2008年10月20日

●「財政再建に熱心でない財務省」(EJ第2433号)

 10月16日の東京株式市場で日経平均株価が再び1000円
を超える大幅な下落となり、9000円台を割り込んでいます。
世界の市場が動揺し、世界同時株安の様相を見せてきています。
 この経済の状態は既に「世界恐慌」といえなくもないのです。
しかし、一国のトップがそれを少しでも認めたら、そのときから
「世界恐慌」になってしまうのです。1929年、当時の片岡直
温大蔵大臣が国会において、「いま、東京渡辺銀行が破綻しまし
た」という事実誤認の発言をしたことが引き金になって、昭和恐
慌がはじまっているからです。
 しかし、麻生首相は、10月7日の衆議院予算委員会で世界経
済の現状について次のように述べたのです。
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 1929年に匹敵する。欧州も巻き込んでいるので、日本への
 影響は必ず出てくる。            ――麻生首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 これについて、16日発売の「週刊文春」は次のように書いて
います。経済に強いと自認する麻生首相としては、あまりにも不
用意な発言だったといえます。
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 世界中のトップが『恐慌ではない』と否定し、投資家の不安を
 抑えようと必死の中、麻生首相の恐慌発言は百年に一度の「大
 失言」です。トップが認めた瞬間に、現実化するのが恐慌。言
 わばガスの充満した炭鉱から安全に脱出しようと慎重に行動し
 ている時に、一人の男がタバコを吸おうとして大爆発を起こし
 たようなものです。    ――生活経済アナリスト水澤潤氏
             10月23日付、『週刊文春』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、先週末にご紹介した高橋洋一氏の本には、新聞や雑誌で
は絶対に知ることのできない財務省のウラの事情がわかります。
高橋氏は旧大蔵省(現財務省)理財局の出身なのです。
 現在、麻生政権では第2次経済対策として2次補正予算案を組
もうとしています。財源としては、赤字国債を出したくないとは
いうものの、それも視野に入れた検討が進んでいます。
 しかし、財務省はここまでのところ、まったく音なしの構えで
す。財務省によると現在の日本の財政は危機的状況にあり、「財
政再建」を急ぐ必要がある――そのためには消費税の増税は避け
られないというのです。麻生政権は、それに反する行動を取ろう
としているのに財務省はあえて反対は口にしていないのです。
 2006年9月に安倍政権が誕生しましたが、そのときにも財
務省はおかしな行動をとっています。2006年度は景気が回復
して税の自然増収が5兆円見込まれたのです。2006年度の財
政赤字は当初予算は29兆9730億円であり、もし、5兆円の
自然増収があればそれを差し引くと、2006年度の財政赤字は
25兆円まで減る計算になります。
 財政赤字を何とか減らしたい財務省にとって、こんないいこと
はないはずです。しかし、彼らはあることを企んだのです。それ
は、1.5 兆円の大型補正予算の編成を安倍政権に持ちかけてい
るのです。信じられるでしょうか。
 財務省は、どうしてそのようなことをしたのでしょうか。高橋
氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2006年度の財政赤字は、当初予算で29兆9730億円、
 約30兆円だった。仮にその年度に見込まれる5兆円の自然増
 収を全額、赤字減らしにあてれば、2006年度の赤字は25
 兆円まで減る。すると、次の年度は、25兆円を上回る赤字予
 算は組めない。もし、そんなことをすると、マスコミから安倍
 政権は財政再建を真剣に考えていないと批判される。歳出削減
 というハードルも一層高くなり、主計局は苦しめられる。そこ
 で増収分のうち1.5 兆円を補正予算で使う。すると2006
 年度の赤字は、約27兆円となって、翌年の歳出削減のハード
 ルは下がる。主計局にとって経済成長による税収増はしょせん
 臨時ボーナスのようなものでしかない。彼らが狙っているのは
 あくまでも、恒久的に自分たちの財布を確実にパンパンにして
 くれる増税だ。赤字の額を減らせなければ、増税の議論を持ち
 出しやすくなる。しかも、1.5 兆円の補正予算を組み、カネ
 をバラ撒けば、永田町への影響力も保てる。
       ――高橋洋一著、『日本は財政危機ではない!』
                         講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務省にとっては、本当は赤字国債をなるべく出さないように
する、いわゆる改革路線内閣は嫌いなのです。安倍内閣が仮に大
型補正予算を出せば支持率低下は必至であり、改革路線内閣を潰
すことができる――ダメモトでやってみる価値はある――財務省
が補正予算を提案したのは、そんな事情があったのです。
 しかし、安倍政権は財務省の手には乗らず、補正予算の話は潰
れたのです。このように、財務省は税収増を使って本気で赤字を
減らそうとは考えていないのです。本気で財政出動を止めようと
はしていないのです。どうしてでしょうか。
 それは日本が財政危機などではないからです。財政危機を煽っ
て消費税増税を実現させ、恒久的に自分たちの自由になるカネを
たくさん握る。そうすれば、そのカネをばらまくことによって、
永田町への影響力を強めることができるからです。
 しかし、日本は834兆円の債務を抱えています。この数字は
GDPの160%にも当たるのです。財務省はこの数字を強調し
て財政危機を喧伝し、マスコミなどを使って増税の必要性を訴え
ているのです。この数字は自民党増税タカ派の増税キャンペーン
で使っているものであり、数字の信憑性には疑いがあります。
 もし、実際は財政危機でないのにそれを喧伝し、増税やむなし
の世論誘導をしていると仮定すると、それはとんでもないことと
いえます。    ――[サブプライム不況と日本経済/45]


≪画像および関連情報≫
 ●「昭和恐慌」について
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  日本経済は第1次世界大戦時の好況から一転して不況となり
  さらに関東大震災の処理のための震災手形が膨大な不良債権
  と化していた。一方で、中小の銀行は折からの不況を受けて
  経営状態が悪化し、社会全般に金融不安が生じていた。3月
  14日の衆議院予算委員会の中での片岡直温蔵相の「失言」
  をきっかけとして金融不安が表面化し、中小銀行を中心とし
  て取り付け騒ぎが発生した。一旦は収束するものの4月に鈴
  木商店が倒産し、その煽りを受けた台湾銀行が休業に追い込
  まれたことから金融不安が再燃した。これに対して高橋是清
  蔵相は片面印刷の200円券を臨時に増刷して現金の供給に
  手を尽くし、銀行もこれを店頭に積み上げるなどして、不安
  の解消に努め、金融不安はやっと収まったのである。   
                    ――ウィキペディア
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首相答弁/衆院予算委員会.jpg 
首相答弁/衆院予算委員会
posted by 平野 浩 at 04:16| Comment(0) | TrackBack(0) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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