に、銀行、証券会社、モノライン保険会社、格付け機関の関係は
重要です。証券化ビジネスが行われる順序を整理します。
証券会社は、証券化に必要なだけの住宅ローンを銀行から買い
集めて、証券化します。それらの証券化商品は当然のことながら
売れるまで、証券会社の在庫になります。メリルリンチ証券は、
これらの在庫が劣化し、窮地に追い込まれたのです。
証券化ビジネスとは、格付け機関の「AAA/トリプルA」の
認定を前提とするビジネスなのです。問題は、そのトリプルAの
認定を受けるにはどうするかです。それには、モノライン保険会
社に証券化商品の支払い保証をしてもらう必要があります。証券
会社は住宅ローンを証券化するさいに、モノライン保険会社の支
払い保証が受けられるように証券化する必要があるのです。
モノライン保険会社がどのようにして支払い保証をつけるのか
について、既出の春山昇崋氏の著書にわかりやすい図が出ている
ので、添付ファイルにしてありますので、ご覧ください。
図の上方にトリプルAの格付けに必要な信用力のラインが点線
で示されていますが、企業A、企業B、企業Cはいずれもそのレ
ベルに達していないことがわかります。
そこでモノライン保険会社は、A、B、Cそれぞれに支払い保
証を供与することによって3社すべてがトリプルAを獲得できる
レベルに変身できることになります。当然のことですが、モノラ
イン保険会社が提供する保証の大きさはそれぞれ異なります。
このようにモノライン保険会社は、投資家や証券会社に対して
支払い保証を供与することによって標準化、均質化を提供する役
割を担っているのです。日本でも銀行から融資を受ける信用力が
ない企業が、信用保証協会が保証してくれれば銀行から融資が受
けられるのと同じです。
さて、このモノライン保険会社の支払い保証を評価のひとつと
して、格付け機関は証券化商品に格付けを行うのです。しかし、
この格付け作業は厳密にやろうとすると、相当の人手と時間がか
かるのです。
リチャード・クー氏は、証券化商品のリスク特性を正確に把握
することの困難性について次のように述べています。
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これらの金融商品のリスク特性は、これらの商品を実際に組成
した人たちにしか把握できないという点である。極めて高度な
数学を駆使してつくられたこれらの商品は外部の人たちがその
リスク特性を知ろうとしたら、その証券の構成部分である個々
の金融商品の過去のデフォルト率などを一つ一つ調べ、それを
もう一回組み合わせて全体のリスク特性を計測しなければなら
ない。その作業にはクウォンツと呼ばれる高度な数学の知識を
持っているチームが必要であり、またその作業には一つの証券
につき数週間の時間が必要だと言われている。
――リチャード・クー著
『日本経済を襲う二つの波/サブプライム危機とグローバリ
ゼーションの行方』/徳間書店刊
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こうした困難な格付け作業は、格付け機関をして、ともすると
安易な判断を行わせやすいのです。モノライン保険会社が保証し
てくれるのだから、保険会社が保証できる状況かどうか、それだ
けをチェックすればよいというような安易な判断を格付け機関は
行い勝ちになるのです。
まして、モノライン保険会社自身はトリプルAの格付けを有し
これまで30年以上もの間、無事故で健全な状態だったのですか
ら、その保険会社が保証するMBSは安全である――格付け機関
はそう判断してトリプルAを与えたのです。これなら、世界中の
投資家が安心して投資するはずです。しかし、それが今回無残に
も裏切られることになったのです。
2007年7月に入ると、原債権であるサブプライムローンの
延滞が想定の範囲を超えるものであったため、S&P、ムーディ
ーズといった世界的格付け機関は相次いで大量の格下げを発表し
たのです。
本来格付けとは、証券が満期までに債務不履行(デフォルト)
になる確率をあらわす「信用リスク」の指標なのです。それにも
かかわらず大量に格付けを下げたということは、原資産のリスク
分析が非常に甘かったという批判は免れないと思われます。
意外な話ですが、格付け機関は評価を受ける発行体から手数料
を受け取ることになっているのですが、これはおかしな話です。
レストランの格付けをするミシュランの場合、評価を受ける側の
レストランから調査員が報酬を受け取ることはないのです。
これでは発行体から手数料を受け取ることにより、発行体に有
利な甘い格付け評価をしているのではないかと疑念を持たれても
仕方がないといえます。
既出の『サブプライム問題の正しい考え方』の著者である倉橋
透/小林正宏両氏は、これについて次のように述べています。
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筆者の個人的見解としては、デフォルト確率に加え、デフォル
ト時損失の算定についても、かなり甘い評価を行っていたので
はないかと推察している。アメリカの住宅価格は上昇を続けて
きていたが、そういう環境でどこまで住宅価格の下落リスクを
織り込んでいたのであろうか。 ――倉橋透・小林正宏著
『サブプライム問題の正しい考え方』/中公新書/1941
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最近のことですが、リチャード・クー氏がブッシュ政権の高官
だったという人と話をしたとき、彼は非常に格付け機関について
怒っており、もし、3つあれば(実際は2つ)1つは確実に潰し
ていたであろうといっていたというのです。現在ではこれぐらい
格付け機関の評価は地に落ちており、このままでは誰も信用しな
いと思います。 ――[サブプライム不況と日本経済/13]
≪画像および関連情報≫
●格付け機関とは何か
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格付け機関は、発行体からの依頼により、経営陣とのミーテ
ィング、財務分析、業界分析などを行い、その発行体の信用
度をある一定の基準に基づいて、「Aaa」「AAA」など
の記号で評価する。この「Aaa」「AAA」などと付けら
れた評価を信用格付けという。この格付けは公表され、投資
家が債券などへの投資を行なう際の参考データとなるほか、
株価にも影響を与えることがある。近年では、個々の債券の
みならず債券の発行体(企業)自体も評価している。大学や
株式、プロジェクト・ファイナンス、ストラクチャード・フ
ァイナンスなども格付け機関による信用格付けの対象範囲と
なっている。 ――ウィキペディア
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●図の出所/春山昇崋著/宝島社新書/270
『サブプライム後に何が起きているのか』