2019年02月22日

●「発展途上国が遭遇する2つの要因」(EJ第4953号)

 中国は、ある意味において、非常にタイミングの悪いときに米
国から貿易戦争を仕掛けられたといえます。それは、ちょうど中
国の経済が減速しているさなかの貿易戦争だったからです。
 それは、発展途上国が必ず遭遇する次の2つの要因による経済
の減速のさなかだったのです。
─────────────────────────────
          1. 中所得国の罠
          2.ルイスの転換点
─────────────────────────────
 1は「中所得国の罠」です。
 中所得国の罠は、自国経済が中所得国のレベルで停滞し、先進
国(高所得国)入りがなかなかできない状況のことをいいます。
これは、新興国が低賃金の労働力などを原動力として経済成長し
中所得国の仲間入りを果たした後、自国の人件費の上昇や後発新
興国の追い上げ、先進国の技術力などの先端イノベーションの格
差などに遭って競争力を失い、経済成長が停滞してしまう現象を
指しています。
 2は「ルイスの転換点」です。
 「ルイスの転換点」は、英国の経済学者、アーサー・ルイスに
よって提唱された概念です。これについては、2013年に執筆
したEJのテーマ「新中国論」で一度説明しているので、それを
引用することにします。
─────────────────────────────
 「ルイスの転換点」という言葉があります。農業を中心として
きた低開発国が、高度成長期になったとき、農村の未活用の余剰
労働力が都市部に移動して製造業などに投入されるため、人件費
は上昇しないのです。
 中国も外資系大手企業の間で「魔法のような国」といわれたこ
とがあります。人を雇おうと思って広告を出すと、広告枠の何倍
もの内陸の若者たちが次から次へと出稼ぎに来るので、いくら人
を雇っても人件費が上がらない国という意味で、「魔法の国」と
呼んだのです。
 しかし、労働力移動が峠を越えて完全雇用に近づくと、人件費
は向上し、人出不足になってくるのです。それに既に職に就いて
いる労働者たちは賃金値上げのためのストを頻繁に行い、人件費
が高騰してくるのです。そのターニングポイントを「ルイスの転
換点」と呼んでいます。
     ──2013年4月11日付、EJ第3525号より
─────────────────────────────
 これら「中所得国の罠」と「ルイスの転換点」は、新興国は必
ず遭遇しますが、日本では1960年代後半ごろにこの転換点に
達しています。中国の場合、国が広いので、完全雇用とはいえな
いものの、既に2006年頃にはこの転換点に達しているものと
考えられます。
 ルイスの転換点を過ぎると、求人難が起こり、それは人件費の
高騰を招きます。全国各地で法定最低賃金が引き上げられ、そう
いうところから、もはや現在の中国では「ものを安く作れない」
状況が生まれているのです。
 2013年時点の日本総研の湯元健治氏(シニアエグゼクティ
ブエコノミスト)のレポート(「中国は中所得国の罠を回避でき
るか」)によると、やはり中国は、ルイスの転換点を超えている
として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国では農村から都市への労働力移動がストップし、労働力不
足と賃金上昇が経済成長を抑制する「ルイス転換点」をすでに通
過した可能性が高い。このままでは、今後10年間の潜在成長率
が5〜6%に低下しかねない。労働や資本に依存した成長パター
ンからイノベーション・生産性主導型成長への転換が急務だが、
国有企業による基幹産業の独占の弊害、外資依存の低賃金加工組
立型経済モデルの行き詰まり、民営企業の活力低下などが指摘さ
れている現在、「国進民退」のトレンド転換は容易ではない。国
有企業の民営化や先進的な民間企業の育成によって、イノベーシ
ョン能力を高めなければならない。  https://bit.ly/2Xf1uJx
─────────────────────────────
 このように、中国は、ルイスの転換点は既に達していますが、
中所得国の罠からは、まだ抜け出せていないのです。これから抜
け出すためには、一人当たりGDPがもっと上昇していかなくて
はなりませんが、中国の2017年の一人当たりGDPの順位は
74位(日本は25位)と低迷しています。
 中国は、こういう状況で、米国から貿易戦争を仕掛けられたの
です。この貿易戦争がこのまま続くと、今後中国から外資の大量
撤退をもたらし、グローバルな産業再配置を促しています。こう
した産業の連鎖構造再配置の過程で、中国で発生するのは資本の
流出と失業の増加です。
 中国では、現在メディアでの「報道禁止事項」が増え続けてい
ます。この数ヶ月だけで、貿易戦争、失業、外貨準備高の流失、
株式市場、不動産のマイナス情報が「報道禁止事項」に加えられ
ました。失業率も報道禁止事項に入っているのです。
 2018年8月に、「7月の全国の都市の失業率は5・1%で
あり、前年より0・3%上昇した」と発表されましたが、誰もこ
の数字を信用していない状況です。現在、日本でも統計不正が問
題になっていますが、本当の失業率は、実に22%ともいわれて
いるのです。
 日本の共同通信によると、現在までに6割の日本企業が、中国
から他の国へ撤退、あるいは撤退中で、残る4割もいかに撤退す
るか考慮中だとしています。もともと中国の失業率は高かったの
です。これに大量の外資撤退による失業を加えると、そうでなく
ても深刻だった傷口に塩を塗られるようなものであり、失業問題
は今後さらに深刻の度を加えることは確実です。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/034]

≪画像および関連情報≫
 ●中国のますます深刻化する失業状況/2018年10月
  ───────────────────────────
   中・米貿易戦争は、外資の中国からの大量撤退をもたらし
  グローバルな産業再配置を促しています。こうした産業の連
  鎖構造再配置の過程で、発生するのは中国などの新興国家か
  らの資本流出と失業増加です。米国は税制改革と規則の緩和
  によって経済発展を促進させ、グローバルな投資家の避難港
  となりました。8月だけで、全米の雇用は20万1千人増え
  失業率は3・9%です。しかし、中国では大量の外資撤退に
  よって、もともと深刻だった失業問題の傷口に塩を塗られた
  ようなものです。
   中国では、現在ますます「報道禁止事項」が増え続けてい
  ます。この数カ月だけで、貿易戦争、失業、外貨準備高の流
  失、株式市場、不動産のマイナス情報が「報道禁止事項」に
  加えられました。しかし、そんなことをしても、様々な方法
  で中国の失業問題の深刻さを計算することは出来ます。国家
  統計局は、8月中旬に「7月の全国の都市の失業率5・1%
  であり、前年より0・3%上昇した」と発表しました。
   こういったデータは中国経済のアナリストたちは信用して
  いません。まず、この統計規格そのものが「中国的特色」を
  帯びており、今年の4月以降に、中国政府は発表する失業率
  を「都市登記失業率」から「調査失業率」に改変しました。
  政府に委託を受けた専門家グループは「調査失業率の全面解
  析における9つの問題」として、まことしやかに、調査失業
  率は以前の都市失業率より信用できると”論証”しています
  が、専門家たちはみなこの中国的特色の調査は本当の失業率
  ではないことを承知しています。 https://bit.ly/2SSJtlK
  ───────────────────────────

不可解な中国の失業率.jpg
不可解な中国の失業率
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月21日

●「米中貿易戦争で中国経済失速拡大」(EJ第4952号)

 2月14日のEJ第4947号から書いてきた中国のEC企業
の雄、アリババのジャック・マー(馬雲)会長の突然の退任の話
はこのくらいにして、米中貿易戦争の話に戻ることにします。
 2月20日現在、ワシントンにおいて、次官級の貿易協議が続
いていますが、本日と明日の22日にかけて開催する予定の閣僚
級の会合に向けての地ならしをやっています。3月1日まで今日
を含めて8日しかありませんが、トランプ氏は次のように延長の
可能性をほのめかしています。
─────────────────────────────
 タイミングは正確にはいえないが、3月1日は「魔法の日(マ
ジカル・デイト)」ではない。多くのことが起こりうる。
                   ──トランプ米大統領
       ──2019年2月20日付、日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 そもそも中国は米国に経済では絶対に勝つことは困難です。そ
の国力の差が謙著だからです。2017年の時点で、中国のGD
Pは米国の63・2%であり、約3分の2です。したがって、両
国がガチンコでぶつかれば、その体力差は歴然としています。
 もうひとつ、中国は、金融システムが米国に比べて脆弱です。
自由市場のなかで150年もの間、もまれ抜いてきている米国の
金融システムに比べて、中国のそれは、1992年に始めた社会
主義市場経済という独自のシステムであり、その強靭さは比較に
ならないでしょう。ソ連が崩壊したことからわかるように、国家
が経済をコントロールできるかどうかはきわめて疑問です。しか
し、中国はできると固く信じているようです。
 米中貿易戦争がはじまってからも、秋ぐらいまでは中国経済は
きわめて好調だったのです。しかし、今にして思うとそれは駆け
込み需要であり、12月には遂に前年同月比4・4%減少の失速
になったのです。中国の経済は次のように誰の目にも明らかなよ
うに、目下失速しつつあるのです。
─────────────────────────────
 中国経済に関して、足元で最大の衝撃は、昨年の自動車販売が
2・8%減の2808万台と前年比マイナスに転落したことだろ
う。日本の新聞は「28年ぶり」と書いているが、28年前とは
89年6月の天安門事件の翌年で、中国経済は国際制裁を受け、
過去最悪と言われた年であり、昨年の自動車販売は事実上、史上
初のマイナスなのである。
 それが年間3000万台を前にした足踏みでないことは年明け
の動きでわかる。北京、上海ともに自動車販売は「ディーラーが
一部の店舗の閉鎖を始めた」(中国の自動車業界関係者)ほどの
不振。2月5日の春節を前に例年なら盛り上がる高額商品の消費
は真逆の様相を示している。
            ──『選択』/2019年2月号より
─────────────────────────────
 「小米(小米科技)」という中国の企業があります。スマホ会
社として創業し、現在、スマホの世界シェア4位のIT大手企業
です。中国のIT企業というと、どちらかというと、習近平主席
から睨まれている企業が多いのですが、小米は習近平主席のお気
に入りといわれています。
 中国当局は、中国国内の株式市場を活性化させるため、すでに
海外市場で上場している中国の有力企業や「ユニコーン」と呼ば
れる中国の新興企業群を中国国内でも上場させる計画を立ててい
ます。ちなみに「ユニコーン」と呼ばれる企業とは、次のような
企業のことです。
─────────────────────────────
 「ユニコーン企業」とは、創設10年以内、評価額10億米ド
ル以上、未上場、テクノロジー企業といった4つの条件を兼ね備
えた企業を指す。アメリカの調査機関の集計によれば、2017
年12月1日時点で、世界に220社のユニコーン企業が存在し
それらの多くはアメリカもしくは中国の企業だ。アメリカ発の企
業は109社で全体の49・5%を占めている。これに続いて中
国発の企業が59社で全体の26・8%を占める。日本は(当時
上場が決まっていなかった)メルカリの1社のみ。
                  https://bit.ly/2BL6MDq
─────────────────────────────
 中国には、CDR(中国預託証券)という制度があります。ア
リババやテンセントなどの中国のIT企業は、中国ではなく、米
国や香港で上場しているので、中国国内の投資家がそれらの企業
の株式を購入するにはカベがあるのです。そこで、他国で上場さ
れている株式を人民元建てで取引できるようにする制度です。中
国国内の信託銀行に証券を預けて、受領書を発行してもらうこと
で、実質的に株式を保有できるのです。これをCDR(中国預託
証券)といい、CDRは次の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
        CDR
        Chinese Depositary Receipt
─────────────────────────────
 中国当局としては、CDRの最初の適用事例としようとしたの
は、小米だったのです。小米もこれを受け入れ、香港市場と上海
市場に同時に上場する計画を立てていたのです。資金調達予定額
は、それぞれ50億ドルで、香港と上海で100億ドルを狙って
います。
 しかし、小米は、6月19日になって、突然上海での上場を延
期し、香港でのみ上場したのです。小米は、中国当局との約束を
破ったことになります。これは相当勇気のいることです。
 小米の創業者の雷軍CEOは、米中貿易戦争による中国経済の
不安定さに懸念を抱いたのです。ビジネスマンとしては、当然の
判断であるといえます。これは、中国内外の有力企業の「中国離
れ」を意味しています。中国経済は現在どんどん不安定化を増し
ています。      ──[米中ロ覇権争いの行方/033]

≪画像および関連情報≫
 ●日本が中国に「ユニコーン企業」数で大敗北を喫した理由
  ───────────────────────────
   グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンという4
  大IT関連企業は、それぞれの頭文字を取ってGAFAと呼
  ばれることがある。一方、百度(バイドゥ)、アリババ、テ
  ンセントの3社の呼称であるBATに、ファーウェイのHを
  付け加え、私はこれら4社をBATHと呼んでいる。
   BATHの成長はきわめて著しく、GAFAを猛追してい
  る状況だ。特に上場済みのBATの時価総額は2017年の
  1年間で倍増し、2017年12月末時点の額を合計すると
  1兆米ドルを超えている。
   個別で見た場合、GAFAの時価総額に続くのは、アメリ
  カ企業を除くと6位のテンセントと8位のアリババのみだ。
  米中企業以外を見ていくと、ヨーロッパ企業の最上位は18
  位の英蘭企業のロイヤル・ダッチ・シェルで、時価総額は、
  2746億米ドルである。トヨタは42位にランクインして
  おり、時価総額は1891億米ドルだ。ヨーロッパ勢も日本
  勢も、米中のトップ企業からは大きな差をつけられていると
  見ていいだろう。では中国のBATHがアメリカのGAFA
  を追い越す日はやってくるのだろうか?利益額ではすでにア
  リババはアマゾンを大幅に上回っている。時価総額ではアマ
  ゾンに及ばないアリババだが、いずれアマゾンを凌ぐことに
  なるだろう。          https://bit.ly/2BL6MDq
  ───────────────────────────

中国内の「小米」の店舗.jpg
中国内の「小米」の店舗
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月20日

●「馬雲会長は先を読んで逃げたのか」(EJ第4951号)

 一連の急成長企業の若手経営者、「安邦保険集団」の呉小暉C
EO、フランスで急死した「海航集団」の王健会長、そして米国
で逮捕された「京東集団」の劉強東CEO、いずれも不可解な事
件で失脚させられています。
 一般的な観測では、これらの若手経営者は、これからの中国を
支える重要な人材であり、国のトップである習近平主席としては
交流を密にしているとされていましたが、そうではなく、むしろ
警戒心を高め、敵対しているのです。習近平政権にとって最も重
要な国有企業の存在を脅かす存在としてとらえているようです。
中国の民営企業の位置付けはあくまで次の通りです。
─────────────────────────────
    外資系企業<中国の民営企業<中国の国有企業
─────────────────────────────
 このうち、安邦保険集団の呉小暉CEOと、海航集団の王健会
長のケースには共通点があります。
 呉小暉CEOは、ケ小平の孫娘の婿であり、安邦保険集団はケ
小平一族の企業なのです。中国建国十大元帥のひとり陳毅の息子
・陳小魯も董事を務めています。ケ小平と陳毅という最強の革命
ファミリーの名前を背景に、呉小暉は“中国のバフェット”と呼
ばれる手腕で一民間企業・安邦集団を巨大化し、中国2位の保険
収入を誇るまでに成長させています。
 故王健氏が率いていた中国複合企業、海航集団(HNAグルー
プ)は、江沢民派が後ろ盾といわれています。HNAの大株主で
ある海南省慈航公益基金会のトップが海南省元高官である一方で
HNAが89年創業当時から、資金調達で当時の劉剣峰・海南省
省長のバックアップを受けていたのです。
 劉剣峰氏は、1984年に中国電子工業部の副部長兼規律検査
組の組長を務め、1997年には、国有通信大手のチャイナ・ユ
ニコムの会長に就任しています。これに対して、江沢民氏は19
83年〜85年まで電子工業部部長(大臣クラス)を務めており
劉剣峰氏の上司の関係です。それに加えて、チャイナ・ユニコム
は、江沢民氏の長男である江綿恒氏が実質オーナーを務める江沢
民一族の利益基盤であり、そういう関係もあって、HNAのバッ
クには江沢民一族がいるのです。
 習近平主席は、成功した若手経営者のバックには大物の政治が
いるとして、とくに警戒しています。なかでも、江沢民元主席の
勢力がバックにいる民営企業に対しては、さまざまな方法を駆使
して潰しにかかります。
 ジャック・マー(馬雲)氏は、江沢民元主席の孫で、投資ファ
ンドを運営する江志成氏と近い関係にあります。江志成氏は、江
沢民氏の孫です。これは、アリババの「潜在的リスク」といわれ
ジャック・マー会長も、十分それを意識していたのです。
 中国に詳しい宮崎正弘氏は、アリババのジャック・マー会長と
江沢民派の関係について、次のように書いています。
─────────────────────────────
 アリババは中国最大のネット通販、そのシェアは8割を超え、
筆頭株主は孫正義の「ソフトバンク」である。つまり最大の裨益
者は日本企業という皮肉!
 創業者の馬雲は通販ビジネス成功の勢いに乗って盛んにM&A
作戦を展開し、映画製作、百貨店、サッカーチームにまで経営の
手を広げた。馬雲は世界的なビジネスリーダーとなり、神話も生
まれた。本社は浙江省杭州市。ハイテク団地に近い川岸に巨大な
本社ビルがある(筆者も何回か目撃しカメラに収めた)。
 中国の通信ビジネスで大成功を収めたのは、このアリババと、
「騰訊」、そして「百度」だ。アリババのCEO馬雲は個人資産
が218億米ドルといわれ、江沢民の孫、江志成と「親密」な関
係が指摘されている。江志成は米国留学後、香港へあらわれて、
「博裕ファンド」を設立した。
 この江沢民の孫ファンドが、アリババの相当数の株主であるこ
とが分かっている。また、このファンドが、馬雲のすすめるベン
チャー・ビジネスに出資しているとも云われ、持ちつ持たれつの
ズブズブ関係がある。おりから江沢民の子分だった周永康ら「石
油派」が失脚し、江沢民は、捲土重来を期していると囁かれてい
る。                https://bit.ly/2SGdtkD
─────────────────────────────
 つまり、アリババは、早い時点から、習近平政権に睨まれてい
たし、ジャック・マー氏自身も十分それを認識していたのです。
2015年には、中国人民大学公共管理学の劉太剛氏が次のコラ
ムを書いてからは、アリババに対する風当たりは一層厳しくなっ
たのです。
─────────────────────────────
     アリババのビックデータは国家安全を脅かす
─────────────────────────────
 2017年には、中国人民銀行(中央銀行)がアリババのアリ
ペイはじめ、電子マネーを傘下に収容する通達も出しています。
建前は、スマホ決済の安全性を高めるためとなっていますが、こ
れによって、2019年以降、年換算で1000億円相当のアリ
ペイ金利収入が、人民銀行に接収されることになっています。
 こうした状況を踏まえて、時代の空気に敏感なジャック・マー
会長は、逃げを打ったのではないかと考えられます。
 福島香織氏は、これは終生国家主席を続けようとする習近平主
席への痛烈な、最後の当てこすりであるとして、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 野心の強い劉強東がはめられ、賢い馬雲は逃げを打った、と言
う噂が本当なら、声高にスゴイと叫ばれる中国のIT業界の前途
は、けっこう暗雲が垂れ込めているという気もするのだ。
                  https://bit.ly/2tonYtV
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/032]

≪画像および関連情報≫
 ●上場後のアリババを「やっつける」か/北京指導部情報
  ───────────────────────────
   【大紀元日本9月19日】中国の電子商取引最大手、アリ
  ババ集団(BABA)は19日に、ニューヨーク証券取引所
  (NYSE)に上場する見通し。米紙ニューヨーク・タイム
  ズ(NYT)は今年7月、謎めいた政治的背景を持つアリバ
  バの投資会社や「紅二代」株主について報じた。香港メディ
  アは最近、北京指導部の情報筋の話として、中国当局は米国
  上場後にアリババを「やっつける」可能性があると伝えた。
   NYT紙は7月21日、長篇評論「アリババの背後にある
  多くの「紅二代」株主が米国上場の真の勝者」を掲載し、深
  い政治的背景を持つアリババの投資会社の状況を明らかにし
  た。報道によると、江沢民元国家主席の孫、江志成氏が設立
  した「博裕ファンド」や、陳雲元副総理の子息、陳元氏が、
  15年間率いた「国開金融」(CDBキャピタル)、中国共
  産党序列5位の劉雲山政治局常務委員の息子、劉楽飛氏や中
  国共産党の革命元勲、王震・大将の息子、王軍氏に関係する
  「中信資本」(シティック・キャピタル)など、いずれもア
  リババに投資しているという。NYT紙はまた、「今や、ア
  リババを倒すためには巨大な衝撃を与える必要がある。・・
  ・諸々の国家部門では多くの密接な政治的同盟者を有する」
  と、北京ベースの証券分析会社美奇金投資コンサルティング
  会社の共同創立者楊思安氏の話として述べた。
   香港誌「中国密報」の最新号は、「アリババと四大太子の
  黄金の宴」と題する記事では、北京の情報筋の話として「N
  YTの分析は根も葉もない話ではなく、目下の中南海(北京
  指導部)の情勢に関する一つの客観的論述である。
                  https://bit.ly/2UXX7Aw
  ───────────────────────────

江志成氏/江沢民元主席の孫.jpg
江志成氏/江沢民元主席の孫
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月19日

●「京東集団CEOが米国で逮捕報道」(EJ第4950号)

 2018年8月31日のことです。中国の電子商取引(EC)
企業では、アリババに次ぐ2位の「京東集団」の創業者、劉強東
CEO(45歳)は、出張先の米国ミネソタ州ミネアポリスで地
元警察に逮捕されるというニュースが流れたのです。
 容疑は強姦罪で、裁判で有罪になれば、最低でも懲役12年、
最高の場合、懲役30年が科されるといわれます。しかし、劉C
EOはすぐ保釈され、北京の本社に戻っていますが、ミネアポリ
スでの裁判の決着はまだついていないのです。
 このように書くと、EC企業の若手経営者の単なる性犯罪じゃ
ないかといわれますが、事件のバックに習近平指導部の影がちら
ついており、ハニートラップの疑いもあるので、少し詳しく見る
ことにします。
 京東集団は、なかなかの有力企業で、米IT大手グーグルと米
小売り大手ウォルマートを後ろ盾につけ、世界進出を加速する計
画を持っています。劉強東CEOは、インタビューで、グーグル
から数ヶ月前に5億5000万ドル(約610億円)規模の出資
を受け、中国外の顧客を獲得するため、グーグルと戦略を立てて
いる初期段階にあると表明しています。習近平主席は、このタイ
プの中国の民営企業を最も警戒するのです。
─────────────────────────────
 財経ネット報道を参考にすると、劉強東はミネソタ州立大学と
清華大学経済管理学院の合同DBAプログラムに参加するために
訪米した。8月27日に妻子を連れてプライベートジェットでミ
ネアポリス入りし、29日夜には家族でミネトンカ湖上の遊覧船
で晩餐会を行った。この晩餐会に被害を主張する25歳の中国人
女子留学生も参加していた。
 事件は30日夜に発生した。市内の日本食レストランで、劉強
東は清華大学経済管理学院教授の崔海濤が引率してきた学生、留
学生らも招いて晩餐会を開き、例の女子留学生も参加。この席で
は32本の葡萄酒が空けられ、かなり乱れた酒宴となった様子が
レストランの従業員らに証言されている。
 この晩餐会のあと、酔った女子留学生は、劉強東に学生寮まで
送ってもらった。だが、その女子留学生からその夜午前2時ごろ
警察に通報があった。女子留学生は男友達の助けを借りて警察に
連絡をしたというが、警官が駆け付けてみると「間違いました。
すみません」と言うだけだった。
 31日夜も有名イタリア料理店で留学生たちを招いた宴会が開
かれ、その女子留学生も参加。9月1日午前1時ごろ、その女子
留学生は学校職員の助けを借りて警察に通報した。警察が呼び出
されたのはミネソタ州立大カールソン管理学院の小教室で、そこ
にいた劉強東が、性暴行既遂として逮捕されたのだった。劉強東
はそこで女子学生と会う約束をしていた、と主張した。
                  https://bit.ly/2BEkA2N
─────────────────────────────
 話が複雑なので整理します。この事件の主役は、米国に出張し
た劉強東京東集団CEOと、米国の大学に留学している中国人の
女子留学生です。劉強東氏は、現地の日本食レストランで、中国
人留学生を招いてパーティーを開催しています。それらの留学生
を連れてきたのは、清華大学経済管理学院の崔海濤教授です。劉
強東氏は、そのパーティーの席で、崔海濤教授からその女子留学
生を紹介されます。おそらくパーティーは他にも女子留学生が参
加していたと思われますが、崔海濤教授はその留学生を特定して
紹介しているのです。
 パーティー終了後、劉強東氏は酒に酔ったその女子留学生を学
生寮まで送っています。初対面の女子留学生に、なぜそこまです
るのかというと、崔海濤教授からその女子留学生を特定して紹介
されたからでしょう。そこで何かがあったとみるべきです。おそ
らくその女子留学生は性被害に遭ったと考えられます。
 学生寮に戻ったその女子留学生は、事情を聞いた寮の男友達、
おそらく米国人の友達の助けを借りて、深夜に警察に通報します
が、警察官が来ると、何でもないとして警察官を帰しています。
 次の日も劉強東氏は、別の中国人留学生を招いてパーティーを
開いていますが、その女子留学生も参加しているのです。その席
で、劉強東氏はおそらくその女子留学生に「後で会おう」といい
ミネソタ州立大カールソン管理学院の小教室で会うことを約束し
ます。約束の時間に、その小教室に女子留学生と学校職員と警察
官が踏み込み、劉強東氏は逮捕されるのです。女子留学生は、昨
夜は思いとどまったものの、翌日になって警察に通報することを
決めたと思われます。誰かの強い勧めがあったからです。
 怪しいのは、留学生を引率した崔海濤教授です。この重要証人
は早々に帰国しています。彼が中国共産党とつながっていた可能
性は十分あります。しかも、崔海濤教授の授業は9月から休講に
なり、彼のプロフィールが掲載されている所属する精華大学長江
商学院のサイトから消えているのです。
 この事件について中国の事情に詳しい福島香織氏は、中国で今
も行われている「性賄賂」について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 男尊女卑の根強い中国には「性賄賂」が横行している。それは
大学においても同じで、金主や政治家にさまざまな資金援助や便
宜を得る見返りに女子学生にキャバクラ嬢やそれ以上の真似事を
させることがある。女子学生は単位や奨学金、留学チャンスなど
と引き換えにそれに応じることもある。崔海涛は昨年のDBAプ
ログラムでもよく似たことをやったという匿名証言が一部で流れ
た。そう仮定すると、引率の教授が特定の女子留学生を何度も劉
強東に引き合わせたことも、彼女の名前が劉強東の初恋の人と同
じであったというのも偶然ではなかったかもしれないし、彼女が
警察に通報しながら逡巡したのも納得できよう。
                  https://bit.ly/2IjcUbJ
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/031]

≪画像および関連情報≫
 ●性的暴行容疑で逮捕の中国大手ECトップ/米紙
  ───────────────────────────
   2018年9月6日、中国ネット通販大手・京東集団(J
  Dドットコム)の劉強東(リウ・チアンドン)最高経営責任
  者(CEO)が訪問先の米ミネソタ州で女性に性的暴行を加
  えたとして逮捕された問題で、新聞は米紙ウォール・ストリ
  ート・ジャーナル(WSJ)が逮捕前後の詳細について報じ
  た記事を取り上げた。
   WSJによると、被害を訴えたのはミネソタ大学に通う中
  国人女性で、女性は先月30日夜、同州ミネアポリスにある
  日本料理店で開かれたワインと料理を楽しむ食事会で劉氏と
  同じテーブルに着いた。問題は食事会の後に起きたという。
   記事はまた、店にいた人の話として「出席者は20人余り
  だった」と説明。出席者の中に劉氏がいたかどうかは不明と
  のことだが、「周囲からボスと呼ばれる人がいた」「食事会
  は9時ごろ終わったが、何人かは酔いつぶれていた」とのコ
  メントが寄せられたことも報じた。
   新聞はこのほか、「事件発生は31日午前1時。劉氏の収
  監までに約22時間を要した。この間、一体何が起きたのか
  情報は明らかにされていない」と説明し、WSJの報道とし
  て「警察は事件の因果関係やその他の側面について議論する
  ことを拒んでいる」とも伝えている。 (翻訳・編集/野谷)
                  https://bit.ly/2GNLUiu
  ───────────────────────────

劉強東京東集団CEO.jpg
劉強東京東集団CEO
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月18日

●「中国の民間企業を気にする習体制」(EJ第4949号)

 習近平国家主席にとって、国有企業ほど重要なものはないと考
えられます。国有企業は共産党の利権の巣窟であり、もし国有企
業が弱体化すれば、共産党も弱体化するからです。そのため、市
場での企業の優遇状況が以下のようになるようにしていますが、
これでは、他国、とくに米国とまともな投資協定などは結べない
のです。現在米国との間でまさにこれが問題になっています。
─────────────────────────────
    外資系企業<中国の民営企業<中国の国有企業
─────────────────────────────
 それに、習近平主席は、経済問題を政治問題の延長線上でとら
えています。つまり、自己の権力と利権が増大する経済政策こそ
が、習主席にとって正しい経済政策なのです。
 その習主席の経済ブレーンの筆頭格が劉鶴氏です。2018年
3月19日に、第2次李克強内閣の国務院副総理に就任していま
すが、劉鶴副首相は習主席の意向を踏まえて、国有企業改革をめ
ぐっては縮小を目指す李克強総理より、拡大を掲げる習近平総書
記の立場を代弁しています。いわば、李克強首相の経済政策にブ
レーキをかける役割を劉鶴氏が担っているといえます。
 このように、習主席にとって社会主義は何よりも大事なもので
あり、就任以来イデオロギーの引き締めを図っています。米国と
しては、中国経済が発展すれば必ず市場経済に移行すると考えて
いたものの、習主席は中国を真逆の方向に引っ張っていこうとし
ています。それがまさに米中貿易戦争というかたちで激突してい
るといえます。
 このことについて、北海道大学大学院公共政策学研究センター
の西本紫乃研究員は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 2016年12月中旬、教育部の陳宝生部長(大臣に相当)が
共産党の機関誌『紫光閣』に教育機関におけるイデオロギーの徹
底強化に関する記事を発表した。教育機関のイデオロギーを徹底
することで体制の維持を強固にするとともに、次世代を担う若者
に対して正しい思想教育をしなければならない、という趣旨の文
章である。この陳宝生部長の文章で注目すべきは、「敵対勢力」
の中国への攻勢を防ぐ必要があると述べている点である。「敵対
勢力」が中国に侵入するときは、まず教育システムに入り込み学
校を乱すのだという。「敵対勢力」が具体的に何を指すのか明確
ではないが、国外からの脅威というより、おそらく内なる敵を指
しているのだと思われる。つまり、中国国内の西洋の哲学や価値
観を教える教員や体制批判的な意見をもつ人を「敵対勢力」と見
ているのだ。中国国内の有識者はこの文章を、教育機関内部の体
制に従順でない人たちを排除するための、クリーンアップキャン
ペーンの開始宣言だと見ている。   https://bit.ly/2SNgmQb
─────────────────────────────
 西本紫乃研究員は、習近平主席の独特の人事について解説して
います。習主席は、自身の政権をつくるに当って、自分が歴任し
たポストでのかつての部下を中心に要職に起用しています。安倍
首相と同じいわゆる「お友だち人事」です。そして、その人物に
対し「クライエンテリズム的人間関係」を強く求めるのです。
 「クライエンテリズム的人間関係」とは、いわゆる「親分子分
関係」のことです。コトバンクには次のように出ています。
─────────────────────────────
 人から受けた好意に対してはお返しをするという社会的交換の
一種で、互酬的関係という。ある特定の人から何かを頼まれたと
きに、過去にその人から受けた好意に照らして断りきれないとい
う感情。親分・子分の関係,パトロン・クライエントの関係はこ
うしてできあがる。クライエンテリズムは,このような特定の人
間に結びつく影響力の関係である。一般に前近代的なものといわ
れるが,現在でも政治や国家を「好意の源泉」とする政治的なク
ライエンテリズムは,南イタリアのキリスト教民主党などにみら
れる。    ──ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より
─────────────────────────────
 習近平主席に取りたててもらった部下たちは、子分として習主
席の掲げる左派イデオロギーを受け継ぎ、それをさらに加速させ
る旗振り役を任じなければならないのです。それが、引き立てて
もらった恩にお返しすることになるのです。
 習近平体制ではさまざまな規制が強化されています。2016
年11月には「国民教育促進法」の修正案が可決され、2017
年以降、私立の小中学校の設立ができなくなっています。教育機
関のイデオロギーによる囲い込みの一環であり、こうした規制は
今後、ますます強化されていくと考えられます。
 こういう中国の習近平政権において、いちばん頭の痛い問題は
中国の民間企業、それも成功をおさめ、急速に伸びつつある民間
企業のCEOです。彼らの多くは、外国からの資本提供を多く受
けている多国籍企業であり、表面上はともかく、ハラの中では、
自由市場を望んでいる──これは、現在の中国の社会主義市場経
済とは本質的に相いれないからです。
 それにしても、このところ中国では、安邦保険、海南航空集団
万達集団などの民営企業のトップが失脚したり、世間からバッシ
ングを浴びることが相次いでいます。
 「安邦保険」に関しては、創業者の呉小暉氏を詐欺や職権乱用
の罪で懲役18年とする判決が出されています。習近平指導部は
個人資産105億元(約1800億円)を没収し、呉氏を厳罰に
処しています。「海南航空集団」は、中国最大の民間航空コング
ロマリットですが、海南航空集団の会長、王健が旅先の南フラン
ス・プロバンスで客死しています。「万達集団」は中国最大財閥
・王健林率いる企業ですが、経営危機に陥っています。
 こういうことが現在中国では、相次いで起きているのです。こ
れらの事件に関し、アリババのジャック・マー会長が、強い不安
を感じたとしても不思議はないのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/030]

≪画像および関連情報≫
 ●ケ小平一族の企業「安邦」、急ブレーキの意味
  ───────────────────────────
   中国の代表的“紅色企業”安邦保険集団が揺れている。紅
  色企業とは、革命に参加した主要ファミリーが経営や資本に
  かかわっている企業を指すが、この企業のCEOはケ小平の
  孫娘の婿・呉小暉。つまり、ケ小平一族の企業という、中国
  最強と見られる免罪符を持っていた。しかも、中国建国十大
  元帥のひとり陳毅の息子・陳小魯も董事を務めている。ケ小
  平と陳毅という最強の革命ファミリーの名前を背景に、呉小
  暉は“中国のバフェット”と呼ばれる手腕で一民間企業・安
  邦集団を巨大化し、中国2位の保険収入を誇るまでに成長さ
  せた。だが、この安邦の躍進に習近平がブレーキをかけてい
  る。その意図はどこにあるのだろうか。
   2017年5月5日午後、中国保険監督管理委員会(保監
  会)は安邦保険集団傘下の安邦人寿保険株式会社に対して、
  3ヶ月の新規製品の発売禁止処分を決定した。これは安邦人
  寿の発売する安享5号というハイリスクユニバーサルライフ
  保険が、規制・監督を逃れて市場秩序を乱しているなど、2
  種類の保険商品に違反が見られたことに対する処罰というこ
  とになっている。その前の4月、安邦による米保険会社のフ
  ィデリティ・ギャランティ生命買収などに保監会がストップ
  をかけた。香港紙によれば、安邦の海外資産比率が高すぎる
  のが理由という。キャピタルフライトを食い止めるために、
  中国当局が海外投資を抑制しているにもかかわらず、安邦が
  言うことを聞かないので、本格的に圧力をかけ始めた、と見
  られている。          https://bit.ly/2tqMc6S
  ───────────────────────────

安邦保険集団.jpg
安邦保険集団
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月15日

●「経済発展を無視した国有企業改革」(EJ第4948号)

 中国経済を正常軌道に乗せるには、国有企業改革に手を染める
必要があります。2012年に発足した習近平体制は、それに着
手する絶好の機会だったのです。なぜなら、中国の社会主義市場
経済の「経済」を担当する国務院総理の李克強氏が、経済にすこ
ぶる詳しいプロであったからです。
 李克強氏は、早速「リコノミクス」を策定し、国有企業改革プ
ランを作っています。その内容は概略次の通りです。
─────────────────────────────
 第1段階は、国有企業の市場化だ。市場に合わない、いわゆる
親方日の丸的な制度は、すべて削ぎ落としていく。第2段階は、
市場の多元化だ。中国の市場は、国有企業、民営企業、それに外
資系企業を、すべて平等に扱うようにして、競争の原理を働かせ
る。そして第3段階が、国有企業の民営化だ。民間にできること
はどんどん民間に権限を委譲し、市場の活性化を図っていく」。
        ──近藤大介著/講談社+α新書711−1C
          『中国経済「11OO兆円破綻」の衝撃』
─────────────────────────────
 しかし、「3中全会」において採択された「公報」で示された
国有企業改革に関する記述は、次のようなものです。この公報を
作成する起草委員会から、肝心の李克強首相を外しているので、
この考え方に李克強首相の意見は反映されていません。
─────────────────────────────
 揺るぐことのない公有制経済の発展を強固なものとし、公有制
の主体的地位を堅持し、国有経済の主導的な作用を発揮し、国有
経済の活力、コントロール、能力、影響力を不断に増強させる。
公有制を主体とした多種所有制の経済は、中国の特色ある社会主
義制度の支柱である。      ──「公報」/3中全会より
─────────────────────────────
 抽象的にボカされ、何をいっているのか明確ではありませんが
国有企業の民営化どころか、強化とも取れる宣言であるといえま
す。公有、公有、公有と公有が強調されています。これは、習近
平公有企業改革の伏線だったのです。習近平氏は、かねてから、
トップに就いたら必ずやると決めていたことがあります。これに
ついて、近藤大介氏は、次のように書いています。
─────────────────────────────
 習近平主席は、2012年11月に中国共産党のトップに立っ
て以来、決して表には出さないが、一貫した「政治目標」を持っ
ている。それは最大最強の長老である江沢民元主席及びその一派
を壊滅させるというものだ。なぜなら、石油、鉄道、電力、資源
・・といった多くの利権を、江沢民一派が手放さなかったからで
ある。そして、こうした利権の温床こそが、基幹産業を寡占する
国有企業に他ならなかった。   ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 習主席は、2012年の年末から、「腐敗防止キャンペーン」
の名の下に、かねてからの計画を実行に移します。まず、やった
ことは、周永康前・中央政治局常務委員の失脚です。周永康氏は
「江沢民の金庫番」といわれた人物です。2013年12月に身
柄を拘束し、2015年6月11日に無期懲役を科しています。
 そのうえで習近平主席は国有企業改革に着手します。2015
年8月24日のことです。習主席は、「中国共産党と国務院の国
有企業改革を深化させるための指導意見」と称する長文の通達を
共産党および政府として決定しています。その「目的」について
は、次のように書かれていたのです。
─────────────────────────────
 中国の偉大なる社会主義の御旗を高く掲げ、党の国有企業への
指導を強化させ、強大で優秀な国有企業を作り、中華民族の偉大
なる復興という中国の夢の実現に、積極的に貢献することを目的
とする。揺るがない公有制経済、社会主義市場経済、監督管理強
化、党の指導などを基本原則とする。
         ──「中国共産党と国務院の国有企業改革を
              深化させるための指導意見」より
─────────────────────────────
 何を狙っているのかというと、国有企業を分類し、そのうち優
秀な国有企業を中心に、党の指導強化の下で、他を淘汰していく
というのです。そしてその改革を2020年までに完了させると
しています。
 リコノミクスでは、国有企業の市場化→多元化→民営化の3ス
テップで進めるというまともなものです。経済を発展させるには
「民営化」は欠かせないのです。しかし、その姿勢はカケラもな
く、「焼け太りによる市場の寡占」を目指すものといっても過言
でぱないのです。この指導同意見に対して、市場は敏感に反応し
ています。
 9月14日月曜日、上海総合指数は先週末に比べて2・67%
安い3114ポイントまで急落しています。これは、習近平就任
以来、7回目の暴落で「第7次習近平暴落」といわれます。
 こういう市場の反応を完全に無視し、2015年5月19日付
国営新華社通信は次の論評を出しています。あくまで国有企業重
視の姿勢が鮮明なのです。
─────────────────────────────
 習近平総書記はこれまで何度も、国有企業の強大化と優良化を
強調してきた。国有企業は国有経済の核心であり、支柱である。
国有企業がなければ、国有経済はなく、これまでの経済成長の重
大な成果もなく、中国の特色ある社会主義制度もなく、国民の共
同の富もない。そのため、国有企業改革とは、国有企業をなくす
ことではなく、その主体的な地位をさらに高めることなのだ。わ
れわれはそのことを自覚し、国有企業の各種私有化への反対を、
旗臓鮮明にしなければならない。 ──2015年5月19日付
                    国営新華社通信より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/029]

≪画像および関連情報≫
 ●【中国を読む】国有企業改革の変遷と課題/日本総研
  ───────────────────────────
   中国の国有企業政策は、1980年代の「経営請負制度の
  導入」、90年代の「民営化」、2000年代入り後の「強
  大化」という3つのフェーズに分けることができる。いまも
  政府は不良債権問題をコントロールするため国有部門を拡大
  している。これは、企業活動全体の効率を低下させ、潜在的
  な不良債権を増やすという副作用を持つ処方箋だ。国有企業
  の強大化は、当面の政権安定に寄与するものの、将来の問題
  を大きくする。
   中国の国有企業改革はさまざまな試行を経て、経営請負制
  度の導入から本格化した。1984年10月、中国政府は、
  国有企業の経営効率が大変低いと指摘したうえで、国有企業
  を活性化させる基本方針を打ち出した。この具体策として、
  経営請負制度が全国規模で導入されるようになった。経営請
  負制度とは、国有企業が国庫に上納する利潤額などの目標を
  達成すれば、自らの裁量によって利益を設備投資や従業員の
  給与に充てることが可能となるなど、経営の自由をある程度
  認めるという制度であった。
   もっとも90年代初めには、経営請負制度に対する否定的
  な見方が広がった。納得性の高い3〜5年先の上納利潤額な
  どの目標を設定するのは至難の業であり、目標が現実的な数
  値でないことが多々あったのである。「国有企業の所有者は
  政府」という原則に全く手を付けなかったことも大きな問題
  であった。           https://bit.ly/2N611Vt
  ───────────────────────────

周永康氏と習近平氏.jpg
周永康氏と習近平氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月14日

●「中国国有企業改革は進んでいない」(EJ第4947号)

 アリババ創業者、ジャック・マー(馬雲)氏の突然の引退宣言
についてもう少し追及することにします。どう考えてもこの引退
宣言は不自然であると考えるからです。
 その前に、習近平氏が国家主席になってからの中国の経済運営
について知っておく必要があります。そのため、少し歴史を振り
返ることにします。1949年の初代皇帝である毛沢東が建国し
た現在の共産党政権は、1989年に学生たちが政治の民主化を
求めて蜂起した天安門事件によって転覆させられる一歩手前まで
いったのです。時の国家指導者のケ小平は、軍隊の力で学生たち
を押さえ込み、共産党政権を死守しています。
 ケ小平は、天安門事件を契機として、国民に「民主」の代りに
「金儲けに走る自由」を与えたのです。そうでもしないと、第2
第3の天安門事件が起こりかねなかったからです。ケ小平は、毛
沢東の死後2年が経過した1978年から改革開放を進めていた
のですが、1992年に改革開放の加速命令を出しています。
 ところで、「改革開放」とは何でしようか。
 常識的には、政治が「社会主義」であれば経済は「計画経済」
であり、経済が「市場経済」であれば、政治は「資本主義」のは
ずです。それをケ小平は、両方のいいところをとって「社会主義
市場経済」を推進したのです。これが「改革開放」です。
 この場合、国のトップ2人が、「政治」と「経済」のバランス
をうまく取る必要があります。
─────────────────────────────
     共産党総書記(主席) ・・・・・ 政治
      国務院総理(首相) ・・・・・ 経済
─────────────────────────────
 この「社会主義市場経済」が現在の中国を作ったことは確かで
す。しかし、ケ小平時代のように中国の経済規模が小さいときは
舵取りを誤らなければ、うまく経済を運営できますが、現在のよ
うに経済規模が巨大化した場合は、その舵取りはきわめて困難に
なります。それに加えて、ナンバー1の共産党総書記とナンバー
2の国務院総理が、それぞれの役割分担をバランスよく行う必要
があるのです。江沢民時代と胡錦濤時代はそれが奇跡的といって
よいほどうまくいったのです。
─────────────────────────────
    ◎江沢民時代 ・・ 1989年〜2002年
     【政治】江沢民主席 【経済】朱鎔基首相
    ◎胡錦濤時代 ・・ 2003年〜2012年
     【政治】胡錦濤主席 【経済】温家宝首相
    ◎習近平時代 ・・ 2013年〜2018年
              2019年〜
     【政治】習近平主席 【経済】李克強首相
─────────────────────────────
 しかし、2013年3月に発足した習近平主席と李克強首相の
新政権は、2人がライバル同士であったことに加えて、信頼関係
がなく、互いに疑心暗鬼の関係だったのです。しかも、習主席は
「政治」だけでなく「経済」の役割も李首相から取り上げて、独
占するという愚を犯したのです。その結果、中国の経済は、習近
平時代から混乱に陥ってしまったといえます。
 この習近平政権について、近藤大介氏は、中国にとって2つの
不幸が重なったと述べています。
─────────────────────────────
◎第1の不幸
  習近平という政治家が、稀代の経済オンチであり、中国経
 済を2度まで崩壊させた毛沢東に匹敵する。
◎第2の不幸
  社会主義と市場経済の矛盾からくる軋轢が、もはや、抜き
 差しならないところまできてしまっている。
─────────────────────────────
 「第1の不幸」については、習近平主席が自らの経済オンチを
自認し、李克強首相に「経済」を信頼して任せれば、ある程度解
決できますが、現在もそうしていないので、経済は、深刻な情勢
になりつつあります。
 「第2の不幸」については、もともと矛盾している社会主義と
市場経済の軋轢が限界に達しつつあることです。それが顕著に見
られるのが「国有企業」です。中国の国有企業について近藤大介
氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国では、基幹産業のすべてを、1100社あまりの国有企業
が独占しており、この1100社で中国の富の6割強を握ってい
る。ところが、地方自治体や、やはり国有企業である銀行が、国
有企業に乱脈融資を続けた結果、習近平時代が始動した2013
年の時点で、国有企業を中心とした国家の負債額がGDPの2倍
以上に膨れ上がってしまった。国有企業の改革は「待ったなし」
の状況だったのだ。             ──近藤大介著
          『中国経済「11OO兆円破綻」の衝撃』
                講談社+α新書711−1C
─────────────────────────────
 これに対し、李克強首相は、いわゆる経済プラン「リコノミク
ス」による解決プランを示していますが、その本丸も「国有企業
改革」だったのです。
 しかし、習近平主席は、この解決プランに乗らず、これまで江
沢民一派が牛耳っていた国有企業利権を引きはがし、自派の利権
に組み替えようとしたのです。江沢民派で石油利権を握っていた
周永康元常務委員を腐敗摘発の名の下に逮捕したのがそれです。
「国有企業改革」は完全にほったらかしです。
 なぜなら、国有企業改革をすれば利権がなくなってしまうから
です。習主席は、国有企業改革を議論し、まとめる「公報」起草
委員会から、本来担当であるはずの李克強首相を外す措置まで、
とっています。    ──[米中ロ覇権争いの行方/028]

≪画像および関連情報≫
 ●「社会主義市場経済」はファシズムの一形態に過ぎない
  ───────────────────────────
   中国の「抗日戦争勝利記念日」(9月3日)が近づいてき
  た。昨年の同日、天安門広場で大々的に繰り広げられた「世
  界反ファシズム戦争勝利70周年記念」軍事パレードは記憶
  に新しい。
   「歴史を鑑(かがみ)に」と居丈高に迫る中国の歴史戦に
  は、3つの狙いがある。第1は潜在敵国、とくに日本に贖罪
  (しょくざい)史観を浸透させ、その精神的武装解除を図る
  ことである。第2は「反省しない日本」への、敵愾(てきが
  い)心をかき立て独裁体制の維持を正当化することである。
  第3は自由、民主、法の支配、人権といった「現在」の問題
  に焦点が当たらぬよう、注意を過去にそらすことである。
   従って、とりわけアジアの自由主義大国・日本が誤った贖
  罪意識から脱して、正しく「歴史を鑑」とすることが、日本
  自身にとってはもちろん、自由世界全体にとっても戦略的に
  極めて重要となる。
   まずファシズムという言葉だが、これはイタリアのムソリ
  ーニが、共産主義でも資本主義でもない「第三の道」として
  打ち出したものである。国家主義的な独裁を永遠の統治原理
  としつつ、資本主義のエネルギーを抑圧体制活性化のために
  用いるというのがその「第三」ないし折衷策たる所以(ゆえ
  ん)である。       ──島田洋一福井県立大学教授
                  https://bit.ly/2I7bTDB
  ───────────────────────────

改革開放の推進者/ケ小平.jpg
改革開放の推進者/ケ小平
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月13日

●「アリババ会長はなぜ退任するのか」(EJ第4946号)

 事の発端はこうです。2018年9月8日付の「ニューヨーク
・タイムズ」が次の趣旨の報道をしたのです。
─────────────────────────────
    アリババのマー会長が10日にも会長を退任する
    ──2018年9月8日付、ニューヨーク・タイムズ紙
─────────────────────────────
 しかし、翌日の9日、アリババ傘下の香港メディアがこの報道
を否定します。これによって、少なくとも日本では誤報と判断さ
れ、騒ぎにはならなかったのですが、中国メディアは、万一に備
えて、Xデーの10日に向けて臨戦態勢をとったのです。
 そして10日午前、マー氏が1通の手紙を公表します。その趣
旨は次の通りです。
─────────────────────────────
  2019年9月10日に私はアリハバの会長を退任する
                   ──ジャック・マー氏
─────────────────────────────
 2018年9月11日、マー会長はロシアのウラジオストクに
姿を現しています。同地で開催された「東方経済フォーラム」に
出席したのです。その席には、ロシアのプーチン大統領も同席し
ており、プーチン大統領は、マー氏に対し、次のように質問して
います。
─────────────────────────────
プーチン:そこに座ってロシアのお菓子を食べている若い方に質
 問したい。馬雲さん、あなたは、まだ若いのに、なぜ引退する
 のか。
J・マー:大統領閣下、私は若くありません。昨日ロシアで54
 歳の誕生日を迎えました。私は創業して19年間、一生懸命働
 いてきました。でも、もっと多くの好きなことを、やりたいと
 思っています。例えば、教育や慈善事業です。
プーチン:あなたは私よりも若い。私はすでに66歳。なぜ、現
 役を退くのか。          https://bit.ly/2SnRz5P
─────────────────────────────
 プーチン大統領の疑問は当然です。アリババは3万6000人
もの従業員を抱え、時価総額4200億ドル(約46兆円)の巨
大企業です。その企業のトップが、そんなに簡単に辞めてもいい
のか──誰でもそのように考えるからです。
 ジャック・マー氏の退任にはいくつもの説があります。アリバ
バの創業は1999年3月。今年はちょうど19年目。マー氏は
創業19年のうち、できるだけ早く後継者を発見し、約10年間
を後継者育成に充てるという方針を立て、後継者づくりを行って
きたといいます。そして、実際に現在のCEOダニエル・チャン
(張勇)氏に経営を任せてきています。
 コラムニストの浦上早苗氏は、後継者のチャンCEOについて
次のように紹介しています。いまわれわれの知っているアリババ
は、既にチャンCEOのアリババだと、マー氏はいうのです。
─────────────────────────────
 チャンCEOは、米会計事務所プライスウォーターハウスクー
パース(PwC)の上海拠点やゲーム会社のCFOを経て、20
07年にアリババに入社した。今やブラック・フライデーを上回
る世界最大のセールに成長した11月11日の「独身の日」セー
ルを2009年に始めたのも、日本の大企業が多く出店する、B
toCサイトの「天猫」の立ち上げを担ったのもチャン氏。20
13年にはマー氏からアリババグループのCEOを引き継ぎ、最
近では、スターバックスとの提携など、マー氏が提唱する「新小
売」のコンセプトの具現化に手腕を発揮している。
                  https://bit.ly/2SrgepV
─────────────────────────────
 それでは、ジャック・マー氏は、退任したら何をやるのでしょ
うか。マー氏の手紙には次のようにあります。
─────────────────────────────
 私は教育に戻りたいと思う。私が最もやりたいことをするのは
私を非常に興奮させ、この上もない幸福を感じさせるのである。
私は皆さんに請け負うことができる。アリババは馬雲だけに属す
るものではないが、馬雲は永遠にアリババに属していることを。
              ──馬雲/2018年9月10日
─────────────────────────────
 しかし、これは表面上の理由であると思います。教育ビジネス
をやりたいのであれば、アリババとしてやってもいいし、アリバ
バから離れる必要はないと思います。では、どうして退任するの
でしょうか。
 「マー氏は逃げている」──ジャーナリストの相馬勝氏はいい
ます。何から逃げているのでしょうか。それは、中国政府、すな
わち、中国共産党から逃げているという指摘です。
 というのは、このところ、党中枢の幹部と関わりを持つ有能な
若手経営者が、次々と職を追われているからです。ジャーナリス
トの相馬勝氏は、これについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 例えば、中国最高指導者だったケ小平の孫娘と結婚した安邦保
険の呉小暉元会長は、のちに離婚したものの、その関係を利用し
て同社を巨大化させた。呉氏は派手な海外投資でニューヨークの
著名なホテルなどを買収していったが、いまや詐欺と職権乱用な
どの罪で懲役18年の実刑判決を受け、個人資産105億元(約
1800億円)を没収された。
 また、曾慶紅元国家副主席と親しいとされる政商の郭文貴氏は
現在、米国に事実上の亡命状態だ。同じく、曾氏と親密な関係に
あった実業家の肖建華氏は香港の最高級ホテルのスィートルーム
に滞在中、何者かによって拉致され、中国大陸に連れていかれた
と伝えられる。           https://bit.ly/2BvnRRU
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/027]

≪画像および関連情報≫
 ●沈みゆく船を見切ったジャック・マーが電撃退任
  ───────────────────────────
   馬雲(ジャック・マー)といえば、中国ビジネス界の超大
  物。英語教師を務めていたが、ネット通販最大手アリババ・
  ドットコムのカリスマ創業者となり、アマゾン・ドットコム
  の創業者ジェフ・ベゾスの中国版とも呼ぶべき存在に上り詰
  めた。そんな中国の起業家精神を象徴するマーが、来年9月
  にアリババの会長を退任すると表明した。このニュースは投
  資家を驚かせただけではない。中国に築いた輝かしい地位を
  投げ出す理由は何なのかと、さまざまな臆測を呼んでいる。
   マーが語った退任の理由を、軽く考えるべきではないだろ
  う。推定380億ドル以上の資産を持つ54歳の大富豪は、
  退任後は慈善活動、特に教育事業に、時間と精力を注ぐとい
  う。中国の教育環境を向上させるのは結構だが、この言葉を
  額面どおりに受け取るわけにはいかない。優れたビジネスマ
  ンが想定外の行動を取るとき、凡人には分からない何かを見
  据えていることがある。
   例えば、香港の著名な実業家である李嘉誠(90)がそう
  だった。彼が13年に中国から資産を引き揚げたとき、表向
  きには売却が必要という説明だった。だが今にして思えば、
  中国経済が浮き沈みの激しい段階に入ると見越して早めに撤
  退を図ったのだ。その後の展開は、李の判断が正しかったこ
  とを示している。マーがアリババを離れる理由は自分の評判
  を守ることかもしれない。会社が順調なうちに側近も社員も
  残して去れば、サクセスストーリーに傷が付かない。
     ──「ニューズウィーク」 https://bit.ly/2Dv5lZQ
  ───────────────────────────

アリババ会長/ジャック・マー氏.jpg
アリババ会長/ジャック・マー氏 
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月12日

●「なぜ中国はガチンコ勝負に出たか」(EJ第4945号)

 習近平主席に墨汁をかけた女性(菫瑶けい氏)は、故郷の湖南
省の精神科病院に強制的に入院させられたといわれています。上
海市内で働く女性の弟に警察から連絡が入り、上海市政府当局者
から「お姉さんを精神鑑定にしたが、精神を病んでいるとの診断
結果が出た」と告げられたそうです。
 弟は警官らの求めに応じ、手続きのため、入院先の精神科病院
に行き、姉の入院に立ち会っています。この病院での精神鑑定で
も姉は精神を病んでいるとの診断結果が下されたといいます。
 米政府系報道機関「ボイス・オブ・アメリカ/VOA」は、犯
人の女性の精神病院入りについて次のように報道しています。
─────────────────────────────
 本当の精神病患者は入院させずにほったらかしだが、当局に都
合がいい健常者は、逆に精神科病院に強制入院というのが、中国
の実態である。    ──―ボイス・オブ・アメリカ/VOA
─────────────────────────────
 一応民主的な手続きがとられているようにみえますが、中国で
は、犯罪を犯し刑務所に入れられるよりも、精神病院に入れられ
る方がずっと恐ろしいのです。薬物などで本当の精神病にされる
可能性もありますし、入院後何をされるかわからないからです。
VOAの記者は、湖南省の董さんの実家を訪ね、董さんの母親に
取材したところ、「娘が精神を病んでいるはずがない」などと頑
強に否定したといいます。なお、7月13日には菫瑶けい氏の父
親も拘束されています。
 問題は、この墨汁事件の背景です。果して単独犯なのか、それ
ともバックがあるのかです。事件の起きた場所が江沢民元主席の
地元である上海であるので、いろいろな憶測を呼んでいます。そ
れに彼女が中国のSNSではなく、あえてツイッターを使ってい
るので、海外組織に助けを求めているように見えます。
 中国では、ツイッターの使用が制限されていますが、VPNな
どを通せば使えるのです。習近平のポスターに墨汁をかけた後、
菫瑶けい氏にアドバイスを与えていた民主活動家の華桶という男
性がいるのですが、この男性も当局に拘束されています。しかし
この事件はニュースとして世界中に拡散され、海外に知られてし
まったことは確かです。
 さて、トランプ米政権によって仕掛けられた貿易戦争に対して
中国の習近平政権は「ガチンコ勝負」に出たのです。この対応に
ついて中国国内では多くの反対意見があるのです。習政権が米国
に対して強気に出た理由について、近藤大介氏は次のように説明
しています。
─────────────────────────────
 中国が、トランプに対して強気に出た背景には、2つのことが
あった。1つは、昨年11月にトランプが訪中した時の印象がと
てもよかったため、トランプが本気で、中国に牙を剥いてくると
は想定していなかった。あの時、2535億ドルものプレゼント
(中国からアメリカへの投資や購買)を与えて、それでもう貿易
摩擦問題は解決したと思っていたのだ。
 ところがトランプは、北京から戻るや態度を一変させた。中国
からすれば、「あの時の2535億ドルは一体何だったのだ?}
という怒りがあった。
 もう一つの背景は、習近平政権の第1期5年が、何もかもうま
く行き過ぎたことだ。政治的には習主席の一強体制が確立し、経
済的にはアメリカの3分の2の規模までGDPが拡大した。外交
的には「一帯一路」に多くの国が賛同し、軍事面でも科学技術面
でも世界ナンバー2の地位を確立した。
 そんな中、今年3月20日に全国人民代表大会が閉幕した。習
主席は憲法改正で自らの任期を取っ払い、省庁を改編し、ほしい
がままの幹部人事を断行した。つまり2期日の習近平政権が始動
した時点で、死角はゼロだったのだ。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 中国に「樹大招風/シュータージャオフン」という言葉があり
ます。読んで字のごとく、「樹が大きくなれば風を招く」という
意味になります。これは、日本の諺「出る杭は打たれる」と同じ
意味です。つまり、習政権は、早く前に出過ぎたのではないかと
いう声が中国国内に少なからずあるということです。もう少し辛
抱して、ケ小平の遺訓である「韜光養晦」を守るべきだったので
はないかという意見です。
 一方、トランプ米政権は中国に対して、一向に手を緩めなかっ
たのです。9月25日、トランプ大統領は、国連総会でスピーチ
していますが、その席で中国を次のように攻撃しています。20
17年のデビュー時の演説の敵役は「北朝鮮」でしたが、201
8年は、中国を敵役に替えてとして批判しています。
─────────────────────────────
 アメリカは、中国がWTOに加盟してから、300万人の工場
労働者を失った。そのうちほぼ4分の1は鉄鋼関連だ。そして6
万の工場もだ。その結果、過去20年で、13兆ドルもの貿易赤
字を抱え込んでしまったのだ。
 だが、もうそんな日々とはオサラバだ。これ以上、そのような
乱用は容赦しない。われわれの労働者が、犠牲になるのを許さな
い。アメリカ企業は騙され、アメリカの富は略奪され、移管され
たのだ。アメリカは自国民を守るため、決して躊躇しない。
 アメリカはさらなる2000億ドルの中国製品に対する追加関
税を宣言した。トータルで2500億ドルになる。私は習主席に
対して、大いなる敬意と愛情を抱いている。だが、貿易不均衡は
看過できないことを明らかにしておきたい。中国市場の歪みと彼
らの商習慣は、許されるものではない。
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/026]

≪画像および関連情報≫
 ●ケ小平が主導した外交の特徴
  ───────────────────────────
   本日は中国の外交方針の変遷について語ることになってい
  るが、焦点はここ数年の方針転換であり、毛沢東時代まで振
  り返る余裕はない。しかし、ケ小平が主導した中国外交の特
  徴をおさらいすることでポイントを把握することは出来る。
   ケ小平外交の第一の特徴は、現実的な国際情勢判断に基づ
  いていたことにある。ケ小平は、世界では平和と発展が主な
  潮流となっており、世界大戦は回避可能だと考えた(毛沢東
  はそう考えていなかった)。そこで、目下の第一の任務は発
  展であり、資本主義国との間でも経済的な相互依存関係を築
  いていった。
   第二の特徴は客観的な自己認識を有していたことである。
  ケ小平においても大国意識は強かったが、それと同時に、中
  国は小国でもあると認識していた。後に「社会主義の初級段
  階」にあるとも言われたが、要するに科学技術や工業化が遅
  れた発展途上国だという自覚が強かった。
   第三には、イデオロギーより国家利益を重視したことが挙
  げられる。国際共産主義運動から次第に足を洗い、平和な国
  際環境を実現して四つの近代化を追求することを外交の目標
  に据えた。
   そして第四に、「韜光養晦」の外交方針の採用が挙げられ
  る。表現は時代によって異なり、80年代の方針は「同盟せ
  ず、覇を称えず、突出せず」というものであった。
                  https://bit.ly/2tdPxWP
  ───────────────────────────

トランプ大統領国連演説/2018.jpg
トランプ大統領国連演説/2018
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月08日

●「墨汁事件は海航集団と関係がある」(EJ第4944号)

 墨汁女子について、近藤大介氏は、次の3つの点が気になると
しています。
─────────────────────────────
         1.撮影場所が上海である
         2.海航集団ビル前である
         3.海外組織に対しSOS
─────────────────────────────
 第1は「撮影場所が上海である」ことです。
 上海は、習近平主席の最大の政敵といわれる江沢民元主席のお
膝元であることです。上海では、習近平主席に対して反感を持つ
人が多いといいます。近藤大介氏が旧知の上海人の社長に米中貿
易戦争の感想を求めると、次のように述べたというのです。
─────────────────────────────
 皮肉な話だが、トランプ大統領に対する支持者が最も多いのは
ラストベルト(錆びた地帯)と呼ばれるアメリカ中西部ではなく
て、上海ではないか。中米貿易戦争が勃発して以降、「特朗普、
加油!」(トランプ頑張れ)という声をよく耳にするからだ。上
海ディズニーランドも南京路にある世界最大規模のスターバック
スも、連日大盛況だ。7月10日には、上海市政府と米テスラ社
とが、上海新工場の建設に関する調印式を行った。
 習近平政権は政治的な締めつけが厳しく、上海人が望む自由な
ビジネスができない。上海が「自由貿易区」に指定されたのは、
習近平政権が発足した2013年のことだったが、5年経った現
在でも、ほとんど恩恵を受けていないのだ。現政権は明らかに、
過去の江沢民政権や胡錦濤政権ほどの経済的センスを持ち合わせ
ていない。そこにトランプが、ドカンと雷を落とし、中国を真の
開放に向かわせるかもしれない。だからわれわれは、トランプの
外圧に期待しているのだ。今年は改革開放40周年なのだから、
本来ならもっと経済を開放したらよいのだ。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 第2は「海航集団ビル前である」ことです。
 犯人の女性が習近平主席のポスターに墨汁をかけたのが海航集
団の前であったことは象徴的です。偶然であったかもしれないし
何か意味があったとも考えられます。海航集団は、習近平政権と
浅からぬ関係があるからです。
 まず、海航集団とは何かについて知る必要があります。ちょう
どこの時期(2018年7月)、海航集団は中国国内で、大きな
話題になっていたのです。海航集団については、ネット上に次の
解説があります。
─────────────────────────────
 海航空集団は航空運輸業務を主力とするが、それ以外に空港サ
ービス、ホテル、小売業、物流、金融など多くの事業に携わって
いる。同集団傘下の海南航空は、中国の航空会社として異色だ。
中国では中央政府系の中国南方航空、中国東方航空、中国国際航
空が「中国三大航空会社」とされる。
 保有する運用機材(航空機)で見ると、前記三大航空会社はい
ずれも400機台〜500機台。海南航空は200機強と半分程
度の規模だ。ただし、三大航空会社の場合、購入を予約している
機材が現保有機数の半分程度なのに対し、海南航空は260機以
上と、機材の倍増計画を明確にしている。しかも、予約機のうち
200機が、中国が「大型旅客機」として開発中のC919であ
るなど、「チャレンジング」な姿勢が目立つ。
                  https://bit.ly/2UHhmCs
─────────────────────────────
 この時期において、海航集団に大変なことがあったというのは
2017年7月のことですが、海航集団の王健会長が出張先のフ
ランスで客死したからです。トップが亡くなっているのです。公
式には、「事故死」ということになっていますが、そのことを額
面通りに受け取る人は少ないといいます。なぜかというと、海航
集団は、この時点での負債総額が6000億元(約10兆円)に
達し、事実上の破綻状態にあったからです。そのため、自殺では
ないかともいわれたのです。
 それに「海航集団は習近平政権の政商である」といわれており
王健会長の突然の死に強い疑いの目が向けられていたのです。そ
れを暴露したのは、中国の元富豪といわれる郭文貴という人物で
す。彼は、米国に亡命し、ニューヨークから習近平政権のスキャ
ンダル情報を暴露し、流していたのです。郭文貴氏のバックには
江択民元主席がいるといわれててます。
 海航集団と習近平政権の関係──というよりも習近平主席の盟
友である王岐山副主席と海航集団との関係ですが、郭文貴氏は、
米国からユーチュープを使って暴露情報を流したのです。王岐山
氏は、党中央紀律検査委員会(中紀委)を率いて汚職摘発で辣腕
を振るい、とくに、江沢民派の幹部の多くを刑務所に送っている
ので、大きな恨みを買っています。
 近藤大介氏は、上海での墨汁事件は、郭文貴氏と何らかの関係
があるのではないかと推測しています。
─────────────────────────────
 墨汁事件では、「郭文貴全世界フォロワーチーム」なる名義の
アカウントから、ユーチューブを通じていくつもの「スクープ報
道」がなされていた。例えば、8月2日には、菫瑶けい(墨汁を
かけた女性)の父・菫建彪が「娘は精神病などではない」とする
声明を発表したと報道していた。郭文貴が滞在するニューヨーク
といえば、トランプ大統領のお膝元であり、そのトランプ大統領
は、墨汁事件が起こった2日後の7月6日に、習近平政権に対し
て貿易戦争を「開戦」したのだ。この2日間の近似は、単なる偶
然だろうか。          ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/025]

≪画像および関連情報≫
 ●海航集団をめぐる2つの事件
  ───────────────────────────
   数日前ドイツ銀行の話題を振った際、海航集団が同行の株
  主だと申し上げました。また同集団は12兆円とも言われる
  負債で経営危機に陥っており、背後に中国ナンバー2の王岐
  山副主席がいるとも申し上げました。
   さて、今日のニュースをみていると海航集団に関する新た
  な2つの事件が報じられています。
   1つは韓国アシアナ航空で一部航空機が機内食を提供でき
  なくなり、大混乱に陥った事件。そして、もう一つは、海航
  集団の傘下の海南航空の王健会長がフランス出張中に「事故
  死」したことであります。
   まず、アシアナ航空の事件ですが、これには背景がありま
  す。アシアナはもともと機内食提供会社をLSG社と契約し
  ていました。しかし、アシアナが海航側と取引をし、1年半
  ほど前に海航と4:6の比率で機内食提供会社、ゲートグル
  メコリアを設立します。ところが新工場建設中の今年3月、
  その現場が火事となり、6月30日のLSG社との契約終了
  に機内ケータリングが間に合わないことが判明します。その
  ため、LSG社に短期契約更改交渉をするものの決裂、アシ
  アナはやむを得ず、小さなシャープDo&Coという会社に
  委託をします。残念ながら、初日から供給がうまくできず、
  大きな混乱を招いたとうストーリーです。更にシャープ社の
  社長は自殺するという痛ましい展開になっています。
                  https://bit.ly/2DfEK2Q
  ───────────────────────────

米国から放送する郭文貴氏.jpg
米国から放送する郭文貴氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月07日

●「習近平のポスターに墨汁をかける」(EJ第4943号)

─────────────────────────────
   1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判
   2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判
 ⇒ 3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判
─────────────────────────────
 「3」の習近平批判について考えます。
 国内の3方面で起きた「習近平批判」の3つ目は、何と市民に
よる習近平批判です。習近平体制にとって、こういう動きが一番
警戒すべきことなのです。たった一人の反乱でも、それがSNS
で拡散されると、あっという間に中国全土に拡散される恐れがあ
るからです。
 2018年7月4日、午前6時40分過ぎにその事件は起きた
のです。湖南省出身の29歳女性が、上海の海航ビルの前で、壁
に大きく貼られた習近平主席のポスターに墨汁をかけ、それを自
撮りして、SNSにアップロードしたのです。まさに習近平政権
が最も恐れることをやったわけです。
 そのときの貴重な動画があります。中国国内では動画は完全に
消去されていますが、これは中国外に流出した動画のひとつと思
われます。墨汁をかけた女性の名前(とうようけい)もわかって
いますが、メールでは表示できないので、省略します。
─────────────────────────────
◎「墨汁事件」の動画        https://bit.ly/2UIxSCu
 女性は中国語で話していますが、その内容は次の通りです。近
藤大介氏の本から引用します。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
 尊敬する皆さん、おはよう!いまは7月4日の午前6時40分
頃で、私はいま上海の陸家囁(浦東新区にある金融街)にいて、
後ろにあるのが海航ビル(習近平主席や王岐山副主席と関係が深
いとされ、経営危機に陥っている海南省の巨大グループ)。まだ
朝早いから、皆さんはきっと出勤途中でしょう。後ろにあるのは
習近平のパネル写真よ。私が言いたいのは、絶対に習近平の独裁
専制の暴政に反対だということ。中国共産党が私にやっている圧
迫にも反対だ。
 反対!(と叫んで墨汁を習主席の大判の顔写真にぶっかける)
この人を恨んでいる!見たでしょう、これが私の行動よ。習近平
に反対!専制と暴政に反対!共産党が、私にかけている圧力に反
対!国際組織が調査して正してくれることを要求する。私をダメ
にするのは、中国共産党と政府だということを調査してほしい。
 そうよ、今日は、この男に墨汁をぶっかける日。私がやったの
よ。この男はどうするでしょうね。習近平よ、私はここで待って
いるから、捕まえに来なさいよ。私はたった一人で、中国共産党
の独裁、暴政、専制に反対し、あなたが捕まえに来るのを待って
いるのよ。
 後ろはまさに海航ビル。習近平、あなたが一番好きな会社よ、
そうでしょう?私はあなたの顔に墨汁をぶっかけた。見たでしょ
う?醜くなった自身の顔を見たでしょう?さあ、今日のニュース
はこれでおしまいよ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 この動画について、次のような多くの書き込みが行われていま
す。しかし、それらは時間が経過するにつれて、当局により次々
に削除されていき、中国の国内では、完全に見られなくなってし
まっています。そういうことをするために、中国という国は、防
衛費を上回る莫大な人材とコストをかけているのです。
─────────────────────────────
◎あなたは誰もがやりたいと思っていてもできないことを実行に
 移したのだ。
◎誰もが、この息詰まりしそうな空気のなかで、沈黙し続けるこ
 とに限界を覚えている。あなたは、われわれに勇気を与えてく
 れた。あなたこそが英雄である。
◎この暗黒の中国大陸では能力や学問がどんなにあっても役に立
 たない。独裁政治に抗議する勇気を持ってこそ英雄になれる。
                  https://bit.ly/2UAmZlU
─────────────────────────────
 習近平のポスターに墨汁をかけた女性は、その後家に戻り、家
の周辺に私服や制服の公安局員の数が増える様子をスマホで撮っ
て、ネット上に流していましたが、やがて映像はプツリと消えた
といいます。そして、誰も彼女とは、連絡がとれなくなっていま
す。その日のうちに拘束されたものと思われます。その後、父親
も拘束されています。
 こうした一連の動きが、今後中国の民主化につながるのかどう
かを中国国内の民主活動家に意見を聞いてみると、次のような絶
望的な返事が返ってきました。中国の民主化は、今後20年経っ
ても実現しないだろうというのです。
─────────────────────────────
 考えてみてください。中国には200万人の軍隊がおり、数百
万人の警察がいます。彼らは自国の人民を鎮圧するために存在し
ているのです。中国人民は少なくともあと20年間は不民主の中
で生きていくしかないのです。中国人は、考えることさえコント
ロールされています。微信(ウィチャット)も、微博(ウェイボ
ー)も全て監視されているのですから」
 しかも中国で何が起きているのかを知るために、特殊な方法を
使って海外から情報を入手するしかないのです。人民が絶対に横
につながらないように、政府は最大の工夫をしているのです。
 こんな環境下で民主化運動など、夢のまた夢。われわれに前途
はない!              https://bit.ly/2TxjKLQ
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/024]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平の顔写真ポスターに墨汁かける運動拡大
  ───────────────────────────
   中国では今月(2018年7月)に入って、習近平国家主
  席の肖像画が印刷されたポスターに墨汁や黒インクをかける
  運動が北京や上海を中心に全土に拡大しており、中国共産党
  中央弁公庁は最近、地方の党機関に対して、街頭や建物内に
  ある習氏の肖像画入りのポスターや掲示板、宣伝塔、彫像な
  どを撤去する指示を出していたことがわかった。
   習近平指導部が国家主席などの任期を撤廃したり、習氏を
  批判する人権活動家や弁護士らを多数逮捕するなど独裁体制
  の強まりに反発する声が多くなっているためで、指導部は習
  氏の個人礼賛キャンペーンを停止するなどの措置をとってお
  り、今春以降、加速していた個人崇拝の動きに、歯止めがか
  かったかたちだ。
   また、2012年に現指導部が発足してから最大の失点と
  目される米中貿易問題の影響もあるとみられ、7月下旬から
  の中国共産党の重要会議「北戴河会議」で習指導部への批判
  が集中する可能性もある。
  習氏の肖像画に墨汁などをかける運動が広がったきっかけは
  上海在住の董瑶けいさん(29歳=女性)が今月4日早朝、
  中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」に、生配信したパ
  フォーマンスだった。董さんは「私は習近平とその独裁主義
  に反対です」と言うと、背後にある街頭の習氏の肖像画入り
  ポスターに墨汁をかけたのだ。その動画は、ウェイボー上で
  シェアされ、瞬く間にインターネット上で拡散した。
                  https://bit.ly/2RCcMUc
  ───────────────────────────

習近平主席への個人崇拝が問題化.jpg
習近平主席への個人崇拝が問題
 
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月06日

●「習近平主席北載河会議を乗り切る」(EJ第4942号)

─────────────────────────────
   1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判
 ⇒ 2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判
   3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判
─────────────────────────────
 「2」の検討を続けます。長老たちも集まる北載河会議で何が
あったかが注目されています。北載河会議では、大規模な「習近
平降ろし」が画策されているという噂もあって、この会議が注目
されていたのです。習近平政権は、北載河会議をどのようにして
乗り切ったのでしょうか。
 そもそも北載河会議がいつ始まったかもわからないのですが、
多くのメディアが8月3日に続々と北載河入りしているので、そ
の日かその日以降に会議が始まったものと推測されています。
 8月4日には、中国社会科学院・工程院院士62人を招いた座
談会が開かれています。科学院、工程院は、中国の科学技術系エ
ンジニアの母体であり、「中国製造2025」の具体案を支える
提言機関であるので、北載河会議と関係があるかもしれないので
す。「中国製造2025」には、米国が強く反発しているので、
その対応策を協議した可能性があります。
 中国の事情に詳しい福島香織氏の情報によると、習近平主席は
アラブ・アフリカ歴訪から帰国すると、7月31日に北京で中央
政治局会議と集団学習会を開き、それに参加した政治局員を引き
連れて北載河会議入りしています。
 結果として、2018年の北載河会議は、完全に習近平主席の
ペースで進み、「習近平降ろし」は大きくトーンダウンしたと伝
えられています。実は、これにはワケがあるのです。それは、長
老一人ひとりの懐柔策が功を奏したのです。
 習近平主席の前の主席である胡錦濤氏に対しては、その子息の
胡海峰氏に手厚い処遇をし、習主席に反対できないようにしてい
ます。胡海峰氏は、いわゆるできのわるい子息であり、政治家と
してもビジネスパーソンとしても成功できなかったといいます。
そこで習主席の計らいで、浙江精華長江デルタ研究員の党書記職
を与えられたのです。これによって、胡錦濤氏は習近平主席に頭
が上がらなくなったといわれます。
 李鵬氏の子息である李小鵬氏も同様です。李小鵬氏は、李鵬氏
の跡を継いで、電力利権にからんでおり、腐敗の噂の絶えない人
物です。習近平主席としては、腐敗一掃運動の一環で摘発するこ
ともできますが、現在交通運輸部長職に就いています。そして8
月7日から、習近平主席の特使として、コロンビア大統領就任式
に出席しています。
 このように習近平主席は、長老たちの弱点であるできの悪い子
供たちをうまく取り込んで、長老たちを分断するとともに、「習
近平降ろし」の流れを封じ込めるのに成功しています。腐敗防止
キャンペーンを巧みに使い、アメとムチで長老たちを身動きでき
ないようにしているのです。これについて、福島香織氏は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 長老、太子党、党中央、メディア、軍部、知識人層にアンチ習
近平派が存在するのは間違いない。清華大学法学院教授の許章潤
が7月24日、天則経済研究所のサイト上に「我々が目下抱いて
いる恐懼と期待」というコラムを発表したが、この中ではっきり
と習近平の現政策を「逆行」と批判し、天安門事件の再評価、国
家主席任期の復活、個人崇拝の制止、公務員財産開示法の施行な
どを訴えている。個人崇拝は知的レベルの低い行為、といい、ま
るで習近平の知的レベルが低いといわんばかりだ。
 また国務院発展研究センター金融研究所総合研究室副主任の高
善文が7月28日、地方の証券会社の講演で、習近平がケ小平の
韜光養晦戦略を放棄したことが米中関係の破壊の原因だ、と指摘
したと伝えられている。           ──福島香織氏
                  https://bit.ly/2Tqxicg
─────────────────────────────
 福島香織氏が指摘する上記の高善文氏の講演での指摘、「習近
平がケ小平の韜光養晦戦略を放棄したことが米中関係の破壊の原
因」は重要であると思います。ここで「韜光養晦(とうこうよう
かい)戦略」というのは、国力が整わないうちは、国際社会で目
立つことをせず、じっくりと力を蓄えておくという戦略です。と
ころが、習近平主席は、その戦略を捨てたことで、米国が貿易戦
争を仕掛けてきたのではないかといっているのです。これはその
通りであると思います。
 米国が仕掛けた貿易戦争は、単に貿易の問題だけではなく、習
近平政権の「中国製造2025」潰しにあるといわれます。した
がって北載河会議で何らかの検討行われたと考えられます。それ
を裏付けるのが、前述の8月3日に北載河会議と並行して行われ
た中国社会科学院・工程院院士62人を招いた座談会です。この
座談会には、副首相の胡春華氏も出席しているのです。
 胡春華氏は、中国共産主義青年団(共青団)中央書記処第一書
記を務めた人物で、胡錦濤派です。今後、「中国製造2025」
についての米国との協議においては、この胡春華氏が前面に出る
代わりに政治局常務委員の王滬寧氏が責任を取らされる可能性が
あります。福島香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 秋の四中全会で、ひょっとすると政治局常務委員のポストが王
滬寧から胡春華に入れ替えられるのではないか、というのは、ア
ンチ習近平派の期待をこめただけの噂にすぎない。だが、党内ア
ンチ習派の不満を抑えるために、後継者として胡春華を政治局常
務委員に迎え入れ、個人崇拝・独裁化の印象をやや薄めようとい
うのは、習近平の立場に立ってみれば決して無理な妥協案ではな
いとも考えられる。         https://bit.ly/2GmDqP1
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/023]

≪画像および関連情報≫
 ●内憂外患の習近平政権/軍の威光をバックに「北戴河」突破
  ───────────────────────────
   【北京=藤本欣也】中国共産党大会を秋に控え権力闘争が
  激化する中、習近平指導部は内憂外患を抱えている。孫政才
  政治局員の失脚で、近く始まる非公式会議の「北戴河会議」
  も波乱含みだ。習氏としては、中国人民解放軍建軍90周年
  の8月1日に大規模な軍事演習を挙行して軍の存在をアピー
  ル、最高司令官である自らの立場を強めて北戴河会議を乗り
  切る構えだ。
   北京の中国人民革命軍事博物館周辺は7月21日、厳重な
  警備態勢が敷かれた。この日、習氏が李克強首相ら党最高指
  導部メンバーを引き連れて訪問、建軍90周年の特別展を見
  学。その模様は国営メディアを通じて全国に放映された。
   習指導部を取り巻く内外の環境は厳しい。国内では、ノー
  ベル平和賞を受賞した民主活動家、劉暁波氏の死去の影響が
  広がるのを押さえ込むのに躍起だ。24日には慈善組織と称
  する「善心匯」メンバーらが大規模抗議集会を強行した。
   対外的には、中印国境付近で両国の軍部隊が1カ月以上対
  峙する異常事態となっている。中朝国境付近では、中国側が
  朝鮮半島の危機に備え、軍事力を増強したと米紙が報じてい
  る。南シナ海では、ベトナムが始めたガス田の掘削作業に中
  国が猛反発し、中止させた。東シナ海では23日、上空で中
  国軍戦闘機が米軍機の飛行を妨害。中国の軍艦・公船による
  日本の領海への侵入も相次いでいる。
                  https://bit.ly/2DaOQ52
  ───────────────────────────

王滬寧政治局常務委員と胡春華副首相.jpg
王滬寧政治局常務委員と胡春華副首相

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月05日

●「周到に準備して北載河会議に臨む」(EJ第4941号)

 米中戦争をきっかけに中国国内で起きた地殻変動ともいうべき
習近平政権批判騒ぎについて説明しています。批判の起きた3方
面を再現します。
─────────────────────────────
   1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判
 ⇒ 2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判
   3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判
─────────────────────────────
 トランプ米大統領が仕掛けてきた貿易戦争について、御用学者
の意見を聞いて初期の対応を誤った習近平政権が北載河会議前に
必死になってその取り繕いをやっています。北載河会議で問われ
る可能性のある習政権の「失政」とは次の3つです。
─────────────────────────────
◎第1の失政
  中国があまりにも強国路線を前面に出したことにより、トラ
 ンプ政権が貿易戦争で中国を叩く口実を与えたこと。
◎第2の失政
  米国と中国との間にはまだ経済では大きな差があり、貿易戦
 争によって、中国経済が本当に傾いてしまったこと。
◎第3の失政
  周辺諸国を含む国際社会が米中貿易戦争で自由貿易の推進と
 いう「正論」を説く習政権を支持してくれないこと。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 上記の3つの失政ですが、これは当然の話です。誰も本当の意
味で、中国が自由貿易やグローバリズムの旗振りを任じても支持
などしないでしょう。中国は、南シナ海の領有権の問題で、ハー
グの常設仲裁裁判所が下した「中国の主張には国際法的根拠はな
い」という判決に対して、「そんなものは紙くずと同じ」といっ
て、聞く耳を持たなかったのです。自国主義を掲げるトランプ米
政権も狂っていますが、自分たちの意に沿わない国際法など歯牙
にもかけない中国が自由貿易を推進するといっても、どこの国も
本心では支持などしないと思います。
 近藤大介氏によると、2018年7月31日、習近平主席は中
央政治局会議を開き、次の「6つの決定」を行っています。これ
も北態河会議対策です。この会議は、中国共産党トップ25人が
集まって、ほぼ毎月行っています。
─────────────────────────────
 1.「穏中有変」
  ・経済の評価をこれまでの「穏中有好」を「穏中有変」に改
   めている。安定したなかに変化が見られるの意。経済が変
   化のあることを認めている。
 2.「積極的財政政策と穏健的貨幣政策」
  ・金融引き締め政策を改め、人民元を緩和し、公共投資を拡
   大し、内需を喚起する。
 3.「六穏」
  ・六穏とは、就業、金融、貿易、外資、投資、決済期日のこ
   とで、この6つを安定させる。
 4.「補短板」
  ・「補短板」とは、短所の補強・補填のことである。地方の
   インフラ投資を拡大させる。
 5.「レバレッジ率低下策の堅持」
  ・レバリッチ率とは負債率のことである。これ以上レバリッ
   チ率が上がると、リーマンショックのときと同じになるの
   で、これを鎮める。
 6.「不動産価格統制の堅持」
  ・中国経済にとって、最大のリスクは不動産バブルの発生。
   これを防止する。
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 こうした対策を施した結果、北載河会議は、いつ行われ、どう
なったのでしょうか。何しろ、会議の開催日をはじめとして、内
容は一切公開されないので、明確には分からないのです。
 しかし、2018年9月以降の習近平政権の動きを見ていると
米国の要求をかなり受け入れる方針に変化し、12月のアルゼン
チンのブエノスアイレスでの米中首脳会談の開催に漕ぎ付けてい
ます。その米中首脳会談の結果、2019年1月1日に予定され
ていた2000億ドル(約23兆円)分の中国製品に対する現行
10%の関税の25%への引き上げを90日間遅らせることに同
意しています。
 現在、ネット上で、情報を集めていますが、習近平主席は、北
載河会議での長老の反撃をうまく乗り切ったようです。これにつ
いては、改めて書くことにします。
 しかし、それでも習近平批判はなかなか鎮静化しないのです。
なぜ、全体主義下の中国において、任期のない終生トップの権限
を手に入れた習近平主席を批判できるのでしょうか。それは、長
老たちを中心として、一定の数の習近平批判勢力が存在するから
です。長老たちは、習近平派が提案する中国のトップの任期10
年を撤廃する改正は認めても、憲法にあたる党規約、第10条6
項の改正は死守したのです。
─────────────────────────────
     党規約/第10条6項
     党はいかなる形式の個人崇拝も禁止する。
─────────────────────────────
 しかし、2018年3月の全国人民代表大会で国家主席の任期
撤廃を行うと、習近平総書記への「個人崇拝」は、激しさの度を
増していったのです。メディアも連日、習近平礼賛報道に行い、
党規約第10条6項に違反する事態になっていったのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/022]

≪画像および関連情報≫
 ●北戴河会議控え・・・スローガンから「習近平」消えた
  ───────────────────────────
   【北戴河(河北省)=西見由章】中国共産党の指導部や長
  老らが河北省の避暑地に集まり、人事や重要政策について非
  公式に議論する「北戴河会議」が間もなく始まる。米中貿易
  摩擦の激化を受けて習近平総書記(国家主席)への批判が党
  内外で表面化しつつある中、重要会議の拠点でも党のスロー
  ガンから習氏の名前が激減し、習指導部の苦しい立場をうか
  がわせている。
   2018年7月31日、北戴河にある党幹部専用ビーチ沿
  いの道路は約3キロにわたって封鎖され、党や軍の関係者を
  乗せたとみられる当局ナンバーの特別車両が、相次いで出入
  り。周辺道路は武装警察や警察、私服の当局者が目を光らせ
  沖合では中国海警局の公船が警戒していた。複数の地元住民
  によると7月中旬には警戒態勢が強まったという。
   党幹部らが宿泊するのは、ビーチそばの森に点在する瀟洒
  (しょうしゃ)な西洋風別荘だ。前日に保養地を一望する聯
  峰(れんほう)山公園の展望台に向かったところ、数人の当
  局者が記者を尾行・撮影していた。
   北戴河の厳戒態勢は例年通りだが、“異変”もある。「新
  時代の中国の特色ある社会主義思想の偉大な勝利を勝ち取ろ
  う」。街中では会議のために新設した真新しい看板が目につ
  く。              https://bit.ly/2GgV1b4
  ───────────────────────────

街中に設置されている中国共産党スローガン.jpg
街中に設置されている中国共産党スローガン
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月04日

●「中国内で習近平批判が巻き起こる」(EJ第4940号)


 当初くみしやすいと考えていたトランプ米大統領からの貿易戦
争ですが、それによって中国国内では、大きな地殻変動が起きる
ことになったのです。それは、次の3方面から巻き起こった「習
近平批判」です。その3つの方面を再現します。
─────────────────────────────
   1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判
   2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判
   3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判
─────────────────────────────
 「1」の習近平批判について考えます。
 近藤大介氏によると、中国の学者には、次の3つのタイプがあ
るといいます。
─────────────────────────────
 1.中国共産党や時の政権に媚びて、政権の目指す方向の正
  当性を主張し、立身出世を目指す御用学者
 2.中国共産党や時の政権から助成金などの支援は受け入れ
  るが、表面的、国際的なことを論ずる学者
 3.中国共産党や時の政権から距離を置き、中国にとって悪
  いものは悪いと一刀両断するタイプの学者
─────────────────────────────
 習近平政権が、当初トランプ政権からの貿易戦争をくみしやす
しととらえたのは、上記1のタイプの御用学者たちから、中国経
済はやがて米国を抜いて世界一になるとか、米国の方こそ中国を
恐れているなどの政権幹部にとって耳ざわりのよい提言を多少な
りとも信じていたからであるといえます。
 しかし、米中の貿易戦争が過熱化すると、中国国務院傘下のシ
ンクタンクから、一編の経済論文が提出されたのです。このシン
クタンクは、2015年6月に設立された研究員約120名を擁
する国家金融・発展実験室のことであり、金融政策を政府に提言
するのが仕事です。ここに属する学者は上記2のタイプの研究者
たちであるといえます。その論文の要旨は次の通りです。
─────────────────────────────
 中国では今年に入って、債券の不履行、ボラティリティ(流動
性)の緊張、為替の下降や株価の下落などが相次いで起こり、し
かもそれらはますます勢いを増している。通貨総量の増大は縮小
し、企業への融資環境はあまりに先細りしている。
 それらに加えて、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げと
中米貿易摩擦の長期化に伴って、不確実性が高まっている。そう
した中、いまや中国に金融恐慌が起こる確率は極めて高い。
 中国発の金融恐慌への対応は、大規模で、かつ明確に世間に宣
布しなければならない。主要な措置は、第一に、直ちに国務院金
融安定発展委員会の内部に応急処置を取る機構を立ち上げる。第
二に、対策を制定し、適宜果断に、違約や破産事件を処理してい
く。第三に、いち早くわが国の通貨供給制度を、米ドル、為替、
外貨準備と切り離し、不可避になってくる外部との衝突を防ぐた
めの準備を、周到に取り行うことだ。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 この論文は、シンクタンクを率いる李揚理事長と部下の3名の
研究者の連名になっています。李揚理事長は、中国社会学院で、
金融研究所長、副院長などを歴任し、中国人民銀行(中央銀行)
で通貨政策を決める通貨政策委員も務めた経済学者であり、習政
権の金融ブレーンの一人です。しかし、仕事であるとはいえ、論
文の内容は、結果として習政権の貿易戦争への対応の甘さを指摘
しており、学者生命を賭けて警鐘を鳴らしたのです。習政権下で
政策を批判するのは、大変なことなのです。その結果、実態に基
づかない政権におもねる情報を吹き込んだ御用学者たちが非難の
対象となったのです。
 「2」の習近平批判について考えます。
 中国では、8月上旬に「北載河会議」というものが開かれるこ
とになっています。北載河というのは、渤海湾に面した中国河北
省の保養地です。この北戴河において、毎年7月下旬から8月上
旬ごろにかけて、共産党の指導部や引退した長老らが避暑を兼ね
て集まり、人事などの重要事項を非公式に話し合うことが毛沢東
時代から行われているのです。重要なことは、この会議では長老
たちに強い発言権があることです。したがって、現政権が北載河
会議で批判されると、他の長老たちの担ぐ一派との間で毎年のよ
うに権力闘争が起きるのです。
 7月6日に米国との貿易戦争がはじまった直後の北載河会議で
す。まして、「下手をすると中国発の金融恐慌が起きる」と指摘
された状態で北載河会議に臨むと、習近平主席は長老たちから批
判のマトにされることは火を見るよりも明らかです。そこで、習
近平政権は、党中央宣伝部に命じて、国内の全メディアに対して
「官製報道」以外の米中貿易戦争関連の情報を一切禁止したので
す。禁止されたのは、次の7つの報道です。
─────────────────────────────
       1.       中米貿易戦争
       2.     中国経済の不景気
       3.        消費の低迷
       4.        家賃の高騰
       5.特定の国家元首に対する批判
       6.       離職率の増加
       7.      政府の税制批判
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 しかし、いかに官製報道を行っても、年初3307ポイントを
つけていた上海総合指数は6月末には2847ポイントと14%
も下落してしまったのです。この数値は隠しようがないのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/021]

≪画像および関連情報≫
 ●金融ブレーンが告発!「中国発の金融恐慌は必ず起こる」
  ───────────────────────────
   いよいよ世界中が注視する運命の7月6日がやって来る。
  サッカー・ワールドカップの話ではない。世界の2大経済大
  国であるアメリカと中国が、共に相手国に対して340億ド
  ル規模もの経済制裁を課す米中貿易戦争の火ぶたが切って落
  とされるのだ。「米中冷戦時代」の始まりと言い換えてもよ
  い。これによって米中両国はむろん、世界中が大なり小なり
  巻き込まれていくことになる。あのリーマン・ショックから
  丸10年を経て、またもや人類は懲りずに人為的な巨大リス
  クを背負い込んでしまうのだ。
   中国中央テレビ(CCTV)はこのところ、2018年上
  半期に、中国経済がどれほど好調で、どれほど各種のデータ
  が伸びているかを連日これでもかというほど報道している。
  これまでは、7月中旬に上半期の速報データが発表された際
  に、この種の報道は行われてきた。それが1ヵ月前倒しで報
  道されるということは、本当は中国経済が悪化しているから
  それを覆い隠すために、いわゆる「豊作報道」を連発してい
  るのではないかと勘ぐりたくなってくる。そもそも、毎年6
  月下半期は、中国経済のアキレス腱となる時節だ。なぜなら
  銀行など金融機関が、上半期のデータを遜色なくするため、
  一斉に貸し渋りに走るからだ。2015年6月下半期の株式
  暴落も、そのような中で起こった。おそらく、そのような周
  期を見越した上で、米トランプ政権は6月15日に、対中経
  済制裁の7月6日からの発動を宣言したのではないか。
                  https://bit.ly/2MPNsJO
  ───────────────────────────

北載河会議.jpg
北載河会議
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月01日

●「中国に現在何が起こっているのか」(EJ第4939号)

 2018年は、中国の最高指導者習近平主席にとって特別の年
といえます。2018年3月11日、全人代は、国家主席と国家
副主席の任期を2期10年とする制限を撤廃して習近平思想を盛
り込む中華人民共和国憲法改正案を賛成2958票、反対2票で
成立させ、習近平氏は中国の事実上の皇帝になったのです。
 ところで、習近平主席の誕生日は6月15日です。この日にな
ると、習近平派の側近たちは、中南海の習近平宅に参集し、お祝
いをするのが常ですが、不思議なことに、習近平氏の誕生日には
ロクなことが起きていないのです。
 習近平国家主席は、サッカーが趣味だそうです。そこで、20
13年の誕生日には、還暦祝いとして、側近がタイの代表チーム
を招いて、中国代表と親善試合をさせたのです。タイは中国より
も格下であり、中国が勝つという想定のもとに、わざわざタイの
チームを招いたのです。しかし、結果は「中国1対タイ5」で、
中国が完敗してしまったのです。
 2015年の誕生日は、株式バブルの真っ只中だったのです。
前日まで上海総合指数は5178ポイントと高値をつけており、
さらなる上昇が期待されていたのです。個人投資家としては、習
主席の誕生日には、きっとご祝儀相場があると信ずる者が多く、
勝負に出たのです。ところが、上海総合指数は、5048ポイン
トまで急落し、その後3週間で32%も暴落したのです。この下
落によって、540兆円が消え、「習近平暴落」という不名誉な
ネーミングがついてしまったのです。
 そして、2018年6月15日、トランプ米大統領からの次の
メッセージが届いたのです。
─────────────────────────────
 これ以上、対中貿易赤字の拡大を看過できない。そのため、中
国の知的財産権侵害に対する制裁措置として、500億ドル(約
5兆5000億円)分の中国製品に、25%の追加関税を課す。
まず、7月6日に、産業ロボットや電子部品などハイテク製品を
中心に、計818品目、340億ドル分の制裁関税を発動する。
残りの160億ドル分は、これから発動時期を検討していく。
             近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 まさか、習近平主席の誕生日を狙って、トランプ大統領が貿易
戦争を仕掛けたわけではないでしょうが、中国にとっては、6月
15日にトランプ政権による爆弾が炸裂したのです。
 しかし、最初のうちは中国は威勢が良かったのです。2018
年7月7日、人民日報社の発行する国際紙「環境時報」は、「ワ
シントンの貿易覇権主義は必ず敗れる」と題する次の社説を掲載
したのです。
─────────────────────────────
 アメリカが貿易戦争の最初の一撃を放った。だが中国を倒すに
は及ばず、必ずや強力な反撃を食らうだろう。
 まず第一に、アメリカは世界の貿易の歴史に、永久に残る汚点
を刻んだ。ワシントンはWTOの規則に完全に違反した史上最大
規模の貿易戦争を故意に発動し、世界経済を全面的に破壊する影
響を与える可能性がある。それは、ワシントンのちっぽけなソロ
バンで弾き出したものとはかけ離れた規模であり、この一点だけ
をとっても、アメリカは世界貿易史に残る犯罪国家だ。
 第二に、ワシントンの貿易覇権主義が敗北に終わることは疑い
がない。ワシントンは、自分たちが勝つと無理やり思い込んで開
戦したが、「戦場」で痛い目に遭って初めて、理性を取り戻すか
もしれない。
 グローバリゼーションが深く浸透した21世紀にあって、各国
の経済は、とりわけ中国とアメリカの経済は、「自己の中に相手
がいて、相手の中に自己がいる」関係にあり、切り離すことはで
きない。アメリカが中国を叩いて、自分だけ無傷ということはあ
り得ない。
 現在ワシントンが踏んでいるのは、二本のレッドラインだ。一
本は多国間の規則というレッドラインであり、もう一本は中国が
発展していく権利というレッドラインである。前者によって全世
界の反対に遭い、後者によって中国からの反撃に遭っている。ワ
シントンは、世界の反対と中国の反撃が巨大なパワーとなること
を見くびったのだ。       ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 「環境時報」はなかなかうまい表現を使っています。現在の中
国と米国の関係については、「『自己の中に相手がいて、相手の
中に自己がいる』関係にあり、切り離すことはできないと述べて
います。つまり、争えば共倒れになるといっているのです。確か
にその指摘は当っています。世界1位の経済大国と世界2位の経
済大国が貿易で争えばどちらも経済がおかしくなるし、どちらも
傷つき、それによって世界経済にも大きな影響が出ます。
 しかし、米国としては、自国の安全保障上の問題があって貿易
戦争を仕掛けており、両方とも傷つくことは確かですが、今なら
国力の差によって勝つと読んで、米国は、この貿易戦争を仕掛け
たのです。
 果せるかな、中国国内では、トランプ爆弾によって大きな地殻
変動が起きつつあり、3つの方面から「習近平政権批判」が続々
と出てきたのです。
─────────────────────────────
  1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判である
  2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判である
  3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判である
─────────────────────────────
 時の国家主席である習近平主席を批判するということは、中国
では考えられないことです。しかし、米国との貿易戦争によって
その考えられないことが起きているのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/020]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ中国共産党指導者の誕生日は国家機密なのか?
  ───────────────────────────
   日本であまり知られていないことだが、中国では共産党指
  導者の誕生日は国家機密になっている。中国政府は公式ホー
  ムページなどで指導者の略歴を発表しているが、生まれた年
  と月しか公表しておらず、誕生日がない。例えば習近平国家
  主席の場合「1953年6月生まれ」となっている。
   そのため記事を書く際、指導者の年齢をめぐり困るときが
  ある。例えば2013年の全国人民代表大会(国会に相当)
  で、副首相に任命された汪洋氏の場合、「1955年3月生
  まれ」となっており、人事が決まったのは3月16日で、そ
  のときに誕生日が来ていたかどうかが分からない。57歳か
  58歳そのどちらかの可能性があるため、年齢を省いて記事
  を書かざるを得なかった。
   中国人は指導者の誕生日については関心が高く、性格から
  星座を推測するなど、長文を書いて論証する人さえいるほど
  だ。インターネットで、習近平主席の誕生日は「6月1日」
  と「6月15日」と2つの説が有力だが、それぞれ根拠があ
  り、どれを信じればいいのかわからない。しかし、李克強首
  相の誕生日が「1955年7月1日」であることははっきり
  している。それをばらしたのはインドのモディ首相である。
  2015年7月1日、モディ首相は自身のツイッターに「中
  国の李首相、お誕生日おめでとうございます」と書き込んだ
  ことが、インターネット上で話題となった。
                  https://bit.ly/2WCqc6u
  ───────────────────────────

トランプ大統領と習近平国家主席.jpg
トランプ大統領と習近平国家主席
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月31日

●「トランプ米大統領を甘く見た中国」(EJ第4938号)

 2018年になってトランプ米大統領から貿易戦争を仕掛けら
れたとき、中国は妙な高揚感を持っていたといいます。そのため
中国としては、次の3原則でこれに臨むと宣言しています。
─────────────────────────────
   1.たとえ相手がアメリカであっても何も恐れない
   2.米国のWTO違反に対する正義の防衛戦である
   3.全面戦争ではなく、貿易に限った局地戦である
─────────────────────────────
 この強気の対応のウラには、中国はトランプ大統領を一段低く
見下していたフシがあります。『習近平と米中衝突』の著者であ
る近藤大介氏は、米国を担当する中国の外交関係者の言葉として
中国の本音を次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 われわれが得ている情報によれば、トランプ大統領は、物事を
一人で決める傾向がある。トランプには団体という概念がない。
優秀なシンクタンクも活用しなければ周囲に専門家も置かない。
商人の手法そのもので、まず相手に大きく吹っかけてから、徐々
に値切っていくだけだ。
 トランプ政権はまた中国を深く研究しているように思えない。
それに対し、中国はアメリカを長期にわたって十分研究している
から、半分の力でアメリカに勝てるだろう。(中略)
 これが、ヒラリー・クリントン大統領だったら、大変なことに
なっていただろう。トランプは単純な商人だから、「商談」にな
る。最後はトランプが、前線に立つライトハイザーUSTR(米
通商代表部)代表をクビにして、幕引きを図るのではないか。
             近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 中国としては、米国に対して「2つのことを聞いてやったでは
ないか」という思いがあります。2つのことの1つは、「北朝鮮
を何とかしてくれ」といってきたことです。これに対し中国は、
国連制裁を守るだけでなく、厳しい独自制裁を北朝鮮に課して、
中国としては米国の要請に応えたつもりなのです。
 2つは、「貿易不均衡を何とかしてくれ」と要求してきたこと
です。これに対しては、2017年11月のトランプ大統領の訪
中のさい、十二分におもてなしをしたうえで、2535億ドル分
米製品を購入して応えている。習近平主席としては、米国の要求
は、これで終わりと考えていたのです。
 実際に、この米中貿易問題の担当者である劉鶴副首相は、その
とき、次のように主張しています。
─────────────────────────────
 昨年(2017年)11月にわれわれはアメリカから2535
億ドル分も購入した。あと何を買って欲しいというのか。両国の
貿易格差が縮まらないのは、中国がアメリカの先端技術を高く買
うと言っているのに、アメリカが許可しないからではないか。
                      ──劉鶴副首相
                  近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 これはかなり思い上がった考え方です。それは、中国政府がト
ランプ大統領を「商人」と見下し、甘く見ていた結果であるとい
えます。習近平主席は、中国をロシアが「プーチンのロシア」と
いわれているように「習近平の中国」と呼ばれるようにしたいと
考えているのです。そのため、国家主席の任期10年の規定を廃
止し、生きている限り国家主席を続けられる「永代資格」が必要
であると考えたのです。そんなとき、米国から貿易戦争を仕掛け
られたので、中国全体に妙な高揚感、「米国なにするものぞ」と
いう思いが高まっていたのです。
 しかし、人民解放軍は、米国の出方に不気味さを感じ取ってい
ました。2018年3月23日、トランプ大統領がホワイトハウ
スで対中貿易戦争の宣戦布告をしたほぼ同時刻に、米軍は「航行
の自由作戦」を敢行し、南シナ海南沙諸島の美済島の12海里内
にミサイル駆逐艦「マスティン」を進入させてきたからです。
 ある重大な発表をしたりするさいに、それに関連する重大な行
動を同時並行に起こさせるのは、トランプ大統領の常套手段であ
るといえます。2018年にアルゼンチンのブエノスアイレスで
の米中首脳会談の開催とほぼ同時刻に、カナダでファーウェイの
副会長を逮捕していたこともトランプ流です。
 同じことが昨日30日にも起きています。この日、ワシントン
で米中貿易戦争の閣僚級協議が開始されたのですが、その1日前
に、ファーウェイ孟副会長を起訴し、同副会長を逮捕しているカ
ナダ当局に対し、その身柄の引き渡しを求めたのです。米国は、
閣僚級協議とは一切関係ないといっていますが、協議の内容は知
的所有権に関するものであり、関係は大ありです。これがまさに
トランプ流といってよいと思います。
 「マスティン」の南シナ海南沙諸島進入に関して中国国防部は
任国強報道官によるメッセージを発表して、米国を非難していま
す。その要旨は次の通りです。
─────────────────────────────
 中国海軍は、570艦艇と514艦艇(共にミサイル・フリゲ
ート艦)を即刻、出動させ、「マスティン」に警告を発した。中
国は、南シナ海において、争いようのない主権を有していて、ア
メリカの行為は中国の主権と安全を厳重に損なうものだ。かつ海
空で思いがけない事件を引き起こすことになる。アメリカ軍の挑
発行為は、中国軍の国防建設をさらに強化するものにしかならな
い。              ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 このようなことから、中国の人民解放軍は、これら一連のトラ
ンプ政権の中国への圧力は、周到に計画されたものではないかと
考えはじめたのです。しかし、中国上層部の高揚感は続いていた
のです。       ──[米中ロ覇権争いの行方/019]

≪画像および関連情報≫
 ●中国が南シナ海で「戦争のリハーサル」
  ───────────────────────────
   中国空軍は2018年3月25日、SNSアカウントでの
  報道官声明を通じ、南シナ海で実戦訓練を行うと同時に、台
  湾北部の宮古海峡で偵察行動訓練を行ったと発表した。中国
  空軍の申進科報道官は、一連の訓練を「戦争準備のための演
  習」だと語っている。行われた時期は明らかにされていない
  が、23日の米海軍の「航行の自由作戦」など、西側諸国の
  軍事行動を意識しているのは明らかだ。中国側が「戦争」と
  いう言葉を明言したこともあり、主要海外メディアは一連の
  訓練や南シナ海情勢に警戒感を強めている。
   申報道官の声明によれば、南シナ海での“威力偵察作戦”
  には、最新鋭のH−6K戦略爆撃機、Su−35戦闘機も参
  加。中国のH−6K爆撃機は、アメリカ、ロシア以外の国で
  唯一長距離空対地ミサイル発射能力を持つ。APは、南シナ
  海からであれば「遠くオーストラリアまで射程に収める」と
  H−6Kが実戦訓練に参加したことの危険性を指摘する。
   沖縄本島と宮古島の間にある宮古海峡でもH−6KとSu
  30戦闘機による戦闘訓練が行われた模様だ。日本の防衛省
  は、23日に中国の爆撃機・戦闘機8機が宮古海峡を通過し
  たことを確認。航空自衛隊の戦闘機がスクランブル発進して
  いる。宮古海峡は日本にとって戦略的に重要であるばかりで
  はなく、台湾有事の際にも地政学的な鍵となるエリアだ。
                  https://bit.ly/2DHrLIJ
  ───────────────────────────

米ミサイル駆逐艦「マスティン」.jpg
米ミサイル駆逐艦「マスティン」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月30日

●「『奉陪到底』を貫く中国の対抗策」(EJ第4937号)

 米中貿易戦争が本格的に始まったのは、2018年7月からで
すが、その前哨戦は3月から始まっています。3月22日、午後
12時45分から13分間にわたって行われたトランプ大統領の
演説では、600億ドル(約6兆3000億円)もの中国製品に
高関税をかける制裁措置を行うというものだったのです。
 これを中国はどのように受け止めたのでしょうか。ここからは
中国サイドの視点に立って、トランプ政権のアクションをみてい
くことにします。著名な中国ウオッチャーの1人である近藤大介
氏の次の新刊書をベースにご紹介します。近藤大介氏は2009
年から2012年まで、講談社北京副社長を務めています。
─────────────────────────────
                      近藤大介著
  「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
                 NHK出版新書568
─────────────────────────────
 この時点では、中国は余裕綽々であったのです。このトランプ
演説について、精華大学中米関係研究センターの周世検研究員は
次のように批判しています。
─────────────────────────────
 まずトランプのネーミングが正しくない。何が「中国による経
済的侵略」だ。貿易というのは、損するけれどもやるなどという
商人はいない。年間5200億ドルの商品が中国からアメリカへ
流れているのは、中国が強制的にアメリカに押しつけているもの
ではなく、アメリカの商人がわざわざ中国までやって来て買って
いくのだ。かつ、貿易の3分の2は日用品であり、アメリカ人の
生活に足りないものを中国が補っているにすぎない。それを「経
済的侵略」などと言うのは、「胡説人道」(デタラメ)だ。
 トランプが見ているのは、中国との貿易ではなく、11月の中
間選挙だ。「オレはアメリカ人の利益を守るためなら、何でもや
る」とアピールしたいのだ。トランプは中間選挙で負けたらレイ
ムダックになり、2年後の再選は難しくなる。それでアメリカの
ためではなく、ただ私利私欲のために今回の暴挙を犯したのだ。
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 この時点でのこの主張は比較的真っ当なもので、日本のメディ
アでも同じような論調だったのです。このとき世界は、まだトラ
ンプ大統領を色眼鏡で見ており、特別関税なんか暴挙であって、
このまま貿易戦争が続けば、米国が敗者になるという見方が支配
的であったのです。
 ちょうどこのとき、ノーベル経済学賞受賞の経済学者、スティ
グリッツ教授が北京に滞在中であり、記者にコメントを求められ
次のように答えています。この映像が中国では、繰り返し、テレ
ビで流されたのです。
─────────────────────────────
 わが国が起こした不安と混乱について、世界に対してお詫び
 する。        ──ジョセフ・スティグリッツ教授
               ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 さらに、トランプ大統領の演説に対し、中国の崔天凱駐米大使
は、次の緊急声明を出しています。駐米大使がこういう声明を出
すのは、異例なことです。
─────────────────────────────
 われわれは、アメリカとの貿易戦争は戦いたくない。だが、貿
易戦争を恐れるものでもない。もしわが国に何者かが貿易戦争を
仕掛けてきたなら、必ずや戦う。「奉陪到底、看誰真正堅持到最
後」                  ──崔天凱駐米大使
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 声明の最後の「奉陪到底、看誰真正堅持到最後」とはどういう
意味でしょうか。
 これは「最後まで付き合ってやる。どちらが本当に最後まで持
ちこたえられるか見てみようではないか」という意味です。実は
1996年5月、米国が中国に報復関税をかけるといったときに
当時外交部報道官だった崔天凱氏は「平等協商解決」としかいえ
なかったのです。これは「平等に協議して解決しよう」という意
味になります。つまり、20年経って、米中の実力が大きく変化
したことのあらわれといえます。
 しかし、ここで注意すべきことがあります。それは米国が「不
正な経済行為」といっていることです。中国ウォッチャーの本か
らは、当然ではありますが、そういう言葉は一切出てこないので
す。ですから、一見中国のいっていることが正しく聞こえてしま
うところもあります。
 習近平主席の考えている経済政策というのは、国の支配下にあ
る国営企業を使って、政府の資金で安い製品を作り、輸出競争力
をつけ、世界中にばらまくというものです。これは、社会主義国
や全体主義国だからできることであって、トランプ大統領は「こ
れではフェアではない」といっているのです。
 つまり、トランプ大統領は、国際社会において大国として振る
舞うのであれば、中国の今の政治体制を改革すべきであると暗に
求めているのです。少なくともそのことに中国の首脳たちは気が
付いていないと思います。この時点で中国は、貿易戦争はトラン
プ大統領が中間選挙目当てのパフォーマンスと捉えていたフシが
ありますが、それは大きな間違いであることがやがてわかること
になります。
 中国も米国と本気でやり合うのは本意ではなかったのです。し
かし、3月16日に米国が「台湾旅行法」に署名したことによっ
て、「奉陪到底」を決めたのです。台湾問題は中国最大の核心的
利益であり、米台間の高位級の交流を促すこの法案は、中国とし
ては絶対に受け入れられないものだからです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/018]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の済学者「勝ち目なく壊滅的」
  ───────────────────────────
   米中両国の事務レベル貿易協議が22日から米国で開かれ
  る予定だが、双方の主張は依然として隔たりが大きく、摩擦
  解消につながるかは不透明だ。今春に始まった米中貿易戦争
  は、すでに中国経済にダメージを与え始めた。「中国に勝ち
  目はなく、はやく失敗を認めて、事態を収束すべきだ」との
  厳しい見方も中国国内でくすぶっている。
   2期目の習近平政権が発足した直後の3月23日、中国商
  務省は米国による鉄鋼・アルミ製品への追加関税措置への報
  復として、128品目の米国製品に対し追加関税を課すと発
  表。問題がエスカレートした。
   中国の官製メディアは「われわれはいかなる戦争も恐れて
  いない」と強気な姿勢を崩していない。ただ、対米輸出に依
  存している中国経済が米国と全面対決することは「無謀な戦
  い」とみる投資家も少なくなく、中国の金融マーケットは敏
  感に反応した。
   株式市場では3300ポイント前後だった上海総合指数が
  3月末から下落し、8月中旬には2600ポイントと約20
  %も下げた。人民元の為替相場も対ドルで10%近く急落し
  た。中国は近年、経済成長率が前年比6〜7%で推移してい
  る。為替相場が下落すれば、輸入コストが大幅アップするな
  ど、成長率を押し下げる要因になる。「中華民族の偉大なる
  復興」とのスローガンを掲げ、経済規模で米国を追い越すこ
  とを夢みる習政権にとって、打撃は大きい。
                  https://bit.ly/2HxfaM9
  ───────────────────────────

スティグリッツ教授.jpg
スティグリッツ教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月29日

●「世界第2位経済大国の正体に迫る」(EJ第4936号)

 米国のトランプ政権から貿易戦争を仕掛けられて、それを習近
平政権の中国が昂然と受けて立ったのは明らかに失敗です。なぜ
なら、中国経済の実態が米国に対する輸出に過度に依存している
経済であるからです。これについて、日高義樹氏は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 中国経済は、アメリカに対する輸出に一方的に依存している。
2017年、中国製品の世界に対する全輸出の実に3分の2以上
88パーセントがアメリカ向けであった。中国は、2017年、
アメリカから2758億ドル、概算すると30兆円以上の貿易黒
字を手にした。そういったアメリカに対して貿易戦争を続けられ
るはずがない。中国がアメリカから買っている食料や石油はいわ
ば戦略的物資である。中国としては国家の存立のために買わざる
をえない必需品であり、貿易戦争の対象にはなり得ない。
                ──日高義樹著/徳間書店刊
        「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
─────────────────────────────
 中国は、米国に次ぐ世界第2位の経済大国です。それでいて発
展途上国でもあるのです。この現状認識を中国の習近平国家主席
は持っていないと日高義樹氏はいいます。つまり、現状認識に欠
けているのです。習近平国家主席は、よく米国との「2大大国時
代」を口にしますが、そのこと自体が認識の欠如です。
 なぜ、中国は発展途上国なのかというと、それはたくさん上げ
ることができます。国内のインフラストラクチャーは整備されて
おらず、国民生活の格差は拡大する一方です。当然そこに湧き上
がってくる国民の不満や反感を習近平主席は、独裁体制を基盤に
力で押し潰しているのです。
 それに経済大国といっても、それはGDPが米国に次いで第2
位だからであり、肝心の経済の実体には大きな問題がいくつもあ
るのです。とくに1人当たりの国民所得でいうと、中国は、20
15年は72位、7990ドルに過ぎないのです。以下に、20
15年度のG7の順位を示します。世界第3位の経済大国である
日本は、G7中第6位、世界順位第24位と低迷しています。
─────────────────────────────
     ◎G7における一人当たりGDP/2015
        順位      国名    米ドル
        5位    アメリカ  55805
       13位    イギリス  43771
       16位     カナダ  43332
       18位     ドイツ  40997
       20位    フランス  37675
       24位      日本  32486
       25位    イタリア  29867
       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
       72位      中国   7990
              https://bit.ly/2sLvX3S
─────────────────────────────
 今回の米中貿易戦争で、中国の失うものはあまりにも大きいと
いえます。その失うもののなかでも大きいのは、中国は米国が主
張する不正な経済活動で米国から得ている年間5000億ドルの
資金(貿易黒字)が今後得られなくなることです。しかし、中国
は米国との交渉において、米国との貿易収支の幅をどれだけ狭め
ればよいかを考えているレベルであり、中国の指導者が事態の深
刻さに気が付いていないフシがあります。このことについて、日
高義樹氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 習近平と中国政府の致命的な失敗は、新しい事態が生じた際の
プランB、つまり対応策を考えていなかったことである。経済拡
大に邁進するだけで、経済拡大の停止という状況が起きた場合の
プランBを考えておかなかった。私のハドソン研究所の友人はこ
う言っている。
 「中国政府はアメリカから際限なくドルが入ってこなくなった
場合、国民をどう納得させるか、まったく考えていなかった」
 習近平が、国民の不満を押さえつけて納得させる手段は、独裁
体制と言論弾圧を強化すること、侵略的な対外政策で、国民の目
を外にそらすことであった。だがそうした手段を取り続けるため
にも、アメリカからの湯水の如き貿易黒字という収入が必要なの
である。            ──日高義樹著/徳間書店刊
        「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
─────────────────────────────
 どうして中国はこの深刻な事態に気が付かないのでしょうか。
それは、現トランプ大統領の前の3人の米国の大統領──クリン
トン、ブッシュ、オバマの3人の大統領の判断の誤りにあったと
いえます。
 その判断ミスとは、中国経済は巨大であり、米国経済や世界経
済が発展するために必要不可欠なものであるが、もし崩壊すると
その影響は計り知れないほど大きくなり、米国経済を直撃すると
考えて、中国の不正な経済活動に目をつぶったことです。それに
中国が経済的に発展すれば、政治体制が変わり、やがて民主主義
国家に変貌すると予測したことです。
 ここでいう不正な経済活動とは、「米国経済の高価な首飾り」
といわれる先端技術やパテントを、スパイ活動やサイバー技術を
悪用して盗み、それを国営企業に与えて大量な製品を作り、それ
を当の米国に売るということを指しています。
 トランプ大統領が決断した今回の貿易戦争は、そういう不正な
行為を絶対に許さないという意思のあらわれです。これについて
日高義樹氏は、興味ある言葉で表現しています。「少数の人間を
長いあいだだますこと、大勢の人間を短い間だますことはできる
が、大勢の人間を長いあいだだますことは出来ない」と。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/017]

≪画像および関連情報≫
 ●中国・国有企業「3兆円不正」の証拠を公開!
  ───────────────────────────
   2017年7月14日と15日、北京で全国金融活動会議
  が開かれた。共産党大会直前に、主な幹部が全員出席して行
  われた5年に一度の金融分野での重要会議だ。
   習近平主席が長い演説を行った初日の会議終了後に、異変
  は起こった。中国共産党序列14位の孫政才・重慶市党委書
  記(53歳)が突然、身柄を拘束されたのである。現役の中
  央政治局委員(トップ25)であり、今秋の第19回共産党
  大会で習近平主席の後継者になるとも目されていた幹部が、
  引っ捕らえられたことで金融問題の会議どころではなくなっ
  てしまった。ある北京の経済官僚が明かす。
   「党中央(習主席)に逆らうと、恐ろしい報復が待ってい
  る」ことを見せつけたのだ。先日も共産党の学習会の席で、
  習主席の最大の経済ブレーンである劉鶴・中央財経指導小グ
  ループ主任の最新の訓示が配られ、そこにはこう書かれてい
  た。「中国に純粋な経済学などない。あるのは政治経済学の
  みだ。習近平総書記を核心とする党中央が指導する経済学に
  従うことこそが、国務院(中央官庁)と国有企業に課せられ
  た重大な使命である」
   昨年11月には、「お上ではなく市場を見て仕事しろ」と
  常々言っていた楼継偉財政部長(財務相)が突然、閑職に追
  いやられた。国有企業の経営者たちは、党中央に従わないと
  たちまち「腐敗分子」のレッテルを貼られて逮捕される。つ
  いこの間も国有企業18社が、見せしめに遭ったばかりだ」
                  https://bit.ly/2SeWUvr
  ───────────────────────────

習近平国家主席.jpg

習近平国家主席
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月28日

●「米国はなぜ貿易戦争を仕掛けたか」(EJ第4935号)

 トランプ大統領は、毀誉褒貶相半ばする人物です。よくいう人
もいれば、悪くいう人もいます。単純な人間という人もいます。
たとえば、米中貿易戦争では、米国が中国との貿易でこうむって
いる赤字はけしからんとして「特別関税」をかける──ずい分乱
暴な措置のように見えます。企業家は赤字が嫌いなので、貿易赤
字に過剰に反応しているという人もいます。
 しかし、トランプ大統領の対中国政策はなかなかスジが通って
います。日高義樹氏は、特別関税に関して、海兵隊出身のある財
界人の次の言葉を紹介しています。
─────────────────────────────
 特別関税をかけるというトランプ大統領の真意は、中国が不正
な貿易で貯め込んでいる資金を使って、人権を無視した全体主義
的な侵略政策を、近隣の国々に及ぼすのを阻止することだ。トラ
ンプ大統領はアメリカに対する輸出で稼いだ資金を、不法な目的
のために使っている中国に、心底ハラを立てている。
                ──日高義樹著/徳間書店刊
        「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
─────────────────────────────
 2018年にそれははじまったのです。2018年のはじめに
米国防総省とCIAは、トランプ大統領に「中国製造2015」
に関する報告を行っています。中国が2015年までに、あらゆ
る先端技術で米国に追い付くという計画です。
 中国が米国との貿易で得ている貿易黒字は年間およそ5000
億ドルです。トランプ大統領は、この5000億ドルが、全体主
義的な非人道的な侵略政策を推し進めるために使われているとみ
ています。
 それに加えて、2018年4月の全国人民代表大会における習
近平主席による次の演説です。この大会は、李克強首相を始めと
する国家機関指導者や閣僚たちがこぞって「習近平『新時代』」
と叫ぶ異様な雰囲気に包まれていたといいます。
─────────────────────────────
 中国の社会主義は「新時代」に入った。今世紀半ばまでに、中
国は、米国と肩を並べる「社会主義近代化強国」を建設する。
                    ──習近平国家主席
                  https://bit.ly/2R9TpBF
─────────────────────────────
 「中国製造2025」と習近平主席のこの演説によって、トラ
ンプ大統領の怒りは頂点に達し、米中貿易戦争は開始されたので
す。トランプ大統領の対中国戦略は、特別関税だけが目立って見
えますが、基本的には次の2つの柱があるのです。
─────────────────────────────
◎国家戦略第1:
 中国経済の基本になっている、国営企業のアメリカ進出を禁止
することだった。2018年6月26日、トランプ大統領は国家
緊急経済防衛政策を発動し、中国政府が25%以上の資金を出し
ている中国の国営企業のアメリカ進出を禁止した。
◎国家戦略第2:
 中国の国営企業だけでなく、中国の民間企業が、アメリカに投
資するさい、これまでは商務省や国務省の認可だけでよかったも
のを、新しくCIAなどの審査を必要とする仕組みに変えること
だった。            ──日高義樹著の前掲書より
─────────────────────────────
 上記国家戦略に基づき、トランプ政権は、「対米投資監視委員
会」を設置しています。この委員会には、商務省、国務省、CI
Aが担当します。CIAが加わっているのは、安全保障上の観点
からの監視が必要であると考えているからです。
 また、米国の企業が中国で投資するさいにも、この監視委員会
の審査が必要になったのです。これまで、米国の企業が中国に進
出すると、必ず中国企業との合弁のかたちで共同経営の仕組みを
とらされ、先端技術の無料での提供を余儀なくさせられてきたか
らです。
 このように、トランプ政権は基本的に必要な手を打ったうえで
2018年7月6日、午前0時1分(米国東部時間)、対中制裁
関税を発動したのです。これに対して習近平主席が率いる中国は
居丈高に戦う姿勢を示したのです。
 このとき、習近平主席は、全国人民代表大会において、中国の
憲法第79条「国家主席の任期は二期、10年を超えてはならな
い」という規定を削除させ、事実上の「終身主席」の地位を手に
入れて4ヶ月しか経っておらず、米国に対して弱気の姿勢を見せ
るわけにはいかなかったのです。そこで、同日午後0時5分(北
京時間)中国商務部の報道官は次の談話を発表しています。
─────────────────────────────
 アメリカはWTOの規則に違反し、今日までの経済史上最大規
模の貿易戦争を発動した。この種の追加関税行為は典型的な貿易
覇権主義であり、まさに全世界の産業と価値のチェーンの安全を
著しく脅かすものである。また、世界経済の復興の足踏みを阻害
するものであり、世界の市場に動揺を引き起こすものであり、世
界のさらに多くの無辜の多国籍企業と一般企業、消費者に波及す
るものであり、アメリカの企業と国民の助けにならないばかりか
彼らの利益をも損なうものだ。中国側は、先制攻撃はしないとし
た。だが国家の核心的利益と国民の利益を断固として守るため、
必要な反撃に出ざるを得ない。        ──近藤大介著
    『習近平と米中衝突/「中華帝国」2021年の野望』
                   NHK出版新書568
─────────────────────────────
 このとき習近平国家主席は、いささか気分が高揚しており、米
国何するものぞと考えていたようです。中国人民日報社が発行す
る国際紙『環境時報』では、「ワシントンの貿易覇権主義は必ず
敗れる」と題する勇ましい記事を掲載しています。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/016]

≪画像および関連情報≫
 ●米中貿易戦争/いま中国で起きている「ヤバすぎる現実」
  ───────────────────────────
   米トランプ政権が、中国製品に関税をかけたり、中国から
  の投資に規制をかけようとしたりと、「なりふり構わぬ」格
  好で、中国を潰しにかかっています。なぜトランプ政権が、
  このような行為に及ぶのかと言えば、それは「未来の中国年
  表」を見ると一目瞭然です。「未来の中国年表」とは、「人
  口はウソをつかない」をモットーに、人口動態から中国の行
  く末を予測したものです。
   現在の米中両大国の人口を比較すると、中国は、アメリカ
  の約4・2倍の人口を擁しています。経済規模(GDP)に
  ついては、2017年の時点で、63・2%まで追い上げて
  います。このペースで行くと、2023年から2027年の
  間に、中国はアメリカを抜いて、世界ナンバー1の経済大国
  となるのです。
   先端技術分野に関しては、アメリカにとってさらに深刻で
  す。国連の世界知的所有権機関(WIPO)によれば、各国
  の先端技術の指標となる国際特許出願件数(2017年)は
  1位がアメリカで5万6624件ですが、2位は中国で4万
  8882件と肉薄しています。しかも企業別に見ると、1位
  が中国のファーウェイで、4024件、2位も中国のZTE
  で2965件。3位にようやくアメリカのインテルが来て、
  2637件となっています。トランプ政権がファーウェイと
  ZTEの2社を目の敵にしているのも、アメリカの焦燥感の
  表れなのです。         https://bit.ly/2wjm67H
  ───────────────────────────

トランプ米大統領.jpg
トランプ米大統領

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月25日

●「米中貿易戦争で落ち込む中国経済」(EJ第4934豪)

 米国から貿易戦争を仕掛けられて、中国人民中央銀行と国家財
政当局が衝突し、習近平政権は、収拾のつかない政策的な混乱に
陥っているといわれます。
 中国の経済政策の中心は、対米貿易の拡大です。そのため、財
政当局としては、人民元を引き下げ、金融を緩和して輸出を一層
拡大させようとします。
 これによって、中国税関総署が昨年12月8日に発表した貿易
統計によると、11月の対米貿易黒字は、前年同月比27・6%
増の355億ドル(約4兆円)で、単月の黒字額で過去最高を更
新しています。このように、中国にとって対米貿易の拡大は、ド
ル箱そのものだったのです。
 しかし、それが米国による関税引き上げによって、米国からの
資金源がまったく閉ざされてしまったのですから、中国の財政当
局としては混乱するのは当然です。米国のトランプ政権としては
中国の経済成長にブレーキをかけることによって、結果としてそ
の危険な覇権主義を抑えることになると判断し、貿易戦争を仕掛
けたのです。
 中国の政策当局者は、表面上は平静を装って次のように述べて
いますが、内心は相当焦っていたのです。
─────────────────────────────
 中国経済の伸びは現在年間GDPで6・7パーセントである。
アメリカとの貿易がうまくいかなくなったとしても、0・3パー
セントほど伸び率が減ることになるが、中国経済が大きな打撃を
受けることはない。          ──中国の政策当局者
                ──日高義樹著/徳間書店刊
        「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
─────────────────────────────
 米国の中国に対する2018年の貿易戦争は、追加関税措置が
開始される7月以前から始まっていたのです。そして7月6日、
米国は、中国から輸入される818品目に対して340億ドル規
模の追加関税を発表し、中国側も同規模の報復関税を発動して本
格的な貿易戦争が始まったのです。結局、米中の貿易戦争は1年
続いているのです。これによる中国経済の減速が明らかになりつ
つありますが、その減速スピートが予想以上のものであることが
わかってきています。その予想を上回る減速について、ジャーナ
リストの山田順氏は、次のように書いています。
─────────────────────────────
 中国汽車工業協会が3019年1月14日に発表した2018
年度の新車販売台数では、28年ぶりに前年比でマイナスに転じ
ました。2017年比2・8%減で、約2800万台。数字的に
は大したことがないように思えますが、消費の落ち込みが原因で
すから、その影響ははかりしれません。
 この中国の消費市場の落ち込みをさらに裏付けたのが、17日
に日本電産が発表した19年3月期の業績予想の下方修正です。
日本電産の永守重信会長はこう言いました。「昨年11、12月
は経験したことがない落ち込み。46年間経営しているが、こん
なに落ちたのは初めてだ」
 この発言で、日本の産業界に衝撃が走りました。日本電産は中
国で自動車や白物家電向けのモーターを提供しています。その生
産が30〜40%も落ち込み、工場は在庫の山になったというの
です。日本電産と同じく下方修正を発表したのが安川電機で、こ
ちらはスマホ向け製造装置の生産が大きく落ち込んだのが原因で
す。「世界の工場」とされてきた中国ですが、消費の落ち込みと
ともに、工場の稼働率が落ち、大不況に見舞われていると言って
いいのです。            https://bit.ly/2FJike7
─────────────────────────────
 日本電産の永守重信会長は「炭鉱のカナリア」の異名を持つ人
です。危険を察知すると、素早く知らせてくれます。その永守会
長が中国経済の落ち込みは予想以上で、「リーマン級もある」と
予測しています。
 現在トランプ政権は、メキシコ国境の壁の問題で民主党と対立
していますが、こと中国に関しては、民主党も一枚岩であるとい
われています。ジャーナリストの山田順氏によると、民主党のナ
ンシー・ペロシ下院議長は筋金入りの「中国嫌い」で知られてお
り、ブッシュ政権時代に「北京五輪をボイコットせよ」と主張し
たくらいです。したがって、中国叩きなら議会は問題なく、一致
団結できるのです。
 つまり、中国が約40年にわたって経済の拡大を続けてこられ
たのは、米国経済のおかげなのです。米国としても中国が経済発
展すれば、民主国家になると予測して支援してきたのですが、経
済力を利用して覇権を求めるようになったので、その経済力その
ものを弱体化させようとして貿易戦争を起こしたといえます。
 中国の経済は明らかにバブルであるといえます。この状態でも
し米国からの資金が入ってこなくなると、バブルは崩壊すること
になります。しかし、中国は社会主義国ですから、かつてのソ連
がそうであったように、民主国家ではできない、いろいろな方策
を講ずることができますが、崩壊は時間の問題です。
 現在の中国の経済の現況について、日高義樹氏は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 中国経済がバブルであるという事実は、40兆ドル以上の莫大
な借金を抱え込んでいることに示されている。この40兆ドルと
いうのは、中国のGDPのおよそ4倍にあたる。
 中国の人々は、いわば借金の二日酔いの中で暮らしているよう
なものだ。銀行は政府の命じるまま、担保なしで貸し出しを続け
ている。いっぽう政府は、土地不動産の価格崩れを防ぐために、
一般の人々の土地や住宅の売買を禁止している。
                ──日高義樹著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/015]

≪画像および関連情報≫
 ●米中貿易戦争/いま中国で起きている「ヤバすぎる現実」
  ───────────────────────────
   米トランプ政権が、中国製品に関税をかけたり、中国から
  の投資に規制をかけようとしたりと、「なりふり構わぬ」格
  好で、中国を潰しにかかっています。
   なぜトランプ政権が、このような行為に及ぶのかと言えば
  それは「未来の中国年表」を見ると一目瞭然です。「未来の
  中国年表」とは、「人口はウソをつかない」をモットーに、
  人口動態から中国の行く末を予測したものです。現在の米中
  両大国の人口を比較すると、中国は、アメリカの約4・2倍
  の人口を擁しています。経済規模(GDP)については20
  17年の時点で、63・2%まで追い上げています。このペ
  ースで行くと、2023年から2027年の間に、中国はア
  メリカを抜いて、世界ナンバー1の経済大国となるのです。
   先端技術分野に関しては、アメリカにとってさらに深刻で
  す。国連の世界知的所有権機関(WIPO)によれば、各国
  の先端技術の指標となる国際特許出願件数(2017年)は
  1位がアメリカで5万6624件ですが、2位は中国で4万
  8882件と肉薄しています。
   しかも、企業別に見ると、1位が中国のファーウェイ(華
  為)で4024件、2位も中国のZTEで2965件。3位
  にようやくアメリカのインテルが来て2637件となってい
  ます。トランプ政権がファーウェイとZTEの2社を目の敵
  にしているのも、アメリカの焦燥感の表れなのです。
                  https://bit.ly/2wjm67H
  ───────────────────────────

日高義樹氏.jpg
日高義樹氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
RDF Site Summary