理しておきましょう。竹中委員会の座長を務めた松原聡教授は、
NTTのあり方には次の4つがあることを指摘しています。
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1.現状組織をそのまま維持
2.アクセス部門の機能分離
3.アクセス部門の構造分離
4.持ち株会社廃止資本分離
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「アクセス部門」とは何でしょうか。
アクセス部門とは、電電公社時代から100年以上の歳月をか
けて全国津々浦々に築いてきた電話網のインフラ――電話局や電
話線、25万キロを超える光ファイバー網と電柱や地下の管路や
とう道などの敷設・管理を担う部門を意味します。現在、この部
分を担っているのは、NTT東西地域会社です。
松原座長が示した第1の案は、現状維持――NTT東西地域会
社、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズの4社をNTT
持ち株会社が統括する現在のNTTの組織を維持することです。
現在、NTT東西地域会社は、アクセス部門をかかえながら営
業部隊を有し、光ファイバーの営業を展開しているのです。そし
て、競合相手である他の通信事業者に対して回線を貸し、接続料
をとっている――これでは圧倒的にNTT東西が有利です。
既に見たように、NTT東西は光ファイバーの営業に関して販
売奨励金をふんだんに使っています。この奨励金の原資に、競合
相手の通信事業者がNTT東西に支払う接続料が入っていないと
は誰もいえないはずです。
そのため、総務省は接続料をNTT独自には決められないよう
にして、あくまで公平な競争を図っていますが、それでもNTT
の方が有利に決まっています。とても公正なる競争とはいえない
でしょう。
松原座長が示した第2の案は、NTT東西のアクセス部門を機
能分離することです。この例は英国にあります。BT――ブリテ
ィッシュテレコムは、2006年はじめからアクセス部門を機能
分離しています。
BTの機能分離はかなり徹底したものなのです。会計はもちろ
んのこと、オフィスも別にし、ブランド名もBTの文字は一切使
わず、「オープンリーチ」という名前で営業しているのです。人
事交流も一切ないのです。それに第三者機関から監査役を受け入
れており、機能分離がきちんと行われているかどうかチェックを
受けています。しかし、組織は昔のままです。
NTT東西でもこれに近いことをやろうとはしているのですが
いかんせん徹底力が甘いのです。会計は分離しているものの、人
事交流などは行われているのです。
松原座長が示した第3の案は、NTT東西のアクセス部門を構
造分離――すなわち、資本分離して別会社にすることです。確か
にNTT東西のアクセス部門が完全に別会社になれば、NTT東
西の営業部隊と他の通信事業者のそれとは公正な競争が保証され
ることになります。
ソフトバンクの孫社長の主張は、この第3案を発展させたもの
だったのです。NTT東西からアクセス部門を切り出して「ユニ
バーサル回線会社」を設立し、民間からも出資を受けて、全国に
光ファイバーを敷設するというものです。そうすれば、現在50
74円の光ファイバーの接続料を690円にできると孫社長はい
うのです。彼のことですから、はったりでいっているのではなく
ちゃとした根拠あっての数字とみられます。
この孫社長の提案の重要なポイントは、あくまで光ファイバー
を全国――採算ベースに乗らない地域も含めて、全国に敷設する
というところにあります。NTT東西はあくまで採算の合う地域
にしか光ファイバーを敷設しない方針であり、孫社長はかねてか
らそれを批判していたのです。
しかし、公益事業会社による光ファイバーの敷設は競争が働き
にくく、効率に問題があるのです。それに、全般的な「官」から
「民」への流れの中で、公益事業会社を設立するのは時代に逆行
することになってしまいます。そういう観点から、竹中委員会の
松原座長は、ユニバーサル回線会社説をとらないが、それ以外の
方法で、光ファイバーの料金引き下げは実現する方向を目指す方
針を立てたのです。
松原座長が示した第4の案は、NTT持ち株会社を廃止し、傘
下の4会社は完全に資本分離するというものです。そうすれば当
然のことながら、NTT法は廃止され、NTT東西の業務にかけ
られているさまざまな規制は撤廃されることになります。つまり
「NTT解体」です。竹中委員会が最初から目指し、採択したの
はこの案なのです。
EJ第2026号で、竹中委員会と平行して総務省はIP懇談
会を進めてきていると述べましたが、この懇談会は竹中委員会が
政府与党合意を取ると、直ちにそれに基づき次の改革工程ルール
を作り上げています。
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新競争促進プログラム2010
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新聞などには出ていないのですが、竹中前総務相は2006年
6月に政府与党合意を勝ち取ると、直ちに総務省内部の人事に着
手しているのです。今までの総務省人事では、大臣の意思を反映
できるのは審議官などのトップ官僚に限られていたのですが、竹
中大臣は、通信事業者と直接やり取りする現場レベルの人事まで
介入し、NTT改革派を配置して、「新競争促進プログラム20
10」がきちんと進むような体制にしているのです。
このままでは、NTTは2010年から解体に向けて一挙に動
くことは確実です。このことが今後の通信戦争の行方に大きな影
響を与えることになります。 ・・・ [通信戦争/39]
≪画像および関連情報≫
・KDDI小野寺社長のNTTに対する意見
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「光、IPの時代に入り、明らかに距離の概念がなくなる。
ということは、中継系の事業者は基本的に成り立たないと考
えている。そうなるとこれまで以上にアクセスラインの公正
競争条件の確保は重要になってくる。今後、公正競争を有効
に機能させるためには、まずNTT持ち株会社の廃止と、東
西、地域会社、コム、ドコモ、データの完全資本分離がぜひ
必要と考える。またNTT東西のアクセス部門の分離も考え
てもらう必要がある」。“完全資本分離”の必要性を強調。
完全資本分離にはNTT法等の改正が必要になるので、「当
面の措置としては、NTTグループ内におけるヒト、モノ、
カネ、情報の共有をきっちりと遮断するファイアーウォール
を定め、公表すべき」。
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