2008年10月30日

●「なぜ日経平均株価は暴落したか」(EJ第2441号)

 この記事は10月27日夜に書いています。実は今回のテーマ
は明日で一応終了しますが、このテーマに関わる大きなニュース
が27日に起こったので、急遽取り上げることにします。
 いうまでもなくそのニュースとは、週明け27日の東京株式市
場が、急激な円高を受けて4営業日続けて株価が下落し、日経平
均株価(225種)は2003年4月28日に記録したバブル崩
壊後の最安値7607円88銭を5年6か月ぶりにあっさりと下
回ったことです。
 この日経平均株価の下げには、2つの理由が考えられます。
 1つはメガバンクが巨額の資本増強をはじめたことです。これ
によって、大手行を含め銀行株は軒並み売り込まれ、東証全体で
12銘柄が値幅制限いっぱいのストップ安となったことです。
 まず、三菱UFJフィナンシャルが1兆円規模の増資を検討し
ていることが伝えられたことです。三菱UFJは今年大きな買い
物をしてきています。ユニオンバンカル・コーポレーションとア
コムを子会社化し、モルガン・スタンレーに巨額な資本支援をし
たことです。その三菱UFJが増資に踏み切るというのですから
自己資本比率が厳しくなったということです。
 一方、みずほフィナンシャルは今年度予定していた2500億
円規模の自社株買いを延期すると発表しています。みずほフィナ
ンシャルは、2003年に実施した9400億円増資の優先株が
普通株に転換されて株が希薄化してしまうことを防ぐために自社
株買いをしようとしたのですが、それを延期するのはよほど台所
事情が苦しいからであると考えられます。いずれみずほフィナン
シャルは増資を余儀なくそれるはずです。
 ここで「優先株」について知っておく必要があります。
 なぜ「優先」という言葉がついているのかというと、優先株の
保有者が普通株の保有者より優先される債権者であるからです。
どういう面で優先されるのかというと、会社が傾いたとき、普通
株より優先してお金が返る可能性があるということです。発行者
である企業にとっては、優先株と普通株とでは、自己資本に対す
る扱いが違うので、優先株を発行した方がいいと判断するところ
もあります。
 問題は、その優先株が普通株に転換されれば、その分だけ普通
株の株主が増加して、会社が稼ぐ利益の1株あたりの割合が少な
くなります。これを「希薄化」というのです。普通株主にとって
は、会社の利益の金額は変わらないのに、急に株主が増えて損す
るのはけしからんと株が売られるのです。
 ちなみに、優先株は通常一般市場で売買されず、その株式は、
発行済み株式数にはカウントされないのです。したがって、優先
株が積み上がってもそれが優先株である限りは普通株が希薄化す
ることはないのです。
 2つは、円高が急進していることや、政府が発表した緊急市場
対策への失望感などから売りが加速したことです。このうち円高
はしかたがない面があります。円高問題は来週からの次のテーマ
で詳しく取り上げるので、ここでは政府の緊急市場対策について
述べることにします。
 政府の緊急安定化策の目玉は、金融機関に注入する公的資金の
予防注入枠を10兆円にするというものです。この場合、公的資
金の注入については銀行の経営者の責任は問わないということが
いわれています。
 もし、経営者の責任が問われるということになると、当然経営
者は嫌がり、それなら貸している資金を引き揚げる方が良いと考
えて「貸し剥がし」をはじめるからです。いや、既に銀行の貸し
剥がしははじまっているのです。
 しかし、専門家は政府のこの緊急市場対策に対して「30点」
をつけています。新鮮味はないし、単なる先送り策に過ぎないと
いっているのです。本当は株価が下がってから慌てて株価対策を
しても遅いのです。
 とくに気になるのは「証券化商品や株式に対する時価会計の見
直し」です。なぜなら、このような対策は劇薬であり、功罪が半
ばするからです。時価会計を凍結しても経営自体は改善されるこ
とはなく、単に問題が先送りされるだけだからです。
 2008年10月27日付の日本経済新聞は、時価会計の凍結
について次のように書いています。
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 時価会計を凍結しても経営実態は変わらず、市場の不信を高め
 るだけという批判はもっともだ。しかし、金融機関の財務規制
 ルールの運用とも絡んで、自己資本規制や資産評価基準を緩め
 ることは政策判断としてあり得る。特に、時価評価の停止が金
 融機関に対する資産売却圧力を緩和する効果は小さくない。注
 意すべきは効果の半面で不良資産の処理を遅らせる副作用だ。
 不良資産の買い取り価格を高くすれば国民負担が増え、安くす
 れば資本注入が増えるジレンマと同種の問題を抱えている。信
 用収縮による実体経済への影響を考慮しっつ、不良資産の買い
 取り、資本注入などとの合わせ技により、金融機関の健全化と
 資産市場の正常化の道筋をつけるのは、政府に課せられた課題
 である。 ――2008年10月27日付の日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 銀行に公的資金を入れる――麻生首相や中川財務・金融相は、
「10年前の日本の経験を米国に伝える」と胸を張るが、それは
失敗の経験を伝えることであることを忘れてはならないのです。
 バブル崩壊後の日本が茫然自失して何をどうしてよいかわから
ずにいた1995年頃のこと――あのグリーンスパン氏が当時の
松下康雄日銀総裁に「銀行に資本注入をしないと不況がひどくな
り、深刻なデフレになる」とアドバイスしているのです。
 しかし、日本はグリーンスパン氏の忠告を生かせず、銀行への
資本注入に失敗しているのです。真に伝えるべきはその失敗の経
験なのですが、そのあたりを本当に理解しているのでしょうか。
         ――[サブプライム不況と日本経済/53]


≪画像および関連情報≫
 ●優先株式とは何か
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  優先株式とは、利益もしくは利息の配当または残余財産の分
  配およびそれらの両方を、他の種類の株式よりも優先的に受
  け取ることができる地位が与えられた株式である。優先株式
  はその有利な条件から買い手がつきやすく、資金調達に有利
  とされる。これに対して、上記の場合に劣後的取扱いを受け
  る株式を劣後株式(後配株式)といい、標準となる通常の株
  式を普通株式という。        ――ウィキペディア
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posted by 平野 浩 at 04:36| Comment(0) | TrackBack(0) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする