2008年11月07日

●「円の本当の価値は『1ドル=79円』」(EJ第2446号)

 小泉政権の2003年頃からは少しずつ、2005年からは明
確に統計的には景気は回復に向かっています。実感はないものの
数字的にこれははっきりとあらわれています。
 これによって「構造改革の成果が実って、日本は長い不況のト
ンネルを抜け出し、新しい成長をはじめた」といわゆる構造改革
派(上げ潮派)は胸をはったものです。また、日本の企業は厳し
いリストラ努力と必要な改革を行って、生産性を向上して強くな
ったともいわれたのです。
 しかし、これは本当でしょうか。
 なぜなら、景気回復といっても一般生活者にとってその実感は
ゼロに等しいし、企業の力が強くなったといっても、それは一部
の輸出関連企業に限定されているのです。野口悠紀雄氏はこれに
ついて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、本当に日本企業の体質が強くなったのであれば、特に
 他社製品との差別化により付加価値を高める「非価格競争力」
 を獲得していたのであれば、日本企業には直接かかわりのない
 サブプライムローン問題で日本の株価が簡単に崩壊してしまう
 のは、おかしいのではないか?      ――野口悠紀雄著
          『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』
                     ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 野口氏は、添付ファイルの2つのグラフによって、日本経済の
実態は旧態依然のままであり、日本の金融当局が行う異常な金融
緩和策と円安誘導に助けられて輸出関連企業の収益が増加しただ
けであることを示しています。
 添付ファイルの「図1」を見てください。これは実効為替レー
トによって、円レートを見たものです。「実効為替レート」につ
いては後で説明するとして、まずはグラフ自体を見ていただきた
いと思います。
 このグラフは、1973年3月を100として、実効為替レー
トで円レートの推移を見たものです。グラフが上昇すると、「円
高」であり、下降すると「円安」になります。
 1985年はプラザ合意の年であり、そこから円レートは急速
に上昇し、上下するものの、1995年には一番高くなります。
あの歴史的ともいえる1995年4月19日の「1ドル=79円
75銭」を示しているのです。
 しかし、その後円レートは下降し、2005年には1985年
のプラザ合意のレベルまで、円レートは円安になっています。こ
れは長年にわたる金融緩和と低金利政策による円安誘導の賜物と
いってよいと思います。別に構造改革によって日本経済の実態が
変化したわけでも何でもないのです。
 この円安の成果は、株価にはっきりと反映されています。「図
2」を見てください。これは、1991年以降の日米平均株価の
推移をあらわしています。小泉政権が発足する前後から急速に下
降していた株価が2003年ごろから上昇に転じ、米国平均株価
を上回り、2007年には頂点に達しています。
 自民党の構造改革派(上げ潮派)の人は、これをもって「構造
改革による景気回復」であるといっていますが、これは遮二無二
円安誘導を行った結果に過ぎないのです。そこに何となく釈然と
しないものがただよっているのです。
 ここで、「実効為替レート」について説明しましょう。
 「実効為替レート」は、特定の2通貨間の為替レートを見てい
るだけでは分からない為替レート面での対外競争力を、単一の指
標で総合的に把握しようとするものです。
 例えば、単に「円高」といっても、円が米ドルに対してのみ上
昇している場合と、多くの他通貨に対して上昇している場合――
「円の独歩高」という――とでは、円と米ドルの2通貨間の為替
レートが同一でも、日本の価格競争力、ひいては貿易収支などに
与える影響が異なってきます。
 こういうときに使うのが、「実効為替レート」です。したがっ
て、このグラフで「円安」であれば輸出は好調になり、関連企業
の株価は高くなるのです。
 それでは、現在の円の本当の価値は現在どのくらいなのでしょ
うか。考えてみることにします。
 一番わかりやすい説明法は「ビッグマック指数」を使う方法で
す。ビックマックを知らない人はいないでしょうが、一応説明し
ておくと、ビッグマックは、ファーストフードチェーンのマクド
ナルドが販売している大型のハンバーガーの商品名です。
 このビックマックを使う指数は、英国の経済誌である「エコノ
ミスト」が考え出したものなのです。ビックマックは同じ商品が
全世界で販売されているので、使いやすいのです。
 東京都内で販売されているビッグマックの現在の価格は、税込
みで290円、課税前価格では276.19 円です。他方、ニュ
ーヨークのマンハッタンでは、課税前価格で3.49 ドル――そ
こで、課税前価格が日米で同一になるような為替レートを求める
と、1ドル=79.14 円となるのです。
 野口悠紀雄氏によると、経済学ではビックマック指数のような
考え方に基づいて算出される為替レートを「購買力平価」と呼ん
でいるのです。しかし、その算出には、ビッグマックのような単
一商品ではなく、物価指数を用いることになっています。
 「1ドル=79円」――これが本当の円の価値であるのかもし
れません。それを今まで長年にわたって、相当の無理を重ねて介
入などによって、円の価値を下げる円安誘導をしてきたのです。
 2008年3月以降、円が100円を超えることが多くなって
おり、この記事を書いている11月3日時点でも、円が100円
を超える状態が続いています。
 そろそろ日本は「円高」を当然のこととして受け止め、それを
ベースとする経済成長を本気で考える時代になっているのではな
いでしょうか。       ――[円高・内需拡大策/04]


≪画像および関連情報≫
 ●「ビッグマック指数」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ビッグマック指数は、各国の経済力を測るための指数。マク
  ドナルドで販売されているビックマック1個の価格を比較す
  る。イギリスのの経済専門誌『エコノミスト』によって考案
  された。ビッグマックはほぼ全世界で同一品質のものが販売
  され、原材料費や店舗の光熱費、店員の労働賃金など、さま
  ざまな要因を元に単価が決定されるため、総合的な購買力の
  比較に使いやすかった。これが基準となった主な理由とされ
  る。                ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●「図1」「図2」の出典
  ――野口悠紀雄著『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』
                     ダイヤモンド社刊

実効為替レート.jpg
実効為替レート


日米平均株価の推移.jpg
日米平均株価の推移


posted by 平野 浩 at 04:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする