しょうか。
それは、タミーノの大地の試練のすぐあとで行われているので
す。楽曲ナンバー13「モノスタトスのクープレ」(EJ第19
50号参照)です。
場面は心地よい庭園で時間は夜です。薔薇とさまざまな花壇の
あるところにパミーナは眠っています。薔薇は女性のフリーメー
ソンの入信式のシンボルなのです。女性フリーメーソン結社につ
いては『魔笛』と関係があるので、改めて述べることにします。
夜はそのまま「反省の部屋」になり、夜はパミーナの母親の王
国です。そこに大地の化身であるモノスタトスが登場し、眠って
いるパミーナに対し、「これほどの魅力に鈍感でいられる男はい
ない」と歌い、パミーナを自分のものにしようとします。
そうすると、奈落(大地)から夜の女王が姿をあらわし、モノ
スタトスを追い払うのです。夜の女王は、目を覚ました娘に対し
省略されることの多い例の打ち明け話(EJ第1947号参照)
をするのです。そして、短刀を渡してザラストロを殺せと娘に命
令します。
短刀を手にして思案にくれているパミーナのところに再びモノ
スタトスがあらわれます。夜の女王の話を盗み聞きしていたので
す。そして、パミーナにいうことを聞かないと、その話をザラス
トロにばらすと脅迫しますが、パミーナはそれを拒否します。
そこにザラストロがあらわれてモノスタトスを追い払います。
ここでパミーナの大地の試練は終了するのです。ザラストロの2
つ目のアリアがここで歌われることは既に述べましたが、このア
リアはモーツァルトにとっては大変珍しい曲なのです。
それは、このアリアの調性がホ長調であることです。ホ長調は
シャープ(♯)が4つ付く調性であり、モーツァルトがめったに
使わない調性なのです。既出のジャック・シャイエは、これにつ
いて次のように述べています。
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ホ長調はモーツァルトがそれまで用いてきた調性のうちでは、
最もシャープの数が多いものであり、それも極度に倹約してい
る。彼の全器楽作品の調性目録のなかで、この調性が見られる
のは、1780年までに3度、1780年から1791年まで
に2度であり、それもほとんどメヌエットのトリオのなかにあ
る。それは、この曲が喚起している至福の楽園の牧歌的な清澄
さを描くためにはとくに適していた――たとえ、それを用いる
ことによって、モーツァルトがスコアの他の調性のさまざまな
約束ごとを乱しているとしてもである。
――ジャック・シャイエ著/高橋英郎・藤井康生訳
『魔笛/秘教オペラ』より。白水社刊
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このザラストロのアリアは、大地の試練で悩み苦しむパミーナ
にとって最大の癒しとなる歌になっています。そこには賢者たち
の楽園の牧歌的な描写があり、夜の女王が訴える復讐を知らず、
友愛が支配しています。『魔笛』を鑑賞した人でも、ぜひ改めて
このアリアを聴き直してみる価値はあると思います。
このアリアの最後の一節は、夜の女王の心の狭さを批判する警
句ともなっています。
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このような教えを喜ばない者は人たるに値しない
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このなかの「人」は「Mensch/人間」であって「Mann/男」で
はないのです。もはや両性の争いではなく、人類が問題なのだと
いうことを歌っているからです。まして復讐などはあってはなら
ないと歌うのです。
次の試練は「空気の試練」です。この試練には、次の2つのこ
とが試されるのです。
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1.ご馳走の誘惑を乗り越える
2.高度のレベルの沈黙を守る
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タミーノとパパゲーノの空気の試練は、楽曲ナンバー16「3
人の童子の3重唱」からはじまるのです。3人の童子はこのとき
大地の試練を受けるとき、取り上げられていたタミーノの笛とパ
パゲーノの鈴を2人に返しているのですが、これには深い意味が
あるのです。
タミーノにとって上記の1に関しては問題ではないものの、つ
らかったのは、2の「高度のレベルの沈黙を守る」ことだったの
です。「高度のレベル」とは、世間的な女性一般に対して沈黙を
守るだけでなく、自分が深く愛する女性――パミーナに対しても
沈黙を貫かなければならないことを意味していたからです。
パパゲーノはご馳走にむさぶりついたのですが、タミーノはそ
れを拒否し、自分の手に戻ってきた笛を吹いたのです。笛に誘わ
れてパミーナが姿をあらわしたのですが、彼は彼女と話すことを
拒否し、沈黙を守ったのです。パミーナは、タミーノが試練を受
けていることを知らないので、タミーノが自分を嫌いになったも
のと思い込み、絶望感に襲われたのです。そして、タミーノは空
気の試練に合格するのです。
これに対してパミーナに対する空気の試練は、タミーノとの別
れと苦悩、自殺の決意――そして、それを乗り越えたことがその
まま試練になっているのです。タミーノやパパゲーノと違う点は
彼らが試練と知って挑戦しているのに対し、パミーナはそれが試
練であるとは聞かされていないことです。
これで、タミーノとパミーナは、気絶に続く2つの試練――大
地の試験と空気の試練という2つの試練をクリアしたことになり
あと最大の難関といわれる水と火の試練の2つを残すのみとなっ
たのです。この2つの試練をタミーノとパミーナは2人で受ける
こにとなるのです。 ・・・・―― [モーツァルト31]
≪画像および関連情報≫
・「沈黙」を守ることについて
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フリーメーソンの入会者に対して「沈黙」は執拗に勧告され
ている。その勧告とは彼らがロッジのなかで見たり聞いたり
するすべてのことに対して沈黙を守るということである。秘
密結社ということばが無意味なことばであってはならないか
らである。しかし、『魔笛』のなかでは、男性が女性に対し
て沈黙を守るということである。
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