法の制定などのさまざまな金融対策にもかかわらず、むしろ深刻
な状況は拡大しつつあります。そして、現在は、まさに「恐慌前
夜」といわれているのです。
この記事は10月11日に書いているのですが、この時点では
G7における決定事項が入ってきていないのです。実際にこの後
何が起きるかわからない状況で、記事の内容が現実の動きとフィ
ットしないこともあることをお許し願いたいと思います。
ところで、「恐慌」とは何でしょうか。
「恐慌」とは、不況の一種のことで、そのもっとも深刻な状況
――金融危機を伴う不況のことをいうのです。不況には次の3つ
があるのです。
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1.景気後退 ・・・・・ リセッション
2.不 況 ・・・・・ デプレッション
3.恐 慌 ・・・・・ クライシス
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資本主義経済では、利潤追求のため大量の商品を生産しますが
商品の生産には人件費をはじめコストがかかります。経営者は利
潤を高めるため、なるべくコストを低くしようとします。
しかし、そのバランスを誤ると、生産が増大しても人々の所得
が充分に上がらない状況が起こります。そうすると、人々はもの
を買わなくなり、商品の過剰生産が起こり、価格暴落、破産、失
業などの景気循環の最悪の危機的局面が生ずることがあります。
これを「恐慌」というのです。
この恐慌が世界中に広がるのが「世界恐慌」です。現在、世界
恐慌というと、1929年〜1933年の間に世界中の資本主義
諸国を襲った史上最大規模の世界恐慌――1929年10月24
日(木)のニューヨーク、ウォール街の株式市場の大暴落「暗黒
の木曜日・ブラック・サースデイ」に端を発し、全資本主義諸国
に波及した恐慌のことを指しているのです。既に世界中の株価は
暴落しており、こういう状況を考えると、既に恐慌に突入してい
るのではないかとも考えられます。
10月10日の日経平均の終値は「8276円」という驚くべ
き株価になっています。株価が下がって、心配なのは実は生保会
社なのです。大和生命保険株式会社は破綻しましたが、ここは9
月末の決算が通っておらず、既に9月時点で破綻必至の状況だっ
たのであり、生保破綻が連鎖することはないといえます。
次のデータは、大手9生保の保有株式の含み益がゼロになる株
価をあらわしています。数字が低いほど安全というわけです。し
かし、この数字は2008年3月時点のものであり、9月時点で
は、トップの採算ラインの生保会社も8000円台に落ちている
と考えられます。
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明治安田生命 7400円
日本生命 7600円
大同生命 8000円
太陽生命 8270円
第一生命 8600円
富国生命 9300円
三井生命 9400円
住友生命 1万0400円
朝日生命 1万2750円
日刊「ゲンダイ」/2008.10.09付より
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さて、大和総研主任研究員の田代秀敏氏が、今回の金融危機に
対応する中国の奇妙な動きを伝えています。実は中国はファニー
メイ、フレディマック社債などのGSE債の最大の保有国なので
す。米財務省のデータによると、世界シェアの28.9 %を占め
3763憶ドルの(約39兆円)を保有しているのです。
2008年7月にファニーメイ、フレディマックの株価が急落
したのですが、中国はこれらのGSE債を30憶ドル以上を売っ
て、米国債を130憶ドル以上買っているのです。
株価の急落した会社の社債を処分してより安全な債券に乗り換
える――これはごく常識的な安全対策であり、日本も同じように
しているのです。しかし、そのようなことは黙って行えばよいこ
とであり、公表などしないのが普通です。
しかし、中国は意外な行動に出たのです。北京五輪終了後の8
月28日、中国銀行は、同行が保有するファニーメイ、フレディ
マックの債46憶ドルを6月末までに売却したことを公表したの
です。中国銀行は中国第4の商業銀行であり、株式会社化されて
います。しかし、その株式の3分の2は中国政府が保有し、経営
支配権は中国政府にあります。
ということは、中国政府の意思として8月以降もファニーメイ
とフレディマック債を売却して行くという意思表示をしたことを
意味しています。この公表にショックを受けた米国政府は、その
10日後にファニーメイとフレディマックを国有化するのです。
しかし、中国の揺さぶりはこれでは終わらなかったのです。9月
11日のことですが、中国は「ドル売り」にも言及したのです。
中国最大の投資銀行である中国国際金融公司(CICC)のチ
ーフエコノミストは次のように述べています。
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中国当局は全部の卵をひとつの籠に入れておくのは悪い考えで
あることを認識し、現在の危機によって、外貨準備の投資先の
多様化が進展するだろう。 ――「文藝春秋」11月号より
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これは明らかに外貨準備のドル資産を減らすことを示唆してい
ます。ちなみに中国国際金融公司のCEOは、朱鎔基前総理の長
男/朱レビン氏なのです。これは中国の米国に対する一種のブラ
フといえます。 ――[サブプライム不況と日本経済/41]
≪画像および関連情報≫
●マルクス経済学における恐慌論
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商品経済と階級社会を特徴とする資本制経済においては、生
産手段の私的所有と、生産の社会的性格が矛盾する。したが
って、生産の決定は資本家が行うことになり、供給がもっぱ
ら利潤拡大を念頭に置かれるとともに、労働者の搾取は激し
くなる。このことから、生産の拡大傾向と労働者の消費制限
の対立(生産と消費の矛盾)が生じ、生産と消費の不均衡が
生じて経済が立ち行かなくなる。この不均衡を暴力的に解消
し、再生産をもとどおり可能にさせる手段が、恐慌という装
置である、と説く。 ――ウィキペディア
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中国国際金融有限公司CEO朱レビン氏