2007年02月28日

地方の光ファイバーをどうするのか(EJ第2029号)

 東京電力の光ファイバー網を手に入れたKDDIは、今後どの
ようにしてNTTと戦っていくつもりなのでしょうか。
 まず、首都圏以外の地方はどうするかです。もちろん、地方に
ついては、NTTを利用する方法はあるのですが、KDDIが、
NTTを超えようと考えるのであれば、当のNTTから回線を借
りていたのでは、いつまでもそれは実現しないことになります。
 NTTに頼らないのであれば、東京電力以外の電力系通信事業
者から回線を借りなければなりません。これについて、KDDI
は既に手を打っており、法人向けの光ファイバーについては、ほ
とんどの電力会社と合意しているといいます。
 実はKDDIがパワードコムを吸収合併したとき、電力系通信
事業者で構成している「パワーネッツ・ジャパン」(PNJ)は
KDDIを警戒していたのです。それは、PNJとパワードコム
の間に交わされていた不文律の「ある約束」の履行が危ぶまれた
からです。「ある約束」とは次のようなものであり、パワードコ
ムはそれを履行していたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 パワードコムが全国でWANサービスを提供する際は、電力系
 通信事業者のアクセス回線を優先的に使う。
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 PNJが警戒したのは、パワードコムを吸収合併したKDDI
はその約束を守らないのではないかと考えたのです。なぜなら、
NTT東西の光ファイバーの料金の方が格段に安かったからで、
KDDIはコストのことを考えて、今までパワードコムが使って
いた電力系通信事業者まで、NTTに切り替えるのではないかと
危惧したのです。
 しかし、小野寺社長は、今までパワードコムが使ってきた通信
事業者は従来通り使うことを保証し、NTT東西と電力系を使い
わけるのは、新規に受注した分だけであるとする方針を出して、
PNJを安心させたのです。これで、KDDIとPNJの関係は
友好的なものになり、KDDIの地方戦略は、かなり進めやすく
なったといえます。
 しかし、電力系通信事業者は法人向けの事業ではKDDIと協
業するが、一般消費者向けの光ファイバー事業は何としても守ろ
うとする――これが基本的なスタンスです。
 関西電力の傘下に、ケイ・オプティコムという通信事業者があ
ります。関西一円に幅広く光ファイバーの提供エリアを広げてお
り、電力系通信事業者の中では、最も多くのユーザーを抱えてい
る事業者です。関西電力としては、現在のところ、KDDIに光
ファイバーをアクセス回線として卸すことはあっても、事業統合
までは考えていないといっています。
 しかし、電力系通信事業者は、このケイ・オプティコムを含め
て、親会社の支えなしでやっていけるところは皆無の状況なので
す。したがって、東京電力の決断を見て密かに統合を検討する業
者も今後出てくることは十分考えられるのです。
 電力系通信事業者の中には、ソフトバンクの持つADSL網に
関心を示すところもあります。やがて、ソフトバンクのADSL
のユーザが光ファイバーに置き換わる可能性に魅力を感じている
ものと思われます。
 このように、法人向けについては既に電力系通信事業者と良好
な関係を築きつつあるKDDIですが、一般消費者向けに関して
はどのように考えているのでしょうか。
 それは、KDDIのケーブル事業推進室長藤本勇治氏の次のコ
メントの中に答えはあると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 電力会社と協力できたとしても、光ファイバーのエリアは大都
 市の近辺に限られる。約5000万世帯に引き込んでいる東西
 NTTの電話網には及ばないとはいえ、CATV網は4000
 万世帯に行き届いている。         ――藤本勇治氏
         ――日経コミュニケーション編の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、CATV事業者は、多チャンネルテレビ放送とインター
ネット接続サービスを提供していますが、IP電話までは提供で
きないでいます。しかし、NTT東西は、光ファイバー1本で、
動画配信とインターネット接続サービス、それに光電話のトリプ
ルプレイを既にやっているのです。このNTTによるブロードバ
ンドを利用しての動画配信は、CATV会社の本来領域であり、
NTTに自分の庭への侵入を許していることになります。
 CATV業者にとってこれは重大問題です。米国のCATV事
業者は、トリプルプレイに携帯電話を加える形態――クワドロプ
ルプレイまたはグランドスラムのサービスを提供しはじめている
のです。CATV事業者として、強力な携帯電話事業auを持つ
KDDIとの提携に魅力を感じても不思議はないでしょう。
 CATV事業者として忘れてならないのは、J:COMです。
J:COMは2000年以降、CATV会社を次々と買収し、現
在、多チャンネル放送サービス加入者数シェアで35%(212
万世帯)を占める存在です。
 J:COMは今のところKDDIなどとの提携を匂わしていま
せんが、状況しだいでメリットがあればどことでも――たとえN
TTとでも組むといっているのです。ただ、もし、J:COMが
KDDIと組むという事態になると、電力系通信事業者は本気で
それに合流することを躊躇しないだろうとある電力関係者はいっ
ているのです。なぜなら、これほど強力な対NTT対抗軸はない
からです。
 当然のことですが、すべてはNTTがどう出るかなのです。N
TTが3000万回線を達成する前にNTTに対して強力な対抗
軸を作らないと、光ファイバーにおいてNTTの完全独占を許し
てしまうことになるのです。    ・・・ [通信戦争/37]


≪画像および関連情報≫
 ・J:COM/森泉知行社長
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「我々は放送、インターネット、固定電話の三つのサービス
  をやっている。こうした『トリプルプレー』のサービスが世
  界的な放送通信業者の主力になりつつある。これまではケー
  ブルテレビ局がインターネットなど通信の領域に攻めていっ
  たが、NTTのような通信会社はテレビのサービスを始めよ
  うとしているし、競争は厳しくなっている」。
  「ケーブル局は600ぐらいあり、非常に細分化されている
  が、地域独占の壁はなくなりつつある。大手通信会社が本格
  的に放送に参入する前に、ケーブル局の合従連衡(による経
  営基盤の強化)は避けられない。我々も買収を繰り返し、日
  本のケーブル局では一つだけ大きく突出しているが、まだ効
  率的ではない」。
  http://www.yomiuri.co.jp/net/interview/20050908nt05.htm
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posted by 平野 浩 at 04:45| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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