ることにします。2つの問題があると思います。
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1.海外の投資家がドル建て資産から逃避する
2.石油のドル表示がユーロ表示になる可能性
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2008年2月の議会証言で、バーナンキFRB議長はこれら
2つの問いに答えています。1については「今ところ何も問題は
ない」とあっさりと懸念を否定し、ドル表示の変更については次
のように答えたのです。
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表示通貨はシンボリックなもので、どの通貨で表示されよう
と、たいして重要ではない。 ――バーナンキFRB議長
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FRB議長としては信じ難い答弁であると思います。これらの
バーナンキ議長発言について検証してみます。
1の「海外の投資家がドル建て資産から逃避する」について、
バーナンキ議長は問題がないことの根拠として、長期金利がドル
安にもかかわらず急騰していないことを上げています。長期金利
というのは、償還期間の長い(1年以上の)債券――代表的なも
のは国債の金利のことです。
クー氏の分析によると、海外投資家のドル離れが起きているこ
とは間違いないとしたうえで、それなら、なぜ長期金利が上がら
ないのかというと、国内投資家がサブプライムなどのリスクの高
い仕組み債から、安全な国債への移行を行っているせいであるか
らなのです。そのため、海外投資家のドル離れが長期金利に反映
されにくくなっているのです。
これと同じような現象が1987年のブラックマンデーのとき
も見られているのです。このときも海外投資家のドル逃避は明ら
かにあったのですが、米国国内では暴落している株式市場から資
金が債券市場になだれ込んだので、長期金利は上がるどころか下
がったのです。
したがって、海外投資家のドル逃避は間違いなく起こっている
ことなのです。FRB議長がこんなことがわからないはずはなく
発言の真意が問われています。
Aの「石油のドル表示がユーロ表示になる可能性」についての
バーナンキ議長の反論――どの通貨で表示されようと、たいして
重要ではない――は、理解に苦しむところです。なぜ、重要では
ないのでしょうか。これに関するクー氏の反論をご紹介すること
にします。
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世界の他の諸国は石油がドル表示になっているため、例えば日
本は為替市場で円を売りドルを買ってそのドルで石油を買って
いる。ヨーロッパも同様に、ユーロを売ってドルを買い、その
ドルで石油を買っている。ということは、石油がドル建てだっ
たということで、かなりのドル買い需要が発生していたのであ
る。ところが、仮に石油がユーロ表示になったら、この様相は
一変する。そんな事態になれば、ユーロの売られる額は大きく
減少し、他方ドルの売られる額が急増するからだ。
リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
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もし、石油がユーロ建てになると、米国は貿易赤字国なので、
国内にユーロはないのです。したがって、米国が石油を買うには
巨額のドルを売ってユーロを買い、そのユーロで石油を買うこと
になるのです。米国とってこれほど屈辱的なことはないはずなの
に、バーナンキ議長はなぜ「たいして重要ではない」などという
のでしょうか。
日本は石油を購入するために円を売ってドルを買い、同様にヨ
ーロッパはユーロを売ってドルを買い、それぞれそのドルで石油
を買うのです。石油を買うには世界中でこのように膨大なドル買
いが前提となります。
しかし、石油がユーロ建てになると、そういうドル買いが一切
なくなってしまうのです。そうなると、もはやドルは基軸通貨と
はなり得なくなります。もし、ドルが基軸通貨でなくなったら、
ドルを保有するメリットがなくなり、一斉にドル売りが始まり、
ドル暴落は現実のものになります。
バーナンキFRB議長がそんなことを知らないはずはないので
石油のユーロ建てなど起こるはずがないと考えているのだと思い
ます。しかし、その根拠は何でしょうか。
バーナンキ議長が強気なのは、産油国の盟主であるサウジ・ア
ラビアが自国通貨リアルをドル・ぺッグしているからです。これ
が崩れない限り石油のドル表示は大丈夫であると考えているもの
と思います。
しかし、現在産油国は、まだ1桁ではあるもののインフレで苦
しんでいるのです。中近東の産油国は原油高で景気が良く、ヨー
ロッパから大量に輸入しているのですが、ユーロの高騰から「輸
入インフレ」に陥っているのです。IMFはこの事態を懸念し、
産油国に通貨切り上げを勧告しているのです。
既にクウェートは、ドル・ぺッグを外して通貨バスケットに切
り替えています。通貨バスケットとは、複数の外貨と連動した変
動相場制のことです。そして、クウェートは自国通貨を対ドルで
切り上げています。さらに2007年には、バーレーンもドル・
ペッグから通貨バスケットに切り替えたのです。
こうした中でサウジ・アラビアだけがリアルをドル・ペッグし
ているので、石油のドル表示が続いているのです。しかし、サウ
ジ・アラビアもインフレで苦しんでおり、「ドル・ペッグは維持
できない」という声が出ているのです。サウジ・アラビアとてけ
っして盤石ではなく、サウジが通貨バスケットに移行することは
あり得るのです。 ――[サブプライム不況と日本経済/35]
≪画像および関連情報≫
●「通貨バスケット」とは何か
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ドルやユーロ、円といった複数の主要通貨で構成する「バス
ケット(かご)」に自国通貨を連動させる制度。貿易など自
国との関係の深さに応じて通貨ごとの比重を決めて、バスケ
ットを作る。組み入れられた各通貨の強弱が相場の動きを相
殺するため、ドルなど単一通貨に連動させるより為替相場は
安定する。アジアでは、シンガポールなどが採用しており、
ロシアも2005年2月、ドルとユーロを組み合わせた通貨
バスケットを導入した。(毎日新聞2005年7月22日)
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