す。とくに光ファイバー事業は、今後の電力会社の発展の基礎と
なるべき重要なビジネスであり、20年の歳月を費やしてここま
でやってきたのです。それなのに東京電力はなぜ成功させること
ができなかったのでしょうか。
2006年10月12日、KDDIと東京電力の緊急記者会見
の席上、東京電力の勝俣社長はそれについて見解を求められ、次
のように答えています。
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二点あります。一つは、最初の出だしの部分、オール電力で
総力を挙げ、全国でサービス提供しようと思っていたが、いろ
いろな要因で提供エリアが地域に限定された。
二つめはやはり私どもの力のなさ、力が不足していた。技術
革新なども含めスピードについていけなかった。
ただ、最終的には(東京電力の通信事業への投資は)十分ペ
イしているという認識であります。
――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
日経BP社刊
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どうして東京電力の光ファイバー事業はうまくいかなかったの
でしょうか。
東京電力の競合相手は、事実上NTT東西とUSENの2社と
いうことになります。KDDIやボーダフォン(ソフトバンク)
をはじめとする他の通信事業者はNTT東西から回線を借りて営
業しているので、NTT東西陣営ということになるからです。
2006年3月末時点の光ファイバー市場のシェアは次の通り
となっています。
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NTT東西 ・・・・・ 62.6%
電力系事業者 ・・・・・ 15.8%
USEN ・・・・・ 8.7%
その他 ・・・・・ 12.9%
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しかも、NTT東西の62.6%という圧倒的なシェアは、2
005年末から3ヶ月でシェアは約2%も増加しており、さらに
拡大する傾向があるのです。
どうして、NTT東西が圧倒的に強いのかというと、それは、
NTTの圧倒的な資金力に基づく営業力にあります。それは、次
の3つの点に集約されます。
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1.業務フローや工事体制の大幅なる改善
2.魅力的インセンティブによる販売施策
3.豊富な資金をふんだんに使う広報施策
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第1は「業務フローや工事体制の大幅なる改善」です。
現在、NTT東西は光ファイバーの工事を受けた時点で工事を
その場で決められる「即決システム」を導入しています。その期
間も申し込みから開通までは1ヶ月から1ヶ月半であり、かつて
の数ヶ月待ちはなくなっています。それに工事の初期費用が無料
は当たり前のことになっています。
第2は「魅力的インセンティブによる販売施策」です。
NTTは光ファイバーにすべてをかけており、量販店に支払う
光ファイバーのインセンティブは一契約10万円が相場という話
まであります。光ファイバーはいったん敷設してしまうと、他に
乗り換えにくいことから、とにかく潤沢な資金を使って契約獲得
に全力を上げているのです。
第3は「豊富な資金をふんだんに使う広報施策」です。
とにかくテレビCMが凄いです。NTT東日本はSMAP、N
TT西日本はイチローを使うなど大物を起用してのCM攻勢――
電力系通信事業者は手も足も出ないでしょう。テレビCMを見て
いる限り、光ファイバー事業をやっているのはNTT東西だけと
いうイメージさえできてしまいます。
これら3つのことに加えて、これもテレビCMの効果と思われ
るものが、IP電話サービスの「光電話」のセット率が80%で
あることです。これによって、固定電話の収益は低下するのです
が、NTT東西が一番恐れているのは他社にとられることであり
それを防ぐためには仕方がないという考え方です。
NTT東西は「トリプルプレイ」に力を入れており、それをテ
レビCMでSMAPにいわせているのですが、この「トリプルプ
レイ」は業界用語なのです。
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≪トリプルプレイ≫
1.インターネット接続
2.IP電話サービス ―― ひかり電話
3.映像サービス
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この強力なるNTT東西に対抗するには、電力系通信事業者と
しては、最初からオール電力でやるしかなかったのです。東京電
力の勝俣社長はそれをいっていたのです。
しかし、ここでKDDIが東京電力の光ファイバー事業を手に
入れたことにより、電力系通信事業者としてNTTに対抗する新
たな道が開けてきていると思います。東京電力以外の電力系通信
事業者はKDDIと組む気はあるのでしょうか。
NTT東西から見れば、KDDIは強敵です。ケータイ事業に
おいても追い込まれており、少なくとも電力系事業者相手よりは
戦いにくいところがあります。したがって、何とかして早く30
00万回線を達成したい――そうしたら、もはやNTTに誰も対
抗できなくなってしまいます。現在のNTT東西の勢いで突っ走
ると光ファイバー3000万回線敷設は、しだいに現実のものと
なりつつあるのです。 ・・・ [通信戦争/36]
≪画像および関連情報≫
・NTT東日本のフレッツひかりのCM
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ひかり中学校、ある日の放課後。野球部が校庭で練習をして
います。その様子を見守る野球部顧問中居先生と古田監督。
中居先生は、フレッツ光について話す機会をうかがっていま
す。「やっぱりパソコン買ったらすぐ光に申し込むのが便利
ですよね」と言おうとしますが、タイミング悪く監督の熱血
指導が入ってしまいます。結局、監督は益々指導に力が入り
中居先生はその姿に終始圧倒され続け、フレッツ光について
話せませんでした。その後、パソコンを買ってすぐフレッツ
光に申し込む中居先生の姿が・・・。
http://www.ntt-east.co.jp/gallery/tv/cm_flets.html
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