務」について述べておくことにします。日本における今後の通信
戦争を予測するうえでの基礎になることだからです。
光ファイバーについては、電気通信事業法という法律で総務省
はNTTに対して規制をかけています。この法律によって、NT
Tは、自ら敷設した光ファイバーであっても、KDDIやソフト
バンクをはじめとする他の通信事業者からそれを求められれば、
必ず貸し出さなければならないのです。
NTTとしては、貸し出しにさいしてもちろん料金――接続料
を取ることができますが、NTTが勝手に決めることはできない
のです。総務省に対して根拠を付けて申請し、許可をもらう必要
があるのです。
普通のビジネスであれば、貸し出す相手を選択できるし、自分
の商売が不利にならないような値付けができるのですが、NTT
は一切それができず、普通のビジネスで許される自由度はまった
くないといえます。
しかも、他の通信事業者に貸し出すさいの接続料は、NTT自
体も縛るのです。というのは、NTTが自社ブランドで光ファイ
バー・サービスを提供する場合、他事業者への貸し出し料金を原
価としなければならないからです。要するに、あらゆるインフラ
を有するNTTでも他の事業者と公平な競争ができるよう総務省
は配慮しているわけです。
したがって、NTTが料金を下げる場合も、NTTは光ファイ
バーの新しい接続料の申請を総務省にして、認可をもらう必要が
あるのです。そして、認可が出たら、他事業者に対しても値下げ
した接続料で貸し出さなければならないのです。
これがNTTに課せられている「光ファイバー開放義務」なの
です。これだけを読むと、いかにNTTが縛られているか、何だ
か気の毒になってしまいますが、NTTもそれがイヤなら、資本
分離に応ずればいいだけのことです。
それでは、光ファイバーの接続料はどのようにして決められて
いるのでしょうか。
実際の敷設コストを単年で出すと非常に高くなるので、NTT
は「将来原価方式」というコスト算出方法をとっています。NT
Tは2001年から光ファイバーの開放をはじめていますが、そ
のときのコスト算出法です。
具体的にいうと、7年間――2001年度〜2007年度の光
ファイバーの需要を予測し、その間のコストを平準化してを算出
したのです。そのとき、算出された料金は、光ファイバー1本に
つき、約5000円ということで決まっています。もちろん、こ
の金額で総務省の認可を取っているのです。
しかし、2001年の時点におけるNTTの需要予測は次のよ
うに大幅に外れているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
2005年3月末 ・・・・・ 約1万3000円
2006年3月末 ・・・・・ 約1万1000円
―――――――――――――――――――――――――――――
現時点では、計算通りに需要は伸びておらず、コストは徴収額
の倍以上になっているのです。ちょうど7年目に当たる2007
年3月末についても、1万円は切っていない状況であり、NTT
としてこのマイナス分をどのようにして回収するかが問題になっ
ているのです。
これについてNTT持ち株会社の和田社長は、2006年11
月の中間決算の記者会見で、記者の質問に答えて次のように発言
しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
光ファイバーの接続料については、7年分のコストを回収する
という方向で検討中です。(中略)考え方を整理したい。7年
間がもうすぐ終わってしまうので、いろいろ工夫できないか考
えている真っ最中だ。 ――NTT持ち株会社和田社長
――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
この発言を額面通りに受け取ると、光ファイバーの値上げにつ
ながる発言であると思います。しかし、もし、軽々に値上げをす
ると、せっかくNTT東西が光ファイバーの拡販に成功している
のにストップをかけることになります。さらに、NTTが値上げ
すると、当然貸し出し料金も引き上げられることになるので、そ
の影響は甚大なものになります。
しかし、総務省は光ファイバーをめぐる新しい競争政策を推進
するうえで、接続料を下げようとしているのです。このような状
況において、光ファイバーの接続料が今後どうなるかは不透明に
なっています。NTT東西の幹部はこの問題について次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
持ち株会社は光ファイバーを値上げして、投資の回収をできる
だけ早くしようとしているが、実際に売る側のNTT東西とし
ては、今はまだ値上げよりも、好調な勢いに乗って拡販を続け
る時期だと考えている。
――日経コミュニケーション編の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
このように、NTT持ち株会社と傘下のNTT東西との意識は
大きく異なっているのです。光ファイバーの接続料だけでなく、
持ち株会社と事業会社の間では、次世代ネットワークをめぐって
も意見が異なるのです。
このような状況が続いてよいはずはなく、結局問題はNTTの
組織問題に戻ってくることになります。NTTの組織問題は他に
与える影響が大きい問題であり、2010年を待つまでもなく真
剣に検討しなければならない問題であるといえます。明日はこの
問題を取り上げます。 ・・・ [通信戦争/38]