主要7ヶ国の金融当局が矢継ぎ早やに政策対応を行っているにも
かかわらず、なかなか終わりが見えない状態です。
最近になると、今回の世界金融危機は、1930年代の世界大
恐慌に匹敵する深刻な景気悪化に発展すると予測する経済学者の
発言が目立つようになってきています。今年のノーベル経済学賞
を受賞したポール・クルーグマン米プリンストン大学教授や経済
恐慌の専門家であるバリー・アイケングリーン米カリフォルニア
大学教授たちです。
ここで大恐慌とは何なのかということをある程度明らかにして
おく必要があります。経済危機はどのようなステップを踏んで大
恐慌にいたるのかについて、ドイツ証券シニアエコノミストであ
る安達誠司氏の論文「指標に見る大恐慌との一致点」(「週刊エ
コノミスト」11/4特大号)を参考に考えていきます。
安達誠司氏によると、経済危機は次の6つのステップを踏んで
が大恐慌にいたるとしています。
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第1ステップ:資産価値の下落と株価波及
第2ステップ:逆資産効果で個人消費低迷
第3ステップ:一部金融機関での経営危機
第4ステップ:クレジット・クランチ発生
第5ステップ:デフレ・スパイラルに陥る
第6ステップ:経済活動リセット/大恐慌
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まず、資産価格の大幅な下落が起こります。住宅価格に始まり
これが株式に波及します。これが第1ステップです。もちろんこ
れは既に起こっています。
続いて、これが「逆資産効果」を通じて個人消費に影響を与え
てきます。これが第2ステップです。逆資産効果とは、家計や企
業が保有する資産の価値が下落したとき、家計や企業は自分は貧
しくなったと考え、消費や投資を控えるようになります。これを
逆資産効果というのです。
また、逆資産効果によるキャピタルロスの拡大は、金融機関の
自己資本を毀損させ、一部の金融機関では経営危機のリスクが発
生することになります。これが第3ステップです。
続いて、金融機関間の短期的な金融融通の場である短期金融市
場が機能不全に陥り、金融機関の資金仲介能力が低下し、企業へ
の資金調達を困難化させます。いわゆるクレジットクランチ(信
用収縮)が起きるわけです。これは第4ステップです。
これがさらに深刻化すると、中小企業の倒産が相次ぎ、経済活
動全般を悪化させます。その結果、金融機関の不良債権は増加し
金融機関による信用創造機能は大きく低下します。いわゆるデフ
レスパイラルに陥ってしまいます。これが第5ステップです。こ
の段階は既に「恐慌」であるといえます。
恐慌が究極まで進行すると、政府によって経済活動をリセット
しなければならないところまできます。これが第6ステップであ
り、文字通り「大恐慌」ということになるのです。
1980年代後半から1990年代初期にかけて起こった「S
&L/貯蓄貸付組合」の大量破綻とそれに伴う金融不況があった
のですが、今回のサブプライム問題とも似ているので、簡単に説
明します。
S&Lというのは、個人の小口預貯金を原資として、それを元
手に個人向けに住宅抵当貸付を行って運用する中小金融機関のこ
とをいいます。S&Lのビジネスモデルは、個人の預貯金を集め
てそれをベースに20年〜30年という長期にわたって資金を貸
し付けるというものです。この場合、個人の預貯金は短期金利に
連動し、貸付は長期金利に連動するのです。
当時は預金金利には上限があったのです。S&Lが資金を貸し
付けるさいの金利は、上限預金金利に数パーセントの利ざやを上
乗せした固定金利だったのです。
しかし、米国はレーガン政権のもとで1980年代に金融の自
由化を実施したのです。そのさい、預金金利の上限規制が撤廃さ
れ、その結果、金融機関の預金獲得競争は激化したのです。19
83年10月1日のことです。
金融機関は個人預金を獲得するため、預金金利を引き上げたの
で、当然短期金利は上昇したのです。そうすると、資金調達コス
トがかさむ一方において、既に貸し出している融資先から得られ
る収益は固定金利であるため変わらないことになります。このた
め、S&Lは逆ザヤとなり、収益が圧迫されるようになります。
かかる事態に追い込まれたS&Lは、金融自由化の流れの中で
業務多角化によって収益確保を目指したのですが、うまくいかず
S&Lは次々と倒産したのです。さらに、このS&Lの破綻は一
般の商業銀行にまで及び、この結果、米国全土で金融機関の貸し
渋りが深刻化したのです。
これは順調に推移していた米国の実体経済を直撃し、金融機関
によるクレジットクランチを引き起こし、1990年以降米国経
済は不況に陥ることになったのです。この危機は90年代半ば以
降の金融緩和とRTC(不良債権買い取り機構)の設立による公
的資金投入によって、第5ステップで危機は回避されたのです。
では、現在の景気悪化は、どのステップまで進行しているので
しょうか。安達誠司氏は各種統計数値を検討のうえ、次のように
述べています。
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現在の米国景気の状況は、段階では第4段階から第5段階に相
当すると考えられる。大恐慌期では30年終盤から31年前半
のころだ。 ――「週刊エコノミスト」11/4特大号
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8月14日から54回にわたって書いてきた今回のテーマは本
日でひとまず終了し、来週から新しいテーマで経済について考え
ていきます。 [サブプライム不況と日本経済/54/最終回]
≪画像および関連情報≫
●クレジットクランチとは何か
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クレジットクランチとは、金融システムが麻痺して危機的な
状態となること。クレジットは信用、クランチは危機の意味
である。つまり、金融システム全体が信用不安に陥り、金融
機関にとって最も大切な信用創造(貸付と預金を繰り返すこ
とで、世の中のマネー流通量がふくらみ、経済活動を円滑に
させること)の機能が麻痺してしまう状態。この状態では、
金融機関が酷く信用不信に陥り、貸し渋りをするため企業な
どが高い金利を支払っても資金調達が難しくなってしまう。
経済活動全体が沈滞化することでさらに信用不安を高めると
いうスパイラル的に悪化傾向が進んでしまう可能性がある。
――ALLAbout/マネー用語集
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