2021年04月19日

●「ぜんぜん修正されないCOCOA」(第5473号)

 今日から「デジタル社会論」の後編に入りますが、最初のテー
マとして再び取り上げるのは、新型コロナウイルス接触確認アプ
リ「COCOA」の話題です。4月17日(土)の各紙に厚労省
から同アプリの不具合報告書が提出されたからです。日本経済新
聞と朝日新聞は、次のタイトルで取り上げています。
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 ◎COCOA無責任の連鎖/行政DXへ重い教訓
  多重委託/厚労省に専門知識なく
         ──2021年4月17日付、日本経済新聞
 ◎COCOA不具合放置
  国と企業無責任連鎖/厚労省検証
           ──2021年4月17日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 このCOCOAトラブルは、日本の役所がいかにICTに弱い
かを露呈しており、世界から見ても実にみっともない話です。実
は、英国は、日本から3ヵ月遅れて同種のアプリを導入していま
すが、アプリのダウンロード数は、この2月に2100万件を超
え、人口の3分の1に達しています。これについて、英国政府と
信頼ある機関は次のように公表しています。
─────────────────────────────
 2月9日には、アラン・チューリング研究所とオックスフォー
ド大学が「(このアプリで)60万件の感染を予防できた可能性
がある」との検証結果を政府と公表しています。
 日本は、こうした検証の入り口にすら立てていない。アプリの
ダウンロード数は3月末で人口のほぼ4分の1の2653万件。
肝心の陽性登録数は、1万2千件にとどまる。信頼の失墜も大き
い。       ──2021年4月17日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ところで、COCOAはどのようなアプリなのでしょうか。復
習しておくことにします。
 COCOAは、ブルートゥースのクラス3を利用しているので
COCOAをインストールしているスマホ同士が、1メートルの
範囲内に入り、15分以上そのままだと、スマホ同士で「接触符
号」を交換し、それぞれのスマホに保存します。
 さて、COCOAをインストールしているユーザーの誰かが、
PCR検査を受けて陽性が判明したとします。この場合、そのユ
ーザーは、あくまで自分の意思で、アプリに登録することになり
ますが、そのさい保健所から発行される「通知番号」をアプリに
入力することになっています。
 「通知番号」が入力されると、アプリは、感染していた可能性
のある期間の「日次鍵」と時間情報をまとめた「診断鍵」と呼ば
れる情報を通知サーバ−に送ります。通知サーバーは、受け取っ
た「診断鍵」をCOCOAをインストールしている全ユーザーに
送信します。
 スマホ側では、「診断鍵」に含まれる情報から、陽性者の「接
触符号」を生成し、過去に交換して、スマホに保存中の「接触符
号」と比較し、一致するものがあると、感染の可能性があるので
ユーザーに通知するという仕組みです。ロジックは実によくでき
ています。
 COCOAが機能していないことは、どのようにして判明した
のでしょうか。
 それは、コロナ陽性になったPR会社社長、次原悦子氏が、そ
の結果、濃厚接触者になった家族のスマホに、接触通知が届いて
いないことを不審に思ったことがきっかけです。この社長は、ツ
イッターで、次のようにツイートしています。
─────────────────────────────
 拡散希望。接触確認アプリCOCOA。今はこれを絶対に鵜呑
みにしないで!責任追及は後にして、陽性登録したのに過去14
日間どころか、私が濃厚接触者にしてしまった家族にさえ、誰に
も、通知はきていません。ブルーツゥースも確認済み。COCO
Aを見ている人がいるならばそれはとても危険! ♯コロナ陽性
─────────────────────────────
 このPR会社社長は、このことを国民民主党代表の玉木雄一郎
氏に訴えたのです。そこで、玉木代表は、1月13日の衆議院内
閣委員会で、厚労省に問い正しています。ところが、厚労省の役
人は、ぬけぬけと次のように答弁しています。
─────────────────────────────
 1メートル以内で15分以上実際には接近していなかったり、
ブルートゥース機能をオフにしてしまったりなど、適切に作動で
きていないケースも考えられる。      ──厚労省担当者
─────────────────────────────
 この役人、まるで、ユーザー側に責任のあるようなものいいで
す。しかも、COCOAのアンドロイド版の不具合を厚労省が認
めてから、約4ヵ月も経過した後でも、この表現であり、おまけ
にこのPR会社社長のスマホはアンドロイドではなく、厚労省が
問題なしとしているアイフォーンなのです。
 ちなみに、「設定が違っている」といわれたこのPR会社社長
は、アプリのアップデートを最新にし、ブルーツゥースの設定を
確認し、息子のスマホを横に並べて、再度実験しましたが、何も
届かなかったとといいます。
 厚労省に限らず、日本の役所のICT感度のレベルは、きわめ
てローレベルです。今どき厚労省はまだFAXを使っているよう
ですが、これはそこで働く人のICT感度が低いことを表してい
ます。一般企業であれば、事務を担うレベルからの提案で、せめ
てFAXは引退させられるはずです。田村厚労大臣は、ポツリと
こういっています。「オレのところにも届いていいはずの通知が
届いていない。オレも被害者の一人」と。
 冗談ではない。田村厚労相は、最高責任者です。総額3・9億
円も使って、こんなチンケなものしかできないのでしょうか。責
任重大です。       ──[デジタル社会論U/001]

≪画像および関連情報≫
 ●接触確認アプリCOCOA失敗の本質
  ───────────────────────────
   接触確認アプリCOCOAが政治問題化しています。昨年
  6月、首相の肝煎りでリリースされ、感染対策の切り札担う
  かと期待されました。ダウンロードは2千万件を超えました
  が、9月末から2月中旬まで、ユーザーの3割ほどを占める
  アンドロイドユーザーに通知が届かない不具合が見つかりま
  した。そしてiOSにも深刻な不具合があると発表されまし
  た。政府は、相次ぐ不具合を修正することで、COCOAを
  正常に機能させようと躍起になっています。僕は絶望してい
  ます。COCOAは日本人の能力を超えたプロジェクトでし
  た。そのことを人々が認められないことに、僕は絶望してい
  ます。厚労省だけの問題ではない。犯人探しをして処分すれ
  ば済むというものではない。ITの問題ですらない。なぜそ
  れが分からないのか。これは日本の統治能力の問題であり、
  民度の問題です。
   「現時点の我々の政府の能力では、このプロジェクトを成
  功させることはできない」という戦略的思考ができない。精
  神論でなんでも出来ると認めようとしない。あの敗戦から何
  も学んでいない。開発に失敗したことを怒るべきではないの
  です。やったこと自体が間違いだったのですから。
   「なぜやったのだ」と怒るべきなのです。その合理的思考
  ができない人々に絶望しています。あの敗戦から何も学ばな
  かった人々に。         https://bit.ly/3gmSOwH
  ───────────────────────────
世紀の大失敗/COCOA.jpg
世紀の大失敗/COCOA
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2021年04月16日

●「現在の中国は戦前日本と似ている」(第5472号)

 今回のテーマ「デジタル社会論」は、1月から約4か月間にわ
たって書いてきましたが、本日をもっていったん閉じます。当初
のこのテーマの目的は、中央銀行のデジタル通貨(CBDC)の
解明にあったのです。
 しかし、リブラ(ディエム)やデジタル人民元などについては
現時点でわかっていることについては、ほとんど書いたつもりで
おります。ちなみに、昨年から今年にかけて、これらについての
最新情報は、ほとんど入ってきておりません。
 しかし、唯一の成果というべきは、カンボジアの「バコン」の
情報です。CBDCの「バコン」については、ネット上でも情報
は少なく、まさにこのテーマを取り上げなかったら、多くの人に
知られていない情報だったと思います。
 EJの読者のから「地球温暖化問題を是非取り上げて欲しい」
との要請があります。ありがとうございます。確かに、取り上げ
るべきテーマのひとつであると考えます。しかし、一つのテーマ
を取り上げるには、相当資料集めをする必要があります。資料を
集めたいと考えています。
 実は、気候変動の問題は、一度EJで取り上げています。20
08年のことです。
─────────────────────────────
 ◎地球温暖化懐疑論
  2008年2月 6日/EJ第2259号
        〜2008年3月21日/EJ第2289号
─────────────────────────────
 このテーマについては、書いてから10年以上前のことであり
再度取り上げる価値はあると思います。
 しかし、「社会のデジタル化」については、まだ書くべきこと
が山ほどあります。とくに日本のデジタル化については、スムー
ズに進行するとは思えないのです。難問が山積だからです。
 このところ半導体をめぐるニュースが多くなっています。半導
体の供給に不足が生じているからです。「デジタル化」に関係の
ある話題ですが、これについて、4月12日、バイデン米政権は
バイデン大統領が出席してウェブ会議を開いています。朝日新聞
デジタルは次のように報道しています。
─────────────────────────────
 バイデン米政権は12日、世界的な半導体不足への対応策につ
いて、半導体大手インテルなど米主要企業や台湾の台湾積体電路
製造(TSMC)の幹部らとウェブ会議で協議した。半導体の供
給網の安定化は中国との経済・軍事競争をにらんだ重要課題で、
16日の日米首脳会談でも話し合う。バイデン大統領は、半導体
分野の中国の巨額投資に触れ、「中国や世界は我々を待っていて
くれないし、我々が待つ理由もない」と強調した。米半導体産業
の育成については、対立の激しい米議会でも、超党派で支持があ
る。バイデン氏は、3月末に公表した総額2兆ドル(約220兆
円)超のインフラ投資案にも、半導体製造・研究に500億ドル
の支出を求める項目などを盛り込んでおり、改めて議会に協力を
呼びかけた。ウェブ会議はサリバン米大統領補佐官(国家安全保
障担当)やディーズ国家経済会議議長らが主導し、米グーグル、
自動車大手ゼネラル・モーターズなど主要企業が参加した。
       ──2021年4月13日付、朝日新聞デジタル
                  https://bit.ly/32hMBtC
─────────────────────────────
 この会議には、インテルなどの半導体米大手のほか、半導体の
世界的ファンドリである台湾のTSMCの幹部も出席しているこ
とに注目すべきです。つまり、この背景には、米中対立の激化が
あります。このテーマについては、16日の日米首脳会談でも取
り上げられ、協議される予定になっています。
 半導体だけではないのです。現在、中国は、新疆ウイグル自治
区への、いわゆる「ジェノサイド」で、世界的包囲網を敷かれて
います。ジェノサイドといえばブリンケン米国務長官による発言
が印象に残っていますが、これをもともといい出したのは、英国
の外相、ドミニク・ラーブ氏が、新疆ウイグル自治区で、「おぞ
ましく、はなはだしい」人権侵害が起きていると公表し、世界中
に知られることになったのです。
 これに基づき、ラーブ外相は、目隠しをされたウイグル人が、
列車で強制収容所に連行される映像や、ウィグル人女性に「不妊
手術が行われている」という証言を劉暁明駐英中国大使に突きつ
けたのがはじまりです。劉駐英中国大使は「そんなのデタラメ」
と一蹴したものの、その言葉の白々しさは、世界中に広がること
になったのです。さらにラーブ外相は、「ジェノサイド(民族浄
化)」という言葉を使って、中国政府の行為をナチスの蛮行にた
とえて、批判したのです。2020年7月19日のことです。
 新疆ウイグル自治区の問題は、英国政府は前から知ってはいま
したが、見て見ぬ振りをしてきたのです。しかし、香港の自由を
侵害する中国政府のやりかたを牽制するため発言したのです。
 これを受けて、7月21日、ポンペオ国務長官(当時)は、次
の発言をし、協力を呼び掛けています。
─────────────────────────────
 中国共産党の試みに対抗するため、英国を含むすべての国に協
力してほしい。脅威を理解し、対応できる連合を築ければ・・
              ──ポンペオ米国務長官(当時)
─────────────────────────────
 このようにして、ジェノサイド問題は、燎原の炎のように世界
にひろがっていったのです。
 来週からのEJは、このような流れを受けて、「デジタル社会
論」の後編という位置づけで、中国、いや中国共産党対日本を含
む自由主義国との対決の構図で、引き続き、リブラ(ディエム)
や、デジタル人民元など、デジタル技術問題を取り上げて、書い
ていくことにします。ご愛読をお願いします。
          ──[デジタル社会論/072/最終回]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の台頭/かつての日本との類似点と相違点
  ───────────────────────────
   日本は20世紀に二度、欧米に戦いを挑んだ。最初は軍の
  主導により強大な帝国になろうと試み、二度目は工業大国を
  目指した。そしていま、中国が世界の舞台に立とうとしてい
  る。第二次世界大戦での日本の降伏から75年、日本のバブ
  ル崩壊後30年が経ったいま、21世紀にアジアの大国であ
  る中国が台頭し、世界の現状に揺さぶりをかけている。
   日本がそうであったように、欧米の強大国に立ち向かう中
  国は、その増大する経済力や、軍事力が脅威とみなされてい
  る。一方で中国は、かつての日本とまた同様に、欧米諸国が
  中国の台頭を抑えようとしていると危惧し、国民と指導者の
  間で国家主義的な感情を煽っている。
   だが、世界の様相は一変した。植民地は独立し、多くの国
  が核武装している。国際的な機関があり、経済的な依存関係
  はさらに深まっている。中国の目標は日本と似ている。経済
  成長のための資源を確保しながら、近隣地域での影響力を行
  使する点は共通しているが、その方法が異なる。軍事的な侵
  攻により直接的な支配を強いるのではなく、経済的な誘因、
  文化面での働きかけ、軍事力の段階的な構築を通して、中国
  はその地位を高めようとしている。ダートマス大学のアジア
  専門家、ジェニファー・リンド氏は、「国力を高めようとす
  る中国の手段は、実に多様だ。他国なら二の足を踏むような
  手段でもある」と述べている。  https://bit.ly/3dlDhv2
  ───────────────────────────
ラーブ英国外相.jpg
ラーブ英国外相
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2021年04月15日

●「中国ハイテク企業に吹く強い逆風」(第5471号)

 中国では「科創板」という新しい株式市場が2019年から設
立されています。上海証券取引所による開設です。中国において
「科創」とは科学技術と創新(イノベーション)を意味します。
─────────────────────────────
    ◎「科創板」
     Science and technology innovation board
─────────────────────────────
 科創板は、米中対立が激しさを増していた2018年11月に
習近平国家主席が、創設を命令したものです。資本面で米国に依
存しない体制を整えて、半導体や医療・バイオ、軍需産業などに
成長資金を流し込みたいからです。
 中国の最高権力者である習主席が推奨する株式市場であるので
当然上場が殺到し、開設以来260社に迫る勢いです。しかし、
ここにきて大きな問題が起きつつあります。それが、2021年
4月13日付、日本経済新聞朝刊のトップ記事です。
─────────────────────────────
 ◎中国ハイテク新興に逆風
  アリババ締め付け/米中対立/上場取りやめ88社
       ──2021年4月13日付、日本経済新聞朝刊
─────────────────────────────
 この2021年4月13日付の記事と、昨日の2021年4月
11日付の記事とを比較して見ることにします。
─────────────────────────────
◎2021年4月13日付記事
 ここにきて中国を代表するユニコーン(企業価値が10億ドル
=約1100億円以上の未上場企業)などが新規・上場を中断・
中止する事例が増えており、年初からの3ヵ月半で88社に達す
る。2019年7月から20年末までの1年半の累計中止者数は
64社を大きく上回る。
◎2021年4月11日付の記事
 中国企業の米国上場の勢いは続いている。中国のメディアによ
ると、2020年は、中国のスタートアップ34社が、米国で上
場、21年1〜3月には20社が上場した。さらに20社近くが
SEC(米証券取引委員会)と米国の上場の準備を始めている。
30社以上が米国上場を検討しているもようだ。
─────────────────────────────
 問題は、なぜ中国のハイテク企業が「科創板」を敬遠するよう
になったかです。それは、アリババ傘下の金融会社、アント・グ
ループの上場を直前に差し止めるなどの中国政府の不透明な市場
運営に強い懸念をもったからといわれています。そのため、中国
のスタートアップ企業の多くが、米中対立が深まるなか、続々と
米国市場に上場ラッシュをかけているのです。
 [上海/香港 4月12日 ロイター]は、これに関して、次
の報道を行っています。
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 中国ハイテク新興企業の間で、中国版ナスダック市場への上場
計画を中止する動きが広がり、一部は香港での上場を視野に入れ
ている。アリババグループ傘下の金融会社アント・グループが計
画していた370億ドル規模の新規株式公開(IPO)が、昨年
11月に延期されて以降、中国規制当局がIPO申請企業への審
査を強化させているためだ。
 ロイターが中国の取引所への申請書類を調べたところ、アント
のIPO中止以来、100社以上が上海の「科創板(スター・マ
ーケット)」と深センの「創業板(チャイネクスト)」への上場
申請を自主的に取り下げたことが分かった。
 バンカーや企業幹部によると、前代未聞の相次ぐ撤回の背景に
は、上場目論見書の審査が規制当局によって急激に厳格化され、
IPOの延期や却下、さらには処罰にまでつながっている状況が
ある。企業があわてて申請を取り下げる様子は、中国のIPOの
質、そして引受会社によるデューデリジェンスの頑健性に疑問を
生じさせる。
 この傾向が続けば、香港やニューヨークの取引所のような世界
的取引所に対抗したいという中国の野望は危うくなる。折しも中
国は海外上場企業を呼び込むための新取引所の設置を検討中だ。
                  https://bit.ly/2Rl57iz
─────────────────────────────
 どうやら、科創板への上場までに要する期間が長期化している
のです。その期間は、従来の平均6カ月から同12カ月に延び、
現在100社以上が科創板への上場を待っている状態だというこ
とです。なぜ、長期化しているかですが、IPO案件数件を抱え
る投資銀行関係者によると、「規制当局が細部の点検や立ち入り
検査に執ように関心を払い、企業を脅して追い払っている」と説
明しています。
 このような状況のなかで、バイデン米政権による中国ハイテク
企業への対立姿勢も厳しいものがあります。バイデン政権は、4
月8日、中国でスーパーコンピュータの開発を手掛ける企業や研
究機関など、7社・団体に事実上の禁輸措置を発動すると、発表
しています。
 トランプ米政権以来のことですが、中国を中国国民と中国共産
党に分けて発言しています。2020年8月2日、ポンペオ国務
長官(当時)は、中国製アプリに関して、次の厳しい発言を行っ
ています。
─────────────────────────────
 TiKTоKやテンセントのウィーチャットは、中国共産党に
直接情報を流している。        ──ポンペオ国務長官
─────────────────────────────
 中国の「国家情報法」を前提にした発言です。このような法律
を作れば、中国企業は、いずれは、中国親派国以外の世界中の国
から締め出されてしまうことは確実です。
              ──[デジタル社会論/071]

≪画像および関連情報≫
 ●中国は人治国家?それとも法治国家?
  ───────────────────────────
   中国に住んでいると、様々な場面で不条理というか、ルー
  ルが存在しないのではないかと思う場面に遭遇する。何か新
  しい法律が出来ると、それをただ守るのという考え方でなく
  どのように対応するかを考えるといった姿勢がその典型であ
  る。まさに「上有政策,下有対策」(上に政策あり、下に対
  策あり)という言葉そのままである。これが中国を「人治国
  家」と感じる瞬間である。
   しかし、実際にはどうなのだろうか。労働争議や民事裁判
  の際も、全て証拠物件に基づいて話をする必要があり、特に
  当事者の証言は、あまり重視されない。徹底的な証拠主義を
  取っている。
   例えば残業の未払いに関する労働争議であれば、残業をさ
  せたという証拠物件が必要になる。第三者の証言や命令書な
  ど具体的な証言が必要になる。法治国家であれば当然と言え
  ば当然だが、中国の混沌としたイメージからは意外と感じる
  人も多いのではないでしょうか。
   ではなぜ、多くの人が人治国家として中国を感じているの
  だろうか。それは労働争議や民事争議に発展しているケース
  を見ていくとわかってくる。一番の原因は中国に法律が、非
  常にラフであり裁判官の裁量権が非常に大きく(裁量できる
  範囲が広く)、過去の判例にあまり沿わない結論が出る可能
  性があるという点である。    https://bit.ly/3g0NjDQ
  ───────────────────────────
ラッキンコーヒー上場時セレモニー.jpg
ハイテク企業の上場誘致に再起動
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2021年04月14日

●「3年後に米国から中国企業が消滅」(第5470号)

 2021年4月11日付の日本経済新聞に中国の配車アプリの
最大手「滴滴出行(ディディ)」が米国に上場する手続きに入っ
たとのニュースが出ています。「滴滴出行」にはアップルなどの
米企業が出資しています。
 米金融界には、高成長が期待できる中国企業への投資意欲が強
いのです。それを受けて、中国のスタートアップ企業の米国上場
の勢いは激しさを増しています。上記の日本経済新聞は次のよう
に書いています。
─────────────────────────────
 中国企業の米国上場の勢いは続いている。中国のメディアによ
ると、2020年は、中国のスタートアップ34社が、米国で上
場、21年1〜3月には20社が上場した。さらに20社近くが
SEC(米証券取引委員会)と米国の上場の準備を始めている。
30社以上が米国上場を検討しているもようだ。中国の金融機関
幹部は「米国の投資家が高成長を期待できる中国のスタートアッ
プに多く出資しており、米国市場で資金回収を狙っている」と指
摘する。     ──2021年4月11日付の日本経済新聞
─────────────────────────────
 しかし、トランプ前政権は、大統領選に敗れることがわかって
いながら、2020年12月18日、トランプ大統領は「外国企
業説明責任法案」に署名しています。この法案は、2020年5
月に上院で可決、12月2日に下院で可決しています。
 この法案について、経済評論家の渡辺哲也氏は、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 「外国企業説明責任法」では、外国企業は3年間連続でアメリ
カの監査を受け、外国政府の支配下にないことを証明しなければ
上場廃止になることが定められている。もちろんアメリカ政府が
指定した軍の支配下にあると認定された企業は、この監査に対応
できない。つまり3年間の猶予期間を経て中国共産党系、中国軍
系の企業にアメリカの株式市場での上場廃止処置がとられると考
える。これらの企業は外貨を市場から入手できなくなるというこ
とだ。3年間の猶予期間を許さない状況も生まれている。日経平
均株価やダウ平均などは「指数」と呼ばれ、株式には平均以外の
さまざまな指数(インデックス)がある。2020年12月4日
には、ロンドン証券取引所で金融商品指数を算出しているFTS
Eラッセルが、中国監視カメラ大手のハイクビジョンなど、アメ
リカから中国軍の支配化企業と認定された8社を除外した。
                      ──渡辺哲也著
        『2030年「シン・世界」大全』/徳間書店
─────────────────────────────
 なぜ、中国のスタートアップ企業は米国に続々と上場しようと
するのでしょうか。
 それは、何といっても米国の中核技術は最先端であり、優れて
いるからです。そのため、技術の輸入や共同開発を組む相手とし
ては、米国がベストなのです。中国は独自技術をもっているわけ
ではなく、第3国から借りてきた技術を応用して、最先端に焼き
直しているだけです。したがって、その土台の部分の技術や部材
の供給を停止されると、それ以上大きく発展させることができな
くなるのです。それに米国で上場すれば、何といっても、ドルの
調達が容易になります。したがって、中国としては、少しでも多
くの企業を米国で上場させたいのです。
 しかし、「外国企業説明責任法」が厳格に適用されると、中国
企業は、3年も経てば米国からすべて消えてしまうことになりま
す。すでにそういう企業が続々と出てきています。
 このように米国から追い出された中国企業は、香港や中国市場
で重複上場することになりますが、中国国内では人民元しか調達
できず、外貨、とくにドルの獲得は不可能になります。
 中国がここまで米国への上場を果たそうとするまで力を得たの
は、何といっても、オバマ政権時代の中国に対する緩い対応にあ
ります。このことについて、経済評論家の渡辺哲也氏は次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 中国はオバマ政権の8年間、アメリカによる融和策を一方的に
利用し続けた。軍事利用をしないと明言しながら時間稼ぎをして
結果的に軍事基地を完成させた南シナ海の人工島問題がその典型
だ。十分な信用があり、額面価額どおりの価値を広く認められ、
国際市場で他国の通貨と容易に交換が可能な通貨は「ハードカレ
ンシー」と呼ばれる。IMFの特別引出権SDRに入ることは、
ハードカレンシーの証明だ。しかし中国はオバマ政権時代の20
16年10月に、人民元をSDR入りさせた。その代わりに為替
と資本移動の自由化を確約したのだが、これもいまだに守ってい
ない。この現実によって、トランプ政権はチャイナデカップリン
グを選択し、議会もそれを後押ししてきたのだ。そしてワシント
ンの官僚も議会のブレインたちも中国の欺瞞を知悉している。そ
のことはバイデン政権になっても変わらない。
                ──渡辺哲也著の前掲書より
─────────────────────────────
 このように米中が激突しているときに、米中双方にとって重要
な存在になりうるのは日本です。日本には半導体をはじめ、多く
の原産のテクノロジーを持つアジアの民主主義国です。もともと
通信やハイテクは日本の得意とする分野です。しかも、米国とは
同盟国であり、世界第3位の経済大国でもあります。
 中国にしても米国がダメとなったら、そういう面で頼れるのは
日本です。これまでも、米中の対立がひどくなったら、中国は日
本に対してよい関係を保とうとします。しかし、それでいて、日
本が一番嫌がる尖閣諸島への圧力をやめないのは、中国は日本の
ことがよくわかっていないのです。日本は、そういう絶好のポジ
ションにいることを十分自覚するべきです。
              ──[デジタル社会論/070]

≪画像および関連情報≫
 ●米上場「中国企業」の監督を強化する法律が成立
  ───────────────────────────
   アメリカのドナルド・トランプ大統領は12月18日、ア
  メリカの証券市場に上場する外国企業の監督強化を目的にし
  た「外国企業説明責任法」の法案に署名した。これにより、
  主に中国企業を標的にする同法が最初の法案提出から20カ
  月を経てついに成立した。
   外国企業説明責任法は、アメリカに上場する外国企業にア
  メリカの会計監査基準の厳守を求めている。具体的には、そ
  の企業が外国政府に所有ないし支配されていないことを証明
  できない場合や、その企業の監査法人が公開会社会計監査委
  員会(PCAOB、アメリカの上場企業の監査法人を監督す
  る機関)の検査を3年連続で受け入れなかった場合、株式の
  取引が禁止されて上場廃止となる。
   同法は共和党のジョン・ケネディ上院議員と民主党のクリ
  ス・バン・ホーレン上院議員を中心とする超党派の議員団に
  より起草され、2020年5月20日に上院が全会一致で可
  決。12月2日には下院でも全会一致で可決された後、トラ
  ンプ大統領に提出されていた。目下、ニューヨーク証券取引
  所やナスダックには230社を超える中国企業がADR(ア
  メリカ預託証券)を上場している。その時価総額は1兆ドル
  (約103兆円)を上回り、アメリカ株式市場の時価総額全
  体の約3%を占める。      https://bit.ly/326icyA
  ───────────────────────────
ラッキンコーヒー上場時セレモニー.jpg
ラッキンコーヒー上場時セレモニー
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2021年04月13日

●「国際社会のルールに従わない中国」(第5469号)

 2021年4月10日付の日本経済新聞の夕刊に次の記事が掲
載されていました。
─────────────────────────────
  アリババに罰金3000億円/中国当局、独禁法違反で
     ──2021年4月10日付、日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 驚くのは罰金の額の大きさです。中国で独禁法を管理する国家
市場監督管理総局が、これまでに課した罰金額では、2015年
の半導体大手の米クアルコムの60億8800万元(約1000
億円)が最高額でしたが、それが3倍の3000億円ですから驚
きです。アリババの2019年の中国国内の売上高(4557億
1200万元)の4%が罰金が対象になったのです。
 これは、アリババの創業者であるジャック・マー(馬雲)氏に
対する習近平国家主席の怒りの現れです。馬雲氏は、2020年
10月、フィンテック企業に対する政府の過剰規制に公の場で政
府を批判し、習近平主席の怒りを買ったのです。
 これがもとで、事実上、馬雲氏の支配下にあるアント・グルー
プの新規株式公開(IPO)が差し止められています。アント・
フィナンシャルは事実上、馬雲氏が経営権を握っており、そのI
POは、過去最大規模になると予想されていたのです。これにつ
いては、2月17日のEJ第5430号〜第5432号に詳しく
記述しています。
 アントグループの上場は現在も棚上げにされたままです。なお
上記の日経夕刊の記事は、次のことを指摘してしめくくられてい
ます。アリババはもうダメかもしれないのです。
─────────────────────────────
 欧米メディアは、中国政府がアリババに対し、傘下のメディア
関連の一部の資産を処分するように要求したとも報じている。香
港英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)な
どが売却対象になる可能性があるという。こうした動きは、アリ
ババの日々のEC事業にも影を落としつつある。取引先の一部か
らは、「アリババとの取引をやめることはないが、今までより同
社との距離を置くようにしている」との声も出ている。
       ──2021年4月10日付、日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 習近平主席は「中国は法治国家である」とよく発言します。し
かし、中国は法治国家ではありません。それは、法の概念が西側
社会と違うからです。
 西側社会では、法とは、統治者や王などの支配者を縛るもので
あり、国民に対する権利章典の意味も存在します。権利章典とは
人権を規定した章典のことです。しかし、中国などの儒教国家に
おける法とは、支配者が立場の弱いまたは低いものを律するため
に存在するのです。米国の独立宣言の文面に、この言葉が書かれ
ています。この言葉は、7月4日の独立記念日に無数の集会で朗
読され、何世代にもわたり学童に暗唱され、あらゆる政党の政治
家によって引用され、裁判所の判決の中で頻繁に言及されます。
─────────────────────────────
 われらは次に述べる事柄は自明の真理と信じる。すなわち、人
はすべて平等に創られている。創造主によって、人は、生存、自
由そして幸福の追求という他者から侵されることがない権利を与
えられている。これらの権利を確保するため、政府は人々の間に
樹立されるのであり、その正当な権力は、被統治者の同意に基づ
く。  ──米国の独立宣言より。  https://bit.ly/323wGz3
─────────────────────────────
 これに対して中国などの儒教国家における「法」は支配のため
の「法」であり、概念そのものが異なるのです。しかし、力の弱
かった時の中国は、この国際社会の法に縛られ、大変苦労したと
考えられています。
 しかし、力をつけた現在では、公然と国際法を否定し、自らの
支配するための「法」を世界に対して押し付けるようになってき
ています。「小が大に事えること」──事大主義を中国は、東ア
ジアの国々に押し付け始めたのです。「昔の中国とは違うぞ」と
ばかり、中華の天子が世界の中心であり、その文化や思想は神聖
である「中華思想」を押し付けるようになったのです。
 2019年4月のことです。習近平国家主席は、中国共産党機
関紙「求是」において論文を発表し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 「中国の特色ある社会主義はあくまでも社会主義であって、何
か他の主義ではない。一国がどのような主義を実行するかに関し
て鍵を握るのは、その主義がその国家が直面する歴史的課題を解
決できるかどうかである。中華民族が貧弱で、列強に搾取されて
いた頃、あらゆる主義や思想が試された。資本主義の道は切り開
けなかった。改良主義、自由主義、社会ダーウィニズム、無政府
主義、実用主義、ポピュリズム、無政府組合主義など、外から続
々と、流れ込んできたが、どれも中国の前途と運命に関わる問題
を解決できなかった」と述べている。     ──渡辺哲也著
        『2030年「シン・世界」大全』/徳間書店
─────────────────────────────
 この習近平主席の発言は、己の力を過信した傍若無人の発言で
あるといえます。これは、これまで西側諸国が長年にわたって作
り上げてきた国際社会のルールには中国は従わないぞと宣言した
に等しいからです。
 中国は、その翌年の2020年7月1日に、香港国家安全維持
法を施行しています。習近平国家主席の考え方に基づいて発令さ
れた禁断の法律の施行です。このようにして香港返還時の「英中
共同声明」で定められた「1国2制度の50年間維持」の約束は
約束の半分以上の年数を残して、あっさりと反故にされてしまっ
たのです。香港返還は1997年7月1日に行われているので、
わざわざその記念日に香港国家安全維持法(国安法)を施行して
いるのです。        ──[デジタル社会論/069]

≪画像および関連情報≫
 ●「香港激震/踏みにじられた一国二制度」(時論公論)
  ───────────────────────────
   イギリスから返還23周年の記念日を1日に迎えた香港で
  は、施行されたばかりの国家安全維持法に反対する香港の人
  たち1万人が、身の危険をかえりみず抗議デモを行い、警官
  隊とぶつかりました。香港当局の発表によりますと、これま
  でに国家安全維持法に違反したとされる10人を含む、合わ
  せておよそ370人が逮捕されたということです。香港の人
  たちの激しい怒りに対して、中国政府で香港問題を担当する
  責任者は次のように述べて法律の施行を正当化しました。
   「この法律は、香港が正常な軌道に戻る転換点となるもの
  だ。香港の返還23年に合わせた『誕生日プレゼント』であ
  り、将来、その価値が表れてくるだろう」
   それでは、今回、香港議会の頭越しに北京の中央政府から
  押し付けられた形の香港国家安全維持法とは、どのような法
  律なのでしょうか。
   発表によりますとこの法律は、▽国家の分裂や▽政府の転
  覆、▽テロ活動、それに▽外国勢力との結託によって、国家
  の安全に危害が及ぶ犯罪を処罰するものです。最も重い罪に
  は「終身刑」が課せられると規定されています。また、香港
  政府からの管理を一切受けずに、中央政府が独立して取り締
  まりができる出先機関も設けられます。さらに容疑者を中国
  本土で裁判にかけることもできると規定されています。
                  https://bit.ly/3mAgJK4
  ───────────────────────────
香港激震/踏みにじられた「一国二制度」.jpg
香港激震/踏みにじられた「一国二制度」
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2021年04月12日

●「中国は経済で米国に対抗できるか」(第5468号)

 最近つくづく感ずることがあります。それは、日本の国力が劣
化しつつあるということです。典型的なのは、日本の新型コロナ
ウイルス対応のワクチン接種率の異常なほどの低さです。202
1年4月9日現在のG7の人口100人当たりのワクチン接種回
数は次の通り、日本は、ワクチンそのものの考え方の違いもある
でしょうが、ダントツの最下位です。
─────────────────────────────
        英国 ・・・・ 56・1回
        米国 ・・・・ 51・7回
       ドイツ ・・・・ 19・5回
      イタリア ・・・・ 19・5回
      フランス ・・・・ 19・1回
       カナダ ・・・・ 18・6回
        日本 ・・・・  1・2回
                  https://bit.ly/3uBxQ10
─────────────────────────────
 しかし、経済という側面から見ると、日本は世界第3位とはい
え経済大国であり、それなりの地位を築いています。キャッシュ
フロー分析というものがあります。この手法で日本の生存可能年
数を算出してみます。現在の日本は、世界第2位の1・4兆ドル
の外貨準備を保有しています。それと、世界第1位の対外純資産
3・1兆ドルを抱え、2009年から2018年の年平均のドル
・キャッシュフローは740億ドルとなっています。
 外貨準備の1・4兆ドルと対外純資産の3・1兆ドルを合計し
て4・5兆ドル──1ドル=109円とすると、日本は約491
兆円のドルを保有しています。ほぼ日本の国家予算に匹敵する額
になります。これだけあれば、食糧とエネルギーの調達には、年
平均で2000億ドル必要ですが、キャッシュフローがなくなっ
たとしても、約20年は生存できる計算になります。これは、そ
れで大変なことであると思います。
 しかし、問題点もあります。日本の問題点について、、白井一
成氏は次のように指摘しています。
─────────────────────────────
 現在は、ドルストックを豊富に抱え、ドルを毎年稼いでいるか
らドル円の為替相場は安定し、いつでもドルを調達できるわけで
あるが、外貨準備の中のドルの構成比は95%と高いと推定され
る一方で、金の構成比は3%とかなり低い。仮に金が高騰した場
合、ヨーロッパ諸国(ドルの構成比は27%程度と推定されるの
に対して、金の構成比は52%と推定される)に逆転される可能
性がある。これは一例であるが、資産価値は相対的であるため、
常にポートフォリオ的な発想が必要である。
 また、対内投資は他国に比べ圧倒的に低い。過去の巨額の貿易
黒字にあぐらをかき、日本の中に魅力的な投資先を作ってこなか
ったということであるが、今後は貿易が縮小する中で、投資受入
れは死活問題である。しかし、見方によっては投資受入れ余地が
あると前向きに考えることもできる。投資環境を整備し、海外か
らの投資を喚起すれば、膨大な外貨を獲得できる可能性がある。
     ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編
 『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』/実業之日本社
─────────────────────────────
 米中が徹底的に対立し、中国が台湾や尖閣諸島への軍事圧力を
強めた場合、米国は、同盟国を巻き込んで、中国に対して徹底的
な経済制裁を仕掛けるはずです。それに中国は耐えられるでしょ
うか。それだけの備えが中国にあるでしょうか。
 4月1日のEJ第5461号でも少し述べたように、基軸通貨
国である米国とそうでない他国との関係は、銀行と一般企業との
関係に近いといえます。非常に弱い存在なのです。中国はよほど
経済をしっかり守らないと大変なことになります。
 その備えとして、中国は各国と通貨スワップ協定の締結に必死
になっています。2013年以降に中国が通貨スワップ協定を締
結したのは、40の中央銀行で、総額は3・7兆元(0・5兆ド
ル)に上がります。しかし、中国は、米国のFRBと通貨スワッ
プ協定を締結していないのです。
 各国の中央銀行と互いに協定を結ぶ目的は、自国に通貨危機が
起きたさい、自国通貨の預け入れと引き換えに、協定を結んだ相
手国の通貨をあらかじめ定めたレートで融通してもらえる協定で
す。日本も2018年に中国と2000億人民元の通貨スワップ
協定を締結しています。しかし、その契約内容の詳細は、公表さ
れていないのです。
 しかし、単に「通貨スワップ協定」という場合は、次のことを
意味しています。
─────────────────────────────
 通貨を対象とするデリバティブ(金融派生商品)取引のひとつ
で、異なる通貨間の金利と元本を交換する(スワップする)取引
を、「通貨スワップ」といいます。例えば、ドルでの支払いのた
めドル建て社債を発行して、通貨スワップで円に換えれば利払い
や元本償還が円になるため、将来の支払いが円貨で確定します。
                  https://bit.ly/2Q6C0yZ
─────────────────────────────
 中国の通貨スワップ協定は、3年周期で定期的にほとんど更新
されていますが、2021年に更改が予定されているのは、現在
中国と政治的対立が激化しているオーストラリア、それにジェノ
サイド問題で対応が注目される英国が更改期に当たっています。
 なお、日本も2021年の更改組になりますが、公開すること
になるはずです。なお、協定の有効期限は2021年10月25
日です。日本銀行のリリースによると、日銀は2000億人民元
が、中国人民銀行は3・4兆円が引出限度額として明記されてい
ます。そうする必要が生じたとき、日本は2000億人民元を、
中国人民銀行は3・4兆円を引き出すことになっています。
す。            ──[デジタル社会論/068]

≪画像および関連情報≫
 ●顕在化した中国のアキレス腱、外貨ひっ迫と人民元不安
  武者リサーチ代表/武者陵司氏
  ───────────────────────────
   世界経済と金融市場のアキレス腱が中国であることがはっ
  きりしてきた。国際金融市場を不安にしている資源国やアセ
  アン、アジアNIES諸国の通貨下落、経済悪化はひとえに
  中国経済の急減速を原因としている。鉄道貨物輸送量、粗鋼
  生産量、発電量、輸出・輸入額など中国の基本的なミクロデ
  ータはいずれもゼロないしはマイナス圏にあり、7%成長と
  いう公式統計は実態を反映せず、中国の経済は失速したとい
  う観測も誤りとは言えないかもしれない。また安定していた
  金融市場も上海株式は6月のピーク以降4割の大暴落となり
  8月には予想外の人民元の切り下げから元の暴落の懸念も顕
  在化した。そして、それまで中国情勢に対して超然としてい
  た世界の株式市場も、中国発の第二のリーマンショックぼっ
  発の懸念からか、8月末以降急落した。
   言うまでもなく米・日・欧先進国は経済拡大の途上にあり
  世界リセッションの可能性は低い。また中国リスクの高まり
  世界的株価下落に対しては各国では追加的政策、量的金融の
  増額、財政拡大が打ち出され、それも株価を支えるだろう。
  他方中国でも財政出動や金融緩和、資本取引規制や為替統制
  市場価格操作などが打ち出され、一定の成長復元、市場の鎮
  静化がなされる公算もある。リーマンショックのようなスパ
  イラル的悪循環の可能性は考えにくく、一方方向の株価下落
  にもならないだろう。      https://bit.ly/2PQ1JvO
  ───────────────────────────
中国人民銀行.jpg
中国人民銀行
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2021年04月09日

●「中国は真に資本自由化ができるか」(第5467号)

 シナリオプランニングの「米中対立の5つのシナリオ」を再現
します。
─────────────────────────────
   ◎第1のシナリオ ・・・  9%
    中国の積極的関与VS米国積極的関与
   ◎第2のシナリオ ・・・ 21%
    中国の積極的関与VS米国の消極的関与/米国の傍観
   ◎第3のシナリオ ・・・ 21%
    中国の消極的関与VS米国の積極的関与
 → ◎第4のシナリオ ・・・ 42%
    中国の消極的関与VS米国の消極的関与
 → ◎第5のシナリオ ・・・  7%
    中国の消極的関与VS米国の傍観
     ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編
 『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』/実業之日本社
─────────────────────────────
 第1のシナリオから第3のシナリオまでの説明は、既に終わっ
ています。第4のシナリオから始めます。
 第4のシナリオは「中国の消極的関与VS米国の消極的関与」
のシナリオです。
 結論からいうと、このシナリオは実現の可能性が一番高いとい
えます。その発生確率は42%であり、それを示しています。も
ともと米国は通貨のデジタル化には消極的であるので、このシナ
リオでは、中国が積極姿勢から、何らかの事情で、消極姿勢に転
じたということになります。その理由は何でしょうか。
 それは、やはり、資本の自由化が困難であるということになり
ます。通貨覇権を握るためには、資本の自由化が不可欠ですが、
その実現には、政治体制の転換が必要になるからです。
 なぜ、中国は資本の自由化ができないのでしょうか。
 トランプ前米大統領は、中国を「為替操作国」に指定しました
が、高橋洋一嘉悦大学教授は、これに関連して、中国の資本の自
由化について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国で自由な資本移動を許すことは、国内の土地を外国資本が
買うことを容認することになり、土地の私有化を許すことにもつ
ながる。中国共産党にとっては許容できないことであり、そうし
た背景があるので、中国は必然的に、@自由な資本移動を否定し
A固定相場制と、B独立した金融政策になる。
 米国はこうした中国を「為替操作国」というレッテルを貼り、
事実上、固定相場制を放棄せよと求めるわけだ。これは中国に自
由主義経済体制の旧西側諸国と同じ先進国タイプになれと言うの
に等しい。中国が「為替操作国」の認定から逃れたければ、為替
の自由化、資本取引の自由化を進めよというわけだが、為替の自
由化と資本移動の自由化は、中国共産党による一党独裁体制の崩
壊を迫ることと同義だ。今回の措置は、ファーウェイ制裁のよう
に、米国市場から中国企業を締め出すための措置だと見る向きも
あるが、筆者にはそれにとどまらない深謀遠慮があるように思わ
れる。               https://bit.ly/2R8LIBm
─────────────────────────────
 高橋教授の解説で明らかであるように、中国が政治体制を大幅
変更することは、不可能なことです。そうであれば、世界第2位
の経済大国に甘んずるしかないことになります。
 第5のシナリオは「中国の消極的関与VS米国の傍観」のシナ
リオです。
 このシナリオの想定は、世界中が新型コロナウイルス対策のヘ
リコプターマネーによって、法定通貨の価値の凋落が起こり、非
中央集権的なデジタル資産がその主軸を占めるというものです。
法定通貨が価値を落とし、金が価値を生むというように、デジタ
ル通貨を位置づけるというものです。
 中国問題グローバル研究所の白井一成理事は、初期のビットコ
イン信奉者を例にひき、次のように述べています。
─────────────────────────────
 初期のビットコイン信奉者は、法定通貨の膨張に危機感を募ら
せ、ビットコインをデジタルゴールドと位置づけることで、イン
フレのない貨幣世界の建設を夢見てきた。まさに彼らが想定した
未来の到来である。しかし、その想定された世界よりも、実際に
は、さらにデジタル化が加速し、非中央集権のサービスや資産も
拡大しよう。インフレが進行し、ビットコインや美術品などの希
少な資産の価格も上昇するだろう。デジタル化と法定通貨の相対
的な地位低下によって、国家の衰退も顕著となろう。
  ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編前掲書
─────────────────────────────
 白井一成氏によるシナリオプランニングにおいて書かれている
「中国の積極化」とは、中国の政治体制の変化があるか、規制が
解放されることを前提にしています。しかし、現在の中国の状況
を考えると、そのようなことが最も実現しにくい可能性であると
いうことができます。
 シナリオプランニングは、その最も起こりえないと思われる可
能性をも含めて考えるプランニングです。そういう起きる可能性
が小さいことが、もし、起きたこと場合への対処も、隣国である
日本としては考えておく必要があります。
 もし、中国にそのような体制変化が起きたとすると、そこに巨
大な市場を持つ比較的民主主義な国が出現することになります。
これが日本に与える影響は計り知れないものがあります。この場
合、日本の東アジアでの民主主義国というポジションが相対的に
低下し、日本が埋没してしまうことになります。そのとき、日本
はどう対処すべきでしょうか。
 このように、白井氏による5つのシナリオをベースとして、日
本の立ち位置、戦略について、改めて検討する必要があると思い
ます。           ──[デジタル社会論/067]

≪画像および関連情報≫
 ●中国、米中経済戦争で遠のく資本自由化
  ───────────────────────────
   中国は、できるだけ早期に資本自由化をしようと望んでい
  る。中国が今後、さらなる発展を遂げていくためには、資本
  自由化によって海外から多くの資金を集めることが不可欠だ
  からだ。ところが、少しでも窓を開けようとすると、海外の
  投機資金が入り込んできて経済を不安定にさせてしまう。こ
  れまでは貿易収支の大幅黒字が続いたのでなんとか持ちこた
  えてきたが、米中経済戦争の激化によってそれも難しくなっ
  てきた。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)
   李克強首相は2013年に、主宰する国務院(内閣)常務
  会議で、各分野の改革を積極的に進めていくようにとの指示
  を出している。中でも注目されたのは、かねて懸案となって
  いた資本自由化について具体的な実施案の検討を指示したこ
  とだった。これを受けて、資本自由化に向けての準備的な措
  置がいくつか打ち出されたりした。
   ところが、15年の人民元切り下げをきっかけに、海外へ
  の資金流出が激化した。外貨準備はその後の2年間で2割以
  上も減ってしまった。資金流出を防ぐために、外貨リスク準
  備金の導入、一方向の為替変動を抑制するシステムの導入、
  資金流出規制の強化など、資本自由化に逆行する規制策を導
  入せざるを得なかった。     https://bit.ly/31TmSrd
  ───────────────────────────
米中対決.jpg
米中対決
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2021年04月08日

●「デジタルドル発行の実現の可能性」(第5466号)

 中国問題グローバル研究所理事、白井一成氏のシナリオプラン
ニングによる「米中対決の5つのシナリオ」について検討するこ
とにします。5つのシナリオとは次の通りです。
─────────────────────────────
   ◎第1のシナリオ ・・・  9%
    中国の積極的関与VS米国積極的関与
   ◎第2のシナリオ ・・・ 21%
    中国の積極的関与VS米国の消極的関与/米国の傍観
   ◎第3のシナリオ ・・・ 21%
    中国の消極的関与VS米国の積極的関与
   ◎第4のシナリオ ・・・ 42%
    中国の消極的関与VS米国の消極的関与
   ◎第5のシナリオ ・・・  7%
    中国の消極的関与VS米国の傍観
     ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編
 『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』/実業之日本社
─────────────────────────────
 第1のシナリオは、「中国の積極的関与VS米国積極的関与」
のシナリオです。
 米国と中国がデジタル覇権を目指してガチンコで戦うシナリオ
ですが、実際にそれが起きる可能性は低い(9%)という考え方
です。もし、ガチンコでやれば、ドル覇権国(ドル基軸通貨国)
の米国が勝つと思われます。それに、ガチンコでやるには、中国
は資本開放をする必要があります。これについて、白井一成氏は
次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国が資本移動を自由化するためには、政治体制の変更を伴う
可能性が高い。平時における体制変更は容易でない。また体制変
更が資本解放に直結するわけでもない。資本解放のためには世界
銀行が求めたような市場経済化を達成し、中国が潜在成長率(資
本、労働力、生産性という3つの生産要素を最大限に活用できた
場合のGDP成長率)を高めることが必要となろうが、米中冷戦
を継続しながら、それを実現することはなかなか困難な道であろ
う。一時期にせよ、大規模な資本逃避は避けられなさそうだ。
   ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編より
─────────────────────────────
 第2のシナリオは、「中国の積極的関与VS米国の消極的関与
/米国の傍観」のシナリオです。
 このシナリオも、シナリオ1と同様に中国は資本開放をするこ
とが前提となっています。これは、中国にとって最大の難問であ
ります。これは、もし実施すると、大規模な資本逃避が起きる可
能性があり、政治体制の転換すら伴うからです。
 もし、中国がこの難問をクリアし、米国がその動きに関し、消
極的対応や傍観するならば、これまで米国に集中していた資本が
中国に向かうことになり、中国はデジタル覇権を確立する可能性
があります。その可能性は21%です。
 折しも世界はデジタル化に急速に進んでおり、これに関して白
井一成氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 裏付け資産なしのオープン型デジタル人民元が発行され、世界
中で広範に使用される。「中国のウォレット全面解放」という西
側諸国にとっての脅威シナリオが実現することになる。デジタル
資産の規模が「ウォレット(人口)×取引数」に連動すると見る
と、巨大な人口を抱える中国の潜在力は大きいと考えるのが自然
であろう。体制変更により、その大きい潜在力をフルに発揮する
ことになる。中国に富が集中し、エネルギー調達も可能になる中
で、中国による監視社会化が実現しよう。一帯一路への風当たり
も強かったが、一帯一路経済圏も完成し、「中国の夢」も成就す
る。 ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編より
─────────────────────────────
 しかし、中国は、米国を中心に世界的にその覇権主義が嫌われ
てきており、中国によるデジタル覇権奪取の動きに関して、ヨー
ロッパを含む民主主義国全体に、中国に対して強い警戒心が生ま
れてきています。それによって米国が、積極的関与に転換する可
能性は十分残されています。
 第3のシナリオは「中国の消極的関与VS米国の積極的関与」
のシナリオです。
 このシナリオは、米国の強気の政策に関して、中国が怯むとい
うか、弱気になるケースです。米国がコトの重大さに気が付き、
デジタルドルを発行し、デジタル人民元を凌駕する姿勢を見せる
と、同盟国の日本をはじめ米国に同調する国は増加し、中国は突
き放されてしまうことになります。米国は既存のドルは失うが、
デジタルドルの発行自体には障害はないはずです。
 その可能性は21%。これに関して、白井一成氏は、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 中国にとっては、せっかくアメリカの背中が見え、もう少しで
覇権取りが見えたところだったかもしれないが、これで決定的に
アメリカに突き放されてしまうことになる。消極的であったデジ
タル覇権にすらアメリカが積極的であるのであれば、他の分野で
もアメリカの攻勢は当然強いものであるだろう。
 中国の劣勢は鮮明になっていき、「中国の夢」は潰えてしまう
ことになる。ロシア、日本に続く形で、中国もアメリカの前に屈
してしまうことになる。覇権取りという野心を捨てざるを得なく
なった中国は、これまでの無理もたたってしまい、さまざまな問
題点が噴出するだろう。「中所得国の罠」を体現することになっ
てしまう。
   ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編より
─────────────────────────────
              ──[デジタル社会論/066]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタルドルの可能性/金融アナリスト・久保田博幸氏
  ───────────────────────────
   米国のイエレン財務長官は2月22日のニューヨーク・タ
  イムズ主催のバーチャル会議で、ソブリンデジタル通貨の発
  行を「中央銀行が検討するのは理にかなっている」と発言し
  た。さらにデジタルドルは、米国におけるファイナンシャル
  ・インクルージョン(金融包摂)面の困難に低所得世帯が対
  応するのを支援する可能性があるとの認識を示した(23日
  付ブルームバーグ)。
   カンボジアの中央銀行は昨年10月に、中央銀行デジタル
  通貨システム「バコン」の運用を開始した。このデジタル通
  貨は日本企業の技術を採用したものである。中央銀行デジタ
  ル通貨は、カリブ海の島国バハマでも、本格的な運用が始ま
  った。そして中国も昨年10月に、ハイテク都市の深センを
  皮切りにデジタル人民元の大規模な実証実験をスタートさせ
  た。イエレン氏は今年1月の議会公聴会で、暗号資産(仮想
  通貨)に関わるマネーロンダリングやテロリストの利用等、
  犯罪に利用される点が課題だと指摘していた。
   これに対して中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、それ
  自体が法定通貨となるものである。ECBのラガルド総裁も
  昨年11月にECBが数年以内にデジタル通貨を創設する可
  能性を示唆していた。日銀は現時点で中央銀行デジタル通貨
  を発行する計画はないとしているが、決済システム全体の安
  定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に
  的確に対応できるよう、しっかり準備しておくとしている。
                  https://bit.ly/3fNYi3a
  ───────────────────────────
バイデン大統領とイエレン財務長官.jpg
バイデン大統領とイエレン財務長官
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2021年04月07日

●「中国の『アジア元』構想とは何か」(第5465号)

─────────────────────────────
 周知のように、現在の世界通貨体系は、ドルが覇権を握ってい
る。近年では、世界の中央銀行が保有する外貨準備におけるドル
のシェアが減少し続けているが、依然として62%のシェアを占
めており、独占している。(一部略)
 世界諸国における中央銀行が保有する外貨準備の人民元の割合
は2%しかない。人民元という小さなさなぎはデジタル化によっ
て蝶になる。そして、世界諸国はこれを機に独自のデジタル通貨
を導入し、そのか細い翅を羽ばたかせれば、それがもたらす「バ
タフライ効果」は必ず世界の通貨システムにハリケーンのような
衝撃的影響を与えることになるだろう。
     ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編
 『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』/実業之日本社
─────────────────────────────
 これは、中国問題グローバル研究所の中国代表である北京郵電
大学経済管理学院の孫啓明教授の一文です。中国がデジタル人民
元で何を狙っているかがよくわかる一文です。藤誉・白井一成共
著のなかで紹介されているものです。中国という国は、1%の可
能性さえあれば、100%の努力を惜しまない国です。そして一
度立てた目標は何100年かかろうとも実現させようとします。
 孫啓明教授が述べているように、世界の中央銀行が保有する外
貨準備のドルの割合は62%、人民元は2%です。中国はこの絶
望的な差をデジタル人民元で逆転しようとしています。これは凄
いことです。米国は、現在のところ、通貨のデジタル化には消極
的であり、中国の出方を慎重に窺っていまするこのような状況に
おいて、中国問題グローバル研究所の白井一成氏は、日本の取る
べき戦略について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本にとっての最適戦略は、中国が積極的になる前に、日本が
アメリカの積極策を引き出し、ドルのデジタル化と普及に最大限
貢献することだ。しかし、アメリカは現在のドルによる利益を享
受しているので、アメリカにデジタル化のインセンティブがある
かどうか不明である。日本がアメリカの同意を得ず、デジタル化
を進めれば有らぬ誤解を生むかもしれない。
 ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編の前掲書
─────────────────────────────
 中国問題グローバル研究所の所長で、中国分析の第一人者とさ
れる遠藤誉氏は、中国は米国の無関心さに乗じて、その逆のこと
を積極的にやろうとし、現在、着々と手を打っていると述べてい
ます。そのカギを握るのは、ブロックチェーンです。2019年
現在の、全世界のブロックチェーン企業の特許申請数は次のよう
に、圧倒的に中国がリードしています。
─────────────────────────────
 ◎全世界のブロックチェーン企業の特許申請数ランキング
         中国 ・・・・・ 60%
       アメリカ ・・・・・ 22%
         日本 ・・・・・  6%
         韓国 ・・・・・  5%
        ドイツ ・・・・・  3%
        その他 ・・・・・  4%
 ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編の前掲書
─────────────────────────────
 孫啓明教授が考える中国の考えはこうです。現在、世界の中央
銀行が保有する外貨準備においては、ドル(62%)と、ユーロ
(20%)が盤石の地位を占めています。それならば、ドルとユ
ーロ以外の国際決済通貨が連携すれば、「三つ鼎」の世界通貨体
制ができる──そのとき、その成否のカギを握るのは5%のシェ
アを持つ日本であると。
 中国は、ASEAN、アフリカをはじめ、一帯一路を形成する
すべての国にデジタル人民元を拡大し、そのうえで、「中日韓自
由貿易協定」を結び、人民元、日本円、韓国ウォン、香港ドルに
より構成されるバスケットに裏づけられる、価格の安定している
スティーブルコインを民間主導で開発し、まず、クロスボーダー
取引で実験してみるべきであるといっています。
 そして、最終段階として、人民元、日本円、韓国ウォンを「ア
ジア元」として、ドル、ユーロ、アジア元の「三鼎体制」を確立
するというのです。それに伴い、対外投資を担当する「一帯一路
デジタル中央銀行」を設立すると宣言。もちろん、日本や韓国が
それに乗るかどうかは別として、中国としては、そういう構想を
持っているということです。そして、孫啓明教授は最後に次のよ
うにいっています。
─────────────────────────────
 (日本や韓国と)取引するに当たって、現在交渉が加速してい
る中日韓自由貿易協定(FTA)を利用する。スティーブルコイ
ンによる便利なクロスボーダー決済サービスは、中日韓の経済貿
易協力を促進するだろう。香港はこの地域の主要な貿易・金融セ
ンターとして、本土(中国大陸)に支えられ、アジアに拠点を置
き、世界にサービスできるという利点を生かして、クロスボーダ
ー貿易の新しい研究と応用に積極的に参加する。FTAとステー
ブルコインがあればSWIFTを経由しなくても、すぐに取引で
きる。
 ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編の前掲書
─────────────────────────────
 このように、中国は戦略的に一歩一歩計画を進めています。既
に韓国は、中国によって、日中韓から引き剥されつつあります。
菅総理とバイデン米大統領との日米首脳会談が延期されたのは、
米国の準備の事情のようです。米国にとっても戦略的に日本を取
り込まないと、大変なことになるということは十分わかっている
はずです。問題は、首脳会談で日本は何を要求されるかです。
              ──[デジタル社会論/065]

≪画像および関連情報≫
 ●日中韓、日中韓、FTA交渉を加速 協力深化には課題
  ───────────────────────────
  【成都=杉原淳一】安倍晋三首相と中国の李克強首相、韓国
  の文在寅大統領は2019年12月24日、中国・成都で首
  脳会談を開いた。会談終了後に公表した成果文書には、「日
  中韓自由貿易協定(FTA)の交渉を加速する」と盛り込ん
  だ。ただ、日韓では輸出管理、日中では次世代通信規格「5
  G」で、さや当てを続けており、協力深化に向けた課題は多
  い。安倍首相は首脳会談後の共同記者発表で「十分な付加価
  値を有する日中韓FTAを追求することを確認した」と述べ
  た。日本にとって中国は1位、韓国は3位の有力な貿易相手
  国だが、日中と日韓の間にはFTAが結ばれていない。関税
  の引き下げや電子商取引のルールなどを整備することで、3
  カ国経済の潜在力を引き出したい考えだ。
   中国は日本が参加し、米国が参加していない枠組みのFT
  Aにはいずれも前向きだ。米中摩擦をにらみ、米国以外の国
  との仲間づくりを進めたい意向がある。米国に対抗する狙い
  から、中国は、独自の経済圏構想「一帯一路」を推進してい
  る。中国は米国に偏っていた輸出先を分散させる方針を掲げ
  ており、とくに日本向け輸出を伸ばしたい考えとみられる。
  日本は日中韓に東南アジア諸国連合(ASEAN)などを加
  えた16カ国で交渉する東アジア地域包括的経済連携(RC
  EP)を実現させた後で、高いレベルの経済連携として日中
  韓FTAを成立させたい考えだ。
               https://s.nikkei.com/3wpLiXC
  ───────────────────────────
遠藤誉氏.jpg
遠藤誉氏
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2021年04月06日

●「デジタル人民元戦略の狙いは何か」(第5464号)

 米中のデジタル覇権の「5つのシナリオ」の検討に入る前に、
中国問題グローバル研究所(GRICI)によって詳細に描かれ
ている中国のデジタル人民元戦略について、その概要を把握する
必要があります。
 同研究所の理事、白井一成氏は、中国のデジタル人民元戦略に
ついて、次のようにまとめています。
─────────────────────────────
 一帯一路で版図を広げつつ、「債務の罠」で他国に影響力を行
使する。同時にBSNによってイノベーションを加速させ、域内
の経済発展を促進させる代わりに、中国がデータを握る。また、
拡げた版図でデジタル人民元を流通させることで、金融を通じて
中国が支配的地位を確立する。超監視社会の実現であり、中国を
中心としたデジタルの冊封体制が完成する。デジタル法定通貨で
の戦いは、アメリカと中国の基軸通貨をめぐる熾烈な覇権争いの
幕開けを告げることになり、今世紀における地経学最大の問題の
一つとなろう。
     ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編
 『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』/実業之日本社
─────────────────────────────
 このなかで、いくつか説明が必要な言葉があります。「債務の
罠」と「BSN」です。「債務の罠」とは何か。
 「債務の罠」とは、中国にインフラ整備などの支援を受けた国
が、借りた資金を返済できない場合、中国がその国を政治的影響
下に置くことをいいます。
 典型的な例がスリランカです。中国政府は一帯一路の名の下で
スリランカ政府にハンバントタ港の建設で13億ドルを貸し付け
ていましたが、その資金を期日までに返済できず、スリランカは
99年にわたる同港の運営権を、中国国有企業に譲渡することに
なったのです。
 続いて「BSN」とは何でしょうか。
 BSNは、中国が2020年4月に立ち上げたブロックチェー
ンプラットフォーム──Blockchain-based Service Network の
ことで、次の説明があります。
─────────────────────────────
 BSNの目的は、膨大な数の中小零細企業や学生などの個人に
BSNを活用したアイデア着想・イノベーションを促し、ブロッ
クチェーン技術の急速な発展と普及を加速させていくこと。BS
Nのホワイトペーパーによると、BSNの設計と構築コンセプト
はインターネットに派生しているとのこと。インターネットは、
TCP/IPプロトコルを使用したすべてのデータセンターの接
続によって形成されている。
 そして、BSNもブロックチェーン動作環境プロトコルのセッ
トの作成を使用したすべてのデータセンターの接続によって形成
されている。インターネットと同様に、BSNはクロスクラウド
クロスポータル、クロスフレームワークのグローバル・インフラ
ストラクチャ・ネットワークでもある。
                  https://bit.ly/3wpdI46
─────────────────────────────
 BSNについては、改めて取り上げて、その狙いなどについて
考えます。
 世界開発センターによると、中国が一帯一路関連事業で投資す
る68ヶ国のうち、24ヶ国は債務超過に陥るリスクを抱えてい
るといわれています。具体的には、南アフリカ、シエラレオネ、
カメルーン、ザンビア、アンゴラ、ジブチ、エチオピア、タンザ
ニア、トーゴ、マダカスカル、モンゴル、東ティモール、ミャン
マー、カンボジア、ラオス、パキスタン、スリランカ、クウェー
ト、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、パプアニューギ
ニア、バヌアツ、キリバスの24ヶ国です。
 スリランカにおける中国からの直接投資残高は5・7%、中国
との貿易総額に占める比率は13・5%──これを「スリランカ
基準」といいますが、直接投資の面では42ヶ国、貿易の面では
63ヶ国がこの基準を上回っています。
─────────────────────────────
   ◎上記24ヶ国に関して
    名目GDP ・・・・・・・  1・5兆ドル
    貿易総額  ・・・・・・・  0・7兆ドル
    中国との貿易総額 ・・・・ 1858億ドル
   ◎スリランカ基準のいずれかを満たす81ヶ国
    名目GDP ・・・・・・・ 11・1兆ドル
    貿易総額  ・・・・・・・  6・0兆ドル
    中国との貿易総額 ・・・・  1・5兆ドル
 ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編の前掲書
─────────────────────────────
 いわゆる一帯一路関連国は138ヶ国です。また、中国と国境
を接している国は14ヶ国です。具体的にいうと、東から北朝鮮
ロシア、モンゴル、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ア
フガニスタン、パキスタン、インド、ネパール、ブータン、ミャ
ンマー、ラオス、ベトナムです。このうち、北朝鮮とブータンを
のぞく12ヶ国が一帯一路関連138ヶ国に含まれます。このな
かで、中国への依存度が非常に高い国、キルギス、タジキスタン
、ラオスの3ヶ国も中国に隣接しています。
 これらの国々に対して、人民元決済を浸透させていけば、クロ
スボーダー人民元決済総額に対して、相応の影響力を与えること
ができるはずです。しかし、SWIFTのデータによると、人民
元の決済総額を米ドル並みにするにはするには、現状の人民元の
決済総額を20倍にする必要があります。中国が通貨覇権を米国
から奪うには、彼我の差は大きいのです。しかし、デジタル人民
元であれば、違った結果が出る可能性があります。中国がデジタ
ル人民元に賭ける狙いはここにあります。
              ──[デジタル社会論/064]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「一帯一路」、参加国なぜ増える?欧米諸国に衝撃
  ───────────────────────────
   中国が主導するシルクロード経済圏構想「一帯一路」。参
  加する国が、だんだんと増えています。2019年3月23
  日には、イタリアが正式に参加を決定。主要7カ国(G7)
  のメンバーとしては初めてで、欧米諸国にとっては衝撃でし
  た。一帯一路とは何なのか、なぜ参加国が増えているのか。
  分かりやすく解説します。
  ――そもそも、一帯一路って何?
   中国が進める巨大な経済圏構想です。まず歴史的な背景を
  見てみましょう。中国とヨーロッパの間でははるか昔から、
  貿易が盛んに行われてきました。中国の絹がヨーロッパ大陸
  にたくさん運ばれたことから「シルクロード」と呼ばれ、一
  般的には中国の長安(現在の西安)からローマを結ぶ貿易の
  道を指します。
   一帯一路はいわば「現代のシルクロード」だと中国政府は
  言っています。2013年秋に、習近平国家主席が中国から
  中央アジアを通ってヨーロッパに至る「陸のシルクロード」
  に加え、南シナ海やインド洋を通ってヨーロッパ、アフリカ
  などに至る「海のシルクロード」を再現する構想を打ち上げ
  ました。中国政府は、陸の経済圏を「一帯」、海の経済圏を
  「一路」と名付けました。この二つを合わせて、中国語で、
  「一帯一路(イータイイールー)」、英語では「ワン・ベル
  ト・ワン・ロード」と呼ばれています。
                  https://bit.ly/3fHmO6l
  ───────────────────────────
中国と国境を接する14ヶ国.jpg
中国と国境を接する14ヶ国
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2021年04月05日

●「デジタル人民元に米国はどう出る」(第5463号)

 米国の3つの可能性とその主観的確率を再現します。
─────────────────────────────
      @米国の積極的関与 ・・・ 30%
      A米国の消極的関与 ・・・ 60%
      B   米国の傍観 ・・・ 10%
─────────────────────────────
 @の「米国の積極的関与」については、既に述べていますが、
さらにコメントを付け加えます。米国は、現在のところデジタル
通貨には消極的ですが、GAFAによって代表される米国のテッ
ク企業の動きによっては、積極化する可能性があります。これに
ついて、中国問題グローバル研究所の白井一成氏は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 アメリカの主要テック企業がデジタルドルの使用を推奨し、ウ
ォレットが共通になり、利用料の支払いやポイントの交換、友人
への送金や、出店企業やオークションで出品した売上の入金も、
すべて共通デジタル通貨になるイメージをしてみよう。
 海外に行っても、すべてデジタルドルで消費できれば、わざわ
ざ高い両替手数料を払って紙幣を持つ必要もなければ、カード払
いの為替手数料もいらない。また、アプリ内の余剰資金で、優れ
た運用商品が買えるようになるかもしれない。
 アメリカの資産のほとんどがブロックチェーン上でトークン化
され、世界中からマイクロインベストメント(少額での投資)が
可能になれば、かなりの人気を博すだろう。こうなれば、企業で
も、売掛金や買掛金、運用や借入もデジタルドルでという動きに
なってくるだろう。
     ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編
 『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』/実業之日本社
─────────────────────────────
 Aの「米国の消極的関与」について考えてみます。これに関連
するのは、フェイスブックのリブラ(ディエム)に対する米国の
対応です。フェイスブックはリブラの名称を変更するとアナウン
スして以来、動きが報道されませんが、それは米国国内のデジタ
ル通貨に対する批判が強いことを意味しています。
 リブラに関しては、その発行が銀行制度や銀行の経営に大きな
悪影響を与えて、中央銀行の金融政策の有効性を低下させる可能
性があることや、マネーロンダリング(資金洗浄)の温床になり
かねないと強い批判があります。これに対する主観的確率が60
%であることはそれを意味しています。
 リブラ(ディエム)をどうするかに関して木内登英氏は、次の
ように「捻り潰すべきではない」と主張しています。
─────────────────────────────
 民間企業が生み出す様々なイノベーションを積極的に金融業に
取り入れていくことで実現する、利便性の高い新しいサービスの
提供を後押しすることは、金融当局の重要な務めでもある。
 こうした点に照らせば、世界各国の金融当局はリブラ構想を捻
り潰すべきではないし、また、実際にそうはしないだろう。リブ
ラを捻り潰したとしても、第2のリブラは必ず出てくるし、フェ
イスブックが暗に指摘しているように、将来的には、中国のアリ
ペイ、ウィーチャットペイ、あるいは、中国の中銀デジタル通貸
が、世界を席巻する可能性も考えられるからだ。
 金融当局は、知見を集めてリブラがもたらす様々な問題点を洗
い出し、適切な規制のありかたを十分に議論し、規制の体制を整
えた上で、リブラを受け入れるべきだろう。今後、リブラに続く
グローバルなデジタル通貨の発行が続くことも予想される中、こ
の機会を使って、十分に時間を掛けて規制体系を作り上げておく
ことが求められる。     ──木内登英著/東洋経済新報社
    『決定版リブラ/世界を震撼させるデジタル通貨革命』
─────────────────────────────
 Aの対応は、中国のデジタル人民元の動きを見て対応するとい
う米国の消極的関与です。フェイスブックのリブラ(ディエム)
で対抗する手もあるかもしれません。
 Bの「米国の傍観」について考えます。これもデジタル人民元
の動きを見ながらの「傍観」です。しかし、現在の米バイデン政
権は、中国の出方に敏感であり、いずれにせよ、米国が傍観的態
度をとることはあり得ないことです。したがって、その主観的確
率は10%になっています。
 ここで添付ファイルを見てください。これは、中国問題グロー
バル研究所の遠藤誉氏と白井一成氏の本に出ていたものですが、
表の「アメリカ」のところに一か所誤植があります。「消極的関
与(30%)」とあるのは、「積極的関与(30%)」の誤りで
す。このマトリックスから、5つのシナリオが考えられます。白
井一成氏は次のように説明しています。
─────────────────────────────
 中国、アメリカの姿勢によって、6(2×3)通りのシナリオ
が考えられるが、中国が積極的に関与する場合、アメリカが消極
的に関与するケースと傍観するケースとでは、シナリオに実質的
な差が生じないため、ここでは5通りのシナリオに分けている。
 現状は「今にもデジタル人民元を始めようとする中国に対して
アメリカは様子見状態」という状況である。デジタル人民元発行
間近の中国は最初に行動をとる可能性がある。ドル覇権に不満を
抱えているのは中国なので、行動をとる動機もある。先行者利益
を得たいという思惑もあるだろう。中国が先行すれば、それだけ
アメリカの覇権崩しに寄与するだろう。
 ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編の前掲書
─────────────────────────────
 この中国問題グローバル研究所による「米中デジタル覇権の5
つのシナリオ」から経済・金融・通貨の未来について、明日から
検討をはじめることにしたいと思います。
              ──[デジタル社会論/063]

≪画像および関連情報≫
 ●「デジタル人民元」実用化を急ぐ中国の本気度
  ───────────────────────────
   中国人民銀行は2014年からデジタル通貨に関する研究
  をスタートし、2017年に、デジタル通貨研究所を設立し
  た。2019年までに、デジタル通貨研究所と中国人民銀行
  系列の印刷科学技術研究所、中鈔クレジットカード産業発展
  会社の3者が97項目の特許出願を申請するなど、デジタル
  通貨の発行方法やシステム、ブロックチェーン技術、デジタ
  ル通貨ICカード、デジタルウォレットなど、広範囲でデジ
  タル通貨に関する研究は進んでいる。現在で明らかになって
  いるデジタル人民元構想からは、大きく3つの特徴を見て取
  ることができる。
  【特徴@】通貨供給スキームが現在と同じ二重構造
   1つ目は、現在の通貨供給スキームと同じで、中国人民銀
  行が発行し商業銀行が流通させる2層構造であることだ。中
  国では、中国銀行、中国工商銀行、中国農業銀行、中国建設
  銀行の国有銀行4行を総称して商業銀行と呼ぶ。2層構造と
  はすなわち、中国人民銀行が商業銀行の準備金と引き換えに
  デジタル人民元を発行し、商業銀行がそれぞれの顧客の希望
  に応じて顧客の人民元建ての預金をデジタル人民元と交換す
  ることで、デジタル人民元を流通させる仕組みだ。
                  https://bit.ly/3wn4LrE
  ───────────────────────────
5つのシナリオの確率.jpg
5つのシナリオの確率
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2021年04月02日

●「デジタル覇権をめぐる米中の競合」(第5462号)

 「シナリオプランニング」という経営学の手法があります。以
下に定義を示します。
─────────────────────────────
 シナリオプランニングとは、起きるかもしれない未来のさまざ
まな姿を具体的に描くことで、最も確率の高い誰もが予想する未
来のみならず、インパクトの大きい未来のほかの可能性に備える
ための方法論です。つまり、シナリオ・プランニングのメリット
は、「必ず起きる未来」だけではなく、「不確実性の高い未来」
を想定の範囲内に入れることです。  https://bit.ly/3uf7u4V
─────────────────────────────
 中国問題グローバル研究所(GRICI)理事の白井一成氏は
同研究所の遠藤誉所長との共著において、米中のデジタル通貨へ
の関与について、シナリオプランニングを試みているので、その
概要を以下にご紹介します。一種の思考実験です。
 デジタル覇権に対する米中両国の関与姿勢を次のように分けて
考えることにします。
─────────────────────────────
            ◎積極的
            ◎消極的
            ◎傍 観
─────────────────────────────
 しかし、中国は既にデジタル人民元発行に舵を切っているので
中国については「傍観」を外し、中国の2つの可能性、米国の3
つの可能性、計5つの可能性について検討します。
 中国の2つの可能性とその主観的確率は次のようになります。
─────────────────────────────
      @中国の積極的関与 ・・・ 30%
      A中国の消極的関与 ・・・ 70%
─────────────────────────────
 まず、@の「中国の積極的関与」について考えてみます。可能
性としては、次の2つがあります。
 中国がデジタル覇権について積極策を行うということは、「資
本移動の自由化」が行われることが前提になります。この実現に
は、経済活性化のための市場原理導入による混乱を政治体制の維
持よりも優先する政府が出現することです。なぜ、「資本移動の
自由化」が前提かということについて、白井一成氏は次のように
述べています。
─────────────────────────────
 共産党の体制維持を最優先する中国が積極策をとるということ
は、政治体制の大転換によって、資本移動の自由化を行うことを
前提としている。政治体制に変化がなければ、国内の大胆な規制
緩和による企業の競争力向上、不透明な法律の改正、不良債権の
大幅な処理を進めることが困難で、中国の外から稼ぐ力は早晩失
われる。盤石なドル保有が為替の安定を保証しているとすれば、
その基盤が失われた際の資本移動の自由化は、中国からの資本流
出を招くだろう。
     ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編
 『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』/実業之日本社
─────────────────────────────
 しかし、これは「共産党政権維持」を最優先する現在の習近平
政権では実現は困難であると考えられます。したがって、現体制
の延長では無理であり、新しい政治体制の下で、社会主義市場経
済が行われることが考えられます。これが1のケースです。
 2のケースは、政治体制が民主主義に転換するケースです。も
しこれが実現したら、新しい中国の誕生というべき劇的変化とい
うことになります。日本や米国をはじめとする自由主義陣営がこ
のような中国の出現を願い、これまでサポートをしてきたわけで
す。しかし、これは、現在では幻想に過ぎなかったことがわかっ
てきています。
 つまり、@の「中国の積極的関与」は、実現性がもっともあり
えないケースですが、可能性としてはゼロではなく、その主観的
確率は30%となっています。
 続いて、Aの「中国の消極的関与」について考えます。このケ
ースでは、中国が一帯一路向けにデジタル人民元を発行する可能
性があります。政権の政策が変わらない場合は、このケースの可
能性が一番高く、70%の主観的確率があります。
 この場合、デジタル人民元の信用力が重要になります。経常黒
字、豊富な外貨準備高が必要ですが、現在の中国は、この面の安
定性が揺らいでいるといえます。一帯一路経済が順調に成長する
ことが重要です。
 続いて、米国の3つの可能性とその主観的確率は次のようにな
ります。
─────────────────────────────
      @米国の積極的関与 ・・・ 30%
      A米国の消極的関与 ・・・ 60%
      B   米国の傍観 ・・・ 10%
─────────────────────────────
 @の「米国の積極的関与」について考えます。米国は既にドル
覇権を握っているので、現時点ではデジタル覇権までも積極的に
目指すとは思われず、関与しても消極的になります。しかし、今
後の情勢しだいで、米国の同盟国がデジタル法定通貨のコンソー
シアムを米国が主導するよう求めてきた場合は、米国が関与する
可能性もあります。
 しかし、中国の出方によって、米国が積極的関与に転ずる可能
性があります。中国のデジタル人民元が普及拡大し、それが米国
の通貨覇権に影響を及ぼすような状況になると、米国は今までの
姿勢を一転させ、積極関与に転換する可能性があります。そうい
う可能性があるので、主観的確率が30%になっています。@に
ついては、来週のEJでも述べます。
              ──[デジタル社会論/062]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタルをめぐる覇権争いを日本人は知らない
  ───────────────────────────
   「AI(人工知能)でリーダーとなるものが世界を支配す
  る」。3年前、2017年にロシアのプーチン大統領が述べ
  た言葉である。
   時は経ち、2020年10月、私たちは新型コロナウイル
  スのパンデミックでリアルな人間同士の接触を避ける世界に
  生きている。このパンデミックは世界各国でデジタルテクノ
  ロジーへの依存をより一層加速させた。私たちがスクリーン
  越しに人と会話する時間は今や日常となった。
   そしてニュースを見ればアメリカ大統領選を前にしてティ
  ックトック買収問題をめぐって米中が思惑を巡らしている。
  中高生に人気の動画アプリが二大大国の政治と司法を巻き込
  み、マイクロソフトやオラクルといった巨大IT企業が買収
  を競うことになろうとは誰が予測できただろうか。
   ティックトックを開発したバイトダンス(北京字節跳動科
  技)は一流のAI開発者を数多く抱えることで知られ、その
  機械学習技術を用いてユーザーの嗜好を学習し、ユーザーが
  アプリを使用する時間を日々、増加させている。現在のAI
  はユーザーが気づくこともなく、アプリの裏側で大量のデー
  タを処理し、学習し続けているのだ。冒頭のプーチン大統領
  の言葉は今ではあまりに当たり前のことのように聞こえる。
  オンラインの世界での私たちの行動がデータとなり、AIに
  よって解析されていることは日常である。
                  https://bit.ly/31yhF8a
  ───────────────────────────
米中デジタル戦争.jpg
米中デジタル戦争
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2021年04月01日

●「中国に立ちはだかる米国ドル覇権」(第5461号)

 中国問題分析の第1人者である遠藤誉氏が所長を務める中国問
題グローバル研究所の理事、白井一成氏は、米国とその他の国と
の関係について次のように述べています。
─────────────────────────────
 国のモデル化を考える上では、アメリカとその他諸国との関係
は「銀行」と「一般企業」との関係に近い。銀行と一般企業とは
資金を通じて表裏の関係にあり、重要な点も必然的に異なる。銀
行が存続するためには資金をどれだけ調達できるかが重要である
一方、一般企業が存続するためには、生存に最低限必要なキャッ
シュアウトフロー(資金の流出)の把握が重要である。
 覇権国家であるアメリカは、ネットワークの外部性(同じ財・
サービスを消費する個人の数が増えれば増えるほどその財・サー
ビスから得られる便益が増加するという現象)と軍事力で世界を
支配しているため、基軸通貨であるドルの信用力が重要である。
     ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編
 『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』/実業之日本社
─────────────────────────────
 白井一成氏は、「米国はネットワークの外部性と軍事力で世界
を支配している」と述べているが、「ネットワークの外部性」と
は何でしょうか。
 ネットワークの外部性──これはマーケティングで使われる用
語で、その代表例として、SNSを上げることができます。LI
NEやツイッターやインスタグラム、フェイスブックなどによっ
て代表されるSNSでは、利用者が増えれば増えるほどサービス
の質や利便性が上がります。数人の友達だけが使っているよりも
多くの人が利用するSNSの方が便利に決まっています。
 ネットワークの外部性の間接的効果としては、マイクロソフト
のウインドウズOSとマックOSを上げることができます。現在
では、大分事情が違ってきましたが、いわゆるデファクト・スタ
ンダートのOSの方が使っている人が多いので便利です。これも
ネットワークの外部性の現象であるといえます。
 米国の場合、輸入代金の支払いを含め、対外債務のほとんどは
自国通貨であるドル建てです。基軸通貨国である米国は、自らド
ルを作り出し、それを対外債務の返済に充てることができますが
米国以外の国ではそうはいきません。ドルを手当てする必要があ
るからです。
 中国はどうなのでしょうか。中国といえども、中国企業の対外
資産では、人民元建ての比率は依然として低く、ドル建てに偏っ
ており、民間銀行のドル調達は容易ではないのです。これに関し
て、既出の木内登英氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国大手商業銀4行の年次報告書によると、2018年末時点
のドル建て債務は、ドル建て資産を上回ることになった。201
6年までは、ドル建て資産がドル建て債務を大きく上回っていた
のにである。こうした変化は、主に最大手の中国銀行によっても
たらされているようだ。2018年に中国銀行のドル建て債務は
ドル建て資産を700億ドル程度上回った。中国銀行はその年の
年次報告書で、こうしたドル建て資産と債務の不均衡は、簿外の
ドル資金で十分に対処されていると説明している。それは、通貨
スワップなどのデリバティブ取引だ。しかし、それらは、安定し
たドル調達手段であるとは言えない。
              ──木内登英著/東洋経済新報社
    『決定版リブラ/世界を震撼させるデジタル通貨革命』
─────────────────────────────
 上記の指摘に加えて、中国の中央銀行である中国人民銀行は、
日本銀行など他の主要中央銀行と違って、基軸通貨国の中央銀行
であるFRBと相互に通貨スワップ協定を結んでいないのです。
そのため、非常時において、民間銀行がドル不足に陥ったときに
FRBからドルを調達し、民間銀行を助けることはできないこと
になります。
 外貨準備があるではないかという人がいるかもしれませんが、
外貨準備を切り崩して民間銀行のドル調達を助けると、これは人
民元売りの為替介入と同じ結果を招き、それによる人民元安を引
き起こし、国外への資金逃避が拡大し、中国にとってマイナスの
結果になる恐れがあります。
 このように、中国にとって通貨覇権は、ドル覇権という大きな
壁が立ちはだかっています。国際送金を担うSWIFT(国際銀
行間通信協会)によると、決済総額のうちドルの構成比は金額ベ
ースで42・2%で第1位、ユーロは31・7%で第2位になっ
ています。
 BIS(国際決済銀行)の2019年のデータによると、為替
売買代金に占めるドルの構成比は第1位の88・3%です。同じ
2019年末時点のIMFのデータによると、外貨準備高に占め
るドルの構成比は60・9%で第1位、第2位は20・5%で、
ユーロが第2位です。
 この圧倒的なドル覇権に対して中国は、米国をのぞく各国と通
貨スワップ協定を締結しています。これに関して、既出の白井一
成氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国が締結した通貨スワップ協定のうち、人民元よりも市場シ
ェアが高い通貨(ドル、ユーロ、円、ポンド、豪ドル、カナダド
ル、スイスフランの7通貨)の引出限度額は、1・45兆人民元
(0・2兆ドル)である。中国のドル債務(0・5兆ドル)と比
較すると、やや心許ない。      ──遠藤誉・白井一成/
          中国問題グローバル研究所編の前掲書より
─────────────────────────────
 このような状況に加えて、フェイスブックの「リブラ」(ディ
エム)の発行宣言です。とくにリブラの場合、中国はドルを含む
通貨バスケットであることを重視し、デジタル人民元発行を決断
するに至るのです。     ──[デジタル社会論/061]

≪画像および関連情報≫
 ●中国通貨スワップの二面性【フィスコ世界経済・金融シナリ
  オ分析会議】
  ───────────────────────────
   2013年以降に中国が、通貨スワップを締結したのは、
  40中銀、総額は3・7兆人民元(0・5兆ドル)に上る。
  2016年以降に契約締結が確認できたものに限定しても、
  総額は3・5兆人民元となる。引出限度額が大きい国・地域
  は、香港(4000億人民元)、韓国(3600億人民元)
  ECB(3500億人民元)、英国(3500億人民元)、
  シンガポール(3000億人民元)などである。
   日本も、2018年に中国と2000億人民元の通貨スワ
  ップを締結した。通貨スワップの契約内容の詳細が公表され
  ているわけではない。日本銀行のリリースでは、日本銀行は
  2000億人民元を、中国人民銀行は3・4兆円が引出限度
  額と明記されている。必要になった際には、日本は人民元を
  中国は円を引き出すことになる。
   中国の通貨スワップは二つの側面を持つ。中国が助ける側
  に回るケースと、助けてもらう側に回るケースである。中国
  は一帯一路外交を積極展開してきた。「習近平が外国を訪問
  する時に必ず要求する3つの神器」として、「人民元取引シ
  ステムの構築」、「通貨スワップ協定」、「適格外国機関投
  資家の限度枠撤廃」が指摘されており、中国の通貨スワップ
  協定は、人民元の国際化、あるいは一帯一路沿線国における
  人民元の普及も念頭に置かれている。
                  https://bit.ly/39wchXH
  ───────────────────────────
中国の経常収支の推移.jpg
中国の経常収支の推移
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2021年03月31日

●「中国の経常収支黒字額が減少傾向」(第5460号)

 今回のテーマも今日で60回になります。なるべく1つのテー
マにつき、50回ぐらいにしたいのですが、なかなかうまくいか
ないでいます。しかし、そろそろこのテーマを閉じるところに来
ていると思います。
 ところで中国は、なぜ「デジタル人民元」を発行しようとして
いるのでしょうか。
 今や中国といえば、世界第2位の経済大国であり、軍事大国で
あり、先端技術大国でもあります。向かうところ敵なしで、その
態度は傲岸不遜、米国何するものぞという勢いです。しかし、そ
の実態をていねいに見ていくと、不安要素はたくさんあります。
 中国を取り巻く背景的な事実を探ってみると、中国では、貿易
収支に加えて、サービス、投資収益収支などを含む経常収支が、
米中の貿易摩擦が激化する以前から、減少しているのです。IM
Fは、中国の経常収支は2022年には赤字に転ずると予想して
います。既出の木内登英氏は、この点について、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 中国の経常黒字額は、リーマン・ショック(グローバル金融危
機)が発生した2008年に4200億ドル程度にまで拡大した
が、その後は、大規模な景気刺激策による輸入増加の影響なども
あって、縮小傾向での推移を続けている。2015年時点で中国
の経常黒字額は世界最大であったが、2016年にはドイツに抜
かれ、また2017年には日本にも抜かれて、現在世界第3位と
なっている。        ──木内登英著/東洋経済新報社
    『決定版リブラ/世界を震撼させるデジタル通貨革命』
─────────────────────────────
 経常黒字が縮小する原因にはいろいろありますが、サービス収
支の悪化は重要な原因の一つです。経常収支は、貿易収支とサー
ビス収支などの合計です。いずれも収支ですから、外貨の受取か
ら支払を差し引いた金額となります。
 2008年には4200億ドルの経常黒字があったのですが、
その巨額な黒字が縮小してきているのです。何が影響しているの
でしょうか。
 サービス支払いの急激な増加には、国外渡航規制の緩和を受け
て、中国人の海外旅行が拡大したことが大きく影響しています。
例えば、中国人が海外旅行で食事代金を払えば輸入、外国人が中
国旅行で食事代金を支払えば、輸出になります。したがって、海
外旅行者が激増すると、輸入が増えることになります。そういう
状況において、中国は米国との貿易摩擦の影響で、輸出が抑制さ
れ、それに輸入拡大の圧力がかかるので、貿易収支が急速に悪化
し、結果として経常収支の悪化傾向が加速することになります。
 このことに関係しますが、中国では、外貨準備額(ドル建て)
に異変が生じています。かつて日本は外貨準備高は世界一でした
が、中国の外貨準備高は2006年には日本を抜いて、世界一に
なり、現在もその地位を維持しています。しかし、米中対立が激
化する頃からその増加ペースは減少しています。もし、中国の経
常収支が赤字になり、その赤字が拡大するようなことになると、
外貨準備高は急速に取り崩されていくことになります。
 この経常収支黒字の縮小と外貨準備高の伸び悩みが中国にどの
ような影響が及ぶかについて、木内登英氏は、次のようにコメン
トにしています。
─────────────────────────────
 米国との貿易摩擦の激化を受け、輸出抑制などを通じて経常収
支の悪化を強いられること自体、中国経済の成長には大きな制約
となるが、それに加えて、外貨準備不足による対外債務返済の支
障という金融面での問題も、将来的には中国経済の大きな制約要
因になる可能性が出てきたのである。これは、米国との経済の覇
権争いにとって非常に不利なことだ。
        ──木内登英著/東洋経済新報社の前掲書より
─────────────────────────────
 これに関連するのが人民元の下落傾向です。米中対立がさらに
深まって、人民元の下落が続いています。一部では、米国による
関税率引き上げの影響を相殺するため、当局が元安を容認してい
るとの見方もありますが、中国人民銀行の関係者からは「1ドル
=7元」を超える元安は阻止するとの発言が出ています。人民元
安が進めば、資本逃避が進み、景気悪化とさらなる元安が起きる
という悪循環を避けたいからです。
 ここで問題になってくるのは人民元の国際化です。本当の意味
で米国に対抗するには、人民元が国際通貨としての地位を確立し
ている必要があります。中国としては、人民元の国際化に努力は
していますが、きわめてうまくいってはいないのです。国際取引
における最新のシェアは、次の通りです。添付ファイルをご覧く
ださい。添付ファイルでは、人民元は「Yuan」と英語表記されて
います。「エン」と似ていますね。
─────────────────────────────
         ドル ・・・ 62・0%
        ユーロ ・・・ 20・1%
          円 ・・・  5・7%
        ポンド ・・・  4・4%
        人民元 ・・・  2・0%
        その他 ・・・  5・8%
                  https://bit.ly/3m0YOMz
─────────────────────────────
 中国の紙幣をよく見ると「元」とは書かれていません。戦前期
において、日本が使っていた「圓」が正式な表記で、「元」はそ
れを簡略化した「簡体」表記なのです。日本もかつて「圓」表記
をしていたのですが、戦後簡略化されて「円」となり、中国では
「元」と簡略化されているわけです。ちなみに中国では「円」の
ことを「Yuan」と発音しているそうです。
              ──[デジタル社会論/060]

≪画像および関連情報≫
 ●人民元国際化、中国の新戦略/日本経済新聞
  ───────────────────────────
   コロナショックで一層激化した米中対立は、香港の自治問
  題をきっかけに、貿易分野から金融分野へとその主戦場を移
  した感がある。
   中国政府を強く刺激したのは、香港の銀行のドル調達を制
  限することが米国政府内で一時検討された、と報道されたこ
  とだ。米政府が事実上支配下に置く、ドル建て中心の国際銀
  行送金の大半を担うSWIFT(国際銀行間通信協会)に介
  入して、香港の銀行の活動を制限することが検討されたので
  はないか。
   SWIFTから対象国の銀行を外すことで、その国と海外
  との間の貿易を遮断することは、米国がテロ指定国への経済
  制裁の実効性を高めるための常とう手段だ。米国が将来、そ
  れを中国にも適用するリスクを、従来以上に中国政府は意識
  したことだろう。
   国際通貨基金(IMF)の2019年の報告書によると、
  中国の輸入に占めるドル建て決済の比率は92・8%と、主
  要国中で最高水準だ。SWIFTを通じたドル建て決済がで
  きなければ、中国の貿易は壊滅的な被害を受ける。米国が近
  い将来そうした措置を講じるとは考えにくいが、中国として
  は生き残りをかけて備えておくことが必要となる。その対抗
  策が人民元の国際化推進である。
               https://s.nikkei.com/3w7Az3Q
  ───────────────────────────
International Monetary Fund, Bloomberg.jpg
International Monetary Fund, Bloomberg
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2021年03月30日

●「デジタル通貨は3つの種類がある」(第5459号)

 ここまでの検討によって、「デジタル通貨」には、その発行主
体によって、次の3種類があることがわかります。
─────────────────────────────
   @「中銀デジタル通貨」
    ・中央銀行が発行するリテール向けデジタル通貨
     カンボジア「バコン」などCBDC
   A「デジタル民間通貨」
    ・民間の金融機関や企業が発行するデジタル通貨
     「リブラ」など
   B「デジタル地域通貨」
    ・自治体や商工会議所等が発行するデジタル通貨
     「白虎/Byacco」など
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 「中銀デジタル通貨」に火をつけたのは、間違いなくフェイス
ブックの「リブラ」であると思います。これに一番強く反応した
のは中国です。もともと中国は、7年前のビットコイン騒動のさ
い、ビットコインに資金が流れ続けると、通貨や金融政策を当局
が操作できなくなるという強い危機感を抱いたのです。そこで、
人民元に取って代わる仮想通貨などの台頭を抑えるため、使い勝
手のよいデジタル通貨を自ら発行する計画を立てたのです。
 情報によると、そのリブラは、各国当局に反対され、「ディエ
ム」と名称を変更し、複数通貨のバスケットから、単一通貨に1
対1の価値を持つデジタル通貨に変更する方針であるということ
です。米ドルを裏付けとする「米ドル版リブラ」として、今年中
に登場するといわれています。
 興味があるのは「デジタル地域通貨」です。会津大学の「白虎
/Byacco」があります。これなら、どこの自治体でもやろうと思
えば、実現可能です。宮沢和正氏は、日本の現行法でも可能な次
のようなアイデアを提案しています。スマートコントラクトを使
うと、こんなこともできるのです。
─────────────────────────────
 デジタル通貨の特性として、ブロックチェーンのスマートコン
トラクトを活用し、発行主体が管理可能な範囲で、減価(インフ
レ)や増価(デフレ)などの施策を打つことで、消費促進や人の
動きを変えることが可能となる。
 増価や減価の事例としては、例えば1万円で1万1000円分
のデジタル地域通貨が購入可能で、それが1ヵ月以内に使用しな
いと1万円分の価値に戻ってしまうといった施策だ。これによっ
て消費を喚起することができる。1000円分のプレミアムの増
価、有効期限到来による1000円分の減価は、現行法でも対応
可能と考えられる。デジタル地域通貨はプレミアムをつけたり、
有効期限をつけたり、特定地域に限定したりなどの機能を持たせ
て、中銀デジタル通貨にできない地方創生や地域内での経済効果
をもたらしながら発展していくだろう。
                ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 3月25日に閉幕した国際決済銀行(BIS)のイノベーショ
ンサミットにおいて中国の人民銀行デジタル通貨研究所の所長は
2022年の北京冬季五輪までに「デジタル人民元」の発行を宣
言しています。
 このような中国の積極姿勢に対して、これまでの日銀は、CB
DCに関して次のように見解を述べており、その態度はきわめて
消極的です。欧米も同じような見解です。
─────────────────────────────
 日本人は現金が好きであり、ATМはそこら中にある。お札の
偽造はないし、現金でまったく不便はない。キャッシュレスやデ
ジタル通貨は必要ない。           ──日銀の見解
─────────────────────────────
 しかし、その日銀も3月26日に「デジタル通貨/CBDCに
関する官民の連絡協議会」を立ち上げ、同日の初会合で2021
年4月から、2022年3月までの1年間にわたって、CBDC
の実証実験を次の3段階にわたって実施するとしています。
─────────────────────────────
◎第1段階
  コンピューターシステム上の実験環境で電子的にお金をやり
 取りし、不具合が生じないかなどを調べる。発行や流通といっ
 た通貨に必要な基本機能を検証し、こうした取引の記録システ
 ムも実験する方針である。
◎第2段階
  保有額に上限を設けるなどより高度な条件を設定する。オフ
 ラインでの決済や匿名性の確保、セキュリティー対策について
 も検証する。
◎第3段階
  民間事業者や個人が実際の支払いに使えるかを試すパイロッ
 ト実験に進む想定である。
       ──2021年3月27日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 日米欧の金融当局も、今やデジタル通貨が喫緊の課題であると
いう認識に変わりはありませんが、デジタル通貨化を急ぐことに
よる「銀行離れを招くリスク」を恐れています。
 デジタル通貨があまりにも使い勝手が良すぎると、銀行預金か
らデジタル通貨に資金が一気に流れ、既存の金融システムが揺ら
ぎかねないリスクがあると、米FRBパウエル議長も、ドイツ連
邦銀行ワイトマン総裁も述べています。欧州中央銀行(ECB)
のラガルド総裁は、デジタル通貨には基本的には賛成ですが、実
際の導入は4〜5年後になるといっています。それだけに、中国
のデジタル人民元には強い懸念を示しています。
              ──[デジタル社会論/059]

≪画像および関連情報≫
 ●日米欧を置いてけぼりにする中国の「デジタル人民元」の猛
  スピード/真壁昭夫氏
  ───────────────────────────
   現在、中国人民銀行(中国の中央銀行)が急速に人民元改
  革を進めている。その取り組みは大きく2つある。1つは、
  外貨準備を構成する資産の多様化(ポートフォリオの分散)
  だ。その一環として、人民銀行は米国債に加えて、わが国の
  国債などを購入している。
   もう1つは人民元のデジタル化だ。それによって、共産党
  政権は、資金フローの厳格な管理による通貨価値の安定と、
  人民元の流通範囲の拡大を目指している。近年、世界の中央
  銀行が、法定通貨のデジタル化(CBDC)への取り組みを
  進めているが、中国人民銀行のデジタル通貨開発には、主要
  先進国の中央銀行を上回る規模感とスピード感がある。
   人民元の国際化や今後の国際通貨体制に与える影響などを
  考えると、中国による日本国債取得よりも、人民元デジタル
  化のインパクトが大きい。長期的な目線で考えると、人民元
  のデジタル化が進み、それを用いる国が増えた場合、国際通
  貨体制は変化する可能性がある。
   今すぐではないにせよ、デジタル化された人民元の流通範
  囲が拡大するにつれて、世界の基軸通貨としての米ドル(ド
  ル)の覇権が揺らぐ展開は排除できない。中国人民銀行が人
  民元改革に取り組む背景には、共産党政権が人民元の為替レ
  ートの安定を目指していることがある。中国にとって重要な
  ことは、米国の意向に影響されずに、自国の社会・経済状況
  に合うよう為替政策を運営する国際的な立場を確立すること
  である。            https://bit.ly/3dfGlrl
  ───────────────────────────
デジタル人民元.jpg
デジタル人民元
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2021年03月29日

●「会津大学地域通貨『白虎』の開発」(第5458号)

 カンボジア国立銀行のデジタル通貨「バコン」の開発には、福
島県会津若松市が深くかかわっています。ところで、なぜ、会津
若松市なのでしょうか。
 会津若松市というと、私は、会社の仕事で、携帯端末「ライフ
プランナー」の指導に訪れたことがあります。雪の降る寒い日で
営業職員が大勢集まる市の公民館のような場所で、指導したこと
を今でも鮮明に覚えています。
 会津若松市には、会津大学という大学があります。江戸時代の
会津は教育熱心な藩として知られ、日新館という輝かしい伝統の
藩校があったのです。しかし、会津地域には、長く4年制大学が
なかったので、新たに県立の4年制大学を設置することにしたの
です。大学の設置に当たっては、国際化、高度情報化社会が進展
する中で、世界的視野を持ち、将来の情報科学を担い、発展させ
る人材の育成が最も重要であると考え、コンピュータ理工学に特
化した大学とし、1993年4月に開学しています。
 カンボジアのデジタル通貨「バコン」が正式に発足したのは、
2020年10月のことですが、ソラミツ社は2020年7月に
は「ハイパーレッジャーいろは」を使った地域通貨「Byacco/白
虎」を開発し、会津大学内で正式運用を開始しています。会津若
松市の有限会社スチューデント・ライフ・サポート(SLS)社
株式会社AiYUМUとソラミツ社が組んで開発したのです。
 つまり、「白虎」は、会津大学のために開発された日本初のデ
ジタル地域通貨ということになります。そういうこともあって、
現在のソラミツ社の会津支社(会津大学産学イノベーションセン
ター内に設置)には、会津大学卒の学生が多く入社しています。
 ICT専門の4年制大学は、日本にはあまりないはずです。こ
の大学がどのような大学かについて、宮沢和正氏は次のように紹
介しています。
─────────────────────────────
 入学すると、1年生からプログラミングを徹底的に教え込まれ
大量の課題が課せられ、徹夜で作業をする学生もいる。3年生か
らは英語だけの授業が本格的に始まり、卒業論文や修士論文は英
語で書かなければいけない。4年間で卒業できるのは75%程度
だという。
 このような厳しい環境で育った学生はIT業界で評価が高く、
ヤフーやNTT、ドコモなど大手に就職する学生もいて、ここ数
年の就職率は97〜98%である。また、大学ではIT技術だけ
でなく、起業に必要な教育も実施され、自らベンチャー企業を立
ち上げる学生も多い。2017年3月末時点の大学発のベンチャ
ー企業は18社あり、学生数あたりでは全国屈指の数だ。
 先の世界大学ランキングでは、「教育リソース」、「教育満足
度」、「教育成果」、「国際性」の4項目で評価されるが、会津
大は教育満足度が87・4点、国際性が75・8点と高く、全体
の評価を押し上げている。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 なにしろ会津大学の学部は理工学部しかないのです。それで4
年制です。そして、世界各国からICTの専門家を集め、たまた
ま冷戦終結と重なったことから、とくにロシアからは一流の研究
者が集まり、現在はカナダやインドなど17ヶ国から42人の研
究者が在籍し、教員の40%は外国人です。そのため、学内では
英語を使う機会が多くなっています。
 上記のスチューデント・ライフ・サポート社は、会津大学の学
生の生活支援と、大学と地域が身近な存在になることを目的とし
て、会津若松商工会議所の活動のなかから生まれています。現在
は、会津大学内食堂、売店、ブックセンター、カフェ、留学生用
寮、会津大学短期大学食堂、売店などを運営しています。株式会
社AiYUМUというのは、会津若松市が進めるICT関連整備
事業の民間運営会社です。
 つまり、地域通貨「白虎」は、大学の学生や食堂などのあらゆ
る支払いに対応できる地域通貨なのです。その特徴は、次の3つ
があります。
─────────────────────────────
          @   トークン型
          A   転々流通型
          Bブロックチェーン
─────────────────────────────
 仮想通貨の世界におけるトークンは、仮想通貨との違いも明瞭
ではなく、人によって定義があいまいです。「トークン型」とい
うのは、商品との引換券や代用貨幣という意味があります。つま
り、トークンとは「何か別の価値を代替するもの」という意味に
なります。たとえば、カジノのチップは、トークンの一例ですし
ギフトカードのように商品を購入できるものもトークンです。
 「転々流通型」は、人から人へ、企業から企業へと譲渡が繰り
返されるものを意味します。スイカとかパスモとかワオンなどの
電子マネーは、転々流通できません。つまり、トークン型と転々
流通型の2つの条件が揃うと、データ自体が現金と同じ価値を持
ち、銀行口座と関係なく使うことができます。つまり、決済され
た金額をそのまま仕入れなどで使うことができるのです。
 「ブロックチェーン」によって、改ざんや二重取引は不可能で
あり、ブロックチェーン同士の接続は容易であるので、複数のデ
ジタル地域通貨をつなぐこともできます。
 「白虎」は、会津大学の食堂と売店、ブックセンターなどで運
用を開始し、段階的に大学外へ広げる計画であるといいます。そ
して、スマートシティー構想を進める会津若松市の官民が普及を
支援すれば、「白虎」が会津市内全域で使えるようになると思わ
れます。「白虎」はカンボジアの「バコン」の技術を活用し、そ
れを日本向けのデジタル地域通貨に最適化したものです。
              ──[デジタル社会論/058]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ会津大学は“日本初”の「デジタル地域通貨」を
  導入したのか
  ───────────────────────────
   会津大学は、2020年7月1日から、ソラミツ、スチュ
  ーデント・ライフ・サポート、AiYUМUと共同で「デジ
  タル地域通貨」の正式運用を開始する。売店やカフェテリア
  などで、法定通貨に連動するデジタル通貨を利用できるよう
  になる予定だ。会津大学が採用したのは、デジタル地域通貨
  「Byacco/白虎」である。
   「白虎」は、リナックスファウンデーションが主催するオ
  ープンソース開発コンソーシアムであるハイパーレッジャー
  から生まれたブロックチェーン基盤「いろは」を基に開発さ
  れた。非改ざん性を持つブロックチェーンを基盤にするため
  通常のキャッシュレス決済手段では困難な「転々流通(IC
  カード同士で一方ICカードに蓄積した額を他方に移転でき
  る仕組み)」を実現しているという。
   「白虎」は、日本初となるブロックチェーンを活用したデ
  ジタル通貨だ。その基盤にはソラミツとカンボジア国立銀行
  が共同開発した中銀デジタル通貨「バコン」の技術がある。
  バコンは2019年7月にパイロット運用を開始し、101
  4の銀行や決済事業者と接続して1万人以上のユーザーの送
  金や店舗での支払いなど本番環境のテスト運用をスタートし
  ている。このように実績がある基盤を用いたため、「白虎」
  は、“日本向けの最適化”が3カ月程度で完了するなど、開
  発コストの低減にも成功したという。
                  https://bit.ly/31rHbvC
  ───────────────────────────
会津大学.jpg
会津大学
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2021年03月26日

●「『いろは』のどこが優れているか」(第5457号)

 「チューリングマシン」とは、数学者のアラン・チューリング
が開発したとされる、あらゆる問題が解ける仮想的な万能マシン
のことですが、それと同等の計算能力を持つ計算モデルのことを
「チューリング完全」というのです。重要なことは、ここでいう
「計算モデル」とはプログラミング言語を指すということです。
 ソラミツの宮沢和正氏は、「ハイパーレッジャーいろは」につ
いて、「あえて『チューリング完全』を選択せず、信頼できるA
PIのみを経由して動作させる」といっていますが、これは何を
意味しているのでしょうか。
 つまり、宮沢氏は、「ハイパーレッジャーいろは」は、チュー
リング完全な言語ではなく、チューリング不完全な言語であると
いうのです。チューリング不完全な言語とは、ある特定の目的に
対して専門化されている言語のことです。
 表計算ソフト「エクセル」を例をとって考えてみます。エクセ
ルは、あらゆる計算に対応できる万能なプログラムです。さらに
VBAというアプリケーションの拡張機能を使うと、計算エンジ
ンと組み合わせて、ほとんどの計算が可能になり、自動化も実現
できるのです。つまり、エクセルは「チューリング完全」といえ
ます。VBAはプログラミング言語です。VBAは次の言葉の省
略です。
─────────────────────────────
      ◎VBA
       Visual Basic for Applications
─────────────────────────────
 自動化に関連して、ブロックチェーンの「スマートコントラク
ト」について知る必要があります。スマートコントラクトはビッ
トコインの次に時価総額が大きい暗号資産(仮想通貨)「イーサ
リアム」に実装されている機能です。
 スマートコントラクトとは、プログラムに基いて自動的に契約
を実行できる技術のことです。スマートコントラクトとは、あら
かじめ契約内容を設定しておき、その条件を満たすと自動で契約
が結ばれます。この技術はブロックチェーンと組み合わさること
で信頼性の高い1対1の取引を実現することが可能になります。
 スマートコントラクトは、このブロックチェーンとスマートコ
ントラクトという別々の技術が一つに掛け合わさることで、化学
反応が起きているというようなイメージです。これについては、
添付ファイルを参照してください。
 契約というものは、次の4つで構成されており、A〜Cを自動
的に実施することができます。
─────────────────────────────
         @契約定義
         Aイベント発生
         B価値の交換、契約執行
         C決済
─────────────────────────────
 スマートコントラクトの提唱者は、米国の経済学者にして暗号
研究者のニック・サボ氏です。サボ氏は、スマートコントラクト
を表すものとして、自動販売機を例として上げています。
 自動販売機は、「利用者がお金を入れる」「飲みたいジュース
のボタンを押す」、すると、自動販売機からジュースが出てくる
──この流れを「利用者と自動販売機が契約した結果」と考える
と、お金の投入とボタンを押す行為は契約行為であり、この行為
が行われたときのみに自動販売機はサービスを提供します。つま
り、スマートコントラクトは、ある行為に紐付いた結果にいたる
までの契約の自動化をするためのものです。
 「イーサリスク」というスマートコントラクトを活用した分散
型保険プラットフォームがあります。イーサリスクでは、保険金
の支払い可否の判定や、支払いの実行を自動で行うことができま
す。保険金の支払いプロセスを自動化しているので、人件費の削
減につながり、ユーザーは割安な手数料でサービスを利用するこ
とができます。しかし、システムづくりには、プログラミングを
する必要があります。
 このように、世界の多くのブロックチェーンには、それぞれ特
殊な言語で記述する必要があります。
─────────────────────────────
  イーサリアム           ・・ Solidity
  ハイパーレッジャー・ファブリック ・・ Go
  リブラ(ディエム)        ・・ Move
─────────────────────────────
 これに対して、「ハイパーレッジャーいろは」について、宮沢
和正氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 効率よくプログラミングするには、これらの言語に精通したエ
ンジニアと十分にテストされ、品質やセキュリティに関して問題
のない多種多様のライブラリーが必要になる。こうした特殊な技
能を持ったエンジニアの採用は困難で、給与水準も非常に高い。
 これに対して「ハイパーレッジャーいろは」は、パイソンやジ
ャバスクリプトなどの、ほとんどのソフトウェア・エンジニアが
知っているブログラミング言語で開発が可能である。
 つまり、ブロックチェーンのプログラミングは、特殊なスキル
を持った少数のエンジニアではなく、一般の多くのエンジニアが
開発・運用・メンテナンスできるようになる。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 ここまでの検討で、ソラミツ社のブロックチェーン「ハイパー
レッジャーいろは」の使い勝手は、他のブロックチェーンに比べ
て、相当使いやすく、さまざまなシステム要件に合わせて設計で
きることがわかってきています。
              ──[デジタル社会論/057]

≪画像および関連情報≫
 ●スマートコントラクト言語にチューリング完全性は本当に
  必要か?ーSolidityの課題と代替案
  ───────────────────────────
   誰しもに、お気に入りの靴や、好きな食べ物があるのと同
  じように、誰にでもお気に入りのプログラミング言語がある
  でしょう。私がこの記事を書いているのは、あなたの好きな
  言語を諦めて欲しいからではありません。(どうか、私を信
  じてください、私はそんなことを言おうとは夢にも思いませ
  ん)。その代わりに、私は、私たちが一緒に旅をして、その
  旅が、私たちに考える機会をもたらしてくれることを望みま
  す。本稿では、「チューリング完全性」について議論し、ス
  マートコントラクト開発におけるその有用性を評価するとと
  もに、代替案を検討し、結果として同じ結論に到達できる期
  待を持っています。
   チューリング完全性についてよくご存知でない方に向けて
  とても簡潔な説明をしたいと思います。過去に聞いたことが
  あるが、詳細を忘れてしまった方にとっては、記憶を呼び戻
  す手助けになると思います。
   アラン・チューリングは数学者で「チューリングマシン」
  と呼ばれる仮想マシンを発明しました。この仮想マシンは、
  無限量のメモリにアクセスし、メモリー内でいつ書き込み、
  読み取り、移動すべきかを、決定するプログラムを実行しま
  す。また、どのような条件下で終了し、次に何をすべきかに
  ついてもプログラムが指示します。これらの条件に合ったプ
  ログラムを記述できるプログラミング言語はチューリング完
  全言語と呼ばれています。    https://bit.ly/3w00AlJ
  ───────────────────────────
 ●図の出典/https://bit.ly/3chrw8D
スマートコントラクト.jpg
スマートコントラクト
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2021年03月25日

●「『いろは』は具体的には何なのか」(第5456号)

 ここまで、宮沢和正氏の本に基づいて、ソラミツ社の「ハイパ
ーレッジャーいろは」について書いてきましたが、これは、いっ
たい何なのかということが今ひとつはっきりしません。そこで、
宮沢和正氏の本を参考にして、EJ風に解説を試みることにした
いと思います。
 ソラミツ社のウェブサイトを見ると、会社について次の説明が
あります。
─────────────────────────────
 ソラミツは、ブロックチェーン技術の開発と、これを活用した
新たなアプリケーションやサービスの提供を、目的とする会社で
す。私達はデジタル時代におけるユーザー主体の新たなアイデン
ティティ管理を、ブロックチェーン上で実現することを目指して
います。            https://soramitsu.co.jp/ja
─────────────────────────────
 「ハイパーレッジャー」は、オープンソースOSの「リナック
ス」の開発を推進してきたリナックス・ファウンデーションが始
めたものです。そもそもオープンソースとは何かというと、これ
についてウィキペディアに次の解説があります。
─────────────────────────────
 オープンソース (英: open source)とは、ソースコードを商用
非商用の目的を問わず、利用、修正、頒布することを許し、それ
を利用する個人や団体の努力や利益を遮ることがないソフトウェ
ア開発の手法。             ──ウィキペディア
                  https://bit.ly/31bCgyT
─────────────────────────────
 2016年10月に、ソラミツ社の「ハイパーレッジャーいろ
は」は、ハイパーレッジャー参加企業の投票による選考で、イン
キュベーション(育成)対象フレームワークとして、IBM、イ
ンテルという巨大企業と並んで選ばれています。ブロックチェー
ン・プラットフォームの世界標準候補としてです。これは、大変
なことです。
 2017年1月の時点で、ソラミツにはたった4人しか正規社
員はいなかったそうです。現社長の宮沢和正氏は5人目の正規社
員だったのです。しかし、2020年11月現在、事業の拡大に
応じて従業員が増加し、ソラミツグループは日本を含めて5法人
6ヶ国にオフィスがあり、70人規模に達しているそうです。
 「ハイパーレッジャーいろは」は、オープンソースであるので
ソラミツ社は、「いろは」によって、一切の収益を上げることは
できないことになります。それでは、ソラミツ社は、何によって
収益を上げるのかというと、次の3つを上げています。
─────────────────────────────
1.「いろは」を活用してアプリケーションを開発し、その販売
  を行うことと、システム・インテグレーションによる売上。
2.「いろは」をビジネスに活用するための開発・実行・管理ツ
  ール群、設計・開発支援などの技術コンサルティングなど。
3.「いろは」を活用したさまざまなサービスを提供する企業を
  他社と共同で立ち上げることでその収益をシェアすること。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 「ハイパーレッジャーいろは」のソースコードは公開されてい
るので、他の企業がそれを使って、上記の3つのことをやること
はできます。しかし、当然のことながら、ソラミツ社が一番「い
ろは」の全体のアーキテクチャーの細部にいたるまで熟知してい
るので、通常ではこれを上回ることは困難です。
 宮沢氏の本には、「ハイパーレッジャーいろは」について、次
の記述があります。
─────────────────────────────
 APIは「C++」のプログラミング言語を使用して記述され
ているので、自分でAPIを追加することは可能であるが、それ
には「ハイパーレジャーいろは」全体のアーキテクチャーを知る
必要があり、容易ではない。
 「ハイパーレジャーいろは」はあえてチューリング完全を選択
せず、信頼できるAPIのみを経由して動作させることで、バッ
クドア(管理者や利用者に気付かれないよう秘密裏に仕込まれた
遠隔操作のための接続窓口)やバグの混入を防いでいる。
                ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 きわめて専門的な内容ですが、「チューリング完全」とは何を
意味するのでしょうか。
 「チューリング完全」については、ウェブ上の「ブロックチェ
ーン用語集」に、次の説明があります。
─────────────────────────────
 計算理論で、ある計算のメカニズムがチューリング機械と同じ
計算能力がある場合、その言語をチューリング完全と呼ぶ。簡単
に言えば、あらゆる処理を実行できる計算能力を備えている性質
のこと。ビットコインはチューリング完全性を備えていないが、
イーサリアムでは、チューリング完全なプログラミング言語を実
装している。しかしイーサリアムは、チューリング完全性を備え
ることによって、何らかのバグが生じた時に、処理が永遠に終わ
らない「無限ループの問題」も持っている。
                  https://bit.ly/3lID9sp
─────────────────────────────
 「チューリング」というのは、英国の数学者、暗号研究者、計
算機科学者のアラン・チューリングのことです。ある計算モデル
がチューリングマシンと同等の計算能力を持つマシンということ
を意味しています。
 ここで「チューリングマシン」とは、万能なコンピュータのイ
メージを意味しています。これについては、明日のEJで述べる
ことにします。       ──[デジタル社会論/056]

≪画像および関連情報≫
 ●トヨタ、ブロックチェーンでGAFAに対抗 自動車・都市
  データを「民主化」
  ───────────────────────────
   トヨタ自動車が、ブロックチェーン技術の開発に本腰を入
  れる。2020年3月16日、同技術を活用した4種類の実
  証実験を進めていると発表した。クルマの利用履歴などをブ
  ロックチェーンに記録し、他社のデータと連携させて便利に
  する。いわゆる「データの民主化」(同社)を実現し、個人
  情報を大量に囲い込む米グーグルなど「GAFA」に対抗す
  る。トヨタは2019年4月、グループで構成するブロック
  チェーンの研究開発組織「ブロックチェーン・ラボ」を立ち
  上げた。同年内に行った実証実験で「有用性を確認した」と
  いう。2020年度内に実サービスに近い形での実験を開始
  することに加えて、自社サービスの一部をブロックチェーン
  上で実行する考えだ。加えて、提携先を多く募って新しいサ
  ービスを模索する。
   「分散型台帳」とも呼ばれるブロックチェーンには、特定
  の事業者にデータを集中させない仕組みに加えて、改ざんを
  防ぎやすい特長がある。トヨタは「インターネット誕生以来
  の革命」と位置付けており、自動車業界に多くの利点をもた
  らすとみなす。さらにトヨタは、ブロックチェーンはデータ
  を皆で共有して管理する「民主化」に役立つとみており、個
  人情報などを独占するGAFAへの対抗手段にもなると考え
  ている。「データは特定の企業が所有するものではなく、皆
  で管理していくものだ」(トヨタの担当者)と訴えた。
                  https://bit.ly/3rgIgkC
  ───────────────────────────
アラン・チューリング.jpg
アラン・チューリング/2019
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2021年03月24日

●「『デジタル円』は本当にできるか」(第5455号)

 日本銀行は、2016年からソラミツのブロックチェーン「ハ
イパーレッジャーいろは」の存在を知っていたのに、使わず、同
じハイパーレッジャーのIBMのファブリックを使い、レイテン
シ(通信の遅延時間)があると結論づけています。日銀は、あま
り「デジタル円」には積極的ではないようです。
 しかし、カンボジア国立銀行は2016年末にソラミツ社にメ
ールを送り、2017年4月にカンボジア国立銀行とソラミツ社
は共同開発契約を調印。2017年末にプロトタイプイプが完成
しています。
 2019年7月に「バコン」の本番システムのテスト運用を開
始し、世界中で、誰でもアプリをダウンロード可能になっていま
す。そして、新型コロナが原因で少し計画が遅れたものの、20
20年10月に本番をスタートさせています。世界初のCBDC
の快挙です。
 しかし、ソラミツの宮沢和正氏の本によると、2020年2月
に日銀主催の会合があったのですが、日銀の幹部からソラミツに
対して、次の発言があったそうです。
─────────────────────────────
 カンボジアは金融システムが未整備だから、ブロックチェーン
が開始できた。日本は、一足飛びに新技術に移行しないし、すべ
きではない。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 これに対し、宮沢和正氏は、「最初からやらないと決めつける
な」として、次のように猛反論しています。
─────────────────────────────
 そうではありません。カンボジアは先見の明と新しい技術に対
する理解、十分な調査と勇気があったから踏み出せたのです。日
本が古い技術にしがみ付いていると、デジタル人民元やリブラに
勝てず、世界から取り残されます。技術は日進月歩ですので、最
初からやらないと決めつけずに、小規模でブロックチェーンの実
証実験を行うべきであると思います。
                ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 直近の日銀の対応として、2021年3月16日、日本経済新
聞社と金融庁主催のフィンテック・カンファレンス「フィンサム
/2021」において、黒田日銀総裁は、日銀のCBDCについ
て、次のように述べています。
─────────────────────────────
 現時点でCBDCを発行する計画はないとの考え方に変わりは
ないが、この春からいよいよ実験を開始する予定です。
                     ──黒田日銀総裁
─────────────────────────────
 日銀の実証実験に関しては、次の3段階が予定されているとい
われます。黒田日銀総裁がいう「この春からの実験」とは、「概
念実証1」を指していると思われます。
─────────────────────────────
【概念実証フェーズ1】
  システム的な実験環境を構築し、決済手段としてのCBDC
 の中核をなす、発行、流通、還収の基本機能に関する検証
【概念実証フェーズ2】
  フェーズ1で構築した実験環境にCBDCの周辺機能を付加
 してその実現可能性などを検証
 【パイロット実験】
  概念実証を経て、さらに必要と判断されれば、民間事業者や
 消費者が実地に参加する形でのパイロット実験を行うこと
                ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 2016年はCBDC熱が高まった年といわれますが、それは
中国でもそういえるのです。習近平主席が「ブロックチェーン」
という言葉を使ったのは、2019年10月24日開催の政治局
学習会といわれていますが、遠藤誉氏によると、ブロックチェー
ンという言葉自体は、その前から使われているというのです。
 ブロックチェーンという言葉は、2016年3月16日の全人
代の最終日に、第13次五ヵ年計画(十三五計画と呼称)が決議
されていますが、そのなかに、ブロックチェーンという言葉が使
われているといいます。
─────────────────────────────
 モノのインターネット、クラウドコンピューティング、ビッグ
データ、人工知能(AI)ディープラーニング、ブロックチェー
ン、遺伝子工学などの新技術は、ネット空間を「人と人」から万
物のインターネット・パフォーマンス、デジタル化、スマート化
への駆動し、今や、それらが存在しない空間はないというところ
まで至っている。           ──遠藤誉・白井一成
        ・中国問題グローバル研究所(GRICI)編
 ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』/実業之日本社刊
─────────────────────────────
 2016年以来、「ブロックチェーン産業パーク」というもの
が、中国各地に雨後の筍のように林立し始めています。それ以来
ブロックチェーンに関する政策は大幅に増え、2019年におけ
る全世界のブロックチェーン関連政策は大幅に増加し、その数は
600を超えています。そのうち、267項目は中国であり、全
世界の45%を占めています。(添付ファイル参照)
 ブロックチェーン発展レベルでのトップ5大都市は、北京、深
せん、杭州、上海、広州の順です。さらに、中央人民銀行をはじ
めとした4大国有商業銀行を含む36の銀行がブロックチェーン
を応用した政策を実施しているといわれます。この分野でも中国
の技術の進展はすさまじい勢いがあります。
              ──[デジタル社会論/055]

≪画像および関連情報≫
 ●キャッシュレス大国、中国が推し進めるデジタル人民元とは
  ───────────────────────────
   2019年は様々なプロジェクトが独自ネットワークをロ
  ーンチ、また大企業も続々とブロックチェーンのコンソーシ
  アムを組成(提携の発表)するなど、業界にとっても変化の
  大きな1年となりました。そんな中、15億人を超える巨大
  なユーザーベースを持つフェイスブックが6月に「リブラ」
  を発表したことは、大きな衝撃を与えましたが、その直後、
  中国から中央銀行発行の「デジタル人民元」発行に関しての
  報道が相次ぎ、その勢いはとどまることなく2020年に突
  入しました。
   中国のデジタル人民元(DCEP)は、中国の中央銀行に
  より発行が計画されている、人民元をデジタル化したものを
  指します。”Digital Currency Electronic Payment”
   デジタル人民元の発行が行われるのは、基本的に中央銀行
  から民間銀行に対してのみとなります。また、民間銀行が保
  有する人民元の紙幣の枚数以上の発行はできないため、極度
  なインフレやビットコインのような激しい価格変動は起こら
  ず、基本的には従来の人民元の紙幣同様に利用することがで
  きます。中国は国際ブランドである銀聯や、QRコード決済
  であるアリペイ、ウィーチャットペイなどすでにキャッシュ
  レスの形が浸透しており、キャッシュレス大国として知られ
  ています。デジタル人民元はそれらのように会社に依存する
  形の資金管理や決済とは違い、国が主導する形でのデジタル
  通貨発行ということになります。
                  https://bit.ly/3c9T53A
  ───────────────────────────
各国ブロックチェーン政策数/2019.jpg
各国ブロックチェーン政策数/2019
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2021年03月23日

●「ソラミツ社はなぜ選定されたのか」(第5454号)

 今から考えると、2016年という年は、中央銀行によるデジ
タル通貨開発(CBDC)熱が一気に高まった年といえるかもし
れないのです。
 そもそもカンボジア国立銀行から、ソラミツ社に対して「スー
パーレッジャーいろは」のテストを行いたいというメールが届い
たのが、2016年12月13日のことです。
 2016年6月にソラミツ社は、リナックスが主催する「ハイ
パーレッジャー」というブロックチェーンの世界標準を目指すプ
ロジェクトに参加する決断をし、スイスのダボス会議で、ソラミ
ツ社のブロックチェーンの技術をプレゼンしています。
 宮沢和正氏は、このプロジェクトについて、次のように述べて
います。
─────────────────────────────
 このプロジェクトは、オープンなプロトコルと標準技術を開発
するためのさまざまな独立した取り組みをまとめたものだ。独自
のコンセンサス(合意形成)アルゴリズムとストレージ・モデル
を持つさまざまなブロックチェーン、アイデンティティのための
サービス、アクセス制御、およびスマートコントラクトなどの技
術が含まれている。
 アクセンチエア、エアバス、アメリカン・エクスプレス、バイ
ドウ(百度)、シスコ、ドイツ銀行、ダイムラー、JPモルガン
SAPなどの18社がプライムメンバーになり、世界の200社
以上の企業が集まって、ブロックチェーン技術の開発と標準化、
普及を図っている。日本からは、富士通、日立、NECがプライ
ムメンバーとして参加している。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 このとき、ソラミツ社は設立して半年しか経過しておらず、そ
ういうスタートアップ企業が、名だたる世界のテック企業の前で
プレゼンをしたのです。その審査結果は、2016年10月に発
表され、無名のソラミツ社は、最初のインキュベーションの3社
に選出されたのです。インキュベーションとは、「親鳥が卵を抱
く」「孵化させる」という意味を持つ英語「incubate」の名詞形
です。つまり、育成対象のフレームワークとして、IBM、イン
テルに次いで、ソラミツ社が選出されたのです。
 これは、大ニュースです。しかし、それを知る人はきわめて少
ない。当然ニュースが残っているはずだと思い、ネットをていね
いに探したのですが、発見できなかったのです。そこで、宮沢和
正氏の本から、その部分を引用します。
─────────────────────────────
 2016年10月、ニューヨークでハイパーレジャーの審査結
果の発表が行われた。200社を超える企業が集まり、ハイパー
レジャーの最初の「インキュベーション」(育成)対象フレーム
ワークとして3社が選出された。ハイパーレジャー参加企業の投
票による選考で、IBM、インテルという巨大企業と並んで、無
名のソラミツも世界標準候補として選ばれた。
 この時点では、プロトタイプしかでき上がっていない状況では
あったが、武宮や、当時ソラミツをサポートしていたエンジニア
の五十嵐太清が設計した日本発のブロックチェーン・アーキテク
チャーが世界に認められたのだ。
 ハイパーレジャー・プロジェクトはリナックスと同様、オープ
ンソースである。武宮たちが開発したプロトタイプは日本発の技
術であることを強調したネーミングである「IROHA」(いろ
は)と命名されていたが、この瞬間から「ハイパーレジャーいろ
は」に名称が変更された。オープンソースの性格上、その名称を
含むすべての知的財産権はハイパーレジャー・プロジェクトに無
償譲渡された。
 ソースコードもウェブ上にすべて開示した。世界中のエンジニ
アが無償で利用することができ、多くのエンジニアの英知を集め
ての改良が可能となった。たとえソラミツがなくなったとしても
良い技術であれば世界中の誰かが改良やサポートを続けてくれる
から、ソラミツが最初に開発した「ハイパーレジャーいろは」は
永久に生き続ける。       ──宮沢和正著の前掲書より
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 ソラミツがこのインキュベーション3社の1つとして選ばれた
のが2016年10月ですが、カンボジア国立銀行からメールが
きたのが2016年12月13日です。当然ウェブ上に公開され
ているソースコードを分析して、ソラミツ社にオファーを出して
きたことは確かです。
 ところが日本銀行は、2016年にブロックチェーンの基礎実
験をしています。やはり、リナックスが主催する「ハイパーレッ
ジャー」プロジェクトの3社のブロックチェーンを選定している
のですが、日本のソラミツ社が選ばれているのに、IBMの「ハ
イパーレッジャー・ファブリック」を使って実験をしています。
日銀が、なぜソラミツ社の「ハイパーレッジャーいろは」を採用
しなかったのかは不明です。
 日銀の実験結果については、認証局は1つ、検証ノード(取引
先の金融機関)は4〜16というきわめて小規模な設定で行われ
ているのですが、それでもレイテンシ(決済指図が送られてから
取引処理が行われるまでの時間)の拡大が確認されたとしていま
す。これは、検証ノードが増えるにしたがって、遅れが拡大する
ことになるので、ネックになります。ちなみに日銀の取引先金融
機関は500以上あるので、この遅れは大きな問題です。
 その点、カンボジア国立銀行は「ハイパーレッジャーいろは」
の決済処理能力の高さを評価しています。日銀としては、たとえ
日本企業であっても、無名のソラミツのブロックチェーンを選ぶ
気持ちにはなれなかったのでしょう。要するに信用していないの
です。何しろ相手は天下のIBMですから。
              ──[デジタル社会論/054]

≪画像および関連情報≫
 ●日本発祥のブロックチェーン「いろは」が商用版に、地域通
  貨や企業通貨への採用進むか
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   日本企業のソラミツが原型を開発したブロックチェーンの
  「ハイパーレジャー・いろは」が、このほど商用化バージョ
  ンの認定を受け、一般提供が始まった。企業を含めて無償で
  利用できる。スマートフォンとの相性がよく、決済や認証を
  必要とするシステムの構築に不可欠なコマンド群もあらかじ
  め定義。電子決済サービスの開発効率化にも大いに貢献しそ
  うな「いろは」の特徴と、それを主導するソラミツの事業を
  展望する。
   米国時間5月6日、ブロックチェーン基盤の「ハイパーレ
  ジャーいろは、以下「いろは」」は商用バージョン(V1・
  0)としての認定を取得し一般提供が始まった。「いろは」
  は、2016年2月創業の日本企業、ソラミツがその原型を
  開発して無償提供し、その後300名を超えるコミュニティ
  メンバーが参加して開発が進められてきた。オープンソース
  として無償での利用が可能で、開発者向けサイト GitHub を
  通じて誰でもダウンロードできる。
   「ブロックチェーン=仮想通貨(暗号資産)」との誤解は
  電子決済サービスに携わる業界関係者の中では少ないのでは
  ないかと思われるが、仮想通貨は「ブロックチェーンを利用
  したアプリケーション(サービス)の1つ」と位置付けられ
  る。それに対してブロックチェーンである「いろは」は、特
  定のアプリケーションを指す言葉ではなく、さまざまなアプ
  リケーションをその上に載せて動かすための、土台のソフト
  ウェアといえる。        https://bit.ly/38ZpVSU
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ハイパーレッジャーいろは.jpg
ハイパーレッジャーいろは
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする