2008年10月24日

●「麻生内閣は危機に対応できるのか」(EJ第2437号)

 10月21日――日本経済新聞朝刊の第1面に次の記事が出て
いました。
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 【ワシントン=大隅隆】バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)
 議長は20日、下院予算委員会で金融危機を受けた経済情勢に
 ついて、「数四半期は経済活動が弱くなりそうだが、減速が長
 びく可能性もある」と語った。そのうえで、「議会が財政出動
 (による第二次景気対策)を考えているのは適切なことだ」と
 発言、財政による景気下支えを事実上、要請した。FRB議長
 が財政出動を求めるのは異例。
      ――2008.10.21付「日本経済新聞」より
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 米バーナンキFRB議長といえば、ミルトン・フリードマンの
学統の継承者であり、ばりばりの金融政策主義者です。景気の悪
化に対しては一貫して金融政策で対応すべきだという主張の持ち
主であることはここまでに何度も述べてきています。
 そのバーナンキ議長が議会に対し、異例の財政出動を要請した
ことは、いかに米景気の現況が厳しいかのあらわれであると同時
に金融政策の限界をバーナンキ議長自らが示したことを意味して
いるのです。現在米国の金利は1.5 %であり、追加利下げの余
地がほんんどないからです。
 これに対して日本は、第2次経済対策の財源は赤字国債を使わ
ず、埋蔵金を使うといったり、与謝野経済財政相にいたっては財
政出動をするならば増税をセットで行うべきだなどと平気でいう
始末です。国民も既に洗脳されているのか、財政出動や赤字国債
という言葉が出ると、すぐ「バラマキ反対」といい出すなど、本
当に経済政策のやりにくい国になってしまっています。
 既に述べたように、あのIМFでさえ「世界が協調して財政出
動をすべし」といっているのです。これについては、19日のサ
ンプロに出演したリチャード・クー氏にいっていました。財政政
策はこういう危機に使うものなのだからです。
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http://electronic-journal.seesaa.net/article/107347343.html
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 日本についてはもうひとつ心配なことがあります。それは国と
して経済運営のかじ取りをすべき麻生首相と中川財務・金融相の
「経済オンチ」ぶりです。これについては、20日発売の『週刊
朝日』10/31において、ジャーナリストの松田光世氏が指摘
していますので、ご紹介しておきます。
 麻生首相はG8サミットの開催を提唱しています。24日から
北京でASEANの首脳会合が開催されるので、その前夜に成田
でやったらどうかという提案です。
 日本はサミットの議長国ですし、提案はいいのですが、問題は
それを10月10日にいっていることです。10月10日といえ
ば週末を利用してG7などを開催し、週明け――日本は14日で
すが、他国は13日――の市場パニックをいかにして防ぐかと必
死になっているときです。タイミングも良くないし、ノーテンキ
です。そんなことは週明けの結果を見て決めるべき問題です。
 案の定というべきか当然というべきか、日本の提案は米国に断
られてオジャンになり、結局米国とフランスに主導され、「金融
サミット」は11月に米国で開催されることになったのです。日
本は今年サミット議長国であるのに馬鹿にされたものです。
 先のG7などの席で日本が90年代に経験した公的資金投入の
経験を話して主導権を取れと指示された中川財務・金融相はワシ
ントンに向かう飛行機の中で、白川方明日銀総裁と協議して「I
MFを通じた新興国への資金支援」を打ち出すことを決めていた
のです。
 ところが、中川財務・金融相はG7などの席で「外貨準備を活
用して」IMFに資金支援するといってしまったのです。しかし
これはできないのです。
 IMFに出資するために外貨準備として保有する米国債を売る
とドル暴落の引き金を引く危険があるし、政府短期証券を発行し
て市中から資金調達をすると国内の信用収縮に拍車をかけてしま
うからです。
 それではどうすればよいかというと、専門家は次のように説明
しています。
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 IMFの信用を保証するのなら、外貨準備の活用ではなく、交
 付国債を拠出すればいい。10兆円も出せば、新興国の資金需
 要に対応できるはずです。         ――財務省OB
               『週刊朝日』10/31号より
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 交付国債というは、現金の代わりに交付するために発行される
国債のことであり、資金借入のために発行される通常の国債とは
性質が異なるのです。土地の買収や補償金などの現金支払に代え
て交付され、実際の現金の支払は要求があったときに予算措置を
行い支払いをすることになります。したがって、実際の現金の支
払いはを後年に繰り延べるのです。
 交付国債については、EJで取り上げたことがあります。詳し
くは次のURLをクリックしてください。
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http://electronic-journal.seesaa.net/article/46005537.html
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 もうひとつ重要な指摘があります。麻生首相は空席だった日銀
副総裁に山口広秀日銀理事を昇格させる人事案を国会に提出して
いますが、日銀審議委員は人選していないのです。これはもしか
すると忘れたかも知れないのではという噂が広がっています。
 世界の中央銀行で、金融政策決定に関わる人数が偶数になるの
ははじめて――これは「異例の事態」なのですが、首相は知らん
顔です。     ――[サブプライム不況と日本経済/49]


≪画像および関連情報≫
 ●金融政策決定に関わる人数は奇数が原則
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  日銀政策委員会は、日銀総裁と副総裁(2人)、日銀とは無
  関係の6人の審議委員(有識者、金融界・財界出身者など)
  合計9人で構成されています。ある政策決定において総裁以
  外の8人が4対4で割れた場合、総裁の1票で決定できるよ
  う必ず奇数が原則なのです。この政策委員たちは、すべて国
  会の同意に基づいて内閣が任命します。しかし、犯罪を犯す
  などのことがなければ、辞めさせることはできません。これ
  は、先ほど述べた「日銀の中立性」を維持するためのもので
  す。この政策委員会が何か重要な政策について決定する会議
  を「日銀政策決定会合」と呼んでいるのです。
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麻生首相と中川大臣.jpg
麻生首相と中川大臣
posted by 平野 浩 at 04:24| Comment(0) | TrackBack(0) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする