2009年11月10日

●「ウィニーと似ているライブメッシュ」(EJ第2691号)

 マイクロソフト社の最新の技術「ライブメッシュ」の説明の続
きです。一般論として、複数の人でデータを共有するときどうす
るでしょうか。
 どこかのサーバーにデータを預けて、それにさまざまな場所か
らアクセスするというかたちになると思います。いわゆる集中管
理方式です。グーグル・ドキュメントはこの方式を採用している
のです。
 しかし、集中管理方式には難点があります。それはアクセスの
過度の集中です。とくに無料でワープロや表計算ソフトが使える
となると、常態的にアクセスが殺到するのは当然であり、いかに
パンクを防ぐかが大きな課題になります。現実的にグーグル・ド
キュメントには、過度のアクセス集中によるトラブルやデータ共
有において多くの問題が発生しているのです。
 ところで、昨日のEJで述べたように、ライブメッシュはデー
タ共有ソフト、ウィニーと大変よく似ているのです。データを単
純にサーバーに集めるのではなく、各自のPCにデータを分散し
て持ってもらい、あるデータを欲しい人は、そのデータを持って
いる近くのPCに取りに行く方式なのです。といっても、この説
明では、イメージが描けないと思います。
 ウィニーの場合、ユーザーのPCのハードディスクの一部を共
有エリアとして設定し、ネット上でそれらの共有エリアを連結し
巨大な共有ハードディスクを構築するのです。
 この場合、ユーザーは自分が共有しようと思うデータ──ウィ
ニーの場合は音楽データや映像データなど──そういうデータを
自分のPCのハードディスクに設定した共有エリアにコピーする
だけでよいのです。
 どのようなデータがどこにあるのか──これはユーザー同士で
は検索すればわかるようになっているので、それを取りに行くこ
とができるのです。それが音楽のデータであれば、その音楽をユ
ーザー同士で共有できるわけです。もちろん無料です。
 このウィニーの最大の欠陥は、公開してよいデータと公開した
くないデータを厳然と切り分けることができなかった点にあるの
です。たとえば、あるウィニーのユーザーが自分のPCのハード
ディスクの共有エリアに音楽データを置いたとします。
 しかし、そのPCのハードディスクには仕事用の重要情報がた
くさん入っており、当然のことながら、これらのデータは非共有
エリアにあったのです。
 ところが共有エリアと非共有エリアの切り分けがきちんとでき
ず、ハードディスクのすべてのデータが公開情報として外部に流
出してしまったのです。この場合、いったんデータが流出してし
まうと、それは不特定多数のウィニー・ユーザーに流通してしま
い、取り返しがつかないことになります。
 このウィニーによって代表される通信とデータの流通のシステ
ムは、「P2P/ピア・ツウ・ピア」と呼ばれ、ライブメッシュ
はこの仕組みを採用しているのです。
 しかし、ライブメッシュの場合は、共有されるのは「自分が指
定した機器同士」の「自分が指定したデータ」だけであり、ウィ
ニーのように不特定多数と共有されるわけではないのです。
 ライブメッシュの場合、一見ローカルにデータがあるようにみ
えて、実はネットにつながっているのです。つまり、ローカルと
ネットとの境目がなくなっているので、これがマイクロソフト社
のいう「壁のない世界」ということになるわけです。
 ところで、データ共有のやり方として、グーグル・ドキュメン
トのような集中管理方式とライブメッシュのようなピア・ツウ・
ピア方式の2つがあるのですが、これはLAN――ローカル・エ
リア・ネットワークの次の2つの方式に対応しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.クライアント/サーバー方式
      2.   ピア・ツウ・ピア方式
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここまでマイクロソフト社の「ウインドウズ・アジュール」と
「ライブメッシュ」という2つの技術について説明してきました
が、これら2つの技術がいわゆるクラウド・コンピューティング
の基礎になるものです。イメージが描けるように、2つの技術を
整理しておくことにします。
 オフィス14ではじめて登場するウェブ・アプリ版オフィスは
ウインドウズ・アジュール上で動作します。ユーザーは、ブラウ
ザ──マイクロソフト社のインターネット・エクスプローラだけ
でなくアップルのサファリやその他のブラウザでもOK──を通
じて、オフィスを操作することになります。
 この場合、ウインドウズ・アジュールは登録ユーザーがどのソ
フトのどの機能をどれだけの時間使ったかを管理します。今のと
ころマイクロソフト社は発表していませんが、当面はウェブ・ア
プリ版オフィスは無料で使えるようです。しかし、近い将来ユー
ザーがオフィスを使った分だけ料金を請求するスタイルになると
思われます。これを「SaaS/サース」というのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      SaaS/Software as a Service
―――――――――――――――――――――――――――――
 一方、これに加えてマイクロソフト社は、とくにメールなどを
中心に指定した機種間においてデータを「同期」するサービスを
展開します。例えば、自宅のPC、携帯電話、マイクロソフト社
のサーバーの三者の特定データをつねに同じに保つのです。これ
により、ユーザーがどこにいても携帯電話で着信メールを確認し
たりエクセル・データを参照したりできることになります。これ
を可能にしているのが、「ライブメッシュ」です。
 アップル社でも、アイフォーンと自宅PCの特定データを同期
する「モバイル・ミー」という有料サービスを実施しています。
今や情報の入手は場所を選ばないのです。
        ――[クラウド・コンピューティング/19]


≪画像および関連情報≫
 ●「SaaS」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ソフトウェアをネットワーク経由でサービスとして提供する
  事自体は、ASPとして、従来より行われている。有料の電
  子メールサービス、各種の検索サービス、オンラインゲーム
  などである。1999年に設立された米国のセールス・フォ
  ース・コムは、「SaaS」を提唱し、SaaS専業ベンダ
  ーとして、従来はパッケージ販売される事が多かったCRM
  ソフトウェアのSaaSによる提供を開始した。2006年
  には「クラウド・コンピューティング」という言葉が普及し
  SaaSはその一形態と呼ばれるようになった。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図出典
   http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20060315/232609/

ウィニーにおける検索の仕組み.jpg
ウィニーにおける検索の仕組み
posted by 平野 浩 at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月09日

●「登録機器のデータを同期する技術」(EJ第2690号)

 既に述べたように、ライブメッシュは、「データをネット上に
置く」ための技術です。オフィス14もこの技術を基盤のひとつ
として使っており、両者は非常に密接な関係にあります。マイク
ロソフト社がどのような目的でライブメッシュを開発したのかに
ついて考えてみることにします。
 グーグルの「Gメール」というサービスがあります。2004
年4月から始まっていますが、マイクロソフト社の「ホットメー
ル」、ヤフーの「ヤフーメール」よりも後発でありながら、現在
ではそれらをしのいで、大きく普及しています。
 ホットメールやヤフーメールは、「ウェブメール」と呼ばれて
います。Gメールももちろんウェブメールです。ウェブメールは
専用のメールソフトを利用せず、複雑な設定作業がなく、しかも
無料で使えるので、人気を集めてきたのです。
 たとえば、旅行者がインターネット・カフェやホテルなどの共
用PCを使ってメールをやりとりできることから幅広く使われて
きたのです。しかし、グーグルの進出に対して、既に寡占状態に
あるウェブメールの市場に莫大な資本を投入して参入する意義が
あるかどうか疑問視する声が多かったのです。
 そのとき多くの人は、ウェブメールを外出時などの「補助的な
メール」として使っていたのです。しかし、Gメールはユーザー
それぞれに大容量の保存エリアを与えるなど、他のウェブメール
サービスと違うところが多かったので、後発でありながら、多く
のユーザーを獲得するにいたったのです。なかにはGメールを自
分のメインのメールサービスとして使うユーザーも増えてきてお
り、まさにグーグルの狙い通りです。そういう意味でGメールは
「ローカルからウェブへ」の転換を促す格好のツールとなったの
です。Gメールは現在次のように評価されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (Gメールは)パソコンとインターネットの未来を決定づけた
 「画期的サービス」(である)      ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 今までPCユーザーは、メールをはじめとするあらゆるデータ
をローカル、すなわちハードディスクに保存してきたのです。し
かし、データをローカルに保存すると不便なことが多いのです。
 まず、ハードディスクの容量の問題があります。すべてのデー
タを残しておこうと考えると、ハードディスクの容量を無限に増
やしていく必要があります。これにはコストがかかるのです。
 続いて安全性の問題があります。もし、PCのハードディスク
が壊れたら多くの場合、データは失われます。そうかといって、
他のPCのハードディスクなり、CDなどにバックアップ保存す
る方法は、現実的な方法とはいえないのです。
 もうひとつの問題はデータをPCのハードディスクに保存する
場合は、そのデータを見たり、編集したり、データを作るときは
そのPCでやらなければならないということです。例えば、外出
時にPCに届いたメールを見ることはできないし、もちろんメー
ルを発信することもできないのです。
 しかし、Gメールのようにメールデータをウェブに預けると、
どこでも他のPC、アイフォーンなどのスマートフォン、携帯電
話などのネットにつながる機器で見ることができます。
 そこでマイクロソフト社は、メールだけでなく、PCで扱うす
べてのデータをウェブ上に置いて使うプラットフォームを作る必
要に迫られたのです。それが「ライブメッシュ」というかたちで
実現を見たわけです。
 しかし、「データをネット上に置く」といっても、グーグル・
ドキュメントとライブメッシュとはそのポリシーがかなり異なる
のです。その違いについて説明しましょう。
 グーグル・ドキュメントでは、それを使って作成したデータは
グーグルが預かっています。それをさまざまな場所から見て、編
集するというかたちになります。つまり、データの原本はグーグ
ルの手元にあると考えるとわかりやすいと思います。
 しかし、既出の西田宗千佳氏はライブメッシュを次のように定
義しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ライブメッシュは複数のパソコンや携帯電話の間で、データを
 「同期」するサービス。それぞれのパソコンや携帯電話が持っ
 ているデータを、常に「同じ状態に保つ」、という仕組みが中
 核となっている。            ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 どういうことかというと、データがウェブ上にあるので、ネッ
トPCを含むどのPCでも、スマートフォンでも、携帯電話でも
データを見ることはもちろんのこと、データを編集したり、作成
することもできるのです。
 ライブメッシュは、それぞれのデータを常に同期して、同じ状
態にしてくれるのです。この場合、ライブメッシュでは元データ
――すなわち原本という概念はなく、原本と同じものが分散して
いるのです。つまり、データを作成・編集しているのはあくまで
それぞれの機器の中にあるデータなのです。
 これに対してグーグルの場合は大変わかりやすいのです。それ
はグーグルのサーバーにすべてのデータを預かるからです。これ
はいわばデータの原本であり、それをいろいろな機器から見たり
編集したり、作成したりするが、あくまで原本はグーグルのサー
バーの中にあるのです。
 しかし、この方法は相当のリスクを伴うのです。データを集中
させると必ずパンクの原因になるからです。実際問題として、G
メールは何回かパンクしているのです。
 これに対して、ライブメッシュの場合は、あの悪名高き「ウィ
ニー」のようなシステムをベースにしているのです。詳しくは明
日のEJで述べます。[クラウド・コンピューティング/18]


≪画像および関連情報≫
 ●「ウイニー」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ウィニーは、マイクロソフト・ウインドウズで動作するP2
  P技術を利用したファイル共有ソフトである。ウィニーは、
  ファイル共有に中央サーバーを必要としないピュアP2P方
  式で動作する。それ以前のいわゆる「P2Pファイル交換ソ
  フト」では、各クライアントの情報をサーバーに集積する様
  式(ハイブリッドP2Pモデル)が主流であったため、サー
  バー非稼動時には利用できないという問題を抱えていた。そ
  の意味でウィニーはシステム上の障害に対して非常に強く、
  一度稼働を始めたネットワークは止められないことが特徴で
  ある。               ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ライブメッシュを伝えるニュース.jpg
ライブメッシュを伝えるニュース
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月06日

●「ウインドウズ・アジュールとは何か」(EJ第2689号)

 昨日のEJで取り上げたマイクロソフト社の2つの新技術――
「ウインドウズ・アジュール」と「ライブメッシュ」について、
もう少し詳しく説明することにします。
 何のための技術かというと、一言でいうと「クラウドのための
先端技術」ということになります。「クラウド」というのは、ク
ラウド・コンピューティングのことですが、これは今回のテーマ
そのものであり、これについては改めて詳しく説明します。
 ウインドウズ・アジュール――これはいわば「クラウド内に存
在するウインドウズOS」なのです。ネット上で動く「ウェブ・
アプリ版/ウインドウズ14」は、このウインドウズ・アジュー
ル上で動作するのです。
 マイクロソフト社は、数年前から温めてきた「ソフトウエア+
サービス」というキーワードを今回強く打ち出したかたちですが
これはグーグル社の動き見ての対応策であると考えられます。
 注目すべきは、マイクロソフト社がこの技術を打ち出した場が
「PDC2008」であるという点です。PDC2008とは、
何を目的とするものなのでしょうか。「PDC」というのは次の
ことを意味しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   Professional Developers Conference 2008(PDC 2008)
  ―― マイクロソフトの開発者向けカンファレンス ――
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソフトウェアというものは特定のOSの環境下で動作します。
それはOSに合わせてソフトウェアを開発するからです。マイク
ロソフト社としては、ウインドウズベースのソフトウェアを作る
開発業者を増やす必要があります。もちろんローカルのOS市場
を制しているマイクロソフト社には当然多くのソフトウェアの開
発業者が存在します。そういうソフトウェア開発者の会議がPD
Cなのです。
 ローカル市場でのマイクロソフト社の優位は、主戦場がウェブ
に移ると事情が一変するのです。ウェブに移るということは、主
戦場がサーバーになるということを意味しています。つまり、サ
ーバーOSの競合がはじまっているということです。
 もちろん現在のところサーバーOSの世界でも、マイクロソフ
ト社は優位を保っています。2008年第2四半期におけるサー
バーOSの世界シェアは次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ウインドウズ ・・・・・ 36.5 %
    ユニックス  ・・・・・ 32.7 %
    リナックス  ・・・・・ 13.4 %
    zOS    ・・・・・ 11.8 %
    その他    ・・・・・  5.6 %
                     ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 以上のサーバー用OSの世界シェアで焦点の当たっているのは
第3位の「リナックス」なのです。これは基本的には無償のOS
であり、ウインドウズにとっては最大の強敵なのです。
 ローカル・アプリが少しずつウェブ・アプリに移行してくると
ウェブ・アプリを開発する業者が増えてきます。そういう業者に
対して、個人向けウェブ・アプリを多く開発しているグーグル社
は、サーバーを貸し出すサービスをはじめています。しかし、そ
のサーバーにはウインドウズを使わず、「リナックス」を自社で
改良したものを使っているのです。
 通販サービス大手のアマゾン・コムもグーグルと同様にウェブ
・アプリを構築する企業に対してサーバーを貸し出す「アマゾン
EC2」というサービスをはじめています。こちらもOSの中心
はウインドウズではなく、リナックス改良版なのです。
 マイクロソフト社は、そういう動きに対し、開発者の集まりで
あるPDC2008で、「ウインドウズ・アジュール」を打ち出
し、グーグルなどへの流れを抑えようとしたのです。
 既出の西田宗千佳氏は、ウインドウズ・アジュールの正体につ
いて、次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今後、様々なところでウェブサービス・ウェブアプリが増えて
 くることになると、自社でサーバーを持たず、グーグルやアマ
 ゾンのような企業から借りる、という形も増えてくるはずだ。
 その時、ウィンドウズ・サーバーが使われる保証はない。この
 ままでは、最終的に「ウェブアプリの時代」に得られる利益を
 失うのでは・・・。マイクロソフトはそう考えたわけだ。ウェ
 ブアプリの構築に必要な技術をまとめ、既存のウィンドウズ・
 アプリケーションも動作し、EC2(アマゾン)などのような
 「レンタル」形態にも対応できるソフトウエア。それこそが、
 ウィンドウズ・アジュールの正体である。ローカルのアプリケ
 ーションからウェブアプリヘ。その潮流は、マイクロソフトの
 ビジネスモデルそのものに、大きな変革をもたらそうとしてい
 るのである。              ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 今やマイクロソフト社には、グーグル社とアップル社という2
つの強敵がいます。ITの世界が一斉にクラウド――ウェブの世
界に向かう中で既に激しい攻防戦が始まっているのです。その主
戦場はサーバー市場なのです。
 この攻防は、サーバーの世界の話であって、一般的にはよく見
えない世界での熾烈な戦いなのです。その中で大きく先行してい
るのはグーグル社ですが、アップル社もマイクロソフト社もそれ
ぞれ独自の戦略でしのぎを削っています。
 そのためのマイクロソフト社のひとつの技術が「ウインドウズ
・アジュール」なのです。「ライブ・メッシュ」については来週
述べます。   ──[クラウド・コンピューティング/17]


≪画像および関連情報≫
 ●「PDC2008」でのマイクロソフト社発表
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米マイクロソフトのPDC2008。初日は同社チーフ・ソ
  フトウエアアーキテクトのレイ・オジー氏によるキーノート
  で幕を開けた。参加者は約6500人で、うち5000人が
  開発者。彼らから大きな尊敬を集めるオジー氏だけあって、
  彼の言葉に皆が熱心に聞き入った。「このPDCは、マイク
  ロソフトの製品やサービス、戦略にとって大きな転換点にな
  る」と開口一番に語ったオジー氏が発表したのは、「ウイン
  ドウズ・アジュール」。ウインドウズ・アジュールは、いわ
  ば「クラウド内に存在するウインドウズOS」。マイクロソ
  フトがデータセンターを運用し、その上でストーレージ、仮
  想化、システム管理を含むホスティング・サービス、「Live
  サービス」(文書や画像の共有)、「SQLサービス」(デ
  ータベース、検索)、「. NETサービス」(ビジネスにお
  けるワークフローやアクセス・コントロール)を提供するも
  のだ。               ――2008.10
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20081028/317929/
  ―――――――――――――――――――――――――――

ウインドウズ・アジュール.jpg
ウインドウズ・アジュール
posted by 平野 浩 at 04:12| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月05日

●「エイジャックスという驚くべき技術」(EJ第2688号)

 もともとホームページ――ウェブサイトは「静的」なものだっ
たのです。いわば雑誌のページを表示するだけのもので、そこに
動きを取り入れることは非常に困難なことだったのです。
 たとえば、ある場所の地図をウェブページとして表示したとし
ます。しかし、地図の端にマウスポインタを持ってくると、サー
バーがその位置を計算して地図全体の再書き込みをするのです。
その間、数10秒――とにかくスムーズに動かないのです。
 これに対してハードディスクにインストールして使う地図ソフ
トはスピーディーに動いたのです。そういう操作性にかけてウェ
ブ上の地図ソフトは大きく性能が劣っていたのです。
 しかし、2006年頃に突如として登場したグーグル・マップ
は、ウェブ・ページ上であるにもかかわらず、スムーズに動いた
のです。ページの上をクリックしてマウスを動かすと、地図を自
由にスクロールできたのです。そのため、現在見ている地点の周
辺をチェックするときもスムーズにでき、その動作性はローカル
で動く地図ソフトと同等のレベルであったのです。
 このグーグル・マップについて、IT評論家の佐々木俊尚氏は
自著の中で次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マウスで地図上をクリックしたり、ドラッグしたりすると、す
 るすると地図が右や左、上や下に流れるように移動し、スムー
 ズに地図の上を動くことができるのだ。拡大・縮小も自由自在
 で、まるで地上から発射されたロケットの窓から地表を眺めて
 いるように、自宅周辺の細かい地図から世界地図までするする
 と縮尺を変えていくこともできた。    ――佐々木俊尚著
     『グーグルGoogle/既存のビジネスを破壊する』より
                      文春新書501
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、このようなことができるのかというと、そこには「エイ
ジャックス」という技術が使われているからです。エイジャック
スは、処理をウェブブラウザ側とサーバー側に分割し、それぞれ
が協調して動作することによって、ウェブ上でスムーズな動きを
実現しているのです。
 グーグルは、このグーグル・マップに先んじて「Gメール」を
スタートさせています。これにもエイジャックスが使われており
ウェブブラウザ上で「アウトルック」のようにメールの読み書き
を可能にしたのです。
 さらにグーグルは、2005年10月に、サン・マイクロシス
テムズと提携を発表したのです。何が目的の提携かというと、当
時サンが「オープン・オフィス」(別称:スター・オフィス)と
いう無償のオフィスソフトを開発していたからです。
 もちろんこれはマイクロソフト・オフィスに対抗して開発した
のですが、完成度も高く、しかも無料で使えたにもかかわらず、
サンはどうしても普及させることができなかったのです。
 しかし、そのサンがグーグルと提携するということになると、
マイクロソフト社には脅威になるのです。なぜなら、エイジャッ
クスの技術を使い、ウェブ上にオープン・オフィスを無料で提供
するとなると、マイクロソフト・オフィスにとって大打撃になる
からです。
 しかし、不思議なことに提携の記者会見で明らかになったこと
は、オープン・オフィスのエイジャックス版開発の話などは出ず
かなり限定的な内容の提携にとどまったのです。一体そこに何が
あったのでしょうか。
 結局、次の年の2006年6月にグーグルがスタートさせたの
は、オープン・オフィスより機能が劣る「グーグル・ドキュメン
ト」――ウェブ上でワープロや表計算ソフトが使える――であり
マイクロソフト社が恐れる事態にはならなかったのです。このグ
ーグル・ドキュメントでもエイジャックスの技術は駆使されてお
り、次々とバージョンアップが行われています。その機能レベル
は年々向上してきているのです。
 このように次々と仕掛けてくるグーグルの攻勢に対し、マイク
ロソフト社は危機感を抱いたのです。そこでマイクロソフト社は
グーグルとサンの提携の1ヶ月後に、次の2つのサービスを相次
いで発表したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.  オフィス・ライブ
        2.ウインドウズ・ライブ
―――――――――――――――――――――――――――――
 「オフィス・ライブ」というのは、ウェブブラウザ上で使える
オフィスのサービスを中小企業などに低価格で提供するというサ
ービスです。「ウインドウズ・ライブ」は、Gメールと同じよう
に、ウェブブラウザ上でメールの読み書きが行えるというもので
あり、明らかにグーグルへの対抗策であったのです。
 これに伴い、マイクロソフト社は、次の2つの技術を開発して
いるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.ウインドウズ・アジュール
       2.    ライブ・メッシュ
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ウインドウズ・アジュール」とは何でしょうか。
 ウインドウズ・アジュールとは、サーバーを構築するために使
われるOSであり、それに付随するさまざまな開発基盤(プラッ
トフォーム)を統合したものです。オフィス14のウェブ・アプ
リ版もこのプラットフォーム上で動作するのです。
 もうひとつの「ライブ・メッシュ」とは何でしょうか。
 ライブ・メッシュを簡単にいうと、データをネット上に置くた
めの技術のことです。メールなどのデータを簡単にネット上に置
けるようにし、複数のPCや携帯電話から同じデータを見られる
ようにしたのです。これら2つの技術をマイクロソフト社は保有
しているのです。──[クラウド・コンピューティング/16]


≪画像および関連情報≫
 ●エイジャックス(Ajax)とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  従来のウェブアプリケーションでは、サーバにリクエストを
  送信後、レスポンスを新たにウェブページとして受け取り画
  面遷移が発生していたが、エイジャックスにより画面遷移を
  伴わない動的なウェブアプリケーションの製作が実現可能に
  なる。例えば、ウェブ検索に応用することで、従来は入力確
  定後に行っていた検索を、ユーザがキー入力をする間にバッ
  クグラウンドで行うことによってリアルタイムに検索結果を
  表示していくといったことが可能になる。
  ―――――――――――――――――――――――――――

アイフォーンでグーグル・マップ.jpg
アイフォーンでグーグル・マップ
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月04日

●「ウェブ・サービスとしてのオフィス」(EJ第2687号)

 ここで「ウェブ・アプリ」がどのようなものであるか知る必要
があります。それには、「ホームページ」と「ブログ」の違いに
ついて理解することが問題の解決に役立つと思います。
 ここまでブログが普及した現在においても、ホームページとブ
ログの違いがわかっていない人は多いのです。それはマスコミの
報道のやり方にも責任があります。報道する記者自身が、よくわ
かっていないのです。
 ブログが登場したときマスコミは、「簡易ホームページ」とか
「日記風ホームページ」という表現で紹介しています。このよう
に表現されると、ホームページもブログも基本的には同じもので
あって、ブログはホームページを簡単にしたもの、つまり、ホー
ムページの簡易版――このようにとらえてしまいます。
 「簡単にしたもの」という表現をすると、ブログは技術的に簡
単なもの、すなわち、技術的にホームページの下にくるものとい
う間違ったとらえ方をしてしまいます。しかし、実際には、技術
的にはホームページよりもブログの方が進化しており、情報発信
やサイトの更新が簡単になっています。
 もうひとつ最近の話ですが、「ツイッター」というものが流行
しつつあります。マスコミは例によってこれを「ミニブログ」と
か「簡易ブログ」と表現しています。マスコミの記者自身が自分
でもよくわからないまま、このように報道しているのです。
 最近では「ブログ」に括弧書きで説明することはなくなってい
ますが、実際にブログをやっていない人は、依然としてブログが
何であるか知らない人は多いと思います。そういう人にとっては
「ミニブログ」とか「簡易ブログ」といわれても、一層わからな
くなり、困惑してしまいます。
 そこで、改めてホームページとブログの違いをなるべく専門的
にならないように説明します。そうすれば、ツイッターも容易に
理解できるようになります。
 ホームページを構築するときは、一からプログラミングするか
ホームページ作成ソフトを購入し、自分のPCで作ることになり
ます。ページのレイアウト構造などはすべて自分で作り上げる必
要があるし、ある程度のウェブの構造などの技術的知識が必要に
なるので、素人にとっては相当敷居の高い作業になります。その
代わりプログラミングをマスターすると、全体ページのレイアウ
トやデザインなどについては、自分の好みの綺麗なホームページ
を作ることができます。しかし、相当の努力が必要です。
 そして、ホームページが完成すると、そのファイルをプロバイ
ダーの指定のサーバーに転送してはじめてインターネット上に公
開されることになります。しかし、こういう作り方では着手から
完成まで相当の期間がかかります。コスト面からみても、ホーム
ページ作成ソフトの購入費やサーバー関係の費用など、それなり
のコストがかかります。
 それに対してブログの場合はどうでしょうか。
 一般的にブログの場合は、それを提供する業者のサーバーに接
続した状態でサイトを作成するのです。ユーザーのPCと業者の
サーバーが接続されていると、ブログの構築についてサーバー側
がいろいろな支援をユーザーに対して行うことが可能になるので
す。技術的にはCMS――コンテンツ・マネジメント・システム
というソフトウェアによってそれを可能にしているのです。
 これによって、ブログの場合は、ユーザー側に技術的知識がな
くてもサイトを短時間で作り上げることが可能になります。人に
もよりますが、レイアウトなどに凝らなければ、半日もあればブ
ログを立ち上げることができます。しかも、料金は無料です。
 そして何よりも便利なのは、ブログの場合は情報の発信――ブ
ログの更新が簡単にできることです。これもCMSの恩恵なので
す。ホームページの場合は、いったんPCでコンテンツの追加や
削除を行い、その修正ファイルをプロバイダーのサーバーに転送
する――このようにホームページの情報の発信は不便です。
 実はこのユーザーのPCと業者のサーバーがつながった状態で
マイクロソフト・オフィスのサービスを提供しようというのが、
「ウェブ・アプリ版・オフィス14」のサービスなのです。
 ローカル版オフィスでは、自分のPCのハードディスクにイン
ストールしたオフィスを使うのに対し、ウェブ版オフィスの場合
は、マイクロソフト社のサーバーに接続した状態で、オフィスの
サービスを受けるウェブ・サービス――そういう位置づけになり
ます。ローカルで必要なのはウェブブラウザだけです。
 ウェブ版オフィス14は、現在のところ無料で使えるとアナウ
ンスされています。しかし、近い将来、それは有料になると私は
予測しています。ユーザーのPCと業者のサーバーがつながった
状態でユーザーがオフィスを使うと、ユーザーがオフィスのどの
ソフト――たとえばワード――をどれだけの時間使ったかを管理
できるので、その分だけの料金を請求するというかたちに発展す
ると思います。これが「SaaS」といわれる新しいコンピュー
タの使い方です。
 こういうウェブ・サービスが実現するには、次の3つの条件が
必要になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.ネット接続の容易性
         2.サーバーの性能向上
         3.ブラウザ機能の増大
―――――――――――――――――――――――――――――
 最近ではネット接続は本当に簡単になっています。アイフォー
ンを使っていると、どこでネットにつながったのかわからないほ
どです。これに伴い、サーバーの性能が向上しています。現在の
サーバーは10数年前と比較すると、その能力は100倍以上に
向上しています。だからこそ、ブログのように凝ったレイアウト
を自動生成し、多くの人の閲覧に耐える速度で提供できるように
なったのです。PCの使い方に構造的な変化が生じていることを
知るべきです。 ──[クラウド・コンピューティング/15]


≪画像および関連情報≫
 ●CMSとは何か/コンテンツ・マネジメント・システム
  ―――――――――――――――――――――――――――
  CMSとは、ウェブ・コンテンツを構成するテキストや画像
  レイアウト情報などを一元的に保存・管理し、サイトを構築
  したり編集したりするソフトウェアのこと。広義には、デジ
  タルコンテンツの管理を行なうシステムの総称。CMSを導
  入すれば、テキスト制作者はHTMLなどの知識を習得する
  必要はなく、デザイナーはテキストが更新されるたびに作業
  を行なう必要はなくなり、それぞれ自らの作業に集中するこ
  とができる。また、サイト内のナビゲーション要素なども自
  動生成するため、ページが追加されるたびに関連するページ
  にリンクを追加するといった煩わしい作業からも解放される
  ことになる。      http://e-words.jp/w/CMS-1.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ホームページ作成ソフト.jpg
ホームページ作成ソフト
posted by 平野 浩 at 04:18| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月02日

●「ウェブ版オフィス14とは何か」(EJ第2686号)

 「ウインドウズ7」の販売はなかなか好調のようです。アップ
ル社の猛追に対してマイクロソフト社としては、どのような戦略
で立ち向かうのでしょうか。
 実はマイクロソフト社は2008年の時点で2009年以降の
戦略を固め、そのうえでこの10月22日に「ウインドウズ7」
を出したのです。そこで、ここまでは、アップル社を中心にその
戦略を述べてきたので、しばらくマイクロソフト社の戦略につい
て述べることにします。
 2008年9月のことです。マイクロソフト社は、次のような
注目すべきメッセージを世界に発信しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       Windows Life Without Walls
―――――――――――――――――――――――――――――
 「壁のないウインドウズ・ライフ」──これは何を意味してい
るのでしょうか。
 今まではPCをはじめ携帯電話など各情報機器ごとにそれぞれ
何らかの「壁」が存在していたのです。しかし、現代では、サー
バーで処理する部分を増やすことによって、少しずつ「壁」がな
くなってきているのです。やがてそれは「壁のない世界」に到達
することになりますが、マイクロソフト社はそれを目指すといっ
ているのです。
 マイクロソフト社のこのポリシーは、2008年9月に開催さ
れた家電展示会の開催に合わせて開かれた会見において、その趣
旨が米マイクロソフト社の副社長ブラッド・ブルックス氏から伝
えられたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あらゆる壁を乗り越えて人々のコミュニケーションを促すとと
 もに、10億人のウインドウズ・ユーザーに選択肢を与える。
 これからの新しいウインドウズでは、家庭や職場だけでなく、
 移動中や娯楽中にも『壁のない世界』を体験できるだろう。
                ──ブラッド・ブルックス氏
                     ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 続く2008年10月、マイクロソフト社は、米ロサンゼルス
で開かれた同社製品に関する開発者会議「PDC2008」にお
いて、次の2つの重大な発表を行ったのです。これには当然「壁
のないウインドウズ・ライフ」を踏まえた2つの製品のコンセプ
トの発表ということになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.ウインドウズ7
          2.オフィス 14
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、「ウインドウズ7」はともかくとして、「オフィス
14」とは何でしょうか。
 「オフィス14」は、ワードやエクセルなどのあの「マイクロ
ソフト・オフィス」の新バージョンのことです。既に「オフィス
2007」がリリースされていますので、その次のバージョンの
「オフィス」ということになります。
 「オフィス14」は仮称──コードネームですが、次の2つの
種類があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.ローカル・アプリ版/オフィス14
     2.ウェブ ・アプリ版/オフィス14
―――――――――――――――――――――――――――――
 「オフィス14」は、おそらく「オフィス2010」という名
称のオフィスの次期バージョンと考えてよいと思います。2つの
うち、「ローカル・アプリ版/オフィス14」は、パッケージに
入った普通のオフィス製品のことです。
 ここで「ローカル」というのは「ハードディスク」のことであ
り、パッケージに入っているCDをハードディスクにインストー
ルして使う、普通タイプのオフィス製品です。
 これに対して「ウェブ・アプリ版/オフィス14」というのは
マイクロソフト社としてははじめて投入されるものです。つまり
「ローカル」に対して「ウェブ」――自分のPCのハードディス
クにインストールするのではなく、ネット上にあるオフィスをブ
ラウザを通して使う今までにない画期的なオフィスのことです。
 画期的というだけのことはあるのです。ブラウザというと、マ
イクロソフト社の場合は「インターネット・エクスプローラ/I
E」ということになりますが、この「ウェブ・アプリ版/オフィ
ス14」の場合は、「サファリ」や「ファイアフォックス」とい
うIE以外のウェブブラウザでも動くのです。しかも同様にOS
にも依存しないのです。
 それに加えて高機能なウェブブラウザを持つ、アイフォーンな
どの一部の携帯電話でもそれは動くということです。そしてさら
に驚くべきことは、多くのウェブ・アプリと同様に「無料」で公
開されることが予測されているのです。
 そうすると、こういうことになります。「ローカル・アプリ版
/オフィス14」はいつものように有料であるのに対し、同じ機
能を持つ「ウェブ・アプリ版/オフィス14」は無料で使えると
いうことになります。この場合、ウェブ・アプリ版オフィスが非
常に使い勝手が悪いということではないのです。ローカル・アプ
リ版とほぼ同じように使えるということです。
 なぜ、マイクロソフト社はこの決断をしたのでしょうか。
 それは、2006年6月からグーグルがはじめた「グーグル・
ドキュメント」が原因なのです。これは、無料で使えるウェブ版
ワープロや表計算ソフトなのです。もちろん、オフィスには機能
的に及ばないものの、オフィスのファイルを編集するぐらいのこ
とは簡単にできるのです。マイクロソフト社はこれに強い危機感
を抱いたのです。──[クラウド・コンピューティング/14]


≪画像および関連情報≫
 ●「グーグル・ドキュメント」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  グーグル・ドキュメントは、文書(ワープロソフト)、スプ
  レッドシート(表計算ソフト)、プレゼンテーション)の3
  つの機能が提供されている。ドキュメントはいずれもグーグ
  ルのサーバ上に保存されるが、他形式とのインポート・エク
  スポートも可能。他のユーザとのドキュメント共有をサポー
  トしている。一つの文書ファイルは500KBまで、画像フ
  ァイルは2MB、縦書きには対応していない。また、保存し
  た時点でフォーマットが失われるため取り出した文章も横書
  きのままである。          ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

オフィス次期バージョン.jpg
オフィス次期バージョン
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月30日

●「大幅に修正されたウインドウズ7」(EJ第2685号)

 ここで「ウインドウズ7」について述べておく必要があると思
います。「ウインドウズ7」は、2009年10月22日の発売
以来その売れ行きは好調のようですが、それはある意味で当然の
ことであるといえます。
 というのは、前のOSである「ウインドウズ・ビスタ」が極度
の販売不振であったからです。具体的にいうと、それまでのOS
をビスタにバージョン・アップしようとすると、PCを買い替え
ないと軽快な動作が保障されなかったからです。そのため、XP
からのバージョンアップがスムーズに行かなかったのです。
 当初ウインドウズ・ビスタについて、マイクロソフト社として
は相当自信を持っていたのです。広告宣伝にもふんだんにお金を
使い、とくに「エアロ・グラス」と呼ばれる画面の半透明処理を
テレビCMで徹底的にPRしたのです。とくにPCのOSに関心
がなくても、あのCMは見たことがあると思います。確かに見た
目に派手で、未来を感じさせるデザインであったので、期待した
PCユーザーは多かったと思います。
 しかし、ウインドウズXPがかなり完成度が高かったこともあ
り、多くのユーザーはXPに慣れていたのです。それに加えて、
XPは2001年以来5年以上にわたって使い続けてきたので、
いまさらPCを買い替えてまで、ビスタにバージョンアップする
のは得策ではないと考えたユーザーが多かったので、その売れ行
きはさっぱりだったのです。とくに法人ユーザーはその多くが、
XPからのバージョンアップをやらなかったことは、マイクロソ
フト社にとって相当の痛手になったと思われます。
 ところが、ウインドウズ7はどうだったでしょうか。発売日以
前にウインドウズ7のCMを見た人はいるでしょうか。少なくと
も私は見ていないのです。
 米国では、ウインドウズ7のCMをテレビのゴールデンタイム
の枠を買うことなく、ネットで流していたといわれます。そのC
Mは、次のURLをクリックすれば見ることができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   http://wiredvision.jp/news/200810/2008100920.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 明らかにウインドウズ7についてマイクロソフト社は、ビスタ
とは対照的に地味な戦略で臨んでいるように思います。実はウイ
ンドウズ・ビスタを主軸に据えるPC用OS戦略についてマイク
ロソフト社は大幅な修正を行っているのです。その原因は「ネッ
トブック」と呼ばれる小型PCの出現にあるのです。
 ネットブックは、一言でいえば「安価な小型ノートPC」なの
です。サイズはB5判程度と小さくて持ち運びが簡単であり、価
格も3万円から8万円程度のPCです。ノートPCに比べるとか
なり価格は安いのです。
 ネットブックの狙いは、移動先や旅行先、自宅の寝室やリビン
グなどで、メールをしたり、ウェブアプリを利用する――こうい
う使い方にあります。本格的な作業をするためのPCではない、
2台目、3台目のPCという位置づけです。
 ところが2008年10月以降、このネットブックが非常によ
く売れたのです。2008年10月以降、店頭で出荷されたPC
のうちなんと25%がネットブックだったのです。2007年の
同じ時期には、このジャンルは存在しなかったので、伸びは「爆
発的」であったといえます。
 台湾のアスーステック・コンピュータ社が、2007年末に台
湾や米国で発売した「EeePC」がヒットしたこともあって、
デル、ヒューレット・パッカード、東芝、NECなどの大手メー
カーが相次いでこのジャンルに参入して大混戦になったのです。
 どうしてこういうPCが出現したかというと、インテルが将来
の携帯電話や家電製品のニーズを考えて、性能は多少落としても
低価格・低消費電力に焦点を絞った「アトム」というCPUを開
発し、製造を始めたことにあるのです。
 ところがこれらのネットブックに搭載されているOSは、ウイ
ンドウズXPであり、当然のことながらビスタではないのです。
そこでPCメーカーとしては、マイクロソフト社に対し、ウイン
ドウズXPのサービスの存続を要望したのです。
 しかし、これはマイクロソフト社にとって頭の痛い問題なので
す。なぜなら、ウインドウズXPとビスタ、それに次に出る予定
の新OS「ウインドウズ7」の3つを維持しなければならなくな
るからです。これはとてもできない相談なのです。3つのOSを
抱えることは、そのセキュリティの面から考えても、不可能に近
いことだからです。
 そうかといって、マイクロソフト社としては、このネットブッ
ク市場を失いたくない――そこで、当初2009年4月に終える
としていたXPのサポート期間を2014年4月まで延長すると
いう措置をとったのです。
 ネットブックを製造するメーカーとしては、2008年時点で
もしマイクロソフト社がXPの提供を打ち切るのであれば、無償
のリナックスOSを使う意思を表明しており、マイクロソフト社
は早急な対応を迫られたのです。そのため、ウインドウズ7を当
初考えていたものから大きく修正することになったのです。
 そこでマイクロソフト社は、2008年10月の「PDC20
08」において、ウインドウズ7の方向性を明らかにしているの
です。その基調講演の中で、マイクロソフト社でウインドウズの
開発を統括するスティーブン・シノフスキー副社長は片手にネッ
トブックをかざしながら次のようにいったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウインドウズ7は、クロック周波数1ギガヘルツ、メモリ1ギ
 ガのこのPCでも快適に動作する。実際、メモリはまだ半分も
 空いている。              ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
        ──[クラウド・コンピューティング/13]


≪画像および関連情報≫
 ●「ネットブック」はどういうPCか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ネットブックは、ネットワーク機能を備えてインターネット
  に接続し作業する事を主な用途とした、比較的安価で小型軽
  量なノートパソコンであり、その製品やカテゴリーの呼称で
  ある。2007年10月にアスーステック・コンピュータが
  販売した「EeePC」が最初に販売されたネットブックと
  される。ただし「ネットブック」の名称を初めて提唱したの
  は、2008年3月米インテル社が自社CPUである「イン
  テル・アトム」について語った時であると見られている。イ
  ンテル自身もこの時点ではあまり明確な基準ではなく、「イ
  ンターネット利用に特化した低価格モバイル」程度の意味で
  あった。              ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ビスタ・エアロ.jpg
ビスタ・エアロ
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月29日

●「iPodはトロイの木馬である」(EJ第2684号)

 私はMS−DOSの時代からマイクロソフトOSを使い続け、
ウインドウズにいたっては、仕事の関係もあって、ウインドウズ
3.0 の頃から使ってきています。現在もウインドウズ・ビスタ
搭載のPCを使っていますから、根っからのウインドウズ・ユー
ザーということになります。
 しかし、そういう私でも、既にマイクロソフト社の最新OSに
なっている「ウインドウズ7」へのバージョン・アップ(?)を
ためらっています。少し様子見をしたいというのが本音です。な
ぜかというと、今回ばかりは本当にバージョン・アップになるの
かどうか疑問だからです。
 ところで、アップル社は「ウインドウズ7」の発売に合わせて
デスクトップの「iMac」とノートPCの「MacBook」
の新機種をぶつけてきています。
 しかし、PCの世界では、一度ウインドウズ・ユーザーになっ
てしまうと、アップル社からいくら魅力的な製品が出ても、もろ
もろの事情から途中でアップル社のPCに乗り換えることはきわ
めて困難になります。
 少なくとも今までに関しては、ほとんどのウインドウズ・ユー
ザーにとって、アップル社のPCはまるで関心がなく、それはま
さに別の世界のものであって、この世に存在しないものになって
しまうわけです。
 スティーブ・ジョブズはこの点を悩んでいたのです。しかし、
ジョブズは、iPodにウインドウズ・ユーザーの関心が集まっ
ているのを知って、ひらめいたのです。そして、直ちに音楽ジュ
ークボックスソフトウェアである「アイチューンズ」のウインド
ウズ版を開発するとともに、iPod自体のウインドウズ対応の
充実化を図ったのです。そして、アイチューンズはネットを通じ
て無料で頒布したのです。
 今までのアップル社であれば、純正のウインドウズソフトを開
発するのは敵の軍門に下るとして絶対にやらなかったことである
と思います。しかし、「マックOS−X」の開発以降、アップル
社の戦略は明らかに考え方が変わっていて、自社ビジネスを柔軟
にとらえ直しているのです。
 ウインドウズ版アイチューンズを無料でダウンロードできるこ
とを知った音楽ファンは、iPod以外のMP3プレーヤーを持
つユーザーまでが使い始めたのです。そして、その使い勝手の良
さをはじめて知ることになるのです。
 ところでアップル社は日本市場を非常に重視しています。なぜ
かというと、日本にはアップルPCの熱烈なファンが多くいるか
らです。そこでジョブズはiPodの発売を機に日本の象徴的な
場所にアップルストアを建築し、そこに、マックPC以外のPC
ユーザーを集客することを考えたのです。
 2003年11月──こうした狙いで誕生したのが、アップル
ストア銀座店です。ちょうど銀座松屋デパートの道路をはさんだ
反対側で銀座4丁目交差点からすぐ近くの場所であり、銀座に来
た人が普通に通る場所に面しています。あの齧ったリンゴのロゴ
マークがきわめて目立っています。
 私がiPodミニを手に入れたのは2004年秋のことです。
これは私が手に入れた最初のアップル社の製品なのです。そうい
う人は多いと思います。そしてアップル社の製品のユニークさ、
使い勝手の良さを知ることになります。そして私自身もiPod
ナノ、アイフォーンと続いてアップル製品を購入したのです。
 ところで、アップル社がアイチューンズを無償提供したことに
ついて、既出の大谷和利氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ギリシア神話のトロイア戦争において、トロイを陥落させる決
 め手となったのは城壁の中に持ち込まれた大きな木馬だった。
 城壁の外側から攻めても強固な守りに阻まれて落とすことので
 きなかったトロイも、木馬の中に隠れていた兵士による内側か
 らの侵攻にはなすすべもなく陥落した。これになぞらえて、ア
 イチューンズはウィンドウズユーザーにiPodを購入させる
 ための「トロイの木馬」として機能したと言える。
                      ――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 ひとつでもアップル製品を持っている人なら、たまたま銀座の
アップルストアの近くに来たとき、ブラッと入ってみようという
気になるものです。そうすると、店にはあらゆるマック製品が陳
列してあり、操作することができるのです。
 2階には相談コーナーがあり、何でも相談に乗ってもらえるし
スタッフの応対もなかなかのものです。3階はマックPCなどの
使い方のデモをいつもやっており、4階にはアップル・グッズを
販売しています。
 こういう店舗が持てるのもアップル社がハードウェアを扱って
いるからであり、OSやソフトウェアを主力商品とするマイクロ
ソフト社にはできない芸当であると思うのです。マイクロソフト
社としては、せいぜいビックカメラのような量販店で製品のPR
をするしかないのです。
 私のようにiPodやアイフォーンを持つウインドウズ・ユー
ザーが、各地にあるアップルストアに行って最新のアップルPC
を操作してみるということを繰り返すことにより、アップル製品
に関する心理的バリアが薄れてくるものです。
 そこでPCの買い替えのさいに思い切ってアップルPCに切り
替えるユーザーも出てくるはずです。つまり、今までこの世に存
在しなかったものを現実的に触ってみる──ちょっと前ではあり
得なかったことが現実に起こりつつあるからです。
 iPodはトロイの木馬である──実に含蓄に富む表現である
と思います。現実に私の書斎の中にも少しずつアップル社の木馬
が増えつつあるのです。しかし、ジョブズの仕掛けはこれだけで
はないのです。 ──[クラウド・コンピューティング/12]


≪画像および関連情報≫
 ●アップルストア/銀座店のオープンに米国から参加!?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  感謝祭の休暇を利用しゲリー・アレン氏(56歳)は、20
  03年11月26日(米国時間)、16歳の息子と2人でカリ
  フォルニア州バークレーの自宅を出て、日本行きの飛行機に
  乗った。米アップルコンピュータ社が東京の銀座にオープン
  する直営店の開店イベントに立ち会うためだ。29日(日本
  時間)の早朝に起床した2人は、30日午前の開店時には行
  列の先頭にいようと、雨の中28時間、新店舗の外で過ごし
  た。そして目的を達成し、記念品のTシャツを手にすると、
  翌日の12月1日には帰国した。
   http://wiredvision.jp/archives/200312/2003121101.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

アップルストア/銀座店.jpg
アップルストア/銀座店
posted by 平野 浩 at 04:14| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月28日

●「マックOS−XはどのようなOSか」(EJ第2683号)

 もともとアップル社では、ハードウェアとOSとを一体のもの
と考えており、「××OS」という呼び方はしていなかったので
す。どうしてかというと、アップル社のOSは同社のPC「マッ
キントッシュ」専用のOSであり、とくにハードウェアとOSを
区分する必要がなかったからです。そのため「システム××」と
呼ばれていたのです。
 しかし、EJ第2680号で述べたように、1994年にマイ
ケル・スピンドラーCEOのときにOSのライセンスに踏み切っ
ているのです。つまり、その時点で数社のマック互換機が誕生し
ているわけです。
 しかし、OSのライセンスはジョブズがアップル社に戻ると同
時に打ち切られるのですが、その時点からアップル社では、ハー
ドウェアとOSは一体のものではなく、別のものという考え方が
生まれ、「マックOS」と呼ばれるようになるのです。
 ジョブズがアップル社に復帰したとき、アップル社の財政は底
をついている状況だったのですが、ジョブズは、これからのイン
ターネット時代に備えて新しいOSを開発する必要性に迫られて
いたのです。
 そのため、すべてをアップル社で自社開発することをあきらめ
他社の技術を導入しようと考えたのです。一時は「BsOS」や
「ソラリス」をはじめ、「ウインドウズNT」まで検討の対象に
したといわれます。
 結局、ジョブズが主宰していたネクスト社のOS「オープンス
テップ」と「マックOS」の融合版である「ラプソデイ――コー
ドネーム」を開発したのです。しかし、その後2001年にジョ
ブズの頑張りによる、今までのものとはまったく異なる新OSを
発表したのです。これが「マックOS−X」なのです。
 「マックOS−X」はどのようなOSなのでしょうか。
 「マックOS−X」は、従来の「マックOS」と比べると動作
が非常に安定しており、「アクア」と呼ばれる独自の美しいユー
ザーインターフェースのウインドウシステムを採用しており、ア
ップル社のOSとしては珍しくオープンな標準規格を採用してい
るのです。すなわち、すべてのバージョンで、アップル社のC
PUである「パワーPC」版とインテルのCPU版が用意されて
いたのです。ウインドウズPCとの互換です。
 「マックOS−X」のもうひとつの大きな特色は、UNIXベ
ースになっていることです。そのため、UNIX系のOS――B
SDやリナックスなどのソフトウェア資産は、ごく簡単な移植に
よって「マックOS−X」上で動くのです。
 UNIXは、1968年に米国のAT&T社のベル研究所で開
発されたOSであり、C言語というハードウェアに依存しない移
植性の高い言語で記述され、またソースコード(プログラム)が
比較的コンパクトであったことから、多くのブラットフォームに
委嘱されたのです。
 実はこの「マックOS−X」――モバイル機器のアイフォーン
やiPod、iPodタッチ、それにテレビに接続して使用する
ビデオ再生装置「アップルTV」に使われているのです。大きく
てパワフルな製品から小さくて省電力の製品までスケーラブルに
対応できる万能OSの様相を呈しているのです。
 ところで、現在のPCには文字入力にはキーボード、ウインド
ウズ画面操作はマウス──ウインドウズ・マウスはボタンが2つ
というようにかなり複雑です。しかし、アップル社のPCは全体
がスッキリしており、マウスのボタンもひとつしかないのです。
 アイフォーンを使っている人は分かることですが、文字入力ボ
ードは必要なときに画面上にあらわれ、スクロールなどは「ころ
がす」という表現がぴったりです。
 アップル社のノートPCである「パワーブック/G4」は、手
前の中央にかなり広いトラックパットがあり、そこに指を1本当
てて動かすときはマウスポインタが移動し、指を2本にするとウ
インドウのスクロール、指を2本置いた状態でボタンをクリック
すると、ウインドウズ・マウスの右クリックと同じことになり、
右クリックメニューが表示されるのです。こんなことが2005
年頃からできるようになっていたのです。これがアイフォーンの
操作性につながってくるわけです。
 実はこれを可能にしたのは、アップル社がフィンガーワークス
社を買収したからです。このフィンガーワークス社は、米国デラ
ウェア州の企業で、「マルチタッチ」という技術を得意とし、手
を使ってジェスチャーをファイルを開くなど,ごく一般的なコン
ピューター操作の命令に置き換える優れた技術を開発していたの
です。ジョブズは早くからこの企業に目をつけ、交渉を重ねて、
2005年に同社を買収したのです。
 2005年当時、フィンガーワークス社買収はまさに青田買い
に近い先行投資であったのです。しかし、アップル社は同社の技
術をさらに発展させ、ハイレベルのマルチタッチスクリーン技術
にまで育て上げたのです。このあたりはマイクロソフト社は完敗
といったところです。
 このマルチタッチ技術は、PCの操作にある程度慣れたマック
ブック上でだんだん熟成されていったのです。たとえば、トラッ
クパッドに指2本をあてて、回転すると選択されている画像が回
転したり、コントロールキーを押した状態で2本指の上下方向に
スライドさせると、画面全体の拡大と縮小ができたり、3本指を
上下左右方向へスライドさせると、前後の写真の表示の切り替え
やページめくりができるまでになったのです。
 これらの技術はすべてアイフォーン上でもっと簡単な操作で実
現しており、アップル社の先行投資はモノをいったといえます。
既にマルチタッチ技術は特許の関係で他社は追随できない部分が
多くなっており、アップル社はとくにノートPCや携帯電話の世
界でほぼ独占的にこの技術を向上させていくようになると思われ
るのです。このように技術面においては、今やアップル社は首位
に立っているのです。[クラウド・コンピューティング/11]


≪画像および関連情報≫
 ●UNIXとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  UNIXはコンピュータ用のOSKの一種である。公式な商
  標は「UNIX」だが、商標以外の意味として「Unix」
  またはスモールキャピタルを使用して「Unix」などとも
  書かれる。UNIXは1969年にAT&Tで最初に開発さ
  れたが、現在では「UNIX」という語はUNIX標準に準
  拠するあらゆるオペレーティングシステムの総称でもある。
  現在ではUNIXシステムは多数の系統に分かれており、A
  T&T開発時代の後も、多数の商用ベンダーや非営利組織な
  どによって開発が続けられている。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

パワーブック/G4.jpg
パワーブック/G4
posted by 平野 浩 at 04:14| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月27日

●「A社とM社のOSの考え方の違い」(EJ第2682号)

 10月22日に「ウインドウズ7」が発売されましたが、この
OSは従来のOSのバージョンアップとはかなり異なるのです。
これからのスマートフォン時代には、OSが非常に重要な意味を
もってくるので、アップル社のOSを中心にOSの問題を考えて
いきたいと思います。
 1985年にスティーブ・ジョブズをアップル社から追放した
CEOジョン・スカリーは、アップル社としてのビジョンを求め
ていたのです。そこで、スカリーが目をつけたのは社内のスティ
ーブ・サマコンという技術者が手がけていたペン入力コンピュー
タ技術だったのです。
 スカリーCEOは、これを「ニュートン・プロジェクト」とし
て推進したのです。そして、1993年に「アップル・ニュート
ン」として発売しているのです。日常生活のさまざまなシーンで
人間の情報活動をサポートする世界初の手帳型PDAとしてそれ
は大きな話題を呼んだのです。
 当時携帯端末の担当をしていた私は、この「アップル・ニュー
トン」をシャープの展示会で手にしたことがあるのですが、操作
が複雑でハードウェア的にもソフトウェア的にも完成度は今一つ
というマシンだったことを記憶しています。しかし、今から考え
ると、これが現在のアイフォーンの原型であったといえなくもな
いのです。
 「ニュートン・プロジェクト」はその後も継続され、1997
年には相当完成度の上がった「ニュートンメッセージパッド20
00」を発表しています。しかし、当時業績が悪化していたアッ
プル社には、PCのOSと合わせてニュートン用のOSの開発を
続ける余力がなくなり、アップル社に復帰したジョブズによって
「ニュートン・プロジェクト」は中止されたのです。
 もともと現在のウインドウズのようなOSの原型を世界で一番
早く開発したのはゼロックス社のパロアルト研究所であり、その
OSは「アルト」という小型コンピュータに搭載され、既にマウ
スも付いていたのです。
 アップル社は、OSには相当の力を入れて、リスクを恐れず最
高のものを取り入れてきています。1983年に発表された「リ
サ」にも、続いて発表された「初代マック」にもGUI――グラ
フィカル・ユーザー・インターフェースという概念が取り入れら
れているのです。これは、当然パロアルト研究所のGUIが参考
にされているのです。ジョブズCEOは、同じカリフォルニアに
あるパロアルト研究所には何度も足を運んでいるのです。
 しかし、パロアルト研究所はGUIの技術をコンピュータに応
用するのには消極的だったのです。ゼロックス社の考え方を知っ
て失望したジョブズは、ゼロックス社にその気がないのであれば
われわれでやろうじゃないかと決心したのです。
 そして、ゼロックス社から技術者を引き抜き、自社のスタッフ
に合流させて、その後20年にわたってPCの業界に影響を与え
た「マックOS」を送り出したのです。
 「マックOS」の歴史を振り返ると、2つの時期に分かれるの
です。最初は「OS」という名称を使わず「システム」と表記し
ていたのですが、バージョン7までは「システム」と呼び、バー
ジョン8以降「マックOS」の名称を使っています。
 ここでOSに関してアップル社とマイクロソフト社の考え方の
違いについて述べておく必要があります。マックの開発チームは
OSについて次のようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   OSは限りなく透明に近い存在であるべきである
               ――マック開発チーム
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、アップル社においてOSとは、ユーザーにとって完全
な裏方の役割に徹するべきであって、正面にしゃしゃり出るべき
ものではない――これが「透明に近い存在である」という意味な
のです。そのため、1984年のマックOSにアップル社はとく
に名前を付けず、「システム1.0」と呼んでいたのです。
 これに対してマイクロソフト社は、アップル社とは対照的にあ
たかもOSがコンピュータのすべてであるような宣伝を行って、
ウインドウズを売り出しているのです。つまり、OSがつねに前
面に出ているのです。そのため、ユーザーは、OSとアプリケー
ションの違いもよくわからないのに、OSの名前だけは強く意識
させられてきたのです。
 その後のマックOSの進化について、既出の大谷和利氏は次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 その後のマックOSの進化も、単なる機能向上に留まらず、美
 しいテキスト表示を実現するためのアウトラインフォントの充
 実や、音楽やデジタルビデオの編集と再生を強力に支援するマ
 ルチメディア技術「クイックタイム」の実装、世界の主要言語
 のシステムレベルでのサポートなど、それまで生産性ツール的
 側面の強かったコンピューターをクリエイティブなメディアへ
 と変貌させる役割を果たした。       ――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 1996年にジョブズがアップル社に復帰すると、OSも大き
な変化を遂げるのです。「マックOS」バージョン8の時点で、
ネクスト由来の新技術を取り入れた新しいOSの導入が進められ
「マックOS」バージョン9を経て、「マックOS−X」(エッ
クスではなく『テン』)として登場するのです。
 マイクロソフト社のOSは、バージョンが上がるごとに機能が
強化されてきたのですが、それはビスタまでであって、この22
日に発売された「ウインドウズ7」は、ビスタのマイナーアップ
デートに過ぎないといわれているのです。「ウインドウズ7」対
「マックOS−X」──これについては、明日のEJで述べるこ
とにします。  ――[クラウド・コンピューティング/10]


≪画像および関連情報≫
 ●アップル・ニュートンについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ニュートンは主に次の2つの理由で商業的には失敗したとい
  える。一つは高価であった(2000型および2100型は
  1000ドル近くした)ことと、もう一つは大きすぎた(標
  準的なコート、シャツ、パンツなどのポケットに収まる大き
  さではなかった)ことである。また、評論家はその手書き認
  識についても酷評した。ニュートンは手書き入力をうたい文
  句にしていたが、初期の頃は非常に不正確な認識しかできな
  かった。手書き認識システムは、ロシアのパラグラフ・イン
  ターナショナル社がライセンス供与した「カリグラファー」
  と呼ばれるエンジンを用いていた。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

アップル・ニュートン.jpg
アップル・ニュートン
posted by 平野 浩 at 04:15| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月26日

●「デザイン重視のジョブズのアップル社」(EJ第2681号)

 1996年にスティブ・ジョブズがアップル社に暫定CEOと
して復帰したとき、ジョブズは技術者よりもデザイナーの流出を
心配したというのです。
 業績の悪化した企業からは優秀な人材が流出してしまうもので
すが、ジョブズはマーケティング・スタッフや一部の技術者の流
出は仕方がないと考えていたものの、優秀なデザイナーの流出だ
けは何とか食い止めたいと考えていたのです。
 技術者についてジョブズは、アップル社に復帰するとき、ネク
スト時代の技術者を連れてきているので、技術者よりもむしろデ
ザイナーを守ろうとしたものと考えられます。
 その結果、アップル社にとってきわめて幸いだったのは、工業
デザイン担当副社長兼工業デザイングループディレクター、ジョ
ナサン・アイブが残ったことです。このアイブが後のiMac、
PowerBook、iPod、そしてアイフォーンを生み出す
ことになるのです。
 ジョナサン・アイブは現在42歳ですが、英国出身で、大学在
学中から多くの有名企業の誘いを受けていたという天才的インダ
ストリアル・デザイナーなのです。
 ジョナサン・アイブをアップル社に入社させた功績は、工業デ
ザイン担当副社長の前任者ロバート・ブルーナーにあります。ブ
ルーナーは自分の後継者を探していて、アイブに目をつけたので
す。そのとき、アイブは、ロンドンにおいて急成長を続ける自分
のデザイン・スタジオ「タンジェリン」を率いていて、その地位
を捨てて、一企業のインハウスデザイナーになるとはとても考え
られなかったのです。
 しかし、ブルーナーはアイブを熱心に口説いたのです。実はそ
のときアイブは、タンジェリンであらゆる分野のデザインを担当
してみて、自分のライフワークは電子機器のデザインで行こうと
決めていたのです。
 アイブは熱心に入社を勧めるブルーナーの勧めにしたがい、家
族と一緒にアメリカに移住したのです。そして1992年にアッ
プル社に入社し、20周年記念のマッキントッシュのデザインで
頭角をあらわし、ロバート・ブルーナーの退任後は同社のデザイ
ン部門を率いているのです。
 結局、アイブはスピンドラー、アメリオという2人のCEOを
経て、デザインに知識も理解もあるジョブズCEOとの出会いを
果たすのです。
 ところで、アイフォーンの製品外装を見ると、次のように印刷
されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       Designed by Apple in California
      Assembled in China. Model No.A1241
―――――――――――――――――――――――――――――
 最近は、ほとんどの電気製品で「メイド・イン・チャイナ」と
か、「メイド・イン・タイワン」とか、「メイド・イン・マレー
シア」というように、生産国表示をアジア諸国とするものがほと
んどですが、アップル社の製品も例外ではないのです。
 しかし、アップル社の製品にはすべて次の一文を掲げられてお
り、他社との違いをみせています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    Designed by Apple in California
    この製品はカリフォルニア州のアップル社で
    デザインされたものである
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見れば、アップル社がいかにデザインを重視し、誇りを
持っている会社かわかると思います。もうひとつ興味深いのは、
「米国のアップル社」ではなく、「カリフォルニア州のアップル
社」となっている点です。アップル社に限らず、シリコンバレー
で起業した企業にとって、カリフォルニアの自由な風土は愛すべ
きものであり、こだわりを持っているのです。これは、もはやカ
リフォルニア州を離れることはないというアップル社の決意表明
と受け取ることもできると思います。
 もうひとつアップル社には、製品製作のこだわりとして、次の
フレーズを守っているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        “Hot,Simple and Deep”
        ホットで、シンプルで、ディープ
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、アップル社が、アップルU向けに優れたゲームソフト
を開発するさいの指針として打ち出したフレーズなのですが、こ
の指針にこだわって製品開発を進めるのです。
 最先端で格好良いものを見たとき、英語では「It's hot !」と
いうのですが、そういうものを作る――これがアップル社の指針
なのです。もっとも最近では、比較的若い人の間では、同じ表現
を「It's cool !」 ともいうのです。
 例えば、iPodを広告や店頭で初めて見た人は、どう感ずる
でしょうか。
 まず、シンプルですっきりとしたデザインに惹かれるものがあ
ります。だが、電気製品に付きものの、ボタンスイッチが一切な
いことに奇異に感ずるはずです。
 そこで実際に製品を手にして、クリックホイールを回してみる
と、その動きと画面のスクロールやボリーム調整の表示が直結し
ているような感覚に一驚する。そしてスムーズに音が出る――そ
の時点で「It's hot !」または「It's cool !」となります。
 「斬新で、取っつきやすく、それでいて奥が深い!」――アイ
フォーンにしても同様のことがいえると思います。別にマニュア
ルがなくても、あっちこち触っていると、基本的なことはすぐで
きるようになる――それでいて一台のマシンで多くのことができ
るので、奥が深いのです。アップル社の製品はすべてそういう仕
様になっています。―[クラウド・コンピューティング/09]


≪画像および関連情報≫
 ●ジョナサン・アイブについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  iPodの爆発的人気は社会現象となっており、日本でもソ
  ニーなど他社の追随を許さないほど。今年は、記憶媒体に軽
  量で音跳びが少ないフラッシュメモリーを使ったiPodシ
  ャッフルとiPodナノを発売し、各ユーザーの需要に合わ
  せた商品展開で人気を不動のものとしているのだ。iPod
  デザインチームのリーダーであるアイブ氏は、アップル社の
  チーフ・デザイナーでロンドン生まれ。アイブ氏のチームは
  iPodだけでなくiMac、iBookなどのデザインも
  担当し、英国美術協会や広告業界団体、ドイツのデザイン博
  物館、米国工業デザイナー協会などから数多くの賞を受け、
  その作品はニューヨーク近代美術館など世界中の美術館で展
  示されているそうなのだ。
        http://www.narinari.com/Nd/2005125410.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョナサン・アイブ.jpg
ジョナサン・アイブ
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月23日

●「ハードウェアを持つアップル社の強み」(EJ第2680号)

 現在、世界中のほとんどの人はマイクロソフト社のOS――ウ
インドウズを使っています。それはウインドウズがOSのデファ
クト・スタンダード(業界標準)になっているからです。
 その結果、ウインドウズが本当に使い勝手の良い優れたOSな
のかどうかの判断は、普通のユーザーにはわからないと思うので
す。選択肢があまりにも限定されているからです。すなわち、ど
こにでもある普通のウインドウズPCを選ぶか、マックPCを選
択するかの二者択一であるからです。
 それでは、ウインドウズOSとマックOSはどちらが使い勝手
が良く、どちらがより優れているかということになると、これは
後者に軍配を上げざるを得ないのです。
 それは、業界標準のOSが大幅な機能の変革をやりにくいのに
対し、マックOSは世界にただ一つアップル社しか使っていない
OSなので、変革がやりやすいということもあると思います。
 前回少し触れたように、マイクロソフト社創立者のビル・ゲイ
ツは、初期のウインドウズの開発と販売に不安を持っていて、当
時アップルのCEOのジョン・スカリーに対して、マックOSを
ライセンスして欲しいと提案したのです。
 そのときのビル・ゲイツの考え方は、マイクロソフト社はOS
の開発から手を引き、アプリケーションソフトウェアの開発と販
売に注力するつもりでいたのです。ウインドウズ戦略が大成功し
た現在ではそのことを知る人はあまりいないと思います。
 もともとマイクロソフト社はOSの開発はどちらかというと苦
手であったのです。IBM社から開発を委託されたウインドウズ
の前身OSである「MS−DOS」にしても、当時のデファクト
・スタンダードであったデジタル・リサーチ社の「CP/M」を
模倣したものであったし、ウインドウズについても先行するアッ
プル社のOSを参考にせざるを得なかったのです。したがって、
ビル・ゲイツはマックOSのライセンスを提案したのです。
 しかし、ビル・ゲイツのこの提案は、アップル社の役員会で否
決されてしまうのです。逆にいうと、これがマイクロソフト社に
とって幸いしたといえます。ここでOS事業から手を引いていれ
ば現在のマイクロソフト社はなかったと思うからです。
 その後アップル社は、マイケル・スピンドラーがCEOのとき
マックOSを他社にライセンスすることに踏み切るのです。19
94年のことです。
 その翌年から、数社からマック互換機が発売になっています。
アップル社のこの変貌を見て、多くのアナリストたちは、アップ
ル社はやがてハードウェアから撤退し、マイクロソフト社のよう
にOSやソフトウェア開発に専念のではと考えたのです。
 しかし、1996年にアップル社に復帰したジョブズは、この
マックOSライセンスを打ち切り、マック互換機戦略を終焉させ
たのです。そのため、再びマックOSをプラットフォームとする
メーカーはアップル社だけとなったのです。
 ジョブズにいわせると、ハードウェアを捨ててソフトウェアに
専念するなどということは絶対にやってはならないと考えている
のです。どうしてジョブズがこういう考え方を持ったのかという
と彼はネキストコンピュータ時代にハードウェア事業を切り捨て
ソフトウェア事業に特化して失敗しているからです。事実ジョブ
ズはネキストコンピュータ社からネキストソフトウェア社に社名
を変更しているのです。
 なぜ、ハードウェアを切り捨てることが問題になるのでしょう
か。このことに関するジョブズの考え方は非常に説得力がありま
す。テクノロジー・ジャーナリストの大谷和利氏の言葉を借りて
いうと、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 OSやソフトウエアの良さは、ある程度使い込んでみないとわ
 からない。しかも、その分野に対するそれなりの知識がないと
 的確な判断が下せない場合が多い。これは、自動車の走行運動
 性能などと似ている。これに対し、ハードウェアの外観は車の
 外装と同じく、好きか嫌いかという主観レベルのものも含めて
 誰もが話題にできる。つまり、その価値判断を行うことで、製
 品に興味を持ち、心理的に関われるのだ。そこでアップル社は
 同社製品がもたらす優れたユーザー体験を知ってもらうための
 呼び水として、魅力的な外装デザインにも力を入れた。これは
 自社ブランドのハードウェアを持たなければ採ることのできな
 い戦略だ。                ――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 マックOSがどんなに良いといわれても外形的に見ても絶対に
わからないのです。しかし、アップル社のiMacはデザインが
斬新で魅力的であるということは誰もが認めています。もちろん
使ってみなければiMacが本当に良いかどうかわかりませんが
それだけで「欲しい」と思わせることは十分可能なのです。
 しかし、機能に関しては、アップル社ほどの知名度のある企業
であれば、他のメーカーに比べてそれほど差があるものではない
ことはユーザーはわかっているので、デザインの斬新さと価格し
だいで売れるのです。
 こういう点で、今まで基本的にハードウェアを持たない戦略で
急成長してきたマイクロソフト社は現在方針を変更しつつありま
す。確かにマイクロソフト社のハードウェアというと、携帯音楽
プレーヤー「Zune」や家庭用ゲーム機「Xbox」、PC向
けのキーボードとマウスなどしかないのが現状です。
 しかし、ZuneはiPodに遠く及ばず、Xboxは米国で
は成功しているものの、全世界的なヒット商品にはなっていると
はいえないのです。しかし、マイクロソフト社の中心製品はOS
ですが、シェア90%に達している現状では良くて当たり前であ
り、問題のあることだけが批判の対象になる――ここにきてハー
ドウェアを持っていないことがマイナスに働いてきているといえ
ます。     ――[クラウド・コンピューティング/08]


≪画像および関連情報≫
 ●スティーブ・ジョブズの真骨頂
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ようやくアップルに復帰をしたものの、ここも赤字で、ブラ
  ンド力も低下していた。パソコンiMacをヒットさせたが
  長くは続かない。「よし、つぎは携帯音楽プレーヤーだ」と
  思いつくが、開発できる社員は、アップルにはいない。それ
  でもなんとか開発したiPodを専門家はみんな「ダメだ」
  とこき下ろした。音楽楽配信サービスiTMSの立ち上げに
  は、大手音楽会社の強者たちとのタフな交渉が待ち受けてい
  た。このようなピンチ続きを、ジョブズは決して嘆かなかっ
  た。むしろ「チャンスだ」ととらえ、すさまじい執念をもっ
  て要所要所の交渉を成功させた。それが彼の真骨頂といえる
  かもしれない。ピンチは嘆くものではなく、乗り越えるペき
  ものと考える人だけが、チャンスの入り口に立てるのだ。
         ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
  ―――――――――――――――――――――――――――

竹内一正氏の本.jpg
竹内一正氏の本 
posted by 平野 浩 at 04:23| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月22日

●「ビートルズ対アップルの法廷論争」(EJ第2679号)

 アップル社といえば「かじられたリンゴ」のマークで有名です
が、同じリンゴのマークを使う会社があるのです。ビートルズの
音源を管理する英国のアップル・コープスという会社です。
 両方ともリンゴをロゴマークにしており、きわめて紛らわしい
のです。そのため両社は長期にわたる法廷闘争の歴史を持ってい
るのです。
 会社の創設時期を比較すると、アップル・コープス社の方が先
なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  アップル・コープス社 ・・・・・ 1968年創設
  アップルコンピュータ ・・・・・ 1976年創設
―――――――――――――――――――――――――――――
 アップル・コープス社は、1968年の創設時期からグラニー
スミスと呼ばれるオーストラリア原産の青リンゴをモチーフとし
たロゴを使用してきています。このアップル・コープス社は、現
在、ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、ジョン・レノン
の未亡人オノ・ヨーコ、ジョージ・ハリスンの遺産管財人によっ
て共同所有されています。
 一方のアップルコンピュータ社は、1976年に創業し、右側
に一口かじった跡のある、横縞6色のカラフルなリンゴのマーク
をロゴとして長らく使用してきています。しかし、アップル社を
追放されたスティーブ・ジョブズが1997年に復帰したとき、
カラフルな色調は単色に変更されて現在にいたっています。
 リンゴを企業の顔とする「アップル」同士の闘いは、アップル
コンピュータ社の創業時より始まっています。アップル・コープ
ス社は直ちに「アップル」を企業名に使ったことに関して、アッ
プルコンピュータ社を相手取り、訴訟を起こしたのです。企業と
して当然の措置であるといえます。
 しかし、1991年に両社は和解し、両社の間で商標契約が結
ばれたのです。アップル・コープス社は高額な和解金と引き換え
に、アップルコンピュータ社が「アップル」の名前を企業名とコ
ンピュータ製品に使用することに同意したのです。
 もう少し詳しくいうと、アップルコンピュータ社は音楽を配信
するためのデバイスとソフトウエアに、アップル・コープスは楽
曲の制作と販売に「アップル」という名称を独占的に使う権利が
認められたのです。ただし、音楽市場に参入しないことが条件と
されたのです。
 ところがです。ジョブズ率いるアップル社がiTMSのスター
トに当たって、ビートルズ側にもiTMSに加わらないかという
打診を行ったところ、ビートルズ側は、これは「1991年の商
標利用の合意を破るもの」として、再びアップル社を提訴してき
たのです。
 この裁判は、ビートルズの故国である英国の法廷で争われたの
ですが、これについてiPodがいかに世界中で愛されているか
を示すエピソードがあるのです。
 それは、この裁判を担当する判事が、「私はiPodのファン
であり、自分は審理を担当する資格はない」として降りてしまっ
たというのです。これは改めて単なる携帯音楽プレーヤーに過ぎ
ないiPodが、どれほど多くの人のライフスタイルに影響を与
えているかを示す証左となったのです。
 2006年に判決が出たのですが、その結果は次のようにアッ
プル社の勝利に終わっているのです。裁判所もiPodの影響力
に左右されたのでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アップルコンピュータは記録された音楽ではなく、データを配
 信しているにすぎない。         ――裁判所の判決
―――――――――――――――――――――――――――――
 スティーブ・ジョブズは、この裁判の結果を受けて、次のよう
にコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビートルズを愛している。ビートルズの曲をiTMSで配信す
 るために協力できることを望んでいる。
         ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年1月のことです。アップル社の最大のイベントであ
る「マックワールド・エキスポ」の直前にアップル社はある決断
を行っています。それは、「アップルコンピュータ」から「コン
ピュータ」の文字をカットし、文字通りのアップル社となったの
です。これはアップル社にとって大きな決断だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      Apple Computer.Inc  → Apple Inc
―――――――――――――――――――――――――――――
 そして、この「マックワールド・エキスポ」において、ジョブ
ズは、アイフォーンの発表を行ったのです。もうPCだけの会社
じゃないという強いメッセージを世界に送ったのです。そのとき
ジョブズは有名な次のフレーズをウェブサイトのトップに掲げて
いるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      最初の30年は単なる始まりだった
―――――――――――――――――――――――――――――
 この社名変更を行ったとき、アップル社は、2007年度第1
四半期の売り上げ高が70億ドルを超えて、純利益も過去最高の
10億ドルを記録したのです。
 過去にアップル社が犯した最大のミスは早い時期にマックOS
を他社にライセンスしなかったことです。というのは、マイクロ
ソフト社が初期のウインドウズの開発に苦しんでいたとき、同社
はもしマックOSがライセンスされるのであれば、OS事業から
撤退しも良いとライセンスを求めたのに対し、アップル社は応じ
なかったのです。−―[クラウド・コンピューティング/07]


≪画像および関連情報≫
 ●大衆が絶賛する商品とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  大衆が絶賛する商品とは、大衆がまったく気づかなかった楽
  しみを提供する独創的なものだ。市場調査に頼って商品開発
  を進めると、「ちょっといいもの」で終わる。大衆が手にし
  てはじめて「あっ!これがほしかったんだ」と気づくような
  「どこにもないもの」は市場調査からは決して生まれない。
  目の前に見える需要を追うのではなく、「自分たちが需要を
  つくる」ことが、これから、より強く求められている。
         ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
  ―――――――――――――――――――――――――――

アップルコープス社対アップル社ロゴマーク.jpg
アップルコープス社対アップル社ロゴマーク
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月21日

●「なぜソニーはiPodを開発できなかったのか」(EJ第2678号)

 私が最初にiPodの音を聴いとき感じたのは何やら重い重低
音──それも魅力的な余裕のある良い音であったと記憶していま
す。もっとも、そのとき聴いた曲が日本の歌謡曲であったので、
そういう音が響いたのかもしれません。
 しかし、その音は、それまでに私の体験したソニーのウォーク
マン(カセット)、МDウォークマン、MP3プレーヤーの音を大
きく上回る音であったことは確かです。ジョブズが注文をつけた
音量が大きくシャープな音という条件は実現されたのです。
 後から考えると、初期のiPodはハードディスクであったた
め、そういう音──重低音が響いたものと思われます。現在では
フラッシュメモリが採用されており、ハードディスク・タイプの
iPodは「iPodクラシック」と呼ばれています。私の場合
ハードディスク・タイプの「iPodミニ」のあと、「iPod
ナノ」を購入したので、ハードディスクタイプの音とフラッシュ
メモリタイプの音とは明らかに違うことを確認しています。もち
ろんフラッシュメモリの方が音質は上回っています。
 回転部分のあるハードディスクタイプと回転部分のまったくな
いフラッシュメモリとは当然のことながら、音質は大きく違って
きます。もっともiPodに音楽を収録するには、PCのハード
ディスクに収録するので基本的にはハードディスクの音というこ
とになるのは避けられないことです。
 いずれにせよ、PCメーカーのアップル社の作った携帯音楽プ
レーヤーが、日本のソニーや松下を尻目に業界標準の地位を勝ち
取ったのです。これは大変なことです。どうしてそんなことがで
きたのでしょうか。
 ところでビジネススクールでは、次の英語の表現を教材に使っ
てビジネスの常識を教えているそうです。
―――――――――――――――――――――――――――――
            Wag the dog.
―――――――――――――――――――――――――――――
 どういう意味かというと、犬が尻尾を振っている様子を尻尾が
犬を振り回すと見誤ることに由来するのです。したがって、この
英語の表現は「本末転倒」という意味になるのです。
 ビジネススクールでは「Wag the dog」 を「失敗するビジネス
モデル」のひとつであると教えているのです。
 当時アップル社の主力PCの価格とiPodの価格は約10倍
の開きがあったのです。PCの価格を20万円とするとiPod
は2万円ということになります。
 この場合、iPodがいくら売れても10倍の単価の製品――
アップル社のPCを主力とする事業を救うことはできないという
教えです。つまり、尻尾のiPodが犬のPC事業を振り回して
もダメということです。
 しかし、アップル社は明らかに成功しているのです。iPod
の使い勝手の良さに感激したユーザーがウインドウズPCを捨て
iMacに乗り換えるケースが出てきているからです。
 しかし、ビジネススクールでは、それはCEOであるスティー
ブ・ジョブズのスーパープレイであり、ビジネスの世界では稀有
なことであるというのです。したがって、それは参考にはなるが
一般的な成功するビジネスモデルとしては使えないというわけで
す。つまり、大リーグのイチローの打撃術よりも、高校野球の送
りバンドの方が教科書として使えるという理屈です。
 iPodがなぜ専門の音楽メーカーから生まれなかったのかと
いうことについて、竹内一正氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  iPodはなぜ日本のソ二ーや松下から生まれなかったのか
 という疑問を何度も聞かされた。たしかに、アップルはパソコ
 ンメーカーだ。オーディオ製品なら、世界中で1億台以上売れ
 辞書にまで載っている「ウォークマン」を生んだソ二−が、先
 んじてつくって当然だと思える。松下しかりである。いろいろ
 な解釈があるが、私は経営者の力量の違いだと断言したい。す
 ごいモノを生み出すには、現場の「ノー」を受け取らない鬼軍
 曹的な管理職が必要である。現場の「できないコール」に耳を
 傾けてしまうやさしい管理職は不要だ。常識の限界で立ち止ま
 っている部下には、背中を蹴り飛ばすことだ。たとえば本田宗
 一郎は「『常識』は人間が考えたこと。それを疑って打ち破っ
 ていくのが進歩だ」と言い、ときには部下に鉄拳を見舞ってい
 た。      ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ジョブズは、開発チームが約束した期日に遅れそうになったり
技術的に壁にぶつかったりして電話をかけてくると、おだやかに
話を聞き、チームの優秀さを称えたあとで、「やればできる」と
いって電話を切ってしまうそうです。部下からは絶対に「ノー」
という返事を受け取らない人なのです。
 このようにジョブズは目標は大きく具体的に示すのですが、そ
の達成方法については一切部下にまかせるのです。上司が達成方
法にまで踏み込むことは、部下に余計な先入観を与え、実現の可
能性を限定的なものにしてしまう恐れがあるからです。
 ソニービルができる前のことですが、ソニーの盛田昭夫社長は
広報部長に対し、こういう指示を与えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1年たったとき、東京のどこかからタクシーに乗って、ひと言
 「ソニービル」と言うだけで運転手が連れて行ってくれるよう
 なPRを考えろ。――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 目標は誰でもわかる具体的なものです。社長はそれを指示し、
その達成方法は広報部長にまかせたのです。達成方法は無限にあ
るでしょう。あらゆる可能性を追求せよ――それをやるが部下の
仕事なのです。 ――[クラウド・コンピューティング/06]


≪画像および関連情報≫
 ●フラッシュメモリとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  フラッシュメモリとは、データの消去・書き込みを自由に行
  なうことができ、電源を切っても内容が消えない半導体メモ
  リの一種。半導体メモリには、データの読み書きを自由に行
  なえるが、電源を切ると内容が消えるRAMと、一度書き込
  んだ内容は消去できないが、電源を切っても内容が消えない
  ROMがあるが、フラッシュメモリは両者の要素を兼ね備え
  たメモリ――性質はROMである。
  ―――――――――――――――――――――――――――

iPod nano.jpg
iPod nano
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(2) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月20日

●「iPodはなぜ成功したか」(EJ第2677号)

 ある新製品の発表会のさい、スティーブ・ジョブズは次のよう
なことをいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 数年に一度、革命的な製品が世の中に現れて、すべてを変えて
 しまう。そういう製品を一度でも送り出すことができれば恵ま
 れているが、アップル社は、非常に幸運なことに、過去に革命
 的な製品をいくつか誕生させてきている。
                 ――スティーブ・ジョブズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 このジョブズの発言に該当するものとしては、1984年の初
代マッキントッシュと2001年のiPodが上げられます。前
者はその後のコンピュータ業界を一変させましたし、iPodは
音楽業界の在り方をすっかり変えてしまっただけでなく、それに
続く存在としてアイフォーンが登場し、携帯電話の世界に変革を
もたらしつつあります。
 ところで、ジョブズはなぜ携帯音楽プレーヤーに目をつけたの
でしょうか。
 ジョブズは日本や台湾のメーカーから発売されている携帯音楽
プレーヤーの操作が必ずしも簡単ではなく、PCとのやり取りも
複雑である点に目をつけたのです。「これなら総取りすることは
可能だ」とジョブズは考えたのです。
 そこで、ジョブズは、敏腕のエンジニア、トニー・ファデルを
加えた携帯音楽プレーヤーの開発チームを編成し、2つの注文を
出したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.説明書なしで、簡単に使うことのできる独創的プレーヤー
 2.製品の完成は一年後のクリスマスシーズンに間に合わせよ
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ジョブズから毎日のように電話がきて、次々と条件を
加えはじめたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 曲を出すのに3回もボタンを押すなんてダメだ。それに音量が
 低いし、シャープさが足りない。メニュー表示も遅い。デザイ
 ンもよくない。もっとオシャレなデザインにすべきだ、など。
―――――――――――――――――――――――――――――
 期間は約1年半程度しかないのです。その期間中に世界のどこ
にもない独創的な携帯音楽(MP3)プレーヤーを作れというの
です。しかも、ジョブズの出す条件はどんどん厳しくなる一方な
のです。それに、アップル社はPCのメーカーであって、音楽プ
レーヤーなんか作ったことはないのですから、無茶苦茶です。
 しかし、アップル社には、こういう困難な開発をやり遂げるD
NAがあるのです。果せるかな、約束通りクリスマス商戦に間に
合う2001年10月――ちょうど1ヵ月前の同時多発テロの影
響が色濃く残るなかでiPodは発表されたのです。
 iPodは、「四角と丸で表すことができる」独特のデザイン
それに大きな液晶画面を備え、その下にはiPodの象徴ともい
うべきホイールがあるのです。このホイールを用いて選曲、音量
調整、早送り、巻き戻し、画像・動画閲覧などすべての操作を直
感的に行えるのです。
 iPodの出来栄えは自らも音楽をよく聴くジョブズを満足さ
せるものだったのです。しかし、最大のネックはやはり価格――
399ドルにあったのです。発売当初、マスコミは「たかが携帯
音楽プレーヤーに399ドルも払って1000曲もの楽曲を持ち
歩く者などいるものか」と冷たく批判したものです。
 しかし、iPodは市場を独占するほどの人気を得るようにな
り、収録する楽曲は1000曲では足りないとまで、いわれるよ
うになったのです。それにiPod成功の最大の要因はiTMS
に5大レーベルを参加させることに成功したからです。ちなみに
iTMSとは音楽配信サービスのことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       iTMS/iTunes Music Store
―――――――――――――――――――――――――――――
 本来アップル社は、というより、スティーブ・ジョブズは、音
楽のビジネスに関しては門外漢のはずです。それにもかかわらず
大手レコード会社を巻き込んで音楽配信サービス――iTMSを
大成功させています。どうしてうまくいったのでしょうか。
 それは、ジョブズ自身が音楽が好きだったからです。彼はとく
にボブ・ディランの大ファンであり、新製品のお披露目のときな
どはよくボブ・ディランの「時代が変わる」の音楽を使っている
ほどです。もし、ジョブズが音楽好きでなかったら、iTMSは
成功しなかったでしょう。「好きこそものの上手なれ」、このあ
たりがビル・ゲイツと違う点です。
 iTMSの交渉において、当時全米レコード協会会長を務めて
いたヒラリー・ローゼン氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 テクノロジーの世界の人々にとって、音楽はソフトウェアにす
 ぎない。でも、スティープは熱狂的な音楽ファンだった。これ
 は音楽業界の人々にとって大きな意味があった。
           竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 音楽業界の人は、音楽をビジネスの道具と考える人に対しては
ガードを高くしてなかなか妥協しないのですが、ジョブズのよう
に自身が熱狂的な音楽ファンであり、音楽を生み出すことの大変
さをよく知り、そのすばらしさを理解している人との交渉に関し
てはガードを下げて話し合うことがあるのです。
 また、アップル社は、あのビートルズとも長い法廷論争を行っ
てきたのですが、ジョブズはビートルズにもiTMSに参加する
よう呼び掛けていたのです。しかし、ビートルズ側はかたくなで
あったのです。 ――[クラウド・コンピューティング/05]


≪画像および関連情報≫
 ●iPodが大成功した理由/竹内一正氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  iPodが大ヒットした理由は、iTMSに5大レーベルを
  参加させ、利用者を満足させたことにある。だがジョブズは
  決して、気楽に5大レーベルのCEOたちとの交渉に臨んだ
  わけではない。彼は音楽業界の専門家ではなかったからだ。
  だが、「専門じゃないからやりたくない」と言っていたら、
  iPodの成功はなかった。いやなことをやり遂げて、やっ
  と自分の好きなことをやれるようになるのだ。コミック大国
  ・日本で、総販売数2億冊を誇るメガヒット「ゴルゴ13」
  の作者さいとうたかをは、好きで「ゴルゴ13」を描き始め
  たのではないという。本当は時代劇を描きたかったのだ。し
  かし、出版社の要請で、我慢して「ゴルゴ13」を描いた。
  それだけでなく入魂の作品にした。そのおかげで、その後、
  時代劇漫画もつぎつぎと手がけることができたのだ。日常の
  仕事で、つい「専門外です」と自分に限界線を引いてはいな
  いだろうか。線引きをしている限りは、仕事の質を高めるこ
  とは難しい。能力アップも起こらない。新しいチャンスも摘
  み取ってしまっている。それではもったいない。
           竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
  ―――――――――――――――――――――――――――

iPod/1G.jpg
iPod/1G
posted by 平野 浩 at 04:18| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月19日

●「バージョン2・0に弱いアップル」(EJ第2676号)

 1996年にアップル社に復帰を果たした暫定CEOスティー
ブ・ジョブズが中心となり、社内のごく限定されたチームで開発
を進め、1998年に発表したPCが「iMac」です。
 iMacは、アップル社の社員でも発表会ではじめて知った者
が多く、ジョブズ肝いりの秘密警察がいかに機能を発揮したかが
よくわかります。このPCは、後のPCの規格に大きな影響を与
えるエポックメイキングな製品になったのです。
 iMacがどんなPCであるかについて概要をまとめると次の
ようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 15インチCRT(ディスプレイ)を装備した一体型のケース
 キーボード、マウス、果ては電源ケーブル、付属のモジュラー
 ケーブルにいたるまで半透明(トランスルーセント)というス
 タイリッシュなデザインや、ボンダイブルーと呼ばれた印象的
 な色を使い、18万円を切る、当時しては低価格が若年層や女
 性に広く受け入れられ、大ヒット商品となる。
                    ――ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 なお、文中の「ボンダイブルー」とは、アップル社の造語で、
ボンダイはシドニーにあるボンダイビーチからとられているので
す。添付ファイルでもわかるようにアップルらしい斬新なデザイ
ンですが、専門的には次の特徴があるのです。
 それは、今までどのPCにも付いていた「レガシーデバイス」
をすべて廃止していることです。少し専門的になってしまいます
が、レガシーデバイスとは、プリンターをはじめ、他の周辺機器
を接続する装置――RS−232C、RS−422系のシリアル
ポート、フロッピーディスクを廃止し、USBを全面的に採用し
ていることです。
 1998年のことであり、ハードディスクがまだ高価でUSB
メモリーが普及していない頃のことですから、フロッピーディス
クを廃止することは相当思い切った決断であるといえます。また
当時言葉ですら普及していなかったUSBポートを装着したこと
によってUSB対応の周辺機器がその後続々と開発され、現在な
ら誰でも使っているUSBメモリーが大きく普及するキッカケを
つくったのです。USBメモリーは2004年前後から爆発的に
幅広く普及し、現在ではきわめて低価格になっています。
 実は、iMacの開発に当たってジョブズが制作チームに命じ
たことは「シンプル!」だったのです。iMacが一体型であっ
てゴチャゴチャしていないのはそのためです。
 ところが、このように画期的なiMacが発売されても、ウイ
ンドウズPCを使っているユーザーの大半は、わざわざiMac
に乗り換えようとはしなかったのです。なぜなら、マイクロソフ
ト社とアップル社では文化が違うので、今までウインドウズPC
に慣れたユーザーがiMacに乗り換えるには、かなり大きな壁
があったからです。
 アップル社とマイクロソフト社の文化の違いはかなり大きなも
のがあります。企業には得意な分野と不得意な分野があり、それ
はアップル社の次のような体質の違いを形成しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アップル社は、バージョン1.0 の製品は全力を傾けて作る
 が、バージョン2.0 の製品が出てこない会社である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、アップル社は世の中にないものを出す創造的作業に強
い企業なのですが、そのバージョンアップである2.0 になると
急に意欲というか、やる気がなくなり、ひどいときは2.0 が出
てこないこともあったのです。マッキントッシュも初代バージョ
ンで燃え尽きてしまい、改良バージョンである2.0 の発売が遅
れ、販売不振を招いているのです。
 それに対してマイクロソフト社は、この2.0 が得意の企業な
のです。マイクロソフト社について、既出の竹内一正氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 たとえばビル・ゲイツのマイクロソフトはバージョン2・0が
 得意だ。ウィンドウズは、ウィンドウズ95を1995年に出
 して以来、いくつもの新バージョンが出たが、どれも大局的に
 は同じである。新技術は生み出されていない。「マイクロソフ
 トは95年の製品をマイナーチェンジだけして13年も売り続
 けている」と評する人も少なくない。しかし、バージョン2・
 0という「改善」にエネルギーを費やすマイクロソフトは世界
 一のソフトウェア企業となり、ゲイツは13年連続で世界一の
 金持ちとなっている。竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ジョブズがアップル社に復帰して、この面も改善され
ていると私は思います。アイフォーンは、初代バージョン、3G
それに3GSとバージョンアップしてきていますが、その外形に
変化はなく、外からはバージョンの違いはわからないのです。
 もちろん機能は向上しているのですが、その新機能についても
ネットからのOSやソフトウェアのダウンロードで、旧バージョ
ンの人も使えるよう配慮されているのです。
 あるマシンを購入したすぐ後で改良されたニューマシンが発売
されると、購入者は損をしたように思うのは人情です。しかし、
少なくともアイフォーンに関する限り、3Gでも3GSでもソフ
トウェアの追加によって差はあまりないのです。
 社員に対しては、傲岸不遜で人情知らずといわれるスティーブ
・ジョブスでも顧客に対してはそういう配慮をするようになって
きたことはアップル社の大きな進歩であると私は考えます。
 アップル社がiMacを出しても誰も驚きませんが、iPod
を2001年に発表したとき世界は驚愕したのです。明日のEJ
で取り上げます。――[クラウド・コンピューティング/04]


≪画像および関連情報≫
 ●iMac登場/1998年
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1998年、パーソナルコンピュータのデザインに革命が起
  きた。iMacの登場である。それは、CRT一体型でポッ
  プな色づかい、しかも内部構造が半透明の筐体から透けて見
  えていた。それはPC・AT互換機の「箱」とまで形容され
  る機能一辺倒で無骨なデザインに、無機質で「オフィスアイ
  ボリックカラー」とも呼ばれる一辺倒なカラーリングの製品
  を見なれている人々を驚かせ、好意をもって迎えられた。i
  Macの常識を打ち破るデザインは、女性や若年者や初心者
  あるいは無骨なデザインに飽き飽きしていたユーザの心を釘
  付けにした。内部的には変形五角形の専用ロジックボードが
  使用されこれにより、他のパソコンには見られない個性的な
  フォルムを実現している。      ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

アイマック/初代バージョン.jpg
アイマック/初代バージョン
posted by 平野 浩 at 04:18| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月16日

●「アップルには秘密警察がある」(EJ第2675号)

 スティーブ・ジョブズは、暫定CEOに帰り咲くと、まず最初
にやったことは、宿敵マイクロソフト社のビル・ゲイツに直接電
話を入れたことです。1997年のことです。いったいどんな話
をしたのでしょうか。
 電話の内容は、アップル社の持っている特定の知的財産のいく
つかをマイクロソフト社に譲渡したいという提案だったのです。
それは、ウインドウズのGUI――グラフィカル・ユーザ・イン
ターフェース構築のためにビル・ゲイツがのどから手が出るほど
欲しがっていることをジョブズはよく知っていたからです。
 マイクロソフト社がウインドウズを構築するときにアップル社
の持つ多くの知的財産(特許)が大きな壁になったのです。その
ときの詳しい状況については、元イギリスのマイクロソフト社に
入社し、その後同社の日本法人に移籍したトム・佐藤氏の著書に
出ているので、その一部をご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウィンドウズ1.0 出荷のさい、アップルとマイクロソフトは
 大喧嘩をした。そしてマイクロソフトがマック用ソフトを開発
 して販売する代わり、ウィンドウズのルック&フィール(デザ
 インなど視覚的なもの)を認める契約を交わしていた。ゲイツ
 は交渉事に関しては圧倒的に強く、2.0 がマックに似たよう
 なものになっても問題ないように、契約をしたつもりだった。
 ところが、ウィンドウズ2.0 についてアップルのジョン・ス
 カリーCEOは、マイクロソフトを契約不履行ではなく、コピ
 ーライトの侵害で提訴した。アップルはGUIのルック&フィ
 ールは自社の知的財産権であり、真似した部分を削除せよと要
 求したのである。      ――トム佐藤著/新潮社298
        『マイクロソフト戦記/世界標準の作られ方』
―――――――――――――――――――――――――――――
 とにかくこのときの訴訟合戦は大変だったのです。もともとウ
インドウズのGUIの原型はゼロックス社の「STAR」であり
これを巡りゼロックス社、アップル社、マイクロソフト社――そ
れにウインドウズ2.0 上で簡単なユーザーインターフェースを
制作したヒューレッド・パッカード(HP)社までが訴訟合戦に
巻き込まれたのです。
 この訴訟合戦を見てIBMはウインドウズをOS/2プロジェ
クトから遠ざけたのです。もし、ウインドウズ2.0 をPCにバ
ンドルすると、このドロ沼の訴訟合戦に巻き込まれる懸念があっ
たからです。後から考えると、このことがマイクロソフト社に幸
いし、IBMは大きなチャンスを逃したのです。
 それはさておき、アップル社のジョブズ暫定CEOから提案が
あった件についてビル・ゲイツは、それを受け入れる決断を下し
たのです。
 その結果、ジョブズはマイクロソフト社からアップル社へ1億
5000万ドル(173億円)の投資を引き出したのです。さら
に、マッキントッシュPC用の「マイクロソフト・オフィス」の
販売とアップデート継続の約束をとりつけたのです。
 スティーブ・ジョブズは、人から受けた恩義などはすぐ忘れる
人であり、人間的には大いに問題がある人物なのですが、事業経
営に関しては天才のひらめきを見せるのです。こういうジョブズ
について、既出の竹内一正氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「過去をなつかしんで見る暇があったら、未来を見る」―――
 ジョブズにとって過去は忘れ去るべきものでしかないようだ。
 だから、受けた恩にも感謝しない。恩知らずと言っていいほど
 情実無用だ。だからこそ、しがらみによって判断が鈍ることが
 なかったともいえる。目的達成のためには、たとえ宿命のライ
 バルであるビル・ゲイツとでも、平気で手を結ぶことができる
 のである。恩義を忘れる一方で敵とは握手を交わすという驚愕
 の行動はアップルのファンから轟々たる非難を受けたが、ジョ
 ブズは気にもとめなかった。生み育てたアップルが、自分が不
 在の間に、パソコン市場の片隅に追いやられている。この会社
 を短期再生するためには、市場を牛耳っているマイクロソフト
 と提携するのが唯一の策だったのだ。
         ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 スティーブ・ジョブズが戻る前のアップル社が業績不振にあえ
いだ理由のひとつに社内情報の管理不足があるのです。この会社
は、社員でないと知り得ない情報がすぐ漏れるのです。たとえば
新製品の出荷時期などは簡単に漏洩してしまうのです。
 良い意味ではオープンな社風なのですが、だんだん度が過ぎる
ようになっていったのです。例えば、社内であるプロジェクトの
計画があるとき、それに反対するスタッフが仲の良い記者にマイ
ナスの情報をリークしてプロジェクトを潰すということまで行わ
れるようになったからです。
 暫定CEOになったジョブズは、この情報リークを防ぐため、
旧ソ連の秘密警察KGB並みの情報統制をひいたのです。社員が
マスコミと話すことを禁止し、内部情報を漏らした者は即解雇す
るという厳しい情報管理体制です。
 やがて、アップル社からの新製品を含む発表は、スティーブ・
ジョブズ暫定CEOの口から直接語られるようになったのです。
そのため、マックワールドなどのフェアにおけるジョブズの基調
講演には、マスコミ各社が大勢押し掛けて、何を話すか真剣に聞
き入るようになったのです。
 首相のぶらさがり会見のように多くの記者はジョブズのコメン
トをとろうとして追いすがりますが、ジョブズは絶対に話さない
のです。その様子は何となく民主党の小沢幹事長を見ているよう
な感じがします。しかし、どんなにじゃけんにされても記者たち
の間ではスティーブ・ジョブズは人気があるのです。不思議な魅
力があるからです。―[クラウド・コンピューティング/03]


≪画像および関連情報≫
 ●ジョブズはチョコレート/ある女性記者
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ジョブズはチョコレートのようなもの。私にとってよくない
  ことはわかっている。でも、とっても好きなの。だから家の
  真ん中には置かないようにするの。私はジョブズのまわりに
  いることが好き。それは彼が世界の中心的存在だから。
         ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョブズCEOのスピーチ.jpg
ジョブズCEOのスピーチ
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月15日

●「スティーブ・ジョブズとはどんな人物か」(EJ第2674号)

 1998年のiMac、2001年のiPod、そして、20
07年のアイフォーンの発売、いずれも成功し、今やアップル社
は世界中の注目を浴びる企業になっています。何しろアップル社
は米『フォーチュン』誌による「21世紀初頭に全米で最も尊敬
される企業」のひとつになっているのです。
 しかし、今から15年ほど前の1990年代半ばにはアップル
社の財政は最悪の状態にあり、いつ倒産してもおかしくなかった
のです。それなのにどうしてアップル社は立ち直ることができた
のでしょうか。
 それは、1996年にかつてCEOであったスティーブ・ジョ
ブズが特別顧問としてアップル社に復帰したことが、アップル社
の大復活につながったことは間違いないのです。
 これからのケータイ新時代において、アップル社が何を仕掛け
てくるかはきわめて重要です。それを予測するには、ジョブズが
アップル社に復帰してから何をしたかについて知っておくことは
役立つと思うので、それについて調べてみることにします。
 アップル社の創業は1976年ですが、スティーブ・ジョブズ
は1985年にアップル社を追われています。それも自らがペプ
シコーラから引き抜き、CEOに据えたジョン・スカリーによっ
て社を追われているのです。なぜ、アップル社を追われたかにつ
いては著作もたくさんあるので、それに譲ることにします。
 スティーブ・ジョブズが去った1985年から、ゆっくりとで
すが、アップル社の求心力は失われていったのです。1990年
代に入ってしばらくすると、アップル社はウインドウズPCメー
カーに追従するようなしないような曖昧な戦略をとり、OS開発
の滞りなども重なって評判を落とし、1990年代半ばには会社
の存続は風前のともしび同然になってしまったのです。
 ジョブズはアップル社を追われた1985年に所有していた同
社の株式650万株を売却し、そのお金でネクストという会社を
設立したのです。
 しかし、事業は成功せず、赤字続きだったのです。業績不振の
会社は人間関係がおかしくなるものです。まして、ジョブズとい
う人物は、傲岸不遜の言動、超自己中心的な性格として知られて
おり、創業時の優秀な人材が次々と辞めていったのです。
 ジョブズは自分のメガネに合う5人の人物をネクストに連れて
行っています。この人選はジョブズがアップル社の会長のときに
行われたのですが、ジョブズは「業務や現在アップル社が手がけ
ている製品開発に支障をきたすメンバーではない」と明言してい
たのです。しかし、これは本当ではなかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 新会社へ行くのは、アップルの重要な仕事には関わっていない
 低レベルのメンバーだと信じていたスカリーにも、やっとジョ
 ブズの本心がわかったのだ。リストには、アップル技術者の最
 高の名誉「アップルフェロー」であるリック・ペイジが入って
 いた。ソフトウェア開発マネジャーのダニエル・ルインも入っ
 ていたし、アップルがもっとも強いとされる教育市場のマーケ
 ティング責任者まで名を連ねていたのだった。
         ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ジョブズをアップル社に復帰させたのは、1996年
からアップル社のCEOであったギル・アメリオなのです。アメ
リオは、アップル社の再生を託すのはジョブズしかいないと考え
て、ネクスト社の作ったOS「ネクストステップ」を次期アップ
ルマシンのOSとして採用し、同時にネクスト社自体を買収して
ジョブズの復帰を歓迎したのです。それに現金3億7750万ド
ル(約434億円)とアップルの株式150万株を贈るという破
格の待遇です。つまり、ジョブズにとってアメリオはとても足を
向けては寝られない大変な恩人になるのです。
 アメリオは膨れ上がったアップル社の在庫を圧縮し、大幅な人
員整理に手をつけ、当時数百にも及んでいた大量の新規プロジェ
クトを一気に削減しています。これらの果断な処置でアップル社
の財務体質は確実に改善されていったのです。そのうえで、ジョ
ブズにアップル社の再建を委ねたのです。
 しかし、当のジョブズは、恩人であるアメリオに感謝するどこ
ろか、その追い落としを仕掛けるのです。ジョブズは、アップル
社の取締役でデュポンの会長を兼務するエド・ウラードに接近し
味方に引き入れています。そして、取締役会でウラードにアメリ
オCEOがアップル社の業績向上に寄与していないことを発言さ
せ、辞任を迫ったのです。このクーデターは成功し、アメリオは
1997年に退社しています。アメリオを退任に追い込んだ取締
役会は、ジョブズにCEO就任を要請したのです。
 しかし、ジョブズもしたたかです。彼は年俸を「1ドル」とし
さらにCEOの頭に「暫定」の文字を付けてみせたのです。年俸
を1ドルにしたのは、「お金が目的でCEOをやってるんじゃな
い。自分のつくった会社を救いたいだけである」ことをデモンス
トレーションし、「暫定CEO」としたのは、「ずっとCEOを
やるんじゃない。適任者が見つかるまでのつなぎである」ことを
アップル社の社員に訴えたのです。
 これに関して、アップル社でマックOSのライセンス事業に携
わったこともある竹内一正氏は、アップル社の再生について次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 危機的状況にあった企業が、たかがトップの交代によって、ほ
 んの数か月で復活するはずがない。本当の立役者は、在任中に
 財務を改善した前CEOギル・アメリオなのだ。彼のまいた種
 が芽を出そうとした絶妙のタイミングで、ジョブズがCEOを
 引き継いだだけのことである。 ――竹内一正著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
        ――[クラウド・コンピューティング/02]


≪画像および関連情報≫
 ●スティーブ・ジョブズについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  スティーブ・ジョブズはアメリカ合衆国の企業家。スティー
  ブ・ウォズニアック、マイク・マークラらと共に商用パーソ
  ナル・コンピュータで世界で初めて成功を収めたアップル社
  の共同設立者の一人。また、そのカリスマ性の高さから、発
  言や行動が常に注目を集め続ける人物である。ファーストネ
  ームをスティーブンまたはステファン、ファミリーネームを
  ジョブスとして表記されることもあるが、アップル日本法人
  公式サイトではスティーブ・ジョブズと表記している。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

アップル社/スティーブ・ジョブズ.jpg
アップル社/スティーブ・ジョブズ
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月14日

●携帯電話が変貌しつつある(EJ第2673号)

 携帯電話が劇的に変貌しつつあります。アイフォーンをはじめ
とするスマートフォンがどんどん普及しているからです。私事で
すが、今年4月末日に「アイフォーン3G」を購入し、既に5ヶ
月使ってきていますが、使い勝手は上々です。
 EJでは携帯電話のテーマを過去に何回も取り上げています。
それは技術革新が最も顕著にあらわれるのが携帯電話であるから
です。EJの一番新しい携帯電話の記事は、2007年1月5日
から3月6日までの41回にわたる連載です。
 2006年12月に番号ポータビリティ制度を利用して、19
99年5月から利用してきたNTTドコモからソフトバンクに切
り替えたのです。ソフトバンクの孫社長の携帯電話の改革に賭け
る意気込みに共感したからです。
 このときの連載は大変反響を呼び、ブログでは多くの方からア
クセスをいただきました。この内容は、現時点でも背景を知るに
は役立つと思いますので、興味があればぜひブログを読んでいた
だきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
     EJ第1993号〜第2033号
     『ケータイ2.0/生き残るのはどこか』
       ― 知られざる衝撃の通信戦争 ―
http://electronic-journal.seesaa.net/category/2498896-1.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 あれから2年半以上が経過し、孫社長の仕掛けたケータイの革
命は急激に進んでいます。そして、2008年7月11日――日
本でアイフォーンが発売されたのです。
 そのとき、発売日前日からキャリアになるソフトバンクモバイ
ルの原宿表参道の旗艦店の前には長い行列ができたのです。東京
メトロ・明治神宮前駅近くから始まった行列は総延長900メー
トル、渋谷駅に近い東京電力・電力館前まで続いたのです。行列
した人数は約1500人といわれています。
 しかし、発売当日の人気にもかかわらず、日本でのアイフォー
ンの普及は現在でも今ひとつであり、大きく伸びているとはいえ
ないのです。その理由は、日本のケータイの環境が世界に比べる
ときわめて特殊であり、「ガラパゴス」といわれていることに深
く関係しているからです。
 しかし、ケータイの変革の波は、世界レベルで津波のように起
こっており、日本だけ特殊環境――けっして居心地の良くない環
境――のままでいられるはずがないのです。おそらく数年のうち
に劇的変化が起きることは確実と思われます。
 そこで、EJの今回のテーマを次のように決め、本日から連載
することにします。最新情報を盛り込む予定ですので、ご愛読を
お願いします。今回は予告編です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   『電話が変貌する!スマートフォン時代が到来する』
    ─iPhone革命とクラウド・コンピューティング─
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年6月29日――米国でアイフォーンが発売された日
です。米国でも、アイフォーンの販売を行う各地のアップルスト
アとAT&Tのショップの前には長い行列ができたのです。
 予約受付を廃し、アップル社とコネのある人にも一切配慮せず
実際に並んだ順番でしか購入できないという販売方式をとったか
らです。そのため、行列には多くの有名人が並んだのです。
 ニューヨークのソーホーにあるアップルストアでは、映画監督
のスパイク・リーや女優のウーピー・ゴールドバーグ、フィラデ
ルフィアでは、第97代目のジョン・F・ストリート市長までが
並んだのです。
 このストリート市長は、フィラデルフィア市内全域を無線LA
Nによってカバーする計画を強力に推進するITに強い市長であ
り、そういう市長だからこそ、アイフォーンは誰よりも早く手に
したいと思ったのでしょう。
 もっとも象徴的だったのは、シリコンバレーのサンタクララに
あるアップルストアの前に並んだスティーブ・ウォズニアックで
す。ウォズニアックといえば、アップル社の現CEOスティーブ
・ジョブズと一緒にアップル社を創立した仲間です。
 実はウォズニアックのもとには、ジョブズCEOから翌日の土
曜日にアイフォーンを届けるというメッセージが入っていたので
すが、彼は明日まで待っていられないとして、発売日の午前3時
半から並び、子供の分を含めて自ら購入したというのです。
 このようにして、米国国内でアイフォーンは、最初の2日間で
27万台、3ヶ月で100万台が販売されたのです。それから、
わずか一年間でアップル社は世界のベスト10圏内に入る携帯電
話メーカーになったのです。
 アップル社がアイフォーンを発表したのは2007年1月9日
のことです。これに対して、アップル社の長年のライバルであり
アップル社のiPodに対抗して発売したマイクロソフト社の携
帯音楽プレーヤー「Zune」の開発者は、当時次のように論評
したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (そのような製品は)携帯電話として優秀か、携帯音楽プレー
 ヤーとして優秀かのどちらかしかない。電話とメディアプレー
 ヤーを一緒にした場合、デザイン上の問題が起こる。様々に異
 なる入力をどう行わせるか、最適な画面サイズは何か、バッテ
 リー駆動時間などだ。           ――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 その時点では、アップル社がどのような製品を出してくるか想
像もできなかったのだから仕方がないですが、マイクロソフト社
の開発陣の限界がよくあらわれています。電話と音楽プレーヤー
との一体化どころか、アップル社はネットをしっかりと視野に入
れていたからです。―[クラウド・コンピューティング/01]


≪画像および関連情報≫
 ●マイクロソフト社発表/2009年9月15日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「Zune HD」 は有機ELタッチスクリーン、「NVIDIA Tegra
  HD」プロセッサを搭載し、HDラジオ、ウェブブラウザなど
  の機能を搭載する。16GB版が219.99 ドル、32G
  B版が289.99 ドル。Zune HD に合わせて新版 Zuneソ
  フトと各種サービスも提供開始した。新版ソフトは検索機能
  やレコメンド機能を備え、最近追加したコンテンツやお気に
  入りのコンテンツにホーム画面からワンタッチ、ワンクリッ
  クでアクセスできるクイックプレイ機能などが盛り込まれて
  いる。         ――ITメディア・ニュースより
  ―――――――――――――――――――――――――――

「Zune/マイクロソフト社」.jpg
「Zune/マイクロソフト社」
posted by 平野 浩 at 05:38| Comment(0) | TrackBack(1) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月13日

●「カギ握る知財権と濃縮ウランビジネス」(2672号)

 「知財」――いわゆる知的財産権の保護に関して米国はいろい
ろなことをやってきているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪カーター政権≫
  ◎1982年/特許高等裁判所(CAFC)の創設
 ≪クリントン政権≫
  ◎1988年/スペシャル301条の成立
  ◎1994年/TRIPS協定のGATTにおける成立
  ◎1995年/中国の偽造CDの生産拠点の閉鎖
―――――――――――――――――――――――――――――
 個々について詳しく述べる紙面はありませんが、はっきりして
いることは、米政府、とくに民主党政権が知的財産権の保護に熱
心であることです。
 なぜ、米国はこれほど知的財産権の保護を声高に主張するので
しょうか。実は米国がものづくり国家であったときは、この知的
財産権の保護にそれほど熱心ではなかったのです。
 しかし、米国がものづくり国家としての限界を感じ始めたとき
から、米国企業は選択と集中――すなわち、産業界が強い技術を
持つ分野に特化しようとしたとき、知的財産権の保護の重要性に
目覚めたというわけです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この技術、権利として未だ認められていないのでないか。ずる
 がしこい日本やアジアにコピーされたらひとたまりもない。
                      ――原田武夫著
         『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう米国の政策の最初のターゲットになったのは日本なの
です。今後は中国をはじめとするアジアになると思われます。こ
ういう考え方がクリントン政権時代における「日米包括協議」、
前ブッシュ政権における「対日年次改革要望書」などのかたちに
なって、日本を苦しめたのです。
 この役割を担うのがヒラリー・クリントン国務長官であると原
田氏は述べていますが、それはなぜでしょうか。
 当時のクリントン候補が2008年の大統領選で、インディア
ナ州の予備選を前に同州の民主党員たちに配布したプレスリリー
スには次のように書いてあるのです。このように、夫のビル・ク
リントン政権以来の民主党政権において、知的財産権問題は彼女
の一貫して強い関心事であったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 侵害行為を止めさせるために知的財産権執行ネットワークを創
 ります。(中略)我が国の自動車産業だけで毎年120億ドル
 もの損失――この損害は25万人分の雇用に相当――を偽造に
 よって被っており、しかもその75パーセントについて中国が
 責めを負うべきなのです。クリントン上院議員はこれが一朝一
 夕で解決される問題ではないと分かっています。(中略)大統
 領になった暁には、クリントン上院議員は新しい知的財産権執
 行ネットワークを創設し、その保護を強化するための包括的か
 つ国家的な努力を向上させ実施していきたいと考えています。
                      ――原田武夫著
         『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国による巧妙な見えない覇権に向けた企てはもうひとつある
のです。それは「原子力」です。これは、何を意味しているので
しょうか。
 ビル・クリントン政権は、1998年7月28日においてウラ
ン濃縮を専門に行う公営企業体をニューヨーク株式市場に上場さ
せているのです。その企業体の名前は「アメリカウラン濃縮社」
というのです。ウェブサイトを示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      http://www.usec.com/quickfacts.htm
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、濃縮ウランとは何でしょうか。
 天然ウランは、数億年の長い年月の間にウラン235とウラン
238の含有比率が一定になり、その比率は前者が0.7 %、後
者が99.3 %として鉱山から産出されます。しかし、軽水炉で
はウラン235が0.7 %では薄過ぎて燃やせないのです。核分
裂をしないからです。天然ウランを燃えるように3〜4%に濃く
したものを濃縮ウランといいます。そして、20%以上にしたも
のを高濃縮ウランといいます。
 米国は古くなった核弾頭を解体し、そこから高濃縮ウランを創
り出すノウハウを持っているのです。そのため旧ソ連崩壊後、ロ
シアが処理に困っていた2万発の核弾頭を処理した実績があるの
です。高濃縮ウランは、原子力発電所をはじめとして多くの分野
に活用できますが、アメリカウラン濃縮社はそれを世界中に売り
捌こうとしているのです。
 しかし、アメリカウラン濃縮社のビジネスが成功するには、次
の2つの前提条件が必要なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.世界中の国が納得して濃縮ウランを買うようになる
  2.濃縮ウラン・ビジネスを計画している国を排除する
―――――――――――――――――――――――――――――
 最大の競争相手はロシアということになります。そこで前ブッ
シュ政権は、2008年4月6日に「米ロ戦略枠組み合意」を結
んでいますが、これは米ロで濃縮ウラン・ビジネスの棲み分けを
狙ったものなのです。低濃縮ウランはロシア、高濃縮ウランは米
国という分担です。
 折からの環境社会において原子力は貴重なエネルギー源になり
ますが、米国はこれを先取りしたのです。デフォルト宣言をして
借金をチャラにし、知財と原子力で国家の復活を狙う――これが
オバマ政権の戦略なのです。―[オバマの正体/最終回/62]


≪画像および関連情報≫
 ●バラク・オバマ/ヒラリー・クリントンの謎!?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  やがて世界は一斉にアメリカ産核燃料(濃縮ウラン)を買い
  付け始めるであろう。その時、今度は「スーパー・セールス
  ウーマン」として世界中を飛び回り、大活躍するのがヒラリ
  ー・クリントン国務長官、その人なのである。米朝国交正常
  化がなぜか再びスムーズに進展しはじめ、イランが「普通の
  国」となつていく中、飛び回るヒラリー・クリントン国務長
  官の姿を目の当たりにし、私たち日本人は必ずや思うことだ
  ろう。――「あの大統領選挙は一体何だつたのか」、そして
  「バラク・オバマ、ヒラリー・クリントンとはいったい何者
  なのか」と。              ――原田武夫著
         『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

ヒラリー&オバマ.jpg
ヒラリー&オバマ
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする