2008年09月01日

●「格付け機関はなぜAAAを与えたか」(EJ第2401号)

 証券化ビジネスには複数の金融機関がかかわっています。とく
に、銀行、証券会社、モノライン保険会社、格付け機関の関係は
重要です。証券化ビジネスが行われる順序を整理します。
 証券会社は、証券化に必要なだけの住宅ローンを銀行から買い
集めて、証券化します。それらの証券化商品は当然のことながら
売れるまで、証券会社の在庫になります。メリルリンチ証券は、
これらの在庫が劣化し、窮地に追い込まれたのです。
 証券化ビジネスとは、格付け機関の「AAA/トリプルA」の
認定を前提とするビジネスなのです。問題は、そのトリプルAの
認定を受けるにはどうするかです。それには、モノライン保険会
社に証券化商品の支払い保証をしてもらう必要があります。証券
会社は住宅ローンを証券化するさいに、モノライン保険会社の支
払い保証が受けられるように証券化する必要があるのです。
 モノライン保険会社がどのようにして支払い保証をつけるのか
について、既出の春山昇崋氏の著書にわかりやすい図が出ている
ので、添付ファイルにしてありますので、ご覧ください。
 図の上方にトリプルAの格付けに必要な信用力のラインが点線
で示されていますが、企業A、企業B、企業Cはいずれもそのレ
ベルに達していないことがわかります。
 そこでモノライン保険会社は、A、B、Cそれぞれに支払い保
証を供与することによって3社すべてがトリプルAを獲得できる
レベルに変身できることになります。当然のことですが、モノラ
イン保険会社が提供する保証の大きさはそれぞれ異なります。
 このようにモノライン保険会社は、投資家や証券会社に対して
支払い保証を供与することによって標準化、均質化を提供する役
割を担っているのです。日本でも銀行から融資を受ける信用力が
ない企業が、信用保証協会が保証してくれれば銀行から融資が受
けられるのと同じです。
 さて、このモノライン保険会社の支払い保証を評価のひとつと
して、格付け機関は証券化商品に格付けを行うのです。しかし、
この格付け作業は厳密にやろうとすると、相当の人手と時間がか
かるのです。
 リチャード・クー氏は、証券化商品のリスク特性を正確に把握
することの困難性について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これらの金融商品のリスク特性は、これらの商品を実際に組成
 した人たちにしか把握できないという点である。極めて高度な
 数学を駆使してつくられたこれらの商品は外部の人たちがその
 リスク特性を知ろうとしたら、その証券の構成部分である個々
 の金融商品の過去のデフォルト率などを一つ一つ調べ、それを
 もう一回組み合わせて全体のリスク特性を計測しなければなら
 ない。その作業にはクウォンツと呼ばれる高度な数学の知識を
 持っているチームが必要であり、またその作業には一つの証券
 につき数週間の時間が必要だと言われている。
                  ――リチャード・クー著
  『日本経済を襲う二つの波/サブプライム危機とグローバリ
              ゼーションの行方』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 こうした困難な格付け作業は、格付け機関をして、ともすると
安易な判断を行わせやすいのです。モノライン保険会社が保証し
てくれるのだから、保険会社が保証できる状況かどうか、それだ
けをチェックすればよいというような安易な判断を格付け機関は
行い勝ちになるのです。
 まして、モノライン保険会社自身はトリプルAの格付けを有し
これまで30年以上もの間、無事故で健全な状態だったのですか
ら、その保険会社が保証するMBSは安全である――格付け機関
はそう判断してトリプルAを与えたのです。これなら、世界中の
投資家が安心して投資するはずです。しかし、それが今回無残に
も裏切られることになったのです。
 2007年7月に入ると、原債権であるサブプライムローンの
延滞が想定の範囲を超えるものであったため、S&P、ムーディ
ーズといった世界的格付け機関は相次いで大量の格下げを発表し
たのです。
 本来格付けとは、証券が満期までに債務不履行(デフォルト)
になる確率をあらわす「信用リスク」の指標なのです。それにも
かかわらず大量に格付けを下げたということは、原資産のリスク
分析が非常に甘かったという批判は免れないと思われます。
 意外な話ですが、格付け機関は評価を受ける発行体から手数料
を受け取ることになっているのですが、これはおかしな話です。
レストランの格付けをするミシュランの場合、評価を受ける側の
レストランから調査員が報酬を受け取ることはないのです。
 これでは発行体から手数料を受け取ることにより、発行体に有
利な甘い格付け評価をしているのではないかと疑念を持たれても
仕方がないといえます。
 既出の『サブプライム問題の正しい考え方』の著者である倉橋
透/小林正宏両氏は、これについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 筆者の個人的見解としては、デフォルト確率に加え、デフォル
 ト時損失の算定についても、かなり甘い評価を行っていたので
 はないかと推察している。アメリカの住宅価格は上昇を続けて
 きていたが、そういう環境でどこまで住宅価格の下落リスクを
 織り込んでいたのであろうか。   ――倉橋透・小林正宏著
  『サブプライム問題の正しい考え方』/中公新書/1941
―――――――――――――――――――――――――――――
 最近のことですが、リチャード・クー氏がブッシュ政権の高官
だったという人と話をしたとき、彼は非常に格付け機関について
怒っており、もし、3つあれば(実際は2つ)1つは確実に潰し
ていたであろうといっていたというのです。現在ではこれぐらい
格付け機関の評価は地に落ちており、このままでは誰も信用しな
いと思います。  ――[サブプライム不況と日本経済/13]


≪画像および関連情報≫
 ●格付け機関とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  格付け機関は、発行体からの依頼により、経営陣とのミーテ
  ィング、財務分析、業界分析などを行い、その発行体の信用
  度をある一定の基準に基づいて、「Aaa」「AAA」など
  の記号で評価する。この「Aaa」「AAA」などと付けら
  れた評価を信用格付けという。この格付けは公表され、投資
  家が債券などへの投資を行なう際の参考データとなるほか、
  株価にも影響を与えることがある。近年では、個々の債券の
  みならず債券の発行体(企業)自体も評価している。大学や
  株式、プロジェクト・ファイナンス、ストラクチャード・フ
  ァイナンスなども格付け機関による信用格付けの対象範囲と
  なっている。            ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出所/春山昇崋著/宝島社新書/270
  『サブプライム後に何が起きているのか』

モノライン保険会社の役割.jpg

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2008年09月02日

●「あまりにも無責任な格付け機関」(EJ第2402号)

 格付け機関への不信が高まるなかで、バーナンキFRB議長は
2007年秋の議会証言で次のようにいっていることが当時話題
になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 格付けだけを参考にして金融商品を買うことは、デュー・デリ
 ジェンスをやったことにはならない。 バーナンキFRB議長
               Due Diligence = 当然の努力
―――――――――――――――――――――――――――――
 「デュー・デリジェンス」とはどういう意味でしょうか。
 「デュー・デリジェンス」とは法律用語であり、投資物件を購
入する前に、開示されている情報を基にして、それが投資物件と
して適格かどうかを細かくチェックする努力のプロセスのことを
いうのです。それをバーナンキ議長は「格付け」だけを参考にし
て投資物件を買うのは、適格かどうかを判断するための十分な努
力を果たしているとはいえないといっているのです。
 これに対して、リチャード・クー氏は次のように述べて、バー
ナンキ議長を批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 格付けを見て買うのがデュー・デリジュンスの範疇に入らない
 と言われたら、誰もこの種の証券は買えなくなってしまう。格
 付け以外の判断材料を持っている投資家は、世界広しといえど
 もしっかりしたクウォンツ・チームを自前で持っているほんの
 二握りしかいないからである。ということは、極論すればこの
 マーケットは二度と元の規模には戻らないということである。
                  ――リチャード・クー著
  『日本経済を襲う二つの波/サブプライム危機とグローバリ
              ゼーションの行方』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 格付け機関は米国だけで130機関あるのですが、世界を代表
する格付け機関は次の2つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.ムーディーズ
   2.S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年5月にこの世界的格付け機関のひとつであるS&P
のキャスリーン・コーベット社長が辞任し、2008年5月7日
に格付け機関のもうひとつの柱であるムーディーズのブライアン
・クラークソン社長兼最高経営責任者も辞任しています。
 辞任の理由としては、2007年7月において、自社が格付け
したCDO(債務担保証券)184件、発行額5000億円担当
について「格下げ要注意」を発表したことです。さらにムーディ
ーズは同年12月にもCDOに組み込んだ発行額12兆円相当の
投資信託(SIV)も「格下げ」ないし「格下げ要注意」を発表
しているのです。
 CDOについてはEJ第2399号でも少し触れましたが、住
宅ローンを証券化したMBSの売れ残りを集めて再証券化し、そ
れに「トリプルA」の格付けを与えて、売り出したものをいうの
です。格付け機関の格付けが販売を左右するのは当然です。
 S&Pも同様の大量格下げに踏み切った結果、金融機関は大混
乱に陥ったのです。この格下げに伴い、メリルリンチ、シティグ
ループ、モルガン・スタンレーという米大手金融機関は数兆円の
損失計上を余儀なくされ、日本や欧州の金融機関にも飛び火した
のですから、社長辞任は当然のことでしょう。
 実は、ムーディーズとS&Pには前科があるのです。それは、
2001〜2002年にかけて相次いで破綻した米エンロン・ワ
ールドコムの格付けがそれです。
 ムーディーズとS&Pによるエンロン、ワールドコムの社債格
付けは、破綻直前まで「投資適格」とされていたのです。エンロ
ンにいたっては破産申請の4日前でも投資適格だったのですから
格付け機関としては面目丸つぶれです。破綻後のムーディーズと
S&Pのメッセージは次のようなものだったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 エンロン、ワールドコムから格付けに当たって信頼するに足る
 情報が得られなかったのが原因である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あまりにも無責任の言い分です。どうしてかというと、今回の
サブプライム問題についても、格付け機関の言い分はほとんど同
じだからです。
 2008年1月、ムーディーズのレイモンド・マクダニエルC
EOは、スイスのダボス会議で次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 当社は確かに大きな過誤を犯したが、証券発行者から提供され
 た情報の質にも問題があった。
―――――――――――――――――――――――――――――
 すべてのことがこれで済むなら格付け機関ほどいい商売はない
と思います。現在、証券発行市場というのは、格付けなしでは成
り立たないのです。
 ムーディーズについていうと、2006年度の売上高は、20
億3700万ドル(2098億円)――わずか4年間で倍増してい
るのです。このうちの約半分が、サブプライム問題の元凶となっ
たCDOなどを含む「組成証券関連」で占められているのです。
こんなに儲けておいて、「証券発行者から提供された情報の質に
問題があった」では済まないのではないかという意見がたくさん
あるのです。
 昨日も述べたように、格付け機関は発行体の証券会社などから
手数料をもらう仕組みになっている点が問題です。お金を払って
わざわざ低い格付けを望む会社はないと思うからで、どうしても
トリプルAにならざるを得ないからです。この仕組みを直さない
と、格付け機関の信用回復は困難であり、信用は地に落ちたまま
になります。   ――[サブプライム不況と日本経済/14]


≪画像および関連情報≫
 ●サブプライム責任転嫁合戦
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2大格付け機関であるS&Pとムーディーズは、ここ数年、
  債務担保証券/CDO:サブプライムを裏づけにした低格付
  け債権などを複数集めて証券化した商品)といった複合的債
  券の格付けでかなりの利益を得てきた。こうした金融商品は
  多数の住宅ローンやそのほかの債務の担保とし、同等格付け
  の社債より高い利回りを得られるように設計されている。
  http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20070816/132283/
  ―――――――――――――――――――――――――――

バーナンキ議長の発言.jpg
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2008年09月03日

●「ファニーメイ/フレディマックとMBS」(EJ第2403号)

 2008年7月26日のことです。メディアには次のニュース
が流れたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【ワシントン=藤井一明】米国の住宅公社2社を支援するため
 の法案について、米上院は26日、賛成72、反対13の票差
 で可決した。ブッシュ大統領は速やかに署名する方針で、法律
 は早期に成立する。公社に対して資金繰りを支援するための融
 資と公的資金による資本注入を財務長官は自らの権限で実施で
 きるようになり、金融システムの安定化に役立つと期待してい
 る。経営を不安視する声が目立つ米連邦住宅抵当公社(ファニ
 ーメイ)、米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)への支
 援策は、13日にポールソン財務長官が表明してから約2週間
 の速さで実現する運びとなった。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この記事は、「ファニーメイ」と「フレディマック」という米
住宅公社2社に対して、その資金繰りの支援や公的資金による資
本注入などを行うことができる権限を財務長官に付与する法律が
成立する――こういう趣旨のことをいっているのです。何やらこ
の2社の経営に問題があり、それに対処するためにこういう法律
が素早く用意されたと考えられます。
 実は、この記事に出てくる「ファニーメイ」と「フレディマッ
ク」は、いずれも住宅ローン担保証券(MBS)に関係があるの
ですが、サブプライム問題とは別の問題であるという複雑な関係
にあります。非常に入り組んだ話ですが、解説します。
 米国の住宅ローンの市場規模は、2007年時点の新規融資額
で約2.5 兆ドル、残高で約10.5 兆ドルです。この約60%
は証券化――つまり、MBS/住宅ローン担保証券になっている
のですが、その残高は6兆ドル強になります。その大部分を占め
るのが、次の3つの組織の扱い分なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.ジニーメイ   → 政府抵当金庫/GNMA
 2.ファニーメイ  → 住宅抵当公社/FNMA
 3.フレディマック → 住宅貸付抵当公社/FHLMC
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら3つの組織は、米証券化市場において圧倒的なシェアを
持つ重要な組織なのです。これら3つの組織のうち、ジニーメイ
は他の2つの組織とは大きく異なる点があります。
 ジニーメイは、1968年に設立された米国住宅都市開発省管
轄下の政府機関で、自ら債券を発行することはありまぜんが、モ
ーゲージ市場の流動性を高めるために、連邦住宅局保険や退役軍
人協会の保証が付いたモーゲージを担保とした証券――MBSと
考えればよい――について、支払保証を行うことが主要な業務な
のです。つまり、ジニーメイの扱うMBSには政府保証が付いて
いるので、実質的にリスクはゼロなのです。
 これに対してファニーメイとフレディマックは、政府支援企業
――GSEと呼ばれていますが、それぞれ既に民営化されており
ジミーメイのような政府機関ではないのです。しかし、民間企業
よりも低利で資金調達ができるなど普通の民間企業に比べて優位
性を持っており、準公的機関と呼んでも差支えないでしょう。
 したがって、ファニーメイとフレディマックの扱うMBSは政
府保証は付いていないのですが、一般的には「暗黙の政府保証」
があると認識されており、実際にMBSにはファニーメイとフレ
ディマックによる元利金支払いの保証が付いているのです。
 MBSの残高は、次のようにそれぞれ圧倒的なシェアを持って
いるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ファニーメイ  ・・・・・ 2兆4000憶ドル
   フレディマック ・・・・・ 1兆4000憶ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 整理すると、MBSは次の2つに大別できるのです。ファニー
メイとフレディマックのような準公的機関の扱うMBSと民間の
扱うMBSです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.準公的機関のMBS
        2.民 間機関のMBS
―――――――――――――――――――――――――――――
 準公的機関のMBSは支払い保証が付いているので、複雑な商
品性は必要なく、100の住宅ローンから100のMBSが発行
されることになります。
 しかし、民間機関のMBSは、その発行機関が元利払い保証を
するといってもその発行機関自体が破綻しない保証はないため、
担保となる資産自体の信用力を活用した内部信用補完――優先劣
後構造の採用が必要になるのです。
 サブプライム問題は、この民間機関のMBSとそれを再証券化
して優先劣後構造を採用したCDOの問題なのです。既に述べた
ように、このMBSには格付け機関のトリプルAの評価を得るた
め、モノライン保険会社の保証を必要とするのです。
 これで全貌が少しはっきりしたと思いますが、現在、米国で起
こっていることは、サブプライム問題に加えて、このモノライン
保険会社の格下げ問題とファニーメイとフレディマックの経営不
安の問題なのです。
 これは絶対に安全と思われていたものが、いま2つとも大きく
揺らいでいることを意味します。モノライン保険会社については
今年のはじめに顕在化し、ファニーメイとフレディマックについ
ては夏になって問題が起こってきています。
 いずれも米国の金融界を直撃する問題であり、ひいては米国の
経済全体に大きな影響を及ぼすことは必至の情勢です。今後米国
経済はどうなっていくのでしょうか。明日からこれら2つの問題
について、サブプライム問題とあわせて、考えていきたいと思い
ます。      ――[サブプライム不況と日本経済/15]


≪画像および関連情報≫
 ●ジニーメイとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  住宅都市開発庁の下で、全額政府出資で設立された企業で、
  モーゲージ流通市場に流動性を与え、資本市場から住宅モー
  ゲージ市場に資金を呼び込む役割を担っている。モーゲージ
  証券の元利金の支払を保証する機関である。ジニーメイは債
  権は保有しないが、モーゲージ証券を組成しているローンの
  債務者が元利金の支払を滞納した場合に、元利金の支払を保
  証する。
  ―――――――――――――――――――――――――――

銀行管理住宅.jpg
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2008年09月04日

●「重要なバーナンキ議長発言」(EJ第2404号)

 米経済はどうなるのか、ドルはどうなるかを判断するかぎにな
るのは、バーナンキFRB議長の議会での発言です。この発言の
内容によって経済の先行きについていろいろ占えるのです。した
がって、エコノミストなどの経済の専門家は必ずこれをチェック
しているといわれます。
 バーナンキFRB議長の議会発言に関連してお知らせしておき
たいことがあります。それは、あの植草一秀氏が書いている次の
経済コラムのサイトです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  植草一秀の「知られざる真実」/マスコミの伝えない政治・
  社会・株式の真実・真相・深層を植草一秀が斬る
          http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/
―――――――――――――――――――――――――――――
 植草一秀氏といえば、あの事件以来すっかりマスコミから遠ざ
けられていますが、彼の経済分析は鋭いものがあり、参考になり
ます。植草氏はこのコラムでバーナンキFRB議長の議会発言を
頻繁に取り上げて論評しています。
 ちなみに福田政権の総合経済対策についての植草氏のコメント
は次の通りであり、一部を紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「目くらまし経済対策」と今後の政局
 福田政権は8月29日に総合経済対策の決定した。事業規模は
 11.7兆円、2008年度補正予算規模1.8兆円を内容と
 する対策だ。予想通り「足して2で割る」理念なき政策決定に
 になった。つい2ヵ月ほど前まで「緊縮財政」を念仏のように
 唱えていた福田政権が「景気対策」をまとめたのは、「利権互
 助会」の利権を死守するためだ。利権を死守するためには理念
 も政策の一貫性も顧みないのは分かりやすい。
             ――植草一秀の「知られざる真実」
―――――――――――――――――――――――――――――
 バーナンキFRB議長の議会発言の話に戻ります。2008年
2月28日にメディアにバーナンキ議長の発言について次の記事
が流されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は28日、
 上院銀行委員会で証言し、米景気の現状について情報技術――
 ITバブル崩壊後の2001年の景気後退局面と比較して「現
 在の米経済はより困難な状況にある」との認識を示した。また
 サブプライムローン問題に伴う信用不安の影響について「一部
 の中小金融機関が破綻する可能性がある」と明言した。FRB
 議長が金融機関の経営状態に危機感を表明するのは異例で、ニ
 ューヨーク株式市場では、金融関連株が大きく下落した。(中
 略)さらに、金融市場での信用不安の影響について「中小金融
 機関には破綻の可能性がある」と述べた。大手金融機関につい
 ては「破綻の可能性はないだろう」とした上で「一部の金融機
 関は引き続き自己資本の増強を図る必要がある」と強調した。
            ――2008.2.29付、毎日新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 このバーナンキ発言について注目すべきことは、サブプライム
問題の影響で「一部の中小金融機関が破綻する可能性がある」と
明言していることです。記事にもあるようにこれはきわめて異例
なことなのです。
 2008年の初頭から米当局が次々と打ち出した経済政策は日
本と違って予想を覆すほど実に素早いものだったのです。事前の
予想では、1月28日の一般教書演説でブッシュ大統領が発表す
ると思われていた景気対策を18日に打ち出し、しかも10兆円
規模とされていたものを5兆円上乗せして15兆円規模に増額し
利下げの幅も30日に0.5 %と予想されていたものを覆し22
日に0.75 %の緊急利下げを行い、さらに30日に追加利下げ
を示唆するなど、すべての処置がきわめて素早いものであったと
いえます。
 しかし、これほどの素早い措置にもかかわらず、ニューヨーク
株式市場の反応は鈍かったのです。とくに大統領が景気対策を打
ち出したときは株価は逆に下落したのです。この株価下落は連鎖
的に世界の株価に影響を与え、下落の連鎖を生み出したのです。
 米当局が予想よりも素早い対応をとったことは、かえって米国
の実体経済が悪いことを当局が認識していることのあらわれでは
ないかとも考えられるのです。
 ニューヨークの株価が小康を取り戻したのは、政府がモノライ
ン対策を検討しているという報道が行われてからなのです。そし
て2月の後半に上記のバーナンキ発言が報道されることになるの
ですが、この報道はモノライン問題に関係があるのです。
 モノライン保険会社は、もともと相応の保証料をとって地方債
などの金融商品の元利を保証するという地味で堅実な仕事をやっ
ていたのです。ところがサブプライムローン関連の証券――MB
SやCDOを扱うようになって、モノライン保険会社の業容は急
拡大したのです。しかし、2007年後半になって、事態は一変
するのです。
 既に述べたようにサブプライムローンには加入後数年後に金利
が上昇するものが多く含まれており、これによって、ローンの支
払いができないものが急増したのです。これはその証券の元利保
証をしているモノライン保険会社に打撃を与えたのです。
 2007年11月7日、モノライン保険のACA社が10億ド
ルの損失を発表したのです。12月13日、同社はニューヨーク
株式市場の上場銘柄から外されます。同社はシングルAの格付け
を持っていましたが、12月19日にはS&P社がトリプルCに
格下げしたのです。これは、一気に12段階の格下げであり、普
通はあり得ないことなのです。これによって、一気にモノライン
保険危機が巻き起こることになります。2007年の暮れの米経
済の情勢です。  ――[サブプライム不況と日本経済/16]


≪画像および関連情報≫
 ●ACA格下げを取り上げたレポート――1月21日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  サブプライムローン問題は、より深いレベルに入ってきた。
  「モノライン」と呼ばれる債権保証会社の危機である。先週
  ニューヨーク株が300ドルを超す下げを見せたのはこのた
  めである。2008年1月17日付の「ウォール。ストリー
  ト・ジャーナル」紙が一面に大きくこの問題を取り上げてい
  る。ACAファイナンシャル・ギャランティーという債権保
  証会社の格付けがAからトリプルCに格下げされたという。
   http://www.ecommodity.co.jp/market/gud_080121_1.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

バーナンキ議長議会発言.jpg
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2008年09月05日

●「米当局はモノライン危機を解決できるのか」(EJ第2405号)

 2008年1月18日になって、格付け会社のフィッチが、モ
ノライン保険会社大手のアムバック・フィナンシャルの格付けを
AAAからAAへ2段階の格下げを発表したのです。
 2007年にサブプライムローンの債務不履行問題が深刻化し
これらのローンを組み込んだ証券化商品――MBSやCDOの保
証に絡む損失が拡大したことが主な原因です。
 格付けは、そのままモノライン保険会社の資金調達能力をあら
わしています。投資家にとっては、AAA格の保険会社の保証が
AAになってしまったわけで、投資した証券の価値減価をどうカ
バーするかが問題になります。
 この格下げをきっかけにアムバック社の増資の引受け手がいな
くなり、同社は窮地に陥ってしまったのです。モノライン各社は
地方債などの他の金融証券も保証しているので、モノライン保険
会社本体の格下げや破綻によって、保証しているこれらの債券も
格下げになる可能性が出てきたのです。いわゆる「格下げドミノ
現象」が起きる可能性があるのです。
 地方債の約70%は個人や投資信託が保有しており、これが減
価すると、本来サブプライム問題とは無関係であった個人投資家
にまで、影響が及ぶことになるのです。
 金融機関も大きな影響を受けます。格下げドミノ現象によって
多くの債券が格下げされると債券の価格は下落し、これらを保有
している金融機関は巨額の評価損を抱え込むことになります。サ
ブプライムローン問題だけでも大変なのに、さらに他の債券の評
価損まで積立金を引当てるということになれば、米国の金融界は
一大パニックになります。
 また、モノライン保険が機能しなくなれば、地方自治体などの
格付けが低い債券の発行体は調達コストが上昇するか、まったく
資金を調達できなくなります。そうなると、それらの自治体では
公共サービスの見直しを迫られる可能性もあります。米国政府や
自治体にとって、モノライン保険はなくてはならない存在なので
す。そこに、モノラインの救済策が検討されているというニュー
スが流れ、ニューヨークの株式市場は急反発したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ニューヨーク州の当局は、大手金融機関に1兆6000億円の
 増資に応ずるよう要請している。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、モノライン保険会社の救済は簡単ではないのです。ち
なみに、米国ではモノライン保険会社を管轄するのは連邦政府で
はなく、州政府なのです。
 モノラインの多くが本社を置くニューヨーク州の保険局は、2
008年1月下旬にそういう要請をしたことは確かなのですが、
実現しなかったのです。それに米連邦政府は、モノライン救済の
ための公的資金投入の可能性を否定しています。
 この問題は日本にとっても対岸の火事ではないのです。モノラ
イン保険会社は、一部の保険を再保険で外部に売却しており、日
本の保険会社もこれを買っているからです。損保ジャパンは、モ
ノライン保険会社の再保険を購入しており、2008年1月にこ
の損失を引当てたことを公表しています。以下は、このニュース
に関するブログの記事です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国内の損害保険会社にも影響は及びそうだ。損保ジャパンは、
 11日、金融保証保険で3億ドル(340億円)の保険金を支
 払う可能性が生じたと発表。サブプライムローンを一部に含む
 証券化商品の保険を引き受けていたが、その格付けが想定以上
 に悪化。格付けが一定以上悪くなると清算できる条件だったた
 め、支払うリスクが生じた。
  http://plaza.rakuten.co.jp/555yj/diary/200801230000/
―――――――――――――――――――――――――――――
 結局大手金融機関は、デリバティブ取引などを通じた関係の深
いモノラインに対し、個別に資本注入などの支援策を行うという
民間主導の解決策がとられることになったのです。
 そういうときに、著名な投資家であるウォーレン・バフェット
氏が、モノライン救済策を発表して話題となったのです。ウォー
レン・バフェット氏といえば、ビル・ゲイツ氏に次ぐ資産の持ち
主であり、その額は約460憶ドルといわれ、その卓越した投資
センスから、出身地ネブラスカ州オマハにちなんで、「オマハの
賢人」と呼ばれている人物です。
 バフェット氏の救済というのは、自らがモノラインを設立し、
地方債に関わる保証800憶ドル分の再保険を引き受けるという
提案なのです。しかし、地方債で受領した保証料の50%増しの
手数料の引き渡しを要求されたので、モノライン側で断ったので
実現しなかったのです。
 バフェット氏の提案をよく見ると、当然のことですが、対象は
優良な地方債に限られ、サブプライム関連のリスクの高いものは
含まれていないのです。これでは「救済」というよりは、モノラ
インが窮地に陥った絶好のタイミングを見逃さない、事業家とし
ての経済合理性に基づいた提案だったといえます。
 このように、モノライン危機は現在でもクリアされていない状
況であり、米経済は大きな不安要因を抱えています。モノライン
保険会社では、モノラインの地方債と証券化商品の保証事業を分
割することを検討しています。
 しかし、確かに分割すれば、地方債市場への影響は遮断されま
すが、証券化商品の保証事業のリスクは一段と鮮明になるという
問題点が生じます。
 このモノラインの救済に比べると、準公的機関であるファニー
メイとフレディマックの救済については、政府としてはずっと関
与しやすいことになります。既に法律はできており、それをいつ
やるかという決断にかかっています。しかし、8月末の時点では
措置は行われていないのです。この問題については来週のEJで
取り上げます。  ――[サブプライム不況と日本経済/17]


≪画像および関連情報≫
 ●バフェット氏のモノライン救済について/本石町日記
  ―――――――――――――――――――――――――――
  バフェット氏のモノライン救済策の詳細はよく分からないが
  ざっと報道を見た限り文字通りに「モノライン」の「救済」
  になるのかはやや疑問に思った。具体的なアクションとして
  は、バークシャーハザウェイが「地方債(86兆円規模)を
  保証する」というもの。ただ、推測するに、地方債のデフォ
  ルトはほとんどないはずで、それだけモノラインからすれば
  優良なビジネスとなっていたはず。恐らく、サブプライム絡
  みで疲弊したモノラインの苦しい立場を見透かし、バフェッ
  ト氏は地方債の保証ビジネスをディスカウントして引き受け
  ようとしているように見える(違うならご教授を)。バフェ
  ット氏もうまみのあるビジネスだから提案したのだろう。
           http://hongokucho.exblog.jp/8050977/
  ―――――――――――――――――――――――――――

ウォーレン・バフェット氏.jpg
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2008年09月08日

●「ファニーメイとフレディマックについて知る」(EJ2406号)

 「アメリカンドリーム」という言葉があります。一般的にいう
とこの言葉は、「米国で成功して大金持ちになること」の意味で
使われていますが、その本来の意味は次の通りなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国で働いてチャンスを掴み、目標を達成して、自由で豊かな
 生活を手に入れることである。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、現代の米国では、アメリカンドリームは「自分の家を
持つこと」の意味で使われているのです。少しドリームが小さく
なったなという感じです。
 米政府が国民に住宅を持たせるために、ニューディール政策の
一環として作ったのが「ファニーメイ」なのです。1938年の
ことです。そのとき政府は「誰にでもアメリカンドリームを与え
る機関」として宣伝したのです。このようにして、「アメリカン
ドリーム=住宅」という構図が定着していったのでしょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
  Fannie Mae /Federal National Mortgage Association
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 連邦抵当公庫
―――――――――――――――――――――――――――――
 このあと、1970年にファニーメイと似たような機関である
フレディマックが出てくるのです。ファニーメイだけでは、十分
にカバーできない部分に資金を供給するために設立された政府系
金融機関としてです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  Freddie Mac/Federal Home Loan Mortgage Corporation
  ・・・・・・・・・・・・・ 連邦住宅貸付抵当金融会社
―――――――――――――――――――――――――――――
 これらのファニーメイとフレディマックは、「政府支援企業/
GSE」と呼ばれるのです。政府支援企業といっても普通の株式
会社で、ニューヨーク証券取引所に上場されている企業です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 GSE/Government Sponsored Enterprise/政府支援企業
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ファニーメイとフレディマックは単なる一般企業では
ないのです。現在でも財務省からの22.5 億ドルの緊急融資枠
がありますし、18名の役員のうち5名は大統領任命枠があると
いうのです。さらに地方税免除、証券取引委員会(SEC)登録免
除という普通の企業にない特典まで持っているのです。
 ファニーメイとフレディマックは、銀行から住宅ローン債権を
買い取り、それをMBS化し、元利金支払いの保証を付けて売り
出しているのですが、それらのMBSの残高は4兆ドルに達して
いるのです。しかし、元利金支払いの保証を付けているとはいう
ものの、ファニーメイとフレディマックは政府機関ではなく、一
般上場企業であって、もちろん破綻はあり得るのです。
 もし、4兆ドルの残高が破綻するようなことになったら、米国
経済の影響はサブプライムの比ではないのです。それでも投資家
は、ファニーメイとフレディマックに関しては政府に近い存在の
企業として「暗黙の政府保証」が付いていると信じて現在でも活
発に取引されているのです。
 既にファニーメイとフレディマックは、米国金融システムの根
幹を形成するインフラとなっており、簡単に潰せない存在になっ
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     大き過ぎて潰せない/Too Big to Fail
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでもうひとつ認識しておくべきことがあります。米国の住
宅問題は持家率68.9 %(2006年)になった現在でも最も
重要な政策課題のひとつになっており、その中でもファニーメイ
とフレディマックは住宅金融システムの重要な位置を占めている
のです。これについては、とくに民主党を軸にする強い政治的な
サポートがあるのです。
 2008年2月にブッシュ政権は、米国経済の景気後退を食い
止めるための経済対策を行っているのですが、その中でファニー
メイとフレディマックの買取・保証対象の住宅ローン――これを
コンフォーミングローンという――の上限を大幅に引き上げてい
るのです。しかし、12月末までという期限付きです。
 これによって、GSEが購入できる住宅ローンの限度額はそれ
までの41万7000ドルから62万5000ドルに引き上げら
れのです。この政策をめぐってある民主党議員はブッシュ大統領
を評して「まるで民主党員になったみたい」といったほど、ブッ
シュ政権は、ファニーメイとフレディマック対策に力を入れてい
るのです。
 米大統領選挙の民主党指名候補であるオバマ氏は、ファニーメ
イとフレディマックの救済に関して、ロイター/国内通信による
と、次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ氏は、ファニーメイとフレディマックについて、住宅市
 場が活況だった頃は収益を上げていたのに、いざ支援が必要に
 なると米納税者の救済を期待していると批判。ただ、金融シス
 テムにおけるこれらの役割はあまりにも重要で、現時点での破
 たんを容認することはできないとした。オバマ氏はアイオワ州
 有権者との質疑応答で「ファニーメイとフレディマックが破た
 んすれば、金融システムは大きな打撃を受けて悲惨な結果を招
 くだろう」とし、「(有権者は)住宅ローンを受けられなくな
 るかもしれない」と述べた。   ――ロイター国内通信より
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-33438520080825
―――――――――――――――――――――――――――――
 本来、ファニーメイとフレディマックのMBSは信用の高いプ
ライムローンの証券化であり、サブプライムローンとは関係がな
いのです。    ――[サブプライム不況と日本経済/18]


≪画像および関連情報≫
 ●ファニーメイとフレディマックについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米政府系金融機関(住宅公社)であるファニーメイ(連邦住
  宅抵当金庫)とフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)に
  対しては、景気減速や住宅市場の低迷を背景に住宅ローンの
  延滞率が増加、資本不足が取りざたされるなど経営不安が高
  まるなか、米政府と議会による住宅公社の経営支援策を巡る
  協議 が続いています。
http://www2.goldmansachs.com/japan/gsitm/funds/pdf/flash_mkt_20080717_3.pdf
  ―――――――――――――――――――――――――――

ファニー・メイ.jpg

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2008年09月09日

●「エージェンシーMBSまでなぜ影響したか」(EJ)第2407号

 サブプライムローンが証券化されて世界中の投資家にばらまか
れたことをもって「証券化は怖いもの、証券化は悪である」と考
える人がいるかもしれません。しかし、これはおかしな考え方で
あるといえます。
 米国のMBS市場で圧倒的なシェアを持つのは、いわゆるエイ
ジェンシーMBSなのです。エイジェンシーMBSというのは、
プライムローンのエイジェンシ−MBS――つまり、ファニーメ
イとフレディマックによって証券化されたMBSであり、サブプ
ライムローンは違うものです。
 サブプライムローンは民間による証券化であって、エイジェン
シーMBSとは同じ証券化であっても根本的に違うものです。し
たがって、「証券化=悪であるからやめろ」というのは、「情報
が漏洩するからPCを使うな」に等しい暴論です。
 といっても、民間MBSのすべてに問題があるわけではないの
です。きちんとしたルールにしたがって証券化されたMBSであ
れば、それは何ら問題のない証券化商品であるからです。すべて
が悪いわけではないのです。
 それなら、ファニーメイとフレディマックが、なぜ現在苦境に
立っているのでしょうか。
 2003年に起きたフレディマックの会計問題がひとつのきっ
かけだったのです。当初は単なる決算修正であると考えられてい
たものが、経営陣が意図的に一般会計原則の適用方法を捻じ曲げ
ていたのではないかという会計疑惑に発展して、これが最大手の
ファニーメイを巻き込む形で両社への規制強化の機運は盛り上が
っていったことです。
 ファニーメイとフレディマック両社の財務内容が明らかになる
につれ、自己資本の低さ、レバリッジの高さ、保有資産の流動性
リスクなど、多くの問題があることがわかってきたのです。これ
を契機に、GSE批判の議員は次々にGSE改革を訴えるように
なったのです。しかし、既に述べたように両社は「大き過ぎて潰
せない」レベルにまで達していたのです。
 2007年にサブプライムローンに当初想定していなかった延
滞が発生し、証券化商品の価格が暴落を始めたのです。価格の暴
落によって、欧米の金融機関の巨額損失が報じられ、お互いに誰
がどれだけの損失を抱えているのか疑心暗鬼になって、金融市場
が正常に働かなくなり、英国では銀行の取り付け騒ぎが起きるに
至ったのです。
 これによって、米国の住宅市場は冷え込み、信用収縮によるリ
セッションが起きる懸念が生じ、世界中の株式市場は大暴落が起
きたのです。2008年冒頭のことです。当然のことながらこれ
がファニーメイやフレディマックなどのGSEを直撃するように
なったのです。
 サブプライムローンの焦げ付きによって、エイジェンシーMB
Sを含む証券化商品全体の信頼度が大きくダウンし、証券化商品
を販売しようと思っても、なかなか買い手があらわれない事態に
なったのです。それまで住宅に集まって住宅の価格を押し上げて
いた投機資金は、今度は商品市場に向かい、原油価格の高騰など
によって、世界経済に大きな影響を与えるようになったのです。
米国経済の先行き不安からドルは低落傾向になり、基軸通貨とし
てのドルの地位が揺らぐような事態になってきたのです。
 やがて米国の実体経済へも顕著な影響が出てきたのです。20
08年3月27日に発表された2007年10〜12月期のGD
Pは季節調整値を考慮した年率の伸び率で0.6 %と第3四半期
の4.9 %から急減速しているのです。
 米国の住宅着工については、2008年1月こそ季節調整値で
前月比7.1 %増であったものの、2月は季節調整値で前月比で
0. 6%減、前年同月比は28.4 %減と低迷したのです。
 サブプライムローンの焦げ付きの影響が、プライムローンのエ
イジェンシーMBSや住宅に関係のない他の証券化商品にまで及
んだのは、証券化犯人説が拡大流布されたことによるものと考え
られます。これについて、リチャード・クー氏は次のように述べ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年1月末から日本のマスコミを騒がせた中国からの毒
 入り餃子事件は、誰かが冷凍餃子に微量の農薬を混入させたた
 めに日本で10人が被害に遭い、最終的に中毒は否定されたも
 のの5915人が医療機関などに相談に行ったという騒ぎであ
 る。ということは、食べても何の症状も出なかった人が何百万
 人から何千万人もいたはずである。これらの餃子はかなり前か
 らずっと生産・出荷されてきたからだ。ということは、被害に
 あったのは何千万人のうちの10人にすぎない。ところがこの
 事件が報じられた結果、誰も中国製餃子を買わなくなってしま
 った。餃子だけではない。中国から輸入したあらゆる冷凍食品
 を買わなくなってしまった。今の日本では中国製製品はすべて
 売れなくなっている。いま金融界で起きているのはこれと同じ
 ことである。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このような経過により、ファニーメイとフレディマックの株価
は、年初以来現在まで85%以上下落しているのです。投資家は
米議会がポールソン財務長官に両社の株式購入または両社への融
資を行う権限を与えたのは(EJ第2403号参照)、両社の信
用強化のためだったのですが、それは裏目に出ています。今や両
社の株価は、8月29日現在5ドルを切っています。
 したがって、投資家は、米財務省が既に握っている権限を行使
して、両社の救済に乗り出す事態になるかどうかということでは
なく、いつ救済措置がとられるかを観察しているのです。もし、
救済措置が取られると、普通株の価値は消滅すると投資家は見て
いるようです。  ――[サブプライム不況と日本経済/19]


≪画像および関連情報≫
 ●ファニーメイとフレディマック新規制当局による「大掃除」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ニューヨーク(ウォール・ストリート・ジャーナル)米政府
  と連邦議会が先週、住宅新法について歩み寄ったことを受け
  米連邦抵当金庫(ファニーメイ)(NYSE:FNM)と米連
  邦住宅金融抵当金庫(フレディマック)(NYSE:FRE)
  は間もなく、より強力な、新たな規制当局の監督下に入ると
  みられる。新任の保安官の誰もがそうであるように、この新
  機関も街の汚れを一掃したい考えだ。
 http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djCEN0536.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

フレディマック.jpg
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2008年09月10日

●「ファニーメイとフレディマックはどうなるか」(EJ第2408号)

 2008年9月7日付の朝日新聞に、まさにいまEJが書いて
いるファニーメイとフレディマックに関する次の記事が突如掲載
されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪ファニーメイとフレディマック/米住宅金融政府管理へ≫
 ポールソン財務長官と連邦準備制度理事会(FRB)のバーナ
 ンキ議長、両社の最高経営責任者らが救済策を巡って5日に緊
 急協議に入った、などと米メディアが一斉に伝えた。財務省は
 コメントを避けているが、週末に対策が発表される可能性もあ
 る。検討されているのは、両社の経営危機表面化を受け、7月
 末に米議会で成立した救済法に基づく措置。米政府は、緊急時
 に認められた権限にもとづき、両社の経営を管理下に置くこと
 を検討中という。 ――2008年9月7日付、朝日新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 9日のEJに書いたように、投資家は政府の出方を注視してい
たのです。それも両社に対して公的資金注入をやるかどうかでは
なく、いつそれをやるのかを注視しているのです。つまり、公的
資金投入は必至とみているのです。
 問題は、ファニーメイとフレディマックがなぜ、破綻に追い込
まれようとしているかということです。新聞ではその原因をどう
書いているのでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 両社は米住宅金融市場の中核で、保有・保証する住宅ローン関
 連証券は約5兆ドル(約530兆円)と米住宅金融市場の半分
 近くを占める。サブプライム問題の深刻化でローンの焦げ付き
 が急増し、これまで4期続けて巨額の赤字を計上した。
          ――2008年9月7日付、朝日新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 原因として挙げているのは「サブプライム問題の深刻化でロー
ンの焦げ付きが急増」という点です。既に何度も述べているよう
に、ファニーメイとフレディマックが扱っているMBSは、サブ
プライムローンではなくて、プライムローンのMBSなのです。
つまり、サブプライムローンの焦げ付きがストレートで影響した
わけではないのです。
 もちろんサブプライムローンの予期せぬ延滞が原因で金融機関
が巨額の損失を出し、それによってエイジェンシーMBSの信頼
度も下がり、住宅市場が冷え込んで景気後退の引き金を引いた結
果であることは確かなことです。
 しかし、ファニーメイとフレディマックが破綻状態に追い込ま
れつつあるのは、サブプライム問題以外の原因も多くあることは
確かなのです。
 ここで言葉の定義を整理しておきたいと思います。ひとことで
「証券化商品」といいますが、住宅ローン担保証券/MBSは、
「資産担保証券/ABS」に含まれるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    資産担保商品/ABS/Asset Backed Security
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、米国では、MBSの市場があまりにも巨大であるので
MBSはMBSで1つの独立したカテゴリーとして認識されてい
るのです。
 同じMBSでも商業用不動産向けのローンの証券化商品は「C
MBS」といわれ、ここまで述べてきたMBSと区別するため、
MBSの頭に「C」と「R」を付けて、次のように区別すること
になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   CMBS/ Commercial Mortgage Backed Security
   RMBS/Residential Mortgage Backed Security
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、「RMBS」というように「R」を付けて呼ぶことは
珍しく、単に「MBS」というときは、「RMBS」を意味して
いるのです。
 さて、ファニーメイとフレディマックには公的資金が投入され
米政府の管理下に置かれることになる見通しですが、これは9月
に約2500憶ドルの債券の償還期限を迎えており、この借り換
え問題が政府の決断を促したと思われます。
 問題は、ファニーメイとフレディマックの株式がどうなるかと
いうことです。なぜなら、銀行は両社の優先株と劣後債を大量に
持っているからです。
 米投資銀行コマース・ストリート・キャピタルのドリー・ワイ
リーCEOはこれに関して次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし優先株が紙くず同然になったら、銀行は評価損の追加計上
 を迫られることになる。        ――NBオンライン
―――――――――――――――――――――――――――――
 上掲の朝日新聞によると、ファニーメイとフレディマックは一
時的に政府の管理下に置かれますが、時期をみて民営化・独立さ
せる方針のようです。しかし、完全に国有化するという選択肢も
あるのです。公的管理の具体的枠組みは不明ですが、その場合は
普通株と優先株はほとんど無価値になるはずです。
 これについて独立系調査会社インスティチューショナル・リス
ク・アナリティクスのアナリストであるクリス・ウェーレン氏は
次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務省は思い切って普通株を無価値化し、優先株と劣後債の保
 有者を完全に保護することを公約すべきである。どのみち普通
 株の株価はほぼ落ちるところまで落ちている。資金調7もなく
 なる」ではないか。          ――NBオンライン
―――――――――――――――――――――――――――――
 この原稿は7日に書いています。注目は米政府がいつそれをや
るかです。    ――[サブプライム不況と日本経済/20]


≪画像および関連情報≫
 ●劣後債とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  劣後債は、償還や発行体の解散または破綻時に他の債務(普
  通の債券を含む)への弁済をした後の余剰資産により弁済さ
  れる債券である。このため普通の債券による資金よりは株式
  発行などにより得られる自己資本に近い性格の資金となる。
  そのため、通常は同じ会社が発行する普通の債券よりも高い
  金利が設定される。購入者の立場からは普通の債券よりもリ
  スクが高まる代わりにリターンも高くなる金融商品である。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●米政府系住宅金融2社の役割
  2008年9月7日付、朝日新聞より

米政府系住宅金融2社の役割.jpg
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2008年09月11日

●「自己資本比率と貸し渋りの関係」(EJ第2409号)

 ファニーメイとフレディマックへの公的資金注入について、米
紙ニューヨーク・タイムズは、次のように報道しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米史上最大の企業救済になり、納税者の負担は数百憶ドル
 (数兆円)にのぼる可能性がある。
         ――ニューヨーク・タイムズ紙/電子版
―――――――――――――――――――――――――――――
 既に述べたように、これら両社の発行したMBSの残高は4兆
ドル以上になるのです。これが破綻した場合の米国経済へのイン
パクトはサブプライム問題の比ではないのです。米政府が救済す
るのは当然のことです。
 ところで、両社の株価は暴落していますが、その発行したMB
Sは現在でも活発に取引されており、債券は堅調なのです。した
がって、日本政府も外貨準備の運用資産として、両社を含むGS
E関連債を次のように大量に保有しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ≪世界各国の保有するGSE関連債/ベスト5≫
   第1位:中国 ・・・・・・・・ 3760憶ドル
   第2位:日本 ・・・・・・・・ 2290憶ドル
   第3位:ケイマン諸島 ・・・・  520憶ドル
   第4位:ルクセンブルグ ・・・  390憶ドル
   第5位:ベルギー ・・・・・・  330憶ドル
             ――2007.6.30現在
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の金融機関が保有しているGSEの機関債と住宅ローン担
保証券(MBS)については次のようになっています。保有金額
の多い順に10位まで列挙します。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ≪日本金融機関のGSE関連債の保有額≫
    1.農林中金 ・・・・・・ 5兆5000億円
    2.三菱UFJFG ・・・ 3兆3000億円
    3.日本生命 ・・・・・・ 2兆5000億円
    4.みずほFG ・・・・・ 1兆2000億円
    5.第一生命 ・・・・・・   9000億円
    6.三井住友FG ・・・・   2198億円
    7.大和証券 ・・・・・・   1811億円
    8.三井生命 ・・・・・・    943億円
    9.明治安田生命 ・・・・    900億円
   10.損保ジャパン ・・・・    740億円
             ――2008.3.31現在
―――――――――――――――――――――――――――――
 サブプライム問題に端を発したモノライン保険会社とファニー
メイとフレディマックの経営危機――米国の金融不安が依然とし
て収まらず、米国経済は深刻の度を増し、雇用悪化が鮮明になっ
てきています。日本や欧州の景気は失速し、中国やインドの成長
率も減速をはじめています。
 世界の金融関係者が一番注目しているのが、米国の金融安定策
です。市場に催促されるかたちで動き出したGSEへの公的資金
注入の具体的枠組みが固まりつつありますが、心配されるのは銀
行の貸し渋りなのです。
 今回のサブプライム問題による金融全体の損失総額は、IMF
によると、9450憶ドルと予測しています。この金額は、バブ
ル崩壊後の日本の銀行が実際に処理してきた不良債権の金額――
100兆円とほぼ同額なのです。
 現在までのところ欧米の大手銀行の損失が注目されてきたので
すが、これから問題が出てくるのは中小の銀行なのです。米国で
は、インターステートバンキングといって、銀行が州を越えて商
売をすることが禁止されていたので、各州に多くの銀行が設立さ
れたのです。そういうわけで、2007年末時点で8533行の
銀行があるのです。
 これらの銀行は今回のサブプライム問題によってかなり自己資
本が毀損している可能性が高いのです。2008年4月にIMF
が出したレポートによると、サブプライム問題によって米銀は全
体で2.5 ポイント、欧州全体で1.5 ポイント、自己資本比率
が低下すると予測しているのです。
 これによって、米銀の多くが自己資本比率8%ぎりぎりか、そ
れ以下になってしまうことを意味しているのです。自己資本比率
の低下が、すさまじい貸し渋り現象を引き起こすことは、日本の
ケースでわかっていることです。
 これについて、日本の事情に詳しいリチャード・クー氏は次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は当時、テレビ、新聞、雑誌等で、ずいぶん「資本投入を急
 ぐべきだ」という提言をした一人である。なぜなら、BISの
 規制によって自己資本を総資産の8%持たなければいけないと
 される銀行がひとたび8%を切ってしまうと、テコの原理が働
 いて、銀行は毀損した資本の12.5 倍の貸し出しを減らさな
 ければならなくなるからである。例えばある銀行が自己資本を
 1ドル毀損すると、同行は貸し出しを12.5 ドル減らさなけ
 ればならなくなるのである。しかし銀行が一斉にそのような行
 動を採ると経済は雪だるま式に悪化し、そのことがさらに銀行
 の自己資本を叩く。その意味で、銀行が自己資本を毀損すると
 いうことは、経済全体に対してたいへん深刻な問題を引き起こ
 すことになるのである。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 銀行の自己資本比率が8%をを切ると、貸し渋りが起き、景気
は加速度的に悪化するのです。米国はこれをどのようにして防ぐ
のでしょうか。  ――[サブプライム不況と日本経済/21]


≪画像および関連情報≫
 ●自己資本比率とは何か
  −――――――――――――――――――――――――――
   自己資本比率(%)= 自己資本 ÷ 総資産 ×100
  自己資本比率とは、安全性分析の一指標で、総資産に占める
  自己資本の割合を示す。自己資本比率を計算する際の自己資
  本には、新株予約権及び少数株主持分は含まないので注意を
  要する。一般的にこの比率が高いほど、資本構成が安定して
  おり経営の安全度が高いことを示す。自己資本比率が低いと
  いうことは、設備投資など新たな資金需要に対して有利子負
  債を頼る必要性が高く、その分競争力が劣ってしまう可能性
  がある。また、現状収益性が上がっていないような場合には
  有利子負債負担に耐え切れなくなる可能性もはらんでいる。
    http://www.exbuzzwords.com/static/keyword_553.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●米国の住宅販売
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より

米国の住宅販売.jpg

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2008年09月12日

●「公的資金を注入することの難しさ」(EJ第2410号)

 9月8日の日本経済新聞のトップに「米住宅公社政府管理に」
というタイトルの下で、ファニーメイとフレディマックが政府管
理下に置かれることが決定したという記事が報道されています。
 8日のニュースを12日のEJで書く羽目になったのは、この
原稿を8日に書いているからです。EJは私ひとりが書いている
レポートなので、ある程度時間のあるときに書き溜めをしておか
ないと、毎日配信することができないのです。そういうわけで、
ニュースが前後することはお許しいただきたいと思います。
 ボールソン財務長官はこれら2社に対し、「自己資本が不足し
ている」ことを指摘し、公的資金を注入すると述べています。既
にEJでも指摘したように、こういう事態になることは早くから
わかっていたにもかかわらず、ポールソン財務長官は「公的資金
注入」をなかなか口にしなかったのです。それは、いかに政府機
関に近いGSEであるとはいえ、民間の株式会社であるファニー
メイとフレディマックに対して国民の税金を使うことに強いため
らいがあったからです。
 1992年の日本でもこういうことがあったのです。当時総理
大臣であった宮澤喜一氏は、バブルが崩壊して銀行経営がおかし
くなっていく様子を見て次のように述べたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  これは早く公的資金を入れて解決しなければならない
                  ――宮澤喜一首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言に対し、リチャード・クー氏は「さすが経済に強い宮
澤氏だけあって、問題の本質をよく把握している」と評価したの
ですが、この宮澤発言に対し、評論家やエコノミストをはじめ、
マスコミ各社も一斉に反発したのです。
 当時絶大の人気報道番組であった「ニュースステーション」で
キャスターの久米宏氏までもが次のように、宮澤発言を批判した
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 高い給料をもらっている銀行員を庶民の血税で救済するのは
 けしからんことです        ――久米宏キャスター
―――――――――――――――――――――――――――――
 今から考えると、見当違いの銀行憎しのバッシングです。この
世論の沸騰に宮澤首相は持論を撤回せざるを得なかったのです。
しかし、このとき銀行に公的資金の注入をやっていれば、「失わ
れた15年」はもっと軽傷で済んだかもしれないのです。
 1995年〜1996年になると、米国は日本に対し、銀行へ
の公的資金の注入をうるさく要請してきたのですが、日本はひた
すら、逃げ回ったのです。しかし、そういうときでもリチャード
・クー氏はたびたびテレビに登場して、銀行への公的資金注入の
必要性を訴え続けたのです。
 しかし、病気の治療をしないのですから、銀行の病状は進む一
方だったのです。そして、1997年後半に景気が財政再建と銀
行の貸し渋りで大幅に悪化すると、日本政府ははじめて公的資金
の注入を公然といいだすようになったのです。
 今回の米政府の決断も慎重に時期を探っていたものと思われま
す。2008年2月、日本で行われたG7において額賀財務大臣
(当時)は、ポールソン財務長官に次のようにアドバイスしてい
ますが、ポールソン氏はその必要性は認めたものの、政府の関与
については一切口にしなかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   早く公的資金を投入しないととんでもないことになる
                   ――額賀財務大臣
―――――――――――――――――――――――――――――
 もっともこのときの額賀発言は、GSE救済を念頭に置いたも
のではなく、銀行への公的資金注入を意識して述べたものである
ことをお断りしておきます。
 もうひとつブッシュ政権が気を遣ったのは、それが大統領候補
者の発言に影響を与えることです。早い時期に大統領候補の誰か
が、十分事情を把握しないで「自分は絶対に国民の税金を投入す
る資本注入に反対する」というような公約を掲げ、その人が大統
領になったら大変なことになるからです。
 しかし、今回の政府の措置について、共和党と民主党の両候補
は、次のように賛成を表明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ☆共和党のマケイン氏
  ポールソン財務長官と話した。これはやるべきだ
 ☆民主党のオバマ氏
  長期かつ深刻な危機を避けるために政府介入を支持したい
         ――2008.9.8付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 再び日本の話です。1998年2月のことです。日本で資本投
入の法案が成立したのです。このとき、竹中平蔵氏をはじめ評論
家や銀行アナリストたちのほとんどは銀行への公的資金の注入に
は反対していたのです。
 これについて、リチャード・クー氏は、次のように述べている
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の銀行はそもそも貸し過ぎで、資本を無駄遣いしているの
 だから、早く貸し出しを減らして「リーン&ミーン」に、つま
 り贅肉を落としてスリムになるべきだというのがその理由であ
 った。それでも資本投入をするのであれば、不良債権の処理を
 含め、さまざまな条件を付けるべきだという論調であった。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この資本注入――うまくやらないと大変ことになって
しまうのです。  ――[サブプライム不況と日本経済/22]


≪画像および関連情報≫
 ●銀行による「貸し渋り」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  貸し渋りとは、健全な債務者――資金の借り手に対して、銀
  行が融資の条件を厳しくするなどして、融資に消極的になる
  ことをいいます。また、すでに融資している資金を積極的に
  回収することを一般に、貸し剥がしと呼んでいます。銀行が
  貸し渋りや貸し剥がしを行うと、中小企業は新規融資を断ら
  れたり、融資の継続を打ち切られたりして、銀行側からの資
  金供給が十分に受けられなくなります。すると、金融の仕組
  み(お金の流れや一時的なお金の貸し借り)がうまく機能し
  なくなり、経済活動を停滞させてしまいます。その結果、企
  業が連鎖的に倒産するシステミックリスクを引き起こす可能
  性が高まり、デフレをさらに深刻化させることが懸念されて
  います。               ――金融用語辞典
            http://www.findai.com/yogo/0104.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

宮澤喜一氏.jpg
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2008年09月16日

●「銀行の貸し渋りは拡大しつつある」(EJ第2411号)

 ファニーメイとフレディマックの両社に対する公的資金による
資本注入枠は最大で2000億ドル(22兆円)という巨額なも
のになっています。これによって「何としてでも破綻させない」
という政府の強い意思が示されたため、現在のところ、金利や株
価などに良い影響を与えつつあるといえます。
 政府の救済はこれだけではないのです。ファニーメイとフレデ
ィマックの両社が発行するMBS――住宅ローン担保証券を買い
上げていく計画なのです。その額は9月だけでも50億ドル(5
500億円)になるといわれています。さらに財務省による上限
のない融資制度も打ち出されているのです。
 なぜそこまでするのかというと、ファニーメイとフレディマッ
クの両社は、住宅金融市場から見ると実に頼れる存在になってお
り、なくてはならぬ存在だからです。
 住宅ローンに必要な資金を貸したり、元利金払いを保証したり
して、ひたすら住宅金融市場に資金を供給しているからです。と
くに2008年に入ってからは、金融危機で銀行が貸し渋りをは
じめているので、両社は市場が必要とする資金の約70%の資金
供給を担っているのです。まさに両社は住宅金融市場の「唯一の
支え役」となっているわけです。
 しかし、これだけの措置を施しても、米国の金融危機の先行き
は不透明であり、予断を許さないのです。この8月の失業率は、
6.1 %に跳ね上がり、景気の急減速が今後住宅ローンの焦げ付
きを一層加速させる恐れがあるからです。
 バーナンキFRB議長は2008年2月の議会証言で「中小企
業がこれからいくつか潰れるかもしれない」と発言し、続く3月
の議会証言では「景気後退もありうる」と明言しています。
 これは自己資本比率が8%を切る銀行が増えることが予想され
そうなると、銀行の貸し渋りが激増する懸念をあらわしたものと
思われます。貸し渋りが激化すると、確実に景気の足を引っ張る
からです。
 もうひとつ心配なことがあります。商業用不動産の動向です。
民間のある米金融大手は、商業用不動産など新たな損失の計上を
迫られる可能性を秘めているといわれます。
 個人住宅に関しては2006年頃から新築販売が落ち込んでい
たのですが、その頃は商業用不動産市場がきわめて堅調であり、
住宅建設がかなり落ち込んでもGDPには大きな影響は出なかっ
たのです。
 しかし、2007年の秋頃からその商業用不動産にも資金がま
わらなくなりつつあり、売れ行きも新規の建築もかなり減少して
しまっています。銀行の貸し渋りの影響はここまで及んでいるの
です。これまで、個人住宅の落ち込みを商業用不動産がカバーし
ていたのに、商業用不動産までおかしくなると、米経済の深刻度
はさらに増大することになります。9月9日の朝日新聞では、こ
れに関連して次の記事を出しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 不動産関連では、サブプライムから信用度の高い住宅ローンヘ
 と焦げ付きが広がってきた個人向けに加え、オフィスやショッ
 ピングモールなどの商業用不動産も今年5月末ごろからローン
 債権の価格が大幅に下落。400億ドル(約4兆3千億円)近
 い商業用不動産関連資産を持つとされる米証券大手リーマン・
 ブラザーズが売却を検討しているが、大きな損失が出て身売り
 に追い込まれる一因になりかねない、と米メディアは報じてい
 る。        ――2008.9.9付・朝日新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は、このように米国で起きている銀行の不動産への貸し渋り
の影響が日本に及んできているのです。リチャード・クー氏はそ
の例として「J−REIT」を上げているのです。
 「J−REIT」というのは、2000年11月に施行された
改正投資信託法によって、それまで主として有価証券しか運用対
象にできなかったものが、それ以外の資産にも投資できるように
なったのです。その運用対象として注目されたのが不動産であり
その結果生まれたのが、不動産投資信託です。既に米国で「RE
IT」として普及しており、日本のREITという意味の「J−
REIT」と名付けられたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   Real Estate Investment Trust/不動産投資信託
―――――――――――――――――――――――――――――
 このJ−REIT――2007年前半までは外資にけん引され
て大変好調だったのですが、その外資がサブプライム問題で躓き
資金を回収したので、市場の勢いがなくなってしまったのです。
日本に問題があるから外資が引き揚げたのではなく、外資自身が
自らの事情で資金を引き上げたのです。このようにして、米国の
金融機関の貸し渋りの影響が、日本のみならず、世界各国の市場
でも今後起きることが予測されるのです。
 いま一番怖いのは、銀行の貸し渋りなのです。現在、米国では
貸し渋りの影響はどんどん拡大しつつあるのです。貸し渋りは自
己資本の毀損――BISの基準である総資産の8%を切ることに
よって起きるのです。
 これが起きると、確実に景気は悪化するのです。それは、既に
述べたように、リチャード・クー氏のいう次の事実に基づいてい
えることなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 銀行の自己資本比率が8%を切ると、銀行は毀損した自己資本
 の12.5 倍の貸し出しを減らさなければならなくなり、景気
 は加速度的に悪化する。      ――リチャード・クー氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 貸し渋りに対する対策で一番参考になるのは、日本が行った政
府による銀行への資本注入であり、これしか有効な方法はないと
思われますが、果たして米政府は、それを行うことができるでし
ょうか。     ――[サブプライム不況と日本経済/23]


≪画像および関連情報≫
 ●「J−REIT」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本におけるREITは2001年に2銘柄でスタートし、
  その後ほぼ順調に拡大し、2007年2月末現在で41銘柄
  時価総額は5兆円に達している。時価総額の規模で、米国、
  豪州、フランスに次ぐ規模になっているが、対GDP比では
  シンガポールや香港などよりも依然低い水準にある。投資物
  件については、当初はオフィスビルが主体であったが、次第
  に商業施設・店舗や住宅等への投資も増加しており、200
  6年現在においてオフィスビルの占める割合は57%にまで
  低下し、商業・店舗が20%、住宅が18%、その他5%と
  なっている。米REITの投資物件はさらに多様であり、J
  −REIT市場においても今後投資物件の多様化が進むもの
  とみられている。          ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

REIT対象オフィスビル.jpg
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2008年09月17日

●「『使えないバズーカ砲』の使い方」(EJ第2412号)

 1998年2月のことです。日本で公的資金による資本注入の
法案が通って、銀行に資本注入をはじめることになったのです。
橋本内閣のときのことです。佐々波楊子慶応義塾大学教授を委員
長とする金融危機管理審査委員会を立ち上げ、その審査をによっ
て銀行に資本注入をしようとしたのです。
 しかし、公的資金の注入を必要とする銀行の頭取は自ら佐々波
楊子委員会に出向き、そこで銀行経営の問題点などを洗いざらい
指摘されたうえで、条件付きで公的資金が投入されるという申請
方式だったのです。
 当然のことながら、一行も佐々波委員会に出向かなかったので
す。そんなことをすれそばたちまち「あの銀行は危ない」という
噂が立って、風評被害を受けかねないからです。
 橋本政権のこの対応は間違っていたのです。銀行に公的資金を
注入する――これは銀行を救済するためではなく、貸し渋りから
中小企業を救い、国民経済を甦らせるのが目的なのです。この場
合、条件を付けては駄目なのです。
 実はリチャード・クー氏は、公的資金で資本注入を行う場合、
無条件でやるべきだとテレビの政治番組で主張していたのです。
条件を付けると、銀行は公的資金の受け入れを拒否し、貸し渋り
を続けることは明らかだったからです。
 佐々波委員会に一行も申し出てこないことに困惑した当時の自
民党の加藤紘一幹事長は、ひそかにリチャード・クー氏に相談に
行っているのです。そのとき、リチャード・クー氏は加藤幹事長
に次の歴史的逸話を教えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1933年、大恐慌のまっただ中でアメリカ政府は資本投入を
 しようとしたが、一行も申請してこなかった。銀行側は「申請
 した銀行は危険な銀行だ」と思われるのを懸念したのである。
 困ったルーズヴュルト大統領はJPモルガンに電話をした。当
 時のアメリカでいちばん格付けの高い銀行であるJPモルガン
 が受け入れれば他の銀行も安心して資本投入を受け入れるだろ
 うから、「資本投入に応じてくれないか」と頼んだのである。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 クー氏のこのアドバイスを受けて日本政府は、ルーズヴュルト
大統領がやったのと同じことをやっています。当時一番格付けが
高く、公的資金を必要としていない東京三菱銀行(当時)を説得
して1000億円の資本投入を受けてもらい、全部で1.8 兆円
の公的資金が銀行に入ったのです。
 そのとき政府は13兆円を用意していたのですが、1.8 兆円
しか投入できなかったのです。銀行への公的資金注入の難しさは
これによくあらわれています。このため、米政府は金融機関への
公的資金注入を逡巡しているわけです。あのポールソン米財務長
官は、金融機関への資本注入を「使わないバズーカ砲」(?)と
いって、記者を煙に巻いていたといいます。
 しかし、日本の場合、1.8 兆円投入の効果は歴然としており
あのすさまじかった銀行の貸し渋りの悪化はピタッと止まったの
です。続いて、政府はその翌年には7.5 兆円の第2次公的資金
注入を果たし、添付ファイルに見られるように貸し渋りは完全に
解消したのです。
 添付ファイルを見ていただきたいのです。このグラフは「0」
の上に行くほど銀行の貸し渋りは緩くなり、下に行くほど厳しく
なるのです。線には次の意味があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  実線 ・・・・・ 金融機関の貸出態度( 大企業)
  点線 ・・・・・ 金融機関の貸出態度(中小企業)
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると、佐々波委員会によって1.8 兆円を投入した第
一次資本投入のときはドン底であったことがわかります。しかし
第2次資本投入の7.5 兆円の投入によって貸し渋りは、急速に
解消に向かっています。
 しかし、小泉政権になってもう一度貸し渋りに逆戻りの局面が
あります。これは「竹中ショック」と呼ばれています。一体これ
は何でしょうか。
 それは、当時金融・財政担当相であった竹中平蔵氏による次の
発言に起因します。
―――――――――――――――――――――――――――――
  公的資金は国民のお金だから、返すのは当たり前である
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言は一見すると正しいように聞こえますが、これは明ら
かに間違いなのです。自己資本が総資産の8%を切るので公的資
金を入れて資本の増強を図るのであって、投入する資金は明らか
に「資本」なのです。お金を貸したのではないのです。これにつ
いて、クー氏は次のように金融庁を批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 資本はなくなっても当然だから資本なのであって、もしも政府
 が投入した資金は返すのが当然だということになると、それは
 「借金」になってしまう。借金は資本とは認められない。だか
 ら本来であれば、金融庁が「借金だ」と言ったとたん、銀行は
 その資金を資本勘定から外さなければいけなくなる。そうした
 ら、自己資本比率は再度下がり、また貸し渋りが始まってしま
 う。そんな初歩的なことにも気づかないような人たちが金融庁
 のトップにいたのである。しかも彼らは資本投入をしたという
 ことで、権力をふりかざし要りもしない発言を繰り返し、箸の
 上げ下げにまで口を出し、銀行経営に干渉した。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
         ――[サブプライム不況と日本経済/24]


≪画像および関連情報≫
 ●「使えないバズーカ砲」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  あなたがポケットに水鉄砲を持っているのなら、取り出して
  使わなければならないかもしれないが、バズーカ砲を持って
  いて、それを皆が知っているとしたら、取り出して使う必要
  はないだろう。        ――ポールソン米財務長官
  http://www.iwaifx.jp/column/market/2008/09/post-22.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ/日本で起きた貸し渋りと資本投入
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より

貸し渋りと資本投入の効果.jpg

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2008年09月18日

●「米国の住宅価格は今後どうなるか」(EJ第2413号)

 今後米国経済はどうなるのでしょうか。米国経済の動向は日本
の経済に直結するので、よく調べる必要があると思います。その
鍵を握っているのは、米国の住宅価格が今後どうなるのかという
ことです。
 日本人にとって住宅といえば「住まい」であり、生涯住むため
のものであり、生涯最大の買い物といわれています。しかし、米
国人にとって住宅とは「貯蓄」なのです。
 米国の住宅は一回建てれば半永久的にもつという前提があり、
価格は土地も含めて上昇する――これが米国では常識だったので
す。確かに米国の住宅は、大恐慌時以外、その価格が全国的に下
がったことは、今までに一度もないのです。
 このような住宅上昇神話があるので、米国人は若いうちに住宅
を手に入れ、ある年齢になったときそれを売却すると、相当大き
なキャピタルゲインを手にすることができたのです。彼らはその
お金で老後を過ごすわけです。米国人が日本人ほど貯金や現金を
持たないのはこれが原因なのです。
 それでは、今後米国の住宅価格はどうなるのでしょうか。
 そのひとつの手がかりは、シカゴ・マーカンタイル取引所(C
ME)に上場している住宅価格の先物市場の動きです。添付ファ
イルを見てください。
 これは、野村総合研究所で作成したもので、シカゴに上場して
いる住宅価格の先物と、80年代から90年代にかけての日本の
近畿圏および首都圏のマンション価格(1平方メートル当たりの
分譲価格)の5か月移動平均をあらわしたものです。このグラフ
は、リチャード・クー氏の本に出ているものです。
 一見してわかるように、今回の米国の住宅価格の上昇と下落は
日本のバブル期とその崩壊とそっくりなのです。したがって、今
後の米国の住宅価格は、日本のそれと似たような経過をたどる可
能性があります。そうすると、2010年まではそのまま下落を
続ける可能性があるのです。
 米国と日本の違いは、日本はデフレであったが米国はそうでな
いということがあります。それに、日本の不動産バブルとその崩
壊は、商業用不動産からはじまっているのに対し、米国では個人
住宅が主導的であったことぐらいのものです。
 住宅価格が実際に2010年まで下落を続けると、家の価値が
住宅ローンの残額を下回ってしまう事態が生ずるのです。米国人
は住宅を「貯蓄」と考えているので、こういう事態が起きると一
挙にインセンティブが下がってしまうのです。
 この場合、家を返す、すなわち、「リターン・ザ・キー」をし
てしまえば借金は残らないので、資金的に余裕のある人でも次の
家に移るタイミングを稼ぐため、ローンの支払いをストップして
家には居座るという延滞のケースが増えてくるのです。
 ハーバード大学のマーチン・フェルドシュタイン教授によると
住宅価格がローン残高を下回るケースは現在既に約800万件に
達しており、これは全体の住宅ローンの15%に当たるのです。
 800万件が15%に当たる全体の住宅ローンは5300万件
となりますが、2003年以降現在までに販売された住宅数は約
3600万戸もあるのです。それを購入した人のほとんどは、現
実にキャピタルロスを生ずることになり、住宅の価値がローンの
残額を下回ってしまう割合は今後激増することになります。
 また、米国では「ホーム・エクイティ・ローン」というものが
あるのです。あくまで住宅価格は上昇を続けるという前提に立っ
て住宅価格からローン残額を差し引いた住宅所有者の持ち分――
これをエクイティという――そのエクイティを担保にしてお金を
借りるのです。しかし、担保価格が減少し、マイナスになってし
まうと、その借金を早急に返さなければならなくなるのです。そ
れも個人消費を冷やし、景気後退の要因になります。
 このような状況を受けて、新規の住宅着工が落ち込むのは当然
ですが、そうだからといって、新規住宅の在庫は思うように減少
していないのです。
 新規住宅の在庫は通常4ヵ月程度で捌けるのですが、現在では
10ヵ月以上かかっています。したがって、通常の倍以上の在庫
が積み上がっているわけです。また、中古住宅の在庫についても
新規住宅のそれと同じような状況になっています。
 このような米国経済の現状について、サマーズ元財務長官は、
財政出動の重要性を説いているといわれます。リチャード・クー
氏の本からその部分を引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、住宅価格の下落から個人がこれから貯蓄率を上げ
 る可能性が高く、しかも実体経済における住宅在庫の問題が非
 常に深刻であることの2点を考えると、かなり長期間にわたっ
 て政府が景気を下支えする必要がある、という結論になる。現
 に、サマーズ元財務長官は英『フィナンシャル・タイムズ』−
 2008年1月7日付の記事を皮切りに、景気対策、とりわけ
 そのなかでも財政出動の必要性を強く訴えている。なぜ財政出
 動かという点については、金融政策だけにすべてを期待するこ
 とには無理があり、また「金融政策に頼りすぎると極端な低金
 利からドル急落の恐れが出てくる」からである。その上で「政
 府による財政支出は確実に有効需要の拡大につながり、間接的
 にしか効かない金融政策に比べてデフレスパイラル回避の保
 険″にもなる」と言っている。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 サマーズ氏といえば、バブル崩壊期の日本の実情を正確に把握
していた人物であり、再三にわたって日本に対し、財政出動の重
要性を迫ったのですが、当時の橋本首相は、「構造改革で景気を
支える」と主張して聞き入れなかったのです。サマーズ氏は現在
米政府に対し、同じことを主張しているのです。当時と状況が似
ているからです。 ――[サブプライム不況と日本経済/25]


≪画像および関連情報≫
 ●ローレンス・ヘンリー・サマーズ氏について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ローレンス・ヘンリー・サマーズは米国の経済学者、政治家
  で、クリントン政権後半期に第71代米財務長官を務めてい
  る。2001年財務長官退任後は、ハーバード学長を務めて
  いたが、女性蔑視発言により、退任した。サマーズは、女性
  が科学で優秀な成績をあげられないのは素質の差だという発
  言により大学の内外から激しい批判を浴びた。2006年、
  サマーズは、6月30日をもって、ハーバード大学学長を辞
  任する趣旨を発表した。2007年年6月からはドルー・ギ
  ルピン・ファウストが女性初の学長に就任し、現在にいたっ
  ている。              ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ/下落基調を強める住宅価格の先物市場
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より

下落基調を強める住宅価格の先物価格.jpg
下落基調を強める住宅価格の先物価格
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2008年09月19日

●「財政出動は果たしてバラマキか」(EJ第2414号)

 9月14日の「サンデー・プロジェクト」(テレビ朝日)に自
民党総裁選候補者5人が顔を揃えたとき、田原キャスターが麻生
幹事長に対し、次のようにいったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 麻生さんは財政出動やるべしという主張をされていますが、参
 謀といわれるリチャード・クーさんの影響ですか。
                     ――田原総一朗氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対し、麻生幹事長は、クー氏とは10年来の友人で参謀
などではないとしたうえで、クー氏の持論「バランスシート不況
論」を使って、財政出動がけっしてバラマキではないことを説明
したのです。
 麻生氏はさすがクー氏の理論がよくわかっていると感心したの
です。他の総裁候補はハナから聞く耳を持たないか、勉強してい
ないか、理解していないという感じだったのです。
 そのとき、麻生氏が主張していたことをクー氏の本からピック
アップすると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今の日本は、金利をゼロにしても借りる人がいないという状況
 である。過剰債務を抱えている企業は、ゼロ金利でもお力ネを
 借りにくることはないからだ。それどころか、彼等はごく数年
 前までゼロ金利でも、何十兆円規模で借金返済をやっていた。
 そうすると、1000円の所得をもらった人が900円を使っ
 て残りの100円を銀行に預けても、この100円を借りて使
 ってくれる人がいないことになる。家計からは新たな預金がど
 んどん銀行に入ってきて、それを銀行は一生懸命貸し出そうと
 するが、肝心の借り手がいない。ゼロ金利でもいない。結局、
 個人が預けたこの100円は、銀行のなかで滞留してしまうこ
 とになる。そうすると、もともとは1000円の所得があった
 のに、実際にはそのうち900円しか使われてない。というこ
 とは、次の人たちの所得は、1000円ではなく、900円に
 なっていることになる。その人たちが、900円の所得の9割
 である810円を使い、一剖の90円を貯金したとする。する
 と、使われた810円は次の人の手に渡って彼等の所得となる
 が、銀行に来た残りの90円は誰も借りる人がいないので、ま
 た銀行のなかで止まってしまうことになる。(一部略)
  ここで言う景気対策とは、政府が国債を発行しておカネを借
 りて使う財政政策である。そして、それを実施したら経済は安
 定した。前述の金融機関に滞留しかねなかった100円を政府
 が企業に代わって借りて使ってしまったからだ。政府が100
 円を借りて使うと900円+100円で1000円になるので
 1000円の所得に対し1000円の支出が発生して、経済が
 安定したのである。        ――リチャード・クー著
     『「陰」と「陽」の経済学』より 東洋経済新報社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本は変な国だと思います。小泉改革のはざまで「公共事業=
悪」という構図ができてしまい、政府はそれを経済政策として使
えなくなってしまっています。自ら経済政策の手足を縛っている
のです。
 そして、何かというと「800兆円を超える国の借金」を振り
かざし、赤字国債は出せないとくる。麻生幹事長も財政出動はす
るが、赤字国債は出さないといっているのです。しかも、今回限
りであるという。そんなことで景気を立て直せるはずがないので
す。かつて衆議院予算委員会の論客として鳴らした民主党の小泉
俊明氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 830兆円の国の借金がある、という。しかし金融財産は対外
 債券(米国債など)の200兆円を含めて580兆円ある。純
 債務は250兆円しかない。欧米ではこの数式で、すべて純債
 務で発表している。日本では金融資産を引かずに粗債務だけを
 出している。増税しないとダメと国民に納得させるためにデー
 タを加工し、ウソの数字を出している。非常に悪質だ。
  ――小泉俊明「増税でなく減税だ」/鈴木棟一の風雲永田町
         3580/2008.8.18付、夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 何しろ大蔵省(現財務省)は、あの終戦直後の日本中が焼け野
原になったときも一貫して増税と叫んでいたのです。彼らは増税
一辺倒であり、他に何の策はないのです。
 ローレンス・サマーズ氏が米政府に財政出動を迫ったというこ
とは、米国がかつての日本のようにデフレスパイラルに陥ること
を懸念したからなのです。
 サマーズ氏の提言を受けた米政府は2008年2月に1680
憶ドルの減税を行っています。しかも、民主・共和両党が協調し
て法制化し、米議会がスピーディに対応したことは、米政府が経
済の行方に強い懸念を持っていたことの証左といえます。
 しかし、リチャード・クー氏は、この減税に懐疑的なのです。
ひとつは、それが「減税」であることです。人々がこれからホー
ム・エクイティ・ローンなどの借金を払わなければならないとき
に減税を行っても、そのかなりの部分が貯蓄やローンに回ってし
まい、需要の拡大にはつながらないと思われるからです。
 もうひとつは、それが一回限りの景気対策であるからです。も
し、減税で効果を上げようとするなら、一回限りではなく、せめ
て2〜3年は続けないと効果が出ないのです。
 今回日本政府がやろうとしている景気対策も一回限りであり、
効果のないことは歴然としています。そして、他の対策も融資が
中心であり、効果が限定的であることは明らかです。目下借金返
済に追われているまともな企業が、自らの首を絞める借金をする
でしょうか。彼らは仕事が欲しいのであり、必要なのは、日本も
米国もやはり公共事業である――そのようにクー氏はいっている
のです。    −――[サブプライム不況と日本経済/26]


≪画像および関連情報≫
 ●「総合経済対策」について/ロイター通信
  ―――――――――――――――――――――――――――
 [東京 29日 ロイター] 政府・与党は29日、原材料や
  食料品の価格高騰など物価高対策を盛り込んだ総合経済対策
  を決定した。中小企業に対する資金繰り支援や高齢者医療対
  策などを柱に2009年度予算も展望した事業規模は11兆
  7000億円以上、予算規模は2兆円以上となった。緊急を
  要する施策については1兆8000億円程度の2008年度
  補正予算を編成し、9月12日召集の臨時国会で早期成立を
  目指す。補正予算の財源について福田首相は「赤字国債の発
  行は行わない」と明言したが、公明党が主張してきた定額減
  税の08年度内実施も明記するなどさらなる財政措置が迫ら
  れることは確実。市場からは、対策効果に懐疑的な見方も聞
  かれる。
  http://news.nifty.com/cs/economy/stockdetail/reuters-JAPAN-335164/1.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

リチャード・クー氏と麻生幹事長.jpg
 
<リチャード・クー氏と麻生幹事長>
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月22日

●「金融危機に対する米金融当局の対応」(EJ第2415号)

 米国の金融危機に対して、ポールソン米財務長官とバーナンキ
FRB議長がその対応に追われています。しかし、その対応は日
本に比べると非常にスピーディーです。
 9月20日の「ウェーク」(日本テレビ)に出演した元総務相
竹中平蔵氏と財団法人・日本総合研究所会長寺島実郎氏は次のよ
うに2人(米金融当局)のことを評価しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ポールソンとバーナンキのコンビは実によくやっている
                    ――竹中平蔵氏
  金融危機に対し、米金融当局は実に機動的に動いている
                    ――寺島実郎氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対して日本は、総合経済対策を決めたものの、福田首相
が政権を放り出し、自民党は総裁選をやっているのです。今日投
票が行われることになっていますが、新首相が決まったら状況に
応じて、所信表明演説に対する各党代表質問の終了直後の10月
3日に衆議院を解散するといっている――そうすると、総合経済
対策の実施は来年の話になってしまいます。
 今まで解散を求められると、「この時期に政治空白は好ましく
ない」と言い続けてきた自民党としては、自らが長期の政治空白
を続けていることをどう考えているのでしょうか。
 ヘンリー・ポールソン財務長官は現在61歳ですが、2006
年5月に財務長官に就任しています。前任者は、ジョン・スノー
氏ですが、大型減税や年金・医療改革などに関する国民への説明
能力が問題視されて事実上更迭されたのです。
 ポールソン氏は、1974年にゴールドマン・サックス社に入
社し、投資銀行部門で力を発揮します。1994年には社長兼最
高執行責任者(COO)に就任しています。そして、1999年
1月に会長兼最高経営責任者になったのです。つまり、ポールソ
ン氏は世界最大の投資銀行の経営トップなのです。
 投資銀行というのは、顧客企業が有価証券の発行による資本市
場からの資金調達をサポートしたり、合併や買収などの財務戦略
を行うさいのアドバイスを行う金融機関――個人向け業務は行わ
ないので、法人向け証券会社と考えとわかりやすいです。
 2008年3月に破綻したベア・スターンズやこの9月15日
に破綻したリーマン・ブラザーズも同じ投資銀行であり、ゴール
ドマン・サックスは、そういう投資銀行の世界のトップの地位に
ある投資銀行なのです。
 今回、リーマン・ブラザーズに公的資金が入らなかったことを
巡って、いろいろなことがいわれています。『週刊文春』/9月
25日号には次のようのように書いてあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ポールソン財務長官はゴールドマン出身で、昔からファルドと
 仲が悪かった。公的資金が入らなかったのは、その人問関係の
 せいだと。ファルドは、もう14年もCEOをやっていて、リ
 ーマンを『マイ・カンパニー』と呼んでいる。彼は傲慢な性格
 のために周りはイエスマンばかり。今回の協議でも長期政権の
 弊害が出たのではないか」(リーマン関係者)
            ――『週刊文春』/9月25日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 米金融当局が投資銀行の危機に対して、直接手を出さないこと
にはきちんとした理由があるのです。それは、1933年のグラ
ス・スティーガル法の影響で、銀行業務と証券業務とを明確に分
離して考えているからです。
 米金融当局は、預金や決済システムを担っている商業銀行の破
綻には責任を持つものの、投資銀行や証券会社の破綻には原則と
して手を出さないのです。それが直接的に預金や決済システムの
安全を脅かすものではないという考え方です。
 投資銀行や証券会社が扱っているのは「リスクキャピタル」で
あり、それは貯金や決済に使われる預金とはまったく別の性格の
お金であると考えているからです。もちろん民間のリスクキャピ
タルの面倒も見るべきではないということになります。
 もっとも近年では、当時では想定していなかった多様な金融商
品やサービスが次々と登場してきていることから、次第に実情に
そぐわなくなってきており、たとえば兼業や兼職禁止の規定につ
いては、1999年の金融制度改革法「グラム・ビーチ・ブライ
リー法」によって改定されていますが、基本原則としては残って
いるのです。
 それでは、米金融当局はどうしてAIGを救済したのでしょう
か。その経過を追ってみることにします。
 9月12日の時点では、AIG経営幹部はリストラ案をまとめ
そのために必要になる40憶ドルの資金の調達は十分可能である
と思っていたのです。複数の企業買収ファンドが増資に関心を示
していたからです。
 しかし、14日にかけてリーマンの破綻が現実味を増すと、増
資に関心を示していた買収ファンドは次々と姿を消したのです。
「15日の市場開始までに何とか間に合わせなければ」とAIG
経営幹部は、著名な投資家ウォーレン・バフェット氏にまで協力
を要請したのですが、失敗に終わります。そして、15日に増資
失敗を織り込んだ主要格付け会社がAIGの格下げを発表すると
AIGの資金繰りは一挙に悪化したのです。
 同日、銀行システムの中心をなす銀行間融資の金利(LIBO
Rのドル翌日もの)が、前日の3.1 %から6.5 %へと急騰。
これは、米英の主要銀行の多くが「次はどの銀行が破綻するかわ
からないので、どこにも金を貸さない」との不安を一気に強めた
ことを示しているのです。
 FRBは、ゴールドマン・サックスをはじめとする米有力金融
機関による民間融資の道を探ったものの失敗。結局、FRBと財
務省は共同でAIGの救済案をまとめ、ブッシュ大統領の承認を
取り発表したのです。―[サブプライム不況と日本経済/27]


≪画像および関連情報≫
 ●グラス・スティーガル法について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1933年に成立した米国銀行法。銀行の証券引受業務や株
  式の売買を禁止するなど、銀行業務と証券業務の分離を定め
  た4カ条を指すことが多い。世界大恐慌の反省から、預金者
  保護・銀行経営の健全性確保を目的として制定された。しか
  し、1999年のGLB法――「グラム・ビーチ・ブライリ
  ー法」によって、この銀行と証券の分離条項は廃止された。
                   ――金融用語辞典より
  ―――――――――――――――――――――――――――

ポールソン財務長官とバーナンキ議長.jpg
ポールソン財務長官とパーナンキ議長
posted by 平野 浩 at 05:12| Comment(0) | TrackBack(0) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月24日

●「バーナンキは大恐慌の研究家である」(EJ第2416号)

 ベン・バーナンキFRB議長――1975年にハーバード大学
経済学部を最優等学位をもって卒業し、1979年にはマサチュ
ーセッツ工科大学で、経済学博士号を取得しています。FRB議
長になったのは、2006年2月のことです。
 国の経済に対する政府の政策としては、財政政策と金融政策の
2つがあります。バーナンキ議長が得意とするのは、金融政策な
のです。バーナンキ議長は、ミルトン・フリードマンの学統を継
承している経済学者なのです。
 2007年9月に5.25 %であったFFレートは、現時点で
2.00 %に下がっています。バーナンキ議長は約6ヵ月で、実
に3.25 %も下げたのです。これは前代未聞の利下げスピード
なのです。ここにバーナンキ議長の金融政策重視派の学者として
の一端を見ることができます。
 バーナンキ議長の学者としての最大の業績は「大恐恐の研究」
なのです。英語では何かのマニアのことを「〜バフ」というので
す。元防衛相の石破茂氏のような「軍事オタク」は「軍事バフ」
というように使います。
 バーナンキ議長は自ら「グレート・ディプレッション・パフ」
といっているので、「大恐慌オタク」ということになりです。バ
ーナンキ議長には大恐慌に関する多くの論文がありますが、その
結論は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     大恐慌は金融政策のミスによるものである
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 1930年代の米国の大恐慌について、バーナンキ議長は19
29年〜31年にかけての最初の2年間で、ニューヨーク連銀が
もっと積極的に市場に資金を供給していれば大恐慌は防げたはず
である――このようにいっているのです。ちなみに当時の金融政
策はワシントンにあるFRBではなく、ニューヨーク連銀が主導
していたのです。
 今やバーナンキ議長は、まさに当時のニューヨーク連銀の立場
にいるのです。ここはかねてからの主張通りに金融政策で危機を
乗り切りたいと考えているはずです。そういうわけで、彼はわず
か半年で3.25%もFFレートを下げたのです。
 リチャード・クー氏は、こういうバーナンキ議長の金融政策に
ついて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 かつて彼がまだ学者だった時、日本の景気低迷を見て、日銀に
 向かって「日銀はトマトケチャップを買ったらどうだ。そうす
 れば景気は良くなる」と発言したことがある。当時のアメリカ
 の学者たちはひどい言葉を使って、日本の金融当局をボロクソ
 にこき下ろしていたが、バーナンキはその代表格であった。今
 やそのバーナンキは自分が当時の日銀の立場に立たされている
 のである。だから、バーナンキは急速に金利を下げたわけであ
 るが、今後さらに下げることも辞さないだろう。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 かつての日本は、8%からO%まで金利を下げたのですが、何
事も起こらなかったのです。景気も良くならなかったし、不動産
価格も下がり続けたのです。
 金利政策が機能するのは、お金を借りたいと考えている人が多
くいることが条件となります。そういう状況のもとで金利が下が
れば、お金を借りる人が増えるだろうし、金利が上がればお金を
借りて使うことを止める人が出てくるはずである――すなわち、
経済が金融政策に反応するのです。
 しかし、バブルの崩壊で失敗した人は、その反省から自己のバ
ランスシートを修復しようとして、低金利でもお金を借りなくな
るのです。これが、いわゆるリチャード・クー氏のいうバランス
シート不況論です。
 ITバブルが崩壊したとき、当時のグリーンスパン前FRB議
長は、FFレートを1%まで下げたのですが、ナスダックの指標
は元に戻らなかったのです。バランスシート不況下では金融政策
は効かないのです。
 同様にバーナンキ議長は金利を2%まで下げましたが、住宅価
格は、現物も先物もまったく反応しておらず、住宅価格は下がり
続けたのです。唯一反応したのはドルだけなのです。
 学者という職業の人は、普通の人よりも本をよく読む人たちで
あるはずです。バーナンキ氏も学者であれば、いくら自分の理論
に反する人の本――たとえば、リチャード・クー氏の本なども読
むべきでしょう。つねに自分の考え方がどのような場合でも正し
いとは限らないからです。
 リチャード・クー氏のバランスシート不況論はわかりやすいし
納得性があります。バーナンキ議長もクー氏の理論を研究し、自
分とは違う視点からなぜ経済を見ようとしないのでしょうか。そ
してもし反論があれば、そういう主張をすればよいのです。
 リチャード・クー氏は、今までの経済学には次の視点が完全に
抜け落ちていると指摘しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   バブルが崩壊すると、企業や家計が借金返済に回る
―――――――――――――――――――――――――――――
 バーナンキ議長は、自分の金融政策に唯一反応するドル――ド
ル安を介して輸出を伸ばす政策を取ろうとしているのではないか
と思われます。本来米国は、貿易赤字国なのであるから、ドルの
為替レートを下げることによってドル安にし、貿易収支を改善し
て、住宅分野に過度に依存していた経済を改め、製造業や輸出が
引っ張る経済にしていこうと考える――バーナンキー議長はそう
考えたのでしょう。――[サブプライム不況と日本経済/28]


≪画像および関連情報≫
 ●バーナンキ議長のサブプライム問題に関する発言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2008年4月2日、上下両院合同経済委員会で経済見通し
  について、「現時点では実質国内総生産(GDP)は、20
  08年上半期はそれほど成長せず、若干縮小する可能性もあ
  るようだ。下半期には、金融・財政支援策の効果などで経済
  活動は強くなる見通し。ベアー・スターンズがもし破たんし
  ていたら収拾が極めて困難で深刻な状況を招いていた可能性
  がある」と証言し、年後半の景気回復に対し明るい見通しを
  示した。2008年4月4日、雇用統計や失業率の大幅な悪
  化にもかかわらず、年後半の景気回復の期待が広まりダウ平
  均株価、NASDAQとも堅調な値動きとなった。
               ――バーナンキ議長の発言より
  ―――――――――――――――――――――――――――

バーナンキとクー.jpg
バーナンキ議長とクー氏
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(1) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月25日

●「なぜ、証券会社が先に破綻するのか」(EJ第2417号)

 連日驚愕すべきことが次々と起こっているので、何が何だかわ
からなくなっている人も多いと思います。いま、何が起こってい
るのか。これから何が起ころうとしているのか。問題を整理しな
がら、先に進めたいと思います。
 かつての米国の大手証券会社(投資銀行)のベスト5は次の通
りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       第1位:ゴールドマン・サックス
       第2位:モルガン・スタンレー
       第3位:メリルリンチ
       第4位:リーマン・ブラザーズ
       第5位:ベア・スターンズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、第5位のベア・スターンズが米銀大手のJPモルガン・
チェースに買収され、第3位のメリルリンチは米銀大手のバンク
・オブ・アメリカへの身売りで合意、そして、第4位のリーマン
・ブラザーズは破綻ということで、5つのうちの3つは姿を消し
ているのです。
 第2位のモルガン・スタンレーも単独での立て直しは困難にな
りつつあるようで、三菱UFJから巨額の出資――9000億円
を受け入れることになったのは、ご承知の通りです。9月19日
の週末に打診があり、22日深夜に基本合意に達したという異例
の即断即決だったのです。この増資がモルガン・スタンレーの現
在計画する唯一の資本増強策であるということです。すべてが、
2008年の出来事であり、これは尋常ならざることです。
 なぜ、証券会社ばかりがこういうことになるのかというと、証
券各社はFRBの監督下になく、規制が緩いこともあり、野放図
に業務を拡大できたのです。とくにリーマンはその傾向が強く、
今までやりたい放題やってきているのです。そういうところにサ
ブプライムローン・ショックが襲ってきたというわけです。
 それでは、サブプライムローン・ショックとこうした証券会社
の危機とは、どのように結びついているのでしょうか。
 添付ファイルの図をごらんください。そもそも今回の金融危機
はバブルの崩壊が原因なのです。10年前の日本は不動産のバブ
ルがはじけたのですが、それまでの日本では昔から「土地神話」
というものがあったのです。
 土地さえ持っていれば、それは確実に値上がりを続けるので財
産も築けるし、それを担保にして銀行からお金も借りられる――
これが土地神話です。実際に土地の価格は一貫して上がって行っ
たのですが、それが突然音を立てて崩れたのです。
 それでは米国の場合はどうでしょうか。
 米国には「住宅神話」というものがあったのです。確かに大恐
慌以来70年以上にわたって、住宅価格は上がり続けていたのは
確かです。あのグリーンスパン前FRB議長でさえ、住宅価格に
ついては大丈夫だといっていたくらいです。
 それが、サブプライムローンの焦げ付きがきっかけで、突然下
がり始めたのです。傷んだ証券化商品を持つ世界中の金融機関が
相互に相手がどのくらい損失を抱えているか不安になって信用で
きなくなり、疑心暗鬼に陥ったのです。
 こうした信用不安による損失が金融機関の経営を悪化させ、さ
らなる信用不安を巻き起こします。証券会社の場合、証券化商品
の在庫を多く持たざるを得ないことと、銀行と違って自由な商売
ができたので、リスクの多い商品を扱っており、その前提になる
住宅価格が下落すると、崩壊は早いのです。そういうわけで、証
券大手5社中3社までが崩壊するか買収され、1社が邦銀から巨
額の出資を受け入れる――こういう事態になったのです。
 そうなると、株が売られて株価は下落するとともに、銀行に貸
し渋りが起こって景気が後退します。この現象は米国のみならず
日本でも既に始まっているのです。それがさらなる住宅価格の下
落を招くという悪循環に陥っているのです。
 それではこのあとどうなるのでしょうか。
 このあと銀行経営に問題が起こってきます。それをいかにして
食い止めるかが、一国の金融当局の腕の見せどころということに
なります。
 バブルが崩壊すると、土地や住宅などの資産価格が下落します
が、最初のうち下落は一時的なものであると判断し、人々は具体
的な行動を起こそうとはしないものです。こういう状況をクー氏
によると「ディナイアル」というのです。
 1992年までの日本と2007年までの米国は、まさにこの
ディナイアルの局面だったのです。
 しかし、やがてバブル崩壊が進むと、企業のバランスシートを
直撃するようになります。そうすると、人々は一気に慎重になり
債務の圧縮という自己防衛行動に走るようになります。
 大勢の人が借金返済や不良債権の処理という行動をとるように
なると、ひとり一人は正しい経済行動をとっているつもりでも、
マクロ環境としては経済は悪化してしまうのです。これを「合成
の誤謬」といいます。
 このようにして、人々はお金を借りようとはしなくなり、民間
の資金需要はなくなってしまうのです。つまり、「企業や家計が
借金返済に回る」のです。今までの経済学にはこういう視点が完
全に抜け落ちていたのです。ケインズにもフリードマンにもこの
視点はないのです。
 こういう状況になると、中央銀行による金融政策は無力化して
しまいます。こういうときは、民間の余剰貯蓄を政府自らが借り
て使い、自己資本が不足している銀行には資本注入をするなどの
政策が必要なのです。これは財政政策そのものであり、これによ
り、合成の誤謬に終止符が打てるのです。
 しかし、すべては金融政策で解決できると考えているバーナン
キFRB議長は、こういう財政政策を取ることにかなり躊躇うは
ずです。     ――[サブプライム不況と日本経済/29]


≪画像および関連情報≫
 ●「合成の誤謬」について/経済コラムマガジンより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「合成の誤謬」は理解しやすい概念である。マクロ経済学を
  学んだ者なら誰でもが認識していると思われる。経済学を学
  ばなくとも現実の経済に携わっている者なら漠然と理解して
  いるはずである。ところが、この言葉は一般の人々に浸透し
  ていない。特に日本のメディア界ではほとんど無視されてい
  る。したがっていまだに多くの人々は、一企業が良くなるこ
  とが常に日本経済全体にもプラスになると誤解している。
           http://www.adpweb.com/eco/eco468.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

金融不安連鎖の仕組み.jpg

posted by 平野 浩 at 04:20| Comment(0) | TrackBack(0) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月26日

●「救済されたベアとされなかったリーマン」(EJ第2418号)

 ニューヨーク大学にノリエル・ルービニという教授がいます。
このルービニ教授は、3年前から米国の住宅バブル崩壊を予言し
ていたのですが、予言は的中し、ルービニ教授の指摘通りになっ
ています。ルービニ教授は、この7月に、ブルームバーグTVの
インタビューで次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米投資銀行4社――ゴールドマン、モルスタ(モルガン・スタ
 ンレー)、メリル、リーマン)は破綻するか、もしくは伝統的
 な商業銀行によって買収されるだろう。
          ――「週刊エコノミスト」/9月30日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 その根拠として、ルービニ教授は投資銀行の「資金調達におけ
る脆弱性」を指摘しています。商業銀行と投資銀行とはどのよう
に違うのでしょうか。
 商業銀行と投資銀行の一番大きな違いは、商業銀行には預金業
務があるのに対して、投資銀行にはそれがないという点にありま
す。銀行にとって預金は、低コストで得られる貴重な資金であり
それだけでも銀行には安定感があります。
 これに対して投資銀行は、株式や社債、銀行からの借り入れな
ど、通常の企業と同じ手段で資金調達を行っているのです。その
中で、短期金融の手段としてよく使われるのが「レポ取引」とい
われるものです。
 「レポ取引」というのは、買い戻し条件付き売却契約のことで
証券を担保として使う融資の一種です。短期資金が必要になった
投資銀行は、保有している証券を銀行などに売却し、将来の一定
の日――たとえば一ヶ月後に一定価格で買い戻すのです。そのさ
いの価格は売却価格よりも高く設定され、その差額分が利息にな
るのです。
 日本ではこの取引のために証券として国債が使われますが、米
国では株式や資産担保証券(ABS)、住宅ローン担保証券(R
MBS)などが使われるのです。
 このレポ取引――担保になる証券の価格が安定しているときは
いいのですが、サブプライム問題で価格が下落すると、追加担保
を求められたり、売却契約そのものが成立できなかったりして、
投資銀行は一挙に資金不足に陥ってしまうのです。ベア・スター
ンズとリーマン・ブラザーズの破綻の原因のひとつがこのレポ取
引の不成立だったのです。
 9月22日のロイター通信によると、米ゴールドマン・サック
スとモルガン・スタンレーは、銀行持ち株会社に移行することに
なったと報じています。これは投資銀行から銀行になることを意
味しています。これによる大きな変化は、両社の監督権限が今ま
での証券監視委員会から連邦準備理事会(FRB)に移り、自己
資本規制比率に縛られるようになることです。
 この動きは、ハイ・レバレッジ(てこの原理)を使って借入金
を膨らませて高収益を上げてきた投資銀行のビジネスモデルの終
焉を意味しています。
 ここで解けない謎がひとつあります。それは、米政府が業界第
5位のベア・スターンズは事実上救ったのに、業界第4位のリー
マン・ブラザーズをなぜ見殺しにしたのかということです。
 ベア・スターンズは破綻し、JPモルガン・チェースに買収さ
せるかたちをとっていますが、政府はニューヨーク連銀を通して
必要な資金供与をしているのです。国有化はしていませんが、事
実上救済しているのです。
 しかし、なぜ、リーマンは救済しなかったのでしょうか。
 大きな理由としては、次の2つがあげられます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.ベイルアウトを容認する政治意思がなくなったこと
  2.システミックリスクの懸念は少ないという当局判断
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の理由は、政府としてモラルハザードをこれ以上醸成した
くないという政治意思を示したことです。
 3月のベア・スターンズの救済に続き、9月のファニーメイと
フレディ・マック、さらにAIGへの救済措置と短い期間に4つ
の救済を重ねており、政府としてモラルハザードをこれ以上醸成
したくないと考えたのです。ノー・ベイルアウト(救済しない)
という政府の意思です。まして、大統領選挙の年であり、あまり
納税者の税金を使うことは不利と考えたものと思われます。
 第2の理由は、リーマンの場合、ベア・スターンズに比べて、
CDS取引が多いないという判断があったことです。
 CDS――クレジット・デフォルト・スワップといって、企業
に融資したが、企業が倒産して貸し付けたお金を返してもらえな
いリスクを対象とするデリバティブ――一種の保証業務と考える
とわかりやすいと思います。
 このデリバティブの取引関係は複雑であり、ベア・スターンズ
の場合、CDSにはとくに力を入れていたのです。したがって、
もし、ベア・スターンズを破綻させると、複雑な連鎖破綻が起こ
り、システミックリスクが起きかねないという懸念があったもの
と思われます。これに対してリーマンは、ベア・スターンズほど
CDSは多くないと当局は判断していたのです。
 また、ベア・スターンズの破綻は突然であったのに対して、リ
ーマンの場合はその半年後のことであり、市場がリーマンの経営
難を織り込んでいたと当局は考えたのです。
 そのほか、リーマンが救済されなかったのは、最初に買収先と
して名前の上がったのが、バークレイズ(英国)であって外銀で
あったことも政府が資金を供与しにくくしたといえます。
 また、リーマンのCEOが途方もない報酬を手にしており、そ
の商売のやり方が強引であるところから、そういう企業を救済す
ることへの納税者の反発も考慮したのではないかともいわれてい
ます。いずれにせよ、リーマンは救済されにくい状況にあったこ
とは確かです。  ――[サブプライム不況と日本経済/30]


≪画像および関連情報≫
 ●レポ取引について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  レポ取引とは、債券の貸借取引のことで、当事者の一方が他
  方に債券を貸出し、見返りに担保金を受入れ、一定期間経過
  後にこの債券の変換を受けて担保金を返却する取引のこと。
  リパーチェス取引とも呼ばれる。債券の借り手は、債券に対
  する貸借料を支払う。この差額(担保金金利−債券貸借料)
  がレポ−レートと呼ばれる。日本でレポ市場という場合、現
  金担保付債券貸借市場のことを言う。借り手はトレーディン
  グ決済に必要な債券を調達すること、貸し手は債券の品貸料
  担保金の運用益の獲得を目的として取引が行われる。
  ―――――――――――――――――――――――――――

ベア・スターンズ.jpg
ベア・スターンズ
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2008年09月29日

●「全世界が財政出動を/IMF専務理事」(EJ第2419号)

 9月21日(日)、池袋東武百貨店にある旭屋書店で私が目撃
したことについてお話しします。偶然かもしれませんが、副島隆
彦氏の次の新刊書が次々と売れているのをみたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
              副島隆彦著/祥伝社刊
    『恐慌前夜/アメリカと心中する日本経済』
     ――Lies, Big Lies and Statistics――
―――――――――――――――――――――――――――――
 私も副島氏の新刊書を買おうとしていたので気が付いたことで
すが、話題の本のコーナーに平積みになっている本のうち、副島
氏の本だけが一冊だけになっていたのです。明らかにその本だけ
が売れている感じでした。
 しかし、その残っている本が少し汚れているような感じがした
ので、私はビジネス書のコーナーに行って、副島氏の本を探した
のです。しかし、そこにも一冊しかなかったのです。
 明らかに売れている――そうなると、早く買わなければという
気持ちになって、その本を購入したのです。帰りに再び話題のコ
ーナーに戻ってみると、そこに一冊あった副島氏の本はなかった
のです。ウソのような話ですが、本当のことです。
 副島隆彦氏の本はよく売れることで定評がありますが、それに
しても目の前でこれほど売れるというのは大変なことです。どう
してそんなに売れるのでしょうか。
 「恐慌」――何やら恐ろしい響きがする言葉ですが、サブプラ
イムローン問題に端を発する昨今の米金融危機の状況を見ている
と、米国発の恐慌が近いのではないかと考える人が多くなってい
るのではないかと思います。世界経済の動向に関心のある人であ
れば、それに関する情報がこの本に書かれているのではないかと
考えて、買う人が増えているのでしょう。
 確かに、本書には驚くべきことがたくさん書かれています。と
くに第4章の内容には興味深い情報に溢れています。ところで、
この本のサブタイトルに書かれている英文は何を意味しているの
でしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
       Lies, Big Lies and Statistics
―――――――――――――――――――――――――――――
 副島氏によると、これは有名な英国の格言(マキシム)で、ユダ
ヤ人の大宰相ディズレーリが言った名言なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世の中には3つの嘘がある。それは、ただの嘘と大嘘、そして
 統計学のふりをした、高等数学で表わされる嘘八百の金融・経
 済のあれこれの数値のことだ。
                 ――副島隆彦著/祥伝社刊
         『恐慌前夜/アメリカと心中する日本経済』
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで第3の嘘である「スタティスティクス」というのは、具
体的にはデリバティブのことをいっているのです。何しろ現在の
金融の世界は、元手が100万円しかないのに3億円のビジネス
だって可能なのです。
 レバレッジ300倍ならそうなります。金融先物やFX(外国
為替証拠金取引)ではそういう取引がごく日常的に行われている
のです。これは金融博打以外の何物でもないのです。だからこそ
大金融機関でも一夜にして潰れてしまうことになります。「スタ
ティスティクス」というのはそういうものを指しています。
 さて、米金融危機による再編・淘汰の波が、「証券」から「銀
行」に広がりつつあります。米貯蓄金融機関(S&L)最大手の
ワシントン・ミューチャルが経営破綻したからです。今後も預金
流出によって資金繰りが悪化しかねない銀行が増加する可能性も
あり、不安が広がっています。
 こういうさいに政府はどう対応すべきなのでしょうか。これに
関して、2008年1月末のダボス会議で、ストロスカーンIM
F専務理事は次のように発言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカだけでなく、全世界が財政出動で対応すべきである
            ――ストロスカーンIMF専務理事
―――――――――――――――――――――――――――――
 何度も述べているように、金融危機に対して国がとれる政策に
は、金融政策と財政政策の2つがあります。状況に応じて2つの
政策を使い分けて危機を鎮静化させるのが政府の役割ですが、な
ぜか財政政策に関しては腰が重く、なかなか取ろうとはしないの
です。米国の場合、バーナンキFRB議長のように金融政策至上
主義者が多いからです。
 金融危機が銀行にまで波及してきた場合、資本注入が必要にな
りますが、これは政府が資金を出すので、財政政策ということに
なります。
 現在、米議会で調整が続いている金融安定化法案も7000憶
ドル(75兆円)もの公的資金を投入する財政政策です。しかし
納税者の理解が得られないとして、成立が難航しているのです。
 このストロスカーンIMF専務理事の発言を引き出したのは、
財政出動派のサマーズ元財務長官なのですが、サマーズとしては
ストロスカーンが「財政出動はダメだ」というと思っていたのに
予想に反してこの発言をしたので驚いたといいます。いや、世界
中が驚いたのです。
 このダボス会議には福田前首相も行っていたのですが、世界経
済フォーラムのシュワブ会長が福田前首相に、IMF専務理事の
発言をどう思うかと聞いたところ、福田前首相は「財政出動が日
本の場合はベストという状態には今はない」と答えたというので
す。世界が協調して不況に立ち向かおうというときに、日本は協
力しないということになるのです。なにしろ日本では「財政出動
=バラマキ=悪」となっているので、そう答えるしかなかったも
のと思われます。  ―[サブプライム不況と日本経済/31]


≪画像および関連情報≫
 ●IMF専務理事の発言と日本
  ―――――――――――――――――――――――――――
  IMF専務理事の発言で「余裕のある国は財政出動を」とあ
  る。余裕のある国、余裕のない国とは何で区別するのかと言
  えば、インフレ率だ。アメリカも景気対策をやってよいのか
  どうか、それが唯一の問題だった。インフレ率がすでに高す
  ぎる国は、それ以上景気刺激をするのは危険だ。しかし、そ
  の点で、日本はデフレ経済なのだから世界で最も余裕がある
  国であり、何の問題もない。国の借金が多すぎるから、もう
  これ以上借金はできないと言うが、本当にこれ以上借金でき
  ないのなら、事実上破綻しているのであり、国債は事実上紙
  くずになっているのである。国債は絶対に紙くずにしないと
  国は言っているのだから、これ以上いくらでも借金はできる
  ということだ。
  http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/01/imf_bdc8.html
  ―――――――――――――――――――――――――――――

「恐慌前夜」.jpg
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2008年09月30日

●「ストロスカーン発言を伝えない日本の新聞」(EJ第2420号)

 昨日のEJで、今年の1月のダボス会議において、IMFのス
トロスカーン専務理事が「世界各国が財政出動すべきである」と
発言したことを取り上げましたが、これは日本をのぞく世界中に
大きな波紋を広げたのです。
 なぜ、世界中が驚いたかでありますが、IMFの今までの考え
方からいうと、IMFがそのような発言をするとは、とうてい考
えられなかったからです。
 その驚きの度合いは、ストロスカーン専務理事が発言した翌日
の「フィナンシャル・タイムズ」もこの発言を「180度変わっ
たIMF」という見出しをつけて、専務理事の写真まで付けて報
道しているのみてもわかることです。
 IMFは、どこかの国の財務省のように、どんなときでも「財
政再建」を唱えてきたところなのです。そのため、IMFの3文
字は、次のことばの省略語であるといわれるほどです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    IMF=It's mostly fiscal./常に財政再建
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、今までのIMFはどのような問題が持ち上がっても、
「財政再建を・・・」といってきたのです。1997年の日本に
対してもIMFは「財政再建をやれ!」と言い続けて、日本経済
を5期連続のマイナス成長という事態に落し入れたのです。
 そういうIMFが今までの主張と正反対の「財政出動」を口に
したのですから、世界は驚いたのです。逆にそれだけ今回の金融
危機が深刻なものであることをストロスカーン専務理事は既に1
月の時点で見抜いていたものと思われます。
 ストロスカーン専務理事は、正確にいうと「余裕のある国は財
政出動をやれ」といっているのです。余裕のある国というのは、
「インフレ率の低い国」を意味しています。そうなると、まだデ
フレ経済から脱却していない日本は、もっとも適合している国と
いうことになります。ストロスカーン専務理事は、福田首相が会
場にきていることを知っていて、あえて日本を意識して発言した
のではないかと思われます。
 しかし、日本国内は相変わらず「財政再建」一色です。これは
日本の財務省が小泉政権の5年間間をかけて、一貫して「国の借
金を増やしてはならない」と言い続けてきた結果です。いってい
ることはけっして間違っていないことですが、そのときの経済に
とっては致命傷になることもあるのです。
 しかし、小泉政権のときは実はあれほど力を入れたはずの財政
再建は進んでおらず、少し進んだのは政権末期に景気が回復して
からなのです。この景気回復も小泉政権の政策の成果ではないの
です。景気が低迷しているときに財政再建をやると、景気の回復
力を奪ってしまうのです。日本経済はこれを繰り返して「失われ
た15年」を作ってきてしまったのです。
 ところで、IMFは、なぜ「財政再建」を唱えるようになった
のでしょうか。それには、IMFが創設された時の経緯を知る必
要があります。
 IMF(国際通貨基金)という構想を考え出したのは、ジョン
・メイナード・ケインズです。大恐慌になって資産価格が暴落し
たとき、どこの国も財政赤字を出したくないので、通貨価値を切
り下げて、輸出を増やそうとします。つまり、そこで「通貨切り
下げ競争」が起きるのです。
 リチャード・クー理論によると、このとき各国はバランスシー
ト不況に突入していたことになるのですが、ケインズはそこまで
は気がついていなかったはずだとクー氏はいっています。
 しかし、優れた経済学者であるケインズは、各国が一斉に輸出
を増やして外需に頼ろうとすると、世界規模で「合成の誤謬」が
起きることを懸念したのです。そこでケインズは、IMFという
構想を考え出したのです。そのケインズの構想について、クー氏
は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ケインズは世界が恐慌に見舞われそうになったら貿易赤字国も
 貿易黒字国も同様に責任を持つべきであると主張した。つまり
 貿易黒字国は内需をどんどん増やす。赤字国に内需拡大を期待
 するのは無理だから、黒字国にも荷物を背負ってもらおう、と
 いう案であった。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この案は採択されなかったのです。なぜなら、当時の
英国と米国の国力の違いによって、ケインズ案は採択されなかっ
たのです。IMFについては、上記のケインズ案とホワイト案の
2つが提案されたのです。ケインズ案は合理的なものだったので
すが、当時の黒字国は米国だけだったので、米国としてはそんな
責任を負いたくない――そこで、黒字国の責任は問わないが、そ
の代りにIMFは赤字国に対して融資を行い、救済するという仕
組みにしたのです。米国はケインズ案を修正したホワイト案を強
引に採択させ、このようにしてIMFは創設されたのです。
 ケインズ案では、IMFの目的は「世界的な合成の誤謬を回避
する」という世界的規模のものであったのに、ホワイト案では貿
易赤字を抱え、支払い不能に陥った国々の救済に追われて、グロ
ーバルな観点から世界経済を見るという目的はほとんどなくなっ
ているのです。
 このように考えてくると、ストロスカーン専務理事の発言は、
あのケインズが提唱したかつてのIMFの原点に還った発言であ
ったといえるのです。しかし、なぜか日本の新聞では、この発言
はほとんど取り上げられることはなかったのです。日本という国
は、財務省の支配が行き届いており、「財政出動=悪」という考
え方が国民にまで浸透しているのです。加えて、財政出動を唱え
る学者や評論家はTVに出さないようコントロールしているよう
です。      ――[サブプライム不況と日本経済/32]


≪画像および関連情報≫
 ●韓国の威信を傷つけた経済進駐軍/IMF
  ―――――――――――――――――――――――――――
  韓国は、朝鮮戦争以来の経済危機に見舞われ、今年はじめか
  ら、大手財閥系のメーカーや金融機関が、次々と破綻してい
  る。窮状を救うため、韓国政府はIMF――国際通貨基金か
  らの融資を受けることに決めた。だがIMFは、危機に陥っ
  た国を助ける代わりに、借り手となる政府が支出を切りつめ
  るなど、経済政策を改めることを求めるのが原則となってい
  る。韓国に対してIMFは厳しい緊縮財政によって1998
  年の財政赤字をGDP1%まで減らすとともに、為替を安定
  させるために金利を上昇させることなどを、融資の条件とし
  た。これは、これまで年率10%前後だった韓国の経済成長
  率を、1998年には3%に落とすことを意味している。
            http://tanakanews.com/971210IMF.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

ストロスカーンIMF専務理事.jpg
ストロスカーンIMF専務理事
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(1) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする