2008年10月07日

●「プラザ合意のアジア版をやれ!」(EJ第2425号)

 現在、明らかに米国の覇権が揺らいでいます。このままいくと
ドルが基軸通貨であり続けるのも時間の問題になりつつあるよう
に思います。もし、ドルが基軸通貨でなくなるようなことがあっ
たら、世界の国々にとってはそれぞれ利害得失はあるでしょうが
少なくとも日本が大打撃を受けることは間違いないことです。
 それでは、日本はどのようにすればよいのでしょうか。
 リチャード・クー氏は「1985年のプラザ合意のアジア版を
やれ!」と提案していますが、きわめて実効性のある提案だと思
うので、ご紹介することにします。
 基軸通貨としてのドル問題の根底には、米国の巨額な貿易赤字
があることは衆目の一致するところです。添付ファイルのグラフ
を見てもわかるように、現在は最悪の状態にあります。
 その最悪の状態を作っているのは、日本、中国、韓国、台湾な
どのアジア勢なのです。ドル決済の石油輸入を除くと、日本を含
む対アジアの赤字シェアは全体の59.6 %になります。
 一方のユーロはドルに対して十分高くなっており、米ポールソ
ン財務長官は次のように警告を発しているのです。2008年6
月9日のことです。
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 これ以上ドルが対ユーロで低迷するようなときは為替介入も
 辞さないであろう。      ――ポールソン米財務長官
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 この発言には政治的なウラがあります。ユーロ圏は貿易赤字は
なく、足元の経済は好調であり、欧州中銀はサブプライム問題で
中断をしていた利上げをはじめようとしていたのです。これは、
ユーロが基軸通貨としての役割を果たそうとしているように米国
には感じられたのでしょう。
 このままではドルの基軸通貨の地位が危ない――ポールソン米
財務長官はそう考えて警告を発したと考えられます。しかし、ド
ル危機は、対ユーロの調整だけでは解決しないのです。ドル危機
を根底から回避するには、米国は対アジア貿易赤字が改善する水
準までドルを下げなければならないのです。
 そこで、リチャード・クー氏は次の提案をしています。アジア
通貨の15%切り上げ案です。
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 それには一つの提案がある。日本円を含むアジア通貨を現在の
 水準からすべて15%切り上げるのである。中国は共産党政権
 だから、当局がその気になれば明日にでも15%の切り上げは
 できる。日本や韓国、台湾の通貨は変動相場制になっているの
 でそうはいかないが、各国当局が同時に「今の水準から15%
 以内なら為替介入しない」という宣言を出せば、おそらくこれ
 らの通貨も人民元と足並みを揃えて切り上がっていくだろう。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
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 仮に、現在の為替レートが「1ドル=100円」であるとしま
しょう。15%切り上げるということは、円は「85円」まで上
昇することになります。
 今までの感覚ですと、「1ドル=85円」になったら大変とい
うことで、円売りドル買いで100円以上に戻すという介入がす
ぐ行われますが、これをあえて受け入れるのです。
 その代わりに日本が現在競争しているアジア諸国も15%の切
り上げを一斉に行うのですから、アジア内の貿易は一切影響を受
けないわけです。したがって、アジア諸国が一斉にこれを行うこ
とが条件であり、そこに意義あるわけです。
 実効為替レートで見ると、2008年の「1ドル=100円」
は1985年のプラザ合意時代の水準では「1ドル=210円」
に等しいのです。したがって「1ドル=85円」は、20年前の
水準でいえば「1ドル=190円前後」であり、何とかやれる水
準ではないかと思われます。リチャード・クー氏は、次のように
いっているのです。
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 我々がその7%の犠牲″を受け入れることによって、ドルの
 大暴落が防げるのであれば、これは安い買い物ではないか。現
 在のような状況を放置しておいて、ある日、本当にドルが崩落
 してから、「あの時になんとかしておけばよかった」と言って
 も遅いのである。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の貿易赤字が、とくにアジア諸国、なかんずく日本に対し
てここまで巨額になったのには理由があります。そこには、日本
の輸出業者の不断のコスト削減努力があるのです。
 わかりやすいモデルで考えてみます。「1ドル=100円」が
50円になったとしたら、それまで100円で輸出され、1ドル
で売られていた製品は、ドルの価値が半分になっているので、2
ドルになります。
 しかし、日本の業者は大変な努力をしてコストを下げ、100
円だった輸出価格を60円に下げて輸出したのです。そうすると
「1ドル=50円」になっても、米国における価格は10円しか
変わらないことになります。10円ほどの変化では米国の消費者
の行動はほとんど変わらず、貿易収支は改善しなかったのです。
 しかし、日本をはじめアジア諸国が一斉に15%切り上げを行
えば、米国はそれまでの感覚からいくと、ドルは倍の30%ぐら
い下がったようなインパクトを受けるはずです。そうなったら
米国の消費者も行動を変えざるを得ないでしょう。そして、米国
の産業界も自国の製造業の再構築が必要であることに気が付くは
ずである――クー氏はこのようにいうのです。
 以上が「1985年のプラザ合意のアジア版をやれ!」という
提案です。    ――[サブプライム不況と日本経済/37]


≪画像および関連情報≫
 ●「プラザ合意」について
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  日本の経済は、1985年頃まで輸出主導型で経済成長を遂
  げてきました。輸出企業が景気の先導役を担っていたため、
  為替が円安に向かうと株価が上がり、円高に向かうと株価が
  下がるという傾向がありました。ところが1985年9月に
  先進5カ国(米国、イギリス、西ドイツ、フランス、日本)
  は、協調して為替レートをドル安に進めることに合意しまし
  た。これをプラザ合意と呼んでいます。
            http://www.findai.com/yogo/0118.htm
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米国の巨大な貿易赤字.jpg
<米国の巨大な貿易赤字>
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(1) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする