し押さえられた住宅物件を見る機会が多くあります。それを見て
感ずるのは、いずれも日本の住宅と比べると、サブプライムロー
ンで入手した家にもかかわらず立派な家であるということです。
広い庭があり、プールまである住宅もあるのです。床面積は広く
リビングも大きく、ゆったりとってある家が多いのです。
米国をはじめとする他の国では、住宅は「半永久的に保つ」と
いう前提に立っているのです。欧米では住宅は何年経っても、建
物の価格はあまり下がらないのです。これに対して、日本は車と
同様に大幅に価値が下落するのです。つまり、日本では住宅は車
と同じ耐久消費財なのです。
これに対して欧米の住宅は、耐久消費財ではなく、資本財とし
てとらえられているのです。米国では住宅は資本財というか貯蓄
の代替物なのです。したがって、人々は家を入手するとそれに付
加価値を付け、評価を高めようと努力するのです。
屋根を修復し、外壁を塗り直し、設備を近代化するなど庭づく
りには時間をかける――こうして住宅にお金をかけるのです。も
ちろん、こうした投資は統計上は「消費」に計上されますが、そ
れに見合う十分なリターンがあるからです。その十分なリターン
とは、売る時に評価が上がることです。日本の場合はこういうよ
うにはならないのです。
リチャード・クー氏は、同じように焼け野原から出発した日本
とドイツとを比較して、60年が経過した現在、日本人よりもド
イツの人たちの方が立派な住宅に住んでいると指摘しています。
日本は毎年「富」を捨てていますが、ドイツでは富に富を積み上
げてきた結果であるというのです。日本に関して、クー氏は次の
ように述べています。
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最近の日本の住宅建設費は毎年だいたい20兆円である。そう
して建てられたマンションを売ろうとした時、上物の評価がゼ
ロ(タダ)になるのに何年かかるかを算出してみると、約15
年である。話を簡単にするために、ストレート・ラインでタダ
になると考えれば、新しくできた家は1年目に15分の1の価
値がなくなることになる。同時に、2年前につくられた家もそ
の1年で当初の建築費の15分の1の価値を喪失する。3年前
につくられたのも同様である。つまりトータルで見ると、1年
に失われる「富」は、ちょうど1年分の建設費という計算にな
る。言い換えれば、日本では1年で20兆円の富が煙のごとく
消えているのである。ドイツが毎年20兆円を積み上げている
のに、日本は毎年20兆円をドブに捨てていれば、60年もし
たら両者の差は1200兆円にもなる。この差が両者の町並み
の差であり、実質的な生活水準の差になるのである。
リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
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毎年20兆円――これは日本のGDPの4%に当たるのです。
こんなことをしていて国民が豊かになれずはずはない――クー氏
はこのようにいっているのです。日本という国が富の上に富を積
み上げるような政策をとってこなかったことに原因があります。
この日本と欧米諸国との差をみると、日本の住宅政策がいかに
いびつであるかがよくわかります。添付ファイルは、日米英仏の
中古住宅市場をあらわしています。
棒グラフの上のパーセンテージは、中古住宅のシェアをあらわ
しています。これをみると、日本の住宅市場がほぼ完全に新築の
みの市場である(中古住宅率13.1 %)のに対し、米国、英国
フランスはそのほとんどが中古市場であることがわかります。米
国にいたっては、77.6 %が中古住宅なのです。これは過去に
建設された住宅がきちんと補修され、付加価値が付けられた資本
財になっていることの証明です。
それでもバブルが崩壊する以前では、地価が上昇していたので
住宅価格は大きく減価しなかったのです。住宅地の実質価格――
インフレ調整後の価格は、高度成長期は6大都市で年率11%で
上昇していたのです。
当然名目価格は年率16.3 %も上がっていたので、住宅価格
というよりも土地価格として資産は形成されていたのです。それ
に日本は住宅を耐久消費財に入れているので、減価償却は27年
になっています。つまり、30年に一回は建て替えるという考え
方であるので、最初から30年程度しか保たない住宅になってい
るわけです。
しかし、バブル崩壊後は土地価格が下落し、それが15年も続
いたのです。そのため、建物の減価分を地価の上昇で補うことが
できなくなり、住宅を保有している家計は大打撃を被ったことに
なります。
もうひとつ気になる統計があります。米国では過去20年、人
口が年間250〜300万人増えているのに対し、住宅着工は、
150万戸前後なのです。これに対して日本では、人口増加幅が
減り続けて、ここ数年はゼロになったのに対し、住宅着工は年間
100万〜150万戸あるのです。これに対し、クー氏は次のよ
うに述べています。
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人口が全然増えていないのに毎年100万戸近い住宅が建てら
れ売られているということは、ほぼ同数の住宅が壊されている
か放棄されているからである。こんなことをやっていて日本が
欧米やアジアのようにリッチになることは永久にあり得ないだ
ろう。日本は世界一の省エネ国家かもしれないが、こと住宅資
産という観点では世界最大の資源浪費国とも言えるのである。
リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
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――[サブプライム不況と日本経済/52]
≪画像および関連情報≫
●住宅に関わる税制改正
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国交省が創設を要望している新税制の一つ目は、「住宅の長
寿命化(200年住宅)促進税制」というものです。欧米に
比べて短命と言われる日本の住宅を長持ちさせるため、国が
定めた耐久性や維持管理の基準に適合する住宅を認定し、登
録免許税や不動産取得税、固定資産税を軽減しようという内
容になっています。
http://allabout.co.jp/house/mansionbeginner/closeup/CU20070831A/
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●図表/リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サ
ブプライム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店
刊より