2008年11月06日

●「巨額の外貨準備が投機取引を煽る」(EJ第2445号)

 10月29日付の日本経済新聞に「日本のドル買い介入/米に
歓迎論」という次の囲み記事が出ていました。
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 米国の金融関係者の間で、日本の通貨当局がドル買い介入に出
 れば「歓迎する」という議論が登場している。円の急騰が国際
 金融不安を増幅させかねないとの危機感からだ。介入マネーを
 米国債の受け皿として期待する声もある。
      ――2008年10月29日付、日本経済新聞より
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 日本はこれまで少しでも円高が進むとドル買い介入を行い、こ
れを是正してきています。しかし、最近ではこの日本によるドル
買い介入は米国では歓迎されていなかったのです。
 前回のテーマでも述べた通り、とくに日本が激しく為替介入を
行ったのには、2003年から2004年にかけてであり、総額
で33兆円に及ぶ介入を行っているのです。しかし、今回の円高
においては、米に歓迎論が出ているというのです。
 「円キャリー取引」というものがあります。日本は低金利が長
く続いているので、円で資金を借りて外貨で運用する取引を米国
のヘッジファンドなどがさかんにやっていたのです。
 しかし、ある程度長期的に見ると、日本の低金利は円高が進行
することによって調整され、海外の高い金利で運用しても、円に
戻すときに為替差損を被るのです。したがって、日本国内で運用
したのと同じことになるのです。
 つまり、海外との間で金利差のある状態での長期間にわたる円
安進行は本来あり得ないのです。しかし、日本は頻繁に為替介入
をやるので、円安が進行することになります。
 ヘッジファンドは、日本の場合は低金利を利用して外貨で運用
してもある程度の円高になると、介入してくれるので、安心して
投機的取引ができるのです。こうして投機が正当化される結果と
なるのです。
 そして、こういう取引が頻繁に行われると、円安を加速させ、
やがて円安バブルを生むことになるのです。もし、為替レートそ
のものがバブルであれば、それによって支えられてきた日本企業
の収益もバブルだったということになりかねないのです。
 これに関連して、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授で
ある野口悠紀雄氏は、円キャリー取引とサブプライムローン問題
とは関係があるとして、自著で次のように述べています。
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 実際、アメリカが04年6月に利上げに転じ、以後6回も利上
 げを続けたにもかかわらず、長期金利は上昇しなかった。これ
 は、アラン・グリーンスパンが議会証言で「謎」と呼んだもの
 だが、円キャリーによって巨額の資金がアメリカに流入したか
 らだと考えれば、つじつまが合う。実際、サブプライムローン
 が顕著に増加したのは04年から06年にかけてであり、円キ
 ャリーの拡大とほぼ同時期だ。つまり、日本の金融緩和がアメ
 リカの住宅バブルをあおったと言えるのである。
 ――野口悠紀雄著、『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』
                     ダイヤモンド社刊
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 どうやら、これらの為替介入に関しては日米でいろいろな密約
があるのではないかということがさかんにいわれています。その
一端は、前号の植草一秀氏のレポートを読んでいただければわか
ると思うのです。
 そのような密約があるのではないかと思われることは、日本の
外貨準備高を見ると、そこに何かが見えてきます。
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  2001年04月 ・・・・・・   3626憶ドル
  2002年09月 ・・・・・・   4009憶ドル
  2004年03且 ・・・・・・   8266億ドル
  2008年07月 ・・・・・・ 1兆0047億ドル
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 外貨準備というのは、中央銀行の外国為替市場での介入によっ
て蓄積されるのです。過去のドル買い介入の累計が外貨準備にな
るのです。外貨準備の大半は米国国債で、その金利収入も外貨準
備に蓄積されていきます。
 これによると、2004年3月末では、外貨準備は2002年
9月末時点から倍増しているのです。この間に何があったのかに
ついて、植草一秀氏は次のように書いています。
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 2002年9月末の内閣改造で竹中平蔵氏がそれまでの経財相
 に加えて金融相を兼務することになった。ここから株価暴落誘
 導とその後の「りそな銀行」救済が実行される。日本の資産価
 格を暴落させて日本人資産所有者による優良資産投げ売りを誘
 導したことになるが、投げ売りされた優良資産を買い占めたの
 は外国資本だ。「大銀行が大きすぎるから破たんさせない政策
 をとらない」と明言していた政策が全面転換された。小泉政権
 は「りそな銀行」を2兆円の公的資金投入により救済した。こ
 れを契機に株価は急転上昇に転じた。外国資本は労せずに莫大
 な利得を得た。外国資本は2003年から2005年にかけて
 日本の優良実物資産を強烈な勢いで買い漁った。
           ――植草一秀の「知られざる真実」より
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 実はこの「りそな銀行」処理には大きな疑問があるのです。こ
れについては改めて詳しく取り上げます。そこには底知れぬ深い
闇があるような気がします。
 このように、円の価値はかなり円安に誘導されており、本当の
価値はどのレベルかはっきりしないのです。それは少なくとも1
ドル=100円以下ではあり得ないと思います。米国の力が誰の
目にも明らかに落ちてきている現在、日本は円の本当の価値を受
け入れるべきです。     ――[円高・内需拡大策/03]


≪画像および関連情報≫
 ●円キャリー取引とは何か
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  円キャリー取引は、金利の低い「円」を借りて、金利の高い
  国に投資し、その金利差によって利益を得るものです。円キ
  ャリー取引の中でも、かなり一般的になっているのが「FX
  (外国為替証拠金取引)」でしょう。これは一定額の「保証
  金」を元手に他国の通貨を買い、為替レートの変動を利用し
  て利益を得るもので、円キャリー取引としては、個人投資家
  には参入しやすいものと言えます。このFXは、近年の法整
  備や「くりっく365」の登場によって、より安全で透明な
  取引となりました。
      http://www.greent.to/fxweb/2007/01/post_17.html
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野口悠紀雄氏の本.jpg


posted by 平野 浩 at 00:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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