す。そのためには「円安/ドル高」の状況が不可欠なのです。し
たがって、もし市場が円安になると、日本の金融当局は市場に為
替介入して「円安/ドル高」の状態を保とうとします。
そういう為替介入を日本が一番激しく行ったのは、2003年
から2004年にかけてなのです。このとき日本の金融当局は、
総額35兆円に及ぶ人類史上最大の為替介入を行っています。
考えてみると不思議なことですが、日本国内では政府がこうし
た為替介入を行うことについて誰も異を唱えないことです。日本
にとって「円安/ドル高」が国益になるということが、周知され
ているからでしょうか。
しかし、欧米の受け止め方はぜんぜん違うのです。ある海外の
エコノミストは次のようにいって日本を非難しています。
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日本政府の為替介入は人類史上最大の介入であり、人類史上最
大の市場に対する暴挙である。 ――ある海外エコノミスト
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欧米の立場から見ると、巨大な貿易黒字国である日本が資金力
にものをいわせて為替介入し、円高を止めようとする行為は近隣
窮乏化策であるように映るのです。
近隣窮乏化策というのは、国内の雇用拡大のために自国本位の
政策を取り、他国に失業などの負担を転嫁させるような政策のこ
とをいうのです。このため他国もそれに対する報復を行う可能性
があるため、国際経済関係が悪化する要因となるのです。
1999年6月のことですが、当時大蔵省の財務官であった榊
原英資氏は、そのとき117円であった円ドルレートを122円
まで円安にすると公言して、3兆円もの公的資金を投入して円高
を止めようとしたことがあります。
これに対して、当時米財務長官であったサマーズ氏は反発して
これに抵抗したのです。市場は日米両国の貿易収支の数字に注目
して、為替は逆に一気に1ドル100円の円高になってしまった
のです。サマーズ氏の怒りは次のようなものだったのです。
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世界最大の貿易黒字国が自国通貨を下げて、輸出で稼ごうなど
というのはとんでもない。そんな介入は認めない。
――サマーズ米財務長官(当時)
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これに対して現在のEUは、日本とは対照的な対応をしている
と思います。現在、ユーロが上がっています。ユーロの一番安い
ところから約80%上がっているのですが、ECB(欧州中央銀
行)は一回も為替介入していないのです。EUは責任を取って、
ユーロ高を容認しているのです。
おそらくEUの首脳は、米国の膨大な貿易赤字を見て、これ以
上米国の市場に依存するべきではないと判断したものと思われる
のです。高度な政治的判断がそこに行われたのです。
しかし、ヨーロッパの人々は、現下のユーロ高に悲鳴を上げて
いるのです。ヨーロッパの産業界では介入してユーロ高を止めて
欲しいという要求が多く出ているのです。何しろヨーロッパのホ
テルの朝食は日本円で一食5000円位になっているのですから
そういう要求が出ても当然です。
最近の田中宇氏の「国際ニュース解説」によると、次のような
驚くべきことが出ています。
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9月25日、ドイツの財務大臣が独議会での発言で「アメリカ
は国際金融システムにおける超大国の地位を失う。世界は、多
極化する。アジアと欧州に、いくつかの新たな資本の極(セン
ター)が台頭する。世界は二度と元の状態(米覇権体制)には
戻らない」と表明した。
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田中宇氏といえば、やがて現在の米国の一極覇権主義は崩壊し
て、世界は多極化するという持論の持ち主ですが、ドイツの財務
相が多極化を明言するというのはEUがしっかりした意思を持っ
て、そのひとつの極になろうとして、ユーロ高を受け入れている
ことをあらわしていると思います。田中宇氏は「世界の多極化」
について次のように述べています。
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私は、米のイラク占領が崩壊した2004年ごろから世界の多
極化を予測してきたが、ドイツのような米の主要な同盟国の大
臣が「世界は多極化する」と予測した話を見たのは、これが初
めてだ。キッシンジャー米元国務長官のような多極主義者の疑
いがある米上層部の人々が曖昧に多極化を示唆するとか、ロシ
アやイラン、ベネズエラなどの野心的で反米の指導者が、自国
の台頭願望と絡めて米の覇権崩壊を予測するとかいったことは
これまでにも時々あった。だが、これらの当事者ではなく、第
三者であるドイツの議会で財務相がそれを語るとなると、もは
や「たわごと」ではなく、現実味はぐんと強くなる。私が最近
何度も書いている「金融崩壊が、米の覇権衰退と世界の多極化
を引き起こす」という予測は、独蔵相の発言によって、確度が
高いことが裏づけられた(自画自賛で恐縮ですが)。
――田中宇/国際ニュース解説/2008年9月30日より
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こういうEUに対してアジア――とくに日本は、米国の背中ば
かり見て、あらゆることを米国に依存してきています。EUがグ
ローバル・インバランサスを解消し、ドルの崩壊を防ぐために、
ユーロの上昇を受け入れているのに、自由貿易体制の恩恵を受け
たアジアは巨額な為替介入で、グローバル・インバランサスの拡
大につながるような行動をとっているのです。
世界経済の安定成長のためにはドル安は不可欠なのですが、ア
ジアは必死にドル高を守ろうとしている――それがドルの崩落に
つながるのです。 ―― [サブプライム不況と日本経済/40]
≪画像および関連情報≫
●米国の衰退で世界から米軍が引き上げている
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欧州や韓国から5万人以上の兵士が米国に撤退する。米軍は
軍の新兵募集もできない状態で、イラク13万人の交代要員
もなく、イラクからも撤退で8万人に減らさざるを得ない状
況になっている。宇宙船ディスカバリーの打ち上げでも耐熱
材の損傷をあり、今後の打ち上げが中止することになった。
自動車産業でも日本と韓国に米国国内でシュアを減らしてい
る。航空機産業でもEUとの競争が激しい。米国の企業が儲
けると企業からの税で米国国家も潤うが、企業利益が減って
いるために米国も苦しいことになっている。
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/k7/170802.htm
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榊原英資氏