2018年08月15日

●「意識はどのようにして発生するか」(EJ第4828号)

 「人間には『心』はあるか」──AIとかロボットのことにつ
いて書いてある本にはよく出ているテーマです。この社会で生き
ていると、ことあるごとに「心」を口にする人に会うものです。
悪いことをすると「心を入れ替えろ」といわれるし、行動や言葉
に「心がこもっていない」といわれたりします。
 AIロボットが話題になっているせいで、「人間とは何か」と
か「人間とロボットはどう違うか」ということが議論になったり
しています。人間とは、「意識がある」、「考える」、「心があ
る」といわれたりしますが、そういう曖昧なものは定義にならな
いという人もいます。
 大阪大学大学院基礎工学特別教授の石黒浩氏は、「心」につい
て、次のように述べています。
─────────────────────────────
 人に心はなく、人は互いに心を持っていると信じているだけ
 である。         ──石黒浩大阪大学大学院教授
─────────────────────────────
 ジュリオ・トノーニという米国の神経科医で神経科学者がいま
す。トノーニ氏の研究対象は意識と睡眠です。トノーニ氏に次の
著書があります。「意識」が「心」とイコールかどうかは分かり
ませんが、参考になる本です。
─────────────────────────────
  ジュリオ・トノーニ/マルチェッロ・マッスイミーニ著
        『意識はいつ生まれるのか』/亜紀書房刊
─────────────────────────────
 脳科学にとって最大のナゾは「意識」だったといえます。万人
が誰でも持っているのに、その正体がわからない。そのナゾをト
ノーニ氏は解き明かしているのです。脳は意識を生み出すが、コ
ンピューターは意識を生み出せない。では両者の違いはどこにあ
るのかについても言及しています。この理論は「φ理論」といわ
れています。
 多くの書評がネット上に出ていますが、そのなかの一つが意識
とは何なのかについて、わかりやすく説明しています。
─────────────────────────────
 この理論によれば、「意識」は種々の情報(知覚、記憶、感情
行動等)を司る大脳皮質のそれぞれの部位の神経細胞が一定以上
の数になり、加えてそれらの間に単なる直接的・直線的な形を超
えた複雑な電気的・化学的接続数がある一定レベルを超えれば発
生するもの、とある。
 著者のトノーニ教授は意識の量をこの二つのパラメータの関数
として表す数式も導いており、その結果を深い睡眠時(=意識が
ない状態)の被験者や植物状態とみなされている被験者の脳に外
部から電磁的刺激を与え、それが脳の部位をどのように活性化さ
せるかをモニターすることによって検証を重ねてきている。
                  https://bit.ly/2B3c1k7
─────────────────────────────
 これによると、意識は神経細胞が一定以上の数に発展し、それ
らの接続が複雑に絡み合うようになったある時点で、突然に発生
するものということになります。したがって、ロボットにおいて
も人間の脳と同じような、そういう神経細胞──ディープラーニ
ングがさらに進化し、高度な神経細胞ができると、意識が発生す
る可能性があるということになります。
 これに関連するある思考実験があります。米国の哲学者である
ヒラリー・バトナム氏の著書に書かれている思考実験「水槽の中
の脳」です。図を添付ファイルにしているので、そちらも参照し
てください。1981年時点の思考実験の理論です。
─────────────────────────────
 科学者が、ある人から脳を取り出し、特殊な培養液で満たされ
た水槽に入れる。そして、その脳の神経細胞をコンピュータにつ
なぎ、電気刺激によって脳波を操作する。そうすることで、脳内
で通常の人と同じような意識が生じ、現実と変わらない仮想現実
が生みだされる。このように、私たちが存在すると思っている世
界も、コンピュータによる「シミュレーション」かもしれない。
                  https://bit.ly/2M95s4s
─────────────────────────────
 この状態で、脳内では意識が生じ、現実世界と変わらないVR
(仮想現実)の世界が生み出されるというのです。何者かが、人
間を乗っ取って、培養液に浸し、エネルギー源として利用する。
当の人間は、現実と全く変わらない仮想現実の世界で過ごしてい
る──まさに映画『マトリックス』の世界そのものです。これを
「シミュレーション仮説」といいます。
 実は、現実世界が何者かにコントロールされているのではない
かと考えていた人は昔からいたのです。その代表的な人物は、フ
ランスの哲学者ルネ・デカルトです。デカルトといえば、次の有
名な言葉があります。
─────────────────────────────
         われ思う。故にわれ在り
           ──ルネ・デカルト
─────────────────────────────
 実はこの言葉は「シミュレーション仮説」を意味しているとい
われています。デカルトはこういっているのです。
─────────────────────────────
 もし全知全能の悪魔が私を欺いているとしたら、本当は「1+
1=5」であるのに、「1+1」と私が思考するたびに、悪魔に
欺かれて「2」を導き出してしまっている可能性がある。つまり
われわれが現実だと思っているものは、全て悪魔に欺かれた結果
に過ぎず、“本当の現実”は全く別物であるかもしれない。
                    ──ルネ・デカルト
                  https://bit.ly/2M95s4s
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/072]

≪画像および関連情報≫
 ●人間の意識は異次元に存在している
  ───────────────────────────
   AI(人工知能)の驚異的な進歩の前に圧倒させられっぱ
  なしの人類だが、このままのペースで進化し続けるとなると
  いつかAIが“意識”を持つ日もやってくるのだろうか。し
  かし、最新の研究ではAIが、人間と同じような“意識”を
  持つことはないことを示唆している。なぜなら、“意識”や
  “心”は肉体に属するものではなく、別次元の存在であるか
  らだというのだが・・・。
   我々の五感はそれぞれの感覚器官を通じて物事を認識して
  いるが、それを最終的には渾然一体となった総合的な体験と
  して味わうことになる。例えばインドカレーを手づかみで食
  べている時には目も舌も鼻も指先もフルに使って料理を味わ
  い、場合によっては店内に流れるエスニックな楽曲に耳を傾
  けながら“食べる”という体験を得る。
   しかし、機械がこうした統合的な体験を味わおうとするの
  はなかなか大変なことであることがわかる。カメラで視覚情
  報を得て、マイクで音を拾い、各種センサーで認識した匂い
  や味や触感といったバラバラの情報を最後に何らかの処理で
  すべて組み合わせなければならないからだ。そしてそれぞれ
  の末端の回路は異なっているだけに、すべての知覚をぴった
  りと同期させるのもなかなか難しそうだ。
                  https://bit.ly/2P3gZQD
  ───────────────────────────

水槽の中の脳.jpg
水槽の中の脳
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2018年08月14日

●「インターネットブレインとは何か」(EJ第4827号)

 未来学者のレイ・カーツワイル氏、理論物理学者のフリーマン
・ダイソン氏、言語哲学者のノーム・チョムスキー氏の3人の対
話について、何を感じられたでしょうか。
 カーツワイル氏は、2030年には、仮想現実が脳の神経系の
なかで行われるため、現実と寸分違わない世界が脳内に実現する
ことが可能になるといいます。まるで映画『マトリックス』の世
界そのものです。
 約200万年前に、脳の拡大が起こり、それによって言語が生
まれ、芸術や音楽が誕生しています。これは、人間以外の他の動
物ではあり得ないことですが、現在、再びその脳の拡大が起きよ
うとしているとカーツワイル氏はいうのです。
 これに対して、ノーム・チョムスキー氏は、「何の根拠もない
ファンタジーに過ぎない」と切り捨て、フリーマン・ダイソン氏
も「そもそも科学は本質的に予想できないもの」と疑問を呈して
います。しかし、ダイソン氏はインターネットについては、最終
的には、全体がひとつの生き物のように振る舞うスーパーオーガ
ニズム(超生命体)になるかもしれないといっています。
 インターネットに関しては、カーツワイル氏も、脳の最上層を
インターネットに接続させることによって、人工的な脳として機
能させることができるといいます。これによって思考の拡大は無
限になり、2030年には、生物としての脳と人工的な脳が融合
すると予言しています。
 人間の脳をインターネットに接続する──カーツワイル氏の本
を読むと、これは十分可能なことのように思えてきます。「Io
T」は「モノ・インターネット」ですが、人間の脳が、その「モ
ノ」のひとつになり、「IoB」、すなわち「インタネット・オ
ブ・ブレイン」が実現するという考え方です。
 実は、この技術は既に一部実現しています。脳波をライブスト
リーミング可能な信号に転換し、インターネット上のポータルサ
イトを通じてアクセス可能にするというものです。
 この技術を開発したのは、南アフリカのウィットウォーターズ
ランド大学の研究チームで、この技術を利用するには「モバイル
脳波計(EEG)」を搭載したヘッドセットが必要になります。
このヘッドセットは脳波を信号として認識し、その信号は特化さ
れたコードの助けを借りて、小型コンピュータに送られ、解読さ
れるのです。
 この解読された信号が提供する情報は、ウェブサイト上で確認
できます。これにより、人間の脳内で何が起きているかを知るこ
とができます。しかし、情報の入力は一方向のみですが、双方向
でのやり取りもやがて可能になると思われます。
 人間の脳とインターネットの接続について、カーツワイル氏は
シリコンバレーのシンギュラリティ大学での講演で、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 2030年代に人間の脳は、インターネットに接続可能になり
メールや写真を直接、脳に送信したり、思考や記憶のバックアッ
プを行ったりできるようになる。これは脳内毛細血管を泳ぎまわ
るナノボット(DNA鎖からつくられる極小ロボット)によって
可能になる。非生物的な思考へと脳を拡張することは、私たちの
祖先が道具を使用することを学習したのと同様に、人類の進化の
次なるステップである。また、この拡張によって論理的知性だけ
でなく、感情的知性も高まる。人間は、脳モジュールの階層レベ
ルを増やし、さらに深いレベルの感情表現を生み出すだろう。
                  ──レイ・カーツワイル
─────────────────────────────
 ところで、フリーマン・ダイソン氏のいう「全体がひとつの生
き物のように振る舞うスーパーオーガニズム(超生命体)」とは
何を意味しているのでしょうか。
 元電通のCMプランナーで、編集者の高橋幸治氏は、「生命と
してのインターネット/血肉化する情報世界」というレポートで
これについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 考えてみれば、私たちの身体自体が脳を中央制御室とした精緻
を極めた情報処理システムとして機能しているわけだから、情報
の相互関係や情報の相互伝達を生命的なイメージに置き換えるの
はごく当たり前のことなのかもしれない。
 そして地球を皮膜のように覆う情報の網の目=インターネット
は人間の脳神経系としてイメージされる。そのイメージが来るべ
き第二四半世紀には、単なるメタファーの域を超えて、現実に私
たちの脳神経系と接続されていくだろう。(一部略)
 WWW=World Wide Web の「Web」は周知の通り「織物」であ
り「網」であると同時に「蜘蛛の巣」である。WWWはその名称
の中にすでに生命的なイメージを内包しており、宮沢賢治も「イ
ンドラの網」を「その繊維は蜘蛛のより細く、その組織は菌糸よ
り緻密」と描写している。蜘蛛や菌糸という生命的イメージ。私
たちはもうインターネットを人間の外部に施設された単なる情報
インフラとして客観的に対象化することなどできない。
                  https://bit.ly/2OswbWn
─────────────────────────────
 今やほとんどの人がスマホを持っています。もし、スマホをな
くすと、非常に困惑します。スマホ自体は代替できますが、イン
ターネットでのつながりやアドレス帳などの個人情報、メール、
写真など、まさに自分自身をいうものを失ってしまうのに等しい
からです。そのようなものが、かつてあったでしょうか。
 既にスマホには、指紋認証、音声認証など、個人と切っても切
り離せないほど、自分の一部化しています。シンギュラリティに
なると、スマホが赤血球のサイズになって、体内に入ってくると
カーツワイル氏はいっています。そうなると、人間はインターネ
ットと文字通り一体化することになります。
          ──[次世代テクノロジー論U/071]

≪画像および関連情報≫
 ●脳と脳をインターネットで接続しテレパシーをする実験
  ───────────────────────────
   米ハーバード大学の専門からを中心にスペインやフランス
  の専門家らも参加している研究グループが、インドとフラン
  スにいる者同士が、心で思ったことを言葉や文字、あるいは
  ジェスチャーなどを使わずに直接伝える実験に成功した。
   この実験で、どんなに離れた相手とでも、最新技術を利用
  すれば脳から脳への情報伝達が可能であることが示されたこ
  とになる。これは科学がテレパシーを実現しようとしている
  ということなのだろうか。
   この実験の論文を共同執筆した一人である理論物理学者の
  ジュリオ・ルッフィーニ氏は、自分たちは電磁波で脳と情報
  をやりとりする技術を使っており、決して魔法ではなく、テ
  レパシーの技術的な実現なのだ、と語っている。
   インド南部の都市ティルヴァナンタプラムの被験者がスペ
  イン語の「こんにちは(Hola)」やイタリア語の「こんにち
  わ」と「さよなら(いずれもCiao)」を思い浮かべると、そ
  の際の脳波が測定されて符号化されたデータに変換された。
  そのデータがインターネット経由でフランス北東部のストラ
  スブールに送信されると、符号化されたデータが復元され、
  被験者の頭に取り付けられた電極から微弱な電流として刺激
  が与えられ、脳に直接送信されたという。すると、受信した
  被験者は、目に微弱な光を感じた。つまり、周辺視野で点滅
  する光を見たということらしい。挨拶の声が聞こえたという
  被験者もいたという。      https://bit.ly/2KONrD0
  ───────────────────────────

脳と脳がインターネットに接続される.jpg
脳と脳がインターネットに接続される
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2018年08月13日

●「シンギュラリティを巡る異論反論」(EJ第4826号)

 レイ・カーツワイル氏の「シンギュラリティ」の考え方につい
て、今年の3月に亡くなられたスティーヴン・ホーキング博士は
2014年2月に、BBCのインタビューに対して、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 われわれがすでに手にしている原始的な人工知能は、極めて有
用であることが明らかになっている。だが、完全な人工知能の開
発は人類の終わりをもたらす可能性がある。
 ゆっくりとした生物学的な進化により制限されている人類は、
(人工知能と)競争することはできず、(人工知能に)取って代
わられるだろう。     ──スティーヴン・ホーキング博士
                  https://bit.ly/2OoMWlu
─────────────────────────────
 ホーキング博士は、AIを「原始的AI」と「完全なAI」に
分けており、現在の「原始的AI」は、やがて「完全なAI」に
進化し、人類を脅かす存在になると述べています。したがって、
これをもって、ホーキング博士が「シンギュラリティ」の主張を
受け入れているとはいえないものの、やがてAIがパワーアップ
して、人類にとって恐るべき存在になることは認めています。
 ここにきわめて興味ある動画あります。NHKEテレが、20
17年12月29日に放送したもので、EJがここまで書いてき
た内容に関係があります。時間は45分です。必視聴です。
─────────────────────────────
 超AI入門「人間ってナンだ?」特別編/「今そこにある未来
 /ヒト×AI=∞」     /解説/松尾豊東京大学准教授
        未来学者   ・・・ レイ・カーツワイル
        理論物理学者 ・・・ フリーマン・ダイソン
        言語哲学者  ・・・ ノーム・チョムスキー
        インタビュー ・・・ 吉成真由美
                  https://bit.ly/2M4wOc4
─────────────────────────────
 以下、3人の発言要旨をメモしておきます。そのうえで、動画
を見ていただくと、3人の主張がよくわかると思います。
 第1のメモは未来学者のレイ・カーツワイル氏の主張です。
─────────────────────────────
・計算によれば、2045年までにわれわれの知能は10億倍に
 なるはずだ。まさしくシンギュラー(飛躍的)な変化である。
・情報テクノロジーの処理速度の変化は予測可能である。その変
 化は「指数関数的」である。その結果、2045年には「シン
 ギュラリティ」に到達する。
・多くの学者は、テクノロジーの変化は「直線的」に生ずると考
 えている。1、2、3、4というように。しかし、指数関数的
 に変化は加速する。1、2、4、8というように。
・一見、たいして変わらないように見えるが、30段階では、直
 線的変化は30、指数関数的は10億。40段階なら1兆に達
 する。ゲノム解析PTでは、7年かけて1%を達成。直線的思
 考考では1%解析するのに7年かかったのなら、全部やるには
 700年かかる。しかし、指数関数的には終ったも同然。毎年
 2倍ずつ加速するので、7回で100%になる。実際に7年で
 終了している。
・コンピュータの大きさは、大型コンピュータの時代から10万
 分の1になっている。このままのスピードで行くと、25年が
 経過すると、コンピュータは10億倍速度が速くなり、大きさ
 はさらに10万分の1小さくなり、赤血球ぐらいになる。
・晩年に発症する病気には免疫系は役に立たない。進化は長寿を
 選択してこなかった。長寿である必要はなかったからだ。AI
 の重要な応用先は免疫の強化である。赤血球サイズの医療用ナ
 ノロボットが開発され、人間は病気と老化から解放される。
─────────────────────────────
 第2のメモは言語哲学者ノーム・チョムスキー氏の主張です。
─────────────────────────────
・カーツワイル氏の主張は、完全なるファンタジーである。信じ
 られる根拠は何もない。
・確かにロボットは発展している。それはいいことだ。低スキル
 の仕事をまかせられるからだ。そもそもなぜ、人間が退屈で、
 危険な仕事をしなければならないのか。人間はもっとクリエイ
 ティブで満足すべき仕事に就くべきだ。
・生産性の向上は、低スキルの仕事の減少と高スキルの仕事の増
 加によって達成される。
・AIが人間の知識を超えるという考え方は、今のところ夢に過
 ぎない。現在実現しているのは、膨大なデータを高速な計算に
 頼ったもので、それらは、人間がデザインし、作成したプログ
 ラムで動いているからである。
─────────────────────────────
 第3のメモは言語哲学者フリーマン・ダイソン氏の主張です。
─────────────────────────────
・サイエンスとは、本質的に予測できないものである。サイエン
 スにとって重要なのは発見であるが、発見はサプライズであり
 発見を予測することは、サイエンスのやり方ではない。
・インターネットは理解を超えた膨大な情報の集積である。しか
 し、インターネットの構造と目的をわれわれは見通すことはで
 きない。最終的には、全体が一つの生き物のように振る舞うス
 ーパーオーガニズム(超生命体)になることが考えられる。
・インターネットが自らの目的を見つける可能性は大きい。1つ
 のシステムとして、世界を支配するということもある。しかし
 それがいつ起きるかはわからない。
・既に人間ではなく、ソフトウエアがコントロールしている分野
 はたくさんあることを認識すべきである。
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/070]

≪画像および関連情報≫
 ●ガナシア氏が語る「シンギュラリティ批判」
  ───────────────────────────
   名門パリ第6大学でAI(人工知能)研究チームを率いる
  哲学者、ジャン=ガブリエル・ガナシア氏が、このほど『そ
  ろそろ、人工知能の真実を話そう』(早川書房)の発刊を期
  に来日した。「AIが人類を超える」という、シンギュラリ
  ティについての考え方を批判するガナシア氏。フランスの人
  文科学の立場から、AIがどのように考察されているかにつ
  いて語ってもらった。
  ──この本では、レイ・カーツワイルなどが主張する「AI
  が人間の知能を追い越す」というシンギュラリティ(技術的
  特異点)について、その背景にある世界観を批判されていま
  す。レイ・カーツワイルのシンギュラリティという考え方は
  それまでにあった様々な理論を取り込んだだけで、独自の根
  拠があるわけではありません。またシンギュラリティの根拠
  とされるムーアの法則やプロセッサーの指数関数的な成長と
  いう仮説も、帰納的推論にすぎないものであり、科学的根拠
  とはいえないのです。言ってみればシンギュラリティは、科
  学というよりSF的な世界観です。1980年代にSF作家
  のヴァーナー・ヴィンジがこの言葉を普及させました。
                  https://bit.ly/2noHXWt
  ───────────────────────────

3人の知の巨人/AI.jpg
3人の知の巨人
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2018年08月10日

●「体外離脱アイデア/人間ウーバー」(EJ第4825号)

 暦本純一東京大学教授は、サンフランシスコでの講演で、次の
ように話しています。
─────────────────────────────
 テクノロジーは、人と人とをつなげることもできる。人間の能
力を拡げる、非常に重要な方法である。「人間対人間ジャックイ
ン」(Human-Human JackIn)である。ある人の知覚を丸ごと他の
人に移し替えることであり、新しいタイプのコミュニケーション
や教育となりうる、非常に大きな機会である。
              ──暦本純一東京大学大学院教授
                  https://bit.ly/2Mi3fQp
─────────────────────────────
 この発言で思い出されるのは、映画『マトリックス』における
カンフーの技術や、ヘリコプターの操縦技術を脳にダウンロード
して修得するシーンです。「そんなことできるはずがない」と思
いながらも、「できたらいいな」と思ったものです。しかし、テ
クノロジーの発達によって、それに近いことはできるようになっ
ています。少なくとも「不可能ではない」といえます。
 「幽体離脱」という言葉があります。「体外離脱」ともいいま
す。暦本教授は、子どものとき、川で溺れかけた経験があるそう
です。そのとき、溺れようとしている自分の姿を上の方から見て
いる自分を一瞬ですが、自覚したといいます。自分自身を肉体か
ら離れた場所から見ることは、人が亡くなる瞬間に起きるといわ
れています。
 暦本教授のいう「人間対人間ジャックイン」とは、自分の存在
を離れた場所に移すことを意味しています。もちろん、本当の意
味での「体外離脱」は無理ですが、具体的なアイデアをいくつか
講演で話しています。
 既出の大阪大学大学院基礎工学研究科の石黒浩博士は、自分と
そっくりのロボット(アンドロイド)を作っています。石黒博士
は、講演を依頼され、出張することが困難なときは、ロボットを
派遣し、自分は離れた場所から、ロボットを通じて話をするので
す。これも一種の体外離脱といえます。
 TBSの日曜日の番組『サンデーモーニング』で、スポーツ解
説者の張本勲氏がバーチャル映像で出演するときがあります。本
人は別の場所にいて、番組にはバーチャル映像で出演します。も
ちろん問いかけに対しても対応できるので、番組に出演している
のとほとんど変わりません。これも体外離脱です。
 しかし、こういうやり方では、講演や会議やテレビ番組などに
出演する場合はいいですが、立食スタイルのパーティーなどに参
加することは困難です。会ってゆっくり話したい人が何人も出席
するパーティーに、離れた場所から出席し、パーティー会場を歩
きまわりながら、いろいろな人と話をする──これを可能にする
アイデアを暦本教授は提案しています。
 添付ファイルの張本氏の右のロボットをご覧ください。自分の
顔の映っているタブレット付きのロボットです。このロボットが
パーティー会場を歩きまわるのです。
 かなり、異様なスタイルですが、暦本教授によると、タブレッ
トに顔が映っていると、人はその顔に向って話しかけてくるとい
います。「いやぁ、○○さん、お久しぶりですね」と話しかけて
くる人は結構多いそうです。もちろん離れた場所にいる本人は、
相手の顔は、ディスプレイに映るので、返事を返するとごく普通
の会話が成立するといいます。ロボットは、離れた場所から遠隔
操作できるので、会場を移動して話しかけることが可能です。
 しかし、このスタイルのロボットにも問題があります。階段を
上下できなかったり、人にぶつかって倒れてしまうなどのトラブ
ルが起きます。そこで暦本教授が考えたのが「人間ウ―バー」と
いう奇抜なアイデアです。これについて、暦本教授は、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 「人間-人間ジャックイン」(Human-Human JackIn) は、自分
の存在を離れた場所に移すことである。人の顔が画面に映し出さ
れるフェイス・ロボットを遠隔から操作するという方法もあるが
これはロボット自身が動く上で困難があった。階段を登れないと
か、ドアを自分で開けられないといったことだ。すると、学生の
一人が「クレイジー」なことを思いついた。「人間ウーバー」を
やろうというのだ。自分の顔を映し出すタブレットをマスクにし
て、代理の者の顔に装着するのだ。
 驚いたことに、装着しているのは別人だとわかっているはずな
のに、多くの人が画面の人物の存在を信じたのだ。人間の存在感
や相手に対する信頼感は、その人の顔の表情に依存していること
の現れであろう。このシステムは非常にシンプルだが、非常に効
果的に人間の能力をどこかへ移す便利な方法なのだ。このマスク
は3Dプリンターで作成すれば、よりリアルな感じになる。
                  https://bit.ly/2Mi3fQp
─────────────────────────────
 「人間ウ―バー」とは面白いアイデアです。他人の顔が映って
いるヘッドマスクをかぶって一定時間会場を歩きまわるアルバイ
トです。人間ですから、ロボットと違って、階段も上下できるし
自由に会場を歩き回ることができます。話す方もヘッドマスクの
なかに別の人がいることはわかっていても、違和感なくディスプ
レイの顔に話しかけるそうです。
 このように暦本教授の話は、「人間の機械化」について、示唆
に富むものです。暦本教授は、ほぼ同じ話を「東大テレビ」でも
しており、動画も見ることができます。時間は約45分です。
─────────────────────────────
 仮想現実と身体「Human Augmentation 人間拡張とその未来」
                ──暦本純一/情報学環教授
                  https://bit.ly/2vpgvfy
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/069]

≪画像および関連情報≫
 ●身体拡張という名のエンタテインメント/稲見昌彦氏
  ───────────────────────────
   私はいま、身体に関わるテクノロジーが新しい局面を迎え
  ていると感じています。最先端のテクノロジーが、人間の身
  体をメディア化しつつあるのです。従来の身体に関わるテク
  ノロジーは、主に身体の「補綴(ほてつ)」に用いられるこ
  とが多かった。つまり義手や義足、車椅子にしても、移動の
  不可能や困難など、障碍者の方々の身体におけるマイナス要
  素を補い、いわゆる健常者に近づけるためのものとして研究
  ・開発されてきました。マイナス要素をゼロにしようとする
  ときのアプローチは、例えば、義手や義足がわかりやすいの
  ですが、健常者という「ゼロの水準」へいかに近づけるかと
  いうものになりますし、最適なアプローチの数は限られてい
  ます。しかし最先端のテクノロジーは身体のマイナス要素を
  補綴しながら、健常者をも超えるプラス要素、ときに超人的
  ですらある能力に拡張することを可能にしているのです。マ
  イナス要素からプラス要素を生み出そうとするときのアプロ
  ーチは無限にあります。人によって拡張したい身体部位や、
  どのように拡張するかが異なるためです。例えば右足を失っ
  た人がより速く走ることのできる右足を獲得することや、手
  を失った人が、サイボーグのような見た目にも斬新な義手を
  獲得することはその一例です。それは、エンタテインメント
  作品をつくるときと同じアプローチといえるでしょう。
                  https://bit.ly/2niko1w
  ───────────────────────────

バーチャル出演と移動ロボット.jpg
バーチャル出演と移動ロボット
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2018年08月09日

●「『IoT』から『IoA』に拡張」(EJ第4824号)

 「人間の機械化」の話をさらに一歩先へ進めることにします。
8月6日付のEJ第4821号でご紹介したレイ・カーツワイル
氏の言葉を再現します。
─────────────────────────────
 誕生した当初のコンピュータは、空調のきいた部屋で白衣の専
門家が管理する巨大な機械で、一般の人にとってはずいぶん遠い
存在だった。それが机上に置けるようになったかと思うと、じき
に腕で抱えて運べるようになり、今ではポケットに入っている。
遠からず、日常的に体や脳の内側に入ってくるだろう。2030
年代までには、人間は生物よりも非生物に近いものになる。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 これは、コンピュータが特別な部屋に設置された巨大な特殊な
機械から、机の上におけるデスクトップPCになり、さらに持ち
運べるノートPCに小型軽量化し、最近ではポケットに入るスマ
ホになっている経緯を示しています。
 実はこの小型化の流れは、テクノロジーの指数関数的進化に伴
い、急速に進み、やがてマイクロマシンになって、人間の体や脳
内にまで入ってくる──このようにカーツワイル氏はいっている
のです。これは、人間の脳とコンピュータが接続される可能性に
言及しています。これが実現すると、脳はインターネット上の膨
大な知識ベースを知識として保有することになります。
 これによって、人間にはできないが、コンピュータならできる
ことが人間にも容易にできるようになり、そこにスーパー人間が
誕生します。カーツワイル氏は、このスーパー人間は、脳とコン
ピュータという非生物が合体することになり、それは果して「生
物」といえるのかという根本的問題を問いかけているのです。
 もちろん、そんなことが実現するはずがないという人はたくさ
んいます。しかし、現在、この「人間拡張/ヒューマン・オーグ
メンテーション」が大真面目に研究され、実験されるようになっ
ています。その中心にいる学者の一人が、東京大学大学院教授の
暦本純一氏です。暦本教授は、次のことを提唱しています。
─────────────────────────────
          IoT → IoA
─────────────────────────────
 「IoA」とは、何でしょうか。
 2017年11月3日のことです。東京大学の暦本教授は、米
国サンフランシスコで開催された「ザ・ニューコンテキスト・カ
ンファレンス/2017」で次のテーマで講演を行っています。
─────────────────────────────
  「AI時代の人間拡張」/東京大学大学院暦本純一教授
    THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2017 SAN FRANCISCO
─────────────────────────────
 いわゆる機械による人間拡張──ここでいう「拡張」の意味を
今まではできなかったことができるようになるという意味の人間
の能力拡張を意味するとすれば、PCやスマホを持つことも能力
の拡張ということができます。
 しかし、ここで暦本教授が提唱していることは、そんなレベル
の能力の拡張ではなく、カーツワイル氏のいう「バージョン2・
0」の人体レベルの能力拡張なのです。暦本教授は講演で、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 オーグメンテーションは個人が対象とは限らない。自分以外の
他者とつなげることができるし、「他者」とはロボットであった
り、人間であったりする。つまり、さまざまなタイプの組み合わ
せによるコラボレーションができるのだ。(中略)こうしたこと
はIoA(Internet of Abilities) と呼ばれる。IoTの次に
やって来るフェーズである。IoTはモノのネットワークである
のに対し、IoAは「アビリティ(能力)のインターネット」で
ある。IoAによって、「能力」を結びつけたり、交換したりで
きるようになる。
 テクノロジーは、人と人とをつなげることもできる。人間の能
力を拡げる、非常に重要な方法である。「人間対人間ジャック・
イン」である。ある人の知覚を丸ごと他の人に移し替えることで
あり、新しいタイプのコミュニケーションや教育となりうる、非
常に大きな機会である。現代の技術ではまだできないが、視覚に
ついては可能である。例えば、スカイダイビングのような特別な
瞬間を交換するなどの場合である。  https://bit.ly/2Mi3fQp
─────────────────────────────
 暦本教授は「ジャック・イン・ドローン」というものを説明し
ています。ウェアラブル端末を装着している人に限りますが、人
についてドローンは飛行します。人間が動けば、ドローンも動き
ます。ドローンにはカメラが付いており、人間にはドローンから
の映像が見えます。これは、ドローンがなければ見えない映像で
あり、能力の拡張といえるというわけです。
 もし、ドローンが、人間の目が死角になる位置を自動的に判断
して移動するとすれば、自分の見えない場所の映像がつねに見え
ていることになり、視覚の拡張、すなわち、人間の能力の拡張が
行われることになります。これは、人間とドローンの基本的な接
続の形態であると暦本教授はいいます。
 人間がドローンに没入することもできます。ドローンと一体化
するといってもよいと思います。この場合、ドローンのカメラが
人間の目になるので、本来人間では見ることができない景色を見
ることができます。どらえもんの「竹コプター」のような感じを
味わうことができるわけです。その状況から脱却するには、「ジ
ャック・アウト・ドローン」をすればよいのです。
 暦本教授の「人間拡張」テクノロジーについては、もっと驚く
べきものがあります。明日のEJでも、暦本教授の「人間拡張」
について考えます。 ──[次世代テクノロジー論U/068]

≪画像および関連情報≫
 ●AIは人間の能力を拡張するもの/ダニエル・ラス所長
  ───────────────────────────
   人工知能に仕事が奪われることを恐れてばかりいると、人
  工知能との協調に秘められた大きなチャンスを見逃すことに
  なるかもしれない。私たちはロボットや人工知能(AI)が
  仕事を奪うと心配するのではなく、人間と機械が協力する新
  たな道を探るべきだとマサチューセッツ工科大学(MIT)
  コンピューター科学・人工知能研究室(CSAIL)のダニ
  エラ・ラス所長はいう。ラス所長は、「人間と機械は争うの
  ではなく、協力すべきだと思います」とMITテクノロジー
  レビュー主催の年次イベント「EmTech MIT 2017」 の基
  調講演で語った。
   これからの時代、テクノロジーが雇用にどう影響するかは
  経済学者、政策立案者、科学技術者にとって、大きな問題と
  なっている。ロボット工学とAIの研究で世界の先陣を切る
  CSAILは、来たる変化の波に大きな関心を寄せている。
  専門家の間では、自動化とAIがどの程度仕事に影響するか
  について、意見が異なる部分もある。また、新しいビジネス
  が作り出されることで、現在の仕事がどう埋め合わされるか
  についても意見が違う。2017年11月上旬、ラス所長と
  MITの研究者は「人工知能と仕事の未来」と題したイベン
  トを企画した。講演者の中には、これから直面するであろう
  大きな変化に差し迫った警告をする者もいた。
                  https://bit.ly/2OboBiY
  ───────────────────────────

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暦本純一東大教授
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2018年08月08日

●「サイボーグ化が急速進行する人体」(EJ第4823号)

 8月1日から、京都大チームによって、iPS細胞を利用した
パーキンソン病の治療がスタートしています。その治験の内容は
次の通りです。
─────────────────────────────
 パーキンソン病は脳内で神経伝達物質ドーパミンを出す神経細
胞が減り、体のこわばりや手足の震えが起こる難病で、根本的な
治療法はない。治験は京大病院が京大iPS細胞研究所と連携し
て実施。計画では、京大が備蓄する、拒絶反応が起きにくい型の
他人のiPS細胞から作った神経細胞を脳内に移植し、ドーパミ
ンを出す神経細胞を補う。       ──産経フジWEST
                  https://bit.ly/2KePDUg
─────────────────────────────
 iPS細胞による再生医療は、一般的には、自分の身体の一部
から作ったiPS細胞で組織や臓器をつくり、それを移植するも
のですが、今回のパーキンソン病の治療では、他人のiPS細胞
から作った神経細胞を脳内に移植するので、当然のことながら、
拒絶反応が起きます。もし、これが成功すれば、世界初であり、
画期的なことであるといえます。
 このような再生医療の技術が進化すると、体内器官の交換は容
易にできるようになり、基本的には虚弱の人体「バージョン1・
0」は、さまざまなテクノロジーによって守られ、だんだん強靭
化して、「バージョン2・0」の人体になっていきます。これに
ついて、カーツワイル氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 人類はそのテクノロジーによってすでに本来の寿命を伸ばして
きた。この場合、テクノロジーとは、薬品、サプリメント、ほぼ
あらゆる体内器官の交換、その他人体へのさまざまな介入を意味
する。体の部分を交換する技術はすでに整っている。腰、ひざ、
肩、肘、手首、あご、歯、皮膚、動脈、静脈、心臓の弁、腕、腿
足、指、そして、つま先に至るまで。そして、さらに複雑な器官
(たとえば心臓)を取り替えるシステムも導入され始めている。
人間の体や脳が動く仕組みが明らかになるにしたがって、手持ち
のものよりはるかに優れた器官をじきに作りだせるようになるだ
ろう。それらは長持ちし、機能面でも優れており、弱ったり、病
気になったり、老化したりしない。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 人体を構成するパーツは、このように、心臓ですら取り替える
ことが可能になりつつありますが、唯一交換できないのが「脳」
ということになります。
 しかし、脳に関してもさまざまな研究が進んでいるのです。M
ITとハーバードの研究員は、傷ついた網膜ニューロンと交換可
能な神経移植組織を開発しています。人間の脳と神経系のリバー
スエンジニアリングに基づく移植組織であり、パーキンソン病患
者の症状改善に大きな効果を上げることが期待されています。専
門的ですが、脳の視床後腹側核および視床下核と直接作用するこ
とで、パーキンソン病患者のもっとも深刻な症状を改善させよう
としているのです。
 このようにして、「バージョン1・0」の人体は、「バージョ
ン2・0」に移行していくのですが、それは、人間がサイボーグ
化することを意味します。いい替えると、それは人間の本来持っ
ている生物的機能のなかに、後から加えられた非生物的機能が増
えて行くことになります。
 もちろん脳がしっかりしていれば、脳に非生物的機能が加えら
れない限り、あくまで人体における生物的機能の優位は揺るぎま
せんが、脳にまで非生物的機能が入ってくると、人間は、自らの
本質について問い直す必要が出てきます。
 カーツワイル氏は、シンギュラリティが近付くにつれて、人体
は、脳を含めて再設計され、「バージョン3・0」に進化すると
して、次のように述べています。
─────────────────────────────
 人体は──2030年代から2040年代には──さらに根本
的なところから再設計されてバージョン3・0になっているとわ
たしは想像する。個々の下位組織を作り直すというよりも、われ
われ(思考と活動にまたがる生物的および非生物的部分)はバー
ジョン2・0での経験をもとにして人体そのものを刷新する機会
を得るだろう。バージョン1・0から2・0への移行のときと同
様に、3・0への移行もゆっくりと進み、その過程では多くのア
イデアが競合することになる。
 バージョン3・0の特性としてわたしが想像するのは、人体を
変化させる能力だ。VR環境ではいともたやすく実現できること
だが、われわれは現実世界でもそれを可能にする方法を身につけ
るだろう。具体的にはMNT(マイクロ・ナノテクノロジー)ベ
ースの構造を体内に組み入れることによって、身体的特徴を好き
なようにすぐ変えられるようになる。
           ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
 「バージョン3・0」の人体──これは、人間の機械化がさら
に進化した状態であるといえますが、3・0になると、「ヒュー
マン・オーグメンテーション」の動きが出てきます。
─────────────────────────────
      ◎ヒューマン・オーグメンテーション
              Human Augmentation
─────────────────────────────
 これは、人間と機械が一体化して、人間の能力を拡張させるテ
クノロジーのことで「人間拡張」といわれています。これは日本
においては、東京大学の暦本純一教授が提唱しているものです。
人間の機械化はどこまで進化するのでしょうか。
          ──[次世代テクノロジー論U/067]

≪画像および関連情報≫
 ●ヒトの能力はどこまで強化・拡張できるのか
  ───────────────────────────
   コンピュータや人工知能(AI)の発達によって、特定の仕
  事や処理では人間をはるかに超える知的能力を実現する機械
  が登場するようになった。今さら数値計算でコンピュータを
  圧倒できると思う人はいないだろうし、将棋や囲碁でもAI
  には勝てなくなってきている。そのため、こうした機械は、
  人間の知的能力を強化する道具として生活や仕事の中で欠か
  せない存在になっていることは確かだ。
   コンピュータやAIの発達に伴って、いずれは人間の仕事
  の全てが奪われ、ひいては人間が支配される側に回るという
  ディストピアの現出を心配する声は根強い。しかし、これは
  杞憂かもしれない。確かにコンピュータやAIは、処理の対
  象範囲やルールが定まった状況下では驚異的な能力を発揮す
  る。しかし、何が起きるか分からない状況下では、理性や道
  徳性、倫理性など人間固有の価値観に基づいて、一定レベル
  以上の答えを出す人間にはかなわない。人間とコンピュータ
  やAIの間には、知的能力の質に明らかな違いがあり、人間
  にしかできない仕事は必ず残るように思える。
   人間と機械を主従関係や対立構図でとらえるのではなく、
  両者の知的能力の特長を融合させて、より高度な仕事を、よ
  り効率的にこなす方法を模索する取り組みが活発に進められ
  るようになった。大半の知的作業において、最高レベルのパ
  フォーマンスを発揮したいと思うのなら、人間、もしくはコ
  ンピュータのどちらかに全面委託するのではなく、両者が協
  調して作業を進めた方がよほど効果的だ。
                  https://bit.ly/2vtQ87o
  ───────────────────────────

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歴本純一東京大学教授
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2018年08月07日

●「最新の人工知能を医療に応用する」(EJ第4822号)

 AI(人工知能)の活用というと、新聞などに載るのはほとん
ど医療以外のビジネスへの応用です。7月31日付けの日本経済
新聞でひろってみると、次の2つがあります。こういう「AI」
の記事が毎日のように新聞に掲載されています。
─────────────────────────────
       ◎公的年金の運用/AIで安全管理
       ◎     AIでブランド品鑑定
            ──2018年7月31日本経済新聞
─────────────────────────────
 しかし、AIを医療に応用するということがもう少しあっても
いいのではないかと思います。現代のAIなら、世界中で日々発
表され、蓄積されている医学論文を物凄いスピートで読破し、そ
れを前提として医師が知らなかった病名やその治療法を情報とし
て提示できるはずだからです。
 その先駆けになっているのが米IBMの「ワトソン」です。I
BMは、2014年にワトソン事業部を発足させ、当初10億ド
ル(約1000億円)の予算と1万人のスタッフを配置し、ワト
ソンの利用拡大に本格的に取り組んでいます。
 そのなかで、最も力を入れているのが「ワトソンヘルス」と呼
ばれる医療ビジネスです。これには、全スタッフの3分の2の人
材を当てていますが、次の3つのことに重点を絞っています。
─────────────────────────────
        1.      新薬の開発
        2.    がんの診断支援
        3.ゲノム解析アドバイザー
─────────────────────────────
 3の「ゲノム解析アドバイザー」というのは、患者のDNAな
どの遺伝情報を解析して、個々の患者に最適な治療法を提供する
新型医療のことです。
 2の「がんの診断支援」については、既に注目すべき成果が上
がっています。東京大学医科学研究所が2015年7月に、国内
の先陣を切ってワトソンを導入し、急性骨髄性白血病を患ってい
る60代女性の診断にワトソンを使っています。
 その結果について、2016年8月4日付、日本経済新聞は、
次のように報道しています。これは、国内初の成功例であり、注
目すべき事例です。
─────────────────────────────
 膨大な医学論文を学習した人工知能(AI)が、診断が難しい
60代の女性患者の白血病を10分ほどで見抜いて、東京大医科
学研究所に適切な治療法を助言、女性の回復に貢献していたこと
が、2016年8月4日、分かった。
 使われたのは米国のクイズ番組で人間のチャンピオンを破った
米IBMの「ワトソン」。東大は昨年からワトソンを使ったがん
診断の研究を始めており、東條有伸教授は「AIが患者の救命に
役立ったのは国内初ではないか」と話している。(中略)
 女性患者は昨年、血液がんの一種である「急性骨髄性白血病」
と診断されて医科研に入院。2種類の抗がん剤治療を半年続けた
が回復が遅く、敗血症などの危険も出た。そこでがんに関係する
女性の遺伝子情報をワトソンに入力すると、急性骨髄性白血病の
うち「二次性白血病」というタイプであるとの分析結果が出た。
 ワトソンは抗がん剤を別のものに変えるよう提案。女性は数ヶ
月で回復して退院し、現在は通院治療を続けているという。東大
とIBMは昨年から、がん研究に関連する約2千万件の論文をワ
トソンに学習させ、診断に役立てる臨床研究を行っている。
          ──2016年8月4日付、日本経済新聞
               https://s.nikkei.com/2M1rRg2
─────────────────────────────
 ここで、ワトソンに関して知っておくべきことがあります。そ
れは、ワトソンが現在AIの主流になりつつあるディープラーニ
ングによる診断システムではなく、高度に発達したルールベース
のAIであるということです。つまり、ワトソンは、医療エキス
パートシステムなのです。
 仮にあるがん患者に対する治療法に関して、医師の判断とワト
ソンの間で意見が割れたとします。具体的にいうと、ステージ2
の大腸がん患者に対し、医師は「化学療法が必要である」と判断
したが、ワトソンは「化学療法は効果がなく、様子をみるべき」
というように意見が割れたとしてます。
 この場合、ワトソンには「ワトソン・パス」と呼ばれる医師支
援機能が用意されています。ワトソン・パスとは、ワトソンがど
のようなエビデンス(科学的根拠)や推論に基づいて、結論を出
したかのプロセスを示す機能です。
 医師としては、ワトソンの推論プロセスが分かると、その結論
に従うか、やめるかの判断ができるので便利です。しかし、その
思考過程をディープラーニングで行うと、AIシステムがどのよ
うなプロセスを経て、その結論に至ったかを示すことが困難にな
ります。判断プロセスが高度化すればするほど、思考プロセスが
複雑過ぎて、ブラックボックス化してしまうのからです。
 この問題に関連して、小林雅一氏は、最近の米国のDARPA
の動きを次のように伝えています。
─────────────────────────────
 米国のDARPAでも「理由を説明できる人工知能」という研
究テーマを設けて、その開発に着手した。このプロジェクトでは
ディープラーニングによる機械学習の性能を最大限に高めると同
時に、その思考プロセスを(医師のような)人間が理解し、信頼
することができる「次世代のAI」開発を目指している。
          ──小林雅一著/『AIが人間を殺す日/
          車、医療、兵器に組み込まれる人工知能』
                   集英社新書/0890
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/066]

≪画像および関連情報≫
 ●バイアスのないアルゴリズムはつくれるか?
  ───────────────────────────
   人工知能(AI)は病院やヘルスケア団体に活用され始め
  ている。CTスキャンの解析から、どの患者が治療中に最も
  衰弱しやすいかを予測することまで、AI技術はあらゆるこ
  とに使われているのだ。
   アルゴリズムを走らせるための情報源は電子カルテだ。こ
  れらのアルゴリズムは、医師が腫瘍の変異具合をもとに最適
  ながん治療を選んだり、過去の患者のデータをもとに治療計
  画を立てたりするのを助けるために設計されている。
   しかし、アルゴリズムやロボットは、ヘルスケア領域にお
  ける倫理を学ぶことができるのだろうか?
   スタンフォード大学の医師グループは、AIを医療に使う
  ためには倫理面での課題があり、ヘルスケア分野のリーダー
  たちはAIを実装する前にそのことについてよく考えなけれ
  ばならないと主張する。
   「機械学習システムのメカニズムを理解しないままでいる
  こと、それをブラックボックスのままにしておくことで、倫
  理的な問題が発生することになるでしょう」。2018年3
  月中旬に発刊された 「New England Journal of Medicine」
  で、そう綴っている。彼らの懸念は、タイムリーなものだっ
  た。同じく3月中旬、こんなヘッドラインが飛び込んできた
  からだ。「医者と同じように前立腺がんの診断を行うスマー
  トソフトウェア」。       https://bit.ly/2AtZ7ve
  ───────────────────────────

IBM/ワトソン.jpg
IBM/ワトソン
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2018年08月06日

●「シンギュラリティ/脳が拡大する」(EJ第4821号)

 7月30日から8月3日のEJで、レイ・カーツワイル氏の唱
える「シンギュラリティ」(2045年問題)に基づく未来予測
について書いてきましたが、彼の未来予測についてどのように受
け止められたでしょうか。
 普通は、これほど思い切った予測をすると、多くの学者から反
論の嵐を浴びるものですが、一部ではそういう動きもあるものの
彼の唱える「シンギュラリティ」は、ほぼ肯定的に受け止められ
ているといえます。
 なぜかというと、カーツワイル氏は「未来学者」として紹介さ
れていますが、2012年から現在AIに関しては最も先進的な
企業のグーグルに籍を置き、最先端のAIを研究しているため、
AIの先端技術に最も近い学者としての信用があるからです。
 しかし、カーツワイル氏について、既出の小林雅一氏は、再新
刊書で、次の評価をしています。
─────────────────────────────
 カーツワイル氏は若干奇矯な人物として知られているため、仮
に彼一人がこうした予想を口にするだけなら、それほど真剣に取
り上げられなかったかもしれない。が、実際には同氏のみならず
世界的に有名な物理学者のステイーヴン・ホーキング博士や宇宙
旅行ビジネスなどを開拓するスケールの大きな起業家イ一ロン・
マスク氏ら、各界の著名人も同様の警告を発している。このため
シンギュラリティに代表されるAI脅威論、つまり「超越的な進
化を遂げたAIが人類の生存を脅かす」との予想も、非常な関心
と危機感を煽っている。
 しかし、この点についても世界的な有名人に異を唱えるのは、
少々おこがましいが、ホーキング博士やマスク氏らはAIの専門
家ではない。つまり人工知能を実現するための具体的技術や、そ
の内部メカニズムについては、それほど詳しいと思えないのであ
る。それなのに、なぜAIが今後、発展していく方向性や、その
潜在的な危険性などを占うことができるのだろうか?
 むしろ彼らはある種の興味本位、あるいはセンセーショナルな
予想によって世間の関心を惹こうとする動機の方が強いのではな
かろうか。     ──小林雅一著/『AIが人間を殺す日/
          車、医療、兵器に組み込まれる人工知能』
                   集英社新書/0890
─────────────────────────────
 小林雅一氏は、「シンギュラリティに代表されるAI脅威論」
という表現を使い、カーツワイル氏があたかもAI脅威論の元凶
というような位置づけですが、私は少し意見が違います。ここま
での検討で既に述べているように、AI脅威論というのは、いわ
ゆる「機械の人間化」によって、人間の知能をはるかに上回る機
械(ロボット)が出現し、人類を征服するというものです。小林
氏自身、上記の新刊書で次のように述べています。
─────────────────────────────
 それ(カーツワイルのシンギュラリティ)によれば、2045
年頃には、コンピュータ・プロセッサの処理能力(人工知能のベ
ースとなる技術)が人間の知力を上回り、いずれは、AIが意識
や感情までも備えるようになる。そして遠い未来には、AIやロ
ボットが人類を支配し、その生存を脅かす恐れすらある、との見
方である。           ──小林雅一著の前掲書より
─────────────────────────────
 しかし、カーツワイル氏はそうはいっていないのです。彼の本
をていねいに読むと、AIは指数関数的に発達して、それが人間
の脳と一体化する「人間の機械化」が起こり、スーパー人間が出
現すると予測しています。もっとも、小林雅一氏もそのことは認
めていて、次の但し書きを入れています。
─────────────────────────────
 元々、カールワイル氏はそこまでは言わなかったが、やがて話
に尾ひれがついて、どんどん誇張されていった。
                ──小林雅一著の前掲書より
─────────────────────────────
 そうなんです。カーツワイル氏のシンギュラリティ論を聞いて
一部の学者たちが、AIを人間とは異なる生命体として認識し、
その超人的パワーを誇張した結果、人類征服などの脅威論が生ま
れたのです。
 この脅威論はあり得ないと考えます。しかし、発達したAIが
人間の脳と一体化し、脳が拡張することは、十分あり得ることで
す。脳が拡張すると、それまでは考えられなかったことが起きる
可能性があります。今から約200万年前に、人類の脳の拡大が
起きたといわれています。脳が拡大したことで、階層構造が増え
て、それが言語の誕生につながり、芸術や音楽がそれに続いたの
です。その脳の拡大がまた起きようとしているのです。それがシ
ンギュラリティです。カーツワイル氏は、そのときにはコンピュ
ータがナノマシン化し、脳にすら入るようになり、生物的な脳を
パワーアップするといっています。
─────────────────────────────
 「バージョン2・0」の人体のシナリオは、テクノロジーとま
すます緊密な関係になる傾向がこの先もずっと続くことを示して
いる。誕生した当初のコンピュータは、空調のきいた部屋で白衣
の専門家が管理する巨大な機械で、一般の人にとってはずいぶん
遠い存在だった。それが机上に置けるようになったかと思うと、
じきに腕で抱えて運べるようになり、今ではポケットに入ってい
る。遠からず、日常的に体や脳の内側に入ってくるだろう。20
30年代までには、人間は生物よりも非生物に近いものになる。
2040年代までに、非生物的知能はわれわれの生物的知能に比
べて数10億倍、有能になっているだろう。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/065]

≪画像および関連情報≫
 ●AI脅威論の払拭を模索する研究者たち/ニュースイッチ
  ───────────────────────────
   人工知能(AI)研究者が社会の不安や懸念に応えようと
  模索している。産業技術総合研究所人工知能研究戦略部が今
  後の技術開発について「人間との協調」や「AIへの信頼」
  「構築のしやすさ」の三本柱を設定し、社会に受け入れられ
  るAI研究を探る。これらは内閣府の人工知能技術戦略会議
  がまとめる実行計画に採用される見込みだ。先に政府が示し
  た「統合イノベーション戦略」に大まかな方向性が盛り込ま
  れていた。多くのAI関連の戦略が策定されてきたが抽象的
  なものが多かった。基盤技術の具体的なテーマにまで踏み込
  んだ実行計画がまとまれば、社会の漠とした不安も払拭でき
  るかもしれない。
   「AIの本格的な社会実装に向けて問題点が整理されてき
  た」と産総研人工知能研究センターの辻井潤一センター長は
  三本柱を挙げた背景を説明する。現在の第三次AIブームが
  AIによる失業への不安や脅威論によって広がった側面もあ
  り、AI研究者は常に社会からの期待と懸念にさらされてき
  た。そのためAI判断の説明可能性や信頼性保証、プライバ
  シー保護など、社会受容性を広げる技術が活発に研究されて
  いる。そして日本のAI戦略に現場主義が採り入れられた。
  現場に信頼され、現場で構築しやすい技術が三本柱に掲げら
  れた。そもそもAI2強の米国と中国は、それぞれグーグル
  やアリババといった巨大プラットフォーマーを抱える。国家
  やプラットフォーマーが集める膨大なデータをAIに学習さ
  せて精度とサービスを磨く。対して日本は現場力を強みとす
  る方針だ。工場などの現場をIoTでスマート化し、良質な
  データを集めてAIの精度を高め現場力を向上させる。
                  https://bit.ly/2AmA8tC
  ───────────────────────────

シンギュラリティ/カーツワイル氏.jpg
シンギュラリティ/カーツワイル氏
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2018年08月03日

●「人体1・0から人体2・0が誕生」(EJ第4820号)

 「人間の機械化」について考えます。これまでの人体を「人体
1・0」とします。この人体は、さまざまな病気に襲われ、加齢
が進むにつれて人体は年々弱ってきます。バージョン1・0の人
体は、持続力が弱く、生きて行くために必要な資源を肉体内に多
くを蓄めておけないのです。そのため、生きるために、つねに呼
吸し、つねに食品を摂取する必要があります。
 バージョン1・0の人体は、血液中に蓄えられる酸素はわずか
数分しか持たず、グリコーゲンの形で蓄えられるエネルギーは、
せいぜい持って数日分です。しかし、シンギュラリティが近づき
それを超えると、テクノロジーの指数関数的発達によって、そう
いう人体の虚弱体質は大きく修復・改善され、病気にならない強
靭な人体に生まれ変わるといいます。これによって、人間はかな
り長期間、代謝資源がなくても、生きて行けるようになります。
 レイ・カーツワイル氏は、これを「人体2・0」と呼び、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 シンギュラリティが近づくにつれて、人間生活の本質について
考え直し、社会制度を再設計しなくてはならなくなるだろう。た
とえば、G(遺伝学)とN(ナノテクノロジー)とR(ロボット
工学)の革命が絡み合って進むことにより、バージョン1・0の
虚弱な人体は、はるかに丈夫で有能なバージョン2・0へと変化
するだろう。何10億ものナノボットが血流に乗って体内や脳内
をかけめぐるようになる。体内で、それらは病原体を破壊し、D
NAエラーを修復し、毒素を排除し、他にも健康増進につながる
多くの仕事をやってのける。その結果、われわれは老化すること
なく永遠に生きられるようになるはずだ。
 脳内では、広範囲に分散したナノボットが、生体ニューロンと
互いに作用し合うだろう。それは、あらゆる感覚を統合し、また
神経系をとおしてわれわれの感情も相互作用させ、完全没入型の
バーチャルリアリティ(VR)を作りあげる。さらに重要なのは
生物的思考とわれわれが作りだす非生物的知能がこのように密接
につながることによって、人間の知能が大いに拡大することだ。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 人類の寿命は年々伸びています。シンギュラリティが近づくと
その伸長はさらに加速される。ナノテクノロジーの研究者である
ロバート・フレイタス氏によると、老化や病気のうち、医学的に
予防可能な症状の50%を予防できれば、平均寿命は150年を
超えるといっています。シンギュラリティになれば、その予測は
不可能であるとはいえず、十分達成する可能性はあります。考え
てみると、人類はこれまでさまざまなテクノロジーを開発して、
平均寿命を伸ばしてきた歴史があります。実際に平均寿命は次の
ように伸びてきています。
─────────────────────────────
 ◎平均寿命
  クロマニヨン人の時代      ・・・・・ 18歳
  古代エジプト          ・・・・・ 25歳
  1400年ヨーロッパ      ・・・・・ 30歳
  1800年ヨーロッパ/アメリカ ・・・・・ 37歳
  1900年アメリカ       ・・・・・ 48歳
  2002年アメリカ       ・・・・・ 78歳
           ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
 かぎを握るのは、ロバート・フレイタス氏の提示する「人工赤
血球」(レスピロサイト)の実現であるといいます。これが実現
すると、人は酸素なしで何時間も生きられるようになります。
 ロバート・フレイタス氏は、赤血球だけでなく、血小板や白血
球、すなわち血液を人工物に交換するナノテクノロジーを研究し
ています。「人工血小板」と「人工ナノマシン」による白血球の
代替も実現し、血液をすべて改変し、プログラミングできるよう
にすることも考えているといいます。
 そして、カーツワイル氏の人体改造研究は「心臓」にまで及ぶ
のです。心臓は、体の他の部分よりも早くだめになり、心不全を
起こしやすく、寿命を縮める重要要因のひとつです。これについ
て、カーツワイル氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 人工心臓への交換も実現し始めているが、もっと有効な方法は
心臓を完全に取り除くことだろう。フレイタスが設計したものの
ひとつに、自力運動性のナノボット血球がある。血液が自動的に
流れるのであれば、一点集中のポンプにひじょうに強い圧力が求
められるという技術上の問題は解消される。ナノボットを血液中
に出し入れする方法が完成されるにしたがい、やがてはナノポッ
トと血液をすっかり取り替えられるようになるだろう。フレイタ
スは500兆のナノボットからなる複雑なシステム「ヴァスキュ
ロイド」の設計についても発表したが、それは人間の全血流の代
わりになるもので、流動することなく必須の栄養や細胞を体の各
所に届けられる。   ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
 カーツワイル氏のいわんとすることは、酸素摂取効率が抜群に
高い人工赤血球が本当に開発されれば、そもそも心臓のような一
極集中型の臓器は必要ないというのです。いつ誤動作や緊急停止
するかわからない心臓ひとつに頼るより、血液を改革できれば、
そもそも循環させる必要もないから、皮膚呼吸で十分じゃないか
というわけです。
 しかし、ここまでやると、もはや人造人間です。このバージョ
ン2・0を人間と呼べるのかどうかという問題になります。結局
人間にとって最後に残るのは、脳だけということになりかねない
のです。これは、まさしく「人間の機械化」そのものです。
          ──[次世代テクノロジー論U/064]

≪画像および関連情報≫
 ●身体の中に病院を作る!?/「ナノマシン」が現実に
  ───────────────────────────
   80年代に長期的なヒットを飛ばしたRPG「サイバーパ
  ンク2020」や、最近だと「エクリプス・フェイズ」など
  など(日本で有名なのはガンダムだろう)で使われていた大
  量のナノマシンをあなたは覚えているだろうか。
   かつてゲームやアニメの中で活躍していたナノマシンは、
  それらを通じてナノマシンの危険性や可能性を我々に間接的
  に伝える役目を果たしていたが、今ではすっかり取り上げら
  れなくなり、まるで死語のような扱われ方をしている。
   しかし、最近また、注目を集め始めている「ナノテクノロ
  ジー」によって、目に見えない極小サイズのワイヤレスマシ
  ンが現実のものになったらどうだろう。SFの世界でしか起
  こりえなかったことが現実に起こるかもしれないとしたら?
   あのナノマシンが互いにコミュニケーションを取りあうこ
  とができたら、どんな使い方が考えられるだろうか。先日、
  まさにこの研究に取り組んでいる科学者たちがいることが明
  らかになった。彼らが研究しているのは人のDNAの100
  倍ちょっとの大きさで、血液の流れに乗ってデータを運ぶこ
  とができるナノサイズのデバイスである。ナノテクノロジー
  は、世界的に超高齢化社会を迎えつつある現在、医療への応
  用に大きな期待を寄せられている。この技術を活用すること
  で診断から治療まで、医者は患者の体のいたるところをリア
  ルタイムで解析できるようになる。現在の検査は放射線など
  体に有害となりうるものを使用しなければならないが、これ
  が人体に無害で賢い「ナノデバイス」に取って代われる日が
  来るかもしれないのだ。     https://bit.ly/2LvitVM
  ───────────────────────────

血中で活躍するナノマシン.jpg
血中で活躍するナノマシン
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2018年08月02日

●「体に『機械』を埋め込んで機械化」(EJ第4819号)

 「機械の人間化」に続いて、「人間の機械化」について考えて
いきます。「人間の機械化」とは何でしょうか。
 人間というものは、何らかの機械のサポートを受けて生活をし
ています。視力が弱くなると、人は眼鏡をかけますし、心臓に疾
患のある人はペースメーカーを身体に埋め込んでいます。難聴の
人は、補聴器を使うか、蝸牛(内耳)を脳に移植して、人とのコ
ミュニケーションをとっています。
 眼鏡や補聴器は別として、機械で身体や能力を強化された人間
のことを「サイボーグ」と呼んでいます。しかし、機械がどんな
に進化したとしても、人間の脳を超えることは、たとえディープ
ラーニングがさらに発達しても、少なくとも現時点では非常に困
難であると考えます。したがって、「機械の人間化」は当分SF
の世界にとどまるものと思われます。
 しかし、機械──AIと考えてもいいと思いますが、人間の脳
と一体化することは十分あり得るし、そういう新しい人類が出現
することは、荒唐無稽ではないと考えます。レイ・カーツワイル
氏は、シンギュラリティ以後、そういう可能性があると考えてい
ることは確かです。
 人間の脳とコンピュータを接続する──実はこれは既に可能に
なっています。米国の国防高等研究計画局(DARPA)が、年
間2400万ドルを投じて、この研究を行っています。これにつ
いて、カーツワイル氏は自著で次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 デューク大学のミグル・ニコレリスらは、サルの脳にセンサー
を埋め込んで、思考だけでロボットを操作させている。実験の最
初の段階では、サルに、ジョイスティックを使ってスクリーンの
カーソルを操作することを教えた。次は、脳波計から信号パター
ンを収集し、ジョイスティックの物理的な動きではなく、脳波信
号の適切なパターンにカーソルが反応するようにした。サルはす
ぐ、ジョイスティックはもう役に立たず、考えるだけでカーソル
が操作できると学んだ。この「思考検出」システムは、次にはロ
ボットに取りつけられ、サルは、思考だけでロボットの動きを制
御するやり方を学習することができた。ロボットの動作から視覚
的なフィードバックを得て、思考によるロボット操作を、完壁に
マスターした。この研究は、身体が麻痺した人に四肢と環境を制
御できるような同様のシステムを提供することを目指している。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 少し分かりにくいと思うので解説します。
 まず、サルにジョイスティックを操作させて、PCのディスプ
レィ上のカーソルを動作させたのです。カーツワイル氏は書いて
いませんが、そうすることによって、プラスティックの管が押し
出され、サルは水が飲める仕掛けになっていたのです。サルはそ
れをすぐ覚えて、水が飲みたくなると、ジョイステックでカーソ
ルを移動させ、水を飲んだのです。
 次の段階として、サルの脳波を脳波計を使って信号パターンを
収集し、それとディスプレィ上のカーソルが反応するようにした
のです。これは、サルの脳波とコンピュータがつながったことを
意味します。サルは、水を飲もうと思うと、脳波がコンピュータ
に送られ、カーソルがうごいて、水の管が押し出されてくるので
それで水を飲むようになります。当然、その後、サルはジョイス
テックを使わなくなくなるのです。
 この実験は人間に対しても行われ、身体がマヒした人が、考え
るだけで、PCなどを動かすことができるようになっています。
こんな話もあります。2014年にブラジルで行われたサッカー
W杯で、足を失った障害者が、特殊なスーツとこの技術による装
置を組み合わせ、サッカーボールを蹴ることに成功しています。
 これらの実験は2005年に放映された「NHKスペシャル」
で取り上げられています。
─────────────────────────────
              立花隆/最前線報告
       「サイボーク技術が人類を変える」
   NHKスペシャル https://bit.ly/2v27cSP
─────────────────────────────
 NHKは「NHKスペシャル」を公開してくれていませんが、
上記サイトでは、「サイボーグ・テクノロジー」として連続して
視聴することができます。非常に参考になる内容であり、時間の
あるときにご覧になることをお勧めします。
 なかでも注目すべきは、満足に歩行できないパーキンソン病の
患者が、脳に電極を入れる「脳深部電気刺激移植」の手術によっ
て、あっという間に手足の震えが止まり、数週間で普通の人と同
じように歩けるようになる映像は、パーキンソン病によって苦し
む人にとって貴重な情報になると思います。
 これらのサイボーグ研究の最前線は、義手や義足を脳波で動か
すという次の研究です。
─────────────────────────────
      ◎BMI/ Brain-machine Interface
       ブレイン・マシン・インタフェース
─────────────────────────────
 BMIというと、体重と身長の関係から算出されるヒトの体格
指数「ボディマス指数」(Body Mass Index) と間違えてしまい
ますが、サイボークの研究でのBMIです。
 このように、人間の体内に、いわゆる「機械」を埋め込むこと
によって機能の回復を図る技術は非常に進化しつつあります。こ
れはまさしく「人間の機械化」といえます。BMIが進化すると
脳さえ異常がなければ、手足が動かなくなっても、脳波によって
動かすことは可能になっています。しかし、それは医療の分野で
あれば、問題はないものの、それを超えると恐ろしいことになり
ます。       ──[次世代テクノロジー論U/063]

≪画像および関連情報≫
 ●「2030年代、サイボーグとなった人類は"神"に近づく」
  ───────────────────────────
   世界的な未来学者、発明家のレイ・カーツワイル氏の予想
  によれば、人間は脳をコンピュータに接続することによって
  さらに複雑な感情や特質を発達させるという。
   「人間は、もっとユーモラスで、魅力的に、そして愛情表
  現が豊かになるでしょう」。シリコンバレーにある教育機関
  「シンギュラリティ・ユニバーシテイ」(SU)で最近行わ
  れたディスカッションで、カーツワイル氏はこのように述べ
  た。彼はグーグルの技術責任者として人工知能(AI)の開
  発に参加しているが、この言葉は同社を代表して述べたもの
  ではない。
   カーツワイルの予想では、2030年代に人間の脳はクラ
  ウドに接続可能になり、メールや写真を直接、脳に送信した
  り、思考や記憶のバックアップを行ったりできるようになる
  という。これは脳内毛細血管を泳ぎまわるナノボット(DN
  A鎖からつくられる極小ロボット)によって可能になる、と
  カーツワイル氏は言う。非生物的な思考へと脳を拡張するこ
  とは、私たちの祖先が、道具を使用することを学習したのと
  同様に、人類の進化の次なるステップであると彼は捉えてい
  る。また、この拡張によって論理的知性だけでなく、感情的
  知性も高まるという。「人間は、脳モジュールの階層レベル
  を増やし、さらに深いレベルの感情表現を生み出すだろう」
  とカーツワイルは述べた。    https://bit.ly/2uXoTmr
  ───────────────────────────

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意識するだけで、カーソルが動く
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2018年08月01日

●「ロボットにも『心』が生まれるか」(EJ第4818号)

 「機械の人間化」の話を続けます。先日、池袋のジュンク堂書
店で次の本を発見し、購入しました。ジュンク堂書店では、AI
コーナーが設けられており、そこで発見したのです。
─────────────────────────────
                 海猫沢めろん著
    『明日、機械がヒトになる/ルポ最新科学』
            講談社現代新書/2370
─────────────────────────────
 著者の海猫沢めろん氏は、40代前半のライターで、AIをは
じめ、最新のテクノロジー開発のキーマンを取材し、まとめた本
です。この手の本はたくさんありますが、この本は、単なる取材
本とは一味違うところがあり、とても参考になります。
 「機械の人間化」で一番問題になるのは、やはり「心」の問題
です。これについて、海猫沢めろん氏は、ロボット工学者の石黒
浩博士に次の質問をしています。
─────────────────────────────
──:先生は、ロボットにも「心」は生まれるという話をつねづ
  ねされています。ぼく、その心が、OSとハードウェアに分
  かれているのか、それとも、分かれていないのかが気になっ
  ているのです。
石黒:分かれていますね。ひとつにすることは、今の技術ではで
  きない。人間の心は分かれていないんですね。人間っていう
  のは脳のなかのソフトウェア的な情報処理が、時間が経つと
  ハードウェアの構造──というか、脳のシナプスに影響を与
  えて、長期的な記憶が生まれたり、脳の構造そのものを変え
  たりしているのです。
──:ハードウェアを発達させて、どうにかして、できないんで
  すか。
石黒:そこまでのデバイスはまだつくれないですね。今のIC技
  術を使っている限りは難しそうな気がします。全体がプログ
  ラマブルなハードウェアをつくることができるなら、かなり
  人間の脳に近い構造をもたせることができる可能性もあるん
  ですけど、そこまで行くかどうかはまだちょっと微妙で・・
              ──海猫沢めろん著の前掲書より
─────────────────────────────
 海猫沢めろん氏の「その心が、OSとハードウェアに分かれて
いるのか、それとも、分かれていないのかが気になっている」と
いう表現はきわめてユニークです。石黒博士によると、機械は分
かれているが、人間は一体化しているというのですが、心という
ものを抽象的ではなく、具体的に表現しています。
 人間はともすると「心」という言葉を口にします。悪いことを
すると「心を入れ替えろ」といったり、話し方に「心がこもって
いない」とかいいます。しかし、「心とは何か」と問われると、
何も答えられないのです。石黒博士は「心」について、次のよう
にいっています。
─────────────────────────────
 人に心はなく、人は互いに心を持っていると、信じているだ
 けである。     ────海猫沢めろん著の前掲書より
─────────────────────────────
 石黒博士の論法によると、相手に「心」があると人間が信じれ
ば、ロボットにも「心」は存在するといえます。このテーマは、
ややもすると哲学的になりますが、この石黒博士の意見は、西洋
ではデカルト以来、哲学者がずっと論じ続けている「私」の問題
でもあるわけです。要するに哲学の問題なのです。
 石黒博士は、仏教関係者からも、よく講演を依頼されるそうで
す。浄土真宗の研究部門に石黒ファンが多いようです。「人は互
いに心を持っていると、信じているだけである」という考え方は
仏教でも同じであり、最終的にはすべて無に帰するものと考えて
いるようです。仏教にも通じる問題なのです。
 演劇の世界でもロボットが取り入れられつつあります。多くの
人は、感情を持たないロボットに演劇の俳優が務まるのかと考え
ますが、演出家の平田オリザ氏は、石黒浩博士の協力を得て、既
に「ロボット演劇」を行っています。2013年には、国立劇場
で次の公演が行われています。
─────────────────────────────
 アンドロイド版『三人姉妹』
 原作:アントン・チェーホフ 作・演出:平田オリザ
 ロボット・アンドロイド開発:石黒 浩(大阪大学&ATR石
 黒浩特別研究室)
─────────────────────────────
 「ロボット演劇」といっても、出演者が全部ロボットではなく
人間との共演です。演劇の演出というものは、演出家にもよりま
すが、プログラミングとよく似たところがあります。平田オリザ
氏の演出について、海猫沢めろん氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 平田オリザさんは、舞台役者に対してすごく細かい指示をだし
ます。感情ではなく、どの台詞を何秒、どういう身休の状態で言
うか、そういうプログラミングめいた指示です。つまり、ロボッ
トに対する演出と、人間に対する演出がまったく同じなのです。
「10センチ前に」「1秒間を取って」という演出をロボットで
やると、そのままプログラムを書くだけになります。
 果してそんなものに人は感動するのか?結論からいうと「イエ
ス」です。これは一体なにをしているのでしょうか。
            ────海猫沢めろん著の前掲書より
─────────────────────────────
 演劇だけでなく人々は普通の生活で、ロボットと一緒に暮らす
ようになります。既にそれは始まっています。もしそれが人型ロ
ボットであると、家族と同じように感じてしまってもおかしくは
ないと思います。このように「機械の人間化」は急速に進んでい
るといえます。   ──[次世代テクノロジー論U/062]

≪画像および関連情報≫
 ●ロボットの動きが不自然に見える理由/平田オリザ氏
  ───────────────────────────
  平田オリザ氏:今日、何の話をしようかと思ったんですけど
  石黒浩先生が(今日の講演で)何の話をするかが、分からな
  かったので、僕決めてなくて。どんな意味があるのか、ある
  いは何をしているのかってことなんですね。僕はずっとこの
  15年くらい、石黒先生と全く関係ないところで認知心理の
  方たちと一緒に、演劇のリアルっていうものはどういうとこ
  ろから生まれてくるのかという研究をしていました。分かっ
  てきたことはいくつかあるんですけど、一番単純なところで
  は、どうも皆さんがあの俳優は上手いとか、あの俳優は下手
  だとか、あの俳優はリアルだ、あの俳優は、ちょっとリアル
  じゃないっていうふうに感じる大きな要素の一つに、無駄な
  動きが適度に入ってるかどうか(がある)んですね。最近は
  ずいぶん変わってきてると思うんですけど、例えば今までの
  ロボット工学って(ペンを突き出し)これをいかに上手く掴
  むかっていうことをずっと研究してきたわけですよね。産業
  用ロボットっていうのは、まさにきちんと掴むっていうのが
  大事なわけですけど。でも人間はこんなにガシッとは掴まな
  くて、なんかモノがあったりすると、大体ちょっと手前で止
  まって掴んだりとか、全体像を把握してから掴んだりとか、
  何かのためらいとか、すごく無駄な動きが入るんですね。認
  知心理ではこれを「マイクロスリップ」というんです。
                  https://bit.ly/2AeEoLR
  ───────────────────────────

演出家/平田オリザ氏.jpg
演出家/平田オリザ氏
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2018年07月31日

●「機械の人間化の象徴アンドロイド」(EJ第4817号)

 AI(人工知能)が高度に発達すると、次の2つのことが起き
てきます。ここで「機械」とは、文字通り、機械、マシン、コン
ピュータ、それにAIなど、人間以外のマシンの総称です。
─────────────────────────────
          1.機械の人間化
          2.人間の機械化
─────────────────────────────
 「機械の人間化」とは何でしょうか。
 「AI脅威論」といわれるものがあります。その典型は「AI
に職を奪われる」「AIが上司になったら」「AIに人類は征服
される」など、いろいろいわれています。
 これは、機械が人間化して、人間を凌駕するという恐怖です。
確かに機械の進化によって人間の職が奪われるということは、産
業革命以後、これまでにいくらでもあったことです。今まで人手
でやっていたことが機械でできるようになれば、人間はその仕事
は機械にまかせて、機械にはできないよりレベルの高い仕事に取
り組めばよいだけの話です。仕事はいくらでもあります。
 人間は、自動車を発明したときから、自分の行きたいところに
自由に行くことができるようになっています。しかし、車は自分
で運転するしかありません。運転をしている間は、それに専念す
るしかないのです。それは当り前のことです。
 その自動車の運転が自動化されようとしています。現状は、ま
だかなり危なっかしい状況ですが、安全面はやがてクリアされ、
自動運転は当たり前のことになるはずです。ほんの数年前までは
自動運転の実現などあり得ないことだったはずです。
 今から1年半ぐらい前のことですが、書店で『未来を味方にす
る技術』(技術評論社)という本を手にしました。著者は斎藤昌
義氏、ネットコマース株式会社代表取締役です。私は本を購入す
るとき、「まえがき」を必ず読むことにしています。そこには、
まさに近未来のビジネスシーンが見事に描き出されていました。
この「まえがき」を読んだだけで、私はこの本の購入を決めまし
た。これだけで、内容に確信が持てたからです。私の狙い通り、
内容は素晴らしいものであり、このシリーズを書くのにも、とて
も役立っています。
─────────────────────────────
 「自動走行に切り替えます」
 高速道路に入り、自動走行モードのスイッチを入れると、ハン
ドルが私の手から離れ、ダッシュボードに、スッと吸い込まれて
いった。目的地の最寄りの出口までは1時間ほど。その間に、溜
まったメールを処理しよう。
 座席を後ろに引いて、タブレットを手にとる。ほどなくして、
「緊急の打ち合わせを開きたい」と品質管理部長からメッセージ
が入った。すぐにオンライン会議の画面を開くと、すでに生産技
術部や生産管理部などのメンバーがそれぞれの持ち場から会議に
参加している。(会議スタッフとのやりとりは省略)
 「14:00から山中工場に移動する。重なっているスケジュ
ールはすべてキャンセル。関係者に知らせてくれ」。タブレット
から、「承知しました」と返事が返ってきた。スケジュールは変
更され、関係者には気の利いた文書でメールが配信された。
 「まもなく、高速道路を降りて一般道に出ます。自動走行モー
ドを解除しますので、準備してください」
 ハンドルがダッシュボードからせり出してくる。私はハンドル
を握り直した。やれやれ、今日は長い1日になりそうだ。
    ──斎藤昌義著/『未来を味方にする技術/これからの
        ビジネスを創るITの基礎の基礎』技術評論社
─────────────────────────────
 このビジネスシーンは、何となく、少し前にやっていた「LI
NEワークスのCM」にとてもよく似ています。しかし、これを
読んで、このビジネスシーンを未来物語としてとらえる人は少な
いと思います。自動運転はともかくとして、タブレットによる通
信も会議も既に実現しているからです。
 しかし、自動運転が完全に行われるようになると、職業運転手
は大幅に減少するはずです。しかし、それによって余った労働力
は、必ず人間でなければできない仕事に吸収されるはずです。こ
れまでにも機械化によって、多くの職が奪われ、新しい職が生ま
れているからです。
 しかし、機械の人間化──要するにロボットはどんどん進化し
ます。現代は3Dプリンタがあるので、実物とほとんど変わらな
い人型ロボットができるようになっています。添付ファイルは、
日本のロボット工学者で大阪大学教授。専門は知能情報学工学博
士の石黒浩氏の製作した二足歩行ロボットで、外見や動きや言葉
遣いが自分そっくりの人造人間「ジェミノイドHI−4」です。
このロボットは自分で歩いたり、喋ったりできるのです。こうい
うロボットを「アンドロイド」といいます。現在のところ話をさ
せると、すぐロボットであることがわかりますが、そのうち、ど
ちらが本物かわからなくなる日はすぐそこに迫っています。まさ
に、「機械の人間化」そのものです。石黒浩博士は、人型ロボッ
トについて、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 大事なことは、人は人を認識する機能を持っている、というこ
とです。というよりも人の形をしたもののほうが認識しやすい。
現在のスマホや携帯は、人間にとって理想的なインターフェース
じゃなくて、最も理想的なインターフェースは、人そのものなん
です。だから、技術が進めば、世の中のいろんなものが人間らし
くなっていく。そして、人間らしくなっていったときに、その究
極としてあるのが、アンドロイドだと思います。海猫沢めろん著
         『明日、機械がヒトになる/ルポ最新科学』
                 講談社現代新書/2370
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/061]

≪画像および関連情報≫
 ●石黒浩:アンドロイドの未来に革新をもたらす男
  ───────────────────────────
   彼は自分そっくりに作ったアンドロイドに世界中を旅させ
  て、各地で講演を行わせている。彼は、米国の伝説的カント
  リーシンガー、ジョニー・キャッシュを彷彿とさせる黒ずく
  めの衣装に身を包み(しかし、その理由はキャッシュとは全
  く違う)、アンドロイド研究の真意は「人間が人間であるこ
  との意味」を問うことにあると信じて疑わない。要するに、
  石黒浩という人物は、我々が思い浮かべる研究者像とは大き
  くかけ離れている。アンドロイド研究のスーパースターなの
  だ。彼が幼少期を過ごした頃の日本では、上記に書いたよう
  なことはひとつも実現可能だとは思われていなかった。
   「アンドロイドやロボットについてそれほど興味があった
  わけではなかったんです。私が興味を持っていたのは人間そ
  のもので、元々は油彩画家になりたいと思っていました。同
  時に、私はものを作るのが好きでしたし、人間の脳の働きに
  も興味を引かれていました」と石黒教授は語る。
   石黒少年が抱いたそれらの興味は、彼がやがて組み上げる
  非常に精巧で、人間に近いアンドロイドたちの基礎を成して
  いった。彼のアンドロイドたちはあるラップソングの中にも
  フィーチャーされたが、そのフロウは実にスペシャルだ。石
  黒教授がアンドロイドを作ろうと思い立ったきっかけは、彼
  が大学で人工知能(AI)の研究をしていた時だった。「私
  はすぐにAIを収納するボディの重要性を認識しました。ま
  た同時に、アンドロイドを研究してみたいという自分の欲求
  にも気付いたんです。      https://win.gs/2LX7Oza
  ───────────────────────────

石黒浩博士とジェミノイドHI−4.jpg
石黒浩博士とジェミノイドHI−4
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2018年07月30日

●「AIのコンテスト/ローブナー賞」(EJ第4816号)

 5月7日にスタートした今回のテーマは、今朝で60回になり
ます。しかし、まだ書くことがたくさんあるので、あと10回程
度は続ける予定です。
 折からのAIスピーカーのブームに関連して、ここでもう一度
「チューリングテスト」に話を戻します。アラン・チューリング
がこのテストの構想を論文に書いたのは1950年のことです。
それから40年が経過した1990年になって、このテストは、
「ローブナー賞」という名称を冠した一種の競技会として、現在
まで連続して開催されています。その第1回の大会は1991年
11月に行われています。この競技会の趣旨は、AIの研究を発
展させることを目的としています。
 毎回、世界中から多くの「チャット・ボット」が出品され、そ
の出来栄えを競っています。「ローブナー賞」は毎年開催されて
いますが、2014年になってはじめてコンピュータが勝利を収
めています。しかし、「ローブナー賞」には大きな問題があり、
それを批判する学者も多く、これが果して真のAIの発展に寄与
するかどうかは疑問です。
 「ローブナー賞」のルールを確認しておきます。壁の向こうに
は、コンピュータと人間がいます。そして壁のこちら側にテスト
をする人たちが複数います。この状態で会話するのですが、会話
は音声ではなく、ディスプレイ上に文字で示されます。しかも、
時間はたったの5分です。これで判定ができるのでしょうか。
 このコンテストは、AIコンピュータがいかに人間を騙せるか
を競うものです。しかも、判定も100%ではなく、10人中3
人の判定者がコンピュータを人間と判断する──コンピュータ側
からいうと、判定者の30%を騙した時点でコンピュータの勝利
になります。つまり、かなり判定基準が甘いということです。
 そうであるのに、約24年間、コンピュータが勝利することは
なかったのです。時間が5分間と短いのも、あまり長く対話する
と、コンピュータにとって不利なので、時間を短くしているのだ
と思うし、音声ではなく、ディスプレイ上での文字の対話になっ
ているのも同じ理由と思われます。この競技ではじめてコンピュ
ータが勝利したときも、かなりモメたのです。そのときの状況に
ついて説明します。
 2014年6月のことです。英国のレディング大学で開催され
た「チューリング・テスト/2016」で、13歳のユージーン
・グーツマンという少年の設定の「ユージーンくん」と称するプ
ログラムが、人間と間違えられたのです。「ロープナー賞」のは
じめての受賞ということになります。
 しかし、この判定に多くの批判が殺到します。はじめて、ルー
ルが甘すぎることに気が付いたのでしょう。しかも「ユージーン
くん」は、ウクライナ在住で、英語は母国語でないので、あまり
得意ではないという条件付きです。しかし、「ユージーンくん」
は自分が分かる質問には流暢に答えを返し、分からない質問をさ
れても、巧みに話題を切り替え、少し皮肉めいたユーモアを交え
た対応をしたそうです。
 これは、アイフォーンの「シリ」のレベルと考えられます。シ
リは既にこの時点で、わからないときでも、気の利いた返事を返
しており、このプログラムとよく似ています。シリは、2011
年のアイフォーン4Sから標準機能になっており、2014年で
あれば、「ユージーンくん」が相当巧みな対話をしても不思議で
はないからです。
 しかし、既に述べているように、これはコンピュータが質問の
意味を真に把握して対話をしているのではなく、「人間らしくみ
える対話」をしているに過ぎないのです。いい替えると、人間を
騙す対話をしているわけです。つまり、それらしく見せているに
過ぎないということです。
 これに関して既出の小林雅一氏は、コンピュータが「人間らし
くみえる対話」をしても、それが真のAIの発展に結びつくとは
思えないとして、その理由を次のように述べています。
─────────────────────────────
 その理由は、ローブナー賞のような競技会では、どの参加チー
ムも勝負を最優先するあまり、肝心のAI技術を向上させること
よりも、もっと低レベルの手練手管に注力してしまう嫌いがある
からです。たとえばAIプログラムが短気で陰険な人間に扮して
あからさまに人間(判定者)を挑発するような答えを返す。逆に
やたらと愛想が良かったり、どうでもいいようなことを饒舌に喋
りまくったりする。このように、いかにも人間らしいパーソナリ
ティを作り出すことによって、壁の反対側にいる判定者を騙そう
とする傾向があるようです。
 が、そういった表面的な工夫によって欺かれてしまう判定者が
少なくないことは、(テストを考案したチューリング氏の意に反
して)会話程度のことでは、AIコンピュータが真の知能、まし
てや人格などを有しているか否かを判定するには不十分と言える
かもしれません。         ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
─────────────────────────────
 実際AIと人間との対話は、AIが本当に意味がわかっていな
くても、かなり流暢にできるようになっています。それに加えて
AIは、ウェブサイトからも情報は読めるので、何かわからない
ことをAIに尋ねるレベルのことは十分対応可能です。その限り
において、AIスピーカーは人間の役に立っており、だから、売
れているのです。
 しかし、とくにテーマのない雑談をしたり、カウンセリングな
どの真の相談相手としては、まだまだそのレベルに達しておらず
「弱いAI」のままです。しかし、カーツワイル氏のいうように
もし指数関数的に技術が進化すれば、ある日突然、可能になると
いうことは、十分あるといえます。「強いAI」にはなっていな
いのです。     ──[次世代テクノロジー論U/060]

≪画像および関連情報≫
 ●『機械より人間らしくなれるか?』─人間らしさの測り方
  ───────────────────────────
   チューリングテストというものをご存じだろうか?「機械
  には思考が可能か」という問いに答えを出すために、数学者
  のアラン・チューリングが1950年に提案した試験のこと
  である。審判がコンピュータ端末を使って姿の見えない「2
  人」の相手に5分間ずつチャットする。一方は、本物の人間
  (サクラ)、一方は<AI(人工知能)。チューリングは、
  2000年までにコンピュータが5分間の会話で30%の審
  判員を騙せるようになり、「機械は考えることができると発
  言しても反論されなくなる」と予言した。
   その予言は、いまだ実現していない。だが毎年毎年、数々
  の腕自慢たちが「最も人間らしいコンピュータ」の称号を手
  にすべく、我こそはと名乗りをあげてきた。本書の著者も、
  チューリングテストの中でも、最も有名な大会であるローブ
  ナー賞に参加した人物である。
   しかし、著者が目指したのは「最も人間らしいコンピュー
  タ」の称号ではなかった。この大会にはもう一つ興味深い称
  号も存在するのである。審判員から最も得票を集め、さらに
  その自信度も最も高いサクラに贈られる称号、「最も人間ら
  しい人間」賞の方であったのだ。本書は、そんな人間らしさ
  を追求した著者の挑戦記でもある。https://bit.ly/2LlYl8u
  ───────────────────────────
●図の出典/http://noexit.jp/tn/doc/chu.html

チューリングテストの仕組み.jpg
チューリングテストの仕組み
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2018年07月27日

●「人工知能を人体に埋め込んで改造」(EJ第4815号)

 現在、既に実現している人工知能(AI)のすべては、いずれ
も「弱いAI」ということになります。いずれも特定の分野にお
いて利用されるAIです。「専用的AI」ともいいます。
 この「弱いAI」に、意識や感情や精神、すなわち、「心」を
持たせることができれば、それは「強いAI」になります。これ
は、人工知能(AI)ではなく、人工汎用知能(AGI)という
ことになります。
 レイ・カーツワイル氏の本を読んでわかったことがあります。
今後テクノロジーが、カーツワイル氏がいうように、指数関数的
に発達しても、AIに「心」を持たせることは困難であると誰も
が考えます。どちらにもどうしても乗り越えることが困難な壁が
たくさんあるからです。
 しかし、人間が人体にAIの機能を取り込んだ場合は、どうで
しようか。これなら十分可能です。いい替えると、人間サイボー
グの実現です。機械に「心」を持たせようと腐心するのではなく
はじめから「心」を持っている人間に、AI機能を埋め込むので
す。そうすると、新しい人間が誕生します。
 テクノロジーの指数関数的進化のすえに何が起きるかについて
カーツワイル氏は、3つのシナリオがあるといっています。カー
ツワイル氏の自著から引用します。
─────────────────────────────
 第1のシナリオは、2020年代の末までに、人間の脳のリバ
ースエンジニアリングが完了し、感情的知能も含めた、人間の複
雑で捉えがたい脳に匹敵し、あるいは凌駕する、非生物的なシス
テムが創造されるだろうというものだ。
 第2のシナリオは、人間の脳のさまざまなパターンを、適切な
非生物的な思考の基板にアップロードするというもの。そして第
3の、もっとも説得力のあるシナリオは、人間そのものが徐々に
しかし確実に、生体から非生物的な存在へと変わっていくという
ものだ。
 障害や病気を改善するための神経移植のような、比較的簡単な
デバイスの導入はすでに始まっている。こうした人体の改造は、
血流にナノポットを入れるようになれば、いっそう進歩するだろ
う。ナノポットはまず医療と老化防止を目的として開発が進めら
れる。そしていずれはより洗練されたナノポットが人間のニュー
ロンと接続され、われわれの感覚を増強する。そうなると、神経
系続からヴァーチャルリアリティ(VR)や、拡張現実(AR)
がもたらされ、記憶力は増強され、日常的な認識作業も助けられ
る。やがて人間はサイボーグとなり、知能における非生物的な部
分は、そうした脳内の装置を足がかりとして、機能を指数関数的
に拡大させていく。これまでに述べたように、ITは、コストパ
フォーマンス、能力、導入率などすべての面で指数関数的な成長
を持続していく。  ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 カーツワイル氏がここでいう第3のシナリオ「人間そのものが
徐々に、しかし確実に、生体から非生物的な存在へと変わってい
く」──この考え方には、きわめて説得力があります。つまり、
機械が人類を追い落とすという未来像ではなく、人間と機械の協
調によって人類が進歩するというのがカーツワイル氏が信じるビ
ジョンです。
 AIによる人間改造──これに近いことをいっている人がいま
す。電気自動車のテスラ社のCEOであるイーロン・マスク氏で
す。2017年2月12日〜14日にドバイで開かれた「世界政
府サミット」に登壇し、次の発言をしています。
─────────────────────────────
 長年、私は生命の知性とデジタルな知性が融合する日がくると
考えてきました。問題は処理能力にあります。コンピュータは、
1秒間に1兆ビットの情報を処理しますが、人間はたったの10
ビットです。このままでは、いずれAIが人間を余分なものとし
て排除する可能性もあります。しかし、高速処理を実現するイン
ターフェースを脳に装着することで、驚異的なスピードアップが
期待できるのです。         ──イーロン・マスク氏
                  https://bit.ly/2Nw1L5d
─────────────────────────────
 イーロン・マスク氏とカーツワイル氏の主張には、同じ新しい
テクノロジーによる人体改造でも大きな違いがあります。それは
マスク氏は、近未来に、人知をはるかに超える知能体が出現する
と考えているのに対し、カーツワイル氏は、そのような知識体は
現れないと考えているからです。
 脳以外の身体の他の部分を何らかのマシンに置き換えている人
は既にたくさんいます。しかし、脳の部分に何かを埋め込んだり
した場合、自分という意識というか、アイデンティティはどうな
るのか。きわめて興味深い問題です。
 レイ・カーツワイル氏は、これについても自著で次のように書
いています。きわめて哲学的な話です。
─────────────────────────────
 わたしの脳のごく小さな部分を、同じ神経パターンをもつ物質
と置き換えることを考えてみよう。そう、わたしは依然としてこ
こにいる。手術は成功したのだ。すでに、このような人は存在す
る。たとえば、内耳の蛸牛管の移植を受けた人や、パーキンソン
病の症状を抑えるために神経移植を受けた人などだ。
 さて、次にわたしの脳の別の部分を置き換えよう。それでも、
わたしはもとのわたしのまま・・。そして、さらに、また移植を
・・。一連の移植のあとも、わたしは依然としてわたしだ。「古
いレイ」も、「新しいレイ」も存在しない。わたしはもとのわた
しのままだ。わたしがいなくなったと悲しむ者は、わたしも含め
誰もいない。     ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/059]

≪画像および関連情報≫
 ●ヒトの能力はどこまで強化・拡張できるのか
  ───────────────────────────
   宇宙を飛び回る超人や悪の組織と戦う人造人間など、機械
  を使ってヒトの能力を強化・拡張するという舞台装置は、S
  Fの定番である。ただし、こうした機械による能力の強化・
  拡張は、既に身近なところで数多く見られる。
   例えば、かつては専門家だけが使う道具だったコンピュー
  タは、ノートパソコン、スマートフォン、さらにはウエアラ
  ブル機器などが登場し、どんどんヒトに近い位置で使われる
  ようになった。これによって、コンピュータの力をヒトの能
  力の一部として同化させ、文字通り手足のように利用してい
  る。そして、過去には知り得なかったより多くの情報を手に
  入れ、昔ならば出会うこともなかったような人と、密度の高
  いコミュニケーションを交わせるようになったのだ。
   今、こうした強化・拡張した能力の活用を前提にして生き
  る「デジタルネイティブ」が、次の暮らしや社会の担い手に
  なりつつある。社会の進化もまた、機械によるヒトの能力の
  強化・拡張と共にあると言えるだろう。
   機械によるヒトの能力の強化・拡張は、様々な切り口で進
  んでいる。例えば知覚の強化・拡張では、「見る」「聞く」
  「触れる」「嗅ぐ」「味わう」といった五感を強化するだけ
  でなく、本来ヒトが持たない検知能力まで付加するセンサー
  技術やICT技術が急速に発達している。
                  https://bit.ly/2Lz99j7
  ───────────────────────────

イーロン・マスクCEO/テスラ社.jpg
イーロン・マスクCEO/テスラ社
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2018年07月26日

●「カーツワイル『収穫加速の法則』」(EJ第4814号)

 レイ・カーツワイル氏は、シンギュラリティに関連して、「収
穫加速の法則」を提唱しています。「収穫加速の法則」の定義は
次のようになります。
─────────────────────────────
 秩序が指数関数的に成長すると、時間は指数関数的に速くな
 る。つまり、新たに大きな出来事が起きるまでの時間間隔は
 時間の経過とともに短くなる。    ──ウィキペディア
                 https://bit.ly/2NyrWZb
─────────────────────────────
 カーツワイル氏が何をいいたいのかというと、テクノロジーの
進化のプロセスは、その能力を「指数関数的に」向上させるとい
うことです。つまり、イノベーションを図る者は、性能を倍々に
改良しようするものです。したがって、イノベーションの進化は
加法的ではなく、乗法的に進むことになります。
 あの「ノイマン型コンピュータ」の設計者として名高いジョン
・フォン・ノイマンは、1950年代に次のようにいったといわ
れています。
─────────────────────────────
 たえず加速度的な進歩を遂げているテクノロジーは・・・人類
の歴史において、ある非常に重大な特異点に到達しつつあるよう
に思われる。この点を超えると、今日ある人間の営為(営み)は
存続することができなくなるだろう。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 驚くべきことですが、ノイマンは、既にこの時点において「加
速度」と「特異点」という2つの概念を指摘しています。ちゃん
と的確なテクノロジーの未来像を描いていたのです。ちなみに、
ここで「加速度」というのは、ある定数を掛けることで繰り返し
拡大する(指数関数的)という意味であり、定数を足すことによ
る繰り返しの拡大(線形的)なものではないということです。
 カーツワイル氏は、テクノロジーの進化の歴史を、次の「進化
の6つのエポック」に分けて、概念化しています。6つの段階、
それぞれのエポックでは、その前のエポックで作られた情報処理
手法を使って次なるエポックを生み出してきたのです。シンギュ
ラリティは、「エポック5」ではじまります。
─────────────────────────────
≪エポック1≫ 物理と化学
 ・原子構造の情報
≪エポック2≫ 生命
 ・DNAの情報
≪エポック3≫ 脳
 ・ニューラル・パターンの情報
≪エポック4≫ テクノロジー
 ・ハードウェアとソフトウェアの設計情報
≪エポック5≫ テクノロジーと人間の知能の融合
 ・生命のあり方(人間の知能を含む)が、人間の築いたテクノ
  ロジー(指数関数的に進化する)の基盤に統合される。
≪エポック6≫ 宇宙が覚醒する
 ・宇宙の物質とエネルギーのパターンに知能プロセスと知識が
  充満する。    ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
 この指数関数的進化の例として、カーツワイル氏は「ムーアの
法則」を上げています。添付ファイルをご覧ください。ここには
インテル社のパラダイムシフト(技術革新)が書かれています。
 集積回路の主要な発明者であり、後にインテルの会長になった
ゴードン・ムーア氏が「ムーアの法則」のことを論文に書いたの
は1965年のことですが、実際にそれが始まったのは、集積回
路が開発されてからです。それまでにインテルには、次の4つの
パラダイムシフトがあったのです。
─────────────────────────────
          1.電気計算式計算機
          2. リレー式計算機
          3.     真空管
          4.単体トランジスタ
─────────────────────────────
 それぞれの段階で、既存のパラダイムが活力を失うと次のパラ
ダイムのベースが上がるのです。なお、ムーアの法則は、単体の
トランジスタの後ではじまっているので、第5パラダイムシフト
ということになります。
 なお、ムーアの法則とは「18ヶ月ごとに集積回路上に詰め込
むことができるトランジスタの数は2倍になるというものです。
わかりやすくいうと、1・5年ごとにCPUの速度は倍速になり
しかもコストは下がるというものです。これは、CPUのコスト
パフォーマンスが指数関数的に成長しないとできないことです。
 1965年4月19日、『エレクトロニクス』の誌上で、ゴー
ドン・ムーア氏は次のように書いています。
─────────────────────────────
 集積電子工学の未来は、電子工学の未来そのものである。集積
化の進展によって電子工学が普及し、多数の新しい分野に浸透し
ていくことになる。          ──ゴードン・ムーア
           ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
 実はこのムーアの法則は現在も続いていますが、さすがにその
パラダイムは、微細化の限界とCPUの熱の問題で、限界に達し
つつあります。しかし、引き続き、3次元の分子コンピューティ
ングが出現し、第6のパラダイムシフトになるのではないかとい
われています。このように、テクノロジーの進化のプロセスは、
その能力を指数関数的に向上させるのです。
          ──[次世代テクノロジー論U/058]

≪画像および関連情報≫
 ●指数関数的に進化するテクノロジーの行方
  ───────────────────────────
   先日、あるセミナーで、首題のような話があり、考えさせ
  られる内容だったので、私の個人的なコメントを交えながら
  紹介したい。話をしたのは、スタンフォード大学フェローの
  Wadhwa氏。話は指数関数的に進化するとはどういうことかを
  実感するところから始まった。
   これは、わかりやすく言うと、数字が倍々になっていくこ
  とだ。彼の話の例で行くと、たとえば、1歩で(計算が簡単
  なように)1メートル進むとして30歩あるくと、30メー
  トル進むが、これを指数関数的に1歩の距離を長くしていく
  とどうなるか。最初は1メートル、次は2メートル、次は4
  その次は8メートルだ。ここまでだと大したことはないが、
  これを30歩進めると、大変な距離になる。計算すると10
  億メートルを超え、これは地球を24回まわる距離になる。
  指数関数的にテクノロジーが進化するということは、これだ
  けすごいことが起こっている、ということだ。
   指数関数的なテクノロジーの進化で有名なものとして、大
  規模集積回路(LSI)に関するムーアの法則がある。19
  65年に彼が予測したときは、毎年LSIに組み込まれるト
  ランジスターの数は倍になる、というものだった。まさしく
  指数関数的な進化そのものだ。  https://bit.ly/2uF9pmL
  ───────────────────────────

ムーアの法則/第5のバラダイム.jpg
ムーアの法則/第5のバラダイム
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2018年07月25日

●「シンギュラリティ以後はこうなる」(EJ第4813号)

 レイ・カーツワイル氏はいっています。「AIの技術は指数関
数的に進化する」と。この「指数関数的に」とはどういう意味で
しょうか。もっとも単純な関数「y=1/x」について、考えて
みましょう。添付ファイルの図をご覧ください。このグラフは何
を意味しているのでしょうか。これは、数学における特異点を表
しています。
─────────────────────────────
 xの値がゼロに近づくと(右から左に進む)、1/x、すな
 わちyは急激に大きくなる。
─────────────────────────────
 昨日のEJでご紹介した「睡蓮の葉が湖面に増殖する話」を数
学的に説明したものです。長い時間をかけても湖面の1%ぐらい
しかなかった睡蓮の葉がある日を境に突然急速に増殖し、あっと
いう間に湖面いっぱいに覆ってしまう現象です。特異点、すなわ
ち、シンギュラリティとはそういうことをいっています。
 現在は初期の移行期にある──レイ・カーツワイル氏はいいま
す。しかし、今世紀の半ばまでには、テクノロジーの成長率は急
速に上昇し、ほとんど垂直の線に達するまでになるといいます。
そしてその頃にはテクノロジーとわれわれ人間は一体化し、今世
紀末までには、人間の知能のうちの非生物的な部分は、テクノロ
ジーの支援を受けない知能よりも、数兆倍の数兆倍も強力になる
というのです。
 特異点を超えた以後の世界について、レイ・カーツワイル氏は
自著で次のように述べています。まるで映画「マトリックス」と
同じ世界が実現するように読み取れます。
─────────────────────────────
 シンギュラリティとは、われわれの生物としての思考と存在が
みずからの作りだしたテクノロジーと融合する臨界点であり、そ
の世界は、依然として人間的ではあっても生物としての基盤を超
越している。シンギュラリティ以後の世界では、人間と機械、物
理的な現実と拡張現実(VR)との間には、区別が存在しない。
そんな世界で、間違いなく人間的だと言えるものが残っているの
かと問われれば、あるひとつの性質は変わらずにあり続ける、と
答えよう。それは、人間という種は、生まれながらにして、物理
的および精神的な力が及ぶ範囲を、その時々の限界を超えて広げ
ようとするものだ、という性質だ。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 カーツワイル氏がいっていることとは次元が違いますが、最近
電動アシスト付き自転車に乗りながら、考えていることがありま
す。これ実にラクなのです。一度でも電動アシスト自転車に乗っ
たら、アシストなしではとても自転車に乗れなくなります。それ
ほど、電動アシスト自転車はラクです。
 これができるのであれば、たとえば、膝が痛くて歩くのに不便
な老人の膝に、サポーターのようにあるマシンを取り付けること
によって、通常と同じように歩けるようすることはできるのでは
ないかと考えます。既に腰に巻き付けると、非力の人でも、重た
いものをラクに持ち上げる介助ロボットは完成しています。後は
どこまで、軽量化や小型化ができるかです。
 カーツワイル氏がいうのは、シンギュラリティに到達すれば、
われわれの生物としての身体と脳の限界を超えることも可能にな
るといいます。現在においては、人間の脳は、AIが到底追いつ
かないほどのレベルなのですが、同時に人間の脳は、生物である
が故に、超えることのできない大きな限界を抱えている。カーツ
ワイル氏は人間の生物的限界について次のように述べています。
─────────────────────────────
 人間の脳は、さまざまな点でじつにすばらしいものだが、いか
んともしがたい限界を抱えている。人は脳の超並列処理(100
兆ものニューロン間結合が同時に作動する)を用いて、微妙なパ
ターンをすばやく認識する。だが、人間の思考速度はひじょうに
遅い。基本的なニューロン処理は、現在の電子回路よりも数百万
倍遅い。このため、人間の知識ベースが指数関数的成長していく
一方で、新しい情報を処理するための生理学的な帯域幅はひじょ
うに限られたままなのだ。
           ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
 カーツワイル氏の本を読んでいてわかったことがあります。い
わゆるAIの急速な進化によってシンギュラリティを超えると、
人間の知能をはるかに超える非生物的な知能体があらわれ、これ
によって人間は職を奪われ、やがて征服されるというSF的スト
ーリーがよく語られています。しかし、カーツワイル氏によると
シンギュラリティ以後、人間の知能に従来からある長所と、AI
の知能にある長所を合体させた新しい人間が登場するという考え
方です。これは人間なのか、ロボットなのでしょうか。
 考えてみると、現代はほとんどの人がスマホを持っていますが
それだけでも人間とICT知能が合体しているといえます。カー
ツワイル氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 忘れてはならないのは、未来に出現する知能は、それがすでに
人間と機械が融合したものであっても、人間の文明の表れであり
続けるということだ。言い方を変えれば、未来の機械は、もはや
生物学的な意味で人間ではなくとも、一種の人間なのだ。これは
進化の次なる段階だ。次に訪れる高度なパラダイムシフトであり
知能進化の間接的な作用なのだ。文明にある知能のほとんどは、
最終的には、非生物的なものになるだろう。今世紀の未には、そ
うした知能は、人間の知能の数兆倍の数兆倍も強力になる。
           ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/057]

≪画像および関連情報≫
 ●シンギュラリティがやってくる/AIと人間が融合する日
  ───────────────────────────
   シンギュラリティ(技術的特異点)とは人工知能(AI)
  が人間の知能と融合し、人間の生命と社会のあり方が大きく
  変わる時期を指す。これはSFの話でなく、加速度的に進歩
  しているスーパーコンピュータの開発、AIの高度化、新エ
  ネルギー研究、モノのインターネット化、ロボット工学、ゲ
  ノム編集、ナノテクノロジー等によって、早ければあと5年
  で、遅くとも40年以内には実現するという。人間がAIや
  機械と融合することによって、生老病死に対する考えを全く
  改めなければならない瞬間がおとずれたとき、社会や経済は
  どうなっているのか?シンギュラリティに造詣の深い3人の
  識者に話を聞いた。
   近未来型AI会議室を舞台に始まったシンギュラリティ・
  シンポジウム。AI研究者の中島秀之氏、スパコン開発者の
  齊藤元章氏、経済学者の井上智洋氏の3人に自由な議論をし
  てもらった。齊藤氏が、シンギュラリティに向かいつつある
  今の世界は、人間が初めて機械的な知性によって生物学的な
  進化を遂げる時代だと切り出すと、中島氏は、新しい社会概
  念、ソサエティ5・0こそが、AIによる社会革命にあたる
  のではないかと指摘する。
   経済学者の井上氏は、やがて人間と同じようにどんな仕事
  でもこなせる汎用人工知能が完成すれば、労働移動が追いつ
  かず大失業が起こる危険性もある一方、私たち人間が働かな
  くてもよい世界になるかもしれないという持論を展開する。
                  https://bit.ly/2NtTYF5
  ───────────────────────────

数学における特異点/線形グラフ.jpg
数学における特異点/線形グラフ
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2018年07月24日

●「シンギュラリティ/カーツワイル」(EJ第4812号)

 いわゆるAI(人工知能)の進化は、ここ数年、目を見張るも
のがあります。最近の新聞では、AIの記事が載らない日は、1
日もなくなっています。書店にはAIの特設コーナーができ、多
くの本が並んでいます。新井紀子氏のベストセラー本もそのうち
のひとつです。
 こういう状況になると、多くの人はともすると錯覚を起こしま
す。その典型的なものが「このまま行くと、人間はAIに職を奪
われ、世界はAIに征服される」というようなSF的な妄想が、
大真面目に流布されることです。
 米国の未来学者であり、グーグルの研究者であるレイ・カーツ
ワイル氏は、次の有名な言葉を世界に発信しています。
─────────────────────────────
   2045年、コンピュータが全人類の知性を超える
               ──レイ・カーツワイル
─────────────────────────────
 レイ・カーツワイル氏は、コンピュータの進化の行き着く先に
は、上記のようなことが起きる時点が待ち構えており、その先に
は何が起きるかわからないとし、これを「シンギュラリティ(特
異点)」と呼んだのです。それが2045年には起きるだろうと
いうのです。あと27年後のことです。
 誤解すべきではないのは、現在のAIのレベルは、「人間のよ
うに振る舞うマシン」になりつつありますが、その正体は「弱い
AI」そのものです。新聞などによく「〇〇に人工知能導入」と
か、「AIで〇〇を代替」などのニュースが流れますが、ここで
いうAIはすべて「弱いAI」です。
 「弱いAI」は、いずれも特定の範囲内で実現出来る技術であ
り、やがて「強いAI」を実現するための基礎技術になることが
期待されますが、きっとそうなるはずです。ここで大事なことは
「弱いAI」は、あくまで特定の範囲内で使えるAI技術である
ことです。それは、人間にとって、脅威であるどころか、便利な
存在であるに過ぎないのです。例えていうならば、大量の土砂を
片づけるのに、ブルドーザは人間の能力をはるかに超えたという
のと同じです。人間はその分時間が節約できます。
 また、世界の囲碁のチャンピオンを破ったグーグルのAI「ア
ルファ碁」は、あくまで囲碁という限定された範囲で、人間を超
えたというに過ぎないのです。もちろん、これはこれでエポック
メーキングなことですが、「アルファ碁」は囲碁しかできない専
用AIでしかないのです。
 この「アルファ碁」の非効率性について、ネットコマ―ス株式
会社代表取締役、斎藤昌義氏は、自著において、次のように指摘
しています。
─────────────────────────────
 アルファ碁がプロ棋士に勝つために使ったコンピュータは、消
費電力も膨大です。たとえていえば、箸の上げ下ろしにクレーン
車を使うようなものです。人間の脳は、わずかなエネルギーで、
アルファ碁と対等に勝負したわけですから、いかに効率がいいか
がわかります。「自分が何者か?」という自己理解は、人工知能
にはできません。また、意識や意欲などということになると、そ
れがそもそも何か、どのような仕組みで実現しているのかさえ、
まだ十分にはわかっていません。エネルギー効率も、人間の脳に
はかないません。これらも含めて「脳機能」であるとすれば、脳
の活動をすべて機械で実現するのは、容易ではないことが理解で
きます。            ──斎藤昌義著/技術評論社
                  『未来を味方にする技術
        これからのビジネスを創るITの基礎の基礎』
─────────────────────────────
 「アルファ碁」は囲碁しかできませんが、人間の脳は、囲碁だ
けでなく、本も読めるし、会議をして意見交換もできるし、営業
もできるというように、「汎用頭脳」なのです。これがAIに出
来るようになると、「強いAI」、すなわち「人工汎用知能」と
いうことになり、それは「AGI」と呼ぶのです。
─────────────────────────────
            人工汎用知能=強いAI
       Artificial General intelligence
─────────────────────────────
 それでは「シンギュラリティ」とは何でしようか。
 カーツワイル氏によると、シンギュラリティという概念の根本
には、人間が生み出したテクノロジーの変化の速度は加速してい
て、一挙に拡大するといい、その威力は「指数関数的な速度」で
拡大するといっています。最初は目に見えない小さな変化ですが
やがて予期しないほど激しく、爆発的に拡大するのです。これに
ついてカーツワイル氏は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 こういう話がある。湖の所有者が、睡蓮の葉で湖面が覆われ、
湖の魚が死んでしまうことのないよう、家を寸刻も空けずに湖を
観察することにした。睡蓮の葉は、数日ごとに2倍に増えるとい
う。何か月もの間、所有者はひたすら様子をうかがったが、睡蓮
の葉は、ほんのわずかしか見られず、とりたてて広がっていくよ
うには思われなかった。睡蓮の葉が占める面積は湖全体の1パー
セントにも満たないようなので、ここらで休みを取って、家族で
出かけてもだいじょうぶだろうと判断した。数週間後に帰宅した
所有者は、びっくりした。湖全体が睡蓮の葉で覆われ、魚がみん
な死んでしまっていたのだ。数日ごとに2倍になるので、最後に
7回倍加した分で、睡蓮の葉が湖全体に広がっていたのだ(7回
倍加すると、睡蓮の葉の占める面積は128倍になる)。指数関
数的な成長には、こうした特質がある。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/056]

≪画像および関連情報≫
 ●こんなに凄い「シンギュラリティ」の衝撃
  ───────────────────────────
   未来を変えるテクノロジーとして、いまもっとも、多くの
  人々が注目しているのは、おそらくAI(人工知能)だろう
  と思います。それと同時に、あるキーワードがメディアでク
  ローズアップされるようになりました。それは、「シンギュ
  ラリティ」という言葉です。
   この言葉が日本国内で広まるきっかけをつくった一人は、
  ソフトバンクCEOの孫正義氏ではないでしょうか。孫氏は
  2016年6月、AIの進化について熱弁をふるい、「シン
  ギュラリティがやってくる中で、もう少しやり残したことが
  あるという欲が出てきた」と、シンギュラリティが社長続投
  の理由であったと発言したのです。それ以来、数年前までは
  ごく一部の人たちしか知らなかった「シンギュラリティ」と
  いう言葉が一般に注目されるようになりました。
   しかし私の見るかぎり、「シンギュラリティ」という言葉
  は必ずしも正しく理解されていません。多くの日本人が誤解
  しているようなので、まずはその正確な意味をお伝えすると
  ころから始めましょう。
   シンギュラリティは、もともと「特異点」を意味する言葉
  です。数学や物理学の世界でよく使われる概念です。たとえ
  ば宇宙物理学の分野では、ブラックホールの中に、理論的な
  計算では重力の大きさが無限大になる「特異点」があると考
  えられ、それが重大な問題になります。
                  https://bit.ly/2uI0sJF
  ───────────────────────────

レイ・カーツワイル氏.jpg
レイ・カーツワイル氏
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2018年07月23日

●「『中国語の部屋』という思考実験」(EJ第4811号)

 「人工知能」ならぬ「人工無能」まで出てきているので、この
あたりでそもそも「AI(人工知能)とは何か」について考える
必要があります。AIには次の2種類があるといわれています。
─────────────────────────────
            1.強いAI
            2.弱いAI
─────────────────────────────
 この分類は、カルフォルニア大学バークレー校のジョン・サー
ル教授が提唱しました。彼は哲学者で、主に言語哲学、心の哲学
の専門家です。
 「強いAI」とは何でしょうか。サール教授は、これについて
次のように述べています。
─────────────────────────────
 強いAIによれば、コンピュータは単なる道具ではなく、正し
くプログラムされたコンピュータには精神が宿るとされる。
                    ──ジョン・サール
─────────────────────────────
 哲学者なので、表現は難解ですが、サール教授のいう「強いA
I」は、「心を持つAI」を意味しているように思えます。確か
に、サール教授は「脳は機械であり、エネルギーの転送によって
意識を生ずる」とも述べているのですが、本当は、サール教授は
「強いAI」の反対論者の立場なのです。
 その一方において、「弱いAI」とは、IBMのチェス専用の
コンピュータである「ディープ・ブルー」のようなチェスプログ
ラムのようなものを意味しています。すなわち、狭い特定の領域
内での問題を解決するプログラムのことです。そういう意味で、
チャットボットなどは「弱いAI」に分類されると思います。
 ジョン・サール教授は、1980年に「脳、心、プログラム」
という論文を書いていますが、そのなかで、「中国語の部屋」と
いう思考実験を発表しています。これは、チューリングテストを
発展させた思考実験で、意識の問題を考えるさいに使われるもの
とされています。
 「中国語の部屋」とは何でしょうか。
 ある小部屋があります。この部屋には外部から紙きれを入れる
ための小さな穴がひとつ空いている以外、外部とは完全に遮断さ
れ、密閉されています。
 この小部屋のなかに英国人を入れます。この英国人は母国語の
英語しかできず、もちろん中国語は一切できません。このような
状態で、小さな穴に紙切れが差し入れられます。そこには中国語
の漢字が並んでおり、部屋のなかの英国人には、さっぱりその意
味は分かりません。
 実は、部屋のなかにいる英国人には、ある任務が与えられてい
るのです。その紙切れに書かれている中国語のなかにいくつかの
漢字を書き加えて、小さい穴から外へ返すことです。どのように
漢字を書き加えるかについては、部屋に置かれているマニュアル
に英国人でもわかるように記述されています。
 外から差し入れられる紙切れに書かれている中国語の漢字は、
「質問」であり、それに、マニュアルにしたがって漢字を書き加
えて返すのは「回答」です。かたちのうえでは、中国語で書いた
質問の紙きれを入れると、中国語で返事が書き加えられて戻され
ることが、繰り返えされるのです。
 しかし、部屋のなかにいる英国人は、マニュアルにしたがって
機械的に漢字を書き加えているだけで、紙切れに書かれている意
味をまったく理解していないのです。つまり、機械的に作業をこ
なしているだけです。
 部屋の外には中国人がいます。その中国人は、中国語で部屋の
なかに質問をすると、中国語で適切な回答が返ってくるので、な
かにいる人は、中国語を理解できる人であると判断します。しか
し、部屋のなかには中国語のわからない英国人がいるだけです。
 この思考実験は、コンピュータのアナロジー(比喩)になって
います。小部屋全体はコンピュータを表しており、マニュアルに
したがって作業する英国人はCPUに相当します。これはチュー
リングテストにおける壁の向こうのコンピュータに該当します。
 ここで重要なことは、小部屋の英語人は中国語を理解していな
いのだから、これは「心を持つAI」ではなく、「強いAI」で
はないということになります。サール教授は「強いAI」の反対
論者であるといったのは、そういう意味です。
 この「中国語の部屋」のサール教授の考え方に対する反論もあ
ります。
─────────────────────────────
 サールは、中の人が中国語を理解していないことから対象は中
国語を理解しているとはいえないと論じているが、チューリング
テストの観点からすると、そう断定するためには中の人間だけで
なく、箱全体が中国語を理解していないことを証明しなければな
らないことになる。すなわち、中の人とマニュアルを複合させた
存在が中国語を理解していないことを証明しなければならない。
 一方、知能の基準となっている人間の場合でさえ、脳内の化学
物質や電気信号の完全な解析が行われず、知能の仕組みが明らか
になっていないのだから、中国語の部屋も、中身がどうであれ正
しく中国語のやり取りができている時点で中国語を理解している
と判断してよいのではという、チューリングテストの観点からの
反論も存在する。以上のような反論に対してサールは、中国語の
部屋を体内化して、すなわち部屋の中にある中国語のマニュアル
を中の人がマスターし、中国語のネイティヴのように会話ができ
たとしても、なおその人は意味論的な見地からは中国語を理解し
ていないと主張している。       https://bit.ly/1kkzy26
─────────────────────────────
 確かに部屋のなかの英国人(CPU)が外とのやり取りを通し
て、中国語をマスターしてしまうことは、あり得ることではない
だろうか。     ──[次世代テクノロジー論U/055]

≪画像および関連情報≫
 ●コンピュータは「心」を持てるか
  ───────────────────────────
   私にはコンピューター・プログラムの知識があるが、中国
  語の部屋の思考実験についてプログラマーとしての見解を述
  べれば、強いAI支持者の「部屋全体は中国語を理解してい
  る」という反論は的外れであり、「理解」という言葉を、意
  味論を除外して解釈し、矮小化していると思う。すなわち、
  「理解」という語をより厳密に「意味の理解」とするならば
  部屋全体は確かにシステムとして中国語を理解しているよう
  に動作するが、それはシステムを作った人物が英語と中国語
  の「意味」を理解できるからであり、従って正確にいうなら
  「部屋を作った人間は中国語の意味を理解している」、また
  は「部屋は意味を理解できる人間の動作面(機能)を実行で
  きる」となるのである。つまり部屋がシステムとして中国語
  を理解するよう機能しているよう見えても、その機能にはサ
  ールがいうように「意味」の理解をともなっていないし、ま
  たクオリアがともなっていないのである。
   これはコンピューター・プログラムについても同様であり
  プログラムの具体的なソースコード(関数、演算子、記号、
  数値)を記述する者は「意味」を理解できる人間である。プ
  ログラマーはコンピューターの実行結果――出力されたもの
  が人間にとって「意味のあるもの」になるようにソースコー
  ドを記述するのであり、関数や演算子や数値、その処理過程
  自体やコンピューターそのものに意味が与えられているので
  はない。「意味」とはあくまで人間が読み取るものなのであ
  る。              https://bit.ly/2Nqb32A
  ───────────────────────────

ジョン・サール教授.jpg
ジョン・サール教授
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2018年07月20日

●「ELIZAの名前の由来をさぐる」(EJ第4810号)

 いわゆる「チャットボット」は、人工知能ではなく、「人工無
能」と呼ばれています。要するにAIではないという意味です。
しかし、「人工無能」というと、何となくまがい物のイメージが
ありますが、けっしてそういうことではないのです。それはそれ
で十分人の役に立つからです。この場合、AIであるかないかは
問題ではないと思います。
 田方篤志氏が推進しようとしている「心を持つロボット」は、
人工無能を脱して、本物のAIを作り出そうとする動きととらえ
ることができます。それが本当に実現されるかどうかはともかく
チャットボットとは分けて考えるべきであると思います。
 さて、既に述べているように、人工無能、すなわち、「お喋り
ロボット」の元祖は、「イライザ/ELIZA」です。MITの
ジョセフ・ワイゼンバウム教授が、1964年から1966年に
かけて書いたプログラムで、精神療法に使われたといわれていま
す。このプログラム「イライザ」は、現在でも、英語でなら十分
会話ができるそうです。
 ところで、「イライザ」というと、何かを思い出しませんか。
有名な映画に登場する人物です。そうです。映画「マイ・フェア
・レディ」の主人公、イライザ・ドウリットルです。この映画は
原作はバーナード・ショーの「ピグマリオン」ですが、言語学者
であるヒギンズ博士(レックス・ハリソン)が、イライザ(オー
ドリー・ヘップバーン)のなまりのあるひどい言語の矯正を通し
て、彼女を博士の理想の淑女に仕立て上げていく物語です。言語
の修正ということが何もしゃべれないコンピュータに言葉を喋ら
せることによく似ていると思いませんか。
 実はこの映画の公開は1964年なのです。バイゼンバウム教
授がイライザのプログラムを書き始めた時期と一致しています。
映画のことをバイゼンバウム教授が知らないはずはなく、もしか
すると、映画を観たかしれません。確証はありませんが、対話プ
ログラム「イライザ」は、映画「マイ・フェア・レディ」からと
られたものではないでしょうか。
 対話プログラム「イライザ」についてもうひとつ付け加えてお
くことがあります。それは、「パリー/PARRY」というプロ
グラムについてです。パリーも対話プログラムであり、イライザ
と共に精神療法に使われたチャットボットです。
 1972年、バイゼンバウムと一緒に仕事をしていた精神科医
のケネス・コルビーが作成したプログラムです。パリーは、偏執
病的統合失調症患者をシミュレートしようとしたものといわれて
います。パリーは、コンピュータの性能も向上していたので、イ
ライザよりは対話の内容の質が向上していたといわれます。
 バイゼンバオムの「イライザ」と、コルビーの「パリー」に関
して、きわめて興味ある記述が、あるサイトに出ていたので、少
し長いですが、参考までにご紹介します。
─────────────────────────────
 当初ワイゼンバオムは、この単純極まりないELIZAの仕様
に皆落胆するであろうと想定した。しかし、それが誤りであるこ
とがユーザーによって示された。実際にはELIZAに知識も理
解力もないと知るユーザーですら、ELIZAに相談を持ちかけ
ようとしてきたのである。ELIZAと親密な関係を築こうとす
る者もいた。精神科医たちですら、ELIZAの名声を聞き付け
て、コンピュータ精神療法の可能性に興味を示し始めていた。
 ワイゼンバオムは、この周囲のELIZAへの好意的な反応を
観て、人工知能が人間と同程度のコミュニケーション能力を有し
ているという誤解を招いているのではないかと懸念した。さらに
バイゼンバオムは、ELIZAをめぐる周囲の反応から、人々の
文化的な価値観に揺らぎを与えてしまっているのではないかとも
懸念していた。
 これに対して、ワイゼンバオムと共同開発していたスタンフォ
ード大学の精神科医ケネス・コルビーは、コンピュータ精神療法
の有用性を重視していた。誰もが自分の抱えている問題を気兼ね
なく相談できるコンピュータ精神療法は人々のためになる。そこ
でコルビーはELIZAを機能的に拡張させた「SHRINK」
を精神療法に貢献するという問題設定の下で公開した。
 ワイゼンバオムとコルビーの見解の相違は、コンピュータは自
我が持てるか否かという問題に直結している。ワイゼンバオムに
とって、それはあり得ないことであった。ワイゼンバオムは、コ
ンピュータが「わかりました」と述べても、それは嘘や錯覚に過
ぎないと主張していた。一方コルビーによれば、コンピュータ精
神療法にはそうした哲学的・倫理的な問題は伴わない。と言うの
も、プログラムには自我があるからだ。コルビーによれば、その
その自我とはそのプログラムを設計したコルビー自身であった。
                  https://bit.ly/2O1n9Aa
─────────────────────────────
 ひとつわからないことがあります。それは、コルビーの「SH
RINK」と「PARRY」の関係です。おそらくSHRINK
の発展形がPARRYではないかと考えられます。
 興味があるのは、単なる対話プログラムに過ぎないイライザが
精神療法にかなり役立っているという事実です。それを誰よりも
驚いたのがワイゼンバオム自身であったという点です。それを見
ていた精神科医のコルビーが「これは使える」と考えても不思議
ではないのです。
 コルビーは脳はハードウェアで、行動はソフトウェアであると
考えています。彼は、精神疾患はソフトウェアの問題と考えたの
です。ソフトウェアにはエラーが付き物ですが、エラーはデバッ
クして、コードを再記述すれば正常化します。人間の場合は、そ
のエラーを言語を通じて、言語として外部化することが、求めら
れますが、精神状態の言語化は、情報処理と同じであると考えた
のです。情報処理を通じて、様々な目的に密接に関連した決定規
則の集合を備えた意思決定機構であると考えたのです。
          ──[次世代テクノロジー論U/054]

≪画像および関連情報≫
 ●初代会話ボット「ELIZA」がすごい理由
  ───────────────────────────
   心理療法のうち、会話を中心的な手段として行われるもの
  を心理カウンセリングとも言う。カウンセリングとはもとも
  と「相談」を意味するもので、カウンセラーは高度な専門知
  識を基に相談者に対して適切な解決策を示すことで問題解決
  を援助するといった役割が求められる。しかし、心理カウン
  セリングでは対話を通じて相談者(クライエント)が自ら自
  己の問題に向き合い、主体的に問題を解決していけるよう導
  くことが求められる。中でも来談者中心療法では、カウンセ
  ラー側の知識の量や権威は不必要とされ、それよりも、クラ
  イエントに対する無条件の肯定的関心、共感的理解などをど
  う実現するかが重視される。
   したがって、何か新しいことを提案するのではなく、相手
  の話の繰り返し、感情の反射、明確化といった技術が必要に
  なる。この繰り返しや共感といった会話モデルは、会話の意
  味を把握できないコンピュータにも模倣させやすいものだっ
  たのである。
   ELIZAはセラピストとして実験的に導入されたが、コ
  ンピュータプログラムとの対話にハマる人が続出した。ジョ
  セフ・ワイゼンバウムは感情的に没頭する人々を見て衝撃を
  受け、開発者でありながらその後コンピュータの限界を論じ
  生身の人間や自然との対話こそが大切であり、コンピュータ
  を過信してはならないという主張を積極的にするようになっ
  た。ELIZAにハマった人たちの中には、対話の記録や対
  話中の様子をまるでプライバシーであるかのように隠すよう
  になったという。機械に実際に「心を持たせる」ことはまだ
  まだ先の難しい問題になりそうだが、人間が機械に「心を感
  じる」ことは案外簡単なことなのかもしれない。
                  https://bit.ly/29ONNdl
  ───────────────────────────

イライザ・ドウリットル.jpg
イライザ・ドウリットル
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2018年07月19日

●「50年前からあるチャットボット」(EJ第4809号)

 ここまでの学習によってわかったことは、もっともAIらしく
見える自動対話AI「チャットボット」が、現状では依然として
「人工知能」ならぬ「人工無能」のレベルに止まっているという
ことです。対話型AIの技術が、50年前から技術的に大きく進
化していないのが原因です。
 「チャットボット」とは、「チャット」すなわち、おしゃべり
のことであり、「ボット」すなわち、ロボットの合成語で、「お
しゃべりロボット」を意味します。おしゃべりロボットには意外
に長い歴史がありますが、おしゃべりといっても、音声ならぬ文
字での対話だったのです。したがって、なぜ最近チャットボット
が注目されるようになったかというと、不十分ながら、人の音声
が認識できるようになったからです。
 チャットボットは、人間がプログラミングを行い、それに基づ
いて、コンピュータが対話を行うものでした。チャットボットを
動かすアルゴリズムにはいくつかのパターンがあり、次の2つの
ものが主流であったといえます。
─────────────────────────────
 1.事前に決められたシナリオを人間が選択して、マシンと
   対話する。
 2.人間の発言した単語と事前に登録された単語を見つけて
   応答する。
─────────────────────────────
 チャットボットの歴史を振り返ると、世界初の「イライザ/E
LIZA」があります。イライザは、1966年に誕生しており
既に50年を超えています。しかし、対話といっても、もちろん
音声でのやり取りではなく、文字と文字との対話です。
 それから2年後の1968年のことですが、映画『2001年
宇宙の旅』が公開され、そこでは、宇宙船に装備されている人工
知能コンピュータ「HAL9000」が、堂々と音声で乗務員と
会話しているさまが描き出されています。きっと2001年にな
れば、コンピュータは人と音声で対話できるようになっているだ
ろうとの予測があったのでしょう。
 しかし、その2001年になっても、音声によるコンピュータ
の対話は実現しておらず、IBMのAIコンピュータとして名高
い「ワトソン」がテレビのクイズ番組で人間に勝利した2011
年になっても音声での対話は実現していなかったのです。
 現在「ワトソン」は音声認識ができるようになっており、メガ
バンクなどのコールセンターで活用されていますが、「ジェパデ
ィ!」で勝利したときは、文字認識だったのです。次のウィキペ
ディアの記事をご覧ください。
─────────────────────────────
 2011年2月14日からの本対戦では、15日と16日に試
合が行われ、初日は引き分け、総合ではワトソンが勝利して賞金
100万ドルを獲得した。賞金は全額が慈善事業に寄付される。
なお、「ジェパディ!」は問題文が読み上げられた後に手元のボ
タンを押して回答する早押し形式であるが、ワトソンは音声認識
機能を持たないため、文字で問題を取得し、シリンダーでボタン
を押す装置を用いて回答した。      ──ウィキペディア
                  https://bit.ly/2Lg2XZI
─────────────────────────────
 このように、人とAIコンピュータが音声でやり取りできるよ
うになったのは、ごく最近のことであり、あわせてインターネッ
トの普及による膨大なウェブサイトの出現によって、それが巨大
な知識ベースになるに及んで、人とAIが音声で何とか対話でき
るようになったといえます。しかし、言葉の意味を理解しての対
話とはなっていないのです。
 チャットボットの元祖イライザの時代から、現在まで続いてい
るAIに関する有名なテストがあります。それは「チューリング
テスト」といわれます。このテストは、イギリスの数学者、アラ
ン・チューリングが、1950年に発表した論文のなかに書かれ
ているものです。
 どういうテストかというと、コンピュータと人間に対して質問
が行われ、それぞれが答えるのですが、そのやり取りが人かマシ
ンか区別がつかなくなったときに、コンピュータの勝ちと判定す
るというものです。以後長い間、コンピュータは合格できません
でしたが、2014年になって、やっと合格したのです。
 このチューリングテストについて、AI研究の第一人者である
小林雅一氏は、以下のようにわかりやすく、かつ詳しく説明をし
ています。
─────────────────────────────
 チューリング氏は1950年に著した論文の中で、次のような
思考実験を提案しています。人間(判定者)とコンピュータが壁
を挟んで向かい合います。この判定者から見て、壁の向こうには
コンピュータ以外にも、複数の人間がいます。このような状況下
で、判定者は壁の向こうにいる「誰か」と会話を交わします。そ
の誰かは、ひょっとしたらコンピュータかもしれないし、人間か
もしれない。そして判定者が彼ら見えない相手と会話を交わす中
で、相手が人間かコンピュータか区別がつかなくなった段階で、
それは人間に匹敵するAIの誕生と見ていいのではないか。チュ
ーリング氏はそう提案しました。念のため、細かい点まで注意し
ておくと、まず、ここでの「会話」とは声による通常の会話では
ありません。判走者はキーボードからコンピュータ・ディスプレ
イに文字を打ち込む形で言葉を発し、これに対する相手の返答も
ディスプレイに文字として表示されます。つまり現在のインスタ
ント・メッセージングのような形で会話するのです。
                 ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/053]

≪画像および関連情報≫
 ●チューリングテスト
  ───────────────────────────
   「はじめまして。お会いできて光栄です、ホーエンハイム
  教授。医療魔学部のエドワード・アレクサンダー・クロウリ
  ーです」。
  「ようこそ、エドワード。コーヒーでいいかね?」。
   初めて会ったテオフラストゥス・フォン・ホーエンハイム
  教授は、気さくな笑顔でぼくを迎え、少し酸化して煮詰まっ
  たコーヒーの入ったビーカーをテーブルに2つ置いた。フリ
  ッツはもうすでに退出している。この「パラケルスス」と言
  うペンネーが有名な錬金学者をぼくの親友は苦手としている
  らしかった。ぼくはビーカーに口をつけ、その苦い液体を少
  し飲み込んだ。
  「ふむ、きみはだいぶ優秀のようだね」。
   教授はビーカーに口をつけ、ぼくの成績調査票をぱらぱら
  とめくる。書類をぽんと机に放り投げた彼に向かって、ぼく
  は背筋を伸ばした。
  「はい。身寄りのない私は国からの奨学金で学ばせていただ
  いている身ですので、最低限優秀であることは求められてい
  ると理解しています」。記憶はないのだが、ぼくは事故で両
  親を亡くし、同じ事故で体が欠損するほどの大怪我も負って
  いる。そんなぼくが手厚い治療を受け、こうして国の最高学
  府である魔法学院で学び、衣食住の心配をせずにいられるの
  は、すべて奨学金制度、つまり国家予算のおかげだ。将来国
  のためにその知識を役立たせることができる立派な人間にな
  るために、勉学に励むことはぼくの義務と言えた。
                  https://bit.ly/2NSuX7l
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アラン・チューリング
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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