れほどテレビも新聞もクー氏を締め出してきたのに一転して重用
するようになったのはなぜでしょうか。
10月19日のクー氏のサンデー・プロジェクト出演に始まっ
て、25日には読売新聞朝刊に「市場大波乱/どう立ち向かう」
というクー氏の記事が出ています。日頃「バラマキを主張するエ
コノミスト」としてクー氏の主張を無視してきたことを考えると
明らかに手のひらを返しています。
日本は少しでも景気回復の兆しがあると、必ずといってよいほ
ど財政再建をいい出して景気を失速させてきた前科があります。
橋本政権などは景気が悪いのにもかかわらず、それまでの減税措
置を撤廃し、消費税を上げ、大型補正予算を見送ったにもかかわ
らず、財政再建が進む前に経済が失速してしまったのです。
それだけの苦労をして財政再建を進めたのにかかわらず、結果
的に財政赤字は倍増してしまったのです。リチャード・クー氏は
精一杯の皮肉をこめて次のようにいっています。
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もしあの時、橋本首相が何もしないで首相公邸でプラモデルで
もつくっていれば、日本は何百兆円もの政府債務の発生を防げ
たであろう。
リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
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政権与党はこの橋本政権の失敗を何も反省していないのです。
10月23日に麻生政権は「消費税4%上げ必要」を宣言してい
ます。これは定額減税を実施せざるを得ない状況にある政権与党
がバラマキ批判を恐れての措置であると思われます。
しかし、いかに中期の政策であるとはいえ、この時期にいうべ
きことではないと思います。定額減税はやるけれども中期的には
増税をしますよといっているわけです。与謝野経済財政相がいう
「税制の一体改革」がこれだったのです。不況というのはある意
味において人間の気分の問題であり、せっかく財政政策を取ろう
としているときにそれに冷水を浴びせる恐れがあるのです。
10月25日の朝日新聞朝刊にポール・サミュエルソン氏の論
文が掲載されています。「規制緩和と金融工学が元凶」というタ
イトルで経済危機の行方について論じているのです。
サミュエルソン氏はもともとケインズ理論にいろいろ修正を加
えたり、拡張を試みたりして現実の経済に使えるようにしている
新古典派連合の経済学者の一人です。
この論文の中の「赤字いとわぬ財政支出不可欠」という小見出
しの次の一節をご紹介しましょう。
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この危機を終わらせるためには何が有効なのか。それは、大
恐慌を克服した「赤字をいとわない財政支出」だろう。極端に
いえば、経済学者が「ヘリコプタ−マネー」と呼んでいる、紙
幣を増刷してばらまくような大胆さで財政支出をすることだ。
大恐慌を克服したのは戦争のおかげだという人がいるが、そ
うではない。大恐慌当時、私はシカゴ大学の学生だったが、自
分が学んでいる経済学と、社会で現実に起きていることとの大
きなギャップについて、深刻に悩んでいた。周囲では、3人に
1人以上が失業していた。それほど高かった失業率をひとケタ
にまで減らしたのは、33年に就任したルーズベルト大統領の
政策だ。それは戦争前のことで、戦争の脅威も切迫していない
時点で着手されたのだ。 ――ポール・サミュエルソン
2008年10月25日付、朝日新聞より
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ポール・サミュエルソン氏は、今回の危機の克服には、結局財
政支出が拡大されることは不可避であるといっています。それで
もニューディール政策の経済の正常化には、7年以上かかってい
るのです。今回の経済危機はたとえ有効な手が打たれたとしても
10年はかかるという意見が少なくないのです。
最後にサミュエルソン氏は、懸念として次のように述べていま
す。しかし、それがすべて終わったとき、もはや元の米国には戻
れないといっているのです。
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懸念されるのは、ドルからの逃避、それも無秩序なかたちの逃
避が起こるのではないか、ということだ。それが起こったとき
には、外国人が米国市場から資金を引き揚げるだけではなくな
る。米国のヘッジファンドが先頭に立ってドルを売り、外国通
貨を買う事態になってしまうだろう。
2008年10月25日付、朝日新聞より
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リチャード・クー氏は、現在の日本の経済を評して、株と為替
の両方が大きく下落している多くの国と比べると、日本は円が買
われ、円高になっているだけマシであるといっています。
これまでの円は「円高バブル」といわれるほど安かったので、
日本経済は外需依存になっていたのですが、ここにきて円が再評
価されているというのです。
しかし、クー氏は、株安が金融機関を直撃し、貸し渋りが一層
ひどくなるのは注意が必要であるといっています。それを防ぐた
めに次の提言をしています。
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政府は銀行が保有する株式の価格が、市場の混乱で大きく下落
した場合、公的資金で含み損を補う措置を考えてはどうか。株
価が回復した時点で返済する仕組みにすればよい。英米主導で
導入された時価会計も見直す必要がある。リチャード・クー氏
――2008年10月25日、読売新聞より
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今一番求められているのは日本の経済の正しい舵取りです。
――[サブプライム不況と日本経済/50]
≪画像および関連情報≫
●ポール・サミュエルソン名言集より
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ノーベル賞経済学者ポール・サミュエルソンは、非常に冷静
な目で投資の世界を見つめる、かなりの切れ者であることを
最近知った。
〜長期投資のリスク解説に対する批判〜
投資機関が長くなれば、リスクは゛ロに向かって減少してい
くというのは真実ではない。訪れる年はどの年も、残された
全期間にとっての最初の年なのである。
〜短期投資の誘惑に負けるな!〜
手っ取り早く稼いだ誰かの話を聞いた日は、我が戦略の真っ
当さをもういちどわが身に言い聞かせぐっすり寝ることだ。
http://stojkovic.blog20.fc2.com/blog-entry-175.html
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ポール・サミュエルソン