2007年02月19日

竹中総務相対NTT和田の対決(EJ第2022号)

 今回のテーマは、業界の異端児といわれる孫社長を中心とする
ソフトバンクが日本の通信業界をどのように変えようとしている
のかについてここまで書いてきています。
 しかし、日本における通信戦争が今後どのように展開していく
か――その鍵を握るのは、やはりNTTの動向です。そこで、N
TTについての情報を整理して、話を先に進めることにします。
 NTTは、2004年と2005年の中間決算で、重大な発表
をしているのです。
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 ≪2004年中間決算での発表≫
  ・現在の固定電話回線の約半分に当たる3000万回線の光
   ファイバーを2010年までに提供し、IP技術を使う次
   世代ネットワーク(NGN)を構築する。
 ≪2005年中間決算での発表≫
  ・次世代ネットワーク(NGN)は、NTT東西地域会社と
   NTTドコモが構築して、NTTコミュニケーションズに
   は法人営業やネット事業などを集約する。
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 現在、NTTグループは、東西NTT地域会社2社とNTTド
コモ、NTTコミュニケーションズの4社をNTT持ち株会社が
統括する組織体制になっています。その組織の頂点に立っている
のは、和田紀夫NTT持ち株会社社長です。
 この体制がとられたのは1997年のことなのですが、この時
点で当のNTTがその後数年の間に起こった変化を的確に予測し
ていたかどうかは大変疑わしいのです。
 数年の間に起こった変化とは、2001年9月にソフトバンク
が火をつけたADSL――それが2002年には一気に花開いた
こと。続いて、ソフトバンクが仕掛けたIP電話サービス「BB
フォン」――ソフトバンクはこれによってNTT東西の収益源で
ある固定電話に揺さぶりをかけたのです。
 そして、携帯電話の国民一人一台化への急展開――これらの動
きに対してNTTが取った対応策は、いずれも後追いにしか見え
なかったのです。
 これほどの激変にもかかわらず、NTTグループは現体制を守
ろうとしているのです。しかし、現体制のままでこれからの変化
に挑もうとすると、大きな矛盾が起こることを当のNTTグルー
プの幹部――とくに持ち株会社の幹部が理解できていないように
思います。もう少し具体的にいうと、トップがIPネットワーク
というものを理解できていないのです。
 NTTグループは、「IP技術を使う次世代ネットワーク(N
GN)」をNTT東西地域会社が中心になって構築する」といっ
ているのです。しかし、IPネットワークには距離や地域の概念
がないのです。そういうネットワークに対して現体制で臨むとい
うことは、IPの世界に強引に地域制限を設ける――そういうこ
とになりかねないのです。
 2006年1月――そのNTTグループが最も恐れていた事態
が起こったのです。時の総務大臣である竹中平蔵氏が、次の私的
諮問機関を立ち上げたのです。この委員会は後に「竹中委員会」
と呼ばれるようになります。2006年1月20日のことです。
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  総務大臣諮問機関「通信・放送の在り方に関する懇談会」
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 これについて、素早く反応したのはもちろん当のNTT持ち株
会社の和田社長です。和田社長は、竹中委員会の第1回会合の行
われる直前の1月18日に急遽記者会見を開き、次のように竹中
委員会を批判し、牽制したのです。
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 現在のNTTグループのフォーメーションは、固定電話が全盛
 だった時代の技術やサービスを背景としていますが、グループ
 の在り方を、竹中大臣の懇談会で論じてもらおうとは全く思っ
 ておりません。われわれの中期経営戦略を、むしろ政府にバッ
 クアップしていただける議論をぜひ展開してほしいと考えてい
 ます。           ――NTT持ち株会社和田社長
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
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 竹中氏は総務大臣になる前から、「通信・放送業界は既得権者
が多すぎる」として、とくにNTTの独占体制を批判していたこ
とを和田社長は知っており、そうはさせないとして、懇談会が立
ち上がる前に素早く牽制したのです。しかし、それから数ヵ月後
に和田社長は竹中大臣の凄さを思い知ることになるのです。
 この竹中平蔵なる人物は毀誉褒貶の多い人ではありますが、小
泉政権の改革の旗頭といわれるだけあって、らつ腕の政治家であ
ることは間違いないといえます。とくにNTT問題に関しては、
総務大臣に就任してわずか一年以内にきちんと仕事を成し遂げて
いるのです。
 その竹中委員会が狙っていたのは、具体的には次のようなこと
なのです。
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 NTT持ち株会社を廃止し、東西NTT、NTTコミュニケー
 ションズ、NTTドコモを資本分離する。
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 NTT持ち株会社の和田社長が「冗談じゃない」と怒るのは当
然のことですが、NTTグループ以外の通信事業者など通信業界
のほとんどが、竹中委員会の結論には賛成だったのです。
 そのことを熟知している和田社長は、なりふりかまわず、政治
家へのロビー活動をはじめたのです。その相談に行った先は、参
議院自由民主党幹事長、片山虎之助議員なのです。片山議員は初
代の総務大臣を務めた人物であり、通信業界には隠然たる力を有
していたのです。         ・・・ [通信戦争/30]


≪画像および関連情報≫
 ・中期経営戦略の狙いは・・・/和田社長
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  「新たなネットワークを作ることで、日本が抱える問題の解
  決に貢献したい。ネットワーク作りに必要な資金は、ブロー
  ドバンド(高速大容量通信)で、どこでもつながる『ユビキ
  タス』な環境を作り、新しいサービスで利益を上げて得てい
  く。いまのグループ体制で出来るだけやっていくのが我々の
  ビジョンだ。グループ内の役割を整理することで、効率化も
  図れる。NTTコミュニケーションズは長距離・国際通信で
  稼いできたが、IP化が進むと距離の概念がなくなり、通信
  網から収入は得られなくなる。だから、今後伸びるネット事
  業や、法人営業を集約する。相乗効果も期待できる。独占回
  帰とか、競争排除という話じゃない」
           ――2005年11月22日/読売新聞
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posted by 平野 浩 at 04:58| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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