ク構築のため、各大学に対してヒアリングを行ったのです。多く
の大学がネットワーク環境を整備するための予算を計上してきて
いたので、そのためのヒアリングです。
ところが、予算申請してきている大学のほとんどがWIDEに
つなぐための予算であり、新しい通信インフラなど必要ではない
というのです。猪瀬所長が怒ったのは当然です。そして、その怒
りは村井氏の上司である相磯秀夫氏にぶつけられたのです。これ
について相磯氏は次のように述べています。
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猪瀬先生は国際標準化が進んでいるOSIを強烈に推す。村井
君はデファクト・スタンダードになっているTCP/IPで行
くべきだといって譲らない。そこで意見が対立し、衝突を繰り
返すわけですね。そういうことがあるたびに私が猪瀬先生から
呼び出されるんです。で、行くと「君のところの村井君に苛め
られている」とこぼすんです。
――滝田誠一郎著、『電脳創世記/
インターネットにかけた男たちの軌跡』 実業之日本社刊より
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村井氏の述懐によると、猪瀬先生は流石に一番痛いところを衝
いてきたといっています。それは「公共のインフラは官がやるべ
きである」ということです。これは否定のしようがないのです。
これを認めると、「公共のインフラなんだから、国が推し進めて
いるOSIを採用すべきである」とくるわけです。そして、最後
にこうくるのです。
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村井君が風邪をひいたら、それでストップしてしまうようなイ
ンフラじゃ困るんだよ。 ――猪瀬博学術情報センター所長
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そこで、村井氏たちは、次のように理論武装し、学情のインフ
ラを否定しない代わりに、WIDEを引っ込めることは、絶対に
しなかったのです。
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WIDEはあくまでも研究のためのプロジェクトであり、した
がって研究のためであれば、サービスを一晩止めることもある
し、新しい技術を試すためにサービスが不安定になることもあ
るかも知れない。したがって、実際のサービスに関しては学情
のサポートをしていく。 ――村井純氏
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つまり、村井氏は学情と正面から対立をすることを避け、国の
通信インフラとの棲み分けを狙ったわけです。しかし、最初から
村井氏が予測していた通り、学情が進めるOSIに基づく通信イ
ンフラは遅々として進まなかったのです。そうこうしているうち
に、インターネットは急速に普及し、TCP/IPのデファクト
・スタンダードとしての立場は磐石のものとなったのです。
こうした村井氏たちの努力について、相磯秀夫氏は次のように
いっています。
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もし、村井君が自分のやっていることに自信が持てず、学情セ
ンターのいいなりになってWIDEプロジェクトを引っ込めた
りしていたら、日本のインターネットのあり方は随分変わって
いたでしょうね。インターネットの普及、発展が数年遅れてい
たと思います。逆にOSIみたいなものがなかったら、WID
Eプロジェクトが自由に活動できていたら、インターネットの
普及、発展は数年早かったのではないでしょうか。
――滝田誠一郎著の前掲書より
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TCP/IPの急速な普及によって、ISO側はTCP/IP
とは別に、世界標準プロトコルを作るという構想を変更せざるを
得なくなったのです。そこで、TCP/IPとOSIを融合させ
る作業に取りかかったのです。
この作業はちょっと考えると難しい作業のように思われますが
対立している方式のいずれもがARPANETからスタートして
おり、同じ源流から発していることを考えると理論的には十分可
能なことだったのです。
1977年までのARPANETのプロトコルは、次の3層構
造をとっていたのです。
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アプリケーション層
ホスト層
通信層
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ここでいう「ホスト層」は現在の「トランスポート層」であり
TCP/IPの「TCP」というプロトコルが機能するいわばT
CP/IP通信の司令塔的な部分です。このとき、TCPという
プロトコルは「IP」の機能も併せて持っていたのです。
しかし、米国防総省は軍事的事情から「IP」の機能を重視す
るようになったこと、それにヨーロッパ方式との整合性を図るた
めに、ホスト層の下位に「インターネット層(IP層)」を設け
ることにしたのです。これによって、現在のTCP/IPの4階
層が確立し、事実上の国際標準になっていくことになります。
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アプリケーション層
トランスポート層
インターネット層
データリンク層
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村井氏の凄いところは、多くの情報から先の先まで読んでいる
ことであり、その洞察力があったから、TCP/IPが標準にな
ることを確信していたのです。
[インターネットの歴史 Part2/14]
≪画像および関連情報≫
・OSI7層に関係するサイトから・・・
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今までメールやWebを使っていて、「何で、ADSL・無線
・光ファイバーなど色々別の回線を使って通信出来ているの
だろう?」と思った事はないでしょうか?もし、何気なくイ
ンターネットを使っていてそのような疑問を持てたら、貴方
はすごいです。目の付け所が良いです。ただ、思ったことが
なかったとしても、今、この瞬間思ってください(笑)。
http://www.geekpage.jp/technology/ip-base/osi7.php
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