2022年09月30日

●「世界から孤立を深めているロシア」(第5824号)

 ロシアのウクライナ侵攻から7カ月が経過して、ロシアのプー
チン大統領は、部分動員令を発令し、軍の立て直しを図っていま
すが、ロシアの状況は、報道されている以上に深刻な状態で、プ
ーチン政権の足元は大きく揺らいでいます。ロシアで部分動員令
が発令されたいきさつについて、詳しい情報が入ってきたので、
お伝えします。
 重要なことは、ウクライナ軍は、ロシア軍が支配する東部と南
部の制圧地域に対して、現在も、激しく攻撃を加えていることで
す。その攻撃のスピードは早く、ロシア軍の現場では危機感を感
じている状況のようです。
 ロシア軍の参謀本部のブルガコフ次官は、ハリコフ州をウクラ
イナ軍に奪還された原因は、ハリコフ州からプーチン大統領の命
令で、主要部隊を南部ヘルソンとドネツク市周辺に移したことに
あるといっています。信じられないことですが、プーチン大統領
は、自ら軍の頭越しに直接命令を下しているようです。ロシアほ
どの大国のやることではありません。
 そこでブルガコフ次官などロシア軍幹部は、プーチン大統領の
指示の失敗を理由にして、プーチン大統領の意見を聞かずに総動
員令をショイグ国防相に進言したものと考えられます。ショイグ
国防相は、総動員令についてプーチン大統領に進言したところ、
大統領は「1日待ってくれ」といって決断を延ばし、そのうえで
総動員令ではなく、「予備役の部分動員令」を命令したのです。
総動員令をかけた場合の国民の反発を恐れたからです。
 しかし、軍としては、部分動員を複数回行えば総動員になると
いうことで、部分動員に譲歩したようです。現在、ロシア政府が
見境なく、召集をかけているのは、そういう裏事情があったから
と思われます。ブルガコフ次官は補給失敗の責任をとって、解任
され、後任としてミジンツェフ大佐が就任する人事が発表されて
います。これは本来プーチン大統領こそ責任を取るべきです。
 ロシア政府は、部分動員令とあわせて、ウクライナ東・南部4
州──ルハンスク州、ドネツク州、サボリージャ州、ヘルソン州
で「住民投票」を強行し、ロシア領への編入手続きを行っていま
す。しかも、投票のほとんどは戸別訪問で、銃を構えた兵士が付
き添うなかで、目の前で投票させるのです。とても「ノー」と書
けない威圧下での投票です。しかも、ロシアが占領したという4
州は、いずれも、すべてが制圧されたわけではなく、戦闘中の地
域が残っています。
 これについて、9月28日付の日本経済新聞は、次のように報
道しています。
─────────────────────────────
 27日、ほぼ終了した、ウクライナ東・南部4州での「住民投
票」はロシア軍の威圧と強要の下で実施された。9割を超える賛
成はプーチン政権の事前の指示に沿った結果とみられる。米欧日
は「国連憲章や国際法に明白に違反する」などと非難を強めてい
る。ウクライナメディアや通信アプリへの投稿によると、武装し
たロシア兵が有権者宅を訪れて賛否を確認したり、その場で投票
させたりした。賛成票を投じるよう威嚇や圧力が横行していた可
能性が高い。
 英国防省は27日、ロシアのプーチン大統領が30日に議会演
説を予定しており、併合を公式に宣言する可能性があると指摘し
た。主要7カ国(G7)は23日、「住民投票を承認せず、偽の
併合が起きても決して認めない」などと明記した首脳声明を発表
した。ロシアに追加の経済的代償を払わせる用意があるとも表明
していた。    ──2022年9月28日付、日本経済新聞
              https://s.nikkei.com/3foEm9c
─────────────────────────────
 プーチン大統領としては、ウクライナ軍から攻め込まれている
状況で、住民投票はやりたくなかったはずです。しかし、ウクラ
イナ軍の攻撃力が強くて、押され気味の状況で、とくに南部のヘ
ルソン市では激戦が続いています。
 何とかこれを食い止めなければならないが、とにかく兵力が足
りない。そのため、大急ぎで住民投票を行い、強引といわれよう
が、不正選挙といわれようが、国際法違反といわれようが、かま
わない。占領地をロシア領にしてしまえば、ロシアが核兵器を使
うのでないかと恐れて、プーチン大統領は、ウクライナ軍の攻撃
が緩むだろうと考えているのです。プーチン大統領は、30日に
併合を一方的に宣言するはずです。
 深刻なのは、ロシアが4州をロシア領として宣言すると、ロシ
ア人にされたウクライナ人を動員令で召集し、戦場に投入する恐
れがあることです。実際にヘルソン市では、18〜35歳の男性
は、ヘルソン市から出ることが禁止されています。そうすると、
ウクライナ人がウクライナ人と戦うという残酷極まることになっ
てしまいます。
 今回のウクライナ危機で分かった一番重要なことは、「ロシア
が意外に戦争に弱い」ということです。この衝撃的な事実は、ロ
シアの衛星国といわれる中央アジア諸国の「ロシア離れ」を引き
起こしています。この中央アジア諸国のなかで今やプーチン支持
を明確に打ち出しているのは、タジキスタンしかなく、ウズベキ
スタン、カザフスタン、キルギス、トルクメニスタンは、いずれ
も欧米との経済的結びつきが強く、プーチン支持を打ち出すこと
で米国からの経済制裁を課される事態を恐れています。
 また、カザフスタンでは、この1月に国内暴動が起こり、ロシ
アが治安維持のために軍を派遣しています。しかし、そんなカザ
フスタンも今回ウクライナへの軍の派遣を断っています。このよ
うに、中央アジアでもロシアの孤立は深まっています。
 今回のテーマは、まだまだ書くことはたくさんありますが、こ
のテーマは、本日をもってひとまず置いて、もう少し事態が動い
たら、また改めて取り上げることにします。10月3日からは、
新しいテーマを取り上げます。
         ──[新中国・ロシア論/051/最終回]

≪画像および関連情報≫
 ●ロシア動員令は「正規軍崩壊の証し」ウクライナ、東部
  で要衝迫る
  ───────────────────────────
   【ベルリン時事】ウクライナのゼレンスキー大統領は22
  日夜(日本時間23日朝)のビデオ演説で、ロシアの部分動
  員令は「正規軍が耐えきれずに崩壊した」ことを認めたもの
  だとして、攻勢の継続を明言した。
   ウクライナ軍は東部でロシア軍の一部防衛線を突破し、要
  衝に迫っているもようだ。ゼレンスキー氏は「ロシア指導部
  のいかなる決定も、ウクライナに何の変化ももたらさない」
  と強調した。米シンクタンクの戦争研究所は22日、ロシア
  は部分動員令で一部の予備役を招集するとの約束を破り、一
  般市民の強制的な動員にも動いていると指摘。戦力は大きく
  向上しない一方、国内で反発が強まっていると分析した。
   戦争研究所はロシアからの情報に基づき、ウクライナ軍が
  東部ドネツク州リマンの北方約20キロや北西約22キロの
  地点でロシア軍の防衛線を突破したもようだと分析した。5
  月にロシア軍に制圧されたリマンは、6月に陥落した東部ル
  ガンスク州の拠点都市セベロドネツクの西方に位置し、セベ
  ロドネツク奪還への重要な拠点となり得る。また、英国防省
  によると、ウクライナ軍は北東部ハリコフ州では、撤退を続
  けるロシア軍が防衛線を敷こうと試みたオスキル川東岸で、
  複数の拠点を確保した。同省は「戦況は依然複雑だが、ウク
  ライナ軍はロシア軍が重要と位置付ける領域に圧力をかけて
  いる」と説明した。      https://bit.ly/3DX42Uw
  ───────────────────────────
南部ヘルソン州を攻撃するウクライナ軍戦車.jpg
南部ヘルソン州を攻撃するウクライナ軍戦車
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月29日

●「ロシアと距離を置く中国とインド」(第5823号)

 今回のテーマは今日で50回です。中国とロシアについて、現
在進行中の問題について書いてきましたが、このテーマはひとま
ず置いて、10月3日から新しいテーマに移行します。
 9月15日〜16日の両日、ウズベキスタンのサマルカンドで
「上海協力機構/SCO」の首脳会議が開催されています。今回
の会議は、新型コロナウイルスの感染拡大後、はじめて対面方式
で行われています。
 SCOは、1996年の設立で、もともと中国と国境を接して
いたロシアと旧ソ連3カ国が結集して、「上海ファイブ」として
はじまっています。2001年に「上海協力機構/SCO」とし
て衣替えし、本部は北京に置かれたのです。
 現在、中国、ロシアのほか、中央アジア4カ国(カザフスタン
ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン)と、インド、パキス
タンの8カ国が正式に加盟しています。各国間の国境地域の安定
と信頼の醸成、加盟国間の協力促進が目的になっています。今回
は、イランが参加して加盟覚書に調印しています。その他、ベラ
ルーシが加盟申請中です。
 今回、プーチン大統領は、ウクライナの戦況が厳しさを増すな
か、習近平主席に内心何らかの支援を期待していたはずです。し
かし、習近平主席はことのほか、プーチン大統領に冷たかったよ
うです。それは、会談の順番によくあらわれています。
 会談は、15日に行われましたが、開催国のウズベキスタンに
続いてキルギス、トルクメニスタン、タジキスタンと会談し、モ
ンゴルをはさんで、やっと6番目がロシアだったのです。会談の
内容も、習主席はウクライナのことは一切触れず、具体的な項目
を示さずに次の言葉があっただけです。
─────────────────────────────
習近平国家主席:中ロの核心的利益に関わる問題について、相互
 に力強く支援する。
プーチン大統領:中国のバランスの取れた立場を高く評価してい
 る。我々は中国側の懸念を理解している。我々は「ひとつの中
 国」の原則を堅持している。台湾海峡における米国とその衛星
 国の挑発を非難する。
─────────────────────────────
 中国の「プーチン大統領への冷遇」ぶりは、中国のメディアの
扱いにもあらわれています。中国共産党の機関紙「人民日報」の
報道を見ると、習主席のウズベキスタン訪問やウズベキスタンの
トップとの首脳会談などの様子はトップ記事で扱っているのに対
し、その一方で、プーチン氏との首脳会談の扱いは3番手の扱い
でしかなかったのです。
 しかも、ウズベキスタンのトップとは固く握手する写真を掲載
したのに対し、プーチン氏との会談では、握手すらせず、それぞ
れが正面を直視している写真を載せていることです。どのように
考えても、習近平主席は、プーチン大統領に冷たい対応をしてい
ることは確かです。
 プーチン大統領は、インドのモディ首相との会談でも、モディ
首相から、次のように、厳しい言葉を投げかけられています。
─────────────────────────────
モディ首相:今は戦争の時代ではない。問題解決に重要なのは対
 話と外交である。
プーチン大統領:われわれは、ウクライナでの紛争を早く終わら
 せるために全てのことをしているが、停戦に応じないのは、ウ
 クライナの方である。
─────────────────────────────
 9月24日、国連総会で、インドのジャイシャンカル外相、中
国の王毅(ワン・イー)外相、ロシアのラブロフ外相が演説して
いますが、これについても次にまとめておきます。
─────────────────────────────
インド外相:ウクライナ紛争の激化が続くなか、われわれは誰の
 側に立つのかと頻繁に聞かれる。インドは平和の側にあり、国
 連憲章とその創設の原則を尊重する側に立つ。
中国の外相:ウクライナ危機の平和的解決に資するすべての努力
 を支持する。
ロシア外相:ウクライナは、ロシアとの戦いで(米国や英国の)
 消耗品でしかない。米国は台湾で火遊びをし、台湾への軍事支
 援を約束している。
         ──2022年9月26日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 現在、ロシアでは部分的動員令をめぐって、全国的に戦争反対
デモが起きています。プーチンの大統領の演説によると、兵役経
験ある専門技能の持ち主30万人ということですが、兵役経験の
ない者、学生、高齢者のところにも召集令状が届いており、プー
チン政権に忠実な人物でさえ公然と懸念を表明しています。追い
込まれてやったので、こういう混乱が起きているものと思われま
す。畔蒜泰助・笹川平和財団シニア・リサーチ・フェローは、プ
ーチン大統領の描く出口について次のように述べています。
─────────────────────────────
 今回、部分的な動員をかけたその先に、プーチンが描く出口シ
ナリオが、あるとすれば、それはやはりナポレオン、ヒトラーを
苦しめた冬将軍を、今度はヨーロッパにむけて襲わせることだ。
つまり、天然ガスの供給を意図的に止め、冬の需要期に、エネル
ギー危機を引き起こすことだ。ロシア側がこれを仕掛けるのは間
違いない。その結果、特にヨーロッパ側でウクライナ支援疲れが
起きることを期待しているのだと思う。ヨーロッパがこの冬を超
えて、エネルギー危機をどこまで耐え忍ぶことが出来るかが、実
は最大の焦点であることは、開戦当初から変わってはいない。む
しろ、その深刻度は増している。
         ──畔蒜泰助氏 https://bit.ly/3dGkNZh
─────────────────────────────
             ──[新中国・ロシア論/050]

≪画像および関連情報≫
 ●ロシア、対象外も招集 動員めぐる混乱に
  親プーチン派も苦言
  ───────────────────────────
   ロシアのプーチン政権が始めた予備役兵の部分的動員で、
  本来は対象外のはずなのに招集令状が届くケースが続出し、
  親プーチン派の上下両院議長が当局に対して苦言を呈する混
  乱ぶりとなっている。
   ショイグ国防相は21日、部分的動員の対象は、「戦闘経
  験を持つ者」で約30万人規模と説明した。だが、ロイター
  通信などによると、兵役経験のない人や徴兵年齢を超えた人
  にも招集令状が届くケースが相次いでいるという。
   マトビエンコ上院議長は25日、ネット交流サービス(S
  NS)への投稿で「そのような行き過ぎた行為は絶対に容認
  できない」と指摘し、「部分的動員が基準に完全かつ絶対的
  に準拠して実施されることを保証してほしい」と招集担当者
  に求めた。
   ウォロジン下院議長も同日、「間違いがあれば、修正する
  ことが必要だ。あらゆるレベルの当局がその責任を理解すべ
  きだ」と投稿したという。ロシアでは21日の動員令の発令
  以降、多くのロシア人男性が徴兵を避けるために国外への脱
  出を試みている。ショイグ氏は21日、潜在的に動員できる
  国民が「2500万人いる」とも発言しており、対象者とな
  る基準の不明確さが、国民の混乱を助長している可能性があ
  る。【ベルリン念佛明奈】   https://bit.ly/3dG5tvM
  ───────────────────────────
習近平/プーチン会談.jpg
習近平/プーチン会談
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月28日

●「ロシアが南東の風の日に核を使う」(第5822号)

 ウクライナ軍による東部ハルコフ州の奪還をはじめとする反転
攻勢は、ロシアに一大衝撃をもたらしたことは確かです。それは
ロシアのプーチン大統領が、30万人の予備役の動員を可能にす
る大統領令にサインし、既に占拠しているルガンスク洲とドネツ
ク洲において、無理を承知で、急遽住民投票を強行してロシア領
とし、ウクライナ軍のこれ以上の攻撃を防ぐ手立てをとったこと
によくあらわれています。ロシアとしては、「このままでは、負
ける!」という危機感を感じたからです。
 問題は、ロシアによる「核の脅し」です。もし、ウクライナ軍
が、ロシア領──住民投票によって、ロシア領とした地域を含む
──に対して攻撃を加えた場合、プーチン大統領が「核の利用も
辞さない」ともとれる発言をしていることです。それは、演説中
に、次の表現で宣言されています。
─────────────────────────────
 わが国の領土の一体性が脅かされる場合には、ロシアとわが国
民を守るため、われわれは、当然、保有するあらゆる手段を行使
する。これは脅しではない。       ──プーチン大統領
                  https://bit.ly/3SaI6tr
─────────────────────────────
 プーチン大統領は、上記の話の前段では「わが国は、さまざま
な破壊手段を保有しており、一部はNATO加盟国よりも最先端
のものだということを思い出させておきたい」と述べています。
NATO加盟国よりも優れた破壊手段を持っていることを忘れる
なという脅しです。
 ここで考えてみるべきことがあります。ロシアは、どのような
状況に陥ったとき、核兵器を使うかということです。これには、
大別すると、次の2つのケースが考えられます。
─────────────────────────────
 1.ロシアが、ウクライナの占領している地域から撤退せざ
  るを得なくなったとき
 2.ロシアが、西側の諸国から何らかの「核によるブラフ」
  を受けたと実感したき
─────────────────────────────
 「1」について考えます。
 「1」は、ロシアがこの戦争に負けるときです。既に支配して
いるドンバス地域(ルガンスク洲+ドネツク洲と)に加えて、ク
リミアからも撤退することを意味します。当然、ウクライナ軍の
目的は、ウクライナからロシアに占領された全地域を奪還し、ロ
シア人をウクライナから追い出すことですから、今後も攻撃を続
けることになります。
 ロシアのやっていることは、住民投票によって国境線を決める
暴挙です。これは明らかに国際法違反です。しかも、その選挙に
しても、銃を持った兵士が投票用紙を持って住居を個別訪問し、
目の前で書けと迫っています。こんなものは、選挙ではないし、
暴挙そのものです。
 「2」について考えます。
 プーチン大統領は、演説で、しきりと「西側からの核の脅し」
という言葉を使っていますが、何を意味しているのでしょうか。
これについては、昨日のEJでも取り上げていますが、もう少し
ていねいに考えてみます。
 「核の脅し」は、もっぱらプーチン大統領がやっていることで
西側諸国はロシアに対して核の脅しなどかけていません。しかし
プーチン大統領は、ロシア軍が占拠しているウクライナ南部のザ
ポリージャ原発に対して、ウクライナ軍が攻撃を加えているとし
て、それを核の脅しとしているようです。これは、誰が考えても
ロシアの自作自演です。ロシアがわざと原発を攻撃し、ウクライ
ナのせいにしているのです。しかし、これは今後の伏線です。
 今回のウクライナ危機で分かったことですが、ロシア人は明ら
かにウソとわかるウソを平気で何回もつき、それを既成事実化し
ています。ウソも100回つくと、真実になるというわけです。
これは、国家としての信用失墜につながり、国として大きなマイ
ナスですが、プーチンロシアは、それを平然と行っています。
 もうひとつあります。これは、真偽がわからないのですが、西
側NATO諸国は、水面下でロシアが核兵器を使うことを憂慮し
て、何回も警告を発していると思われることです。
 バイデン米大統領は、表面的には、9月18日放映の米CBS
テレビのインタビューで、ウクライナ侵攻で劣勢に立たされてい
るロシアが、もし化学兵器や戦術核兵器を使えば、次のように発
言しています。
─────────────────────────────
 もし、ロシアが核兵器を使えば重大な結果を招くことになる。
ロシアが何をするかによって対策を決める。
                   ──バイデン米大統領
─────────────────────────────
 実はこの問題については、米国情報局では、何度も議論されて
いるようですが、結論は出ていないようです。「核には核で反撃
する」から「通常兵器で反撃する」までいろいろあり、結論は出
ていないと考えられます。
 しかし、米情報当局は、ロシアの核兵器保管施設を監視してお
り、核弾頭がトラックやヘリコプターに積み込まれたり、核兵器
を扱うための特殊訓練を受けた部隊の活動が活発化したりした場
合にそれを素早く検知することが可能であるといっています。
 しかし、ウクライナ軍としては、不当に占拠されている地域の
奪還を進めることは確実です。ロシア軍は増強されても士気が低
下しており、ウクライナ軍が勝ち進む可能性は大です。これを西
側NATO諸国は止めることはできません。そうなった場合、プ
ーチン大統領が決断するかもしれない最悪の選択はザポリージャ
原発に戦術核を撃つことです。それもロシアに影響の及ばないよ
うに、南東の風の吹く日にです。こういう情報も伝わってきてい
るのです。        ──[新中国・ロシア論/049]

≪画像および関連情報≫
 ●プーチンが「小型核」を撃ったら、世界はどのようにして
  核戦争に突入するのか
  ───────────────────────────
   冷戦時の核兵器はその破壊力において、広島を破壊した原
  爆を凌駕していた。実験爆発では、ワシントンの兵器が最大
  で広島の1000倍、モスクワの兵器には3000倍の威力
  があった。これには「巨大な報復の可能性」という脅威を見
  せることによって相手の攻撃を抑止する、いわゆる「相互確
  証破壊」の効果があった。この心理的ハードルは、非常に高
  い。そのため、核攻撃など考えられないと見なされるように
  なったのだ。
   そして今日のロシアとアメリカは共に、破壊力の弱い核兵
  器を持っている。威力は広島に落とされた原爆の数分の一に
  過ぎない。その分、使うことに対する恐怖心は少なく、選択
  肢として考えやすいものだろう。
   プーチン大統領はウクライナ戦争のさなかで自国が持つ核
  の威力を警告し、原子爆弾を警戒態勢に入れ、軍には危険な
  原発を攻撃させた。こうした経緯を踏まえ、先述の小型兵器
  に対する懸念が高まっている。紛争で追い詰められたと感じ
  たら、プーチンが「小さい核兵器」を爆発させることを選ぶ
  かもしれない、という懸念である。76年前の広島・長崎で
  定められたタブーを破るかもしれないのだ。
   ハンブルク大学やカーネギー国際平和基金に所属する核の
  専門家、ウルリッヒ・キューンいわく「可能性はまだ低いが
  高まっている」と指摘する。「ロシアの戦況は良くなく、西
  側諸国からの圧力も強まっている」からだ。
                  https://bit.ly/3Sb0n9L
  ───────────────────────────
戦術核爆弾.jpg
戦術核爆弾
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月27日

●「30万人動員でなく、100万人」(第5821号)

 9月21日、プーチン大統領の国民向けの演説後に公表された
大統領令は10項目から成るが、人数に関する第7項に関しては
「機密扱い」になっています。なぜ、機密扱いなのでしょうか。
「30万人」という数字がどこから出たのでしょうか。
 ロシアの専門家によると、プーチン大統領は演説で「部分的動
員」とはいいましたが、30万人という数字については一言も話
していません。30万人という数字を口にしたのは、ショイグ国
防相のようです。
 ところがです。ロシアの独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ
・ヨーロッパ」は、招集人数が30万人ではなく、大統領令にひ
そかに100万人と記されていると報道したのです。このメディ
アは、ロシア政府の圧力で3月末から活動停止を余儀なくされて
おり、現在ではヨーロッパに亡命して、「ノーバヤ・ガゼータ・
ヨーロッパ」として、ユーチューブやSNSなどを使って、ニュ
ースを配信しています。これに慌てたペスコフ大統領補佐官は、
「偽情報だ」と火消しにやっきになっています。
 しかし、これはけっして偽情報ではないようです。それは、現
在、ロシア中に巻き起こっている反戦デモの逮捕者に対して、当
局は、次々と召集令状を渡しているからです。したがって、30
万人なんてウソで、必要なだけ、戦地に兵士として送り込む計画
のようです。これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は
兵士として戦地に送られるロシア人に対して、次のように呼び掛
けています。
─────────────────────────────
 半年間でロシア軍の5万5000人が死亡、数万人が負傷して
いる。犠牲を避けたければ、抗議したり、逃亡したり、捕虜にな
るため、投降したりしてほしい。   ──ゼレンスキー大統領
─────────────────────────────
 このロシア側の動きに対して、ウクライナのポドリャク大統領
府顧問は、ロシアの動員令について次のように述べています。
─────────────────────────────
 ロシアの動員令はわれわれにとって何ら脅威にはならない。戦
争の最初の段階で送り込まれたロシア兵は、訓練も経験もあるプ
ロの軍隊であるが、われわれはそれを撃退している。そこで、多
くのロシアの将校が戦死している。
 今回の動員令によって送り込まれてくるホワイトカラーのロシ
ア兵は、実際の戦場での戦闘経験もなく、訓練が必要である。そ
れには数カ月かかるが、その指導者である将校が決定的に不足し
ている。将校は急増できず、だから数だけに頼らざるを得ない。
当然士気も低いし、われわれの脅威にはならない。
               ──ポドリャク大統領府補佐官
          9月23日放送「TBS/1930」より
─────────────────────────────
 実戦の経験はないし、怖いし、命は惜しい。したがって、士気
も低い──そういう兵士を急増して、戦地に送ってくるロシアに
対して、ウクライナ軍は、投降勧奨を行う作戦で対抗するといい
ます。実際に現在、投降者は急増しています。「命が惜しければ
投降して捕虜になれ!」と呼びかける作戦です。
 これには、ロシア側も警戒していて、「兵役に関する刑法の修
正案」を可決しています。戦場で逃亡したり、自ら投降したりす
る兵士に対する罰則を強化する法律の制定です。こうなってくる
と、否応なしの徴兵そのものです。
 9月23日、ウクライナ東部、南部の占領地で、「ロシアへの
編入」を問う親ロシア派勢力の住民投票がはじまっています。ロ
シアとしては、本当はもっと戦況がロシアにとって安定した状況
で実施したかったのでしょうが、逆に攻め込まれ、占領地を奪い
返されないために行っています。占領地をロシア領にしてしまえ
ば、ウクライナ軍としては攻めにくくなると読んでの作戦である
と思われます。国際法を無視した無茶苦茶な理屈ですが、ウクラ
イナにとっては、攻めにくくなることは確かです。
 ところで、9月21日の演説で、プーチン大統領は、気になる
ことをいっています。それは次の部分です。
─────────────────────────────
 アメリカ、イギリス、NATOは、軍事行動をわが国の領土へ
移すようウクライナに直接働きかけている。もはや公然と、ロシ
アは戦場であらゆる手段でもって粉砕され、政治・経済・文化、
あらゆる主権を剥奪され、完全に略奪されなければならないと、
語られている。
 核による脅迫も行われている。西側が扇動するザポリージャ原
発への砲撃によって、原子力の大災害が発生する危険があるとい
うだけでなく、NATOを主導する国々の複数の高官から、ロシ
アに対して大量破壊兵器、核兵器を使用する可能性があり、それ
は許容可能という発言も出た。      ──プーチン大統領
                 https://bit.ly/3BGyuPV
─────────────────────────────
 プーチン大統領は「(西側のわれわれへの)核の脅し」という
言葉を使っています。何のことかと思ったのですが、それは、ザ
ポリージャ原発への砲撃のことだったようです。プーチン氏は、
原発への砲撃は、ウクライナ軍によるものであるとし、それをロ
シアに対する核の脅しと表現しています。どうやら、これをいう
ために、原発を攻撃したものと思われます。
 どう考えても、ウクライナ軍が自国の領地にある原発を攻撃す
るはずがないし、やったのはロシア軍であることは明々白々の事
実であるのに、そういうウソを一国の大統領が、平然と平気でつ
くのです。「西側諸国から核の脅しをされたので、こちらも領土
への攻撃があれば、領土の保全のために核で反撃することもあり
得る」という理屈です。「核の脅し」を一貫してやっているのは
国連の常任理事国の1つであるロシアではありませんか。ロシア
は、そんな恐ろしいウソを平気でつく国なのでしょうか。
             ──[新中国・ロシア論/048]

≪画像および関連情報≫
 ●自らの政権の足元に地雷を仕掛けたプーチン氏
  ───────────────────────────
   モスクワ(CNN)テレビ放送された国民向けの演説で、
  21日夜、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻での
  「部分的動員」を発表した。これはプーチン氏が実質的に、
  ロシア人との暗黙の社会契約を破ったことを意味する。契約
  に基づきロシアの市民は、権力者らが利益をくすねたり争い
  を起こしたりするのを許す代わりに、自分たちの私生活には
  介入させない。
   戦争が新たな段階に入りつつある中、追い詰められたプー
  チン氏は自分の背後にロシア人の相当な部分を引きずり込ん
  でいる。同氏が事実上行ったのは国内に向けての宣戦布告で
  あり、結果的に野党勢力や市民社会のみならず、ロシアの男
  性人口を敵に回したことになる。
   なぜプーチン氏はそんな危険を冒すのか?それは本人自ら
  世間の戦争に対する関心の欠如を数カ月にわたり促してきた
  からだ。国民の動員は深刻な不満を社会にもたらす。だから
  こそ総動員ではなく部分的動員を決断したわけだが、長い目
  で見れば自身の政権の足元に地雷を仕掛けたことに他ならな
  い。短期的には、動員に対する妨害行為に直面するだろう。
  もうずいぶんと長い間、プーチン氏は大衆の間で戦争を遠ざ
  ける姿勢を助長してきた。今やロシア人はそのつけを払い、
  兵士として使い捨てにされようとしている。
                 https://bit.ly/3dCnSJR
  ───────────────────────────
ロシア全土に広がる反戦デモ.jpg
ロシア全土に広がる反戦デモ
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月26日

●「部分的動員令でロシア中は大混乱」(第5820号)

 9月21日のことです。ロシアのプーチン大統領は国内向けの
演説で、予備役の部分動員を認める大統領令に署名したことを公
表しました。その規模は約30万人といわれています。
 予備役とは、兵役の経験のある元軍人で、現在は一般社会で生
活している者をいいます。これに対して現在兵役に従事している
軍人は現役軍人と称しています。ロシアには、2500万人の予
備役がいるので、30万人集めるのは可能です。今回召集される
のは、ウクライナでの紛争で必要となる特殊技能を持つ者とされ
ていますが、どういう技能かは公表されていません。
 そのため、自分が対象者であるかどうか分からず、現在、ロシ
ア人はパニックになっており、予備役への徴兵を逃れようと、海
外に逃亡しようとする者も多く、ビザなしで渡航できるトルコな
ど海外への航空チケットは価格が高騰し、入手困難に陥っている
といわれます。トルコのイスタンブール行きのチケットは通常は
3万円程度ですが、37万円に値上がりしています。また、ロシ
ア全土で動員令の反対デモが頻発しています。
 もう既に召集令状が届いている者も多いといわれますが、これ
についてこんな話があります。「プーチンの口」といわれるペス
コフ報道官の息子のところに召集令状が届き、その息子が出頭を
拒否したというニュースです。
 ある程度事情がわかっているロシア人は、この戦争はロシアの
戦争ではなく、プーチンの戦争であることをよく知っています。
しかし、自分に関係がなければ、勝手にやってくれというスタン
スだったのですが、召集令状などが届き、自分に影響が及んでく
ると、「オレはプーチンの戦争で死にたくない」と、慌てて逃げ
出すなど、無責任な話です。
 数字を整理してみましょう。なぜ、30万人なのかです。ロシ
ア軍が2月にウクライナに侵攻したとき、投入した兵力は約19
万人といわれています。これに東部ドンバス地方に、親ロシア派
戦闘員が数千人いたとされています。
 ロシア政府は、これに加えて、金銭的な優遇と引き換えに、大
規模な兵の募集を行っています。これに応じて、シベリアやコー
カサスといった貧しい地域から、チェチェン紛争を経験した戦闘
員などが追加の部隊員としてウクライナの戦場に投入されていま
す。人数については不明です。
 ロシアでは、徴兵制度があり、18〜27歳の男性に対して、
1年間の兵役義務があります。しかし、健康状態や学生であるな
ど、さまざまな理由によって免除されます。したがって、高官の
子弟などは、留学と称して海外に逃亡するなど、さまざまな理由
をつけて兵役逃れをしている者が多くいます。
 なお、ロシアでは、平時における軍の規模を次のように定めて
います。
─────────────────────────────
       軍人上限 ・・・・ 100万人
       一般職員 ・・・・  90万人
─────────────────────────────
 これについても、プーチン大統領は、8月に13万7000人
を追加雇用する大統領令に署名しています。これは来年1月から
実施されることになっていますが、これも兵が不足していること
あらわしています。
 5月28日、ロシア政府は「志願兵の年齢上限の撤廃」を発表
しています。志願兵の年齢は、ロシア人なら18歳から40歳、
外国人は18歳から30歳と定められていたのですが、この上限
を法改正で撤廃したのです。ロシア軍は、既にこの時点で、兵力
不足に陥っていたのです。
 まだあります。ワグネルという軍事会社があります。ワグネル
はウクライナのドンバス戦争において、2014年から2015
年にかけて、ドネツクとルガンスクの地域において、親ロシア派
分離主義勢力を焚き付けて支援し、やがて共和国を設立させるに
いたるのです。クリミアと同じ手口です。
 ロシア政府はワグネルに依頼して、囚人から兵士を募集してい
ます。情報によると、6カ月間の兵役で、釈放と20万ルーブル
(約47万円)の報酬を約束しています。最前線には出さないし
後方支援の仕事であるとも強調していたようです。
 ロシアの受刑者の支援団体が、独立系メディアの取材に応じた
ところによると、この試みは、次のような悲惨な結果に終わって
いるようです。
─────────────────────────────
 受刑者支援団体の分析によると、ワグネルと契約を結んだ囚人
は約3000人。10日間から2週間の訓練で前線に送られたも
のの、ほぼ全員が戦死したと結論づけています。
                  https://bit.ly/3xGvqlN
─────────────────────────────
 しかし、ロシアはこの特別軍事作戦での死者は「5937人」
としか発表していません。本当にそうであれば、こんなに、たび
たび兵を募集する必要などないはずです。ロシア兵の死者情報を
まとめておきます。英国とウクライナの数字は、2022年7月
現在発表のものです。
─────────────────────────────
    ◎特別軍事作戦でのロシア軍の死者数
       ロシア国防省 ・・・・  5937人
      イギリス国防省 ・・・・ 25000人
     ウクライナ国防省 ・・・  50000人
─────────────────────────────
 現在、ロシアでは、召集令を逃れるため、大混乱になっている
ようです。国外に逃亡しようとする者、自ら腕などを折って、健
康検査で不合格になることを狙う者、コネを使って召集を逃れよ
うとする者が続出しているようです。このような精神の若者が仮
に召集され、兵役に就いても、およそ軍人として、使いものにな
らないことは明らかです。 ──[新中国・ロシア論/047]

≪画像および関連情報≫
 ●ロシア軍の死者・負傷者「7万〜8万人に達した」/米国防
  総省が推計
  ───────────────────────────
   米国防総省は8月8日、2月にウクライナ侵攻が始まって
  以来、ロシア軍の死傷者は7万〜8万人に達したとの推計を
  明らかにした。カール次官(政策担当)は「ロシアが戦争開
  始時の目的を何一つ達成していないことを考えると、注目す
  べきことだ」と強調した。
   カール氏は記者会見で「戦争において正確な数字は分から
  ないが、ロシア軍は6カ月足らずで7万〜8万人の死傷者を
  出したとみて間違いないだろう」と述べた。これは戦闘によ
  るロシア軍の死者と負傷者を合計した数だという。
   米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は7月20日、死
  傷者は約6万人(うち死者約1万5千人)とする推計を明か
  していた。今回の数字は、これを上回る推計となった。
   また、ロシア軍が現時点までに3千〜4千両の軍事車両を
  失ったとも指摘。精密誘導兵器や巡航ミサイルなども「かな
  りの割合」を消費していると述べた。
   カール氏は最近の戦況について「この数週間、ロシア軍は
  東部で少しずつ前進しているが、大きな犠牲を伴っている」
  と指摘。「東部の状況は基本的に安定し、焦点は南部に移り
  つつある。ウクライナ軍が南部に圧力をかけ始め、ロシア軍
  が再配備を余儀なくされたことが一因である」との見方を示
  した。             https://bit.ly/3dzjlbk
  ───────────────────────────
30万人の予備役を召集するプーチン大統領.jpg
30万人の予備役を召集するプーチン大統領
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月22日

●「ロシア軍は今や敗北の危機にある」(第5819号)

 ロシアの始めたウクライナへの「特別軍事作戦」について、プ
ーチン大統領は、次のようにいっています。
─────────────────────────────
 国連憲章第7章51条に則り、ドネツク人民共和国とルガンス
ク人民共和国の要請に応えて、ウクライナの非軍事化と非ナチ化
を目的に特別軍事作戦を実施するが、ウクライナの占領は目的と
していない。           ──プーチンロシア大統領
─────────────────────────────
 上記国連憲章第7章51条は、「平和に対する脅威、平和の破
壊及び侵略行為に関する行動」について定めています。なお、ド
ネツク人民共和国とルガンスク人民共和国は、特別軍事作戦を始
める前に、ロシアが勝手にウクライナから切り離し、その独立を
承認したものであり、2014年のクリミア共和国も同じです。
 要するにロシアは、ウクライナのなかで自国領にしたい地域に
おいて親ロシア派勢力を結集し、人民共和国を結成させ、それを
ロシアが国家として勝手に独立を認め、その国からの要請を受け
たかたちで軍隊を派遣する──こういう筋書きで特別軍事作戦を
実施したのです。クリミア半島も同じ筋書きで奪取しています。
 しかし、そんなことをウクライナ政府が認めるはずがないので
政治工作でゼレンスキー政権を崩壊させ、ウクライナに親ロシア
政権を樹立させることによって、それぞれの共和国の主権を認め
させるという戦略です。
 しかし、プーチン大統領は、この特別軍事作戦で、最初に大き
なミスを冒します。この作戦の計画通りに、ドネツク洲とルガン
スク洲に兵力を集中させ、その制圧に全力を尽くせばよかったの
ですが、いきなりウクライナの首都キーウを攻めたことです。そ
れは、部下の進言によるものとされていますが、プーチン大統領
は、ゼレンスキー大統領の評判の悪さや、支持率の低さを見て、
まず、キーウを占領し、ゼレンスキー政権を倒し、電撃的に親ロ
シアの傀儡政権を樹立し、そのうえで、ドネツク洲とルガンスク
洲、そしてクリミア半島を正式にロシア領にする──そういう構
想を描いていたものと思われます。
 しかし、それが大誤算だったことは明らかです。2014年に
クリミア半島をロシアに占拠されて約8年間、ウクライナ軍は米
軍の指導を受けて見違えるほど強くなっていたのです。どこの国
でも、あのように自国の領土を略奪されて、何とも思わない国は
ありません。欧米からの武器支援を受けて、ウクライナ軍は精強
な軍隊に変貌していたのです。
 ところで、今回のウクライナ軍による東部ハルコフ州の大部分
の地域の奪還は、一部の軍事専門家によると、この戦争の帰趨を
決するほどのロシア軍の大敗北であり、もはやロシア軍の負けは
決まったと考えても不思議はないそうです。
 それを正確に伝える番組が、9月18日にテレビ朝日(BS)
で放送されています。その特別軍事作戦に関する部分のビデオが
あるのでご紹介します。時間は、約55分かかりますが、興味の
ある方はご覧いただきたいと思います。内容は充実しています。
─────────────────────────────
◎テレビ朝日「日曜スクープ」/2022年9月18日放送
 「領土奪還で形成逆転/ロシア敗走/ウクライナ快進撃に続く
 展開は?」テレ朝news
 ゲスト/駒木明義(朝日新聞論説委員)、山添博史(防衛省防
 衛研究所)
 アンカー/木内登英(野村総合研究所エグゼクティブエコノミ
 スト)             https://bit.ly/3QSSgNN
─────────────────────────────
 詳しくはビデオを見ていただくとして、ロシア軍がハリコフ洲
のイジュム市を失ったことが、なぜ致命的なのかについて、要点
をまとめることにします。添付ファイルを見てください。
 これは、ウクライナ東部の地図ですが、ウクライナ軍の奪還前
(9月6日)と奪還後(9月17日)の比較をしています。赤が
ロシア支配地域、青がウクライナの奪還地域です。これを見ると
ウクライナ軍がわずかな期間で、非常に広大な地域を奪還したこ
とがわかると思います。約8500キロ平方メートルの地域を奪
い返したのです。この地図を基にして説明します。地図と地名の
表記が異なっていますが、これまで述べてきた地名の表記にした
がって説明します。
 ウクライナ軍の奪還前の地図(左)をご覧ください。ロシア軍
にとって、補給を担う重要地域は、イジュム市とクビャンスク市
の2つです。ともに交通の要衝であり、食料や兵器や弾薬の補給
を担う重要都市です。
 イジュム市は、ウクライナ東部ハリコフ州の都市で、ハリコフ
の約138キロ南東、そしてドネツ川両岸に位置しており、ドン
バス地域の玄関口といわれています。イジュム市は4月1日にロ
シア軍が制圧し、東部侵攻の司令部を置いています。ロシア領の
ベルゴルドからは道路が整備されており、そこから大量の物資が
運び込まれる要衝になっています。もう1つのクビャンスク市も
ロシア国内と道路だけではなく、鉄道もつながっており、ロシア
軍にとって重要な補給線になっています。
 ロシア軍にとってこの2つの重要都市が、今回のウクライナの
反撃によって、奪還されてしまったのです。つまり、ロシア国内
からの補給線は完全に断ち切られてしまったことになります。こ
れでは、ロシアの特別軍事作戦の目的であるドンバス地域のロシ
ア化は、ほぼ不可能になったといえます。
 しかし、ウクライナ軍は、南部のヘルソン市にも攻撃をかけて
おり、ドニエプル川にかかる橋を攻撃し、ロシア軍の兵器や弾薬
の補給路断絶を実施しています。そのため、多くのロシア軍がク
リミア半島に逃げ込んでおり、情報によると、一部の部隊からは
ウクライナ側に降伏交渉を持ちかけてきているといいます。ロシ
ア軍は深刻な兵士不足に陥っているとみられます。
             ──[新中国・ロシア論/046]

≪画像および関連情報≫
 ●ウクライナ軍攻勢、ロシア軍敗走?/小川敏氏
  ───────────────────────────
   ウクライナ情勢が激変する兆候が見られだした。ロシア軍
  のウクライナ占領が近づいたのでなく、ウクライナ軍がロシ
  ア軍に占領された領土を奪還してきたのだ。ウクライナのゼ
  レンスキー大統領は9月11日、「イジュームやウクライナ
  東部ハルキウ(ハリコフ)州の小さな都市バラクリアがわが
  軍によって解放された」と表明した。ウクライナ軍の発表で
  は「奪還された領土の広さは約3000平方キロになる」と
  いうのだ。
   ロイター通信やAFP通信はその状況を感動的に伝えてい
  る。「バラクリヤの中心に再びウクライナ国旗がはためく。
  ハルキウ北東部の小さな町は、ウクライナ軍が奪還した最初
  の町であり、ロシア軍が3月下旬にウクライナ中部から撤退
  して以来、初めてだ。町の人々はウクライナ軍兵士を見て泣
  き出すものもいる一方、パンケーキを兵士たちに差し出す人
  々もいる」と報じている。ドイツのメディアは、「バラクリ
  ヤは戦争のターニングポイントとして、ウクライナの歴史に
  残る可能性がある」とまで報じている。
   注目すべき点は、ハルキウとドネツク州を結ぶ交通の要所
  イジュームが10日、ウクライナ軍側に落ちたとすれば、ロ
  シア軍にとって戦略的に大きな痛手だ。ロシア国防省はウク
  ライナ軍の攻勢を認める一方、「現在、軍の再編成中」とい
  う。ロシア軍はウクライナ軍の攻勢にパニックになって、大
  量の戦争装備を置き去りにしていったという。
                 https://bit.ly/3UjATZm
  ───────────────────────────
ウクライナ軍「電撃作戦」の戦果.jpg
ウクライナ軍「電撃作戦」の戦果
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月21日

●「すへてのロシア軍を追い出す作戦」(第5818号)

 9月15日〜16日、習近平主席とプーチン大統領は、中ロ主
導の地域協力組織「上海協力機構(SCO)」首脳会議に合わせ
て、対面での会談を行っています。これについて、9月16日付
日本経済新聞は次のように報道しています。
─────────────────────────────
 プーチン氏は会談で「ロシアはウクライナ危機に関する中国の
バランスのとれた立場を高く評価する」としたうえで、「ウクラ
イナ危機に関する中国の懸念を理解しており、すべての問題を説
明する用意がある」と述べた。中国側が長期化するウクライナ侵
攻に懸念を伝えていたようだ。(中略)
 台湾情勢に危機感を強める習氏と、ウクライナの戦況悪化に焦
るプーチン氏。両者の接近は、ロシアが経済で中国に従属し、中
国がロシアの「反米」路線に引き込まれる危うさをはらむ。今回
の中ロ首脳会談には、ウクライナでのロシア軍の苦戦が影を落と
した。     ──2022年9月16日付、日経電子版より
              https://s.nikkei.com/3qJeSp8
─────────────────────────────
 ロシアのプーチン大統領としては、苦境に陥っているウクライ
ナ情勢に対して、中国に何らかの支援を求めたいところですが、
それを避けたい中国としては、先手を打って、事前に長期化する
ウクライナ侵攻に対する懸念を伝えていたようです。そのため、
プーチン大統領の「中国の懸念に対して説明する」という発言に
なったのです。中国はこの問題に深入りしたくないからです。
 実は一般にいわれている以上にロシア軍は、軍事的にウクライ
ナ軍に追い込まれているのです。それは、ウクライナ軍が奪還し
た東部ハリコフ洲だけでなく、ロシア軍がほぼ制圧したはずの隣
のルハンシク洲のクレミンナ市からも兵を引いているという情報
があるからです。それだけでないのです。メリトポリ市長による
と、ロシア軍は南部でもクリミア半島に逃げ込んでいるというの
です。ロシア軍に何が起きているのでしょうか。
 元防衛省情報分析官、西村金一氏は、現在のロシア軍について
次のように述べています。
─────────────────────────────
 現在、ロシアの主な攻撃手段は火砲。イジュム市などの戦いが
あったこの20日間で大きな損害を出した。侵攻当初の保有数の
70%を失った。このままでは、ロシア軍は火砲不足により、継
戦能力を失うだろう。  ──元防衛省情報分析官、西村金一氏
      8月15日/TBS「BS/TBS報道1930」
─────────────────────────────
 この西村金一氏の発言を裏付けるロシア軍が失った火砲などに
ついて、9月13日現在の数字です。
─────────────────────────────
     ◎戦車/歩兵戦闘車など
      2175台(7929台)↓27%減
     ◎多連装ロケット
       311台( 711台)↓44%減
      8月15日/TBS「BS/TBS報道1930」
─────────────────────────────
 ロシアのウクライナ侵攻から、丸7カ月です。それだけの期間
戦っていれば、当然兵器は失われていきます。しかし、その補給
がうまくいっていないようです。それに比べると、ウクライナ軍
は、もともと総動員で兵力が多いうえ、米欧から最新兵器が届き
つつあり、勢いを増しています。
 それでは、今後ウクライナ軍は、どのような作戦でウクライナ
の領地を占領しているロシア軍を攻めるかです。これについては
ウクライナと支援する米欧との間で合意形成ができているといわ
れています。
 これについて、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長、吉田成
之氏は、次の事実を明かしています。
─────────────────────────────
 米英をはじめとするウクライナ支援の枠組みである連合国側と
の連携緊密化だ。公表されていないが、反攻作戦開始直前、アメ
リカとの間でウクライナは高官協議を開催、作戦の概要について
調整を行った。
 アメリカ側からはジェイコブ・サリバン大統領補佐官(安全保
障問題担当)、アメリカ軍制服組トップのマーク・ミリー統合参
謀本部議長が、ウクライナ側からはアンドリー・イェルマーク大
統領府長官とヴァレリー・ザルジニー総司令官が参加した。ここ
で戦争の進め方について合意できた。今後も両国は、ロイド・オ
ースティン国防長官とオレクシー・レズニコフ国防相の間でも、
今後適宜、意見や情報を交換するという。
 さらに2022年9月8日には、アメリカのブリンケン国務長
官が事前の予告なしにキーウ入りして、ゼレンスキー大統領と会
談した。ここで、両国は戦争をめぐる大戦略ですり合わせができ
たといわれる。合意内容は公表されていないが、同じ時期にキー
ウで開催されたウクライナ情勢に関する国際会議での議論が合意
内容を反映したものになっている。https://bit.ly/3BMyMWB
─────────────────────────────
 ここでの合意内容は公表されていないものの、容易に推測でき
ます。それは、最近ゼレンスキー大統領がしばしば口にしている
「ウクライナを2014年以前の状態に戻す」ということです。
つまり、クリミア半島も含めて、ロシア軍を追い出し、すべてウ
クライナに取り戻すということです。それは、米欧の武器支援が
順調に行われれば、戦略上十分可能であるといえます。
 しかし、そこまで追い詰めると、ロシアは核兵器を使うのでは
と懸念がありますが、それはできないと考えられます。なぜなら
ロシアの国内でもプーチン大統領退陣の声が上がりつつあるから
です。そんな状況では、さすがのプーチン大統領でも、とても核
兵器を使うことなどできないと考えられるからです。
             ──[新中国・ロシア論/045]

≪画像および関連情報≫
 ●ロシア軍敗走で強まるプーチン批判/ニューズウィーク
  ───────────────────────────
   ウクライナ軍の反転攻勢でロシア軍の敗走が重なるなか、
  ロシアの当局者の間でウラジーミル・プーチン大統領の辞任
  を求める声が広がっている。政権が反体制派を厳しく取り締
  まるロシアでは異例の事態だ。
   プーチンは2月24日、ウクライナに対する軍事侵攻を開
  始。圧倒的な兵力を誇ったロシア軍は数日で首都キーウを陥
  落させる勢いだったが、アメリカをはじめとする同盟諸国の
  支援を受けたウクライナの強力な抵抗に遭った。これにより
  ロシア政府はウクライナ侵攻の当初の目標を達成することが
  できずにいる。
   ウクライナ軍は、先週から、南部ヘルソンや東部ハルキウ
  (ハリコフ)でロシア軍部隊を奇襲し、1600平方キロ以
  上の領土を奪還した。とくにこの週末、ロシア軍はイジュー
  ムなどの主要都市から撤退を余儀なくされた。この一連の敗
  北が「反プーチン」機運の広がりにつながっているようだ。
  サンクトペテルブルクのスモルニンスコエ地区の区議である
  クセニア・トルストレムは、9月12日にツイッターに投稿
  を行い、ロシア地方議会の区議35人がプーチンの辞任を求
  める要請書に署名したと明かした。プーチンによるウクライ
  ナ侵攻が、ロシアに「害を及ぼしている」というのが理由で
  ある。モスクワなど複数の主要都市の区議グループも要請書
  に署名している。トルストレムはこの要請書について、誰の
  「名誉を傷つける」ものでもないとしている。
                 https://bit.ly/3eZEZ8Z
  ───────────────────────────
苦境に立っているプーチンロシア大統領.jpg
苦境に立っているプーチンロシア大統領
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月20日

●「ハリコフ奪還で戦争はどうなるか」(第5817号)

 先週は、ウクライナ情勢に大きな変化があったようです。ウク
ライナ軍が、これまでロシア軍が制圧していた東部ハリコフ洲の
大部分の地域を奪還したことです。9月13日のことです。ロシ
ア側もこの事実を認めています。
 ハリコフ州の中心都市であるイジュム市は、ロシア軍の補給路
になっており、ロシアの支配地域では最重要の都市であったとい
えます。もともとロシア軍は兵力不足に悩んでいます。それでも
イジュム市は要衝なので、エリート部隊で固めていたのです。
 しかし、まさか攻めてこないと考えていた南部のクリミア半島
にウクライナ軍が頻繁に攻撃を仕掛けてきたので、ロシア軍は東
部部隊の一部を南部に移します。その結果、手薄になった東部地
域に、ウクライナ軍が、ロシア軍の想定を上回る戦車など機甲戦
力で攻撃してきたのです。軍事専門家によると、米軍がよくやる
作戦で、明らかに米軍の知恵が入っているといいます。
 これについて、元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は、ウ
クライナ軍のハリコフ洲の奪還について、次のような分析を行っ
ています。
─────────────────────────────
 ウクライナ軍による南部奪還作戦に焦ったロシア軍が、東部の
エリート部隊を南部に転用し、その結果、イジュム市などに穴が
できた。ウクライナ軍は、主導性のない作戦や、規律の乱れ、士
気の低下などで、自ら危機を招いている。   ──渡部悦和氏
              2022年9月12日/夕刊フジ
─────────────────────────────
 このウクライナ軍によるハリコフ洲の奪還について、ロシア側
は軍の再編成と一部撤退とアナウンスしていますが、メディアは
「ロシア大敗」と報道しています。これは文字通り「ロシア軍の
大敗北」といえます。それは次の3つの理由からです。
─────────────────────────────
 第1は、ロシア軍は、自軍の戦車や榴弾砲や弾薬などを置き去
りにして逃げている。
 第2は、ロシア兵士の多くは、軍服を脱ぎ捨てて、一般市民に
紛れて敗走している。
 第3は、未確認ではあるもののロシア軍のトップとされる将官
が捕虜になっている。
─────────────────────────────
 第1の理由について考えます。
 戦争において、占領地を計画的に撤退するときは、自軍の兵器
は、すべて爆破するなど、敵軍が使えない状況にして撤退するの
が原則です。しかし、ロシア軍はすべてをそのままにして逃走し
ています。慌てふためいて逃げたという印象です。
 第2の理由について考えます。
 多くのロシア軍の兵士は、軍服を脱ぎ捨て、一般人に紛れて逃
げています。あちこちにロシア軍の軍服が、脱ぎ捨ててあったか
らです。それは、撤退するのに、十分な時間がなかったことを物
語っています。
 第3の理由について考えます。
 ウクライナ軍のイジュム市への攻撃によって、多くのロシア軍
人が捕虜になっていますが、そのなかに軍のトップレベルの将官
と思われる人物が捕虜になっています。まだ本人と特定されたわ
けではないですが、おそらくアンドレイ・シチェポイ陸軍中将で
はないかとみられています。
 この人物は、捕虜になったとき、中佐の軍服を着ていたそうで
すが、おそらく身分を隠すため、階級が下の将官の軍服を着てい
たと考えられます。もし、この人物が本当に中将であったとすれ
ば、第2次世界大戦後はじめてのことになります。ネットでは、
次のように報道されています。
─────────────────────────────
 ウクライナ軍の反転攻勢により、ロシア軍の前線は突破され、
部隊が混乱する中、ある一人のロシア軍士官が、ウクライナ軍に
よって捕らえられた。9月9日にSNSに投稿された映像には後
ろ手に手錠を掛けられ、跪く2人の兵士。2人の恰幅の良い兵士
は右目あたりから血を流している。この男性、ロシア軍西部軍管
区司令官アンドレイ・シチェヴォイ中将とされている。彼は中佐
の階級章が付いた軍服を着ているが、身分を隠すために下級将校
の制服に着替えたとされている。シチェヴォイ中将は7月20日
に、西部軍管区司令官に任命されている。中将という将軍クラス
が捕虜となれば、第二次大戦以来の大戦果となる。これまで12
人の将軍クラスの将校が戦死しており、このクラスの戦死は非常
に稀だが、捕虜となるのは更に稀だ。しかし、シチェヴォイ中将
の捕虜については、ウクライナ、ロシア双方ともに公式発表はな
い。                https://bit.ly/3RNurs2
─────────────────────────────
 ロシアは、東部ハリコフ洲の大敗北を「軍の再編成」と称して
いますが、これについては、「東部ドンバス地域」(ドネツク、
ルガンスク両洲)の解放という特別軍事作戦の目的を達成するた
めであるとしています。
 この東部ドンバス地域では、ルガンスク州の制圧については、
ほぼ終わっていますが、ドネツク州では、60%は制圧している
ものの、残り40%については、まだウクライナ軍が支配を継続
しています。
 これについて米シンクタンクの「戦争研究所」は、9月11日
に次のような見解を発表しています。
─────────────────────────────
 ハリコフ州の喪失で、露軍がドネツク州を制圧できる見通しは
無くなった。露軍が今後、局所的な前進に成功する可能性はある
ものの、戦いの流れはウクライナ側に傾いた。
          ──戦争研究所 https://bit.ly/3dmayJr
─────────────────────────────
             ──[新中国・ロシア論/044]

≪画像および関連情報≫
 ●ウクライナ軍の奪還地域、6000平方キロ以上
  ルガンスク一部解放/高橋杉雄氏の分析
  ───────────────────────────
   ウクライナは8月下旬にヘルソン州など南部の奪還作戦を
  始めたと発表し、その後、電撃的に北東部ハリコフ州での反
  転攻勢に着手した。ロシア軍はウクライナ軍が北東部に兵力
  を集めていることに気づいていたはずだが、「敵の本命は南
  部」と思い込み、迎撃準備を十分にしていなかった可能性が
  大きい。どんなに技術が発達しても、最終的に判断するのは
  人間だ。今後の戦況を左右するほどの判断ミスをしてしまっ
  た。奪還されたハリコフ州のクピャンスクは、鉄道網の要衝
  だ。ここを失ったことで露軍は北東部での補給を維持できな
  くなった。ロシア領に接する地域を奪還されたことで、自国
  に逆侵攻されることにも警戒せざるを得なくなった。この地
  域を露軍が再奪還することは難しく、北東部からのウクライ
  ナ軍への圧力は減る。
   露側に思い違いをさせたこの作戦を陽動作戦と言い切れな
  いのは南部の奪還が単なる「おとり作戦」ではないからだ。
  ヘルソン州を奪還すれば、東部からクリミア半島まで地続き
  だった露軍の支配地域は分断される。ウクライナ軍の南部奪
  還の動きは続くとみられる。米国から供与された高機動ロケ
  ット砲システム(ハイマース)は露軍の補給路を断つのに効
  果を発揮し、北東部へ戦力を向ける下地を作った。このこと
  は、西側諸国の今後の支援にも弾みをつけるだろう。
                 https://bit.ly/3BRhcBb
  ───────────────────────────
捕虜説のロシア軍のシチェボイ陸軍中将.jpg
捕虜説のロシア軍のシチェボイ陸軍中将
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月16日

●「皇帝気取りの第3回目の歴史決議」(第5816号)

 2022年9月13日付の日本経済新聞によると、習近平主席
が14日から16日の日程で、中央アジアの2カ国──カザフス
タンとウズベキスタンを訪問します。コロナ後の初外遊になりま
す。14にはカザフスタンのトカエフ大統領と会談し、16日に
はウズベキスタンで、ロシアのプーチン大統領と会談する予定に
なっています。
 10月16日には、第20回共産党大会が行われますが、この
時期の外遊は、異例の第3期目入りを既に決めている余裕が感じ
られます。プーチン氏との会談は、11月にインドネシアで開か
れるG20サミットを前に中ロの結束を確認するためです。
 9月13日付の日経には、もうひとつ重要なニュースが出てい
ます。10月16日の党大会で、中国軍の最高意思決定機関であ
る党中央軍事委員会の副主席が入れ替わるというニュースです。
習近平氏は、党のトップの総書記と国家主席、そして中央軍事委
員会主席の3つの肩書を持っています。
 注目されているのは、実際に実務を担う中央軍事委員会副主席
のポストを誰が占めるかということです。このポストには、現在
中央軍事委員の苗華氏の副主席昇格がほぼ確定しているといわれ
ます。苗華氏は、習氏が福建省勤務時代に知り合った30年来の
関係があり、陸軍偏重の人民解放軍を陸・海・空軍が一体となっ
て戦える体制に尽力した人物といわれます。これは、台湾奪取の
布石と考えられます。
 メディアの記事などを読むと、習近平主席は、要所要所にしか
るべき人材を配置し、例えば「台湾侵攻」などの重要決断をする
ときは、そういう専門家の意見を聞いて判断する体制を築いてい
るように見えます。
 しかし、習主席は、重要ポストに自分に忠誠を誓う人材を配置
するいわゆる側近政治をやっているという意見があります。ウク
ライナへの侵攻を始めたプーチン大統領も似たようなことをやっ
ています。これは、大きなリスクです。福島香織氏は、習近平主
席について次のように述べています。
─────────────────────────────
 習近平は、自分を肯定し賞賛する人間しか許さず、自分と異な
る意見や批判の粛清に明け暮れたため、出世を願う官僚たちは習
近平を懸命に肯定し、自ら率先して習近平路線に沿うように動い
た。習近平路線に内心不服であっても、習近平ににらまれて粛清
されたくないために、あえて自我を出さず、習近平の命令に粛々
と従うようになった。習近平の方針に従えば、まずい結果になる
とわかっていても、あえて反対せず、失敗に向かって言われた通
りのことしか行わない。これは一種のサボタージュという形によ
る消極的な抵抗にも思われた。        ──福島香織著
   『習近平/ゼロコロナ、錯綜する経済、失策続きの権力者
                 /最後の戦い』/徳間書店
─────────────────────────────
 こういうことをしていると、トップの耳には正しい客観的な情
報が届かなくなります。もし、正しいと思うことを進言すると、
粛清されてしまう恐れがあるからです。実際に、「台湾への軍事
侵攻は米国の介入を招き、成功しない」と警告した劉亜洲空軍上
将は、現在行方不明になっています。
 習近平主席が、いかに自分を偉く見せるかに腐心しているかは
2021年11月8日の中央委員会全体会議(6中全会)で採択
された「歴史決議」の構成を見るとよくわかります。そもそも中
国では、歴史決議がこれまでに2回行われています。したがって
習近平総書記の歴史決議は3回目となります。
─────────────────────────────
  ◎1945年/毛沢東総書記
   「若干の歴史問題に関する決議」
  ◎1981年/ケ小平総書記
   「建党以来の若干の歴史問題に関する決議」
  ◎2021年/習近平総書記
   「党の100年奮闘の重大成果と歴史経験に関する
   中共中央の決議」
─────────────────────────────
 第1回の歴史決議も第2回のそれも、路線競争に決着をつける
ために行われたものです。1回目は、中国共産主義の毛沢東と、
ソ連共産主義の王明との対立の決着をつけるためのものであり、
2回目は、毛沢東路線継続の華国峰と改革開放のケ小平の対立に
決着をつけるためのものです。それでは、3回目の歴史決議の意
義は何でしょうか。
 これについて、福島香織氏は、3回目は、「習近平の勝利戦宣
言」の内容ですが、勝利宣言としては、長いだけで、前2回の歴
史決議に比べると、きわめてインパクトに欠けるとして、次のよ
うに厳しく論評しています。
─────────────────────────────
 この歴史決議は、勝利宣言としては実に中途半端で、冗長なだ
けで、内容的にはこれまでの2度の歴史決議に比べてインパクト
に欠けるものだった。また党内・人民からの支持・評判もさほど
高くない。
 内容を簡単に説明すると、共産党100年の歴史分割について
は、毛沢東時代前期、毛沢東時代後期、ケ小平・江沢民・胡錦濤
時代、習近平時代と4分割で見出しをとり、習近平時代に関して
は13の小見出しをとって、そこに、「党の100年奮闘の歴史
意義」「党の100年奮闘の経験」の総括、「新時代の中国共産
党」という展望の章が加わり、全部で序言と7章で構成されてい
る。全文約3万6000字のうち2万字が習近平新時代の解説に
割かれ、予測を裏切らない習近平権力至高化に向けた宣伝決議で
その意義は、はっきりと書かれていないが、文脈として改革開放
終結宣言といえる。  ──福島香織著/徳間書店の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[新中国・ロシア論/043]

≪画像および関連情報≫
 ●「第3の歴史決議」で見えた習近平の権力と脆弱性
  ───────────────────────────
   日本を含め世界中が注目した中国共産党の「第3の歴史決
  議」なる文書が先日、公表された。タイトルは『党の百年奮
  闘の重要な成果と歴史的経験に関する中共中央の決議』(新
  華社日本語版の表記)。中国語での字数は約3万6000字
  日本語訳は約5万5000字にのぼる。日本の新聞1ページ
  の活字が約1万1000字なので、5ページ分相当の膨大な
  文書だ。
   日本語訳が公表されたからといって全文を読む人は、中国
  研究者や政府関係者らごく一部の専門家に限られるだろう。
  筆者も覚悟して日本語訳を読んでみたが、これほど読みにく
  くわかりにくい文書はあまり見たことがない。翻訳が悪いの
  ではなく、定義や意味が不明な抽象的な言葉や造語がこれで
  もかというほど次から次へと列挙されているから読みにくい
  のである。
   しかし、決議が言いたいことだけはよくわかった。まずア
  ヘン戦争以降に屈辱的な歴史を刻んだ中国の運命を変えて今
  の素晴らしい中国を作ったのは、結党百年を迎えた中国共産
  党であるということ。次にこれから先、「中華民族の偉大な
  復興」という「中国の夢」を実現するためにも中国共産党の
  指導が不可欠であるということ。最後は、その中国共産党に
  とって習近平国家主席の存在が党の「核心」として不可欠で
  あるということだ。      https://bit.ly/3BAHFCN
  ───────────────────────────
3回の歴史決議.jpg
3回の歴史決議
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月15日

●「外資が逃げると中国は金欠になる」(第5815号)

 中国の不動産市場の現況について、ケネス・ロゴフ米ハーバー
ド大学教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国にとって不動産の影響は、関連産業も含めると国内総生産
(GDP)の29%にも及び、不動産の活動が20%減少すると
GDPが5〜10%減少する可能性があるという。
          ──ケネス・ロゴフ米ハーバード大学教授
─────────────────────────────
 中国の不動産に異変が起きています。不動産の値崩れ、取引量
の急減、デベロッパーの相次ぐ債務不履行、住宅購入者による住
宅ローン返済拒否の拡大などです。
 既に述べているように、中国では、住宅完成前に資金を支払う
予約販売のケースが多いので、予定通りに住宅が完成しないと、
住宅の完成前に住宅ローンが始まることになります。しかし、こ
のところデベロッパーの資金繰りが悪化して、約束の期日までに
住宅が完成しないケースが多くなっているので、住宅購入者のロ
ーン支払い拒否が増えているのです。こういう急増している未完
成物件のことを中国では「爛尾楼」(ランウェイロウ)といって
います。
 中国の現況は明らかに不動産バブルです。なぜかというと、中
国は、これまで巨額のインフラ投資を行うことによって、高い経
済成長を実現するエンジンにしてきたのです。2008年のリー
マンショックのさいは中国は4兆元(当時のレートでは約57兆
円)の景気対策は「世界を救った」と称賛されたものです。その
資金は、ほとんどインフラ投資や住宅投資に投入されています。
 一に投資、二に投資、三に投資なのです。それは、個人消費が
弱いからでもありますが、GDPを短期間で嵩上げするにはこれ
が一番効果的なやり方です。
 その投資量たるや、けた外れで、マイクロソフトの創業者であ
るビル・ゲイツ氏は、その投資資金の超巨額さを次のように表現
しています。
─────────────────────────────
 中国の2011年〜13年の3年間のセメント消費量は66億
トンであり、これは、アメリカが20世紀の100年間の消費量
である45億トンを超えている。     ──ビル・ゲイツ氏
─────────────────────────────
 中国は、そういう投資を現在まで15年も続けてきたのです。
こういうことをしていけば、次第に大きなリターンを望めない不
要不急のインフラが積み上がるのは当然のことです。10年前に
は、モンゴル自治区のオルドス市などに人が住んでいない「鬼城
(グェイチョン)」が多数出現していたことをEJで書いたこと
を覚えています。
 とくに高速鉄道の総延長は、地球一周分の4万キロに達してい
ますが、ほとんどが赤字路線で、高速鉄道を運行する中国国家鉄
路集団の負債は、120兆円を超えています。しかし、それでも
まだ延長する方針を変えていません。
 そういう中国に現在深刻な事態が起きています。中国から外国
の対中債券投資の引き上げが起きていることです。つまり、外資
が逃げ出していることです。
 ここで、添付ファイルを見てください。このグラフは、産経新
聞特別記者の田村秀男氏のコラムに掲載されていたものです。外
国人保有の中国債券(青)と外貨準備(赤)について、今年の1
月と比較したものです。その驚くべき急減ぶりと、人民元相場の
下落が示されています。これについて、田村秀男氏は、次のよう
に解説しています。
─────────────────────────────
 これは、全て中国特有の通貨・金融制度に起因する。中国は流
入する外貨すなわちドルに応じて人民元資金を発行し、土地配分
権を持つ党官僚がその資金と結びつけて不動産、インフラなど、
固定資産投資を行い、GDPをかさ上げしてきた。外貨の流入源
は経常収支黒字、それと外国からの対中投資で、言い換えると中
国の対外債務である。
 他方で、習政権は対外膨張策をとるので対外投資が増える。さ
らにもう一つ大きな資本流出がある。規制の網をかいくぐる資本
逃避で、膨らむと、国内資金の裏付けになる外貨はマイナスにな
る。いま最大の資本流出要因は外国からの対中債券投資の引き揚
げだ。ロシアのウクライナ侵略戦争開始後、激しくなっている。
          ──「田村秀男/『お金』は知っている」
        2022年9月9日(8日発行)「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 ところで中国の個人消費はなぜ低いのでしょうか。
 2021年の中国の個人消費(対GDP比)は、38・5%で
す。日本は平均して約60%ですが、このところコロナ禍もあっ
て減少しています。2022年6月の日本の個人消費は56・3
%、それでも中国に比べれば、かなり高いレベルにあります。
 中国の個人消費が低い原因は、高い貯蓄率と表裏の関係にあり
ます。なぜ、貯蓄に励むのかというと、世界第2位の経済大国で
あっても、中国の場合、年金、医療などの、社会的セーフティー
ネットが脆弱であるからです。
 今後中国経済がどうなるかについて、真壁昭夫多摩大学特別招
聘教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 短期間で中国の不動産市況が底打ちに向かう展開を予想するこ
とは難しい。共産党政権が債務問題の深刻化に直面する企業や金
融機関に公的資金を注入し、不良債権処理を余儀なくされるまで
不動産バブル崩壊の負の影響は増大する可能性が高い。貧富の格
差は拡大し、若年層などの失業率はさらに上昇して国民の不満が
追加的に高まるだろう。  ──真壁昭夫多摩大学特別招聘教授
─────────────────────────────
             ──[新中国・ロシア論/042]

≪画像および関連情報≫
 ●中国:不動産に依存した経済発展の終焉
  ───────────────────────────
  ◆中国版総量規制の導入に、新型コロナウイルス感染症の再
  拡大に伴う厳格な移動・行動制限が加わり、中国の不動産市
  場はかつてない落ち込みを経験している。住宅ローン金利引
  き下げなどのテコ入れ策にもかかわらず、住宅需要が刺激さ
  れないのは、住宅を完成前に購入し、銀行への住宅ローンの
  返済が始まっても、工事中断により、その物件が手に入らな
  い懸念があるためである。デベロッパーへの資金サポートな
  どにより、工事を再開させることが、不動産市場の不振脱出
  の第一歩となろう。
  ◆より長期的な観点で、今後の中国の不動産市場はどうなる
  のであろうか。中国政府としては、銀行の担保割れを引き起
  こすような住宅価格の暴落、あるいは調整の長期化は、避け
  たいところであろう。しかし、その懸念は燻ぶり続ける。中
  国版総量規制は、住宅に対する需要と供給をともに抑制する
  ことで、価格のソフトランディングを目指す意図がある。し
  かし、この政策によって、不動産の開発と販売に依存した経
  済発展パターンは立ち行かなくなる。これが経済成長鈍化の
  一因となろう。
  ◆今後の中国の不動産デベロッパーの勢力図は、国有企業を
  主体に、健全性の高い(当局の政策・意図に従順な)民営企
  業がそれを補完する、という形になる可能性が高い。
                 https://bit.ly/3BvvvLg
  ───────────────────────────
中国の外貨準備及び外国の中国債権保有の1月末比.jpg
中国の外貨準備及び外国の中国債権保有の1月末比
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月14日

●「中国の『米国超え』は困難である」(第5814号)

 9月5日付の米紙「ウォールストリート・ジャーナル」(WS
J)に次の記事が出ています。
─────────────────────────────
◎「中国経済の『米国超え』懐疑論が浮上」
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 【香港】中国経済がここ1年に急減速したことで、同国がいつ
米国を抜いて世界最大の経済国になるのかを巡り、専門家の間で
予想を見直す動きが広がっている。そもそも「米国超え」はあり
得るのかといった懐疑的な見方も浮上してきた。
 ドル建ての国内総生産(GDP)換算で、中国は2020年代
末までに米国を追い抜くとの見立てが、最近までエコノミストの
間では支配的だった。ところが、中国当局による徹底した「ゼロ
コロナ」感染対策や、不動産市場の投機抑制といった政策により
経済成長に急ブレーキがかかっており、今年に入って景気見通し
が急激に悪化している。      ──2022年9月5日付
      「ウォールストリート・ジャーナル/電子版」より
─────────────────────────────
 「2020年代末までに中国はGDPで米国を追い抜く」──
中国が公表する経済数値が正しいとすれば、それは十分あり得ま
すが、その数値の正確性には疑問があり、まして昨今の中国の国
内事情を勘案すると、上記WSJが伝える「米国超え」の懐疑論
は当然のことです。
 それに中国は豊かになったといっても、14億人の人口のうち
6億人は月収200ドル以下で暮らしているといわれています。
中国は名目GDPでは世界第2の経済大国ですが、豊かさを示す
1人当たりGDPは、世界65位(2021年現在)でしかあり
ません。ちなみに米国は6位、日本は28位です。残念なことに
日本はどんどん順位を下げています。
 それにしても、9月に入るや、メディアでは、中国経済の停滞
論の記事が満載です。参考までに、日本経済新聞「経済教室」の
論文をご紹介しておきます。URLをクリックすれば、記事全文
を読むことができます。
─────────────────────────────
◎苦境続く中国経済@/2022年9月5日
                 福本智之大阪経済大学教授
              「人口動態、不動産不況に影響」
              https://s.nikkei.com/3Dg3F7e
◎苦境続く中国経済A/2022年9月6日
               西村友作対外経済貿易大学教授
              「投資主導で安定成長」道険し」
             https://s.nikkei.com/3d2QmMy
◎苦境続く中国経済B/2022年9月7日
                 渡辺真理子学習院大学教授
             「指導部、『創造的破壊』に慎重」
              https://s.nikkei.com/3eGSjPa
               日本経済新聞「経済教室」より
─────────────────────────────
 上記3つの論文を読むと、中国には様々な問題があり、このま
までは、中国の経済は失速し、とてもではないが、米国を抜いて
世界一の経済大国になることは困難です。その理由としては、次
の3つを上げることができます。
─────────────────────────────
            @債務危機大
            A人口の減少
            B国際的孤立
─────────────────────────────
 @の「債務危機大」とAの「人口の減少」については当然のこ
とすが、Bの「国際的孤立」とは何でしょうか。
 それはたくさんあります。独善的なワクチン外交、中国共産党
の体制や政策に異を唱える国に対する「報復」措置を吠える戦狼
外交、一帯一路戦略でみられる借金の罠、そして台湾問題があり
ます。この台湾問題に関連して、昨年来のリトアニアへの恐喝問
題も発生しています。
 リトアニアへの恐喝問題とは、バルト3国のひとつであるリト
アニア共和国が、2021年7月、首都ビリニュスで「駐リトア
ニア台湾代表処」を開設したことが原因で起きています。問題は
日本や欧米諸国が、台湾の公館に使う名称「台北代表処」ではな
く、「台湾代表処」という名称で開設したことにあります。これ
はなかなか勇気のいることです。
 中国にとっては、「台北」という都市の名前なら許容範囲であ
るものの、「台湾」という名称を認めたことで、猛反発が起こっ
たのです。中国は、これを「『一つの中国』への挑戦」と受け止
め、リトアニアから自国の大使を召還し、外交関係を格下げして
います。そして、リトアニア企業との取引を停止し、輸入を事実
上差し止めています。さらに、他のEU加盟国の企業に対しても
リトアニアの原材料を使った製品を中国へ輸出しないように圧力
を掛けています。まさに恐喝外交、戦狼外交です。
 2021年12月15日、在中国リトアニア大使館員ら19人
が、中国を退去し、パリ経由でリトアニアに帰国しています。そ
して、2022年8月12日、リトアニア運輸・通信省のバイシ
ウケビチウテ副大臣が台湾を訪問しています。これに対して中国
は、リトアニアの運輸・通信省とのやり取りを停止し、同分野で
の交流や協力も取りやめるとしています。このように両国は台湾
をめぐって関係が悪化しています。このようなことをしていれば
中国は国際的孤立をさらに深めてしまうだけです。
 しかし、中国経済の苦境は、このまま放置すると、深刻な金融
危機を引き起こす恐れがあります。しかし、経済に強いとはいえ
ない習近平政権の取っている措置は、対症療法そのものであり、
危機を回避できるとは思えないものです。
             ──[新中国・ロシア論/041]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の「やられたらやり返す」戦狼外交が抱く難問
  ───────────────────────────
   中国共産党の体制や政策に異を唱える米欧日などに対して
  「報復」措置を吠える「戦狼外交」は、19世紀以降に西洋
  や日本に領土や主権を侵食された「屈辱の歴史」からはい上
  がり、今や「強国」になった国民のナショナリズムを刺激し
  ており、習近平共産党総書記(国家主席)は求心力を高める
  国内的効果を狙っている。
   しかし、ロシアのウクライナ侵攻を受け、アメリカのバイ
  デン大統領が、ロシアのプーチン大統領について「権力の座
  にとどまってはならない」と述べ、米欧日などの西側民主主
  義陣営と、中ロを中心とした権威主義陣営の対決がより鮮明
  になる中、習近平は体制の存亡を懸けた対西側イデオロギー
  闘争を勝ち抜く「宣伝戦」の一環として「戦狼外交」を強化
  する必要性を感じているだろう。ただロシアに偏りすぎる印
  象も避けたい意向で、その強硬宣伝工作のあり方が問われて
  いる。習近平が2月4日、ウクライナ侵攻を前に北京冬季五
  輪開会式に出席したプーチンと会談し、公表した共同声明で
  こう明記された。「中ロは、外部勢力が両国共同の周辺地域
  の安全と安定を破壊することに反対し、外部勢力がいかなる
  口実であれ、主権や国家の内政に干渉することに反対し、カ
  ラー革命に反対する」
   習近平は米欧日などを念頭に、権威主義陣営を動揺、弱体
  化させる「カラー革命」への警戒感をあらわにした形だ。共
  産党体制を維持、安定させ、社会主義の優位性を広めるため
  習近平にとって中ロ「共闘」は、ウクライナ危機がどう転ぼ
  うと絶対的な原則である。    https://bit.ly/3Rytq6N
  ───────────────────────────
戦狼外交官/趙立堅報道官.jpg
戦狼外交官/趙立堅報道官
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月13日

●「習主席は共同富裕で何を狙うのか」(第5813号)

 習近平主席の掲げる「共同富裕」路線を整理して、まとめてお
くことにします。
 「共同富裕」とは、ケ小平による「先冨論」によって、先に豊
かになった民営企業の富を中国共産党と国家に還元させ、それを
未だ貧しい農民や労働者へ再分配するというものです。分配には
次の3段階があります。
─────────────────────────────
  @1次分配 ・・ 労働の対価としての給与による分配
  A2次分配 ・・ 1次分配の偏りを税などにより是正
  B3次分配 ・・ 寄付や慈善による富裕層の富の移転
─────────────────────────────
 @の「1次分配」とAの「2次分配」については驚きはありま
せんが、問題はBの「3次分配」には、問題があります。本来寄
付や慈善は個人の自由意志によって行われるものですが、中国の
ような一党独裁の専制国家においては、強制的な富の供出になっ
てしまうことです。
 アリババは、「共同富裕」の政策に基づいて、2021年9月
に2025年までの間に1000億元(1・7兆円)の寄付を行
うと発表しています。これは、当局によるアリババ傘下のアント
グループの上場阻止事件や、創業者の馬雲氏の3カ月に及ぶ「失
踪」(おそらく逮捕?)事件があり、寄付しないと犯罪者のレッ
テルを張られ、罰金として富を収奪されることを恐れて、自ら寄
付を名乗り出ているものと思われます。これは寄付ではなく、党
や国家による富の収奪そのものです。
 アリババの馬雲氏は、世界的な著名人であるので、他への見せ
しめの「出る杭は打たれる」のケースといえますが、中国以外で
はあまり知られていない孫大午氏のケースをご紹介します。孫大
午氏は河北大午農収集団の創業者です。孫大午氏については、福
島香織氏の本から引用します。
─────────────────────────────
 孫大午は軍退役後の1984年に、兵役時代の農牧経験をもと
に鶏1000羽、豚50頭の農場からスタートして1995年に
は中国500強民営企業になるまで事業を拡大したカリスマ経営
者だ。最終的には大午集団は従業員は9000人以上、固定資産
は20億元、年平均生産額は20億元超えという超優良企業に発
展した。そうした実績をもとに、孫大午は、国家の庇護のもとに
胡坐をかいた国営農場や国有企業の在り方や共産党の経済政策に
ついて、しばしば厳しい意見を発表していた。 ──福島香織著
   『習近平/ゼロコロナ、錯綜する経済、失策続きの権力者
                 /最後の戦い』/徳間書店
─────────────────────────────
 孫大午氏は、裸一貫からのし上がった民営企業家で、地道な努
力を重ねて、他業種にまたがる大集団企業にまで自社を発展させ
た農民企業家として、多くの農民や労働者らの低層社会の人々か
ら尊敬を集めていた人物です。
 そこで、孫大午氏は、自らの経験に基づいて、国営の農場や国
有企業の在り方について、一種の提言を行ったのです。しかし、
中国では、国家に対するこういう提言を許さないのです。孫大午
氏に対しては、地元の公安当局から「国家機関を侮辱した」とし
てサイトの閉鎖や6カ月間の営業停止と罰金15000元を課さ
れ、さらに別件容疑で逮捕されてしまいます。しかし、このとき
は執行猶予も付き、罰金で済んでいます。
 しかし、孫大午氏は、2020年に米メディアのRFA(ラジ
オ・フリー・アジア)に次の発言を行っています。
─────────────────────────────
 公有制度は共産党が発明したものであり、社会主義経済の基礎
は、本来私有経済であるべきである。      ──孫大午氏
           ──福島香織著/徳間書店の前掲書より
─────────────────────────────
 この発言が原因かどうか不明ですが、2020年8月に、確た
る法的根拠もなく、大午集団の建物をいきなり国有農場が強制収
用しようとして、従業員と警察がもみ合い、20人以上が負傷す
るという事件が起きます。当然のことながら、大午集団側は当局
へ強い抗議をしています。
 しかし、孫大午氏は、この件で裁判にかけられ、2021年7
月28日、人民法院は、挑発扇動罪で、懲役18年、罰金311
万元という重罪に処せられます。これによって、大午集団の広大
な農場は国家に接収され、9000人の従業員が解雇されたので
す。「共同富裕」の名の下、少しでも国家の方針に逆らう姿勢を
見せると、こういう目に遭うことになります。こういう事例は、
現在の中国では、枚挙にいとまがないほどたくさんあります。
 習近平主席が民営企業経営者を嫌うのは、民営企業の成功者が
自分にはない強いカリスマ性を持ち、国内的にはもちろんのこと
馬雲氏のように国際社会からも高い評価を得ている者がいること
です。これは、習近平政権にとって「脅威」と考えるのです。
 中国には、「双循環」という考え方があります。双循環には、
国内循環と国際循環という2つの循環があります。
─────────────────────────────
       ◎「双循環戦略」
        Dual Circulation Strategy
─────────────────────────────
 習近平政権としては、国際循環の重要さはよくわかっているも
のの、その前に国内循環をもっと強くしたいと考えています。そ
こで、一帯一路沿線国を増やし、それを「準国内」として機能さ
せようとしています。
 この一帯一路沿線国を増加させて準国内を増やし、それを含め
た国内循環を強固なものにし、閉じられた経済圏を確立したいと
考えています。つまり、閉じられていれば、中国共産党が経済を
コントロールできると考えるからです。
             ──[新中国・ロシア論/040]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の新たな発展戦略となる「双循環」──
  「国内循環」と「国際循環」の相互促進を目指して
  ───────────────────────────
   双循環という概念は、2020年5月14日に中国共産党
  中央政治局常務委員会において初めて提起された。その内容
  は、後に行われた一連の重要な会議において次第に明らかに
  なり、7月21日の企業家座談会と8月24日の経済社会分
  野専門家座談会における習近平総書記の演説をベースに次の
  ようにまとめられる。
   双循環とは、国内循環を主体とし、国内と国際の2つの循
  環が相互に促進する新たな発展戦略のことである。これは、
  中国の発展段階・環境の変化に基づいて提起されたものであ
  り、中国の国際協力と競争の新たな優位性を再構築するため
  の戦略的選択である。これまで、経済のグローバル化が進ん
  だ外部環境の下では、市場と資源を外に求めることは、中国
  の急速な発展に重要な役割を果たした。しかし、現在のよう
  な、保護主義が台頭し、世界経済が低迷し、グローバル市場
  が萎縮した外部環境の下では、中国は国内の巨大な市場とい
  う優位性を十分に生かさなければならない。
   双循環戦略を実施するに当たり、生産・分配・流通・消費
  に重点を置きながら、供給側の構造改革と内需拡大という方
  針を堅持し、需要と供給の拡大均衡を目指さなければならな
  い。その上、サプライチェーンのレベルアップを図り、技術
  革新(イノベーション)を大いに推進し、コアとなる技術の
  開発に力を入れ、未来の発展のための新たな優位性を作り上
  げなければならない。      https://bit.ly/3L4hK9E
  ───────────────────────────
孫大午氏.jpg
孫大午氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月12日

●「共同富裕の一環/極端な教育介入」(第5812号)

 習近平主席が3期目就任をかけて打ち出した「共同富裕」の3
つの統制強化を再現します。@とAについては既に説明が終わっ
ており、Bについて説明します。
─────────────────────────────
          @金持ち崇拝の戒め
          A新三座大山の退治
        → B若年層の教育指導
─────────────────────────────
 第3の統制は「若年層の教育指導」です。
 中国では理解できないことが突然起こります。2021年2月
24日のことです。中国政府が学校教育に関する「ある通知」を
出してきたのです。その通知には、5月1日から次の2つのこと
を実施するという内容です。これら2つを削減するという意味で
「双減」と称しています。この双減政策は、北京・上海など9つ
の大都市で試行されるということです。
─────────────────────────────
           @宿題負担軽減
           A学習塾の削減
─────────────────────────────
 中国の義務教育は、日本と同じ「6・3・3制」をとっていま
す。それを前提として簡単にまとめると、次のようになります。
─────────────────────────────
 宿題については、小学校1・2年生には出さない。小3〜6年
生は60分以内で仕上がるもの、中学生は90分以内で仕上がる
ものにする。このさい、親は宿題を監督・指導せず、教師が行う
ことにする。
 塾について、関係機関の厳正な審査と認可の下で非営利型のみ
運営を認め、新規の教科学習を認めず、国外でオンラインなどを
通して勤務する外国人講師を雇用してはならず、夜の9時までに
は授業を終える。学校の教員について、塾との兼職禁止、週5日
毎日最低2時間の放課後の教科教育以外の指導に従事する(5+
2モデル)などがある。
─────────────────────────────
 この通知は、学校や学習塾関係者にとってまさに「寝耳に水」
だったといえます。これによって大手の学習塾はもちろん、中小
の教育関係会社も免れることなく、軒並み株価が30〜50%以
上急落し、「全滅」の状態です。しかし、不思議なことに、習近
平政権は、それによって経済が落ち込むことなど、まるで気にし
ていないようです。経済オンチなのでしょうか。
 なお、このことと関係があるかどうかはわかりませんが、その
直前のことです。2月18日に中国の教育部、日本でいえば文部
科学省が通達を出し、5月1日から全国の小中学校に「法治副校
長」を配置すると発表しています。この法治副校長は、全国の裁
判所、検察、公安警察から推薦派遣されます。彼らは一体何のた
めに配置され、どんな仕事をするのでしょうか。これについて、
石平氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 建前においては学校のなかの法治教育、犯罪予防、安全管理を
担当するということですが、考えてみれば、小中学校の犯罪予防
や法治教育を別に公安要員がやらなければならないことはありま
せん。結局、これは、公安から小中学校に監視要員が配置され、
「洗脳教育」の役目を果たすという意味合いになります。
 中国の文化大革命時代には、全国の小中学校にいわゆる労働者
宣伝隊という人々が派遣されてきたのです。私の学校にもいまし
たね。工場の労働者が学校に乗り込んできて、学校を牛耳るんで
すよ。学校の校長先生も彼らの話を聞かなければならない。そう
いう人々が教育現場の教師が、きちんと共産党の方針に従ってい
るかどうかを監視したり、別の意味では生徒側に対して洗脳教育
も担当したのです。         ──石平著/ビジネス社
       『バカ殿を指導者にした/断末魔の習近平政権』
─────────────────────────────
 この中国版のゆとり教育ともいえる「双減政策」の狙いは何で
しょうか。それは、長期的な少子化対策であると考えられます。
 その背景には、中国の出生数の激減があります。2022年1
月17日、中国統計局は、2021年の出生数を発表しましたが
前年比で138万人減の1062万人で、1949年の建国以来
最低の数字だったのです。
 こうした出生数の削減は5年以上続いていて、2015年には
36年間にわたって実施してきた一人っ子政策を廃止し、「第2
子を容認」を実施しています。しかし、時すでに遅し、一向に出
生率は増えず、2021年には「第3子容認」をしましたが、史
上最低の出生率になってしまったというわけです。
 そこで、宿題などの量を減らし、子供の負担軽減と、親たちの
負担も軽くさせることに成功すれば、子育ての余裕が生まれ、結
果として少子化対策につながると考えたものと思われます。それ
にしても、内容が極端で、きわめて対症療法的な施策です。
 この双減政策に関して、福島香織氏は次のように厳しく論評し
ています。
─────────────────────────────
 理念として掲げられた子供たち、保護者たちの受験プレッシャ
ー、教育費プレッシャー問題が解決され、貧富の差による教育格
差の問題なども解決されたのか、という点にっいては、私の仄聞
する限りでは、「塾・学習支援企業」の地下組織化、ヤミ化が進
み、むしろ時間当たり単価が高騰し課外授業の質が落ちて、都市
に比べて、農村の情報やコネや資金のない家庭が割を食う状況に
なっているらしい。             ──福島香織著
   『習近平/ゼロコロナ、錯綜する経済、失策続きの権力者
                 /最後の戦い』/徳間書店
─────────────────────────────
             ──[新中国・ロシア論/039]

≪画像および関連情報≫
 ●「中国版ゆとり教育」が目指す「安定」と引き起こす
  「混乱」
  ───────────────────────────
   中国政府はこの夏から小中学生の@宿題A塾通い――の二
  つを大幅に減らす「双減」政策を強力に推進している。受験
  競争に伴う子どもの負担を緩和しようとの取り組みは、いわ
  ば「中国版ゆとり教育」だと言えそうだ。ただ、一連の政策
  の背景には若年層の不満を抑えこみ、社会の不安定化を未然
  に防ごうという中国政府の狙いも透けて見えるうえ、塾の経
  営を困難にし、子どもたちの進路を政府が左右しようとする
  強引な手法は反発も呼んでいる。
   「要するに、本当にやる気のある子どもだけが大学に行け
  ばいいということだ。そもそも今後の中国では事務職の仕事
  が減る一方、技能労働者は不足する。そうした社会では、み
  んなが大学に行く必要はないし、塾も必要ないということだ
  ろう」
   教育改革に関する中国政府の狙いについて中国政府系研究
  機関の研究者に聞くと、こんな解説が返ってきた。将来的に
  は中国も人工知能(AI)技術の発展などで事務系のホワイ
  トカラーの仕事は減り、ブルーカラーの技能労働者の需要が
  増えると見通しこうした未来に合わせた改革なのだという。
  中国の大学進学率は、この10年間、急速に上がり続けてき
  た。中国教育省によると、2010年には26・5%だった
  が、20年には54・4%と倍増している。
                 https://bit.ly/3BqhZbM
  ───────────────────────────
双減政策.jpg
双減政策
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月09日

●「『共同富裕』を実現する統制計画」(第5811号)

 中国の習近平政権が「共同富裕」の実現のために打ち出したと
みられる統制強化を再現します。
─────────────────────────────
          @金持ち崇拝の戒め
          A新三座大山の退治
          B若年層の教育指導
─────────────────────────────
 第1の統制は「金持ち崇拝の戒め」です。
 これは、習近平政権が誕生したときから行われている「贅沢禁
止令」につながる統制と裏返しの関係があります。金持ちから金
を吐き出させる政策であり、標的になったのは、アリババ集団な
どの巨大ネット企業に対する独占禁止法違反を理由とした罰金徴
収、上場の妨害、ファンビンビン氏などの著名な映画俳優に対す
る税務調査強化による罰金の徴収、富裕層の財産に対する第3次
分配と称する高額寄付の奨励などです。
 この「金持ち崇拝の戒め」について、福島香織氏は次のように
コメントしています。
─────────────────────────────
 習近平の掲げる「共同富裕」路線は、ケ小平の先富論で先に豊
かになった民営企業の富を党と国家に還元させ(国有化、国家接
収)、未だ貧しい農民、労働者への再分配を国家と党の手で行う
ということだ。その方法は「労働の対価として給与を支払う市場
原理による一次分配」、「一次分配の偏りを税金・社会保障・財
政支出によって是正する二次分配」「寄付や慈善によって富裕層
の富を移転する三次分配」がある。
 この三次分配は、これまでになかった新しい考え方で、欧米の
寄付文化のようにも見えるが、専制体制においては、自由意志の
寄付文化というよりもは、極権政治による強制的な富の供出とい
える。                   ──福島香織著
   『習近平/ゼロコロナ、錯綜する経済、失策続きの権力者
                 /最後の戦い』/徳間書店
─────────────────────────────
 中国には昔から「劫富済貧(ごうふさいひん)」という思想が
あります。金持ちを脅かしてその財産を奪い、貧民に分配して救
済する、という意味です。中国共産党は、党設立の当時からこの
思想を旗印にして「革命」を起こして政権奪取に成功したという
歴史があります。
 劉世錦という著名な経済学者がいます。政治協商会議・経済委
員会副委員長を務めています。劉世錦氏は習政権の進める「共同
富裕」は、劫富済貧的であるとして、次のように述べています。
今年の3月9日のことです。
─────────────────────────────
 これでは、共同富裕はまったく達成できない。むしろ逆に「共
同貧困」を作り出すことになる。金持ちからお金を奪ったら、金
持ちが貧乏人になる。しかし、貧乏人が救済されても金持ちには
なれない。結果的にみんな貧乏人になってしまう。──劉世錦氏
                  ──石平著/ビジネス社
       『バカ殿を指導者にした/断末魔の習近平政権』
─────────────────────────────
 第2の統制は「新三座大山の退治」です。
 「三座大山」とは何でしょうか。
 「三座大山」とは、中国人民を苦しめた3種の反動勢力──帝
国主義、封建主義、官僚資本主義のことをいいます。ここでいう
「新三座大山」とは、次の3つを意味しています。
─────────────────────────────
   「教 育」 ・・・    学習塾の非営利団体化
   「不動産」 ・・・     三道紅線/総量規制
   「医 療」 ・・・ 薬価の統制/医療費負担軽減
─────────────────────────────
 上記3つのうち、「教育」と「不動産」について考察します。
 2021年7月のことですが、中国政府は、教育産業では小中
学生を対象とした学習塾の新規開業の認可を取り消しています。
既存の学習塾は非営利団体にされてしまっています。これと同時
にゲーム業界では新作ゲーム発売に必要な認可を中止し、同時に
子供に対するゲーム利用について厳しい規制を設けています。
 これにより、教育産業は大打撃を受け、ネットを使う業者を含
めて、塾の講師やゲーム産業関連の失業者は2000万人を超え
るといわれています。
 続いて、「不動産」について考察します。
 「総量規制」については、銀行の資産規模に応じて、総融資残
高に占める住宅ローンなどの残高の上限比率を定めています。不
動産市場の安定に向けて、不動産会社の負債に依存した事業拡大
を警戒しているのです。人民銀行などは、開発業者の負債規模に
応じて、新規の銀行融資を制限する資本調達規制も全面適用する
方針だそうです。
 「三道紅線」とは何でしょうか。
 3つのレッドラインという意味で、3つとは次の通りです。
─────────────────────────────
    @総資産に対する負債比率が70%以下
    A自己資本に対する負債比率が100%以下
    B短期負債を上回る現金の保有
─────────────────────────────
 「総量規制」についても「三道紅線」にしても、民間の不動産
業者に対する兵糧攻めであり、恒大集団などをはじめとする大手
・中堅の不動産デベロッパーは60社以上が完全に3つのレッド
ラインを超えており、もし、ドミノ連鎖的な倒産が起きると、金
融システミックリスクが引き起こされる可能性もあります。しか
し、これは習政権の進める「共同富裕」の革命なのです。なお、
「若年層の教育指導」については来週のEJで取り上げます。
             ──[新中国・ロシア論/038]

≪画像および関連情報≫
 ●習氏、長期体制優先で「共同富裕」見直しか 経済減速で
  IT締め付け停止
  ───────────────────────────
   【北京=三塚聖平】中国共産党が、習近平総書記(国家主
  席)の看板政策として昨年から進めてきた「共同富裕」を見
  直す動きをみせている。貧富の格差解消を掲げて強めた国内
  IT大手への締め付けについて党指導部が方針転換を決めた
  と報じられた。新型コロナウイルスの感染拡大などにより中
  国経済の減速懸念が強まる中、習氏の長期体制を目指す今秋
  の党大会に向け、政治的な安定を最優先させたとみられる。
   共産党が4月29日に開いた中央政治局会議は、IT大手
  に関して「健全な発展を後押しする具体的な措置を実施すべ
  きだ」と支援する姿勢を示した。中国インターネット通販最
  大手のアリババ集団などを苦しめてきた規制強化については
  「特別な改善を完了し、平常状態の管理を行う」との方針を
  表明した。
   香港英字紙のサウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子
  版)は会議終了直後、関係者の見方として、党指導部がIT
  業界への締め付けを停止すると伝えた。5月4日までの労働
  節(メーデー)の連休後、中国の規制当局がアリババなど、
  IT大手幹部を招いて会議を開き、そうした方針を伝えると
  いう。習氏は昨年8月、かつて毛沢東が提唱した共同富裕と
  いうスローガンを強調。党指導部は、「高過ぎる収入の合理
  的な調節」や「高所得層と企業の社会への還元」を打ち出し
  た。その後、高収入の象徴である芸能界やIT業界などがや
  り玉に挙がり、芸能人の脱税での摘発が続発。アリババは共
  同富裕の促進のために計1千億元(約2兆円)の拠出表明に
  追い込まれた。        https://bit.ly/3D04roN
  ───────────────────────────
「共同富裕」を推進する習近平主席.jpg
「共同富裕」を推進する習近平主席
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月08日

●「『共同富裕』で中国はどうなるか」(第5810号)

 こんな話があります。中国では、人口約14億人のうち10億
人はまだ飛行機に乗ったことがないといわれます。2億8000
万人の高所得層をのぞいて、11億人の可処分所得は毎年わずか
1600元(約2万5000円)ということです。その一方で、
未曽有の大金持ちが増えており、貧富の格差が非常に大きくなっ
ています。
 そこで習近平政権では「共同富裕」という名のキャンペーンを
大々的に打ち出しています。「皆で一緒に豊かになろう」という
キャンペーンでしょうか。
 実は、この「共同富裕」は共産主義国や社会主義国にとっては
原点ともいうべきものです。資本主義は、経済を大きく発展させ
る一方で、経済格差を生みやすいデメリットがあります。そこで
貧富の差がない平等な社会をつくろうと、19世紀半ばにドイツ
のマルクスとエンゲルスが体系化したのが共産主義という思想で
す。これは全ての資本(土地やお金、生産手段)を国民が共同で
所有し、平等に分配する理想社会を目指すものです。社会主義国
は、その前段階と捉えればよいと思います。
 この「共同富裕」の概念を作ったのは毛沢東です。正確にいう
と、1953年12月の中国共産党中央委員会において、「中国
共産党中央による農業生産協同組合の発展に関する決議」を採択
したとき、この考え方を打ち出しています。
 しかし、この毛沢東の考え方に対し難色を示したのは、「4つ
の近代化」を旗印として、経済発展を優先するケ小平を中心とす
る一派です。4つの近代化とは、工業、農業、国防、科学技術の
分野のことであり、それは、すなわち、今でいう「改革開放」路
線を意味します。
 彼らは、社会主義の本質的欲求である「共同富裕」を尊重して
いたものの、社会主義の初期段階において、「共同富裕」を目指
すと、「共同貧困」になりかねないことを懸念していたのです。
 しかし、毛沢東は、聞く耳を持たず、1966年8月に「司令
部を砲撃せよ」と題する評論を人民日報に掲載し、はじめたのが
「文化大革命」です。
 しかし、この文化大革命は、毛沢東が亡くなる1975年まで
続いたのですが、大失敗に終わっています。経済が停滞し、中国
は非常に貧しい国になってしまったのです。経済的な豊かさを示
す一人当たりのGDPは、1978年の時点で中国は156ドル
で、世界138カ国中135位まで、貧しくなってしまったので
す。もっとも文化大革命をはじめる前の1960年の中国もけっ
して豊かではなかったのですが、それでも世界101カ国中84
位であり、ビリよりも18カ国も上だったのです。
 毛沢東が亡くなってからも、路線対立は収まらなかっのですが
1985年頃から、ケ小平は、最終的には「共同富裕」を目指す
ものの、「先富論」を打ち出して、改革開放路線を正式に打ち出
したのです。「先富論」とは、先に豊かになれる者たちを富ませ
落伍した者たちを助けること。そして、富裕層が貧困層を援助す
ることを一つの義務にして、最終的には「共同富裕」を実現する
ことをいいます。
 中国の改革開放政策によって、中国の経済は飛躍的な発展を遂
げて、現在にいたっています。1990年頃から、中国の一人当
たりGDPは、右肩上がりで上昇し、2010年に名目GDPで
日本を抜き、世界第2の経済大国になっています。ケ小平が推進
した改革開放は大成功であったわけです。
 しかし、習近平政権は政権発足当初から「共同富裕」という言
葉を使っていますが、少しずつ発言回数を増やしています。ブル
ームバークの調べによると、2019年までは、1年間5〜15
回述べる程度だったのですが、2020年になると30回、20
21年8月までは60回以上というように、言葉の使う回数を増
やしてきています。
 そして、2021年8月17日に開催された中央財経委員会第
10回会議からは、明確に「共同富裕」を打ち出しています。そ
れが経済の下押し圧力になることを承知のうえで、その実現のた
めに、国民の自由を規制し、中国共産党による統制を強化する動
きが加速しています。そして、打ち出されたのは、次の3つの統
制強化です。
─────────────────────────────
          @金持ち崇拝の戒め
          A新三座大山の退治
          B若年層の教育指導
─────────────────────────────
 これら3つの統制強化については、明日のEJで詳しく述べま
すが、@の「金持ち崇拝の戒め」に関して、宮崎正弘氏は「関羽
像」が解体されたとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 象徴的な出来事があった。中国は賢沢禁止令に続いて、「金儲
けの神さま」である関羽像を解体したのだ。湖北省荊州市の「関
公義園」に巨大な関羽像があった。高さ57メートル。洪水の町
として知られる荊州で、観光事業のシンボルだった。ところが、
2021年9月に中央政府の路線変更により、無駄な金遣いだっ
たとして、解体作業がはじまったのである。本拠地の湖北省は、
関羽ゆかりの地、しかも荊州は、関羽の主戦場だったゆえに高層
ビルのような関羽像を設立させたのでだ。習近平の「共同富裕」
キャンペーンは金儲けを戒める目的がある。  ──宮崎正弘著
          『中国経済はもう死んでいる』/徳間書店
─────────────────────────────
 「共同富裕」キャンペーンが開始されるや、「贅沢品は敵」と
なって、中国の宴会では必ず出るマオタイ酒で利益を上げてきた
「貴洲茅台酒」の株価が暴落し、時価総額で23兆円が蒸発して
しまっています。この蒸発分だけでも、サントリーとハイネケン
をあわせた時価総額を超えています。
             ──[新中国・ロシア論/037]

≪画像および関連情報≫
 ●突如、習近平が連呼し始めた「共同富裕」とは?
  ───────────────────────────
   中国共産党にとって一番大事なことは何か?それは共産党
  の維持、そして表裏一体になる中華人民共和国の維持だ。そ
  のなかでは反乱要因や権力を侵そうとする人たちを確実に取
  り除くというのが基本。彼らが最も恐れるのは国民の不満に
  よる社会不安であり、社会が安定するならば国民ウケする政
  策を優先し少々の経済的ダメージは厭わない。
   「共同富裕」は1953年に毛沢東が提唱した“貧富の格
  差を縮小して社会全体が豊かになる”という意味のスローガ
  ン。中国語がわからなくても漢字を読めば、意味合いはすぐ
  わかるだろう。これほど社会主義思想にぴったりくる言葉は
  ない。ただ、いきなりそれを実現するのは非現実的なことか
  ら、ケ小平が1970年代に改革開放を進めたときには“先
  に富める者から豊かになれ”という「先富論」を説き、最終
  目標として「共同富裕」を打ち出している。
   格差や不平等はいつでも世界の国々の大きな問題で戦争や
  革命の引き金になってきた。世界史的にはロシア革命がわか
  りやすいが、19世紀に入って資本主義経済が発達し、資本
  家と労働者、都市と農村の格差が拡大したことで平等な社会
  を実現するため社会主義的思想が台頭し、市民が団結、革命
  に至った。中国政府にとっても例外ではない。
                  https://bit.ly/3Bh9jo9
  ───────────────────────────
関羽像.jpg
関羽像
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月07日

●「習近平はどういう指導者であるか」(第5809号)

 昨日から引き続き、習近平主席の人物像に迫っていくことにし
ます。その前提として、江沢民、胡錦濤、習近平という3代の中
国の最高指導者(国家元首)の任期を以下に示します。
─────────────────────────────
     ◎江沢民
      1989年11月〜2002年11月
     ◎胡錦濤
      2002年11月〜2012年11月
     ◎習近平
      2012年11月〜
─────────────────────────────
 江沢民氏は、1989年の天安門事件で失脚した趙紫陽総書記
の後任としてケ小平主席から指名され、上海市党委員会書記から
総書記になっています。しかし、江沢民氏は自分の能力を自覚し
ており、優秀な部下で自分の周囲を固めることで、職責を果たす
ことができた指導者であるといえます。
 胡錦濤氏は、前任者の江沢民政権の基本路線にそって、堅実な
国家運営を行った指導者です。2010年にGDPで日本を抜き
貿易・投資の自由化促進などについても、無難な経済運営を実施
し、2008年のリーマンショックで打撃を受けたものの、危機
から早々と抜け出して国際経済をリードするなど、主として経済
運営で功績を上げたリーダーです。
 西側諸国との関係も胡錦濤政権時代が一番良好だったというこ
とができます。共産党政権ではあったものの、中国国民は比較的
自由にものがいえたのです。しかし、貧富の格差の問題や腐敗の
広がりについて、徹底力を欠き、ほとんど進捗しなかったといえ
ます。その原因としては、胡錦濤政権と江沢民院政の激烈な権力
闘争があったのです。
 中国の国家指導者には、中国共産党総書記、国家主席に加えて
軍トップの中央軍事委員会主席の3つが資格があります。これら
3つの資格のうち国家主席については、任期は5年で2期を超え
て就任できないと憲法に定められていますが、総書記と軍のトッ
プである中央軍事委員会主席には任期の定めがなかったのです。
そのため、江沢民氏は政権を引き継ぐとき、中央軍事委員会主席
の地位にそのまま居座ったのです。院政のためです。
 さらに、江沢民氏は、胡錦濤政権の次の政権のため、無能では
あるが、家柄の良い、当時浙江省書記であった習近平氏を温存し
ていたのです。これも院政のためです。つまり、習近平氏は、も
ともと江沢民派に属していたのです。
 しかし、2011年に習近平氏が総書記に就任し、2012年
3月に国家主席に就任すると、いわゆる反腐敗キャンペーンを展
開し、自身の政敵を排除していったのです。その矛先は、自分の
出身閥である江沢民派にも、ケ小平派にも向けられています。狙
いは、ただひとつ政敵の排除です。
 そして、2018年3月の全人代で、憲法を改正し、国家主席
の任期を撤廃したのです。これによって、習近平氏は、共産党総
書記、国家主席、中央軍事委員会主席の3つの権力をすべて手中
に収め、独裁色を一層強めていったのです。
 そういう習近平主席について、中国ウオッチャーの福島香織氏
は、習近平主席について次のように論評しています。
─────────────────────────────
 まったく自分に自信のない習近平は、結局、自分に権力を集中
させ、すべてを自分がコントロールすることで自信を得ようとし
た。少しでも自分と異なる意見を言ったり、習近平に批判的なそ
ぶりを見せたりする人間は許容できなかった。軍制の思い切った
改革を断行し、指揮系統を自分に集中するよう、軍の四大総部を
解体して、その機能を中央軍事委員会の下部組織に置いた。軍に
は、ことさら強い忠誠心を求め、同志ではなく「主席」と呼ばせ
た。次に国務院組織改革を行った。組織改革に伴う人事の抜擢は
有能さより、いかに習近平に従順でごますりがうまいかによって
決まった。
 本来、経済政策は首相の管轄だったが、経済政策も自らが主導
権をとらずにはいられなかった。習近平は、李克強首相の頭越し
に、劉鶴(副首相)ら実務能力の高い経済官僚をブレーンとして
頼りに、自分で次々と鍵となる重要経済政策を打ち出したが、お
おむね失敗している。
 なぜなら、経済官僚たちは習近平と違う意見を言ってしまった
り、その高い知見によって習近平のコンプレックスを刺激すれば
逆に怒りを買って、失脚させられるかもしれない、とびくびくし
て、その本領を発揮できなかったからだ。
 有能と知られた劉鶴ですら米中貿易戦争の交渉過程で、習近平
の気に染まぬ提案をしてしまい、その寵愛を失ってしまった。習
近平は中央軍事委員会連合合作指揮センター総指揮、中央国家安
全委員会主席、中央全面深化改革指導小組組長、中央軍事委員会
深化国防軍隊改革小組組長、中央ネット安全情報化指導小組組長
中央外事指導小組組長、中央対台湾工作指導小組組長、中央財経
指導小組組長など、あらゆる組織のトップを兼務した。これほど
肩書きの多い共産党指導者は過去になかった。 ──福島香織著
   『習近平/ゼロコロナ、錯綜する経済、失策続きの権力者
                 /最後の戦い』/徳間書店
─────────────────────────────
 ケ小平氏は、権力が長く特定の人物に集中すると、共産党体制
が崩壊するリスクがあると考えていたのです。そのため、集団指
導体制というかたちで、仕事の責任を党中央政治局常務委員メン
バーで分担させるシステムをつくったのです。
 しかし、習近平氏は、その体制というかシステムを自身の任期
である2期10年をかけて、完全にブチ壊し、自身が永遠に中国
を支配できる中国の「皇帝」を目指しています。きわめてリスク
の多いことであるといえます。
             ──[新中国・ロシア論/036]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプが警戒する中国の習近平とは何者か?米国主導の国
  際秩序に宣戦布告/
  ───────────────────────────
   チャイナリスクとは何か、と聞かれると、経済崩壊、軍事
  的脅威、社会動乱などの言葉が頭をよぎるのだが、私はとり
  あえず、習近平政権自身がチャイナリスクではないか、と答
  えることにしている。というのも、習近平政権は前の二つの
  政権、江沢民、胡錦濤政権と明らかに質の違う危うさをはら
  んでいるからだ。江沢民政権、胡錦濤政権時代にはある程度
  予測できた動きが習近平政権では予測できない。
   では、習近平政権とはどんな政権なのかといえば、これは
  私と同じ「中国専門ジャーナリスト」でも、人によってずい
  ぶん違う。
   習近平[1953〜/2013年より第七代中華人民共和
  国主席、第四代中央軍事委員会主席。太子党]は、非常に優
  れた為政者で大衆に人気があり、力強いリーダーシップがあ
  り、ケ小平[1904〜1997/毛沢東死後の実質最高指
  導者として「改革開放」を進める]に次ぐ共産党中興の祖と
  なる、ロシアのプーチン[1952〜/第四代ロシア連邦大
  統領。元KGB職員]タイプの実力者と評価する人もいる。
  一方、歴代指導者の中で最弱の「皇帝」であり、能力も党内
  の信頼も低く、党中央においては孤立し軍権も掌握できてい
  ない、という人もいる。あるいは、強烈な独裁者であり、第
  二の毛沢東[1893〜1976/中華人民共和国初代国家
  主席。大躍進政策、文化大革命を実行]を目指し、亜文革を
  起こそうとしている危険人物という人もいる。
                  https://bit.ly/3TKJkfQ
  ───────────────────────────
習近平中国国家主席.jpg
習近平中国国家主席
posted by 平野 浩 at 06:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月06日

●「イデオロギー強くこだわる習近平」(第5808号)

 中国経済が深刻化しています。中国という国がここまで発展し
軍事大国化しつつあるのは、中国経済の急速な発展・拡大があっ
てのことです。しかし、習近平という国家指導者は、かつての毛
沢東がそうであったように、経済運営よりもイデオロギーにこだ
わるタイプの政治家のようです。
 真に中国の経済をさらに発展させようと考えるならば、アリバ
バ、テンセント、摘滴出行などの民間企業の発展をもっと支援す
べきであるのに、その巨大化を恐れて、規制を必要以上に強化し
最終的には国有化しようと考えているようです。
 また、中国では、経済運営は中央財経委員会のトップである首
相の仕事ですが、習近平主席はその委員会のトップの地位を李克
強首相から取り上げたにもかかわらず、経済再生に力を入れると
いうよりも、思想というか、イデオロギーを浸透させることにこ
だわっています。つまり、李活強首相には、勝手なことをさせな
いようにしているように見えます。
 2021年11月8日、習近平主席は、中国共産党第19期中
央委員会第6回全体会議(6中全会)において、「歴史会議」な
るものを採択しています。自身の3期目就任を確実にするための
重要な布石のひとつです。ここで、いわゆる西側資本主義社会へ
の挑戦を勇ましく宣言しています。
 そしてその決議文には、毛沢東、ケ小平と自身を並べて、次の
ように自画自賛しています。その思い上がりを、誰も進言できな
いでいます。
─────────────────────────────
 中央政治局は、中国の特色ある社会主義の偉大な旗印を高く掲
げ、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、ケ小平理論に加えて
『三個代表論』(江沢民)、『科学的発展観』(胡錦涛)、そし
て、習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想を指針として
堅持した。科学技術の自立自強に向けた取り組みを積極的に進め
改革開放を不断に深化させた。貧困脱却の艱難攻略という戦いに
予定通り勝利した。(中略)
 『中華民族の偉大な復興』と『中国の夢』の実現であり、勝利
の栄光を勝ち取った中国共産党と中国人民は必ずや新時代の新た
な道のりで勝負することが可能と確信している。──宮崎正弘著
          『中国経済はもう死んでいる』/徳間書店
─────────────────────────────
 香港とマカオから自治を取り上げ、一国二制度の約束を踏みに
じったことについては、「愛国者による香港政治」、「愛国者に
よるマカオ統治」と言葉を置き換えています。都合の悪いことは
すべて「愛国」でごまかしています。危険な思想です。
 さらに今後の計画については、「四つの意識」「四つの自信」
「二つの擁護」「五位一体」「四つの全面」という漢詩的語彙を
きらびやかに並べています。習近平氏はこういう数字を頭に付け
た標語が好きなようです。
 ひとつずつ説明するのはやめますが、「四つの意識」「四つの
自信」「二つの擁護」について説明します。
─────────────────────────────
 ◎「四つの意識」
  政治、大局、核心、一致
 ◎「四つの自信」
  道、制度、理論、文化
 ◎「二つの擁護」
  @習近平国家主席の党中央と全党の核心としての地位を守る
  A党中央の権威と集中の徹底も擁護する
           ──宮崎正弘著/徳間書店の前掲書より
─────────────────────────────
 このあたりで、習近平なる中国の指導者が、とのような人物で
あるかについて知る必要があります。これについては、福島香織
氏の本を参考にしてご紹介します。
 江沢民、胡錦濤、習近平という中国の3人の国家主席を比較し
てみることにします。
 江沢民氏は、ケ小平元主席の指名によって、総書記、国家主席
に抜擢されてその地位に就いています。江沢民氏の回顧録による
と、「自分がその地位をちゃんと勤め上げられるほど優秀ではな
い」ということを認識していたといいます。しかし、江沢民氏は
それを優秀な部下を出身地の上海から呼び寄せることによって、
補うことができるリーダーだったといいます。そのため、上海出
身の優秀な役人たちによる上海閥が誕生します。
 江沢民氏の後の胡錦濤氏は、精華大学を実力で卒業したテクノ
クラートであり、まじめで謙虚で、ケ小平元主席に気に入られて
いた人材です。しかし、共産党政権のトップに立つには共産党政
権樹立に貢献したいわゆる「革命烈士」という「血統」が必要で
あり、そうでないとトップに立つのは困難だったといえます。
 しかし、胡錦濤氏は、茶葉行商人の息子で、革命の血統とは何
の関係もなかったのですが、チベット自治区書記時代の実績が評
価され、ケ小平元主席の評価も高かったので、トップに就くこと
ができたのです。
 これに対して、習近平氏は、精華大学化学工程部という名門大
学を卒業し、官僚キャリアを積んだ後、精華大学法学院で、法学
博士課程を修了しています。しかし、習近平氏が入学したときは
毛沢東の文化大革命中の最中であり、大学試験は中止されでおり
「工農兵学員」という名の模範的な労働者・農民・兵士に対する
無試験の推薦入学しか方法がなかったのです。
 習近平氏の場合、父親の習仲勲が失脚中ではあったものの、建
国元老の一人であり、いわゆるコネクションがあったのです。そ
のため、大学入学が無試験で許されています。
 しかも、官僚になってからも、父親のコネは大いにものをいい
いろいろな特別扱いを受けて、出世を重ねています。「習仲勲同
士の息子」のブランドは大いに役立ったといいます。
             ──[新中国・ロシア論/035]

≪画像および関連情報≫
 ●赤子情懐/習近平氏と父親の物語
  ───────────────────────────
   「父がこつこつと中国人民のために尽くす姿は生涯を人民
  に奉仕する事業に全力を注ぎ込む上で、励ましとなった」。
  習近平国家主席は、父親の習仲勲氏について、長寿を祝う手
  紙の中でつづっています。
   習近平氏は「父から受け継ぎたい、吸収したい尊い品性が
  たくさんある」と述べています。その一つが「赤子情懐(祖
  国に忠実な人の心中にある祖国を愛する気持ち)」です。
           「私は農民の子だ」
   習仲勲氏は、「民衆の中から選出された民衆の指導者」で
  す。よく「自分は農民の子だ」と言い、常に自らを労働者の
  一員としていました。
   習仲勲氏は、20歳に満たないうちに中国北西部にある陝
  甘辺根拠地の創設に身を投じました。陝甘辺根拠地の創設を
  巡る闘争の中で党と民衆の間に築き上げられた固い絆を振り
  返り、「民衆の支持なくして、われわれの全てはない」と述
  べています。
   習仲勲氏が当時、陜甘辺根拠地で執務していた場所は毎日
  人で埋め尽くされていました。最も気心の知れた友人と見な
  されていたからです。習近平氏は「父方の祖父は農民で、父
  は農民から革命の道を歩んだ。私自身も7年間、農民として
  働いていた」と話しました。農家出身という素朴な感情は、
  ずっと心に刻み込まれています。https://bit.ly/3cJqULU
  ───────────────────────────
江沢民元主席/胡錦濤元主席.jpg
江沢民元主席/胡錦濤元主席
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月05日

●「公安司法を習主席の側近で固める」(第5807号)

 2022年9月3日付、日本経済新聞に中国の人事に関する次
の記事が出ています。
─────────────────────────────
◎習氏側近、最高検幹部に/司法・警察完全掌握へ布石
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 【北京=羽田野主】中国の国会に相当する、全国人民代表大会
(全人代)常務委員会は2日、中国湖北省トップの党委員会書記
だった応勇氏を最高人民検察院(最高検)副検察長に任命する人
事を決めた。応氏は習近平総書記(国家主席)の側近として知ら
れる。今回の人事は習氏が目指す司法・警察部門の完全掌握に向
けた布石とみられる。──2022年9月3日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 習近平主席の2期10年は、今から考えると、自身の政敵を排
除するための10年間だったといえます。今回の人事の対象者で
ある応勇氏は、2000年代に習近平氏が浙江省のトップだった
とき、高等人民法院長を務め、習氏の信頼を得て、習近平氏の側
近として知られている人物です。
 しかし、今年の4月に一転名誉職に転任し、そのまま引退する
ものとみられていたのです。しかし、今回の人事で、来年3月に
は検察長(検事総長)に昇格することは確実とみられます。そも
そも公安・司法部門は、これまで周永康氏らの習近平氏の敵対勢
力が長く支配してきており、習氏の権力掌握が最も遅れていた分
野とされ、今回の人事は習氏が抜擢したものと思われます。
 公安系の人事といえば、6月14日には、中国共産党常務委員
会は、王小洪氏を公安部長に起用しています。王小洪氏も習主席
の福建省時代からの側近で、2021年には、公安省内党組織の
トップを務めていましたが、今回の人事で「閣僚ポスト」に格上
げされたことになります。出世です。
 ちなみに、中国公安というのは、CIAとFBIを兼ねたよう
な組織であり、外国人や反政府活動家、自由派弁護士などを監視
するとともに、共産党幹部の動向も見張っているのです。
 いわゆる習近平派が、公安の主導権を握りつつあることについ
て、中国ウオッチャーの一人である宮崎正弘氏は、次のように解
説しています。
─────────────────────────────
 過去10年、公安部は反習近平の牙城と見られ、なかなか手を
出せなかった。歴代最高幹部の秘密を握っていたからだ。不穏な
空気が支配していたため、時間をかけての追撃となり、人事で締
め付け嘗て公安系を牛耳った周永康人脈を完全に排除した。習近
平は10年の時間をかけて、執拗な権力闘争をへて公安系の主導
権を握ったのである。
 王小洪は習近平が福州市党委書記だった1990年代に同市公
安局副局長。習の政権発足後に北京市公安局長、2016年から
公安次官を務めていた。権力中枢を見張っていたのである。北京
でクーデターを未然に防ぐには、警備担当と公安の掌握が独裁者
にとって第一の重点課題だ。信頼できる部下以外に任せるわけに
はいかないのである。習近平が公安系にメスを入れた理由は軍事
委員会を掌握できたという自信が背景にあり、目の上の癌だった
周永康系の残党=孫力軍次官や停政華・前司法相らを規律違反な
どを口実として摘発した。          ──宮崎正弘著
 『ウクライナ危機後に中国とロシアは破局を迎える』/宝島社
─────────────────────────────
 このように、習近平主席の3期目就任は、盤石のものとなりつ
つあり、10月6日の共産党大会において、3期目(5年)に就
任するものと思われます。
 しかし、その一方で、中国経済は、過剰ともいえるコロナ対策
もあって、深刻になりつつあります。2022年4月の時点の経
済の情勢は次のようになっています。
─────────────────────────────
        自動車販売 ・・・ ▼40・0%
       住宅販売価格 ・・・ ▼32・2%
      不動産販売価格 ・・・ ▼29・5%
     住宅新規着工面積 ・・・ ▼26・3%
        飲食店収入 ・・・ ▼23・0%
       パソコン販売 ・・・ ▼17・0%
          小売り ・・・ ▼11・0%
─────────────────────────────
 これに加えて、中国の景況感を示す指数として「PMI」があ
ります。PMIとは、次の言葉を省略したものです。
─────────────────────────────
         PMI=購買担当者景気指数
         Purchasing Manager's Index
─────────────────────────────
 「PMI」とは、企業の購買担当者らの景況感を集計した景気
指標のひとつです。国別や、製造業、サービス業ごとの集計も行
われています。PMIの指標の見方としては、50を判断の分か
れ目とし、この水準を上回る状態が続くと景気拡大、50を下回
る状態が続くと景気減速を示します。
 中国国家統計局は、4月のPMI(製造部門)は47・4と発
表しています。3月よりも2・1ポイント低下し、2カ月連続で
50を大きく割り込んでいます。3月も悪かったが、4月がさら
に悪くなった理由のひとつに、上海のロックダウンがあります。
 一方、中国の著名メディアと研究機関が一体化した「財新」に
よると、4月のPMI(製造部門)は46で、国家統計局よりも
低く、こちらの方が正しいと考えられます。この同じ財新が5月
5日に発表した数字によると、4月の中国のサービス部門のPM
Iは36・2、前月4月の42から大幅にダウンしています。こ
れは、財新の2005年11月の統計開始以来、2番目に悪い数
字になっています。中国経済はここまでダウンしているのです。
             ──[新中国・ロシア論/034]

≪画像および関連情報≫
 ●中国よこれで「共産主義国」か!不動産経済崩壊で大失業
  時代到来とは/現代ビジネス
  ───────────────────────────
   7月中旬から8月中旬にかけて、中国国内の各業界や企業
  あるいは政府当局が一連の経済関連数字を公表したが、それ
  らを一目で見れば、中国経済全体は今、地滑り的な沈没が起
  きている最中であることが分かる。
   例えば7月11日、中国汽車(自動車)工業協会が発表した
  ところによれば、今年上半期、中国の全国自動車販売台数は
  1205・7万台、前年同期比では6・6%減となった。
   「6・6%減」は数字上では大きなマイナスではないが、
  裾の広い自動車産業が経済全体に占めるウエートの大きさか
  らすれば、自動車市場の衰退は中国経済にとっての大打撃で
  あることに変わりはない。
   7月21日、国内各経済紙が報道したところによると、今
  年上半期、中国3大航空会社の中国国際航空・東方航空・南
  方航空は合わせて470億元(約9150億円)の赤字を計上
  したという。ゼロコロナ政策による人的流動の制限もあって
  中国の航空業界は今、未曾有の大不況に見舞われているので
  ある。8月10日、中国を代表するIT大手のアリババグル
  ープは今年第2四半期の営業成績を発表した。グループ全体
  の純利益は前年同期比で53%減となったことがこれで判明
  された。同じ日に、国内各経済紙が一斉に、アリババに関す
  るもう1つの重大ニュースを伝えた。今年上半期、グループ
  全体は何と1万3616人の従業員を解雇したという。
                  https://bit.ly/3enqtYl
  ───────────────────────────
最高検副検察長/応勇氏.jpg
最高検副検察長/応勇氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月02日

●「台湾の中国軍事演習の受け止め方」(第5806号)

 ナンシー・ペロシ米下院議長の訪台以降、中国軍用機は直後か
ら現在も台湾海峡の中間線越えを繰り返しています。29日時点
で、その回数は延べ398機です。さらに、ドローンも毎日のよ
うに飛来しています。
 中国の福建省に近い台湾の金門島には、28日、29日、30
日、ドローン4機が飛来しています。蔡英文総統は、国防部に対
し、国の空域を守るため、必要かつ強力な対抗措置を取れと命令
しています。この命令を受けた台湾国防部は、台湾領内のニ胆島
付近を旋回していた中国のドローンに対して、威嚇射撃を行い、
そのうえで撃ち落としています。国の安全のために当然のことを
したまでですが、台湾にとっては実はじめてのことです。
 今回の中国によるペロシ訪台の報復として、中国の大規模軍事
演習の結果は、おそらく中国にとっては誤算だったはずです。台
湾社会がいたって平静で、人々はパニックにならず、もちろん株
価も正常であったからです。
 ある漁港では、メディアに「漁に出るのか」と聞かれた漁師は
「今日は潮がいいので、海に出ないわけにはいかない。なぜなら
大漁間違いなしだから」と笑って漁に出ていったといいます。あ
るいは次のようにもいっています。
─────────────────────────────
     あれは「紙老虎(ピンイン)」だから・・
─────────────────────────────
 「紙老虎(ピンイン)」とは「張り子の虎」という意味です。
国防部の関係者もきわめて冷静でした。なぜなら、今回、中国軍
は、海軍と空軍、ミサイルしか動いておらず、地上軍の動きがな
かったからです。地上軍が動かなければ、台湾侵攻は実際には起
きず、単なる脅しにとどまると判断したからでしょう。そして、
台湾に対するこのプレッシャーは、共産党大会が開催される10
月6日まで続くであろうと予測しています。
 1996年にも「台湾海峡危機」は起きています。この危機の
そもそもの原因は、台湾の李登輝総統が、米国の母校のコーネル
大学から「台湾の民主化経験」に関する演説を行なう招待を受け
これに対して、米国がビザ(査証)を発行したことを原因として
起きています。台湾を外交上孤立させようとしている中国は、こ
の種の台湾要人のアメリカ訪問に対して、一貫として反対しきた
からです。中国は、李登輝総統は台湾独立運動の考えを持ってい
るので、地域の安定への脅威であると主張していたのです。
 米国のその措置に対して中国は激怒します。中国人民解放軍の
副参謀長熊光楷中将は、次のように米国を脅したのです。
─────────────────────────────
 もしアメリカが台湾に介入したら、中国は、核ミサイルでロサ
ンゼルスを破壊する。アメリカは、台北よりロサンゼルスを心配
した方がよい。       ──中国人民解放軍/熊光楷中将
─────────────────────────────
 中国人民解放軍は、口だけでなく、台湾の周辺地域で、大規模
な軍事訓練を行っています。1995年8月15日から25日に
かけて、海軍による実弾を伴うミサイル発射し、さらに、11月
には陸軍も加わって、広範囲の陸海演習を行っています。
 翌1996年3月23日は、台湾の総統選挙が行われます。中
国政府は台湾市民に対して、「李登輝総統に投票することは戦争
を意味することになる」というメッセージとして、投票日の23
日直前の3月8日から15日にかけて、大規模な軍事演習を行っ
たのです。基隆市と高雄市の港から25マイルから35マイルの
地点に向けて、ミサイルを発射しています。この海域の船舶輸送
は70%がこの2つの港の間を通り、発射実験区域と近かったの
で、大混乱に陥ったのです。
 これに対して、米国のクリントン政権は、ベトナム戦争以来最
大級の軍事力を動員して反応します。1996年3月8日、米国
は西太平洋に駐留していたインデペンデンス空母打撃群を台湾近
くの国際海域に展開すると発表し、3月11日には、さらにミニ
ッツを中心とした空母戦闘群をペルシャ湾から、急行させたので
緊張は一挙に高まったのです。
 3月15日には、中国政府は、3月18日から25日まで模擬
上陸作戦を行う計画を発表したので、緊張がさらに増大します。
さすがにこのときは、「戦争がはじまる」と台湾市民は動揺して
います。株価は下落し、人々は海外に逃れようとし、移民申請が
急増したり、フェイクニュースが乱れ飛んで、台湾国内では大混
乱が起きたといわれています。今回とは大きな違いです。
 そして、米国の2隻の空母打撃群による構えが素早く構築され
空母ニミッツは、台湾海峡に入っています。ここまでやられると
思っていなかった中国は、大きく動揺し、ことを収めざるを得な
かったのです。米国の素早い戦闘への即応力を目の前で見せつけ
られ、これが後の中国の複数空母体制へのこだわりとなっている
ことは確かです。今後の台湾情勢について、ジャーナリストの野
嶋剛氏は、8月29日のアエラ・ドットにおいて、次のように書
いています。
─────────────────────────────
 「中国には、まだ台湾を攻撃する自信も余裕もない。半導体も
台湾の生産に頼りきっている。台湾企業も中国にたくさん進出し
て中国の経済を支えている。米国もいるし、今回は台湾を攻撃は
できない。だから見せかけの脅しだってわかっていた」
 中国の軍事演習はなお断続的に続くようだ。習近平氏が、最高
指導者を規定の2期10年で終えないで在任を続ける「3選」が
秋の共産党大会で確定するといわれている。そのときまで軍事演
習は緩まないと、台湾の人々は見ている。逆にそれは、中国の演
習は国内向けの習近平氏の威信確立のためにやっていることで、
台湾を攻め落とすためではないという解釈が成り立つのである。
                 https://bit.ly/3KCBP6L
─────────────────────────────
             ──[新中国・ロシア論/033]

≪画像および関連情報≫
 ●台湾有事、最大の危険は中国の「戦略的判断ミス」/戦前の
  日本と類似点も〈週刊朝日〉/宮家邦彦氏
  ───────────────────────────
   度重なる中国の恫喝(どうかつ)とバイデン米政権の要請
  を無視するがごとく、8月2日にペロシ米下院議長は予想ど
  おり台湾訪問を強行しました。少なくとも短期的には、ペロ
  シ議長は確信犯、習近平国家主席は3期目を固め、バイデン
  大統領はレームダック化を回避するという、三者三様の見事
  な「出来レース」でした。
   中国側の準備も万全でした。台湾を包囲する大規模軍事演
  習など一朝一夕には実施できません。内外の外交評論家は米
  中関係悪化、経済学者は国際経済への悪影響を、軍事専門家
  は米中の偶発的衝突の可能性をそれぞれ語り始めましたが、
  筆者にはいま一つピンときません。なぜかというと、台湾情
  勢は近視眼的な議論ではなく、歴史の大局観に基づいて読み
  解く必要があるからです。
   筆者が初めて台湾を訪れたのは、1973年に遡(さかの
  ぼ)ります。当時は国民党の一党独裁。街で見かけた「中華
  民国」の地図には、「台湾省」と「共産党占領中」の本土の
  各省が描かれていました。知人の台湾人実業家は、日本製電
  子オルガンを解体して「台湾産」の電子楽器を試作していま
  した。そんな台湾も今や民主主義を実践し、世界の半導体市
  場をリードしています。「隔世の感」とはまさにこのことで
  しょう。           https://bit.ly/3pW5FcZ
  ───────────────────────────
米原子力空母「ニミッツ」.jpg
米原子力空母「ニミッツ」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月01日

●「なぜ、2隻の駆逐艦で航行したか」(第5805号)

 8月29日(月)のEJで、日中高官協議について取り上げま
したが、新しい情報が入ってきたので、この日中高官協議の裏側
についてお伝えします。ポイントは2つです。
 第1のポイントは、8月2日午後2時(米東部時間)から秋葉
剛男国家安全保障局長が、ホワイトハウスで、米側のカウンター
パートである、ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保
障)と会談していることです。これは、明らかに、天津での日中
高官協議のすり合わせであると考えられます。
 サリバン大統領補佐官は、2021年3月に米アラスカ州・ア
ンカレッジで行われた米中外交・安全保障会議高官会議で楊政治
局委員と会談しています。このときは、米中双方から関係者が参
加しています。会談の冒頭から報道陣の前で、激しい非難の応酬
が繰り広げられ、異例の展開になったあの会談です。
 しかし、この会談を契機として、サリバン氏がバイデン大統領
の、楊氏が習近平主席の代理人として、両首脳のホットライン役
を担っています。
 日本経済新聞によると、会談を呼びかけたのは中国としていま
すが、ジャーナリストの歳川隆雄氏は、首相官邸幹部からの情報
によると、2カ月前に日本から申し入れ、楊氏から日時・場所を
指定してきたのは、2週間前のことであるということです。日中
どちらが会談を持ちかけたかについては不明ですが、状況を分析
すると、中国からの申し入れの方が、スジが通っていると思いま
す。台湾問題で、日本が突出した行動をとらないようクギを刺し
たいのは中国であり、そのために日中国交正常化50年を利用し
ようとしていると考えられるからです。
 思えば、日本が尖閣諸島を国有化してから、この9月11日で
10年になります。このときは胡錦濤政権でしたが、野田内閣に
よる尖閣諸島国有化によって、中国は、北京の人民大会堂で行う
予定で準備をしていた日中国交正常化40年式典を中止していま
す。今回も台湾問題をめぐって、そういうことが起こらぬよう日
本を呼び出したものと思われます。
 第2のポイントは、今回の日中高官会議が、「テタテ会議」で
あったことです。テタテ会議の「テタテ」とは、フランス語で、
1対1の会談のことをいいます。
 つまり、今回の日中高官会議は、握手や背後の国旗がないだけ
ではなく、通訳も記録係(ノートテイカー)もいない、文字通り
のサシの会談であり、すべて英語で行われたということです。し
かも、夕食は交えたものの、7時間連続で、深夜まで行われたの
です。何が話し合われたかは不明ですが、徹底的に、秘密主義に
立っているのです。
 昨日、8月28日、米海軍のイージス巡洋艦2隻が「航行の自
由作戦」と称して、中国軍による軍事挑発が激化している台湾海
峡を通過しています。実施したのは、米海軍第7艦隊所属のイー
ジス巡洋艦「アンティータム」と「チャンセラーズビル」の2隻
です。注目すべきは、このイージス巡洋艦の艦名が、ともに南北
戦争に関係があることです。南北戦争の2つの激戦地の名前と一
緒なのです。アンティータムはメリーランド州、チャンセラーズ
ヴィルはバージニア州にあります。
─────────────────────────────
       @   アンティータムの戦い
       Aチャンセラーズヴィルの戦い
─────────────────────────────
 南北戦争は、奴隷制度の撤廃など、人権問題を想起させるもの
で、南北戦争に関わりのある両艦の航行には、中国に向けた強い
メッセージがあります。これによって、米国は口だけではなく、
軍事行動でも武力による台湾侵攻は許さないとするメッセージを
中国に送ったといえます。
 通常米海軍の行う航行の自由作戦は、軍艦1隻での航行が多い
のですが、なぜ、2隻の巡洋艦で台湾海峡を航行したかについて
国際政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 (なぜ、2隻で航行したかというと)中国側が軍事演習の規模
を拡大させたので、米国もレベルを上げたである。ペロシ氏訪台
をはじめ、米国では超党派で「台湾有事」への抑止を強化するよ
う求める動きが続いている。中には、米台軍事演習や台湾へ攻撃
的な武器を供与する法律を成立させようとする動きもある。バイ
デン政権は、過激な法案の成立には慎重である一方で、航行作戦
など具体的に中国への圧力を強める必要性を感じていた。
               ──島田洋一福井県立大学教授
           2022年8月29日付、「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 ところで、ペロシ議長を台湾の人はどのように迎えたのでしょ
うか。8月2日、多くの台湾の人々は、ペロシ議長が前の訪問地
マレーシアから飛び立った米軍要人機「SPAR19」を、リアルタイ
ムで飛行機の航跡を追うことができるウェブサイト「フライトレ
コーダー24」で凝視していたといいます。およそ70万人、そ
のほとんどが台湾の人々であったといいます。なぜなら、ペロシ
議長の訪問予定地に台湾は入っていなかったからです。
 飛行機はマレーシアから東に向かったのです。本来ならば北上
が最短ルートですが、係争地の南シナ海の上空を超えなければな
らない。サイトを見ている台湾の人々は、来るか来ないか不安で
いっぱいだったといいます。
 ところがフィリピン近辺で飛行機が舵を北にとった瞬間、大歓
声が上がったといいます。「ペロシ議長はやはり台湾に来てくれ
る!」と喜びが広がったのです。台湾の人々は、これほどの思い
でペロシ議長を迎えているのです。
 したがって、ペロシ議長が去った後の台湾は、中国の威嚇演習
もひるまず、いたって平静で、株価も正常だったといいます。
             ──[新中国・ロシア論/032]

≪画像および関連情報≫
 ●米ペロシ下院議長「訪台に込めたもう一つの目的」とは
  ───────────────────────────
   米国のペロシ下院議長の台湾訪問に反発する中国が8月4
  日から大規模な軍事演習を実施し、台湾海峡が緊迫の度を増
  している。ペロシ氏は中国の強硬な反対を押し切って訪台し
  た理由について「台湾の民主主義を支援するため」との声明
  を発表したが、発言や行動を精査すると、「米国の半導体産
  業強化」というもう一つの目的が浮かび上がる。
   米下院はペロシ氏訪台前の7月28日、半導体の製造や研
  究に527億ドル(約7兆円)の補助金を投入する法案を可
  決した。バイデン大統領の署名で成立する。半導体受託生産
  で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は米政府の強
  い要請もあって120億ドルをかけてアリゾナ州で工場建設
  を進めており、補助の対象になるのは確実だ。
   バイデン氏は昨年、半導体サプライチェーン(供給網)を
  見直す大統領令に署名し、半導体製造強化に500億ドル規
  模を投じる方針を表明した。だが、裏付けとなる法案の審議
  は、野党・共和党の反対などで大幅に遅れていた。TSMC
  創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏らも早期成立を繰り返
  し求める中、与党・民主党のペロシ氏にすれば、ようやく政
  権の要望に応えたことになる。8月2日夜に台湾に到着した
  ペロシ氏は翌3日朝、立法院(国会)を訪れた。台湾側の参
  加者に対し、同行している5人の議員を「半導体の法案成立
  に共同で貢献してくれた」と紹介した。
                 https://bit.ly/3wGJ4EO
  ───────────────────────────
台湾海峡を航行する米駆逐艦「アンティータム」.jpg
台湾海峡を航行する米駆逐艦「アンティータム」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする