2009年11月20日

●「アップス対ウインドウズ・アジュール」(EJ第2699号)

 「クラウド」を解説しようとすると、どうしても話が理屈っぽ
くなってしまいます。しかし、クラウドを正しく理解することは
近未来のIT環境をビジネスに使いこなせるかどうかの重要なカ
ギを握るので、もうしばらくお付き合いください。
 考えていただきたいことがあります。現在のほとんどのPCは
ウインドウズというOSを搭載したコンピュータという箱にソフ
トウェア──アプリケーションが閉じ込められた状態にあるとい
うことをです。こういう状態が20年ほど続いているのです。
 ほとんどのPCがウインドウズPCですから、ユーザーの観点
からいえば別に不自由はないのです。しかし、全体を俯瞰して見
ると、ほとんどのユーザーは強大なマイクロソフト王国に閉じ込
められ、それよりも外に出ることが困難になっています。既出の
小池良次氏は、この状態を「OSの束縛」と呼んでいるのです。
 しかし、ウインドウズだけがOSではないのです。マックOS
もありますし、リナックスというOSもあるのです。OSが違う
ということは、それぞれのPCが違うマシンであることを意味し
ています。
 もし、ウインドウズ対応のローカル・アプリであるワードやエ
クセルをそのままアップルPCやリナックス・マシンで使おうと
しても使えないのです。これが小池氏のいう「OSの束縛」とい
うことになります。つまり、ソフトウェアはOSに閉じ込められ
ている状態であり、他のOSの環境では動かないのです。
 しかし、インターネットの利用については、OSに関係なく、
使うことができます。たとえば、ウェブサイトを見る場合はOS
が異なるどのPCでも表示できます。それはOSの違いをウェブ
ブラウザが中和してくれるからです。そのため、ここにきてウェ
ブブラウザの機能をどのように強化するかが大きな課題となって
いるのです。
 このようなネット時代に力をつけてきた代表的な企業がグーグ
ル社です。グーグル社は「ネットの申し子」といわれているので
す。グーグル社は次のような壮大な目標を掲げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 すべてのアプリケーションをインターネット経由で提供する
                     ──グーグル社
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、グーグル社は「グーグル・アップス」というサービスに
力を入れています。メール、スケジュール管理、チャット、表計
算、ワープロソフトをセットでネット経由で提供するサービスで
そのターゲットは企業であり、着々と成果を上げつつあります。
 この企業向け「グーグル・アップス」には次の2種類があって
現在ユーザー数は着実に増加しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.スタンダード版──無料
        2. プレミアム版──有料
―――――――――――――――――――――――――――――
 「プレミアム版」について説明します。
 このサービスは、2007年2月から開始されています。ユー
ザー1人当たりの料金は年間50ドル、広告を外して、セキュリ
ティを強化しています。利用企業は現在100万社を超えている
といわれます。同社のエンタープライズ部門担当社長のデイブ・
ジラールド氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 当初は、一日平均1000件程度が利用を始めていたが、現在
 では一日3000件と利用企業数は加速度的に増えている。
                 ──デイブ・ジラールド氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界的な景気後退の時期でもあり、どの企業でもITコストを
削減しようとしてアップスを採用する企業が増えています。アッ
プスを採用すると、アプリケーション運用コストを大幅にカット
できることやサーバーのお守りする専門スタッフが不要になるの
で、その分大幅にコストを削減できるのです。
 現在のところアップスの利用は中小企業が中心ですが、大手バ
イオ企業ジェネンテックが採用するなど、大企業が採用する動き
も出てきているのです。
 アップスの課題としては、ウェブ・アプリをオフラインでも使
えるようにすることです。実際に顧客からの要望が一番多いのは
「Gメール」をオフラインでも使えるようにして欲しいという要
望です。既に「グーグル・ギアーズ」という機能を使って文書作
成ソフトはネットにつながっていない状態でも利用可能になって
います。
 このようにグーグル社は、グーグル・アップスなどを使って法
人向けのサービスに力を入れているのです。これに対してマイク
ロソフト社はウインドウズ・アジュールでこれに対抗しようとし
ています。
 これについてグーグル社のデイブ・ジラールド氏は次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マイクロソフトの進出は「脅威にはなりうる」とジラールド氏
 も認める。もともと多くの企業はこれまでに、ウィンドウズ上
 で走らせる社内アプリケーションソフト等に莫大な投資をして
 おり、大企業などはこうしたアプリケーションを容易にはクラ
 ウドヘ移植できないという事情があった。ところが、マイクロ
 ソフトが新たに発表した「ウィンドウズアジユール」を用いれ
 ば、簡単にタラウド上へ移植できる。
    ──2008年12月13日付、「週刊東洋経済」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かにウインドウズ・アジュールが画期的であることはグーグ
ル社も認めるところですが、これはネット上のウインドウズその
ものであり、「OSの束縛」からは依然として逃れられないこと
になるのです。 ――[クラウド・コンピューティング/27]


≪画像および関連情報≫
 ●「グーグル・アップス」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  グーグル・アップスは独自ドメインでいくつかのグーグル製
  品を使えるようにする、グーグルによって提供されているサ
  ービスである。グーグル・アップスはには従来のオフィスス
  イートに似た機能を持つ、Gメール、グーグル・カレンダー
  トーク、ドキュメントやサイトといったウェブアプリケーシ
  ョンが含まれる。          ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

デイブ・ジラールド氏.jpg
デイブ・ジラールド氏
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2009年11月19日

●「クラウド開発ツールをめぐる競合」(EJ第2698号)

 昨日のEJで述べたように、OSの世界で成功を収めるには、
そのOSの環境上で動くアプリケーション――たとえば、ワード
やエクセルなど――の数や種類が多いことと、それぞれのアプリ
ケーションの質が高いことが条件になります。
 そのためには、そういうアプリケーションを開発するツールを
充実させる必要があります。マイクロソフト社の場合、「ビジュ
アルスタジオ」という開発ツールがあり、これが世界中の開発者
たちに受け入れられていることがウインドウズというOSの成功
につながったのです。
 マイクロソフト社は、この「ビジュアルスタジオ」に加えて、
「MSDN」というサービスを開発者に提供しています。MSD
Nとは、開発者が必要とする情報をタイムリーに提供するととも
に、開発時に必要となるソフトウェアのライセンスを条件付きで
提供するサービスのことです。
 このビジュアルスタジオとMSDNによって、開発者はワンス
トップで開発に必要となるほとんどの情報と環境が得られるよう
になり、開発の効率化に大きく寄与したのです。
 これに関連して、チーフソフトウェアアーキテクトのレイ・オ
ジー氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 開発ツールとサービスがプログラマーたちの支持を得ている
 限り、マイクロソフトは敗れない    ――レイ・オジー
―――――――――――――――――――――――――――――
 マイクロソフト社は、このようにしてPCのOSの世界では覇
権を成し遂げたのですが、今や主戦場はクラウドの世界――サー
バーの世界に移っているのです。しかし、クラウドの世界では、
グーグル社が先行しているように見えます。
 2008年4月のことです。グーグル社は「グーグル・アップ
・エンジン」というクラウド・アプリケーション用の開発キット
を発表しています。これに対してマイクロソフト社がウインドウ
ズ・アジュールを発表したのは、2008年10月であって、グ
ーグル社よりも大きく遅れているように見えます。
 クラウド・コンピューティングのプラットフォームを提供して
いる企業は、マイクロソフト社以外にグーグル、セールスフォー
ス・ドットコム、アマゾンなどがあります。これらの企業は、そ
れぞれが展開するサービスをコンポーネントとして利用するため
のインターフェース仕様を公開し、開発者が独自のクラウド・ア
プリケーションを開発できるようにしているのです。
 クラウド時代になり、ソフトウェアの中心がクラウドに移行す
るに当たって、開発者たちはどこの企業の開発環境を選ぶか迷っ
ていたのです。というのは、現行の「クライアント・サーバー」
と「クラウド・コンピューティング」の間には断絶があって、今
までとは違う新しい技術――たとえば、パイソン(関連情報を参
照)などを勉強しなければならないのではと考えたからです。
 しかし、マイクロソフト・アジュールの発表によって、開発者
たちが抱いていた不安は一掃されたのです。どうしてかというと
ウインドウズ・アジュール上で動くアプリケーションを開発する
には、ビジュアルスタジオを使うことができることがわかったか
らなのです。
 現在、PCのOSの世界は、ウインドウズがほぼ独占している
ので、開発者のほとんどはその開発環境であるビジュアルスタジ
オを使っています。したがって、アジュール上で動くアプリケー
ション、すなわち、クラウド・アプリケーションがビジュアルス
タジオでやれるのであればラクだからです。
 つまり、これによって、今まであると思われていた現行の「ク
ライアント・サーバー」と「クラウド・コンピューティング」の
間の断絶がなくなってしまったからです。どうやらこれはグーグ
ル社の「宣伝」に乗せられていたと思われるのです。
 たとえば、こんなことが可能です。マイクロソフト社が70%
のシェアを持つデーターセンター向けのアプリケーションをきわ
めて容易にアジュールに移植したり、ある顧客向けに開発したア
プリケーションをアジュール上でパッケージ商品として実装し直
すことによって、自社でクラウドサービスを提供するデータセン
ターを持っていなくても、クラウド向けのサービスを簡単に実施
できるからです。
 話が相当ややこしくなってきたので、ここで整理をしておきた
いと思います。
 マイクロソフト社はPCのOSとしてウインドウズを導入し、
それを大きく普及させたことによって、そのアプリケーションは
PCの機種の違いを乗り超えることができたのです。そのウイン
ドウズもバージョンを重ねて現在では「ウインドウズ7」が最新
バージョンになっています。
 しかし、クラウド・コンピューティングの時代になり、ウェブ
・アプリケーション――クラウド・アプリケーションが登場して
きています。その先陣を切ったのはグーグル社です。2004年
には「Gメール」、2006年には「グーグル・ドキュメント/
グーグル・ドッグズ」の無料運用を開始し、それまでマイクロソ
フト社の牙城であったローカル・アプリケーションの分野を脅か
すことになったのです。そして、2008年4月にグーグル社は
「グーグル・アップ・エンジン」を発表し、開発者が独自のクラ
ウド・アプリケーションを開発できる道を拓いています。
 これに対してマイクロソフト社は、2008年10月にウイン
ドウズ・アジュールを開発し、アジュール上で動作するアプリケ
ーションをビジュアルスタジオで開発できるようにしたのです。
 ウインドウズ7搭載のPCからウェブ・アプリケーションを使
うには、ブラウザでネットにアクセスするのですが、ブラウザは
インターネット・エクスプローラでなくてもよいのです。しかし
その先にはウインドウズ・アジュールというOS上でウェブ・ア
プリケーションは動くことになるのです。
        ――[クラウド・コンピューティング/26]


≪画像および関連情報≫
 ●「グーグル・アップ・エンジン」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「グーグル・アップ・エンジン」における開発言語は「パイ
  ソン」で、プログラムコードを一度記述すれば、あとはグー
  グル・アップ・エンジンがすべてのプラットフォームで作動
  するように処理を行う。また、アクセス増加による突発的な
  トラフィックにも対処し、グーグルのの他のサービスに容易
  に統合できるという特徴がある。これにより、開発者による
  システム管理や、メンテナンスなどに関わる労力の軽減が図
  られるとされている。
    http://www.sophia-it.com/content/Google+App+Engine
  ―――――――――――――――――――――――――――

マイクロソフト社のクラウド・サービス.jpg
マイクロソフト社のクラウド・サービス
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2009年11月18日

●「ドット・ネットとアジュールの関係」(EJ第2697号)

 「マイクロソフト・ドットネット」の発表前のコードネームは
「NGWS」といわれていたのです。これは「ドット・ネット」
の狙いをそのままあらわしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  NGWS/Next Generation Windows Service Platform
―――――――――――――――――――――――――――――
 NGWSは、ウインドウズをネットサービス化し、次世代の礎
にしようという計画だったのです。すなわち、すべての情報機器
がインターネットに接続されるという前提に立って、ネット上に
あるアプリケーションやデータを必要に応じて情報機器から引き
出して利用できる環境を作るというのですから、まさにクラウド
・コンピューティングそのものといえます。
 しかも、2000年といえば、ブロードバンドや携帯電話もあ
って、NCやネットスケープの時代とは異なるのです。マイクロ
ソフト社は時代を先取りしたかに思われたのです。
 しかし、結果としてドット・ネットは失敗に終わったのです。
どうして失敗したのでしょうか。
 オンラインサービスでは、アクセスしてきた利用者が本人であ
ることを確認する個人認証のシステムが必要になります。マイク
ロソフト社では、この個人認証のシステムとして「ヘイルストー
ム」というものを用意したのです。ヘイルストームを直訳すると
次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
         ヘイルストーム=雹の嵐
―――――――――――――――――――――――――――――
 個人認証といえば「ID」と「パスワード」がありますが、各
ネットサービスごとにIDとパスワードを設定していくと、数が
増えてしまい、しまいにはわけがわからなくなります。
 この弊害をなくすために、オンラインサービスのユーザーは、
ヘイルストームに対して個人情報を記録します。この個人情報と
ひとつのIDとパスワードを照合し、認証を行うのです。すなわ
ち、各ネットサービスは個人情報を蓄積しないで、必要になった
ときに、ヘイルストームを参照し、個人情報を一時取得するので
す。そして不要になったらそれを廃棄します。
 こういう方法でひとつのIDとパスワードで済ますようにした
のです。このこと自体は別に問題はないのです。しかし、このヘ
イルストームがマイクロソフト社から発表されたとたんに強烈な
拒否反応が出たのです。
 当時マイクロソフト社は、PCのOSをほぼ独占状態にしてお
り、それに関連する多くの訴訟も起こされていたのです。そこに
もってきて、ヘイルストームで個人情報の蓄積をやろうとしたの
で、「マイクロソフト社はOSのみならず、個人情報までも牛耳
るつもりなのか」と非難されたわけです。
 それにヘイルストームという名前も悪かったのです。ヘイルス
トームとは「雹の嵐」――マイクロソフト社が天から雹を降らせ
て個人情報を奪うとして拒否反応が起こったからです。マイクロ
ソフト社は直ちに「ドット・ネット・マイサービス」と改名して
対応したのですが、一度ついた悪いイメージは消えず、ドット・
ネット・マイサービスは、自社のウェブサイトの一部で使うシス
テムにとどまったのです。
 なお、ドット・ネットは、マイクロソフト社の技術基盤「ドッ
ト・ネット・フレームワーク」として採用され、広く使われてい
ますが、当初予定したものより大きく後退してしまったのです。
 この2000年のドット・ネット構想を一新して登場したのが
既にご紹介した「ウインドウズ・アジュール」なのです。これこ
そ「ウインドウズ・クラウド」というべきものであり、本質的に
は、2000年のドット・ネットと同じ技術ですが、きわめて画
期的な技術であるといえます。
 このウインドウズ・アジュールについて、マイクロソフト社の
チーフソフトウェアアーキテクトのレイ・オジー氏は次のように
解説しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (ウインドウズ・アジュールは)ウインドウズという名前は付
 いているが、これは市販、あるいはOEMされる新しいOSで
 はない。クラウド・サービスを開発、運営するためのプラット
 フォームだ。その中身は、データセンターを構成するウインド
 ウズサーバーとマイクロソフト製ミドルウェアで構成されてい
 る。クラウドサービスを提供するのは、マイクロソフト自身、
 あるいはマイクロソフトのパートナー企業だ。
   ――2008年12月13日付、『週刊/東洋経済』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 マイクロソフト社がOSを独占できたのは、ウインドウズ95
と同時に発売された「オフィス95」の大成功にあるとオジー氏
はいうのです。
 ライバルのソフトウェアベンダーが大幅に改良されたウインド
ウズ95への対応を手間取っている間にオフィス95でライバル
社を抜き去り、引き離したのです。
 OSが盤石の体制を整えるには、そのOSの環境で動く多くの
アプリケーションの質と数が必要です。すなわち、新OSベース
のソフトウェアを構築するための優れた開発ツールが必要である
とオジー氏はいうのです。
 マイクロソフト社はウインドウズに機能を追加するたびに開発
ツールの方もバージョンアップさせ、その使い勝手を大幅に向上
させてきたのです。その結果、1997年に生まれたのが、「ビ
ジュアルスタジオ」という、今日、世界中の開発者たちが利用す
る開発ツールなのです。
 特質すべきことは、ウインドウズ・アジュール上で動くアプリ
ケーションの開発にもビジュアル・スタジオが使えることなので
す。これは、クラウド対応のソフトウェアの開発に大きな威力を
発揮するのです。――[クラウド・コンピューティング/25]


≪画像および関連情報≫
 ●レイ・オジー戦略メモについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ここ数年ビル・ゲイツの靴を埋めるので必死だったマイクロ
  ソフト社チーフ・ソフトウェア・アーキテクトのレイ・オジ
  ーが自分なりの一歩を歩み出した。社員に宛てた驚くべき戦
  略メモの中でオジーは基本的に、マイクロソフトのミッショ
  ンをパソコン用ソフトとスタンドアローンのサーバー作りか
  ら、デバイスと人の間を繋ぐメッシュ作りへと転換を図ろう
  としている。ウインドウズやオフィスを捨て去るわけではな
  い。氏が言っているのは、MSのソフトウェアの価値を決め
  るのは「それ独自で何ができるか」ではなく、今後ますます
  「他のものと一緒に何ができるか」という方にかかってくる
  だろうということだ。もはやソフトウェアがどうこういうよ
  りも、ウェブベースのサービスとしてどうなのか、そちらが
  重要になってくる。
  ―――――――――――――――――――――――――――

マイクロソフト社のレイ・オジー氏.jpg
マイクロソフト社のレイ・オジー氏
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2009年11月17日

●「クラウド・コンピューティングの原点」(EJ第2696号)

 「クラウド」の概念は、そういう言葉は使わないまでも、それ
をあらわす考え方は大型コンピュータの時代からあったのです。
そのとき使われた言葉としては次のものがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      ユーティリティ・コンピューティング
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ユーティリティ・コンピューティング」とは何でしょうか。
 ここでいう「ユーティリティ」という言葉は、電気、ガス、水
道、電話などの公共サービスのことを指しています。「ユーティ
リティ・ビル」といえば「公共料金」のことです。
 これらの公共サービスでは、例えば、スイッチを入れれば電気
がつき、蛇口をひねれば水が出る――利用者は自分が使った分だ
けの料金を支払えばよいのです。ガスも電話も同じようにして利
用できますが、コンピュータもそうならないかという考え方が出
てきても不思議はないのです。
 利用者の立場からは、どのようにして電気が供給され、どうい
うメカニズムで蛇口から水が出るのかなどは詳しく知る必要はな
い――そんなことは、「クラウド」の中のことであって利用者は
知らなくても利用できるのです。
 電気、ガス、水道、電話などの公共サービスは、いずれも莫大
な初期投資が必要であり、設備や資源をひとつの組織に集約し、
必要に応じて分配する方式の方が資本効率がよいのです。こうい
う考え方に立って実現しようとしたのが「ユーティリティ・コン
ピューティング」なのです。
 現在のようにPCがなかった1960年代までは、コンピュー
タといえば大型コンピュータであり、非常に高価だったのです。
したがってコンピュータを何台も導入できないので、一台の大型
コンピュータを何人もの人たちが端末(ターミナル)を通して使
う「タイムシェアリング」という方式を考え出したのです。これ
も一種のクラウドであったといえます。
 このようなクラウドの構想は、今までに何度も出てきているの
です。なかでも積極的だったのは、オラクル社のラリー・エリソ
ンCEOとネットスケープ・コミュニケーションズです。
 ラリー・エリソンCEOは何とかPCを安くしようとして19
96年に「NC/ネットワーク・コンピュータ」を発表したので
す。そのキャッチ・フレーズは「500ドルPCの実現」だった
のです。1996年といえば、日本では「ウインドウズ95」が
発売されてから1年後のことであり、PCは17万円から30万
円以上はしたのです。
 その構想はある意味では極めてシンプル――大型コンピュータ
をサーバーとする「タイムシェアリング」だったのです。この場
合、端末に当たるのは500ドルPCのNCであり、ハードディ
スクを持たず、OSやデータはサーバーに置くという構想です。
 オラクルとしてはサーバーで集中管理をするのであれば、デー
タベース機能が必要になるので、そこを押さえればビジネスにな
ると考えたのです。
 それでは、ネットスケープ・コミュニケーションズは何を考え
ていたのでしょうか。この企業は、1990年半ばにウェブブラ
ウザをめぐってマイクロソフト社と戦ったのです。そのウェブブ
ウザ「ネットスケープ・ナビゲータ」は、当時明らかにマイクロ
ソフト社の「インターネット・エクスプローラ」の機能を超えて
おり、インターネット普及の初期の時代において、市場を席巻し
マイクロソフト社を激しく追い詰めたのです。
 マイクロソフトとしては、こうしたライバル社の動きに対して
次のような警戒感を持ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アプリケーションがサービス化すれば、OSにもう支配力はな
 い。もはや、ウェブラウザこそがOSなのだ。
                     ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、結果として両社はマイクロソフト社を追い込めずに終
わったのです。それは当時ブロードバンドがなく、ケータイも単
なる電話に過ぎなかったからです。
 そもそもオラクル社にしてもネットスケープ社にしても、戦略
に計画性も余裕もなく、強大なマイクロソフト社と戦うにはあま
りにも無理があったといえます。
 オラクル社の500ドルPC――NCは採用企業があらわれず
ビジネスモデルも明確ではなかったのです。ましてブロードバン
ドがない中で、企業内のシステムとしてしか実現できなかったの
です。そうしているうちにPCはハードディスクやOSを搭載し
たまま普及して価格を下げていったのです。そして、現在、NC
は「ネットブック」として実現しています。
 ネットスケープ社については、企業の体力に問題があったとい
えます。その目指す方向は正しかったものの、マイクロソフト社
との激しい競争の中でマイクロソフト社のソフト開発力に敗れて
品質を落とし、AOLに買収されてしまっています。
 抵抗勢力を排除したマイクロソフト社は、2000年にある動
きを加速させます。その背景として2000年にはPCも大きく
普及し、ブロートドバンドが実現しつつあったのです。そして、
もはやインターネットというものを無視できない状況になってい
たのです。
 そのある動きとは、「マイクロソフト・ドットネット戦略」な
のです。2000年6月、マイクロソフト社は、次世代インター
ネット戦略として、「ドットネット」を打ち出したのです。
 マイクロソフト社はこの戦略を「MS−DOSからウインドウ
ズへの移行に匹敵するほどの根本的なパラダイムシフト」として
大きく打ち出したのです。これはマイクロソフト社にとって、満
を持して打ち出したとっておきのネット戦略であったのです。
       ―――[クラウド・コンピューティング/24]


≪画像および関連情報≫
 ●マイクロソフト・ドット・ネットとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  インターネットを含むネットワーク上に散在したアプリケー
  ションが自らの機能を「サービス」として公開して、各種の
  端末から利用するための基盤となるソフトウェアや記述言語
  ・プロトコルなどの規約の集合を構築することを目指してい
  る。「.NET」に対応した端末はJava仮想マシンのような
  ソフトウェアの動作環境が搭載され、OSの種類に関係なく
  サービスを受けられるようになる。
         http://e-words.jp/w/Microsoft202ENET.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

西田宗千佳氏の本.jpg
西田宗千佳氏の本
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2009年11月16日

●「グーグル社は何を目指しているのか」(EJ第2695号)

 当然グーグル社が直接「Gフォーン」を出してくると思ってい
たのに、発表したのは、オープン・ソースの携帯OS「アンドロ
イド」と、そのOSを使ってビジネスを行うOHA──オープン
・ハンドセット・アライアンスの枠組みだけだったのです。
 そのため、ドコモやKDDIをはじめとするOHA加盟会社に
よる色とりどりの「Gフォーン」が今後続々と登場してくること
になり、独自のOSを採用するアップル社などには衝撃を与える
ことになったのです。
 しかし、携帯電話会社になる気がないとしたらグーグル社は、
一体今後何を目指そうとしているのでしょうか。
 それを解明するには、2005年以降にグーグル社がどういう
ところに投資してきたかを知ることが必要になります。前号と若
干重複しますが、少していねいにチェックしてみましょう。
 2005年7月にグーグル社は、電力線ブロードバンドのカレ
ント社に出資しています。そして、2005年から2006年に
かけて、グーグル社はグローバル・クロッシング社から大量の国
際回線を購入しています。
 さらに2006年8月にはグーグル社の本社周辺──カリフォ
ルニア州マウンテンビュー市で、380ヶ所のアクセスポイント
を敷設して無料無線ISP事業を開始しています。
 2007年夏には、フェムトセル(小型宅内携帯基地局)のベ
ンチャー「ユビキシス」へ出資し、2007年暮れには、最先端
コア・イーサスイッチ(10Gビット・パー・セカンド)の社内
開発を業界紙が報じて、注目を集めています。そして、この年に
は携帯OS「アンドロイド」の発表を行っています。
 2008年2月には、KDDIなどと日米海底ケーブルの建設
プロジェクトに参加し、自社専用の日米海底ケーブルの取得に乗
り出しています。そして、既に述べたように、同年春には、成功
しなかったものの、アナログテレビ跡地競売に参加しています。
 また、同じ年に次世代モバイル網ワイマックスへ5億ドル──
575億円規模の大型投資を行い、同年9月には衛星通信のベン
チャー「03bネットワークス」社にも投資しています。
 このようなグーグル社の海底ケーブルや光ファイバー網の買い
漁りは、検索広告サービスの用途をはるかに超えるものであり、
通信事業者の規模に該当する──グーグル社は通信サービスに参
入しようとしているのでしょうか。
 これに関して既出の小池良次氏は興味ある分析をしているので
す。グーグル社は上場以来急成長を続けており、米国の証券筋は
少し成長に陰りが見えるマイクロソフト社やヤフーよりも、「ハ
イリスク・ハイリターン」の代表企業として注目しています。そ
ういう企業が「ローリスク・ローリターン」の代表格である通信
ビジネスに参入するはずがないというわけです。
 それにグーグル社の投資行動は通信分野だけではないのです。
これについて、小池良次氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 たとえば、2005年9月に同社はNASA(米航空宇宙局)
 エームズ研究センターと提携している。その目的は「巨大デー
 タ管理」や「超巨大分散コンピューティング」などとなってお
 り、2006年には提携強化を発表し、研究項目に「ヒューマ
 ンコンピューターインターフェース」などを追加した。そして
 2008年6月には、エームズ研究センター内にグーグルの研
 究施設建設も約束している。なぜ、検索広告の大手グーグルが
 ロケットサイエンスの総本山であるNASAと手を組まなけれ
 ばならないのだろうか。
   ――小池良次著、『クラウド』より/インプレスR&D刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 海底ケーブルにワイマックス網への巨大投資、日本をはじめと
する主要都市での光ファイバーの買い漁り、それに最先端通信機
器の社内開発と米航空宇宙局との提携──これらは、明らかに検
索広告を超えています。
 これらの先にあるものといえば、「クラウド・コンピューティ
ングのインフラ整備」しか考えられない──このように小池良次
氏は推測しています。
 このあたりで、今回のメインのテーマである「クラウド・コン
ピューティング」について、その歴史的経過を含めて考えてみる
ところにきていると思います。
 「クラウド・コンピューティング」については、データベース
・システムの最大手、オラクル社のラリー・エリソンCEOは、
2008年9月の「オラクルオープンワールド」において、クラ
ウドについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 クラウドコンピューティングで興味深いのは、クラウドコンピ
 ューティングという言葉が再定義され、われわれが既に行って
 いるあらゆることが含まれるようになったことである。どんな
 発表を見ても、クラウドコンピューティングを標榜していない
 ものはない。コンピュータ業界は、女性ファッション業界より
 も流行志向が強い唯一の業界だ。わたしがバカなのかもしれな
 いが、みんなが何を言っているのか理解できない。いったい何
 のことなのか、まったくわけが分からない。このバカ騒ぎはい
 つ終わるのだろうか。当社もクラウドコンピューティングの発
 表を行うだろう。わたしはこういったことに抵抗するつもりは
 ない。しかしクラウドコンピューティングという点について言
 えば当社の宣伝文句のほかに何が変わるのか理解できない。以
 上がわたしの考えだ。
 http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0810/01/news031.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 このラリー・エリソンCEOのスピーチは、明らかにグーグル
社のエリック・シュミットCEOの発言を痛烈に批判していると
いっても過言ではないでしょう。
       ―――[クラウド・コンピューティング/23]


≪画像および関連情報≫
 ●ラリー・エリソンについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ローレンス・ジョセフ・エリソンは、データベースソフトを
  はじめとする大手ビジネスソフトウェア企業オラクル・コー
  ポレーションの共同設立者であり、CEOである。世界的な
  大富豪であると同時に、3度の離婚歴を含む華麗な(?)私
  生活、幾多の訴訟や買収合戦、ビル・ゲイツとのライバル関
  係など華々しい話題に事欠かない人物である。自宅を和風建
  築にしてしまうほどの親日家としても知られている。近年で
  は、中小規模向けSaaS型アプリケーション企業のネット
  スウィート社設立メンバーの一人としても知られる。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

オラクル社/ラリー・エリソンCEO.jpg
オラクル社/ラリー・エリソンCEO
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2009年11月13日

●「アイフォーン対各社各様のGフォーン」(EJ第2694号)

 エリック・シュミット氏がノベル社の会長の地位を捨て、まだ
学生ベンチャーの雰囲気が抜けないグーグル社のCEOになって
5年間――グーグル社は大きく変貌を遂げたのです。
 その間、グーグル社に何が起こっていたのでしょうか。
 シュミット氏をCEOに迎えたグーグル社は、2004年には
オンライン写真サービスの「ピカサ」、2005年には携帯ベン
チャーの「アンドロイド」、2006年にはウェブ・ワープロの
「アップ・スタートル」、3Dモデリングソフトの「アットラス
ト・ソフト」――これらの企業を次々と買収しています。
 これらの企業はいずれも検索サービスとはまるで無縁の企業ば
かりです。それに加えて、2005年から2006年にかけては
国際回線事業者大手のグローバル・クロッシング社から大量の国
際回線を購入しています。
 また、2006年の秋にも米国内で光ファイバーの買い漁りを
行っており、その年には、グーグル社が本社を構えるマウンテン
ビューで、無料の無線ISPサービスを始めているのです。
 一体グーグル社は何を目指しているのか――その疑問に答える
ように、エリック・シュミットCEOは、2006年8月にカリ
フォルニアで開催された「サーチエンジン戦略会議」において、
今から考えると、きわめて重要な発言を行っているのです。そこ
には、グーグル社が今後進むべき道が示されていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 我々はまさにいま新しいモデルに直面しています。ですが、そ
 れがどのくらい大きなチャンスをもたらすか理解してません。
 (中略)PCかマックか、携帯電話かは無関係です。「雲/ク
 ラウド」のような、巨大なインターネットにアクセスすれば、
 その利益、恵みの雨を受けられる時代になつています。
        ――エリック・シュミット/グーグル社CEO
                     ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このシュミット氏の発言から、IT業界では「クラウド・コン
ピューティング」という言葉が、誰いうともなく流行することに
なったのです。
 シュミット氏のいう「クラウド」に対して、敏感に反応したの
はアップル社です。同社はアイフォーン3Gの発売と同時に開始
した「モバイル・ミー」というネット・サービスのシンボルマー
クにクラウドのイメージを採用しているのです。雲の中にカレン
ダーや電子メール、写真などが隠れているというものです(添付
ファイル参照)。ちなみにこの「モバイル・ミー」は、アップル
社がそれまで提供していた「ドットマック」というサービスを発
展させたものなのです。
 グーグル社が何をしようとしているかは、2005年に同社が
携帯ベンチャーのアンドロイド社を買収したことによって、ある
程度見当がついていたのです。それはグーグル社が携帯事業に参
入するというものだったのです。「Gフォーンが来る」――この
噂は世界中を駆けめぐったのです。
 しかし、2007年11月5日、グーグル社の発表した内容は
意外なものだったのです。「Gフォーン」の姿などはどこにもな
く、実際に発表されたのは、次の2つだったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.OHA/,オープン・ハンドセット・アライアンス
  2.オープン・ソースの携帯OS「アンドロイド」提示
―――――――――――――――――――――――――――――
 ちょっと拍子抜けしたような発表のようにみえますが、アップ
ル社にとっては衝撃的な内容なのです。なぜなら、OHAには、
KDDIやNTTドコモ、スプリント・ネクステル、ティー・モ
バイル、テレフォニカなどの大手携帯事業者が参入しており、さ
らに、モトローラやサムスン電子などの端末メーカーなど、多彩
なメンバー34社が顔を揃えているからです。
 アイフォーンのアップル社からみると、グーグル社がGフォー
ンを出してくるよりも、アンドロイドOSを使った強力な携帯大
手が端末メーカーと手を組んで、各社色とりどりのGフォーンを
出してくる方が明らかに脅威です。これは、グーグル社がアップ
ル社に対して挑戦状を叩きつけたかたちになっているのです。
 しかも、携帯OS「アンドロイド」は、オープンソースであり
自由に自社風にカスタマイズできるのです。
 グーグル社のモバイルプラットフォーム担当重役のアンディ・
ルビン氏は、次のように抱負を語っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この業界のビジネスモデルをオープンにしていきたい。これま
 での垂直統合ではできないことがアンドロイドの登場によって
 実現可能になってくる。たとえば、加盟している各社はアンド
 ロイドに付加価値を加えて提供することができるようになる。
                  ――アンディ・ルビン氏
  ――石川温著『グーグルVSアップル/ケータイ世界大戦』
                       技術評論社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際に「アンドロイド」は、各機能を部品のように使えるよう
になっており、メーカーやキャリアはその中から自由に機能を取
捨選択できるのです。
 記者会見が行われた2週間後の11月12日にはアンドロイド
の開発キット――SDKのベーター版が公開され、誰でも無償で
ダウンロードできるようになっています。
 さらにグーグル社は、アンドロイド向けのアプリケーションを
一般から募集するキャンペーンを打ち出しています。グーグル社
は、自分の得意なところは自社開発し、不得手なところは一般に
開放して、アイデアを募る――非常にうまい作戦を展開している
のです。アイフォーン対アンドロイド搭載のGフォーンの激突の
構図です。  ―――[クラウド・コンピューティング/22]


≪画像および関連情報≫
 ●OHA/オープン・ハンドセット・アライアンスとは何か
  ――――――――――――――――――――――――――
  OHAとは、2007年11月にグーグル社の呼びかけで設
  立された、携帯電話における共通のソフトウェア基盤の開発
  ・普及を推進する業界団体。同社および世界の携帯電話事業
  者や端末メーカーなど34社により設立された。OHAでは
  グーグル社が推進する携帯電話端末向けのソフトウェア実行
  環境「グーグル・アンドロイド」を基盤に、対応端末の開発
  や関連するソフトウェアやサービスの普及などに取り組む。
  OHAは緩やかな連合で、アンドロイド搭載端末や関連サー
  ビスのリリースが義務化されているわけではないため、参加
  企業が将来必ずしもアンドロイドへの対応を行なうとは限ら
  ない。          http://e-words.jp/w/OHA.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

アップル/モバイル・ミー.jpg
アップル/モバイル・ミー
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2009年11月12日

●「肉屋が魚市場で魚のセリに参加する」(EJ第2693号)

 既出のITジャーリストである小池良次氏の言によれば、過去
何年にもわたって、シリコンバレーではマイクロソフト社が嫌わ
れ者の筆頭であったというのです。なぜ、マイクロソフト社は嫌
われているのか――それには次の3つの理由があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.PCのOSで独占的立場にある
      2.新市場を巨大資金力で入手する
      3.シアトルに本社が存在すること
―――――――――――――――――――――――――――――
 シリコンバレーでは、権力の集中を嫌うのです。したがって、
PCのOSのシェアで独占的立場にあるマイクロソフト社は嫌わ
れているのです。
 また、あるベンチャーが新市場を作り出すと、それを巨大な資
金と組織力を持ってわがものにしようとする、競争に勝つために
は手段を選ばない好戦的なマイクロソフト社の社風が嫌われてい
ます。それにシアトルに本社があるということは、シリコンバレ
ーにとってはヨソ者――そういう意味で嫌われているのです。
 しかし、最近では、マイクロソフト社に代わって嫌われ者は、
グーグル社に移りつつあるといいます。最近の話では、グーグル
社がマイクロソフト社による買収騒ぎに乗じて、宿敵のヤフー社
を自分の陣営に取り込んでしまった手法が批判されています。
 どうしてかというと、もし、グーグルとヤフーの両社が手を組
むと、ウェブ広告の90%以上を独占することになるからです。
こういう権力の集中をシリコンバレーは嫌うのです。
 こんな話があるのです。2007年10月23日のことです。
サンフランシスコで開催されたCTIA・ITの会議での出来事
です。CTIA・ITの正式名称は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  CTIA・IT/CTIA Windows I.T.& Entertainment
―――――――――――――――――――――――――――――
 CTIA・ITの会議では、携帯コンテンツやモバイルサービ
スに内容を絞っており、参加者はもちろん携帯電話業界の人々な
のですが、そのときの基調講演は、マイクロソフト社のスティー
ブ・バルマーCEOだったのです。
 そのときのマイクロソフト社のバルマーCEOの講演は今ひと
つであったそうです。しかし、基調講演の後で行われた主催者と
バルマーCEOのやり取りでは面白いことがあったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 講演後、主催者との対談で、マイクロソフトがグーグルをから
 かう場面に出くわしたからだ。これは主催者から「アナログテ
 レビ跡地の無線免許競売にマイクロソフトも参加するのか」と
 聞かれ、バルマーCEOが「いや、G社とは違うからね」とグ
 ーグルを皮肉った時だつた。このとき、会場は拍手と大爆笑の
 渦になった。それだけでなく、拍手に混じって「そうだ!そう
 だ!」といったグーグルへのヤジもあった。この雰囲気こそグ
 ーグルに対する通信業界の恐怖を如実に表している。
   ――小池良次著、『クラウド』より/インプレスR&D刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これには少し説明が必要です。グーグル社は、当時2008年
1月に行われることになっていた携帯無線の事業免許オークショ
ンへの参加を表明していたのです。
 この競売は、2009年2月のアナログテレビ放送停止を受け
て、空白(アナログ跡地)となる周波数帯域を次世代無線サービ
ス用に再割り当てするために行われたのです。結果は、携帯大手
のAT&Tとベライゾン・ワイヤレスの2社が総額の80%を押
さえて圧勝しグーグル社は敗退しているのですが、こういうオー
クションにグーグル社が、どういう意図で参加するのかが見えな
かったので、話題を呼んだのです。これについて、小池良次氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 大げさにいえば、魚市場に突然肉屋がやってきて、魚の競りに
 参加するようなものだ。しかも、その肉屋は、精肉業界最大手
 で資金も技術も営業力もある。当然、魚市場は混乱する。いっ
 たい、この肉屋は仕入れた魚をどう売りさばくのだろうか、肉
 屋は魚屋になるのだろうか――と憶測が飛び交う。メディアは
 「いよいよ肉と魚を使った融合料理の時代だ」と騒ぐ。ちょう
 ど、バルマーCEOが基調講演を行った時はこの混乱のさなか
 で、CTIA・IT会議にやってきた携帯業界人は皆グーグル
 の一挙一動に目が離せなかった。そこで司会者が茶目っ気たっ
 ぷりに、マイクロソフトも魚の競りに参加するのですかーと尋
 ね、「G社とは違うからね」(――わが社は市場荒らしはしな
 い)と答えたわけだ。だから会場はヤジと大爆笑に包まれた。
   ――小池良次著、『クラウド』より/インプレスR&D刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそもマイクロソフト社のバルマーCEOが、CTIA・I
T会議会議に出てきた理由は、同社のウインドウズ・モバイルの
ためなのですが、このOSもアップル社やグーグル社との競合に
さらされてきたのです。
 ウインドウズ・モバイルのスマートフォン向けの出荷台数はこ
のところ着実に伸びており、同社の収益に大きく貢献しているの
です。しかし、この世界には、シンピアン、ブラックベリー、ブ
リューなどの主流派携帯OSが強く、ウインドウズ・モバイルは
それらとやっと肩を並べたところだったのです。
 しかし、そのマイクロソフト社の足元を脅かしつつあるのが、
アップル社のアイフォーン、これから詳しく述べるグーグル社の
アンドロイドなのです。マイクロソフトとしてはこの競争に勝た
ないと次の展望が描けないために、バルマーCEOとしては、必
死にならざるを得ないのです。しかし、アイフォーンの世界的成
功にマイクロソフト社としてはその対策に苦慮しているところな
のです。   ―――[クラウド・コンピューティング/21]


≪画像および関連情報≫
 ●CTIA・IT/2007のバルマーCEO基調講演
  ―――――――――――――――――――――――――――
  サンフランシスコ発--過去20年間PC市場を牛耳ってきた
  のと同じように、マイクロソフトががモバイルソフトウェア
  市場を支配する日は来るだろうか。マイクロソフト社の最高
  経営責任者(CEO)スティブ・バルマー氏は、モバイル市
  場に大きなチャンスを見いだしている。何百万人もの消費者
  が携帯電話を購入しており、携帯電話の能力が上がるにつれ
  その延長線上にマイクロソフトの中核事業であるPC用オペ
  レーティングシステムとアプリケーションの販売が位置づけ
  られるのは自然なことだからだ。
  http://japan.cnet.com/interview/story/0,2000055954,20359920,00.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

CTIA・IT/2007でのバルマーCEO.jpg
CTIA・IT/2007でのバルマーCEO
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2009年11月11日

●「エリック・シュミットの予言」(EJ第2692号)

 今回のテーマの狙いは、現象的には電話がスマートフォンに変
貌する時代をとらえると同時に、それを裏側で支えるクラウド・
コンピューティングを明らかにすることにあります。
 まず、アイフォーンが注目されているアップル社を取り上げ、
それに対抗するマイクロソフト社の戦略について19回にわたっ
て述べてきたのです。しかし、もうひとつ語るべき重要な会社が
があります。それは、グーグル社です。今回からグーグル社につ
いて述べていきます。
 グーグル社について述べるとき、注目しなければならないのは
グーグル社の最高経営責任者であるエリック・シュミットという
人物です。エリック・シュミット氏とは何者でしょうか。
 エリック・シュミット氏は米パロアルト研究所や米ベル研究所
米ザイログ社を経て1983年にソフトウェアマネージャーとし
て米サン・マイクロシステムズ社に入社しています。シュミット
氏は同社でJavaの開発とインターネット戦略をプログラミン
グし、後に最高技術責任者と執行役員を歴任したのです。
 そして、1997年から米ノベル社の最高経営責任者を務め、
重要な経営戦略や技術開発の中心的な役割を果たしたのです。し
かし、2001年3月に米グーグル社の会長に就任したのです。
そして、ラリー・ページ氏、セルゲイ・プリン氏の2人とともに
「三頭政治」を展開することになるのです。
 1997年の春、このエリック・シュミット氏は、ノベルの会
長になってはじめて行った基調講演において、きわめて注目すべ
き発言を行っています。この講演をリポートしたITジャーナリ
ストの小池良次氏による記事の一部を紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 シュミット博士は、これからのネット時代をさまざまに分析し
 た。まず、これまでのクライアント/サーバー時代は、「クラ
 イアント/サービス」の時代に変わろうとしている。そして現
 在のネットワークは階層構造になっているが、インターネット
 ・イントラネットの普及で階層を持たない「ミックスド・ティ
 ア」の時代になるという。また、DSL技術の登場によって、
 データと音声の垣根がなくなり、データ回線の上に音声が走る
 時代がくると展開した。あんまり「自己宣伝はしたくはないの
 だが」と前置きしながら、こうした新時代にはディレクトリー
 (ネットワーク上の住所録に当たる)がますます重要になる。
 ネットワークはデスクトップばかりでなく、ラップトップ、携
 帯電話、ページャー、テレビなどさまざまな端末と結ばれるこ
 とになる。「それはホモジーニアス(同質)な世界における調
 和じゃない」とウィンドウズでネットワークの制覇をねらうマ
 イクロソフトをやんわりと皮肉り、「ノベルはヘテロジーニア
 ス(異質)な世界での調和を目指している」と話した。
   ――小池良次著、『クラウド』より/インプレスR&D刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでの指摘は、とても今から12年前に行われたものとは思
えないほど新鮮な内容なのです。とくに、「クライアント/サー
ビス」や「ミックスド・ティア」、「ヘテロジーニアス(異質)
な世界での調和」という概念は、まさにクラウド――グーグル社
が現在展開しているものと同じなのです。そのため、この基調講
演は「エリック・シュミットの予言」といわれているのです。
 ところで、ノベルとはどういう企業でしょうか。
 ノベル社といえば、インターネットの原型といわれるARPA
NET(アルパネット)まで源流をさかのぼれる企業なのです。
いわば、ネットワーク・ビジネスの最先端にいた企業です。とく
にノベルは「ネットウェア」というネットワークOSによって初
期のLANの時代――1980年代はネットワークの世界で君臨
していたのです。
 1993年には、AT&Tからユニックス・システム・ラボラ
トリーを買収してユニックスOSを手に入れ、続いてクアトロ・
プロを買収して、ワードパーフェクトや表計算ソフトでマイクロ
ソフト社のウインドウズやオフィスとしのぎを削ったのですが、
敗れています。そのため、シュミット氏がCEOに就任した19
97年には同社は相当疲弊していたのです。
 したがって、ノベル社としてシュミットCEOに期待したこと
は経営の再建とマイクロソフト社を打倒することだったのです。
しかし、シュミット氏は2001年に、まだ海のものとも山のも
のともわからないグーグル社のCEOに移籍したのです。
 当時のグーグル社は、ヤフーやAOLに検索機能を提供するサ
ービス・プロバイダの一つに過ぎなかったのです。検索サービス
は商業化することはとても難しい世界で、それまでにもライコス
やインフォシーク、アルタビスタなどの多くのベンチャーがそれ
に挑んでいずれも成功していないのです。
 したがって、グーグル社という企業は、当時いかに業績が疲弊
していたとはいえ、ユニックスコミュニティーの老舗であるノベ
ル社の会長がその任期途中で移るような企業ではないのです。
 当時グーグル社は合議制による経営を行っていたのです。さま
ざまな経営事項を社員全員が参加する会議で議論して決めていた
のです。シュミット氏は自らそういう会議に参加したのです。
 シュミット氏がグーグル社に移った2001年から3年間とい
うもの、シュミット氏の消息はまるで消えてしまうのです。一体
何をしていたのでしょうか。
 今考えると、その間グーグル社内部では、ラリー&サーゲイ体
制からシュミット体制への移行が進み、はっきりとクラウド・コ
ンピューティングやモバイル・サービスに経営の向きが大きく変
えられていたのです。つまり、グーグル社はエリック・シュミッ
ト氏によって、単なる検索エンジンプロバイダからの脱却を果た
していたのです。シュミット氏はまるでクラスルームのような企
業であるグーグル社をクラウドを制する大企業へと方向変更させ
ることに成功したのです。
       ―――[クラウド・コンピューティング/20]


≪画像および関連情報≫
 ●米グーグル社とはどういう会社か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米国グーグル社は、人類が使う全ての情報を集め整理すると
  言う壮大な目的をもって設立された。独自開発したプログラ
  ムが、世界中のウェブサイトを巡回して情報を集め、検索用
  の索引を作り続けている。約30万台のコンピュータが稼動
  中といわれる。検索結果の表示画面や提携したウェブサイト
  上に広告を載せることで、収益の大部分をあげている。検索
  エンジンとしては後発であるものの、リンクの集まる重要な
  ページを上位に表示したり、表示に備えて検索対象のウェブ
  ページを保存しておいたりと、それまでの検索エンジンには
  ない機能によって2002年は世界で最も人気のあるものに
  なり、AOLなどのクライアントを通じてインターネット検
  索のトップを占めるまでになっている。日本では、ヤフー・
  ジャパンに次いでシェア2位である。 ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

エリック・シュミット氏.jpg
エリック・シュミット氏
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2009年11月10日

●「ウィニーと似ているライブメッシュ」(EJ第2691号)

 マイクロソフト社の最新の技術「ライブメッシュ」の説明の続
きです。一般論として、複数の人でデータを共有するときどうす
るでしょうか。
 どこかのサーバーにデータを預けて、それにさまざまな場所か
らアクセスするというかたちになると思います。いわゆる集中管
理方式です。グーグル・ドキュメントはこの方式を採用している
のです。
 しかし、集中管理方式には難点があります。それはアクセスの
過度の集中です。とくに無料でワープロや表計算ソフトが使える
となると、常態的にアクセスが殺到するのは当然であり、いかに
パンクを防ぐかが大きな課題になります。現実的にグーグル・ド
キュメントには、過度のアクセス集中によるトラブルやデータ共
有において多くの問題が発生しているのです。
 ところで、昨日のEJで述べたように、ライブメッシュはデー
タ共有ソフト、ウィニーと大変よく似ているのです。データを単
純にサーバーに集めるのではなく、各自のPCにデータを分散し
て持ってもらい、あるデータを欲しい人は、そのデータを持って
いる近くのPCに取りに行く方式なのです。といっても、この説
明では、イメージが描けないと思います。
 ウィニーの場合、ユーザーのPCのハードディスクの一部を共
有エリアとして設定し、ネット上でそれらの共有エリアを連結し
巨大な共有ハードディスクを構築するのです。
 この場合、ユーザーは自分が共有しようと思うデータ──ウィ
ニーの場合は音楽データや映像データなど──そういうデータを
自分のPCのハードディスクに設定した共有エリアにコピーする
だけでよいのです。
 どのようなデータがどこにあるのか──これはユーザー同士で
は検索すればわかるようになっているので、それを取りに行くこ
とができるのです。それが音楽のデータであれば、その音楽をユ
ーザー同士で共有できるわけです。もちろん無料です。
 このウィニーの最大の欠陥は、公開してよいデータと公開した
くないデータを厳然と切り分けることができなかった点にあるの
です。たとえば、あるウィニーのユーザーが自分のPCのハード
ディスクの共有エリアに音楽データを置いたとします。
 しかし、そのPCのハードディスクには仕事用の重要情報がた
くさん入っており、当然のことながら、これらのデータは非共有
エリアにあったのです。
 ところが共有エリアと非共有エリアの切り分けがきちんとでき
ず、ハードディスクのすべてのデータが公開情報として外部に流
出してしまったのです。この場合、いったんデータが流出してし
まうと、それは不特定多数のウィニー・ユーザーに流通してしま
い、取り返しがつかないことになります。
 このウィニーによって代表される通信とデータの流通のシステ
ムは、「P2P/ピア・ツウ・ピア」と呼ばれ、ライブメッシュ
はこの仕組みを採用しているのです。
 しかし、ライブメッシュの場合は、共有されるのは「自分が指
定した機器同士」の「自分が指定したデータ」だけであり、ウィ
ニーのように不特定多数と共有されるわけではないのです。
 ライブメッシュの場合、一見ローカルにデータがあるようにみ
えて、実はネットにつながっているのです。つまり、ローカルと
ネットとの境目がなくなっているので、これがマイクロソフト社
のいう「壁のない世界」ということになるわけです。
 ところで、データ共有のやり方として、グーグル・ドキュメン
トのような集中管理方式とライブメッシュのようなピア・ツウ・
ピア方式の2つがあるのですが、これはLAN――ローカル・エ
リア・ネットワークの次の2つの方式に対応しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.クライアント/サーバー方式
      2.   ピア・ツウ・ピア方式
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここまでマイクロソフト社の「ウインドウズ・アジュール」と
「ライブメッシュ」という2つの技術について説明してきました
が、これら2つの技術がいわゆるクラウド・コンピューティング
の基礎になるものです。イメージが描けるように、2つの技術を
整理しておくことにします。
 オフィス14ではじめて登場するウェブ・アプリ版オフィスは
ウインドウズ・アジュール上で動作します。ユーザーは、ブラウ
ザ──マイクロソフト社のインターネット・エクスプローラだけ
でなくアップルのサファリやその他のブラウザでもOK──を通
じて、オフィスを操作することになります。
 この場合、ウインドウズ・アジュールは登録ユーザーがどのソ
フトのどの機能をどれだけの時間使ったかを管理します。今のと
ころマイクロソフト社は発表していませんが、当面はウェブ・ア
プリ版オフィスは無料で使えるようです。しかし、近い将来ユー
ザーがオフィスを使った分だけ料金を請求するスタイルになると
思われます。これを「SaaS/サース」というのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      SaaS/Software as a Service
―――――――――――――――――――――――――――――
 一方、これに加えてマイクロソフト社は、とくにメールなどを
中心に指定した機種間においてデータを「同期」するサービスを
展開します。例えば、自宅のPC、携帯電話、マイクロソフト社
のサーバーの三者の特定データをつねに同じに保つのです。これ
により、ユーザーがどこにいても携帯電話で着信メールを確認し
たりエクセル・データを参照したりできることになります。これ
を可能にしているのが、「ライブメッシュ」です。
 アップル社でも、アイフォーンと自宅PCの特定データを同期
する「モバイル・ミー」という有料サービスを実施しています。
今や情報の入手は場所を選ばないのです。
        ――[クラウド・コンピューティング/19]


≪画像および関連情報≫
 ●「SaaS」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ソフトウェアをネットワーク経由でサービスとして提供する
  事自体は、ASPとして、従来より行われている。有料の電
  子メールサービス、各種の検索サービス、オンラインゲーム
  などである。1999年に設立された米国のセールス・フォ
  ース・コムは、「SaaS」を提唱し、SaaS専業ベンダ
  ーとして、従来はパッケージ販売される事が多かったCRM
  ソフトウェアのSaaSによる提供を開始した。2006年
  には「クラウド・コンピューティング」という言葉が普及し
  SaaSはその一形態と呼ばれるようになった。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図出典
   http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20060315/232609/

ウィニーにおける検索の仕組み.jpg
ウィニーにおける検索の仕組み
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2009年11月09日

●「登録機器のデータを同期する技術」(EJ第2690号)

 既に述べたように、ライブメッシュは、「データをネット上に
置く」ための技術です。オフィス14もこの技術を基盤のひとつ
として使っており、両者は非常に密接な関係にあります。マイク
ロソフト社がどのような目的でライブメッシュを開発したのかに
ついて考えてみることにします。
 グーグルの「Gメール」というサービスがあります。2004
年4月から始まっていますが、マイクロソフト社の「ホットメー
ル」、ヤフーの「ヤフーメール」よりも後発でありながら、現在
ではそれらをしのいで、大きく普及しています。
 ホットメールやヤフーメールは、「ウェブメール」と呼ばれて
います。Gメールももちろんウェブメールです。ウェブメールは
専用のメールソフトを利用せず、複雑な設定作業がなく、しかも
無料で使えるので、人気を集めてきたのです。
 たとえば、旅行者がインターネット・カフェやホテルなどの共
用PCを使ってメールをやりとりできることから幅広く使われて
きたのです。しかし、グーグルの進出に対して、既に寡占状態に
あるウェブメールの市場に莫大な資本を投入して参入する意義が
あるかどうか疑問視する声が多かったのです。
 そのとき多くの人は、ウェブメールを外出時などの「補助的な
メール」として使っていたのです。しかし、Gメールはユーザー
それぞれに大容量の保存エリアを与えるなど、他のウェブメール
サービスと違うところが多かったので、後発でありながら、多く
のユーザーを獲得するにいたったのです。なかにはGメールを自
分のメインのメールサービスとして使うユーザーも増えてきてお
り、まさにグーグルの狙い通りです。そういう意味でGメールは
「ローカルからウェブへ」の転換を促す格好のツールとなったの
です。Gメールは現在次のように評価されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (Gメールは)パソコンとインターネットの未来を決定づけた
 「画期的サービス」(である)      ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 今までPCユーザーは、メールをはじめとするあらゆるデータ
をローカル、すなわちハードディスクに保存してきたのです。し
かし、データをローカルに保存すると不便なことが多いのです。
 まず、ハードディスクの容量の問題があります。すべてのデー
タを残しておこうと考えると、ハードディスクの容量を無限に増
やしていく必要があります。これにはコストがかかるのです。
 続いて安全性の問題があります。もし、PCのハードディスク
が壊れたら多くの場合、データは失われます。そうかといって、
他のPCのハードディスクなり、CDなどにバックアップ保存す
る方法は、現実的な方法とはいえないのです。
 もうひとつの問題はデータをPCのハードディスクに保存する
場合は、そのデータを見たり、編集したり、データを作るときは
そのPCでやらなければならないということです。例えば、外出
時にPCに届いたメールを見ることはできないし、もちろんメー
ルを発信することもできないのです。
 しかし、Gメールのようにメールデータをウェブに預けると、
どこでも他のPC、アイフォーンなどのスマートフォン、携帯電
話などのネットにつながる機器で見ることができます。
 そこでマイクロソフト社は、メールだけでなく、PCで扱うす
べてのデータをウェブ上に置いて使うプラットフォームを作る必
要に迫られたのです。それが「ライブメッシュ」というかたちで
実現を見たわけです。
 しかし、「データをネット上に置く」といっても、グーグル・
ドキュメントとライブメッシュとはそのポリシーがかなり異なる
のです。その違いについて説明しましょう。
 グーグル・ドキュメントでは、それを使って作成したデータは
グーグルが預かっています。それをさまざまな場所から見て、編
集するというかたちになります。つまり、データの原本はグーグ
ルの手元にあると考えるとわかりやすいと思います。
 しかし、既出の西田宗千佳氏はライブメッシュを次のように定
義しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ライブメッシュは複数のパソコンや携帯電話の間で、データを
 「同期」するサービス。それぞれのパソコンや携帯電話が持っ
 ているデータを、常に「同じ状態に保つ」、という仕組みが中
 核となっている。            ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 どういうことかというと、データがウェブ上にあるので、ネッ
トPCを含むどのPCでも、スマートフォンでも、携帯電話でも
データを見ることはもちろんのこと、データを編集したり、作成
することもできるのです。
 ライブメッシュは、それぞれのデータを常に同期して、同じ状
態にしてくれるのです。この場合、ライブメッシュでは元データ
――すなわち原本という概念はなく、原本と同じものが分散して
いるのです。つまり、データを作成・編集しているのはあくまで
それぞれの機器の中にあるデータなのです。
 これに対してグーグルの場合は大変わかりやすいのです。それ
はグーグルのサーバーにすべてのデータを預かるからです。これ
はいわばデータの原本であり、それをいろいろな機器から見たり
編集したり、作成したりするが、あくまで原本はグーグルのサー
バーの中にあるのです。
 しかし、この方法は相当のリスクを伴うのです。データを集中
させると必ずパンクの原因になるからです。実際問題として、G
メールは何回かパンクしているのです。
 これに対して、ライブメッシュの場合は、あの悪名高き「ウィ
ニー」のようなシステムをベースにしているのです。詳しくは明
日のEJで述べます。[クラウド・コンピューティング/18]


≪画像および関連情報≫
 ●「ウイニー」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ウィニーは、マイクロソフト・ウインドウズで動作するP2
  P技術を利用したファイル共有ソフトである。ウィニーは、
  ファイル共有に中央サーバーを必要としないピュアP2P方
  式で動作する。それ以前のいわゆる「P2Pファイル交換ソ
  フト」では、各クライアントの情報をサーバーに集積する様
  式(ハイブリッドP2Pモデル)が主流であったため、サー
  バー非稼動時には利用できないという問題を抱えていた。そ
  の意味でウィニーはシステム上の障害に対して非常に強く、
  一度稼働を始めたネットワークは止められないことが特徴で
  ある。               ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ライブメッシュを伝えるニュース.jpg
ライブメッシュを伝えるニュース
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2009年11月06日

●「ウインドウズ・アジュールとは何か」(EJ第2689号)

 昨日のEJで取り上げたマイクロソフト社の2つの新技術――
「ウインドウズ・アジュール」と「ライブメッシュ」について、
もう少し詳しく説明することにします。
 何のための技術かというと、一言でいうと「クラウドのための
先端技術」ということになります。「クラウド」というのは、ク
ラウド・コンピューティングのことですが、これは今回のテーマ
そのものであり、これについては改めて詳しく説明します。
 ウインドウズ・アジュール――これはいわば「クラウド内に存
在するウインドウズOS」なのです。ネット上で動く「ウェブ・
アプリ版/ウインドウズ14」は、このウインドウズ・アジュー
ル上で動作するのです。
 マイクロソフト社は、数年前から温めてきた「ソフトウエア+
サービス」というキーワードを今回強く打ち出したかたちですが
これはグーグル社の動き見ての対応策であると考えられます。
 注目すべきは、マイクロソフト社がこの技術を打ち出した場が
「PDC2008」であるという点です。PDC2008とは、
何を目的とするものなのでしょうか。「PDC」というのは次の
ことを意味しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   Professional Developers Conference 2008(PDC 2008)
  ―― マイクロソフトの開発者向けカンファレンス ――
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソフトウェアというものは特定のOSの環境下で動作します。
それはOSに合わせてソフトウェアを開発するからです。マイク
ロソフト社としては、ウインドウズベースのソフトウェアを作る
開発業者を増やす必要があります。もちろんローカルのOS市場
を制しているマイクロソフト社には当然多くのソフトウェアの開
発業者が存在します。そういうソフトウェア開発者の会議がPD
Cなのです。
 ローカル市場でのマイクロソフト社の優位は、主戦場がウェブ
に移ると事情が一変するのです。ウェブに移るということは、主
戦場がサーバーになるということを意味しています。つまり、サ
ーバーOSの競合がはじまっているということです。
 もちろん現在のところサーバーOSの世界でも、マイクロソフ
ト社は優位を保っています。2008年第2四半期におけるサー
バーOSの世界シェアは次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ウインドウズ ・・・・・ 36.5 %
    ユニックス  ・・・・・ 32.7 %
    リナックス  ・・・・・ 13.4 %
    zOS    ・・・・・ 11.8 %
    その他    ・・・・・  5.6 %
                     ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 以上のサーバー用OSの世界シェアで焦点の当たっているのは
第3位の「リナックス」なのです。これは基本的には無償のOS
であり、ウインドウズにとっては最大の強敵なのです。
 ローカル・アプリが少しずつウェブ・アプリに移行してくると
ウェブ・アプリを開発する業者が増えてきます。そういう業者に
対して、個人向けウェブ・アプリを多く開発しているグーグル社
は、サーバーを貸し出すサービスをはじめています。しかし、そ
のサーバーにはウインドウズを使わず、「リナックス」を自社で
改良したものを使っているのです。
 通販サービス大手のアマゾン・コムもグーグルと同様にウェブ
・アプリを構築する企業に対してサーバーを貸し出す「アマゾン
EC2」というサービスをはじめています。こちらもOSの中心
はウインドウズではなく、リナックス改良版なのです。
 マイクロソフト社は、そういう動きに対し、開発者の集まりで
あるPDC2008で、「ウインドウズ・アジュール」を打ち出
し、グーグルなどへの流れを抑えようとしたのです。
 既出の西田宗千佳氏は、ウインドウズ・アジュールの正体につ
いて、次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今後、様々なところでウェブサービス・ウェブアプリが増えて
 くることになると、自社でサーバーを持たず、グーグルやアマ
 ゾンのような企業から借りる、という形も増えてくるはずだ。
 その時、ウィンドウズ・サーバーが使われる保証はない。この
 ままでは、最終的に「ウェブアプリの時代」に得られる利益を
 失うのでは・・・。マイクロソフトはそう考えたわけだ。ウェ
 ブアプリの構築に必要な技術をまとめ、既存のウィンドウズ・
 アプリケーションも動作し、EC2(アマゾン)などのような
 「レンタル」形態にも対応できるソフトウエア。それこそが、
 ウィンドウズ・アジュールの正体である。ローカルのアプリケ
 ーションからウェブアプリヘ。その潮流は、マイクロソフトの
 ビジネスモデルそのものに、大きな変革をもたらそうとしてい
 るのである。              ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 今やマイクロソフト社には、グーグル社とアップル社という2
つの強敵がいます。ITの世界が一斉にクラウド――ウェブの世
界に向かう中で既に激しい攻防戦が始まっているのです。その主
戦場はサーバー市場なのです。
 この攻防は、サーバーの世界の話であって、一般的にはよく見
えない世界での熾烈な戦いなのです。その中で大きく先行してい
るのはグーグル社ですが、アップル社もマイクロソフト社もそれ
ぞれ独自の戦略でしのぎを削っています。
 そのためのマイクロソフト社のひとつの技術が「ウインドウズ
・アジュール」なのです。「ライブ・メッシュ」については来週
述べます。   ──[クラウド・コンピューティング/17]


≪画像および関連情報≫
 ●「PDC2008」でのマイクロソフト社発表
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米マイクロソフトのPDC2008。初日は同社チーフ・ソ
  フトウエアアーキテクトのレイ・オジー氏によるキーノート
  で幕を開けた。参加者は約6500人で、うち5000人が
  開発者。彼らから大きな尊敬を集めるオジー氏だけあって、
  彼の言葉に皆が熱心に聞き入った。「このPDCは、マイク
  ロソフトの製品やサービス、戦略にとって大きな転換点にな
  る」と開口一番に語ったオジー氏が発表したのは、「ウイン
  ドウズ・アジュール」。ウインドウズ・アジュールは、いわ
  ば「クラウド内に存在するウインドウズOS」。マイクロソ
  フトがデータセンターを運用し、その上でストーレージ、仮
  想化、システム管理を含むホスティング・サービス、「Live
  サービス」(文書や画像の共有)、「SQLサービス」(デ
  ータベース、検索)、「. NETサービス」(ビジネスにお
  けるワークフローやアクセス・コントロール)を提供するも
  のだ。               ――2008.10
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20081028/317929/
  ―――――――――――――――――――――――――――

ウインドウズ・アジュール.jpg
ウインドウズ・アジュール
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2009年11月05日

●「エイジャックスという驚くべき技術」(EJ第2688号)

 もともとホームページ――ウェブサイトは「静的」なものだっ
たのです。いわば雑誌のページを表示するだけのもので、そこに
動きを取り入れることは非常に困難なことだったのです。
 たとえば、ある場所の地図をウェブページとして表示したとし
ます。しかし、地図の端にマウスポインタを持ってくると、サー
バーがその位置を計算して地図全体の再書き込みをするのです。
その間、数10秒――とにかくスムーズに動かないのです。
 これに対してハードディスクにインストールして使う地図ソフ
トはスピーディーに動いたのです。そういう操作性にかけてウェ
ブ上の地図ソフトは大きく性能が劣っていたのです。
 しかし、2006年頃に突如として登場したグーグル・マップ
は、ウェブ・ページ上であるにもかかわらず、スムーズに動いた
のです。ページの上をクリックしてマウスを動かすと、地図を自
由にスクロールできたのです。そのため、現在見ている地点の周
辺をチェックするときもスムーズにでき、その動作性はローカル
で動く地図ソフトと同等のレベルであったのです。
 このグーグル・マップについて、IT評論家の佐々木俊尚氏は
自著の中で次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マウスで地図上をクリックしたり、ドラッグしたりすると、す
 るすると地図が右や左、上や下に流れるように移動し、スムー
 ズに地図の上を動くことができるのだ。拡大・縮小も自由自在
 で、まるで地上から発射されたロケットの窓から地表を眺めて
 いるように、自宅周辺の細かい地図から世界地図までするする
 と縮尺を変えていくこともできた。    ――佐々木俊尚著
     『グーグルGoogle/既存のビジネスを破壊する』より
                      文春新書501
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、このようなことができるのかというと、そこには「エイ
ジャックス」という技術が使われているからです。エイジャック
スは、処理をウェブブラウザ側とサーバー側に分割し、それぞれ
が協調して動作することによって、ウェブ上でスムーズな動きを
実現しているのです。
 グーグルは、このグーグル・マップに先んじて「Gメール」を
スタートさせています。これにもエイジャックスが使われており
ウェブブラウザ上で「アウトルック」のようにメールの読み書き
を可能にしたのです。
 さらにグーグルは、2005年10月に、サン・マイクロシス
テムズと提携を発表したのです。何が目的の提携かというと、当
時サンが「オープン・オフィス」(別称:スター・オフィス)と
いう無償のオフィスソフトを開発していたからです。
 もちろんこれはマイクロソフト・オフィスに対抗して開発した
のですが、完成度も高く、しかも無料で使えたにもかかわらず、
サンはどうしても普及させることができなかったのです。
 しかし、そのサンがグーグルと提携するということになると、
マイクロソフト社には脅威になるのです。なぜなら、エイジャッ
クスの技術を使い、ウェブ上にオープン・オフィスを無料で提供
するとなると、マイクロソフト・オフィスにとって大打撃になる
からです。
 しかし、不思議なことに提携の記者会見で明らかになったこと
は、オープン・オフィスのエイジャックス版開発の話などは出ず
かなり限定的な内容の提携にとどまったのです。一体そこに何が
あったのでしょうか。
 結局、次の年の2006年6月にグーグルがスタートさせたの
は、オープン・オフィスより機能が劣る「グーグル・ドキュメン
ト」――ウェブ上でワープロや表計算ソフトが使える――であり
マイクロソフト社が恐れる事態にはならなかったのです。このグ
ーグル・ドキュメントでもエイジャックスの技術は駆使されてお
り、次々とバージョンアップが行われています。その機能レベル
は年々向上してきているのです。
 このように次々と仕掛けてくるグーグルの攻勢に対し、マイク
ロソフト社は危機感を抱いたのです。そこでマイクロソフト社は
グーグルとサンの提携の1ヶ月後に、次の2つのサービスを相次
いで発表したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.  オフィス・ライブ
        2.ウインドウズ・ライブ
―――――――――――――――――――――――――――――
 「オフィス・ライブ」というのは、ウェブブラウザ上で使える
オフィスのサービスを中小企業などに低価格で提供するというサ
ービスです。「ウインドウズ・ライブ」は、Gメールと同じよう
に、ウェブブラウザ上でメールの読み書きが行えるというもので
あり、明らかにグーグルへの対抗策であったのです。
 これに伴い、マイクロソフト社は、次の2つの技術を開発して
いるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.ウインドウズ・アジュール
       2.    ライブ・メッシュ
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ウインドウズ・アジュール」とは何でしょうか。
 ウインドウズ・アジュールとは、サーバーを構築するために使
われるOSであり、それに付随するさまざまな開発基盤(プラッ
トフォーム)を統合したものです。オフィス14のウェブ・アプ
リ版もこのプラットフォーム上で動作するのです。
 もうひとつの「ライブ・メッシュ」とは何でしょうか。
 ライブ・メッシュを簡単にいうと、データをネット上に置くた
めの技術のことです。メールなどのデータを簡単にネット上に置
けるようにし、複数のPCや携帯電話から同じデータを見られる
ようにしたのです。これら2つの技術をマイクロソフト社は保有
しているのです。──[クラウド・コンピューティング/16]


≪画像および関連情報≫
 ●エイジャックス(Ajax)とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  従来のウェブアプリケーションでは、サーバにリクエストを
  送信後、レスポンスを新たにウェブページとして受け取り画
  面遷移が発生していたが、エイジャックスにより画面遷移を
  伴わない動的なウェブアプリケーションの製作が実現可能に
  なる。例えば、ウェブ検索に応用することで、従来は入力確
  定後に行っていた検索を、ユーザがキー入力をする間にバッ
  クグラウンドで行うことによってリアルタイムに検索結果を
  表示していくといったことが可能になる。
  ―――――――――――――――――――――――――――

アイフォーンでグーグル・マップ.jpg
アイフォーンでグーグル・マップ
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2009年11月04日

●「ウェブ・サービスとしてのオフィス」(EJ第2687号)

 ここで「ウェブ・アプリ」がどのようなものであるか知る必要
があります。それには、「ホームページ」と「ブログ」の違いに
ついて理解することが問題の解決に役立つと思います。
 ここまでブログが普及した現在においても、ホームページとブ
ログの違いがわかっていない人は多いのです。それはマスコミの
報道のやり方にも責任があります。報道する記者自身が、よくわ
かっていないのです。
 ブログが登場したときマスコミは、「簡易ホームページ」とか
「日記風ホームページ」という表現で紹介しています。このよう
に表現されると、ホームページもブログも基本的には同じもので
あって、ブログはホームページを簡単にしたもの、つまり、ホー
ムページの簡易版――このようにとらえてしまいます。
 「簡単にしたもの」という表現をすると、ブログは技術的に簡
単なもの、すなわち、技術的にホームページの下にくるものとい
う間違ったとらえ方をしてしまいます。しかし、実際には、技術
的にはホームページよりもブログの方が進化しており、情報発信
やサイトの更新が簡単になっています。
 もうひとつ最近の話ですが、「ツイッター」というものが流行
しつつあります。マスコミは例によってこれを「ミニブログ」と
か「簡易ブログ」と表現しています。マスコミの記者自身が自分
でもよくわからないまま、このように報道しているのです。
 最近では「ブログ」に括弧書きで説明することはなくなってい
ますが、実際にブログをやっていない人は、依然としてブログが
何であるか知らない人は多いと思います。そういう人にとっては
「ミニブログ」とか「簡易ブログ」といわれても、一層わからな
くなり、困惑してしまいます。
 そこで、改めてホームページとブログの違いをなるべく専門的
にならないように説明します。そうすれば、ツイッターも容易に
理解できるようになります。
 ホームページを構築するときは、一からプログラミングするか
ホームページ作成ソフトを購入し、自分のPCで作ることになり
ます。ページのレイアウト構造などはすべて自分で作り上げる必
要があるし、ある程度のウェブの構造などの技術的知識が必要に
なるので、素人にとっては相当敷居の高い作業になります。その
代わりプログラミングをマスターすると、全体ページのレイアウ
トやデザインなどについては、自分の好みの綺麗なホームページ
を作ることができます。しかし、相当の努力が必要です。
 そして、ホームページが完成すると、そのファイルをプロバイ
ダーの指定のサーバーに転送してはじめてインターネット上に公
開されることになります。しかし、こういう作り方では着手から
完成まで相当の期間がかかります。コスト面からみても、ホーム
ページ作成ソフトの購入費やサーバー関係の費用など、それなり
のコストがかかります。
 それに対してブログの場合はどうでしょうか。
 一般的にブログの場合は、それを提供する業者のサーバーに接
続した状態でサイトを作成するのです。ユーザーのPCと業者の
サーバーが接続されていると、ブログの構築についてサーバー側
がいろいろな支援をユーザーに対して行うことが可能になるので
す。技術的にはCMS――コンテンツ・マネジメント・システム
というソフトウェアによってそれを可能にしているのです。
 これによって、ブログの場合は、ユーザー側に技術的知識がな
くてもサイトを短時間で作り上げることが可能になります。人に
もよりますが、レイアウトなどに凝らなければ、半日もあればブ
ログを立ち上げることができます。しかも、料金は無料です。
 そして何よりも便利なのは、ブログの場合は情報の発信――ブ
ログの更新が簡単にできることです。これもCMSの恩恵なので
す。ホームページの場合は、いったんPCでコンテンツの追加や
削除を行い、その修正ファイルをプロバイダーのサーバーに転送
する――このようにホームページの情報の発信は不便です。
 実はこのユーザーのPCと業者のサーバーがつながった状態で
マイクロソフト・オフィスのサービスを提供しようというのが、
「ウェブ・アプリ版・オフィス14」のサービスなのです。
 ローカル版オフィスでは、自分のPCのハードディスクにイン
ストールしたオフィスを使うのに対し、ウェブ版オフィスの場合
は、マイクロソフト社のサーバーに接続した状態で、オフィスの
サービスを受けるウェブ・サービス――そういう位置づけになり
ます。ローカルで必要なのはウェブブラウザだけです。
 ウェブ版オフィス14は、現在のところ無料で使えるとアナウ
ンスされています。しかし、近い将来、それは有料になると私は
予測しています。ユーザーのPCと業者のサーバーがつながった
状態でユーザーがオフィスを使うと、ユーザーがオフィスのどの
ソフト――たとえばワード――をどれだけの時間使ったかを管理
できるので、その分だけの料金を請求するというかたちに発展す
ると思います。これが「SaaS」といわれる新しいコンピュー
タの使い方です。
 こういうウェブ・サービスが実現するには、次の3つの条件が
必要になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.ネット接続の容易性
         2.サーバーの性能向上
         3.ブラウザ機能の増大
―――――――――――――――――――――――――――――
 最近ではネット接続は本当に簡単になっています。アイフォー
ンを使っていると、どこでネットにつながったのかわからないほ
どです。これに伴い、サーバーの性能が向上しています。現在の
サーバーは10数年前と比較すると、その能力は100倍以上に
向上しています。だからこそ、ブログのように凝ったレイアウト
を自動生成し、多くの人の閲覧に耐える速度で提供できるように
なったのです。PCの使い方に構造的な変化が生じていることを
知るべきです。 ──[クラウド・コンピューティング/15]


≪画像および関連情報≫
 ●CMSとは何か/コンテンツ・マネジメント・システム
  ―――――――――――――――――――――――――――
  CMSとは、ウェブ・コンテンツを構成するテキストや画像
  レイアウト情報などを一元的に保存・管理し、サイトを構築
  したり編集したりするソフトウェアのこと。広義には、デジ
  タルコンテンツの管理を行なうシステムの総称。CMSを導
  入すれば、テキスト制作者はHTMLなどの知識を習得する
  必要はなく、デザイナーはテキストが更新されるたびに作業
  を行なう必要はなくなり、それぞれ自らの作業に集中するこ
  とができる。また、サイト内のナビゲーション要素なども自
  動生成するため、ページが追加されるたびに関連するページ
  にリンクを追加するといった煩わしい作業からも解放される
  ことになる。      http://e-words.jp/w/CMS-1.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ホームページ作成ソフト.jpg
ホームページ作成ソフト
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2009年11月02日

●「ウェブ版オフィス14とは何か」(EJ第2686号)

 「ウインドウズ7」の販売はなかなか好調のようです。アップ
ル社の猛追に対してマイクロソフト社としては、どのような戦略
で立ち向かうのでしょうか。
 実はマイクロソフト社は2008年の時点で2009年以降の
戦略を固め、そのうえでこの10月22日に「ウインドウズ7」
を出したのです。そこで、ここまでは、アップル社を中心にその
戦略を述べてきたので、しばらくマイクロソフト社の戦略につい
て述べることにします。
 2008年9月のことです。マイクロソフト社は、次のような
注目すべきメッセージを世界に発信しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       Windows Life Without Walls
―――――――――――――――――――――――――――――
 「壁のないウインドウズ・ライフ」──これは何を意味してい
るのでしょうか。
 今まではPCをはじめ携帯電話など各情報機器ごとにそれぞれ
何らかの「壁」が存在していたのです。しかし、現代では、サー
バーで処理する部分を増やすことによって、少しずつ「壁」がな
くなってきているのです。やがてそれは「壁のない世界」に到達
することになりますが、マイクロソフト社はそれを目指すといっ
ているのです。
 マイクロソフト社のこのポリシーは、2008年9月に開催さ
れた家電展示会の開催に合わせて開かれた会見において、その趣
旨が米マイクロソフト社の副社長ブラッド・ブルックス氏から伝
えられたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あらゆる壁を乗り越えて人々のコミュニケーションを促すとと
 もに、10億人のウインドウズ・ユーザーに選択肢を与える。
 これからの新しいウインドウズでは、家庭や職場だけでなく、
 移動中や娯楽中にも『壁のない世界』を体験できるだろう。
                ──ブラッド・ブルックス氏
                     ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 続く2008年10月、マイクロソフト社は、米ロサンゼルス
で開かれた同社製品に関する開発者会議「PDC2008」にお
いて、次の2つの重大な発表を行ったのです。これには当然「壁
のないウインドウズ・ライフ」を踏まえた2つの製品のコンセプ
トの発表ということになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.ウインドウズ7
          2.オフィス 14
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、「ウインドウズ7」はともかくとして、「オフィス
14」とは何でしょうか。
 「オフィス14」は、ワードやエクセルなどのあの「マイクロ
ソフト・オフィス」の新バージョンのことです。既に「オフィス
2007」がリリースされていますので、その次のバージョンの
「オフィス」ということになります。
 「オフィス14」は仮称──コードネームですが、次の2つの
種類があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.ローカル・アプリ版/オフィス14
     2.ウェブ ・アプリ版/オフィス14
―――――――――――――――――――――――――――――
 「オフィス14」は、おそらく「オフィス2010」という名
称のオフィスの次期バージョンと考えてよいと思います。2つの
うち、「ローカル・アプリ版/オフィス14」は、パッケージに
入った普通のオフィス製品のことです。
 ここで「ローカル」というのは「ハードディスク」のことであ
り、パッケージに入っているCDをハードディスクにインストー
ルして使う、普通タイプのオフィス製品です。
 これに対して「ウェブ・アプリ版/オフィス14」というのは
マイクロソフト社としてははじめて投入されるものです。つまり
「ローカル」に対して「ウェブ」――自分のPCのハードディス
クにインストールするのではなく、ネット上にあるオフィスをブ
ラウザを通して使う今までにない画期的なオフィスのことです。
 画期的というだけのことはあるのです。ブラウザというと、マ
イクロソフト社の場合は「インターネット・エクスプローラ/I
E」ということになりますが、この「ウェブ・アプリ版/オフィ
ス14」の場合は、「サファリ」や「ファイアフォックス」とい
うIE以外のウェブブラウザでも動くのです。しかも同様にOS
にも依存しないのです。
 それに加えて高機能なウェブブラウザを持つ、アイフォーンな
どの一部の携帯電話でもそれは動くということです。そしてさら
に驚くべきことは、多くのウェブ・アプリと同様に「無料」で公
開されることが予測されているのです。
 そうすると、こういうことになります。「ローカル・アプリ版
/オフィス14」はいつものように有料であるのに対し、同じ機
能を持つ「ウェブ・アプリ版/オフィス14」は無料で使えると
いうことになります。この場合、ウェブ・アプリ版オフィスが非
常に使い勝手が悪いということではないのです。ローカル・アプ
リ版とほぼ同じように使えるということです。
 なぜ、マイクロソフト社はこの決断をしたのでしょうか。
 それは、2006年6月からグーグルがはじめた「グーグル・
ドキュメント」が原因なのです。これは、無料で使えるウェブ版
ワープロや表計算ソフトなのです。もちろん、オフィスには機能
的に及ばないものの、オフィスのファイルを編集するぐらいのこ
とは簡単にできるのです。マイクロソフト社はこれに強い危機感
を抱いたのです。──[クラウド・コンピューティング/14]


≪画像および関連情報≫
 ●「グーグル・ドキュメント」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  グーグル・ドキュメントは、文書(ワープロソフト)、スプ
  レッドシート(表計算ソフト)、プレゼンテーション)の3
  つの機能が提供されている。ドキュメントはいずれもグーグ
  ルのサーバ上に保存されるが、他形式とのインポート・エク
  スポートも可能。他のユーザとのドキュメント共有をサポー
  トしている。一つの文書ファイルは500KBまで、画像フ
  ァイルは2MB、縦書きには対応していない。また、保存し
  た時点でフォーマットが失われるため取り出した文章も横書
  きのままである。          ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

オフィス次期バージョン.jpg
オフィス次期バージョン
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2009年10月30日

●「大幅に修正されたウインドウズ7」(EJ第2685号)

 ここで「ウインドウズ7」について述べておく必要があると思
います。「ウインドウズ7」は、2009年10月22日の発売
以来その売れ行きは好調のようですが、それはある意味で当然の
ことであるといえます。
 というのは、前のOSである「ウインドウズ・ビスタ」が極度
の販売不振であったからです。具体的にいうと、それまでのOS
をビスタにバージョン・アップしようとすると、PCを買い替え
ないと軽快な動作が保障されなかったからです。そのため、XP
からのバージョンアップがスムーズに行かなかったのです。
 当初ウインドウズ・ビスタについて、マイクロソフト社として
は相当自信を持っていたのです。広告宣伝にもふんだんにお金を
使い、とくに「エアロ・グラス」と呼ばれる画面の半透明処理を
テレビCMで徹底的にPRしたのです。とくにPCのOSに関心
がなくても、あのCMは見たことがあると思います。確かに見た
目に派手で、未来を感じさせるデザインであったので、期待した
PCユーザーは多かったと思います。
 しかし、ウインドウズXPがかなり完成度が高かったこともあ
り、多くのユーザーはXPに慣れていたのです。それに加えて、
XPは2001年以来5年以上にわたって使い続けてきたので、
いまさらPCを買い替えてまで、ビスタにバージョンアップする
のは得策ではないと考えたユーザーが多かったので、その売れ行
きはさっぱりだったのです。とくに法人ユーザーはその多くが、
XPからのバージョンアップをやらなかったことは、マイクロソ
フト社にとって相当の痛手になったと思われます。
 ところが、ウインドウズ7はどうだったでしょうか。発売日以
前にウインドウズ7のCMを見た人はいるでしょうか。少なくと
も私は見ていないのです。
 米国では、ウインドウズ7のCMをテレビのゴールデンタイム
の枠を買うことなく、ネットで流していたといわれます。そのC
Mは、次のURLをクリックすれば見ることができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   http://wiredvision.jp/news/200810/2008100920.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 明らかにウインドウズ7についてマイクロソフト社は、ビスタ
とは対照的に地味な戦略で臨んでいるように思います。実はウイ
ンドウズ・ビスタを主軸に据えるPC用OS戦略についてマイク
ロソフト社は大幅な修正を行っているのです。その原因は「ネッ
トブック」と呼ばれる小型PCの出現にあるのです。
 ネットブックは、一言でいえば「安価な小型ノートPC」なの
です。サイズはB5判程度と小さくて持ち運びが簡単であり、価
格も3万円から8万円程度のPCです。ノートPCに比べるとか
なり価格は安いのです。
 ネットブックの狙いは、移動先や旅行先、自宅の寝室やリビン
グなどで、メールをしたり、ウェブアプリを利用する――こうい
う使い方にあります。本格的な作業をするためのPCではない、
2台目、3台目のPCという位置づけです。
 ところが2008年10月以降、このネットブックが非常によ
く売れたのです。2008年10月以降、店頭で出荷されたPC
のうちなんと25%がネットブックだったのです。2007年の
同じ時期には、このジャンルは存在しなかったので、伸びは「爆
発的」であったといえます。
 台湾のアスーステック・コンピュータ社が、2007年末に台
湾や米国で発売した「EeePC」がヒットしたこともあって、
デル、ヒューレット・パッカード、東芝、NECなどの大手メー
カーが相次いでこのジャンルに参入して大混戦になったのです。
 どうしてこういうPCが出現したかというと、インテルが将来
の携帯電話や家電製品のニーズを考えて、性能は多少落としても
低価格・低消費電力に焦点を絞った「アトム」というCPUを開
発し、製造を始めたことにあるのです。
 ところがこれらのネットブックに搭載されているOSは、ウイ
ンドウズXPであり、当然のことながらビスタではないのです。
そこでPCメーカーとしては、マイクロソフト社に対し、ウイン
ドウズXPのサービスの存続を要望したのです。
 しかし、これはマイクロソフト社にとって頭の痛い問題なので
す。なぜなら、ウインドウズXPとビスタ、それに次に出る予定
の新OS「ウインドウズ7」の3つを維持しなければならなくな
るからです。これはとてもできない相談なのです。3つのOSを
抱えることは、そのセキュリティの面から考えても、不可能に近
いことだからです。
 そうかといって、マイクロソフト社としては、このネットブッ
ク市場を失いたくない――そこで、当初2009年4月に終える
としていたXPのサポート期間を2014年4月まで延長すると
いう措置をとったのです。
 ネットブックを製造するメーカーとしては、2008年時点で
もしマイクロソフト社がXPの提供を打ち切るのであれば、無償
のリナックスOSを使う意思を表明しており、マイクロソフト社
は早急な対応を迫られたのです。そのため、ウインドウズ7を当
初考えていたものから大きく修正することになったのです。
 そこでマイクロソフト社は、2008年10月の「PDC20
08」において、ウインドウズ7の方向性を明らかにしているの
です。その基調講演の中で、マイクロソフト社でウインドウズの
開発を統括するスティーブン・シノフスキー副社長は片手にネッ
トブックをかざしながら次のようにいったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウインドウズ7は、クロック周波数1ギガヘルツ、メモリ1ギ
 ガのこのPCでも快適に動作する。実際、メモリはまだ半分も
 空いている。              ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
        ──[クラウド・コンピューティング/13]


≪画像および関連情報≫
 ●「ネットブック」はどういうPCか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ネットブックは、ネットワーク機能を備えてインターネット
  に接続し作業する事を主な用途とした、比較的安価で小型軽
  量なノートパソコンであり、その製品やカテゴリーの呼称で
  ある。2007年10月にアスーステック・コンピュータが
  販売した「EeePC」が最初に販売されたネットブックと
  される。ただし「ネットブック」の名称を初めて提唱したの
  は、2008年3月米インテル社が自社CPUである「イン
  テル・アトム」について語った時であると見られている。イ
  ンテル自身もこの時点ではあまり明確な基準ではなく、「イ
  ンターネット利用に特化した低価格モバイル」程度の意味で
  あった。              ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ビスタ・エアロ.jpg
ビスタ・エアロ
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2009年10月29日

●「iPodはトロイの木馬である」(EJ第2684号)

 私はMS−DOSの時代からマイクロソフトOSを使い続け、
ウインドウズにいたっては、仕事の関係もあって、ウインドウズ
3.0 の頃から使ってきています。現在もウインドウズ・ビスタ
搭載のPCを使っていますから、根っからのウインドウズ・ユー
ザーということになります。
 しかし、そういう私でも、既にマイクロソフト社の最新OSに
なっている「ウインドウズ7」へのバージョン・アップ(?)を
ためらっています。少し様子見をしたいというのが本音です。な
ぜかというと、今回ばかりは本当にバージョン・アップになるの
かどうか疑問だからです。
 ところで、アップル社は「ウインドウズ7」の発売に合わせて
デスクトップの「iMac」とノートPCの「MacBook」
の新機種をぶつけてきています。
 しかし、PCの世界では、一度ウインドウズ・ユーザーになっ
てしまうと、アップル社からいくら魅力的な製品が出ても、もろ
もろの事情から途中でアップル社のPCに乗り換えることはきわ
めて困難になります。
 少なくとも今までに関しては、ほとんどのウインドウズ・ユー
ザーにとって、アップル社のPCはまるで関心がなく、それはま
さに別の世界のものであって、この世に存在しないものになって
しまうわけです。
 スティーブ・ジョブズはこの点を悩んでいたのです。しかし、
ジョブズは、iPodにウインドウズ・ユーザーの関心が集まっ
ているのを知って、ひらめいたのです。そして、直ちに音楽ジュ
ークボックスソフトウェアである「アイチューンズ」のウインド
ウズ版を開発するとともに、iPod自体のウインドウズ対応の
充実化を図ったのです。そして、アイチューンズはネットを通じ
て無料で頒布したのです。
 今までのアップル社であれば、純正のウインドウズソフトを開
発するのは敵の軍門に下るとして絶対にやらなかったことである
と思います。しかし、「マックOS−X」の開発以降、アップル
社の戦略は明らかに考え方が変わっていて、自社ビジネスを柔軟
にとらえ直しているのです。
 ウインドウズ版アイチューンズを無料でダウンロードできるこ
とを知った音楽ファンは、iPod以外のMP3プレーヤーを持
つユーザーまでが使い始めたのです。そして、その使い勝手の良
さをはじめて知ることになるのです。
 ところでアップル社は日本市場を非常に重視しています。なぜ
かというと、日本にはアップルPCの熱烈なファンが多くいるか
らです。そこでジョブズはiPodの発売を機に日本の象徴的な
場所にアップルストアを建築し、そこに、マックPC以外のPC
ユーザーを集客することを考えたのです。
 2003年11月──こうした狙いで誕生したのが、アップル
ストア銀座店です。ちょうど銀座松屋デパートの道路をはさんだ
反対側で銀座4丁目交差点からすぐ近くの場所であり、銀座に来
た人が普通に通る場所に面しています。あの齧ったリンゴのロゴ
マークがきわめて目立っています。
 私がiPodミニを手に入れたのは2004年秋のことです。
これは私が手に入れた最初のアップル社の製品なのです。そうい
う人は多いと思います。そしてアップル社の製品のユニークさ、
使い勝手の良さを知ることになります。そして私自身もiPod
ナノ、アイフォーンと続いてアップル製品を購入したのです。
 ところで、アップル社がアイチューンズを無償提供したことに
ついて、既出の大谷和利氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ギリシア神話のトロイア戦争において、トロイを陥落させる決
 め手となったのは城壁の中に持ち込まれた大きな木馬だった。
 城壁の外側から攻めても強固な守りに阻まれて落とすことので
 きなかったトロイも、木馬の中に隠れていた兵士による内側か
 らの侵攻にはなすすべもなく陥落した。これになぞらえて、ア
 イチューンズはウィンドウズユーザーにiPodを購入させる
 ための「トロイの木馬」として機能したと言える。
                      ――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 ひとつでもアップル製品を持っている人なら、たまたま銀座の
アップルストアの近くに来たとき、ブラッと入ってみようという
気になるものです。そうすると、店にはあらゆるマック製品が陳
列してあり、操作することができるのです。
 2階には相談コーナーがあり、何でも相談に乗ってもらえるし
スタッフの応対もなかなかのものです。3階はマックPCなどの
使い方のデモをいつもやっており、4階にはアップル・グッズを
販売しています。
 こういう店舗が持てるのもアップル社がハードウェアを扱って
いるからであり、OSやソフトウェアを主力商品とするマイクロ
ソフト社にはできない芸当であると思うのです。マイクロソフト
社としては、せいぜいビックカメラのような量販店で製品のPR
をするしかないのです。
 私のようにiPodやアイフォーンを持つウインドウズ・ユー
ザーが、各地にあるアップルストアに行って最新のアップルPC
を操作してみるということを繰り返すことにより、アップル製品
に関する心理的バリアが薄れてくるものです。
 そこでPCの買い替えのさいに思い切ってアップルPCに切り
替えるユーザーも出てくるはずです。つまり、今までこの世に存
在しなかったものを現実的に触ってみる──ちょっと前ではあり
得なかったことが現実に起こりつつあるからです。
 iPodはトロイの木馬である──実に含蓄に富む表現である
と思います。現実に私の書斎の中にも少しずつアップル社の木馬
が増えつつあるのです。しかし、ジョブズの仕掛けはこれだけで
はないのです。 ──[クラウド・コンピューティング/12]


≪画像および関連情報≫
 ●アップルストア/銀座店のオープンに米国から参加!?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  感謝祭の休暇を利用しゲリー・アレン氏(56歳)は、20
  03年11月26日(米国時間)、16歳の息子と2人でカリ
  フォルニア州バークレーの自宅を出て、日本行きの飛行機に
  乗った。米アップルコンピュータ社が東京の銀座にオープン
  する直営店の開店イベントに立ち会うためだ。29日(日本
  時間)の早朝に起床した2人は、30日午前の開店時には行
  列の先頭にいようと、雨の中28時間、新店舗の外で過ごし
  た。そして目的を達成し、記念品のTシャツを手にすると、
  翌日の12月1日には帰国した。
   http://wiredvision.jp/archives/200312/2003121101.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

アップルストア/銀座店.jpg
アップルストア/銀座店
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2009年10月28日

●「マックOS−XはどのようなOSか」(EJ第2683号)

 もともとアップル社では、ハードウェアとOSとを一体のもの
と考えており、「××OS」という呼び方はしていなかったので
す。どうしてかというと、アップル社のOSは同社のPC「マッ
キントッシュ」専用のOSであり、とくにハードウェアとOSを
区分する必要がなかったからです。そのため「システム××」と
呼ばれていたのです。
 しかし、EJ第2680号で述べたように、1994年にマイ
ケル・スピンドラーCEOのときにOSのライセンスに踏み切っ
ているのです。つまり、その時点で数社のマック互換機が誕生し
ているわけです。
 しかし、OSのライセンスはジョブズがアップル社に戻ると同
時に打ち切られるのですが、その時点からアップル社では、ハー
ドウェアとOSは一体のものではなく、別のものという考え方が
生まれ、「マックOS」と呼ばれるようになるのです。
 ジョブズがアップル社に復帰したとき、アップル社の財政は底
をついている状況だったのですが、ジョブズは、これからのイン
ターネット時代に備えて新しいOSを開発する必要性に迫られて
いたのです。
 そのため、すべてをアップル社で自社開発することをあきらめ
他社の技術を導入しようと考えたのです。一時は「BsOS」や
「ソラリス」をはじめ、「ウインドウズNT」まで検討の対象に
したといわれます。
 結局、ジョブズが主宰していたネクスト社のOS「オープンス
テップ」と「マックOS」の融合版である「ラプソデイ――コー
ドネーム」を開発したのです。しかし、その後2001年にジョ
ブズの頑張りによる、今までのものとはまったく異なる新OSを
発表したのです。これが「マックOS−X」なのです。
 「マックOS−X」はどのようなOSなのでしょうか。
 「マックOS−X」は、従来の「マックOS」と比べると動作
が非常に安定しており、「アクア」と呼ばれる独自の美しいユー
ザーインターフェースのウインドウシステムを採用しており、ア
ップル社のOSとしては珍しくオープンな標準規格を採用してい
るのです。すなわち、すべてのバージョンで、アップル社のC
PUである「パワーPC」版とインテルのCPU版が用意されて
いたのです。ウインドウズPCとの互換です。
 「マックOS−X」のもうひとつの大きな特色は、UNIXベ
ースになっていることです。そのため、UNIX系のOS――B
SDやリナックスなどのソフトウェア資産は、ごく簡単な移植に
よって「マックOS−X」上で動くのです。
 UNIXは、1968年に米国のAT&T社のベル研究所で開
発されたOSであり、C言語というハードウェアに依存しない移
植性の高い言語で記述され、またソースコード(プログラム)が
比較的コンパクトであったことから、多くのブラットフォームに
委嘱されたのです。
 実はこの「マックOS−X」――モバイル機器のアイフォーン
やiPod、iPodタッチ、それにテレビに接続して使用する
ビデオ再生装置「アップルTV」に使われているのです。大きく
てパワフルな製品から小さくて省電力の製品までスケーラブルに
対応できる万能OSの様相を呈しているのです。
 ところで、現在のPCには文字入力にはキーボード、ウインド
ウズ画面操作はマウス──ウインドウズ・マウスはボタンが2つ
というようにかなり複雑です。しかし、アップル社のPCは全体
がスッキリしており、マウスのボタンもひとつしかないのです。
 アイフォーンを使っている人は分かることですが、文字入力ボ
ードは必要なときに画面上にあらわれ、スクロールなどは「ころ
がす」という表現がぴったりです。
 アップル社のノートPCである「パワーブック/G4」は、手
前の中央にかなり広いトラックパットがあり、そこに指を1本当
てて動かすときはマウスポインタが移動し、指を2本にするとウ
インドウのスクロール、指を2本置いた状態でボタンをクリック
すると、ウインドウズ・マウスの右クリックと同じことになり、
右クリックメニューが表示されるのです。こんなことが2005
年頃からできるようになっていたのです。これがアイフォーンの
操作性につながってくるわけです。
 実はこれを可能にしたのは、アップル社がフィンガーワークス
社を買収したからです。このフィンガーワークス社は、米国デラ
ウェア州の企業で、「マルチタッチ」という技術を得意とし、手
を使ってジェスチャーをファイルを開くなど,ごく一般的なコン
ピューター操作の命令に置き換える優れた技術を開発していたの
です。ジョブズは早くからこの企業に目をつけ、交渉を重ねて、
2005年に同社を買収したのです。
 2005年当時、フィンガーワークス社買収はまさに青田買い
に近い先行投資であったのです。しかし、アップル社は同社の技
術をさらに発展させ、ハイレベルのマルチタッチスクリーン技術
にまで育て上げたのです。このあたりはマイクロソフト社は完敗
といったところです。
 このマルチタッチ技術は、PCの操作にある程度慣れたマック
ブック上でだんだん熟成されていったのです。たとえば、トラッ
クパッドに指2本をあてて、回転すると選択されている画像が回
転したり、コントロールキーを押した状態で2本指の上下方向に
スライドさせると、画面全体の拡大と縮小ができたり、3本指を
上下左右方向へスライドさせると、前後の写真の表示の切り替え
やページめくりができるまでになったのです。
 これらの技術はすべてアイフォーン上でもっと簡単な操作で実
現しており、アップル社の先行投資はモノをいったといえます。
既にマルチタッチ技術は特許の関係で他社は追随できない部分が
多くなっており、アップル社はとくにノートPCや携帯電話の世
界でほぼ独占的にこの技術を向上させていくようになると思われ
るのです。このように技術面においては、今やアップル社は首位
に立っているのです。[クラウド・コンピューティング/11]


≪画像および関連情報≫
 ●UNIXとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  UNIXはコンピュータ用のOSKの一種である。公式な商
  標は「UNIX」だが、商標以外の意味として「Unix」
  またはスモールキャピタルを使用して「Unix」などとも
  書かれる。UNIXは1969年にAT&Tで最初に開発さ
  れたが、現在では「UNIX」という語はUNIX標準に準
  拠するあらゆるオペレーティングシステムの総称でもある。
  現在ではUNIXシステムは多数の系統に分かれており、A
  T&T開発時代の後も、多数の商用ベンダーや非営利組織な
  どによって開発が続けられている。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

パワーブック/G4.jpg
パワーブック/G4
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2009年10月27日

●「A社とM社のOSの考え方の違い」(EJ第2682号)

 10月22日に「ウインドウズ7」が発売されましたが、この
OSは従来のOSのバージョンアップとはかなり異なるのです。
これからのスマートフォン時代には、OSが非常に重要な意味を
もってくるので、アップル社のOSを中心にOSの問題を考えて
いきたいと思います。
 1985年にスティーブ・ジョブズをアップル社から追放した
CEOジョン・スカリーは、アップル社としてのビジョンを求め
ていたのです。そこで、スカリーが目をつけたのは社内のスティ
ーブ・サマコンという技術者が手がけていたペン入力コンピュー
タ技術だったのです。
 スカリーCEOは、これを「ニュートン・プロジェクト」とし
て推進したのです。そして、1993年に「アップル・ニュート
ン」として発売しているのです。日常生活のさまざまなシーンで
人間の情報活動をサポートする世界初の手帳型PDAとしてそれ
は大きな話題を呼んだのです。
 当時携帯端末の担当をしていた私は、この「アップル・ニュー
トン」をシャープの展示会で手にしたことがあるのですが、操作
が複雑でハードウェア的にもソフトウェア的にも完成度は今一つ
というマシンだったことを記憶しています。しかし、今から考え
ると、これが現在のアイフォーンの原型であったといえなくもな
いのです。
 「ニュートン・プロジェクト」はその後も継続され、1997
年には相当完成度の上がった「ニュートンメッセージパッド20
00」を発表しています。しかし、当時業績が悪化していたアッ
プル社には、PCのOSと合わせてニュートン用のOSの開発を
続ける余力がなくなり、アップル社に復帰したジョブズによって
「ニュートン・プロジェクト」は中止されたのです。
 もともと現在のウインドウズのようなOSの原型を世界で一番
早く開発したのはゼロックス社のパロアルト研究所であり、その
OSは「アルト」という小型コンピュータに搭載され、既にマウ
スも付いていたのです。
 アップル社は、OSには相当の力を入れて、リスクを恐れず最
高のものを取り入れてきています。1983年に発表された「リ
サ」にも、続いて発表された「初代マック」にもGUI――グラ
フィカル・ユーザー・インターフェースという概念が取り入れら
れているのです。これは、当然パロアルト研究所のGUIが参考
にされているのです。ジョブズCEOは、同じカリフォルニアに
あるパロアルト研究所には何度も足を運んでいるのです。
 しかし、パロアルト研究所はGUIの技術をコンピュータに応
用するのには消極的だったのです。ゼロックス社の考え方を知っ
て失望したジョブズは、ゼロックス社にその気がないのであれば
われわれでやろうじゃないかと決心したのです。
 そして、ゼロックス社から技術者を引き抜き、自社のスタッフ
に合流させて、その後20年にわたってPCの業界に影響を与え
た「マックOS」を送り出したのです。
 「マックOS」の歴史を振り返ると、2つの時期に分かれるの
です。最初は「OS」という名称を使わず「システム」と表記し
ていたのですが、バージョン7までは「システム」と呼び、バー
ジョン8以降「マックOS」の名称を使っています。
 ここでOSに関してアップル社とマイクロソフト社の考え方の
違いについて述べておく必要があります。マックの開発チームは
OSについて次のようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   OSは限りなく透明に近い存在であるべきである
               ――マック開発チーム
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、アップル社においてOSとは、ユーザーにとって完全
な裏方の役割に徹するべきであって、正面にしゃしゃり出るべき
ものではない――これが「透明に近い存在である」という意味な
のです。そのため、1984年のマックOSにアップル社はとく
に名前を付けず、「システム1.0」と呼んでいたのです。
 これに対してマイクロソフト社は、アップル社とは対照的にあ
たかもOSがコンピュータのすべてであるような宣伝を行って、
ウインドウズを売り出しているのです。つまり、OSがつねに前
面に出ているのです。そのため、ユーザーは、OSとアプリケー
ションの違いもよくわからないのに、OSの名前だけは強く意識
させられてきたのです。
 その後のマックOSの進化について、既出の大谷和利氏は次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 その後のマックOSの進化も、単なる機能向上に留まらず、美
 しいテキスト表示を実現するためのアウトラインフォントの充
 実や、音楽やデジタルビデオの編集と再生を強力に支援するマ
 ルチメディア技術「クイックタイム」の実装、世界の主要言語
 のシステムレベルでのサポートなど、それまで生産性ツール的
 側面の強かったコンピューターをクリエイティブなメディアへ
 と変貌させる役割を果たした。       ――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 1996年にジョブズがアップル社に復帰すると、OSも大き
な変化を遂げるのです。「マックOS」バージョン8の時点で、
ネクスト由来の新技術を取り入れた新しいOSの導入が進められ
「マックOS」バージョン9を経て、「マックOS−X」(エッ
クスではなく『テン』)として登場するのです。
 マイクロソフト社のOSは、バージョンが上がるごとに機能が
強化されてきたのですが、それはビスタまでであって、この22
日に発売された「ウインドウズ7」は、ビスタのマイナーアップ
デートに過ぎないといわれているのです。「ウインドウズ7」対
「マックOS−X」──これについては、明日のEJで述べるこ
とにします。  ――[クラウド・コンピューティング/10]


≪画像および関連情報≫
 ●アップル・ニュートンについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ニュートンは主に次の2つの理由で商業的には失敗したとい
  える。一つは高価であった(2000型および2100型は
  1000ドル近くした)ことと、もう一つは大きすぎた(標
  準的なコート、シャツ、パンツなどのポケットに収まる大き
  さではなかった)ことである。また、評論家はその手書き認
  識についても酷評した。ニュートンは手書き入力をうたい文
  句にしていたが、初期の頃は非常に不正確な認識しかできな
  かった。手書き認識システムは、ロシアのパラグラフ・イン
  ターナショナル社がライセンス供与した「カリグラファー」
  と呼ばれるエンジンを用いていた。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

アップル・ニュートン.jpg
アップル・ニュートン
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2009年10月26日

●「デザイン重視のジョブズのアップル社」(EJ第2681号)

 1996年にスティブ・ジョブズがアップル社に暫定CEOと
して復帰したとき、ジョブズは技術者よりもデザイナーの流出を
心配したというのです。
 業績の悪化した企業からは優秀な人材が流出してしまうもので
すが、ジョブズはマーケティング・スタッフや一部の技術者の流
出は仕方がないと考えていたものの、優秀なデザイナーの流出だ
けは何とか食い止めたいと考えていたのです。
 技術者についてジョブズは、アップル社に復帰するとき、ネク
スト時代の技術者を連れてきているので、技術者よりもむしろデ
ザイナーを守ろうとしたものと考えられます。
 その結果、アップル社にとってきわめて幸いだったのは、工業
デザイン担当副社長兼工業デザイングループディレクター、ジョ
ナサン・アイブが残ったことです。このアイブが後のiMac、
PowerBook、iPod、そしてアイフォーンを生み出す
ことになるのです。
 ジョナサン・アイブは現在42歳ですが、英国出身で、大学在
学中から多くの有名企業の誘いを受けていたという天才的インダ
ストリアル・デザイナーなのです。
 ジョナサン・アイブをアップル社に入社させた功績は、工業デ
ザイン担当副社長の前任者ロバート・ブルーナーにあります。ブ
ルーナーは自分の後継者を探していて、アイブに目をつけたので
す。そのとき、アイブは、ロンドンにおいて急成長を続ける自分
のデザイン・スタジオ「タンジェリン」を率いていて、その地位
を捨てて、一企業のインハウスデザイナーになるとはとても考え
られなかったのです。
 しかし、ブルーナーはアイブを熱心に口説いたのです。実はそ
のときアイブは、タンジェリンであらゆる分野のデザインを担当
してみて、自分のライフワークは電子機器のデザインで行こうと
決めていたのです。
 アイブは熱心に入社を勧めるブルーナーの勧めにしたがい、家
族と一緒にアメリカに移住したのです。そして1992年にアッ
プル社に入社し、20周年記念のマッキントッシュのデザインで
頭角をあらわし、ロバート・ブルーナーの退任後は同社のデザイ
ン部門を率いているのです。
 結局、アイブはスピンドラー、アメリオという2人のCEOを
経て、デザインに知識も理解もあるジョブズCEOとの出会いを
果たすのです。
 ところで、アイフォーンの製品外装を見ると、次のように印刷
されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       Designed by Apple in California
      Assembled in China. Model No.A1241
―――――――――――――――――――――――――――――
 最近は、ほとんどの電気製品で「メイド・イン・チャイナ」と
か、「メイド・イン・タイワン」とか、「メイド・イン・マレー
シア」というように、生産国表示をアジア諸国とするものがほと
んどですが、アップル社の製品も例外ではないのです。
 しかし、アップル社の製品にはすべて次の一文を掲げられてお
り、他社との違いをみせています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    Designed by Apple in California
    この製品はカリフォルニア州のアップル社で
    デザインされたものである
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見れば、アップル社がいかにデザインを重視し、誇りを
持っている会社かわかると思います。もうひとつ興味深いのは、
「米国のアップル社」ではなく、「カリフォルニア州のアップル
社」となっている点です。アップル社に限らず、シリコンバレー
で起業した企業にとって、カリフォルニアの自由な風土は愛すべ
きものであり、こだわりを持っているのです。これは、もはやカ
リフォルニア州を離れることはないというアップル社の決意表明
と受け取ることもできると思います。
 もうひとつアップル社には、製品製作のこだわりとして、次の
フレーズを守っているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        “Hot,Simple and Deep”
        ホットで、シンプルで、ディープ
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、アップル社が、アップルU向けに優れたゲームソフト
を開発するさいの指針として打ち出したフレーズなのですが、こ
の指針にこだわって製品開発を進めるのです。
 最先端で格好良いものを見たとき、英語では「It's hot !」と
いうのですが、そういうものを作る――これがアップル社の指針
なのです。もっとも最近では、比較的若い人の間では、同じ表現
を「It's cool !」 ともいうのです。
 例えば、iPodを広告や店頭で初めて見た人は、どう感ずる
でしょうか。
 まず、シンプルですっきりとしたデザインに惹かれるものがあ
ります。だが、電気製品に付きものの、ボタンスイッチが一切な
いことに奇異に感ずるはずです。
 そこで実際に製品を手にして、クリックホイールを回してみる
と、その動きと画面のスクロールやボリーム調整の表示が直結し
ているような感覚に一驚する。そしてスムーズに音が出る――そ
の時点で「It's hot !」または「It's cool !」となります。
 「斬新で、取っつきやすく、それでいて奥が深い!」――アイ
フォーンにしても同様のことがいえると思います。別にマニュア
ルがなくても、あっちこち触っていると、基本的なことはすぐで
きるようになる――それでいて一台のマシンで多くのことができ
るので、奥が深いのです。アップル社の製品はすべてそういう仕
様になっています。―[クラウド・コンピューティング/09]


≪画像および関連情報≫
 ●ジョナサン・アイブについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  iPodの爆発的人気は社会現象となっており、日本でもソ
  ニーなど他社の追随を許さないほど。今年は、記憶媒体に軽
  量で音跳びが少ないフラッシュメモリーを使ったiPodシ
  ャッフルとiPodナノを発売し、各ユーザーの需要に合わ
  せた商品展開で人気を不動のものとしているのだ。iPod
  デザインチームのリーダーであるアイブ氏は、アップル社の
  チーフ・デザイナーでロンドン生まれ。アイブ氏のチームは
  iPodだけでなくiMac、iBookなどのデザインも
  担当し、英国美術協会や広告業界団体、ドイツのデザイン博
  物館、米国工業デザイナー協会などから数多くの賞を受け、
  その作品はニューヨーク近代美術館など世界中の美術館で展
  示されているそうなのだ。
        http://www.narinari.com/Nd/2005125410.html
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ジョナサン・アイブ.jpg
ジョナサン・アイブ
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月23日

●「ハードウェアを持つアップル社の強み」(EJ第2680号)

 現在、世界中のほとんどの人はマイクロソフト社のOS――ウ
インドウズを使っています。それはウインドウズがOSのデファ
クト・スタンダード(業界標準)になっているからです。
 その結果、ウインドウズが本当に使い勝手の良い優れたOSな
のかどうかの判断は、普通のユーザーにはわからないと思うので
す。選択肢があまりにも限定されているからです。すなわち、ど
こにでもある普通のウインドウズPCを選ぶか、マックPCを選
択するかの二者択一であるからです。
 それでは、ウインドウズOSとマックOSはどちらが使い勝手
が良く、どちらがより優れているかということになると、これは
後者に軍配を上げざるを得ないのです。
 それは、業界標準のOSが大幅な機能の変革をやりにくいのに
対し、マックOSは世界にただ一つアップル社しか使っていない
OSなので、変革がやりやすいということもあると思います。
 前回少し触れたように、マイクロソフト社創立者のビル・ゲイ
ツは、初期のウインドウズの開発と販売に不安を持っていて、当
時アップルのCEOのジョン・スカリーに対して、マックOSを
ライセンスして欲しいと提案したのです。
 そのときのビル・ゲイツの考え方は、マイクロソフト社はOS
の開発から手を引き、アプリケーションソフトウェアの開発と販
売に注力するつもりでいたのです。ウインドウズ戦略が大成功し
た現在ではそのことを知る人はあまりいないと思います。
 もともとマイクロソフト社はOSの開発はどちらかというと苦
手であったのです。IBM社から開発を委託されたウインドウズ
の前身OSである「MS−DOS」にしても、当時のデファクト
・スタンダードであったデジタル・リサーチ社の「CP/M」を
模倣したものであったし、ウインドウズについても先行するアッ
プル社のOSを参考にせざるを得なかったのです。したがって、
ビル・ゲイツはマックOSのライセンスを提案したのです。
 しかし、ビル・ゲイツのこの提案は、アップル社の役員会で否
決されてしまうのです。逆にいうと、これがマイクロソフト社に
とって幸いしたといえます。ここでOS事業から手を引いていれ
ば現在のマイクロソフト社はなかったと思うからです。
 その後アップル社は、マイケル・スピンドラーがCEOのとき
マックOSを他社にライセンスすることに踏み切るのです。19
94年のことです。
 その翌年から、数社からマック互換機が発売になっています。
アップル社のこの変貌を見て、多くのアナリストたちは、アップ
ル社はやがてハードウェアから撤退し、マイクロソフト社のよう
にOSやソフトウェア開発に専念のではと考えたのです。
 しかし、1996年にアップル社に復帰したジョブズは、この
マックOSライセンスを打ち切り、マック互換機戦略を終焉させ
たのです。そのため、再びマックOSをプラットフォームとする
メーカーはアップル社だけとなったのです。
 ジョブズにいわせると、ハードウェアを捨ててソフトウェアに
専念するなどということは絶対にやってはならないと考えている
のです。どうしてジョブズがこういう考え方を持ったのかという
と彼はネキストコンピュータ時代にハードウェア事業を切り捨て
ソフトウェア事業に特化して失敗しているからです。事実ジョブ
ズはネキストコンピュータ社からネキストソフトウェア社に社名
を変更しているのです。
 なぜ、ハードウェアを切り捨てることが問題になるのでしょう
か。このことに関するジョブズの考え方は非常に説得力がありま
す。テクノロジー・ジャーナリストの大谷和利氏の言葉を借りて
いうと、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 OSやソフトウエアの良さは、ある程度使い込んでみないとわ
 からない。しかも、その分野に対するそれなりの知識がないと
 的確な判断が下せない場合が多い。これは、自動車の走行運動
 性能などと似ている。これに対し、ハードウェアの外観は車の
 外装と同じく、好きか嫌いかという主観レベルのものも含めて
 誰もが話題にできる。つまり、その価値判断を行うことで、製
 品に興味を持ち、心理的に関われるのだ。そこでアップル社は
 同社製品がもたらす優れたユーザー体験を知ってもらうための
 呼び水として、魅力的な外装デザインにも力を入れた。これは
 自社ブランドのハードウェアを持たなければ採ることのできな
 い戦略だ。                ――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 マックOSがどんなに良いといわれても外形的に見ても絶対に
わからないのです。しかし、アップル社のiMacはデザインが
斬新で魅力的であるということは誰もが認めています。もちろん
使ってみなければiMacが本当に良いかどうかわかりませんが
それだけで「欲しい」と思わせることは十分可能なのです。
 しかし、機能に関しては、アップル社ほどの知名度のある企業
であれば、他のメーカーに比べてそれほど差があるものではない
ことはユーザーはわかっているので、デザインの斬新さと価格し
だいで売れるのです。
 こういう点で、今まで基本的にハードウェアを持たない戦略で
急成長してきたマイクロソフト社は現在方針を変更しつつありま
す。確かにマイクロソフト社のハードウェアというと、携帯音楽
プレーヤー「Zune」や家庭用ゲーム機「Xbox」、PC向
けのキーボードとマウスなどしかないのが現状です。
 しかし、ZuneはiPodに遠く及ばず、Xboxは米国で
は成功しているものの、全世界的なヒット商品にはなっていると
はいえないのです。しかし、マイクロソフト社の中心製品はOS
ですが、シェア90%に達している現状では良くて当たり前であ
り、問題のあることだけが批判の対象になる――ここにきてハー
ドウェアを持っていないことがマイナスに働いてきているといえ
ます。     ――[クラウド・コンピューティング/08]


≪画像および関連情報≫
 ●スティーブ・ジョブズの真骨頂
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  ようやくアップルに復帰をしたものの、ここも赤字で、ブラ
  ンド力も低下していた。パソコンiMacをヒットさせたが
  長くは続かない。「よし、つぎは携帯音楽プレーヤーだ」と
  思いつくが、開発できる社員は、アップルにはいない。それ
  でもなんとか開発したiPodを専門家はみんな「ダメだ」
  とこき下ろした。音楽楽配信サービスiTMSの立ち上げに
  は、大手音楽会社の強者たちとのタフな交渉が待ち受けてい
  た。このようなピンチ続きを、ジョブズは決して嘆かなかっ
  た。むしろ「チャンスだ」ととらえ、すさまじい執念をもっ
  て要所要所の交渉を成功させた。それが彼の真骨頂といえる
  かもしれない。ピンチは嘆くものではなく、乗り越えるペき
  ものと考える人だけが、チャンスの入り口に立てるのだ。
         ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
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竹内一正氏の本.jpg
竹内一正氏の本 
posted by 平野 浩 at 04:23| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする