年間は、安
倍政権、福田政権、麻生政権と実に3政権が続いていますが、い
ずれも影が薄く、基本的に小泉政権の延長と考えても間違いでは
ないでしょう。
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   ブッシュ政権
   2001年1月26日〜2009年1月20日
   小泉政権
   2001年4月26日〜2005年9月26日
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 米国のブッシュ政権と日本の小泉政権――これら日米2つの政
権は何を目指してここまでやってきたのでしょうか。
 米国民は、ブッシュ政権に「NO」を突きつけ、オバマという
若いリーダーを選択したのです。人種と政党の2つのかべを乗り
越えてです。これに対して日本は今後どうするのでしょうか。そ
れを論ずるには、小泉政権――小泉・竹中構造改革が何であった
のかという総括をすることが不可欠であり、まず、このあたりか
ら明らかにしていきたいと思います。
 ロバート・B・ライシュという人がいます。この人は、クリン
トン政権のときの労働長官をしていたのですが、現在はカルフォ
ルニア大学バークレー校で教授をしています。このライシュ教授
が、2008年6月に次の本を上梓して話題になっています。
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   ロバート・B・ライシュ著/雨宮寛・今井章子訳
   『暴走する超資本主義』/東洋経済新報社
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 ライシュ氏は、次期大統領であるオバマ氏の政策顧問でもあり
オバマ政権がどのような政策を実施するかを予測する意味で貴重
な本であるともいえます。
 ライシュ氏は、1970年以前の資本主義――資本主義と民主
主義が共存共栄していた時代と区別して、1970年代の石油危
機後に起こった自由市場資本主義のことを「超資本主義――スー
パー・キャピタリズム」と呼んだのです。
 ライシュ氏は、1970年以降、世界は米国を中心とする超資
本主義に巻き込まれ、民主主義は変質して現代に至っている――
現下の金融危機はまさにその帰結であると主張しているのです。
 「超資本主義」についてはいずれ詳しく述べますが、ライシュ
氏は、上記著書の冒頭で次のように述べています。
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 先に私の論旨を述べてしまうと、問題が過度に単純化される恐
 れがあるが、ここで私の基本的な考え方を示しておきたい。そ
 れは、過去数10年の間、資本主義は私たちから市民としての
 力を奪い、もっぱら消費者や投資家としての力を強化すること
 に向けられてきたということである。
      ――ロバート・B・ライシュ著/雨宮寛・今井章訳
          『暴走する超資本主義』/東洋経済新報社
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 この中で「市民としての力を奪い、もっぱら消費者や投資家と
しての力を強化する」とはどういうことでしょうか。
 ここでは、「消費者」「投資家」「市民」という3者の言葉の
使い分けがなされています。すなわち、「消費者」は価値あるも
の――お買い得品を低価格で求める存在であり、「投資家」はい
うまでもなくひたすら利益を求める存在、そして「市民」は公共
の利益を求める存在としてとらえられ、民主主義を代表する言葉
として使われています。
 かつての古き良き時代――資本主義と民主主義が共存共栄して
いた時代においては、独占やトラストによって企業の利益は安定
し、CEO(企業経営者)は労働組合との交渉によって労働コス
トの上昇を価格に転嫁することが容易であったのです。
 また、この時代には、企業経営者は公共性の高い「ステーツマ
ン(政治家)」であり、自社の利益にならないような場合であっ
ても、国家的利益の向上のため、社会制度の実現に積極的に関与
する――1970年以前はそういうことができたのです。
 しかし、1970年以降になると、この状況は一変してしまい
ます。それは、消費者や投資家が企業を直接コントロールするよ
うになったからです。人々は投資家として経営者にリストラを求
めると同時に消費者としてウォールマートの低価格を選ぶという
行動をとります。
 一方、市民としては企業に「社会的責任」を求め、地元の商店
街がさびれるのを嘆いたりする――彼らは消費者や投資家と、地
域の市民に分裂しているのです。しかし、市民――民主主義の力
は相対的に弱くなってきているのです。
 民主主義が弱まりつつある資本主義――これがどれほど危険で
あるかについてライシュ氏は警鐘を鳴らしているのです。日本も
その危機に中にあるのです。 ――[円高・内需拡大策/08]


≪画像および関連情報≫
● ロバート・B・ライシュ氏について
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  1946年米国ペンシルベニア生れ。ダートマス大学卒。オ
  ックスフォード大学大学院経済学修士課程修了。ハーバード
  大学ケネディ行政大学院教授、クリントン政権で労働長官を
  務める。『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ』では、経済の
  グローバル化にともない、国家を代表するような中核的大企
  業は実質的にもはや存在せず、「グローバル・ウェブ(地球
  大のクモの巣状の柔軟な企業組織網)」が存在する。これを
  動かし、高付加価値を創造するのは、大企業経営者でなく、
  情報、文化、言語、音楽、映像などを操作する「シンボリッ
  ク・アナリスト」だという。二十一世紀を考える指導者は、
  「シンボリック・アナリスト」を育てるシステムをつくるべ
  きだと主張する。        ――PHPインフェース
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ライシュ氏の本.jpg
posted by 平野 浩 at 04:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする