2017年10月20日

●「SF映画から未来予測はできるか」(EJ第4629号)

 英誌『エコノミスト』副編集長であるトム・スタンデージ氏に
よると、2050年を見通す鍵は、過去、現在、そして「SFで
描かれる未来を調べること」とあります。
 確かに、大半が未来のことを描いているSFは、小説であれ、
映画であれ、作者は何らかの根拠に基づいて書いているはずなの
で、未来を予測するヒントになり得るといえます。その典型的も
のに、次のSF映画の傑作があります。
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           映画『2001年宇宙の旅』
            原題:2001:A Space Odyssey
     製作・監督:スタンリー・キューブリック
─────────────────────────────
 この映画は、1968年4月6日に公開されているのですが、
この映画の表題になっている「2001年」は、映画の公開から
33年後の世界です。まさにSFです。
 映画のなかでは、木星探査の宇宙船ディスカバリー号には「H
AL」という名のコンピュータが搭載されています。HALは、
宇宙船乗務員が「音楽を頼む」といえば、音楽が流してくれ、話
しかけると、適切に応答してくれる音声認識のできるAI(人工
知能)そのものです。このことは、映画公開後、約50年で、既
にわれわれのスマホで実現しています。やはり、この映画は、約
50年後のコンピュータを予測していたといえます。このAIコ
ンピュータ「HAL」には、次の隠された意味があるのです。
─────────────────────────────
           次のアルファベット
         H ・・・・・・・ I
         A ・・・・・・・ B
         L ・・・・・・・ M
─────────────────────────────
 HALの3文字のアルファベットの次の文字は、それぞれIB
Mになります。つまり、当時のコンピュータの巨人のIBMより
も優れたコンピュータであるという意味です。
 この未来の予測に関して、トム・スタンデージ氏は次のように
述べています。
─────────────────────────────
 SFは単に未来を予測するだけではない。技術者が新しいもの
を生み出すためのひらめきも与える。たいていの技術者はひと皮
むけばSFファンだ。1990年代のフリップ開閉式の携帯電話
などは、1960年代のテレビ番組『スタートレック』に登場す
る携帯通信機に触発されたように見える。また、コンピュータと
直接会話するというのも『スタートレック』に登場していたアイ
デアだが、このところ新たな潮流としてアマゾンの「アマゾン・
エコー」をはじめ、音声を基本的なインターフェースとする、常
時オンの手ぶらで使えるコンピュータ端末が登場している。
         ──英『エコノミスト』編集部/土方奈美訳
   「2050年の技術/英『エコノミスト』誌は予測する」
                       『文藝春秋』
─────────────────────────────
 テレビ番組『スタートレック』は、23世紀の宇宙船USSエ
ンタプライズのクルーが、未知の宇宙を探索する物語です。若く
有能なジム・カーク船長、ヴァルカン人と地球人のハーフである
スポック、皮肉屋ドクター・マッコイの3人を中心として展開。
毎週のように登場する異星人や未知の惑星との遭遇が、基本形と
なって話が展開します。
 『スタートレック』は、あのスティーヴン・ホーキングが熱烈
なファンであり、自らの講演でよく引用するそうです。エンジニ
アのファンの多い番組といわれます。
 この『スタートレック』というテレビ番組に対して、『スター
ウォーズ』という映画があります。名前がよく似ていますが、全
然違う作品です。この両作品のメガフォンをとったJ・Jエイブ
ラムス氏は、この両作品の違いを次のように述べています。
─────────────────────────────
 『スター・ウォーズ』は、常におとぎ話のようなファンタジー
だ。そして『スター・トレック』はSFなんだ。『スター・ウォ
ーズ』は遠い昔で、一方の『スター・トレック』は未来が舞台と
いうのもおもしろい違いだね。もちろん似ている点があるのも確
かだよ。宇宙船とかエイリアンとかね。でも根本的に違うんだ。
違うトーンに、違う感情だし。    ──J・Jエイブラムス
─────────────────────────────
 これに対して、グーグルは『スターウォーズ』の新作が封切ら
れると、マウンテンビューにある2つの映画館を借り切って、全
社員に『スターウォーズ』を見せています。業務命令です。梅田
望夫氏が、作家の平野啓一郎氏との対談のなかで、そのことを明
かしています。
─────────────────────────────
◎梅田:少なくとも彼らが政府とか言うときのイメージってすご
    く単純ですよ、そこに人文科学系の深みのようなものは
    ないです。「スター・ウォーズ」といえば、公開される
    前日は、シリコンバレーのマウンテンビュー市の映画館
    全部がグーグルの貸切だったんですよ。
◎平野:えっ、そこまで?社員全員が見るんですか?みんながそ
    の価値観を共有しているんですか?
◎梅田:価値観を共有」といえば強すぎるけれど、けっこう影響
    はされていると思う。それは「はてな」の近藤(淳也社
    長)たちも一緒で、僕は取締役になるための通過儀礼と
    して「スター・ウォーズ」のDVDを全部見てくれって
    言われたんですから。  ──梅田望夫/平野啓一郎著
                『ウェブ人間論』/新潮新書
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/19]

≪画像および関連情報≫
 ●『スター・トレック』『スター・ウォーズ』は全然違う!
  ───────────────────────────
   映画界のみならずカルチャーシーンにも多大な影響を与え
  てきた2大メガシリーズ『スター・トレック』と『スター・
  ウォーズ』の両作品でメガホンを取った、唯一の存在、J・
  J・エイブラムスが、『スター・トレック・ビヨンド』のプ
  ロモーションで来日した際に、両シリーズの違いなどについ
  て語った。
   2009年にエイブラムスがリブートさせた新『スター・
  トレック』シリーズの第3弾にあたる『スター・トレック・
  ビヨンド』。本作では、『ワイルド・スピード』シリーズの
  ジャスティン・リンがメガホンを取り、エイブラムスは製作
  にまわった。「ジャスティンは、とてもよくやってくれたと
  思う。特にアクションシーンは僕にとってとても勉強になっ
  た。彼はアクション映画のプロだからね」と今作について切
  り出すエイブラムスは、「正直、嫉妬したね。だって、俳優
  陣は素晴らしいし、(サイモン・ペッグとダグ・ユングの書
  いた)脚本はとてもおもしろい」と打ち明ける。
   実は、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の編集真っ
  只中で、本作の撮影現場にあまり行くことができなかったの
  だという。「彼らに重大な課題を託していったわけだけど、
  彼らがとても素晴らしい仕事をこなしてくれて本当に感謝し
  ているんだ」とキャスト&スタッフをねぎらう一幕も。
                   http://bit.ly/2xNUQAV
  ───────────────────────────

映画「2001年宇宙の旅」.jpg
映画「2001年宇宙の旅」
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2017年10月19日

●「日本のガラケーはスマホの先取り」(EJ第4628号)

 トム・スタンデージという人がいます。英誌『エコノミスト』
の副編集長兼デジタル戦略責任者です。彼は、2050年のテク
ノロジーの未来予測に関して、次のように述べています。
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           過去、現在、SFで描かれる未来。
     この3つが2050年を見通すための鍵になる。
  15年前、スマートフォンの登場を予測していた人々は
  日本人の女子高生に注目した。
         ──英『エコノミスト』編集部/土方奈美訳
   「2050年の技術/英『エコノミスト』誌は予測する」
                       『文藝春秋』
─────────────────────────────
 トム・スタンデージ氏は、2050年の未来のテクノロジーを
予測するには、最初に「過去」を振り返ってみるべきだと説きま
す。テクノロジーの歴史には、繰り返し、登場するパターンが存
在するからです。まず、トム・スタンデージ氏による次の文章を
読んでいただきたいと思います。
─────────────────────────────
 新たなネットワーク・テクノロジーは、長距離通信に革命的変
化をもたらす。通信はそれまでより圧倒的に安く、便利になる。
企業はそれを熱狂的に受け入れて、投機ブームが巻き起こる。新
たなテクノロジーは支持者からはひたすら称賛され、反対派から
は徹底的に中傷される。また、新たなビジネスモデルが可能にな
ると同時に、かつてない犯罪にも道を拓く。政府は暗号技術の拡
散防止に手を尽くし、あらゆる通信の開示を求める。個人はネッ
トワークを使って友達を作り、恋に落ちる。コミュニケーション
によって国境は消え、人類は一つになる。そのため、新たなテク
ノロジーは世界平和につながると見る者もいる。
        ──英『エコノミスト』編集部著の前掲書より
─────────────────────────────
 これは、どう考えてもインターネットの描写としか思えません
が、実は19世紀半ばの電報についての話なのです。1837年
9月のことですが、サミュエル・モールスは、電気的テレグラフ
の公開実験を行っています。
 レジスタという通信文を紙のテープに記録するための端末装置
が開発され、公開実験によって、首尾よく5キロメートル離れた
ところまで通信文を送ることに成功しています。そして1844
年5月には、ワシントンDCとボルティモア間の64キロの通信
に成功しています。電信的電報システムがこのときからはじまっ
たのです。
 このような新しい「メディア」の登場は、それが斬新であれば
あるほど、そのときの社会には大きな影響を与えます。それは、
多大なる賞賛と期待がある一方で、それに匹敵する量の批判や不
安があるものです。電報の場合でも、現代のサイバー犯罪ともい
うべき問題が発生していたのです。「犯罪者ほど科学の最新の成
果を迅速に取り入れる集団はない」といわれます。これは、その
後のビデオの導入や、インターネットでウェブサイトが見られる
ようになったときでも同様に起きています。
 テクノロジーについて知る場合、その技術の開発の歴史を調べ
ることは重要です。誰が、いつ、どのようなニーズのもとに、そ
の技術を誕生させ、どのように普及していったのかについて知る
ことは、未来のテクノロジーを開発するときに役に立つのです。
そのため、「過去を振り返る」ことは、新しい技術を生み出す原
動力になるといえます。
 「過去」に続いて「現在」をよく観察する必要があります。テ
クノロジーは、突然登場するように見えますが、実はその前身に
なるものは、とっくの昔に姿をあらわしているのです。つまり、
明日のテクノロジーは、今日既に登場し、普及している可能性が
高いのです。トム・スタンデージ氏は、その典型は21世紀初頭
における日本のガラケーであるといっています。よく考えてみる
と、ガラケーは現代のスマホそのものといえます。
─────────────────────────────
 2001年の日本ではカメラ付き、カラーディスプレイ付きの
携帯端末が当たり前に普及していた。道案内付きの地図を表示で
き、電子書籍、ゲームなどのアプリもダウンロードできた。ジャ
ーナリストやアナリストは、そんな電話を見るために日本詣でに
いそしんだ。欧米の技術系カンファレンスで日本人が懐から携帯
端末を取り出すと、それは時空の切れ目から落ちてきた貴重な未
来のかけらのように丁重に扱われた。日本が他国に先駆けで未来
に到達したのは、通信業界が孤立した独占的性質をもち、また国
内市場に十分な規模があったためである。これによって、日本の
ハイテク企業は、他国のシステムとの互換性など気にせずに、創
意工夫することができたのだ。
        ──英『エコノミスト』編集部著の前掲書より
─────────────────────────────
 日本人が何も考えずにガラケーを使っていたとき、欧米をはじ
めとする世界の人々はそれを驚きのまなざしで観察していたので
す。米国の「WIRED」誌には、しばらくの間、「日本の女子
高生ウオッチ」なる連載コラムがあったほどです。そして、この
観察の結果、日本のガラケーは、遂にアップルのアイフォーンに
姿を変えて、鮮烈なデビューを果たしたのです。
 まず、コンセプトが違います。日本の携帯電話は、多機能では
あっても、あくまで電話機であるのに対して、アップルのそれは
電話機能を持つ小型のコンピュータというコンセプトのマシンで
あり、OSを搭載し、ソフトウェア(アプリ)のダウンロードに
よって付加価値をつけるという画期的なかたちで登場したので、
日本独特スタイルのガラケーは敗退せざるを得なかったのです。
このように、現在すでに普及し、使われているもののなかに未来
の技術の基になるものが必ずあるのです。
            ──[次世代テクノロジー論/18]

≪画像および関連情報≫
 ●「ガラパゴス化は勝ち筋戦略」/高杉康成氏
  ───────────────────────────
   赤道直下のエクアドル共和国から西へ約900キロの太平
  洋上にガラパゴス諸島があります。ダーウィンの進化論で有
  名なこの島々は、外界から遮断された結果、そこに住む生物
  が独自の進化を遂げた珍しい地域です。
   ビジネスの世界では、これに習って「ガラパゴス化」と揶
  揄されることもあります。有名なのは「ガラパゴス・ケータ
  イ(ガラケー)」です。世界のモバイル・IT事情とは異な
  った、日本独自の進化を遂げた日本の携帯電話のことで、先
  進的な技術や機能がありながら、海外では普及しませんでし
  た。スマートフォン(スマホ)の普及とともに徐々に市場を
  失い、多くの日本企業が携帯電話ビジネスから撤退していき
  ました。このようにビジネスにおいてガラパゴス化は、とも
  すれば「悪い例え」に聞こえます。しかし、本当にそうなの
  でしょうか。そこで今回は、このガラパゴス化について深く
  掘り下げて考えていきます。
   なぜスマホが売れてガラケーは衰退していったのか。ビジ
  ネスパーソンであれば、この問題について一度は、ウェブ、
  雑誌、新聞などで記事を目にしたことがあるでしょう。諸説
  がある中で、筆者は以下のような見立てをしています。
                  http://nkbp.jp/2gphFUd
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女子高生とガラケー.jpg
女子高生とガラケー
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2017年10月18日

●「現代はトリリオンセンサーの時代」(EJ第4627号)

 昨日のEJでご紹介した「マビー/MaBeee」には、面白い機能
があります。例えば、プラモデルのミニ四駆にマビーをセットし
専用アプリをスマホにダウンロードしてスタートさせるとき、ス
マホを上下に振るだけでよいのです。この振りを強くすると、ミ
ニ四駆はスピードアップし、ゆっくり振るとスピートダウンしま
す。しかも、スマホ一台でミニ四駆を10台まで同時発車できる
ので、カーレースを楽しむことができます。
 問題は、どうしてこんなことができるかです。それは、スマホ
には「加速度センサー」が付いているからです。マビーはそれを
利用しているのです。
 加速度センサーとは、モーションセンサーともいわれますが、
スマホにかかる動きの検知に使われます。スマホが机の上に置か
れているのか、手に持っている状態なのか、それともポケットに
入れて歩いているのかなどをつねに検知しています。
 スマホの状態に合わせた画面の回転、振り回すシェイク機能や
歩数計、睡眠時の寝返り判定などは、この加速度センサーがある
からできるのです。手にスマートフォンを持って振り回したとき
振りはじめたときにはプラスの加速度、止めたときはマイナスの
加速度がかかるようになっています。
 加速度センサーを利用したゲーム機に、任天堂の「Wii」 やマ
イクロソフトの「Kinect」がありますが、スマホには加速度セン
サーが装備されているので、このセンサーを利用して、同じよう
なアプリを作ることが可能です。
 もうひとつスマホには「気圧センサー」というものが装備され
ています。ハードウェアにしては、一辺3ミリにも満たない小さ
いセンサーです。これは、アイフォーン6から付いているのです
が、どのようなときに使えるのでしょうか。実際に、アップスト
アで調べてみると、このセンサーを使ったさまざまなアプリが用
意されていることがわかります。これに関する「産経ニュース」
の記事を次に示します。
─────────────────────────────
 スマホはいつも持ち歩くため、健康を管理する機能も期待され
ているが、気圧計があれば、従来の歩数計測に加えて階段や坂道
での上下動も分かるため、よりカロリー計算などのデータが正確
に計測できる。ネット上では「低気圧のときは頭痛がひどい」な
ど、気圧と頭痛の相関性についての記述が多く見られる。そして
頭痛の到来を予想する「頭痛−る」なるアプリもあった。
 2015年の「シーテックジャパン」のあるブースでは、急激
に気圧が低下する「爆弾低気圧」や竜巻などの異常気象の察知が
できるようになれば、キーアプリになるのではないかという声が
聞かれた。確かに昨今、こうした異常気象による災害が目立つ。
思わぬ災害を避けられるかもしれない。 http://bit.ly/2ywyRxL
─────────────────────────────
 「トリリオン・センサー・ユニバース」──こういう構想があ
ります。トリリオン(Trillion)とは「1兆」という意味です。
したがって、トリリオン・センサーは、1兆個のセンサーという
ことになります。「トリリオン・センサー・ユニバース」という
のは、1兆個を上回るセンサーを活用し、社会に膨大なセンサー
・ネットワークを張り巡らすことにより、地球規模で社会問題の
解決に活用しようとする壮大な構想です。
 現在、世界の人口は、約72億人と推計されているので、毎年
1兆個以上というのは、一人当たりおよそ150個という数にな
ります。1年間に使われるセンサーは約1000億個なので、1
兆個のセンサーは年間需要の100倍ということになります。
 このトリリオン・センサー・ユニバースに似ている試みがあり
ます。「スマート・ダスト」(賢い塵)です。これは、カルフォ
ルニア大学・バークレー校のクリストファー・ピスター教授が、
1998年に発表した構想です。「賢い塵」の構想は、次のよう
なものです。
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 プロセッサ1基と、わずかなコンピュータメモリ、そして低電
力の無線トランシーバー、電源などが納められた「mote」(塵)
と呼ばれる小型センサを大量にばらまくことで、自然環境を観察
したり、ビルや工場などを監視したりして得た情報を、防災、環
境の観察、軍事目的などに利用しようというものです。この考え
は1990年代の末に提唱されたものですが、「mote」のコスト
やサイズ、エネルギー効率などの問題、通信の標準化の問題、セ
ンサから送られてくる膨大なデータをフィルタリング・解析する
ツールの開発の問題などもあり、現在のところ、コンセプトの一
部がセンサーネットワークとして、農場や工場などの監視用途で
使われているにすぎません。スマート・ダストではビルのコンク
リートや道路のアスファルトの中にも混ぜたりして、遠方の道路
の状態や建物の中の状態を把握するとか、空中に散布するという
アイデアなどもだされていたようです。 http://bit.ly/2xKnT3p
─────────────────────────────
 センサーを利用する研究は、さらに意外な方向に発展しつつあ
ります。「センサーを内蔵した錠剤」です。抗精神病薬に使われ
ています。錠剤に埋め込んだ1ミリ角大のセンサーには、微量の
マグネシウムと銅が含まれており、服用すると胃液と反応して電
流が発生し、センサーから信号が医師に発信されるようになって
います。患者が薬を飲んだかどうかをチェックするのです。
 グーグルは、涙に含まれる糖の値を測り、糖尿病患者の血糖値
を常時記録できるセンサー付きコンタクトレンズを開発していま
す。レンズはシリコーン製の樹脂でセンサーを組み込んだリング
状のアンテナが挟まれた構造になっています。これによって測定
した血糖値はスマホやPCに送られ、そこで管理をしたり、外部
に転送したりしています。
 この他、人の身体につけて使うシート型スキャナや触角を持つ
人工皮膚なども開発されており、健康状態をモニタリングできる
ようにもなっています。 ──[次世代テクノロジー論/17]

≪画像および関連情報≫
 ●トリリオン・センサー時代に日本は巻き返し可能か
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   VLSIシンポジウムは、LSIに関する最先端の成果が
  毎年報告される世界最高峰の国際会議。「半導体のオリンピ
  ック」と呼ばれる国際固体素子回路会議(ISSCC)は回
  路技術のみ、国際電子デバイス会議(IEDM)はデバイス
  技術のみを扱う。一方、VLSIは回路とデバイス技術の両
  面から議論するのが特徴だ。
   2016年の会議のテーマは「スマート社会への変革の兆
  し」。半導体の微細化のスピードが鈍化する中で、システム
  レベルのイノベーションが産業の変革を促すと見通す。従来
  のように、汎用の半導体を量産するだけでは顧客のニーズを
  十分に満たせない。会議では、システムを明確に志向した先
  端半導体の論文が発表される。
   なかでも、VLSI回路シンポジウムのジェフリー・ギー
  ロウ実行委員長が「IoTによる産業エレクトロニクスの変
  化が一つの焦点になる」と表明するように、スマート社会を
  実現する大前提にIoT技術がある。
   IoT分野の注目論文の一つが米インテルが発表する自己
  給電可能な無線のセンサー端末だ。太陽電池で給電し、10
  00ルクスと暗い室内の照明でも連続的に動作する。周囲の
  環境から採取した微小なエネルギーを利用する環境発電(エ
  ネルギーハーベスティング)技術を使って、完全無線による
  自己駆動を実現した。       http://bit.ly/2yugRUv
  ───────────────────────────

加速度センサー.jpg
加速度センサー
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2017年10月17日

●「センサーはどこまで進化をしたか」(EJ第4626号)

 今や、センサーやIoTの話題が新聞にニュースとして掲載さ
れる日が多くなっています。とにかくスマホには各種センサーが
付いているので、これを利用して、今まででは考えられなかった
アイデアが続々と実現しています。
 10月16日付の日本経済新聞朝刊には、次の記事が掲載され
ています。
─────────────────────────────
    生活にIoT/広げるVB(ベンチャー企業)
             ノバルス/玩具を遠隔操作
             マモリオ/忘れ物自動通知
         ──2017年10月16日/日本経済新聞
─────────────────────────────
 第1は、2015年創業のノバルスというベンチャー企業が開
発した「マビー/MaBeee」が紹介されています。
 マビーは単4電池をセットするケースのようなもので、単3電
池サイズです。単4電池は4個までセットすることができます。
そうすることによって、専用アプリによって、ブルートゥースを
通じて通信できる一種のセンサーのような役割をします。
 専用アプリをスマホにダウンロードし、マビーを玩具の電車に
セッティングし、動力に接続すると、電車の発車と停止、スピー
ドのコントロールなどがスマホからできるようになります。
 本来電池というものは、オンとオフしかコントロールできない
ものですが、マビーを介すと、電池を自由にコントロールするこ
とが可能らなります。また、マビーを使えば、今までオン/オフ
しかできなかったLEDライトの調光が可能になります。クリス
マスツリーの調光もスマホから可能になります。これらはIoT
モノインターネットの典型です。
 第2は、マモリオというベンチャー企業開発の「マモリオ」と
いう商品が紹介されています。
 商品自体は、長さ3・5センチのタグです。これがセンサーに
なっています。これを財布などの貴重品に付けておきます。マモ
リオの購入者は専用アプリをスマホにダウンロードし、必要な登
録をします。
 そうすると、タグとスマホが30メートル程度離れると、通知
がスマホに届くようになっているのです。他人が財布を奪って逃
げても追跡できます。最近は鉄道会社と提携し、主要な駅の拾得
物を管理する場所に専用アンテナ「マモリオスポット」を設置し
タグ付きの物品が届くと、自動的に本人に通知が届くようになっ
ています。これもIoTです。
 もともとセンサーは、急に出現したものではなく、前から家電
製品などに付けられていたのです。オーブンレンジには、設定し
た内部の温度制御を行う温度センサーが搭載されていたのです。
この他、自動ドアには、人の接近を検知する人感センサーが付け
られています。しかし、それはあくまで裏方としての機能であり
人々の認識に上ることはなかったのです。
 しかし、ここにきて、センサー自体や周辺技術が大きく進化し
たため、IoTとして、にわかに注目を浴びるようになったので
す。添付ファイルをご覧ください。これは、センサー技術の進化
をあらわしています。センサーの進化のプロセスは、次の3つの
段階にわたって大きな変化を遂げています。
─────────────────────────────
        1.    過去のセンサー
        2.デジタル時代のセンサー
        3.システム化したセンサー
─────────────────────────────
 「1」は「過去のセンサー」です。
 過去のセンサーとは、従来のセンサーのことです。物理現象や
化学現象などを検知するセンサーは、データを検知するだけの働
きしかできなかったのです。これは、完全に裏方の仕事です。
 「2」は「デジタル時代のセンサー」です。
 このセンサーは、単にデータを検知するだけでなく、検知した
データに一定の処理を行うところまでやってくれます。これだけ
でも人間としては非常に助かります。
 「3」は「システム化したセンサー」です。
 これが現在のセンサーです。現代のセンサーの進化について、
株式会社エンライト代表の伊藤元昭氏は、デジタルカメラの進化
に関連して次のように述べています。
─────────────────────────────
 こうしたセンサーの進化を最も身近に感じられるのがデジタル
カメラである。登場まもない頃のデジタルカメラは、撮影範囲の
中央にある被写体に自動的にピントを合わせていた。それが、人
物を見分けてピントを合わせられるように進化した。いまでは、
笑顔になった時だけシャッターを切る、動きまわる子どもにいつ
もピントを合わせるといったことができるようになった。
 データを取り込むイメージセンサーは、大幅な性能向上はして
いるが、原理的にはそれほど大きな変化はない。デジタルカメラ
こうした変化は、取り込んだ画像を処理・分析・解釈する技術の
発達によるものだ。      ──伊藤元昭氏論文/洋泉社刊
  「世界を変える7つの次世代テクノロジー/センサー革命」
─────────────────────────────
 澁谷のスクランブル交差点を渡った人数を計測するのは、デジ
タル時代のセンサーでもできますが、システム化したセンサーで
あれば、渡った人数だけでなく、男女の比率、外国人の数まで把
握可能になります。
 AI(人工知能)が加わることによって、交差点を渡る人の顔
や体の認識や分析が出来るようになり、男女や外国人の識別まで
が可能になっています。このまま技術革新が進むと、センサーは
さらに強力な認識能力を持つことになり、「AIの目」としての
機能を果すことができるようになります。
            ──[次世代テクノロジー論/16]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ、今センサなのか/伊藤元昭氏
  ───────────────────────────
   革新的な機器の中で、センサが効果的に活用されている例
  が目立ってきた。例えばアップル社の「iPhone 6」には、わ
  ずか123・8ミリ×58・6123.8nl×7・6ミリ
  の筐体の中に800万画素のメインカメラと120万画素の
  フロントカメラ、マルチタッチセンサ、マイク、その他にも
  指紋、加速度、3軸角速度(ジャイロ)、近接、環境光、指
  紋認証、気圧などを検知するセンサがそれぞれ搭載されてい
  る。まさにセンサ技術のデパートといった様相である。
   電子機器や家電製品、家庭や工場などで使われる設備にセ
  ンサが組み込まれるようになったのは、今に始まったことで
  はない。オーブンレンジには設定した庫内の温度制御を行う
  温度センサが搭載されてきた。自動ドアには人の接近を検知
  する人感センサが搭載されてきた。ハードディスクドライブ
  のように、一見センサに関係無いような機器にも、機器の落
  下を検知する加速度センサが搭載され、衝撃に弱い読み書き
  機構を故障から守るために使われてきた。ただし、さまざま
  な場所で使われていたセンサではあったが、その役割は、機
  器の本来の機能を支える脇役としての仕事が中心だった。と
  ころが近年、センサを効果的に活用することで、機器や設備
  に新たな価値を盛り込む動きが活発化してきた。
                   http://bit.ly/2gcrilc
  ───────────────────────────

センサー技術の変化.jpg
センサー技術の変化
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2017年10月16日

●「IoTのキーデバイス/センサー」(EJ第4625号)

 IoTに不可欠なものの一つに「センサー」があります。現在
あらゆる機器やシステムのなかにセンサーは組み込まれ、データ
を発信し、IoTを実現しています。
 ところで、センサーとは何でしょうか。
 ごく身近なところににあります。「iPhone 7 Plus」 には10
種類15個のセンサーが搭載されています。これらのセンサーか
ら取り込むデータをいくつか上げると、操作用ジェスチャー、映
像、音声、指紋、加速度、角速度、地磁気、気圧、近接物、環境
光と多岐にわたります。
 これに加えて、位置を測っているGPSも、センサーとして使
われています。その内部に組み込まれた半導体チップのなかにも
温度や電流、電圧を測るセンサーが組み込まれているからです。
アイフォーンに限らず、およそスマホというものは、センサーの
集合体のようなものです。
 このセンサーのお蔭で息を吹き返した企業があります。ソニー
です。証券業界がみるソニーの2017年の予想営業利益は50
70億円。これは20年来の高水準になります。2017年5月
29日、ブルームバークはソニーついて次の報道をしています。
─────────────────────────────
 ソニーが今年の業績向上を壮語する理由は、スマートフォンな
どに使われるイメージセンサー市場の好況のおかげだ。イメージ
センサーは、コンソールゲーム機の「プレイステーション4」と
ともにソニーの業績を牽引する見通しだ。スマートフォン用カメ
ラに使われるイメージセンサーは人の表情など被写体の動きを感
知して撮影できるように助ける。光信号を電子信号に変える技術
だ。微笑を浮かべれば、自動で写真を撮影するのがイメージセン
サー技術の一例だ。      ──ブルームバークの報道より
─────────────────────────────
 ソニーは、アップルのアイフォーンに使われるセンサーを納品
しています。ソニーの2016年の世界市場でのシェアは、売上
額基準で45%。2位のサムスン電子のシェアは18%ですから
圧倒しています。ソニーは、今年ドル当たり円相場が110円水
準を継続するなら、イメージセンサー事業だけで1000億円の
営業利益を出せると見込んでいます。ソニーは、センサーで復活
したといえるでしょう。
 センサーそのものについて考えます。工場などにあるセンサー
をその検出方法で分けると、次の5つになります。いささか専門
的な説明になりますが、その特徴を簡単にご紹介します。
─────────────────────────────
       1.  「光」で検出する方式
       2.「渦電流」で検出する方式
       3. 「接触」で検出する方式
       4.「超音波」で検出する方式
       5. 「画像」で検出する方式
                   http://bit.ly/2zmANH4
─────────────────────────────
 1は「光」で検出する方式です。
 このタイプのセンサーは「光電センサー」と呼ばれます。光電
センサは、可視光線、赤外線などの「光」を、投光部から発射し
検出物体によって反射する光や、遮光される光量の変化を受光部
で検出し、出力信号を得るのです。
 2は「渦電流」で検出する方式です。
 このタイプのセンサーは「近接センサー」と呼ばれます。近接
センサーは、リミットスイッチやマイクロスイッチなどの機械式
スイッチにかわるもので、非接触で検出物体が近づいたことを検
出するセンサです。
 3は「接触」で検出するセンサーです。
 このタイプのセンサーは、「接触式変位センサー」と呼ばれま
す。名前が示す通り、検出体に接触子が直接触れることで位置な
どを測定するセンサです。
 4は「超音波」で検出するセンサーです。
 このタイプのセンサーは「超音波センサー」と呼ばれます。こ
のセンサーは超音波を使用して距離などを測定するセンサです。
センサヘッドから超音波を発信し、対象物から反射してくる超音
波を再度センサヘッドで受信します。超音波式センサは、発信か
ら受信までの「時間」を計測することで、対象物までの距離を測
定しています。
 5は「画像」で検出するセンサーです。
 このタイプのセンサーは「画像判別センサー」と呼ばれます。
このセンサーは、カメラで撮影した画像を使用して対象物の有無
や違いを判別するセンサーです。画像検査「システム」と違い、
カメラ/照明/コントローラが一体型であったり、構成や操作が
シンプルです。また、画像という「面」で広くとらえる原理のた
め、対象物の動きが一定でなくても検出可能です。
 センサーが注目されるようになったのは、各種センサーから得
られる膨大なデータを解析できるようになったからです。これに
はAI(人工知能)の発達が大きく貢献しています。
 これまで家電メーカーは、販売した製品については、サポート
や修理の依頼がない限り、かかわることはなかったのですが、製
品にセンサーを組み込むことによって、それがどのように使われ
現在どのような状態にあるかをリアルタイムで把握できるように
なったのです。これは、あたかも、ユーザーのそばに、アドバイ
ザー、保守要員、セールスパーソン、マーケッターが常駐してい
る状態と同じであるといえます。
 このセンサーを活用したビジネスモデルの転換の必要性にいち
早く気づき、事業の転換に成功した企業の代表例として、日本で
は建設建機のコマツ、米国ではGEが上げられます。この変化は
単にメーカーだけでなく、保険業などの金融業にも大きな影響を
もたらしつつあります。EJでは、引き続き、センサーについて
考えていきます。    ──[次世代テクノロジー論/15]

≪画像および関連情報≫
 ●IoT保守・メンテナンス事例/センサーデータで見える化
  ───────────────────────────
   道路、橋梁、トンネル、上下水道などの社会インフラは、
  1960年代の高度経済成長期以降に急ピッチで建設されて
  きた施設が多く、耐用年数とされる50年を超え、建て替え
  の時期を迎えつつあります。国土交通省の試算によると、こ
  うした社会インフラの維持管理・更新費用は2030年度に
  18兆円に達するとされており、厳しい財政状況の中で、施
  設の長寿命化と維持管理コストの低減を実現する新たな施策
  の確立が求められています。
   企業の抱える生産設備も同様です。グローバルな厳しい企
  業間競争に勝つためには、生産ラインを停止させないよう各
  種設備の稼働率の向上が重要なテーマとなっています。それ
  だけでなく出荷済み製品の継続的な維持管理のための遠隔監
  視やオペレーションコストの削減、熟練工のノウハウ伝承な
  ども重要性を増してきています。保守・メンテナンス業務に
  関わる課題は日本特有のものではなく、海外においても同様
  の課題を抱えているのです。
   こうした課題解決に向けたアプローチに不可欠なこと。そ
  れは、高齢化と、人材不足が懸念される現場管理で熟練者の
  「暗黙知」を、いかに「形式知」にしていくかです。という
  のも、社会インフラでも生産設備でも、その保守・メンテナ
  ンスの現場では、経験を積み重ねた熟練者の知識や技術をも
  とにした判断が、リスク回避の意思決定を大きく左右してい
  るからです。           http://bit.ly/2xFMhZ5
  ───────────────────────────

CCDイメージセンサー.jpg
CCDイメージセンサー
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2017年10月13日

●「GEは変革で何を目指しているか」(EJ第4624号)

 GEが力を入れているのは、IoTのプラットフォーム「プレ
ディックス」です。プレディックスで、GEと米マイクロソフト
社は提携しており、プレディックスは、マイクロソフト社のクラ
ウラドサービス「アジュール」経由で提供されます。
 このプレディックスによって、航空エンジンから、風力発電装
置、石油掘削装置、医療機器のMRIなど、GEの持つあらゆる
産業機器がつながるのです。
 GEは、1980年〜90年代に単に重電製品を製造して売る
業態から、保守点検のサービス事業に踏み出し、サービスを充実
することによって利益率を高めていたのです。それをさらに高め
るのが、ソフトウェアを通じた新しい価値の提供です。
 当時CEOのジェフ・イメルト氏による変革で最もわかりやす
いのが航空機部門への取り組みです。GEは航空エンジンでトッ
プシェアを誇り、2万5000基が世界の航空会社で採用されて
います。これは、2秒間に1回、GEエンジンを搭載する飛行機
が離陸する計算になります。
 ボーイング787というと省エネで有名ですが、これには「G
Enx」というGEの最新鋭のエンジンが搭載されています。こ
れには26個のセンサーから、毎秒5000種類のデータが取得
可能です。米国の西海岸から日本までの飛行中に収集されるデー
タは、実に15億個、容量でいうと、512GBもあるのです。
 しかし、これらの膨大なデータは、これまではすべて捨てられ
ていたのですが、それらのデータを飛行中にリアルタイムに把握
することができれば、GEはそれらのデータを解析して、安全な
飛行に活かす技術を持っているのです。
 たとえば、飛行中の航空エンジンの摩耗や損傷をモニタリング
することで、摩耗率を正確に予測し、その寿命を知ることができ
ます。これに加えて、これまでは飛行距離を基に予測するしかな
かったオイル交換の時期も、飛行エリアや飛行方法を機体ごとに
正確に把握できます。
 これについて、GEの航空部門のディブ・バートレットCTO
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 医者が体温や心拍数を測るように、これらのデータを通してわ
れわれは飛行機の状況をリアルタイムで知ることができる。エン
ジンの状態を正確に把握することで、欠陥便の減少や燃料の節約
さらに無駄な整備時間の減少ができ、10億円単位のコスト削減
ができる。  ──ディブ・バートレットGEの航空部門CTO
       『週刊ダイヤモンド』/2015年10月3日号
─────────────────────────────
 これによってGEのビジネスは、単に航空機エンジンを製作し
ている売るモデルから、航空会社の安全とコスト削減を約束する
総合的なサービスモデルに転換したことになります。
 これらのGEのIoT戦略は、現在のところは顧客サービスの
強化が主目的ですが、今後はエンジンの開発にも活かされる可能
性があります。GEソフトウェアのグレッグ・ペトロフ最高経験
責任者は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 飛行機は、飛ぶエリアによって、ダメージや摩耗が異なる。そ
うしたデータが集まれば、今後は運航する会社によって、エンジ
ン素材も変えていくかもしれない。
           ──グレッグ・ペトロフ最高経験責任者
       『週刊ダイヤモンド』/2015年10月3日号
─────────────────────────────
 グレッグ・ペトロフ氏がいっているのは、例えば、中国の空を
飛ぶと、大量の煙を吸い込むし、中東の空は、砂漠によって砂が
入る。これによるエンジンの損傷のデータを集めて分析し、エン
ジン開発に活かそうというのです。航空エンジンひとつとっても
従来はできなかったサービスがこれだけ可能になるのです。
 元シスコシステムズの副社長を務めていたビル・ルー氏をGE
に引き抜き、GEのデジタル戦略をまかせたのは、ジェフ・イメ
ルト前CEOです。ビル・ルー氏は、GEソフトウェアをシリコ
ンバレーにゼロから立ち上げた立役者です。ビル・ルー氏はIo
Tで成功するには、シリコンバレーのスピードに学ぶ必要がある
と次のように述べています。
─────────────────────────────
 IoT時代の改革で何よりも重要なのは、スピードです。今は
製造業もシリコンバレーのスタイルで動かなければ生き残れませ
ん。いきなり完成形を提示するのではなく、まずやってみて、失
敗から学習し、もう一度やり直すというプロセスを、他社を引き
離すまで繰り返すのです。日本でのソフトウエア販売でソフトバ
ンクと提携したのも、彼らにこのスピードがあるからです。
 プレディックスは日米や中国、独仏など産業国にまず需要があ
ると思っています。  ──ビル・ルーGE最高デジタル責任者
       『週刊ダイヤモンド』/2015年10月3日号
─────────────────────────────
 しかし、ジェフ・イメルト前CEOは、製造業をソフトウェア
企業に変身させるために、稼ぎ頭の金融事業を売却しなければな
らなかったのです。しかも、GEの金融事業は、20世紀最大の
経営者といわれるジャック・ウェルチ元CEOが築いたビジネス
モデルであり、なかなかできる決断ではなかったのです。
 2015年7月9日、東京・六本木のグランドハイアット東京
には、GEジャパンの社員が250人集まっていたのです。来日
したイメルト氏は、「本当に売ってしまうのですか」と聞かれる
と、涙を浮かべ、次のようにいったといわれています。
─────────────────────────────
      GEは変わらなければならないのです
             ──ジェフ・イメルトGE・CEO
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/14]

≪画像および関連情報≫
 ●GEの変身/「募るアイデア賞金は2億ドル!」
  ───────────────────────────
   「クラウド・ソーシング」という言葉をご存じだろうか。
  クラウドは今はやりの「雲」(クラウド)ではなく、群衆の
  のこと。「ソーシング」はアウトソーシングのソーシングで
  調達を意味する。意訳すれば、「どこの誰だか分からない群
  衆から何かを調達する」とでもなるだろうか。
   米ゼネラル・エレクトリック(GE)が企業にとって最も
  大切なモノをクラウド・ソーシングするという。最も大切な
  モノとは、価値を生むための「新しいアイデア」だ。
   GEのジェフ・イメルト会長は2010年7月13日、米
  シリコンバレーの地で、スマートグリッド「次世代送電網」
  についてアイデアを世界中から募り、優れたものには総額2
  億ドル(約174億円)の賞金を与えると発表した。
   東京でも日本GEが7月14日、スマートグリッドをめぐ
  るシンポジウムを開催した。冒頭あいさつに立った日本GE
  の藤森義明社長は「スマートグリッドがらみで面白いアイデ
  アがあっても、研究資金がないといった理由でそのまま眠っ
  ているモノも多いはず。大学の研究室やものづくり系の企業
  の皆さんから、積極的な応募を期待したい」と呼びかけた。
  GEといえば創業者のエジソン以来、電力システムの開発で
  は世界のトップを走ってきた。そんな名門企業がどこの誰と
  も知らない人からなぜアイデアを募るか。
                http://s.nikkei.com/2i2rBTK
  ───────────────────────────

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ビル・ルーGE最高デジタル責任者
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2017年10月12日

●「イメルトが目指したGEの大変革」(EJ第4623号)

 大前研一氏によると、大企業はIoTに対応できないといって
います。自動車の所有者と自動車に乗りたい人がつながることで
実現した配車サービスのウーバー(Uber)──このアイデアを大
企業で実現させることはきわめて困難であるとして、大前研一氏
は次のように述べています。
─────────────────────────────
 もし、三菱自動車がこのウーバーのアイデアを思いつき、事業
化を試みても、関係者に説明するだけで5年、実現するには一世
紀かかるのではないだろうか。会社というのは、ストレッチでき
ないと思った方がよい。大企業でIoTに取り組むのであれば、
柔軟な頭をもった3人をピックアップし、半年に一回だけ報告す
るという条件で、あとは自由にさせるといった方法くらいしかな
いのである。──大前研一著『IoT革命/あらゆるものがイン
  ターネットにつながる時代の戦略的発想』/プレジデント社
─────────────────────────────
 大前研一氏のこうした厳しい主張にもかかわらず、唯一の例外
があります。世界に冠たる米国の製造業の巨人、ジェネラル・エ
レクトリック(GE)です。その立役者は、この8月1日付で退
任したCEOのジェフリー・イメルト氏です。
 イメルト氏は、2001年から2017年までGEのCEOを
務め、世界で一番激しい変革を断行した経営者です。2014年
10月にイメルトCEOは、次の発言をしています。
─────────────────────────────
 前夜、工業会社として眠りに就き、翌朝起きると、ソフトウェ
ア解析の会社になっているかもしれない。全ての工業会社は、ソ
フトウェア会社への劇的な転身を図らないと生き残れない。
           ──ジェフリー・イメルトGM/CEO
─────────────────────────────
 GEという企業は、ジェネラル・エレクトリックという名前か
らもわかるように製造業として発展してきた企業です。しかし、
イメルト氏の先代CEOであるジャック・ウェルチ氏の時代には
単なる製造業を脱却し、金融やメディア事業なども抱える超コン
グロマリットとして大きく成長してきたのです。つまり、製造業
からの変身に成功し、GEは大きく発展しています。
 ところがイメルトCEOはこの路線を大胆に変更し、2015
年4月に重大な発表を行っています。それは、金融事業からの実
質撤退と製造業への回帰です。だが、「製造業への回帰」といっ
ても過去のようなアナログな工場へ戻るのではなく、ソフトウェ
アに徹底的に注力することで、製造業を次のレベルに進化させる
ことをGEは狙っているのです。その具体的な目標として、イメ
ルトCEOは次の目標を掲げています。
─────────────────────────────
 2020年までにGEは、世界トップ10のソフトウェア会
 社を目指している。         ──イメルトCEO
─────────────────────────────
 具体的にいうと、2015年10月に設立してわずか4年のソ
フトウェア部門を「GEデジタル」として統括部門に昇格させ、
上記のように2020年までに世界トップ10入りを目指すと宣
言したのです。
 GEといえば、米国東海岸出身の伝統的企業ですが、2011
年にサンフランシスコ国際空港から車で約40分のところにある
ICT企業の聖地、シリコンバレーにソフトウェア部門をゼロか
ら立ち上げ、わずか4年間で、社員を1200人以上に増やした
のです。つまり、ICTに強い人材を求めて、シリコンバレーを
本拠地にし、実際にグーグルやフェイスブックなどからも多くの
人材を採用して技術陣を固めています。
 イメルトCEOは、どうしてこのような大転換を決断したので
しょうか。
 それは2009年のちょっとした会話でヒントを得たといわれ
ています。イメルト氏は、ニューヨーク州ニスカユナにあるGE
のグローバル・リサーチセンター本部で、科学者たちと会話をし
たとき、航空エンジンへのセンサー埋め込みの効果についての話
を聞いたのです。ある科学者は、イメルトCEOに、次のように
力説したといいます。
─────────────────────────────
 航空機エンジンは単に飛行機を飛ばすだけではありません。ひ
とたび回転をはじめると数兆バイトものデータを生成し、信じら
れないほど価値のある、エンジン内部の動作状態を覗き見られる
「窓」を与えてくれるのです。そこから得るインサイトを活用す
れば、エンジンのオペレーションを最適化したり、将来のより優
れたエンジンの開発につなげることも可能なのです。
                   http://bit.ly/2kF5ELA
─────────────────────────────
 この会話がヒントになって、イメルトCEOは、GEをまった
く新種の企業に変革させようと考えます。目指したのは、デジタ
ル・インダストリアル・カンパニーです。GEの専門分野である
産業分野の機器設備をネットワークにつなげることによって、生
産性の天井を解き放そうというのです。ハードとソフト──この
一見正反対に見える両者を融合させようというわけです。
 このときから8年間、イメルトCEOは、この一大テーマに取
り組み、GEをソフトウェア会社に転換させつつあります。しか
し、2017年8月1日をもって、イメルト氏は、CEOをジョ
ン・フラナリー氏に引き継ぐと宣言し、自身は会長に退いたので
すが、その会長職も10月2日には退任しています。この原因は
どうやら株価の低迷にあるといわれます。イメルトCEOの就任
時には40ドルであった株価は、最近は30ドル前後に低迷して
います。
 しかし、変革の方向性は間違っておらず、明日のEJでは、G
Eの変革の具体的内容について述べることにします。
            ──[次世代テクノロジー論/13]

≪画像および関連情報≫
 ●「GEになれなかった東芝」
  ───────────────────────────
   GEになれなかった東芝という記事が日経ニュースメール
  で配信されたので開いてみると有料の講演なので興ざめした
  が、あまりにも分かりやすい話なので興味がわいた。私は東
  芝の仕事を何回かしたことがあった。その頃はまだ、東芝は
  元気な頃で昨今のような状態になるなど誰しも想像が出来な
  い時代であった。
   いくつかの事業部の仕事をした記憶があるが、一番スマー
  トだったのは医療チームからの仕事であった。CTスキャナ
  のネーミングシステムの依頼でネーミングとシステムを提案
  した。担当者はアウトプットのイメージとゴールを持ってい
  たようだったのでわれわれを上手くハンドリングして双方満
  足いく結果を出してプロジェクトは終了した。そのプロジェ
  クトは海外の市場向けのブランド開発だったので、厳しい商
  標チェツクをクリアした結果、大きな売上結びついた。今回
  の東芝の問題でいまでも医療部門は黒字を出している部門と
  聞いたが、当時の印象からすると当然のような気がした。
  その反対だったのはパソコン関連のプロジェクトであった。
  どんな内容だったか詳細は忘れてしまったが、スタッフの一
  人はわれわれのような外部のコンサルが入るのが気にいらな
  かったようで、提案するものに何かとケチを付けられた。挙
  句の果ては同じ課題を自分もやってのけて、自分の方がいい
  提案だというようなことをプロジェクト進行中に、やり始め
  た。考えてみれば随分と無駄なことをやっているプロジェク
  トであった。           http://bit.ly/2gu1p0Z
  ───────────────────────────

ジェフ・イメルト氏/ジョン・フラナリ氏.jpg
ジェフ・イメルト氏/ジョン・フラナリ氏
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2017年10月11日

●「IoTがビジネスを大変化させる」(EJ第4622号)

 2015年3月のことです。米テスラ・モーターズの電気自動
車「モデルS」に乗っていたAさんは、車内にある大きなディス
プレイに次の表示が載ったのを確認します。
─────────────────────────────
 ソフトウェアアップデートがあります。今すぐアップデート
 しますか。[YES]「NO」
─────────────────────────────
 車を止め、「YES」をタップすると、直ちにワイヤレスで通
信が始まり、約10分でアップデートが完了します。テスラの場
合、ソフトウェアアップデートとは機能追加を意味します。今回
バージョン6・2で追加されたのは、自動緊急ブレーキや安全な
車線変更をアシストする機能です。
 このように、テスラでは、車を購入後もモデルSを自動運転車
へと進化させる機能を追加させる方針なのです。既に述べている
ように、「機械とは、その性能や機能が購入時よりも、進化する
ことのないもの」のはずですが、テスラは「進化する車」を目指
し、それを可能にさせつつあります。
 このテスラのサービスを可能にしている技術が「IoT(アイ
オーティー)」です。IoTとは(Internet of Things)のこと
で、次のように定義されます。
─────────────────────────────
 IoTというのは、無線タグ、センサー、MEMS(メムス)
などを使い、コンピュータを通じて、ネットとやり取りをする、
モノのネットワークのことである。
 MEMS=Micro Electrical Mechanical System. 微小電気機
械システム ──大前研一著『IoT革命/あらゆるものがイン
  ターネットにつながる時代の戦略的発想』/プレジデント社
─────────────────────────────
 従来のインターネットの世界は、人がPCやスマホなどのIC
T機器を使ってつながる「PtoM」だったのですが、IoTの時
代は、人ではなく、インターネットによって、モノからモノにつ
ながる「MtoM」の時代であるといえます。
 このIoTの実験を日本で一番早くやった人がいます。日本の
インターネットの父といわれる慶応義塾大学環境情報学部の村井
純教授です。実験が行われたのは1990年のことであり、Io
Tという言葉がなかった頃の話です。
 村井教授のやった実験は、名古屋のタクシー会社のタクシーの
ワイパーにIPv6アドレスを割り当て、動作状況をインタネッ
ト経由で受け取れるようにしたのです。IPv6アドレスは、現
在のIPv4アドレスがなくなったときに使われるものですが、
既に使えるようになっており、実験などでよく使われています。
 なぜ、ワイパーなのかというと、ワイパーが動くというのは、
雨が降っていることになるからです。しかも激しく動いていれば
大雨が降っていることをあらわしています。
 したがって、車にGPSを搭載していれば、どの地域に雨が降
っているかわかるわけです。したがって、雨になると、タクシー
の需要が増えるので、その方向に移動すれば、効率的に営業がで
きることになります。
 しかし、その実験には大変なコストがかかり、研究予算をすべ
て使い果してしまったそうです。村井教授は、この実験について
次のように述べています。
─────────────────────────────
 名古屋で1500台のタクシーにGPSを搭載してもらうこと
にしたのですが、当時のGPSの価格は1台40万円。これが、
1500台分ですから40万円×1500台=6億円。さらに、
パケット代などがかかるためこれだけで20億円の研究予算のう
ち、10億円以上が消えてしまいました。ちなみに、現在であれ
ばGPSにかかる費用は必要ありません。すでにGPSはみなさ
んのスマートフォンに入っているではありませんか。ハードウェ
アは実質タダ同然になるというのは、まさにこういうことなので
す。また、こういう実験を行うことが明らかになると、すぐに警
察からクレームがきました。車のスピードがわかるとどこの道路
が渋滞しているかが明らかになる、そういった情報を民間がもっ
てはいけないというのです。
 ちなみに、農業を行う上で、大事なのは明日の天気ですが、そ
れをIoTでわかるようにしようとすると、やはり当局から怒ら
れます。明日の天気の予測は気象法に触れるからです。だから、
どうしてもこれをビジネスで行いたいのであれば、まず私たちと
共同研究にしてください。それで、いざというときは大学側が責
められるという仕組みをつくっておけば安心というわけです。
                ──大前研一著の前掲書より
─────────────────────────────
 それにしても当時40万円もしたGPSが、現在ではスマホに
タダ同然に付いているのです。しかも、現在のスマホの性能は、
5年前のスーパーコンピュータと同等といわれます。そういう高
性能のコンピュータを国民の70%が肌身離さず持ち歩いていま
す。こういうことはこれまでは考えられなかったことであり、こ
ういう時代に従来の常識でものごとを考えると、完全に事態を読
み違えてしまいます。
 そういう意味で現代のビジネスパーソンは、従来の常識にとら
われない、新しいコンセプトでものごとを考える「思想としての
IT」を持つべきです。しかし、そういうコンセプトでものごと
を考えられる人材はまだ非常に少ないといえます。
 そういう間にも、今まででは絶対に成立しなかったビジネスが
続々と誕生しています。モノを売らない製造業、既存の業界秩序
を破壊するシェアリングエコノミー、既得権益の壁を崩壊させる
フィンクテックなど。ICTの進化がもたらす社会、ビジネス世
界には、いま劇的な変化が起こりつつあります。そしてその変化
の速度はAIが加わって非常に加速しているのです。
            ──[次世代テクノロジー論/12]

≪画像および関連情報≫
 ●IoTによる4つの影響力
  ───────────────────────────
   IoTが社会に導入されることにより、大きく発展、変化
  するものに次の4つが挙げられる。
   ◎製造業のサービス業化
   ◎リアルタイム化
   ◎需要と供給の最適化
   ◎マスカスタマイゼーション
   まず、製造業のサービス業化はIoTの大きな変化として
  一番挙げられるものである。製造業の方は今も昔も何らかの
  モノを製品として製造している。これまではユーザに対して
  そのモノを作って販売するところまでが製造業の仕事であっ
  た。しかし、IoTになれば話が違う。製造業の方が作るモ
  ノもまたインターネットにつながるのだ。そうなると、消費
  者にモノである商品が手渡った後でも、モノから発せられる
  データから、そのモノの状況が把握できるのだ。そうなると
  製造業の方が、壊れそうなのか、安全に使用されているかな
  どが把握できることとなる。モノがインターネットにつなが
  ることによって知り得たこれらの情報に対して、何かをサポ
  ートできるならば、ユーザにとってとても大きなメリットと
  なる。うまくやれば、ユーザが気づく前に、ユーザが安心し
  てそのモノを使うためのアフターサービスをすることができ
  るというわけだ。製造業はモノを作るだけで終わっていたの
  が、ユーザが満足してそのモノを満足して使用できる環境を
  提供するサービス業として生まれ変わるのだ。
                   http://bit.ly/2y9AAYY
  ───────────────────────────

テスラ/モデルS.jpg
テスラ/モデルS
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2017年10月10日

●「『商品としてのIT』を検討する」(EJ第4621号)

 「ICTの役割」を再現します。今回は4について考えます。
1〜3については、既に説明は終わっています。
─────────────────────────────
  1.利便性の向上と多様性を支える「道具としてのIT」
  2.    効率や品質を高める「仕組みとしてのIT」
  3.      変革や創出を促す「思想としてのIT」
 →4.収益を拡大させ、成長を支える「商品としてのIT」
                     ──斎藤昌義著
    『未来を味方にする技術/これからのビジネスを創る
             ITの基礎の基礎』/技術評論社
─────────────────────────────
 最初にこれまでのところを振り返ります。当初「機械化」と呼
ばれる変化があったのです。人間のやれることを機械に置き換え
る変化です。典型的なものに「給与計算の機械化」があります。
 かつて給料日には、人事部の給与係は社員一人一人の給与をソ
ロバンをはじいて給与明細書を作成し、これに基づいてお札を数
えて給与明細書と一緒に給与袋に入れ、それを本人に配っていた
のです。たくさんの社員のいる大企業では、これは想像を絶する
大作業だったといえます。
 しかし、給与計算業務はコンピュータによって機械化され、銀
行振り込みになると、給与計算業務という大作業は完全に消滅し
たのです。これは、今まで人間がやっていた業務を機械(コンピ
ュータ)に置き換えたことによる変化です。当時、ICTという
言葉はありませんでしたが、これは、業務プロセスを機械化する
「仕組みとしてのIT」といえます。
 この「仕組みとしてのIT」は、コンピュータの進化によって
その適用範囲を広げていきます。人間が行う業務をプロセスに分
解し、それぞれ無駄を省いて標準化し、プログラムに置き換える
作業が進んだのです。
 しかし、この時点では、コンピュータはメーカーや企業に存在
するマシンであり、それを扱える人はごく一部のエンジニアに限
られていたのです。しかし、技術革新によってコンピュータが小
型化してPCになり、価格も下がって誰でも購入できるようにな
ると、企業にはPCが導入され、人々はそれを道具として使い、
自分に与えられている業務をPCで効率的に処理したり、その出
来栄えをよくするように使い始めます。このようにして、「道具
としてのIT」が普及するようになります。
 エクセルを使って業務計算を行い、ワードで業務文書を作成し
パワーポイントでプレゼンテーションをしたりすることが、業務
上当たり前になります。このような状態がしばらく続くと、2つ
の変化が起こります。1つは、ITの需要の高まりは、テクノロ
ジーの変化を促し、インターネットやクラウドの進化によって、
PCは高度な通信機能を有し、なくてはならないものになったの
です。もう1つは、携帯電話が進化してスマホになり、多くの人
が持つようになったことです。この時点で、ITは「ICT」に
変化したといえます。
 このような時代になると、人々は従来とは違う新しい常識を持
つことが求められます。この新しい常識というか思想によって、
企業は新しいビジネスモデルを生み出すことができるようになり
それによる競争が激化してきたのです。それが「思想としてのI
T」です。つまり、ICTはこれまでの閉じた世界から飛び出し
て、日常生活や社会にさまざまな変化や影響を与える「思想とし
てのIT」の役割を持つようになったのです。
 こうした変化の後に「商品としてのIT」が登場します。つま
り、ICTそれ自体が商品となって、お金を稼ぐ存在になったこ
とを意味します。ここで、改めてスマホについて、考えてみる必
要があります。「機械」とは何でしょうか。
─────────────────────────────
 機械とは、その性能や機能が購入時よりも、進化することの
 ないマシンである。
─────────────────────────────
 家電製品についても車にしても、およそ機械というものは、購
入時の性能や機能はそのままであり、故障や劣化によって、低下
することはあっても、進化することはあり得ないのです。これが
機械というものの本質です。
 しかし、スマホというマシンは、購入時よりも性能はそのまま
ですが、機能が向上する性格を持つのです。それはある意味にお
いて「理想のマシン」であるといえます。スマホの機能は、次の
ようにあらわすことができます。
─────────────────────────────
    スマホ=ファームウェア + アプリケーション
─────────────────────────────
 スマホは、入手した時点では基本的機能しか付いていないので
す。これを「ファームウェア」といいます。このファームウェア
に自分が使いたいアプリケーション(アプリ)をメーカーが開設
している市場から購入して、機能を追加することができます。こ
れによってスマホの機能は、購入後に機能が向上していきます。
こういうマシンは、PC以外はこれまで存在しないのです。
 このスマホ用のアプリは、無料のものもありますが、有料のも
のは商品であり、「商品としてのIT」そのものです。総務省の
調査によると、スマホ向けのアプリやコンテンツは、2014年
度には390億ドルに達しており、2018年度には770億ド
ル規模にまで拡大するといわれる巨大市場です。
 日本でいうと、国民の70%以上が既にスマホを保有しており
最近では高齢層まで拡大しているので、当然のことながら、スホ
マアプリやコンテンツ市場は拡大しています。スマホには、アイ
フォーンとアンドロイドがありますが、日本は、世界で唯一アイ
フォーンとアンドロイドが半々の国です。他国ではアンドロイド
のシェアが上であり、それほど日本はアップルファンが多い国で
あるといえます。    ──[次世代テクノロジー論/11]

≪画像および関連情報≫
 ●「商品としてのIT」の狙い目/斎藤昌義氏
  ───────────────────────────
   2009年、インターネットにつながっていたモノは25
  億個あったとされていますが、2015年には180億個に
  そして2020年には500億個に達するであろうという予
  測があります。IoTはそんな勢いで市場を急速に拡大しつ
  つあります。加速度を増して拡大するIoT市場は参入を検
  討するに値する市場であると考えます。
   急速に拡大する市場への参入は技術も未成熟で変化も早く
  その動きに追従し、さらには先取りして取り組むことは容易
  なことではありません。また、そこで使われている様々な技
  術が将来生き残るかどうかも市場の評価が固まっていない段
  階ですから、リスクがあります。一方で、市場に加速度があ
  りますから、ちょっとしたアドバンテージが短期間で大きな
  差を生みだす市場でもあるのです。
   新しい事業は、このような市場の加速度があるところに着
  目すべきです。既に確立された大きな市場は強豪がひしめい
  ています。そのような市場で闘うことは容易なことではなく
  先行企業の圧倒的な競争力で潰されるか価格競争を強いられ
  るかのいずれかであり、ビジネスとしてのうまみはなかなか
  得られません。いまは規模が小さくても加速度のある市場に
  いち早く参入することです。自分たちが未熟であってもお客
  様も競合他社も未熟です。だからこそ、ITの動向を見据え
  て自分たちだけでやろうとはせず、オープンにできる人たち
  を巻き込むことです。そうやって一歩先んじることで市場で
  のイニシアティブを確保することができるのです。
                   http://bit.ly/2y2wAYC
 ●図形の出典           斎藤昌義著/技術評論社
               『『未来を味方にする技術』』
  ───────────────────────────

商品としてのITの生まれた背景.png
商品としてのITの生まれた背景
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2017年10月06日

●「『思想としてのICT』を考える」(EJ第4620号)

 昨日のEJで取り上げた「ICTの役割」を再現します。1と
2についての説明は終わっています。今回は、3について考える
ことにします。
─────────────────────────────
  1.利便性の向上と多様性を支える「道具としてのIT」
  2.    効率や品質を高める「仕組みとしてのIT」
 →3.      変革や創出を促す「思想としてのIT」
  4.収益を拡大させ、成長を支える「商品としてのIT」
                     ──斎藤昌義著
    『未来を味方にする技術/これからのビジネスを創る
             ITの基礎の基礎』/技術評論社
─────────────────────────────
 第3は「思想としてのIT」です。
 思想としてのIT──これはどういう意味でしょうか。
 実は「思想としての〇〇」という表現は、実はよくあることな
のです。一番印象に残っているのは次の本です。
─────────────────────────────
           西垣通著/1997年5月
     『思想としてのパソコン』/NTT出版
─────────────────────────────
 この本が出版されたのは1997年5月です。日本では、マイ
クロソフトから「ウインドウズ95」が発売されたのが1995
年11月であり、これを契機に一般家庭にPCが、いささかオー
バーな表現ながら、怒涛のように普及し、一大PCブームが盛り
上がっていたときです。これと並行して、インターネットも利用
者が急増していたのです。
 『思想としてのパソコン』は、人とコンピュータの関係を研究
するキーマンであり、現代のICT社会を予告するような7人の
学者の先駆的な論文を紹介しています。「メメックス」というマ
シンを提唱したヴァネヴァー・ブッシュ、マウスの開発者として
知られ、現代のウインドウズのようなGUI──グラフィカル・
ユーザー・インターフェイスを実現したダグラス・エンゲルバー
ト、電子マネーや暗号通貨につながる概念に言及したフィリップ
・ケオーなど、錚々たる学者の論文が7つ紹介されています。論
文そのものなので、いささか堅いですが、きわめて興味深い内容
の本であるといえます。
 最初に紹介されているヴァネヴァー・ブッシュの提唱する「メ
メックス」の構想は次のようなものです。
─────────────────────────────
 ブッシュが描いた連想の航跡は、リンクによって鎖のようにつ
ながれた一連のマイクロフィルムのコマであり、これは格納され
ている順番とは全く関係ない。そこに個人的なコメントや枝分か
れした航跡を付属させることもできる。当時ブッシュは情報の索
引付けの方法を制限と考えており、人間の脳内で行われている連
想と似たような情報蓄積方法を提案したのである。
                   http://bit.ly/2xfRcuH
─────────────────────────────
 このヴァネヴァー・ブッシュの構想は、後のハイパーテキスト
という概念の先駆けであり、これがベースになってウェブサイト
が実現しています。また、インプットした文書の検索やタグ付け
などの機能をひとつの装置が持つというイメージは、現代の「エ
ヴァノート」のアプリを連想させます。驚くべきことはブッシュ
がこの論文を発表したのが1945年(昭和20年)であること
です。その頃からこんな凄い思想があったのです。
 この本で紹介されているひとりであるダグラス・エンゲルバー
トは、まさに現代のPCの使い方を1968年に次のようなプレ
ゼンをしています。これは大変有名なプレゼンです。
─────────────────────────────
 コンピュータの画面の前に座った人間が、画面上の複数のグラ
フィカルな「ウィンドウ」を見比べながら、マウスやキーボード
を使って文章をリアルタイムに編集する。そして作成した文書を
遠隔地のコンピュータに送る。いまではごく当たり前の操作方法
だが、そのルーツはこのときのプレゼンにある。エンゲルバート
のプレゼンが、その後のコンピュータ開発に与えた影響は計り知
れない。現代を生きる私たちにとってなじみ深い「パソコン(パ
ーソナル・コンピュータ)」も、エンゲルバートなくしては考え
られない。                 ──鈴木幸一著
            『日本インターネット書記』/講談社
─────────────────────────────
 世の中を一変させるようなある画期的なマシンや技術が発表さ
れたとき、それらの本質を見抜いて、将来それが人々の生活にど
のような影響を与えるのかについて考える必要があります。どの
ような時代でもそういうことを研究する人はいるものです。こう
いう視点が斎藤昌義氏のいう「思想としてのIT」の視点ではな
いでしょうか。ICTこそ、確実に未来を変えるテクノロジーで
あると考えるからです。
─────────────────────────────
 ITは既存の常識を破壊し、「以前はまったく夢物語だったけ
ど、いまではかんたんにできること」を増やし続けています。そ
の新しい常識でものごとを考えるとき、これまでとは違う解釈や
発想が生まれてきます。そんな「思想」という役割をITは担っ
ているのです。「思想としてのIT」は、ビジネスを変革させ、
新たなビジネスを創出する原動力となります。
                ──斎藤昌義著の前掲書より
─────────────────────────────
 すべてのビジネスプロセスをICTが行うことを前提としても
のごとを考えると、今までの常識が覆ります。その非常識な発想
をベースにものごとを考えると、新しいアイデアが生まれてくる
のです。それが「思想としてのIT」です。4は10日のEJで
取り上げます。     ──[次世代テクノロジー論/10]

≪画像および関連情報≫
 ●マウスを発明した男、ダグラス・エンゲルバート
  ───────────────────────────
   エンゲルバートが抱いていた思いは、人間と技術の進歩の
  調和がずれ始めているということだった。電話やテレックス
  のネットワークは世界中に広がり、情報は瞬時にやりとりが
  できるようになっている。印刷のコストは下がり、大量に情
  報を印刷して配布することも可能になった。そして、電子計
  算機が登場し、複雑な計算も瞬時に行えるようになった。し
  かし、一方で人間はどうだろうか。テクノロジーは急速に進
  化しているのに、人間はまったく進化していない。これでは
  いずれ、人間がテクノロジーの進化に置いて行かれてしまう
  のではないか。
   そうならないためには、人間が進化しなければならない。
  しかし、生物としての進化は、簡単なことではないので、情
  報機器を使いこなすようにして、情報武装しなければならな
  い。そのためには、電子計算機を利用するのが最も適してい
  る。紙とペン、電話は確かに人類が発明した素晴らしい道具
  ではあるが、それでだけでは情報化社会は実現できない。エ
  ンゲルバートはそう感じていた。だが、その電子計算機にも
  問題がないわけではない。複雑な計算ができる計算機として
  は優秀だったが、人間が使う道具として見るとまだまだ至ら
  ないところが多かった。エンゲルバートが特に問題にしたの
  が、リアルタイムと協働作業だ。  http://bit.ly/2xgko9L
  ───────────────────────────

ダグラス・エンゲルバート.jpg
ダグラス・エンゲルバート
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2017年10月05日

●「いまICTを考え直すときである」(EJ第4619号)

 最近の通信技術について書いたり、話したりするとき、ITと
書くべきか、ICTというべきかについて迷います。現在書籍や
テレビなどでは主流はダントツでITです。ITとは、次の英語
の頭文字をとっています。
─────────────────────────────
     IT=Information Technology 情報技術
─────────────────────────────
 この言葉が日本において使われるようになったのは、PCが一
般家庭に普及した1995年頃からです。その頃メールは幅広く
使われていましたが、インターネットは既に日本語対応をしてい
たものの、あまり普及していなかったのです。
 数年が経過して、PCからのウェブサイトの閲覧は当たり前の
ことになり、同時に携帯電話が普及し、携帯電話からもメールが
発信できるようになると、人々は通信とか、それによるコミュニ
ケーションを意識するようになります。ちょうどその頃だったと
思いますが、ITのことを時の総理が「イット」と呼び、話題に
なったものです。
 この時点で既にITは相当浸透しており、ITではなく「IC
T」と呼ぶべきだったのです。ICTは次の英語の省略形です。
─────────────────────────────
 ICT=
 Information and Communication Technology 情報通信技術
─────────────────────────────
 このICTが今や急速に発達しており、世の中を一変しようと
する勢いです。その速度は尋常なほど早いのです。その進化に負
けないように、ICTというものをどのようにとらえればよいか
考えてみる必要があります。
 ここで改めてご紹介したいのは、未来のビジネスについて、I
CTの進化という独自の立場から説いている次の本です。既にこ
こまで何回も所説をご紹介しているネットコマース株式会社代表
取締役の斎藤昌義氏の次の著書です。
─────────────────────────────
                        斎藤昌義著
     『未来を味方にする技術/これからのビジネスを創る
              ITの基礎の基礎』/技術評論社
─────────────────────────────
 この本の特徴は、この本に掲載されている膨大な図表をロイヤ
リティフリーでダウンロードできるという特典がついていること
です。これは大変ありがたいことです。ちなみに、斎藤昌義氏は
ICTではなく、「IT」という表現を使っています。
 斎藤昌義氏は、ICTの役割について、次の4つに分けて説明
しています。
─────────────────────────────
 1.利便性の向上と多様性を支える「道具としてのIT」
 2.    効率や品質を高める「仕組みとしてのIT」
 3.      変革や創出を促す「思想としてのIT」
 4.収益を拡大させ、成長を支える「商品としてのIT」
              ──斎藤昌義著の前掲書より
─────────────────────────────
 斎藤昌義氏によるICTの4つの役割の説明はなかなか意味が
深いのです。以下、そこで斎藤氏の説明を私なりに解釈して説明
することにします。
 第1は「道具としてのIT」です。
 これは理解できます。多くの人はICTを仕事を進めるための
道具として認識しています。一番わかりやすいのは、ワープロ、
表計算、電子メールなどのビジネスソフトです。これを使うこと
によって、仕事の効率や質を確実に高めてくれます。そういう意
味でICTは、ビジネスと一体化しており、不可欠な道具となっ
ています。
 第2は「仕組みとしてのIT」です。
 「仕組みとしてのIT」とは何でしょうか。仕組みについて、
斎藤昌義氏は次のように説明しています。
─────────────────────────────
 そもそも「仕組み」とは、業務の手順を作業単位、すなわち、
「プロセス」という要素に分解し、時間軸に沿って並べたものも
のです。無駄なプロセスを省き、効率の良いプロセスの順序を決
め、だれもが使えるように標準化し、それをコンピュータプログ
ラムに置き換えることで、だれもがまちがえることなく、仕事を
進められるようにします。経理や人事、受注、調達、生産、販売
など、さまざまな業務プロセスがプログラムに置き換えられてき
ました。            ──斎藤昌義著の前掲書より
─────────────────────────────
 「道具としてのIT」と「仕組みとしてのIT」の違いは、前
者がそのスキルを習得するための努力が必要になるのに対して、
後者は手順通りデータを入力すれば、だれでも目的とする処理が
できるという点にあります。
 典型的なものに、新幹線や航空会社の座席予約システムがあり
ます。これは発券処理という業務プロセスにのっとってプログラ
ミングされているので、その手順さえ間違わなければ、誰にでも
操作できます。しかし、現在のシステムでは、顧客が日付や時間
あるいは便数を指定して、早い者勝ちで席を予約できるようなシ
ステムになっており、希望する席──窓際か内側か、2人席か複
数席かの指定は困難なようです。
 しかし、業務プロセスを改善して、事前に自分の希望を入力す
れば、AI(人工知能)によって、その希望に最大限合わせた席
をとることが可能になるはずです。業務プロセスは常に見直され
るべきであります。このような「仕組みとしてのIT」がそれぞ
れの目的に合わせて無数に存在するのです。3と4については、
明日のEJで考えていくことにします。
            ──[次世代テクノロジー論/09]

≪画像および関連情報≫
 ●ITは道具ではなく、レストランのようなサービスである
  ───────────────────────────
   「サービスとは何か」――これは、会社の経営者や組織の
  運営者にとってさえ重要な問題である。利益やコスト削減の
  みを追及し、事業顧客(いわゆるお客様)に対するサービス
  の基本を忘れ、それが露呈した段階で衰退していった会社や
  組織がどれほど多いことか。
   ITが、企業活動において「なくてはならない存在」にな
  って、かれこれ20年ほどが経過した。実際には、ビジネス
  にコンピュータが使われるようになった歴史はもっと長いが
  大企業がホストコンピュータやオフコンと呼ばれるシステム
  を本格的に導入し始めたのが1980年頃、中堅企業がウイ
  ンドウズシステムを中心としたクライアント/サーバシステ
  ムを導入し始めたのが1980年後半、と考えればそんなも
  のだろう。しかしこの20年間、IT資産(ハードウェアや
  ソフトウェアなど)はビジネスにおける「道具」と思われて
  きた。机やイス、ペンやノート、そろばんや電卓、電話やF
  AXなどと同じ「ビジネスに必要な道具」だという扱いを受
  けてきたのである。そのためITシステムの開発は「ビジネ
  スに便利な道具を開発する」という考え方の元に行われてき
  たし、導入したITシステムの運用も「ビジネスに便利な道
  具の使い勝手をメンテナンスする」というアプローチで進め
  られてきた。その考え方は、おそらく、歴史の途中までは正
  しかったのだろう。       http://dell.to/2xXJby1
  ───────────────────────────
 ●図形の出典/http://bit.ly/2g5X5qQ 

道具としてのITと仕組みとしてのIT.jpg
道具としてのITと仕組みとしてのIT
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2017年10月04日

●「ソーシャル化とスマート化の解明」(EJ第4618号)

 デジタルトランスフォーメーションが起こしつつある4つの変
化を再現します。1と2の説明は終わっています。
─────────────────────────────
          1. サービス化
          2. オープン化
        → 3.ソーシャル化
        → 4. スマート化
─────────────────────────────
 第3の変化は「ソーシャル化」です。
 よくいわれる「ソーシャル化」とは、どういうことを意味する
のでしょうか。定義は次のようになっています。
─────────────────────────────
 ソーシャル化とは、従来はユーザーが単独でそれぞれ利用して
いた機能やサービスに、ネットワークを通じて人と人との双方向
コミュニケーションが図れるソーシャルメディアの要素を加える
ことである。             http://bit.ly/2xUuI66
─────────────────────────────
 これは、ウェブサイト、ブログ、ツイッターの違いを考えてみ
るとわかります。ウェブサイト、すなわちホームページは、その
メッセージは一方的に発信するだけです。
 これに対してブログは、投稿記事に対して返信機能があるので
これを使えば、コミュニケーションがとれます。しかも、そのブ
ログの利用者には、やり取りが公開されているので、誰でもその
やり取りに参加できます。今では当たり前のことですが、当時と
しては画期的なことだったのです。
 ツイッターは、発進できる文字数が140字と限定されていま
すが、ツイートに対しての返信はもちろんのこと、そのまま自分
のフォロワーにリツィートしたり、「いいね」をクリックしたり
して、ツイートを拡散できます。ここまでくると、「人と人との
双方向のコミュニケーションが図れる」ので、ソーシャル化とい
うことができます。同じことができるフェースブック、インスタ
グラム、LINEなどのSNSメディアは多数あり、現代は「人
と人がつながる時代」になっています。
 これは、多くの人がスマホを常備するようになって、実現した
といえます。斎藤昌義氏は、ソーシャル化は「情報の民主化を加
速する」として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 インターネットの普及とともにコミュニケーションコストが劇
的に下がりました。また、だれもがスマートフォンを所有し、情
報をその発生源から直接手に入れることができるようになりまし
た。その結果、情報の流通を管理、統制することで権力や富を維
持してきた仲介者はその役割を失いつつあります。インターネッ
トやソーシャルメディア、スマートフォンの普及は、そんな「情
報の民主化」を加速しています。
          ──斎藤昌義著『未来を味方にする技術/
  これからのビジネスを創るITの基礎の基礎』/技術評論社
─────────────────────────────
 インターネットを介して人と人が簡単につながることが実現し
たことによって、これまでの常識では考えられなかった「シェア
リングエコノミー」というサービスが続々と誕生しています。
 例を上げると、車の所有者と、いま車に乗りたい人がつながる
ことで実現した配車サービスの「ウーバー」、印刷機の空き時間
をなくしたい印刷会社と、少しでも安く印刷したい人がつながる
ことで実現した「ラクスル」などがあります。これらは、シェア
リングエコノミーと呼ばれますが、人と人がすぐにつながるソー
シャル化があってはじめて実現したサービスです。
 第4の変化は「スマート化」です。
 最近「スマート」という言葉がよく使われます。「スマート〇
〇」というようにです。スマートフォン、スマートファクトリー
スマートハウス、スマートグリッド、スマートシティ、スマート
デバイスなど、たくさんあります。
 一般的に「スマート」という言葉は、「気の利いた」とか「粋
な」とかいう意味にとらえられています。しかし、辞書をていね
いに見ると、「高性能の」とか「コンピュータ化された」とか、
「ハイテクな」というような意味もあります。
 これによって「スマートフォン」は、高性能のハイテクな電話
という意味になりますし、「スマートファクトリー」は、「賢い
工場」ともいわれますが、「ハイテク化された工場」というよう
に理解できます。
 現在、多くの製品、衣服にしても、バイクにしても、好みの多
様化やカスタマイズ化が起きています。しかし、企業が人の様々
な好みに合わせて、個別に対応することは困難です。
 しかし、IoTによって消費者とメーカーがつながることで、
それは可能になるのです。IoTを活用すると、消費者は、カス
タマイズされた一品ものの製品を、量産品と変わらない価格で買
うことができるようになります。
 消費者からのカスタマイズされた注文を受けた工場のAI(人
工知能)が、必要な組み立て工程を確立し、自動的にラインが組
み替えられて、あたかも量産品が生産されるかのように、カスタ
マイズ製品が出来上がるのです。既出の斎藤昌義氏は、これにつ
いて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 IoTによって収集された「個別な事実」は、人工知能によっ
て分析され、それぞれの事実や意向を汲み取ります。そして、全
体を考慮しつつも可能な限り個別のニーズに対応しようとするで
しょう。さらに、人工知能は大量の「個別の事実」を分析し、新
たな知見、未来予測、最適な判断を促し、私たちの住む現実社会
をより快適にしてくれます。   ──斎藤昌義著の前掲書より
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/08]

≪画像および関連情報≫
 ●「スマート化」 が進むと世の中はどうなる!?
  ───────────────────────────
   オバマ大統領が2008年の選挙期間中に発表し、大きな
  話題となった「グリーン・ニューディール政策」。これは、
  環境産業によって、経済成長の促進や雇用を生むことを狙っ
  た政策ですが、この中で取り上げられ、一躍脚光を浴びるこ
  とになったのが、「スマートグリッド」です。
   電力の送り方を "賢く" する、この取り組み。必要な時に
  必要な場所だけに電力を送れるようにすることで、効率化を
  図り、省エネを実現します。また、再生可能エネルギーやエ
  コカーの導入を、強力に促進させます。このシステムを支え
  る縁の下の力持ちが、高度な電気・IT技術です。
   電力の供給と需要のバランスを上手にコントロールしたり
  太陽光や風力で発電したエネルギーを貯めておく技術の開発
  が、急ピッチで進められています。また、「スマートオアシ
  ス」といって、電気自動車の充電スタンドの所在地や、空き
  状況を知らせる新しいサービスの提供が始まっています。電
  気やエネルギーのコントロールを新しい方向へ導く「スマー
  トグリッド」。あなたが社会人になるころには、よりエコロ
  ジカルで、「賢く電気を使う」ためのさまざまな仕組みが社
  会に浸透しているはずです。    http://bit.ly/2hGFY07
  ───────────────────────────

シェアリング・エコノミー.jpg
シェアリング・エコノミー
 
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2017年10月03日

●「常識の大転換が起きる4つの変化」(EJ第4617号)

 9月26日のことです。掃除機メーカーとして世界的に有名な
英国のダイソンが、日本円にして1514億円を投じて電気自動
車(EV)に参入すると発表し、自動車業界に衝撃をもたらして
います。日本経済新聞の報道は次の通りです。
─────────────────────────────
 【ロンドン=篠崎健太】英家電大手のダイソンは9月26日、
2020年までに、電気自動車(EV)市場に参入すると表明し
た。主力のコードレス掃除機などで培った蓄電池やモーターの技
術を生かし、すべて独自での開発をめざす。世界の自動車大手が
しのぎを削るEVへの新たな異業種参入で、開発や販売競争は一
段と激しくなりそうだ。
 初代モデルの2020年までの投入を目標に、開発チームの増
強を急ぐ。ダイソン氏は、製品の詳細や販売目標などは言及しな
かったが、他社の既存EVとは「根本的に違ったものになる」と
の見通しを示した。英国のほか世界各地での販売をめざすとみら
れる。    ──2017年9月27日付、日本経済新聞より
                http://s.nikkei.com/2xJUFFM
─────────────────────────────
 日本の自動車業界には、この7月も、英国政府やフランス政府
が2040年までにガソリン車を全廃すると発表し、中国政府も
時期は明らかにしないものの、EVへの完全シフトを宣言し、大
衝撃が走ったばかりです。なぜなら、日本の自動車メーカーは、
EVは製造しているものの、現時点では水素自動車など、正反対
の方向を向いているからです。こういう動きこそデジタルトラン
スフォーメーションであるといえます。
 EVは基本的には「家電」ですから、掃除機メーカーが参入し
てきても何の不思議もないのです。これからも次々といろいろな
企業が参入し、競争はさらに激化するはずです。EVは、ガソリ
ン車ほどの高度な技術は必要がないとされ、最終的には価格競争
になる恐れがあります。トヨタ、日産をはじめとする日本の自動
車メーカーも対応を誤ると、日本の家電メーカーと同じ運命を辿
る可能性があります。それがデジタルトランスフォーメーション
の恐ろしいところです。デジタルトランスフォーメーションは、
既に次の4つの変化を生み出しつつあります。
─────────────────────────────
          1. サービス化
          2. オープン化
          3.ソーシャル化
          4. スマート化
─────────────────────────────
 4変化の説明に入る前に、ひとつお断りしておきたいことがあ
ります。生活やビジネスにおいて、人はさまざまな道具を使いま
すが、そういう道具を「機械」とか「システム」とか「マシン」
とかの言葉で表現します。ここではそういうものを「ICT」と
表現することにします。ICTにはもちろん、AI(人工知能)
などの先端技術を含みます。
 第1の変化は「サービス化」です。
 人は何かを造るために、これまで様々な機械や道具を手段とし
て使ってきましたが、近未来のビジネスでは、モノ作りのほとん
どの工程は、ICTが行うようになり、人はそれ以外のことを担
当するようになります。それが「サービス化」です。
 自動車のタイヤメーカーは、タイヤを製造し、そのタイヤを売
ることで稼ぐビジネスです。しかし、ICTが進化すると、走行
している車のパーツから様々な情報が送られてきて、それらを分
析できるようになります。IoTといわれる技術です。
 例えば、走行中の車のタイヤの空気圧や温度、走行距離などが
リアルタイムにわかると、メーカーは事前に異常を検知できるの
で、ドライバー通知して、事故を起こす前に修理できます。それ
ができるようになると、タイヤメーカーは、タイヤという製品を
売って稼ぐのではなく、安全な走行や、燃費向上(経費削減)の
サービスを提供するサービス業に転換するようになります。
 人々が求めているのは、手段ではなく、結果です。手段を所有
しなくても結果が手に入るのであれば、その方へ需要がシフトす
るのは、自然の流れです。これが「サービス化」です。
 第2の変化は「オープン化」です。
 「オープン化」というのは、情報システムの世界の言葉ですが
ここでいうオープン化とは、特定の企業が占有する技術や製品で
はなく、多くの人がフリー(無料)で関与できる技術や製品のこ
とをいうのです。その代表的なものは、インターネットとそれに
付随する様々ななサービスです。
 インターネットの利用自体は、プロバイダの経費を除くと、ほ
とんどフリーであり、だれでも利用できます。ブログ、フェイス
ブック、ツイッター、インスタグラム、LINEなどのSNSも
フリーで使えます。スマホが普及してからは、これらのサービス
の利用者は激増し、そういう環境のなかで、ウ―バーやエアビー
アンドビーなどのシェアリングエコノミーが育っています。時代
がオープン化を求めているといえます。
 既出の斎藤昌義氏は、オープン化について自著において、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 オープンであることが、もはや社会主義に近い感覚になりつつ
あります。自らがオープンなコミュニティの中で貢献し、リーダ
ーシップを示すことが社会的評価を高め、ビジネスを成功させる
原動力となることを多くの人が受け入れはじめています。
          ──斎藤昌義著『未来を味方にする技術/
  これからのビジネスを創るITの基礎の基礎』/技術評論社
─────────────────────────────
 日本のコマツ、ロールスロイスなどにこのような動きが見られ
ます。4の「ソーシャル化」、5の「スマート化」については、
明日のEJで述べます。 ──[次世代テクノロジー論/07]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタルトランスフォーメーションをどう定義するか
  ───────────────────────────
   デジタルトランスフォーメーションという言葉をどのよう
  に定義するか、企業の最高情報責任者(CIO)10人に尋
  ねてみたら、恐らく、10通りの答えが返ってくることだろ
  う。包括的なビジネス変革を促進するためのテクノロジープ
  ロジェクトをいくつも並べているところは大枠として共通し
  ているだろうが、それでもやはり、デジタルトランスフォー
  メーションを定義することは簡単ではない。
   確かにデジタルトランスフォーメーションでは、新たな収
  益源やビジネスモデルを追求するためにテクノロジーをどの
  ように使うかという面を、根底から考え直す必要がある。ま
  た、ビジネスに主眼を置いた哲学と、アプリケーションの高
  速開発のモデルとを組み合わせるという点で、部門間にまた
  がったコラボレーションも必要になる。しかし、多くの企業
  が行っている取り組みは、一見デジタルトランスフォーメー
  ションのようでも、実は、デジタルオプティマイゼーション
  (最適化)であり、新たなデジタルイニシアチブで、既存の
  サービスを充実させているにすぎない。結局、デジタルトラ
  ンスフォーメーションの定義に苦労した人の多くは、最終的
  には「見れば判断が付く」という言い方に落ち着く。
                  http://nkbp.jp/2wqu50B
  ───────────────────────────

ダイソン/マックス・コンツCEO.jpg
ダイソン/マックス・コンツCEO
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2017年10月02日

●「ICTによるビジネスの一大変化」(EJ第4616号)

 「ICTが世の中を変える」ということがかなり前からいわれ
ています。PCの普及、インターネットの活用、メールによるコ
ミュニケーションなどによって、ビジネスの世界は、大きく変貌
を遂げたことは確かです。
 さらに携帯電話の普及によってICTの変化は進みます。とく
に、携帯電話からのメールの受発信も可能になり、コミュニケー
ションの多様化が進みます。いつでもどこでもコミュニケーショ
ンがとれるようになります。これによって、携帯電話が単なる電
話ではなくなるのです。
 携帯電話──とくに日本の携帯電話はどんどん進化し、多機能
化します。カメラが付き、それに続いて、ワンセグ、着メロ、着
うた、赤外線通信、電子マネー(お財布ケータイ)など、驚くべ
き多機能化が進んだのです。
 このように、日本の携帯電話は、多機能ではあるものの、世界
の標準とはいささか異なる進化を遂げたことから、他の島と接触
がないことによって、動植物が独自に発達したガラパゴス諸島に
ちなんで、「ガラパゴスケータイ」と揶揄されるようになったの
です。しかし、世界は結果としてこの日本の技術を後から取り入
れるようになります。現在のスマホがその典型です。
 2005年頃からブログが登場し、誰でもウェブサイトを持つ
ことができるようになります。このときから、ICTの専門家だ
けではなく、多くの人々が、インターネット空間を自由に利用す
ることができるようになったのです。
 2007年にアップルが開発したアイフォーンによって、IC
Tの進化の速度はさらにスピードアップします。世界中の人々が
5年ほど前のスーパーコンピュータの能力に匹敵する高性能コン
ピュータをつねに携帯するという驚くべきことが実現します。こ
れで世の中が変わらないはずはありません。
 そして現在、世界はデジタルトランスフォーメーションの時代
になりつつあります。「デジタルトランスフォーメーション」と
は何でしょうか。
 トランスフォーメーション(Digital transformation)には、
「形を変える」とか、あるいは「再編成する」という意味があり
ます。どのように形を変えて、何を再編成するのでしょうか。
 デジタルトランスフォーメーションの定義については、次のよ
うにいわれています。
─────────────────────────────
 「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変
化させる」という概念である。2004年にスウェーデンのウメ
オ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したとされる。
                   http://bit.ly/2dLDLdz
─────────────────────────────
 これでは、あまりにも概念が抽象的なので、もっと具体的に考
えてみます。現在、すべてのビジネスプロセスは、人間が行うこ
とを前提に組み立てられています。当たり前のことです。プロセ
スで、さまざまな道具やマシンを使うにしても、あくまでビジネ
スプロセスの中心は人間であり、それを前提にビジネスプロセス
は最適化されています。
 しかし、これからは違います。人間ではなく、マシンが中心に
行うことを前提にビジネスプロセスが最適化されるようになった
のです。それを「デジタルトランスフォーメーション」といいま
す。ネットコマース株式会社社長の斎藤昌義氏は、これについて
自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 ITの進化は、これまで「人間のできること」を機械に置き換
え、効率化やコストの削減を実現してきました。さらに、インタ
ーネットやクラウド、IoTや人工知能の普及は、「人間にしか
できなかったこと」や「人間にはできないこと」をどんどんでき
るようにしています。ならば、そんなITや機械の新しい常識の
下に、「人間ではなく、ITや機械がすべてをおこなうことを前
提に、最もふさわしい仕事の流れを実現する」と考えてもいいは
ずです。どうしても「人間にしかできないこと」が残るとすれば
「それは人間がやりましょう」と発想を逆転して考えてみると、
これまでの常識では考えられなかったことが実現するかもしれま
せん。これが、「デジタルトランスフォーメーション」の目指し
ているところです。──斎藤昌義著『未来を味方にする技術/こ
   れからのビジネスを創るITの基礎の基礎』/技術評論社
─────────────────────────────
 ハーレーダビッドソン──オートバイに関心がない人でも、こ
の企業の名前を知らない人はいないでしょう。しかし、この企業
の生産性はきわめて悪かったのです。なぜなら、この企業の最大
の特色は「カスタム性(改造)」にあるからです。日本を含め、
世界中に「ハーレーのカスタム化専門店」が多数存在し、ありと
あらゆるパーツやアクセサリーを販売しています。いわば「改造
車があたりまえ」であり、「改造していないハーレーなんてカッ
コ悪い」といわれているのです。
 このような顧客のわがままな注文を聞き入れるために、注文を
受ける工場では、部品手配の関係上、15〜21日前に注文を締
め切らざるを得なかったのです。個別対応になるので、これでは
生産性がまるで上がるはずがありません。
 しかし、ハーレーダビッドソンは、トップの決断によって「ア
ルバート」というAIシステムをマーケティング政策に取り入れ
ウェブ上で顧客が自分でパーツを組み立て、申し込むというシス
テムを導入します。それに加えて、さらに強力なICTシステム
を取り入れ、工場をスマート・ファクトリー化させ、生産性を劇
的に改善させることに成功しています。それは、すべての製造装
置や工作機械に取り付けられたセンサーによって、稼働状況をリ
アルタイムで把握できるIoTのシステムです。これは、デジタ
ルトランスフォーメーションの事例そのものです。
            ──[次世代テクノロジー論/06]

≪画像および関連情報≫
 ●ハーレーダビッドソンのAI活用法
  ───────────────────────────
   冬のニューヨーク市。アサフ・ジャコビ率いるハーレーダ
  ビッドソンの販売代理店では、オートバイの売上げは週1〜
  2台だった。満足のいく数字ではない。ジャコビは、リバー
  サイド・パークに長い散歩に出かけたところ、人工知能(A
  I)企業アドゴリズムのCEO、オル・シャニにばったり出
  会った。販売不振に悩むジャコビの話を聞いたシャニは自社
  のAIを用いたマーケティングプラットフォームである「ア
  ルバート」の試用を勧めた。これは、マーケティングキャン
  ペーンの効果を測定し、自律的に最適化するツールであり、
  フェイスブックやグーグルを含む多様なデジタルチャネルで
  活用できるものだ。
   ジャコビは、アルバートに1週間の「試用期間」を与える
  ことにした。その週末、ジャコビはオートバイを15台販売
  した。夏場の週末の売上最高記録である8台を、2倍近く上
  回る数だ。ジャコビは当然ながらアルバートを使い続けた。
  すると、販売店で1日に獲得する優良見込み客は、1人から
  40人へと増加。最初の1ヵ月、新規見込み客の15%は、
  「ルックアライク(類似した顧客)」だった。すなわち、販
  売店にアポイントの電話をかけてくる人々は過去の優良顧客
  と似ており、オートバイを購入する可能性が高いということ
  だ。3ヵ月後、見込み客数は2930%も増加し、そのうち
  50%がルックアライクだった。このため、ジャコビは新た
  に6人の従業員を雇い、新規顧客に対応すべく急遽新しいコ
  ールセンターを設置した。     http://bit.ly/2x2tAhL
  ───────────────────────────

ハーレーダビットソンの工場.jpg
ハーレーダビットソンの工場
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2017年09月29日

●「日本は理数系人材をいかに作るか」(EJ第4615号)

 「科学に強い人材をつくる」には、大学入試制度を改革する必
要があります。既に見てきたように、日本人の15歳、すなわち
高校生は、国際的にみても、数学や科学に強い、きわめて優れた
素質を有していることはわかっています。それなのに、理数系に
弱い社会人が多くなっています。これは教育の問題、なかんずく
大学入試制度に原因があります。
 私立の進学校では、高校2年生の段階で、大学受験を見据えて
生徒を文系と理系に分けてしまうのです。ほとんどの大学の入試
では、文系には数学と理科の問題が出題されないからです。その
ため、文系志望の生徒は数学と理科の勉強をしなくなります。
 これでは、みすみす理系に強い生徒の才能までも摘み取ってし
まうことになります。数学と理科は、論理力を鍛えるためのもの
であり、文系にとっても必要な学科なのです。これについて既出
の鈴木寛氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 文系であっても、入試のときに数学があった主に国立大の文系
学生と、数学がなかった、主に私立文系の学生との問では正答率
に大きな差が生じています。おそらく、狭き門を突破して難関私
大文系学部に合格した人のほとんどは、中学校の時は数学ができ
ていたはずです。
 通信簿で数学は「5」をもらっていた人が、少なくないはずで
す。そういう生徒が高校へ進学し、2年生になって私立文系を目
指したとたんに数学と理科に触れなくなってしまうのは、もった
いないと思います。もともとはできる人のはずなんです。
               ──成毛真著/SB新書375
 『AI時代の人生戦略/「STEAM」が最強の武器である』
─────────────────────────────
 大学入試を変えるには、いきなり制度を変えるのではなく、理
数系に強い人材を育てる仕組みを作る必要があります。鈴木寛氏
は、かつての民主党政権の文科省副大臣時代に、その仕組みをひ
とつ作っています。それが「科学の甲子園」です。それは現在で
も続いています。
 「科学の甲子園」とは何でしょうか。科学技術振興機構のウェ
ブサイトから、その狙いをご紹介します。
─────────────────────────────
 科学の甲子園は、高等学校等(中等教育学校後期課程、高等専
門学校を含む)の生徒チームを対象として、理科・数学・情報に
おける複数分野の競技を行う取り組みです。
 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)は、平成23年
度(2011年)より科学の甲子園を創設し、全国の科学好きな
高校生が集い、競い合い、活躍できる場を構築します。また、こ
のような場を創ることで、科学好きの裾野を広げるとともにトッ
プ層を伸ばすことを目指します。    http://bit.ly/2ysEHfY
─────────────────────────────
 「科学の甲子園」は、ある学校の高校生が、チーム単位で、理
科、数学、情報の競技を行うもので、全国高校野球選手権大会と
同じように、各都道府県の予選を勝ち抜いた学校が、全国大会を
戦うのです。この大会に優勝すると、「サイエンス・オリンピア
ド」という米国で開かれる大会に参加することができます。
 2012年に第1回大会が兵庫県立体育館において開催され、
以後、毎年行われています。第1回大会のベスト3は、次の高等
学校です。
─────────────────────────────
      第1位:  埼玉県立浦和高等学校
      第2位:  滋賀県立膳所高等学校
      第3位:筑波大学付属駒場高等学校
─────────────────────────────
 鈴木寛氏は、「科学の甲子園」では、どの高校が優勝するかも
重要ですが、このイベントにどのくらいの高校がチャレンジする
か、その裾野の広がりの方がもっと重要であるといっています。
なぜなら、変革を起こすには、「高校生17万人」という数が必
要だからです。17万人の根拠は何でしょうか。
 最近の話ですが、全国の高校のサッカー部員の数が、野球部員
の数を抜いたそうです。どちらもほぼ17万人ですが、サッカー
部員の数が少し上回ったそうです。今後、その差は開いていくも
のと思われます。
 既に日本の野球は、十分世界に通用するようになっています。
イチロー選手をはじめ、数多くのプロ野球の選手がメジャーリー
グで活躍していますし、WBC/ワールド・ベースボール・クラ
シックでも2回も優勝しています。それは、17万人の高校生の
野球人口が支えているのです。
 Jリーグが始まったのは1993年です。それから20年以上
かけて、少しずつサッカー人口が増えて、やっと高校のサッカー
部員の数が17万人に達し、野球部員の数を超えたのです。実際
に日本のサッカー選手も、まだ数は少ないものの、プレミアリー
グのチャンピオンチームで、レギュラーを務める選手が出てきて
います。高校のサッカー部員が17万人が超えたことがそういう
状況をもたらしているのです。
 「科学の甲子園」は、やっと5年を超えたばかりですが、現在
高校における科学部の部員は約5万人です。約6年で5倍です。
17万人にはまだほど遠い状況ですが、科学技術の進歩は、はる
かにこれを上回っているので、今後相当スピードを上げる必要が
あります。国としての本気の取り組みが求められています。
 その鍵を握るのが、国としてのSTEM教育の強化です。鈴木
寛氏によると、このSTEM教育の機運を盛り上げ、その普及を
加速させていくため、一定の実験設備などを備え、生徒が自分で
テーマを決めて課題研究ができる高校を「スーパーサイエンスハ
イスクール」(SSH)に指定する取り組みを始めています。現
在、そのSSHは200を超えており、この動きは今後加速する
といわれています。   ──[次世代テクノロジー論/05]

≪画像および関連情報≫
 ●STEM教育とは何か?
  ───────────────────────────
   19世紀の産業革命以降、教育は近代国家に欠かせないも
  のでした。労働の担い手を生み出し、市民社会を形成するた
  めに必要だったからです。そこでの教育技法は「教師が生徒
  に教え込む」つまり「教師から始まる」教育でした。
   20世紀に入り、市民社会が成熟すると、違った教育技法
  が生まれました。「成長過程にある人間の自主性を認め、そ
  こを起点とする」ものでした。いわば「生徒から始める」教
  育です。市民社会がさらに高度化し、扱う情報が飛躍的に増
  大する中、後者の教育技法は常に不利な状況を強いられまし
  た。理由は時間。自ら学びとる手段を持たない生徒は必要な
  情報を手に入れるにも時間がかかりました。「知りたいとき
  に知りたいことをすぐに知る」ことができる手段は、当時は
  存在していませんでした。
   1950年代から60年代、第二次大戦を経て発展した情
  報処理技術は、コンピュータという新しい機械を生みだしま
  した。その頃は研究室に置かれ、一部の人間しかタッチでき
  ないものでしたが、1970年代、研究室を抜け出し、小型
  化。80年代から90年代にはパーソナルコンピュータ=パ
  ソコンとなって家庭に入り込み。さらにパソコン同士が繋が
  り、インターネットを生みました。21世紀「知りたいとき
  に知りたいことをすぐに知る」時代がやってきました。「生
  徒から始める」教育を推進できる環境が整ったのです。
                   http://bit.ly/2xC0SRK
  ───────────────────────────

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小学校でのプログラミング教育
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2017年09月28日

●「サイン、コサインはいらないのか」(EJ第4614号)

 第16代から第18代(2004年〜2016年)の3期12
年にわたり、鹿児島県知事を務めた伊藤祐一郎氏というベテラン
知事がいます。この伊藤知事は、県の総合教育会議において、次
の発言をしたのです。2015年8月27日のことです。
─────────────────────────────
 高校で女子に(三角関数の)サイン、コサイン、タンジェント
を教えて何になるのか。それよりもう少し社会の事象とか植物の
花や草の名前を教えた方がいい。     ──伊藤祐一郎知事
─────────────────────────────
 これと同じようなことを発言した人がいます。作家の曽根綾子
氏です。2011年に次の発言をしています。
─────────────────────────────
 2次方程式を解かなくてもこれまで生きてこられた。2次方程
式などは社会へ出て何の役にも立たないので、このようなものは
追放すべきだ。               ──曽根綾子氏
─────────────────────────────
 伊藤祐一郎前知事の発言はともかくとして、曽根綾子氏の発言
には同意する人は多いのではないでしょうか。確かに、日常生活
において、サイン、コサイン、タンジェントは必須のものではな
いでしょう。
 しかし、成毛真氏は、これらの発言について、次のように反論
しています。
─────────────────────────────
 三角関数なかりせば、測量はもとよりテレビゲームもつくれな
い。二次方程式が解けなければ宇宙開発など夢のまた夢である。
それ以前に数学は、ものごとを理知的・論理的に考える力を養っ
てくれる。作家はともかく、感性で地方自治を行われたのでは、
たまったものではない。災害対応など、じつに不安になってしま
う。ともかく、三角関数も二次方程式もわからない人が、これか
ら急速に社会に浸透してくる人工知能(AI)やロボットを「使
う側」に回れるとはとても思えない。
               ──成毛真著/SB新書375
 『AI時代の人生戦略/「STEAM」が最強の武器である』
─────────────────────────────
 私は曽根綾子氏の発言には違和感を感じます。なぜなら、曽根
氏が作家であるからです。「文章を書く」ことを職業にしている
からです。文章を記述するのは論理であり、その論理は、数学の
学習を積み重ねることによって、効率よく築かれ、磨かれていく
のです。
 これについて、成毛真氏と、元文科相補佐官で東大教授の鈴木
寛氏は、次のようなやりとりをしています。
─────────────────────────────
成毛:それひとつとっても私大文系だからSTEMは無関係とは
   言えないということですね。数学についてはどうですか。
   微分積分は社会に出てから役に立たない、だから数学を一
   生懸命勉強する必要はないと言う人もいます。
鈴木:高校で習う数学は論理です。論理的でないと、自然科学は
   もちろん、人文科学も社会科学も理解し、語り、書くこと
   はできません。論理的でないと、普通の文章も書けないの
   です。           ──成毛真著の前掲書より
─────────────────────────────
 OECD生徒の学習到達調査(PISA)では、次の3つのリ
テラシーをチェックしますが、実は、3つとも文章力に密接に関
係しているのです。文章力というのは、あるものごとについて、
やさしく、わかりやすく文章で表現するスキルのことです。
─────────────────────────────
         1.数学的リテラシー
         2.     読解力
         3.科学的リテラシー
─────────────────────────────
 1の「数学的リテラシー」は、論理力を磨くのにきわめて効果
があります。数学はロジックであり、その答えは1つに絞ること
ができます。したがって、数学に強くなることは、論理に強くな
ることを意味します。
 2の「読解力」も同じです。何かの文章を読んで理解するとい
うことは、論理的にすじが通ることを意味するからです。「わか
る」というのはいわば到達点であり、「わからない」が出発点に
なります。出発点の「わからない」から「わかる」まで、論理の
すじがつながると、人は納得をうるのです。
 3の「科学的リテラシー」、自然科学を理解するには、強い論
理力が必要になります。歴史を学ぶときも、論理力が求められま
す。歴史的事実を丹念に多く収集し、それらのパーツを論理力に
組み立て、真実を探るのです。
 これらの1、2、3を身に付け、磨くには、文章力を高めるこ
とによって、ある程度それは得られます。慶応義塾大学がどんな
に受験者が減っても、文系学部の入試において、数学と小論文を
出題しているのはそのためです。論理性を高めるには、数学と論
述が必要だからです。
 日本の大学は、世界のランキングからみると、その順位は高く
はありません。2015年のランキングでは東京大学が21位、
京都大学が22位です。しかし、これを学科領域別に見ると、東
京大学はサイエンスでは9位、京都大学は18位とかなり上位に
きます。
 しかし、社会科学では、東京大学、京都大学とも、200位以
内に入っていないのです。これが順位を下げている原因です。文
系学部が足を引っ張っているのです。これは、論理性の問題であ
り、大学入試を改革することによって大きく改善することができ
ると思います。どのように大学入試を改革するべきかについては
明日のEJで論ずることにします。
            ──[次世代テクノロジー論/04]

≪画像および関連情報≫
 ●「このままではダメになる」日本へ
  ───────────────────────────
   東京大学や早稲田大学など、日本の難関大学に中国人留学
  生が押し寄せている。「グローバル化」を進めたい大学当局
  にとって歓迎すべき存在だが、喜んでばかりもいられない。
  国際的な地位が低下する日本の一流大学が、中国でのすさま
  じい受験戦争に敗れた学生たちの「敗者復活の場」と化して
  いる実態もあるからだ。
   「あのまま中国の大学に残っていたら自分の将来は閉ざさ
  れていたでしょう」。4月から早稲田大学の人間科学部に通
  う中国人留学生の女性(22)は静かな笑みを浮かべながら
  話し始めた。インタビューしたのは彼女が昨年まで通ってい
  た都内にある「予備校」の教室。かつて祖国での失意のとき
  とは違い、自信を取り戻した姿がそこにあった。
   中国・遼寧省出身の彼女が来日したのは2014年7月。
  本国ではそれまでは2年間、「レベルが低くて卒業しても就
  職できるかどうかわからないような大学に在籍していた」と
  自嘲気味に話す。高校時代の3年間は大学入試に備えて猛勉
  強に励んだ。朝7時から夜9時まで学校の教室と自習室で過
  ごし、自宅では夜12時まで勉強した。有名な大学に入らな
  いと就職できないかもしれないという恐怖感。そのストレス
  は半端ではなかったという。    http://bit.ly/2wPEZ4y
  ───────────────────────────

成毛真氏.jpg
成毛 真氏
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2017年09月27日

●「日本の15歳の能力は極めて高い」(EJ第4613号)

 科学雑誌『ネイチャ−』によると、日本の科学成果の発表の水
準は低下しており、ここ10年間で他の科学先進国に大きく遅れ
をとっていることが明らかになっています。『ネイチャ−』は次
のようにそのことを伝えています。
─────────────────────────────
 ネイチャー・インデックスに収録されている高品質な科学論文
に占める日本からの論文の割合は、2012年から2016年に
かけて6%下落しました。中国の急速な成長の影響により、米国
などの科学先進国が占める割合は相対的に低下していますが、日
本からの論文発表は、絶対数も減少しています。
 ネイチャー・インデックスに収録されている高品質の自然科学
系学術ジャーナルに掲載された日本の著者による論文数は、過去
5年間で8・3%減少しています。   http://bit.ly/2xtuzVi
─────────────────────────────
 これは、科学教育、すなわちSTEMや基礎研究開発に関わる
国策の失敗によるものといえます。このままでは今後日本のノー
ベル賞受賞者の数は激減してしまう恐れがあります。しかし、日
本人の科学技術に関する資質、能力は非常に高いのです。
 2012年にOECDが行った「OECD生徒の学習到達度調
査」(PISA)では、日本は、読解力と科学的リテラシーでは
第1位、数学リテラシーでは第2位と、ずば抜けています。日本
の15歳はきわめて優秀であるといえます。
─────────────────────────────
 ◎PISA2012調査による国際比較/ベスト5
       数学リテラシー          読解力
   @韓国     554  @日本     538
   A日本     536  A韓国     536
   Bスイス    531  Bフィンランド 524
   Cオランダ   523  Cアイルランド 523
   Dエストニア  521  Dカナダ    523
   OECD平均  494          496
  ―――――――――――――――――――――――――
      科学的リテラシー
   @日本     547
   Aフィンランド 545
   Bエストニア  541
   C韓国     538
   Dポーランド  526
   OECD平均  501 ──成毛真著/SB新書375
 『AI時代の人生戦略/「STEAM」が最強の武器である』
─────────────────────────────
 しかし、この順位をみるさい注意すべきことがあります。中国
はOECD加盟国ではなく、主要パートナーであり、統計に入っ
ていないことです。台湾は中国の妨害にあってこの統計から外さ
れています。シンガポールはOECD加盟国ではありません。
 そこで、OECD平均値より上位の国・地域でベスト5をとっ
てみると、次のようになります。上位はほとんど中国(上海、香
港、台湾)に席巻されてしまいます。中国恐るべしです。ちなみ
に、数学リテラシーで日本は第7位(536)です。
─────────────────────────────
 ◎OECD平均値より上位の国・地域/ベスト5
       数学リテラシー          読解力
   @上海     613  @上海     570
   Aシンガポール 573  A香港     545
   B香港     561  Bシンガポール 542
   C台湾     560  C日本     538
   D韓国     554  D韓国     536
  ―――――――――――――――――――――――――
      科学的リテラシー
   @上海     580
   A香港     555
   Bシンガポール 551
   C日本     547
   Dフィンランド 545   ──成毛真著の前掲書より
─────────────────────────────
 この2012年の調査結果を見て、ショックを受けたのは、当
時のオバマ米大統領です。米国が上位に入っていないからです。
米国の順位は、数学リテラシーが36位、読解力が24位、科学
的リテラシーが28位とさんざんな結果です。
 これを受けて、オバマ大統領は、2012年11月に再選を果
たすと、CNNに次の寄稿をし、「コミュニティ・カレッジ」に
よるSTEM教育を強化したのです。
─────────────────────────────
 変革とは、どんな年代の人でも、良質な職に就くための技能と
教育を得られる国にすることだ。私たちは、銀行が数十年間にわ
たって学生口−ンに過重な金利を課してきた状況を改め、大学に
進学する数百万人の費用負担を軽減した。
 今後は高技術・高賃金の雇用が中国へ流れないよう、数学と科
学の教師を10万人採用し、コミュニティ・カレッジでは地域産
業界がまさに今必要としている技能の訓練を、200万人の労働
者に提供する。             ──オバマ米大統領
                 ──成毛真著の前掲書より
─────────────────────────────
 コミュニティ・カレッジは、職業訓練に重点を置いた2年制の
高等教育機関です。ここで、徹底的にSTEM教育を実施するの
です。日本でいえば、専門学校であり、ここを卒業して大学に行
くか、そのまま就職する人もいます。
 日本は米国よりはかなり上位にいるものの、中国などのアジア
勢のレベルは高く、日本はSTEM教育のために、大学入試制度
などの改革が必要です。 ──[次世代テクノロジー論/03]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の科学研究の実力が急速に低下している
  ───────────────────────────
   2017年度版の「科学技術白書」(6月2日政府、閣議
  決定)によると、主要な科学論文誌に発表された論文のうち
  引用された件数の多い論文の国別順位で、日本はこの10年
  間で4位から10位に下がっており、基礎研究力の低下が著
  しいと指摘されている。
   すでに日本の基礎研究力の低下は議論されており、政府は
  4月に行われた総合科学技術・イノベーション会議(議長は
  安倍晋三首相)で名目GDP(国内総生産)600兆円の達
  成に向け、技術革新を推進するための研究開発への投資額を
  来年度から3000億円上積みする方針を固めた。
   生産性向上のためには科学技術のブレークスルーが必要と
  なるが、日本の財政を考えると大盤振る舞いできる状況には
  ない。第5期科学技術基本計画で示されている「(政府研究
  開発投資は)対GDP比の1%にすることを目指す」を中心
  に議論せざるをえないため、研究開発投資の金額を増やすた
  めにはGDPを増やす必要がある。これはつまり、「高い経
  済成長をするためには高い経済成長が必要である」と言って
  いることになり、とても苦しい状況だ。3月23日に英国の
  科学誌『ネイチャー』は「日本の科学成果発表の水準は低下
  しており、ここ10年間で他の科学先進国に後れを取ってい
  る」と発表した。         http://bit.ly/2wLFAUM
  ───────────────────────────

日本の科学技術関係費は伸びていない.jpg
日本の科学技術関係費は伸びていない
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2017年09月26日

●「AI時代のSTEM教育の必要性」(EJ第4612号)

 理系に強い人材をつくる──それには「STEM」教育を実施
する必要があります。「STEM」とは何でしょうか。
─────────────────────────────
 S ・・・・・ サイエンス    Science     科学
 T ・・・・・ テクノロジー   Technology    技術
 E ・・・・・ エンジニアリング Engineering   工学
 M ・・・・・ マセマティクス  Mathematics   数学
─────────────────────────────
 最近では「T」と「E」の間に「A」(芸術)を加えて、「S
TEAM」ともいわれますが、これについては後で述べます。
 さて、「STEAM」、すなわち「スティーム/蒸気」にちな
んで、蒸気エンジンを使って「STEM」を説明します。科学教
育ライターの金子茂氏の説明です。
─────────────────────────────
 水を熱すれば蒸気になります。これはサイエンス。どのくらい
の水にどのくらいの熱を加えるとどのくらいの蒸気が発生し、蒸
気圧として数値化できるかはマセマティクス。その蒸気圧をエネ
ルギーとして取り出せるかどうかはテクノロジー。エネルギーと
して取り出す具体的な装置として蒸気エンジンを作るのがエンジ
ニアリング。蒸気エンジンひとつをとってみても、4領域が密接
に関連していることが分かります。   http://bit.ly/2nW4c4w
─────────────────────────────
 なぜ、STEM教育が必要なのかというと、2045年に人工
知能が人間の能力を超えるといわれているからです。これは、シ
ンギュラリティといわれています。
 これに関して、文部科学大臣補佐官で、東大教授の鈴木寛氏は
投資コンサルティング会社インスパイア代表の成毛真氏との対談
で次のように述べています。
─────────────────────────────
成毛:日本人の大人にはSTEM教育が足りていなかったという
   のが私の結論なのですが、では、子供はどうなのか、文部
   科学大臣補佐官のすずかん先生に、それをうかがいたいと
   思って今日はやって参りました。
鈴木:今の高校生の大半と中学生以下は2000年以降に生まれ
   ており、2100年すぎ、つまり、22世紀まで生きる可
   能性が大いにあります。
成毛:22世紀まで生きる人たちにとっては、AIの「シンギュ
   ラリティ」(2045年頃にAIが人類を超す技術的特異
   点)を迎えるといわれる年は、まだ人生の折り返し地点で
   あったり、もっと手前の地点だったりするわけですね。
鈴木:その頃の大人はSTEMを理解していないとなりません。
   わかっている人だけがAIを使う側に回り、わかっていな
   い人はAIに使われる側に回ります。このことは、その頃
   の大人、つまり今の子供たちはよく理解しています。
               ──成毛真著/SB新書375
 『AI時代の人生戦略/「STEAM」が最強の武器である』
─────────────────────────────
 AIを使う側に回るか、それとも使われる側に回るか──それ
を決めるのは、STEMを理解しているかどうかにかかっている
と鈴木寛氏はいうのです。
 「分数の計算ができない大学生がいる」ことが話題になったこ
とがあります。私は、あるIT企業の新入社員にICT知識と技
術を教えており、若い人に簡単な計算問題を与えて解かせていま
すが、何でもない計算ができない人が多いのは事実です。分数の
計算どころか、普通の割り算ができない人もいます。
 さらに鈴木寛氏は次のことも指摘しています。現在、日本では
一学年は約100万人いて、進学率は50%なので、50万人が
大学に進学します。そのうち約30万人は、一生懸命勉強して大
学に入りますが、残りの20万人は、AO入試とか推薦入試とか
競争のないかたちで進学します。
 現在、受験生の最も多い大学のベスト3は、第1位は早稲田大
学、第2位は明治大学、第3位は近畿大学だそうです。どの年も
平均して11万人ぐらいが受験するそうです。これらの大学の受
験料収入は、約11万人が3万5000円を支払うので、38億
5000万円が入ってきます。
 その一方で、この3大学のなかには、私学の雄といわれる慶応
義塾大学が入っていません。受験者は約4万人ぐらいなので、順
位が低いのです。どうしてかというと、慶応義塾大学の場合、文
系学部の入試に数学と小論文が出題されるので、多くの受験者か
ら敬遠されています。もちろん国立大学の場合、文系学部にも数
学が出題されることはいうまでありません。数学は、論理的思考
を強くするため不可欠です。そのうち、国が入試に数学を出す私
立大学の助成金を増やす可能性もあります。これからは、数学教
育がとくに不可欠だからです。
 同じ文系学部といっても、国立大学の文系学生と数学が出題さ
れない私立大学の文系学生では、正答率に大きな格差が生じてい
ます。なお、成毛氏と鈴木氏は、「STEAM」について、次の
ように話しています。
─────────────────────────────
鈴木:すでに教育界では、STEMだけでは不十分と考えていて
   シンギュラリティ以降は、善と美が人間の仕事として残る
   ことを前提とした話をしています。
成毛:つまり、AIに使われるだけの人間にならないためにST
   EMは必須だし、AIを利用した仕事をするためには善と
   美が理解できないといけない。
鈴木:ですから、「STEM+アートデザイン」が欠かせないの
   です。これを「STEAM」と呼ぶ人もいますが、まだ呼
   称として確立はしていません。──成毛真著の前掲書より
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/02]

≪画像および関連情報≫
 ●今から始める科学技術教育/STEM/STEAM
  ───────────────────────────
   2015年12月に、株式会社野村総合研究所が発表した
  ニュースリリースによると、日本の労働人口の約49%は、
  10〜20年後に、人工知能やロボットに取って代わられる
  ことになることが明らかになりました。野村総研の他にも人
  間の労働がロボットに取って代わられるという指摘は世界中
  で多く、今の教育で未来に役立つスキルが本当に身につくの
  か、疑問視する声も上がっています。
   また近年の技術革新は“第4次産業革命”と呼ばれるほど
  めざましく、日々大量のデータが生みだされ、それらを蓄積
  ・分析し、次の行動に移すための施策が、世界中でとられて
  います。今後は私たちの身の回りにあるモノすべてに、イン
  ターネットがつながるIoT、仮想空間を体験できるVRな
  どの普及が進むとされていて、ビジネスの進み方も、ビッグ
  データやロボット、AIを前提としたものに変化していきま
  す。こうした時代に、テクノロジーにまつわる教育を行うべ
  きと言われるのは必然の流れですね。
  しかし、こうしたテクノロジーを重視した時代に「アート+
  デザイン(芸術)」を加えた「STEAM」が注目されてき
  ています。さまざまな業界で革新的な取組を行うためには、
  科学だけではなく、人間の感情や感覚についても学ぶべきと
  いう流れが生まれてきたからです。高度な技術開発と、未だ
  不確実な要素を多くもつ人間についての研究が、これからま
  すます進められていくでしょう。  http://bit.ly/2fJym92
  ───────────────────────────

鈴木寛文部科学大臣補佐官.jpg
鈴木寛文部科学大臣補佐官
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2017年09月25日

●「IT技術を習得することの必要性」(EJ第4611号)

 このところ新聞を見ると、AI(人工知能)やビットコイン関
連の記事が載らない日がなくなっています。これらに関連して、
IoT、フィンテック(Fintech) 、量子コンピューターなどの
記事も多くなってきています。
 日本経済新聞では、これらのICT関連技術について、連載囲
み記事を掲載し、その解説に努めています。それぞれに詳しい解
説が必要だからです。ビットコインの連載に関しては、既に何回
も取上げていますが、最近はそれに加えて、「ビットコイン狂騒
曲」のタイトルで、9月19日から23日まで、『迫真』で5回
にわたり連載が行われています。
 EJでもビットコインを取り上げています。2014年9月か
ら11月まで53回連載しています。ところで2014年といえ
ば、2月23日にビットコインの取引所での一つであるマウント
ゴックスが倒産しています。
─────────────────────────────
 2014年 9月 1日付、EJ第3866号
      〜2014年11月18日付、EJ第3918号
                  http://bit.ly/1wXUpx7
─────────────────────────────
 当時、多くの人は「マウントゴックスの倒産=ビットコインの
破綻」と考えており、その誤解を解くのが、EJ執筆のひとつの
目的だったのです。それが今やビットコインが、社会の大きな話
題になっています。2018年には、邦銀が連合して仮想通貨を
導入する計画が進んでいます。この仮想通貨は、ビットコインそ
のものではありませんが、ビットコインの中核技術であるブロッ
クチェーンを使っています。
 3年後の2020年の東京五輪までを考えても、VR(仮想現
実)、AR(拡張現実)、ドローン、自動運転車をはじめ、IC
T技術の進化によって、今までなら考えられなかったものが次々
に実現するはずです。その30年後の2050年までを考えると
人口動態や宗教、経済、文化にいたるまで「メガテック」と呼ば
れる大変化が起きるといわれています。それを予測することは、
非常に困難です。なぜなら、30年前の1987年に、アップル
アマゾン、フェイスブック、グーグルなどが席巻する今日の状況
をとうてい予測できなかったからです。
 しかし、3年〜5年後であれば十分予測することは可能です。
なぜなら、変化はある日突然起きるものではなく、既に存在する
技術が突然進化して、驚くべきものを生み出すからです。理論と
しては前からあった技術なのに、スマホが普及して、「ポケモン
GO」のアプリが開発されたことによって、突然注目されるよう
になったAR技術のようにです。つまり、今後3年後に変化を起
こすものは、既に現在の世界に存在する技術だからです。
 そこで本日からはじまるEJでは、それらの「技術/テクノロ
ジー」を取り上げることにします。
─────────────────────────────
   世の中を変化させる次世代テクノロジーについて知る
    ── 考えられないものが実現する5年間 ──
─────────────────────────────
 技術の話というと、文系の人は身構えます。そして、「それは
私の専門ではないので・・」とか、「それは技術の専門家にまか
せてあるので・・」とか逃げまくります。それでいて、わからな
くても恥ずかしいとは思っていないようです。
 文系の人の立場からいうと、理系の人は、エンジニアとして専
門的な教育を受けており、その道の専門家であるが、自分はそう
いう教育を受けていないので、わからなくても別に恥ずかしくは
ないという考え方の人が多いのです。
 しかし、この考え方は間違っています。私たちは、仕事でも生
活でもインターネットを利用し、スマホを使って、多くの人とコ
ミュニケーションをとっています。それにAI(人工知能)、ロ
ボット、ドローン、ビットコインなど、サイエンスや、テクノロ
ジーに囲まれて生活をしています。そのような時代に文系だから
といって、技術系のものから目をそむけていたら、完全に時代に
置いて行かれてしまいます。もはや、文系/理系と区分する時代
ではなくなっているのです。
 このような背景を受けてか、国立大学の文系学部廃止論が話題
になったことがあります。これは、2015年6月に文科省が発
表した文書が発端になったのです。そこには、いわゆる文系学部
の人文科学系学部と大学院、法学部や経済学部などの社会科学系
学部と大学院、教員養成系学部・大学院について、次のように書
かれています。
─────────────────────────────
 組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野
への転換に積極的に取り組むよう努める。   ──文部科学省
 「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」より
─────────────────────────────
 文科省のこの文書は、現代社会が理系人材を求めているので、
それに応えて文系学部の廃止に言及していますが、この考え方は
いささか乱暴です。文系学部を廃止してしまうのではなく、文系
学部の教育のなかに理数系教育を取り入れるべきであると考えま
す。現代は高度なICT社会になっており、文系学部といえども
理数系的センスを磨くべきであると考えるからです。
 私は、ある大学の経済学部で、ウェブサイトを構築する「イン
ターネット・プログラミング」講座を担当していたことがありま
す。経済学部の学生であっても、せめて自分でウェブサイトの構
築ぐらいできるICT対応力をマスターさせるべきであるという
大学の方針で、この講座が設けられたのです。
 2020年から小学校でプログラミング教育が開始されます。
他国に比して遅きに失してはいるものの、小学生の頃から理系セ
ンスを磨くのに役立つことは確かです。
            ──[次世代テクノロジー論/01]

≪画像および関連情報≫
 ●国立大の「文系廃止」の誤解はなぜ広がったのか?
  ───────────────────────────
   文部科学省が2015年6月に国立大学向けに出した人文
  系の組織再編を促す通知の波紋がなかなか収まらない。同省
  は「人文系切り捨てではない」と理解を求めるが、学術団体
  が7月に抗議声明を発表し、8月には一部の英字紙が「日本
  の大学が教養教育を放棄へ」と海外で発信する。文部科学省
  は「文系軽視は誤解」と火消しに躍起になっているが、果た
  して“誤解”は払拭されるのか。
   全国の国立大学を揺るがした今回の通知のタイトルは「国
  立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」。国立
  大の組織改編に向けた第3期中期目標・中期計画の期間が来
  年度からスタートするのに合わせて出されたものだ。
   しかし、通知を目にした国立大の人文系教員たちから「人
  文系軽視だ」などと不満が噴出。その原因をたどると“舌足
  らず”な文章構成に突き当たる。以下の一文が該当部分だ。
  《「ミッションの再定義」で明らかにされた各大学の強み・
  特色・社会的役割を踏まえた速やかな組織改革に努めること
  とする。特に、教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学
  部・大学院については(中略)組織の廃止や社会的要請の高
  い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする》
                   http://bit.ly/1O8lapc
  ───────────────────────────

「ポケモンGO/AR技術」.jpg
「ポケモンGO/AR技術」
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2017年09月22日

●「豊洲プラス築地併用は実現するか」(EJ第4610号)

 築地市場の豊洲移転問題をここまで調べてきて、わかって来た
ことがあります。卸売市場の近代化を進めれば進めるほど、仲卸
業者が消えるという事実です。実際に海外の卸売市場には仲卸と
いう役割は存在しないのです。
 現在、日本の「和食ブーム」を担っているのは、築地市場にお
ける500社を超える仲卸業者の存在であるといわれています。
思想家にして人類学者でもある中沢新一教授は、仲卸の存在につ
いて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 築地市場のユニークさは物流センターとしての機能だけに限定
されない。仲卸を中心にしてかたちづくられてきた「中間機構」
の中に、味覚をめぐる莫大量の身体的暗黙知が蓄積され、それが
いまも健全な活動を続けている。
 食材にたいする「目利き」、魚体を扱う驚くべき職人技、料理
文化への繊細な配慮などによって築地市場は日本の食文化を根底
で支える存在になっている。築地市場は我々の宝物である。そし
てなによりも築地市場には未来がある。この未来を絶ってしまっ
てはならない。──中沢新一氏論文「築地アースダイバー」より
      『現代思想』2017年7月臨時増刊号/青土社刊
─────────────────────────────
 既に述べたように、諸外国の生鮮食料品を扱う卸売市場には、
仲卸業者はほとんど存在しておらず、日本のような中央卸売市場
は韓国と台湾にしかない独自のものです。これをもって、豊洲市
場移転推進派の人たちは、日本の卸売市場は遅れているという議
論をする人がいますが、この考え方は間違っていると思います。
なぜなら、日本が世界のなかで最も魚をよく食べる国のひとつで
あるからです。
 世界176ヶ国で1人当たりの1日の魚介類消費量ランキング
というものがあります。FAO(国連食糧農業機関)の2012
年のデータにおける順位は次のようになっています。
─────────────────────────────
          国名         消費量
     第 1位:モルディブ   381グラム
     第 2位:アイスランド  242グラム
     第 3位:キリバス    198グラム
     第 6位:日本      155グラム
     第 7位:韓国      154グラム
     第18位:フィンランド  101グラム
     第27位:ベトナム     89グラム
     第31位:中国       85グラム
                  FAO Statistics Division
                   http://bit.ly/2fBTMVE
─────────────────────────────
 この順位を見ると、日本は、魚をよく食べる国において、先進
国のトップに立っています。ダントツ第1位のモルディブは、イ
ンドの南西に浮かぶ島国で、約1200もの島々から成り立って
います。もっとも食べる魚はカツオで、3食カツオということも
珍しくないといわれます。
 それに比べると、日本は多種類の魚介類をさまざまな料理にし
て食べる国であり、魚介料理の豊富さに関しては世界に冠たる国
であるといえます。だから、いま世界で「和食ブーム」が起きて
いるのです。
 したがって、日本の中央卸売市場は仲卸を大事にする市場であ
るべきです。既出の東京財団上席研究員の小松正之氏は、著書で
築地市場や豊洲市場をオランダのイムイデン漁港市場、オースト
ラリアのシドニー水産物市場、ニュージーランドなどのオークラ
ンド水産物市場と比較して、大きく遅れていることを指摘してい
ますが、それらの国よりも、多くの魚を食べる国である日本は、
もっと独自の市場でもよいと思っています。しかし、先端のAI
やIT技術は積極的に取り入れる必要はあると考えます。
 豊洲と築地の2市場併用案について、築地市場協会の伊藤裕康
会長は、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 知事の発言は、比較的バランスの取れたものであったことは評
価したい。ただ、大づかみの方針が示されただけで中身はこれか
ら。都と話を詰め、理想的な市場に近づけたい。しかし、市場は
卸業者や仲卸業者などが一堂に会するものであって、2つの市場
は成り立たない。      ──築地市場協会の伊藤裕康会長
─────────────────────────────
 伊藤会長は、市場というものは、大卸、仲卸、買出人が一同に
会さなければ機能しないといいますが、豊洲市場は、水産卸棟と
水産仲卸棟は315号線という道路で分断され、1・5キロも離
れています。その行き来は、道路地下のアンダーパスをターレー
で行うことになり、相当時間がかかります。
 しかも、仲卸棟は4階建ての建物で、仲卸は1階、買出人は3
階と4階になっており、築地市場のように、とても「一同に会し
ている」とはいえないのです。大卸、仲卸、買出人が一同に会し
ている築地市場に比べて非常に不便です。
 そのため、築地市場が再整備された後は、豊洲市場は、高度に
自動化された全館冷房の物流センターに改造して使い、整備後の
築地市場は、セリなどを行う一部の市場機能を移転し、買出人の
店舗を築地市場に戻して食のテーマパーク化するというのが、小
池知事のいう「築地は守る、豊洲は活かす」の考え方なのです。
 東京五輪が終り、築地整備の終了する2025年までの約8年
間、その間の技術革新はきっと目をみはるものになるはずです。
この間の技術革新は、AI(人工知能)の力が加わるので、これ
までとは比べ物にならないほど、高速に進化します。そうなれば
豊洲と築地の距離の問題は解決しているはずです。7月3日から
書いてきた今回のテーマは本号が最終回です。長い間のご愛読を
感謝いたします。  ──[中央卸売市場論/最終回/057]

≪画像および関連情報≫
 ●豊洲へ市場は移転、築地は「食のテーマパーク」に!
  ───────────────────────────
   懸案の築地市場移転問題で昨日20日(2017年6月)
  小池都知事が会見して、「豊洲への移転」「五輪後に築地を
  再開発」という基本プランを明らかにした。ただ、具体的な
  活用案は今後詰めるとしている。知事は、この問題を都議選
  のテーマにしたいようだが、果たしてこれで票になるのかど
  うか。知事が示したプランは、1)豊洲は総合物流拠点とす
  る、2)築地は5年後をめどに「食のテーマパーク」など再
  開発する、3)具体的な活用案は今後、事業者・都民と広く
  検討する、というものだ。
   つまり、「築地は守る。豊洲を活かす」。築地は五輪まで
  に更地にし、2号線道路を通す。その後、築地は再開発──
  だが知事は、「豊洲移転」とは言わなかった。実際は豊洲へ
  市場機能を移すにしても、築地の当事者が依然、賛成・反対
  に分かれている。
   確かに築地の人気は高く、ブランド化もしている。日の入
  場者4万2000人、CNNが選ぶ「世界の生鮮市場ベスト
  10」の2位(1位はどこだ?)。観光客のスポットでもあ
  る。ここから動きたくないという人たちもいる。さらに費用
  の問題がある。豊洲移転に6000億円かかる。うち、44
  00億円は、築地の跡地を売却して捻出する予定だったのだ
  が、これを売らないとなると、どこかで捻出しないといけな
  い。               http://bit.ly/2yeOlTt
  ───────────────────────────

築地市場からの移転を待つ豊洲市場.jpg
築地市場からの移転を待つ豊洲市場
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする