2008年11月04日

●「『円高・ドル安』はなぜ不況になるのか」(EJ第2443号)

 2008年8月14日から10月31日まで54回にわたって
リチャード・クー理論をベースにして「サブプライム不況と日本
経済」について書きましたが、非常に多くの方に読んでいただき
感謝申し上げます。
 連載をスタートした8月14日(木)のEJプログの正味訪問
者数は464人、ページビューは1631回でしたが、この連載
の最終回の31日には、正味訪問者数は778人、ページビュー
は5283回に達しております。ちなみに、ページビューが、1
日5000回を超えたことははじめてのことです。ご参考までに
10月27日〜31日の訪問者数とページビューを公開します。
―――――――――――――――――――――――――――――
            正味訪問者数  ページビュー
   10月27日(月)  856人   4754回
   10月28日(火)  894人   4751回
   10月29日(水)  817人   4812回
   10月30日(木)  772人   4990回
   10月31日(金)  778人   5283回
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、米国発の金融危機によって、日本では急速な円高が進み
サブプライム問題の被害が一番少ないはずの日本の株価が1万円
を大きく割り込み、その後乱高下を繰り返しています。
 日本経済は今後どうなるのでしょうか。また、日本経済と密接
につながっている米国経済はどうなっていくのでしょうか。
 今回は次のタイトルで、引き続き経済のテーマを考えていきた
いと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
   日本経済は米国依存から脱却することができるか
   ― 日本は円高・内需拡大政策は成功するか −
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本ではあまり経済のことに詳しくない人でも、日本にとって
は「円安・ドル高」が良いのであって、「円高・ドル安」になる
と、景気が悪くなることを知っています。どうして、「円高・ド
ル安」になると景気が悪くなるのでしょうか。
 これについて、高橋洋一東洋大学教授の主張を例にとって考え
てみることにします。高橋洋一氏は、変動相場制の下では、財政
政策は景気対策としては効かないといっています。それは、ノー
ベル経済学賞を受賞した国際経済学者、ロバート・マンデル氏ら
による「マンデル・フレミング理論」によって証明されていると
いうのです。
 これが正しいかどうかはともかくとして、なぜ財政政策をとる
と、景気対策に効かないのかについて、高橋洋一氏の主張をご紹
介しましょう。それには「円高」がからんでくるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財政政策をやるときには、国債を発行して民間から資金を集め
 公共投資をするのが一般的だ。国債発行、つまり国債を売ると
 いうことは、日銀の政策でいえば金融の引き締めと同じ。市中
 のマネーが減り、金利が上がる。金利が上昇すれば、為替は円
 高になる。円高になれば、輸出が減る。そのさい公共投資で内
 需が拡大しても、一方で円高による輸出減が進み、効果が相殺
 されてしまうのだ。効果はないが、国債残高だけは増える。変
 動相場制のもとでは、景気回復には金融政策のほうがはるかに
 効果がある。金融政策では、金利を下げて需要を増やす。金利
 が下がると企業の設備投資が活発になる一方で、円安が進み、
 輸出増になる。この相乗効果によって景気が良くなるのだ。
  ――高橋洋一著、『日本は財政危機ではない!』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 国債を発行して公共投資を行うと、雇用も内需も拡大します。
しかし、国債を発行すると、とくに日本の場合は日本国民がそれ
をほとんど買うので、民間から資金を集めることになります。そ
の結果、それだけ市中マネーが減る――それは日銀の政策でいう
と、金融引き締め政策に当たるというのです。
 その結果、円高になって輸出が減り、公共投資で拡大した雇用
や内需の拡大は相殺されてしまう――そういう論法です。ここま
では理屈としては一応理解できます。
 しかし、金融政策で金利を下げると、企業の設備投資が活発に
なり、円安が進んで輸出増になって、景気が回復する――この論
法には大いに疑問があります。金利をゼロにまで下げても企業は
銀行から設備投資のための資金を借りようとしないということを
説明できないからです。高橋洋一氏は、リチャード・クー氏のい
う「バランスシート不況」を認めないのでしょう。財政政策重視
派のクー氏とは意見が違うのだと思います。
 高橋洋一氏の本を二冊とも読みましたが、その考え方は大部分
は納得できるものの、理解できない部分が多くあります。それは
高橋氏が自民党の上げ潮派の理論的バックボーンになっているこ
とと無関係ではないと思います。無理に合わせているという感じ
なのです。
 上げ潮派は、名目成長率4〜5%を目指し、増税をしないで、
経済成長と財政再建の両方を達成しようとしているのです。これ
に関して高橋氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 名目成長率が上昇すれば、景気が良くなり、企業もそこで働く
 人々も経済的に潤う。多額の利益を出せば、企業が支払う税額
 も比例して大きくなる。個人も収入増により、その範囲で多く
 の税金を払う。これが経済主義の王道というものだろう。
       ――高橋洋一著、『日本は財政危機ではない!』
                         講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、問題はどうやって経済成長させるかです。そのために
何よりもデフレを克服することが肝心であるといっていますが、
これは同感です。      ――[円高・内需拡大策/01]


≪画像および関連情報≫
 ●上げ潮派の考え方について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  上げ潮派は、無駄な支出を減らすことで歳出削減を図れば、
  増税を見送ってもプライマリーバランスの黒字化は達成でき
  ると主張している。しかし、信州大学経済学部教授の真壁昭
  夫は、「無駄使いをなくすことが出来れば、若干の財源を捻
  出することは可能」だが「それだけでは焼け石に水で、わが
  国の財政状況を根本的に改善することにはならない」と指摘
  している。その理由として、財政悪化の最大要因は社会保障
  費の増大であり、無駄な支出を減らしたとしても、少子高齢
  化の進展による支出の増加が大幅に上回るため、結果的に財
  政状況は悪化の一途を辿るとしている。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

中川秀直氏.jpg
中川秀直氏
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2008年11月05日

●「植草一秀氏が斬る『上げ潮派』」(EJ第2444号)

 10月30日に政府・与党は「追加経済対策」を発表しました
が、これを巡ってメディアではいろいろな意見が出ています。麻
生首相は、当初は「日本経済は全治3年」といいながら、今回の
金融危機を「100年に一度の暴風雨」と表現したりと、経済の
現状をどのようにとらえているのかがはっきりしないのです。そ
ういう現状を踏まえながら、今後日本の進むべき方向を考えてい
きたいと思います。
 高橋洋一氏は、2008年9月5日付、日本経済新聞の「経済
教室」において、自民党内部を次のように分類しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.オールド・ケインジアン ・・・ 麻生太郎氏
  2.財政重視主義者 ・・・・・・・ 与謝野馨氏
  3.上げ潮派 ・・・・・・・・・・ 中川秀直氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 麻生太郎氏がどうして「オールド・ケインジアン」になるのか
ですが、それは多分リチャード・クー氏との関係を報じられたこ
とに原因があると思います。「オールド・ケインジアン」とは、
財務省系の人間が古い経済学の考え方を重視する人に対する蔑称
であり、あまり趣味の良い表現ではないと思います。
 これに対して、あの植草一秀氏は、高橋氏の分類について次の
ように反論しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「オールド・ケインジアン」の呼称は「財政政策重視主義者」
 に訂正されるべきで、この「財政政策重視主義者」と「財政重
 視主義者=増税派」の違いは明確だが、「上げ潮派」の主張は
 不明確だ。     ――植草一秀の「知られざる真実」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように植草一秀氏は、上げ潮派を名乗るグループの正体に
疑問を呈し、その主張はきわめて中途半端なものであるとして、
次のようにバッサリと斬り捨てています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済状況を無視してひたすら財政収支均衡化を追求した小泉政
 権が、逆に財政赤字を急増させた歴史的事実を踏まえずに、財
 政政策を論じる姿勢が、誤りを繰り返す原因になる。そもそも
 「上げ潮派」に属する人々は2001年から2003年にかけ
 て「近視眼的財政収支均衡至上主義」を唱えて、実際に実行し
 た人々だ。その政策失敗の教訓を経て「成長重視政策」重視主
 義者に「転向」したのだ。「上げ潮派」の人々は、過去の政策
 失敗を隠ぺいしている。―植草一秀の「知られざる真実」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 麻生首相も一見「財政政策重視主義者」であるように見えるも
のの、赤字国債を発行することに非難が集中することを恐れ、財
源として埋蔵金を使うなどといっています。
 植草一秀氏は、政府・与党の取ろうとしている「埋蔵金による
財政政策」について、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「上げ潮派」は埋蔵金を活用しての財政政策を主張するが、経
 済学的に見ればまったくナンセンスだ。政府資産売却・流用に
 よる財源調達と、国債発行による財源調達との間に、政府純債
 務に与える影響の差は生じない。2001年度に小泉政権が見
 かけの国債発行金額を実態の33兆円から30兆円に粉飾した
 が、「上げ潮派」の主張は「粉飾」の勧めにすぎない。
           ――植草一秀の「知られざる真実」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府には借金もあるが、資産もあるのです。したがって、本来
の債務――純債務は、債務の総額から資産を引いたものであるは
ずです。ここでいう資産にはいわゆる埋蔵金も含まれるので、赤
字国債を出そうと、埋蔵金を使おうと、そこに何も変わりはない
のです。したがって、麻生首相が「赤字国債は出さない」と胸を
はるのはきわめておかしなことです。
 重要なことは、そのような腰の引けた景気対策では短期の景気
浮揚効果は得られないということです。植草一秀氏はこれについ
て次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財政赤字拡大=財政バランス悪化を伴わなければ、短期的な成
 長率浮揚効果は得られない。「財政赤字を拡大させずに景気拡
 大策を発動する」などの「詐欺的」手法を経済政策に用いるこ
 とは極めて不健全である。
           ――植草一秀の「知られざる真実」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、ここで植草一秀氏を取り上げるのかについて不思議に思
う人もいると思います。それは、植草氏の主張は正論であり、き
わめて納得性があるからです。
 現在の政府・与党は迷走しています。このままずるずると解散
総選挙が先送りされると、本当に自民党を中心とする政権は崩壊
してしまいます。これをもっとも恐れているのは財務省を頂点と
する官僚体制側です。彼らはありとあらゆる手段を駆使して自民
党崩壊を防ごうとしてしています。
 それは小沢一郎氏が民主党党首になったときから、何回も仕掛
けられ、現在も続いています。一時は仕掛けが成功して、小沢氏
が党首を辞任すると発表するところまで、追い詰められる事態に
なったのは記憶に新しいことです。しかし、小沢氏に対する仕掛
けはことごとく失敗しています。きっと植草氏もその犠牲者の一
人と考えられます。このことに関心のある方は、植草一秀氏の次
のブログを読んでいただきたいと思います。そうすれば、小泉政
権がどういう政権であったか明確にわかると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post_65f1.html
―――――――――――――――――――――――――――――
             ―― [円高・内需拡大策/02]


≪画像および関連情報≫
 ●批判の張本人植草一秀氏を講師として招いた橋本元首相
  ―――――――――――――――――――――――――――
  橋本政権が実行した1997年度大増税を最も強く批判した
  のは私だった。私は1996年年初から、反対論を唱え続け
  た。橋本元首相は首相を辞されたのち平成研究会(橋本派)
  研究会に私を講師として招き、私の考えを傾聴してくれた。
  橋本元首相は2001年の自民党総裁選に際して、1997
  年度大増税政策が誤りであったことを公式に認められた。政
  治家としての出処進退、責任の明確化において、正義感の強
  い行動を取られたと思う。         ――植草一秀
  ―――――――――――――――――――――――――――

与謝野馨氏.jpg
与謝野馨氏
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2008年11月06日

●「巨額の外貨準備が投機取引を煽る」(EJ第2445号)

 10月29日付の日本経済新聞に「日本のドル買い介入/米に
歓迎論」という次の囲み記事が出ていました。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の金融関係者の間で、日本の通貨当局がドル買い介入に出
 れば「歓迎する」という議論が登場している。円の急騰が国際
 金融不安を増幅させかねないとの危機感からだ。介入マネーを
 米国債の受け皿として期待する声もある。
      ――2008年10月29日付、日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本はこれまで少しでも円高が進むとドル買い介入を行い、こ
れを是正してきています。しかし、最近ではこの日本によるドル
買い介入は米国では歓迎されていなかったのです。
 前回のテーマでも述べた通り、とくに日本が激しく為替介入を
行ったのには、2003年から2004年にかけてであり、総額
で33兆円に及ぶ介入を行っているのです。しかし、今回の円高
においては、米に歓迎論が出ているというのです。
 「円キャリー取引」というものがあります。日本は低金利が長
く続いているので、円で資金を借りて外貨で運用する取引を米国
のヘッジファンドなどがさかんにやっていたのです。
 しかし、ある程度長期的に見ると、日本の低金利は円高が進行
することによって調整され、海外の高い金利で運用しても、円に
戻すときに為替差損を被るのです。したがって、日本国内で運用
したのと同じことになるのです。
 つまり、海外との間で金利差のある状態での長期間にわたる円
安進行は本来あり得ないのです。しかし、日本は頻繁に為替介入
をやるので、円安が進行することになります。
 ヘッジファンドは、日本の場合は低金利を利用して外貨で運用
してもある程度の円高になると、介入してくれるので、安心して
投機的取引ができるのです。こうして投機が正当化される結果と
なるのです。
 そして、こういう取引が頻繁に行われると、円安を加速させ、
やがて円安バブルを生むことになるのです。もし、為替レートそ
のものがバブルであれば、それによって支えられてきた日本企業
の収益もバブルだったということになりかねないのです。
 これに関連して、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授で
ある野口悠紀雄氏は、円キャリー取引とサブプライムローン問題
とは関係があるとして、自著で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際、アメリカが04年6月に利上げに転じ、以後6回も利上
 げを続けたにもかかわらず、長期金利は上昇しなかった。これ
 は、アラン・グリーンスパンが議会証言で「謎」と呼んだもの
 だが、円キャリーによって巨額の資金がアメリカに流入したか
 らだと考えれば、つじつまが合う。実際、サブプライムローン
 が顕著に増加したのは04年から06年にかけてであり、円キ
 ャリーの拡大とほぼ同時期だ。つまり、日本の金融緩和がアメ
 リカの住宅バブルをあおったと言えるのである。
 ――野口悠紀雄著、『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』
                     ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうやら、これらの為替介入に関しては日米でいろいろな密約
があるのではないかということがさかんにいわれています。その
一端は、前号の植草一秀氏のレポートを読んでいただければわか
ると思うのです。
 そのような密約があるのではないかと思われることは、日本の
外貨準備高を見ると、そこに何かが見えてきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  2001年04月 ・・・・・・   3626憶ドル
  2002年09月 ・・・・・・   4009憶ドル
  2004年03且 ・・・・・・   8266億ドル
  2008年07月 ・・・・・・ 1兆0047億ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 外貨準備というのは、中央銀行の外国為替市場での介入によっ
て蓄積されるのです。過去のドル買い介入の累計が外貨準備にな
るのです。外貨準備の大半は米国国債で、その金利収入も外貨準
備に蓄積されていきます。
 これによると、2004年3月末では、外貨準備は2002年
9月末時点から倍増しているのです。この間に何があったのかに
ついて、植草一秀氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2002年9月末の内閣改造で竹中平蔵氏がそれまでの経財相
 に加えて金融相を兼務することになった。ここから株価暴落誘
 導とその後の「りそな銀行」救済が実行される。日本の資産価
 格を暴落させて日本人資産所有者による優良資産投げ売りを誘
 導したことになるが、投げ売りされた優良資産を買い占めたの
 は外国資本だ。「大銀行が大きすぎるから破たんさせない政策
 をとらない」と明言していた政策が全面転換された。小泉政権
 は「りそな銀行」を2兆円の公的資金投入により救済した。こ
 れを契機に株価は急転上昇に転じた。外国資本は労せずに莫大
 な利得を得た。外国資本は2003年から2005年にかけて
 日本の優良実物資産を強烈な勢いで買い漁った。
           ――植草一秀の「知られざる真実」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はこの「りそな銀行」処理には大きな疑問があるのです。こ
れについては改めて詳しく取り上げます。そこには底知れぬ深い
闇があるような気がします。
 このように、円の価値はかなり円安に誘導されており、本当の
価値はどのレベルかはっきりしないのです。それは少なくとも1
ドル=100円以下ではあり得ないと思います。米国の力が誰の
目にも明らかに落ちてきている現在、日本は円の本当の価値を受
け入れるべきです。     ――[円高・内需拡大策/03]


≪画像および関連情報≫
 ●円キャリー取引とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  円キャリー取引は、金利の低い「円」を借りて、金利の高い
  国に投資し、その金利差によって利益を得るものです。円キ
  ャリー取引の中でも、かなり一般的になっているのが「FX
  (外国為替証拠金取引)」でしょう。これは一定額の「保証
  金」を元手に他国の通貨を買い、為替レートの変動を利用し
  て利益を得るもので、円キャリー取引としては、個人投資家
  には参入しやすいものと言えます。このFXは、近年の法整
  備や「くりっく365」の登場によって、より安全で透明な
  取引となりました。
      http://www.greent.to/fxweb/2007/01/post_17.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

野口悠紀雄氏の本.jpg


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2008年11月07日

●「円の本当の価値は『1ドル=79円』」(EJ第2446号)

 小泉政権の2003年頃からは少しずつ、2005年からは明
確に統計的には景気は回復に向かっています。実感はないものの
数字的にこれははっきりとあらわれています。
 これによって「構造改革の成果が実って、日本は長い不況のト
ンネルを抜け出し、新しい成長をはじめた」といわゆる構造改革
派(上げ潮派)は胸をはったものです。また、日本の企業は厳し
いリストラ努力と必要な改革を行って、生産性を向上して強くな
ったともいわれたのです。
 しかし、これは本当でしょうか。
 なぜなら、景気回復といっても一般生活者にとってその実感は
ゼロに等しいし、企業の力が強くなったといっても、それは一部
の輸出関連企業に限定されているのです。野口悠紀雄氏はこれに
ついて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、本当に日本企業の体質が強くなったのであれば、特に
 他社製品との差別化により付加価値を高める「非価格競争力」
 を獲得していたのであれば、日本企業には直接かかわりのない
 サブプライムローン問題で日本の株価が簡単に崩壊してしまう
 のは、おかしいのではないか?      ――野口悠紀雄著
          『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』
                     ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 野口氏は、添付ファイルの2つのグラフによって、日本経済の
実態は旧態依然のままであり、日本の金融当局が行う異常な金融
緩和策と円安誘導に助けられて輸出関連企業の収益が増加しただ
けであることを示しています。
 添付ファイルの「図1」を見てください。これは実効為替レー
トによって、円レートを見たものです。「実効為替レート」につ
いては後で説明するとして、まずはグラフ自体を見ていただきた
いと思います。
 このグラフは、1973年3月を100として、実効為替レー
トで円レートの推移を見たものです。グラフが上昇すると、「円
高」であり、下降すると「円安」になります。
 1985年はプラザ合意の年であり、そこから円レートは急速
に上昇し、上下するものの、1995年には一番高くなります。
あの歴史的ともいえる1995年4月19日の「1ドル=79円
75銭」を示しているのです。
 しかし、その後円レートは下降し、2005年には1985年
のプラザ合意のレベルまで、円レートは円安になっています。こ
れは長年にわたる金融緩和と低金利政策による円安誘導の賜物と
いってよいと思います。別に構造改革によって日本経済の実態が
変化したわけでも何でもないのです。
 この円安の成果は、株価にはっきりと反映されています。「図
2」を見てください。これは、1991年以降の日米平均株価の
推移をあらわしています。小泉政権が発足する前後から急速に下
降していた株価が2003年ごろから上昇に転じ、米国平均株価
を上回り、2007年には頂点に達しています。
 自民党の構造改革派(上げ潮派)の人は、これをもって「構造
改革による景気回復」であるといっていますが、これは遮二無二
円安誘導を行った結果に過ぎないのです。そこに何となく釈然と
しないものがただよっているのです。
 ここで、「実効為替レート」について説明しましょう。
 「実効為替レート」は、特定の2通貨間の為替レートを見てい
るだけでは分からない為替レート面での対外競争力を、単一の指
標で総合的に把握しようとするものです。
 例えば、単に「円高」といっても、円が米ドルに対してのみ上
昇している場合と、多くの他通貨に対して上昇している場合――
「円の独歩高」という――とでは、円と米ドルの2通貨間の為替
レートが同一でも、日本の価格競争力、ひいては貿易収支などに
与える影響が異なってきます。
 こういうときに使うのが、「実効為替レート」です。したがっ
て、このグラフで「円安」であれば輸出は好調になり、関連企業
の株価は高くなるのです。
 それでは、現在の円の本当の価値は現在どのくらいなのでしょ
うか。考えてみることにします。
 一番わかりやすい説明法は「ビッグマック指数」を使う方法で
す。ビックマックを知らない人はいないでしょうが、一応説明し
ておくと、ビッグマックは、ファーストフードチェーンのマクド
ナルドが販売している大型のハンバーガーの商品名です。
 このビックマックを使う指数は、英国の経済誌である「エコノ
ミスト」が考え出したものなのです。ビックマックは同じ商品が
全世界で販売されているので、使いやすいのです。
 東京都内で販売されているビッグマックの現在の価格は、税込
みで290円、課税前価格では276.19 円です。他方、ニュ
ーヨークのマンハッタンでは、課税前価格で3.49 ドル――そ
こで、課税前価格が日米で同一になるような為替レートを求める
と、1ドル=79.14 円となるのです。
 野口悠紀雄氏によると、経済学ではビックマック指数のような
考え方に基づいて算出される為替レートを「購買力平価」と呼ん
でいるのです。しかし、その算出には、ビッグマックのような単
一商品ではなく、物価指数を用いることになっています。
 「1ドル=79円」――これが本当の円の価値であるのかもし
れません。それを今まで長年にわたって、相当の無理を重ねて介
入などによって、円の価値を下げる円安誘導をしてきたのです。
 2008年3月以降、円が100円を超えることが多くなって
おり、この記事を書いている11月3日時点でも、円が100円
を超える状態が続いています。
 そろそろ日本は「円高」を当然のこととして受け止め、それを
ベースとする経済成長を本気で考える時代になっているのではな
いでしょうか。       ――[円高・内需拡大策/04]


≪画像および関連情報≫
 ●「ビッグマック指数」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ビッグマック指数は、各国の経済力を測るための指数。マク
  ドナルドで販売されているビックマック1個の価格を比較す
  る。イギリスのの経済専門誌『エコノミスト』によって考案
  された。ビッグマックはほぼ全世界で同一品質のものが販売
  され、原材料費や店舗の光熱費、店員の労働賃金など、さま
  ざまな要因を元に単価が決定されるため、総合的な購買力の
  比較に使いやすかった。これが基準となった主な理由とされ
  る。                ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●「図1」「図2」の出典
  ――野口悠紀雄著『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』
                     ダイヤモンド社刊

実効為替レート.jpg
実効為替レート


日米平均株価の推移.jpg
日米平均株価の推移


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2008年11月10日

●「巨額の外貨準備は円高拒否のサイン」(EJ第2447号)

 「上場企業今期26%減益」――2008年11月8日の日本
経済新聞のトップ記事の見出しです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 上場企業の業績が一段と悪化する。2009年3月期の連結経
 常利益は前期比26%減と、8月時点の予想(8.6 %減)に
 比べ減益幅が大幅に拡大する見通しだ。失速が目立つのは前期
 まで6期連続増益をけん引した製造業。世界的な景気減速や急
 激な円高で下期は減収になる可能性が出ており、企業収益は転
 機を迎えている。
     ――2008年11月8日付、「日本経済新聞」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この記事を見ると、急速な「円高」が製造業を中心に企業業績
をむしばみ始めていることがわかります。このような記事を読む
と、「円高」という言葉に不吉なものを感じてしまいます。
 しかし、円高のどこが悪いのでしょうか。「円安」ならどうい
う点が良いのでしょうか。
 税の問題を無視して、例のビックマックの例でもう一度考えて
みましょう。
 非現実的な話ですが、東京で276円で購入したビックマック
をニューヨークに持って行って売るとします。ニューヨークでは
ビックマックは3.49 ドル、「1ドル=100円」のレートで
日本円に直すと349円――73円儲かることになります。
 もっともビックマックは食品であり、ニューヨークまで持って
行くと品質が劣化して実際には売れませんが、製造業の製品であ
れば、こういう取引はできることになります。
 仮に製品やサービスの価格の比率が日米で同じあるとして、自
動車はビックマック1万個分と決まっているとします。そうする
と、日本で276万円の車が米国では3万4900ドルになり、
「1ドル=100円」のレートで349万円、73万円の利益が
出ることになります。よい商売です。このようにして日本の自動
車産業の利益は増加し、それによって株価は上昇することになり
ます。サブプライムローン問題が起きるまで、トヨタ自動車をは
じめとする日本の自動車産業の収益が大きく向上したのは、こう
いう「円安」のメカニズムが働いたからです。
 このように輸出関連企業のトップは円高は困るので、政府のプ
ロジェクトなどに積極的に参加し、政府寄りのポジションを築こ
うとします。実際に政府は、今までは少しでも「円高」になると
巨額の資金を使って市場に介入し、円安に誘導をして、輸出関連
産業を守ってきたのです。
 しかし、円安になるということは、日本人が貧しくなることを
意味しているのです。1995年前後のことですが、円高のおか
げで、今までは大金持ちしか泊まれなかった海外の高級ホテルに
泊まることができたし、外国からの輸入品も安く買うことが可能
であったのです。つまり、それだけ豊かになったわけです。
 しかし、サブプライムローン問題が起きる前までは海外旅行を
するとホテル代や食事代を非常に高く感じていたのです。これは
円安であったからです。つまり、円安は日本国民を貧乏にし、逆
に円高は豊かにするのです。
 しかし、円安による貧しさというものは、日常生活では実感が
湧かないのです。これまでの日本のマクロ経済政策は、一貫して
円安方向にシフトしていたのですが、日本人はそれが正しい方向
だと思ってしまったのです。
 日本はこれまで10年以上にわたって円安を続けているのです
が、日本国民でそれを批判する人は少なかったのです。輸出関連
企業に限ってのことですが、円安による企業業績の拡大を歓迎し
て株価が上昇して、何となく安心していられるからです。実際に
2007年夏までは株価は高値を続けていたのです。
 そして、今回のように円高になって株価が下落すると、心配に
なる人が増えて、円安を望むようになります。円高・株安は人々
の不安要因になり、景気は一層冷え込むことになります。
 しかし、よく考えてみると、これは少しおかしな話なのです。
というのは、円安のコストは日本国民が払っているからです。そ
れでいて、国民はそれに気がついていないのです。国民の犠牲に
よって輸出関連企業が栄えているといってもよいからです。
 2000年は「1ユーロ=約89円」――これは最安値だった
のですが、昨年まではこれが2倍以上になっていたのです。そう
すると、ヨーロッパ旅行をすると、ホテルや食事代が非常に高い
し、国内でもヨーロッパのブランド品や自動車、ワインなどはと
ても高くなっています。ちなみに、11月8日現在は「1ユーロ
=124円67銭」となっています。
 ところで、EJ第2445号でも述べましたが、日本の外貨準
備高は、今年の7月時点で1兆ドルを超えています。約100兆
円ということになります。これはあまりにも巨額です。
 本来変動相場制の下では、外貨準備は不要なのです。なぜなら
国際収支の不均衡が発生すれば、為替レートが変化して調整をす
るからです。しかし、巨額の外貨準備を持つことは、為替レート
の自動調整機能を拒否していることになります。ちなみに米国の
外貨準備高は日本の10分の1以下程度です。
 したがって、巨額な外貨準備を持つということは、海外に向け
て次のメッセージを出していることになるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        日本政府は円高を望んでいない
―――――――――――――――――――――――――――――
 このメッセージは、日本国内も含む全世界の投資家に対して、
円から外貨に転換して運用しても、為替差損をかぶる恐れはあり
ませんよという意味になるのです。これは、世界中に投機取引を
煽っていることと同じです。
 したがって、今回のサブプライムローン問題と日本の外貨準備
高は無関係ではないのです。円キャリー取引で、欧米の住宅バブ
ルに一役買っているのです。 ――[円高・内需拡大策/05]


≪画像および関連情報≫
 ●外貨準備高とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  金融当局は、対外債務の返済、輸入代金の決済のほか、自国
  通貨の為替レートの急変動を防ぎ、貿易等の国際取引を円滑
  にするために、外貨準備を行なう。完全な変動相場制の場合
  基本的には中央銀行が為替市場へ介入しないため、国際収支
  は0となり外貨準備は変動しない。しかし、急激な為替変動
  などに際して為替収入する場合には外貨準備が変動する。例
  えば、急速に円高が進展する場合に、それを緩和しようとし
  て円売りドル買い介入(円安介入)を行なうと、結果的にド
  ルの保有額が増え外貨準備が増大することになる。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ビックマック.jpg
ビックマック
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2008年11月11日

●「なぜ円高が進んでいるのか」(EJ第2448号)

 日経平均株価がなかなか上昇に転じないでいます。日経平均株
価は、2007年夏以来下落しているのです。事実をはっきりと
確認することにします。
 添付ファイルの「図1」を見てください。これは2008年の
初めの値を1として、日米の株価を比較したものです。これを見
ると、ダウ平均は1%上昇しているのに対し、日経平均は約4%
落ち込んでいます。
 サブプライムローン問題の影響は日本については軽微だといわ
れていますが、株価が沈没しかかっているのは米国ではなく、日
本なのです。これはどうしたことでしょうか。
 期間を少し長く取って観察します。「図2」を見てください。
このグラフは、2007年4月下旬を1として日米の株価を比較
したものです。
 これによると、2008年4月下旬の日経平均は、前年同期と
比較すると、20%以上下落しているのに対し、ダウ平均はほと
んど回復していることがわかります。どうしてこういう結果にな
るのでしょうか。
 この日経平均株価の下落について、日本の金融当局やエコノミ
スト、評論家が次のようなことをいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.米景気後退による輸出減少が原因である
    2.改革の後退による日本売りが原因である
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の「米景気後退による輸出減少が原因である」について考
えてみます。
 誰でも考えるのは、米国の景気後退で日本の輸出が減少して株
価が下がるという考え方です。サブプライムローンの破綻で、米
国の住宅建設や個人消費が大きく落ち込み、それが景気後退をも
たらし日本からの輸出を減少させ、株価の下落につながるという
ものです。
 しかし、米国に対する輸出は、輸出総額の約23%程度に過ぎ
ないのです。GDPに対する比率ではわずか3%です。したがっ
て、これが多少減少しても株価にそれほど大きな影響が出るとは
考えられないのです。
 第2の「改革の後退による日本売りが原因である」について考
えてみます。
 小泉・竹中改革派の流れを汲む人たち――上げ潮派というべき
でしょうか――そういう人たちがよくいう次の分析があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の株価下落の原因は、改革機運の後退に失望した外国人
 投資家が日本株を売却している
―――――――――――――――――――――――――――――
 一見すると、もっともらしく聞こえます。しかし、これについ
て野口悠紀雄氏は、もし外人投資家の日本売りが原因なら、円が
売られるので、円安が進行するはずである。しかし、2007年
夏以降は激しい円高なっている。したがって、改革の遅れによる
外人投資家の失望売りというのは考えられないというのです。
 それに「改革後退に失望して」といいますが、小泉・竹中改革
とは、せっかく戦後の日本が創り上げた貴重なものを破壊して、
格差社会にしただけの改悪であり、外人投資家が後退を失望する
ような優れた改革ではないのです。言葉だけのスローガンです。
 上記の1でも2でもないとすると、日本の株価が下がったのは
何が原因でしょうか。
 野口悠紀雄氏は、それは日本の異常な円安のせいであるとして
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年夏以降の株価下落は、サブプライムローン問題が引
 き金になって、国際的な投機資金の流れが変わり、これまでの
 異常な円安が正常なレベルに戻りつつあることによって引き起
 こされた。つまり、株価下落の主要な原因は、「無理のある円
 安をこれまで続けてきた」という日本側の事情なのである。だ
 からこそ、日本株のほうが下落が激しいのだ。過去数年間、長
 期的には継続しえない円安バブルに支えられて、日本はなんと
 か景気回復を実現できた。しかし、そのバブルは崩れた。現在
 起こつているのは、バブルがなければ実現していたであろう状
 態への回帰にすぎない。遅かれ早かれそうなっただろう状態が
 サブプライムローン問題をきっかけにして現実化しているにす
 ぎないのだ。これを「アメリカの影響だ」というのは、「問題
 は日本の経済政策ではない」とする責任転嫁である。
  ――野口悠紀雄著『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』
                     ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年夏以降の日経平均の動きを見ていると、株価と為替
レートは完全にリンクしているのです。したがって、日本の株価
の下落は、異常な円安が正常なかたちに戻りつつあるためのもの
であって、日本サイドの事情によるものなのです。
 円高が起きている理由は、サブプライムローン関連投資で損失
が生じ、それに加えて米国が利下げを行ったために日本との金利
差が縮小し、欧米諸国の投資ファンドは投資資金の回収をはじめ
たからです。これは「円キャリー取引の巻き戻し」といわれる現
象です。
 日本銀行のレポートによると、2007年前半までは、円キャ
リー取引が円安の原因になっていたが、後半になると、それが逆
転をはじめたのです。円が増価する一方で、ニュージランド・ド
ルや豪ドルが減価したのです。これは「円キャリー取引の巻き戻
し」の結果なのです。
 今まで円安の原因になっていた日本の投資家による投資信託を
通じての対外証券投資は続いているものの増加率は大幅に低下し
FX取引も減少し、円高に貢献しています。現在の円高は円安バ
ブル崩壊の結果なのです。  ――[円高・内需拡大策/06]


≪画像および関連情報≫
 ●為替と株価の関係
  ―――――――――――――――――――――――――――
  為替相場の動向には、多くの銘柄の株価が強い相関をもって
  います。例えば、電気・電子関連,ハイテク株,自動車株な
  どの輸出関連株であれば、円高が株価にマイナス要因として
  働くことが多いでしょうし、電力株やガス株などの内需関連
  株は、コスト減から株価にプラス要因の連想を呼ぶことが多
  いようです。
  http://puffett.web.infoseek.co.jp/column/news/n02.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●「図1」「図2」の出典
  ――野口悠紀雄著『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』
                    ダイヤモンド社刊

2008年の日米株価の推移.jpg
2008年の日米株価の推移


日米株価の1年間の推移比較.jpg
日米株価の1年間の推移比較
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2008年11月12日

●「米国民は「変化」を求めている」(EJ第2449号)

 2008年11月4日――米大統領選で「CHANGE」を求
めた民主党候補のオバマ上院議員が、共和党のマケイン候補を大
差で破り、第44代米大統領に決定しました。これはひとつの米
国の終りであり、これによって世界経済は大きな時代の転換点を
迎えることになります。まさしく「CHANGE」です。
 今までひたすら円安を求め、輸出立国を目指してきた日本もま
た大きな転換点に立っているといえます。これまでのように日本
は米国の後ろについて行くという姿勢では駄目なのです。
 かつて「円安」は海外からは非難の対象だったのです。米国の
自動車業界は「日本の自動車が米国の自動車産業の雇用を奪って
いる」として、激しいジャパン・バッシングが巻き起こったもの
です。1985年の「プラザ合意」も自動車業界の圧力によって
行われたといわれているのです。
 プラザ合意は、「円安/ドル高」を「円高/ドル安」に誘導し
ようとするものであったといえます。このプラザ合意によって、
円高になり、日本は不況に苦しむことになります。
 しかし、その後20年にわたる円安誘導によって、2007年
にはいつの間にかプラザ合意直前のレベルの円安になっていたの
ですが、これに対する海外からの批判は一切なかったのです。こ
れには、次の2つの理由があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
1.日本はもはや製造業の輸出国として注目されていないこと
2.先進国の経済構造が製造業中心から脱却してしまっている
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の理由は「日本はもはや製造業の輸出国として注目されて
いないこと」です。
 現在世界が製造業の輸出国として注目しているのは、日本では
なく、中国なのです。したがって、円安で日本の輸出が伸びても
世界にとってはもはや大した問題ではなくなっているのです。
 第2の理由は「先進国の経済構造が製造業中心から脱却してし
まっている」です。
 米国には自動車産業は残っていますが、もはや衰退産業になっ
ているのです。現在の米国はIT産業における若い、革新的な企
業の成長によって支えられているといってよいのです。
 そのIT産業もモノ作りの部門からソフトウェアの部門へ重点
が移っているのです。その象徴的な出来事が、IBMがPC事業
を中国企業レノボ――聯想に売却した出来事です。もはやハード
ウェアで勝負する時代ではなく、付加価値の高いソフトウェア部
門に重点が移っているのです。
 欧米主要国の経済全体に占める製造業の比率は日本では20%
程度ですが、米国、英国では半分の10%程度です。英国は製造
業が弱体化したのですが、金融業が成長して経済全体を活性化し
て、国を支えているのです。
 1970年代から80年代にかけて米国は、エレクトロニクス
自動車、半導体などが経済の牽引車になって輸出産業という形で
発展して行ったのです。しかし、そのときには既に次の時代の担
い手が育ちつつあったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1970年代の終わりから80年代にかけてアメリカの優秀な
 人材の養成校であるMIT(マサチューセッツ工科大学)やス
 タンフォード大学の工学部、さらにスタンフォード大学やハー
 バード大学などのビジネススクール(経営学大学院)を卒業し
 た学生の就職先が大きく変化しました。彼らはソフトウェア、
 通信技術、バイオテクノロジーという3つの新しい業種にこぞ
 って就職しました。そして反対に自動車や鉄鋼といった既存の
 主要産業には人材か集まらないという現象が起きたのです。
    ――原 丈人著、『21世紀の国富論』より/平凡社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、企業家も先を読む資本家も上記3つの分野――ソ
フトウェア、 通信技術、バイオテクノロジー、すなわち、より
付加価値の高い分野に飛び込み、成果を上げていったのです。し
かし、2000年にそのITバブルも崩壊し、米国経済は大きな
壁にぶつかってしまいます。
 ネットバブルの崩壊後、2001年には全米売り上げ第7位の
エンロンが不正会計の発覚によって破綻し、さらに2002年に
は、米国の大手通信会社のワールドコムの粉飾決算が発覚し、米
国史上最大の経営破綻が起こります。
 このあたりから米国は少しずつおかしくなっていくのです。こ
の時点で既に米国では、出資した企業の株を株主が長期的に保持
し、その成長を見守るという前提が崩れ、株式市場の大部分は、
日々の投機によって動くようになっていったのです。株主の多く
は短期的に株価を吊り上げて高値で売り抜けるという一種のマネ
ーゲームと化していったのです。明らかに資本主義が暴走をはじ
めたといえます。
 株式市場は次世代を牽引する産業が何であるかを特定できない
まま、大幅な金融緩和を背景として、特殊な金融技術を駆使する
見せかけの繁栄を追い求めているようにみえます。そして、その
当然の帰結として、詐欺的手法同然のサブプライムローン問題が
起こり、住宅バブルが崩壊して現在の深刻な金融危機を発生させ
たのです。
 こういう状況において、米国民は新しい時代のリーダーとして
オバマ上院議員を次の大統領に選んだのです。米国の「変化」を
求めてオバマ上院議員を選んだのです。そういう意味において米
国民は、ブッシュ政権時代の小さい政府を前提とする「市場原理
主義=新自由主義」のチェンジを求めていると思われます。
 日本にも「変化」が求められています。問題は何をどう変える
べきかということです。小泉・竹中政権によって何が破壊され、
現状はどうなっているのかについて分析する必要があります。
 日本は現在、どういうポジションにあるのでしょうか。次回か
ら考えていきます。     ――[円高・内需拡大策/07]


≪画像および関連情報≫
 ●プラザ合意とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プラザ合意とは、1985年9月22日、NYのプラザホテ
  ルに集まった会合で決定した外国為替市場での協調介入を行
  うことの合意。アメリカの呼びかけで、当時の先進5ヵ国、
  (日・米・英・独・仏=G5)の大蔵大臣・財務長官と中央
  銀行総裁が参加。具体的には各国がドル安に向けて協調行動
  つまりドルに対して参加各国の通貨を一定の幅で切り上げる
  こと、その方法として参加各国が外国為替市場で協調介入を
  行うという内容。         ――政治・経済用語集
 http://kw.allabout.co.jp/glossary/g_politics/w007624.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

原丈人著『国富論』.jpg

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2008年11月13日

●「超資本主義の行き着く先」(EJ第2450号)

 現在、われわれの国である日本は、どういうポジションに立っ
ているのでしょうか。このことを理解しないで、今後の日本の進
むべき道を明確にすることはできないと思います。
 米国ではまもなく共和党のブッシュ政権(ジョージ・W・ブッ
シュ)は終わろうとしています。ブッシュ政権の8年間において
世界の超大国米国という国はなんとなくボロボロになってしまっ
たような気がします。世界に冠たる強力な軍事力と経済力を持つ
米国――しかし、軍事力はアフガンとイラク戦争で疲弊し、経済
力――ドルの覇権も今回の金融危機で失速寸前です。
 その米国に何をいわれてもひたすらついていった日本も、ブッ
シュ政権の8年間で、最大の売りであったはずの世界第2位の経
済大国のいろいろな面に歪みがあらわれてきています。ちょっと
考えても、年金・介護・医療、そして雇用――社会生活の重要な
局面に大きな問題が露呈してきています。
 ブッシュ政権の8年間のうちの5年間――日本では小泉政権が
まるで肩を並べるように続いていたのです。残りの3年間は、安
倍政権、福田政権、麻生政権と実に3政権が続いていますが、い
ずれも影が薄く、基本的に小泉政権の延長と考えても間違いでは
ないでしょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ブッシュ政権
   2001年1月26日〜2009年1月20日
   小泉政権
   2001年4月26日〜2005年9月26日
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国のブッシュ政権と日本の小泉政権――これら日米2つの政
権は何を目指してここまでやってきたのでしょうか。
 米国民は、ブッシュ政権に「NO」を突きつけ、オバマという
若いリーダーを選択したのです。人種と政党の2つのかべを乗り
越えてです。これに対して日本は今後どうするのでしょうか。そ
れを論ずるには、小泉政権――小泉・竹中構造改革が何であった
のかという総括をすることが不可欠であり、まず、このあたりか
ら明らかにしていきたいと思います。
 ロバート・B・ライシュという人がいます。この人は、クリン
トン政権のときの労働長官をしていたのですが、現在はカルフォ
ルニア大学バークレー校で教授をしています。このライシュ教授
が、2008年6月に次の本を上梓して話題になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ロバート・B・ライシュ著/雨宮寛・今井章子訳
   『暴走する超資本主義』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 ライシュ氏は、次期大統領であるオバマ氏の政策顧問でもあり
オバマ政権がどのような政策を実施するかを予測する意味で貴重
な本であるともいえます。
 ライシュ氏は、1970年以前の資本主義――資本主義と民主
主義が共存共栄していた時代と区別して、1970年代の石油危
機後に起こった自由市場資本主義のことを「超資本主義――スー
パー・キャピタリズム」と呼んだのです。
 ライシュ氏は、1970年以降、世界は米国を中心とする超資
本主義に巻き込まれ、民主主義は変質して現代に至っている――
現下の金融危機はまさにその帰結であると主張しているのです。
 「超資本主義」についてはいずれ詳しく述べますが、ライシュ
氏は、上記著書の冒頭で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 先に私の論旨を述べてしまうと、問題が過度に単純化される恐
 れがあるが、ここで私の基本的な考え方を示しておきたい。そ
 れは、過去数10年の間、資本主義は私たちから市民としての
 力を奪い、もっぱら消費者や投資家としての力を強化すること
 に向けられてきたということである。
      ――ロバート・B・ライシュ著/雨宮寛・今井章訳
          『暴走する超資本主義』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中で「市民としての力を奪い、もっぱら消費者や投資家と
しての力を強化する」とはどういうことでしょうか。
 ここでは、「消費者」「投資家」「市民」という3者の言葉の
使い分けがなされています。すなわち、「消費者」は価値あるも
の――お買い得品を低価格で求める存在であり、「投資家」はい
うまでもなくひたすら利益を求める存在、そして「市民」は公共
の利益を求める存在としてとらえられ、民主主義を代表する言葉
として使われています。
 かつての古き良き時代――資本主義と民主主義が共存共栄して
いた時代においては、独占やトラストによって企業の利益は安定
し、CEO(企業経営者)は労働組合との交渉によって労働コス
トの上昇を価格に転嫁することが容易であったのです。
 また、この時代には、企業経営者は公共性の高い「ステーツマ
ン(政治家)」であり、自社の利益にならないような場合であっ
ても、国家的利益の向上のため、社会制度の実現に積極的に関与
する――1970年以前はそういうことができたのです。
 しかし、1970年以降になると、この状況は一変してしまい
ます。それは、消費者や投資家が企業を直接コントロールするよ
うになったからです。人々は投資家として経営者にリストラを求
めると同時に消費者としてウォールマートの低価格を選ぶという
行動をとります。
 一方、市民としては企業に「社会的責任」を求め、地元の商店
街がさびれるのを嘆いたりする――彼らは消費者や投資家と、地
域の市民に分裂しているのです。しかし、市民――民主主義の力
は相対的に弱くなってきているのです。
 民主主義が弱まりつつある資本主義――これがどれほど危険で
あるかについてライシュ氏は警鐘を鳴らしているのです。日本も
その危機に中にあるのです。 ――[円高・内需拡大策/08]


≪画像および関連情報≫
● ロバート・B・ライシュ氏について
―――――――――――――――――――――――――――
  1946年米国ペンシルベニア生れ。ダートマス大学卒。オ
  ックスフォード大学大学院経済学修士課程修了。ハーバード
  大学ケネディ行政大学院教授、クリントン政権で労働長官を
  務める。『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ』では、経済の
  グローバル化にともない、国家を代表するような中核的大企
  業は実質的にもはや存在せず、「グローバル・ウェブ(地球
  大のクモの巣状の柔軟な企業組織網)」が存在する。これを
  動かし、高付加価値を創造するのは、大企業経営者でなく、
  情報、文化、言語、音楽、映像などを操作する「シンボリッ
  ク・アナリスト」だという。二十一世紀を考える指導者は、
  「シンボリック・アナリスト」を育てるシステムをつくるべ
  きだと主張する。        ――PHPインフェース
  ―――――――――――――――――――――――――――

ライシュ氏の本.jpg
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2008年11月14日

●「大きな政府復帰か/本格的変化」(EJ第2451号)

 米国のサブプライムローン問題に端を発する今回の世界を巻き
込む金融危機に対してブッシュ大統領は次のような声明を出して
います。2008年9月19日のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国経済は前例のない困難に直面しており、われわれは前例の
 ない手段で対応する。 ――2008.9.20付、朝日新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで問題となるのは、「前例のない手段で対応する」という
表現の意味なのです。これは、今まで行ってきた経済運営の仕組
みを根本から変えるということなのでしょうか。それとも、あく
まで非常時の対応なのでしょうか。
 海外メディアによると、米国政府のこの声明は1970年以降
米国が推進してきた「小さな政府」を前提する経済システム――
経済システムを自由市場資本主義化する革命からの体制変換を意
味しているといいます。
 米国が総合金融安定化法を実行するというのは、市場経済を抑
制し、規制を強化する「大きな政府」の政策を行うことを意味し
ているので、明らかに体制変化であるといえます。
 いや、あるいは米政府はその時点では、経済システムの体制変
化ではなく、あくまで非常時の対応であると考えていたかもしれ
ません。しかし、大統領選の結果、次期大統領がオバマ上院議員
に決定したことによって、体制変化は不可避のものになったと考
えられます。まさにCHANGEです。
 まして現にオバマ氏の政策顧問を務めるロバート・ライシュ氏
は、昨日のEJで述べたように、超資本主義――民主主義が弱ま
りつつある資本主義の弊害に対して警鐘を鳴らしている人物なの
です。オバマ氏は、今までのやり方を一気に変えてこの危機を乗
り切るはずです。こういう世界経済大混乱のときに日本の麻生政
権は何をしているのでしょうか。
 1970年以降、ライシュ氏のいう超資本主義はどのように世
界に拡大していったのかについて述べます。
 1970年代末に英国ではサッチャー政権が誕生し、それに続
いて、1980年代はじめに米国ではレーガン政権が登場し、と
もに新自由主義革命――経済システムを自由市場資本主義化する
革命を米英で強力に推進したのです。
 レーガン政権発足と歩調を合わせて、日本では中曽根政権が、
日本としての確たる考えもなく、米英の自由市場資本主義の道を
歩み始めたのです。当時のレーガンと中曽根は「ロン・ヤス」関
係を演出したものの、この時点で日本は従米国家として米国の世
界戦略の中に組み込まれたといえます。
 1980年代になると自由市場資本主義は欧州に拡大したので
すが、それは1990年代の初めにソ連が崩壊すると、一段と急
ピッチで世界中に広がったのです。資本主義対共産主義の戦いで
資本主義が勝利を収めたからです。
 その結果、ソ連とかつてソ連の支配下にあった東欧諸国も米国
の自由市場資本主義を受け入れ、さらに米国主導のグローバル資
本主義に共産主義の中国も参入することになったのです。
 そして2001年に登場したブッシュ政権は、911の同時多
発テロを契機に米国民の圧倒的な支持を獲得し、世界中の政治・
経済・軍事の主導権を握ったのです。かくしてブッシュ政権は、
「テロとの戦い」を掲げてアフガニスタンとイラクで軍事行動を
起こし、その一方で経済面では自由市場資本主義のグローバル化
を推進したのです。
 ライシュ氏は米国が中心となって世界中に拡大する自由市場資
本主義のグローバル化の現象を「暴走する資本主義」と呼んだの
です。そして、サブプライムローン問題が起こり、米国経済は未
曾有の衰退局面に入りつつあります。
 こうなると、米国経済は自由主義市場経済を修正せざるを得な
いところに追い込まれたのです。減税、公的資金投入など、従来
の小さい政府の路線から大きい政府の路線への転換は誰の目にも
明らかになりつつあります。
 2008年11月11日の日本経済新聞によると、IMFのス
トロスカーン専務理事は、14日から行われる金融サミットに先
立って、各国首脳に追加景気対策を要請する異例の書簡を送った
ことを伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界的に需要の急激な減少に見舞われており、追加の金融対策
 と財政政策をとるべきだ。――ストロスカーンIMF専務理事
        ――008年11月11日の日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 IMFといえば、伝統的に財政規律の厳しいところであるのに
ストロスカーン専務理事は、今回の金融危機に対しては早い段階
から「世界各国で一斉に財政出動をすべきである」と主張してい
たのです。IMFは、2009年度における日米欧の成長率は戦
後初めてそろってマイナスになるという見通しを示しており、そ
れほど危機が深刻であると訴えています。
 それなのに麻生政権は、選挙に不利になるからと依然として財
政出動をためらい、埋蔵金で対応するなどといって世界の失笑を
買っている有様です。
 フリー国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏は、最近の日本に
ついて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の衰退は、軍産複合体の衰退である。今の日本は、米国内
 の一部の勢力だけに賭け、全体像が見えていない。日本は非常
 に危険な状態にある。国家や国民の姿勢としても、米国という
 強者(いじめっ子ジャイアン)の後ろについていけば安泰だと
 いう姿勢は不健全である。しかも、その強者が崩壊しかかって
 いるのに気づかずゴマすりばかりやっているとなれば、なおさ
 ら不健全で格好悪い。            ――田中宇氏
――――――――――――  ――[円高・内需拡大策/09]


≪画像および関連情報≫
 ●「小さな政府」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「小さな政府」とは、経済に占める政府の規模を可能な限り
  小さくしようとする思想または政策である。アダム・スミス
  以来の伝統的な自由主義に立しており、政府の市場への介入
  を最小限にし、個人の自己責任を重視する。それを徹底した
  ものを夜警国家あるいは最小国家という。基本的に、より少
  ない歳出と低い課税を志向する。主に、保守派またはリバタ
  リアンによって主張される。     ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

当時の米英日3首脳.jpg
当時の米英日3首脳
posted by 平野 浩 at 04:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月17日

●「なぜ、反対意見を封じるのか」(EJ第2452号)

 森田実氏という政治評論家がいます。硬派の政治評論家の一人
です。私はこの森田氏の存在をテレビ朝日の「サンデープロジェ
クト」で知りました。この当時森田氏はテレビ朝日だけではなく
他局の政治番組の常連だったのです。
 この「サンデープロジェクト」という番組は1989年4月か
らはじまったのですが、そのときから一回も欠かさず見ることに
しているのです。もっとも最近のこの番組の運営にはいささか疑
問なこともありますが、私自身にとって非常に役に立っている番
組のひとつになっています。
 森田実氏ははっきりとものをいう辛口の政治評論家で、サンプ
ロの番組中でも出演している自民党の政治家とも激しい論戦を繰
り広げることが多くあったように思います。とくに小泉政権に関
しては相当シビアな見方をしており、小泉・竹中政権を強く批判
していたのです。
 その森田氏がテレビから完全に消える原因となったのは、20
05年8月9日のフジテレビの「めざましテレビ」なのです。ち
なみに、その前日の8月8日に小泉首相が郵政民営化のために衆
議院を解散しています。この番組で森田氏は、小泉の郵政解散に
ついて次のように批判しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本という国は議会制民主主義の国であり、議会が法律の決定
 権を持っている。憲法第41条は、国会は国権の最高機関であ
 って、唯一の立法機関であると規定しています。その国会が郵
 政民営化法を否決したのに内閣総理大臣が納得できないといっ
 て、国民投票に代わる衆議院選挙で決着をつけようとしたのは
 内閣総理大臣が従わなければならない国会の決定を踏みにじっ
 て、首相を国会の上に置いたことであって、これは明らかな憲
 法違反であると私は言ったのです。小泉首相は重大な憲法違反
 をしたので、直ちに責任を取るべきだという発言をしました。
                       ――森田実著
                  『崩壊前夜日本の危機/
    アメリカ発世界恐慌で岐路に立つ日本』/日本文芸社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このあと8月16日にTBSのお昼の芸能番組から出演依頼が
あったそうです。テーマは静岡7区の選挙に関わることであった
そうですが、芸能番組でもあり、森田氏としては比較的おとなし
い解説をして帰ってきたそうです。ところがその日の夕方、TB
Sのアシスタントディレクターから森田氏に電話があったそうで
す。森田氏は前掲書で次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「実は森田さんが出演された直後に、TBSの官邸記者クラブ
 の政治部記者2人が飛んできました。それで急きょ会議が開か
 れました。このあと番組のディレクターから今後は森田には依
 頼するなと言われました」と。TBSの政治部記者が官邸から
 飛んできたというのは、その記者が官邸から何かを言われたの
 だと思います。これが東京のテレビ出演の最後になりました。
 私に限らず小泉を批判し郵政民営化を批判した人はほとんどテ
 レビから一掃されました。ある意味、政界に起こつた小泉批判
 者パージがマスコミにおいても起こつたのです。1950年の
 レッドパージのようなことが起こったのだと思います。その後
 は、東京のテレビ局、東京の大新聞社は私との連絡を断ちまし
 た。              ――森田実氏の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 まるで戦前の軍国主義の時代と同じです。言論が封殺されてい
るのです。最近の政治番組を見ていると、出演している政治評論
家は、政府与党を批判する場合も慎重に言葉を選んでいるように
感じます。正面切って批判する人は少ないです。もし、批判すれ
ば報復されると考えているとしたら、世も末です。
 そういう意味で森田実氏は、はっきりと自分の意見をいう本物
の政治評論家であると思います。同様に、小泉・竹中政権を痛烈
に批判していた人に経済学者の植草一秀氏がいます。植草一秀氏
に関しても不可解なことがたくさんあるのです。現在、ネット上
では植草氏の記事でもちきりです。読んでみると、マスコミの報
道とはかなり違うことが多くあることがわかります。興味があれ
ば、次のURLをクリックしてください。
―――――――――――――――――――――――――――――
   http://news.livedoor.com/article/detail/3233768/
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉・竹中政権以来、世界ではいったい何が進行しているので
しょうか。
 われわれは「共産主義」という言葉を聞くと、漠然と警戒心を
持ちます。しかし、「資本主義」とか「民主主義」とか「自由主
義」という言葉にはそういう警戒心を感じません。それどころか
何となく安心感すら感じます。
 しかし、怖い「資本主義」や「自由主義」もあるのです。それ
が「超資本主義」です。それは既に驚くべきほど全世界に浸透し
ており、日本の新聞の論調によくあらわれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 危機を収束させるべく、世紀に一度のスケールで市場への政府
 介入が始まろうとしている。富を最大限化するには市場の力に
 委ねるのが最良であり、政府は極力手出しを控えるべきだ、と
 する米経済社会の信条を根本から覆すものだ。(中略)資本主
 義の大きな転換点としてけ歴史に残ることになるだろう。(中
 略)リスクを取って失敗した責任は自己で負う、との原則はも
 はや過去のものになった。
       ――2008年9月21日付、毎日新聞社説より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この社説を読むと、「米経済社会の信条」というものをいかに
妄信しているかわかるはずです。完全に洗脳されているといって
もよいでしょう。      ――[円高・内需拡大策/10]


≪画像および関連情報≫
 ●TVから消えた「ご意見番」森田実氏について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  テレビ東京の夜の生番組「ワールドビジネスサテライト」で
  竹中平蔵経済産業相(当時)と森田氏が討論するという予定
  で招かれたときでさえ、竹中氏は森田氏との討論を拒んだ、
  と番組のスタッフが控え室で待っていた森田氏に告げた。テ
  レビ東京・広報部は5年前の番組に関して覚えている人はい
  ないと回答し、森田氏が言う出来事は起きたように思えない
  と彼は言った。「当方のスタッフの伝え方が悪いことが原因
  となって、森田さんに誤解を与えてしまった可能性が高いよ
  うに思います・・・政権に対して批判的であるか好意的であ
  るかは人選の判断基準には含まれません」とテレビ東京広報
  部は回答した。
       http://www.asyura2.com/07/hihyo6/msg/592.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

森田実氏の本.jpg
森田実氏の本

posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(3) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月18日

●「災害資本主義というものがある」(EJ第2453号)

 ナオミ・クラインというカナダ人の女性ジャーナリストがいま
す。1970年生まれなので現在38歳という若さですが、20
00年に次の本を刊行して、世界的に名前を知られる存在になっ
たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        ――ナオミ・クライン著/松島聖子訳
   『ブランドなんか、いらない/搾取で巨大化する
            大企業の非情』/はまの出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 彼女はこの本で、標的としてナイキ、シェル、ギャップ、スタ
ーバックスなどの有名企業を選んで、まず、そのマーケティング
としてのブランド拡大戦略に対して、次に企業の進める合併戦略
によって消費者が選択肢を奪われたことに対して、最後に外部委
託、パート労働などの雇用形態にシフトする企業に仕事が奪われ
たことに対して、痛烈な攻撃を加えているのです。その結果、彼
女はグローバリゼーション反対運動の旗手として高い評価を受け
ることになります。彼女の批判があまりにも辛辣であったため、
ナイキ社では正式なコメントまで出す騒ぎになったほどです。
 そのナオミ・クラインが、2007年に上梓した本が今大きな
話題を呼んでいるのです。なぜなら、この本で彼女が標的として
選んでいるのがノーベル賞経済学者であるミルトン・フリードマ
ンであったからです。なお、この本の日本語訳は本日現在、まだ
確認されていないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 『ザ・ショック・ドクトリン/災害資本主義の勃興』
 The Shock Doctrine:The Rise of Disaster of Capitalism
―――――――――――――――――――――――――――――
 注目すべきは、この本の表題にある「災害資本主義」という言
葉です。最近兵庫県の井戸知事の「関東大震災が起きたらチャン
ス」の発言と不思議に似ているのですが、ナオミ・クラインによ
ると、何かの大災害が起こったとき――場合によってはわざと災
害を起こしたとき――そのチャンスを逃さず、一挙にラジカルな
改革を推し進めることを「災害資本主義」というのです。
 災害が起きて国民が平常心を欠いているときに、平時では実現
困難な改革――たとえば、公共の財産を民間資本に売り飛ばし、
気が付いたときは後戻りできないように恒久化してしまう――こ
のかなり乱暴なやり方をナオミ・クラインは「災害資本主義」と
名付けたのです。
 その格好の事例があります。2005年にニューオーリンズを
襲ったハリケーンによって学校が破壊されたとき、フリードマン
はブッシュ政権に対し次の提言をしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この災害を教育制度を改革する好機としてとらえ、このさい公
 共の学校の復興をやめて、私立の教育機関をつくるべきである
                ――ミルトン・フリードマン
―――――――――――――――――――――――――――――
 この主張をどこかで聞いたことはありませんか。そう、「官か
ら民へ」の発想そのものです。ブッシュ政権はフリードマンの政
策提言にどのように対応したのでしょうか。
 ブッシュ政権は、フリードマンの提言を直ちに受け入れ、公立
学校を私立学校にするための資金を数千万ドル投入して実行した
のです。ブッシュ政権というのはこういう政権だったのです。
 その結果、123校あった公立学校はたったの4校に減らされ
それとは逆に私立学校は7校から31校になり、4700人の教
師が解雇されたのです。これがフリードマン主義です。
 ミルトン・フリードマンとはどういう学者なのでしょうか。
 ミルトン・フリードマンは、「シカゴ学派」と呼ばれる経済学
を広めたことによって知られる経済学者です。フリードマンは、
最も急進的な自由市場主義者であるフリードリッヒ・ハイエクに
師事して、経済学を学びます。
 当時50年代は、ハーバード大学、イェール大学などの名門校
では、ケインズ経済学が主流であったのです。その中にあってシ
カゴ大学はきわめて異色の存在だったといえます。
 ジョン・ケネス・ガルブレイズ教授は、大恐慌の後に経済学に
ついて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  市場の凶暴性を和らげるのが、経済学の調整力である
―――――――――――――――――――――――――――――
 このガルブレイズの考え方がベースとなって、ニューディール
政策や福祉国家が出てきたのです。健康保険や失業保険などの福
祉制度がこれによって充実したのです。第2次世界大戦後におい
て、米国経済を中心に世界経済は復興し、米国は世界一の繁栄を
謳歌することになるのです。しかし、中産階級の爆発的成長は富
裕層の富を侵食するという事態も起こったのです。
 そのときシカゴ大学の経済学部は非ケインズ主義の独自の理論
を持っていたのですが、もっぱら株式投資家の道具として機能し
たのです。富裕層の牙城であるウォール街は彼らに近づき、多額
の資金供与を受けたり、多くの銀行家との付き合いもはじまった
のです。かくして、シカゴ大学は、ケインズ主義に対抗する反革
命の拠点となったのです。
 しかし、50〜60年代はシカゴ学派は権力には近づくことは
できなかったのです。しかし、やがて彼らにもチャンスは巡って
きたのです。フリードマンとかねてから親しいニクソンが大統領
になったからです。
 ニクソンはフリードマンの経済政策はよく知っていましたが、
選挙には向かないと考えたのです。ここに自由市場政策と民社主
義や平和との矛盾がはっきり出ていたのです。
 しかし、ニクソン政権はフリードマンをはじめシカゴ学派を政
権に迎え入れました。フリードマンはチャンス到来と思い、政策
を実現しようとします。   ――[円高・内需拡大策/11]


≪画像および関連情報≫
 ●フリードリヒ・ハイエクとは何者か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  フリードリヒ・アウグスト・フォン・ハイエクは、オースト
  リア生まれの経済学者、哲学者。オーストリア学派の代表的
  学者の一人であり、経済学、政治哲学、法哲学、さらに心理
  学にまで渡る多岐な業績を残したのです。20世紀を代表す
  るリバタリアリズム思想家。ノーベル経済学賞受賞。その思
  想は、後の英国のサッチャーや米国のレーガン、による新保
  守主義、新自由主義の精神的支柱となった。
                    ――ウィキペディア
 ――――――――――――――――――――――――――――

ナオミ・クライン.jpg
ナオミ・クライン
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2008年11月19日

●「フリードマンとチリのピノチェト政権」(EJ第2454号)

 昨日の続きです。ミルトン・フリードマンをはじめとする多く
のシカゴ学派を取り込んだニクソン政権――フリードマンとして
はチャンス到来と考えたに違いないのです。
 しかし、ニクソンはフリードマンの政策を実施することは問題
があると考えて、賃金と物価を抑制する政策を実行したのです。
これはケインズ政策そのものであり、シカゴ学派にとって最悪の
政策なのです。しかも、それを実行したのはシカゴ学派に近い次
の大物2人なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        ドナルド・ラムズフェルド
           ジョージ・シュルツ
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドナルド・ラムズフェルドは、ブッシュ政権の国防長官を務め
た人物です。彼はフリードマンの講義を聴講して感激し、彼を天
才学者と尊敬していたのです。ジョージ・シュルツは、レーガン
政権の国務長官を務め、ニクソン政権では労働長官と財務長官を
務めた大物政治家です。
 しかし、ラムズフェルドとシュルツが実行した賃金と物価を抑
制する政策は大成功し、ニクソン大統領は2期目の選挙に圧勝す
るのです。こういう状況を見て、フリードマンは自分の政策は民
主主義国では実施できないかもしれないと考えはじめるのです。
 ところで、フリードマンの政策とは何でしょうか。フリードマ
ンの死後に発売された本から引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 フリードマンにとっての理想は、規制のない自由主義経済であ
 り、従って詐欺や欺瞞に対する取り締まりを別にすればあらゆ
 る市場への規制は排除されるべきと考えた(自由放任主義)。
 そのため、新自由主義――ネオ・リベラリズムの代表的存在と
 される。「新」が付くのは、ダーウィン主義に影響を受けた自
 由放任論からの脱却として現れた、ニューリベラリズムに基づ
 くケインズ経済学を再び古典的な自由主義の側から批判する理
 論だからである。―ラニー・エーベンシュタイン著/大野一訳
  『最強の経済学者/ミルトン・フリードマン』/日経BP社
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、フリードマンは、基本的には「政府は警察と軍隊を
持っていれば十分」という「小さな政府」の考え方に立っていた
けです。そういう考え方から、教育の分野では公的教育を否定し
教育の無料化は、政府による市場に対する過剰な介入であると主
張したのです。
 実はニクソンは、フリードマンの政策の実験は他の国でやろう
と考えていたのです。そして、その標的に選んだのは中南米のチ
リだったのです。ちょうどチリでは、1970年に大統領選が行
われ、民主社会主義者のアジェンデ政権が誕生していたのです。
 ニクソンは、経済を締め上げてアジェンデ政権を倒そうとしま
す。さらに禁輸措置もとって、反政府勢力を公然と支援したので
す。そして、1973年9月11日、クーデターでピノチェト将
軍がアジェンデ政権を倒して政権を握ります。
 実はこのピノチェト政権誕生の裏には、フリードマンが主導す
る周到なある計画があったのです。それは、アジェンデ政権時代
に経済学を専攻する優秀な学生を複数選抜し、米国政府の奨学金
でシカゴ大学に留学させていたのです。
 そして彼らに米国では主流となっていない特殊な経済学をシカ
ゴ大学で指導し、アジェンデ政権によって左に傾いていたチリを
右に戻す思想教育をやったのです。そして、彼らにある指令を与
えて本国に送り返していたのです。彼らはのちに「シカゴ組」と
呼ばれるようになりますが、ナオミ・クラインは彼らを「イデオ
ロギー戦士」と命名しています。
 このイデオロギー戦士たちは、早速国内で新しい経済学に基づ
く政策の提言をはじめたのですが、国内ではまったく受け入れら
れなかったのです。その間にもピノチェト将軍によるクーデター
計画は米国の支援を受けて、着々と進んでいたのです。そして、
クーデターの日がやってきます。
 ナオミ・クラインは、その日、クーデターの裏側で進行したあ
る計画について次のように語っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 クーデターの日に集まった彼らは夜通しかけて、文書を作りま
 した。これが「ブリック」と呼ばれるピノチェト政権の経済政
 策です。ブッシュの2000年の選挙公約に驚くほど似ていて
 所有者社会、社会保障の民営化、チャーター・スクール一律課
 税など、フリードマンの筋書き通りです。クーデターの翌日、
 出勤した軍人たちの机上にはこの文書がありました。
                   ――ナオミ・クライン
―――――――――――――――――――――――――――――
 このようにして、フリードマンはチリにおいて、自らの政策を
実施することができたのです。その後、フリードマンの政策は、
英国のサッチャー政権と米国のレーガン政権に大きな影響を与え
て現在にいたるのです。しかし、こういう流れを見ると、いかに
もピノチェト政権下でのフリードマンの政策が成功を収めたよう
に思えますが、実はぜんぜん違うのです。
 なお、前回と今回にかけて、フリードマンについての秘められ
た話は、ナオミ・クラインが自著『ザ・ショック・ドクトリン/
災害資本主義の勃興』の内容について話している動画に基づいて
います。その動画は次のURLをクリックすれば見ることができ
ますので、興味があればご覧ください。時間は8分53秒かかり
ますが、十分最後まで見られる内容です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 http://video.aol.com/video-detail/-part2of4/588229698
―――――――――――――――――――――――――――――
 チリで行われたフリードマンの政策は現在は日本を含む世界に
浸透しつつあるのです。   ――[円高・内需拡大策/12]


≪画像および関連情報≫
 ●ナオミ・クライン氏について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1970年、モントリオールのユダヤ人活動家の家に生まれ
  る。ジャーナリストとしての活動は、トロント大学在学中に
  学生新聞の編集長を務めたところから始まる。2000年に
  『ブランドなんか、いらない』を発表し、グローバリゼーシ
  ョン反対運動におけるマニフェストとしての評価を受け、ク
  ラインの名は一躍、世界にとどろく。続いて2002年には
  『貧困と不正を生む資本主義を潰せ』を刊行。名声を確立し
  た。雑誌・新聞への寄稿も数多い。さらに、結婚相手のカナ
  ダ人テレビジャーナリストのアヴィ・ルイスとは、共同でド
  キュメンタリー映画を作成している。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ショック・ドクトリン.jpg
ショック・ドクトリン
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(1) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月20日

●「ピノチェト政権下の経済はどうなったか」(EJ第2455号)

 ナオミ・クラインのミルトン・フリードマン論を読むと、フリ
ードマンの考え方の負の側面を鋭く衝いているような印象を受け
ます。しかし、一方において、熱烈なるフリードマン支持者もい
るのです。それは、2006年にフリードマンが亡くなると、彼
の負の側面は隠され、絶賛論者が多くなったような気がします。
 フリードマンといえば、反ケインジアンの宋主として、フリー
ドマン反革を実行した優れた経済学者であり、彼が推進する新自
由主義革命は、米国のレーガノミックス――レーガン政権や英国
のサッチャー政権の理論的支柱となり、それはクリントン政権や
現ブッシュ政権にも受け継がれて、世界の経済学の主流となって
いるのです。
 その結果、世界中に亜流政権ができて、新自由主義革命が行わ
れたのです。日本における小泉・竹中政権――聖域なき構造改革
はそれに当たり、日本社会を破壊し、混乱に陥れているのです。
 したがって、ついこの間まではケインジアンとはいわないもの
の、財政政策を重視する経済学者やエコノミストや経済評論家は
ボロクソにいわれ、マスコミから遠ざけられるなどの迫害を受け
てきたのです。しかし、ここにきて少し情勢が変わってきている
と思うのです。そういう意味でナオミ・クラインの主張は興味深
いものがあります。
 昨日のEJでフリードマンとピノチェト政権の関わりについて
ナオミ・クラインの主張をお伝えしましたが、これに似ているの
が米国のアフガニスタンとイラク侵攻です。これも911を利用
したショック・ドクトリンといえると思います。とくにイラクに
ついてはそっくりであるとナオミ・クラインは述べています。
 ところで、フリードマン主導の経済政策を押しつけられたピノ
チェト政権下のチリの経済はどうなったでしょうか。これについ
て、興味深い情報が次の本に載っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    グレック・パラスト著 /貝塚泉・永峯涼訳
    『金で買えるアメリカ民主主義』/角川書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 チリでクーデターが起こったのは1973年のことです。ピノ
チェト将軍は、アジェンデ大統領をはじめ7000人以上を虐殺
しています。
 ジャーナリストのパラスト氏によると、フリードマンの弟子た
ち(シカゴ組)が起こした市場原理主義改革は、米国の投資家た
ちのパラダイスを生み出したものの、1973年〜1983年に
かけて、貧困層は20%から40%に増加し、失業者は4.3 %
から22%に上昇したのです。
 ピノチェト大統領はフリードマンのいわれるように、国営銀行
をはじめとして、ありとあらゆるものを民営化し、市場はハゲタ
カが乱舞するマネーゲームの楽園の様相を呈したのです。結果は
実に無残な結果に終わったわけです。
 ピノチェト大統領はこの有様を見て悟ったのです。このままで
は国が潰れる――ピノチェトは「シカゴ組」を追い出して、経済
再建に取りかかったのです。そのとき多用したのが、ケインズ政
策だったのです。まず、短期的投機資金の流入を規制する法律を
作り、ハゲタカに備えたのです。そして、アジェンデ大統領の残
した遺産を活用してチリの経済を復興させたのです。
 これについて、関良基氏のプログには次のように述べられてい
ます。詳しくはこのブログをご覧ください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ピノチェトは賢明にも、アジェンデが国有化した銅山だけは国
 有のまま死守したのです。当時のチリの輸出収入の30〜70
 %は銅からもたらされていました。基幹産業である銅資源を国
 有状態に留めている国を、はたしてフリードマンの教説通りの
 「小さな政府・自由放任市場主義」の国と呼ぶことは可能でし
 ょうか?国営の銅産業の発展によって経済が回復したとして、
 その功績をフリードマンの市場原理主義に帰することが可能で
 しょうか?アジェンデが行なった農地改革の遺産もクーデター
 を経ても多くは引き継がれたそうです。アジェンデの農地改革
 の結果、活力ある自作農階級が誕生し、チリ農業はピノチェト
 時代に大いに発展したというのです。
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/8ba0508402aab786d447c2b201aad581
―――――――――――――――――――――――――――――
 2006年のミルトン・フリードマンの死に対して、ブッシュ
大統領は、その追悼声明では、アメリカ政府の「構造改革」に対
するフリードマンの貢献として、次の3つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
            1.学校選択制
            2.減税
            3.志願兵制度
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中の「学校選択制」については、あの安倍元首相が「教育
再生」の目玉政策にあげている中心政策であり、安倍元首相は、
「アメリカでは、私立学校の学費を公費で補助する政策をスクー
ル・バウチャーと呼ぶ」と自著の『美しい国へ』(文春新書)の
中で述べているのです。米国をお手本にしているのです。
 しかし、当の米国では、公教育から、体育や美術や音楽の時間
が消えつつあるのです。なぜかというと、公教育の予算不足でそ
の授業のための教師が雇えず、道具も買えないからです。これは
公教育に国が支援するのは、国による過剰なる市場への介入であ
り、やめるべきであるというフリードマンの考え方を米国政府が
支持しているからです。
 そういう米国のやり方に盲従的に真似をしようとする日本の政
治姿勢には大きな問題を感じます。このように米国の学校は私立
中心になりつつあり、親の所得の格差が教育の格差に反映され、
格差の悪循環が世代を超えて拡大・固定化していきつつある状態
になっています。      ――[円高・内需拡大策/13]


≪画像および関連情報≫
 ●グレッグ・パラストの本の紹介
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「あの男をホワイトハウスからつまみ出せ!!」ブッシュの
  金と石油まみれの嘘を徹底糾弾!!全米・全英大ベストセラ
  ー緊急文庫化マイケル・ムーア――「アホでマヌケなアメリ
  カ白人」著者推薦!現在ホワイトハウスが最も怖れていいる
  調査報道記者、グレッグ・パラスト。フロリダ州が大統領選
  でブッシュを勝たせた汚い手口や9・11テロ以前にビンラ
  ディン家へ向けられていたFBIの捜査をブッシュが潰した
  やり等々、彼のスクープは数知れない。そのパラストが、腰
  の引けた大メディアには報道できない衝撃の真実をここに一
  挙公開。民主主義は金で買うことはできないと信じる者の必
  読書!!
  ―――――――――――――――――――――――――――

金で買えるアメリカ民主主義
金で買えるアメリカ民主主義

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2008年11月21日

●「教育バウチャー制度の真の狙い」(EJ第2456号)

 教育バウチャー制度というものがあります。安倍内閣が導入を
目指した教育制度です。この教育制度の発案者は、ミルトン・フ
リードマンなのです。
 教育バウチャー制度とは、行政が子ども1人にかかる公的教育
費を計算し、それを証票・利用券(バウチャー)として親に交付
することによって、親は子供が通う学校を自由に選択できるよう
にする制度です。親は、公立校・私立校を問わず行きたい学校を
選び、そこに利用券を提出します。学校側は集まった利用券の枚
数に応じて運営予算を国から受け取ることになるのです。
 この教育制度は、ちょっと考えると、家庭の経済力を気にしな
いで、行きたい学校を自由に選べる理想的な制度のように感じま
す。しかし、この教育制度は公教育に市場原理を導入しようとす
るフリードマンならではのアイデアなのです。要するにこの制度
の目的は「公教育のスリム化」の実現なのです。
 まず、いえることは、この制度は必然的に公立校の財源を圧迫
することになります。なぜなら、これは、私立校にも公的財源を
与えることになるので、本来公立校に向けられるべき教育費がそ
の分だけ少なくなるということを意味するからです。
 そうなると、公立校は私立校に比べて財政的に不利になり、教
師も不足し、それは教育設備や教育環境を悪化させることにつな
がってきます。このことは本来なら居住地の公立校に通うべき子
供がバウチャーを使って私立校に行ってしまうことも考えられる
ので公立校は苦しくなります。
 続いて、この教育制度は当然のことながら学校間の競争を激化
させることになります。親たちが自分の子供をよりよい学校に入
れようとすればするほど競争は激しくなります。その結果、教育
環境が劣化する公立校が淘汰される可能性が出てきます。
 しかし、居住地から遠く離れた学校に通わせようとすると、バ
ウチャーでは賄えない費用――交通費や転居費用などがかかるこ
とになり、いくら学校選択の自由があっても、それだけの収入の
ある家庭の子供しかそれを実現できないことになります。結局の
ところ、低所得者家庭の子供の選択肢は、居住地の劣化した公立
校以外に事実上残されていないことになります。
 しかも、米国では学校選択の条件として保護者に重い宿題指導
負担などを課し、時間的余裕のない低所得者層を排除するケース
が報告されているそうです。
 この背景には学校間の生き残り競争があるのです。学校として
は、目に見える成果をあげるために、学力の伸長が容易な生徒を
優先して入学させようとし、その可能性のうすい生徒は切り捨て
る――そういう競争が起きつつあるのです。これは必然的に深刻
な教育格差を生む温床になります。
 本来国は、選択の自由の名の下に教育の機会均等を保障する公
的責任があります。しかし、この教育制度は国に公的責任を放棄
させ、公教育を縮小して、結果としてその浮いた資金をエリート
育成に回すことになりかねないのです。
 昨日のEJで米国では公教育から体育や音楽や美術が消えつつ
あると述べましたが、これは公認会計士で経済評論家の勝間和代
氏が、既出のロバート・B・ライシュ氏の新刊書『暴走する資本
主義』の解説で述べていることをご紹介したものです。
 勝間和代氏の米国人の友人が日本の公教育の現場を見学したと
き、こんなに良質な教師と潤沢な設備があるのに、なぜ、日本人
は教育の後退を憂いているのか、びっくりしたというのです。日
本の教育の後退はひどいものですが、それでも今のところ米国よ
りもマシのようです。
 勝間和代氏は、米国の公教育の現状について次のように述べて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば、アメリカでは公教育から、体育の時間や美術・音楽の
 時間が消えつつある。体育がなくなっているのは、公教育の予
 算不足から体育の道具、例えば跳び箱やサッカー用ゴールネッ
 ト、ドッジボールなどの用具が買えない。また、教師を雇う予
 算がないためだ。その上、マクドナルドのようなファストフー
 ドが給食のシステムとして入り込んでいる。結果、中流以下の
 地域の学校に通う子どもたちの間では肥満が増えている。一方
 このような状態を憂えるアメリカの親にとっての選択肢は、子
 どもたちを学費の高い私立学校に通わせるか、あるいは、学校
 への寄付が潤沢にある高級住宅地に移住するしか方法はない。
 そして、高級住宅地に住むため、年収の7〜10倍もの無理な
 ローンを組んで移住した結果、住宅ローンが払いきれなくなる
 ということはアメリカで当たり前に起こつている。
      ――ロバート・B・ライシュ著/雨宮寛・今井章訳
          『暴走する超資本主義』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 こうした米国の教育の現状はけっして対岸の火事ではなく、一
定のタイムラグでこれから日本でも起こる現象なのです。いわゆ
る小泉・竹中政権とそれに続く政権によって進められた規制緩和
・構造改革が確実に日本社会を壊しつつあるのです。
 国民新党の亀井久興幹事長は、2008年の通常国会における
予算委員会で、当時の福田首相に対して「なぜ、自民党は長期政
権を保ち続けることができたのか。総理はどうお考えですか」と
質問したところ、福田首相から明確な返事がなかったので、次の
ように述べたといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 それは市場経済の資本主義国では本来困難な総中流社会をつく
 ることに成功したからです。これが一番の原因です。
  ――森田実著、『崩壊前夜日本の危機』より/日本文芸社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉・竹中政権は、この「総中流社会」を破壊したことが最大
の罪であると亀井久興幹事長は述べています。日本社会は少しず
つ劣化しているのです。   ――[円高・内需拡大策/14]


≪画像および関連情報≫
 ●教育バウチャー制度について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米国最初の公的な私立学校バウチャー政策は1990年にウ
  ィスコンシン州ミルウォーキーで実施された。対象は公立小
  学校に通っている(あるいは通う予定の)低所得家庭の子ど
  もである。バウチャーを受け取る資格のある私立学校は、宗
  教系ではなく、市が定める最低限の基準を満たし、学費は無
  料で、生徒の選抜を抽選で行う必要がある。この政策は研究
  者の間で評価が大きく分かれている。 ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

亀井久興幹事長.jpg
亀井久興幹事長
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2008年11月25日

●「なぜ、柳澤大臣は解任されたのか」(EJ第2457号)

 『文藝春秋』の2008年12月号に「世界同時不況」という
特集が出ています。この特集では、未曾有の経済危機の核心につ
いて7人の経済のエキスパートが宮崎哲弥氏の司会で、討論を繰
り広げているのです。
 その中の「株安・円高地獄の脱出策」のテーマの討論で、竹森
俊平慶応義塾大学教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉・竹中改革は近ごろ評判悪いですが、2002年から金融
 担当大臣となった竹中さんが不良債権の処理を大胆に進めてい
 なかったら、今ごろ日本経済は目も当てられない惨状を呈して
 いたでしょう。不良債権がないことだけが今の日本経済の救い
 なのです。竹中さんは日本経済にとって恩人だと思いますよ。
  ――竹森俊平氏の発言/『文藝春秋』12月号/2008年
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに不良債権の処理ということに関しては、もしあのとき処
理をしなかったら、日本経済はおかしくなっていたことは事実で
すが、それをもって竹中平蔵氏の功績と断するのはいささか疑問
があるのです。
 というのは、そういう不良債権がある計画性をもって意図的に
増加させられており、当時の竹中経財相がそれにかかわっていた
のではないか思われている情報があるのです。
 そのことを指摘している本を最初にご紹介しておきます。この
本は既にEJでご紹介しております。
―――――――――――――――――――――――――――――
                      菊池英博著
  『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠/このままでは
   日本の経済システムが崩壊する』/ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 菊池英博氏は、現在日本金融財政研究所所長の職にある国際金
融論のスペシャリストで、都市銀行(東京銀行)の勤務経験もあ
るのです。衆参両院の予算公聴会の公述人にもなったことがあり
ますが、政府の方針に反する意見が多いためか、テレビに出演す
ることはほとんどない識者のひとりです。菊池英博氏は、ずばり
次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2002年10月に始まった金融改革プログラムは理念も手法
 も根本的に誤りであり、意図的に大手銀行を潰し、金融システ
 ムを寡占化、硬直化、弱体化させてしまった。世界の金融史上
 に残る一大失政である。まさにこの間の出来事は「金融庁が偽
 装した経済恐慌」であり、ここでは「金融庁による偽装恐慌」
 と呼ぶことにする。   ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 この菊池英博氏の主張をベースとして以下、少し詳しくお伝え
します。日本経済が今後どの方向に進むべきかということと重要
な関連があるからです。
 2000年度の主要行の不良債権比率は5%まで下がっていた
のです。これは健全といわれる比率です。このことをまず、踏ま
えておく必要があります。しかし、当時の日本経済はデフレであ
り、不況だったのです。
 不良債権というのは、銀行などの金融機関において、貸付先企
業の経営悪化や倒産などの理由から、回収困難になる可能性が高
い貸付金のことです。
 しかし、2001年4月に小泉内閣が発足すると、デフレで不
況であるにも関わらず、緊縮デフレ政策を採ったので、そのため
2001年度の主要銀行の不良債権比率は8.4 %に上昇したの
です。政府として景気振興策を打っていれば、不良債権はこれほ
ど増えることはなかったのです。
 その時点の金融担当大臣は柳澤伯夫氏だったのです。IMFは
「公的資金を投入して不良債権を処理すべし」という要求を日本
政府に突き付けてきたので、金融庁としては、次のように不良債
権処理方針を発表しています。2001年8月のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 不良債権を7年間で半減する。当初3年間で残高増ゼロ、その
 後2007年度までに不良債権を半減させる。この間、不良債
 権の償却は大手行の収益に任せる。――柳澤伯夫金融担当大臣
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに柳澤大臣としては、「公的資金を投入する必要はなく
自然治癒に任せる」ことを表明したのです。柳澤氏は自らワシン
トンのIMFまで出かけていって説明し、IMFの対日勧告を撤
回せよと迫ったのです。
 2002年9月12日に小泉首相は国連総会に出席し、米ブッ
シュ米大統領と会談を行います。そして次の約束をするのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      不良債権処理を一段と加速させる
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは大変奇怪なことなのです。不良債権問題は日本の内政問
題です。それを外国の首脳との会談で約束するのはきわめて異例
なことであったからです。
 そのとき、日本の国内ではデフレではあったが、不良債権が金
融不安を引き起こしていたわけではなかったのです。そもそもそ
の時点で増加していた不良債権は、小泉政権が自らが緊縮財政を
行った結果であり、原因ははっきりとしていたのです。
 そうすると小泉首相は、自ら増加させた不良債権を米国へ行っ
て、処理を約束したことになるのです。これはきわめておかしな
話です。
 小泉首相はニューヨークから帰国すると、主要行への公的資金
投入は不要と主張する柳澤伯夫金融担当大臣を解任し、竹中平蔵
氏をその後任に任命するのです。まるで最初から予定していたよ
うです。          ――[円高・内需拡大策/15]


≪画像および関連情報≫
 ●不良債権処理法について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  不良債権の処理方法には、大きく分けて間接償却と最終処理
  の2つがある。間接償却とは、バランスシート上の処理をす
  ることで、貸倒引当金を引き当をすることである。そして、
  最終処理とは、直接償却や不良債権の売却などである。直接
  償却は、清算、会社更生法、民事再生法などの法的整理によ
  って不良債権を切り離すことや、債権放棄などの私的整理が
  ある。       ――オール・アバウト/マネー用語集
  ―――――――――――――――――――――――――――

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柳澤伯夫元金融担当大臣
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2008年11月26日

●「米国が不良債権処理を迫った理由」(EJ第2458号)

 よく「日本は米国の属国である」といわれますが、本当に米国
が日本に対して「あれをやれ!これをやれ!」と命令してくると
はまさか思っていないでしょう。あくまで日本は独立国であり、
それに米国の同盟国でもあるので、米国も日本に対してそれなり
の敬意を払ってくれるはず・・・と一応考えているからです。
 しかし、実際はそんなに甘いものではなかったのです。米国と
いう国は自国の国益のためならば、どんなことでもやる国であり
とくにブッシュ政権はそれをごり押ししてきたのです。
 2002年9月の日米首脳会談では、本当に何が取り決められ
たのでしょうか。
 この会談に先立って、ブッシュ大統領から小泉首相宛ての親書
があったといわれているのです。それは、上坂都氏(ジャパンエ
コノミックパルス副社長)が、『金融ビジネス』(2003年1
月号、東洋経済新報社)に寄稿した論文の中で、「複数の日米有
力金融筋から」の情報として、プッシュ米大統領の小泉首相宛て
の「親書」の存在があったことを示唆しているのです。
 その親書は、日米首脳会談に先立って行われたグレン・ハバー
ドCEA(大統領経済諮問委員会)委員長と竹中経財相の会談の
さい、竹中経財相に手渡されたといわれます。それは、次の書き
出しではじまる親書なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 再三再四の要請にもかかわらず、不良債権処理を怠り、またし
 ても9月危機を招いてしまっている。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これには少し説明が必要です。それは、2001年3月19日
に行われた森・ブッシュ会談に遡るのです。このとき当時の森首
相は、ブッシュ大統領に対し、「不良債権処理を急ぐ」と約束し
ているのです。それは具体的には「不良債権のオフバランス化」
――直接償却の要請に応えるというものです。
 しかし、小泉政権になってから、不良債権処理問題は目立った
動きを見せなかったのです。その米国の苛立ちをぶつけてきたの
が、ブッシュ大統領の親書だったのです。2002年9月の日米
首脳会談について、上坂都氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 『日米首脳会談では二つの重要な議題が議論された。一つは不
 良債権処理の出口論、もう一つは日本の金融機関が保有する米
 国債の売却自粛であった』。ある有力政界筋は9月3日の日米
 首脳会談の舞台裏をこう語る。不良債権の出口論とは、銀行か
 ら不良債権を切り離し、市場に売却せよということ。それは問
 題企業を破綻に追い込み、それを米国資本の金融ビジネスに結
 び付けよう、というものだ。もう一つの国債売却自粛は、銀行
 不安が顕在化すると外債売却リスクが高まり、病み上がりの米
 国経済を長期金利上昇が襲う。経営危機に陥る前に国有化、も
 しくは公的資金注入によってこうした事態を回避してほしいと
 の要請である。     ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうして米国はこれほど執拗に日本に不良債権処理の加速を求
めてきたのでしょうか。
 それは米国金融資本――その中核は投資銀行、証券会社、投資
ファンド/今回のサブプライム問題でこれが壊滅的打撃を受けて
いる――による日本の「不良債権ビジネス」への欲求であり、期
待であり、それがブッシュ政権の背中を押しているのです。
 もともと米国は、1500兆円に及ぶ日本の個人金融資産の取
り込みを図って、1996年の「金融ビックバン」以来、日本に
揺さぶりをかけてきたのですが、それまで効果を上げてこなかっ
たのです。
 金融ビッバンでは、投資信託や生命保険の銀行窓販、銀行と証
券の相互参入などの規制緩和に関しては進展があったものの、不
況の長期化に伴って株式市場への国民の不信などにより、個人金
融資産の証券市場への流入や年金などの機関投資家の運用の変化
についてはほとんど進展がなかったのです。
 それは、メルリリンチ証券が山一証券から引き継いだ28店舗
中20店舗を閉鎖して撤退を余儀なくされたことを見ても明らか
なことです。
 そこで、米国としてはブッシュ政権になると、対日政策を「不
良債権ビジネス」に切り替えて、再度要請を強めてきたのです。
それが2002年9月の日米首脳会談を契機に大きく進展をはじ
めたのです。
 日本共産党参議院議員の大門実紀史氏は、これに関して自身の
ウェブサイトで次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (2002年9月の)会談を境にして、今までの不満を一気に
 爆発させるかのように、ハバード大統領経済諮問委員会(CE
 A)委員長をはじめ米国政府高官が、あからさまに不良債権処
 理「加速」に口を出してくる。この際に米国が求めてきたのは
 今までのように大銀行の存続を前提に不良債権をオフバランス
 化するというものではない。銀行そのものの「追い込み策」で
 ある。従来より格段に厳しい検査と自己資本の査定で銀行を追
 い込み、存続可能な銀行と破たんさせる銀行を選別する。存続
 が可能なら公的資金を投入し「国有化」する。同時に不良債権
 (破たん企業、担保の不動産など)の市場(外資)への早期売
 却である。               ――大門実紀史氏
   http://www.daimon-mikishi.jp/ronbun/data/0302760.htm
―――――――――――――――――――――――――――――
 柳澤氏にかわって金融担当大臣に就任した竹中平蔵氏は、20
02年10月に「金融再生プログラム」を発表するのです。しか
し、このプログラムは上記の米国の要求そのものをプログラム化
したものとしか思えないほどそっくりなのです。彼らは、日本を
売ったのです。       ――[円高・内需拡大策/16]


≪画像および関連情報≫
 ●オフバランスとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  貸借対照表――バランスシートに計上されない企業の資産・
  負債。例えば、銀行が貸し倒れに備えて引当金を積む不良債
  権処理の方法があるが、これでは貸し出し債権が帳簿上に残
  り、担保価値が下がると、追加の引き当てが要る。この場合
  銀行は貸出金の債権売却や償却をして帳簿から除外(オフバ
  ランス化)、総資産利益率などの財務指標を改善させる。
 ●直接償却と間接償却/不良債権のオフバランス
  http://electronic-journal.seesaa.net/article/13476968.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

グレン・ハバード氏.jpg
グレン・ハバード氏
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2008年11月27日

●「なぜ、竹中大臣にことは託されたのか」(EJ第2459号)

 昨日のEJで述べたように、米国の日本に対する要求はきわめ
て性急で激しいものであったのです。それにこの問題は前任の森
政権からの引き継ぎ事項でもあったわけです。「これはやるしか
ない。そうすれば念願の郵政民営化は実現できる」――小泉氏は
そう考えたと思うのです。
 そのためには、閣内の意見をまとめる必要がある。というのは
「銀行に対する公的資金投入の是非」をめぐる小泉政権内の閣僚
たちの意見は一枚岩ではなかったからです。なかでも柳澤伯夫金
融担当大臣は旧大蔵省の出身であり、公的資金投入に絶対反対の
立場をとっていたのです。
 それに小泉氏は米大統領筋から「竹中が使える」と示唆されて
いたフシがあります。この竹中平蔵という人物、小渕政権時代か
ら重用されている不思議な人物なのです。
 小渕政権では、経済戦略会議の委員になり、小渕首相に対し、
「10兆円を上回る規模の追加的財政出動」を提言しています。
続く森政権ではIT戦略会議の委員になり、「イー・ジャパン構
想」についてさまざまな提言を行っている「できる学者」という
イメージの人物なのです。もちろん、テレビ東京のWBSをはじ
め、テレビでも活躍していることはいうまでもありません。
 そして、小泉政権において、経済財政政策担当大臣に就任する
のです。この竹中平蔵氏について、既出の大門実紀史氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中大臣については、元々アメリカの評価は高いわけですけれ
 ども、この経過の中でかなり高くなってきていますね。(20
 08年)10月30日、竹中大臣が(金融担当相)就任される
 とすぐ、ワシントン・ポストのインタビューでハバードさんが
 「彼は優秀だ。これで不良債権処理が進む。歓迎」というふう
 なことを答えております。その後も、(ハバードさんは)竹中
 方針支持、いくら自民党の皆さんや銀行から反発が出ても異例
 の支持表明をする。「竹中案でやらないと日本は大変なことに
 なる」という警告までやる。ちょっと異常なかかわり方だと思
 います。                ――大門実紀史氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 このグレン・ハバードという人物は、ブッシュ政権第一期目に
おいて大統領経済諮問委員会の委員長を務めていた人物であり、
現在はコロンビア大学ビジネススクールの校長を務めています。
 この大統領経済諮問委員会の委員長は、現バーナンキFRB議
長が務めていたことがあり、グリーンスパンの後任を争った人物
の一人です。いずれにしても、グレン・ハバードという人物は、
ブッシュ政権に非常に近い存在なのです。
 副島隆彦氏はグレン・ハバード氏について、自著の中で次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中平蔵はグレン・ハバードの手下なのである。(一部省略)
 このハバードが司令官になって、「日本の不良債権の処理速度
 は遅すぎる。もっと加速せよ」と露骨に日本政府に圧力を加え
 て、日本の金融業界を混乱に陥れたのだ。ハバードの親分はポ
 ール・ヴォルカー元FRB議長であり、その上は“世界皇帝”
 デイヴィッド・ロックフェラー(90歳)である。
     ――副島隆彦著『重税国家/日本の奈落』 祥伝社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう経緯があって、2002年9月の日米首脳会談のあと
小泉首相は帰国すると、直ちに内閣改造を行い、竹中平蔵経財相
に金融担当相を兼務させ、公的資金投入の地ならしをやったので
す。この時点において不良債権処理の問題はすべて竹中大臣に託
されたことになります。
 しかし、当時は長期デフレで不況ではあったけれども、銀行の
不良債権比率は健全レベルだったのです。少なくとも公的資金を
投入するレベルではなかったということです。米国の要望に応え
るには、緊縮財政政策を行うことによって不良債権比率を上げる
必要があったのです。
 デフレ下で緊縮財政政策を行うと、デフレ不況は一層深刻さを
増し、不良債権比率は上昇します。実際に不良債権比率は5%か
ら8.4 %に上昇していることは既に述べた通りです。しかし、
これが本当であるとすると、小泉政権は意図的に作り出した不良
債権を自らその加速処理を強行させることになります。マッチポ
ンプもいいところです。
 竹中金融担当大臣(当時)が作成した「金融再生プログラム」
について考えてみます。このプログラムの正体は何でしょうか。
 この金融再生プログラムには次の2つの骨子があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.資産査定の厳格化によって、不良債権を加速処理させる
 2.米国並みに厳しい基準で自己資本を査定して計上させる
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中平蔵氏は、今回の米国発の金融危機に対してテレビの番組
で次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 公的資金の投入に当たってやらなければならないことは、資産
 の査定を厳格にやる必要があるのです。これは忘れてはならな
 いことですよ。              ――竹中平蔵氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでいう「資産査定の厳格化」とは具体的に何を指している
のでしょうか。
 竹中経財相・金融担当相は、その資産査定の厳格化のために次
の2つを持ち出してくるのです。第1は「DCF方式の導入」で
あり、第2は「減損会計の導入」です。この2つの導入によって
日本の企業と銀行は大きなダメージを受け、不良債権は激増し、
公的資金導入の環境は整うことになるのです。
             ――[円高・内需拡大策/17]


≪画像および関連情報≫
 ●大統領経済諮問委員会――CEAとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  大統領経済諮問委員会――CEAは、米国大統領に助言する
  ことを目的とした経済学者の集まりである。米大統領府――
  ホワイトハウスの一部門で、多くの経済政策を提示する。委
  員会は委員長と2人の委員で構成される。委員長と委員は大
  統領によって指名され、上院の承認によって任命される。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

竹中平蔵氏/大門実紀史氏.jpg
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2008年11月28日

●「意図的に積み上げられた不良債権」(EJ第2460号)

 昨日のEJで述べた「金融再生プログラム」の2つの骨子を再
現しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.資産査定の厳格化によって、不良債権を加速処理させる
 2.米国並みに厳しい基準で自己資本を査定して計上させる
―――――――――――――――――――――――――――――
 資産査定の厳格化を実現するため、竹中大臣は、「DCF方式
の導入」を決断します。DCF方式とは何でしょうか。
 DCFとは、ディスカウント・キャッシュ・フローの略で、日
本語では「割引現在価値」と呼んでいます。DCF方式とは、融
資先の将来の収益を正確に推計し、それをもとに回収不能になる
リスクなどを差し引いて現在の債権価値を導き出す方式であり、
米国で主流の資産評価法になっています。そして、そのようにし
て算出した債権価値が債権元本の帳簿価格を下回るときは、その
下回る分を銀行に引当金として計上させるのです。
 このDCF方式は、1995年頃から銀行の資産査定の方法と
して使われはじめたのです。1995年というと、ニューヨーク
の株式市場で株価が上がり始め、物価が年率2〜3%で上昇し、
景気がはっきりと回復してきた頃に当たります。
 このように物価――物価の総合指数GDPデフレーターが上昇
していれば、数年先の収入は、仮に販売数量は一定でも10%〜
15%は増加するのです。DCF方式では、4〜5年先の収益を
予測して債権元本の帳簿価格と比較するので、景気が良く、物価
が上昇しているときは現在の債権価値は高くなります。
 したがって、DCF方式は景気の良いときは資産評価法として
よく機能するのです。しかし、竹中大臣はこれをデフレ、それも
長期デフレで物価が毎年2〜3%以上下がっている日本であえて
実施したのです。
 デフレの日本でDCF方式による資産査定を行うと、4〜5年
先は販売数量が不変でも5〜10%の減益になるのです。そうす
ると販売数量をデフレ率以上にアップしないと、収入は増えない
ことになります。したがって、回収不能額が増加し、不良債権は
どんどん増えることになるのです。
 続いて、竹中大臣は、「減損会計の導入」を実施したのです。
要するに不動産の時価会計です。企業が保有している不動産をそ
の時点の市場価格(時価)で売却したと想定し、購入したときの
帳簿上の価格より想定売却価格の方が低い場合、損失が発生する
のです。この損失を計上させるのが「減損会計」です。つまり、
減損会計というのは、不動産の含み損をを表面化させるための手
段であるといえます。
 仮に期間収益が1億円上がっている貸出企業があるとします。
ところが保有している不動産が値下がりしているので、減損会計
上は1億5000万円の評価損が出たとします。当時そういう企
業は多くあったのです。
 そうすると、金融庁の査定では、5000万円の赤字――すな
わち、不良債権と認定され、銀行はその貸出企業に貸倒引当金を
積まなければならないことになります。
 金融庁は、これらDCF方式と減損会計の両方を使って貸出企
業を不良債権化し、銀行への公的資金投入の状況づくり行ったの
です。そのターゲットにされたのは、債務の多い企業だったので
す。金融庁は「整理回収機構」――RCCを作り、債務の多い企
業への貸付金を不良債権としてRCCに買い取らせ、回収を行わ
せるという血も涙もない方法をとったのです。
 RCCに貸付金を買い取られてしまうと、貸付金をきちんと返
していても次の融資は出ないわけであり、それらの企業の多くは
破綻してしまったのです。こういうやり方はまさに「金融ファッ
ショ」以外のなにものでもないといえます。
 以上が「金融再生プログラム」の1「資産査定の厳格化によっ
て、不良債権を加速処理させる」についての説明です。竹中大臣
のいう「資産査定の厳格化」というのはこういうことをいってい
るのです。彼のやったことはわざわざ不良債権を増やすことだっ
たのです。そういう査定法の元祖である米国は、今回の金融危機
に際して時価会計方式を凍結しています。自分たちにとって都合
が悪くなるとやめたり、ルールを変更する――あまりにも身勝手
であると思いませんか。
 続いて、「米国並みに厳しい基準で自己資本を査定して計上さ
せる」について述べます。1については、銀行に資金を借りてい
る企業が対象だったのですが、2はそういう企業に資金を提供し
ている銀行の問題です。
 2のテーマに入る前に、その前提知識をおさらいしておく必要
があります。銀行には「自己資本比率規制」というものがありま
す。銀行には、海外に営業拠点を持つ銀行(国際基準行)と国内
だけに営業拠点を持つ銀行(国内基準行)があります。
 これら国際基準行と国内基準行には、次のように資産に対して
の自己資本比率の規制があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  国際基準行 ・・・ 資産に対して8%以上の自己資本
  国内基準行 ・・・ 資産に対して4%以上の自己資本
―――――――――――――――――――――――――――――
 この国際基準行への規制は「BIS規制」といって、国際的に
(といっても米国が主導して)定められたものですが、国内基準
行への4%の規制は日本が決めた規制なのです。
 貸出債権の不良債権化が進むと、それに応じて貸倒引当金を積
まなければならないので、その分利益が減ることになります。も
し、大量の不良債権が出ると、決められている自己資本比率を守
れなくなり、公的資金が投入されないと、銀行は破綻に追い込ま
れることになります。
 竹中大臣の率いる金融庁は、そこに着眼し、銀行の自己資本の
毀損に狙いを定めたのです。彼らが何をやったのかについては、
来週お話しします。     ――[円高・内需拡大策/18]


≪画像および関連情報≫
 ●BIS規制とは何か
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  BIS規制とは、国際業務を行う銀行の自己資本比率に関す
  る国際統一基準のことで、バーゼル合意ともいいます。BI
  S規制では、G10諸国を対象に、自己資本比率の算出方法
  (融資などの信用リスクのみを対象とする)や最低基準(8
  %以上)などが定められました。自己資本比率8%を達成で
  きない銀行は、国際業務から事実上の撤退を余儀なくされま
  す。BIS規制は、国際間における金融システムの安定化や
  銀行間競争の不平等を是正することなどを目的として、19
  88(昭和63)年7月にバーゼル銀行監督委員会により発
  表され、1992(平成4)年12月末(日本では1993
  年3月末)から適用が開始されました。また、日本の金融機
  関が自己資本比率を計算する場合には、自己資本に有価証券
  の含み益の45%を参入することが認められました。
            http://www.findai.com/yogo/0024.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

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菊池英博氏の本
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする