2023年11月27日

●「岸田政権はなぜ支持率が低いのか」(第6049号)

 自民党が苦しい状況に追い込まれています。それは、11月に
実施された岸田政権に対する世論調査からはじまっています。
 毎日新聞が11月18日〜19日の両日に岸田内閣の世論調査
をやったところ、支持率が21%という史上最低を記録したこと
が判明しました。
─────────────────────────────
  ◎11月18日〜19日調査
   岸田内閣の支持率 ・・ 21%(4ポイント▲)
   岸田内閣不支持率 ・・ 70%(6ポイント△)
─────────────────────────────
 歴代政権で支持率21%は、旧民主党・菅直人政権末期の20
11年8月(15%)以来の低い水準です。また、内閣の不支持
率が70%台になるのは、麻生内閣時代の2009年2月の73
%以来のことであり、これは与党としては容易ならざることであ
るといえます。
 かつて岸田文雄氏は、記者団から「なぜ、総理を目指すのか」
と問われ、「日本で一番権力のある政治家であるから」と答えて
います。さらに「総理になれたら、何をするのか」とも聞かれ、
「人事をやりたい」と述べています。
 「権力と人事」──総理を目指す人が、内心そう思っていても
まして記者団に話す言葉ではないと私は思います。しかし、ある
意味において、大変わかりやすい言葉であるともいえます。本音
が出てしまっているからです。少なくとも政治のプロが発言する
言葉ではないと考えます。
 しかし、岸田首相は首尾よく総理にはなれたものの、その「権
力と人事」に失敗しています。まず、側近人事、閣僚人事、副大
陣人事、政務官クラス人事にことごとく失敗しています。
 側近として、岸田首相が最も信頼している木原誠二官房副長官
(当時)を家族の不祥事があるのに辞任させず、かばい続け、そ
して結局解任したことです。その後も岸田首相は、何度も木原氏
と会っています。今回の減税プランの骨子は、木原誠二氏から出
たともいわれています。
 続いて閣僚人事ですが、あまりに多いので忘れてしまいました
が、山際大志郎経済再生相の辞任に続き、寺田稔総務相、秋葉賢
也復興相、それに葉梨法務相が不祥事で次々と辞任に追い込まれ
ています。いずれも首相の決断が遅く、岸田内閣に大きなダメー
ジを与えていることは確かです。
 副大臣、政務官クラスになっても辞任ドミノは続いています。
政府は、9月15日に副大臣26人、政務官28人を起用しまし
たが、10月に山田太郎文部科学政務官、柿沢未途法務副大臣、
そして11月13日には神田憲次財務副大臣が辞任しています。
なぜ辞任したのでしょうか。
 文科省にとっては山田政務官は不倫、法務省にとっては柿沢未
途副大臣は選挙違反、財務省にとっては山田憲次財務副大臣は税
金の滞納・差し押さえを受けたことの発覚です。いずれも、所管
する副大臣や政務官の業務にとっては、あるまじき、絶対許せな
い不祥事で辞任しているのです。
 この3人のうち、神田憲次財務副大臣については、岸田首相は
問答無用と辞任させるべきであったのですが、なぜかいつものよ
うにずるずると決断を遅らせています。なぜ、スパッとクビを切
れなかったのでしょうか。
 それは、税金の滞納に関しては「罪」ではなく、救えるのでは
ないかと考えたからといわれます。それに宏池会が財務省に近い
政治団体であることも影響しています。確かに税金滞納や差し押
さえは罪にはなりませんが、税金を徴収する役目の財務省の副大
臣がきちんと納税せず、差し押さえを受ける──こんなことは絶
対あってはならないことです。もし岸田首相が「何とか救えない
か」と考えたとしたら、岸田首相に総理の資格はありません。
 既に述べているように、宏池会の首相5人のうち池田、宮沢、
「一般消費税」の導入を最初に唱えて断念した大平正芳の3氏が
元大蔵官僚です。岸田首相は銀行員出身でしたが、政権を支える
木原誠二官房副長官(当時)と村井英樹首相補佐官は共に財務省
出身者。また、計8人いる首相秘書官のうち、財務省だけが2人
を送り込んでいます。首相のいとこで宮沢元首相のおいの宮沢洋
一党税制調査会長も大蔵OBです。このため、「岸田首相は財務
省寄り」(閣僚経験者)との見方は根強いものがあるのです。
 もっとも岸田首相は、総理大臣は日本で一番の権力を持つ政治
家であることを生かして、米国の要請に従い、防衛費の増額を国
会などでの審議をしないで決めています。いわゆる「防衛増税」
です。加えて大方の反対があるにもかかわらず、安倍晋三元首相
の国葬についても強引に開催を決めています。さらに、その勢い
に乗って、広島出身の政治家の念願として、「広島サミット」を
開催し、そこにウクライナのゼレンスキー大統領を招くなど、そ
れなりの成果を上げ、支持率を60%程度まで上げています。
─────────────────────────────
 ◎広島サミットにおける指導力/TBS調査
          評価する ・・ 56%
         評価しない ・・ 26%
─────────────────────────────
 しかし、そのときでさえ、岸田内閣の支持率は48%と50%
を割っているのです。それは、防衛増税がもたらすものであり、
岸田内閣は増税に対する国民の反発を読み誤っています。もとも
と人気のない内閣といえます。今回の補正予算の成立についても
岸田首相は、国民民主党の玉木代表の要請により、トリガー条項
凍結解除について「討議する」と約束しましたが、おそらく実施
はしないものと思われます。
 なお、私事ですが、本日の東大の医師の判断によって、水抜き
のため、1週間ほど入院します。もし、そうなった場合は、今週
のEJの配信はできないので、ご了承をお願いします。
           ──[物価と中央銀行の役割/059]

≪画像および関連情報≫
 ●「なぜ岸田内閣の支持率が上向かないのか不思議」
  /経団連・十倉雅和会長は政策を評価
  ───────────────────────────
   「なぜ、これで支持率が上向かないのか不思議だ」。
   経団連の十倉雅和会長は20日の会見で、岸田内閣の支持
  率が20%台と低迷する理由を問われたのに対し、「一つ一
  つの施策はいいことをやっている。防衛、GX(脱炭素化)
  原子力、デフレからの完全脱却など、きちっとした政策だと
  私たちは思っている」と述べ、極めて低い支持率に疑問を呈
  した。
   経団連は10月に発表した各政党の政策評価で岸田政権の
  与党、自民党に対し「大変評価している」と最大限の評価を
  与え、政治献金の対象にお墨付きを与えた経緯がある。
   十倉会長は、自民党幹部が「これ以上、何をやればいいの
  か」と悩んでいることも挙げて「大きなストーリーを国民に
  分かってもらう発信の仕方、そういう工夫があれば<とは思
  う」と述べた。最後は「外交でも成果があるのに、それが数
  字に表れないのはどういうことなのか。むしろ皆さんにお聞
  きしたいぐらいだ」と報道陣に逆質問していた。(久原穏)
       https://www.tokyo-np.co.jp/article/291223
  ───────────────────────────
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人の意見をよく聞く政治家/岸田首相
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2023年11月21日

●「『ミセス・ワタナベ』の再来の意味するもの」(第6048号)

 2023年5月から6月にかけて、日本経済売新聞系の新聞や
雑誌に「ミセス・ワタナベ」の記事が出ています。参考までにそ
の3本のそれぞれのタイトルと、リード文をを以下に記載してお
きます。
─────────────────────────────
@「帰ってきたミセス・ワタナベ」
 東京市場の為替相場動向に大きな影響力を持つ個人投資家の外
国為替証拠金(FX)取引に異変が生じている。昨年秋には、約
32年ぶりに1ドル=150円の節目を超える大幅な円安・ドル
高が進むなど、為替取引が再び活況を示すなかでかつて「ミセス
・ワタナベ」と呼ばれた中高年層の投資家が市場に帰ってきた。
そして彼らの復活は、為替相場動向にも少なからぬ影響を及ぼし
つつある。 ──「日経ヴェリタス」2023年5月28日号」
A「円脹らむ投機売り/ミセス・ワタナベ「白旗」で下値も」
 外国為替市場で円安・ドル高が止まらない。米連邦準備理事会
(FRB)の利上げ継続観測が強まるなか、日銀は大規模な金融
緩和を維持。金融政策の方向性の違いが目立ちやすく、投機によ
る円売り・ドル買いが増えている。「ミセス・ワタナベ」と呼ば
れた日本の外為証拠金(FX)取引を手掛ける個人投資家は円
安にあらがうものの、「白旗」を揚げる事態に追い込まれれば円
相場が下値を探るシナリオも浮上する。
      ──2023年5月29日付、日本経済新聞電子版
B変容するミセス・ワタナベ/22年は順張り転向、日銀調査
 「ミセス・ワタナベ」と呼ばれる外国為替証拠金(FX)取引を
手掛ける日本の個人投資家が2022年、従来のイメージと異な
る取引を繰り返していたことが日銀の調査で浮かび上がった。こ
れまで「相場に逆張り」「高金利の外貨で運用益を狙う」という
イメージが強かったが、歴史的な円安が進むなか、相場の流れに
沿った「順張り」取引が増えた。世界の個人関連取引の約3割を
占める日本勢の変容が相場変動を増幅した可能性がある。
       ──2023年6月9日付、日本経済新聞電子版
─────────────────────────────
 1990年代終わりの「バブル」というと、誰でも「日本のバ
ブル」と思ってしまいますが、米国のバブル──インターネット
・バブルもあります。このバブルは、1990年代前期から20
00年代初期にかけて、米国市場を中心に起こっています。ハイ
テク・バブルとか、ITバブルとか、ドットコムバブルなどとい
われています。
 このとき、「ドットコム会社」と呼ばれる多くのIT関連ベン
チャーが設立され、1999年から2000年までの足掛け2年
間に亘って株価が異常に上昇しますが、2001年には完全には
じけてします。これがITバブルです。
 日本では竹中改革が終了し、やっと景気が少し回復して日本経
済に薄明かりが差すようになったのです。このときの日銀総裁は
福井俊彦氏であり、そのとき福井日銀は、量的緩和策の長期維持
を打ち出していたのです。そのため「円キャリー取引」ができる
環境があったのですが、そのときの日本と米国の中央銀行の事情
について、河浪武史氏の本から引用します。
─────────────────────────────
 日本の個人投資家が世界の外為市場でカを持ったのは、低金利
の円を借り入れて高金利のドルきに投資する「円キャリートレー
ド」の環境があったからだ。福井日銀は量的緩和の長期維持を打
ち出していた。一方で、米連邦準備理事会(FRB)はITバブ
ル崩壊の傷が癒え、10%まで下がった政策金利を急ピッチで引
き上げようとしていた。グリーンスパン議長(当時)は04年に
利上げを再開して17会合連続の金融引き締めを断行する。20
06年には政策金利は5%まで引き上げられた。日米金利差は一
気に拡大して、個人の円キャリートレードが爆発的に広がってい
く。           ──河浪武史著/日本経済新聞出版
         『日本銀行/虚像と実像/検証25年緩和』
─────────────────────────────
 今とは事情が違うものの、このときも日米の金利差については
今と同じようなことが行われていたのです。グリーンスパン議長
は、17会合連続の利上げを行ったのに対して、福井総裁は量的
緩和を継続していたのです。これでは、日米の金利差は開き、ミ
セス・ワタナベが活躍する環境になるのです。
 「干天の慈雨」という言葉がありますが、日照り続きのときに
降る雨のことです。当時のバブル処理が癒えない日本経済にとっ
て、この円キャリートレンドがまさに慈雨となり、輸出主導によ
る経済の持ち直しが可能であったのです。
 雇用量、生産量、輸出入量など時間的、場所的に異なる値を示
すものについて、その相対的な差異を実体的変化として数量的に
把握できるように作成された統計数値のことを、輸出数量指数と
いいますが、この指数が2002年〜2004年は伸び続け、海
外に散らばっていた製造拠点は、それに伴う円安により、国内回
帰が鮮明になったのです。
─────────────────────────────
      ◎輸出数量指数
       2002年 ・・・  7・9%
       2003年 ・・・  4・9%
       2004年 ・・・ 10・6%
─────────────────────────────
 しかし、日本の輸出を支えた円安トレンドは、まさに「砂上の
楼閣」に過ぎなかったのです。金利差を当て込んで、円キャリー
トレードによって、円安が増幅していたからです。したがって、
経済のバランスを反映しておらず、2008年のリーマン・ショ
ックで円キャリー取引は一気に巻き戻されてしまったからです。
これによって、白川日銀が急激な円高・ドル安が起こり、もがき
苦しむことになるのです。
           ──[物価と中央銀行の役割/058]

≪画像および関連情報≫
 ●大円安相場と注意すべき円キャリートレードの巻き戻し
  ───────────────────────────
   ドル/円は2022年9月7日のNY市場で一時145円
  に迫る水準まで値下がりした。1998年8月以来の24年
  ぶりの円安ドル高水準となっている。
   来年4月の黒田東彦日本銀行総裁の任期満了もにらみ、市
  場では日銀の政策修正に対する思惑がくすぶり続けているが
  政府債務の多い日本は、「金利を上げたくても上げられない
  国」なのである。日本がB級の新興市場のように見える急激
  な円安に対して日銀は何も問題がないと見ていることを世界
  に示すためにオペで対応した。
   日本人は今、「給料は上がらないが物価は上がる」という
  典型的なスタグフレーションの渦中にいるのである。公的債
  務の対GDP(国内総生産)比の限界は256%程度と言わ
  れ、1940年代に英国が一度経験しているだけである。公
  的債務の対GDP比256%で少子高齢化が進む日本は、金
  利が上がれば厳しい事態を迎える。
   24年前の1998年も為替が大きく動いた一年だった。
  2月に一時130円を割り込んだドル/円は3月、4月、5
  月と上昇を続け、6月には140円を抜け、その後1週間ほ
  どで  一気に、146円まで上昇。8月には147円台ミ
  ドルまでドルが買われ、そこでピークアウトし反転、10月
  にはほんの数日のうちに30円近くも円高が進む目まぐるし
  さであった。後にも先にも1998年のようなすさまじい円
  高相場を筆者は体験したことがない。
    https://media.rakuten-sec.net/articles/-/38827
  ───────────────────────────
白川方明元日銀総裁.jpg
白川方明元日銀総裁
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2023年11月20日

●「『ミセス・ワタナベ』は何を意味するか」(第6047号)

 11月14日の日経の朝刊に、金利低下の記事が出ています。
同日発表による10月の米CPI(消費者物価指数)の伸びは、
事前予想を大きく下回り、FRBがさらに追加値上げをする可能
性がほぼなくなったといえます。これに加えて長期金利の指標に
なる10年物国債利回は4・4%台前半になり、約1カ月半ぶり
の低水準を記録しています。関連記事は、以下の通りです。
─────────────────────────────
◎緩む米物価高、金利低下/ドル全面安、円150円台
 利上げ観測ほぼゼロに/
 米インフレの高止まりを警戒していた金融市場に安堵が広がっ
た。14日発表の10月の米消費者物価指数(CPI)の伸びは
事前予想を下回り、市場が織り込む米連邦準備理事会(FRB)
の追加利上げ確率はほぼゼロになった。米長期金利の低下を起点
に投資家心理が好転し、世界的に株式が買われた。
      ──2023年11月16日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 りそなへの公的資金注入を中心に「金融再生プログラム」を推
進し、目標を前倒しで達成した竹中プランによって、日経平均株
価は上昇に転じます。これによって、巨額の債務を抱えていたダ
イエーやカネボウなどは、官民ファンドの「産業再生機構」に引
き取られ、姿を消しています。かくして金融機関の不良債権はバ
ランスシートから切り離されていったのです。
 1998年の外為法が改正されています。FXとは、たとえば
日本円を米ドルに両替するように、ある国の通貨(お金)を別の
国の通貨に交換することを意味し、FXとは次の言葉の略です。
─────────────────────────────
      ◎FX
       Foreign Exchange(外国為替)
─────────────────────────────
 日本でFXは「外国為替証拠金取引」とも呼ばれており、取引
額の一部に相当する証拠金を預けるだけで「外国為替」の取引を
行えるのが大きな特徴です。これは少額で大きな金額の取引がで
きることを意味しており、「レバレッジ効果」といわれます。
 ここに登場したのは「ミセス・ワタナベ」です。これは、当時
の円安トレンドが生み出したものといわれます。しかし、ここで
留意しなければならないのは、当時の円安は1995年に米ドル
/円が70円台に突入し、超円高に苦しんでいたときのものであ
ることです。要するに、FXが行われるのは、日米間に大きな金
利差があるときです。
 こういうときは少しでも円を売る必要があります。当時に関し
て。河浪武史氏の著作には、次の記述があります。
─────────────────────────────
 日本の個人投資家が世界の外為市場でカを持ったのは、低金利
の円を借り入れて高金利のドルなどに投資する「円キャリートレ
ード」の環境があったからだ。福井日銀は量的緩和の長期維持を
打ち出していた。一方で、米連邦準備理事会(FRB)はITバ
ブル崩壊の傷が癒え、100%まで下がった政策金利を急ピッチ
で引き上げようとしていた。グリーンスパン議長(当時)、04
年に利上げを再開して17会合連続の金融引き締めを断行する。
06年には政策金利は5・25%まで引き上げられた。日米金利
差は一気に拡大して、個人の円キャリートレードが爆発的に広が
っていく。        ──河浪武史著/日本経済新聞出版
         『日本銀行/虚像と実像/検証25年緩和』
─────────────────────────────
 当時この強固な円高を何とかしなければならないと考えて、国
としていろいろな施策を進めています。1998年の外為法の改
正は、まさにその前提です。つまり、日本の個人投資家に、外債
投資を推奨し、少しでも「円売り要因が増える」ような施策が進
められていたといえます。そういうとき、英国のエコノミスト誌
に、そういう日本人の個人投資家のことを指して、「ミセス・ワ
タナベ」という言葉が使われたのです。
 ところで、なぜ、「ミセス・ワタナベ」なのでしょうか。日本
人を指していることは間違いないですが、なぜ「ワタナベ」なの
でしょうか。
 日本の姓ランキングを見てみると、日本で最も多い姓は、「サ
トウ(佐藤)」、次いで「スズキ(鈴木)」、「(タカハシ)高
橋」とよく耳にする姓が次のように続くのです。
─────────────────────────────
      1位:・・ 佐藤    6位:渡辺
      2位:・・ 鈴木    7位:山本
      3位:・・ 高橋    8位:中村
      4位:・・ 田中    9位:小林
      5位:・・ 伊藤   10位:加藤
─────────────────────────────
 これによると、「ワタナベ」は第6位です。検証されていませ
んが、外為法改正に伴い、主要各国へ根回しのために動いていた
当時の財務省担当者の名前が「ワタナベさん」だったらしいとい
う説もあります。
 それは別として、問題は、この「ミセス・ワタナベ」が何をし
ているかです。彼らは複数の集団で、ドル相場が下落するとドル
を買い、相場が上昇すると売りを出すのです。一方、米国投資家
は、下落局面で売り続ける順張り派が多いため、逆張りの買いに
戸惑ってしまうことがよくあるといいます。
 それでは、「ミセス・ワタナベ」の正体とは何でしょうか、そ
れは次の通りです。
─────────────────────────────
 @ヘッジファンド、年金基金、銀行など機関投資家 70%
 A個人投資家 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 20%
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/057]

≪画像および関連情報≫
 ●ミセスワタナベ、「介入待ち」で円売り・ドル買いの好機
  うかがう(FXストラテジー)
  ───────────────────────────
   【日経QUICKニュース(NQN)/長谷部博史】外国
  為替市場で円安・ドル高に歯止めがかからず、円相場は1ド
  ル=148円台と32年ぶりの安値圏での推移が続く。外国
  為替証拠金(FX)取引を手掛ける個人投資家「ミセスワタ
  ナベ」にとって現在のドルの水準は「高根の花」。身動きを
  とりづらい今のうちに持ち高を整理して身軽になっておき、
  日本政府・日銀による再度の円買い介入で相場が円高・ドル
  安に振れたらすかさず円売り・ドル買いに動こうと、構えて
  いる様子が透ける。
   前週発表の米物価指標が市場予想を上回ったことなどを受
  け、14日のニューヨーク市場で円相場は一時148円86
  銭近辺と1990年8月以来32年ぶりの円安を付けた。米
  連邦準備理事会(FRB)による利上げが長期化するとの見
  方から円売り・ドル買いの圧力は強い。17日の東京市場で
  も円相場は148円台後半を中心にじりじりと水準を切り下
  げる場面が目立った。
  個人投資家には、現在の円安・ドル高水準は行き過ぎとの見
  方が多いようだ。QUICKが17日算出した14日時点の
  FX5社合計(週間)の建玉状況によると、円に対するドル
  の買い比率は45・2%と前の週から5・8ポイント低下。
  ドルの買い比率が50%を下回るのは、FRBによる利上げ
  開始で円安・ドル高が進み始めた3月以来だ。
    https://moneyworld.jp/news/05_00086262_news
  ───────────────────────────
「ミセス・ワタナベ」イメージ.jpg
「ミセス・ワタナベ」イメージ
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2023年11月15日

●「竹中大臣のやったことは正しいか」(第6046号)

 速水優日銀総裁は、就任が1998年3月、退任が2003年
3月までです。その頃になると、政府と日銀との関係は相当ギャ
クシャクしたものになっていったのです。2000年8月のゼロ
金利解除によっても景気は回復しないし、2001年3月に量的
緩和を導入したものの、日本経済はデフレの泥沼に沈んで、なか
なか脱却できないでいたからです。
 そして福井俊彦氏が日銀の総裁になると「ミセス・ワタナベ」
が話題になります。当時日本の政策金利は0・5%という過去最
低水準にあり、そのため世界経済は、日銀にある取引の片棒を担
がせつつあったのです。これについては後で述べます。
 経済の低迷は相変わらずで、日銀としては、資金供給の目詰ま
りと見定めています。つまり、日銀がいくら資金を供給しても、
日銀当座預金が積み上がるだけで、不良債権に苦しむ金融機関は
どうしても融資を伸ばせない状態だったのです。
 当時は小泉純一郎政権であり、郵政民営化の実現に挑んでいた
のです。小泉首相は派閥を完全に無視した人事を行っており、閣
僚にはユニークな人材も多くいました。そして「改革なくして成
長なし」が小泉政権の旗印であります。
 その閣僚の一人に竹中平蔵氏がいます。竹中大臣の正式な名称
は「内閣府特命担当大臣(金融経済財政政策)」です。これは、
ある特命を有する大臣であり、小泉首相の意見を聞いて、実行に
移す任務を帯びています。重要任務です。
 竹中平蔵大臣は、日本経済のために、実に素晴らしい仕事を成
し遂げており、日本経済のバブルの後始末を周囲が猛然と反対す
るなかでやり遂げています。しかし、そういう大仕事をした竹中
平蔵氏の評判は必ずしも良くないのです。
 一体彼は何をしたのでしょうか。
 竹中大臣は、当時の日本の大手銀行の不良債権比率は8・4%
でしたが、これを2年半で半減させる「金融再生プログラム/竹
中プラン」を打ち出し、それを敢然と実行したのです。多くの反
対がありましたが、権限は小泉首相から得ており、それを使った
のです。彼は政治家ではなく、学者であり、普通の永田町の常識
にはとらわれず、やる必要のあることを断行しています。
 2003年4月のことです。日経平均株価はバブル崩壊後の最
安値7607円を記録します。りそなショックです。政府はこれ
に対して、りそな銀行への公的資金投入が発表されると、それま
での下落を打ち消すかのように急回復したのです。そうです。日
本経済に薄明かりが見えるようになったのです。政府が電撃的に
りそな銀行に公的資金を注入する再建策を発令し、これに対応し
たのです。
 政府が銀行に公的資金を注入することは、その銀行を国有化す
ることを意味します。銀行としては、当然のことながら、はげし
く反対し、抵抗します。なぜかというと、りそな銀行は自己資本
を積んでいなかったわけではなく、監査法人からのアドバイスを
受けて対応していたからです。竹中大臣は、専門家であり、その
内容を厳正監査するよう監査法人に求めたのです。
 監査法人はこれをやっていなかったといわれます。もし、国有
化が強行されると、当然監査法人もただでは済まなくなります。
こういうやり取りが毎日テレビで報道され、何か大変なことが起
きていると国民は感じたものです。EJの発刊は、1998年の
ことですから、この問題を取り上げています。りそな銀行は自己
資本をどのように処理したのでしょうか。河浪武史氏は、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 りそなの実質国有化の引き金となったのは、監査法人の厳格監
査だった。りそなは不良債権処理に伴う税金の先払いを「繰り延
べ税金資産」として自己資本に計上していた。「竹中プラン」は
その内容を厳しく監査するように求めていた。国内銀行であるり
そなの自己資本比率は4%を上回れば間蓮がなかったが、200
3年5月の連休明けになって監査法人から過大計上の可能性があ
ると指摘がなされる。
 竹中氏がそうした動きを知ったのは、5月7日だったという。
自己資本比率が4%を切ることになれば、預金保険法にしたがっ
て公的資金の注入が必要になる。竹中氏は小泉首相にりそなへの
公的資金注入の了解を内々に得て、事務方にも水面下で実質国有
化を準備するよう指示する。──河浪武史著/日本経済新聞出版
         『日本銀行/虚像と実像/検証25年緩和』
─────────────────────────────
 しかし、りそな銀行はなかなか認めない。しかし、竹中大臣は
監査法人の決断を促すために監査法人に対して、「過去の監査と
の食い違いについての責任は問わない」というメッセージを送り
監査法人は最終的にはりそなが求めていた繰り延べ税金資産の5
年分の計上を認めない判断を下しています。
 政府は「金融危機対応会議」を開いて、りそなへの公的資金の
注入を決定しています。このように、必要だと思ったら、どんな
手段でも使って目的を果たすというのが竹中平蔵氏のやり方であ
り、とても冷たいように感ずるが、現在のりそなを含めて日本の
銀行の状況を見ると、やはりあのときの処置は間違っていなかっ
たのであると確信を持てるようになってきています。
 「竹中プラン」は、主要銀行の不良債権比率を2年半で半減さ
せるというものでしたが、2005年3月期には前倒しで目標を
達成しています。これによって、バブル経済の処理にしっかりと
したメドが立ち、少しずつではあるものの、景気も回復しつつあ
ったといえます。
 これによって、生み出されたのが円安トレンドです。この円安
トレンドに乗って、「ミセス・ワタナベ」が増殖を始めることに
なります。この「ミセス・ワタナベ」とは一体何者なのでしょう
か。具体的な人物なのでしょうか。それとも何らかの経済現象な
のでしょうか。次回のEJで解明します。
           ──[物価と中央銀行の役割/056]

≪画像および関連情報≫
 ●不良債権処理後の日本「疲れるほど改革せず」竹中平蔵
  ───────────────────────────
   りそなグループへの公的資金の投入が決まってから20年
  金融システムの安定を取り戻すために当時の関係者は、何を
  考え、どのように行動したか。小泉純一郎政権で金融担当相
  として不良債権処理を主導した竹中平蔵慶大名誉教授に聞い
  た。
  ――第1次小泉内閣が2001年に発足しました。不良債権
  の処理が進まず、どう解決するかに<焦点が当たりました。
  「バブル崩壊後に日本経済が低迷したのは、当面の需要拡大
  のみを行ってバランスシート調整をしっかりやらなかったか
  らだ。世界2位の経済規模だった日本の政府が不良債権をき
  ちんとwrite-off(処理)しなければ、世界が日本をwrite-
  offするという危機感が広がっていた」
   「経済財政担当相に就任して最初に『骨太の方針』を作っ
  たときも『不良債権の処理が一丁目一番地』と書いた。本来
  やるべき処理が10年以上遅れてしまっていた。私は学者と
  して理屈で考えていたが、小泉首相も同じように判断してい
  た」
  ――翌年に金融担当相を兼務して「金融再生プログラム」を
  打ち出すことで銀行に徹底した不良債権処理を迫りました。
  銀行からは猛烈な批判もありました。どういう考えで銀行と
  対峙したのでしょうか。
   「私がやったのは大胆なことではなく普通のことだ。資産
  査定をしっかりやって不良債権がどれだけあるのかを明確に
  したうえで資本不足なら増強してもらう。それができない金
  融機関には場合によっては公的資金の注入も選択肢だった」
        ──2023年5月16日/日本経済新聞より
  ───────────────────────────
竹中平蔵慶応大学名誉教授.jpg
竹中平蔵慶応大学名誉教授
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2023年11月14日

●「ゼロ金利から量的金融緩和へ」(第6045号)

 おっかなびっくりで、世界で初めてゼロ金利を実行し、慌てて
解除した感のある速水日銀総裁。2000年8月のゼロ金利解除
は長く日銀にトラウマとして傷を残すことになります。なかでも
痛烈な日銀に対する批判は、「あのときの拙速な利上げが、その
後の長期デフレの要因になった」とするものでしょう。
 2001年3月19日、日銀政策決定会合が世界同時株安が進
むなかで行われています。日銀としては、金利を下げることに失
敗した以上、世界的にも前例のない「量的金融緩和」を発動する
しかない状況に追い込まれていたのです。
 何をどうしようとしたのでしょうか。要点を簡単に述べるため
政策の骨子を明らかにしておきます。
─────────────────────────────
 @金融調節の誘導目標を、無担保コール翌日物金利から日銀当
  座預金残高に変更
 A日銀当座預金残高を1兆円程度積み増し、5兆円程度にする
 B日銀当座預金の円滑な供給に必要な場合は、長期国債の買い
  入れを増額
 C量的緩和により、翌日物金利は従来の誘導目標の0・15%
  から低下し、ゼロ%近辺で推移
 D新しい金融調節は消費者物価指数の前年比上昇率が安定的に
  ゼロ%以上になるまで継続
 E今回の措置が効果を発揮するには、不良債権問題の解決など
  金融・経済・産業面の構造改革が必要
             ──河浪武史著/日本経済新聞出版
         『日本銀行/虚像と実像/検証25年緩和』
─────────────────────────────
 重要なポイントは、金融調節の誘導目標を「金利」から「日銀
当座預金残高」に変更したことです。日銀当座預金というのは、
民間銀行が、資金の決済や預金の支払いに備えて、日銀に預けて
おく資金のことです。当時の資金量は「4兆円」でしたが、量的
緩和で、銀行にあと1兆円分の余剰資金を積ませて、6兆円にす
ることにしたのです。
 目的は、日銀当座預金には原則として利息は付かないので、当
座預金に積み上がる量的金融緩和で膨らんだ資金を引き出し、貸
し付けや投資に回して利回りを得られる資金は回るだろという甘
い判断がそこにあったのです。要するに、日銀当座預金を増やせ
ば、いわゆる市中に出回るマネーストックは増加すると考えてい
たのです。
 しかし、その人の決定会合では、審議議員たちの間では、次の
ような不安が渦巻いていたのです。
─────────────────────────────
植田委員:期待インフレ率が上がって、金利が上がっていったり
 景気がよくなっていくとなれば良いが、ならないと地獄になる
武富委員:そう、地獄だ。もっともっともっとということになる
植田委員:願わくは、このようなことを意味がないなと途中で納
 得してくれることを期待することではないか
       ──河浪武史著/日本経済新聞出版の前掲書より
─────────────────────────────
 これら審議員たちの不安は的中するのです。まさに「地獄」が
はじまったのです。日銀当座預金の目標は、当初は5兆円でした
が、その後追加策が次々と求められるようになり、当座預金残高
の目標(当初5兆円)や長期国債のむ買い入れ額(当初月400
0億円)は、徐々に引き上げられ、2003年の速水日銀総裁の
退職時には、次のようになっていたのです。
─────────────────────────────
  当座預金残高目標目標 ・・・  17兆円〜22兆円
  長期国債買い入れ総額 ・・・   1兆2000億円
─────────────────────────────
 速水日銀総裁の任期は1998年〜2003年の5年です。任
期中の2001年の量的緩和の発動以降、「ミセス・ワタナベ」
という名前が世界中を席巻するようになるのです。「ミセス・ワ
タナベ」──このような言葉を聞いたことがあるでしょうか。
 日本人を指すのは間違いありませんが、なぜ、「タナカ」でも
「スズキ」でもなく、「ワタナベ」なのでしょうか。その「ミセ
ス・ワタナベ」が何をしたのでしょうか。この名前が出てきたと
き、円が投機マネーとして、大きく使われるようになっていたの
です。そういう2003年月3月、日銀総裁は早見優氏から、福
井俊彦氏に交代したのです。
 福井俊彦氏は、1957年日銀に入行し、1998年に施行し
た新日銀法の詳細設計を日銀側で担った人物です。福井俊彦総裁
は総裁に就任するや5日後の2003年3月25日に、新日銀法
下で初めての臨時の金融政策決定会合を開催しています。この時
期、日銀と政府──小泉純一郎政権との間がどうなっていたかに
ついて、河浪武史は次のように書いています。
─────────────────────────────
 速水前体制で政府と日銀の関係はぎくしやくしていた。00年
8月のゼロ金利解除と、その後の景気後退が最大の要因だ。01
年2月に量的緩和を導入したが、2年たっても、日本は止まらぬ
デフレに苦しんでいた。速水氏は金融緩和に慎重姿勢をみせるこ
ともあり、政府は「動かぬ日銀」へのいらだちを募らせていた。
 臨時会合の表向きの理由は、イラク戦争による市場混乱の回避
だった。其の目的は、前体制からの転換をアピールし、デフレ脱
却へ小泉純一郎政権との協調を演出することにあった。臨時会合
ではこんなやりとりがなされたという。
       ──河浪武史著/日本経済新聞出版の前掲書より
─────────────────────────────
 福井総裁の特色は動く日銀」です。資金供給の強化を決めると
ともに、執行部に対して量的緩和の枠組みの強化に向けた論点整
理を指示し、実行する──こういう点において、小泉政権と息は
合っていたといえます。──[物価と中央銀行の役割/055]

≪画像および関連情報≫
 ●ゼロ金利導入後も、急激な円高への対応策を幅広く議論=
  日銀政策会合99年9月議事録
  ───────────────────────────
   [東京/28日=ロイター] 日銀は2010年1月28
  日、1999年7月から12月までの金融政策決定会合議事
  録を発表した。日銀は99年2月にゼロ金利政策に踏み切っ
  たが、9月21日の決定会合直前には、急激な円高に対して
  何らかの追加的緩和措置が発表されるのではないかとの強い
  期待感が市場から出ていた。同日の議事録では、円高への強
  い危機感のもと、マネタイゼーションの可能性も含めて、幅
  広く活発な議論が行われていたことがわかった。
   当時は小渕政権のもとで、8月後半に1ドル=110円を
  割れ、円高が急激に進んだ。9月16日には、速水優日銀総
  裁と宮沢喜一蔵相の会談が行われ、共に事態に対処していく
  ことで意見の一致をみたが、その直前には103円台となっ
  た。会談後は108円台に戻したが、日銀金融政策決定会合
  直前には106円台へと再び円高が進んだ。
   こうしたなか、市場からは、量的緩和や為替介入の非不胎
  化など、何らかの緩和策を日銀が発表するのではないか──
  との観測が強まった。しかし日銀は「当面の金融政策運営に
  関する考え方」との異例のステートメントを発表したものの
  追加策は発表しなかった。会合直後から、失望感からさらに
  円高が進行、9月後半には7カ国財務相・中央銀行総裁会議
  (G7)も開催されたが、円高は止まらず、11─12月に
  平均で102円台を付けたのち、2000年1月にようやく
  106円台に戻した。     ──リクルートのリポート
  ───────────────────────────
福井俊彦元日銀総裁.jpg
福井俊彦元日銀総裁
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2023年11月13日

●「どうして消費税を減税できないか」(第6044号)

 岸田政権が依然としてピリッとしません。そして、どうやら岸
田総理は、「年内に解散はしない」という自らの意思を自民党幹
部に伝えたといわれています。
 岸田首相は、「人の話を誰よりも熱心に聴く」ということを自
らいい、人から話を聞くとき小さなノートを出して、メモをとっ
ています。しかし、案外岸田総理は、人の意見は聴くものの、本
当にやりたいことは自分の意志で決めています。それは、かなり
頑固であり、一徹そのものです。
 どうしてこうなってしまうのでしょうか──それは、首相ご本
人が経済というものがわかっていないからです。首相は「国民一
人当たり4万円の所得税の定額減税」、住民税未払い世帯には、
「世帯当たり7万円給付」を自分の口で説明しています。このプ
ランは、木原前官房副長官が首相にアドバイスしたものとされて
いますが、きっと岸田首相は増税批判が激しくなっていたときで
もあり、「これはいける」と考えたのでしょう。
 さっそく実現に向けて政策化の指示を行ったのです。所得税減
税は、「1回で終わりか、恒久減税か」が議論されるものなので
す。橋本政権においでも同様のことが起きています。橋本減税に
ついては、11月3日付の東京新聞の次の記事があります。
─────────────────────────────
 岸田文雄内閣と同じ定額減税を行ったのは橋本龍太郎内閣だ。
アジア通貨危機や山一証券などの破綻で金融不安が広まった97
年12月、橋本氏は急きょ減税を表明し、翌年2月からスピード
実施した。だが、98年の参院選で減税の恒久化を巡り、発言が
迷走し、自民党は惨敗し。退陣に追い込まれた。当時を知る与党
の税制調査会関係者は「表明2カ月で減税は快挙だったが、その
後の発言が首を絞めた」と振り返る。
         ──2023年11月3日付、東京新聞より
─────────────────────────────
 所得税の定額減税には、このような大失敗があったのです。そ
の後、どうなったかというと、橋本氏の後を継いだ小渕恵三首相
は「恒久的な減税」として、定率減税(20%)に変更し、20
05年に小泉純一郎首相が全廃を決定。それでも07年まで続い
ています。
 岸田首相としては、当然そのことを知っていたはずであるし、
もっと慎重に行うべきであったといえます。鈴木財務相、宮沢税
調会長が「減税は1回限り」を繰り返し、主張するのは、この橋
本政権の失敗があったからであると思われます。それでは、岸田
政権は、どうすべきだったのかです。
 EJでは、たびたび取り上げていますが、産経新聞特別記者で
ある田村秀男氏の夕刊フジのコラム「田村秀男/お金は知ってい
る」を参考にして述べることにします。
 「エンゲル係数」をご存知ですか。
 「エンゲル係数」は、経済的なゆとりを示すものといわれてい
ます。エンゲル係数は、家計の消費支出にしめる食料費の比率の
ことです。添付ファイルの上のグラフを参照してください。
 日本のエンゲル係数は、1950年代はじめの50%台から下
がり続け、1970年代には30%、90年代には25%を切っ
ています。しかし、2015年あたりから少しずつ上がり始め、
コロナ禍の22年は26%を超え、2013年に入ると、31%
に達しています。これは、円安によるコストプッシュインフレが
原因です。
 棒グラフは、家計の消費支出を表しています。2023年は実
質賃金が前年より大きく落ち込んでおり、物価の値上がりに賃上
げが追いつかず、消費を減らさざるを得ない状況がよく読み取れ
ると思います。棒グラフのうち、色の薄い棒は、食料消費の割合
を表していますが、その上昇は激しく、4月以降は8%台、9月
には、9%に達しています。しかし、食料品は、たとえ価格が上
がっても、食べ物を減らすことはきわめて困難です。
 添付ファイルの下のグラフをご覧ください。この折れ線グラフ
は、円相場と消費者物価の関係を示しています。青い折れ線グラ
フは消費者物価指数、赤い折れ線グラフは、食料品価格を示して
います。これによると、日本の物価の上昇率はせいぜい4%程度
であるものの、食料の値上がりは急速であり、9月には9%に達
しています。国民が求めているのは、この値上げを何とかしてく
れということです。それなら、消費税の軽減税率(食料品などは
8%)を暫定的にでもゼロにするのがいいのです。
 食料品であれば、財務省のいう買い控えは起きないし、税法改
正に多少時間がかかっても実質的な可処分所得の増加につながる
ので、国民は歓迎するはずです。そのうえで、非住民税世帯には
世帯当たり一定の給付金を支給すれば、個人消費は上昇するはず
てす。しかし、財務省はそれがわかっていてもやろうとしないの
です。一番良いと思われる方法があるにも関わらず、ザイム真理
教化しているからです。田村秀男氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 現実に、自民党の若手議員らによる「責任ある積極財政を推進
する議員連盟」は10月早々にまとめた消費税減税案で食料品課
税ゼロを盛り込んだが、岸田政権は一蹴した。背景には近い将来
の消費税増税をもくろんでいる財務省の思惑がある。政府の政策
が的外れだと、問題をさらにこじらせる。(中略)
 今の円安は米の高金利と日本の超低金利の格差が広がっている
からだとは、だれもが知る。外国の投資ファンドを中心とする投
機勢力はあやふやな日銀政策につけ込んで、国債と外国為替市場
を席巻している。投機に対抗するなら、マイナス金利の解消や、
大幅な長期金利上昇を容認するしかないが、住宅ローン金利の大
幅上昇、さらに企業の設備投資意欲を減退させる。脱デフレの芽
は潰れてしまう。その場しのぎの日銀政策の修正では円安阻止も
脱デフレも不可能なのが現実なのだ。     ──田村秀男氏
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/054]

≪画像および関連情報≫
 ●消費税減税「できない理由」総崩れ
  ───────────────────────────
   自民党や公明党は消費税減税を求める国民多数の声に対し
  「消費税は社会保障財源になっている」などといって拒否し
  ています。19日放送のNHK「日曜討論」では自民党の高
  市早苗政調会長が「消費税の使途というのは、年金・医療・
  介護・子育て、こういった社会保障に限定されている」「法
  人税の引き下げに流用されているかのようなデタラメを公共
  の電波でいうのはやめていただきたい」などと発言。
   税財政の実態からみればこの発言こそデタラメです。たし
  かに消費税法第1条には消費税収について「年金、医療及び
  介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要
  する経費に充てる」とあります。しかし、この規定は、消費
  税が導入されたときにはありませんでした。消費税導入から
  20年以上たった2012年、消費税率を5%から10%に
  段階的に引き上げる法律を決めたときに増税の言い訳として
  持ち込まれたものです。      ──「しんぶん赤旗」
  ───────────────────────────
「円相場と消費者物価/エンゲル係数」.jpg
「円相場と消費者物価/エンゲル係数」
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2023年11月10日

●「初めてゼロ金利を実施した速水総裁」(第6043号)

 2023年11月8日付の日本経済新聞に「隠れ円安」が取り
上げられています。「隠れ円安」とは何でしょうか。該当記事の
リードを再現します。
─────────────────────────────
◎対ドル以外円安止まらず 円キャリー取引が拡大
 対ユーロで15年ぶり安値圏 対シンガポール38年ぶり
 外国為替市場で、円が米ドル以外の通貨に対して下落する「隠
れ円安」が進んでいる。対ユーロでは約15年ぶり安値圏、対シ
ンガポールドルではおよそ38年ぶりの安値圏に沈む。投資家心
理の重荷だった米金利の上昇が一服し、低金利の円を借りて高金
利通貨で運用する「円キャリー取引」が拡大。弱い円は当面続く
との見方が目立つ。
       ──2023年11月8日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 円は、10月31日には「1ドル=151円74銭」と、今年
最安値をつけたものの、7日の東京外国為替市場では「1ドル=
150円近傍」で推移するようになっています。この1円以上の
円高水準によって、少なくとも日米金利差の拡大は一応止まった
ものと考えてよいと思います。
 しかし、それはドルに対してのものであり、他の通貨に関して
は安値更新が相次いでいます。これが「隠れ円安」です。この傾
向に対して、野村証券・後藤祐次郎チーフ為替ストラテジストは
次のように述べています。
─────────────────────────────
 為替を含めた市場のボラティリティー(変動率)が低下したこ
とで、円キャリー取引の魅力が上がった。
       ──2023年11月8日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 ここで「円キャリー取引」について知る必要があります。これ
に関しては、少し歴史を振り換える必要があります。「ミセス・
ワタナベ」についても触れる必要があります。
 日本がデフレに入る直前の1998年夏のことです。このとき
マクドナルドはハンバーガーを平日限定で65円に値下げしてい
ます。同社のハンバーガーの価格は、1995年時点で210円
だったので、来日3年で70%も価格を下げたことになります。
 ちょうどその頃、ユニクロが原宿店を出して1900円のフリ
ースを全国的なブームに仕立てています。この価格破壊に消費者
は、大行列を作ったものです。
 一見「良い物価下落」に見えますが、そうはならなかったので
す。なぜなら、賃金まで下がってしまったからです。当時の消費
者物価指数は、前年同月比で、マイナス0・1%に転落し、19
99年11月にはマイナス1・2%まで落ち込み、本格的なデフ
レに突入しようとしていたからです。当時の日銀総裁は、速水優
氏だったのです。
 この速水総裁がゼロ金利をはじめるに至るまでには、さまざま
なことがあったのですが、その経緯は後で述べることにして、速
水日銀は、1999年2月にゼロ金利政策を開始したのです。当
時の政策金利は0・25%であり、金利を下げる余地はきわめて
限られていましたが、政策金利は3月初旬には実質0%に到達し
ています。
 しかし、2000年8月11日、速水総裁は、ゼロ金利政策を
解除してしまうのです。デフレ脱却に関係のある経済指標のいく
つかが、持ち直していたからです。しかし、この8月11日の金
融政策決定会合では、審議委員の間で、多くの混乱があったとい
われます。そのなかから、速水総裁と山口泰副総裁と、反対意見
を述べた植田和男審議委員(現日銀総裁)の意見を以下に示すこ
とにします。
─────────────────────────────
◎速水優日銀総裁
 成長率が著しく高まることは期待しがたいと思うが、少なくと
も日本経済はデフレ懸念の払拭が展望できる情勢には至ったもの
と判断する。ゼロ金利政策を解除してコール金利を0・25%前
後で推移させるようにすることが可能かつ適当な段階に至ったと
考えている。
◎山口泰日銀副総裁
 需要の弱さによる物価の弱さは大体解消しつつある。物価が弱
含みで推移するなら、技術進歩要因とか流通構造の変化要因によ
る部分が大きい。
◎植田和男審議委員
 まだ大きな水準の需給ギャップが存在している。適正金利は若
干のマイナスか、ぎりぎりプラスになったぐらいの可能性を否定
できない。もう少しはっきりプラスになるまで、ゼロ金利を維持
する議論に魅力を感じる。          ──河浪武史著
         『日本銀行/虚像と実像/検証25年緩和』
                     日本経済新聞出版
─────────────────────────────
 情報によると、植田和男氏がこのときゼロ金利解除に反対票を
投じたことが、23年後の総裁指名のひとつの要素になったとい
われています。この速水総裁によるゼロ金利政策解除の意向につ
いては、当時の宮沢蔵相も事前に知っており、宮澤蔵相は周知の
審議委員に電話で政府は反対を申し入れたといわれます。
 しかし、金融政策決定会合では、ゼロ金利政策解除については
賛成7票、反対2票(中原委員、植田委員)の賛成多数で正式に
決まっています。
 この速水総裁による早すぎるゼロ金利解除について、結果責任
は免れなかったのです。政府の反対まで押し切って、強行したこ
ともあって、日銀には「金融緩和に消極的な中央銀行」のレッテ
ルが張られてしまったからです。そしてこれが黒田総裁の異次元
金融緩和まで延々と続くことになります。
           ──[物価と中央銀行の役割/053]

≪画像および関連情報≫
 ●禍根残したゼロ金利解除、緊迫の駆け引き明らかに
  日銀議事録
  ───────────────────────────
   日銀は2011年1月27日、2000年7〜12月に開
  いた政策委員会・金融政策決定会合の議事録を公開した。同
  年8月に日銀は、政府の反対を押し切ってゼロ金利政策を解
  除。緊迫のやり取りが明らかになった。
   解除に向けて議論を先導したのは、議長の速水優総裁。非
  常措置のゼロ金利政策は、「条件がそろえば元に戻すのが当
  然。そうしないと市場のバイタリティーが出てこない」と持
  論を展開した。
   そごうが経営破綻した直後の7月は「少し間が悪い」(武
  富将委員)として解除を見送った。8月には株価が落ち着き
  を取り戻し「そごう問題の影響にも、一応見極めがついた」
  (藤原作弥副総裁)として議論が一気に加速。雇用・所得環
  境も改善し、多くの委員が、「デフレ懸念の払拭が展望でき
  るような情勢に至った」と判断。ゼロ金利解除の流れが決ま
  る。正副総裁を含む9人の政策委員のうち、解除に反対した
  のは中原伸之委員と植田和男委員。物価がプラスに転じてい
  ない段階での利上げに異を唱えた中原委員は、「デフレ懸念
  払拭」という抽象的な判断基準を痛烈に批判した。株価など
  を気にした植田委員を藤原副総裁が「できるだけ多くのひと
  の賛同を得たい」と勧誘する一幕もあった。
                     ──日本経済新聞
  ───────────────────────────
速水優元日銀総裁.jpg
速水優元日銀総裁
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2023年11月08日

●「危険水域から脱出できない岸田内閣」(第6042号)

 このところ新聞に「金利の話」が多く掲載されます。短期金利
は中央銀行の金融政策によって決まりますが、長期金利は、長期
資金の需給関係によって決まるもので、物価の変動、短期金利の
推移(金融政策)などの長期的な予想で変動します。そういう意
味で「長期金利は経済の基礎体温」と呼ばれています。
 米国では、その長期金利が下がっています。長期金利は、一時
4・84%程度まで上がっていましたが、それが4・57%程度
まで下がっています。この0・27%の下げ幅は、8カ月ぶりの
大きさなのです。何が起きているのでしょうか。
 米国では、このように、市場予想を下回る経済指標の発表が相
次いでいます。具体的には、3日発表の10月米雇用統計で、非
農業部門の就業者数は前月から15万人増えていますが、市場予
想では17万人の増加であり、下回っています。平均時給の伸び
も鈍化し、FRBが12月のFOMCにおいて、利上げを見送る
根拠にされているといわれます。
 これによって今のところ株価の上昇が続いています。米FRB
のパウエル議長の発言も慎重で、FRBは、明らかに経済のソフ
トランディングを狙っているからです。すなわち、FRBは、利
上げをしてインフレを抑制するが、景気を悪化させず、経済を安
定させて、ソフトランディングを成功させつつあります。
 この先週末に発表された米国の経済指標がことごとく市場予想
を下回ったことから、FRBの金融引き締めの長期化への懸念が
後退したとの判断から、米国では株高が進んでいます。そして、
この流れを受け、日本株にも買いが入っています。その結果、日
経平均株価は、6日の東京株式市場において、大幅に続伸してい
るのです。
 しかし、今回の日米およびアジアの株高には留意しなければな
らないことがあります。そもそも今回の株高は、米国の長期金利
が予想よりも下がったことによって起きています。米FRBはイ
ンフレを抑えようとして短期金利を連続して上げてきています。
 金利を上げると、金融を引き締めることになるので、景気が悪
くなります。しかし、米国の経済は予想以上に強いので、景気は
悪化していません。米経済の強さは、添付ファイルの米国の指標
によく表れています。
 したがって、もはや米国のインフレはこのまま収束して、今後
利上げを行わないので済むのではないかという期待が株価を押し
上げているといえます。本来であれば、長期金利は次の理屈で上
昇します。
 景気がよくなると企業の業績がよくなり、従業員の賃金が上昇
して個人消費も活発になります。モノが売れるようになるので企
業は設備投資を行う意欲が増し、お金を借りたいと資金需要が高
まります。そこで金利の上昇が予想されます。このため、多くの
人が今後、景気がよくなると考えるようになれば、長期金利は上
がるということになるわけです。また、この逆もあって、景気が
悪くなると多くの人が思えば、長期金利は下がることになるので
す。景気は人々の気分で変化します。
 このように経済はそこそこ悪くないのに、岸田内閣の支持率は
落ち込んだままです。これまでの世論調査において、内閣支持率
が30%を下回った調査は次の6つです。一体どこに問題がある
のでしょうか。
─────────────────────────────
     ◎内閣支持率が30%を下回った世論調査
           支持する    支持しない
     時事通信  26・3%   40・4%
     朝日新聞  29・0%   60・0%
     毎日新聞  25・0%   68・0%
      ANN  26・9%   51・8%
     共同通信  28・3%   56・7%
     JNN   29・1%   68・4%
           ──2023年11月06日/夕刊フジ
─────────────────────────────
 なかでも重要なのは、自民党支持層における岸田内閣への支持
率です。これは、2021年9月の菅義偉内閣の退陣表明時の支
持率49・5%に次ぐ低さです。
─────────────────────────────
                  支持率
       自民党支持層   52・9%
─────────────────────────────
 この岸田内閣の低支持率について、政治評論家の有馬晴海氏は
次のように指摘しています。
─────────────────────────────
 防衛増税はじめ増税が既定路線であるにもかかわらず、減税を
打ち出したことに、有権者は「選挙目当て」「首相は自分の立場
を維持しようとしているだけ」と感じているのだろう。来年は増
税論議も控えて状況がさらに厳しくなる中、被害が少ない年内解
散を唱える声もあるが、岸田首相は決断できず、来年9月の総裁
選をスルーして衆参ダブル選という選択肢をとるのではないか。
支持率回復には一時的なバラマキ策ではなく、憲法改正や、北朝
鮮問題など、大きな課題に取り組む姿勢も必要かもしれない。
           ──2023年11月06日/夕刊フジ
─────────────────────────────
 岸田文雄という政治家は、何回も申しているようにもともと増
税イメージの強い人です。岸田氏が首相就任時に記者団から「財
務省のポチ」といわれているが・・」と聞かれたことがあるくら
い財務省寄りといわれています。
 そういう人が首相になって、いきなり打ち上げたのが防衛増税
であり、増税のイメージが一層濃くなったといえます。それが一
転して「4万円の定額減税/非住民税世帯7万円給付」です。選
挙目当てとしかいいようがなくなっています。
           ──[物価と中央銀行の役割/052]

≪画像および関連情報≫
 ●定額減税、効果限定的=ばらまき批判も不可避―─
  ───────────────────────────
   政府が閣議決定した総合経済対策は、1人当たり計4万円
  の定額減税と低所得者層向けの7万円の追加支給が目玉だ。
  必要な財源は計5兆円規模に上るが、公平性を担保した複雑
  な制度設計が求められるほか、経済効果は限定的との見方も
  ある。対象が幅広い減税や追加給付には、ばらまきとの批判
  も避けられそうにない。
   政府は「成長の成果を国民に適切に『還元』する」として
  来年6月に所得税を3万円、個人住民税を1万円をそれぞれ
  減税。住民税非課税世帯には、7万円を追加で給付する方針
  だ。一連の還元策について、第一生命経済研究所の星野卓也
  主任エコノミストは「年に1兆円程度消費を押し上げるとみ
  られるが、(景気を押し上げる)効果は限定的だ」と分析す
  る。減税と給付を組み合わせることで、制度設計は複雑さを
  増す。政府は「両方の支援の間にある者に対しても丁寧に対
  応する」と強調するが、自民党の税制調査会幹部の間では、
  「本来ならば給付でやるのが筋だ」との意見が多い。
   住民税のみを納税しているため所得税の減税や給付金の対
  象にならなかったり、所得税を納めていても所得水準がそれ
  ほど高くなく、今回の減税の恩恵を十分に受けられなかった
  りする「隙間」には、約900万人がいると想定される。住
  民税のみ課税されている世帯にも給付などで支援するが、制
  度が複雑になれば、企業や自治体の対応もより煩雑なものに
  なり、狙った効果を発揮するまで時間がかかる恐れもある。
      https://sp.m.jiji.com/article/show/3089486
  ───────────────────────────
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好調な米経済指標
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2023年11月07日

●「22年秋から冬へ債券市場異常発生」(第6041号)

 日銀は、30日と31日の金融政策決定会合において、それま
で続けてきたYCC(イールドカーブ・コントロール/長短金利
操作)の修正を決めています。どこが変わったのでしょうか。
─────────────────────────────
 ◎これまでのYCC
  長期金利の「上限」を1・0%とし、長期金利がこれを超え
 ようとすると、国債を無制限に買い入れて、上限を守る。
 ◎これからのYCC
  長期金利の「上限」の1・0%を「めど」に緩和し、厳格に
 抑え込むことをやめる。しかし、投機筋が動いていると判断し
 たときは、機動的な国債買い入れなどで対応する。
─────────────────────────────
 どうしてこういう事態になったのでしょうか。
 メディアは、いろいろと解説していますが、米国の長期金利の
上昇ペースが日銀の予想を上回り、それにつられて日本の長期金
利も上昇してしまったからです。日銀は7月にもともと「0・5
%」だった上限を「1・0%」に引き上げています。
 しかし、米国の長期金利の上昇ペースはさらに予想以上で、日
本の長期金利も上昇し、30日には「0・890%」31日には
一時「0・955%」になるなど、抑え込むのが困難であるとの
判断からであると思われます。
 1%を「上限」にしておくと、それを超えないよう国債を大量
に買い入れて「上限」を守らなければならず、日銀の保有する国
債がさらに増えることになり、好ましくないからです。「めど」
であれば、そこにいくらかの余裕ができることになります。
 これに伴い、日銀は、物価上昇率の見直しも、次のように公表
しています。
─────────────────────────────
      ◎物価上昇率の見通し
       2023年度 ・・・ 2・8%
       2024年度 ・・・ 2・8%
       2025年度 ・・・ 1・7%
─────────────────────────────
 数字だけを見ると、これまで日銀の掲げてきた物価上昇率2%
は達成されることになりますが、植田日銀総裁は、現在の物価上
昇は輸入物価の上昇による価格転換が主因であるとする従来の主
張を繰り返しています。要するに、賃金の上昇に伴う物価上昇で
はないというのです。したがって、粘り強く金融緩和を続けると
植田総裁はいっています。
 実は、2022年秋から冬にかけて。債券市場では異変が起き
ていたのです。植田総裁の就任前の黒田前総裁のときの話です。
日本において何が起きたかというと、地方債の発行利回りが急速
に上昇し始めたのです。それが日銀が設定する国債の利回りより
も高くなったのです。なぜなら、これらの地方債は、日銀が設定
する国債の購入対象ではないため、市場原理に基づく利回りが成
立するからです。
 これについて、野口悠紀雄一橋大学名誉教授は、自著で、次の
ように説明しています。
─────────────────────────────
 地方債は、国債に比べれば信用度が低いとされているので、地
方債と国債の間には、もともと利回りの差(スプレッド)があっ
た。だから、10年物地方債の利回りが10年物国債より高くな
ること自体は異常ではない。
 しかし、このときのスプレッドは、それでは説明できないほど
開いた。地方公共団体の財政が急激に悪化したわけではないのに
スプレッドが急拡大したのだ。こうしたことが生じたのは、マー
ケットが要求する10年物国債の利回りが、0・23%上昇した
ためだと解釈できる。「日銀のイールドカーブ・コントロールで
抑え込まれた10年物国債の利回りは、経済の実態からかけ離れ
て低すぎる」と投資家が判断したのだ。つまり、投資家は、10
年物国債の利回りを「信頼できない」と見たのである。そうだと
すれば、10年債の「実態的な」金利は、0・25+0・23=
0・48%ということになる。日銀が設定する0・25%は、本
来あるべき水準に比べて低すぎる。つまり、10年物国債の価格
は、本来あるべき水準よりも高すぎる。   ──野口悠紀雄著
 『日銀の責任/低金利日本からの脱却』/PHP新書1353
─────────────────────────────
 実は、2022年の秋から冬にかけて、国債市場で起こっては
ならないことがいくつも起きていたのです。こういう情報は専門
家の間ではあっても、メディアは報道しないのです。日米の金融
政策の違いから諸物価物価が高騰し、黒田前総裁が国会に呼び出
され、野党議員から質問攻めにされていたときのことです。
 2022年10月のことです。そのときの長期金利は、日銀が
上限とする0・25%の上限に張り付いていて、取引が減少して
いたのです。10月11日の10年物国債の業者間取引、6日、
7日に続いて成立しなかったのです。このように3営業日連続で
売買不成立になることは、初めてのことです。
 なぜ、売買が成立しなかったのでしょうか。
 それは、将来の金利が現在よりも高くなるという予想のためで
す。つまり、現在の金利は低すぎて、いつまでも続けられないの
で、いつかは正常に戻ると考えられたからです。これは国債の価
格が将来下がることを意味します。したがって、高い価格で購入
すると損をするので、買い手がつかなかったのです。
 日銀が設定している10年物国債の利回りの上限が低すぎるの
が原因で、買い手は日銀しかいなくなってしまったのです。これ
では日本の国債市場は機能しなくなってしまいます。このとき日
銀は「YCCの歪みの修正」と称して、何らかの措置を施してい
ます。このように既に多くの問題点が起きていたのです。しかし
「めど」ではどのようにでも解釈できてしまいます。
           ──[物価と中央銀行の役割/051]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀会見 長期金利上限「1%をめど」ねらいは
  ───────────────────────────
   植田総裁は、2%の物価安定目標について「消費者物価の
  基調的な上昇率は見通し期間の終盤にかけて物価安定の目標
  に向けて徐々に高まっていくと見ているが、こうした見通し
  の不確実性は極めて高く、現時点では物価安定目標の持続的
  ・安定的な実現を十分な確度を持って見通せるような状況に
  はまだ至っていない。このため、長短金利操作=イールドカ
  ーブコントロールのもとで粘り強く金融緩和を継続すること
  で、経済活動を支え賃金が上昇しやすい環境を整えていく方
  針だ」と述べました。
   植田総裁は、今回の運用の柔軟化は、想定外の金利上昇を
  受けた追加的な措置なのか、という質問に対し、「私どもの
  物価見通しが上ぶれてきたこと、それからこちらの方が背景
  として大きいかもしれないが、米国の金利上昇が非常に大幅
  で、それが我が国の金利にも及んできたということも今回の
  措置の背景にある」と述べました。
   植田総裁は、今回の展望レポートで物価の見通しが上ぶれ
  た理由について、「第1の力は輸入物価の上昇が国内の物価
  に及でいることで、第2の力は国内の賃金と物価が好循環で
  回っていくことを意味する。今回の見通しが上ぶれた主因は
  第1の力が長引いていることや、このところの原油価格の上
  昇だと判断している」と述べました。   ──NHKより
  ───────────────────────────
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野口悠紀雄一橋大学名誉教授
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2023年11月06日

●「なぜ、給付一本に絞れなかったか」(第6040号)

 岸田減税──もし、物価対策を素早くやるつもりであったなら
ば「国民1人当たり4万円」「住民税が非課税世帯に1世帯当た
り7万円」を定額で給付するべきであったといえます。この案で
あれば、年内に給付を完了できるからです。そうすれば、金額に
不満はあるとしても、電気・ガソリンなどの補助金と合わせて、
立派な物価対策として機能したはずです。
 そもそも「増税メガネ」といわれて思考停止に陥っていた岸田
首相に、減税のアイデアをアドバイスしたのは、木原誠二幹事長
代理ではないかといわれています。木原氏は、10月10日のあ
るインターネット番組で、「政府が10月中にもまとめる経済対
策で減税や給付措置が選択肢になる」といっているのです。
 岸田首相は、木原誠二氏のいうことなら何でも聞くといわれて
います。だから、官房副長官に起用したのですが、文春砲で妻が
奇怪事件の関係者として大きく報道され、身近の側近としては起
用できなくなったのです。しかし、今も頻繁に岸田首相に会って
いることはわかっています。
 減税の話は、岸田政権でも政権の情報通として知られる田崎史
郎氏が、10月23日朝、読売テレビ系「ウェークアップ」に出
演して、次のように話しています。
─────────────────────────────
 検討中の経済対策について、年収が一定額を超えたパート労働
者らに社会保険料負担が発生して手取りが減る「年収の壁」の解
消策や、賃上げした中堅企業の法人税を軽減する「賃上げ税制」
に加えて、「3番目が一番注目されるが、減税をやろうという話
がある」と切り出した。
 減税は「首相周辺から聞いた話」といい、田崎氏は「やろうと
したら財務省がめちゃ抵抗するはず。やれるかどうか分からない
が、やるというのを10月下旬に表明して、その前に旧統一教会
の解散命令を出して、減税を打ち出して、解散総選挙という声も
聞こえてくる。          ──SAKISIRUより
─────────────────────────────
 今回の減税について、自民党の幹部のなかにも反対者が多いの
は、このような事情があるからです。「相談がなかった」として
不満を感じているのです。
 日本は、1990年台からバブルが崩壊してデフレに陥り、約
30年間経済が成長していない国です。賃金がまったく伸びてい
いないのです。ところが、コロナ禍の終わり頃にインフレになり
物価が上昇し、目標の2%を連続して超える状況がこのところ続
いています。したがって、日本は、政府が経済の舵取りをうまく
やれば、経済成長を取り戻せるかもしれない状況にあります。今
回のEJのテーマの狙いは、そこににあります。
 経済の成長を決める指標に「潜在経済成長率」というのがあり
ます。少しわかりにくい指標ですが、GDP(国内総生産)とい
う指標が、個人消費や企業の設備投資などの「需要サイド」から
見た場合の増減率であるのに対し、潜在成長率は次の3つの生産
性の要素の「供給サイド」から見た増減率のことをいいます。
─────────────────────────────
            @資 本
            A労働力
            B生産性
─────────────────────────────
 添付ファイルのグラフをご覧ください。これは、主要先進国の
潜在成長率の推移を示したものです。日本は、1980年代には
3〜4%台だったのですが、90年代初めのバブルの崩壊で下が
り、2009年以降の平均は、0・6%にとどまっています。
 生産年齢人口の減少による労働投入の低下や、設備投資などの
資本投入の縮小が主な原因です。いわゆる岸田首相のいう「コス
トカット型経済」になってしまっているのです。潜在経済成長率
は、平均で先進国順位では次のようになっています。
─────────────────────────────
       ◎潜在成長率推移
         米国 ・・・・ 1・7%
        ドイツ ・・・・ 1・2%
       フランス ・・・・ 1・1%
         日本 ・・・・ 0・6%
─────────────────────────────
 これに関連して「GDPギャップ」もしくは「需給ギャップ」
と呼ばれるものがあります。
─────────────────────────────
     ◎「総需要」−「総供給」=儒給ギャップ
       プラスの場合 ・・ インフレギャップ
      マイナスの場合 ・・  デフレギャップ
─────────────────────────────
 経済・物価情勢を的確に判断していくうえでは、経済の活動水
準を表し、物価変動圧力の目安となる「需給ギャップ」や、長い
目でみた日本経済の成長力を映し出す「潜在成長率」をチェック
していくことが有益であるといえます。しかし、これらは、客観
的なデータとして観察できるものではないため、何らかの方法で
推計する必要があります。
 日銀は10月4日、日本経済の需要と供給力の差を示す「儒給
ギャップ」が、2023年4〜6月期にマイナス0・07%だっ
たと推計値を発表しています。マイナスは、13四半期連続です
が、マイナス幅が1〜3月期よりも縮小しています。内閣府が公
表した別の推計ではプラスであり、このことから需要不足は解消
しつつあるといえます。
 いずれにせよ、現在日本経済は、デフレからの脱却期にあるこ
とは確かです。まさにそういう意味で「経済、経済、経済」とい
えます。しかし、岸田内閣は、本当のところはわかっているので
しょうか。円安など課題が山積しています。
           ──[物価と中央銀行の役割/050]

≪画像および関連情報≫
 ●コラム:デフレ脱出の日本と突入危機の中国、マネーは
  日本株に/田巻一彦氏
  ───────────────────────────
  [東京 7日/ロイター]─デフレ脱却の確度が高まりつつ
  ある日本とデフレ突入の瀬戸際にある中国をめぐり、一部の
  海外勢が中国株売り・日本株買いの動きをみせている。脱デ
  フレは日銀の超緩和金融政策からの脱却をイメージさせやす
  いが、日銀の政策修正は「スロー」との見通しが海外勢に多
  く、日本株買いの大きな障害にはならないとの声が広がって
  いる。
  <前週の海外勢、日本株を5319億円買い越し>
   足元で海外勢の日本株買いが増加している。財務省が7日
  に発表した対外対内証券契約等の状況によると、8月27日
  から9月2日の1週間に海外勢は5319億円の日本株を買
  い越した。その前の2週間で計1兆3440億円を売り越し
  ていただけに一部の市場関係者からは「やはり海外勢は方針
  を転換した」(国内証券)との声が出ていた。
   背景には、2つの大きな要因があるようだ。1つは日本の
  脱デフレの動きが鮮明になってきたことだ。内閣府が1日に
  公表した2023年4─6月期国内総生産(GDP)のGD
  Pギャップ推計値はプラス0.4%だった。プラスになった
  のは15四半期ぶりで、このデータに注目したのは国内勢で
  はなく海外勢だった。発表をきっかけにマクロデータに注目
  する一部の海外勢のマインドが大きく変化したという。
  ───────────────────────────
潜在成長率の推移.jpg
潜在成長率の推移
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2023年11月02日

●「4万円の所得税減税で押し切る」(第6039号)

 岸田首相の所得税の定額減税策の評判が、すこぶる良くないで
す。これに対する世論調査が10月28日〜29日に実施され、
次の結果が出ています。
─────────────────────────────
     <ANN世論調査/岸田内閣支持李>
      「支持 する」 ・・・ 26・9%
      「支持しない」 ・・・ 51・8%
─────────────────────────────
 なんと、内閣支持率は26・9%。年内に総選挙が打てる支持
率ではないといえます。その内容については不満があるとはいえ
「減税する」という政策に対する反応としては岸田内閣にとって
最悪の数字といえます。
 所得税の定額減税については、「評価しない」と答えた人が半
数を超え56%、「評価する」は31%。「評価しない」主な理
由については、「政権の人気取りだと思うから」と答えた人が最
も多く41%でした。これらは、岸田内閣にとって、深刻な結果
であると思っています。
 そもそも岸田内閣は、経済政策というものが、分かっていない
と思います。解決しなければならないのは、物価高に対して苦し
んでいる国民の生活を救うことですが、それができていないとい
う不満があります。物価高(インフレ)になる原因には、次の2
つがあります。
─────────────────────────────
         @総需要拡大による物価高
         Aコストプッシュ型物価高
─────────────────────────────
 原因の第1は「総需要拡大による物価高」です。
 これは、国民がたくさんのモノやサービスを消費することで、
生ずる物価高です。今回の物価高は、国民の消費は低迷しており
原因はこれではありません。こういうときに減税すると、さらに
それは需要を喚起して、インフレが加速してしまいます。
 しかし、もっと具体的にいうと、日本の個人消費のレベルは、
コロナ禍前の2019年の消費増税で痛めつけられた頃と大差の
ないレベルにあり、個人消費は低迷しています。
 原因の第2は「コストプッシュ型物価高」です。
 これは、ロシアのウクライナ侵攻などによる石油や天然ガスな
どのエネルギーや小麦などの穀物が不足することで起きる物価高
です。これに対応するには、欧米各国がやったように、一時的で
も消費税を下げて対応するのが政策としてはスジです。鈴木財務
相は「買い控えが起きる」と否定しますが、買い控えができない
軽減税率(8%)を対象にしたらどうでしょうか。この8%を0
%にする──これだけでも物価高による国民の苦しみは軽減する
と思います。丸ごとアタマから否定するから「ザイム真理教」と
いわれるのです。財務省は緊縮姿勢に凝り固まっており、真に正
しい経済政策が、打てなくなっています。
 このように、日本政府がやるとしたら、コストプッシュ型物価
高対策ということになりますが、そのさいには、規模が重要にな
ります。なぜなら、日本経済全体の消費不足を解決しなければな
らないからです。この総需要不足は、最低でも10兆円〜15兆
円はあると考えられます。
 実はこの話が出てきたとき、鈴木財務相は「規模ありきではな
い」と牽制しています。そして、4万円/7万円の定額減税の話
が出てくると、今度は宮沢洋一税調会長が「常識的には1年」と
くぎをさしています。とにかく岸田首相が仕切る宏池会は「ザイ
ム真理教」の信者ばかりです。
 所得減税4万円、非課税世帯7万円給付案ということは、減税
・給付金規模は5兆円規模ということになります。この程度の減
税規模であるならば、非課税世帯への給付にとどめるなどの工夫
が必要です。所得税の定額減税なら、そのインパクトは弱いし、
どうしても「恒久減税」の話になることは、過去の橋本内閣の失
敗を学習すればわかることです。
 ここで、政権の支持率が30%台に落ちるということが何を意
味するかを考える必要があります。これについて、日本経済新聞
は、次のように書いています。日本経済新聞の岸田内閣の支持率
は「支持する/33%/支持しない59%」です。
─────────────────────────────
 過去の政権と比較して33%の内閣支持率はどのような意味を
持つのか。内閣支持率は調査主体により手法が異なる。日本経済
新聞は回答が不明確だった場合に「お気持ちに近いのはどちらで
すか」と重ねて聞く。一度しか聞かない場合に比べて、支持率も
不支持率も高くなる前提がある。過去の政権の場合は30%台半
ばに差し掛かると、運営に安定さを欠くことが多かった。
        ──2023年10月31日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 30%に落ち込むと、第1次安倍内閣、福田内閣、麻生内閣は
いずれも力を失い、国政選挙で敗北するなどして、退陣に追い込
まれています。前内閣の菅内閣については、コロナ禍中に東京オ
リンピックを開催した2021年7月に34%を記録し、地元で
ある横浜市長選挙で敗れています。これによって9月の自民党総
裁選挙への出馬を断念しています。
 これらの内閣に比べると、岸田内閣は2022年12月にいっ
たん35%に落ちているものの、その後、次元の異なる少子化対
策、G7広島サミットなど外交案件などで成果を上げ、4月には
支持率を50%台に戻しています。これは、きわめて珍しい例で
あるといえます。
 岸田首相は頑固なところがあります。もはや1年1回限りの4
万円定額減税を何が何でもやるはずです。年内選挙はないと思わ
れますが、仮に年内に選挙があっても、自公政権が勝つと考えら
れます。現在の野党では自公政権には勝てないと思います。
           ──[物価と中央銀行の役割/049]

≪画像および関連情報≫
 ●「減税ウソメガネ」岸田政権の支持率が急落/ついに
  「崖っぷち」に追い込まれた
  ───────────────────────────
   これで年内の解散総選挙はなくなったのではないか。29
  日に公表された日経新聞とテレビ東京の共同調査を見てそう
  思った。内閣支持率が33%と、前回比で9ポイントも低下
  して政権発足以来最低になったばかりでなく、自民党の政党
  支持率も32%と同6ポイントも低下したからだ。
   しかも26日に開かれた政府与党政策懇談会で、ひとり当
  たり4万円の所得税・住民税の減税と、非課税所得世帯の7
  万円給付の方針が示されたばかり。これらは岸田文雄首相が
  所信表明演説で謳った「国民への還元」を実現するものだが
  同調査によれば58%がこの経済方針に「期待しない」と回
  答。付け焼刃的なその内容に、国民は不満なのだ。
   国民が鬱屈した原因はそればかりではない。IMFは20
  23年の日本の名目GDPがドイツに抜かれて世界4位にな
  るとの予想を発表した。円安ドル高が一因であるが、その円
  安を誘導したのがアベノミクスを受けて日銀が行ったゼロ金
  利政策だった。
   ゼロ金利によって投資を誘導して経済を拡大し、その果実
  が富裕層から低所得層に徐々に届くトリクルダウン理論を安
  倍政権は主張したが、その果実はとうとう国民全員にはいき
  わたらなかった。そして個人資産の伸びは鈍化した。日米の
  個人金融資産を2000年から2020年まで比較すると、
  アメリカでは3倍になったのに対して日本の伸びはせいぜい
  1・4%倍で、大きく差が付いたが、その差は政策の失敗に
  よって「はぎ取られた果実」と言えるのではないか。
          https://gendai.media/articles/-/118471
  ───────────────────────────
ANN世論調査/岸田内閣支持率.jpg
ANN世論調査/岸田内閣支持率
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2023年11月01日

●「中国の米国債保有率が減少している」(第6038号)

 10月29日(日)付の日本経済新聞のトップ第1面に次の記
事が出ています。
─────────────────────────────
◎中国で消えてゆく米国債/保有14年ぶり低水準
 人民元買い支え説
 中国が米国債の保有を減らし続けている。8月末の残高は14
年ぶりの水準となり、足元では減少ペースが速まっている。米金
利上昇(債券価格は下落)の一因ともみられ、市場は保有額圧縮
の背景を探ろうとする。有力な説の1つは当局主導による中国の
通貨・人民元の買い支えだ。
   ──2023年10月29日(日)付の日本経済新聞より
─────────────────────────────
 中国の米国債保有高は、8月時点で8054億ドル(約120
兆円)ですが、2013年対比で4割も減少しています。中国は
外貨準備の運用先として米国債を購入してきていますが、もし大
口投資家として売り手側に回れば、金利上昇要因として市場で意
識されやすくなります。米長期金利上昇の裏側には、中国の存在
があるといってよいと思います。
 それでは中国当局は、なぜドルを売っているのでしょうか。現
在、人民元は「1ドル=7・3元」と安値圏にあり、中国通貨当
局は、元安抑止を狙って、国有銀行にドル売り、人民元買いを指
示しており、銀行はその原資を確保するために米国債を売ったも
のと思われます。だが、このまま米国債保有減が止まらなければ
それは長期金利の上昇圧力として意識されることになります。
 米商務省が10月26日に発表した7〜9月期の実質国内総生
産(GDP)速報値は、同期比の年率換算で4・9%増だったの
です。4〜6月期の2・1%増から大幅に伸びています。利上げ
をしているにもかかわらず、衰えない個人消費が強い米経済をけ
ん引しているといえます。
 なぜ、米個の消費がそんなに強いのかについて、日経は次のよ
うに分析しています。
─────────────────────────────
◎米経済、足元には不安材料
 FRBのパウエル議長は19日、見通しを巡っては、「10〜
12月期から来年にかけて冷え込むというのが一般的な予測だ」
と語った。遅れて経済に浸透する利上げ効果に加えて、米経済に
は逆風となる要因が増える。
 10月からはコロナ禍で猶予されていた学生ローンの返済が再
開される。残高は6月時点で1・57兆ドル(およそ、235兆
円)と大きく、借り手は幅広い世代にわたる。第一生命経済研究
所は10〜12月期の成長率を1・8ポイント押し下げると試算
している。
 サンフランシスコ連銀は8月の時点で、コロナ対応の現金給付
で膨らんだ家計の過剰貯蓄が7〜9月期に枯渇する可能性が高い
と指摘していた。過剰貯蓄はピークの21年8月には2・1兆ド
ルと歴史的な水準になり、旺盛な消費を支えてきた。
 過剰貯蓄については、6月時点ですでに上位2割の高所得層以
外で使い果たされていたとの見方もある。それでも小売売上高は
9月に再加速した。コロナ禍前を3割程度上回る株価や不動産価
格の上昇、物価を上回って上昇する賃金など消費の追い風となる
要因も少なくない。      ──2023年10月27日付
                     日本経済新聞より
─────────────────────────────
 深刻なのは、中国から資金流出が加速していることです。9月
は流出超過額が7年8か月ぶりの規模になっています。これが人
民元の強い下押し圧力となっています。理由は、次の3つが考え
られます。
─────────────────────────────
 @外資企業が中国からの撤退や事業縮小に伴って、資産を償却
  売却し、資金流出を加速させている。
 A中国の景気回復が遅れていることから、対中投資をためらう
  海外投資家は少なくない事実がある。
 B中国の将来に不安を抱く中国人富裕層が資産を先進国の不動
  産市場など逃がしたいと考えている。
─────────────────────────────
 第1の理由は、外資企業の撤退に伴う資金の流出です。
 中国における製造業など工業分野の外国企業数は、今年の7月
末の時点で、4万3348社。これは、2004年11月末以来
の水準に減少しています。
 これには、米国による対中投資規制や、中国が反スパイ法の摘
発対象を広げたことが背景にあります。
 第2の理由は、そもそも対中投資自体が減少している事実があ
ります。株式や債券など、証券投資に伴う流出超過は148億ド
ルあり、それが続いています。中国は米国と対立し、景気回復に
もたついており、多くの海外投資家は、対中投資に慎重になって
いることは事実です。
 第3の理由は、将来に不安を抱く中国人富裕層が海外に資産を
移しつつあります。ブルームバークの記事を参照してください。
─────────────────────────────
 中国が新型コロナウイルス禍に伴う渡航制限を解除したことで
中国人富裕層の海外移住の動きが加速している。こうした中国人
が海外の不動産や資産を購入し、巨額の資本流出につながる可能
性がある。複数の移住コンサルタントがインタビューで明らかに
したところでは、ゼロコロナ政策が昨年12月に撤廃されて以来
多くの中国人富裕層が不動産のチェックや移住計画の最終確認の
ため、海外に渡航し始めている。こうした中、金融市場を圧迫し
得る資本流出に加え、頭脳流出が懸念されている。
     ──2023年1月29日/ブルームバーク記事より
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/048]

≪画像および関連情報≫
 ●逆回転し始めた中国の高成長の仕組み
  ───────────────────────────
   8月は中国経済の悪化リスクが一段と高まり、投資資金の
  流出が加速した。投資に依存した中国経済の成長メカニズム
  は限界を迎え、既に逆回転し始めている。
    1978年の「改革開放」以降、中国は、重厚長大分野
  で国有・国営企業の経営体制を強化してきた。経済特区を設
  けて海外企業の直接投資を呼び込み、製造技術の移転も促進
  した。安価で豊富な労働力を背景に「世界の工場」としての
  地位を固め、輸出競争力を上げた。それに加えて、国内の不
  動産投資を活発化させることで、90年代以降は10%超の
  高い経済成長率を実現した。
   リーマンショック後、世界全体で貿易取引は減少すると、
  共産党政権は投資による経済成長を重視した。4兆元(当時
  の為替レートで換算すると約56兆円)の経済対策を実施し
  不動産などへの投資を増加。農村地域への自動車や家電の普
  及も加速した。
   地方政府は、土地の利用権をカントリー・ガーデンなどの
  デベロッパーに売却し財政収入を確保した。その資金を使っ
  て道路建設などインフラ投資を実施。電気自動車(EV)普
  及など補助金政策も強化した。鉄鋼など基礎資材の生産能力
  強化のために、固定資産投資(主に企業の設備投資)も増え
  た。   https://diamond.jp/articles/-/328321?page=2
  ───────────────────────────
中国の米国債保有残高.jpg
中国の米国債保有残高
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2023年10月31日

●「日銀はYCCをいつまで続けるか」(第6037号)

 現在世界はインフレになっています。インフレになると、新聞
紙上では金利の話が多くなり、話が難しくなります。中央銀行の
出番であり、インフレ抑制に動き出します。ここまでの分析によ
ると、インフレの原因は「コロナ禍」とされています。
 その一方で日本はインフレなのかデフレなのかわからない表現
が使われます。「デフレでない状況」とか、「デフレから脱却し
つつある」という表現です。しかし、日本の中央銀行である日銀
は、デフレからの脱却のために現在も金融緩和を継続しており、
欧米とは明らかに異なる金融政策をとっています。その結果とし
て、円安が止まらないでいます。
 日本も間違いなくインフレです。その証拠に幅広い商品に物価
高が起きており、政府はその物価高対策として、所得税の定額減
税を打ち出しています。そして、10月28日の日本経済新聞に
次の記事が掲載されています。
─────────────────────────────
 日銀の物価観にようやく変化の芽が出てきた。31日(今日)
公表する消費者物価指数(CPI)上昇率の見通しは2022〜
24年度まで3年連続で前年度比2%以上になる公算が大きい。
きっかけは輸入物価の上昇という外的圧力だったが、日銀の想定
以上に価格転嫁が長引いており、物価目標達成に向けて条件は整
いつつある。(中略)
 日銀が重視する物価の基調指標も2%目標への接近を示す。変
動が大きい品目の影響を除いて算出する3指標は、「動かぬ物価
指標」とされてきた加重中央値も含めて、9月にすべて2%以上
になった。幅広い品目の値上げを示す。
      ──2023年10月28日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 問題はここにきて日経平均株価が下がってきていることです。
10月26日の日経平均株価の終値と、その年初来高値を以下に
比較してみることにします。
─────────────────────────────
 10月26日/日経平均株価 ・・ 3万0601円78銭
  6月19日/日経平均株価 ・・ 3万3772円89銭
─────────────────────────────
 日経平均株価は大幅に下落し、かろうじて3万円台をキープし
ている状態です。なぜ、このようなことになったかですが、原因
としては、次の2つが考えられます。
─────────────────────────────
   @利上げにより金融引き締め効果が出始めてきている
   Aウクライナとガザでの紛争で、地政学リスク高まる
─────────────────────────────
 日銀は、2016年から長期金利(10年物国債利回り)をゼ
ロ%前後に抑える「イールド・カーブ・コントロール/YCC」
を敷いています。長期金利をなぜ低く抑えるのかというと、日銀
が国債を大量に買い入れる必要があるからです。
 YCCについては、これまで何度も出てきていますが、ここで
もう一度説明をしておきます。これが分かると、日経の金利関連
記事の意味が理解できると思うからです。
 そもそも中央銀行がコントロールできるのは、銀行間取引市場
での短期金利だけだとされていたのです。長期金利を抑え込むに
は長期金利を大量に買い入れなければならず、やり過ぎると財政
規律の緩みにつながり、いわゆる「禁じ手」に近い策になってし
まうからです。
 安倍政権の要請を受けて、黒田前日銀総裁は年50兆円の国債
の積み増しを政策目標としましたが、2014年にはそれを80
兆円に大きく増やしてしまっています。そこで国債保有量ではな
く、長期金利を政策目標にしようと考えて導入したのがYCCで
す。これを黒田総裁に提言したのは、当時副総裁をしていた雨宮
正佳氏だったのです。
 中央銀行による長期金利のコントロールの歴史的事例は、19
33年にフランクリン・ルーズベルトに対して、経済学者のジョ
ン・メイナード・ケインズが次のようなアドバイスしています。
─────────────────────────────
 FRBが長期債を購入して短期債を売却するだけで、長期国債
の金利は、2・5%かそれ以下に低下し、かつそれが債券市場に
好ましい効果を及ぼすのであるから、私にはあなたがそれを行わ
ない理由が分からない。           ──河浪武史著
          『日本銀行虚像と実像/検証25年緩和』
                     日本経済新聞出版
─────────────────────────────
 しかし、2022年になると、世界金利の上昇によって、日本
国債市場にも圧力がかかり、日銀は再び国債を大量に購入せざる
を得なくなったからです。日銀の国債の買い入れ量は、2022
年には、111兆円に達し、前年の1・5倍の規模にまでなって
いたのです。もはや限界です。
 経済評論家の斎藤満氏は、植田新総裁に代わった日銀の政策に
ついて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本銀行は西側諸国で唯一、金融緩和をつづけてきたが、そろ
そろ限界に近づいています。長期金利の“上限”を1%に設定し
ていますが、マーケットは日銀を試すように1%の天井を突き破
ろうとしている。金利は0・86%まで上昇しています。もし日
銀が上限1%を死守しようとすると国債を買いつづける必要があ
るが、日銀はホンネではこれ以上国債を買いたくないはずです。
上限1%をギブアップするのも近いのではないか。この10年、
日本の株価は日銀の金融緩和に下支えされてきただけに、下支え
が終了すれば株価は下落してしまうでしょう」(斎藤満氏)
         2023年10月27日発行/日刊ゲンダイ
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/047]

≪画像および関連情報≫
 ●イールドカーブ・コントロール(YCC)の見直しは
  なぜ必要か
  ───────────────────────────
   植田総裁のもとでも、日本銀行は直ぐには政策を見直さな
  いとの見方が金融市場で強まっている。それが、為替市場で
  円安圧力を生み、株価の押し上げにも大いに寄与している。
  国債市場で政策金利(短期金利)の先行きの見通しを反映す
  る傾向が強い2年国債の利回りは、昨年12月に日本銀行が
  イールドカーブ・コントロール(YCC)の変動幅引き上げ
  を突如発表したことを受けて急上昇し、年末時点では0%を
  上回った。政策金利(短期金利)の早期引き上げの可能性を
  織り込んだのである。
   2年国債の利回りは、年末から年初のピークで+0・04
  %まで上昇したが、足元では−0・07%程度と昨年10月
  頃の水準まで低下している。早期のマイナス金利解除への期
  待は萎んでしまったのである。
   マイナス金利解除など、日本銀行が過去10年続いた異次
  元緩和の「枠組みの見直し」に本格的に着手するのは、まだ
  先のことだろう。筆者は早くても来年後半以降と現時点では
  考えている。
   ただし、多くの問題を抱えるYCCについては、本格的な
  「金融緩和の枠組み見直し」とは別枠で、昨年12月の柔軟
  化措置の延長、との名目で変動幅の再拡大や変動幅の撤廃年
  内にも実施する可能性が見込まれる。その結果、長期国債利
  回りが小幅に上昇する可能性がある。
                 https://onl.bz/MLu7TUu
  ───────────────────────────
雨宮正佳前日銀副総裁.jpg
雨宮正佳前日銀副総裁
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2023年10月30日

●「なぜ、『増税メガネ』と呼ばれるのか」(第6036号)

ネームが付いたかです。それに岸田首相はこのニックネームをす
ごく気にしており、このイメージを払拭するために、唐突に所得
税の減税を打ち出してきたのではないかといわれています。
 なぜ「増税メガネ」というニックネームが付いたかについて、
経済評論家の山崎元氏は次の趣旨のことをいっています。
─────────────────────────────
 岸田首相は、人の目を見て話さない。いつも役人の書いた原稿
を読んでおり、目は下を向いています。本人の言葉ではないので
言葉に力がない。まるでしゃべる空き箱だ。表情にも顔にも注意
が向かない。したがって国民にはメガネしか印象にのこらないの
である。          ──「山崎元氏/経済快説」より
          2023年10月25日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 岸田内閣が発足したのは2021年10月4日のことです。翌
年の2月24日、ロシアはウクライナへの本格的な軍事侵攻を開
始します。これに伴い、2022年9月末、岸田政権は「安保関
連3文書」と呼ばれる防衛政策のよりどころを改定する作業を本
格化させます。
 これによって自民、公明両党の与党協議が始まり、2022年
12月3日に文書改定を終え、来年度政府予算案とリンクさせる
作業に着手します。具体的には、2023年度から5年間の防衛
費を総額約43兆円にする計画です。デフレ脱却のための2%の
物価目標を目指して、最初から「規模ありき」です。
 そして2023年2月3日、政府は防衛費増額に向けた財源確
保法案を国会に諮らず閣議決定してしまいます。そして2023
年6月16日、2023─27年度までの5年間に43兆円の防
衛予算を支出する計画を「骨太の方針」として公表します。これ
は、前の5年計画(2019─23年度)と比べ、1・6倍近く
に急増させる計画となっており、当然財源の手当てが大きな課題
になってきます。
 政府はここで基本的には増税不可避と決めています。ただし、
その実施時期は2025年以降としているものの、増税を避ける
ことは困難です。それなのに、なぜ、ここにきて「減税」を打ち
出したのでしょうか。
 岸田首相の立場に立った場合、それは総選挙対策に決まってい
ます。低迷し続ける支持率向上対策です。所得税を改正するには
所得税法などの改正が必要であり、その期間を調整すれば、減税
の実施は来年の夏頃になり、ボーナス時期に間に合うという計算
も成り立つと思われます。そこで圧勝すれば、2024年9月の
自民党総裁選は無投票でスルーできる──岸田首相はそれを狙っ
ていると思われます。
 しかし、国民が求めているのは物価上昇対策であり、インフレ
対策です。ところが政府がやろうとしているのは、所得税の定額
減税です。「所得税3万円/住民税1万円」の年間計4万円を1
回ただけです。何かがおかしいです。国会での立憲民主党の代表
質問と岸田首相の答弁を読んでみてください。
─────────────────────────────
泉代表:「まず総理。『経済、経済、経済』と言うだけではなく
 国民が望むのは今年中のインフレ手当の『給付、給付、給付』
 じゃないですか。これを実行すべきだと」
岸田総理:「デフレ脱却を確実にするためには、賃上げが物価高
 に追いつくまで、政府が支えることも重要だと。こうした観点
 からの国民への還元について、その実施時期も含め、早急に具
 体化してまいります」
泉代表:「物価上昇局面に過度の財政出動を行うと一層のインフ
 レを招き、実質賃金が低下し、個人消費が落ち込む。規模あり
 きではなく必要な方々への対策の重点化を図るべきだ」
                   ──国会での代表質問
─────────────────────────────
 本来の物価対策として効果があると考えられるのは「消費税の
税率を下げる」ことです。現在ほとんどのモノに対して10%の
税金がかかっており、物価を押し上げています。したがって、仮
に10%の税率を5%に下げれば、5%分モノは安く買えること
になります。だから、強力な物価対策になります。
 ところが消費税減税の話になると、鈴木俊一財務相は、必ず次
のようにいって反対します。
─────────────────────────────
 消費税は社会保障の重要な財源になっており、下げるとその代
替財源が必要になる。それに税率を下げるには、法改正が必要に
なり、その間にモノの買い控えが生じ、その結果消費が低迷する
ことによって、かえって不況になる。したがって、消費税を減税
するのは反対である。            ──鈴木財務相
─────────────────────────────
 この反論は、一国の財務大臣の反論になっていないです。財務
省の役人に入れ知恵されたのでしょう。最近財務省は「ザイム真
理教」と呼ばれています。なお、鈴木財務相は岸田首相の「税収
増を還元する」という方針に対し、次のように反論しています。
─────────────────────────────
    十分な財源的な裏付けがあるとは思っていない
                ──鈴木俊一財務相
─────────────────────────────
 これはとんでもない発言です。なぜかというと、首相の予算編
成方針に対して、閣内から平然と異議を唱えているからです。ザ
イム真理教は首相や国民の上に立っているとでも思っているので
しょうか。首相に対してきわめて失礼な発言であるとは考えない
のでしょうか。消費税の捉え方にも問題があります。社会保障の
財源といいますが、本当にそうなっているのでしょうか。他国で
はコロナ禍のとき、消費税を下げて、さらに給付金も配っていま
す。         ──[物価と中央銀行の役割/046]

≪画像および関連情報≫
 ●年4万円の「定額減税」方針表明/岸田首相が政府与党
  に具体化を指示
  ───────────────────────────
   岸田文雄首相は10月26日、首相官邸で開いた政府与党
  政策懇談会で、税収増の還元策として、1人あたり年4万円
  の所得税などの「定額減税」を行う方針を示し、具体的な制
  度設計を進めるよう指示した。住民税の非課税世帯に7万円
  の現金給付を実施することと合わせて政府の総合経済対策に
  盛り込み、11月2日に決定する。
   首相は自民、公明両党の幹事長や政調会長らを前に「賃金
  上昇が物価高に追い付いていない国民の負担を緩和するには
  可処分所得を直接的に下支えする所得税、個人住民税の減税
  が最も望ましい」と説明した。
   2021年度と22年度の2年間で増えた所得税と個人住
  民税3・5兆円を「国民に税の形で直接還元する」と語り、
  来年度に限り、1人あたり年4万円の定額減税を行う考えを
  示した。所得減税3万円、住民減税1万円の計4万円で、扶
  養家族も対象とし、来年6月から始める。所得制限への言及
  はなかった。納税額が少なく、減税の恩恵を十分に受けられ
  ない人への対応も検討するとした。
   首相は、減税の対象にならない低所得者について、住民税
  非課税世帯に1世帯あたり7万円を現金給付する考えも表明
  した。物価高対策として今年3月に決めた3万円の支給に加
  え、「合計10万円を目安に支援を行う」と述べた。政府は
  住民税は課税されているが所得税が非課税の納税者にも10
  万円の給付を検討する。
  https://digital.asahi.com/articles/ASRBV6K8GRBVUTFK00F.html
  ───────────────────────────
増税メガネ/岸田首相.jpg
増税メガネ/岸田首相
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2023年10月27日

●「1987年と酷似/日米の株高/金利高」(第6035号)

 ロシアによるウクライナ侵攻がずるずると長期化する一方で、
イスラム組織ハマスがイスラエルを突如急襲し、大勢の死者が出
ています。イスラエルは直ちに反撃するとともに、ハマスの潜む
ガザ地区に対し、10月24日現在、大規模な地上作戦を仕掛け
ようとしています。
 そのバックにはイランが控えており、最悪の場合、ヒズボラが
これに参戦する可能性があります。ヒズボラは、1982年に結
成されたレバノンのシーア派イスラム主義の政治組織であり、ハ
マスを上回る武装組織です。もし、ヒズボラが加わると、戦争は
簡単には終わらない中東有事になります。
 バイデン米大統領をはじめ、西側欧米諸国は、イスラエル支持
を表明しながらもイスラエルに対して、大規模地上作戦の延期を
求めていますが、止めることは非常に困難な情勢です。おそらく
今日のEJが届くころには、大規模地上作戦は始まっている可能
性は十分あります。
 少し気になることがあります。「ブラックマンデー」というの
をご存知でしょうか。1987年10月19日にそれは起きてい
ます。世界中の株式市場で株価の大暴落が起きた日です。以下、
ブラックマンデーで起きたことを記述します。
─────────────────────────────
 1987(昭和62)年10月19日、ニューヨーク市場で株
価が急落。翌日の東京市場も売りが殺到し、世界中の株式市場が
暴落に見舞われました。
 この日、NYダウ平均株価は22・6%安と史上最大の急落に
見舞われました。翌20日の東京市場では日経平均株価が前日比
3836円48銭安の21910円08銭と急落しました。下落
幅だけでなく、14・90%の下落率も過去最大となり、欧州に
も連鎖しました。
 しかし、翌21日には日経平均が、2037円32銭高と急反
発。このことが安心感を生んで、世界株安は急速に収束していき
ます。NYダウが急落した原因は、コンピューターによる「プロ
グラム売り」とされました。株価の急落を受けて、コンピュータ
ーがプログラムに従って投げ売りを指示。さらに株価が下がって
売り物が増えていく悪循環となったのです。
                  ──トウシル/楽天証券
─────────────────────────────
 なぜ、ブラックマンデーなのかというと、現在の株価や金利の
の状況と、中東の情勢などが今回と酷似していることです。詳し
くみていくことにします。
 「恐怖指数」という何やら恐ろしげの指数があります。投資家
の心理状態を表す指数です。「VIX指数」ともいいます。
─────────────────────────────
◎「恐怖指数」/Volatility Index
 株式指数が暴落したときなど、投資家の不安が大きくなったと
きに、VIX指数が上昇する。株式市場の温度感を知るのに便利
な指標とされている。
─────────────────────────────
 一体1987年に何が起きていたのでしょうか。
 ポール・ボルカー氏という人物がいます。1979年8月に米
FRB議長に就任しています。当時の米国は、第2次石油危機の
影響で、深刻なインフレに直面していたのです。そのため、ボル
カー議長はインフレと戦うために利上げを連続して行っていたの
です。現在のパウエル議長と同じです。
 金利が上がると、景気が悪くなり、株価が下がるのが一般的な
現象です。しかし、株価は一向に下がらず、ダウ平均は高止まり
し、株高を維持していたのです。それが、10月19日の月曜日
に一気にはじけてしまうのです。米ダウ平均は1日で23%下落
し、世界同時株安に発展します。日経平均株価も15%近く値下
がりしています。
 この「金利高にして株高」のパターンが、ブラックマンデーの
ときと同じであり、投資家を心配させているのです。米FRBが
17回もの利上げを実施しているのに、足下の長期金利は高止ま
りしたままです。
 パウエル議長のやったことを簡単に振り返ってみます。パウエ
ル議長は、インフレを軟着陸させるため、2022年3月にゼロ
金利政策を解除し、計11回、幅5・25%もの利上げを実施し
てきていますが、足元の長期金利は、約16年ぶりの高さにあり
ダウ平均は3万ドル台と好調をキープしています。日経平均も3
万円台を維持しています。
 10月20日の「恐怖指数」を計算してみると、次のようにな
ります。「20」を上回ると、投資家に強い警戒感を示すとされ
ています。
─────────────────────────────
    ◎10月20日の恐怖指数
     日経平均の恐怖指数 ・・・ 23・20
         米ダウ平均 ・・・ 21・71
─────────────────────────────
 実は、もうひとつ類似点があるのです。1987年のときは石
油危機、今回は、ハマスによるイスラエル攻撃を受けての中東情
勢がからんでいます。もしイスラエル軍が、苛烈な地上戦に振り
切ったり、イラン軍がホルムズ海峡で通貨船を攻撃するなどの動
きがあると、割高になっている米国株が暴落し、世界同時株安に
なることは十分ありえることです。
 1987年のときは、イラン軍がタンカーを攻撃し、米軍がイ
ランの海上油田に報復攻撃し、市場に緊張感が高まっていたので
す。イランならやりかねないといえます。
 EJがとくに米国の金利の動きを詳しくウオッチングしている
のは、「株高・金利高」+「中東有事」が引き起こす世界同時株
安の危険性があるからです。
           ──[物価と中央銀行の役割/045]

≪画像および関連情報≫
 ●ブラックマンデーの1987年、現在と不吉な類似
  ──オーサーズ
  ───────────────────────────
   金融業界では1987年との比較は決して歓迎されない。
  同年10月に起きたブラックマンデーの暴落は、いまだに最
  も悲惨な一日として市場の歴史に刻まれている。このため、
  現在の状況がブラックマンデーの数カ月前に酷似していると
  の指摘は少しぞっとする。筆者に最近届いた3通の電子メー
  ルが、この不吉な年に言及していた。
   1通は、ソシエテ・ジェネラルの超弱気派ストラテジスト
  として長年知られているアルバート・エドワーズ氏からのメ
  ールだった。だが、債券利回りが上昇する中でも株高が進ん
  だ今年の展開は87年を想起させると指摘したのは同氏だけ
  ではない。インタラクティブ・ブローカーズのスティーブ・
  ソスニック氏は「自分が金融業界に入った87年は、年の大
  半で債券が弱気相場に落ち込む一方で、株価は大きく値上が
  りしていた。もちろんそれが急激に反転するまでの話だが」
  と振り返った。
   株式相場が20%下落した87年10月19日に債券利回
  りの反転がどれほど急激で、今年とどれほど似ているかを説
  明するために、以下のチャートを紹介したい。両年の年初か
  らの米10年債利回りの動きを重ね合わせたものだ。
                    ──ブルームバーク
  ───────────────────────────
2023年と1987年の長期金利の動き.jpg
2023年と1987年の長期金利の動き
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2023年10月25日

●「異次元金融緩和の真の狙いとは何か」(第6034号)

 米長期金利の5%台への上昇によって、日本の長期金利も上昇
してきています。これによって、日本の長期金利(10年物国債
金利)も上限に近づいてきています。10月22日付の日本経済
新聞の関連記事を掲載します。
─────────────────────────────
◎日銀、金利操作の再修正論/米引き締め長期化で
 日銀で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YC
C)の再修正論が浮上している。米金利上昇に伴い国内の長期金
利も上がり、7月の修正で決めた1%という事実上の上限に近づ
きつつあるためだ。月末に開く金融政策決定会合で議論する見通
しだが、日銀内には温度差がある。
        ──2023年10月22日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 日本の長期金利は、7月の金融政策決定会合において、1%を
上限としていますが、10月20日には、一時「0・845%」
まで達しています。これは約10年ぶりの高水準です。そういう
わけで日銀は、今月の金融政策決定会合において、長短金利操作
の再修正論を議論するのではないかと見られています。
 ところで、「アベノミクス」という日本経済を活性化させよう
とする経済政策において、故安倍首相と黒田日銀総裁は一体何を
狙っていたのでしょうか。
 経済学というのは奥の深い学問です。しかし、生活に結びつい
ているので、素人でもある程度のことは理解できます。単純に考
えてみます。とにかく日本は何とかしてデフレから脱却する必要
があります。経済がまるで成長しないからです。
 そのため日銀は、市中に流れるお金を増やす必要があります。
お金の量が増えれば物価が上がると考えられるからです。それに
は日銀は金融緩和を実施する必要があります。具体的には、日銀
が民間の銀行が保有している国債を買い、その代金を民間銀行が
日銀に保有する当座預金に振り込むのです。その結果、当然です
が、日銀当座預金の量は激増します。
 事実日銀当座預金は、2013年から激増しています。4月末
には61・9兆円、2年後の2015年末には206・2兆円に
増加しています。しかし、その時点でも市中に流れるお金の量は
約100兆円レベルであって、増加していないのです。
 ちなみに日銀当座預金にいくらお金が積み上がっても、銀行が
そのお金を引き出して民間銀行の預金に移さない限り、市中のお
金の量は増えないのです。この日銀当座預金のことを「マネター
ベース」といい、日銀券と銀行預金などの合計を「マネーストッ
ク」といいます。その肝心のマネーストックは一向に増えていな
いし、これでは物価も上がらないことになります。
 しかし、そのマネーストックが、激増した年があります。20
20年〜21年です。コロナ禍により、政府が企業や個人に対し
緊急融資を行ったからです。マネーストックは急増しましたが、
物価は上がらなかったのです。この現象を「フィリップス・カー
ブの死」と呼ばれています。
 アベノミクスにおけるここまでの一連の考察の結果、野口紀雄
教授は、日銀の「異次元緩和」の目的は、物価ではなく、別のも
のだったのではないかとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 私は、異次元緩和が本当に行おうとしたのは、以下のようなこ
とだったのではないかと考えている。
 1.国債の大量購入によって金利を引き下げる。
 2.金利引き下げによって、財政資金の調達を容易にする。さ
   らに外国との金利差を拡大し、円安を実現する。
 3.円安によって大企業の利益を増大させる。
 4.それによって株価を引き上げる。
 このように考えれば、さまざまなことが整合的に理解できる。
株価が本当の目的として重視されていたことは、日本銀行がOE
CDの対日審査(2019年4月)で強い批判を受けながら、E
TFの購入という、中央銀行の政策としては大いに疑問のある政
策を採り続けたことからも窺える。
   ──野口悠紀雄著『日銀の責任/低金利日本からの脱却』
                   PHP新書め1353
─────────────────────────────
 ちなみに「ETF」とは、取引所で取引される投資信託のこと
であり、「上場投資信託」と呼ばれます。ETFは投資信託の一
種ですが、一般的な投資信託とは違って取引所に上場しているた
め、個別の株式と同じように、証券会社を通じて取引所で売買す
ることができるという点が最大の特徴です。
 「悪夢の民主党政権」──これは民主党から政権を奪取した故
安倍首相が国会答弁のときに使った言葉です。それは、株価にも
よくあらわれています。
 鳩山政権、菅政権、野田政権──それぞれの退任時の日経平均
株価は、鳩山政権9537円、菅政権8950円、野田政権90
24円となっており、いずれも日経平均株価は、1万円を大きく
割り込んでいたのです。株価の下落は、どうしても世の中に暗い
イメージを与えるものです。
 しかし、2012年11月16日に衆議院が解散され、12月
16日に実施された総選挙で民主党が大敗し、自公連立の安倍政
権が誕生すると同時に株価は上がり始めたのです。安倍政権に対
する期待から株価が上がったのです。
 日経平均株価を上げても、それでデフレから脱却できるわけで
はありませんが、少なくとも国民は少し息が付けます。安心でき
ます。当時の民主党政権は、経済のことが分かる議員が少なく、
不安に感じていた国民も少なくなかったと思います。
 そこで、安倍首相は黒田東彦氏を日銀総裁に任命し、株価を上
げるための一連の工作をしたことは十分考えられることです。そ
ういう観点から、アベノミクスを再検証する価値はあると思いま
す。         ──[物価と中央銀行の役割/044]

≪画像および関連情報≫
 ●アベノミクスとは何だったのか/安倍元首相が
   日本経済に遺したもの
  ───────────────────────────
   デフレおよび円高という二重苦から抜け出せなかった日本
  経済を転換させるきっかけとなったアベノミクス。だが、7
  年8カ月に及んだ第2次安倍政権下でその中身は次第に変質
  し、軌道修正が求められている。
   「大きな政策の実行には時間がかかる。まずは目に見える
  実績を積み重ね、政権を安定させる」。安倍氏が周囲に何度
  も語っていた言葉だ。
   1990年代のバブル崩壊以降、日本企業は産業構造の転
  換や新規事業の創出に踏み出せずにいた。2001年発足の
  小泉純一郎政権は、企業の成長を促す規制緩和や官から民へ
  の権限移譲といった構造改革を政治主導で進め、産業の効率
  化や新陳代謝を加速させようとした。
   安倍元首相は小泉元首相の側近としてこうした構造改革の
  重要性をよく理解していた。だが、構造改革の実行は時間を
  要するだけに、安定した政権基盤がないと取り組めない。ま
  ず「目に見える実績」を出し、国民の信頼を得るのが必要不
  可欠だった。そこで安倍元首相が頼ったのが金融政策、財政
  政策だった。これらと「成長戦略」と名を変えた構造改革を
  組み合わせたのが「大胆な金融緩和(第1の矢)」「機動的
  な財政出動(第2の矢)」「民間投資を促す成長戦略(第3
  の矢)」を柱とするアベノミクスである。
                 https://onl.bz/ap5srP8
  ───────────────────────────
長期金利上昇と円安の同時進行.jpg
長期金利上昇と円安の同時進行
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2023年10月24日

●「インフレ/各国のMMTの結果である」(第6033号)

 10月19日、米長期金利(10年物国債金利)が遂に1・5
%に達しました。16年ぶりの高水準です。関連する日本経済新
聞の記事を掲載します。
─────────────────────────────
【ワシントン=高見浩輔】米連邦準備理事会(FRB)のパウエ
ル議長は19日の講演で、利上げがすでに終結したと読む一部の
市場の見方をけん制した。次回の米連邦公開市場委員会(FOM
C)では政策金利を据え置く姿勢だが、その後は追加利上げの可
能性があると強調した。
 ニューヨークでのイベントで、パウエル氏は今後の金融政策運
営について「不確実性とリスク、これまでの道のりを考えて注意
深く進めている」と発言した。10月31日〜11月1日に予定
される次回のFOMCについて、金利先物市場では9割が利上げ
の見送りを予想している。
        ──2023年10月19日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 なぜ、長期金利は15%まで上昇したのでしょうか。その原因
としては、次の3つがあります。
─────────────────────────────
         @政権の拡張的財政支出
         A米連邦議会下院の混乱
         B幅広い通貨のドル買い
─────────────────────────────
 @は「政権の拡張的財政支出」です。
  米バイデン政権は国債の増発を行い、拡張的財政支出が増え
  ている。米国債はほぼ無リスクであり、それで15%の金利
  が付くなら株を売って、国債を買う人が増える。
 Aは「米連邦議会下院の混乱」です。
  米連邦議会下院議長が解任され、議長不在の異常がそのまま
  であり、大きな不安要素になっている。
 Bは「幅広い通貨のドル買い」です。
  長期金利の上昇を受け、外国為替市場では幅広い通貨に対し
  てドル買いが進み、円相場は一時「1ドル=150円」台ま
  での円安ドル高が進んでいる。
─────────────────────────────
 今回のテーマは、渡辺努東京大学教授の所論をテキストにして
物価に対する中央銀行の役割、インフレとの関連を追及していま
す。これを難しい理屈はともかくとして、少し別な角度から考え
てみることにします。
 積極的な財政運営を可能にするための絶対的な要件とは「長期
金利が低い」ことです。そのため、アベノミクスをサポートした
当時の黒田日銀総裁の「異次元金融緩和」の真の狙いは、長期金
利を低いレベルに下げてそれを維持することにあったのです。
 これに関連して、MMT(現代貨幣理論)という経済学の理論
があります。自国通貨で国債を発行できる国は、決してデフォル
トに陥ることはないので、国は国債を発行し、それを財源にして
いくらでも財政支出ができるという理論です。ただし、その場合
長期金利は低いレベルに抑え込んでおく必要があります。
 MMTに関しては、EJでもテーマとして取り上げて検討して
います。そのさい多くの本を読んで研究しましたが、MMTは、
決していい加減な理論ではなく、納得できることはたくさんある
と考えます。ただし、この理論の提唱者は、一つだけ次の条件を
付けています。
─────────────────────────────
 MMTで注意すべきことといえば、インフレにならないよう注
意することである。     ──ステファニー・ケルトン教授
─────────────────────────────
 コロナ禍では、各国は膨大な財政支出を行い、そのほとんどは
国債で賄われ、中央銀行は大量の国債を購入しています。当初は
各国政府が思うようにいくらでも財政支出が行えるように思えた
ものです。これによって、MMTは正しいのかと最初は考えられ
るようになったのです。しかし、その結果起きたのがインフレで
す。今回のインフレをこのように考えることもできます。
 これについて、野口悠紀雄一橋大学名誉教授は、自著で次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 経済学の教科書には、MMTが主張するような財政運営を行な
えば、インフレーションが起きると書いてある。インフレが起き
ると人々の購買力が減少するから、インフレは税の一種だ。しか
も、所得の低い人に対して重い負担を課す過酷な税だ。そのとお
りであることが実証されたのだ。
 誰も負担をせずに、財政支出の利益だけを享受できるという魔
法が実現できるはずはない。打ち出の小槌などありえない。ごく
当たり前のことが実証されただけだと言える。MMTの主唱者で
あるニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授は「支
出を行なう際に、適切な措置が行なわれなかったからだ」と防戦
しているが、説得性に欠けることは否めない。
   ──野口悠紀雄著『日銀の責任/低金利日本からの脱却』
                   PHP新書め1353
─────────────────────────────
 野口教授は興味あることをいっています。それは「日本でもイ
ンフレは起きているが、それは米国のそれとは違う。米国では国
内で需要が増加し、また、賃金が上昇した結果、インフレになっ
ているが、日本はそれとは異なる」といっています。
 野口教授は、「日本の場合は、インフレは国内要因で起きたも
のではなく、輸入されたものだ。つまり、原油価格も、小麦価格
も海外要因によって上昇したのだ。輸入価格の高騰によって、国
内物価が受動的に上昇したからである」。しかし、日銀は利上げ
できない状態にある」と。
           ──[物価と中央銀行の役割/043]

≪画像および関連情報≫
 ●日本のインフレを巡る不確実性:機動的な金融政策の
  必要性が浮き彫りに
  ───────────────────────────
   日本の総合、インフレ率は、金融・財政政策による下支え
  と観光業の急増を背景に景気回復が続いたため、2月に40
  年ぶりの高水準に達した。ここ数か月はエネルギー価格の下
  落によってインフレ率が減速したものの、生鮮食品とエネル
  ギーを除くコア価格の基調的な動向は勢いを増しており、4
  月には4・1%と40年ぶりの高水準を付けた。
   急激な物価上昇が望ましいとされることはあまりないが、
  日本は1980年代後半から1990年代初頭以降デフレを
  繰り返してきたため、例外と言えよう。世界第3位の経済大
  国が転換点に立ち、日本銀行がようやく物価を2%の目標付
  近で維持できる可能性があるという希望が見えてきた。その
  理由は3つある。
  ・インフレは当初、基調的な需要が底堅かったことからでは
   なく、世界的なエネルギーと、サプライチェーンの危機に
   よって引き起こされたが、価格圧力がより広範で、より持
   続的である兆候がますます見られるようになってきた。
  ・労働組合と大手企業間で、毎年行われる交渉「春闘」は物
   価上昇と一致するように予想以上の賃上げで合意する兆し
   である。
  ・企業調査は、インフレ期待が上昇し続けることを示してお
   り、これが企業の価格設定に影響すると考えられる。
   しかし、こうした要素にはインフレを維持することが困難
  になる注意事項も伴う。労働者の70%以上を雇用する中小
  企業は利益率が低く、十分な賃上げを行う余裕がないため、
  十分な賃上げができない可能性がある。
                     ──国際通貨基金
  ───────────────────────────
「次回利上げは見送り」/パウエル議長.jpg
「次回利上げは見送り」/パウエル議長
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2023年10月23日

●「岸田所得減税/どのようが内容か」(第6032号)

 岸田内閣の「所得税減税」の話を続けることにします。増税の
イメージの強い岸田内閣が、所得税の減税をやるとはよほど差し
迫った事情があると考えられます。やはり総選挙を意識している
のでしょうか。今日のEJの執筆時点での最新の情報では、次の
ような減税が考えられています。
─────────────────────────────
     ◎「期限付き」所得税の(定額/定率)減税
            2023年10月20日現在
─────────────────────────────
 「所得税の減税」で思い出すのは、1997年の橋本政権のと
きの特別減税。1997年といえば、当時の巨大証券である山一
証券が、帳簿に載らない債務「簿外債務」が拡大し、資金繰りが
行き詰まるとの判断から、自主廃業を決定したことです。
 当時は橋本龍太郎内閣。橋本首相は、村山内閣のときに決まっ
ていた消費税率3%から5%への引き上げを行い、経済対策とし
て2兆円規模の特別減税を指示しています。
 ちなみに村山内閣というのは、自民党、社会党、新党さきがけ
の3党が「自社さ」連立政権の成立で合意し、村山富市社会党委
員長を首相とする内閣のことです。消費税は、竹下登内閣の19
89年4月1日から税率3%ではじまっています。
 まさか廃業するとは誰も思っていない山一証券が廃業するなど
国内が深刻な金融危機と不況の社会不安が広がっていたこともあ
り、橋本内閣としては所得税の減税を実施しようとしたのです。
 どのような減税だったのでしょうか。
 1998年分の所得税から本人は1万8千円、扶養家族は1人
当たり9000円を税額から差し引くなどの「定額減税」であり
1998年4月には追加で2兆円規模の減税になっています。
 1998年7月には参院選があり、当然橋本首相はその先頭に
立って選挙運動を行っていました。当時橋本内閣は支持率が高く
間違いなく選挙に勝てるという手応えを掴んでいたのです。
 そのためか、橋本首相は、1999年以降は上限を設けた上で
税額から一定割合を引く「定率減税」に切り替えて、これを「恒
久減税化」することを考えていたのです。その構想が選挙運動中
に「ポロッ」と出てしまったのです。そのいきさつを当時の朝日
新聞は次のように報道しています。
─────────────────────────────
 「特別減税のようなものではなく、恒久的な税制改革として打
ち出されていくと期待している」──橋本首相は、1998年7
月3日の記者会見で、税制改正を巡り、こう発言した。この発言
は恒久減税の実施を明言したと受け取られたが、2日後のテレビ
番組で「財源はどうするのか」などと追及されると、「恒久減税
という言葉は使っていない」とトーンダウン。「首相迷走」と一
気に批判を浴びた。
 8日の記者会見で「99年からの所得税の恒久減税」を明言し
て収拾を図ろうとしたが、有権者の不信感を 払拭 することはで
きなかった。12日の投開票日。自民党は改選61議席を大きく
下回る45議席(追加公認を含む)と惨敗した。
                     ──朝日新聞より
─────────────────────────────
 所得税の減税には、このような橋本内閣の「負の遺産」があり
リスクを伴いますが、岸田首相としては、何をやっても支持率が
上がらない焦りからか、一種の賭けに出たものと思われます。し
かし、恒久減税ならともかく、期限付き所得減税であり、それが
国民にどれほど受け入れられるかは疑問です。
 実施したのはいいが、すぐやめてしまうのでは所得税減税の効
果がないのです。そのため、橋本首相は「何とかこれを恒久減税
にしたい」と思っていたからこそ、失言したものと思われます。
 なお、今回の所得税減税には与党内からも慎重論があります。
10月19日の日経の「オピニオン」において、日本経済新聞社
のコメンテーターの小竹洋之氏は次のように書いています。
─────────────────────────────
 そもそも日本に税収増を還元する余裕があるのだろうか。国際
通貨基金(IMF)は最新の世界経済見通しを盛り込んだ報告書
で、主要27カ国の国内総生産(GDP)に対する公的債務残高
の比率を示した。コロナ危機前の19年から22年までの上昇幅
をみると、日本の24ポイント弱が最も大きい。
 賃上げ促進税制などの拡充はともかく、幅広い所得減税に踏み
込むような局面なのか。むしろ24年度予算案に盛り込む防衛費
や少子化対策、グリーン投資の財源に充て、この先に控える増税
や社会保険料の引き上げを少しでも抑えるほうが賢明に思える。
 日本の物価高は、資源や食料などの輸入価格の上昇が起点だ。
米欧とは逆方向の大規模な金融緩和が誘発した円安に助長された
面もある。これらを放置したまま、一時的な補助金や減税で痛み
を抑え続けるのは限界があろう。
       ──小竹洋之著「不思議の国 税収還元セール」
   2023年10月19日付、日本経済新聞「オピニオン」
─────────────────────────────
 岸田内閣は、なぜこれほど焦っているのでしょうか。
 それは、10月15日に投開票された東京都議選の立川市選挙
区補欠選挙(欠員2)で自民党公認候補が敗北し、自民内で動揺
が広がっているのです。
 今日のEJの時点では結果のわかっている2つの補選──参院
徳島・高知と、衆院長崎4区があります。いずれも与野党対決の
構図になっており、その結果はストレートに与党に響きます。自
民党がこれに敗れると、選挙どころか「岸田降ろし」が起きても
おかしくない事態です。
 しかし、国民は「減税は選挙目当て。後から増税が来る」と警
戒しており、今回の所得税減税がどれほど効果があるのか、きわ
めて疑問であるといえます。
           ──[物価と中央銀行の役割/042]

≪画像および関連情報≫
 ●岸田首相の“セコさ”目立つ経済政策・・「所得税減税は
  期限付き」に寄せられる国民の不信と不満
  ───────────────────────────
   10月20日に招集された臨時国会。最大のテーマは「経
  済対策」だが、早くも岸田首相の「セコさ」ばかりが目立っ
  ている。「注目されるのは所得税減税です。自民党は17日
  に提言を首相に手渡しましたが、そのなかにはかねてから主
  張していた所得税減税は盛り込まれていませんでした。周辺
  を取材すると、「所得税減税」ついては首相が打ち出す。そ
  の前に党に出されるとインパクトが弱くなる」と言うことで
  党は忖度をしたようです。
   永田町では「自作自演か」とまで酷評されていますよ。支
  持率回復のために、なりふり構わずなようです」と政治担当
  記者。それを裏付けるように、20日になり首相が自民党と
  公明党に“期限付き”の所得税減税を検討するように指示を
  出したと報道されている。「減税の期間や規模については今
  後の与党内協議に委ねられますが、“期限付き”の文言に与
  野党から、『首相には期限内に景気が良くなる確信や秘策が
  あるのか』と疑問の声が上がりました」(前出・政治担当記
  者)国民にも不信と不満がありありのようで、ネット上には
  このような声が多く寄せられている。《予想通り所得税減税
  やって来たよ。でもショボい期限付きW》《今更だしその期
  限って選挙終わるまででないの?》《年収400万の人間だ
  ったら年間を通したところで減税額なんてよくて年間で2〜
  3万円ですよね》など。    https://onl.bz/UgJFqsV
  ───────────────────────────
日本に税収増を還元する余裕があるか.jpg
日本に税収増を還元する余裕があるか
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2023年10月20日

●「岸田首相はどんな減税を打ち出すか」(第6031号)

 米債券市場で、長期金利の乱高下が続いています。10月の今
日まで、長期金利が、1日に「0・1%」以上変動する日は7割
を超えています。これは、3月の米地銀の破綻が相次いだ以来の
荒い値動きになっています。
 ウクライナ戦争に加えて、中東でも戦争が起きる一歩手前にあ
り、情勢が読み難くなっています。そこで今日は金曜日でもある
ので、国内の問題を取り上げることにします。
 日本の政治の世界では不思議なことが起きています。岸田首相
が「減税」を口にしているからです。何度も述べているように、
岸田首相の辞書には「減税」ということばはないはずです。
 ネットでは、岸田首相のことを「増税メガネ」と呼んでいます
が、「なぜ、増税メガネ」なのでしょうか。これについて、国民
民主党代表の玉木雄一郎氏は、次のようにいっています。
─────────────────────────────
 私はやっぱり、総理がもう少し、喜怒哀楽を出されたほうがい
いんじゃないか。この前もパネル作ってやってましたけど、何か
学校の先生がやってるみたいで、多くの人が黒板を見て指差しさ
れると嫌な感じばっかり印象に残っている。メガネかけた学校の
先生に難しい授業を教わっている感じになって、伝わるべきもの
は伝わってないんじゃないかな。
               ──玉木雄一郎国民民主党代表
─────────────────────────────
 それにしてもなぜメガネなのでしょうか。それは、2015年
の第28回目になる「日本メガネベストドレッサー賞」の政治部
門の賞を外務大臣のときに受賞しているからです。
 確かに岸田首相は、上品で、メガネも似合うし、スーツをきち
んと着こなして、外務大臣としての風格はあります。外務大臣を
長くやっているところから、語学力も達者です。しかし、岸田内
閣の最新の支持率は、今月の14日から15日に実施された朝日
新社の調査によると29%、不支持率は60%です。
 時事通信の10月調査によると、岸田内閣の年代別支持率は若
者の支持率が非常に低いのです。
─────────────────────────────
          ◎岸田内閣の年代別支持率
       18〜29歳 ・・ 10・3%
         30歳代 ・・ 18・1%
         40歳代 ・・ 25・1%
         50歳代 ・・ 24・0%
         60歳代 ・・ 32・4%
        70歳以上 ・・ 36・0%
                 ──時事通信の10月調査
          2023年10月18日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 内閣の支持率は年齢にほぼ比例するといわれます。そうすると
29%という支持率は70歳以上に位置づけられます。「70歳
以上」と「18〜29歳」は「25・7%」の開きがあります。
数字は出していませんが、男女別では「男性/29・9%」「女
性/22・5%」となっています。
 つまり、岸田内閣は、高齢者/男性の支持が高く、若者/女性
の支持が低いのが特徴なのです。若者の支持が高かった安倍内閣
と大きな違いがあります。これについて、井田正道明治大学教授
(計量経済学)は次のように述べています。
─────────────────────────────
 安倍内閣はキャッチフレーズがうまく、何か新しいことをやっ
ているイメージがありました。若者の雇用も改善した。菅内閣に
は携帯電話の料金を大幅に下げるという実績があった。だから、
若者の支持が高かったのでしょう。ところが岸田内閣からは何を
やりたいのか、ビジョンやメッセージが見えてこない。若者は、
そこにモノ足りなさを感じているのだと思います。
                 ──井田正道明治大学教授
          2023年10月18日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 10月17日のことです。自公両党は、岸田首相に経済対策の
提言を提出しています。しかし、このなかには、所得税減税の明
記は見送られています。これは、岸田首相が「減税の話は自分が
直接話す」といったからです。減税の話をする前に、先にアドバ
ルーンが上がってしまうと、自分が話すときのインパクトという
か、効果が小さくなると考えているのだと思います。
 すべてにおいて話が小さいのです。岸田内閣は、当初は「賃上
げ税制」など、国民に直接給付するのではなく、ガソリンの補助
金のように企業を通して給付しようとします。ガソリンに関して
は「トリガー条項」があるにもかかわらずです。お蔭で補助金を
託された石油会社は大儲けです。国民に直接給付するより、企業
を通して渡した方が、企業も政府に協力してくれるという発想で
しょうか。
 もし岸田内閣が所得税を減税をするとなると、どのくらいの規
模になるでしょうか。2020年に一律10万円配った特別定額
給付金の予算規模は、12兆8800億円ですが、今回はそんな
余裕があるわけはなく、せいぜい2兆〜3兆円の規模にとどまる
ことになると思います。
 しかも、これだけでは、課税最低限以下の低所得層には恩恵が
及ばないので、給付金が必要です。これら非課税世帯への給付金
とワンセットにすると、減税の規模は大きく縮小され、物価高対
策にはならないでしょう。岸田内閣は、何かそういうケチくさい
ところがあります。
 国民が真に望んでいるのは、やはり時限付き消費税減税です。
これについては、「法律改正に時間がかかる」「買い控えが起き
る」「一度下げると元に戻すのが困難」と、財務省(ザイム真理
教)は、できない理由ばかり並べて反対します。
           ──[物価と中央銀行の役割/041]

≪画像および関連情報≫
 ●日本人の生活が苦しいホントの理由、なぜ「減税」は当てに
  ならないのか?
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   私たち日本人は、仕事を持っている人の場合、所得税や地
  方税といった税金に加え、年金や医療など社会保障の保険料
  を納める必要がある。近年、こうした国民負担の重さについ
  て強く認識する人が増えている。ネットでは「日本のような
  重税国家では窒息してしまう」といった意見をたくさん目に
  するが、諸外国と比較すると日本の国民負担率はそれほど高
  くない。
   このように書くと、瞬間湯沸かし器のように怒り出す人が
  いるが、筆者は「負担率が低いので大したことはない」と主
  張したいのではない。むしろ筆者の見立てはもっと深刻であ
  る。諸外国と比較して負担率が低く推移しているにもかかわ
  らず、国民の負担感は諸外国より大きいのが現実であり、日
  本が置かれた状況はさらに厳しいと主張したいのだ。以下で
  はなぜそうなっているのか、どうすれば解決できるのかつい
  て考察していく。
   メディアでは「国民負担率」という言葉をよく目にするが
  実は国民負担率というのは日本独特の概念であり、諸外国に
  は存在しない。財務省が国民負担率の国際比較結果を公表し
  ているが、これは日本だけで通用する資料である。
   諸外国においては、所得税や地方税などの税金は一方的に
  徴収されるものなので「負担」とみなされるが、年金や医療
  については保険料を払っている本人が直接的な受益者であり
  負担とは位置付けられていない。だが、ここでは税と社会保
  障の支出を国民負担とする日本式の概念で議論を進めていく
  ことにする。         ──経済評論家 加谷珪一氏
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メガネが似合う岸田首相.jpg
メガネが似合う岸田首相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物価と中央銀行の役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年10月18日

●「3つのシナリオ/原油価格に影響か」(第6030号)

 物価の話に戻そうと思ったのですが、またしても金利の話をし
なければならなくなりました。原因は、いうまでもなく10月7
日に発生したイスラエルとイスラム組織ハマスとの激突です。
 2023年10月16日付、日本経済新聞は、3面に次の記事
を掲載しています。なお、この原稿は16日に書いているので、
2日間で中東情勢がどう動くかについては予想できていません。
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◎米金利乱高下・中東緊迫、揺れる市場/中東緊迫/混迷深まる
                FRB追加利上げ見方割れる
 米長期金利の乱高下で世界の金融市場が揺れている。米連邦準
備理事会(FRB)による追加利上げを巡る見方はなお割れる。
イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突に伴う中東情勢の影響も
読み切れず、市場は原油高の再燃などに身構える。
        ──2023年10月16日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 一般的な常識として、中東で何かが起きれば原油価格が上昇し
経済に影響を与えることは必至です。しかし、こんなことが起こ
ろうとは、だれも予想していなかったはず。大きな情勢変化であ
るといえます。
 このところEJは米長期金利の動きに注目しています。10月
上旬の米長期金利は、9月中旬の4・3%から4・88%まで上
昇し、5%を窺う勢いだったのです。このままでは、FRBは、
さらなる利上げが必要となり、インフレを軟着陸させることは困
難になります。
 ところが、9月の米雇用統計の数字がかなり良かったことによ
り、米長期金利は4・6%台に下がったのです。FRB高官の発
言も原因になっています。この数字は、過去50年で最低のレベ
ルです。日経平均株価はこれを好感して3日間で1500円近く
上昇していますが、今回のハマスによるイスラエル襲撃後の12
日、米国の消費者物価指数(CPI)は、市場の予想を大きく上
回ったのです。これによって、長期金利は4・7%へ上昇に転じ
潮目が変わったように見えます。
 問題は、このイスラエルとハマスの戦闘が原油高に火をつける
かどうかでです。これについてイスラエルのネタニアフ首相は、
「ガザに軍事侵攻し、制圧し、ハマスを根絶やしにする」といっ
ています。イスラエルは、ハマスによって突然攻撃され、大勢の
人が亡くなっています。したがって、イスラエルとしては、ハマ
スに対して、手緩い対応ができないのです。
 イスラエル軍は、形式上はガザ地区の住民に対し、「南に逃げ
ろ」と呼び掛けていますが、その一方でガザ地区のライフライン
を絶ったうえで、空爆をしており、実際に南に逃げられる人ごく
小数であると思われます。「できないことをやれ」といっている
のに等しいのです。
 ここで大事なことは、「パレスチナ=ハマス」ではないという
ことです。この関係について、明確にしておく必要があります。
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 ハマスとは、パレスチナ・ガザ地区を実効支配する武装組織。
イスラエルの破壊と、その後のイスラム国家の樹立を、目標に掲
げている。2007年にガザ地区を掌握して以来、イスラエルと
何度か交戦してきた。戦争と戦争の合間にも、イスラエルに向け
てロケット弾を何千発も発射するほか、他の武装勢力にも発射さ
せてきた。別の攻撃方法でもイスラエル人らを殺害してきた。一
方のイスラエルも、繰り返しハマスを空爆。2007年からは治
安対策を理由に、ガザ地区をエジプトと共同で封鎖している。
                 https://onl.bz/ErS33qu
─────────────────────────────
 もし、イスラエル軍によるガザ地区への軍事侵攻が行われ、そ
こで大勢のパレスチナ人が亡くなると、ヒズボラがハマスを支援
する可能性が高いといわれます。
 ヒズボラとは、1982年に結成されたレバノンのシーア派イ
スラム主義の政治組織であり、ハマスを上回る武装組織です。イ
ランとシリアの政治支援を受け、その軍事部門はアラブ・イスラ
ム世界の大半で抵抗運動の組織とみなされています。ヒズボラの
バックにはもイランが控えています。
 この原稿を書いている時点では、まだ地上戦ははじまっていま
せんが、欧州金融大手UBSは、事態の推移によって、次の3つ
のシナリオを立てています。
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◎欧州金融大手UBSによる3つのシナリオ
 @イスラエルとハマスの敵対行動の速やかな停止が、人道的に
  最善で、市場の緊張も和らぐ。
 A長期化しても、対立がイスラエルとハマスの地域に限定され
  るなら市場への影響は薄れる。
 Bイランが関与し、米国がイラン制裁を強化する事態になると
  原油価格に重大な影響が出る。
        ──2023年10月16日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ドルと原油は逆相関の関係にある──原油が上がるときは、ド
ルが下がったのです。この関係は、資源輸入国にとっては、自国
通貨建ての原油価格を安定化させる方向に働いてきています。し
かし、この経験則がコロナ禍とウクライナ戦争を機に、効かなく
なってしまっています。つまり、供給面から原油高を招きやすい
構図が出来上がってきているといえます。
 もし、「ドルと原油の同時高」ということになると、日本や欧
州のような資源輸入国は一層苦しくなります。そして何よりも、
原油高によるインフレの懸念が浮上すれば、FRBの引き締めの
長期化は必至です。さらに西側陣営にとって何よりも困ることは
原油高がロシアを利することであり、それを中国がどのように見
るかという点にあります。
           ──[物価と中央銀行の役割/040]

≪画像および関連情報≫
 ●イスラエルとハマス衝突、ロシアは双方に停戦要求
  ──ウクライナ支援への関心低下狙いか
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   イスラム主義組織ハマスによるイスラエルへの攻撃に対し
  ロシアが双方に停戦を求めた一方で、ウクライナはイスラエ
  ル支持を明確に打ち出し、対照的な反応を示した。ロシア側
  がウクライナ侵略への関心を低下させるため、情報戦に乗り
  出したとの見方もある。
   ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は7日、事態の深
  刻化に懸念を示した上で「75年にわたる紛争は武力ではな
  く、政治・外交的な手段でのみ解決できる」とし、双方に即
  時停戦を求めた。ロシアは中東情勢で中立的な立場を維持し
  てきた。ハマスを支持するイランとは友好関係にあり、イス
  ラエルとも関係を維持するためだ。イスラエル側も米欧主導
  の対露制裁やウクライナへの軍事支援からは距離を置く。
   米政策研究機関「戦争研究所」は7日、ロシアは中東の軍
  事衝突を「西側諸国のウクライナへの支援や関心をそぐため
  の情報戦に利用する」と分析した。実際、メドベージェフ前
  大統領はSNSに「(中東情勢こそ)米国やその同盟国が取
  り組むべきだ」と投稿した。
   一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領
  はSNSでハマスの攻撃を「テロ」とし、「イスラエルが自
  衛権があるのは議論の余地がない」と投稿した。米欧各国と
  同様、イスラエルを支持する姿勢を示している。
  https://www.yomiuri.co.jp/world/20231008-OYT1T50138/
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米長期金利の振れ幅の大きさが市場を揺らす.jpg
米長期金利の振れ幅の大きさが市場を揺らす
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物価と中央銀行の役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする