2008年10月28日

●「日本経済を襲う2つの波とは何か」(EJ第2439号)

 今回のテーマは、いわゆるサブプライム問題に端を発する世界
的金融危機について、リチャード・クー氏の次の新著をベースに
して論ずることが目的ではじめたものです。
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  リチャード・クー著
  『日本経済を襲う二つの波/サブプライム危機とグローバリ
  ゼーションの行方』   2008.6.30/徳間書店刊
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 しかし、既に50回を超えており、総まとめを行うところにき
ています。ところで、リチャード・クー氏の本のタイトルにある
「2つの波」とは何でしょうか。
 1つ目の波は、1990年度から2005年ぐらいまでの間に
日本を襲った不況の波のことを指しています。いわゆる「失われ
た10年」とか「失われた15年」といわれる不況期を指してい
るのです。
 クー氏は、この不況の波を「バランスシート不況」と名づけて
不況に対するひとつの新しい解釈――経済学のテキストに載って
いない経済分析をしています。
 しかし、2005年くらいから日本の景気は回復し、これから
順調に伸びようとしていた矢先に、米国発のサブプライム問題の
影響で日本経済も深刻な打撃を受けつつあります。先進国の中で
は一番影響が少ないといわれている日本の株式が他国よりも大き
く下げ、それに加えて円高が進んでいます。
 日本にとって一番大きい問題は、「内需が伸びていない」とい
う点です。設備投資にしても消費水準を見ても内需拡大は一向に
進んでいないです。なぜ、内需は拡大しないのでしょうか。クー
氏はその理由の1つについて次のように述べています。
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 企業がキャッシュフローの一部を金融資産の積み増しに回し、
 家計も過去に取り崩した貯蓄を埋めようとして貯金を増やして
 いるからである。しかも政府まで「財政再建」を合言葉にして
 公共事業の切削に邁進している。政府から家計まで、みんなが
 内需を減らす方向に動いているのである。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
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 日本の貯蓄率は一時大幅に減少しましたが、ここにきて再び上
昇しています。健保問題や老後の年金・介護などの社会不安がそ
うさせる原動力になっていることは確かです。
 こういう状況から日本経済は異常なほど外需依存度が高まって
おり、サブプライム問題が起きると、外人投資家が現金確保のた
め、大量の日本株を売却しているので、株価が下落しているので
す。それに日本の当局は多少景気が悪化しても「財政政策=悪」
という考え方があるので、なかなか景気対策を打とうとしない。
そういうところも外人投資家に読まれているのです。
 さすがに今回は、世界的な金融危機になりつつあり、麻生政権
としては選挙対策もあるので、急に景気、景気と言い出してはい
ますが、財政政策としてはあまりにもへっぴり腰です。
 クー氏は、日本の内需が伸びないもう1つの理由として「グロ
ーバリゼーション」を上げています。
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 なぜ内需が伸びないのか。私は、その背景には「グローバリゼ
 ーション」の影響があるのではないかと見ている。そして、日
 本にとってのグローバリゼーションとは何かと言えば、それは
 「中国の台頭」に他ならない。中国人はやる気満々で、器用だ
 し、視力もいいし、ハングリー精神も充分に持っている。その
 うえ日本人の数分の一の給料で働く準備がある。教育水準も低
 くない。中国が台頭してきたことで、世界の先進国の合計とほ
 ぼ同量の労働力が、一気に世界の労働市場に流れ込んできたの
 である。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
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 これは大変面白い考え方であると思います。グローバリゼーシ
ョンは、理論的にはすべての先進国が同じ影響を受けることにな
りますが、実際にはそれにうまく乗れる国と乗れない国が出てき
てしまうのです。また、国の中でもこれに乗れる企業とそうでな
い企業に分かれてしまうのです。
 英語や中国語ができる優秀な人材を多く有している企業は有利
であるし、資金も潤沢にあれば資本に対するリターンは大幅に上
昇するはずです。つまり、グローバリゼーションは「勝ち組」と
「負け組」を必然的に作り出すのです。
 リチャード・クー氏によると、日本は他の欧米先進国に比べる
とこのグローバリゼーションのショックは大きいというのです。
なぜなら、欧米先進国はかつてこれと同じ体験を今までに日本の
の進出によって味わっているからです。
 日本は現在、中国やインドに追い上げられています。追う立場
から追われる立場への転換です。追い上げられる立場がどんなに
大変なものか――日本は経験していないのです。
 1965年頃カメラといえば、ライカ、ツァイス・イコンなど
を筆頭とするドイツ勢が世界を席巻していたのです。日本のカメ
ラも注目はされていたのですが、世界から見ればカメラはドイツ
だったのです。しかし、それからわずか10年の間に日本のカメ
ラが世界を席巻し、1975年にはドイツのカメラは世界市場か
ら姿を消してしまったのです。ツァイスにしろ、レチナにしろ、
すべて撤退してしまったのです。そういう急激に変化が中国やイ
ンドによって世界、とくに日本に対して起こってくる――これが
グローバリゼ―ションであり、日本を襲う2つ目の波ということ
になるとリチャード・クー氏はいうのです。これが「2つの波」
の意味です。   ――[サブプライム不況と日本経済/51]


≪画像および関連情報≫
 ●グローバリゼーションとは何か
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  グローバリゼーション――この言葉は様々な社会的、文化的
  商業的、また経済的活動において用いられる。使われる文脈
  によって、例えば世界の異なる地域での産業を構成する要素
  間の関係が増えていること(産業の地球規模化)などの、世
  界の異なる部分間の緊密なつながり(世界の地球規模化)を
  意味する場合もあるし、グローバリゼーションの負の側面つ
  まり工業や農業といった産業が世界規模での競争(メガコン
  ペティション)にさらされることで維持不能になるなどの搾
  取の要素をさす場合もある。したがって最近ではマイナスの
  価値を示す言葉として語られることも多くなった。
                    ――ウィキペディア
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講演するリチャード・クー氏.jpg
講演するリチャード・クー氏
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする