2007年02月01日

なぜボーダフォンを買収したのか(EJ第2011号)

 ソフトバンクが1.7GHz帯に獲得した周波数はたったの5
MHz幅です。このままでは東京や大阪などのユーザーが集中す
る大都市圏では明らかに帯域が不足します。
 そこで、ソフトバンクとしては、無線LANと組み合わせて、
それをカバーする方針を立てたのです。ソフトバンクは、グルー
プ会社である日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)などと共
同で、全国の駅やホテル、ファストフード・チェーンなどに、約
3200の無線LANの無線基地局を設置していたので、それを
利用しようと考えたわけです。
 しかし、総務省は、当初は5MHz幅しか割り当てないが、携
帯電話の利用者数が250万人を超えた時点で、さらに5MHz
幅を追加する方針であると新規事業者に約束していたのです。し
たがって、ソフトバンクとしてはなんとしても利用者数を250
万人にもっていく必要があったのです。
 しかし、各種の実証実験の結果、5MHz幅の状態で音声通話
サービスをやることは困難であり、あくまで追加の5MHz幅を
獲得してから音声通話サービスをはじめるしかないと判断したの
です。そして、その目標を2007年の冬と設定したのです。
 問題は追加の5MHz幅を獲得するため、250万人のユーザ
をどのようなサービスで獲得するかです。ソフトバンクはその方
法として、サービス当初は無線LANと携帯電話のデータ通信の
機能を持つカード型のデータ通信端末を提供し、PCなどのデー
タ通信に利用してもらう計画を立てたのです。
 もっと具体的にいうと、次の3種類の通信技術を組み合わせて
既存の携帯電話事業者に対抗しようとしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 高速無線通信記述/ワイマックス −I
 携帯電話のデータ通信       I− 高速データ通信
 無線LAN           −I
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際にソフトバンクは、携帯電話事業参入の証書を手に入れる
1ヶ月前の2005年10月に総務省から実験用の免許を取得し
て、韓国LG電子、カナダのノーテルと組んで、埼玉県さいたま
市で実験を行っているのです。
 この3つの通信技術を使うと、大容量の映像ファイルを中断な
く切り替えることができ、スムーズな画像のテレビ電話が可能に
なるということです。実際にソフトバンクがどのようなかたちで
携帯電話事業をはじめようとしていたか、本当のところは正確に
はわかりませんが、データ通信からスタートしようとしていたこ
とは確かなのです。
 しかし、孫社長は結果として苦労して手に入れた新規参入の切
符をあっさりと捨ててしまいます。それは、孫社長の目的が単に
携帯電話事業に参入することではなく、携帯電話事業を改革する
――そのためにはNTTグループに勝つ必要があるからです。
 2001年9月、ADSLサービス「ヤフー!BB」をスター
トさせ、NTTや他の事業者を圧倒したのです。なぜなら、「ヤ
フー!BB」は当時通信速度が8メガビット/秒の最高速で、し
かも料金は、他社の半分の月額3000円強という衝撃的なもの
だったからです。
 そして、1年後の2002年9月、遂にADSLのシェアで、
NTT東日本を抜き去ったのです。NTTにとっては、通信の世
界でシェア・トップを奪われることは、NTT100年の歴史に
なかったことであり、きわめて屈辱的なことだったのです。
 さらに2002年4月にソフトバンクがやったのは、IP電話
サービス「BBフォン」です。BBフォンのユーザ同士なら、通
話料無料という分かりやすいメリットが受け入れられ、たった1
年半で300万人を超えるユーザを獲得したのです。このように
ソフトバンクはNTT東西の最大の収益基盤である固定電話に攻
撃を仕掛けたため、NTTグループとしても本気でソフトバンク
と対峙せざるを得ない状況にになったのです。
 しかし、ADSLもIP電話も新市場での戦いであったのに対
し、携帯電話事業は利用者が飽和状態になっている事業であって
先行業者が圧倒的に有利なのです。
 しかも、すべてをゼロからはじめる新規参入では、全国各地へ
の基地局の設置や携帯電話端末の調達、そしてユーザの獲得とい
う難問がめじろ押しであり、とてもトップ企業に挑戦できる状況
にはならない――このように孫社長は考えたのです。
 そして、とっておきのウルトラCを炸裂させたのです。それが
ボーダフォン日本法人の買収です。つまり、既存業者を買収する
ことによって時間を買う作戦に出たわけです。
 2006年4月27日、ソフトバンクはボーダフォンの持つ全
株式を手に入れます。そのときソフトバンクの孫社長は次のよう
にいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 通信インフラからコンテンツまで、グループで自前で手がけら
 れる事業者は世界でも類を見ない。決して総合通信会社になっ
 たと言わないでいただきたい。私の志からはちょつと小さい。
 総合デジタル情報カンパニーを目指している。  ――孫社長
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体" target="_blank">2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソフトバンクによるボーダフォン日本法人の買収によって、苦
しい立場に追い込まれたのがNTTグループであると思います。
NTT法で縛られているNTT東西地域会社、NTTドコモ、N
TTコミュニケーションズは別会社であり、グループ内の事業の
連携が取りにくいのです。その点ソフトバンクは固定電話と携帯
電話をセット割引きするというNTTグループでは絶対にできな
いサービスをやろうと思えばできる立場にあります。
 こういう事態でありながら、NTTドコモの対応は鈍く、精彩
を欠いています。        ・・・・ [通信戦争/19]


≪画像および関連情報≫
 ・ワイ・マックスとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  移動端末向けの高速無線通信規格のことです。固定向けの高
  速無線通信規格WiMAXを移動中の携帯端末でも利用でき
  るようにしようとする規格で、正確には、IEEE802.
  16e規格を利用した無線通信技術です。IEEE802.
  16eは、WiMAXの規格であるIEEE802.16−
  2004をベースにしており、移動通信をサポートするため
  に、移動中に基地局を切り替えても通信を継続するハンドオ
  ーバーなどに関する技術を追加した規格で、2005年12
  月に標準化作業が完了しています。
   http://dictionary.rbbtoday.com/Details/term3547.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

2010年NTT解体.jpg


     2010年NTT解体
posted by 平野 浩 at 04:40| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月02日

キヤリアだけが儲かる仕組みがある(EJ第2012号)

 携帯電話事業者――日本ではキャリアと呼んでいますが、これ
から、NTTドコモ、au、ソフトバンク3社による壮絶な戦い
がはじまります。どこが勝利を収めるでしょうか。
 番号ポータビリティー制度――MNPのスタート前の予想では
auは独り勝ちをするが、それはNTTドコモよりもソフトバン
クから多くの加入者を奪うことによって勝利がもたらされるとい
うものだったのです。つまり、MNPではソフトバンクが草刈り
場になると考えられていたのです。
 というのは、auはこれまでNTTドコモの解約率低下によっ
て奪いにくくなった加入者を主としてソフトバンクから奪って成
長してきたからです。
 しかし、この予想はかなり外れたのです。予想通りauは伸び
たのですが、ソフトバンクは必ずしも草刈り場にならず、ドコモ
が大幅に加入者を減らしているからです。
 現在、携帯電話市場は、ほとんど90%近い人がケータイを使
う完全な成熟市場になっています。こういう成熟市場における市
場競争では、シェアの小さいキャリアの方が有利になる可能性が
あるのです。次のような単純なモデルで考えてみましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
    NTTドコモ ・・・・・ 5000万人
    au ・・・・・・・・・ 3000万人
    ソフトバンク ・・・・・ 1500万人
―――――――――――――――――――――――――――――
 仮にドコモの解約率を1%とすると50万人が解約することに
なります。同じように1%の解約率で計算すると、auは30万
人であり、ソフトバンクは15万人になるのです。
 このケースでは、ドコモは、auとソフトバンクの解約者を全
部吸収したとしても45万人にしかならず、加入者数が純減して
しまう可能性が高いといえます。
 これに対して、ソフトバンクはドコモとauの解約者の20%
を獲得するだけで16万人となり、純増を達成できます。ソフト
バンクは料金プランで勝負に出ているので、20%のシェア獲得
は十分に可能であるといえます。
 auも32%で30万人を超えるので純増は十分可能ですが、
今後ソフトバンクが躍進して競争力が上がり、ドコモが守りを固
めるとauも苦しくなってきます。
 かつて「auの優勢、NTTドコモの守り、ボーダフォンの劣
勢」といわれた構図は、ボーダフォンに代わったソフトバンクが
新料金プランの開発や新しい端末の提供ならびにサービスの拡充
などによる攻勢をかけると、成熟市場では一番大きな成長を遂げ
る可能性は高いのです。
 もうひとつ日本のケータイについて語るとき、頭に置いておく
べきことがあります。それは、現在の携帯電話事業のビジネスモ
デルがキャリアだけが儲かる仕組みになっていることです。キャ
リアの儲けは、次の式によって決まってきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    契約者数 × 加入者月間売上高(ARPU)
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、日本のARPUは平均6500円であり、欧米諸国に比
べると、1.5〜2倍高いのです。要するにキャリアはボロ儲け
しているのです。
 しかし、ケータイの端末を提供しているメーカーは深刻な経営
難に陥っているといわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NECの携帯事業を担うモバイル・パーソナルソリューション
 部門が06年9月中間決算で410億円の営業赤字を計上。同
 様に松下電器産業のパナソニックモバイルコミュニケーション
 ズは、06年7〜9月期に3億円の赤字を出している。国内携
 帯端末「2強」がこの有り様なのだ。
    ――塚本潔著、「ドコモ/垂直統合モデルの限界」より
      『週刊/エコノミスト』2006年12月12日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 ジャーナリストの塚本潔氏によると、日本の携帯電話事業にお
いては、端末の仕様にいたるまで、キャリア主導で決められると
いいます。それでもauとソフトバンクについては、独自規格で
あっても自由裁量の余地が多いのに対して、NTTドコモは細か
い仕様にいたるまですべて指示を出してくるといわれます。
 それに日本のケータイ端末――とくに第3世代端末は高すぎて
海外ではほとんど売れないのです。そのため、国内市場オンリー
であり、端末で利益を出すのは困難な状況にあるのです。
 それにもかかわらず、なぜ、日本では比較的安い価格で端末が
提供されおり、「O円端末」まであるのはなぜでしょうか。これ
についてはあるからくりがあるのですが、来週のEJで明らかに
する予定です。
 本来、キャリアと端末メーカーは共存共栄であるべきです。し
かし、現在儲かっているのはキャリアだけであり、加入者はかな
り高い利用代金を支払わされているのです。
 2006年中間決算においてNTTドコモは減益であるといっ
ても、5169億円、auは1852億円、ソフトバンクでさえ
568億円も稼いでいるのです。潤っているのはキャリアだけと
いわれても仕方がないでしょう。
 それにしても、なぜケータイ端末はキャリア別に存在するので
しょうか。PCのように、どこのキャリアでも使える端末はなぜ
ないのでしょうか。基地局にしても、なぜ全部のキャリアで共有
できないのでしょうか。もし、それが可能になれば、ケータイの
利用代金は劇的に下がるはずです。
 どうやら、ソフトバンクの孫社長はそれを狙っているフシがあ
るのです。彼は旧来の携帯電話業界のしきたりそのものを壊わす
ことによって、ケータイの料金を下げようとしているのです。今
後のソフトバンクから目は離せないです。・ [通信戦争/20]


≪画像および関連情報≫
 ・NTTドコモ/auについて/松本徹三氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  圧倒的に強いドコモであれ、KDDIであれ、基本的に通信
  会社から出発した会社。よく言えば安定性や信頼性が高いが
  悪く言えば決定や行動が遅い。我々も信頼性や安定性を軽視
  しているわけではないが,それを満たすのは100点を取る
  ことだけではない。90点で合格できるのであれば,勉強時
  間は100点の時の10分の1で済む。発想を転換すれば信
  頼性や安定性を損なわずに迅速に行動できるはずだ。孫さん
  はいつも言っている。「発想を変えろ、既成観念を捨てろ」
  と。私もまったく同じ考えだ。
              ――ソフトバンクモバイル副社長
  ―――――――――――――――――――――――――――

エコノミスト/2006.12.12.jpg
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2007年02月03日

EJバックナンバー「デジタルTV」(その1)

2003年4月7日に配信したEJ第1080号(全10回
連載の内第1回)を過去ログに掲載しました。
○ 間違えずにデジタルテレビが買えますか(EJ第1080号)
posted by 平野 浩 at 05:31| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月04日

EJバックナンバー「デジタルTV」(その2)

2003年4月8日に配信したEJ第1081号(全10回
連載の内第2回)を過去ログに掲載しました。
○ テレビを構造的に分解してみる(EJ第1081号)
posted by 平野 浩 at 04:51| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月05日

ケータイ関係者が全員ゆでガエルになる(EJ第2013号)

 ソフトバンクがボーダフォンを買収してすぐやったことがあり
ます。それは、携帯電話の販売体制を販売代理店経由から直販に
切り替えたことです。何でもないことのように見えますが、これ
は大変勇気のいる、意義のある意思決定なのです。
 販売代理店――現在の携帯電話市場は、数社の大手販売代理店
の影響力がきわめて大きいのです。それらの大手販売代理店の多
くは、複数キャリアのブランドショップ――ドコモショップや、
auショップや量販店を運営しています。
 現在、携帯電話機――ケータイ端末の店頭での平均価格は、か
なりの高級機でもせいぜい2〜3万円程度です。安いものなら、
1万円以下もありますし、少し古いタイプなら100円端末もあ
りうるのです。どうして、そんなに安いのでしょうか。
 実は、端末メーカーからキャリアへの卸価格はもっと高く、5
〜7万円もするのです。それならどうしてそんなに安く売れるの
でしょうか。
 それは、キャリアが販売代理店に支払う「販売奨励金」――ま
たは販売インセンティブと呼称−−があるからです。その金額は
キャリアによる多少の違いはありますが、端末一台について4〜
5万円という高額なものなのです。
 販売代理店としては、ケータイの契約ができるとこの販売奨励
金が入るので、端末代金を大幅に値下げできるのです。ケータイ
端末が作られるまでの流れを整理しておきましょう。
 キャリアは端末メーカーに仕様を示して制作を依頼します。端
末ができると、端末メーカーは見積書を提出し、キャリアが買い
取ってくれる数量を教えてもらい、その数だけを生産します。こ
れならノーリスクです。そのときの一台の卸価格は4〜7万円も
するのです。
 キャリアはこれらの端末を大量に仕入れて、自社直営店で販売
するとともに販売代理店に対し、販売奨励金を支払うことを約束
して端末を卸します。販売代理店は販売奨励金を勘案して端末の
価格を決め店頭に展示します。販売奨励金の額は一台について約
4〜5万円もあり、他社との競合もあるので、端末価格はかなり
安く設定されることになります。
 ユーザとしては、かなり高機能の端末が比較的買い易い価格で
手に入るので、購入するユーザは多くなります。しかし、キャリ
アとしては、その販売奨励金相当額をユーザが支払う通信費用の
中から数ヶ月かけて回収しているのです。
 何のことはない。ユーザは本来の高い端末の代金をそれと知ら
されずに払わされているのです。そのために通信料はかなり割高
に設定されているのです。もっと別の言い方をすると、あまりケ
ータイを利用しないユーザの基本料金が販売奨励金の原資の補て
んに当てられているといってよいと思います。
 海外の大手携帯電話メーカー幹部は、日本のこの制度について
次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 販売奨励金の原資がどこにあったかといえば、利用者が支払う
 割高な通信料。その費用をなぜ通信料金に還元しないのか。そ
 うすれば、日本の携帯電話料金はもっと安くできるはずだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、販売代理店に対する販売奨励金制度は、ケータイビジ
ネスの立ち上がり期には、絶大の威力を発揮して携帯電話の加入
者を増やし、普及を加速させるのに役立ったのです。
 そういう普及期には、キャリア、販売代理店、端末メーカー、
ユーザのそれぞれがメリットを享受するウィン・ウィンの関係に
あったといえます。
 ところが今や端末販売の80〜90%が買い替えが占め、回収
の原資となるARPU――平均利用料金も料金値下げ競争によっ
て従来よりダウンしていることを考えると、この販売奨励金制度
が制度疲労を起こしつつあることは確かです。
 さらに、新規契約で安い端末を入手し、数ヶ月で契約を解約す
るというユーザが現れるに及んで、キャリアと販売代理店の間で
販売奨励金をめぐるトラブルも出始めています。こういうケース
では、キャリアは販売奨励金分をユーザから吸い上げる前に解約
されてしまうので、大赤字になります。まして、MNPが始まっ
ている現在ではユーザの流動性は一層加速することは避けられな
いのです。奨励金で釣って売る方法が限界に達しているのです。
 それなら、キャリアが販売奨励金をダウンさせたらどうなるで
しょうか。
 そうすると、端末の店頭販売価格は一挙に高騰します。その結
果、販売数は減少し、販売代理店の収入は減少します。既に述べ
たように販売代理店は複数のキャリアのブランドショップを運営
しているので、販売インセンティブの高いキャリアの販売に注力
することになり、販売奨励金をダウンさせたキャリアの販売数は
ますます減少することになります。
 おそらくこの状態にキャリアは3ヶ月以上は耐えられないと思
われ、再び販売奨励金を上げざるを得ない――こういうわけで、
キャリアは販売奨励金がいずれ自社の首を絞めることになること
が分かっていながら、結局はやめることはできないのです。
 キャリアが置かれているこのような状態を「ゆでガエル現象」
と呼ぶ人がいます。野村総合研究所の情報・通信コンサルティン
グ部上級コンサルタント北俊一氏がその人です。
 水槽にカエルを入れて、少しずつ火を加えていくと、水が少し
ずつお湯に代わっていき、一瞬にしてそれが熱湯に変わる――カ
エルは程よい温度のときに酩酊状態になってしまい飛び出せず、
ゆでガエルになってしまうことがわかっています。
 北氏はこの実験の例をひき、キャリアと端末メーカー、販売代
理店を水槽の中のカエルに例えて、販売奨励金というほどよい温
度にひたっていると、そのうち飛び出せなくなると警告を発して
いるのです。しかし、孫正義社長はボーダフォンを買収すると同
時に水槽から飛び出したのです。 ・・・・ [通信戦争/21]


≪画像および関連情報≫
 ・北 俊一氏/ゆでガエル発言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  野村総合研究所(NRI)は1月26日,携帯電話市場の継
  続的で飛躍的な発展のために,競争構造を見直すべきだとい
  う提言を発表した。同社が毎月発行する報告書最新号の中で
  北俊一・上級コンサルタントが指摘している。「いまのまま
  では,携帯電話事業者もメーカーも販売代理店も破たんしか
  ねない。少しずつお湯が熱くなっているのに気付かないでい
  るカエルが,結局“ゆでガエル”となって死んでしまう話を
  想起させる状況にある」と。
  http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/NCC/NEWS/20040126/138754/
  ―――――――――――――――――――――――――――

NRI/北俊一氏.jpg
posted by 平野 浩 at 04:41| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月06日

販売奨励金は廃止される可能性がある(EJ第2014号)

 携帯電話業界で現在慣行となっている販売奨励金制度――これ
はいずれ・・というより、すぐにでもやめなければならない制度
なのです。しかし、この制度についてNTTドコモの中村社長に
聞くと、彼はこれについて多くを語ろうとしないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 販売奨励金は、需要が急増している時には加入の敷居を下げる
 効果はあるけど、今の環境ではかなり疑問。でもどこかが安い
 値段で出せば、対抗せざるを得ない。
                 ――NTTドコモ中村社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対して、auの小野寺社長は中村社長と違ってかなり詳
しく話しています。現状は必要悪であり、制度を廃止することに
は慎重であるべきだという意見のようです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 奨励金は下げていくという方向が正しいと思っている。しかし
 下げたからといって現状が変わるだろうか。ある店舗が値下げ
 すれば、他店もそれに追随する。そこで赤字を補填しなければ
 店舗は成り立たない。店舗が潰れていけば、最終的にはエンド
 ユーザーに迷惑をかけることになる。奨励金がなくなれば、キ
 ャリアは楽になる。ただし、本当にそれで良いのか。日本市場
 の先進性は、インセンティブモデルだから新サービスと対応機
 種を同時にリリースできたことにある。新機軸のサービスの普
 及を遅らせることが良いのかどうか、という面からの議論も必
 要ではないか。            ――au小野寺社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この制度は基本的におかしいと思います。最初にユー
ザの立場から考えてみます。あるキャリアと契約して3万円の端
末を購入したとします。しかし、この端末の卸価格は5万円であ
る――販売奨励金が横行している携帯電話業界ではそういうこと
は十分あり得ることなのです。
 この場合、そのユーザは、本人は知らないまま2万円分の端末
価格を通信料金として払わされていることになります。つまり、
キャリアの通信料金はその分高くなっていることになります。結
局ユーザーは端末を3万円ではなく、5万円で購入させられたこ
とになるわけです。あなたはそれで納得できるでしょうか。
 次に端末メーカーについて考えます。端末メーカーは、キャリ
アからあらかじめ買い取ってもらえる数量を教えてもらってから
生産し、納入しています。これなら在庫リスクはないので、ノー
リスクということになります。
 要するに、日本の携帯電話端末メーカが作る端末は、お客の厳
しいチェックにさらされていないのです。つまり、市場原理が働
いていないわけです。自らリスクをとろうとしないから、国際競
争に巻き込まれたら確実に負けます。日本のメーカーの技術レベ
ルは高いのに、こんなことをやっていると、競争力を失ってしま
うことになります。
 しかし、販売奨励金の廃止はキャリアだけの意思でできるもの
ではないのです。しかし、熱を増しつつある水槽から飛び出して
それに代わる新しい仕組みを作ることは可能です。それを一番先
にやったのはソフトバンクなのです。私はそこにソフトバンクの
先見性を見たので、長年続けてきたNTTドコモに見切りをつけ
たのです。ソフトバンクの対応は明日のEJで解説します。
 販売奨励金はいずれ廃止されることは確実です。問題はそれを
どのようにしてソフトランディングさせるかですが、それは総務
省の裁量にかかっています。
 1月22日のロイター電によると、総務省は「モバイルビジネ
ス協議会」を発足させ、第1回会合を開いています。関連記事を
示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 [東京/22日ロイター]総務省は22日、携帯電話業界の新
 たなビジネスモデルのあり方について協議する「モバイルビジ
 ネス研究会」(座長・斉藤忠夫東大名誉教授)の第一回会合を
 開いた。委員の多くが、携帯キャリアが代理店に支払う販売奨
 励金や、携帯電話番号などが書き込まれたICカード(SIM
 カード)を端末から外して他の端末に装着できない現行のビジ
 ネスモデルについて、端末メーカーの競争力を阻害しているな
 どと問題視。今後はこうした点のほか、既存キャリアのネット
 ワークを借りて携帯電話事業を行う「MVNO」(仮想移動体
 通信事業者)の普及促進策などについて議論する。月1回程度
 の会合を開き9月中旬に報告書をまとめる。出席した菅義偉総
 務相は「少子高齢化が進む日本が発展するために大事な分野。
 基本に立ち返り、(ビジネスモデルのあり方を)役所として考
 える必要がある」と述べた。
 http://www.thinkit.co.jp/free/news/reuters/0701/22/7.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 韓国では既に2000年に販売奨励金制度は廃止(法制化は2
003年)されています。携帯電話業界はいったいどうなったで
しょうか。
 端末の販売価格は急上昇し、これによって売り上げは激減して
います。しかし、端末は価格の安いものから高いものまで豊富に
市場に提供され、現在では相当高価な端末でもそれ相応の魅力が
あれば売れています。ユーザのニーズにフィットしたからです。
 このような相当厳しいユーザのチェックに耐えて、サムソンは
大躍進しているのです。これに対して長年キャリアの庇護の下に
安住してきた日本の端末メーカーはどう対処するのでしょうか。
日本のメーカーは、今や規模と利益の両面において、ノキアやサ
ムソンに大きく水をあけられているのです。
 現在の日本の携帯電話市場では、最新・最高の機能を持つ端末
が一番の売れ筋になっています。これは販売奨励金制度が生み出
したいびつな現象です。この制度を廃止し、市場の正常化をはか
る必要があります。       ・・・・ [通信戦争/22]


≪画像および関連情報≫
 ・SIMカードとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  SIMカードとはGSMやW−CDMA(ケータイの方式)
  などの方式の携帯電話で使われているICカード。SIMカ
  ードは他の一般的なICカードと同じく、クレジットカード
  サイズで提供されるが、ICチップの部分だけを切り離して
  使うようになっている。これは、昔の自動車電話やショルダ
  ーホンなどの大型の端末ではSIMカードソケットがクレジ
  ットカードサイズであったものが、その後小型化されたこと
  の名残りである。          ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

au?????В?.jpg
posted by 平野 浩 at 17:26| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月07日

スーパーボーナスと販売奨励金(EJ第2015号)

 ソフトバンクの孫正義社長が、下から火であぶられて熱を増し
つつある水槽から最初に飛び出した理由は、他のキャリアと一緒
に水槽に入っていたのでは、ソフトバンクとして上位会社を抜く
ことはできないと考えたからです。
 それは、ケータイ端末が現在のキャリアの市場シェアに合わせ
て制作されているからです。それだけではない。シェアに合わせ
て売り場面積なども調整されているのです。これでは、下位会社
が上位会社を抜くことは不可能であり、市場シェアは固定化され
ることになってしまうからです。
 もうひとつ、シェアの最も小さいソフトバンクとしては、上位
会社であるNTTドコモやau並みに販売奨励金を販売代理店に
支払うのはできず、販売競争で遅れをとることになるという事情
もあったのです。
 そこでソフトバンクが考え出したのが「スーパーボーナス」と
いう制度なのです。既に述べたように、この制度の目的は、ユー
ザに携帯端末を安く提供することにあるのです。
 この制度の特徴は、携帯端末を「割賦販売」するところにあり
ます。しかし、月々の割賦金額相当分とほぼ同額を毎月ソフトバ
ンクが負担するのです。このソフトバンクが負担する金額はお客
が購入する端末によって異なるのです。
 もし、お客が購入する端末の月額分がソフトバンクの負担分よ
り大きいときは、その差額はお客の負担になるのです。MNP開
始までは、差額分の総額は一括して店頭でお客から徴収し、あと
はお客が他社へ転出しない限り、毎月の割賦分はソフトバンクが
負担したのです。したがって、お客は最初に店頭で支払っう差額
分だけで端末を購入できたのです。もちろん、金利・手数料はソ
フトバンク負担です。
 この制度をMNP以後は、お客が負担する差額分についても店
頭で支払わず、毎月徴収するという方式に改めています。これが
「新スーパーボーナス」(以下、「スーパーボーナス」)です。
この制度については、EJ第1997号を参照していただきたい
と思います。
 この制度の狙いは、端末を24ヶ月間の割賦で販売をすること
にあります。割賦販売であれば、その間お客の他社流出を防ぐこ
とができるからです。さらにソフトバンクでは、新規契約に関し
ては2ヶ月間は基本料金は無料サービスとしているので、26ヶ
月間お客をソフトバンクに囲い込みができることになります。実
に巧妙な方法であると思います。
 このように、お客を26ヶ月囲い込めると、端末料金のソフト
バンク負担分を十分回収する時間があることになります。しかし
それを大きめに設定した基本料金から得ている――この批判をか
わすために、基本料金を限度一杯まで下げてしまったのです。そ
れが「ゴールドプラン」の70%割引であり、今年に入って打ち
出した月額基本料金980円の「ホワイトプラン」なのです。
 ソフトバンクとしては、投資分を取り返すにはお客に携帯をで
きる限り多く使ってもらう施策を多方面に展開し、それから上が
る利益でそれをクリアする――誠にオーソドックスな経営の考え
方であり、お客としても納得できます。
 孫正義社長自身は、「スーパーボーナス」導入の目的は次の2
つにあることを指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.短期間で端末を買い替えるユーザが得する点を解消
  2.ソフトバンク自身のキャッシュ・フローが改善する
―――――――――――――――――――――――――――――
 孫社長は、さらに携帯電話業界のこれまでの販売モデルに関連
して、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ほんの数ヶ月で事業者や端末を乗り換える人が多くなると、現
 在の携帯電話会社のビジネスはすさんでしまう。インセンティ
 ブを支払って端末価格を下げているからだ。一方で、これまで
 の販売モデルは、すぐに端末を買い替えるユーザも、長期ユー
 ザも通信料は同額だ。したがって、長く使ってもらっているユ
 ーザの料金は割高になってしまう。つまり、短期買い替えユー
 ザの販売インセンティブを長期契約ユーが負担している不公平
 感がある。          ――孫正義ソフトバンク社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融関係者の「スーパーボーナス」の見方を2つご紹介してお
きます。こちらは賛否両論があるのです。
 USB証券・株式調査部アナリスト、高橋圭氏は「スーパーボ
ーナス」はキャッシュフローの改善策になると述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 販売インセンティブモデルでは、先に一括して割引分をキャリ
 アが支払う。だが、スーパーボーナスは、ソフトバンクモバイ
 ルがインセンティブを分割後払いしているようなものだ。ユー
 ザが端末を購入する時点のソフトバンクの支払額は、後者の方
 が圧倒的に少ない。その結果、ユーザ獲得時のキャッシュ・フ
 ローは、売り切り販売インセンティブ・モデルよりも改善する
 はずである。       ――高橋圭USB証券アナリスト
―――――――――――――――――――――――――――――
 この高橋氏とは180度違う考え方をしているのが、同じUS
B証券のマネージング・ディレクターの乾牧夫氏は、「スーパー
ボーナス」について次の見方もできると述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務的に行き詰っている会社が必要に迫られ、今までの商習慣
 を続けているだけでもつらいのではないか。 ――USB証券
             乾牧夫マネージング・ディレクター
―――――――――――――――――――――――――――――
 それに販売代理店幹部は、「スーパーボーナス」のお客に対す
る説明には時間がかかり、効率的ではないという問題点を指摘し
ています。           ・・・・ [通信戦争/23]


≪画像および関連情報≫
 ・日系携帯電話8社合わせてもサムソン電子に及ばす
  ―――――――――――――――――――――――――――
  クレジットなどの決済機能やワンセグ放送、音楽ダウンロー
  ドなど高機能化が進む日本の携帯電話。しかし、日本メーカ
  ーの世界における販売シェアは10社合計で8.8%に低迷
  欧米や韓国の企業に大きく水をあけられている。この現状を
  打開し、世界に通用する産業にしようという議論が政府内で
  活発化し始めた。ただ、日本と海外の携帯電話会社のビジネ
  スモデルの違いも根底にはあり、一朝一夕に変えることは難
  しそうだ。総務省によると、携帯電話端末の05年のシェア
  はフィンランドのノキアが33.5%で首位。米モトローラ
  がこれに続き、日本メーカーは10社合わせても韓国・サム
  スン電子に及ばない。
                  ――MSNニュースより
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月08日

不可解な日本端末のSIMロック(EJ第2016号)

 国民の90%近くが持っている携帯電話、テレビやカメラを含
む高度な機能が詰め込まれた携帯電話端末――こういうものを見
ていると、日本のケータイは世界に冠たるものであると考えてし
まいます。
 ところが実際は、日本の端末メーカーが束になっても、世界に
出ると韓国のサムソン電子や、フィンランドのノキアの1社分の
シェアにすらかなわないのです。
 どうしてこんなことになったのでしょうか。
 これは、国の通信政策と日本の支配的通信事業者であるNTT
の政策の失敗といわざるを得ないのです。その代表的な例がNT
Tドコモが採用した第2世代携帯電話の規格「PDC」です。こ
のPDC規格は日本が先行して開発しながら、それを世界標準に
できなかった規格なのです。
 それは、最新技術に異常にこだわり、急いで商用化しようとす
るNTTの体質と、NTTの海外進出を縛るNTT法によって、
PDC規格は世界標準とはなり得ず、GSM規格が世界の標準と
なったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 PDC ・・ Personal Digital Cellular
 GSM ・・ Global System for Mobile Communications
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう技術優先の傾向は、ADSL技術を熟知しながら電話
を守ろうとして結局失敗(認めていないが)したISDN、アナ
ログの独自技術にこだわり、世界のデジタルTV化に乗り遅れた
NHKなどにも見ることができます。
 しかし、日本がGSM規格に乗れなかったことは、後々まで尾
を引くことになります。それは海外でケータイを使う機会が非常
に多くなったことです。ケータイを海外で使うことは現在ではい
ろいろな方法で可能になっていますが、基本的には次の方法で外
国で使うことができます。
 GSM方式の携帯電話機は、次の2つの部分から成る構造をし
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  GSM方式の携帯電話機 = 本体 + SIMカード
―――――――――――――――――――――――――――――
 SIMカードは、他の一般的なICカードと同様にクレジット
カードサイズで提供されるのですが、ICチップの部分だけを切
り離して使うようになっています。
 なお、3Gのケータイでは、NTTドコモのFOMAとソフト
バンクでは、「W−CDMA」という規格を使っているので、S
IMカード構造になっていますし、auはW−CDMA方式では
ないものの、SIMカード構造の携帯電話機を採用しています。
 海外でケータイを使う場合は、その国のプリペイドSIMカー
ドを購入して携帯電話機にセットすれば良いのです。各国のプリ
ペイドSIMカードは、空港などでパスポートを示せば入手でき
ますが、そのカードを日本で使われている携帯電話機にセットす
ることはできない構造になっています。もちろん、SIMカード
がセットできる構造になっている日本の3Gの携帯電話機でも使
えないようになっているのです。それは、自社の以外のSIMカ
ードが使えないようにロックがかけられているからです。これを
「SIMロック」と呼んでいます。
 それではどうすればよいのでしょうか。
 各国のSIMカードがセットできる携帯電話機――つまり、S
IMロックのかかっていない携帯電話機をわざわざ購入すること
によってはじめて可能になります。NTTドコモとソフトバンク
のどちらでも利用できるSIMロックフリーの携帯電話機として
は、ノキア製の6650、7600、6630、E61の4種類
がそれに該当します。
 さて、ここからが少しややこしい話なのです。そのプリペイド
SIMカード――それぞれの各国のキャリアのものを購入して使
う場合と、日本の国際ローミングSIMカードを使う場合とでは
料金がぜんぜん違ってくるのです。
 例えば、A国のプリペイドSIMカードをA国のキャリアから
購入(A国の空港など)して使う場合について説明します。A国
に滞在してA国内の人と通話した場合は、当然ですが、国内通話
になります。もし、その電話機でA国から日本のX氏に電話する
と「端末→日本→X氏」となるので、国際通話になるのです。
 しかし、日本の国際ローミングSIMカードを使う場合、すべ
ての通話は次のように日本経由の国際電話になるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪A国に滞在してA国のB氏に電話≫
  ・端末→日本→A国→B氏の折返し国際通話
 ≪A国に滞在して日本のX氏に電話≫
  ・端末→日本→X氏の国際電話
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在では、3Gケータイの申し込みのとき、国際使用の手続き
をしておけば、自分の携帯電話機に付いているSIMカードを海
外で利用可能の携帯電話機(レンタル可能)にセットして使えま
すが、すべて国際通話になります。
 FOMAのケースでいうと、ドコモからワールド・ウイング対
応の携帯電話機をレンタルして、自分のFOMAにセットされて
いるSIMカード――UIMカードと呼称――を抜いて、そのレ
ンタルした携帯電話機にセットすれば使えるのです。
 どうして、こんなに面倒なのでしょうか。
 要するに、日本の国内で使われている携帯電話端末は、SIM
カードは付いていても、端末自体は海外では一切使えないことに
なります。逆に外国から日本へのGSM方式の携帯端末を持込使
用はできないことになっています。しかし、SIMカードは日本
国内に対応している端末を購入するかレンタルすればそれにセッ
トして使えることになります。  ・・・・ [通信戦争/24]


≪画像および関連情報≫
 ・ローミング(roaming)とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ローミングは、携帯電話やPHS、またはインターネット接
  続サービス等において、事業者間の提携により、利用者が契
  約しているサービス事業者のサービスエリア外であっても、
  提携先の事業者のエリア内にあれば元の事業者と同様のサー
  ビスを利用できることをいう。    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

SIMロック
posted by 平野 浩 at 04:44| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月09日

SIMロックはいつ外すのか(EJ第2017号)

 なぜ、日本の携帯電話機には、SIMロックが施されているの
でしょうか。
 これは販売奨励金制度と関係があるのです。キャリアとしては
販売代理店に多額の販売奨励金を支払う以上、ユーザに簡単にや
められては困るわけです。
 これまで特定のキャリアにユーザを固定させてきたのは、他の
キャリアに移ると、番号が変わるということだったと思います。
これはケータイの初期の頃から使ってきたヘヴィ・ユーザをひと
つのキャリアに留めていた要因だったのです。しかし、昨年10
月のMNP発足によって、その縛りはなくなり、他のキャリアに
移りやすくなったのです。
 そしてもうひとつの縛りは、キャリアを変えると端末も買い替
えなければならないということなのです。この縛りは不都合な話
なのです。どうして、買い替えないといけないのでしょうか。
 それは、SIMロックのせいなのです。これからのケータイは
3Gが中心となり、端末にはSIMカードが使われます。それな
ら、キャリアを変えるとき、SIMカードを取り替えれば、今ま
で使っていた端末が移動したキャリアの端末になる――そうなっ
たら便利だと思いませんか。
 しかし、現在は各キャリアがSIMロックをかけているので、
それができないでいます。しかし、もしそれができれば、販売奨
励金を廃止して、端末が相当高価になったとしても、必要に応じ
て高い端末でも買う人がいると思うのです。
 携帯電話の販売を販売代理店を経由しないで、直販方式にした
孫社長は、おそらくこのSIMロック解除にも手をつけるのでは
ないかと考えられます。ユーザにとって便利になることがわかっ
ているのにそれをやらない――これは商売人にとって自殺行為で
ある思います。もし、ロックを外せば、自分の使っているケータ
イが海外でもそのまま使えることにもなるのです。しかし、これ
をやられると、ドコモとauはこたえるはずです。
 一見進んでいるように見える日本の携帯電話業界――既に述べ
てきたように、実は現状大きく遅れているのです。それはNTT
ドコモが最新技術とはいえ日本独自の規格を世界に先駆けて導入
し、結果として日本の技術仕様を孤立させたことが大きな原因の
ひとつとなっているのです。
 孫社長は、ボーダフォンを買収してから携帯電話の専門家を何
人か役員として迎え入れています。松本徹三氏もその一人です。
松本氏は、米クアルコム社の上級副社長からの転身です。
 その松本氏は、NTTドコモとソフトバンクの違いについて興
味深いことを述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソフトバンクとドコモを比べると、ドコモにはハンデキャップ
 と呼べるものがある。それは膨大なR&D(研究開発)部門を
 持っていることだ。R&Dがあれば、自分たちの技術を使わな
 ければならない。確かにドコモの技術力は高いが、それが常に
 世界最高だという保証はない。一方、ソフトバンクの立場は、
 世界中の技術の中でベストな組み合わせを選び、できるだけよ
 い条件で買うことだ。そうすれば、通信技術であろうと、端末
 であろうと、われわれが長期的に見てドコモよりもよいものを
 出せない理由はない。技術を持たないことがわれわれの武器で
 ある。      ――松木徹三ソフトバンクモバイル副社長
         『週刊/エコノミスト』12月12日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTTは、技術にこだわると同時に電話会社であるため、どう
しても電話を守ろうとします。ましてNTTは民営化されている
企業であり、NTTにとって一番大事である電話を守ろうとする
のは当然です。
 しかし、インターネットが普及拡大することが確実視されてい
た1995年において、当時やろうと思えばできたADSLを無
視して、ISDNの一般普及を決めたNTTの判断には大きな問
題があったと思うのです。
 なぜなら、ユーザの立場に立って考えた場合、ISDNはAD
SLに比べると、あまりにも不便であるからです。とくに速度と
コストの面でISDNはあまりにも不利であるからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          ISDN        ADSL
   速 度    64Kbps       12Mbps
   コスト      高い          低い
―――――――――――――――――――――――――――――
 速度については、ISDNが1秒間に64キロビットであるの
に対して、ADSLは1秒間に12メガビットであって、まるで
比較にならないからです。それに加えて、ADSLはコストが比
較にならないほど安いからです。
 というのは、ISDNはあくまで電話であって、ネットにつな
ぐたびに電話料をとられるのに対して、ADSLは電話線は使う
のの、電話ではなく、電話料をとられないので、コストは大幅に
違ってくるのです。
 低速でしかもコストが高いISDNと、高速でコストの安いA
DSL――これは勝負になりません。それでもNTTがISDN
を選んだのは、電話会社であるNTTが電話を守ろうとしたから
です。ここに民営化の問題点があるのです。
 しかし、その後韓国でのADSLの普及や国内でもソフトバン
クがADSLを手がけると、一転してNTTもADSLをはじめ
る始末です。これでは当時高価だったターミナル・アダプタ(約
7万円)を購入してISDNをはじめた多くのユーザのことを何
も考えていない措置といえます。つまり、NTTは顧客という視
点を忘れていると思うのです。
 現在、そのNTTは壮大なる次期ネットワークシステムに取り
組もうとしていますが、その取り組みにも大きな問題がありそう
なのです。           ・・・・ [通信戦争/25]


≪画像および関連情報≫
 ・ISDNについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ISDN――Integrated Services Digital Networkは、 交
  換機・中継回線・加入者線まですべてデジタル化された、パ
  ケット回線交換データ通信にも利用できる公衆交換電話網で
  ある。ITU−T(電気通信標準化部門)シリーズ規格とし
  て定められている。         ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:54| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月10日

EJバッナンバー「デジタルTV」(その3)

2003年4月9日に配信しましたEJ第1082号(全10回
連載の内第3回)を過去ログに掲載しました。
○ インターレース方式とプログレッシブ方式(EJ第1082号)
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月11日

EJバックナンバー「デジタルTV」(その4)

2003年4月10日に配信したEJ第1083号(全10回
連載の内第4回)を過去ログに掲載しました。
○ アナログ放送打ち切りは誰が決めたか(EJ第1083号)
posted by 平野 浩 at 05:12| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月12日

EJバックナンバー「デジタルTV」(その5)

2003年4月11日に配信したEJ第1084号(全10回
連載の内第5回)を過去ログに掲載しました。
○ BS/CSはなぜ経度だけを表示するのか(EJ第1084号)
posted by 平野 浩 at 05:42| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月13日

固定電話と携帯電話の融合が進む(EJ第2018号)

 2007年1月末の時点で、日本の携帯電話とPHS(以下、
ケータイ)を合わせた契約総数が一億件を超えました。正確にい
うと、1億22万45OO件――2007年1月1日現在の日本
の人口は1億2千7百75万人ですから差を取ると、2752万
5500万人がまだケータイを持っていない計算になります。
 しかし、このうち9歳未満の子供は1815万3OOO人、さ
らに80歳以上の老人が669万6000人――これらの人はケ
ータイを持っていないと考えると、9歳以上、80歳未満の人で
ケータイを持っていない人はわずか937万2500人となって
しまいます。ほぼ国民一人一台のケータイを持っているといって
も過言ではない状況になっています。
 ところで、昨年の10月26日からスタートしたMNP制度に
よるケータイの顧客の奪い合い競争はどうなったでしょうか。ス
タート前の下馬評では、ソフトバンクはドコモとauの草刈り場
になり、その分を吸収してauは突出、ドコモは多少顧客数を減
らすものの、ソフトバンクの吸収分でそれを最小限に抑えるとい
われていたのです。
 しかし、実際はそうなっていないのです。一人負けになってい
るのはソフトバンクではなく、NTTドコモなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪1月の携帯電話3社の純増減数≫
               全体   うちMNPの分
  NTTドコモ    +7000   −9万8500
  KDDI   +20万8400  +10万8400
  ソフトバンク +16万4000   −1万0000
      ――2007年2月8日付、日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 auは、新規契約から解約分を引いた純増分で20万8400
件と6ヵ月連続首位であり、ソフトバンクも16万4000件と
ボーダフォン時代を含め、3年1ヶ月ぶりの10万件超えを達成
しています。MNPスタート以来、孫社長が次々と打ち出した施
策が明らかに効いています。これに対してドコモは、純増が極端
に伸び悩んでおり、深刻な状態であると考えられます。この傾向
は今後さらに拡大すると考えられるからです。
 NTTドコモの失敗の原因のひとつと考えられるのは「ワンセ
グ」に対する取り組みの意欲の低さにあります。かつてJフォン
がケータイにカメラを付けて「写メール」をヒットさせたとき、
NTTドコモの幹部は「当社はケータイにカメラはいらないと考
えている」と発言した前科があるのです。
 しかし、それから数ヶ月も経たないうちにケータイにカメラを
付けて発売しているのです。先見性がないというよりも、顧客の
ニーズを掴んでいないところがドコモの問題点です。
 既にEJ第1997号でご紹介したように、ドコモの中村社長
は「サイマル放送のままのワンセグはドコモにとってメリットは
ない」と突き放しているのです。しかし、電話はあまりかけない
が、テレビは欲しいというユーザはたくさんおり、そういうユー
ザがドコモから逃げ出していることを中村社長は知らないようで
す。顧客の視点を忘れており、すべてが他社の後追いです。これ
では、ドコモからの顧客の流出は止まらないでしょう。
 ワンセグは通信と放送の融合のひとつのかたちです。もしかす
ると、近い将来現在のケータイに当然のようにカメラが付いてい
るように、すべてのケータイにTVが付き、ワンセグが見られる
ようになっている可能性があるのです。
 日本の場合は、通信(ケータイ)と放送(ワンセグ)の融合が
ハードウェアとしては実現しつつありますが、諸外国では固定電
話と携帯電話の融合が進められつつあります。従来は別々に営ん
できた事業を統合することで、利便性を高める狙いがあります。
 これは、英国のBTフュージョンが2005年9月から開始し
ているサービスです。BTフュージョンで使われる携帯電話機は
携帯電話機能のほかブルーツゥースと呼ばれるごく短距離の無線
通信機能を備えているのです。
 この機能によって、携帯電話機を家で使うと固定電話とブルー
ツゥース経由でつながり、ブルーツゥースのエリアから外れると
携帯電話となるのです。この切り替えは自動的に行われ、携帯電
話で話しながら家の中に入ると、ブルーツゥースのエリアに入る
ので、その時点で固定電話になるというものです。これによって
どうしても割高になり勝ちな携帯電話の料金を下げる効果がある
のです。もちろん料金請求は一本にまとめられ、電話番号もひと
つで済み、固定電話と携帯電話を別々に持つ必要がなくなってし
まうのです。
 この「固定と携帯の融合」のことを、「FMC」と呼んでいま
す。FMCは次の言葉の頭文字をひろったものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         FMC
         Fixed Mobile Convergence
―――――――――――――――――――――――――――――
 このBTフュージョンのサービスに対し、韓国のKT、テレコ
ムイタリア、オランダのKPN、日本のNTTグループとKDD
Iもその取り組みを表明しています。
 しかし、この動きは、電話事業の発展のかたちとしてとらえる
よりも、携帯電話の普及による固定電話の減収に危機感を抱いた
固定電話業者による移動通信の取り込みとしてとらえるべきもの
です。しかし、携帯電話は端末もネットワークも技術革新が激し
い分野なのです。それを時間の流れの遅い固定電話と融合してし
まってよいのものでしょうか。
 2007年1月18日に、総務省の情報通信審議会電子通信事
業部会は「FMCサービスの導入へ向けた報告書(案)」を発表
しています。そこでは、FMCサービス用の新規番号は、「06
0」になることが記述されています。固定と通信の融合は急ピッ
チで進められているのです。   ・・・・ [通信戦争/26]


≪画像および関連情報≫
 ・FMCとは何か
 ――――――――――――――――――――――――――――
 携帯電話は便利だが,通話料やパケット代が高いのが難点。そ
 う感じている人はたくさんいるだろう。一方で,自宅から電話
 をかけるときでも,電話帳から簡単にかけられるという理由で
 固定電話ではなく高い携帯電話を使ってしまう人も少なからず
 いるだろう。こんなとき,「携帯電話を使いながら固定電話経
 由で通話できたら」なんて夢見る人もいるかもしれない。これ
 を実現するのがFMC。すなわち携帯電話と固定電話の融合で
 ある。
 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/DENWA/20050829/220191/
 ――――――――――――――――――――――――――――

FMCdg.jpg
posted by 平野 浩 at 06:10| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月14日

NTTグループの次世代ネットワーク構想(EJ第2019号)

 NTTドコモ、au、ソフトバンクモバイル――この3社の競
合は今後ますます激しいものになっていきます。その中にあって
NTTグループがどう動くかは、他社に対して大きな影響を与え
ます。NTTグループは、どのような戦略で何を目指そうとして
いるのでしょうか。
 NTTグループは、2004年11月に固定電話のIP化を発
表してします。具体的にいうと、2010年までに光ファイバー
を3OOO万回線提供して、IP技術を使う次世代ネットワーク
(NGN)を構築する「中期経営計画」を公表したのです。
 電話網のIP化――IP技術は「距離」の概念のない技術なの
です。しかし、NTTグループは1999年のNTT再編の組織
のままです。これは「距離」に対応した組織です。
―――――――――――――――――――――――――――――
          I― NTT東西地域会社
  NTT持株会社―I  NTTコミュニケーションズ
          I― NTTドコモ
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTT東西地域会社は地域通信、NTTコミュニケーションズ
は長距離通信、NTTドコモは移動体通信、この3社を純粋持株
会社であるNTT持株会社が統括している――これが現在のNT
Tグループの組織構造です。
 この場合、NTT東西地域会社とNTTコミュニケーションズ
の3社はNTT持株会社の100%子会社なのですが、NTTド
コモの資本については約60%しか持っていないのです。NTT
の問題を考えるとき、このことを頭に置く必要があります。
 はっきりしていることは、この体制のままでは、昨日のEJで
述べたFMC――固定通信と移動体通信の融合は困難であるとい
うことです。
 NTTの推進する次世代ネットワーク構想(NGN)では、次
のようになっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 次世代ネットワークを東西NTTが構築し、2008年以降に
 東西NTTのネットワークと、NTTドコモが構築を進める次
 世代携帯電話のためのIPネットワークを一体化する。この段
 階で固定と移動がバックボーンのレベルで融合する。
               ――日経コミュニケーション編
     『風雲児たちが巻き起こす携帯電話崩壊の序曲』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この構想では、次世代ネットワーク構築の主体はNTT東西会
社ということになります。しかし、NTTドコモは、2003年
からバックボーン・ネットワークのIP化に取り組んでおり、N
TT東西会社よりその技術ははるかに進んでいるのです。
 それにもかかわらず、次世代ネットワークはNTT東西会社を
中心として進められつつあり、それは固定電話の収入減に対処す
るため新しい収入源を移動体通信に求める構図になります。これ
では移動体通信を中心にFMCを構築しようとしているKDDI
やソフトバンクには対抗できないことになります。
 なぜなら、NTTドコモはNTT東西会社の固定電話サービス
を使わなくても、インターネット接続業者などが提供するIP電
話サービスを使うことができるからです。NTTドコモ自身もイ
ンターネット接続業者であり、やろうと思えば独自でFMCを実
現できるからです。
 もうひとつNTTグループが構築を進める次世代ネットワーク
には、わからない点があります。それは、次世代ネットワークに
おけるNTTコミュニケーションズの役割です。
 NTTコミュニケーションズは長距離通信において地域通信間
を中継する役割を担っている企業ということになっています。し
かし、この企業は「OCN」というインターネット接続プロバイ
ダ事業を行うかたわら、ポータルサイト「goo」を手がけ、ブ
ログやSNSまで手を伸ばしています。
 つまり、NTTコミュニケーションズでは早い時期からIP系
サービスを多く手がけてきており、多くのIPエンジニアをかか
えているのです。NTTグループが進めようとするNGNにはそ
うした人材が役に立つはずです。
 しかし、2006年8月の事業再編においては、NTT持株会
社は、なぜかNTTコミュニケーションズを次世代ネットワーク
の構築から外し、NTT東西会社から1200人規模の法人営業
部隊をNTTコミュニケーションズに移したのです。法人営業は
各グループ会社がそれぞれやっていたのですが、それをNTTコ
ミュニケーションズに一元化し、NTTグループのワンストップ
サービスができるようにするという構想です。
 しかし、IP技術に詳しい同社の技術陣は次世代ネットワーク
の担当としてNTT東西へは異動していないのです。これは実に
不思議な話です。本来であれば、IP技術に詳しいNTTコミュ
ニケーションズがグループ内のIP系のサービスを集約し、次世
代ネットワークを一元的に担当するべきです。
 しかし、どうしてもNTT東西会社を中心として考えるNTT
持株会社の幹部はそれを嫌ったのです。そういうわけで、NGN
の構築にはNTTコミュニケーションズを一切かかわらせず、販
売会社にするという案が激論のすえ採択されたのです。
 それにNTT持株会社は、もうひとつ大きなミスをしているの
です。昨年、通信に関わる国際規格を決める団体ITU――国際
電気通信連合の電気通信標準化局長選挙において、万全の根回し
で送り出した井上友二氏(NTT持株会社取締役)が3回目の選
挙で落選してしまったことです。
 しかも、その上の事務総局次長は中国、その上のトップ事務総
局長はアフリカに奪われてしまったのです。これは、NTT持株
会社の失敗というより、日本外交の敗北といってよい結果です。
 このような経緯から、NTTクループの次世代ネットワークは
失敗するといわれているのです。 ・・・・ [通信戦争/27]


≪画像および関連情報≫
 ・次期電気通信標準化局長、英国のジョンソン氏に決定
  ―――――――――――――――――――――――――――
  トルコ共和国アンタルヤで開催されている――本部・スイス
  連邦ジュネーブ――全権委員会議において、現地時間の11
  月14日(火)午後4時45分(日本時間同日午後11時45
  分)より、同電気通信標準化局長選挙が行われ、英国のジョ
  ンソン氏が投票数の過半数である82票を超える83票を獲
  得し、ITUの次期電気通信標準化局長に選出された。
  ―――――――――――――――――――――――――――

F.jpg
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2007年02月15日

NTTコミュニケーションズの事業再編の謎(EJ第2020号)

 NTTコミュニケーションズの創業は1999年7月のことで
す。もともとは長距離通信事業者として発足したのです。そのた
め、県間や国際通信の電話設備やデータ通信網を有して、地域通
信事業者であるNTT東西会社を中継したのです。つまり、当初
は通信インフラを所有していたのです。
 しかし、NTTコミュニケーションズは、2006年8月の事
業再編でこのインフラから切り離され、インフラを持たない通信
事業者として発足することになったのです。いわゆる水平分業型
の事業体への変身です。
 通信業界におけるNTTグループをのぞく他の2強ともいうべ
きKDDIもソフトバンクも固定通信と移動通信の両方のインフ
ラを持つ垂直統合型の事業体であり、海外でもそういう事業体は
増えています。そういう意味で、「インフラを持たない通信事業
者」としてのNTTコミュニケーションズは特異な存在であると
いえます。果たしてこのような戦略でKDDIやソフトバンクに
対抗するのでしょうか。
 しかし、NTTコミュニケーションズの社長の和才博美氏はき
わめて意欲的であり、次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 インフラがなければ借りればいい。NTTコミュニケーション
 ズには規制がなく常に先進的なビジネスにチャレンジできる。
 法人事業と上位レイヤーを融合させた新しいサービスの提供な
 どに挑戦していく。           ――和才博美社長
               ――日経コミュニケーション編
     『風雲児たちが巻き起こす携帯電話崩壊の序曲』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで「上位レイヤー」とは、「goo」などのポータル事業
などを指しています。しかし、今までこの面においては、同社は
あまり成功しているとはいえないのです。
 そのため、どのように考えてもNTTコミュニケーションズは
NTTグループの中でかなり割を食っている感じであることは確
かなのです。ある証券アナリストは次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTTコミュニケーションズを水平分業型にするのは戦略的な
 施策というより、グループ間闘争の結果のように見える。次世
 代ネットワークからNTTコミュニケーションズを外したため
 その見返りに法人営業などを集約したのだろう。長距離電話の
 売り上げと利益に頼れる間に、法人事業と上位レイヤーでしっ
 かり稼げるようにならなれければ、固定電話収入が減るにつれ
 てNTTコミュニケーションズはジリ貧になる。
          ――日経コミュニケーション編前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに法人営業を一元化させるというのは、効率の面から考え
るとプラスの効果がありますが、一元化したのはNTTコミュニ
ケーションズとNTT東西会社の営業だけであって、NTTドコ
モは入っていないのです。したがって、今度は、NTTコミュニ
ケーションズとNTTドコモの営業のバッティングが起こり、中
途半端な施策であるといわざるを得ないのです。
 現実に次のようなことが法人営業の世界で起きているのです。
2006年11月のことですが、NTTドコモは一つの携帯電話
端末で、社内では固定電話として使い、社外では携帯電話として
利用できるサービスをはじめています。FMCの法人版そのもの
です。ところが、これはNTT東西会社の提供するIP電話サー
ビスと完全にバッティングするのです。
 このサービスに関して、NTTドコモのある幹部にコメントを
求めると、次の答えが返って来たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 競争ですからね。KDDIと競争するように、東西NTTやN
 TTコミュニケーションズとも競争する。NTT持株会社以外
 にNTTドコモの株主がいるわけですから、仕方がないです。
          ――日経コミュニケーション編前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このコメントでもわかるように、NTTドコモは次世代ネット
ワークに関して、持株会社がリードしようとする方向に抵抗を示
しているように感じられます。つまり、ドコモはグループ主導の
融合を嫌がっているようです。
 逆にNTT持株会社としてもドコモに関しては相当気を使って
いるところがあります。持株会社は、最近になってNGNのスケ
ジュールに関する報道資料に一部修正を加えています。
 当初の報道では「移動系との一体化を実現」と記述されていた
のですが、NTTドコモの要請により、「移動系とのシームレス
化を実現」という表現に変更されたのです。
 「一体化」という表現は、バックボーン・ネットワークを固定
系と移動系を融合して一つにするという意味になります。しかし
「シームレス化」では、それが曖昧になってしまいます。それに
実施時期も「2008年以降に」となっており、これでは事実上
時期を明らかにしないことと変わりがないことになります。
 おそらく来年以降に、KDDIとソフトバンクはFMCを展開
することが予想されるので、その対応を考えて、時期についても
こういう表現になっているものと思われます。
 このようにNTTグループにとって、今後の通信戦争の環境は
一層厳しさを増すことは確かであるといえます。組織体が巨大で
あるために素早く変化に対応できない恐れがあるからです。
 しかし、NTTグループにとって明るい話題もあります。それ
は光ファイバーの売れ行きが好調であることです。2006年に
入ってからは4月から9月までの6ヵ月で、NTT東西合わせて
130万契約と、月に20万契約を超える勢いです。
 何しろ光ファイバーは、次世代ネットワークのアクセス回線と
なるだけに、今後の通信戦争の帰趨を左右します。光については
今のところNTTが圧勝なのです。・・・・ [通信戦争/28]


≪画像および関連情報≫
 ・「上位レイヤー」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プロトコルの話をするとき使う言葉に、上位レイヤ、下位レ
  イヤという言い方があります。その説明は、例えば、人間が
  コンピュータを使って何かするとき、人間がやりたいことを
  直接取り扱う部分が上位レイヤで、もうちょっとコンピュー
  タ寄りのことをするのが下位レイヤです――のようになりま
  す。でも、これだとなかなかイメージしづらいかもしれませ
  んね。
  http://www.atmarkit.co.jp/fnetwork/rensai/tcp08/01.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月16日

ケータイにテレビ機能は必要か(EJ第2021号)

 携帯電話のテーマを取り上げて29回目です。このテーマはも
う少し続きますが、既に終盤に入っています。ここで今後のケー
タイの使い方に確実に影響を与えるワンセグケータイについて、
述べておくことにします。
 ワンセグが話題になる前にボーダフォンがアナログチューナー
を内蔵した携帯電話を販売したことがあります。しかし、満足す
べき画質が得られず、失敗に終わっています。
 しかし、一度でもケータイでワンセグ放送を見たことがある人
は、その映像の美しさ、安定さにきっと驚嘆すると思います。ア
ナログでは駄目だったのにどうしてワンセグはきれいに受像でき
るのでしょうか。「ワンセグはデジタルであり、デジタル方式の
通信を採用している携帯電話だから部品が共有できるからではな
いか」と考えている人がいるかも知れません。
 実は部品は共有化されていないのです。ワンセグ放送機能付き
携帯電話には携帯電話の通信に使う基板とは別に、デジタル地上
波チューナー用の基板が用意されているのです。ノイズを防ぐた
めに完全な独立機構になっているのです。つまり、ワンセグ付き
携帯電話はなかなかの高級仕様なのです。
 ところで、ワンセグとは一体何でしょうか。
 地上波デジタル放送は、1チャンネルを13セグメントに分け
て送信しているのですが、高画質・高品質の家庭用ハイビジョン
放送には12セグメントが使われるのです。そうすると、1セグ
メントが残りますが、これを使って移動体機器用に同じ番組を配
信することになったのです。そのため「ワンセグ放送」と呼ばれ
るのです。使用する帯域は429キロヘルツとなっています。
 ワンセグ放送の映像サイズは、かつて初期のPCで標準であっ
た解像度VGAの4分の1サイズであり、クオーターVGA(Q
VGA)と呼ばれています。音声はモノラルとステレオが用意さ
れててるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 VGA  640×480 ・・・   初期のPCの解像度
 QVGA 320×240 ・・・ ワンセグ携帯電話解像度
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、地上デジタル放送は、高画質・高音質で送信するときは
12セグメントを使いますが、通常の品質の番組であれば1つの
チャンネルにつき4セグメントしか使わないのです。したがって
3つの番組を同時に放送できるのです。
 そうすると、デジタル地上波テレビの4分の1で、ワンセグは
見られることになります。このことは重要なことです。つまり、
ワンセグは情報量が少ないのです。処理する情報量が少なければ
部品を動作させる時間が少ないので、消費電力は少なくて済むの
です。これがワンセグ放送が携帯電話に向いているといわれてい
る理由なのです。
 なお、当たり前のことですが、ワンセグ放送は電波を受信して
視聴するものですから、何時間見てもパケットなどには一切関係
はなく、NHKに届ける必要もないのです。つまり、テレビにつ
いては完全に無料なのです。
 それにワンセグケータイのテレビ放送は、別売のメモリカード
を装着すると録画できますし、予約録画までできるのです。しか
もこちらはコピーワンスは関係ないのです。そういう意味でもワ
ンセグを使わない手はないのです。
 しかし、ワンセグの普及に関しては、従来から携帯電話に搭載
されているネットアクセスの機能との兼ね合いで、「ネット接続
機能に比べれば、ワンセグは必需品ではないだろう」という人が
少なくないのです。それに呼応してか、一部の有力キャリアはワ
ンセグにはあまり熱心ではないのです。
 確かにケータイはあくまで電話であり、テレビは必需品でない
ことは確かです。しかし、ネット接続機能で便利なのは、メール
と乗り換え案内などの一部の機能であって、ウェブサイトの閲覧
は、たとえそれがケータイ・サイトであっても、もともと向いて
いないのです。それはケータイの画面サイズがあまりにも小さい
からです。それに結構お金もかかるからです。
 それに、音楽データやゲームソフトなどのダウンロードは、既
に述べたように、たとえ「パケットし放題」をつけても非常に高
く、無理してケータイでやる必要はないと思います。
 しかも、ある調査によると、「パケットし放題」をつけている
人でさえ、ネットにつなぐ頻度はせいぜい1日1回でしかないの
です。使っている人はごく一部の人なのです。
 しかし、テレビは違うのです。ケータイを持っていながら、ネ
ット接続はもちろんのこと、メールも通話さえもあまりやらない
人に私はワンセグケータイのテレビ映像を見せたら、それだけで
買いに行った人がいるのです。このように、ネット接続とテレビ
は明らかに違うことを認識すべきです。
 携帯電話にテレビは必要ないという人は、おそらく自らワンセ
グケータイを持っていないでしょう。テレビ付きの携帯電話の便
利さは持っていない人にはわからないものです。
 現在、最も情報が一番早く取得できるメディアは、テレビであ
ると思います。したがって、テレビを持ち歩いていると、即座に
情報を取得できます。ニュースから天気予報、プロ野球や相撲な
どの勝敗はネットでも知ることはできますが、テレビの方がはる
かに簡単で素早く、わかりやすく知ることができるのです。
 ワンセグケータイを持ってはじめて知ったことがあります。た
またま電車の中で、テレビでドラマを見たとき、そのセリフが画
面に文字で表示されたのです。聴覚障害者の文字放送番組ですが
番組数は結構多いのです。
 もちろん、テレビの音声はイヤーホンで聴くことができますが
そんなことをしなくても、画面だけ見ていても十分内容を掴むこ
とができます。今や携帯電話に付いている種々の機能のうち、テ
レビ機能は一番頻繁に使う機能になりつつあります。携帯電話の
常備機能になる可能性があります。 ・・・ [通信戦争/29]


≪画像および関連情報≫
 ・ワンセグに関る経費は・・?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  UHF電波を利用するため、テレビの視聴とデータ放送は無
  料である(但し、データ放送から詳しいコンテンツを受信す
  るために放送局とパケット通信する場合はパケット通信料が
  掛かる。この場合、画面にサーバー受信可否を問う画面が必
  ず表示される。)。従来のアナログ放送と異なり、移動時で
  も安定した受信が可能である事から、携帯電話などの携帯機
  器での受信や車載受像機が商品化されている。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月17日

EJバックナンバー「デジタルTV」(その6)

2003年4月14日に配信したEJ第1085号(全10回
連載の内第6回)を過去ログに掲載しました。
○ 東経110度CSの狙いは何か(EJ第1085号)
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2007年02月18日

EJバックナンバー「デジタルTV」(その7)

2003年4月15日に配信したEJ第1086号(全10回
連載のうち第7回)を過去ログに掲載しました。
○ TVは迎角30度、PCは傾角30度(EJ第1086号)
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2007年02月19日

竹中総務相対NTT和田の対決(EJ第2022号)

 今回のテーマは、業界の異端児といわれる孫社長を中心とする
ソフトバンクが日本の通信業界をどのように変えようとしている
のかについてここまで書いてきています。
 しかし、日本における通信戦争が今後どのように展開していく
か――その鍵を握るのは、やはりNTTの動向です。そこで、N
TTについての情報を整理して、話を先に進めることにします。
 NTTは、2004年と2005年の中間決算で、重大な発表
をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪2004年中間決算での発表≫
  ・現在の固定電話回線の約半分に当たる3000万回線の光
   ファイバーを2010年までに提供し、IP技術を使う次
   世代ネットワーク(NGN)を構築する。
 ≪2005年中間決算での発表≫
  ・次世代ネットワーク(NGN)は、NTT東西地域会社と
   NTTドコモが構築して、NTTコミュニケーションズに
   は法人営業やネット事業などを集約する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、NTTグループは、東西NTT地域会社2社とNTTド
コモ、NTTコミュニケーションズの4社をNTT持ち株会社が
統括する組織体制になっています。その組織の頂点に立っている
のは、和田紀夫NTT持ち株会社社長です。
 この体制がとられたのは1997年のことなのですが、この時
点で当のNTTがその後数年の間に起こった変化を的確に予測し
ていたかどうかは大変疑わしいのです。
 数年の間に起こった変化とは、2001年9月にソフトバンク
が火をつけたADSL――それが2002年には一気に花開いた
こと。続いて、ソフトバンクが仕掛けたIP電話サービス「BB
フォン」――ソフトバンクはこれによってNTT東西の収益源で
ある固定電話に揺さぶりをかけたのです。
 そして、携帯電話の国民一人一台化への急展開――これらの動
きに対してNTTが取った対応策は、いずれも後追いにしか見え
なかったのです。
 これほどの激変にもかかわらず、NTTグループは現体制を守
ろうとしているのです。しかし、現体制のままでこれからの変化
に挑もうとすると、大きな矛盾が起こることを当のNTTグルー
プの幹部――とくに持ち株会社の幹部が理解できていないように
思います。もう少し具体的にいうと、トップがIPネットワーク
というものを理解できていないのです。
 NTTグループは、「IP技術を使う次世代ネットワーク(N
GN)」をNTT東西地域会社が中心になって構築する」といっ
ているのです。しかし、IPネットワークには距離や地域の概念
がないのです。そういうネットワークに対して現体制で臨むとい
うことは、IPの世界に強引に地域制限を設ける――そういうこ
とになりかねないのです。
 2006年1月――そのNTTグループが最も恐れていた事態
が起こったのです。時の総務大臣である竹中平蔵氏が、次の私的
諮問機関を立ち上げたのです。この委員会は後に「竹中委員会」
と呼ばれるようになります。2006年1月20日のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  総務大臣諮問機関「通信・放送の在り方に関する懇談会」
―――――――――――――――――――――――――――――
 これについて、素早く反応したのはもちろん当のNTT持ち株
会社の和田社長です。和田社長は、竹中委員会の第1回会合の行
われる直前の1月18日に急遽記者会見を開き、次のように竹中
委員会を批判し、牽制したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在のNTTグループのフォーメーションは、固定電話が全盛
 だった時代の技術やサービスを背景としていますが、グループ
 の在り方を、竹中大臣の懇談会で論じてもらおうとは全く思っ
 ておりません。われわれの中期経営戦略を、むしろ政府にバッ
 クアップしていただける議論をぜひ展開してほしいと考えてい
 ます。           ――NTT持ち株会社和田社長
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中氏は総務大臣になる前から、「通信・放送業界は既得権者
が多すぎる」として、とくにNTTの独占体制を批判していたこ
とを和田社長は知っており、そうはさせないとして、懇談会が立
ち上がる前に素早く牽制したのです。しかし、それから数ヵ月後
に和田社長は竹中大臣の凄さを思い知ることになるのです。
 この竹中平蔵なる人物は毀誉褒貶の多い人ではありますが、小
泉政権の改革の旗頭といわれるだけあって、らつ腕の政治家であ
ることは間違いないといえます。とくにNTT問題に関しては、
総務大臣に就任してわずか一年以内にきちんと仕事を成し遂げて
いるのです。
 その竹中委員会が狙っていたのは、具体的には次のようなこと
なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTT持ち株会社を廃止し、東西NTT、NTTコミュニケー
 ションズ、NTTドコモを資本分離する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTT持ち株会社の和田社長が「冗談じゃない」と怒るのは当
然のことですが、NTTグループ以外の通信事業者など通信業界
のほとんどが、竹中委員会の結論には賛成だったのです。
 そのことを熟知している和田社長は、なりふりかまわず、政治
家へのロビー活動をはじめたのです。その相談に行った先は、参
議院自由民主党幹事長、片山虎之助議員なのです。片山議員は初
代の総務大臣を務めた人物であり、通信業界には隠然たる力を有
していたのです。         ・・・ [通信戦争/30]


≪画像および関連情報≫
 ・中期経営戦略の狙いは・・・/和田社長
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「新たなネットワークを作ることで、日本が抱える問題の解
  決に貢献したい。ネットワーク作りに必要な資金は、ブロー
  ドバンド(高速大容量通信)で、どこでもつながる『ユビキ
  タス』な環境を作り、新しいサービスで利益を上げて得てい
  く。いまのグループ体制で出来るだけやっていくのが我々の
  ビジョンだ。グループ内の役割を整理することで、効率化も
  図れる。NTTコミュニケーションズは長距離・国際通信で
  稼いできたが、IP化が進むと距離の概念がなくなり、通信
  網から収入は得られなくなる。だから、今後伸びるネット事
  業や、法人営業を集約する。相乗効果も期待できる。独占回
  帰とか、競争排除という話じゃない」
           ――2005年11月22日/読売新聞
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月20日

竹中委員会はどのように運営されたか(EJ第2023号)

 竹中委員会は何もかも異例づくめだったのです。その特異性を
まとめると、次の4つになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.総務省の官僚を委員にしないで、完全事務局化
   2.利害関係のある通信・放送業界も委員にしない
   3.メンバーは座長を含めて8人を竹中大臣が選出
   4.6ヶ月以内に一定の結論を出すと竹中大臣公言
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は、「総務省の官僚を委員にしないで、完全事務局化」し
たことです。
 大臣の諮問機関を作るには、大臣の担当する省庁が事務局にな
り、委員の人選から検討するテーマ、資料づくりなどを一元的に
行うのが普通です。こうすることによって、事務局といっても会
議の主導権が握れるからです。しかし、竹中委員会ではこうした
慣例は一切無視され、総務省は会議の日程を決めて委員に連絡す
ることや委員から要請のあった客観的資料の作成をするという文
字通りの事務局の役割をさせられたのです。
 第2は、「利害関係のある通信・放送業界も委員にしない」と
いうことです。
 委員にはNHKとNTTの幹部はすべて外され、これらの業界
に詳しい御用学者――いつも政府の委員会のメンバーになってい
る――も委員になれなかったのです。利害関係者が入っていると
議論が紛糾し、まとまらないからです。これは、誰でもわかって
いることですが、大臣によほどの度胸とリーダーシップがないと
できないことです。
 第3は、「メンバーは座長を含めて8人を竹中大臣が選出」し
たことです。
 メンバーを選定する前に竹中大臣は、この委員会の座長を決め
ていたはずです。座長は、竹中大臣が郵政民営化を成し遂げたと
きの盟友である東洋大学経済学部教授松原聡氏だったのです。お
そらく竹中大臣は松原教授と相談して他の7人のメンバーを選ん
だと思います。全メンバーは次の通りです。確かにこういう問題
を検討するのにふさわしいメンバーだと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
  久保利英明 ・・・ 弁護士
  菅谷  実 ・・・ 慶應義塾大学教授
  林  敏彦 ・・・ スタンフォード日本センター理事長
  古川  享 ・・・ 元マイクロソフト会長
  松原  聡 ・・・ 東洋大学教授(座長)
  宮崎 哲也 ・・・ 評論家
  村井  純 ・・・ 慶應義塾大学教授
  村上 輝康 ・・・ 野村総合研究所理事長
―――――――――――――――――――――――――――――
 第4は、「6ヶ月以内に一定の結論を出すと竹中大臣公言」し
たことです。
 この8人のメンバーに対し、竹中大臣は次のようにいい、6ヶ
月以内に結論をまとめるよう指示したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 通信と放送の融合を妨げているものは何かを突き止め、通信と
 放送のあるべき姿を描き出して欲しい。   ――竹中総務相
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中委員会の目的が外部に伝わると、通信・放送関係者はほっ
と胸をなで下ろしたといわれます。通信・放送業界全般のあるべ
き姿を描き出すなどという大きなテーマを6ヶ月以内という短い
期間で結論を出すなんて不可能と考えたからです。
 しかし、この予測は大きく裏切られるのです。竹中委員会は驚
くべきスピードで審議が重ねられ、2006年6月に最終結論が
出されたのです。念のため、竹中委員会の14回の会議の日を次
に示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    第 1回会合(平成18年1月20日(金)開催)
    第 2回会合(平成18年1月23日(月)開催)
    第 3回会合(平成18年2月 7日(火)開催)
    第 4回会合(平成18年2月21日(火)開催)
    第 5回会合(平成18年3月 9日(木)開催)
    第 6回会合(平成18年3月13日(月)開催)
    第 7回会合(平成18年3月22日(水)開催)
    第 8回会合(平成18年3月28日(火)開催)
    第 9回会合(平成18年4月11日(火)開催)
    第10回会合(平成18年4月20日(木)開催)
    第11回会合(平成18年5月 9日(火)開催)
    第12回会合(平成18年5月16日(火)開催)
    第13回会合(平成18年6月 1日(木)開催)
    第14回会合(平成18年6月 6日(火)開催)
―――――――――――――――――――――――――――――
 それぞれの会合で何が議論されたかを知りたい方は、グーグル
で次のキーワードで検索すると、トップに表示されます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   キーワード:通信・放送の在り方に関する懇談会
―――――――――――――――――――――――――――――
 第14回会合の終了後、竹中委員会は次の結論を公表していま
す。それは、明らかにNTTの現体制の大改革を時期を付けて主
張しているといってよいでしょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2010年には通信関連法制を抜本的に見直して、NTT持ち
 株会社の廃止などを含む検討を速やかに始めるべき
―――――――――――――――――――――――――――――
 この結論が出されるまで、NTT持ち株会社の和田社長は片山
虎之助議員を何度も訪ねて裏工作を重ねたのですが、委員会の論
調を弱めることはできなかったのです。・・ [通信戦争/31]


≪画像および関連情報≫
 ・竹中委員会は「NTT解体を目指すものではない」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  松原教授は2006年2月21日の竹中懇談会の内容を受け
  て一部の新聞が「懇談会がNTTを解体方針」と報じたこと
  に「誤解が生じている。大胆な改革が必要だが,NTTの解
  体を目指すものではない」(松原教授)として議論の趣旨を
  説明した。「96年にNTTの現在の形態が決まってから既
  に10年が経過している。持ち株会社を廃止して,現在の東
  西NTT、ドコモ,NTTコミュニケーションズをそれぞれ
  個別の会社にすればいいというものでもない。県内と県外や
  固定と携帯を分けて置くことがFMCの時代に意味があるの
  か」と述べた。
  http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060222/230382/
  ―――――――――――――――――――――――――――
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2007年02月21日

竹中委員会ではどんなやり取りがあったか(EJ第2024号)

 竹中委員会は、通信・放送関係の利害関係者を委員にしなかっ
といっても、彼らの意見を聞かなかったわけではないのです。全
部で14回にわたる会合の中で、ヒアリングと称して何回も意見
を聞いているのです。
 各会合における委員たちの討議の模様は、非公開になっている
のでわかりませんが、ヒアリングは公開されています。一体どの
ようなやり取りがあったのか――2006年3月22日の第7回
会合の中でのやり取りの一部をご紹介しましょう。
 この日は通信事業者3社のトップ――NTTの和田社長、KD
DIの小野寺社長、ソフトバンクの孫社長が顔を揃えており、激
しいやり取りが行われたのです。
 小野寺、孫両社長が、「NTTの固定電話網は国民のもの」と
しきりにいうことにいらだった和田社長は、次のように反論した
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 電電公社時代の資産はすでに株式にして国に返しているし、光
 ファイバは民営化後しばらくしてから本格的に着手したもので
 す。したがって、電話網を国民のものというのはやめていただ
 きたい。今は株主のものです。        ――和田社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対してソフトバンクの孫社長は、すぐに次のように反論
したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府保証債で構築したネットワークをベースに光ファイバへ張
 り替えている以上、そのネットワークは国民のものではないで
 すか。それを「国民のものというな」というような社長が運営
 している会社に、21世紀のインフラを任せていいものでしょ
 うか。                    ――孫社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 孫社長の鋭い切り込みに和田社長が少しひるんだときに、もう
ひとつの意見が飛んだのです。それは、竹中委員会の松原聡座長
だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 株式会社だ、株主だといわれるけれど、NTTは政府設立の株
 式会社ですからね。             ――松原座長
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTT対競合事業者の対決の構図です。竹中委員会としては、
こういう対立構図を浮かび上がらせる演出をしているのです。
 続いて、光ファイバーの話に移ります。ここでは、KDDIの
小野寺社長が次のように主張します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 光ファイバで電柱が開放されているというが、NTTグループ
 と同じ手続きのスピードでは使えず、競争性がないことは明ら
 かです。ソフトバンクやKDDI、電力系NCC、CATVの
 収益まで合わせてもNTT東日本1社に及ばないほど強大な市
 場支配力をNTTグループは持っているのです。NTTは資本
 分離すべきです。NTTは持ち株会社が司令塔として動き、暴
 挙に出ている。99年のNTT再編の法律趣旨に反しており、
 素人目に見ても脱法行為そのものですよ。  ――小野寺社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTT持ち株会社の和田社長を前にしての発言です。NTTに
とってはまさに針のむしろです。続いて、ソフトバンクの孫社長
も次のようにNTTを追い詰めます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私ども競争したがりのソフトバンクが、これほど意欲を持って
 いながらも光ファイバでは戦えない状況にあるんです。光ファ
 イバは民間が運営するユニバーサル回線会社として独立すべき
 だと思います。現在、NTTは5000円程度で光ファイバ回
 線を開放していますが、我々の計算では、ユニバーサル回線会
 社で光回線を整備すれば、1回線につき月額690円で実現で
 きますよ。                  ――孫社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 まさにNTTへの集中砲火です。さらに孫社長は、2010年
までに3000万回線を引くというNTTグループの計画に関し
ても次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTTが日本中の家庭に光ファイバを提供できるならば、それ
 は1つの選択肢だろうと思います。しかし、独走態勢にありな
 がらも2010年までに3000万回線しか敷設しない。収益
 性のある場所にしか引かない。できれば競争相手にも貸したく
 ないというNTTには任せられないです。    ――孫社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 最後に、松原座長が「NTTグループが資本分離することで、
ユーザーにデメリットが生じるのではないか」と質問したところ
小野寺社長と孫社長は次のように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小野寺社長:短期的にはでデメリットもあるだろうが、長期的
       に見れば、事業者間競争によって国民にも十分メ
       リットはある。
 孫  社長:短期でも長期でもユーザーにメリットはある。競
       争はより安くいい性能のものを提供すること。競
       争が困るというのはNTTだけである。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、NTTグループは一方的な袋叩きです。タフネゴ
シエーターで鳴らす和田社長もほとんど防戦一方で、サンドバッ
ク状態です。このままではいけない、潰される――片山虎之助議
員の力を借りて何とかしなければ、と和田社長は考えたのです。
 この頃から新聞各紙は、「NTT経営形態見直しで一致」(日
本経済新聞)や「完全民営化を視野にNTT組織見直し」(毎日
新聞)の記事を出しはじめたのです。・・・ [通信戦争/32]


≪画像および関連情報≫
 ・中期経営戦略についての和田社長の見解
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中期経営戦略はNTT独占体制への回帰ではないかという意
  見があるが、中期経営戦略は、ユーザーニーズへの対応の緊
  急性を考慮して、現行法の枠組みの中で最も早く次世代ネッ
  トワークを構築するための手段である。構築した次世代ネッ
  トワークに関しては、NTTグループと競争事業者でも同等
  の接続条件を担保し、オープンなビジネスモデルを推進する
  方針である。
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月22日

竹中が執念でとった政府与党合意(EJ第2025号)

 参議院自民党の片山虎之助議員は、初代の総務相ということも
あって、通信・放送分野で隠然たる力を持っていたのです。彼は
自民党の「電気通信調査会/通信・放送高度化委員会(片山委員
会」の委員長を務めており、この委員会で通信・放送分野の改革
を議論していたのです。
 竹中委員会は、総務相の私的諮問機関に過ぎず、そこでいくら
革新的な内容がまとまっても片山委員会の合意が得られないと、
単なる絵に描いた餅に終わる恐れがあったのです。
 竹中委員会ではさんざんな目に遭っているNTT持ち株会社の
和田社長も、片山議員に頼めば何とかなるという思いがあり、足
繁く片山議員のところに通っていたのです。その水面下の根回し
があったからこそ、和田社長もあれほど竹中委員会で叩かれなが
らも、次のような強気の発言ができたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTTの資本分離なんてするつもりはありません。竹中さんの
 懇談会で議論していただくのは結構ですが、われわれが受入れ
 られないものには、断固として反対意見を申し上げていく。規
 制緩和をお願いしてきたのに、こんな展開になり、戸惑ってい
 るわけです。                ――和田社長
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中平蔵総務相(当時)はこう考えていたのです。私的諮問機
関でまとめた結論に実効性を持たせるには、その内容を「骨太方
針」に反映させることである――これは閣議決定と同様の実効性
を持たせることになるからです。そのためには、同じ問題を検討
している片山委員会の合意が必要なのです。つまり、政府与党合
意という「伝家の宝刀」が必要であると考えたのです。
 竹中委員会と片山委員会では、NTTの組織問題をどうしよう
としているのか、その違いはどこにあるのでしょうか。このこと
を明らかにする必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪竹中委員会≫
  2010年には通信関連法制を抜本的に見直して、NTT持
  ち株会社の廃止などを含む検討を速やかに始めるべき
 ≪片山委員会≫
  拙速に結論を出すべきではなく、2010年ごろにNTT法
  などの関連法令の改正を検討すべき
――――――――――――――――――――――――――――−
 2つを比べてはっきりしていることは、片山委員会の方針は、
NTT組織問題は先送りしようとしていることです。時期を「2
010年ごろ」としていますが、「ごろ」が曲者なのです。この
表現なら2010年に検討をはじめなくてもよいからです。
 これに対し、竹中委員会は、通信関連法制は2010年と明確
に期限を切り、NTTの組織問題については「速やかに」行うべ
きとしています。したがって、その差は大きいのです。
 この差を埋めるために竹中総務相は信じられないパワーを発揮
したのです。それは、毎日のように片山議員のところに赴き、調
整を試みたのです。官僚から見ると、大臣は偉い存在であって、
軽々しく出向くことなどとんでもない。事前に官僚が下話をして
話を煮詰め、最後に大臣が出向くというスタイルをとるべきだか
らです。だから、決定が遅くなるのです。
 しかし、竹中総務相はそもそも大臣を偉いなどと考えておらず
問題を解決するために毎日片山議員のところに出向いたのです。
これに対して片山議員は、政治経験が豊富であり、自分が総務相
という地位にあったこともあり、大臣という地位はそれなりの重
みがあると思っていたのです。その自分よりも地位が上の総務相
が毎日のようにやってくるのですから、それによって、相当のプ
レッシャーを感じていたのです。しかし、片山議員は次のように
いっていたんです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は2つの案で合わないところは合わないままでいいと思って
 いるけどね。政策を決めるのは政府と与党で、最終的に法律を
 変えるには国会の承認が必要。大臣の私的な懇談会に過ぎない
 竹中懇談会と中身を同じものにする必要なんてないんだから。
        ――日経コミュニケーションズ編の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 「竹中大臣のいっていることにも正論の部分がある」――最終
局面において、片山議員はこのような言葉をいうようになってき
たのです。そして、遂に6月20日、何回もの折衝のすえにNT
Tの組織問題について次の合意にこぎつけたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2010年の時点で検討を行い、その後速やかに結論を得る
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府与党合意には片山だけでなく、当時の内閣官房長官の安倍
晋三、政務調査会長の中川秀直、そして自民党電気通信調査会長
の佐田玄一郎の直筆の署名と印鑑が押してあったのです。
 これによって、NTTの組織問題を含めた検討が2010年に
開始することが政治的に約束されたことになるのです。単なる総
務省の私的諮問機関で出した結論が政治的な意味を持ったといえ
ます。竹中の執念ともいえる合意の取りまとめといえます。
 このような合意がとれるとは思っていなかった松原座長は次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 正論を押し通すのか、それとも与党の主張に妥協するのか、す
 ごく悩んだけど、どうせ自民党と合意できないなら正論を通そ
 うと思ったんだよ。            ――松原聡座長
―――――――――――――――――――――――――――――
 結果として、正論で押しまくった竹中総務相の勝利というべき
結果だったのです。        ・・・ [通信戦争/33]


≪画像および関連情報≫
 ・竹中委員会の政府与党合意の全文
  ―――――――――――――――――――――――――――
  高度で低廉な情報通信サービスを実現する観点から、ネット
  ワークノオープン化など必要な公正競争ルールの整備等を図
  るとともに、NTTの組織問題については、ブロードバンド
  の普及状況やNTTの中期経営戦略の動向などを見極めた上
  で2010年の時点で検討を行い、その後すみやかに結論を
  得る。
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月23日

総務省が変身しようとしている(EJ第2026号)

 1985年から87年にかけて、政府は「3公社」を次々と民
営化していったのです。3公社とは次の3つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   日本国有鉄道   ・・・・・ JRグループ
   日本専売公社   ・・・・・ 日本たばこ産業
   日本電信電話公社 ・・・・・ NTT
―――――――――――――――――――――――――――――
 このうち、日本電信電話公社の民営化を担当したのが、「第二
行政臨時調査会」です。この調査会では、1982年の時点で、
日本電信電話公社については、組織分割が必要であるとして、次
の結論を出していたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 電電公社ほどの独占性と巨大さと併せ持った公社を民営化する
 なら分割するのが当然である。   ――第二行政臨時調査会
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、民営化する直前になって、分割は当面見送りになり、
「組織を民営化後、5年以内に見直す」という条件がNTT法に
明文化されたのです。このようにして、1985年に日本電信電
話公社は民営化されたのです。
 ところが、民営化してから5年後の1990年にはNTT分割
論は本格化せず、見直し規定は延長されたのです。そして、さら
に5年後の1955年、郵政省での大議論のすえ、1997年に
現在の組織形態になったのです。
 議論はNTTのすさまじい抵抗でなかなかまとまらなかったの
ですが、苦肉の策として持ち株会社制の導入によって決着がつい
たのです。そのとき、決着の条件としてNTT側から持ち出され
たのが、組織見直し規定の事実上の廃止です。
 どういうことかというと、今後郵政省(現総務省)はNTTの
組織問題には口を出さないという暗黙の了解です。その後、長年
にわたって、この暗黙の了解が総務省がNTTの組織問題を持ち
出すことを縛ったのです。
 その長年のタブーを破ったのが竹中総務相(当時)なのです。
彼はNTTと総務省の暗黙の了解を無視して、NTT組織改革に
向けて信じられないスピードでダッシュしたのです。
 竹中委員会発足の時点で、2006年9月には小泉首相と一緒
に引退することを決めていた竹中総務相は自分がいなくなった後
もNTT組織問題が前進する担保として次の2つのことが必要で
あると考えたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.NTT改革案を実効性のあるものにしておくこと
  2.自分の後任の総務大臣について配慮しておくこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 1に関しては、昨日のEJで述べたように、NTT改革案に関
して政府与党合意を取り付けて実効性を持たせることに成功して
います。政府与党合意は、政府の経済財政運営の基本方針「骨太
方針2006」に盛り込まれて、政府として検討することが明確
に決まったことになります。
 しかし、肝心の竹中総務相がいなくなれば、この政府与党合意
文書を生かすも殺すも、竹中の後任の総務大臣しだいということ
になります。もし、総務大臣にNTT派が選ばれると、竹中委員
会の努力は水泡に帰してしまうことになります。
 しかし、驚くべきことに竹中総務相はこれにも手を打っていた
のです。それは、竹中の下で総務副大臣を務め、すさまじいNT
T派の圧力にも屈せず、竹中総務相を助けた菅義偉副大臣を後任
の総務省としてしかるべき筋に推薦していたのです。これが2の
対策です。
 小泉政権を引き継いだ安倍首相は、小泉の改革路線を継承する
とし、菅を総務大臣に任命したのです。管総務相は、就任挨拶で
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中大臣の下で副大臣として、懇談会(竹中委員会)にも毎回
 出席して、一緒に方向性を出してきた。竹中さんが決めたこと
 は『政府与党合意』にしっかり書いてある。広範なテーマを一
 気にやるわけだから、大変なエネルギーが必要だけれども、着
 実に形にしていくつもりだ。         ――菅総務相
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここまで竹中委員会の話をしてきましたが、この委員会の発足
より前に総務省はもうひとつ、懇談会を設置し、竹中委員会と平
行して審議を積み重ねてきているのです。その懇談会は「IP懇
談会」と呼ばれてきたのですが、正式名称は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会
―――――――――――――――――――――――――――――
 この懇談会の構成メンバーは13人ですが、竹中委員会のメン
バーの林敏彦氏も入っています。この懇談会は、総務省が「通信
政策や制度の大幅見直し」のために立ち上げたもので、竹中総務
相の就任が明らかになる3日前の2005年10月28日からは
じまっています。
 IP懇談会については長くなるのでEJでは取り上げないが、
どういう内容が検討されたのかを知りたい方は、上記の長い懇談
会面をグーグルの検索窓に入れて検索すると先頭に出てきます。
 当初IP懇談会では、NTT組織問題を俎上に載せたいと考え
ていたのですが、竹中が総務相になってから、竹中委員会がスタ
ートし、そちらで組織問題をはじめたので、それに合わせるかた
ちで議論を進めてきています。
 いずれにせよ、2010年に向かって、日本の通信業界は大き
な局面を迎えます。通信事業者は従来の電話網からIPネットワ
ークへの移行を進めるからです。  ・・・ [通信戦争/34]


≪画像および関連情報≫
 ・竹中総務相の後任の菅総務相
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の情報通信の技術力は本当に素晴らしい。GDPの成長
  分野に占める情報通信の割合は4割に上る。自動車産業と並
  ぶ産業になってもおかしくない。国際競争に打ち勝てる総合
  戦略を考えるつもりだ。          ――菅総務相
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月24日

EJバックナンバー「デジタルTV」(その8)

2003年4月16日に配信したEJ第1087号(全10回
の内第8回)を過去ログに掲載しました。
○ BS/東緯110度CSの言語BML(EJ第1087号)
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2007年02月25日

EJバックナンバー「「」 EJバックナンバー「デジタルTV」(その9)

2003年4月17日に配信したEJ第1088号(全10回
連載の内第9回)を過去ログに掲載しました。
○ 地上波デジタルは本当に成功するのか(EJ第1088号)
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2007年02月26日

KDDI首都圏の光ファイバー網を確保(EJ第2027号)

 このテーマになってからのEJブログの一日の総ページピュー
は上昇しています。一日1000回以下の日は1月は3日、2月
になってからも3回のみ――いずれも900回台でほとんど毎日
1000回以上を記録しています。2月21日には2510回を
マーク−−それだけ多くの方に読まれているということになりま
す。したがって、中途半端では終われなくなっています。
 ここまでソフトバンクとNTTを中心に書いてきたのですが、
今後の通信戦争を考えるとき、NTT対抗軸の最右翼に位置する
KDDIについても知っておく必要があります。NTTを追撃す
る先頭にいるといっても、NTTの連結売上高が10兆円である
のに対し、KDDIはせいぜい3兆円であり、収益規模の面では
KDDIはNTTに圧倒されているのです。
 そのKDDIの社長である小野寺正氏の口ぐせは「NTTから
自由になりたい」ということ――これは小野寺氏の夢なのです。
その意味は、NTTのネットワークに頼っている限り、われわれ
はNTTの基盤の上でしかサービスを展開できない――だから、
NTTから自由になりたいということなのです。
 そのKDDIは、2006年10月12日の夕刻、小野寺社長
のその夢の実現に一歩を大きく踏み出したのです。それは、一年
間にわたる交渉のすえ、KDDIに東京電力の光ファイバー事業
を統合することが正式に決まったからです。
 光ファイバーはユーザの自宅まで線を引き込まなければならな
いのです。しかし、KDDIはNTT東西地域会社のように電柱
をはじめ地下トンネルであるとう道や管路を持っていないため、
ユーザー宅まで光ファイバーを引こうとすると莫大な投資と時間
がかかってしまうのです。
 NTT東西の光ファイバーを借りる手もありますが、それでは
とてもNTTと勝負にならないのです。この事情はKDDIだけ
ではなく、ソフトバンクも同じ状況にあるのです。しかし、NT
T東西は目下急ピッチで光ファイバーを引いている――何か打つ
手はないかと小野寺社長は考えたのです。そして目につけたのが
東京電力の光ファイバーだったのです。
 東京電力の光ファイバー事業を統合したことによってKDDI
は、東京電力管内だけとはいえ、首都圏という日本最大の消費地
域において、膨大な規模の光ファイバー網を手に入れたことにな
ります。これでKDDIは、首都圏においてはNTTとまともに
戦える状態にになったといえます。
 KDDIは、光ファイバーと携帯電話を組み合わせた「FMC
サービス」や、家庭内の電灯線を使って通信する「高速電力線通
信」を組み合わせて、NTT東西とは一味違うサービスを提供し
て首都圏でのシェアを30%確保することを目標にしています。
 しかし、KDDIは自前のインフラを手に入れたことにより、
新たなリスクが生じたという見方があります。なぜなら、東京電
力の光ファイバー事業はこの3年間で、数百億円規模の赤字――
2004年度は306億円、2005年度は358億円――を出
しているからです。
 しかし、KDDIは業績が好調な携帯電話事業を抱えており、
それと連携するかたちで光ファイバー事業を進めれば、十分事業
を発展させることが可能です。KDDIとしては携帯電話事業に
特化させた方が高収益体質を作れることは確かですが、携帯電話
事業の今後のあり方を考えるとき、自前のインフラを持つことは
携帯電話事業を発展させるうえでも不可欠なのです。
 しかし、KDDIには別の意味のリスクもささやかれているの
です。それは、東京電力の光ファイバー事業を統合するさいの過
程で出てきたリスクなのです。
 実はKDDIは、東京電力の光ファイバー事業を統合するちょ
うど一年前に東京電力と包括提携を結んでいたのです。しかし、
そのとき決まっていたのは、東京電力の通信子会社である「パワ
ードコム」をKDDIが吸収合併することであり、光ファイバー
事業は東京電力とKDDIが協業するということだったのです。
 ところが、パワードコムの買収において、交渉は難航していた
のです。それは、パワードコムの企業価値の算定において、KD
DIの望む買収額と東京電力の売却額には大きな開きがあったか
らです。何回交渉を重ねてもこの開きは一向に縮まらず、合併は
破談寸前までいったのです。小野寺社長としては、社内には合併
反対勢力もおり、簡単に買収額を下げられなかったのです。
 この事態を憂慮した東京電力の交渉担当のトップは、東京電力
の勝俣社長に交渉の状況を説明し、援助を仰いだのです。勝俣社
長は、直ちに小野寺社長と連絡を取り、トップ同士の交渉をはじ
めたのです。そして、交渉は急転直下まとまったのです。
 トップ会談で何が交渉されたかは不明ですが、東京電力はパワ
ードコムを高めに売却する代わりに、光ファイバー事業を差し出
したのではないかといわれています。複数の証券アナリストの意
見をまとめると、株式交換の比率とKDDIの株価から算定する
と、パワードコムの株価は明らかに高く評価されていたといって
います。
 もともとKDDI社内には、東京電力との提携には消極的なグ
ループがおり、交渉は小野寺社長の社長権限による決断で決まっ
たのです。したがって、もしこれによってKDDIの業績が落ち
るようなことがあると、小野寺社長の責任問題にも発展する恐れ
があります。これが、東京電力との交渉の過程で生じたKDDI
のリスクというわけです。
 東京電力との関係強化によって、東京電力はKDDIの持ち株
比率を増やし、京セラ、トヨタ自動車に続く第3位の株主に浮上
します。この株主構成の変化がKDDIの意思決定にどのような
影響を与えるかが不透明である――こういう指摘をする専門家も
いるのです。いずれにしても小野寺氏は社長の在任期間が長く、
2005年6月からは会長も兼任しており、権力が小野寺社長ひ
とりに集中し過ぎているとの批判もあり、社内は一枚岩になって
はいないのです。         ・・・ [通信戦争/35]


≪画像および関連情報≫
 ・KDDIとパワードコムの合併比率
  ―――――――――――――――――――――――――――
  KDDIとパワードコムの合併比率は、KDDIが1に対し
  てパワードコムが0.0320で、合併に伴い発行する新株
  式数は、普通株式が18637648株。ただしKDDIが
  保有するパワードコム株式9897.34株については、合
  併に際してもKDDIの株式を割り当てない。合併終了後の
  東京電力の出資比率は4.81%となる。
  http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2005/10/13/9470.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月27日

東京電力はなぜ光事業に失敗したのか(EJ第2028号)

 電力会社にとって通信事業は長年のやるべき課題だったはずで
す。とくに光ファイバー事業は、今後の電力会社の発展の基礎と
なるべき重要なビジネスであり、20年の歳月を費やしてここま
でやってきたのです。それなのに東京電力はなぜ成功させること
ができなかったのでしょうか。
 2006年10月12日、KDDIと東京電力の緊急記者会見
の席上、東京電力の勝俣社長はそれについて見解を求められ、次
のように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  二点あります。一つは、最初の出だしの部分、オール電力で
 総力を挙げ、全国でサービス提供しようと思っていたが、いろ
 いろな要因で提供エリアが地域に限定された。
  二つめはやはり私どもの力のなさ、力が不足していた。技術
 革新なども含めスピードについていけなかった。
  ただ、最終的には(東京電力の通信事業への投資は)十分ペ
 イしているという認識であります。
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうして東京電力の光ファイバー事業はうまくいかなかったの
でしょうか。
 東京電力の競合相手は、事実上NTT東西とUSENの2社と
いうことになります。KDDIやボーダフォン(ソフトバンク)
をはじめとする他の通信事業者はNTT東西から回線を借りて営
業しているので、NTT東西陣営ということになるからです。
 2006年3月末時点の光ファイバー市場のシェアは次の通り
となっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     NTT東西  ・・・・・ 62.6%
     電力系事業者 ・・・・・ 15.8%
     USEN   ・・・・・  8.7%
     その他    ・・・・・ 12.9%
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかも、NTT東西の62.6%という圧倒的なシェアは、2
005年末から3ヶ月でシェアは約2%も増加しており、さらに
拡大する傾向があるのです。
 どうして、NTT東西が圧倒的に強いのかというと、それは、
NTTの圧倒的な資金力に基づく営業力にあります。それは、次
の3つの点に集約されます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.業務フローや工事体制の大幅なる改善
     2.魅力的インセンティブによる販売施策
     3.豊富な資金をふんだんに使う広報施策
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「業務フローや工事体制の大幅なる改善」です。
 現在、NTT東西は光ファイバーの工事を受けた時点で工事を
その場で決められる「即決システム」を導入しています。その期
間も申し込みから開通までは1ヶ月から1ヶ月半であり、かつて
の数ヶ月待ちはなくなっています。それに工事の初期費用が無料
は当たり前のことになっています。
 第2は「魅力的インセンティブによる販売施策」です。
 NTTは光ファイバーにすべてをかけており、量販店に支払う
光ファイバーのインセンティブは一契約10万円が相場という話
まであります。光ファイバーはいったん敷設してしまうと、他に
乗り換えにくいことから、とにかく潤沢な資金を使って契約獲得
に全力を上げているのです。
 第3は「豊富な資金をふんだんに使う広報施策」です。
 とにかくテレビCMが凄いです。NTT東日本はSMAP、N
TT西日本はイチローを使うなど大物を起用してのCM攻勢――
電力系通信事業者は手も足も出ないでしょう。テレビCMを見て
いる限り、光ファイバー事業をやっているのはNTT東西だけと
いうイメージさえできてしまいます。
 これら3つのことに加えて、これもテレビCMの効果と思われ
るものが、IP電話サービスの「光電話」のセット率が80%で
あることです。これによって、固定電話の収益は低下するのです
が、NTT東西が一番恐れているのは他社にとられることであり
それを防ぐためには仕方がないという考え方です。
 NTT東西は「トリプルプレイ」に力を入れており、それをテ
レビCMでSMAPにいわせているのですが、この「トリプルプ
レイ」は業界用語なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ≪トリプルプレイ≫
     1.インターネット接続
     2.IP電話サービス ―― ひかり電話
     3.映像サービス   
―――――――――――――――――――――――――――――
 この強力なるNTT東西に対抗するには、電力系通信事業者と
しては、最初からオール電力でやるしかなかったのです。東京電
力の勝俣社長はそれをいっていたのです。
 しかし、ここでKDDIが東京電力の光ファイバー事業を手に
入れたことにより、電力系通信事業者としてNTTに対抗する新
たな道が開けてきていると思います。東京電力以外の電力系通信
事業者はKDDIと組む気はあるのでしょうか。
 NTT東西から見れば、KDDIは強敵です。ケータイ事業に
おいても追い込まれており、少なくとも電力系事業者相手よりは
戦いにくいところがあります。したがって、何とかして早く30
00万回線を達成したい――そうしたら、もはやNTTに誰も対
抗できなくなってしまいます。現在のNTT東西の勢いで突っ走
ると光ファイバー3000万回線敷設は、しだいに現実のものと
なりつつあるのです。       ・・・ [通信戦争/36]


≪画像および関連情報≫
 ・NTT東日本のフレッツひかりのCM
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ひかり中学校、ある日の放課後。野球部が校庭で練習をして
  います。その様子を見守る野球部顧問中居先生と古田監督。
  中居先生は、フレッツ光について話す機会をうかがっていま
  す。「やっぱりパソコン買ったらすぐ光に申し込むのが便利
  ですよね」と言おうとしますが、タイミング悪く監督の熱血
  指導が入ってしまいます。結局、監督は益々指導に力が入り
  中居先生はその姿に終始圧倒され続け、フレッツ光について
  話せませんでした。その後、パソコンを買ってすぐフレッツ
  光に申し込む中居先生の姿が・・・。
  http://www.ntt-east.co.jp/gallery/tv/cm_flets.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月28日

地方の光ファイバーをどうするのか(EJ第2029号)

 東京電力の光ファイバー網を手に入れたKDDIは、今後どの
ようにしてNTTと戦っていくつもりなのでしょうか。
 まず、首都圏以外の地方はどうするかです。もちろん、地方に
ついては、NTTを利用する方法はあるのですが、KDDIが、
NTTを超えようと考えるのであれば、当のNTTから回線を借
りていたのでは、いつまでもそれは実現しないことになります。
 NTTに頼らないのであれば、東京電力以外の電力系通信事業
者から回線を借りなければなりません。これについて、KDDI
は既に手を打っており、法人向けの光ファイバーについては、ほ
とんどの電力会社と合意しているといいます。
 実はKDDIがパワードコムを吸収合併したとき、電力系通信
事業者で構成している「パワーネッツ・ジャパン」(PNJ)は
KDDIを警戒していたのです。それは、PNJとパワードコム
の間に交わされていた不文律の「ある約束」の履行が危ぶまれた
からです。「ある約束」とは次のようなものであり、パワードコ
ムはそれを履行していたのです。
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 パワードコムが全国でWANサービスを提供する際は、電力系
 通信事業者のアクセス回線を優先的に使う。
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
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 PNJが警戒したのは、パワードコムを吸収合併したKDDI
はその約束を守らないのではないかと考えたのです。なぜなら、
NTT東西の光ファイバーの料金の方が格段に安かったからで、
KDDIはコストのことを考えて、今までパワードコムが使って
いた電力系通信事業者まで、NTTに切り替えるのではないかと
危惧したのです。
 しかし、小野寺社長は、今までパワードコムが使ってきた通信
事業者は従来通り使うことを保証し、NTT東西と電力系を使い
わけるのは、新規に受注した分だけであるとする方針を出して、
PNJを安心させたのです。これで、KDDIとPNJの関係は
友好的なものになり、KDDIの地方戦略は、かなり進めやすく
なったといえます。
 しかし、電力系通信事業者は法人向けの事業ではKDDIと協
業するが、一般消費者向けの光ファイバー事業は何としても守ろ
うとする――これが基本的なスタンスです。
 関西電力の傘下に、ケイ・オプティコムという通信事業者があ
ります。関西一円に幅広く光ファイバーの提供エリアを広げてお
り、電力系通信事業者の中では、最も多くのユーザーを抱えてい
る事業者です。関西電力としては、現在のところ、KDDIに光
ファイバーをアクセス回線として卸すことはあっても、事業統合
までは考えていないといっています。
 しかし、電力系通信事業者は、このケイ・オプティコムを含め
て、親会社の支えなしでやっていけるところは皆無の状況なので
す。したがって、東京電力の決断を見て密かに統合を検討する業
者も今後出てくることは十分考えられるのです。
 電力系通信事業者の中には、ソフトバンクの持つADSL網に
関心を示すところもあります。やがて、ソフトバンクのADSL
のユーザが光ファイバーに置き換わる可能性に魅力を感じている
ものと思われます。
 このように、法人向けについては既に電力系通信事業者と良好
な関係を築きつつあるKDDIですが、一般消費者向けに関して
はどのように考えているのでしょうか。
 それは、KDDIのケーブル事業推進室長藤本勇治氏の次のコ
メントの中に答えはあると思います。
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 電力会社と協力できたとしても、光ファイバーのエリアは大都
 市の近辺に限られる。約5000万世帯に引き込んでいる東西
 NTTの電話網には及ばないとはいえ、CATV網は4000
 万世帯に行き届いている。         ――藤本勇治氏
         ――日経コミュニケーション編の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、CATV事業者は、多チャンネルテレビ放送とインター
ネット接続サービスを提供していますが、IP電話までは提供で
きないでいます。しかし、NTT東西は、光ファイバー1本で、
動画配信とインターネット接続サービス、それに光電話のトリプ
ルプレイを既にやっているのです。このNTTによるブロードバ
ンドを利用しての動画配信は、CATV会社の本来領域であり、
NTTに自分の庭への侵入を許していることになります。
 CATV業者にとってこれは重大問題です。米国のCATV事
業者は、トリプルプレイに携帯電話を加える形態――クワドロプ
ルプレイまたはグランドスラムのサービスを提供しはじめている
のです。CATV事業者として、強力な携帯電話事業auを持つ
KDDIとの提携に魅力を感じても不思議はないでしょう。
 CATV事業者として忘れてならないのは、J:COMです。
J:COMは2000年以降、CATV会社を次々と買収し、現
在、多チャンネル放送サービス加入者数シェアで35%(212
万世帯)を占める存在です。
 J:COMは今のところKDDIなどとの提携を匂わしていま
せんが、状況しだいでメリットがあればどことでも――たとえN
TTとでも組むといっているのです。ただ、もし、J:COMが
KDDIと組むという事態になると、電力系通信事業者は本気で
それに合流することを躊躇しないだろうとある電力関係者はいっ
ているのです。なぜなら、これほど強力な対NTT対抗軸はない
からです。
 当然のことですが、すべてはNTTがどう出るかなのです。N
TTが3000万回線を達成する前にNTTに対して強力な対抗
軸を作らないと、光ファイバーにおいてNTTの完全独占を許し
てしまうことになるのです。    ・・・ [通信戦争/37]


≪画像および関連情報≫
 ・J:COM/森泉知行社長
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  「我々は放送、インターネット、固定電話の三つのサービス
  をやっている。こうした『トリプルプレー』のサービスが世
  界的な放送通信業者の主力になりつつある。これまではケー
  ブルテレビ局がインターネットなど通信の領域に攻めていっ
  たが、NTTのような通信会社はテレビのサービスを始めよ
  うとしているし、競争は厳しくなっている」。
  「ケーブル局は600ぐらいあり、非常に細分化されている
  が、地域独占の壁はなくなりつつある。大手通信会社が本格
  的に放送に参入する前に、ケーブル局の合従連衡(による経
  営基盤の強化)は避けられない。我々も買収を繰り返し、日
  本のケーブル局では一つだけ大きく突出しているが、まだ効
  率的ではない」。
  http://www.yomiuri.co.jp/net/interview/20050908nt05.htm
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posted by 平野 浩 at 04:45| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする